説明

複合材用プリフォームの製造方法および金属複合体の製造方法

【課題】溶湯を含浸する際に、該溶湯と入子との焼き付きを抑制し得る複合材用プリフォームの製造方法、および該複合材用プリフォームと金属母材とを複合化してなる金属複合体の製造方法を提案する。
【解決手段】
筒状フィルター21の外周面を、多数の凹凸を有する不織布25によって被覆して、混合液31中に浸漬し、筒状フィルター21の内側から吸引することにより、前記不織布25の外側に、強化材を密集してなり且つ内周面全体に多数の凹凸が形成されてなる筒状の予備成形体2を成形し、その後に、該予備成形体2を焼結することによって、筒状の複合材用プリフォーム1を成形するようにした製造方法である。これにより成形した複合材用プリフォーム1を金型の入子に外嵌して、キャビティ内に配置し、溶湯を含浸することによって、溶湯と入子との焼き付きの発生を充分に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属母材と複合化してなる金属複合体を成形するための複合材用プリフォームの製造方法、およびその複合材用プリフォームを用いて成形される金属複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンブロックのボア部は、その内側でピストンが摺動することから、セラミック短繊維や粒子等の強化材と金属母材とを複合化して成形され、高い強度と耐久性とを発揮できるようにした構成がよく知られている。このようなエンジンブロックの製造工程としては、例えば、前記強化材からなる円筒状のプリフォームを、円柱状のボア入子に外嵌して、エンジンブロック成形用金型のキャビティ内に配置し、金属母材の溶湯をキャビティ内へ注入することにより、エンジンブロックを成形する。このエンジンブロックは、そのボア部が強化材(プリフォーム)と金属母材とにより複合化されて強化されている。
【0003】
ところが、上記した製造工程にあって、溶湯を含浸する工程で、プリフォームとボア入子との間に溶湯が侵入してしまい、凝固するときに、溶湯とボア入子とが焼き付きを生じ易い。そのため、脱型する際に、ボア入子が抜き難くなるという問題が生じている。このような問題に対して、例えば特許文献1では、円筒状のプリフォームの内周部を潰して体積率を向上させることにより、溶湯を通過し難くして、プリフォームとボア入子との間に溶湯を侵入し難くした方法等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−320075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記した特許文献1に開示された従来方法にあっては、プリフォームの内周部の体積率を向上させていることから、該内周部への溶湯の含浸性が低下し、欠陥を生じ易くなってしまう。そのため、前記欠陥による強度低下や耐久性低下が懸念される。
【0006】
一方、特許文献1には、円筒状のフィルターの外周面に多孔質材料を装着して、強化材を混合した水溶液に浸漬し、当該水溶液中でフィルター内側から吸引することにより、円筒状のプリフォームを成形する方法も記載されている。この方法の場合には、多孔質材料を円筒状フィルターの外周面に部分的に巻回することによって、内周面に径方向外方へ凹む凹周部を備えた円筒状のプリフォームを成形するようにしている。そして、このプリフォームをボア入子に外嵌した際に、前記凹周部とボア入子とによって閉鎖される周空域を形成し、溶湯を含浸する際に、前記周空域に空気を封じ込めることにより、溶湯がボア入子の外周面まで到達しないようにしている。ところが、この凹周部は、プリフォームの軸方向に沿って比較的長い幅を成すように形成されることから、この比較的長い幅の周空域に空気を閉じ込めるように、キャビティ内での溶湯の流れを厳密かつ安定して制御することが難しい。そのため、前記周空域内に溶湯が侵入してしまい、上述したように焼き付きを生じ得る。また、前記周空域に空気を封じ込めるために、少なくともプリフォームの両端部は、ボア入子の外周面に接触するように形成される。そのため、プリフォームの、ボア入子と接触する部位(両端部)では、上述したように、溶湯が入り込んで焼き付きを生じ易いことから、比較的容易に脱型できるという作用効果にも限界がある。
【0007】
本発明は、入子との焼き付きを抑制し得る複合材用プリフォームの製造方法、および該複合材用プリフォームと金属母材とを複合化してなる金属複合体の製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属母材を含浸することにより金属複合体を成形するための複合材用プリフォームの製造方法において、通気性を有する筒状フィルターの外周面を、表面全体に多数の凹凸を有する不織布によって被覆して、所定の強化材を混合した混合液中に浸漬し、筒状フィルターの内側から吸引することにより、該筒状フィルターに被覆した前記不織布の外側に、前記強化材を密集してなり且つ内周面全体に多数の凹凸が形成されてなる筒状の予備成形体を成形する吸引成形工程と、前記予備成形体を、所定の焼結温度により焼結することによって、筒状の複合材用プリフォームを成形する焼結工程とを実行することを特徴とする複合材用プリフォームの製造方法である。
【0009】
かかる方法にあって、筒状フィルターを不織布で被覆することにより、該不織布の多数の凹凸を有する外表面が形成される。そのため、吸引成形工程によって成形する予備成形体には、その内周面全体に不織布の表面凹凸にしたがって多数の凹凸が形成される。これに伴って、複合材用プリフォームには、その内周面全体に多数の凹凸が形成される。
【0010】
詳述すれば、この筒形状の複合材用プリフォームを用いて金属母材の溶湯を含浸する際に、該複合材用プリフォームを金型の入子に外嵌すると、前記した内周面の多数の凹凸によって、複合材用プリフォームの内周面と入子の外周面との間に、多数の空隙が形成される。そして、複合材用プリフォームを収容したキャビティ内に前記溶湯を含浸することにより、複合材用プリフォームの内周面の凸部位と入子の外周面との間では、前記空隙の小さなところに、溶湯がまわり易く、入子と近接していることにより早く凝固する。これに比して、複合材用プリフォームの内周面の凹部位と入子の外周面との間の前記空隙の大きなところでは、凝固が遅れる。すなわち、複合材用プリフォームの外周側から含浸した溶湯は、その内周面の凸部位では先に凝固が進行し、また、該内周面の凹部位では溶融状態で残存していることにより該凹部位から圧出して入子の外周面に接触して凝固すると考えられる。これにより、複合材用プリフォームと入子との間では、該複合材用プリフォームの内周面の凹凸と逆に、溶湯が凹凸状に凝固する。このように金属母材の溶湯を含浸する際に、溶湯と入子とが比較的広い領域で均一に接触することがないため、凝固による焼き付きの発生を充分に抑制することができる。したがって、比較的容易に脱型することができるため、脱型の際に焼き付きを原因として生じる割れや剥がれ等の不具合を生じず、複合材用プリフォームと金属母材とを複合化してなる金属複合体を安定して製造することができ得る。
【0011】
本発明の不織布としては、例えばエンボス加工によって、表面全体に多数の微細な凹凸が形成されてなるものが好適に用い得る。さらに、不織布の凹凸は、その高さが0.1mm以上かつ0.5mm以下に形成されてなるものが好適に用い得る。ここで、凹凸高さが0.1mmより小さい場合には、凹部位と凸部位とで溶湯の圧出する時間差が小さくなるために、溶湯が凹凸状に凝固し難くなる傾向となる。一方、0.5mmより大きい場合には、溶湯が凝固して形成される凹凸が大きくなるために、その表面粗さが大きくなってしまう。
【0012】
尚、本発明により製造する複合材用プリフォームとしては、金属複合体を全体的に構成するものであっても良いし、金属複合体の一部分を構成するものであっても良い。例えば、後者の場合、金属複合体は、金属母材と複合材用プリフォームとを複合化してなる筒状複合部を備えた構成となる。一方、強化材としては、セラミック繊維、セラミック粒子、ウィスカ等を好適に用いることができる。また、金属母材としては、アルミニウム合金などの軽金属が好適に用い得る。
【0013】
上述した複合材用プリフォームの製造方法にあって、吸引成形工程で用いる不織布は、その厚みが0.1mm以上かつ0.7mm以下であるものとした製造方法が提案される。
【0014】
ここで、不織布としては、一般的に厚みに従って剛性も増加する傾向にあるため、厚みの増加に従って、筒状フィルターに巻き付け難くなる。本製造方法にかかる厚みを有する不織布を用いることにより、筒状フィルターの外周面に倣うように被覆し易いことから、予備成形体を所望の内周面形状に安定して成形することができる。そのため、上記のように不織布の表面凹凸に従って、複合材用プリフォーム(および予備成形体)の内周面全体に多数の凹凸を一層安定して形成することができる。したがって、溶湯を含浸する工程にあって、溶湯と金型の入子との焼き付きを抑制する作用効果を一層向上することができる。
【0015】
不織布の厚みが0.1mmより薄い場合には、その柔軟性が高くなるために筒状フィルターに巻き付ける際にシワ等を生じ易く、予備成形体(および複合材用プリフォーム)の成形安定性が低減する傾向にある。一方、0.7mmより厚い場合には、その剛性が高いために、筒状フィルターに巻き付け難く、予備成形体(および複合材用プリフォーム)の成形安定性が低減する傾向にある。尚、不織布の厚みとしては、0.1mm以上かつ0.5mm未満とした構成が、前記作用効果をさらに効率的に発揮できるために好適に用い得る。
【0016】
上述した複合材用プリフォームの製造方法にあって、吸引成形工程で用いる不織布は、その目付量が30g/mm以上且つ80g/mm以下であるものとした製造方法が提案される。
【0017】
ここで、不織布は、その目付量に従って空隙率が定まることから、本製造方法にかかる目付量の不織布を用いることにより、安定した通気性を発揮できる。そのため、吸引成形工程にあって、不織布を介して混合液を安定して吸引でき、混合液の水分を不織布により濾過して、該不織布の外側に強化材を密集することができる。そして、不織布の凹凸形状にしたがって、予備成形体(および複合材用プリフォーム)の内周面全体に多数の凹凸を一層安定して形成することができる。
【0018】
不織布の目付量としては、30g/mmより小さい場合には、不織布の空隙率が大きくなることから、強化材が不織布の空隙内に侵入し易くなり、予備成形体の内周面の凹凸形状を安定して成形し難い。一方、目付量が80g/mmより大きい場合には、通気性が低減するため、混合液を吸引する安定性が低減し、予備成形体の成形安定性が低減する傾向となる。尚、目付量としては、40〜60g/mm以下とした構成を好適に用いることができる。
【0019】
上述した複合材用プリフォームの製造方法にあって、吸引成形工程で用いる不織布は、合成繊維を熱融着してなるものであるとした製造方法が提案される。
【0020】
ここで、合成繊維としては、熱融着して不織布を構成できるものであり、比較的低い温度(300℃以下)の熱を加えることによって容易に融着することができるものが好適にもちいられる。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂等からなる合成繊維が好適である。特に、ポリエチレン樹脂は、100℃〜150℃の熱により容易に融着することができるため、一層好適に用い得る。
【0021】
吸引成形工程にあって、不織布を筒状フィルターの被覆状態で保持する必要がある。本製造方法にかかる不織布にあっては、熱融着してなるものであるから、矩形状として筒状フィルターの外周面に巻回して、互いに対向する端部同士を加熱して圧着することにより、筒状フィルターの外周面を比較的容易に被覆することができると共に、前記被覆した状態で安定して保持することができる。これにより、混合液中に浸漬している際にも、不織布を前記被覆状態で保持できるため、吸引成形工程にあって、所望の予備成形体を安定して成形することができ得る。また、不織布を筒状フィルターにセットするために要する工程を簡素化することができ、総じて製造コストを低減することができるという優れた利点を有する。
【0022】
一方、本発明は、所定の強化材により構成される筒状の複合材用プリフォームに金属母材を含浸して成形される金属複合体の製造方法において、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の複合材用プリフォームの製造方法により成形した筒状の複合材用プリフォームを、金属複合体を成形する金型に設けられた入子に外嵌して、該用金型により形成されるキャビティ内に配置し、該キャビティ内に前記金属母材の溶湯を注入することにより、前記筒状の複合材用プリフォームと金属母材とを複合化するようにしていることを特徴とする金属複合体の製造方法である。
【0023】
かかる方法にあっては、上述したように、複合材用プリフォームの内周面に形成された凹凸に従って、該内周面から圧出する溶湯の凝固に時間差を生じて、該溶湯が多数の凹凸を形成するように凝固する。そのため、溶湯と入子の外周面とが均一に接触せず、焼き付きを充分に抑制することができことから、比較的容易に脱型することができる。これにより、金属複合体の内周面に割れや剥がれ等の不具合が発生することを防止できる。そして、この金属複合体は複合材用プリフォーム(強化材)と金属母材との複合化により、高い強度と耐久性とを発揮することができる。
【0024】
尚、本発明により製造する金属複合体としては、その全体が複合材用プリフォームにより複合化されるものであっても良いし、一部分が複合材用プリフォームにより複合化されるものであっても良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、上述したように、筒状フィルターの外周面を、多数の凹凸を有する不織布によって被覆して、混合液中に浸漬し、筒状フィルターの内側から吸引することにより、前記不織布の外側に、強化材を密集してなり且つ内周面全体に多数の凹凸が形成されてなる筒状の予備成形体を成形した後に、該予備成形体を焼結することによって、筒状の複合材用プリフォームを成形するようにした製造方法であるから、複合材用プリフォームは、その内周面全体に、不織布の表面凹凸にしたがって多数の凹凸が形成されたものとなる。この複合材用プリフォームを金型の入子に外嵌して、キャビティ内に配置し、溶湯を含浸することによって、複合材用プリフォームの内周面の凹部位と凸部位とから夫々に圧出する溶湯の凝固に時間差が生じて、凹凸状に凝固することから、溶湯と入子とが均一に接触しないため、凝固による焼き付きの発生を充分に抑制することができる。したがって、比較的容易に脱型できると共に、該脱型の際に割れ等の不具合が発生することを抑制でき、所望の金属複合材を安定して製造することができ得る。
【0026】
上述した複合材用プリフォームの製造方法にあって、不織布の厚みが0.1mm以上かつ0.7mm以下であるとした方法の場合には、筒状フィルターに比較的容易に被覆することができる。これにより、不織布の凹凸に従って、複合材用プリフォームの内周面全体に多数の凹凸を一層安定して形成できるため、焼き付きを抑制する作用効果が一層向上する。
【0027】
上述した複合材用プリフォームの製造方法にあって、不織布の目付量が30g/mm以上且つ80g/mm以下であるとした方法の場合には、安定した通気性を発揮できるため、混合液中の強化材を不織布と介して安定して吸引することができ、複合材用プリフォームの内周面全体に多数の凹凸を一層安定して形成することができる。
【0028】
上述した複合材用プリフォームの製造方法にあって、不織布が、合成繊維を熱融着してなるものであるとした方法の場合には、矩形状の不織布を筒状フィルターに巻回して、互いに対向する端部同士を加熱圧着することにより、筒状フィルターを比較的容易に被覆することができ、この被覆状態で安定して保持できる。そのため、所望の予備成形体を安定して成形することができ得る。
【0029】
一方、本発明は、上述した複合材用プリフォームの製造方法により成形した筒状の複合材用プリフォームを、成形用金型に設けられた入子に外嵌してキャビティ内に配置して、溶湯を注入することにより、金属複合材を成形するようにした製造方法であるから、上述したように、複合材用プリフォームの内周面に形成された凹凸に従って、該内周面から圧出する溶湯の凝固に時間差を生じて凹凸状に凝固することにより、溶湯と入子とが均一に接触せず、焼き付きを充分に抑制できる。したがって、金属複合体の内周面に割れ等の不具合が発生することを防止でき、高い強度と耐久性とを有する金属複合体を安定して製造することができ得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】予備成形体2を成形する吸引成形工程の説明図である。
【図2】エンジンブロック10を成形するダイカスト成形工程の説明図である。
【図3】図2から続くダイカスト成形工程の説明図である。
【図4】(A)複合材用プリフォーム1の外観写真と、(B)複合材用プリフォーム1の内周面の拡大写真である。
【図5】(A)エンジンブロック10のボア部11を部分的に示す写真と、(B)ボア部11の内周面の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施例を添付図面を用いて詳述する。
図1は、金属短繊維等の強化材からなる筒状の予備成形体2を形成する吸引成形工程を示す。そして、この予備成形体2を図示しない焼成工程により、筒状の複合材用プリフォーム1を成形する。また、図2,3は、前記の複合材用プリフォーム1に、アルミニウム合金の溶湯6を含浸するダイカスト成形工程を示す。尚、本実施例にあっては、前記ダイカスト成形工程により、エンジンブロック10(図3(B)参照)を成形するようにしており、該エンジンブロック10のボア部11を複合材用プリフォーム1により複合化したものとしている。
【0032】
ここで、エンジンブロック10が、本発明にかかる金属複合体であり、ボア部11が、強化材(複合材用プリフォーム1)と金属母材とを複合化してなる筒状複合部である。そのため、複合材用プリフォーム1(および予備成形体2)は、ボア部11を構成するために、円筒状に成形される。
【0033】
先ず、上記の複合材用プリフォーム1を製造する工程について説明する。
複合材用プリフォーム1の製造工程としては、強化材を円筒状に密集して予備成形体2を成形する吸引成形工程(図1)と、前記予備成形体2を乾燥する乾燥工程(図示せず)と、予備成形体2を焼結する焼成工程(図示せず)とを順次実行する。
【0034】
吸引成形工程にあって、図1(A)のように、筒状フィルター21を備えたフィルター器具20を準備する。本実施例では、筒状フィルター21が円筒状のステンレス製金網から構成されており、フィルター器具20は、筒状フィルター21の一端を閉鎖する円板状端部22と、他端を閉鎖しかつ筒状フィルター21内と連通する吸引路(図示せず)が設けられた接続管部23とを備えている。ここで、筒状フィルター21は、その外径が接続管部23側から円板状端部22側へ僅かに縮径する傾斜周面(外周面)を有する構造となっている。
【0035】
このフィルター器具20の筒状フィルター21に、略矩形状に切断した不織布25を一周回巻き付けて、該不織布25の互いに対向する両端部同士を、アイロン等を用いて加熱して押圧することにより融着する。これにより、筒状フィルター21の外周面全体を被覆するように不織布25が配設される。尚、不織布25は、弾性力を有していることから、筒状フィルター21の外周面に倣うように密着することができる。そのため、不織布25の外表面25aも、前記筒状フィルター21の外周面(図示せず)と同様の傾斜周面となっている。
【0036】
ここで、不織布25としては、エンボス加工により製造されるものであり、その表面全体に多数の凹凸を有している。これは、不織布25の製造工程にあって、多数の突起が外周面に形成されたローラにより厚み方向に押圧することにより得られる。そして、不織布25は、凹凸の表面を外側とするように、上記の筒状フィルター21に巻き付ける。これにより、筒状フィルター21を被覆した不織布25の外表面25aには、その表面全体に多数の微細な凹凸を有している。また、本実施例の不織布25は、ポリエチレン樹脂製の合成繊維を熱融着してなるものであり、100℃〜150℃の熱を加えることによって、上記のように比較的容易に融着することができる。
【0037】
さらに、この不織布25は、本実施例にあって、厚みが約0.3mm、目付量が50g/mmのものを用いており、前記した表面凹凸の高さは約0.2mmとなっている。この不織布25は、その厚みおよび目付量により適当な柔軟性を有していることから、上記のように筒状フィルター21の外周面に倣うように、比較的容易に巻き付けることができる。また、適当な通気性も有していることから、後述のように、混合液31中の強化材を安定して吸引することができる。
【0038】
一方、所定の容器30内に、各強化材を水中で混合した混合液31を準備する。本実施例にあって、この混合液31は、容器30内の水中に下記(i)〜(v)の各材料を入れて混合して得る。尚、この容器30には、図示しないモータにより回動する攪拌プロペラ33が配設されており、容器30内の混合液31を均質な状態に保つことができるようにしている。
(i)アルミナ短繊維(平均繊維径3μm、平均繊維長400μm)
(ii)ホウ酸アルミニウム粒子(9Al・2B、平均粒径40μm)
(iii)シリカゾル
(iv)アルミナゾル
(v)高分子ポリマー
ここで、平均繊維径、平均繊維長、平均粒径は、それぞれ繊維径、繊維長、粒径の平均値であり、バラツキを有している。尚、アルミナ短繊維およびホウ酸アルミニウム粒子が、本発明にかかる強化材である。また、シリカゾルおよびアルミナゾルが、無機バインダーであり、高分子ポリマーが凝集剤である。
【0039】
図1(B)のように、この混合液31中に、図示しない吸引ポンプに接続管部23を接続したフィルター器具20を浸漬する。そして、吸引ポンプを駆動することにより、フィルター器具20の筒状フィルター21の内側から吸引する。これにより、図1(C)のように、筒状フィルター21の外周面を覆う不織布25を介して混合液31を吸引し、該混合液31中に混合するアルミナ短繊維とホウ酸アルミニウム粒子とが不織布25の外側に吸い寄せられて密集する。ここで、不織布25は、上記のように適当な通気性を有していることから混合液31を吸引し、混合液31の水分を濾過して、当該不織布25の外側に混合液31中のアルミナ短繊維とホウ酸アルミニウム粒子とが密集する。このようにして、円筒形状の予備成形体2が形成される。尚、混合液31には、上記のように無機バインダーとしてシリカゾルとアルミナゾルとを混合していることから、予備成形体2を構成するアルミナ短繊維とホウ酸アルミニウム粒子とを相互に粘着する作用を生じている。
【0040】
その後、図1(D)のように、フィルター器具20を混合液31から取り出し、円板状端部22を取り外して、上記した予備成形体2を不織布25と共に筒状フィルター21から取り外す。この際に、不織布25は柔軟性を有していること、および、筒状フィルター21の外周面が傾斜周面となっていることから、筒状フィルター21の一端方向へ滑らせるようにすることにより、筒状フィルター21から容易に取り外すことができる。そして、予備成形体2の内側から不織布25を取り外す。これにより、アルミナ短繊維とホウ酸アルミニウム粒子とから構成された予備成形体2を得る。
【0041】
このような吸引成形工程により得た予備成形体2を、図示しない乾燥炉により加熱し、充分に乾燥させる乾燥工程を行う。その後、図示しない加熱炉により焼成工程を行う。焼成工程では、所定の焼結温度で加熱することによりアルミナ短繊維とホウ酸アルミニウム粒子を焼結し、円筒状の複合材用プリフォーム1(図4(A))を得る。尚、複合材用プリフォーム1の内周面1aは、上記した筒状フィルター21の外周面に倣うように形成されていることから、傾斜周面となっている。
【0042】
この複合材用プリフォーム1の内周面1a全体には、図4(B)のように、多数の微細な凹凸が形成されている。これは、上記の吸引成形工程にあって、筒状フィルター21に被覆した不織布25が、その外表面25aに多数の微細な凹凸を有していることから、当該外表面25aに吸引した混合液31中の強化材(アルミナ短繊維およびホウ酸アルミニウム粒子)が、前記外表面25aに倣うように密集して形成されるためである。これにより、予備成形体2は、その内周面全体に、不織布25の凹凸と逆の多数の微細な凹凸が形成されてなるものとして成形されている(図示せず)。尚、予備成形体2の内周面形状は、該予備成形体2を焼結してなる複合材用プリフォーム1の内周面1aと同様の形状である。
【0043】
次に、上記のように成形した複合材用プリフォーム1を用いてエンジンブロック10(図3(B)参照)を製造する工程について説明する。
エンジンブロック10の製造工程としては、溶湯を含浸するダイカスト成形工程(図2,3)と、該ダイカスト成形工程により成形したエンジンブロック10を所望の寸法形状に整える仕上げ工程(図示せず)とを順次実行するようにしている。
【0044】
ダイカスト成形工程にあっては、図2,3のように、ダイカスト成形装置40により、エンジンブロック10を成形する。このダイカスト成形装置40は、図2のように、第一金型41、第二金型42、第三金型43とを備え、これらによって閉鎖されるキャビティ56が形成される。ここで、第一金型41は固定されており、第二金型42と第三金型43とは、複数設けられた案内軸45に従って夫々に進退移動可能に設けられている。第二金型42を開放位置(図3(B)参照)と閉鎖位置(図2参照)とに移動制御し、同様に第三金型43を開放位置(図2(A)参照)と閉鎖位置(図2(B)参照)とに移動制御する。そして、第二金型42を閉鎖位置とし且つ第三金型43を閉鎖位置とすることにより(図2(B)参照)、キャビティ56が形成される。尚、第一金型41、第二金型42、第三金型43とによって、本発明にかかる金型を構成している。
【0045】
上記の第一金型41には、その下部にスリーブ47が連結されており、該スリーブ47との連結部位により湯口46が形成されている。そして、このスリーブ47には、その内部で進退作動するプランジャーチップ48が配されている。さらに、スリーブ47の上部には、該スリーブ47内へ溶湯6を注入するための注入口49が設けられている。この第一金型41と上記の第二金型42とを閉鎖することによって、キャビティ56と湯口46とが形成される(図2参照)。尚、この湯口46は、スリーブ47の断面積より小さい断面積として形成されているため、プランジャーチップ48の作動速度に比して溶湯6の射出速度が速くなる。
【0046】
また、上記の第二金型42には、表裏方向(移動方向)に貫通してボア部11を成形するためのボア成形孔50が設けられている。一方、第三金型43には、前記第二金型42のボア成形孔50に挿入して該ボア成形孔50と共にボア部11(図3(B)参照)を成形するボア入子51が突成されている。このボア入子51は、その先端に向かって徐々に縮径する截頭円柱形を成し、上記の複合材用プリフォーム1を外嵌する。すなわち、上記した筒状フィルター21の外周面形状は、複合材用プリフォーム1がボア入子51に外嵌するように、寸法形状を設定している。尚、ボア入子51が、本発明にかかる入子である。
【0047】
上記の第三金型43には、ボア入子51と前記第二金型42のボア成形孔50との間に進出する押出ピン52が設けられている。この押出ピン52は、第三金型43(および第二金型42)の進退移動方向と平行に進退移動する。そして、押出ピン52が、キャビティ56内に進出しない退避位置(図2参照)と、キャビティ56内に進出する進出位置(図3(B)参照)とに位置変換する。
【0048】
さらに、このダイカスト成形装置40には、図示しない制御装置が設けられており、該制御装置によって、上記した押出ピン52を位置変換する作動、第二金型42および第三金型43を夫々の開放位置と閉鎖位置とに位置変換する作動、プランジャーチップ48の進退作動を駆動制御している。また、このダイカスト成形装置40には、スリーブ47内へ所定量の溶湯6を流入するための柄杓54(図2(B)参照)を備えており、この柄杓54も、図示しない制御装置により作動制御している。
【0049】
ここで、本実施例にあっては、アルミニウム合金として、ADC12(JIS規格)のものを用いており、当該アルミニウム合金の溶湯6を、上記キャビティ56内へ注入するようにしている。尚、このアルミニウム合金が、本発明にかかる金属母材である。
【0050】
このダイカスト成形装置40によるダイカスト成形工程は、以下の順序で実行される。
先ず、上記した複合材用プリフォーム1を約500℃で予熱すると共に、第一金型41、第二金型42、第三金型43を約200℃で予熱して保持しておく。そして、図2(A)のように、開放位置とした第三金型43のボア入子51に複合材用プリフォーム1を外嵌する。その後、図2(B)のように、第三金型43を閉鎖位置へ移動することにより、第一金型41と第二金型42と共にキャビティ56を形成する。これにより、第二金型42のボア成形孔50内に形成された空域に、複合材用プリフォーム1を収容して配置する。
【0051】
第二金型42と第三金型43とを閉鎖位置とした後に、図2(B)のように、プランジャーチップ48を退避位置としたスリーブ47内へ、約680℃に保持されたアルミニウム合金の溶湯6を、柄杓54により注入口49を介して注入する。そして、図3(A)のように、プランジャーチップ48を退避位置から所定の駆動速度で進出駆動して、スリーブ47内の溶湯6をキャビティ56内へ射出する。ここで、上記したように、湯口46の断面積をスリーブ47の断面積に比して小さく設定していることから、プランジャーチップ48の駆動速度に比して、キャビティ56内へ射出される溶湯6の射出速度が高速化する。本実施例にあっては、プランジャーチップ48の駆動速度を2m/sとすることにより、射出速度が20m/sとなる。
【0052】
このようにしてキャビティ56内へ溶湯6が注入することにより、該溶湯6が複合材用プリフォーム1に含浸していく。ここで、溶湯6は、複合材用プリフォーム1内に含浸して、該複合材用プリフォーム1を外嵌しているボア入子51へ至る。この複合材用プリフォーム1の内周面1aは、上記のように微細な凹凸を全体的に有していることから、当該複合材用プリフォーム1に含浸した溶湯6は、内周面1aの凸部位にまわり易く、該凸部位がボア入子51に近接していることにより凝固が先に進行していく。一方、複合材用プリフォーム1の内周面1aの凹部位では、溶湯6が溶融状態で残るために、該溶湯6が圧出してボア入子51の外周面51aに接触して凝固する。これにより、複合材用プリフォーム1の内周面1aの凹部位では、溶湯6がボア入子51の外周面51aと接触するように突出し、内周面1aの凸部位では、溶湯6がボア入子51の外周面51aと接触せずに窪むと考えられる。このように、複合材用プリフォーム1の内周面1aの凹凸に従って、溶湯6の凝固に時間差を生じることから、ボア入子51の外周面51aと均一に接触しない。そのため、溶湯6の凝固に伴って生ずる、該溶湯6とボア入子51との焼き付きを抑制することができる。この焼き付き抑制効果は、本実施例のように、アルミニウム合金(溶湯6)と異なる熱伝導率や熱膨張係数を有する複合材用プリフォーム1(アルミナ短繊維やホウ酸アルミニウム粒子)を用いた場合にも、充分に生ずる。
【0053】
そして、キャビティ56内に溶湯6を充填すると、プランジャーチップ48を停止して該溶湯6の注入を止め、冷却後に、図3(B)のように、第二金型42と第三金型43とを一緒に開放位置へ移動し、該第三金型43の押出ピン52を退避位置(図3(A)参照)から進出位置へ移動することによって、エンジンブロック10を脱型する。この脱型する際にあって、上述したようにボア入子51と溶湯6との焼き付きが充分に抑制されていることから、比較的容易に脱型することができ、該脱型によって、ボア部11の内周面11aに割れや剥がれ等の不具合が生じることを防止できる(図5(A)参照)。そのため、ダイカスト成形工程によって、エンジンブロック10を安定して成形することができる。尚、脱型の際には、上述したようにボア入子51が截頭円柱形であることによっても、脱型し易くなっている。
【0054】
このように脱型後のエンジンブロック10のボア部11は、図5(B)のように、その内周面11aに微細な凹凸模様が形成されている。これは、上述したように、複合材用プリフォーム1の内周面1a全体に形成された微細な凹凸によって、該複合材用プリフォーム1の内周面1aから圧出する溶湯6に時間差を生じ、これに伴って溶湯6の凝固に時間差が生じたために、複合材用プリフォーム1の内周面の凹凸を反転するように微細な凹凸がボア部11の内周面11aに形成されたことによる。
【0055】
上述したダイカスト成形工程の後に、仕上げ工程(図示せず)を行う。この仕上げ工程により、湯口46により形成された部位を切削除去すると共に、所望の寸法形状に整えるために表面を切削加工する。これにより、強化材(アルミナ短繊維およびホウ酸アルミニウム粒子)とアルミニウム合金との複合化により強化されてなるボア部11を備えたエンジンブロック10を得る。尚、ボア部11にあっても、その内周面11aを前記仕上げ工程により切削加工して、内周面形状を所望の寸法形状に整える。そのため、仕上げ工程の後には、ボア部11の内周面(図示せず)には上記した凹凸模様が無い。
【0056】
一方、上述した実施例にあっては、ダイカスト成形工程によりボア部11をエンジンブロック10と一体的に成形するようにした方法であるが、その他の方法として、ボア部を別途成形した後に接合してエンジンブロックを成形するようにしても良い。この場合には、ボア部を構成する円筒状の金属複合体を、複合材用プリフォーム1に金属母材の溶湯を含浸することによって成形する。そして、この金属複合体と別に成形した金属母材からなるエンジンブロック主体に、前記金属複合体を接合をする。
【0057】
本発明にあっては、上述した実施例に限定されるものではなく、その他の構成についても、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更可能である。例えば、筒状フィルターは、円筒形状のもの以外に、その用途に応じて四角筒状や三角筒状であっても良い。
【符号の説明】
【0058】
1 複合材用プリフォーム
2 予備成形体
6 溶湯(アルミニウム合金)
10 エンジンブロック(金属複合体)
21 筒状フィルター
25 不織布
31 混合液
41 第一金型(金型)
42 第二金型(金型)
43 第三金型(金型)
51 ボア入子(入子)
56 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属母材を含浸することにより金属複合体を成形するための複合材用プリフォームの製造方法において、
通気性を有する筒状フィルターの外周面を、表面全体に多数の凹凸を有する不織布によって被覆して、所定の強化材を混合した混合液中に浸漬し、筒状フィルターの内側から吸引することにより、該筒状フィルターに被覆した前記不織布の外側に、前記強化材を密集してなり且つ内周面全体に多数の凹凸が形成されてなる筒状の予備成形体を成形する吸引成形工程と、
前記予備成形体を、所定の焼結温度により焼結することによって、筒状の複合材用プリフォームを成形する焼結工程と
を実行することを特徴とする複合材用プリフォームの製造方法。
【請求項2】
吸引成形工程で用いる不織布は、その厚みが0.1mm以上かつ0.7mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の複合材用プリフォームの製造方法。
【請求項3】
吸引成形工程で用いる不織布は、その目付量が30g/mm以上且つ80g/mm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合材用プリフォームの製造方法。
【請求項4】
吸引成形工程で用いる不織布は、合成繊維を熱融着してなるものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の複合材用プリフォームの製造方法。
【請求項5】
所定の強化材により構成される筒状の複合材用プリフォームに金属母材を含浸して成形される金属複合体の製造方法において、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の複合材用プリフォームの製造方法により成形した筒状の複合材用プリフォームを、金属複合体を成形する金型に設けられた入子に外嵌して、該金型により形成されるキャビティ内に配置し、
該キャビティ内に前記金属母材の溶湯を注入することにより、前記筒状の複合材用プリフォームと金属母材とを複合化するようにしていることを特徴とする金属複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−207833(P2010−207833A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54398(P2009−54398)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【出願人】(504006984)GEテクノ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】