説明

複合被覆金属板、複合被覆処理剤、及び複合被覆金属板の製造方法

【課題】上層に形成する樹脂層との優れた密着性を有し、6価クロムを含有しない環境負荷の小さい耐食性被膜層を有する複合被覆金属板、複合被覆処理剤、及び複合被覆金属板の製造方法を提供する。
【解決手段】金属板の表面に形成され、クロムを除く金属の酸化物又は水酸化物の一方又は双方を含む被膜層を有し、該被膜層は、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分を1種以上含有する複合被覆金属板、複合被覆処理剤、複合被覆金属板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロメートフリーで高い耐食性を有する被膜であって、更に、前記被膜の上部に形成する樹脂層との密着性に優れた被膜を施した、複合被膜金属板、複合被覆処理剤、及び複合被覆金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の用途で使用されるめっき金属板や金属板には、意匠性、耐食性、絶縁性等の様々な特性の発現を目的として各種の塗装やラミネート等の処理が施される。この場合、これら金属板表面には下地処理としてクロメート処理を施すことがある。この際のクロメート処理は、上部に形成する塗装やラミネート等の樹脂層との密着性および耐食性の向上を目的としている。
【0003】
しかしながら、近年、地球環境問題の関心の高まりから環境負荷の大きな6価クロムを含有するクロメート処理を使用しないことが望まれるようになってきた。このような背景の下、クロメート処理と同等の性能を目指して様々なクロメートフリーの表面処理が開発されているが、十分な特性が得られていないのが現状である。例えば、特許文献1では、アルミニウム用の防錆処理剤として、ジルコニウムの酸化物、酸素酸塩、有機酸塩、フルオロ錯塩及びこれらの混合物から成る群から選択されるジルコニウム化合物と亜鉛化合物が配合された処理剤が開示されている。前記処理剤を、アルミニウム基材に塗布、浸漬、スプレー等で表面に付着、乾燥させることにより、亜鉛化合物が添加されたジルコニウム化合物の被膜が形成され、耐食性が向上することが示されている。クロメート処理代替としては、耐食性とともにその上部に形成する樹脂の密着性に優れることが必須であるが、前記被膜に塗料やラミネート樹脂を施した際の樹脂密着性については、記載されておらず、示唆もされていない。また、特許文献2では、アルミニウム用の防錆処理剤として、ジルコニウムの酸化物、酸素酸塩、有機酸塩及びフルオロ錯塩の少なくとも1種に、ジルコニウムと反応性を有する架橋性樹脂と親水性樹脂を含む処理剤が開示されている。前記処理剤を、熱交換器等のアルミニウム基材に塗布、浸漬、スプレー等で表面に付着、乾燥させることにより、ジルコニウム化合物と親水性有機樹脂からなる被膜が形成され、耐食性とともに親水性を付与できることが示されている。前記被膜を被覆したアルミニウム材料は、その上に塗料やラミネート等を施さず、被膜に付与した親水性を利用するためにそのまま熱交換器等に使用されることから、前記被膜に塗料やラミネート樹脂を施した際の樹脂密着性については、記載されておらず、示唆もされていない。
【0004】
さらに、クロメートフリー処理の方法として、特許文献3ではバナジウム化合物を必須成分とし官能基を有する有機化合物を含有する金属表面処理剤が提案されている。前記処理剤を金属素材の表面にロールコート法、浸漬法等で塗布し、乾燥することによって、耐水性や耐アルカリ性に弱い5価のバナジウムを4価、3価、2価等に還元されたバナジウム化合物の被膜が形成され、耐食性が向上することが示されている。前記有機化合物を添加するのは、5価のバナジウムを還元し、4価、3価、2価等に還元されたバナジウムとキレート化させ、処理液中のバナジウム化合物を安定させるためである。また、特許文献3では、耐食性、耐指紋性及び表面潤滑性の向上を目的として、水溶性高分子を処理液中にさらに添加したり、前記被膜上に更に有機高分子被膜を形成することが示されているが、前記被膜に塗料やラミネート樹脂を施した際の樹脂密着性については、記載されておらず、示唆もされていない。
【0005】
上述のようにこれまでのクロメートフリー処理では、処理液を塗布し、乾燥、場合によっては加熱乾燥や焼付け処理して被膜を形成する方法である。すなわち、特許文献1、2は焼き付けを行って架橋的結合を完結させ、特許文献3も塗布及び乾燥を行うものであり、加熱乾燥により被膜形成性、密着性が向上するとしている。このような塗布型の成膜方法は、クロメート処理と類似の単純なプロセスであるが、バリヤー性に頼る前述のようなクロメートフリー被膜では基材へのつきまわり性が不十分な場合、その部分を起点に腐食等が進行する可能性がある。さらに、これらは特許文献4の顔料の開示に見られるように樹脂等の被膜マトリックスやバインダーが必要であるため、無機成分比率の低下が避けられない。これらのことから十分な特性が得られないと考えられる。また、無機成分比率を上げる方法としては、例えばゾルゲル法などがあるが、被膜形成のためには数百度以上の加熱が必要となり、例えば上層に形成する樹脂層との密着性を向上させる目的で有機成分を含有させることは困難となる(図1参照)。ここで、図1は、塗布後に乾燥、焼付けをした被膜の断面構成図である。図1の左図は、低無機成分比率の塗布被膜の例である。無機成分比率が低い被膜では数百℃の熱処理は必要でないが、無機成分が少ないのでバリヤー性が低くなる。また、図1の右図は、下層膜が高無機成分比率とし、上層に樹脂層を施した2層複合膜の塗布被膜の例である。無機成分比率が高い被膜では数百度以上の加熱が必要である。下層は無機成分比率が高くなるのでバリヤー性は向上する。しかしながら、下層膜は高温処理を必要とするために有機成分を含有させるのが難しく、下層と樹脂層の間で密着性が不十分となる。
【0006】
これまでの単純塗布法等による成膜方法に対し、基材へのつきまわり性が良く、欠陥が生じ難く、無機成分比率が高く緻密でバリヤー性の高い被膜を常温領域で形成する方法としては、特許文献5のような電気化学的な析出方法が開発されてきた。単なる処理剤に基材を浸漬させるだけでなく、さらに、基材と対極間に電界を印加してカソード電解により短時間で酸化物被膜を形成する方法である。この方法について、ジルコニアを例として反応式を記述する。
【0007】
ZrF2− + 2HO ⇔ ZrO + 4H +6F
【0008】
この平衡反応において水素イオン及びフッ素イオンを消費すればジルコニアが形成することがわかる。この水素イオン及びフッ素イオンの消費に電解を用いれば、その速度制御可能となる。このようにして形成される被膜は、緻密で欠陥がほとんど出来ないために、これまでの塗布被膜等に比べて耐食性に優れており、クロメート処理と同等あるいはそれ以上の耐食性を示す。但し、クロメート処理のもう一つの重要な効果である、被膜の上部に形成する樹脂層との密着性については、未だ開発されておらず、早急な開発が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開2000−282256号公報
【特許文献2】特開2000−282267号公報
【特許文献3】特開2002−30460号公報
【特許文献4】特開平7−278853号公報
【特許文献5】国際公開第2003/048416号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これまでのクロメートフリー処理で形成される被膜に関して、前述のように被膜の上部に形成する樹脂層との密着性について、十分検討されておらず、密着性の良好な被膜は得られていない。例えば、特許文献1の被膜については、本発明者らの検討結果、前記被膜上層に樹脂層を形成すると、湿潤環境下での密着性が十分ではないことが分かった。また、特許文献2の被膜では、親水性樹脂の耐水性不足を補うために架橋性樹脂が添加されており、これによって造膜性が付与されて強固な樹脂層が期待できるが、バリヤー効果の発揮する無機成分であるジルコニウム量の比率が下がるため、耐食性が十分ではない。特許文献3の被膜では、バナジウム化合物に有機樹脂を添加しているので被膜の上部に形成すると塗料やラミネート等の樹脂層とも高い秋密着性が期待できそうであるが、樹脂添加が耐指紋性の改善に至っていることから、樹脂等の有機物との密着性は低下する。また、還元されたバナジウム化合物は、導電性を有して腐食電子を非局在化することで耐食性向上させるものであるが、非導電性である有機樹脂を混在させると前記効果が十分発揮できす、耐食性が低下する。特許文献5においても、被膜形成時に欠陥が生じ難く、耐食性は極めて優れるものの、上部に塗料やラミネート等の樹脂層を施した場合、樹脂との密着性が不十分である。
【0011】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、6価クロムを含有しない環境負荷の小さい耐食性被膜層であって、耐食性がクロメート処理と同レベルで、かつ被膜の上部に形成する樹脂層との優れた密着性を有する被膜層を施した複合被覆金属板、被膜層形成のための複合被覆処理剤、及び複合被覆金属板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、めっき金属板又は金属板の表面に被膜層を形成し、この被膜層が、クロムを除く金属の酸化物又は水酸化物の一方又は双方に、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分を含有すると、クロメート被膜の同等以上の耐食性で、被膜の上部に形成する樹脂層との密着性が優れていることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の趣旨とするところ、以下の通りである。
(1)金属板の表面に形成され、クロムを除く金属の酸化物又は水酸化物の一方又は双方を含む被膜層を有し、前記被膜層は、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分を1種以上含有することを特徴とする、複合被覆金属板。
(2)前記被膜層上に、単層又は複数層の有機樹脂層をさらに有し、前記有機樹脂層のうち、前記被膜層に直接接する層が、前記被膜層に含まれる官能基又は該官能基が変性したものの少なくとも1種を含有することを特徴とする、(1)に記載の複合被覆金属板。
(3)前記被膜層の平均厚さが、5μm以下であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の複合被覆金属板。
(4)前記被膜層中の前記有機成分の含有率が、質量比で20%未満であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の複合被覆金属板。
(5)前記被膜層中の前記有機成分の含有率が、質量比で5%未満であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の複合被覆金属板。
(6)前記被膜層に含まれる官能基の少なくとも1種が、極性を有する基及び炭素−炭素結合として二重結合又は三重結合を含有する基であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の複合被覆金属板。
(7)前記被膜層に含まれる官能基の少なくとも1種が、カルボキシル基であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の複合被覆金属板。
(8)前記クロムを除く金属が、ジルコニウム、チタン、又はケイ素の少なくとも1種以上であることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の複合被覆金属板。
(9)前記クロムを除く金属が、ジルコニウムであることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の複合被覆金属板。
(10)クロムを除く金属イオンと該イオンに対して6倍以上のモル比のフッ素イオンが共存する水溶液、又は、クロムを除く金属イオンと該イオンに対して6倍以上のモル比のフッ素を含む錯イオンを含む水溶液の一方又は双方からなる水溶液中に、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分を1種以上含むことを特徴とする、複合被覆処理剤。
(11)前記有機成分の含有率が、質量比で20%未満であることを特徴とする、(10)に記載の複合被覆処理剤。
(12)前記有機成分の含有率が、質量比で5%未満であることを特徴とする、(10)に記載の複合被覆処理剤。
(13)前記有機成分を含む水溶液のpHが2〜7であることを特徴とする、(11)又は(12)に記載の複合被覆処理剤。
(14)前記官能基が、極性を有する基及び炭素−炭素結合として二重結合又は三重結合を含有する基であることを特徴とする、(10)〜(13)のいずれかに記載の複合被覆処理剤。
(15)前記官能基が、カルボキシル基であることを特徴とする、(10)〜(14)のいずれかに記載の複合被覆処理剤。
(16)前記クロムを除く金属イオンが、ジルコニウム、チタン、又はケイ素の少なくとも1種以上のイオンであることを特徴とする、(10)〜(15)のいずれかに記載の複合被覆処理剤。
(17)前記クロムを除く金属イオンが、ジルコニウムであることを特徴とする、(10)〜(15)のいずれかに記載の複合被覆処理剤。
(18)(10)〜(17)のいずれかに記載の複合被覆処理剤に、金属板又はめっき金属板を接触させることにより、前記金属板又は前記金属板の表面に、クロムを除く金属の金属の酸化物又は水酸化物の一方又は双方と、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分と、を含有する被膜層を形成することを特徴とする、複合被覆金属板の製造方法。
(19)(10)〜(17)のいずれかに記載の複合被覆処理剤に、金属板又はめっき金属板を浸漬させ電解することにより、前記金属板又は前記金属板の表面に、クロムを除く金属の金属の酸化物又は水酸化物の一方又は双方と、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分と、を含有する被膜層を形成することを特徴とする、複合被覆金属板の製造方法。
(20)前記金属板又は前記めっき金属板の表面に形成された前記被膜層上に、有機樹脂層をさらに形成することを特徴とする、(18)又は(19)に記載の複合被覆金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、6価クロムを含有しない環境負荷の小さい耐食性被膜層で、被膜の上部に形成する樹脂層との優れた密着性を有する被膜層を施した複合被覆金属板、複合被覆処理剤、及び複合被覆金属板の製造方法の提供が可能となる。さらに、本発明の複合被覆金属板は、高い耐食性を有し、樹脂密着性が優れているので、種々の塗料やラミネート樹脂を施した金属板として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明で得られる複合被覆金属板は、金属板の表面上に形成され、クロムを除く金属の酸化物又は水酸化物の一方又は双方を含む被膜層を有し、この被膜層は、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分を1種以上含有するものである。
【0017】
本発明者らが鋭意検討した結果、めっき金属板又は金属板の表面に金属酸化物又は金属水酸化物の一方又は双方と少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分の1種以上とを含む被膜層を有する場合、このような被膜が無い場合に比して、被膜の上部に形成する樹脂層との密着性に優れていることを見出した。この機構については明確ではないが、本発明者らは、金属酸化物又は金属水酸化物がその上に形成される有機樹脂層と強固な化学結合を有することに加えて、上記官能基を介して金属酸化物又は金属水酸化物と形成される有機樹脂層との強固な化学結合(図2参照)を有するためと考えている。なお、図2は、本発明の一実施形態に係る複合被覆金属板の表面と有機樹脂との界面結合状態の模式図(官能基と有機樹脂層との結合モデル図)である。
【0018】
特に、クロムを除く金属イオンとフッ素イオンを含む錯イオンの水溶液に、金属基材を浸漬して、さらに金属基材と対極の間に電界をかけて電解して得られる酸化物や水酸化物の被膜に前述の有機成分が存在すると、高い耐食性で、極めて優れた樹脂密着性を発現できる。また、前記被膜中に有機成分を含ませるのには、クロムを除く金属イオンとフッ素イオンを含む錯イオンの水溶液に後述の有機成分を溶解して前述と同様に電解して被膜を形成すると、有機成分を導入できる。金属酸化物又は金属水酸化物の一方又は双方と、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分の1種以上との電解による共析機構は明確ではないが、それぞれが独立に処理液中に存在し有機成分がその機能を失うことなく被膜に取り込まれ、その結果、機能発現すると考えている(図3参照)。ここで、図3は、本発明の一実施携帯に係る膜に樹脂層を形成した場合の断面構造模式図である。図3に示すように、下層は、電解して被膜を形成した高無機成分比率と有機成分を含み、樹脂層との密着性が向上する。また、電解して被膜を形成すると高温の焼付けを必要とせずに常温で被膜を形成できるので、無機成分比率を高めて有機成分を導入できる。
【0019】
さらに、前記被覆金属板上に形成する有機樹脂層にも、前記被膜中の有機成分と同様の官能基を有する場合には、より樹脂密着性が向上することを見出した。これは、化学結合が上記に比してより強固となるため、もしくは、官能基が関与した結合が増加するためと考えている。ここで、本発明でいう変性とは、官能基がpH変動を伴うような処理液調製や熱処理を伴うような被膜形成等の工程を経ることで起こり得る酸化、還元、縮合や官能基を構成するイオンが一部置換する等の種々の化学結合を形成することを意味する。
【0020】
また、上記金属酸化物又は金属水酸化物の一方又は双方を含む被膜層の平均厚さは5μm以下が好ましい。被膜層の厚さが5μm超の場合には、被膜の上部に形成する樹脂層との密着性が飽和すると共に、経済的ではないし、加工時の樹脂密着性が低下する場合がある。ここで、平均厚さとは1000倍〜20万倍程度の断面SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)観察又は断面TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)観察において、任意の10視野で測定された膜厚の平均値を意味する。皮膜層厚さを計測する対象となるのは被覆されている金属表面の全体であるから、金属表面の一部が被覆されていない部分は皮膜層厚さを計測する対象から除かれる。ただし、金属板に単分子層が被覆されていれば被覆されているとして取り扱う。したがって、皮膜層の平均厚さの下限は、単分子層となる。
【0021】
上記金属酸化物又は金属水酸化物の一方又は双方を含む被膜層上に形成させる有機樹脂層は、特に限定するものではない。例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコンポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フェノール系樹脂あるいはこれらの変成樹脂等の樹脂成分をブチル化メラミン、メチル化メラミン、ブチルメチル混合メラミン、尿素樹脂、イソシアネートやこれらの混合系の架橋剤成分により架橋させたもの、あるいは電子線硬化型、紫外線硬化型等のもの、さらには適宜官能基を付与したものが挙げられる。
【0022】
また、上記有機樹脂層は、着色顔料、染料、シリカ等の光沢調整剤、表面平滑剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、粘度調整剤、硬化触媒、顔料分散剤、顔料沈降防止剤、色別れ防止剤、防錆剤、酸化防止剤、カーボンブラック粉末等の添加剤を含んでもよい。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。但し、地球環境に配慮したものを選択することが望ましい。また、有機樹脂層の形成方法も特に限定されず、例えば、塗装やラミネート等が挙げられる。
【0023】
金属酸化物又は金属水酸化物の一方又は双方を含む被膜層中の有機成分は、次のような官能基を有するのが好ましい。酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ハロゲン原子等が炭素原子と結合をした極性を有する基及び炭素−炭素結合として二重結合又は三重結合を含有する基を指す。具体的には、カルボキシル基、エステル基、ホルミル基、水酸基、エポキシ基、酸無水物基、カルボニル基、リン酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、チオール基、ウレア基、ふっ化アルキル基、塩化アルキル基、臭素アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、エーテル基、ニトリル基等が挙げられる。好ましくはカルボキシル基、エステル基、水酸基、エポキシ基、酸無水物基、カルボニル基、リン酸基、アミノ基、チオール基、ウレア基である。有機成分は、これら官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方の少なくとも1種を有し、官能基の数は1個以上有する。これら官能基を有する有機成分は、被膜中に1種類を含有させても、異なる官能基を有する2種類以上としても、同じ官能基を有する2種類以上としても、上記の樹脂層との密着性向上に寄与するものであれば、特に制限をするものではない。
【0024】
また、この有機成分は、水溶性であり、かつ、金属イオンとフッ素イオンが共存する水溶液や金属イオンとフッ素を含む錯イオンを含む水溶液と反応して耐食性や密着性に悪影響を及ぼさないものであれば、特に制限をするものではない。
【0025】
上記金属酸化物又は金属水酸化物の一方又は双方を含む被膜層中の有機成分の含有率が、被膜中の全固形分量に対して質量比で20%未満である場合、樹脂層との密着性及び耐食性が共により良好となるため好ましい。より好ましくは10%未満、さらに好ましくは5%未満である。この機構については明確ではないが、本発明者らは、樹脂層との密着性については、無機成分及び有機成分の相互作用による影響、また、耐食性については、ある一定比率の無機成分がバリヤ被膜として機能したことによると考えている。ここで、質量比とは、被膜の赤外分光法(ATR法)による定量分析や被膜を溶解した水溶液のICP発光分光分析などの手法により求められ、ここではICP発光分光分析により求めたものである。
【0026】
本発明の金属板の上に形成される被膜に含まれる金属酸化物又は金属水酸化物を構成する金属は、特に限定するものではないが、鉄、マグネシウム、ニオブ、タンタル、アルミニウム、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、ケイ素等が挙げられる。上記被膜は、1種類の金属種で構成されていても良いし、2種類以上の複合系、混合系や積層でも良い。特に好適な金属種はチタン、ジルコニウム、ケイ素である。これは、チタン、ジルコニウム、ケイ素の酸化物又は水酸化物が、その上に形成される有機樹脂、及び、官能基を介した有機樹脂層と特に強固な化学結合を形成するためと本発明者らは考えている。ジルコニウムは、これらの中で最も良好な結合を形成する。
【0027】
次に、本発明の複合被覆処理剤について述べる。
【0028】
水溶液中では、例えば、先に述べた平衡式
ZrF2− + 2HO ⇔ ZrO + 4H +6F
により表される金属イオンと酸化物との平衡反応が生じている。
【0029】
当該式の左辺を実現する水溶液として、2種類考えられる。
【0030】
第1は、左辺のZrF2− をZr4++6Fのようなイオンとして有する水溶液すなわち、クロムを除く金属イオンと該イオンに対して6倍以上のモル比のフッ素イオンが共存する水溶液である。
【0031】
第2は、左辺のZrF2−そのものを含む水溶液すなわち、クロムを除く金属イオンと該イオンに対して6倍以上のモル比のフッ素を含む錯イオンを含む水溶液である。
【0032】
これらの第1、第2の水溶液の少なくとも一方からなる水溶液の下では、上記の平衡式に基づいた金属イオンと酸化物との平衡反応が生じる。
【0033】
金属イオン濃度を同一にしても、金属イオンの種類が異なると、成膜状態や成膜量は異なる。これは、金属イオンによって、成膜に関する濃度の最適値が異なることに起因するからである。
【0034】
フッ素イオンを生じさせるためには、フッ化水素酸あるいはその塩、例えば、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等を水に溶解させればよく、これらに関して制約はない。
【0035】
金属と該金属に対して6倍以上のモル比のフッ素を含んでなる錯イオンを生じさせるためには、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロニオブ酸、ヘキサフルオロタンタル酸、ヘキサフルオロジルコン酸等、あるいはこれらの塩、例えば、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等を水に溶解させればよく、これらに関して特に制約はない。
【0036】
さらに、金属とフッ素以外の元素が錯イオン中に含まれていてもよい。塩を用いる場合は、そのカチオン種によって飽和溶解度が異なるため、成膜濃度範囲を考慮して選定することが好ましい。複合被覆処理剤の金属イオンとフッ素イオンのモル比が6倍未満では、健全な成膜ができる条件もあるものの、樹脂層との密着性が安定しない場合がある。この理由については明確ではない。
【0037】
また、本発明者らは、フッ素イオン、水素イオンの消費、還元により、金属イオンが酸化物になる反応が進むと考え、複合被覆処理剤のpHに着目し検討した結果、複合被覆処理剤のpHは2〜7が好ましいことを見出した。より好ましくは2〜5である。複合被覆処理剤のpHが2未満では、健全な成膜ができているものの、成膜量が安定しない場合があった。この理由については明確ではない。一方、複合被覆処理剤のpHが7より大きい場合は、液が不安定であり、凝集したものが析出する場合があり好ましくない。
【0038】
複合被覆処理剤中に含まれる有機成分の含有率は、複合被覆処理剤の固形分濃度を100%としたときの質量比が20%未満であることが好ましい。有機成分の含有率が20%以上の場合、被膜への含有率が20%以上となり、20%未満の場合に比して耐食性、樹脂層との密着性が劣である。また、成膜方法、条件によって被膜への含有率が異なるため適宜設定すれば良い。複合被覆処理剤のpHの調整は周知の方法で行うことができる。本発明の析出反応のその他の条件は、特に限定されない。複合被覆金属板の製造処理方法は、金属板を上述の処理液に接触させることにより複合被覆金属板を製造できるが、特に好適な手法としては浸漬し電解するものである。反応温度や反応時間等の諸条件は適宜設定すれば良い。電解する際の電流密度は0.1A/dm〜50A/dmが好ましい、電解する際の反応温度は常温〜80℃、電解する際の反応時間は目的とする成膜量に応じて設定すべきだが経済的には短い方が良く、60分以内が好ましい。また、金属板は脱脂、スケール除去させた表面が好ましい。
【0039】
本発明に適用できる金属板又はめっき金属板は、各種金属・合金、各種金属表面処理材等である。例えば、冷延鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム・アルミニウム合金板、チタン板、マグネシウム・マグネシウム合金、亜鉛めっき鋼板、錫めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板等の亜鉛系合金めっき鋼板等が挙げられるが、特に限定されない。但し、製造工程も含めて地球環境問題に配慮した材料を選択することが望ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0041】
表1〜11に諸条件を示す。金属板としては、冷延鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融アルミニウム鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、錫めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、アルミニウム板、SUS304板、電気亜鉛ニッケルめっき鋼板を使用した。これら金属板試料に対して、アセトン中で超音波脱脂処理を施した後、実験に供した。
【0042】
まず、金属板への、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は両方を有する有機成分と、クロムを除く金属酸化物又は金属水酸化物の一方又は両方とを含む複合被覆処理剤について述べる。上記金属として、チタン、ジルコニウム、ケイ素のヘキサフルオロ錯塩水溶液又は塩化物塩とフッ化水素アンモニウムの混合水溶液に官能基を有する有機成分を添加し、さらに必要に応じてアンモニウム水、フッ化水素酸を用いてpHを調整した複合被覆処理剤を用いた。官能基を有する有機成分としては、カルボキシル基はポリアクリル酸、エステル基はアクリル酸2−エチルヘキシル、エポキシ基はメタクリル酸2,3−エポキシプロピルを用いた。
【0043】
脱脂処理まで行った金属板を上記複合被覆処理剤に10秒間〜30分間接触させて成膜後に、水洗し乾燥した。または、上記処理剤中で白金を対極として電流密度を100mA/cmに制御して10秒間〜30分間カソード電解を行い、成膜後、水洗し乾燥した。
【0044】
表1に、各供試材の作製条件を示す。実験No.1〜10は、被膜中に含まれる有機成分が所定量となるように有機成分を添加した0.1mol/Lヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液をpH4に調整し、基材を浸漬し電解して成膜した。実験No.11〜20は、被膜中に含まれる有機成分が所定量となるように有機成分を添加した0.1mol/Lヘキサフルオロジルコン酸アンモニウム水溶液をpH4に調整し、基材を浸漬し電解して成膜した。実験No.21〜30は、被膜中に含まれる有機成分が所定量となるように有機成分を添加した0.1mol/Lヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液をpH4に調整し、基材を浸漬し電解して成膜した。膜厚は成膜時間によって制御した。これらの被膜は、X線光電子分光法と赤外線分光法により有機成分を含有した金属酸化物及び金属水酸化物の生成を確認した。
【0045】
比較例として、No.31はクロム付着量が20mg/mとなるように塗布型クロメート処理剤を塗布、乾燥した。さらに、比較例としてNo.32は脱脂処理のみを行った金属板である。
【0046】
平板部の耐食性試験は、以下の条件で評価した。35℃、5質量%NaCl水溶液を噴霧し、72時間経過後の白錆発生率を測定し、4段階で評価した。ここでは、評点2以上を良好とした。
4 : 錆発生率 0%
3 : 錆発生率 5%未満
2 : 錆発生率 5%以上、20%未満
1 : 錆発生率 20%以上
【0047】
評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表2の実験No.33〜42、表5の実験No.69〜78は、被膜中に含まれる有機成分が所定量となるように有機成分を添加した0.1mol/Lヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液をpH4に調整し、基材を浸漬し電解して成膜した。表3の実験No.45〜54、表6の実験No.81〜90、表8の実験No.105〜114は、被膜中に含まれる有機成分が所定量となるように有機成分を添加した0.1mol/Lヘキサフルオロジルコン酸アンモニウム水溶液をpH4に調整し、基材を浸漬し電解して成膜した。表4の実験No.57〜66、表7の実験No.93〜102、表9の実験No.117〜126は、被膜中に含まれる有機成分が所定量となるように有機成分を添加した0.1mol/Lヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液をpH4に調整し、基材を浸漬し電解して成膜した。膜厚は成膜時間によって制御した。これらの被膜は、X線光電子分光法と赤外線分光法により有機成分を含有した金属酸化物及び金属水酸化物の生成を確認した。比較例として、表2〜表9のNo43、55、67、79、91、103、115、127は、クロム付着量が20mg/mとなるように塗布型クロメート処理剤を塗布、乾燥した。さらに、比較例として、表2〜表9のNo44、56、68、80、92、104、116、128は、脱脂処理のみを行った金属板である。
【0050】
次いで、有機樹脂層を以下のように形成した。No.33〜44は、アクリル系エマルジョンを用いて塗装、乾燥してアクリル樹脂層を形成した。No.45〜56、69〜80は、水性ウレタン樹脂を用いて塗装、乾燥してウレタン樹脂層を形成した。No.57〜68は、エポキシ樹脂エマルジョンを用いて塗装、乾燥してエポキシ樹脂層を形成した。No.81〜92はポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、No.93〜104はエチレン−メタクリル酸共重合体フィルム、No.105〜116はエチレン−アクリル酸共重合体フィルム、No.117〜128はエチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムを各々熱圧着して形成した。なお、有機樹脂層は、形成後の厚さが15μmとなるように行った。なお、アクリル系エマルジョンとしては、アクリル酸エステル/アクリル酸共重合体のエマルジョンを使用し、水性ウレタン樹脂としては、自己乳化型のポリウレタン樹脂エマルジョンを使用し、エポキシ樹脂エマルジョンとしては、ビスフェノールF型を使用した。
【0051】
湿潤雰囲気での樹脂層との密着性(以下、「二次密着性」という。)は以下の条件で評価した。沸騰水に60分間浸漬した後、JIS K 5400に記載されている碁盤目試験法に準拠して碁盤目を付けて、さらに7mmのエリクセン加工をした。その加工部に粘着テープ(セロハンテープ(登録商標)、ニチバン(株)製)を貼り付け、速やかに斜め45°の方向に引っ張って剥離させて、100個の碁盤目の内で剥離した碁盤目の数を数えた。剥離の程度により5段階で評価した。樹脂層との密着性の評点は、下記のとおりである。ここでは、評点3以上を良好とする。
5 : 剥離無し
4 : 剥離面積率25%未満
3 : 剥離面積率25%以上50%未満
2 : 剥離面積率50%以上75%未満
1 : 剥離面積率75%以上
【0052】
また、加工部の耐食性(以下、「加工部耐食性」という。)の試験は、以下の条件で評価した。腐食はサンプルを切断したときにその切断部に生じるいわゆる「バリ」に起因する。バリには、切断面の上側に着く「上バリ」と切断面の下側に着く「下バリ」がある。バリの位置により耐食試験の結果が異なるので、耐食試験用のサンプルの作成に当たって、当該バリの位置である上、下、左、右を揃える。サンプルは、JIS H 8502に規定される中性塩水噴霧サイクル試験方法(5質量%NaCl水溶液噴霧(2時間)→乾燥(60℃、RH20%〜30%、4時間)→湿潤(50℃、RH95%以上))を180サイクル行い、切断端面部からの最大膨れ幅により5段階で評価した。ここでは、評点2以上を良好とする。
5 : 膨れ無し
4 : 最大膨れ幅3mm未満
3 : 最大膨れ幅3mm超6mm未満
2 : 最大膨れ幅6mm超9mm未満
1 : 最大膨れ幅9mm超
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【0058】
【表7】

【0059】
【表8】

【0060】
【表9】

【0061】
表10の実験No.129〜136は、有機成分を1質量%含んだ0.1mol/Lヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液を表10に記載のpHに調整し、SUS(冷間圧延ステンレス鋼材)基材を浸漬し電解して成膜した。表10の実験No.137〜144は、有機成分を1質量%含んだ0.1mol/Lヘキサフルオロジルコン酸アンモニウム水溶液を表10に記載のpHに調整し、SUS基材を浸漬し電解して成膜した。表10の実験No.145〜152は、有機成分を1質量%含んだ0.1mol/Lヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液を表10記載のpHに調整し、SUS基材を浸漬し電解して成膜した。表10の実験No.153〜158は、有機成分を1質量%含み、かつ、チタンとフッ素を表10に記載のモル比にした塩化チタンとフッ化水素アンモニウムの混合水溶液をpH4に調整し、SUS基材を浸漬し電解して成膜した。
【0062】
表11の実験No.161〜168は、有機成分を1質量%含んだ0.1mol/Lヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液を表11に記載のpHに調整し、ニッケル亜鉛めっき鋼板を浸漬して成膜した。表11の実験No.169〜176は、有機成分を1質量%含んだ0.1mol/Lヘキサフルオロジルコン酸アンモニウム水溶液を表11に記載のpHに調整し、ニッケル亜鉛めっき鋼板を浸漬して成膜した。表11の実験No.177〜184は、有機成分を1質量%含んだ0.1mol/Lヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液を表11に記載のpHに調整し、ニッケル亜鉛めっき鋼板を浸漬して成膜した。表11の実験No.185〜190は、有機成分を1質量%含み、かつ、チタンとフッ素を表11に記載のモル比にした塩化チタンとフッ化水素アンモニウムの混合水溶液をpH4に調整し、ニッケル亜鉛めっき鋼板を浸漬して成膜した。これらの被膜は、X線光電子分光法と赤外線分光法により有機成分を含有した金属酸化物及び金属水酸化物の生成を確認した。
【0063】
比較例として、表10、11のNo.159、191は、クロム付着量が20mg/mとなるように塗布型クロメート処理剤を塗布、乾燥した。さらに、比較例として、表10、11のNo.160、192は、脱脂処理のみを行った金属板である。
【0064】
次いで、アクリル系エマルジョンを用いて塗装、乾燥してアクリル樹脂層を形成した。なお、有機樹脂層は、形成後の厚さが15μmとなるように行った。
【0065】
樹脂層との密着性は、以下の条件で評価した。沸騰水に60分間浸漬した後、JIS K 5400に記載されている碁盤目試験法に準拠して碁盤目を付けて、さらに7mmのエリクセン加工をした。その加工部に粘着テープ(セロハンテープ(登録商標)、ニチバン(株)製)を貼り付け、速やかに斜め45°の方向に引っ張って剥離させて、100個の碁盤目の内で剥離した碁盤目の数を数えた。剥離の程度により5段階で評価した。樹脂層との密着性の評点は下記の通りである。ここでは、評点3以上を良好とする。
5 : 剥離無し
4 : 剥離面積率25%未満
3 : 剥離面積率25%以上50%未満
2 : 剥離面積率50%以上75%未満
1 : 剥離面積率75%以上
【0066】
【表10】

【0067】
【表11】

【0068】
表1〜11に得られた結果を示す。いずれの場合でも、本発明の実施例に係る金属板は、比較例に係る無処理に比して樹脂層との優れた密着性を示し、クロメート処理並みの密着性と耐食性が確認された。また、本発明の金属板には6価クロムを含有していないので、クロメート処理に比べて環境負荷が小さいことは明らかである。
【0069】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、上層に形成する樹脂層との密着性と耐食性を共に満足するクロメートフリー処理が施された複合被覆金属板、複合被覆処理剤、及び複合被覆金属板の製造方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】塗布後に乾燥、焼付けをした被膜の断面構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る複合被覆金属板の表面と有機樹脂との界面結合状態の模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る膜に樹脂層を形成した場合の断面構造模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の表面に形成され、クロムを除く金属の酸化物又は水酸化物の一方又は双方を含む被膜層を有し、
前記被膜層は、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分を1種以上含有することを特徴とする、複合被覆金属板。
【請求項2】
前記被膜層上に、単層又は複数層の有機樹脂層をさらに有し、
前記有機樹脂層のうち、前記被膜層に直接接する層が、前記被膜層に含まれる官能基又は該官能基が変性したものの少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の複合被覆金属板。
【請求項3】
前記被膜層の平均厚さが、5μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合被覆金属板。
【請求項4】
前記被膜層中の前記有機成分の含有率が、質量比で20%未満であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の複合被覆金属板。
【請求項5】
前記被膜層中の前記有機成分の含有率が、質量比で5%未満であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の複合被覆金属板。
【請求項6】
前記被膜層に含まれる官能基の少なくとも1種が、極性を有する基及び炭素−炭素結合として二重結合又は三重結合を含有する基であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の複合被覆金属板。
【請求項7】
前記被膜層に含まれる官能基の少なくとも1種が、カルボキシル基であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の複合被覆金属板。
【請求項8】
前記クロムを除く金属が、ジルコニウム、チタン、又はケイ素の少なくとも1種以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の複合被覆金属板。
【請求項9】
前記クロムを除く金属が、ジルコニウムであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の複合被覆金属板。
【請求項10】
クロムを除く金属イオンと該イオンに対して6倍以上のモル比のフッ素イオンが共存する水溶液、又は、クロムを除く金属イオンと該イオンに対して6倍以上のモル比のフッ素を含む錯イオンを含む水溶液の一方又は双方からなる水溶液中に、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分を1種以上含むことを特徴とする、複合被覆処理剤。
【請求項11】
前記有機成分の含有率が、質量比で20%未満であることを特徴とする、請求項10に記載の複合被覆処理剤。
【請求項12】
前記有機成分の含有率が、質量比で5%未満であることを特徴とする、請求項10に記載の複合被覆処理剤。
【請求項13】
前記有機成分を含む水溶液のpHが2〜7であることを特徴とする、請求項11又は12に記載の複合被覆処理剤。
【請求項14】
前記官能基が、極性を有する基及び炭素−炭素結合として二重結合又は三重結合を含有する基であることを特徴とする、請求項10〜13のいずれかに記載の複合被覆処理剤。
【請求項15】
前記官能基が、カルボキシル基であることを特徴とする、請求項10〜14のいずれかに記載の複合被覆処理剤。
【請求項16】
前記クロムを除く金属イオンが、ジルコニウム、チタン、又はケイ素の少なくとも1種以上のイオンであることを特徴とする、請求項10〜15のいずれかに記載の複合被覆処理剤。
【請求項17】
前記クロムを除く金属イオンが、ジルコニウムであることを特徴とする、請求項10〜15のいずれかに記載の複合被覆処理剤。
【請求項18】
請求項10〜17のいずれかに記載の複合被覆処理剤に、金属板又はめっき金属板を接触させることにより、前記金属板又は前記金属板の表面に、クロムを除く金属の金属の酸化物又は水酸化物の一方又は双方と、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分と、を含有する被膜層を形成することを特徴とする、複合被覆金属板の製造方法。
【請求項19】
請求項10〜17のいずれかに記載の複合被覆処理剤に、金属板又はめっき金属板を浸漬させ電解することにより、前記金属板又は前記金属板の表面に、クロムを除く金属の金属の酸化物又は水酸化物の一方又は双方と、少なくとも1種の官能基又は該官能基が変性したものの一方又は双方を有する有機成分と、を含有する被膜層を形成することを特徴とする、複合被覆金属板の製造方法。
【請求項20】
前記金属板又は前記めっき金属板の表面に形成された前記被膜層上に、有機樹脂層をさらに形成することを特徴とする、請求項18又は19に記載の複合被覆金属板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−182626(P2007−182626A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326088(P2006−326088)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】