説明

複合高分子電解質組成物

高いイオン伝導度と向上した力学的性質を有する全固体高分子電解質組成物が提供される。この電解質組成物は重合性官能基を導入した4級アンモニウム塩溶融塩と電荷移動イオン源を含む単量体組成物を高分子補強材料の存在下重合することによって製造される。高分子補強材料は,単量体組成物と補強材料を適当な有機溶媒に溶解し,この溶液を重合することによりポリマーブレンドの形で複合化することができる。代って単量体組成物を補強材料の多孔質シートもしくはフィルムに含浸し,重合することによって複合化することもできる。電荷移動イオン源としてリチウム塩を選ぶことによりリチウムイオン電池用の,プロトン供与体を選ぶことにより燃料電池用の,レドックスイオン対を選ぶことにより色素増感太陽電池用の電解質が得られる。電荷移動イオン源を含まない本発明の高分子電解質組成物は電解キャパシタの電解質としても有用である。

【発明の詳細な説明】
〔本発明の分野〕
本発明は,例えばリチウムイオン電池,燃料電池,色素増感太陽電池,電解キャパシタなどの電気化学的デバイスにおいて電極間に配置される複合高分子電解質組成物に関する。
【背景技術】
リチウム二次電池には,リチウム塩を含んでいる非水電解液が一般に使用されている。この溶液は,エチレンカーボネート,プロピレンカーボネート,ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート,メチルエチルカーボネートなどのカーボネート類,γ−ブチロラクトンなどのラクトン,テトラヒドロフランなどのエーテルのような非プロトン性の極性溶媒にリチウム塩を溶かしたものである。しかしながらこれら有機溶媒は揮発し易く,引火性であり,過充電,過放電,及び短絡などの際に安全性の問題がある。また液体電解液は電池を液密にシールする際の取扱いが困難である。ゲル化した非水電解液を使用しても有機溶媒の揮発および引火危険性の問題は解消せず,ゲルから相分離した電解液が漏れる問題は依然残っている。
最近4級アンモニウムカチオンを含む常温溶融塩にリチウム塩を溶かした非水電解質を使ったリチウム二次電池が提案されている。例えば特開平10−92467,特開平10−265674,特開平11−92467,特開2002−11230参照。常温溶融塩は常温で液状でありながら,不揮発性で且つ不燃性であるため安全であるが,マトリックスポリマーによりゲルとしても液体を含むため力学的性質が不十分であり,かつ液体が相分離することがあるので,取扱上の問題および電池設計上の問題は依然残っている。
イオン伝導性溶融塩を形成するイミダゾリウム塩にビニル基を導入し,この単量体を重合して全固体高分子電解質を製造する提案もなされている。特開平10−83821および特開2000−11753参照。しかしながらこの高分子電解質も充分な力学的強度を持っていない。
従って高いイオン伝導度と満足な力学的性質を持っている安全な高分子電解質に対する要望は依然残っている。
〔本発明の開示〕
本発明は,a)4級アンモニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる4級アンモニウム塩構造と重合性官能基を持っている溶融塩単量体,および電荷移動イオン源を含んでいる単量体組成物を,電気化学的に不活性な高分子補強材料の存在下で重合することにより製造された複合高分子電解質組成物を提供することによって上の要望を満たす。
上記電荷移動イオン源は,本発明の高分子電解質組成物がリチウムイオン電池に使用される場合は,リチウムカチオンとフッ素含有アニオンとの塩であり,燃料電池に使用される場合はプロトン化したフッ素含有アニオンである。色素増感太陽電池に使用される場合はI/Iペアに代表されるレドックスシステムである。
本発明の原理は,電解キャパシタの電解質にも適用することができる。この場合は電荷移動イオン源を含まない前記単量体組成物を,前記高分子補強材料の存在下重合することによって得られる。
ポリフッ化ビニリデンに代表される電気化学的に不活性な高分子補強材料を溶融塩単量体のポリマーと複合化させるにはいくつかの方法がある。第1の方法はイオン源を含んでいる溶融塩単量体と高分子補強材料を適当な溶媒に溶解し,この溶液をフィルム状に流延した後重合する方法である。第2の方法は基本的には第1の方法と同じであるが,あらかじめ炭素−炭素間二重結合のような架橋点となる官能基を導入した高分子補強材料を使用する点で第1の方法と異なっている。第3の方法は高分子補強材料の多孔質シートもしくはフィルムを使用する。このシートを溶融塩単量体溶液で含浸し,シートに含まれる単量体を重合して複合化する。いずれの場合も重合は熱,光(紫外線)または電子線照射によって行うことができる。
重合前の溶融塩単量体を含む溶液をガラス,ポリエステルなどの非接着の基材上にフィルム状に流延し,重合後剥離して独立膜として使用することもできるし,代って電極の活物質面に塗布し,その状態で重合して電極と一体化したフィルムとして形成しても良い。
このようにして形成した本発明の高分子電解質フィルムは,高分子補強材料の存在によってそれを含まないフィルムに比較して引張り強度に代表されるその力学的性質が著しく向上する。もし望むならば溶融塩単量体に少割合の多官能単量体を共重合し,力学的性質をさらに向上させることができる。補強の結果,本発明の複合高分子電解質組成物を使ってコンパクトでエネルギー密度の高い高性能電池等に組立てることが可能になる。
〔好ましい実施態様〕
4級アンモニウムカチオンとフッ素原子含有アニオンとから成る4級アンモニウム塩構造及び重合性官能基を含む単量体の塩構造とは,脂肪族,脂環族,芳香族,あるいは複素環の4級アンモニウムカチオンとフッ素原子含有のアニオンから成る塩構造である。ここでいう「4級アンモニウムカチオン」とは,窒素のオニウムカチオンを意味し,イミダゾリウム,ピリジウムのような複素環オニウムイオンを含む。下記アンモニウムカチオン群から選ばれた少なくとも1つのアンモニウムカチオンと下記アニオン群から選ばれた少なくとも1つのアニオンから成る塩構造を挙げることが出来る。
(アンモニウムカチオン群)ピロリウムカチオン,ピリジニウムカチオン,イミダゾリウムカチオン,ピラゾリウムカチオン,ベンズイミダゾリウムカチオン,インドリウムカチオン,カルバゾリウムカチオン,キノリニウムカチオン,ピロリジニウムカチオン,ピペリジニウムカチオン,ピペラジニウムカチオン,アルキルアンモニウムカチオン(但し,炭素数1〜30の炭化水素基,ヒドロキシアルキル,アルコキシアルキルで置換されているものを含む)
いずれも,Nおよび/又は環に炭素数1〜10の炭化水素基,ヒドロキシアルキル基,アルコキシアルキル基が結合しているものを含む。
(アニオン群)BF,PF,C2n+1CO(但しnは1〜4の整数),C2n+1SO(但しnは1〜4の整数),(FSON,(CFSON,(CSON,(CFSOC,CFSO−N−COCF,R−SO−N−SOCF(Rは脂肪族基),ArSO−N−SOCF(Arは芳香族基)
上記のアンモニウムカチオン及びアニオン種は耐熱性,耐還元性又は耐酸化性に優れ,電気化学窓が広くとれ,電池やキャパシタに用いるために好ましい。
単量体における重合性官能基としては,ビニル基,アクリル基,メタクリル基,アリル基などの炭素−炭素不飽和基,エポキシ基,オキセタン基などの環状アルコキシド基やイソシアネート基,水酸基,カルボキシル基などを例示できる。
特に好ましいアンモニウムカチオン種としては,1−ビニル−3−アルキルイミダゾリウムカチオン,4−ビニル−1−アルキルピリジニウムカチオン,1−アルキル−3−アリルイミダゾリウムカチオン,1−(4−ビニルベンジル)−3−アルキルイミダゾリウムカチオン,1−(ビニルオキシエチル)−3−アルキルイミダゾリウムカチオン,1−ビニルイミダゾリウムカチオン,1−アリルイミダゾリウムカチオン,N−アリルベンズイミダゾリウムカチオン,ジアリル−ジアルキルアンモニウムカチオンなどを挙げることが出来る。但し,アルキルは炭素数1〜10のアルキル基である。
特に好ましいアニオン種としてはビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド アニオン,2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメチルスルフォニル)アセトアミドアニオン,ビス{(ペンタフルオロエチル)スルフォニル}アミドアニオン,ビス{(フルオロ)スルフォニル}アミド アニオン,テトラフルオロボレート アニオン,トリフルオロメタンスルフォネート アニオン,などを挙げることが出来る。
特に好ましい単量体としては,1−ビニル−3−アルキルイミダゾリウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド(但し,アルキルはC1〜C10),1−ビニル−3−アルキルイミダゾリウム テトラフルオロボレート(但し,アルキルはC1〜C10),4−ビニル−1−アルキルピリジニウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド(但し,アルキルはC1〜C10),4−ビニル−1−アルキルピリジニウムテトラフルオロボレート(但し,アルキルはC1〜C10),1−(4−ビニルベンジル)−3−アルキルイミダゾリウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド(但し,アルキルはC1〜C10),1−(4−ビニルベンジル)−3−アルキルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(但し,アルキルはC1〜C10),1−グリシジル−3−アルキル−イミダゾリウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド(但し,アルキルはC1〜C10),1−グリシジル−3−アルキル−イミダゾリウムテトラフルオロボレート(但し,アルキルはC1〜C10),N−ビニルカルバゾリウム テトラフルオロボレートなどを例示出来る。
リチウムイオン電池の電荷移動イオン源はリチウム塩であるが,本発明では,好ましくは下記のリチウムカチオンとフッ素原子含有アニオンとからなるリチウム塩を使用することが出来る。
LiBF,LiPF,C2n+1COLi(但しnは1〜4の整数),
2n+1SOLi(但しnは1〜4の整数),(FSONLi,
(CFSONLi,(CSONLi,
(CFSOCLi,Li(CFSO−N−COCF3)
Li(R−SO−N−SOCF3)(Rは脂肪族基),
Li(ArSO−N−SOCF3)(Arは芳香族基)
又,燃料電池の電荷移動イオン源(プロトン源)は,上の溶融塩単量体の4級アンモニウム塩構造のアニオン種に相当するプロトン供与体である。
色素増感太陽電池の電荷移動イオン源は典型的にはI/Iレドックペアであるが,他にもBr/Brペア,キノン/ハイドロキノンペアなどがある。
高分子補強材料は,耐酸化性,耐還元性,耐溶剤性,低吸水性,難燃性などの電気化学的/化学的安定性や耐熱性,耐寒性などの温度特性,更に力学的特性(強伸度,柔軟性)に優れ,且つ加工性に優れたポリマーである。例えば,ポリテトラフルオロエチレン,ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマー,ポリエチレン,ポリプロピレンなどのポリオレフィン,ポリアクリロニトリル,ポリスチレンなどのビニル系ポリマー,ポリスルフォン,ポリエーテルスルフォンなどのポリスルフォン系ポリマー,ポリエーテルケトン,ポリエーテルエーテルケトンなどのポリエーテルケトン系ポリマー,ポリエーテルイミド,ポリアミドイミド,ポリイミドなどのポリイミド系ポリマー(いずれも共重合ポリマーを含む)を挙げることが出来る。
好ましい高分子補強材料はフッ素系ポリマーであり,特に好ましいのはポリフッ化ビニリデン及びその共重合ポリマー,その変性ポリマーである。その分子量は数平均分子量として2000〜2000000,好ましくは3000〜100000,特に好ましくは,5000〜50000である。
以下にリチウム二次電池に使用される電解質組成物を例にとってその調製方法を説明する。この方法はリチウム塩を他の電荷移動イオン源に変更することにより燃料電池または色素増感太陽電池用の電解質組成物にも適用できることは当業者には自明であろう。
高分子補強材料を複合化する方法には,既に該材料の多孔質シートもしくはフィルムにリチウム塩を含む溶融塩単量体で含浸し,その状態で重合反応に服せしめる方法や,リチウム塩を含んでいる溶融塩単量体に高分子補強材料の繊維を分散し,重合反応に服させる方法が含まれる。
この場合,高分子補強材料は,具体的には織物や不織布,多孔質フィルムやシート類であり,厚さは5〜100μm,好ましくは10〜50μmである。不織布の透気度(JIS−1096による)は5〜40cc/m・sec,多孔質フィルムの孔径は0.05μm〜1μm,好ましくは0.05μm〜0.5μm,気孔率は20%〜80%,好ましくは35%〜60%である。これらの補強材料は既存の製法,設備で製造でき,又市販品を利用出来る。
さらに,溶融塩単量体,リチウム塩,および高分子補強材料をジメチルアセタミドのような適切な溶媒に溶かし,この溶液をガラスやポリエステルフィルムのような基材に流延またはコーティングし,重合後剥離して複合化した高分子電解質組成物の薄膜を得ることもできる。補強材料の高分子の種類によっては溶剤を使用することなく溶融によって単量体と複合化することもできるであろう。
溶融塩単量体のポリマーと補強材料のポリマープレンドを形成している電解質組成物の場合,高分子補強材料の割合は,力学的性質とイオン伝導度との最適なバランスが得られるように決定される。
溶融塩単量体に対する補強材料の重量比は,一般的には0.1〜0.8,特に好ましくは0.35〜0.65の間にある。特定の溶融塩単量体と特定の高分子補強材料の組合わせについては,力学的性質とイオン伝導度の最適なバランスは実験的に定めることができる。
補強材料の多孔質シートもしくはフィルムを溶融塩単量体で含浸する場合には,リチウム塩を含んだ高分子電解質が連続相を形成するので,力学的性質とイオン伝導度のバランスを最適化する必要はない。
同様にブレンドタイプの電解質組成物の場合,リチウム塩と力学的性質の最適のバランスは溶融塩単量体に対するリチウム塩の比に依存する。この比は重量で一般に0.05〜0.8,好ましくは0.1〜0.7,特に好ましくは0.15〜0.5の範囲である。特定の溶融塩単量体と特定のリチウム塩の組合わせの最適比は実験的に容易に決めることができる。多孔質シートもしくはフィルムを使用する場合は,上に記載した理由により,溶融塩単量体に対するリチウム塩の比はイオン伝導度を最大にするのに充分な量でよい。
溶融塩単量体は単独重合,またはこれ共重合し得る単量体と共重合させることができる。
好ましい態様の1つは,溶融塩単量体と反応する官能基を有する高分子補強材料を用いたグラフト架橋重合体の形成である。共重合する単量体は2種類以上の溶融塩単量体を用いてもよいし,塩構造を含まない単量体や更には複数の重合性官能基を有する多官能単量体であってもよい。
本重合反応は,単量体熱重合開始剤や硬化剤を加え,通常40℃〜200℃に加熱して行なう。重合性官能基が炭素−炭素不飽和基である場合,熱重合開始剤としては,ベンゾイルパーオキサイド,ジクミルパーオキサイド,ジ−t−ブチルパーオキサイド,1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン,キュメンハイドロパーオキサイドなどのパーオキサイド類,2,2’−アゾビスイソブチロニトリル,2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾビス化合物,過硫酸アンモニウムなどの無機系開始剤などを挙げることが出来る。
重合開始剤の使用量は,通常重合性単量体の総重量に対して0.1〜10%,好ましくは,1〜5%である。
重合性官能基がエポキシ基である場合,硬化剤としてアミン類や酸無水物,カルボン酸,反応触媒としてアルキルイミダゾール誘導体を用いることが出来る。
重合させるために紫外線(光重合開始剤を使用)や電子線などの放射線を照射することも出来る。電子線重合は,高分子補強材料自体の架橋反応や単量体の補強材料へのグラフト反応も期待でき,好ましい態様である。照射量は0.1〜50Mrad,好ましくは1〜20Mradである。
溶融塩と共重合可能な重合性官能基を2個以上含む多官能単量体の例は,ジビニルベンゼン,ジアリルフタレート,エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート,トリアリルイソシアヌレート,トリアリルシアヌレート,ジアリル−ジメチルアンモニウムビス−{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド,ジアリル−ジメチルアンモニウムテトラフルオロボレート,2,2−ビス(グリシジルオキシ)フェニルプロパンなどがある。これらの多官能モノマーは溶融塩単量体の0.5〜10モル%の量で使用し得る。
本発明の複合高分子電解質組成物は,ポリマーブレンドの場合,電荷移動イオン源を含んでいる溶融塩単量体と補強材料ポリマーとがミクロに相分離し,それぞれのイオン伝導性に力学的性質を付与する機能を果たしているものと考えられる。補強材料の多孔質シートもしくはフィルムを含む場合は,電荷移動イオン源を含む溶融塩単量体の連続相がイオン伝導性を担っている。
本発明の複合高分子電解質組成物は,例えばリチウムイオン電池,燃料電池,色素増感太陽電池,電解キャパシタなどの電気化学デバイスの対向する電極間にサンドイッチされる。それぞれのデバイスに使用される電極はこれらの技術分野において良く知られている。
例えば,リチウムイオン電池には,典型的には黒鉛であるリチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料よりなる活物質層を備えた負極と,LiCoO,LiFeO,LiNiCo1−n,LiMnなどに代表されるリチウムイオンを吸蔵放出するリチウムを含む複合金属酸化物よりなる活性物質層を有する正極が使用される。負極活物質として金属リチウムもしくはその合金が使用される場合は,正極活物質は二酸化マンガン,TiS,MoS,NbS,MoOおよびVのようなLiを含まない金属酸化物もしくは硫化物を使用することができる。
燃料電池では,一般にPtに代表される触媒を付与した多孔質電極が使用される。色素増感太陽電池の作用極として導電性表面を有する基板上に形成したTiO,ZnOなどの酸化物半導体膜に色素を吸着させた半導体電極が用いられる。対極は白金蒸着ガラス基板に代表される導電性電極である。キャパシタの電極対は従来の液型電解キャパシタに用いられている電極対と同じものを使用し得る。
【実施例】
以下に限定を意図しない実施例によって本発明を例証する。これら実施例はリチウムイオン電池の電解質を意図したものであるが,当業者は電荷移動イオン源を上に述べたように変更することによって他の電気化学デバイスに適用するためこれら実施例を容易に修飾することができる。
実施例中すべての部および%は特記しない限り重量基準による。実施例中の測定は下記の方法によって行った。
イオン伝導度:電極面積 0.95cmの白金電極間に試料を挟み,室温,65%RHで,交流インピーダンス法(0.1V,周波数1Hz〜10MHz)により膜抵抗を測定し,イオン伝導率を算出した。
引張り強度:A&D社製,引張り試験機テンシロンRT1350を用い,23℃,5cm/min.で測定した。
また実施例中で合成した化合物はIRスペクトル,NMRスペクトルで同定した。
〔実施例1〕1−メチル−3−(4−ビニルベンジル)イミダゾリウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド〔MVBI・TFSIと略す〕の合成
1−メチルイミダゾール 37.0g(0.45mol)を200mlの1,1,1−トリクロロエタンに溶解し,室温で攪拌しながら,p−クロルメチルスチレン 68.7g(0.45mol)を100mlの1,1,1−トリクロロエタンに溶解した溶液を1時間かけて滴下後,更に10時間,65℃で撹拌を続けて反応を行った。生成物を分離し,各100mlの1,1,1−トリクロロエタンで2回洗浄後,65℃,0.1mmで2時間,乾燥し,淡黄色の固体1−メチル−3−(4−ビニルベンジル)イミダゾリウム クロライド〔MVBI・Cl〕52.8g(50%)を得た。
次にカリウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド(KTFSI)31.9g(0.1mol)を100mlの水に70℃で溶解し,50℃で攪拌しながら,上で得たMVBI・Cl 23.4g(0.1mol)を50mlの水に溶解した溶液を15分で滴下・混合した。50℃で激しく攪拌しながら更に2時間,複分解反応を行った後,生成した油層を分離した。生成物を各50mlの水で2回洗浄した後,60℃,0.1mmHgで2時間乾燥し,1−メチル−3−(4−ビニルベンジル)イミダゾリウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド〔MVBI・TFSIと略す〕40.8g(収率85%)を得た。
〔実施例2〕炭素−炭素間二重結合を含有するポリフッ化ビニリデン変性ポリマー〔DBFと略す〕の合成
アトフィナ〔(株)製ポリフッ化ビニリデン(Kynar461)15gとN−メチルピロリドン−2〔NMP〕85gを撹拌機付きの300ml三口フラスコに入れ,90℃で溶解した。同温度で撹拌しながらトリエチルアミン2.37gを約10分で滴下・添加した。更に同温度で撹拌しながら30分間反応させた。冷却後,300mlの水に撹拌下で添加し,再沈殿させた。沈殿したポリマーを各500mlの水で2回浸漬洗浄・濾過し,60℃で10時間,真空乾燥した。
回収したポリマーはNMRスペクトル分析より,約8モル%の二重結合が導入されていることが分かった。
〔実施例3〕実施例1で得られた,1−メチル−3−(4−ビニルベンジル)イミダゾリウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド〔MVBI・TFSIと略す〕8.4g,実施例2で得られたポリフッ化ビニリデン変性ポリマー〔DBF〕10.0g,ベンゾイルパーオキサイド0.17gをジメチルアセトアマイド80gに溶解した溶液を調整した。この溶液にリチウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド〔LiTFSIと略す〕4.0gを溶解させ,電解質プリカーサー液を調整した。本溶液を100μmのポリエステルフィルム(東レ製 Tタイプ)上にコーティングし,熱風乾燥機で130℃,30分間加熱し,乾燥と同時に重合反応を行った。塗工膜をポリエステルフィルムから剥がし,膜厚25μmの透明なフィルムを得た。このフィルムのイオン伝導度は20℃で2.1×10−3S/cm,引張り強度は11MPaであった。
〔実施例4〕実施例1と同様に,トリエチルアミンとp−クロルメチルスチレンから,トリエチル−(4−ビニルベンジル)アンモニウム クロライドを合成し,更にこれをKTFSIと反応させ,トリエチル−(4−ビニルベンジル)アンモニウム・ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド〔TEVBA・TFSIと略す〕を合成した。
次いで,上記で得たTEVBA・TFSI 7.0g,ポリフッ化ビニリデン樹脂(アトフィナ社製 Kynar 461)13.0g,ベンゾイルパーオキサイド0.14g,LiTFSI 7.0gをジメチルアセトアマイド 80gに溶解した電解質プリカーサー液を調整した。本溶液を3mmのガラス板上に塗布し,ガラス板と共に130℃で30分間加熱し,乾燥と重合反応を行った。塗膜をガラス板から剥がし,膜厚30μmのフィルムを得た。本フィルムのイオン伝導度は3.0×10−4S/cm,引張り強度は6MPaであった。
〔実施例5〕多孔質ポリフッ化ビニリデンフィルム
呉羽化学社製 ポリフッ化ビニリデン樹脂(#1700)50g及びポリエチレングリコール(分子量1000)50gをジメチルアセトアマイド 450gに溶解した溶液を作り,本溶液を厚さ3mmのガラス板上にコーティングした。ガラス板と共に熱風乾燥機に入れ,150℃で10分間加熱・乾燥後,室温まで冷やし,次いで室温で大量の水の中に30分間浸漬し,ポリエチレングリコールを抽出除去した。新鮮な水に換え,更に30分間浸漬・,水洗後,100℃で30分間乾燥し,ポリフッ化ビニリデンの孔空きフィルムを得た。本フィルムは,厚さ25μm,空孔率 59%,平均孔径 5μm(走査型電子顕微鏡写真で評価)であった。
〔実施例6〕実施例1と同様にして,1−ビニルイミダゾールとエチルブロマイドより1−ビニル−3−エチルイミダゾリウム ブロマイド〔EVI・Brと略す〕を合成した。EVI・Brとカリウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド〔KTFSIと略す〕とから1−ビニル−3−エチルイミダゾリウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド〔EVI・TFSIと略す〕を合成した。
次いで,本EVI・TFSI 42gにLiTFSI 15g,ベンゾイルパーオキサイド 0.8gを溶解した溶液を,上記で作製した孔空きフィルムに真空含浸した。含浸率は57%であった。但し,含浸率%={(含浸後の重量−含浸前の孔空きフィルムの重量)/含浸後の重量}×100 より求めた。なお気孔率と含浸液の比重から計算した理論含浸率は55%であった。
本含浸フィルムを130℃で30分間加熱・重合させ,複合フィルムを作製した。
本複合フィルムのイオン伝導度は6.5×10−4S/cm,引張り強度は12MPaであった。
〔実施例7〕リチウムイオン電池
高分子複合電解質プリカーサー液の調製:実施例1と同様にしてアリルブロマイドと1−メチルイミダゾールより,1−アリル−3−メチルイミダゾリウム ブロマイドを合成し,これをカリウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド〔KTFSIと略す〕と反応させ,1−アリル−3−メチルイミダゾリウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド〔AMI・TFSIと略す〕を合成した。同様にジアリル−ジメチルアンモニウムクロライドとKTFSIよりジアリル−ジメチルアンモニウム ビス{(トリフルオロメチル)スルフォニル}アミド〔DAA・TFSI〕を合成した。
上記AMI・TFSI 2.4g,DAA・TFSI 2.4g,LiTFSI 2.0g,ベンゾイルパーオキサイド 0.24g,ポリフッ化ビニリデン樹脂(アトフィナ社製カイナー#461)5.0gをN−メチルピロリドン−2 95gに溶解した。
正極の作製:
正極活物質であるLiCoOと導電剤であるアセチレンブラックを上記高分子複合電解質プリカーサー溶液に混合した正極合剤液を作製し,集電体であるアルミニウム箔に塗布し,130℃で10分間加熱し,乾燥させた後,正極合剤厚みが90μmになる様にプレスした。
負極の作成:
負極活物質である天然グラファイトと導電剤であるケッチェンブラックとを,上記高分子複合電解質プリカーサー溶液に混合した負極合剤液を集電体である銅箔に塗布し,130℃で10分間加熱し,乾燥させた後,負極合剤厚みが90μmになる様にプレスした。
電極間電解質膜:
上記高分子複合電解質プリカーサー液を100μmのポリエステルフィルム(東レ製 Tタイプ)にコーティングし,130で30分間加熱し乾燥と同時に重合させ,膜厚30μmの高分子複合電解質膜をポリエステルフィルム上に形成した。
前記の正極の塗工面に,上記複合電解質膜面を重ね,130℃のロール間で積層後,ポリエステルフィルムを剥離し正極/電解質膜積層シートを作製した。この積層シートの電解質膜面に前記の負極の塗工面を重ね,同様に130℃のロール間で積層し,正極/電解質膜/負極積層体を作製した。この積層体を150℃×10kg/cmで30分間,加熱圧着しながら重合させた。
本積層体を直径15mmに打ち抜き,アルミニウム製の容器に入れ,同素材のバネと蓋を重ねプレスしてコイン型のセルを作製した。
次いで本コインセルを用い,20℃で充放電サイクル試験を行った。
充放電サイクル試験条件:充電は電流1mA,終止電圧4.0Vで定電流充電とした。放電は電流1mA,終止電圧2.5Vで定電流放電とした。
電池設計容量との比率を放電容量(%)とし,充放電初期の放電容量は95%,20サイクル目においても85%の放電容量が保持された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)4級アンモニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる4級アンモニウム塩構造と,重合性官能基を持っている溶融塩単量体を含んでいる単量体組成物を,電気化学的に不活性な高分子補強材料の存在下で重合することにより製造された複合高分子電解質組成物。
【請求項2】
前記単量体組成物は,前記溶融塩単量体と共重合し得る多官能単量体を含んでいる請求項1の複合高分子電解質組成物。
【請求項3】
前記溶融塩単量体は,1−ビニル−3−アルキルイミダリウムカチオン,4−ビニル−1−アルキルピリジニウムカチオン,1−アルキル−3−アリルイミダゾリウムカチオン,1−(4−ビニルベンジル)−3−アルキルイミダゾリウムカチオン,1−(ビニルオキシエチル)−3−アルキルイミダゾリウムカチオン,1−ビニルイミダゾリウムカチオン,1−アリルイミダリウムカチオン,N−アリルベンズイミダゾリウムカチオン,および4級ジアリルジアルキルアンモニウムからなる群から選ばれた4級アンモニウムカチオンと,ビス〔(トリフルオロメチル)スルフォニルアミドアニオン,2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフロオロメチルスルフォニル)アセトアミドアニオン,ビス〔(ペンタフルオロエチル)スルフォニル〕アミドアニオン,ビス〔(フルオロ)スルホニル〕アミドアニオン,テトラフルオロボレートアニオン,およびトリフルオロメタンスルフォネートアニオンからなる群から選ばれたアニオンとの塩である請求項1の複合高分子電解質組成物。
【請求項4】
前記高分子補強材料は,ポリテトラフルオロエチレン,ポリフッ化ビニリデン,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリアクリロニトリル,ポリスチレン,ポリスルフォン,ポリエーテルスルフォン,ポリエーテルケトン,ポリエーテルエーテルケトン,ポリエーテルイミド,ポリアミドイミド,およびポリイミドからなる群から選ばれる請求項1の複合高分子電解質組成物。
【請求項5】
前記高分子補強材料は,ポリフッ化ビニリデンまたは炭素−炭素間不飽和二重結合を含んでいるポリフッ化ビニリデンである請求項4の複合高分子電解質組成物。
【請求項6】
前記高分子補強材料は,前記溶融塩単量体の重合体とポリマーブレンドを形成している請求項1の複合高分子電解質組成物。
【請求項7】
前記高分子補強材料は,連続ポアを含んでいる多孔質フィルムもしくはシートであり,前記溶融塩単量体の重合体は該多孔質フィルムもしくはシート中で連続相を形成している請求項1の複合高分子電解質組成物。
【請求項8】
前記単量体組成物は熱によって重合される請求項1の複合高分子電解質組成物。
【請求項9】
前記単量体組成物は紫外線照射によって重合される請求項1の複合電解質組成物。
【請求項10】
前記単量体組成物は電子線照射によって重合される請求項1の複合電解質組成物。
【請求項11】
前記単量体組成物は電荷移動イオン源を含んでいる請求項1の複合電解質組成物。
【請求項12】
前記イオン源は,LiBF,LiPF,C2n+1COLi(但しnは1〜4の整数),C2n+1SOLi(但しnは1〜4の整数),(FSONLi,(CFSONLi,(CSONLi,(CFSOCLi,(CF−SO−N−COCF)Li,および(R−SO−N−SOCF)Li(Rはアルキル基またはアリール基)からなる群から選ばれたリチウム塩である請求項11の複合高分子電解質組成物。
【請求項13】
対向する負極と正極の間に配置されている請求項12の複合高分子電解質組成物を備えているリチウムイオン電池。
【請求項14】
前記イオン源は,HBF,HPF,C2n+1COH(但しnは1〜4の整数),C2n+1SOH(但しnは1〜4の整数),(FSO)NH,(CFSO)NH,(CSO)NH,(CFSOCH,(CF−SO−NH−COCF),および(R−SO−NH−SOCF)(Rはアルキル基またはアリール基)からなる群から選ばれたプロトン供与体である請求項11の複合高分子電解質組成物。
【請求項15】
対向する負極と正極の間に配置された請求項14の複合高分子電解質組成物を備えている燃料電池。
【請求項16】
前記イオン源はI/IまたはBr/Brレドックスイオン対である請求項11の複合高分子電解質組成物。
【請求項17】
色素を吸着させた酸化物半導体膜を有する作用極と,導電性対極の間に配置された請求項16の複合高分子電解質組成物を備えている色素増感太陽電池。
【請求項18】
対向する導電性電極間に配置された電荷移動イオン源を含まない請求項1の複合高分子電解質組成物を備えているキャパシタ。

【国際公開番号】WO2004/088671
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504154(P2005−504154)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003447
【国際出願日】平成16年3月15日(2004.3.15)
【出願人】(597054253)トレキオン株式会社 (10)
【Fターム(参考)】