説明

複層摺動部材及び該複層摺動部材を用いたヒンジ構造

【課題】導電性を付与した複層摺動部材及び該複層摺動部材を用いたヒンジ構造を提供すること。
【解決手段】複層摺動部材1Aは、鋼板からなる裏金2と、裏金2の表面3に一体に形成された多孔質青銅焼結層4と、多孔質青銅焼結層4の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層5と、裏金2の裏面6に形成されていると共に導電性を有する裏側金属メッキ層7と、すべり層5の表面8側で点在してすべり層5の表面8と共に露出する表面9を有すると共に多孔質青銅焼結層4に電気的に接触して多孔質青銅焼結層4及びすべり層5に一体に形成された表側金属メッキ層10とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層摺動部材、詳しくは導電性が付与された複層摺動部材及び該複層摺動部材を用いたヒンジ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特公平6−25516号公報
【特許文献2】特公昭63−37445号公報
【特許文献3】特開平6−249242号公報
【0003】
自動車のドア、トランク、ボンネット等のヒンジ機構においては、軸受支持機構とこれと相対回転する軸との間に、金属網状体の網目及び表面に潤滑性を有する合成樹脂を適用して潤滑性被覆層を形成した無給油軸受ブッシュが用いられている(特許文献1所載)。
【0004】
この無給油軸受ブッシュは、潤滑性被覆層が電気的に絶縁性を有しているため、軸受の内面と外面との間の電気的導電性は極めて低く、このような軸受ブッシュを例えば自動車のドア等のヒンジ構造に適用してドアを含めて所謂ホワイトボデーに対する静電塗装を一時に行おうとすると、ドアと自動車ボデー等のその他の部分とが軸受ブッシュにより電気的に絶縁された状態となる結果、ドア自体の塗装が実施できなくなる場合があり、自動車のボデーと共に同時にドアにも静電塗装を施すためにはドアに対しても高電圧電源からの配線を行わなければならず作業性が極めて悪いという問題がある。
【0005】
上記問題を解決するべく、鋼板からなる裏金と該裏金の表面に一体に形成された多孔質金属焼結層と該多孔質金属焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂の潤滑樹脂層とからなる複層軸受の潤滑樹脂層に切削加工を施し、該多孔質金属焼結層と潤滑樹脂層とを同一平面として該複層軸受に導電性を付与させる技術が提案されている(特許文献2所載)。
【0006】
この複層軸受を上記ヒンジ構造に適用することにより、軸と軸受を支持する支持機構とを電気的に確実に接続し得る結果、静電塗装等の作業において配線作業が容易となり、作業性を向上し得るという一応の解決が図れるが、潤滑樹脂層に切削という面倒な機械加工を必要とすることから、製造工程が煩雑となり効率的でないという問題と、導電性を付与できる反面、摺動面に多孔質金属焼結層が露出する割合をコントロールすることが難しく、摺動面への多孔質金属焼結層の露出割合の多寡によって摺動特性に変動を来たすという問題がある。
【0007】
さらに、特許文献2に記載された技術に対し、裏金とこの裏金の表面に焼結された導電性を有する焼結金属材と、この焼結金属材の空隙に充填された潤滑樹脂剤との複合された構造からなり、焼結金属材の金属粒子の表面と樹脂表面とを圧下手段によって実質的に同一平面に形成してなる軸受部材が提案されている(特許文献3所載)。
【0008】
上記特許文献3に記載された軸受部材は、その潤滑樹脂表面に焼結金属材の金属粒子を露出させ、該軸受部材に導電性を付与させるものであり、前記特許文献2に記載された切削工程を必要としないことから製造上の煩雑さが取り除かれ、効率的に製造できるという利点を有するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献3に記載された軸受部材においては、焼結金属材の金属粒子と樹脂表面とを圧下手段によって同一平面に形成するものであるが、とくに焼結金属材の孔隙に充填された潤滑樹脂が圧下後の応力緩和等によって焼結金属材の金属粒子の表面より膨出するという現象が現れ、金属粒子の表面が潤滑樹脂の表面よりマイナス(凹む)になり、結果として金属粒子の十分な導電性を損ない、安定した通電性が得られ難いという問題がある。
【0010】
また、金属粒子の表面が潤滑樹脂の表面よりマイナス(凹む)となった板状の軸受部材を潤滑樹脂を内側にして円筒状に捲回して円筒軸受ブッシュとした際においても、金属粒子の表面が潤滑樹脂の表面よりマイナスとなったままであり、仮に、焼結金属粒子の表面と潤滑樹脂の表面が同一表面に形成されていたとしても、潤滑樹脂を内側にして円筒状に捲回して円筒軸受ブッシュとした場合には、該潤滑樹脂に曲げ力の作用による圧縮力により該潤滑樹脂の表面が該表面と同一平面に形成された金属粒子の表面より膨出し、金属粒子の表面が潤滑樹脂の表面よりマイナスになることが余儀なくされ、結果として潤滑樹脂表面と同一平面に形成された金属粒子の導電性を損ない、安定した通電性が得られ難いという問題もある。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑み鋭意検討した結果、防錆を目的として方形状、円板状、円環状又は円筒状の裏金の裏面に施される金属メッキに着目し、斯かる裏金の裏面に金属メッキ層を形成する一方、合成樹脂組成物のすべり層の表面におけるマイナス部分(凹み部分)により点在して露出した多孔質青銅焼結層の表面にも金属メッキ層を形成し、この金属メッキ層でもってすべり層の表面のマイナス部分(凹み部分)を埋めて、すべり層の表面と金属メッキ層の表面とを面一とすることにより、複層摺動部材に確実であって良好な導電性を付与できることを知見した。
【0012】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、その目的とするところは、導電性を付与した複層摺動部材及び該複層摺動部材を用いたヒンジ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の複層摺動部材は、鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体に形成された多孔質青銅焼結層と、該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層と、該裏金の裏面に形成されていると共に導電性を有する裏側金属メッキ層と、該すべり層の表面側で点在して当該すべり層の表面と共に露出する表面を有すると共に多孔質青銅焼結層に一体に形成された表側金属メッキ層とを具備している。
【0014】
また、本発明の複層摺動部材は、鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体に形成された多孔質青銅焼結層と、該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層と、該裏金の裏面に形成されていると共に導電性を有する裏側金属メッキ層と、該すべり層の表面側で点在して当該すべり層の表面と共に露出する表面を有すると共に多孔質青銅焼結層に一体に形成された表側金属メッキ層とを有しており、該すべり層と表側金属メッキ層とが内面側に、裏側金属メッキ層が外面側に夫々配された円筒部を具備しており、該円筒部の円筒状の外面は、露出した裏側金属メッキ層の表面からなっており、該円筒部の円筒状の内面は、露出したすべり層の表面と表側金属メッキ層の表面とからなっており、この場合、円筒部の円筒状の外面に連接された一方の環状の側面と円筒部の円筒状の内面に連接された他方の環状の側面とを有していると共に円筒部の少なくとも一方の端部に一体的に形成された拡径鍔部を更に具備していてもよく、斯かる拡径鍔部は、円筒部の裏金から一体的に伸びた鋼板からなる裏金と、円筒部の多孔質青銅焼結層から一体的に伸びて該拡径鍔部の裏金の表面に一体に形成された多孔質青銅焼結層と、円筒部のすべり層から一体的に伸びて該拡径鍔部の多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層と、円筒部の裏側金属メッキ層から一体的に伸びて該拡径鍔部の裏金の裏面に形成されていると共に導電性を有する裏側金属メッキ層と、該拡径鍔部のすべり層の表面側で点在して当該拡径鍔部のすべり層の表面と共に露出する表面を有すると共に拡径鍔部の多孔質青銅焼結層に一体に形成された表側金属メッキ層とを有しており、拡径鍔部の一方の環状の側面は、露出した拡径鍔部の裏側金属メッキ層の表面からなっており、拡径鍔部の他方の環状の側面は、露出した拡径鍔部のすべり層の表面と表側金属メッキ層の表面とからなっているとよい。
【0015】
本発明の複層摺動部材によれば、導電性を有する裏側金属メッキ層が裏金の裏面に形成されており、導電性を有する表側金属メッキ層が一方では多孔質青銅焼結層に電気的に接触して、他方では該すべり層の表面側で点在して露出して形成されているので、表側金属メッキ層と裏側金属メッキ層との間に導電性を付与することができる。
【0016】
本発明の複層摺動部材において、すべり層を形成する合成樹脂組成物は、充填材を含有した四ふっ化エチレン樹脂(以下「PTFE」という)からなっているとよい。
【0017】
充填材としては、硫酸バリウム、燐酸塩、珪酸塩、耐熱性樹脂及び固体潤滑剤のうちの少なくとも一つから選択されるものであるとよい。これらの充填材は、主成分をなすPTFEの具有する低摩擦性を犠牲にすることなく耐摩耗性を向上させるものであり、PTFEの摩擦摩耗特性を向上させる充填材として従来から広く使用されている鉛を含有させることなく低摩擦性及び耐摩耗性を発揮するので、環境汚染、公害など副次的な見地からも有用である。
【0018】
本発明の複層摺動部材において、表側金属メッキ層及び裏側金属メッキ層のうちの少なくとも一方は、導電性を有する銅、錫、亜鉛及びニッケルのうちの少なくとも一つから選択されたものからなっているとよく、表側金属メッキ層は、すべり層の表面積と表側金属メッキ層の表面積とを合わせた合計表面積に対して0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%の面積割合で露出しているとよい。
【0019】
すべり層の表面積と表側金属メッキ層の表面積とを合わせた合計表面積に対して0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%の面積割合で表側金属メッキ層が点在して露出しているので、確実であって良好な導電性を複層摺動部材に付与できる上に、複層摺動部材においてすべり層での相手材との摺動を円滑に行わせることができる。
【0020】
本発明のヒンジ構造は、導電性を有する金属製の連結軸と、夫々軸孔を有すると共に当該軸孔に挿通された該連結軸を介して互いに枢着された一対のヒンジ片と、円筒部が該一方のヒンジ片の軸孔において当該一方のヒンジ片に嵌合されていると共に円筒部及び拡径鍔部を有した上記の複層摺動部材と、該一方のヒンジ片と他方のヒンジ片との間に、すべり層が他方のヒンジ片に接触して配されていると共に円環状の平板体からなっている上記の複層摺動部材とを具備しており、ここで、連結軸は、円筒部の内面に接触して当該円筒部及び平板体を貫通している。
【0021】
斯かるヒンジ構造によれば、一方のヒンジ片と他方のヒンジ片とが、導電性を付与された複層摺動部材の円筒部と、同じく導電性を付与された平板体からなっている複層摺動部材とにより電気的に接続されるので、例えば一方のヒンジ片が自動車ボデーに電気的に接続されて取り付けられている場合には、自動車ボデーに高電圧電源からの配線を行うだけで、他方のヒンジ片に電気的に接続されて取り付けられたドアに高電圧電源からの配線を行うことなしにドア等への静電塗装を行うことができる上に、各複層摺動部材においてすべり層での相手材との摺動を円滑に行わせることができる。
【0022】
本発明の他の態様のヒンジ構造は、導電性を有する金属製の連結軸と、夫々軸孔を有すると共に当該軸孔に挿通された該連結軸を介して互いに枢着された一対のヒンジ片と、円筒部が該一方のヒンジ片の軸孔において当該一方のヒンジ片に嵌合されていると共に円筒部及び拡径鍔部又は円筒部及び両拡径鍔部を有した上記の複層摺動部材とを具備しており、ここで、複層摺動部材の拡径鍔部は、当該拡径鍔部のすべり層が他方のヒンジ片に接触して該一方のヒンジ片と他方のヒンジ片との間に配されており、連結軸は、円筒部の内面に接触して当該円筒部及び拡径鍔部を貫通している。
【0023】
斯かる態様のヒンジ構造においても、一方のヒンジ片と他方のヒンジ片とが、導電性を付与された複層摺動部材の円筒部と拡径鍔部とにより電気的に接続されるので、一方のヒンジ片が自動車ボデーに電気的に接続されて取り付けられている場合には、自動車ボデーに高電圧電源からの配線を行うだけで、他方のヒンジ片に電気的に接続されて取り付けられたドアに高電圧電源からの配線を行うことなしにドア等への静電塗装を行うことができる上に、各複層摺動部材においてすべり層での相手材との摺動を円滑に行わせることができる。
【0024】
本発明の更に他の態様のヒンジ構造は、円柱軸部及び該円柱軸部の一方の端部に設けられた環状鍔部を備えていると共に導電性を有する金属製の連結軸と、夫々軸孔を有すると共に当該軸孔に挿通された該連結軸を介して互いに枢着された一対のヒンジ片と、円筒部が該一方のヒンジ片の軸孔において当該一方のヒンジ片に嵌合されている円筒部及び両拡径鍔部を有した上記の複層摺動部材とを具備しており、ここで、複層摺動部材の拡径鍔部は、当該拡径鍔部のすべり層が連結軸の環状鍔部に接触して該一方のヒンジ片と連結軸の環状鍔部との間に配されており、複層摺動部材の他の拡径鍔部は、当該他の拡径鍔部のすべり層が他方のヒンジ片に接触して該一対のヒンジ片の間に配されており、連結軸の円柱軸部は、円筒部の内面に接触して当該円筒部、両拡径鍔部及び他方のヒンジ片を貫通していると共にその他方の端部で該他方のヒンジ片にカシメ固定されている。
【0025】
斯かる更に他の態様のヒンジ構造においても、一方のヒンジ片と他方のヒンジ片とが、導電性を付与された複層摺動部材の円筒部と両拡径鍔部とにより電気的に接続されるので、一方のヒンジ片が自動車ボデーに電気的に接続されて取り付けられている場合には、自動車ボデーに高電圧電源からの配線を行うだけで、他方のヒンジ片に電気的に接続されて取り付けられたドアに高電圧電源からの配線を行うことなしにドア等への静電塗装を行うことができる上に、各複層摺動部材においてすべり層での相手材との摺動を円滑に行わせることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、導電性が付与されて確実な通電性を有する複層摺動部材及び該複層摺動部材を用いたヒンジ構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明及びその実施の形態を、図に示す好ましい実施例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何等限定されないのである。
【0028】
図1から図4において、スラスト軸受、すべり板又はスラストワッシャーなどに使用されて好適な方形状、円板状又は円環状を呈する平板体からなる板状の複層摺動部材1A、1B及び1Cの夫々は、鋼板からなる裏金2と、裏金2の表面3に一体に形成された多孔質青銅焼結層4と、多孔質青銅焼結層4の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層5と、裏金2の裏面6に形成されていると共に導電性を有する裏側金属メッキ層7と、すべり層5の表面8側で点在してすべり層5の表面8と共に露出する表面9を有すると共に多孔質青銅焼結層4に電気的に接触して多孔質青銅焼結層4及びすべり層5に一体に形成された表側金属メッキ層10とを具備している。
【0029】
すべり層5を形成する合成樹脂組成物は、PTFEを主成分としこれに充填材を含有させたものである。充填材としては、硫酸バリウム、燐酸塩、珪酸塩、ポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂及びオキシベンゾイルポリエステル樹脂等の耐熱性樹脂並びに固体潤滑剤のうちの少なくとも一つから選択されるものを好ましい例として挙げることができる。好ましい合成樹脂組成物としては、(1)硫酸バリウム5〜40重量%と燐酸塩1〜30重量%とポリイミド樹脂、焼成フェノール樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂及びオキシベンゾイルポリエステル樹脂のうちの少なくとも一つから選択された耐熱性樹脂1〜10重量%と残部PTFEとからなる合成樹脂組成物、(2)硫酸バリウム5〜30重量%と燐酸塩1〜25重量%と珪酸塩1〜15重量%と残部PTFEとからなる合成樹脂組成物、(3)上記(1)及び(2)の成分組成に更に黒鉛及び二硫化モリブデンのうちの少なくとも一方から選択された固体潤滑剤を5重量%以下の割合で配合された合成樹脂組成物を挙げることができる。
【0030】
すべり層5の表面8側で、好ましくは表面8と面一となって点在した表面9を有すると共に導電性を有する表側金属メッキ層10は、すべり層5の表面8の面積(すべり層5の表面積)と表側金属メッキ層10の表面8の面積(表側金属メッキ層10の表面積)とを合わせた合計表面積に対して0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%の面積割合の面積をもって表面9で露出している。
【0031】
すべり層5の表面8側で点在してすべり層5の表面8と共に露出する表面9を有する表側金属メッキ層10により複層摺動部材1A、1B及び1Cの夫々のすべり層5側の面に確実な通電性が付与され、而して、複層摺動部材1A、1B及び1Cには裏側金属メッキ層7側とすべり層5側との間の導電性が付与されている。
【0032】
表側金属メッキ層10は、すべり層5の表面8の面積(すべり層5の表面積)と表側金属メッキ層10の表面8の面積(表側金属メッキ層10の表面積)とを合わせた合計表面積に対して0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%と非常に少ない露出した表面積を有しているので、すべり層5における相手材との摺動において、複層摺動部材1A、1B及び1Cの夫々は、摩擦摩耗特性を低下させることなく円滑な摺動を行わせることができる。
【0033】
裏金2の裏面6に形成された裏側金属メッキ層7及びすべり層5の表面8側において点在して露出した表面9を有する表側金属メッキ層10は、導電性を有する銅、錫、亜鉛又はニッケルのいずれかから選択されたものから形成されている。
【0034】
次に、図5ないし図7に基づき、上記板状の複層摺動部材1A、1B及び1Cの製造方法について説明する。
【0035】
鋼板からなる裏金2として、厚さ0.5〜2.0mmの冷間圧延鋼板(SPCC)を準備する。錫9.0〜11.0重量%と残部銅からなる青銅粉末として、見掛け密度が2.50〜4.50g/cmの不規則形状であって、粒度分布について、粒径が150μmを超える粒子が10%以下、粒径が106μm以上で150μm以下の粒子が10〜40%、粒径が75μm以上で106μm以下の粒子が40〜70%及び粒径が75μmを超えない粒子が20%以下の青銅粉末を冷間圧延鋼板からなる裏金2の表面3に一様に散布し、これを中性又は還元性雰囲気に調整された焼結炉において、850〜950℃の温度で30〜60分間焼結し、裏金2の表面3に多孔度50〜80容積%の多孔質青銅焼結層4を形成した焼結板15を形成する。
【0036】
焼結板15は、図5に示す製造工程において、コイル状に巻いてフープ材として提供される連続条片とすることが好ましいが、必ずしも連続条片に限らず、適当な長さに切断した条片を使用することもできる。
【0037】
一対の案内ローラ16によって送られる焼結板15において多孔質青銅焼結層4上にホッパー17内に装填されたPTFEを主成分とする合成樹脂組成物18が供給される。合成樹脂組成物18には、合成樹脂組成物18に石油系溶剤を加えてこれらを撹拌混合して湿潤性が付与されている。
【0038】
焼結板15の多孔質青銅焼結層4上に、ホッパー17から合成樹脂組成物18を供給し、一対のローラ19で圧延して多孔質青銅焼結層4の孔隙及び表面に合成樹脂組成物18を充填被覆して合成樹脂組成物18からなるすべり層5をもった複層板20を形成する。複層板20のすべり層5の表面8側の面には、図6に示すように、表面8と共に表面8と面一に多孔質青銅焼結層4の一部21が点在して露出している。ローラ19による合成樹脂組成物18の多孔質青銅焼結層4への圧延時において、多孔質青銅焼結層4の表面とローラ19の外周面との間の隙間及び一対のローラ19の加圧力を1〜2トンの範囲で調整することにより、合成樹脂組成物18の多孔質青銅焼結層4への充填被覆量が決定されると共に複層板20の板厚寸法が焼結板15の板厚寸法よりも1〜5%減じられる。多孔質青銅焼結層4の孔隙及び表面に合成樹脂組成物18を充填被覆してすべり層5を形成する工程において、すべり層5の表面8側の面において表面8と面一となって点在して露出する多孔質青銅焼結層4の一部21の露出割合が決定され、すべり層5と多孔質青銅焼結層4の一部21との合計表面積に対して0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%の面積割合の表面積をもって多孔質青銅焼結層4の一部21が露出している。
【0039】
複層板20は、ついで200〜250℃の温度に加熱された乾燥炉22内で数分間保持され、すべり層5を形成する合成樹脂組成物18から石油系溶剤が除去された後、加熱炉23において360〜380℃の温度で数分ないし10数分間加熱してすべり層5の焼成が行なわれる。
【0040】
焼成が行なわれた複層板20は一対の加圧ローラ24によって加圧され、複層板20の多孔質青銅焼結層4及び多孔質青銅焼結層4の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物18からなるすべり層5は一対の加圧ローラ24による加圧でもって圧縮され、複層板20の板厚寸法が焼結板15の板厚寸法よりも更に1〜5%減じられて複層板20の寸法精度が高められる。一対のローラ24による加圧力は、2〜5トンの範囲で調整されることが好ましい。とくに、加圧力が2トン未満であると、焼成後のすべり層5を形成する合成樹脂組成物18に充分な圧力が加わらず、粗密なすべり層となって摩擦摩耗特性を著しく低下させる虞がある。ローラ24の加圧により複層板20の多孔質青銅焼結層4の孔隙に充填された合成樹脂組成物18にローラ24の加圧後の応力緩和に起因する膨張を来たして、すべり層5の表面8において表面8と面一に点在して露出した多孔質青銅焼結層4の一部21は、図7に示すように、すべり層5の表面8より僅かに凹んだ状態になる。すべり層5の応力緩和に起因する膨張によって生じたすべり層5の表面8と多孔質青銅焼結層4の一部21の表面との差(凹み深さ)は、おおよそ1〜2.5μmである。すべり層5の表面8側での複層板20の表面積に対する多孔質青銅焼結層4の一部21の露出割合は、0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%がそのまま維持される。
【0041】
ついで、複層板20は、一対の案内ローラ25によって送られコイラー26に巻き取られる。
【0042】
このようにして作製された複層板20は所望の寸法に切断され、プレス加工及び機械加工が施されてスラスト軸受、すべり板又はスラストワッシャーとして適用される方形状、円板状又はリング状に加工される。
【0043】
方形状、円板状又はリング状に加工された複層板20には、(1)硫酸銅、硫酸及び塩素イオンを含む電解液中で銅を陽極とし、複層板20を陰極とした電気銅メッキ法、(2)硫酸浴、硼フッ酸浴、フェノールスルホン酸浴、アルカンスルホン酸浴、アルカノールスルホン酸浴等の酸性錫メッキ浴又はカリウム浴、ナトリウム浴等のアルカリ性錫メッキ浴中で錫を陽極とし、複層板20を陰極とした電気錫メッキ法、(3)硫酸亜鉛メッキ浴(硫酸浴)又は塩化亜鉛メッキ浴中で亜鉛を陽極とし、複層板20を陰極とした電気亜鉛メッキ法、(4)無電解ニッケルメッキ法(カニゼンメッキ)によりメッキ処理を施し、複層板20の裏金2の裏面6に銅、錫、亜鉛又はニッケルの裏側金属メッキ層7を形成すると共に、すべり層5の表面8において表面8より凹んだ多孔質青銅焼結層4の一部21の表面に銅、錫、亜鉛又はニッケルの表側金属メッキ層10を形成する。
【0044】
この金属メッキ処理により、すべり層5の表面8より凹んだ多孔質青銅焼結層4の一部21の表面に形成された銅、錫、亜鉛又はニッケルの表側金属メッキ層10の表面9は、すべり層5及び表側金属メッキ層10の合計の表面積に対して0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%の面積割合ですべり層5の表面8側で点在して露出している(図4参照)。このようにして平板体からなる板状の複層摺動部材1A、1B及び1Cが形成される。
【0045】
次に、円筒状の複層摺動部材及びその製造方法について説明する。
【0046】
図8に示すように、円筒状の複層摺動部材1Dは、図4を参照して、鋼板からなる裏金2と、裏金2の表面3に一体に形成された多孔質青銅焼結層4と、多孔質青銅焼結層4の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層5と、裏金2の裏面6に形成されていると共に導電性を有する裏側金属メッキ層7と、すべり層5の表面8側で点在してすべり層5の表面8と共に露出する表面9を有すると共に多孔質青銅焼結層4に電気的に接触して多孔質青銅焼結層4及びすべり層5に一体に形成された表側金属メッキ層10とを有しており、すべり層5と表側金属メッキ層10とが内面31側に、裏側金属メッキ層7が外面32側に夫々配された円筒部33を具備しており、円筒部33の円筒状の外面32は、露出した裏側金属メッキ層7の表面からなっており、円筒部33の円筒状の内面31は、露出したすべり層5の表面8と表側金属メッキ層10の表面9とからなっている。
【0047】
円筒部33の円筒状の内面31において、すべり層5の表面8側で点在した表面9を有すると共に導電性を有した表側金属メッキ層10は、すべり層5の表面8及び表側金属メッキ層10の表面9の合計表面積に対して0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%の面積割合をもって表面9で露出しており、表面8側で点在して露出した表面9を有した表側金属メッキ層10により円筒部33の円筒状の内面31に確実な通電性が付与され、而して、複層摺動部材1Dには導電性が付与されている。
【0048】
表側金属メッキ層10は、すべり層5の表面8の面積(すべり層5の表面積)と表側金属メッキ層10の表面8の面積(表側金属メッキ層10の表面積)とを合わせた合計表面積に対して0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%の面積割合の面積をもって表面9において露出しており、表側金属メッキ層10が斯かる少ない露出割合であるために、すべり層5における相手材との摺動において、複層摺動部材1Dは摩擦摩耗特性を低下させることはなく円滑な摺動を行わせることができる。
【0049】
表側金属メッキ層10は、前記と同様、導電性を有する銅、錫、亜鉛又はニッケルのいずれかから選択されたものから形成されている。
【0050】
次に、円筒状の複層摺動部材1Dの製造方法について説明する。
【0051】
前記コイラー26に巻き取られた複層板20を方形状に切断し、複層板20のすべり層5を内側にして円筒状に捲回して巻き円筒体(図10に示す円筒体40に相当)を形成する。巻き円筒体のすべり層5の表面8において多孔質青銅焼結層4の一部21の表面は、図7に示すように、すべり層5の応力緩和に起因する膨張によってすべり層5の表面8より僅かに凹んだ状態になっている。
【0052】
前記と同様、斯かる巻き円筒体を陰極として銅、錫、亜鉛又はニッケルの金属メッキを巻き円筒体に施し、巻き円筒体の外面に銅、錫、亜鉛又はニッケルの裏側金属メッキ層7を形成すると共に、すべり層5の表面8より凹んだ多孔質青銅焼結層4の一部21の表面に銅、錫、亜鉛又はニッケルの表側金属メッキ層10を形成する。
【0053】
この金属メッキ処理により、すべり層5と表側金属メッキ層10とが内面31側に、裏側金属メッキ層7が外面32側に夫々配された円筒部33が形成されることになり、円筒部33において、すべり層5の表面8側で点在した表面9を有すると共に導電性を有した表側金属メッキ層10は、すべり層5の表面積と表側金属メッキ層10の表面積との合計表面積に対して0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%の面積割合をもって表面9において露出しており、すべり層5の表面8側で点在して露出した表面9を有する表側金属メッキ層10によりすべり層5において確実な通電性が付与され、而して、円筒部33を具備した複層摺動部材1Dには裏側金属メッキ層7側とすべり層5側との間の導電性が付与される。
【0054】
次に、円筒部33に加えて円筒部33の一方の端部に拡径鍔部35を有する複層摺動部材1E及びその製造方法について説明する。
【0055】
図9に示すように、複層摺動部材1Eは、円筒部33と円筒部33の一方の端部に一体的に形成された拡径鍔部35とを有しており、円筒部33は、図4を参照して、鋼板からなる裏金2と、裏金2の表面3に一体に形成された多孔質青銅焼結層4と、多孔質青銅焼結層4の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層5と、裏金2の裏面6に形成されていると共に導電性を有する裏側金属メッキ層7と、すべり層5の表面8側で点在してすべり層5の表面8と共に露出する表面9を有すると共に多孔質青銅焼結層4に電気的に接触して多孔質青銅焼結層4及びすべり層5に一体に形成された表側金属メッキ層10とを有しており、すべり層5と表側金属メッキ層10とが内面31側に、裏側金属メッキ層7が外面32側に夫々配されて形成されており、円筒部33において、円筒部33の円筒状の外面32は、露出した裏側金属メッキ層7の表面からなっており、円筒部33の円筒状の内面31は、露出したすべり層5の表面8と表側金属メッキ層10の表面9とからなっており、拡径鍔部35は、図4を参照して、円筒部33の裏金2から一体的に伸びた鋼板からなる裏金2と、円筒部33の多孔質青銅焼結層4から一体的に伸びて拡径鍔部35の裏金2の表面に一体に形成された多孔質青銅焼結層4と、円筒部33のすべり層5から一体的に伸びて該拡径鍔部35の多孔質青銅焼結層4の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層5と、円筒部33の裏側金属メッキ層10から一体的に伸びて該拡径鍔部35の裏金5の裏面に形成されていると共に導電性を有する裏側金属メッキ層7と、該拡径鍔部35のすべり層5の表面8側で点在して当該拡径鍔部35のすべり層5の表面8と共に露出する表面9を有すると共に拡径鍔部35の多孔質青銅焼結層4に電気的に接触して該拡径鍔部35のすべり層5に一体に形成された表側金属メッキ層10とを有しており、拡径鍔部35の一方の環状の側面36は、露出した拡径鍔部35の裏側金属メッキ層7の表面からなっており、拡径鍔部35の他方の環状の側面37は、露出した拡径鍔部35のすべり層5の表面8と表側金属メッキ層10の表面9とからなっている。
【0056】
円筒部33及び拡径鍔部35において、すべり層5の表面8において表面8側で点在した表面9を有すると共に導電性を有する表側金属メッキ層10は、すべり層5の表面8の面積(すべり層5の表面積)と表側金属メッキ層10の表面8の面積(表側金属メッキ層10の表面積)とを合わせた合計表面積に対して0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%の面積割合をもって表面9で露出しており、斯かる表側金属メッキ層10によりすべり層5において確実な通電性が付与され、而して、複層摺動部材1Eには円筒部33及び拡径鍔部35の裏側金属メッキ層7側とすべり層5側との間の導電性が付与されている。
【0057】
円筒部33及び拡径鍔部35の表側金属メッキ層10は、すべり層5及び表側金属メッキ層10の合計表面積に対して0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%の面積割合と非常に少ない露出した表面積を有しているので、複層摺動部材1Eは、円筒部33及び拡径鍔部35のすべり層5における相手材との摺動において、摩擦摩耗特性を低下させることはない。
【0058】
円筒部33及び拡径鍔部35の表側金属メッキ層10は、前記と同様、導電性を有する銅、錫、亜鉛又はニッケルのいずれかから選択されたものから形成されている。
【0059】
次に、円筒部33と円筒部33の一方の端部に一体的に形成された拡径鍔部35とを有する複層摺動部材1Eの製造方法について説明する。
【0060】
前記コイラー26に巻き取られた複層板20を方形状に切断し、複層板20のすべり層5を内側にして円筒状に捲回して巻き円筒体40を作製する。
【0061】
図10に示すように、上面に円筒突出部41を、中央部に円孔42を夫々有したプレスダイ43及びプレスダイ43の円筒突出部41の外周面に嵌合した円孔44と上面に平面部45とを有するプレス46を準備し、プレス46の円孔44に巻き円筒体40を嵌入する。このとき、巻き円筒体40の一方の端部47はプレス46の円孔44より外に突出していると共に巻き円筒体40の軸方向への移動が禁止されるように巻き円筒体40の他方の端部48の端面49は、プレスダイ43の円筒突出部41に当接して拘束されている。
【0062】
この嵌入後、図11に示すように円柱部51及び円柱部51に連続する截頭円錐部52を有するポンチ53の円柱部51を巻き円筒体40内に嵌入して円孔44から外部に突出した巻き円筒体40の一方の端部47をポンチ53の截頭円錐部52により径方向外方に拡開せしめて端部47に漏斗状の拡径部54を形成する。
【0063】
ついで、図12に示すように小円柱部55及び小円柱部55に環状肩部56を介して連続して一体であって小円柱部55よりも大径の大円柱部57を具備するポンチ58を更に準備し、ポンチ58とプレス46との間に、一方の端部47に漏斗状の拡径部54が形成された巻き円筒体40を配置する。そして、ポンチ58の小円柱部55を巻き円筒体40内に嵌入しつつ先に形成された漏斗状の拡径部54を更に拡径して、最後に図13に示すように平面部45と環状肩部56とで挟圧された拡径鍔部素体61を形成し、これにより円筒部素体62と円筒部素体62の一方の端部に一体に設けられた拡径鍔部素体61とを備えた鍔付円筒体63を得る。
【0064】
鍔付円筒体63において、円筒部素体62の内面64及び拡径鍔部素体61の環状の側面65において多孔質青銅焼結層4の一部21の表面は、図7に示すように、すべり層5の応力緩和に起因する膨張によってすべり層5の表面8より凹んだ状態になっている。
【0065】
前記と同様にして、鍔付円筒体63を陰極として銅、錫、亜鉛又はニッケルのいずれかの金属メッキを鍔付円筒体63に施し、鍔付円筒体63の円筒部素体62の外面66及び拡径鍔部素体61の環状の側面67に銅、錫、亜鉛又はニッケルのいずれかの裏側金属メッキ層7を形成すると共に、円筒部素体62の内面64及び拡径鍔部素体61の環状の側面65におけるすべり層5の表面8より凹んだ多孔質青銅焼結層4の一部21の表面に銅、錫、亜鉛又はニッケルのいずれかの表側金属メッキ層10を形成する。
【0066】
この金属メッキ処理により、すべり層5の表面8側で点在した表面9を有すると共に導電性を有する表側金属メッキ層10は、すべり層5及び表側金属メッキ層10の表面積に対して0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%の面積割合をもって表面9で露出しており、すべり層5の表面8側で点在して露出した表側金属メッキ層10の表面9によりすべり層5において確実な通電性が付与され、而して、複層摺動部材1Eには、金属メッキ処理された円筒部素体62及び拡径鍔部素体61の夫々からなる円筒部33及び拡径鍔部35の裏側金属メッキ層7側とすべり層5側との間の導電性が付与される。
【0067】
複層摺動部材1A、1B及び1Cの導電性について、図14に示す測定装置71により電気抵抗を測定した。測定装置71は、絶縁基台72上に固定された導電性の円柱体73と、導電性の円板状の押圧体74と、円柱体73と押圧体74とに電気的に接続された電気抵抗測定器75とを具備しており、複層摺動部材1A、1B及び1Cの裏側金属メッキ層7を円柱体73の端面76に当接させて複層摺動部材1A、1B及び1Cを円柱体73に配置し、押圧体74の裏面77を複層摺動部材1A、1B及び1Cのすべり層5に当接させると共に押圧体74に荷重を負荷して複層摺動部材1A、1B及び1Cの電気抵抗値を押圧体74と円柱体73とに電気的に接続した電気抵抗測定器75によって測定した。
【0068】
複層摺動部材1Dの導電性については、図15に示す測定装置81により電気抵抗を測定した。測定装置81は、絶縁基台72上に固定された相対向する支持体82と、支持体82上に支承されていると共に外周面で複層摺動部材1Dに圧入された導電性のピン83と、ピン83と複層摺動部材1Dの外面31とに電気的に接続された電気抵抗測定器75とを具備しており、複層摺動部材1Dの外面32に荷重を負荷して複層摺動部材1Dの電気抵抗値をピン83と複層摺動部材1Dとに電気的に接続した電気抵抗測定器75によって測定した。
【0069】
複層摺動部材1Eの導電性については、図16に示す測定装置91により電気抵抗を測定した。測定装置91は、絶縁基台72上に固定されていると共に円孔92を有する導電性の円筒体93と、円筒部94及び円筒部94の一方の端部に設けられた環状鍔部95を有する導電性の押圧体96と、円筒体93と押圧体96の環状鍔部95とに電気的に接続された電気抵抗測定器75とを具備しており、複層摺動部材1Eの円筒部33を円筒体93の円孔92に嵌入すると共に拡径鍔部35の側面36を円筒体93の端面97に当接させて複層摺動部材1Eを円筒体93に配置し、押圧体96の円筒部94を複層摺動部材1Eの円筒部33内に挿入し、環状鍔部95の裏面98を複層摺動部材1Eの拡径鍔部35の側面37に当接させると共に押圧体96に荷重を負荷して複層摺動部材1Eの電気抵抗値を押圧体96の環状鍔部95と円筒体93とに電気的に接続した電気抵抗測定器75によって測定した。
【0070】
複層摺動部材1A、1B、1C、1D及び1Eの夫々において、裏側金属メッキ層7側とすべり層5側との間の電気抵抗値は1Ω以下の値を示し、複層摺動部材1A、1B、1C、1D及び1Eには導電性が付与されていることを確認した。
【0071】
また、すべり層5の摩擦摩耗特性に関して、乾燥摩擦条件においてすべり層5の摩擦係数は0.11以下と非常に低い値を示し、すべり層5の摩耗量は13μm以下の値を示した。
【0072】
次に、複層摺動部材1Cと1Dとを用いたヒンジ構造について説明する。図17及び図18に示す自動車ドアのヒンジ構造において、自動車の車体ピラー(図示せず)に固着される固定側の導電性のヒンジ片100は、車体ピラーへの固着用のボルトが挿通される複数個の取付孔101が形成された垂直板状の取付部102と、取付部102の上下の端部から水平方向に相対向して延設された一対の軸支部103とを具備しており、上下の軸支部103の夫々には軸孔104が形成されている。
【0073】
自動車ドアの前端部に固着される可動側の導電性のヒンジ片110は、垂直部111と、垂直部111の上下の端部から水平方向に相対向して延設された上下の水平部112と、水平部112の夫々の端部に垂直方向に延設された取付部113とを具備しており、一対の水平部112の夫々には軸孔114が形成されており、各取付部113には自動車ドアへの固着用のボルトが相通する取付孔115が形成されている。
【0074】
導電性の連結軸116は、両端部に夫々セレーション軸部117を備えていると共に一方のセレーション軸部117の端部に拡径頭部118を、他方のセレーション軸部117の端部外周面に環状溝119を夫々備えている。
【0075】
可動側のヒンジ片110の一対の水平部112に形成された軸孔114の夫々に、円筒状の複層摺動部材1Dの円筒部33を挿入し、固定側のヒンジ片100の軸支部103と可動側のヒンジ片110の水平部112との間に円環状の複層摺動部材1Cをすべり層5側の表面を該軸支部103に当接させて配置し、各軸支部103の軸孔104と円筒状の複層摺動部材1D内とに連結軸116を挿入し、連結軸116の拡径頭部118を一方の軸支部103の外面に当接させると共に、各セレーション軸部117を対応の軸孔104において軸支部103に係合させることにより、該連結軸116は複層摺動部材1Dの円筒部33に回転可能に支承されている。軸支部103の下面より下方に突出した連結軸116の端部外周面に形成された環状溝119において当該連結軸116の端部にはスナップリング120が嵌合されており、これにより該連結軸116は固定側及び可動側のヒンジ片100及び110に対し抜け止めされている。このようにして、固定側及び可動側ヒンジ片100及び110は連結軸116を介して互いに枢着されている。
【0076】
図17及び図18に示すヒンジ構造により、連結軸116の各セレーション軸部117が軸孔104において軸支部103に圧嵌されているため、連結軸116は、固定側のヒンジ100に対して相対回転することはなく、複層摺動部材1Dが軸孔114において水平部112に圧入嵌合されているため、複層摺動部材1Dの円筒部33の内面31と連結軸116の外周面との間及び円環状の複層摺動部材1Cのすべり層5側と固定側のヒンジ片100の軸支部103との間の相対回転は許容されるようになっており、当該相対回転は複層摺動部材1Dの円筒部33の内面31及び複層摺動部材1Cのすべり層5により円滑に行われるようになっている。
【0077】
図17及び図18に示すヒンジ構造においては、複層摺動部材1Dの円筒部33の内面31及び円環状の複層摺動部材1Cには、導電性を有する表側金属メッキ層10が表面9ですべり層5の表面8側で点在して露出して、複層摺動部材1C及び1Dには導電性が付与されているので、すべり層5の存在に拘わらず、ヒンジ片100の軸支部103とヒンジ片100の水平部112とは、一方では、複層摺動部材1Cを介して、他方では、連結軸116及び複層摺動部材1Dを介して電気的に相互に導通される結果、車体ピラー側に加えてドア側に別途高電圧電源からの配線を行うことなくドア等への静電塗装を行うことができる。
【0078】
次に、円筒部33及び拡径鍔部35を有する複層摺動部材1Eを用いたヒンジ構造について説明する。図19に示す円筒部33及び拡径鍔部35を有する複層摺動部材1Eを装着した自動車ドアのヒンジ構造において、可動側のヒンジ片110の一対の水平部112に形成された軸孔114の夫々に、拡径鍔部35を外側にして複層摺動部材1Eの円筒部33を挿入し、各拡径鍔部35を固定側のヒンジ片100の軸支部103と可動側のヒンジ片110の水平部112とで挟み、各軸支部103の軸孔104と各複層摺動部材1Eの円筒部33内とに連結軸116を挿入し、連結軸116の拡径頭部118を一方の軸支部103の外面に当接させると共に、各セレーション軸部117を対応の軸孔104において軸支部103に係合させることにより、連結軸116は複層摺動部材1Eの円筒部33に回転可能に支承されている。
【0079】
図19に示すヒンジ構造により、連結軸116の各セレーション軸部117が軸孔104において軸支部103に圧嵌されているため、連結軸116は、固定側のヒンジ片100に対して相対回転することはなく、摺動部材1Eの円筒部33が軸孔114において水平部112に圧入嵌合されているため、複層摺動部材1Eの円筒部33の内面31と連結軸116の外周面との間及び複層摺動部材1Eの拡径鍔部35の側面37と固定側のヒンジ片100の軸支部103との間の相対回転は許容されるようになっており、相対回転は円筒部33及び拡径鍔部35のすべり層5により円滑に行われるようになっている。
【0080】
図19に示すヒンジ構造においても、複層摺動部材1Eの円筒部33の内面31及び拡径鍔部35の側面37には、導電性を有する金属メッキ層10が表面9ですべり層5の表面8側で点在して露出して、複層摺動部材1Eには導電性が付与されているので、すべり層5の存在に拘わらず、ヒンジ片100の軸支部103とヒンジ片110の水平部112とは、一方では、拡径鍔部35を介して、他方では、連結軸116及び円筒部33を介して電気的に相互に導通される結果、車体ピラー側に加えてドア側に別途高電圧電源からの配線を行うことなくドア等への静電塗装を行うことができる。
【0081】
拡径鍔部35及び円筒部33を有する複層摺動部材1Eを装着したヒンジ構造の他の例としての図20及び21に示すトランクのヒンジ構造において、自動車の車体ピラーに固着される固定側の導電性のヒンジ片200は、水平部201と、水平部201の端部に一体的に設けられた取付部202とを具備しており、水平部201には自動車の車体ピラーへの固着用の複数個のボルト203が挿通する挿通孔204が形成されており、取付部202には軸孔205が形成されている。
【0082】
自動車のトランク側に固着される可動側の導電性のヒンジ片300は、垂直部301と、垂直部301の端部に一体的に設けられた取付部302とを具備しており、垂直部301には自動車のトランクへの固着用の複数個のボルト挿通孔303が形成されており、取付部302には軸孔304が形成されている。
【0083】
拡径鍔部35及び円筒部33を有する複層摺動部材1Eは、拡径鍔部35の側面36を固定側のヒンジ片200の取付部202の一方の板面206に当接させ、円筒部33を軸孔205においてヒンジ片200の取付部202に嵌合させ、斯かる嵌合後に軸孔205より突出した円筒部33の他方の端部311を径方向外側に拡径して形成された他の拡径鍔部312の一方の側面36をヒンジ片200の取付部202の他方の板面313に当接させて取付部202に固定されて、両拡径鍔部35及び312並びに円筒部33を有する複層摺動部材1Fとして形成されている。
【0084】
導電性の連結軸400は、円柱軸部401と、円柱軸部401の一方の端部に一体に設けられた環状鍔部402とを備えており、連結軸400は、円柱軸部401を複層摺動部材1Eの円筒部33内に挿通させ、環状鍔部402を複層摺動部材1Eの拡径鍔部35の他方の側面37に当接させ、更に、円柱軸部401を、複層摺動部材1Eの他の拡径鍔部312の他方の側面37に当接して配された可動側のヒンジ片300の取付部302の軸孔304に挿通させて配されており、軸孔304から突出した円柱軸部401の他方の端部403において可動側のヒンジ片300の取付部302にカシメ固定されている。
【0085】
図20及び21に示すトランクのヒンジ構造において、連結軸400は、可動側のヒンジ片300の取付部302に対して相対回転することなく、複層摺動部材1Eから形成されていると共に拡径鍔部35及び円筒部33に加えて拡径鍔部35と同様に形成された拡径鍔部312を有した複層摺動部材1Fは、固定側のヒンジ片200の取付部202に対して相対回転することはなく、固定側のヒンジ片200の取付部202に軸孔205において嵌合固定されているため、円筒部33の内面32と連結軸400の外周面との間、複層摺動部材1Fの拡径鍔部35の側面37のすべり層5と連結軸400の環状鍔部402との間及び可動側のヒンジ片300の取付部302と複層摺動部材1Fの拡径鍔部312の側面37のすべり層5との間での相対回転は許容されるようになっており、当該相対回転は円筒部33、拡径鍔部35及び拡径鍔部312のすべり層5により円滑に行われるようになっている。
【0086】
図20及び21に示すヒンジ構造において、複層摺動部材1Fの円筒部33の内面32並びに拡径鍔部35及び他の拡径鍔部312の側面37には、導電性を有する表側金属メッキ層10がすべり層5の表面8側で点在し表面9で露出して、複層摺動部材1Fには導電性が付与されているので、すべり層5の存在に拘わらず、ヒンジ片200の取付部202とヒンジ片300の取付部302とは、一方では、拡径鍔部35及び312を介して、他方では、連結軸400及び円筒部33を介して電気的に相互に導通される結果、車体ピラー側に加えてトランク側に別途高電圧電源からの配線を行うことなくトランク等への静電塗装を行うことができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
実施例1〜6
鋼板からなる裏金として、厚さ0.67mmの冷間圧延鋼板(SPCC)を準備し、錫9.0重量%と残部銅からなる青銅粉末として、見掛け密度が3.50g/cmの不規則形状であって、粒度分布について、粒径が150μmを超える粒子が10%、粒径が106μm以上で150μm以下の粒子が30%、粒径が75m以上で106μm以下の粒子が40%及び粒径が75μm以下の粒子が20%を呈する青銅粉末を裏金の表面に一様に散布し、これを還元性雰囲気に調整された加熱炉において、900℃の温度で60分間焼結し、裏金の表面に厚さ0.37mmの多孔質青銅焼結層を形成した焼結板(板厚寸法1.04mm)を得た。
【0089】
主成分をなすPTFEに、硫酸バリウム30重量%と燐酸塩10重量%とポリイミド樹脂10重量%とを配合した混合物100重量部に対し石油系溶剤20重量部を配合し、PTFEの室温転移点以下の温度(15℃)で混合し、湿潤性を有する合成樹脂組成物を得た。
【0090】
この合成樹脂組成物を多孔質青銅焼結層の表面に散布供給し、加圧力を(1)1.3トン及び(2)1.7トンに調整した一対のローラで圧延して多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に合成樹脂組成物を充填被覆し、鋼板からなる裏金と裏金の表面に一体に形成された多孔質青銅焼結層と多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層とからなり、板厚寸法を(1)1.010mm(板厚寸法の減少率2.9%)、(2)0.990mm(板厚寸法の減少率4.8%)とした複層板を得た。これらの複層板には、すべり層の表面に多孔質青銅焼結層の一部が点在して露出していることを確認した。
【0091】
得られた複層板(1)及び(2)を200℃の温度に加熱した熱風乾燥炉中に5分間保持して合成樹脂組成物中の溶剤を除去した後、乾燥した複層板を加熱炉で370℃の温度で10分間加熱焼成し、ついで複層板(1)に加圧力を0.8トン(実施例1−1)、2トン(実施例1−2)及び4トン(実施例1−3)に調整した一対のローラで圧延し、板厚寸法を1.000mm(実施例1−1)、0.980mm(実施例1−2)及び0.960mm(実施例1−3)とした複層板と、複層板(2)に加圧力を1トン(実施例2−1)、2トン(実施例2−2)及び5トン(実施例2−3)に調整した一対のローラで圧延し、板厚寸法を0.980mm(実施例2−1)、0.960mm(実施例2−2)及び0.940mm(実施例2−3)とした複層板を得た。この一対のローラによる圧延により、これらの複層板(実施例1−1)、(実施例1−2)、(実施例1−3)、(実施例2−1)、(実施例2−2)及び(実施例2−3)のすべり層の表面に対して点在して露出した多孔質青銅焼結層の一部の表面は、すべり層の表面より僅かに凹んだ状態になっていることを確認した。
【0092】
これらの複層板にプレス打ち抜き加工及び機械加工を施し、一辺の長さが40mmの方形状の複層板を得た。
【0093】
ついで、硫酸亜鉛メッキ浴(硫酸浴)中で亜鉛を陽極とし、複層板を陰極とした電気亜鉛メッキ法によりメッキ処理を施し、複層板の裏面に亜鉛メッキ層を形成すると共に、すべり層の表面より凹んだ多孔質青銅焼結層の一部の表面に亜鉛メッキ層を形成し、すべり層の表面と、すべり層の表面側で点在して露出した亜鉛メッキ層の表面とを有する複層摺動部材を得た。
【0094】
比較例1〜3
上記実施例の板厚寸法を1.000mm(比較例1−1)、0.980mm(比較例1−2)及び0.960mm(比較例1−3)とした複層板を比較例とした。
【0095】
上記実施例及び比較例の複層摺動部材について、すべり層の表面側で点在して露出した表側金属メッキ層としての亜鉛メッキ層のすべり層及び亜鉛メッキ層の合計表面積に対する露出割合を画像解析装置により測定した。そして、複層摺動部材について、測定装置71を用いて電気抵抗値を測定し、導電性の有無を試験した。露出割合及び電気抵抗値の測定結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
上記の測定結果から、電気抵抗値が極めて小さい値を示し、いずれの複層摺動部材においても導電性が付与されていることを確認した。
【0098】
次に、上記導電性を確認した実施例1−1〜2−3の複層摺動部材について、表2に示すスラスト試験条件でもってすべり層の摩擦摩耗特性を試験した。
【0099】
(表2)
<試験条件>
面圧 29.4N/mm(300kgf/cm
速度 0.05m/sec(3m/min)
試験時間 20時間
相手材 機械構造用炭素鋼
潤滑 無潤滑
試験方法 スラスト試験
【0100】
上記試験条件による摩擦摩耗特性の試験結果を表3に示す。
【0101】
【表3】

【0102】
上表中、摩耗量は試験後のすべり層の寸法変化量を示した。
【0103】
上記の試験結果から、すべり層に加えて亜鉛メッキ層が点在して露出した実施例1−1〜2−3の複層摺動部材は、乾燥潤滑条件(無潤滑)下においても、摩擦係数が0.11以下の低い値を示し、摩耗量も13μm以下の低い値を示した。
【0104】
以上のように、複層摺動部材には、すべり層に加えて表側金属メッキ層がすべり層及び表側金属メッキ層の合計表面積に対し0.1〜10%の面積割合で露出しているので、複層摺動部材に導電性を付与し得、また、すべり層の表面側で点在して露出した表側金属メッキ層はすべり層及び表側金属メッキ層の合計表面積に対してし0.1〜10%と非常に少ないので、すべり層における相手材との摺動において、摩擦摩耗特性を低下させることはない。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の方形状の複層摺動部材の斜視図である。
【図2】本発明の円板状の複層摺動部材の斜視図である。
【図3】本発明のリング状の複層摺動部材の斜視図である。
【図4】図1から図3に示す複層摺動部材の断面説明図である。
【図5】本発明の複層摺動部材の製造工程の説明図である。
【図6】散布後の複層板の断面図である。
【図7】焼成後の複層板の断面図である。
【図8】本発明の円筒状の複層摺動部材の斜視図である。
【図9】本発明の鍔付円筒状の複層摺動部材の斜視図である。
【図10】鍔付円筒状の複層摺動部材の好ましい製造方法の説明図である。
【図11】鍔付円筒状の複層摺動部材の好ましい製造方法の説明図である。
【図12】鍔付円筒状の複層摺動部材の好ましい製造方法の説明図である。
【図13】鍔付円筒状の複層摺動部材の好ましい製造方法の説明図である。
【図14】電気抵抗の測定装置を示す説明図である。
【図15】電気抵抗の測定装置を示す説明図である。
【図16】電気抵抗の測定装置を示す説明図である。
【図17】自動車ドアのヒンジ構造の斜視図である。
【図18】図17に示す自動車ドアのヒンジ構造の縦断面説明図である。
【図19】自動車ドアの他のヒンジ構造の縦断面説明図である。
【図20】自動車の他のヒンジ構造を示す平面図である。
【図21】図20に示す他のヒンジ構造の縦断面説明図である。
【符号の説明】
【0106】
1A、1B、1C 板状の複層摺動部材
1D 円筒状の複層摺動部材
1E 拡径鍔部を有する円筒状の複層摺動部材
1F 一対の拡径鍔部を有する円筒状の複層摺動部材
2 裏金
4 多孔質青銅焼結層
5 すべり層
7、10 金属メッキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体に形成された多孔質青銅焼結層と、該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層と、該裏金の裏面に形成されていると共に導電性を有する裏側金属メッキ層と、該すべり層の表面側で点在して当該すべり層の表面と共に露出する表面を有すると共に多孔質青銅焼結層に一体に形成された表側金属メッキ層とを具備している複層摺動部材。
【請求項2】
合成樹脂組成物は、充填材を含有した四ふっ化エチレン樹脂からなる請求項1に記載の複層摺動部材。
【請求項3】
充填材は、硫酸バリウム、燐酸塩、珪酸塩、耐熱性樹脂及び固体潤滑剤のうちの少なくとも一つから選択されたものである請求項2に記載の複層摺動部材。
【請求項4】
表側金属メッキ層及び裏側金属メッキ層のうちの少なくとも一方は、導電性を有する銅、錫、亜鉛及びニッケルのうちの少なくとも一つから選択されたものからなっている請求項1から3のいずれか一項に記載の複層摺動部材。
【請求項5】
表側金属メッキ層は、すべり層の表面積と表側金属メッキ層の表面積とを合わせた合計表面積に対して0.1〜10%の面積割合で点在して露出している表面を有している請求項1から4のいずれか一項に記載の複層摺動部材。
【請求項6】
複層摺動部材は、方形状、円板状若しくは円環状の平板体又は鍔無し若しくは鍔付円筒体からなっている請求項1から5のいずれか一項に記載の複層摺動部材。
【請求項7】
鋼板からなる裏金と、該裏金の表面に一体に形成された多孔質青銅焼結層と、該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層と、該裏金の裏面に形成されていると共に導電性を有する裏側金属メッキ層と、該すべり層の表面側で点在して当該すべり層の表面と共に露出する表面を有すると共に多孔質青銅焼結層に一体に形成された表側金属メッキ層とを有しており、該すべり層と表側金属メッキ層とが内面側に、裏側金属メッキ層が外面側に夫々配された円筒部を具備しており、該円筒部の円筒状の外面は、露出した裏側金属メッキ層の表面からなっており、該円筒部の円筒状の内面は、露出したすべり層の表面と表側金属メッキ層の表面とからなっている複層摺動部材。
【請求項8】
合成樹脂組成物は、充填材を含有した四ふっ化エチレン樹脂からなる請求項7に記載の複層摺動部材。
【請求項9】
充填材は、硫酸バリウム、燐酸塩、珪酸塩、耐熱性樹脂及び固体潤滑剤のうちの少なくとも一つから選択されたものである請求項8に記載の複層摺動部材。
【請求項10】
表側金属メッキ層及び裏側金属メッキ層のうちの少なくとも一方は、導電性を有する銅、錫、亜鉛及びニッケルのうちの少なくとも一つから選択されたものからなっている請求項7から9のいずれか一項に記載の複層摺動部材。
【請求項11】
表側金属メッキ層は、すべり層の表面積と表側金属メッキ層の表面積とを合わせた合計表面積に対して0.1〜10%の面積割合で点在して露出している請求項7から10のいずれか一項に記載の複層摺動部材。
【請求項12】
円筒部の円筒状の外面に連接された一方の環状の側面と円筒部の円筒状の内面に連接された他方の環状の側面とを有していると共に円筒部の少なくとも一方の端部に一体的に形成された拡径鍔部を更に具備しており、拡径鍔部は、円筒部の裏金から一体的に伸びた鋼板からなる裏金と、円筒部の多孔質青銅焼結層から一体的に伸びて該拡径鍔部の裏金の表面に一体に形成された多孔質青銅焼結層と、円筒部のすべり層から一体的に伸びて該拡径鍔部の多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層と、円筒部の裏側金属メッキ層から一体的に伸びて該拡径鍔部の裏金の裏面に形成されていると共に導電性を有する裏側金属メッキ層と、該拡径鍔部のすべり層の表面側で点在して当該拡径鍔部のすべり層の表面と共に露出する表面を有すると共に拡径鍔部の多孔質青銅焼結層に一体に形成された表側金属メッキ層とを有しており、拡径鍔部の一方の環状の側面は、露出した拡径鍔部の裏側金属メッキ層の表面からなっており、拡径鍔部の他方の環状の側面は、露出した拡径鍔部のすべり層の表面と表側金属メッキ層の表面とからなっている請求項7から11のいずれか一項に記載の複層摺動部材。
【請求項13】
拡径鍔部におけるすべり層の合成樹脂組成物は、充填材を含有した四ふっ化エチレン樹脂からなる請求項12に記載の複層摺動部材。
【請求項14】
拡径鍔部におけるすべり層の合成樹脂組成物の充填材は、硫酸バリウム、燐酸塩、珪酸塩、耐熱性樹脂及び固体潤滑剤のうちの少なくとも一つから選択されたものである請求項13に記載の複層摺動部材。
【請求項15】
拡径鍔部における表側金属メッキ層及び裏側金属メッキ層のうちの少なくとも一方は、導電性を有する銅、錫、亜鉛及びニッケルのいずれかから選択されたものからなっている請求項12から14のいずれか一項に記載の複層摺動部材。
【請求項16】
拡径鍔部における表側金属メッキ層は、拡径鍔部におけるすべり層の表面積と表側金属メッキ層の表面積とを合わせた合計表面積に対して0.1〜10%の面積割合で点在して露出している請求項12から15のいずれか一項に記載の複層摺動部材。
【請求項17】
円筒部の円筒状の外面に連接された一方の環状の側面と円筒部の円筒状の内面に連接された他方の環状の側面とを有していると共に円筒部の他方の端部に一体的に形成された他の拡径鍔部を更に具備しており、他の拡径鍔部は、円筒部の裏金から一体的に伸びた鋼板からなる裏金と、円筒部の多孔質青銅焼結層から一体的に伸びて該他の拡径鍔部の裏金の表面に一体に形成された多孔質青銅焼結層と、円筒部のすべり層から一体的に伸びて該他の拡径鍔部の多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物のすべり層と、円筒部の裏側金属メッキ層から一体的に伸びて該他の拡径鍔部の裏金の裏面に形成されていると共に導電性を有する裏側金属メッキ層と、該他の拡径鍔部のすべり層の表面側で点在して当該他の拡径鍔部のすべり層の表面と共に露出する表面を有すると共に他の拡径鍔部の多孔質青銅焼結層に一体に形成された表側金属メッキ層とを有しており、他の拡径鍔部の一方の環状の側面は、露出した他の拡径鍔部の裏側金属メッキ層の表面からなっており、他の拡径鍔部の他方の環状の側面は、露出した他の拡径鍔部のすべり層の表面と表側金属メッキ層の表面とからなっている請求項7から16のいずれか一項に記載の複層摺動部材。
【請求項18】
導電性を有する金属製の連結軸と、夫々軸孔を有すると共に当該軸孔に挿通された該連結軸を介して互いに枢着された一対のヒンジ片と、円筒部が該一方のヒンジ片の軸孔において当該一方のヒンジ片に嵌合された請求項7から16のいずれか一項に記載の複層摺動部材と、該一方のヒンジ片と他方のヒンジ片との間に、すべり層が他方のヒンジ片に接触して配されていると共に円環状の平板体からなっている請求項1から5のいずれか一項に記載の複層摺動部材とを具備しており、連結軸は、円筒部の内面に接触して当該円筒部及び平板体を貫通しているヒンジ構造。
【請求項19】
導電性を有する金属製の連結軸と、夫々軸孔を有すると共に当該軸孔に挿通された該連結軸を介して互いに枢着された一対のヒンジ片と、円筒部が該一方のヒンジ片の軸孔において当該一方のヒンジ片に嵌合されている請求項12から17のいずれか一項に記載の複層摺動部材とを具備しており、複層摺動部材の拡径鍔部は、当該拡径鍔部のすべり層が他方のヒンジ片に接触して該一方のヒンジ片と他方のヒンジ片との間に配されており、連結軸は、円筒部の内面に接触して当該円筒部及び拡径鍔部を貫通しているヒンジ構造。
【請求項20】
円柱軸部及び該円柱軸部の一方の端部に設けられた環状鍔部を備えていると共に導電性を有する金属製の連結軸と、夫々軸孔を有すると共に当該軸孔に挿通された該連結軸を介して互いに枢着された一対のヒンジ片と、円筒部が該一方のヒンジ片の軸孔において当該一方のヒンジ片に嵌合されている請求項17に記載の複層摺動部材とを具備しており、複層摺動部材の拡径鍔部は、当該拡径鍔部のすべり層が連結軸の環状鍔部に接触して該一方のヒンジ片と連結軸の環状鍔部との間に配されており、複層摺動部材の他の拡径鍔部は、当該他の拡径鍔部のすべり層が他方のヒンジ片に接触して該一対のヒンジ片の間に配されており、連結軸の円柱軸部は、円筒部の内面に接触して当該円筒部、拡径鍔部、他の拡径鍔部及び他方のヒンジ片を貫通している共にその他方の端部で該他方のヒンジ片にカシメ固定されているヒンジ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−164007(P2008−164007A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352698(P2006−352698)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】