説明

複合組織鋼板及びこれを製造する方法

【課題】自動車の外板及び内板材として用いられる鋼板に耐デント性、低降伏応力、高Ri値(Lankford value)及び高成形性を有する複合組織鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】C:0.05〜0.10重量%、Si:0.03〜0.50重量%、Mn:1.50〜2.00重量%、P:0重量%超0.03重量%、S:0重量%超0.003重量%、Al:0.03〜0.50重量%、Cr:0.1〜0.2重量%、Mo:0.1〜0.20重量%、Nb:0.02〜0.04重量%、B:0重量%超0.005重量%、N:0重量%超0.01重量%、残りのFe及びその他不可避な不純物で組成され、冷間圧延後に熱処理及び溶融亜鉛メッキをした高強度鋼板及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合組織鋼板及びこれを製造する方法に関し、自動車の外板及び内板材として用いられる鋼板に耐デント性、低降伏応力、高Ri値及び高成形性を付加する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用鋼板は大部分プレス加工により成形されるため、優れたプレス成形性が要求され、これを確保するためには高い延性及び高Ri値が必須で要求される。即ち、自動車用鋼板は高張力鋼板とし、高い延性及び高Ri値を有することが最も重要である。
【0003】
しかし、自動車用鋼板の軽量化及び乗客の安定性要求の上に鋼板の高強度化がなされることにより、Si及びMnのような合金成分添加の増加に伴って鋼板の成形性低下及びメッキ特性等の顕著な低下の問題があり、前記全ての要求を満たす自動車用鋼板の開発に困難をきたしている。
【0004】
また、自動車用鋼板は、高い耐食性も要求されるため、自動車用鋼板として耐食性に優れた溶融亜鉛メッキ鋼板が用いられてきた。溶融亜鉛メッキ鋼板は、再結晶焼鈍及びメッキを同一ラインで実施する連続溶融亜鉛メッキ設備を介して製造され、優れた耐食性を有しながら低廉な製造方法で加工が可能である。そして、溶融亜鉛メッキ後に再度加熱処理した合金化溶融亜鉛メッキ鋼板は、優れた耐食性に加え溶接性や成形性も優れるという面で広く用いられている。
【0005】
上述した通り、自動車の車体をより軽量化及び強化するためには、成形性に優れた高張力冷延鋼鈑の開発、そして連続溶融亜鉛メッキラインによる優れた耐食性も備えた高張力溶融亜鉛メッキ鋼板の開発が要求されている。
【0006】
さらに、最近、自動車の軽量化及び品質向上の過程で自動車構造部品とともに自動車外板に対する高強度化が急速に進んでいる。自動車外板に高強度鋼を適用し、外部物体との衝突時に発生する外板損傷に対する抵抗を増加させるために耐デント性に優れた高強度鋼板の開発が要求されている。
【0007】
また、自動車の外観のために正確な成形が重要なので、塗装前は強度が低くて成形が容易で、塗装後には強度が増加する焼付硬化鋼(Bake Hardening;以下、BH鋼)の開発が要求されている。現在、BH鋼の引張強度(TS)は、350〜450MPa程度の水準で開発されている状況である。
【0008】
成形性が良好な高張力溶融亜鉛メッキ鋼板の代表的な従来技術としては、軟質フェライトと硬質マルテンサイトの複合組織を有する鋼板であって、延伸率(El)及びRi値(Lankford value)を改善した溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法が提示されている。しかし、前記従来技術は多量のSiを添加することにより、優れたメッキ品質の確保に困難があり、多量のTiなどを添加して製造原価が上昇する問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−224408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
C:0.05〜0.10重量%、Si:0.03〜0.50重量%、Mn:1.50〜2.00重量%、P:0重量%超0.03重量%、S:0重量%超0.003重量%、Al:0.03〜0.50重量%、Cr:0.1〜0.2重量%、Mo:0.1〜0.20重量%、Nb:0.02〜0.04重量%、B:0重量%超0.005重量%、N:0重量%超0.01重量%、残りのFe及びその他不可避な不純物で組成される焼鈍材及び溶融メッキ材により、270MPa以上の降伏応力(YS)と、440〜590MPaの引張強度(TS)と、28%の延伸率(El)と、0.15〜0.2の加工硬化指数(n)と、1.0〜2.0のRi値を有する複合組織鋼板及びこれを製造する方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る複合組織鋼板は、自動車の外板及び内板材として、C:0.05〜0.10重量%、Si:0.03〜0.50重量%、Mn:1.50〜2.00重量%、P:0重量%超0.03重量%、S:0重量%超0.003重量%、Al:0.03〜0.50重量%、Cr:0.1〜0.2重量%、Mo:0.1〜0.20重量%、Nb:0.02〜0.04重量%、B:0重量%超0.005重量%、N:0重量%超0.01重量%、残りのFe及びその他不可避な不純物で組成され、440〜590Mpaの引張強度(TS)を有することを特徴とする。
【0012】
ここで、前記複合組織鋼板の270MPa以上の降伏応力(YS)と、28%の延伸率(El)と、0.15〜0.2の加工硬化指数(n)と、1.0〜2.0のRi値であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る複合組織鋼板製造方法は、自動車の外板及び内板材として、C:0.05〜0.10重量%、Si:0.03〜0.50重量%、Mn:1.50〜2.00重量%、P:0重量%超0.03重量%、S:0重量%超0.003重量%、Al:0.03〜0.50重量%、Cr:0.1〜0.2重量%、Mo:0.1〜0.20重量%、Nb:0.02〜0.04重量%、B:0重量%超0.005重量%、N:0重量%超0.01重量%、残りのFe及びその他不可避な不純物で組成される鋼スラブを再加熱する段階と、前記鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を形成する段階と、前記熱延鋼板をコイリングして熱延コイルを形成する段階と、前記熱延コイルをアンコイリングして、酸洗及び冷間圧延して冷延鋼鈑を形成する段階と、前記冷延鋼鈑を焼鈍熱処理して複合組織を有する焼鈍鋼板を形成する段階と、を備え、溶融亜鉛メッキ及び合金化することを特徴とする。
【0014】
ここで、前記鋼スラブは、製鋼工程を通じて溶鋼を製造し、前記溶鋼を造塊又は連続鋳造して製造することを特徴とし、前記再加熱する段階は1150〜1250℃の温度で1.5〜3.5時間維持することを特徴とし、前記熱間圧延する段階は800〜900℃の温度範囲で、5段階(pass)で行うことを特徴とし、前記巻取温度は550〜650℃の温度範囲で行うことを特徴とし、前記冷間圧延する段階の圧下率は50〜80%で行うことを特徴とする。
【0015】
また、前記焼鈍熱処理は連続焼鈍ラインで行うものの、前記連続焼鈍ラインは10〜20℃/secで750〜850℃まで加熱して100〜110秒間焼鈍する段階と、前記焼鈍に続いて3〜15℃/secで460〜540℃まで冷却する段階と、前記460〜540℃の温度で100〜200秒間、過時効処理する段階とを備えることを特徴とし、前記焼鈍熱処理後に480〜560℃の温度で行う溶融亜鉛メッキ工程をさらに行うことを特徴とする。
【0016】
また、前記複合組織鋼板製造方法で前記連続焼鈍ラインを進めるスピード(Line Speed;L/S)は、80〜200mpmを基準とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上述した通り、本発明に係る複合組織鋼板は、フェライトとマルテンサイトからなる複合組織を有しながら、引張強度440〜590MPaの高強度及び優れた成形性、焼付硬化性及び耐デント性を確保することができる効果を提供する。また、表面の濃化を抑制して表面欠陥のないメッキ特性を提供できる効果がある。
【0018】
従って、本発明に係る複合組織鋼板を用いた素材は、厚さの減少による軽量化が得られ、耐デント性及び屈曲発生低減性の向上による品質向上効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る複合組織鋼板の成分系により示される焼付硬化特性を示した代表的なグラフである。
【図2】本発明に係るAl添加によるメッキ性の結果写真である。
【図3】本発明に係る複合組織鋼板の焼鈍後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
現在適用されているBH鋼は、極低炭素鋼に固溶炭素(C)の含量を調節して焼付硬化を引き起こす鋼であって、現在までに開発されている引張強度(TS)440MPaより強度をさらに増加させることは難しい状況である。これらはフェライト単相からなっているので、強度をさらに増加させるのに限界があるだけでなく、フェライト単相内の固溶炭素(C)だけで高いBH値を得ることはできないためである。また、極低炭素BH鋼のBH値は、自動車の成形が大きいほどBH値が減少するので、加工硬化と焼付硬化を複合的に用いて自動車外板の強度を増加させる方法も活用するのは難しい限界がある。また、炭素(C)及び窒素(N)による時間の経過に応じて示される時効現象が示されるのを防止することができる。
【0021】
このような要求条件を満たすために、本発明ではフェライト単相ではなく様々な相違複合的に存在するMP鋼(multi phase)を用いる。
【0022】
MP鋼はBH特性を極大化させる方法で現在のBH鋼より強度が高くて優れた特性の鋼板を製造することができるもので、TRIP及びDP鋼がある。しかし、これらは構造用部品を対象に開発されてきたものであり、自動車外板を対象に開発された例は極めて稀である。また、ここで用いられる外板の裏面は内板になるので、ここでは外板及び内板が均等に用いられるものとする。
【0023】
従って、本発明ではDP鋼に含まれる組成物の成分比を調節し、加工条件を限定することにより、成形性に優れてBH値が高い高強度自動車用外板及び内板材を提供するものとする。
【0024】
本発明は、鋼中に含まれる不純物元素中、鋼板の延性、溶接性及びメッキ性を損なうSiの含量を最少化し、メッキ性向上のためにAlの含量を調節する。
【0025】
ここで、Siはフェライト安定化元素なので、機械的特性が低下することがある。従って、Siの成分と同じ効果を奏する成分であるAlを鋳造時にノズルの詰まりがない範囲とAlNを制御する範囲内でさらに添加する。Alをさらに添加する場合、フェライトの清浄化効果と同時にフェライト粒界に炭素及びその他化学成分の濃化により、熱処理時に異常領域で化学的なオーステナイトとフェライトの安定した分率を有することができるようにし、急速冷却時にマルテンサイト硬化能を向上させてオーステナイトがパーライトに変態するのを遅延させることができる。
【0026】
また、Moを添加することにより、フェライトの微細化及び強度を向上させることができるが、ここにAlとCrの複合添加を追加で行うことにより、さらに安定したフェライトとマルテンサイトの相を有することができるようにする。従って、本発明に係る複合組織鋼板は適切な機械的性質を有しながらも、成形性を増加させることができる。
【0027】
また、Nを0重量%超0.01重量%に制御すればオーステナイト安定化元素として作用し、冷却中にマルテンサイト変態を促進し、マルテンサイト内に濃化されたNにより強度が上昇して同等の強度で延伸率が上昇し得る。また、塗装後に固溶Nによって焼付硬化性も増加する。また、本発明は、Nを0重量%超0.01重量%に制御することにより、多量のAl添加によるAlN形成を抑制して熱間圧延後の素材の強度上昇を抑制し、高強度及び高靭性が要求される自動車用外板に適用され得るようにした。従って、本発明は、鋼板にNを適宜添加することにより、焼付硬化性だけでなくBH値を上昇させて成形性及び焼付硬化性に優れた鋼板を確保することができる。
【0028】
以下、添付の表及び図面を参照して本発明に係る複合組織鋼板及びこれを製造する方法について詳細に説明する。
【0029】
本発明に係る複合組織鋼板は、以下の化学成分の組成により、降伏応力(YS)、引張強度(TS)及び延伸率(El)のような機械的特性が向上するが、本発明に係る鋼成分の組成範囲について説明すると次の通りである。
【0030】
[主要化学成分]
【0031】
−炭素(C):0.05〜0.10重量%
【0032】
炭素(C)はオーステナイト安定化元素として熱延コイルでパーライト組織とフェライト内部に炭化物を最少化させ、結晶粒を微細化させる。冷延鋼鈑の焼鈍過程で部分的に溶解されて再固溶された複合析出物が10〜30μm程度の微細な結晶粒又は結晶粒界に現れるが、マルテンサイト(Martensite)を20%以下に制限することにより、成形性の良い集合組織を発達させることができる最適な炭素含量の範囲は、0.05〜0.10重量%である。
【0033】
炭素(C)が0.05重量%未満の場合、臨界温度領域で安定したオーステナイトを確保できず、冷却後に適切なマルテンサイト分率が生成されないために強度の確保が困難で、炭素(C)が0.10重量%を超える場合には、延性を確保することができず、溶接性を悪化させるので、炭素(C)の含量を0.05〜0.10重量%に制限することが望ましい。
【0034】
−ケイ素(Si):0.03〜0.50重量%
【0035】
ケイ素(Si)はフェライト安定化元素として固溶強化によって強度を増加させる一方、焼鈍熱処理過程として640〜820℃の温度で維持する間、セメンタイトの析出を抑制して炭素がオーステナイトに濃化されるのを促進し、冷却時にマルテンサイト形成及び延性向上に寄与する元素である。
【0036】
ケイ素(Si)が0.03重量%未満の場合、このオーステナイト安定化効果が弱くなり、0.50重量%を超えれば表面粗さが劣化し、Si酸化物が濃化されて溶接性及びメッキ性が非常に劣化する。従って、本発明では、Si含量を0.03〜0.50重量%に制限することが望ましい。
【0037】
−マンガン(Mn):1.50〜2.00重量%
【0038】
マンガン(Mn)はオーステナイト安定化成分として焼鈍後に460〜540℃に冷却する間、オーステナイトからパーライトへの変態を遅延させるために、常温で冷却する間、マルテンサイト組織として安定して生成する。また、固溶強化によって強度を向上させる効果と、鋼中で硫黄(S)と結合してMnS介在物を形成し、スラブの熱間亀裂を防止するのに有効である。
【0039】
マンガン(Mn)が1.50%未満で添加されるならば、オーステナイトからパーライト(pearlite)相への変態を遅延させるのが難しく、2.0%超の場合、スラブ価格(Cost)の顕著な上昇をもたらすだけでなく、溶接性及び成形性の劣化を招来するばかりかメッキ性を低下させるので、従って、その含量を1.50〜2.00重量%にすることが望ましい。
【0040】
−クロム(Cr):0.1〜0.2重量%
【0041】
クロム(Cr)は焼入れ性を向上させ、安定して低温変態相を形成させるのに有効な元素である。また、炭化物の微細化、球状化速度の遅延、結晶粒の微細化、結晶粒の成長抑制及びフェライト強化元素である。また、溶接時の熱影響部(HAZ)の軟化抑制にも効果がある。
【0042】
クロム(Cr)が0.1重量%未満で添加されれば炭素(C)との結合があまりにも少なく再固溶させるのが難しく、0.2重量%を超えれば熱影響部の硬度上昇が過度に大きくなるので、その量を0.10〜0.20重量%以下に制限することが望ましい。
【0043】
−アルミニウム(Al):0.03〜0.50重量%
【0044】
アルミニウム(Al)は脱酸材として用いられると同時に、シリコン(Si)のようにセメンタイトの析出を抑制してオーステナイトを安定化する役割をする元素であって、熱延コイルの結晶粒界と炭化物を微細にさせるために鋼中の不要な固溶窒素(N)をAlNとして析出させる。従って、強度を上昇させる効果を有している。
【0045】
アルミニウム(Al)が0.03重量%未満で添加される場合は、オーステナイト安定化の効果がなく、0.50重量%超の場合、製鋼時にノズルの詰まる問題が発生することがあり、鋳造時にAl酸化物などにより熱間脆性が発生してクラック発生と延性が低下する。
【0046】
従って、高温領域で粒界に偏析してアルミニウム(Al)の含量を0.03〜0.50重量%にすることが望ましい。
【0047】
−リン(P):0.03重量%以下
【0048】
リン(P)は固溶強化によって強度を増加させる。Siとともに添加すれば、焼鈍時に640〜820℃に維持する間、セメンタイトの析出を抑制させ、オーステナイトに炭素濃化を促進させるので、0.03重量%以下添加する。
【0049】
このとき、前記「以下」という表現は、最少添加量が存在しなければならないので、「0超」を意味する。リン(P)の含量が0.03重量%を超える場合、2次加工の脆性問題を誘発し、亜鉛メッキの密着性を低下させて合金化性質を低下させるので、その量を0.03重量%以下に制限する。
【0050】
−モリブデン(Mo):0.10〜0.20重量%
【0051】
モリブデン(Mo)は熱間圧延後の冷却過程で複合析出をするが、溶解温度が低いために焼鈍過程で再溶解されてモリブデン(Mo)と結合した炭素を複合析出物に再固溶させるために添加する。モリブデン(Mo)はフェライト結晶粒を微細化させることにより、異常領域でフェライト結晶粒界を形成し、安定化した領域では濃化されたマルテンサイトを形成して可動転位を形成させる。また、結晶粒を微細化させることによって強度形成に影響を及ぼし、結晶粒の微細化を発生させても延性の低下なしに強度の確保ができる。
【0052】
従って、モリブデン(Mo)の含量が0.10重量%未満では前記のような効果を奏することができず、0.20重量%を超えれば製造費用が上昇して鋳造に困難が発生することがある。
【0053】
−ニオブ(Nb):0.02〜0.04重量%
【0054】
ニオブ(Nb)は熱間圧延及び冷間圧延後の焼鈍過程で再溶解され、ニオブ(Nb)と結合した炭素を複合析出物に再固溶させることによって、結晶粒の微細化及び複合析出物の形成をすることにより、マルテンサイト形成に寄与する。
【0055】
従って、ニオブ(Nb)の含量が0.02重量%では前記効果を奏することができず、0.04重量%を超えれば製造費用が上昇してマルテンサイトの形成より複合炭化物の形成が増加することにより、複合組織鋼製造に困難が発生することがある。
【0056】
−ボロン(B):0.005重量%以下
【0057】
ボロン(B)はマルテンサイトを形成させる元素として少ない量でも硬化能を向上させることができる。このとき、前記「以下」という表現は、最少添加量が存在しなければならないので、「0超」を意味する。
【0058】
従って、ボロン(B)の含量が0.005重量%を超える場合、多量のマルテンサイト形成による適切な延性の確保が不可能になることがある。
【0059】
上述した成分組成を有するスラブは、製鋼工程を通じて溶鋼を得た後に造塊又は連続鋳造を通じて作る。このスラブを熱間圧延工程、巻取工程、冷間圧延工程、焼鈍工程及び溶融亜鉛メッキ工程を通じ、目標とする特性を有する鋼板を製造するが、各工程別の製造条件を具体的に説明すると次の通りである。
【0060】
[熱間圧延工程]
【0061】
前記のような組成のスラブを熱間圧延するが、まず熱間圧延のための再加熱する段階は、1150〜1250℃の温度で1.5〜3.5時間維持することが望ましい。
【0062】
熱間圧延の仕上温度は、Ar3変態温度以下の温度で実施した後、冷却を調節して熱延組織が微細になるようにする。ここで、Ar3変態温度以下は、本発明で用いる仕上熱間圧延温度である910℃を基準とした800〜900℃の温度範囲で行うことが望ましく、熱間圧延は5段階(pass)に分けて行うことが望ましい。
【0063】
圧延終了温度が低ければ、オーステナイト以下の領域で熱間圧延がなされることによって、結晶粒の非対称発達によるドローイング性が低下するため、適正圧延温度で熱間圧延を実施して微細な熱延組織を得るようにする。熱間圧延後には高圧のスケール除去装置を用いたり、強い酸洗鉄(pickling)で表面のスケールを除去することが望ましい。
【0064】
[コイリング工程]
【0065】
本発明では、前記熱間圧延した鋼板を550〜650℃の温度でコイリングするが、コイリング状態で炭化物を円滑に形成して固溶炭素を最少化させ、AlNも最大限に析出させて固溶窒素の形成を最少化させる。このコイリング温度は、冷間圧延及び再結晶熱処理後に最適な機械的物性を得るための組織を得るための温度であって、コイリング温度が550℃未満の場合、ベイナイトやマルテンサイト組織により冷間圧延が難しく、650℃超の場合、最終の微細組織が粗大になるので、十分な強度を有する鋼板を製造するのが難しい。
【0066】
[冷間圧延工程]
【0067】
本発明では、前記巻き取った熱延コイルをアンコイリングして酸洗した後、冷間圧延するが、このとき冷間圧下率は50〜80%にすることが望ましい。冷間圧延は熱延組織を変形させ、その変形エネルギーは再結晶過程のエネルギーになるが、冷間圧下率が50%未満ではこの変形効果が少なく、80%を超える冷間圧延は現実的に圧延が難しい。また、熱延コイルで複合析出物が圧延中に分解されて再結晶の初期過程で集合組織が発達するが、これによりドローイング性を損ない、鋼板の縁部に亀裂が生じて板破断が起こる確率が増加し得る。従って、圧下率の範囲を50〜80%にすることが望ましい。
【0068】
[焼鈍熱処理及び溶融メッキ工程]
【0069】
本発明では、冷間圧延した後に圧延した鋼板を再結晶焼鈍するが、このときの焼鈍は、連続焼鈍ライン(Continuous Anizing Line)で行うことが望ましい。ここで、連続焼鈍ライン(CAL)は、CGL(Continuous Galvanizing Line)又はCVGL(Continuous Vertical Galvanizing Line)を含む複合ラインになり得る。
【0070】
焼鈍は、再結晶と結晶粒の成長を通じ、集合組織を発達させてドローイング性を向上させ、微細な複合析出物を再溶解させて固溶炭素を溶出するようにし、焼鈍熱処理は、フェライトとオーステナイトの2相組織を作るためにAc1変態点からAc3変態点の間で実行されなければならない。
【0071】
前記のような条件を満たす連続焼鈍ラインは、10〜20℃/secで750〜850℃まで加熱して100〜110秒間焼鈍するラインと、焼鈍に続いて、3〜15℃/secで460〜540℃まで冷却するラインと、前記460〜540℃の温度で100〜200秒間、過時効処理するラインとを含む。
【0072】
次に、焼鈍熱処理工程に続いて、溶融亜鉛メッキ工程をさらに行うことができる。この段階は、480〜560℃の温度で行うことが望ましい。
【0073】
上述した連続焼鈍ラインでは、480〜560℃の溶融亜鉛メッキの温度範囲内でのみ、合金化度(Fe%)が8〜15%の範囲を満たす。このとき、合金化時間は、2分以下に制限しなければならない。
【0074】
合金化時間が2分を超える場合、ベイナイトや炭化物の過多析出で機械的特性が劣化し、合金化度(Fe%)が8%未満であれば溶融亜鉛メッキ工程の意義がなくなり、合金化度が15%を超えれば加工時に粉末化(Powdering)及び剥離性(Flaking)が甚だしくなる現象が発生することがある。
【0075】
上述した通り、本発明に係る連続焼鈍ラインの条件は、全体的なラインスピード(Line Speed;L/S)を80〜200mpmとして行うことが望ましい。80mpm未満では製造速度があまりにも遅くてマルテンサイトを形成するのが難しく、200mpm超の条件では速度があまりにも速い関係で、溶融亜鉛メッキ後に加熱するとき、Zn−Feの拡散が良くない。
【0076】
また、1つのラインで連続焼鈍と溶融亜鉛メッキ(CAL/CGL)が可能になるので、熱処理時間と温度を容易に制御できる複合ラインでさらに容易である。
【0077】
また、以下では、前記工程で焼鈍工程についてさらに詳細に説明する。まず、焼鈍工程を行うラインはSS(Soaking Section)と表し、調質圧延を行うラインはSPM(Skin Pass Mill)と表し、1次冷却工程ラインはGJS(Gas Jet Section)と表し、2次冷却工程ラインはRQS(Roll Quenching Section)と表し、過時効処理ラインはOAS(Over Aging Section)と表し、溶融亜鉛メッキラインはGA(Galvannealed)と表した。
【0078】
前記のような過程を経てメッキ付着性及び表面性に優れ、鋼鉄組織中のマルテンサイト体積率が5〜20%を満たし、引張強度(TS)440〜590MPa級、延伸率(El)28〜32%、そしてR値が0.15〜0.2の優れた特性を有する複合組織鋼の合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を製造することができるようになる。
【0079】
以下では、上述した工程により形成した複合組織鋼の焼鈍材及び合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を熱処理材といい、[表1]に本発明に係る熱処理材の化学成分特性を調査して示した。
【0080】
【表1】

【0081】
実施例1〜実施例25に係る鋼の化学成分の組合わせがフェライトとマルテンサイトを有する複合組織鋼板を作るのに適した特性を示した。前記実施例のうち空欄で表された部分は、本発明に係る含量比に従い、望ましくは最少成分値を用いるものとする。
【0082】
しかし、比較例1の場合、不適切な特性が導き出され、比較例1と実施例25を対比させてみた結果、Al+Crの含量差によるものであることが調査で分かった。
【0083】
即ち、本発明に係る複合組織鋼板は、Al+Crの含量差を調節して鋼の特性を改善できるが、比較例1を参考にするとき、Al+Crの含量は、最大1.0重量%未満で添加しなければならないことが分かる。
【0084】
Al+Crの含量が1重量%以上添加される場合、連鋳時にノズルが詰まって鋳造が不可能になることがあり、AlNが析出されて連鋳や熱延時にクラックが発生することがある。また、過多添加時に硬化能増加による所望のマルテンサイトの分率制御が難しくなる問題が発生することがある。
【0085】
次に、前記組成を用いて冷延材を形成した後、焼鈍後に機械的性質を測定し、結果を[表2]に示した。
【0086】
【表2】

【0087】
前記[表2]に示した通り、本発明に係る焼鈍材は、297〜533MPaの降伏応力(YS)と、443〜604MPaの引張強度(TS)と、21〜36%の延伸率(El)とを有し、本発明に係る複合組織冷延鋼鈑を形成する。従って、本発明で得ようとする値を示している。
【0088】
ここで、引張強度(TS)を比較してみると、実施例の場合、本発明で目標とする440〜590MPa級を満たしていることが分かり、これに関する詳細な結果は、代表的な実施例の試片を用いて下記[表3]で説明する。
【0089】
図1は、本発明に係る複合組織鋼板の成分系によって示される焼付硬化特性を示した代表的なグラフである。
【0090】
図1を参照すると、実施例1〜実施例25により得られる焼鈍材の各ケース別に2%の初期変形率(2% Prestrain)を有する物性とその材料に対して160℃で焼付硬化させた物性について比較分析する方法を示したもので、その結果のうち代表的な実施例は、下記[表3]で説明する。
【0091】
【表3】

【0092】
前記[表3]を参照すると、組成は前記[表1]の組成にそのまま従い、本発明ではC、Si、Mn、P、S及びNを主要化学成分として特定し、複合組織を有し、成形性、焼付硬化性、耐デント性、高Ri値及びメッキ特性を具現するための付加的な化学成分としてAl、Cr、Nb、B及びMoを設定し、その結果は、297〜533MPaの降伏応力(YS)と、443〜604MPaの引張強度(TS)と、21〜36%の延伸率(El)と、0.15〜0.20の加工硬化指数(n)と、1.0〜2.0のRi値(Lankford value)を満たすことが調査で分かった。Alが相対的に多く添加された実施例及び比較例の場合、引張強度が590MPaを超えることが示され、それによる加工硬化指数も0.2を超えることが示されている。
【0093】
実施例22又は25の場合、複合組織鋼の外板及び内板材でのSi及びMn等が多量に添加されることにより、成形性が他の実施例に比べて多少低下した面があるが、Alが添加されたので、メッキ性が向上する。
【0094】
図2は、本発明に係るAl添加によるメッキ性の結果写真である。図2を参照すると、Alの添加如何に応じてメッキ性の向上した効果が明確に示されていることが分かる。
【0095】
[表4]の場合、複合組織鋼で示される最も重要な因子のうちの1つとして、冷却能力に応じて機械的物性に影響を大きく及ぼすことが示されている。従って、代表的な例として実施例22〜実施例25の材料の冷却温度による変化を調査した結果、それほど温度に敏感でなく、本発明で所望の440〜590MPa級物性を示すことが分かった。
【0096】
【表4】

【0097】
ここでは、降伏応力(YS)を測定するための前段階として降伏点(YP;Yeild Point)を測定し、その他引張強度(TS)、延伸率(EL)及び降伏比(YR)が全て本発明で目標とする条件に符合することが分かる。
【0098】
前記のように、本発明ではAl、Cr、Nb、B及びMoなどの組成物を調節して複合組織鋼板を形成し、適合した熱処理を通じてその微細組織を管理することにより、要求する物性を付与することができる。
【0099】
図3は、本発明に係る複合組織鋼板の焼鈍後の写真である。
【0100】
図3を参照すると、本発明に係る複合組織鋼板の相は、フェライト及びマルテンサイトの相を有し、第3の相であるベイナイト及び析出物として物性を示すことが分かる。
【0101】
鋼板がフェライトを主相とし、第2の相としてマルテンサイトの分率が5〜20%になるようにすることが望ましい。マルテンサイトの分率が5%未満では本発明で目標とする高い引張強度が確保されない一方、20%超では延伸率が急激に低下することがある。また、本発明では第2の相としてマルテンサイト以外に5%未満のベイナイトを含有しても、本発明で目標とする物性を確保することができる。
【0102】
また、後続の過時効処理(OAS)温度を460℃から540℃まで調節することにより、異常領域で制御されたオーステナイト分率に応じてマルテンサイト形成をすることによって制御でき、核生成によって組織が微細になるようにし、フェライト内部の炭素及びその他不純物が結晶粒界に集まりマルテンサイトを発達させ、薄いフェライトはより延性を有し、強いマルテンサイトは化学的により安定性を有することにより、機械的性質を向上させる。
【0103】
以上、本発明の一実施例を中心に説明したが、当業者の水準で多様な変更や変形を加えることができる。このような変更と変形が本発明の範囲を逸脱しない限り、本発明に属するといえる。従って、本発明の権利範囲は、請求の範囲により判断すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の外板及び内板材として、C:0.05〜0.10重量%、Si:0.03〜0.50重量%、Mn:1.50〜2.00重量%、P:0重量%超0.03重量%、S:0重量%超0.003重量%、Al:0.03〜0.50重量%、Cr:0.1〜0.2重量%、Mo:0.1〜0.20重量%、Nb:0.02〜0.04重量%、B:0重量%超0.005重量%、N:0重量%超0.01重量%、残りのFe及びその他不可避な不純物で組成され、440〜590Mpaの引張強度(TS)を有し、主相がフェライトであり、第2の相が体積分率で5〜20%のマルテンサイトであり、体積分率で0%超5%未満のベイナイトを含有することを特徴とする複合組織鋼板。
【請求項2】
前記複合組織鋼板の降伏応力(YS)は、270MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合組織鋼板。
【請求項3】
前記複合組織鋼板の延伸率(El)は、28%以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合組織鋼板。
【請求項4】
前記複合組織鋼板の加工硬化指数(n)は、0.15〜0.20であることを特徴とする請求項1に記載の複合組織鋼板。
【請求項5】
前記複合組織鋼板のRi値(Lankford value)は、1.0〜2.0であることを特徴とする請求項1に記載の複合組織鋼板。
【請求項6】
自動車の外板及び内板材として、C:0.05〜0.10重量%、Si:0.03〜0.50重量%、Mn:1.50〜2.00重量%、P:0重量%超0.03重量%、S:0重量%超0.003重量%、Al:0.03〜0.50重量%、Cr:0.1〜0.2重量%、Mo:0.1〜0.20重量%、Nb:0.02〜0.04重量%、B:0.005重量%以下、N:0重量%超0.01重量%、残りのFe及びその他不可避な不純物で組成される鋼スラブを再加熱する段階と、
前記鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を形成する段階と、
前記熱延鋼板をコイリングして熱延コイルを形成する段階と、
前記熱延コイルをアンコイリングして、酸洗及び冷間圧延して冷延鋼鈑を形成する段階と、
前記冷延鋼鈑を焼鈍熱処理して複合組織を有する焼鈍鋼板を形成する段階と、
を備え、
前記焼鈍熱処理は連続焼鈍ラインで行い、前記連続焼鈍ラインは10〜20℃/secで750〜850℃まで加熱して100〜110秒間焼鈍する段階と、前記焼鈍に続いて3〜15℃/secで460〜540℃まで冷却する段階と、前記460〜540℃の温度で100〜200秒間、過時効処理する段階と、を備えることを特徴とする複合組織鋼板製造方法。
【請求項7】
前記鋼スラブは、製鋼工程を通じて溶鋼を製造し、前記溶鋼を造塊又は連続鋳造して製造することを特徴とする請求項6に記載の複合組織鋼板製造方法。
【請求項8】
前記再加熱する段階は、1150〜1250℃の温度で1.5〜3.5時間維持することを特徴とする請求項6に記載の複合組織鋼板製造方法。
【請求項9】
前記熱間圧延する段階は、800〜900℃の温度範囲で、5段階(pass)で行うことを特徴とする請求項6に記載の複合組織鋼板製造方法。
【請求項10】
前記コイリングする段階は、550〜650℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項6に記載の複合組織鋼板製造方法。
【請求項11】
前記冷間圧延する段階の圧下率は、50〜80%で行うことを特徴とする請求項6に記載の複合組織鋼板製造方法。
【請求項12】
前記焼鈍熱処理後に480〜560℃の温度で行う溶融亜鉛メッキ工程をさらに行うことを特徴とする請求項6に記載の複合組織鋼板製造方法。
【請求項13】
前記複合組織鋼板製造方法において、前記連続焼鈍ラインを進行するスピード(Line Speed;L/S)は、80〜200mpmを基準とすることを特徴とする請求項6に記載の複合組織鋼板製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−52317(P2011−52317A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143258(P2010−143258)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(509107932)ヒュンダイ ハイスコ (20)
【Fターム(参考)】