説明

複合金属酸化物の製造方法

【課題】本発明は、酸性金属酸化物と塩基性金属酸化物との複合金属酸化物を容易に且つ低コストで得ることができる複合金属酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)酸性金属酸化物のコロイド粒子と塩基性金属の塩とを含有する水溶液を提供すること、(b)この水溶液のpHを、塩基性金属の一部が水溶液に溶解し、塩基性金属の残部が水酸化物として析出して正のゼータ電位を有し、且つ酸性金属酸化物のコロイド粒子が溶解せずに負の表面電位を有するpHにし、このpHを所定時間にわたって維持して、複合金属酸化物の前駆体を得ること、そして(c)得られた複合金属酸化物の前駆体を乾燥及び焼成することを含む、酸性金属酸化物と塩基性金属酸化物との複合金属酸化物の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属酸化物、特に複合金属酸化物触媒担体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複合金属酸化物は、その特異な性質のため、触媒、触媒担体、吸着材、電極、磁性材料、電子部品等の多くの用途で開発及び使用が進められている。
【0003】
特に排ガス浄化触媒の用途では、複合金属酸化物を触媒担体として用いることが注目されている。
【0004】
従来、排ガス浄化触媒の用途では、高触媒表面積を得るために、触媒担体としてアルミナ(Al)を使用することが一般的であった。しかしながら近年では、担体の化学的性質を利用して排ガスの浄化を促進するために、アルミナ(Al)、セリア(CeO)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)、シリカ(SiO)などの様々な金属酸化物を含有している複合金属酸化物を、多孔質金属酸化物担体として使用することも提案されている。
【0005】
これらの複合金属酸化物担体としては、セリアとジルコニアとの複合金属酸化物が一般に知られている。このセリア−ジルコニア複合酸化物は、セリアが有するOSC能(酸素吸蔵能)、すなわち排ガス中の酸素濃度が高いときに酸素を吸蔵し、且つ排ガス中の酸素濃度が低いときに酸素を放出する特性を提供しつつ、単独のセリアよりも有意に改良された耐熱性を有することができる。
【0006】
このようなセリア−ジルコニア複合酸化物の製造のためには一般に、セリウム塩及びジルコニウム塩を含有している塩水溶液を提供し、この塩水溶液を塩基性にすることによって、セリア−ジルコニア複合酸化物の前駆体、特にセリア−ジルコニア複合水酸化物を沈殿させ、この前駆体を乾燥及び焼成する共沈法が行われている。
【0007】
また、特許文献1では、貴金属担持アルミナ以外の排ガス浄化触媒として、メタロシリケートからなる触媒を用いることを提案している。ここでは、このメタロシリケートは、ゼオライト中のアルミニウムの少なくとも一部が他の元素によって置換された構造を有する化合物であるとしている。ゼオライト中においてアルミニウムを置換する元素としては、アルミニウムとイオン半径や化学的性質が似ている元素が好ましいとされており、具体的には鉄、ガリウム、亜鉛、ランタン等が挙げられている。
【0008】
この特許文献1では、シリカ源とアルカリ金属源との水熱処理によってアルカリ金属型メタロシリケートを製造し、そしてこのアルカリ金属型メタロシリケートのアルカリ金属を、所望の金属によってイオン交換することによって、このメタロシリケートを製造している。
【0009】
特許文献2では、チタニア−ジルコニア複合酸化物と、ランタン、ネオジム及びプラセオジムからなる群より選択される元素とを含むNO吸蔵還元型触媒用担体を開示している。
【0010】
この特許文献2では、四塩化チタン塩酸に塩化ジルコニウムを混合し、ここにアンモニアを滴下させて共沈を行わせる一般的な共沈法によって、チタニア−ジルコニア複合酸化物を製造している。また、このチタニア−ジルコニア複合酸化物を、硝酸ランタン溶液等の塩溶液に浸漬し、そして乾燥及び焼成することによって、NO吸蔵還元型触媒用担体を得ている。
【0011】
特許文献3では、シリカ、ゼオライト、シリカ−アルミナ及びチタニア−アルミナ等の触媒担持層に、白金族元素が担持されてなる排ガス浄化触媒において、この触媒担持層に更に、バナジウムとランタン等との複合酸化物が担持されている排ガス浄化触媒を開示している。
【0012】
尚、特許文献4では、ジルコニア中に存在するランタノイド元素が、アンカー効果、すなわちジルコニア表面でのロジウムの移動を抑制する効果によって、ロジウムのシンタリングを抑制することを開示している。
【0013】
【特許文献1】特開平5−49864号公報
【特許文献2】特開2001−314763号公報
【特許文献3】特開平8−266865号公報
【特許文献4】特開2002−282692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
複合金属酸化物の製造方法としては、粉末状の複数種の金属酸化物を混合し、これを非常に高い温度で焼成する方法、金属酸化物の粒子を金属塩の溶液に浸漬し、乾燥し、そして高温で焼成する方法、及びいわゆる共沈法が一般に知られている。
【0015】
これらの製造方法のうちで共沈法は、均一な組成を有する複合金属酸化物を得ることが可能である点、比較的低温の焼成で複合金属酸化物を得ることができる点等で好ましい。
【0016】
しかしながら共沈法では、アルカリ土類金属及び希土類の酸化物のような塩基性金属酸化物と、シリカ及びチタンのような酸性金属酸化物との均一な複合金属酸化物を得ることが難しい。これは、塩基性金属のイオン、例えばランタンイオンは、比較的大きい塩基性のpHにおいてのみ沈殿物を形成するのに対して、酸性金属のイオン、例えばケイ素イオンは、強酸性及び強アルカリ性を除く広いpH範囲において沈殿物を形成することによる。
【0017】
すなわち、硝酸ランタンのような塩基性金属の塩と、ケイ酸ナトリウムのような酸性金属の塩とを用いて共沈法を行う場合、これらの塩が沈殿物を形成するpHが有意に互いに異なるので、異なるタイミングで沈殿が形成される。この場合、それぞれの金属を含有している沈殿が別個の凝集体を形成するので、これらの金属を含有している均一な沈殿物を得ることが困難である。
【0018】
尚、複合金属酸化物の製造に関し、マイクロエマルション法を用いることも考慮される。マイクロエマルション法では、疎水性溶媒中に水を適当な界面活性剤とともに分散させて、疎水性溶媒中に微小な水滴が分散している分散液を得る。その後、この分散液に対して、水溶性の金属塩を加え、疎水性溶媒中に分散している微小な水滴内で金属水酸化物を析出させる。
【0019】
このマイクロエマルション法によれば、微小な水滴内に含まれる金属元素の量に対応する微小な二次粒子径を有する複合金属酸化物を得ることができる。
【0020】
しかしながらこのマイクロエマルション法では、微細な水滴を形成するために多量の有機溶媒を使用しなければならず、この有機溶媒の回収及び処理のためにコストに関して不利である。
【0021】
従って本発明では、異なる性質の複数種の金属を含有している複合金属酸化物を容易に且つ低コストで得ることができる複合金属酸化物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
複合金属酸化物を製造する本発明の方法は、金属酸化物としての電気陰性度が2.80超である酸性金属酸化物と、希土類及びアルカリ土類金属からなる群より選択される塩基性金属の酸化物である塩基性金属酸化物との複合金属酸化物を製造する方法である。この本発明の方法は、下記の工程(a)〜(c)を含む:
(a)酸性金属酸化物のコロイド粒子と塩基性金属の塩とを含有している水溶液を提供すること、
(b)水溶液のpHを、塩基性金属の一部、例えば塩基性金属の0.1〜5mol%、特に0.1〜1.5mol%、より特に0.1〜1mol%が水溶液に溶解し、塩基性金属の残部が水酸化物として析出して正のゼータ電位を有し、且つ酸性金属酸化物のコロイド粒子が溶解せずに負の表面電位を有するpHにし、このpHを所定時間にわたって維持して、複合金属酸化物の前駆体を得ること、そして
(c)複合金属酸化物の前駆体を乾燥及び焼成すること。
【0023】
本発明の方法によれば、工程(b)において、塩基性金属の水酸化物とこの金属のイオンとの間の平衡による塩基性金属の水酸化物の溶解及び再析出によって、この水酸化物を、酸性金属酸化物のコロイド粒子の表面上に優先的に再析出させること又は再配置することができる。従ってこの本発明の方法によれば、酸性金属酸化物のコロイド粒子に基づく一次粒子を有する複合金属酸化物前駆体を得ること、またこのような複合金属酸化物前駆体を乾燥及び焼成して、酸性金属酸化物のコロイド粒子に基づく一次粒子を有する複合金属酸化物を得ることができる。
【0024】
本発明の方法の1つの態様は、工程(a)の後であって工程(b)の前に、水溶液のpHを、工程(b)で維持するpHよりも大きくすることを更に含む。
【0025】
本発明の方法のこの態様によれば、工程(b)の前に塩基性金属の大部分を水酸化物として析出させ、それによって工程(b)において、酸性金属酸化物のコロイド粒子と塩基性金属の水酸化物とが共に沈殿物を形成しているようにして、これらの成分の距離を近づけることができる。これによれば、酸性金属酸化物のコロイド粒子の表面上への塩基性金属の水酸化物の再配置を促進することができる。
【0026】
また、本発明の方法の1つの態様では、工程(b)の所定時間が、1時間〜5日間、例えば10時間〜3日間である。
【0027】
また、本発明の1つの態様では、工程(b)の後であって工程(c)の前に、水溶液のpHを、工程(b)で維持するpHよりも大きくすることを更に含む。
【0028】
本発明のこの態様によれば、塩基性金属の水酸化物を確実に析出させること、及び得られる前駆体の構造を強固にして、乾燥及び焼成等の間にもこの構造が保持されるようにすることができる。
【0029】
本発明の方法の1つの態様では、酸性金属が、シリカ、チタニア、酸化タングステン、酸化モリブデン及び酸化ニオブ、特にシリカ及びチタニアからなる群より選択される。
【0030】
本発明の方法の1つの態様では、塩基性金属が、希土類、特にイットリウム、ランタン、プラセオジム及びネオジムからなる群より選択される。
【0031】
本発明の方法の1つの態様では、工程(a)で提供される水溶液において、酸性金属:塩基性金属(モル比)=1:9〜9:1、例えば2:8〜8:2である。
【0032】
本発明の方法の1つの態様では、製造される複合金属酸化物が、複合金属酸化物触媒担体、特に複合金属酸化物触媒担体粒子である。
【0033】
本発明の方法によって複合金属酸化物触媒担体を製造する場合、得られる複合金属酸化物触媒担体は、触媒担体全体として比較的中性の性質を有することができる。また、随意にこれに加えて、本発明の方法によって得られる複合金属酸化物触媒担体では、複合酸化物化による高い耐熱性を提供すること、塩基性金属酸化物部分において局所的に強い塩基性を提供すること、及び/又は酸性金属酸化物部分において局所的に強い酸性を提供することができる。
【0034】
本発明の複合金属酸化物は、複合金属酸化物を製造する本発明の方法によって製造される。
【0035】
本発明の排ガス浄化触媒は、複合金属酸化物触媒担体を製造する本発明の方法によって製造される複合金属酸化物触媒担体に、貴金属が担持されてなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
酸性金属酸化物と塩基性金属酸化物との複合金属酸化物を製造する本発明の方法は、下記の工程(a)〜(c)を含む:
(a)酸性金属酸化物のコロイド粒子と塩基性金属の塩とを含有している水溶液を提供すること、
(b)水溶液のpHを、塩基性金属の一部が水溶液に溶解し、塩基性金属の残部が水酸化物として析出して正のゼータ電位を有し、且つ酸性金属酸化物のコロイド粒子が溶解せずに負の表面電位を有するpHにし、このpHを所定時間にわたって維持して、複合金属酸化物の前駆体を得ること、そして
(c)複合金属酸化物の前駆体を乾燥及び焼成すること。
【0037】
この本発明の方法の工程(b)では、塩基性金属(A)について下記の式(I)で示すような平衡、すなわち塩基性金属のイオン(Aa+)と、この金属の水酸化物(A(OH))である沈殿物との間の平衡が存在している:
a+ + aOH ←→ A(OH)↓ 式(I)
(Aは塩基性金属であり、且つaは塩基性金属Aの価数)。
【0038】
この系が平衡状態にある場合、見かけ上は、塩基性金属(A)の移動はない。しかしながら、実際には、塩基性金属(A)は、金属イオン(Aa+)としての溶解と、水酸化物(A(OH))としての析出とを繰り返しながら、この平衡状態を保っている。ここでは、この式(I)の平衡が、塩基性金属がイオンとして溶解する側(式(I)の左側)又は塩基性金属が水酸化物として析出する側(式(I)の右側)のいずれか一方に極端に偏っていない場合に、この塩基性金属の溶解及び析出の頻度が比較的大きくなる。
【0039】
ここで得られる塩基性金属の水酸化物、特に希土類の水酸化物は一般に、正のゼータ電位を有することができる。すなわち、塩基性金属の水酸化物は一般に、水酸化イットリウムに関して図2で示すようなゼータ電位曲線を有する。また、一般に金属酸化物のコロイド粒子は、比較的酸性の溶液中において正のゼータ電位を有し、pHが大きくなるにつれてこのゼータ電位が低下して、比較的塩基性の溶液中においては負のゼータ電位を有する。すなわち、金属酸化物のコロイド粒子は一般に、チタニアのコロイド粒子に関して図3で示すようなゼータ電位曲線を有する。
【0040】
従って、この工程(b)では、正のゼータ電位を有する塩基性金属の水酸化物が、負のゼータ電位を有する酸性金属酸化物のコロイド粒子の表面に優先的に再析出する。すなわち例えば、塩基性金属としてランタン(La)を用い且つ酸性金属としてケイ素(Si)を用いる態様に関して図1に示されているように、正のゼータ電位を有する塩基性金属の水酸化物2(La(OH))の一部が水溶液に溶解してイオン2’(La3+)となり、負のゼータ電位を有する酸性金属酸化物のコロイド粒子1(SiO)の表面において優先的に、水酸化物2”(La(OH))として再析出する。
【0041】
本発明の方法では、このような機構によって、酸性金属酸化物のコロイド粒子に基づく一次粒子を有する複合金属酸化物前駆体が得られると考えられる。
【0042】
(酸性金属酸化物)
本発明に関して、「酸性金属酸化物」は、金属酸化物としての電気陰性度が2.80超である金属酸化物を意味している。ここで、この「金属酸化物としての電気陰性度」は、金属酸化物を構成する金属元素及び酸素のポーリングによる電気陰性度を、金属酸化物に含有されるこれらの元素の比に応じて加重平均した値である。尚、本発明に関して、「酸性金属」は、酸性金属酸化物を構成している金属を意味している。
【0043】
すなわち例えば、シリカ(SiO)の金属酸化物としての電気陰性度は、下記のようにして計算される:
{1.90(シリカの電気陰性度)×1+3.44(酸素の電気陰性度)×2}/3
≒2.93
【0044】
上記のようにして計算される金属酸化物としての電気陰性度の例を、下記の表1に挙げる。
【0045】
【表1】

【0046】
この金属酸化物としての電気陰性度が大きいことは、その金属酸化物が比較的酸性の性質を有することを意味し、またこの金属酸化物としての電気陰性度が小さいことは、その金属酸化物が比較的塩基性の性質を有することを意味する。
【0047】
尚、本発明に関して、金属酸化物の電気陰性度の計算のために使用される酸素の電気陰性度は3.44であり、また金属の電気陰性度は下記のようなものである。
【0048】
典型金属元素
(第1〜第3周期)Li(0.98)、Be(1.57)、Na(0.93)、Mg(1.31)、Al(1.61)、Si(1.90)。
【0049】
(第4周期)K(0.82)、Ca(1.00)、Zn(1.65)、Ga(1.81)、Ge(2.01)。
【0050】
(第5周期)Rb(0.82)、Sr(0.95)、Cd(1.69)、In(1.78)、Sn(1.96)、Sb(2.05)。
【0051】
(第6周期)Cs(0.79)、Ba(0.89)、Hg(2.00)、Tl(1.62)、Pb(2.33)、Bi(2.02)、Po(2.0)。
【0052】
(第7周期)Fr(0.7)、Ra(0.9)。
【0053】
遷移金属元素
(第4周期)Sc(1.36)、Ti(1.54)、V(1.63)、Cr(1.66)、Mn(1.55)、Fe(1.83)、Co(1.88)、Ni(1.91)、Cu(1.90)。
【0054】
(第5周期)Y(1.22)、Zr(1.33)、Nb(1.6)、Mo(2.16)、Tc(1.9)、Ru(2.2)、Rh(2.28)、Pd(2.20)、Ag(1.93)。
【0055】
(第6周期)Hf(1.3)、Ta(1.5)、W(2.36)、Re(1.9)、Os(2.2)、Ir(2.20)、Pt(2.28)、Au(2.54)。
【0056】
(ランタノイド元素)La(1.1)、Ce(1.12)、Pr(1.13)、Nd(1.14)、Pm(1.13)、Sm(1.17)、Eu(1.2)、Gd(1.2)、Tb(1.1)、Dy(1.22)、Ho(1.23)、Er(1.24)、Tm(1.25)、Yb(1.1)、Lu(1.27)。
【0057】
(アクチノイド元素)Ac(1.1)、Th(1.3)、Pa(1.5)、U(1.38)、Np(1.36)、Pu(1.28)、Am(1.13)、Cm(1.28)、Bk(1.3)、Cf(1.3)、Es(1.3)、Fm(1.3)、Md(1.3)、No(1.3)、Lr(−)。
【0058】
本発明の方法で使用する酸性金属酸化物のコロイド粒子は一般に、比較的酸性のpHにおいて正のゼータ電位を有し、比較的塩基性のpHにおいて負のゼータ電位を有する。但し、コロイド粒子の等電点は、コロイド粒子の表面改質、特に有機化合物によるコロイド粒子の表面改質によって、調節することができる。
【0059】
具体的なコロイド粒子としては、金属のアルコキシド、アセチルアセトナート、酢酸塩、及び硝酸塩などを加水分解及び縮合して得られた物質を挙げることができる。また、シリカコロイド溶液、チタニアコロイド溶液のようなコロイド溶液(ゾル)は、公知の材料であり、市販されているものを入手することもできる。
【0060】
本発明の方法によって複合金属酸化物触媒担体を得る場合、触媒担体において使用されている酸性金属酸化物、例えばシリカ、チタニア、酸化タングステン、酸化モリブデン及び酸化ニオブからなる群より選択される金属酸化物、特にシリカ及び/又はチタニアを用いることができる。
【0061】
(塩基性金属酸化物)
本発明に関して、「塩基性金属」は、希土類及びアルカリ土類金属からなる群より選択される金属を意味している。また、本発明に関して、「塩基性金属酸化物」は、塩基性金属の酸化物を意味している。
【0062】
塩基性金属の塩としては、本発明で使用する水溶液に溶解させることができる任意の塩を挙げることができる。従って本発明において使用する塩基性金属の塩としては、硝酸塩のような無機酸塩、酢酸塩のような有機酸塩を挙げることができる。
【0063】
本発明の方法によって複合金属酸化物触媒担体を得る場合、好ましくは塩基性金属は、貴金属元素から電子を受容する電子受容性である金属元素、例えば希土類元素である。このような電子受容性である金属元素としては、希土類元素のうちの原子番号が若く、且つ4f、4d又は5d軌道に、空きがある又は空きが多いイオンを形成する元素、例えばイットリウム、ランタン、プラセオジム及びネオジムが特に好ましい。このような金属元素の酸化物を有する複合金属酸化物の触媒担体に、触媒金属としての貴金属を担持する場合、貴金属元素、特に白金の有する電子が、複合金属酸化物担体に配位することによって、触媒の使用の間の貴金属のシンタリングを抑制することができる。
【0064】
本発明の方法によって複合金属酸化物触媒担体を得る場合、最も好ましくは、塩基性金属は、貴金属元素から電子を受容する電子受容性であり且つ触媒の使用の間における酸化還元反応によって原子価の変化がない金属元素、例えばランタン又はネオジムである。このような金属元素の酸化物を有する複合金属酸化物触媒担体に、触媒金属としての貴金属を担持する場合、触媒の使用の間の貴金属のシンタリングをより良好に抑制することができる。これは、触媒の使用の間における酸化還元反応によって原子価が変化する元素の酸化物、例えばOSC能に関して好ましく使用されているセリアでは、還元雰囲気において原子価が変化し、それによって貴金属との相互作用が低下することによる。
【0065】
(酸性金属酸化物と塩基性金属酸化物との組み合わせ)
本発明の方法によれば、酸性金属と塩基性金属との性質の相違にも関わらず、任意の組合せ及び任意の割合で、酸性金属酸化物と塩基性金属酸化物との複合酸化物を得ることができる。従ってこれらの比としては、例えば酸性金属:塩基性金属(モル比)=1:9〜9:1とすることができる。
【0066】
本発明の方法によって複合金属酸化物触媒担体を得る場合、好ましくは酸性金属が、シリカ、チタニア、酸化タングステン、酸化モリブデン及び酸化ニオブ、特にシリカ及びチタニアからなる群より選択され、且つ塩基性金属が、希土類、特にイットリウム、ランタン、プラセオジム及びネオジム、より特にランタン及びネオジムからなる群より選択される。
【0067】
本発明の複合金属酸化物触媒担体では、塩基性金属酸化物と酸性金属酸化物とを組み合わせて使用することによって、触媒担体全体としては比較的中性の性質を有することができる。
【0068】
これに関し、排ガス浄化触媒のための触媒担体では、アルミナ(Al)を基準として、アルミナよりも電気陰性度が大きい金属酸化物は酸性であり、またアルミナよりも電気陰性度が小さい金属酸化物は塩基性であると考えることができる。
【0069】
一般に、排ガス浄化触媒のための触媒担体の塩基性が強い場合、炭化水素(HC)が担体に吸着しにくく、従ってHCの酸化性能が低くなる傾向がある。またこの場合、酸素が過剰であるリーン雰囲気においては酸素が触媒担体に吸着し、それによってこの触媒担体に担持されている白金等の貴金属も酸素被毒し、結果として触媒活性が低下することがある。一方で、排ガス浄化触媒のための触媒担体の酸性が強い場合、その上に担持されている貴金属から電子を引きつけ、それによって貴金属上でのNOの還元反応を妨げることがある。
【0070】
従って排ガス浄化触媒のための触媒担体としては、アルミナと同様な比較的中性の電気陰性度を有することが好ましいことがある。これに関し、複合金属酸化物の電気陰性度を、酸性金属酸化物としてのシリカ(SiO)と塩基性金属酸化物としての酸化ランタン(La)との比率に対して、下記の表2に示す。尚、アルミナ(Al)の電気陰性度は2.71である。
【0071】
【表2】

【0072】
(pHの調整)
工程(b)におけるpH、すなわち塩基性金属の一部が水溶液に溶解し、塩基性金属の残部が水酸化物として析出して正のゼータ電位を有し、且つ酸性金属酸化物のコロイド粒子が溶解せずに負の表面電位を有するpHは、使用する水溶液の組成、温度、濃度等に依存し、実験に基づいて決定することができる。塩基性金属が希土類である場合、塩基性金属の一部が水溶液に溶解し、且つ塩基性金属の残部が水酸化物として析出して正のゼータ電位を有するpHとしては、例えば7〜9のpHを挙げることができる。
【0073】
ここで、この工程(b)におけるpHに関し、図4は、塩基性金属であるランタンの一部が水酸化物として析出して正のゼータ電位を有するpH範囲(La)、及び酸性金属酸化物であるシリカのコロイド粒子が溶解しないpH範囲(Si)を概念的に示している。
【0074】
ここでは、工程(b)におけるpHは例えば、図4においてpH範囲xとして表わすことができる。例えばこのpHでは、塩基性金属のうちの0.1〜5mol%が、イオンとして水溶液に溶解している。この割合は、平衡状態において沈殿物をろ過し、この沈殿物に含有される塩基性金属の量又はろ液に含有されている塩基性金属の量を測定することによって知ることができる。
【0075】
この工程(b)におけるpHが過度に大きく、それによって塩基性金属が実質的に全て水酸化物として析出している場合、塩基性金属の水酸化物を酸性金属酸化物のコロイド粒子の表面に再配置するのに極めて長時間を要し、再配置を達成することが困難である。また工程(b)におけるpHが過度に大きい場合、酸性金属酸化物のコロイド粒子が溶解して、負のゼータ電位を有さないことがある。
【0076】
工程(b)におけるpHが過度に小さく、それによって塩基性金属が水酸化物として析出しない場合、塩基性金属の水酸化物が酸性金属酸化物のコロイド粒子の表面に十分に再配置されない。
【0077】
工程(b)において溶液を所定のpHに維持する時間は、水溶液の温度、濃度及び性質、特に水溶液のpH、並びに再配置させることを意図する塩基性金属の濃度、溶解度等に依存する。工程(b)において溶液を所定のpHに維持する時間は例えば、1時間〜5日間とすることができる。
【0078】
工程(a)の後であって工程(b)の前に、水溶液のpHを、工程(b)で維持するpHよりも大きくすることによって、工程(b)の前に塩基性金属の大部分を水酸化物として析出させる場合、このpHは、塩基性金属の性質、水溶液の温度等に応じて任意に決定できる。例えばこのpHとしては、工程(b)において維持するpHをよりも、1以上又は2以上大きいpHを選択することができる。
【0079】
また、工程(b)の後であって工程(c)の前に、水溶液のpHを、工程(b)で維持するpHよりも大きくすることによって、工程(b)の水溶液から塩基性金属の水酸化物を確実に析出させる場合、このpHは、塩基性金属の性質、水溶液の温度等に応じて任意に決定できる。例えばこのpHとしては、工程(b)において維持するpHをよりも、1以上又は2以上大きいpHを選択することができる。
【0080】
(複合金属酸化物前駆体の乾燥及び焼成)
本発明の方法では、得られる複合金属酸化物前駆体を乾燥及び焼成することによって、酸性金属酸化物のコロイド粒子に基づく一次粒子を有する複合金属酸化物を得ることができる。
【0081】
複合金属酸化物前駆体からの分散媒の除去及び乾燥は、任意の方法及び任意の温度で行うことができる。これは例えば、複合金属酸化物前駆体を120℃のオーブンに入れて達成できる。このようにして複合金属酸化物前駆体から分散媒を除去及び乾燥して得られた原料を焼成して、複合金属酸化物を得ることができる。この焼成は、金属酸化物合成において一般的に用いられる温度、例えば500〜800℃の温度で行うことができる。
【0082】
(排ガス浄化触媒の製造)
本発明の排ガス浄化触媒は、複合金属酸化物触媒担体を製造する本発明の方法によって製造される複合金属酸化物触媒担体に、白金等の貴金属を担持させることによって得ることができる。貴金属の担持は任意の方法によって達成でき、例えば白金を担持する場合、ジニトロジアンミン白金硝酸水溶液を複合金属酸化物に含浸させ、これを乾燥及び焼成して、0.5〜2重量%の白金を担持した本発明の排ガス浄化触媒を製造することができる。
【0083】
またバリウム等のNO吸蔵材を更に担持してNO吸蔵還元触媒を得る場合、バリウム等のNO吸蔵材の担持は、これらの金属の塩を含有している溶液、例えば酢酸バリウム溶液を触媒担体に含浸させ、これを乾燥及び焼成して達成できる。
【実施例】
【0084】
実施例1
本発明の方法に従って、下記のようにして酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物触媒担体を製造した。
【0085】
シリカゾル(日産化学製、スノーテックスNXS、平均粒子径約5nm)を蒸留水で希釈して、希釈コロイダルシリカゾルを得た。また、市販の硝酸ランタン水溶液を蒸留水で希釈して、希釈硝酸ランタン水溶液を得た。希釈コロイダルシリカゾルと希釈硝酸ランタン水溶液とを混合して、コロイダルシリカ及び硝酸ランタンを含有している酸性の混合溶液10Lを得た。この混合溶液では、ランタン(La):ケイ素(Si)(モル比)=62.5:37.5であった。また、狙い収量は350gであった。
【0086】
この混合溶液に対して、アンモニア水を加えてpHを8.5にし、2日間にわたって保持した(このpHでは、平衡においてランタンの約1%が溶液中に溶解している)。その後、アンモニア水を更に加えてpHを10にして、沈殿物を得た。このようにして得られた沈殿物をろ過し、pH10の小量の希釈アンモニア水で洗浄し、再びろ過し、一昼夜にわたって乾燥させ、800℃で5時間にわたって焼成して、酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物触媒担体を得た。
【0087】
実施例2
本発明の方法に従って、下記のようにして酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物触媒担体を製造した。
【0088】
実施例1と同様にして、コロイダルシリカ及び硝酸ランタンを含有している混合溶液10Lを得た。
【0089】
この混合溶液に対して、アンモニア水を加えてpHを10にして、沈殿物を発生させた。沈殿物を有するこの混合溶液に対して、硝酸を加えてpHを8.5にし、2日間にわたって保持した。その後、アンモニア水を再び加えてpHを10にした。このようにして得られた沈殿物を、実施例1と同様にして、ろ過し、pH10の希釈アンモニア水で洗浄し、再びろ過し、一昼夜にわたって乾燥させ、800℃で5時間にわたって焼成して、酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物触媒担体を得た。
【0090】
実施例3
本発明の方法に従って、下記のようにして酸化ランタン−チタニア複合金属酸化物触媒担体を製造した。
【0091】
チタニアゾル(石原産業製、STS−100)を蒸留水で希釈して、希釈チタニアゾルを得た。また、市販の硝酸ランタン水溶液を蒸留水で希釈して、希釈硝酸ランタン水溶液を得た。希釈チタニアゾルと希釈硝酸ランタン水溶液とを混合して、コロイダルチタニア及び硝酸ランタンを含有している混合溶液10L(pHは約3)を得た。この混合溶液では、ランタン(La):チタン(Ti)(元素のモル比)=1:1であった。また、狙い収量は40gであった。
【0092】
この混合溶液に対して、アンモニア水を加えてpHを10にして、沈殿物を発生させた。沈殿物を有するこの混合溶液に対して、硝酸を加えてpHを8.5にし、2日間にわたって保持した(このpHでは、平衡においてランタンの約1%が溶液中に溶解している)。その後、アンモニア水を再び加えてpHを10にした。このようにして得られた沈殿物をろ過し、希釈アンモニア水で洗浄し、再びろ過し、一昼夜にわたって乾燥させ、800℃で5時間にわたって焼成して、酸化ランタン−チタニア複合金属酸化物触媒担体を得た。
【0093】
実施例4
本発明の方法に従って、下記のようにして酸化イットリウム−チタニア複合金属酸化物触媒担体を製造した。
【0094】
チタニアゾル(石原産業製、STS−100)を蒸留水で希釈して、希釈チタニアゾルを得た。また、市販の硝酸イットリウム水溶液を蒸留水で希釈して、希釈硝酸イットリウム水溶液を得た。希釈チタニアゾルと希釈硝酸イットリウム水溶液とを混合して、コロイダルチタニア及び硝酸イットリウムを含有している混合溶液10L(pHは約3)を得た。この混合溶液では、イットリウム(Y):チタン(Ti)(モル比)=1:1であった。また、狙い収量は40gであった。
【0095】
この混合溶液に対して、アンモニア水を加えてpHを8.3にして、沈殿物を発生させた。その後、沈殿物を有するこの混合溶液に対して、硝酸を加えてpHを7.1にし、2日間にわたって保持した(このpHでは、平衡においてイットリウムの約1%が溶液中に溶解している)。その後、アンモニア水を再び加えてpHを8.3にした。このようにして得られた沈殿物をろ過し、希釈アンモニア水で洗浄し、再びろ過し、一昼夜にわたって乾燥させ、800℃で5時間にわたって焼成して、組成YTiO3.5のパイロクロア構造酸化イットリウム−チタニア複合金属酸化物触媒担体を得た。
【0096】
比較例1
コロイダルシリカ及び硝酸ランタンを含有している混合溶液を塩基性のpHで保持しなかったことを除いて実施例1と同様にして、すなわち下記のようにして、酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物触媒担体を製造した。
【0097】
実施例1と同様にして、コロイダルシリカ及び硝酸ランタンを含有している混合溶液10Lを得た。
【0098】
この混合溶液を1日間にわたって保持して、均一化させた。その後、アンモニア水を加えてpHを10にして、沈殿物を得た。このようにして得られた沈殿物を、実施例1と同様にして、ろ過し、pH10の希釈アンモニア水で洗浄し、再びろ過し、一昼夜にわたって乾燥させ、800℃で5時間にわたって焼成して、酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物触媒担体を得た。
【0099】
比較例2
コロイダルシリカ及び硝酸ランタンを含有している混合溶液を、ランタンが実質的に全て水酸化物として析出する塩基性のpHで保持したことを除いて、実施例1と同様にして、すなわち下記のようにして、酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物触媒担体を製造した。
【0100】
実施例1と同様にして、コロイダルシリカ及び硝酸ランタンを含有している混合溶液10Lを得た。
【0101】
この混合溶液に対して、アンモニア水を加えてpHを10にして、沈殿物を得、この溶液を2日間にわたって保持した(このpHでは、平衡において実質的に全てのランタンが水酸化物として析出しており、溶液中には実質的にランタンが溶解していない)。その後、このようにして得られた沈殿物を、実施例1と同様にして、ろ過し、pH10の希釈アンモニア水で洗浄し、再びろ過し、一昼夜にわたって乾燥させ、800℃で5時間にわたって焼成して、酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物触媒担体を得た。
【0102】
比較例3
ランタン源としての硝酸ランタン及びシリカ源としてのケイ酸ナトリウム水溶液(水ガラス)を用いて、下記のようにして共沈法によって、酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物触媒担体を製造した。
【0103】
ケイ酸ナトリウム水溶液を蒸留水で希釈して、希釈ケイ酸ナトリウム水溶液を得た。また、市販の硝酸ランタン水溶液を蒸留水で希釈して、希釈硝酸ランタン水溶液を得た。希釈ケイ酸ナトリウム水溶液に希釈硝酸ランタン水溶液を混合すると、直ぐに沈殿が発生した。10分間にわたって撹拌を行った後で、沈殿物をろ過し、pH10の希釈アンモニア水で洗浄してナトリウムイオンをできるだけ除去し、再びろ過し、一昼夜にわたって乾燥させ、800℃で5時間にわたって焼成して、酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物触媒担体を得た。
【0104】
このようにして得られた比較例3の複合金属酸化物は、実施例1及び2並びに比較例1で得られた複合酸化物とは明らかに凝集状態が異なっており、見かけの体積が1/7程度に小さくなっていた。また、比較例3の複合金属酸化物の比表面積は5.7m/gであり、この表面積は、触媒担体用の複合金属酸化物としては不十分であると考えられる。
【0105】
比較例4
マイクロエマルション法を用い、下記のようにして酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物触媒担体を製造した。
【0106】
ランタン源として、硝酸ランタン(0.3016mol、濃度1.675M)とアンモニア水(0.3748mol、濃度2.082M)との水溶液180mlを、2−ブタノール22.6mlと共に、アルキル系界面活性剤BC−5.5(商品名)456.9gをシクロヘキサン6485mlに溶解した溶媒中に混合して、マイクロエマルション液を調製した。
【0107】
ケイ素源としては、テトラエトキシシラン(TEOS)0.1809molをシクロヘキサン1000mlに溶解したアルコキシド溶液を調製した。
【0108】
上記のマイクロエマルション液にアルコキシド溶液を混合し、濃度14.8Mのアンモニア水79.85mlと蒸留水7.69mlとを加えた。この状態での有機溶媒と界面活性剤との比率(O/S比)は63.6であり、油相と水相との比率(O/W)は6であり、ミセルの予想直径(dw)は40nmであり、pHは8.1であった。また、混合時間は5分間であった。その結果、加水分解が生じ、酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物の前駆体の一次粒子が生じ、またこの一次粒子が凝集して二次粒子が生じた。
【0109】
その後、エタノール300mlと濃度14.8Mのアンモニア水192.82ml及び蒸留水18.57mlを加えて、マイクロエマルション液を二相領域に持って行き、撹拌しつつ、二次粒子同士を更に凝集させる熟成を行った。このときのpHは10.0であり、水相と界面活性剤との比率(W/S比)は34.2であり、継続時間は60分であった。
【0110】
このようにして得られた凝集物を取り出し、付着している界面活性剤をアルコールで洗浄し、乾燥し、焼成を行って、酸化ランタン−シリカ複合金属酸化物触媒担体を得た。
【0111】
評価
実施例及び比較例の複合金属酸化物触媒担体をそれぞれ、スラリーを用いて120g/基材−Lの量でモノリスハニカム基材にコートし、乾燥及び焼成した。その後、実施例及び比較例の複合金属酸化物触媒担体を有するモノリスハニカム基材に、白金1.2g/基材−Lを担持して、実施例及び比較例の排ガス浄化触媒を得た。このようにして得た実施例及び比較例の排ガス浄化触媒を、空気中において800℃で2時間にわたって加熱して、耐久を行った。
【0112】
耐久を行った実施例及び比較例の排ガス浄化触媒について、担体の比表面積及び担持されている白金の粒子径を評価した。また、これらの排ガス浄化触媒に下記の表3に示す組成の評価ガスを供給し、この評価ガスの温度を徐々に上げていき、NOの浄化率が50%に達する温度(NO50%浄化温度)を調べた。このNO50%浄化温度が比較的低いことは、触媒が比較的優れた低温活性を有することを意味している。
【0113】
【表3】

【0114】
担体の比表面積、担持されている白金の粒子径、及びNO50%浄化温度についての評価結果を下記の表4に示す。
【0115】
【表4】

【0116】
上記の表4から理解されるように、本発明の実施例の触媒担体は、比較的容易な製法で得られたにもかかわらず、マイクロエマルション法(比較例4)で得られた触媒担体に相当する性能を有することが理解される。これに対して、コロイダルシリカ及び硝酸ランタンを含有している混合溶液を塩基性のpHで保持しなかった場合(比較例1)、この混合溶液をランタンが実質的に全て水酸化物として析出する塩基性のpHで保持した場合(比較例2)では、本発明の実施例でのような効果が得られなかった。
【0117】
また、同じ組成を有する実施例1及び2の触媒担体を比較すると、塩基性のpHを保持する前に溶液を比較的大きい塩基性にした実施例2において、より良好な結果が得られていることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の方法の機構を表す概念図である。
【図2】水酸化ランタンのゼータ電位曲線を表す図である。
【図3】チタニア粒子のゼータ電位曲線を表す図である。
【図4】本発明の方法の工程(b)において維持されるpH範囲を説明するための図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物としての電気陰性度が2.80超である酸性金属酸化物と、希土類及びアルカリ土類金属からなる群より選択される塩基性金属の酸化物である塩基性金属酸化物との複合金属酸化物の製造方法であって、
(a)前記酸性金属酸化物のコロイド粒子と前記塩基性金属の塩とを含有している水溶液を提供すること、
(b)前記水溶液のpHを、前記塩基性金属の一部が前記水溶液に溶解し、前記塩基性金属の残部が水酸化物として析出して正のゼータ電位を有し、且つ前記酸性金属酸化物のコロイド粒子が溶解せずに負の表面電位を有するpHにし、このpHを所定時間にわたって維持して、前記複合金属酸化物の前駆体を得ること、そして
(c)前記複合金属酸化物の前駆体を乾燥及び焼成すること、
を含む、酸性金属酸化物と塩基性金属酸化物との複合金属酸化物の製造方法。
【請求項2】
工程(a)の後であって工程(b)の前に、前記水溶液のpHを、工程(b)で維持するpHよりも大きくすることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)のpHにおいて、前記塩基性金属の0.1〜5mol%が前記水溶液に溶解している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)の前記所定時間が1時間〜5日間である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(b)の後であって工程(c)の前に、前記水溶液のpHを、工程(b)で維持するpHよりも大きくすることを更に含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記酸性金属酸化物が、シリカ、チタニア、酸化タングステン、酸化モリブデン及び酸化ニオブからなる群より選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記塩基性金属が希土類である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程(a)で提供される前記水溶液において、前記酸性金属酸化物を構成している酸性金属:前記塩基性金属(モル比)=1:9〜9:1である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記複合金属酸化物が、複合金属酸化物触媒担体である、請求項1〜8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法によって製造される、複合金属酸化物。
【請求項11】
請求項9に記載の方法によって製造される複合金属酸化物触媒担体に貴金属が担持されてなる、排ガス浄化触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−24529(P2008−24529A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195668(P2006−195668)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】