説明

複素信号処理回路、受信回路、信号再生装置

【課題】IQインバランスの補正精度を改善する。
【解決手段】アナログ複素フィルタ(101)は、同相信号(I0)と直交信号(Q0)とを合成してアナログ信号(I1,Q1)を出力する。アナログ/デジタル変換器(102i,102q)は、アナログ信号(I1,Q1)をデジタル信号(I2,Q2)に変換する。デジタル複素フィルタ(103)は、デジタル信号(I2)およびデジタル信号(Q2)から直交信号(Q0)に対応する成分および同相信号(I0)に対応する成分をそれぞれ減衰させる。デジタル帯域制限フィルタ(104)は、デジタル複素フィルタ(103)からのデジタル信号(I3,Q3)からなるデジタル複素信号に含まれる目的成分およびイメージ成分を通過させるとともに隣接妨害成分を減衰させる。IQインバランス補正回路(105)は、デジタル帯域通過フィルタ(104)からのデジタル信号(I4,Q4)の間における直交性誤差および振幅誤差を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、同相信号および直交信号からなる複素信号を処理する複素信号処理回路に関し、さらに詳しくは、アナログ複素フィルタを備える複素信号処理回路において同相信号および直交信号の直交性誤差および振幅誤差の補正精度を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信の分野では、無線周波数信号(RF信号)をベースバンド付近の周波数を有する中間周波数信号(IF信号)にダウンコンバートする低IF受信方式が知られている。低IF受信方式では、IF信号の周波数を低く抑えることで、標準的なスーパーヘテロダイン方式と比べて部品点数を削減でき、受信システムの集積度を高めることが可能である。
【0003】
図8は、従来の低IF受信方式による受信回路の構成を示す。直交検波器93は、局部発振器(LO)92からのローカル信号LOiを低ノイズアンプ(LNA)91を通過した無線周波数信号RFに乗算して同相信号I90を出力するとともに、ローカル信号LOqを無線周波数信号RFに乗算して直交信号Q90を出力する。このようにして、無線周波数信号RFは、中間周波数信号(同相信号I90および直交信号Q90からなるアナログ複素信号(I90+jQ90))に変換される。なお、“j”は虚数単位である。また、以下においては、同相信号Ixおよび直交信号Qxからなる複素信号を複素信号(Ix+jQx)と記載する。
【0004】
無線周波数信号RFにはイメージ成分が含まれている場合がある。このイメージ成分の周波数は、周波数軸上において目的成分の周波数に対してローカル信号LOiの周波数を基準とする対称な位置に存在するので、直交検波器93における周波数変換によって目的成分とイメージ成分とが混ざり合って互いに区別できなくなる。そのため、アナログ複素信号(I90+jQ90)においてイメージ成分が充分に減衰している必要がある。このようなイメージ抑圧技術は、特許文献1などに開示されている。
【0005】
アナログ/デジタル変換器(ADC)94i,94qは、それぞれ、同相信号I90および直交信号Q90をデジタル信号である同相信号I92および直交信号Q92に変換する。IQインバランス補正回路(IQ)95は、同相信号I92と直交信号Q92との間における直交性誤差および振幅誤差(IQインバランス)を補正して、同相信号I93および直交信号Q93として出力する。デジタル複素フィルタ(DCF)96は、デジタル複素信号(I93+jQ93)のイメージ成分を抑圧するために、IQインバランス補正回路95からの同相信号I93および直交信号Q93に対して複素演算を施して同相信号I94および直交信号Q94を出力する。デジタル信号処理回路(DSP)97は、デジタル複素フィルタ96の出力に基づいてデータを復調する。
【0006】
このように、IQインバランス補正回路95によってIQインバランスを補正することにより、デジタル複素フィルタ96におけるイメージ抑圧比を向上させることができる。このようなIQインバランスの補正技術は、特許文献2,特許文献3などに開示されている。
【0007】
しかし、アナログ複素信号(I90+jQ90)に対する所望のイメージ抑圧比(すなわち、アナログ複素信号(I90+jQ90)とデジタル複素信号(I94+jQ94)との間におけるイメージ成分の信号レベルの差)がアナログ/デジタル変換器94i,94qの入力レンジ(すなわち、最大入力レベルとノイズレベルとの差)よりも大きい場合、アナログ/デジタル変換器94i,94qは、アナログ複素信号(I90+jQ90)を正確に変換できない。
【0008】
そのため、図9のように、アナログ/デジタル変換器94i,94qの前段には、アナログ複素信号(I90+jQ90)のイメージ成分を減衰させるためのアナログ複素フィルタ90が備えられている。アナログ複素フィルタ90は、同相信号I90および直交信号Q90を合成して同相信号I91および直交信号Q91を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−283354号公報
【特許文献2】特開平10−56484号公報
【特許文献3】特開2003−309612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図9に示した従来の受信回路では、アナログ複素フィルタ90からの同相信号I91および直交信号Q91には、それぞれ、余計な成分が含まれている。すなわち、アナログ複素フィルタ90の伝達関数を(H91(s)+jH92(s))とすると、アナログ複素信号(I91+jQ91)は次のようになる。
【0011】
(I91+jQ91)=(I90+jQ90)×(H91(s)+jH92(s))
=(H91(s)I90−H92(s)Q90)+j(H92(s)I90+H91(s)Q90)
すなわち、同相信号I91,直交信号Q91は、次のようになる。
【0012】
I91=H91(s)I90−H92(s)Q90
Q91=H92(s)I90+H91(s)Q90
このように、同相信号I91には同相成分(同相信号I90に対応する成分)の他に直交成分(直交信号Q90に対応する成分)が含まれることになる。同様に、直交信号Q91には直交成分の他に同相成分が含まれることになる。そのため、IQインバランス補正回路95は、同相信号I92と直交信号Q92との間における直交性誤差および振幅誤差(IQインバランス)を正確に補正できない。また、無線周波数信号RFに、目的成分(受信対象とする周波数に対応する信号成分)だけでなく、隣接妨害成分(周波数軸上において目的成分に隣接する信号成分)が含まれている場合、IQインバランス補正回路95の処理において目的成分に対応する目的周波数帯域に隣接妨害成分がリークし、その結果、目的成分の品質が劣化してしまう可能性がある。そのため、IQインバランスを正確に補正できない。このようにIQインバランスを正確に補正できないので、デジタル複素フィルタ96におけるイメージ抑圧比を向上させることが困難である。
【0013】
そこで、この発明は、アナログ複素フィルタを備える複素信号処理回路においてIQインバランスの補正精度を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の1つの局面に従うと、複素信号処理回路は、同相信号および直交信号からなるアナログ複素信号を処理する回路であって、上記アナログ複素信号に含まれるイメージ成分を減衰させるために、上記同相信号に上記直交信号を合成して第1のアナログ信号として出力するとともに上記直交信号に上記同相信号を合成して第2のアナログ信号として出力するアナログ複素フィルタと、上記第1および第2のアナログ信号を第1および第2のデジタル信号にそれぞれ変換するアナログ/デジタル変換器と、上記第1のデジタル信号から上記直交信号に対応する成分を減衰させて第3のデジタル信号として出力するとともに上記第2のデジタル信号から上記同相信号に対応する成分を減衰させて第4のデジタル信号として出力するために、上記第1および第2のデジタル信号に対して複素演算を施して上記第3および第4のデジタル信号を出力する第1のデジタル複素フィルタと、上記第3および第4のデジタル信号からなるデジタル複素信号のうち目的成分およびイメージ成分を通過させるとともに周波数軸上において上記目的成分に隣接する隣接妨害成分を減衰させるために、上記第3および第4のデジタル信号に対して複素演算を施して第5および第6のデジタル信号を出力するデジタル帯域制限フィルタと、上記第5のデジタル信号と上記第6のデジタル信号との間における直交性誤差および振幅誤差を補正するIQインバランス補正回路とを備える。
【0015】
上記複素信号処理回路では、第1のデジタル複素フィルタによって、第1および第2のデジタル信号のそれぞれにおける余計な成分を減衰させることができるので、IQインバランス補正回路は、第5のデジタル信号と第6のデジタル信号との間における直交性誤差および振幅誤差(IQインバランス)を正確に補正できる。また、デジタル帯域制限フィルタによって隣接妨害成分を減衰させることにより、隣接妨害成分のリークに起因する目的成分の品質劣化を抑制できるので、IQインバランスの補正精度をさらに改善できる。
【0016】
なお、上記デジタル帯域制限フィルタは、上記目的成分および上記イメージ成分にそれぞれ対応する周波数帯域を通過帯域とする帯域通過フィルタによって構成されても良いし、上記目的成分に隣接する隣接妨害成分に対応する周波数帯域を除去帯域とする帯域除去フィルタによって構成されても良い。
【0017】
また、上記複素信号処理回路は、上記IQインバランス補正回路によって補正された第5および第6のデジタル信号からなるデジタル複素信号に含まれるイメージ成分を抑圧する第2のデジタル複素フィルタをさらに備えていても良い。
【0018】
上記複素信号処理回路では、第5および第6のデジタル信号におけるIQインバランスが正確に補正されているので、第2のデジタル複素フィルタにおけるイメージ抑圧比を向上させることができる。
【0019】
また、上記複素信号処理回路は、上記第3および第4のデジタル信号からなるデジタル複素信号と上記第5および第6のデジタル信号からなるデジタル複素信号との間における隣接妨害成分の信号レベルの差が所定値よりも小さい場合に、上記デジタル帯域制限フィルタを停止状態にする制御回路をさらに備えていても良い。
【0020】
上記複素信号処理回路では、デジタル帯域制限フィルタにおける不要な消費電力を削減できるだけでなく、デジタル帯域制限フィルタの不要な動作に起因するノイズ発生を防止できる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、IQインバランスの補正精度を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態1による受信回路の構成例を示す図。
【図2】(A)図1に示したアナログ複素フィルタの内部構成例を示す図。(B)図1に示したデジタル複素フィルタの内部構成例を示す図。
【図3】図1に示した複素信号処理回路による動作について説明するための図。
【図4】図1に示した受信回路の変形例について説明するための図。
【図5】図4に示した複素信号処理回路による動作について説明するための図。
【図6】実施形態2による受信回路の構成例を示す図。
【図7】図1に示した受信回路を備える信号再生装置の構成例を示す図。
【図8】従来の受信回路の構成例を示す図。
【図9】アナログ複素フィルタを備える従来の受信回路の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施の形態を図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一の符号を付しその説明は繰り返さない。
【0024】
(実施形態1)
図1は、実施形態1による受信回路の構成例を示す。受信回路1は、無線周波数信号RFからデータ(例えば、映像データや音声データなど)を復調するものであり、例えば、ラジオチューナ、デジタルテレビチューナなどである。受信回路1は、低ノイズアンプ(LNA)11と、局部発振器(LO)12と、直交検波器13と、複素信号処理回路10と、デジタル信号処理回路(DSP)14とを備える。なお、ここでは、受信回路1は、低IF受信方式に従って動作するものとする。
【0025】
低ノイズアンプ11は、アンテナによって受信した無線周波数信号RFを増幅する。局部発振器12は、ローカル信号LOiを出力する。ローカル信号LOiの周波数は、無線周波数信号RFの周波数よりも低い。直交検波器13は、低ノイズアンプ11によって増幅された無線周波数信号RFに対してローカル信号LOiを乗算して同相信号I0を出力するとともに、無線周波数信号RFに対してローカル信号LOq(ローカル信号LOiに直交する信号)を乗算して直交信号Q0を出力する。例えば、直交検波器13は、ローカル信号LOiを(π/2)だけ遅延させてローカル信号LOqとして出力する移相器110と、無線周波数信号RFにローカル信号LOiを乗算する混合器(MIX)111iと、無線周波数信号RFにローカル信号LOqを乗算する混合器111qとを含む。このようにして、無線周波数信号RFは、中間周波数信号(同相信号I0および直交信号Q0からなるアナログ複素信号(I0+jQ0))に変換される。
【0026】
複素信号処理回路10は、直交検波器13からのアナログ複素信号(I0+jQ0)を処理してデジタル複素信号(I6+jQ6)を出力する。デジタル信号処理回路14は、複素信号処理回路10からのデジタル複素信号(I6+jQ6)に基づいてデータを復調する。
【0027】
〔複素信号処理回路〕
複素信号処理回路10は、アナログ複素フィルタ(ACF)101と、アナログ/デジタル変換器(ADC)102i,102qと、デジタル複素フィルタ(DCF)103と、帯域通過フィルタ(BPF)104と、IQインバランス補正回路(IQ)105と、デジタル複素フィルタ106とを備える。
【0028】
アナログ複素フィルタ101は、アナログ複素信号(I0+jQ0)のイメージ成分を減衰させるために、同相信号I0に直交信号Q0を合成して同相信号I1として出力するとともに、直交信号Q0に同相信号I0を合成して直交信号Q1として出力する。例えば、図2Aのように、アナログ複素フィルタ101は、正の相互コンダクタンスを有するトランスコンダクタンスアンプT1,T2,T3と、負の相互コンダクタンスを有するトランスコンダクタンスアンプT4と、容量C1,C2とを含む。
【0029】
アナログ/デジタル変換器102iは、同相信号I1をデジタル信号である同相信号I2に変換し、アナログデジタル変換器102qは、直交信号Q1をデジタル信号である直交信号Q2に変換する。
【0030】
デジタル複素フィルタ103は、同相信号I2および直交信号Q2に対して複素演算を施し、その演算結果を同相信号I3および直交信号Q3として出力する。例えば、図2Bのように、デジタル複素フィルタ103は、IIRフィルタやFIRフィルタなどで構成されたデジタルフィルタDF1,DF2,DF3,DF4と、加算器113i,113qとを含む。
【0031】
帯域通過フィルタ104(デジタル帯域制限フィルタ)は、デジタル複素信号(I3+jQ3)に含まれる目的成分およびイメージ成分を通過させるとともにデジタル複素信号(I3+jQ3)に含まれる隣接妨害成分を減衰させるために、同相信号I3および直交信号Q3に対して複素演算を施し、その演算結果を同相信号I4および直交信号Q4として出力する。なお、目的成分とは、処理対象(受信対象)とする信号成分のことであり、イメージ成分とは、周波数軸上において目的成分に対してローカル信号LOiの周波数を基準とする対称な位置に存在する信号成分のことであり、隣接妨害成分とは、周波数軸上において目的成分に隣接する信号成分のことである。また、ここでは、帯域通過フィルタ104は、デジタル複素信号(I3+jQ3)に含まれる目的成分およびイメージ成分にそれぞれ対応する目的周波数帯域およびイメージ周波数帯域を通過帯域とし、その他の周波数帯域を除去帯域とするフィルタ特性を有する。
【0032】
IQインバランス補正回路105は、同相信号I4と直交信号Q4との間における直交性誤差および振幅誤差(IQインバランス)を補正して、補正後の同相信号I4および直交信号Q4を同相信号I5および直交信号Q5として出力する。
【0033】
デジタル複素フィルタ106は、デジタル複素信号(I5+jQ5)のイメージ成分を抑圧するために、同相信号I5および直交信号Q5に対して複素演算を施し、その演算結果を同相信号I6および直交信号Q6として出力する。
【0034】
〔動作〕
次に、図3A〜図3Dを参照して、図1に示した複素信号処理回路10による動作について説明する。
【0035】
まず、直交検波器13は、無線周波数信号RFをアナログ複素信号(I0+jQ0)に変換する。図3Aのように、アナログ複素信号(I0+jQ0)には、目的周波数(+fIF)に対応する目的成分fc1と、イメージ周波数(−fIF)に対応するイメージ成分fciとが含まれている。また、ここでは、アナログ複素信号(I0+jQ0)には、隣接妨害成分fca,fcbも含まれている。
【0036】
次に、アナログ複素フィルタ101は、アナログ複素信号(I0+jQ0)に含まれるイメージ成分fciを減衰させ、アナログ複素信号(I1+jQ1)として出力する。図3Bのように、アナログ複素信号(I1+jQ1)に含まれるイメージ成分fciの信号レベルは、アナログ/デジタル変換器102i,102qの入力レンジ内に収まる。
【0037】
次に、アナログ複素信号(I1+jQ1)は、アナログ/デジタル変換器102i,102qおよびデジタル複素フィルタ103によって処理されて、デジタル複素信号(I3+jQ3)に変換される。次に、デジタル複素信号(I3+jQ3)は、帯域通過フィルタ104によって処理されて、デジタル複素信号(I4+jQ4)に変換される。図3Cのように、帯域通過フィルタ104は、目的成分fc1およびイメージ成分fciにそれぞれ対応する目的周波数帯域FB1およびイメージ周波数帯域FB2を通過帯域とするフィルタ特性f104を有する。したがって、デジタル複素信号(I3+jQ3)から隣接妨害成分fca,fcbが除去され、デジタル複素信号(I3+jQ3)に含まれる目的成分fc1およびイメージ成分fciがデジタル複素信号(I4+jQ4)として出力される。
【0038】
次に、デジタル複素信号(I4+jQ4)は、IQインバランス補正回路105およびデジタル複素フィルタ106によって処理されて、デジタル複素信号(I6+jQ6)に変換される。図3Dのように、デジタル複素フィルタ106の複素演算によって、デジタル複素信号(I6+jQ6)に含まれるイメージ成分が抑圧される。
【0039】
〔デジタル複素フィルタによる処理〕
次に、デジタル複素フィルタ103による処理について説明する。なお、アナログ複素フィルタ101およびデジタル複素フィルタ103のそれぞれにおける伝達関数を次のように表記する。
【0040】
アナログ複素フィルタ101のアナログ伝達関数:H1(s)+jH2(s)
アナログ伝達関数を双一次変換して得られる伝達関数:H1(z)+jH2(z)
デジタル複素フィルタ103のデジタル伝達関数:H3(z)+jH4(z)
さらに、ここでは、デジタル伝達関数の実数部H3(z)は、伝達関数(H1(z)+jH2(z))の実数部H1(z)に対応し、デジタル伝達関数の虚数部H4(z)は、伝達関数(H1(z)+jH2(z))の虚数部H2(z)の符号を反転して得られる値(-H2(z))に対応するものとする。
【0041】
アナログ複素フィルタ101は、アナログ複素信号(I0+jQ0)に対して次のような複素演算を施してアナログ複素信号(I1+jQ1)を出力する。
【0042】
(I1+jQ1)=(H1(s)+jH2(s))×(I0+jQ0)
=(H1(s)I0−H2(s)Q0)+j(H2(s)I0+H1(s)Q0)
すなわち、同相信号I1および直交信号Q1は、次のようになる。
【0043】
I1=H1(s)I0−H2(s)Q0 …(式1)
Q1=H2(s)I0+H1(s)Q0 …(式2)
次に、アナログ/デジタル変換器102i,102qは、アナログ複素信号(I1+jQ1)をデジタル複素信号(I2+jQ2)に変換する。次に、デジタル複素フィルタ103は、デジタル複素信号(I2+jQ2)に対して次のような複素演算を施してデジタル複素信号(I3+jQ3)を出力する。
【0044】
(I3+jQ3)=(H3(z)+jH4(z))×(I2+jQ2) …(式3)
I2=I1、Q2=Q1であるので、(式1),(式2),(式3)より、同相信号I3,直交信号Q3は、次の(式4),(式5)のようになる。
【0045】
I3=(H1(s)H3(z)−H2(s)H4(z))I0−(H1(s)H4(z)+H2(s)H3(z))Q0 …(式4)
Q3=(H1(s)H4(z)+H2(s)H3(z))I0+(H1(s)H3(z)−H2(s)H4(z))Q0 …(式5)
ここでは、H3(z)=H1(z)≒H1(s)、H4(z)=-H2(z)≒-H2(s)であるので、
H1(s)H4(z)+H2(s)H3(z)≒0 …(式6)
したがって、(式4),(式5),(式6)より、同相信号I3,直交信号Q3は次の(式7),(式8)のようになる。
【0046】
I3≒(H1(s)H3(z)−H2(s)H4(z))I0 …(式7)
Q4≒(H1(s)H3(z)−H2(s)H4(z))Q0 …(式8)
このように、同相信号I3から直交信号Q0に関連する項が除去され、直交信号Q3から同相信号I0に関連する項が除去される。
【0047】
以上のように、デジタル複素フィルタ103は、同相信号I2から直交成分(直交信号Q0に対応する成分)を減衰させて同相信号I3として出力するとともに、直交信号Q2から同相成分(同相信号I0に対応する成分)を減衰させて直交信号Q3として出力する。これにより、同相信号I3および直交信号Q3のそれぞれにおいて余計な成分を減衰させることができるので、IQインバランス補正回路105は、同相信号I4と直交信号Q4との間における直交性誤差および振幅誤差を正確に補正できる。また、帯域通過フィルタ104(デジタル帯域制限フィルタ)は、デジタル複素信号(I3+jQ3)に含まれる目的成分fc1およびイメージ成分fciを通過させるとともにデジタル複素信号(I3+jQ3)に含まれる隣接妨害成分fca,fcbを減衰させる。これにより、隣接妨害成分のリークに起因する目的成分の品質劣化を抑制でき、IQインバランスの補正精度をさらに改善できる。
【0048】
また、IQインバランスを正確に補正できるので、デジタル複素フィルタ106におけるイメージ抑圧比を向上させることができる。これにより、デジタル信号処理回路14は、デジタル複素フィルタ106からの複素信号(I6+jQ6)に基づいてデータを正確に復調できる。
【0049】
(伝達関数)
なお、次の(式9)および(式10)が成立するようにアナログ複素フィルタ101およびデジタル複素フィルタ103のそれぞれの伝達関数を設定しても良い。
【0050】
|H1(s)H4(z)+H2(s)H3(z)|<|H2(s)|…(式9)
|H1(s)H4(z)+H2(s)H3(z)|<|H1(s)H3(z)−H2(s)H4(z)|…(式10)
このように伝達関数を設定することにより、同相信号I3に含まれる直交成分を同相信号I2に含まれる直交成分よりも小さくすることができ、直交信号Q3に含まれる同相成分を直交信号Q2に含まれる同相成分よりも小さくすることができる。これにより、IQインバランスの補正精度を改善できる。
【0051】
また、上記の(式4),(式5)より、“H1(s)H4(z)+H2(s)H3(z)”が“0”に近い程、同相信号I3および直交信号Q3のそれぞれに含まれる余計な成分が小さくなることがわかる。特に、“H1(s)H4(z)+H2(s)H3(z)=0”が成立するようにアナログ複素フィルタ101およびデジタル複素フィルタ103のそれぞれの伝達関数を設定することにより、同相信号I3に含まれる直交成分および直交信号Q3に含まれる同相成分を最小にすることができる。
【0052】
(実施形態1の変形例)
なお、図4のように、複素信号処理回路10は、図1に示した帯域通過フィルタ104に代えて、帯域除去フィルタ(BEF)104aを備えていても良い。帯域除去フィルタ104a(デジタル帯域制限フィルタ)は、帯域通過フィルタ104と同様に、デジタル複素信号(I3+jQ3)に含まれる目的成分およびイメージ成分を通過させるとともにデジタル複素信号(I3+jQ3)に含まれる隣接妨害成分を減衰させるために、同相信号I3および直交信号Q3に対して複素演算を施し、その演算結果を同相信号I4および直交信号Q5として出力する。ここでは、帯域除去フィルタ104aは、デジタル複素信号(I3+jQ3)に含まれる隣接妨害成分に対応する隣接周波数帯域を除去帯域とし、その他の周波数帯域を通過帯域とするフィルタ特性を有する。このように構成した場合も、隣接妨害成分のリークに起因する目的成分の品質劣化を抑制でき、IQインバランスの補正精度をさらに改善できる。
【0053】
ここで、図5A〜図5Dを参照して、図4に示した複素信号処理回路10による動作について説明する。なお、説明の簡略化のため、無線周波数信号RFには、隣接妨害成分fcb(周波数軸上において目的成分fc1よりも高周波側に位置する隣接妨害成分)は、含まれていないものとする。
【0054】
直交検波器13は、無線周波数信号RFをアナログ複素信号(I0+jQ0)に変換する。図5Aのように、アナログ複素信号(I0+jQ0)には、目的成分fc1と、イメージ成分fciと、隣接妨害成分fcaとが含まれている。
【0055】
次に、アナログ複素フィルタ101は、アナログ複素信号(I0+jQ0)に含まれるイメージ成分fciを減衰させ、アナログ複素信号(I1+jQ1)として出力する。図5Bのように、アナログ複素信号(I1+jQ1)に含まれるイメージ成分fciの信号レベルは、アナログ/デジタル変換器102i,102qの入力レンジ内に収まる。
【0056】
次に、アナログ複素信号(I1+jQ1)は、アナログ/デジタル変換器102i,102qおよびデジタル複素フィルタ103によって処理されて、デジタル複素信号(I3+jQ3)に変換される。次に、デジタル複素信号(I3+jQ3)は、帯域除去フィルタ104aによって処理されて、デジタル複素信号(I4+jQ4)に変換される。図5Cのように、帯域除去フィルタ104aは、隣接妨害成分fcaに対応する隣接周波数帯域FB3を除去帯域とするフィルタ特性f104aを有する。したがって、デジタル複素信号(I3+jQ3)から隣接妨害成分fcaが除去され、デジタル複素信号(I3+jQ3)に含まれる目的成分fc1およびイメージ成分fciがデジタル複素信号(I4+jQ4)として出力される。
【0057】
次に、デジタル複素信号(I4+jQ4)は、IQインバランス補正回路105およびデジタル複素フィルタ106によって処理されて、デジタル複素信号(I6+jQ6)に変換される。図5Dのように、デジタル複素フィルタ106の複素演算によって、デジタル複素信号(I6+jQ6)に含まれるイメージ成分が抑圧される。
【0058】
なお、帯域除去フィルタ104aの前段にローパスフィルタやデシメーションフィルタを設けても良い。このようなローパスフィルタやデシメーションフィルタは、目的周波数帯域FB1を含む低周波数帯域を通過帯域とし、隣接妨害成分fcb(周波数軸上において目的成分fc1よりも高周波側に位置する隣接妨害成分)に対応する隣接周波数帯域を含む高周波数帯域を除去帯域とするフィルタ特性を有することが好ましい。このように構成することにより、無線周波数信号RFに隣接妨害成分fcbが含まれている場合であっても、ローパスフィルタやデシメーションフィルタの低域通過特性によって隣接妨害成分fcbを減衰させることができる。
【0059】
(実施形態2)
図6は、実施形態2による受信回路の構成例を示す。この受信回路2は、図1に示した複素信号処理回路10に代えて、複素信号処理回路20を備える。その他の構成は、図1と同様である。複素信号処理回路20は、図1に示した構成に加えて、制御回路201を含む。
【0060】
制御回路201は、デジタル複素信号(I3+jQ3)に基づいてデジタル複素信号(I3+jQ3)に含まれる隣接妨害成分の信号レベルを算出し、デジタル複素信号(I4+jQ4)に基づいてデジタル複素信号(I4+jQ4)に含まれる隣接妨害成分の信号レベルを算出する。次に、制御回路201は、デジタル複素信号(I3+jQ3)とデジタル複素信号(I4+jQ4)との間における隣接妨害成分の信号レベルとの差を算出する。これらの信号レベルの差が所定値(例えば、デジタル複素フィルタ106においてイメージ成分を十分に抑圧できる程度の信号レベル差)よりも大きい場合、制御回路201は、帯域通過フィルタ104を駆動状態のまま維持する。一方、信号レベルの差が所定値よりも小さい場合、制御回路201は、帯域通過フィルタ104を停止状態にする。帯域通過フィルタ104は、停止状態になると、同相信号I3および直交信号Q3を同相信号I4および直交信号Q4としてそのまま出力する。
【0061】
以上のように、デジタル複素信号(I3+jQ3)に含まれる隣接妨害成分を抑圧する必要がない場合に帯域通過フィルタ104(デジタル帯域制限フィルタ)を停止状態にすることにより、帯域通過フィルタ104における不要な消費電力を削減できるだけでなく、帯域通過フィルタ104の不要な動作に起因するノイズ発生を防止できる。
【0062】
なお、複素信号処理回路20は、帯域通過フィルタ104に代えて、図4に示した帯域除去フィルタ104aを備えていても良い。
【0063】
(信号再生装置)
図7のように、受信回路1,2は、信号再生装置に適用可能である。図7に示した信号再生装置は、無線周波数信号RFを受信して映像および音声の少なくとも一方を再生するものであり、例えば、携帯電話やデジタルテレビなどの映像音声再生装置や、ラジオなどの音声再生装置などである。この信号再生装置は、受信回路1の他に、再生回路3を備える。再生回路3は、受信回路1によって復調されたデータDATAに基づいて映像および音声の少なくとも一方を再生する。この信号再生回路では、受信回路1においてデータが正確に復調されるので、再生回路3は、映像および/または音声を正確に再生できる。
【0064】
なお、以上の実施形態において、受信回路は、低IF受信方式に従って無線周波数信号を処理するものとして説明したが、受信回路は、他のIF受信方式(例えば、ゼロIF受信方式など)に従って無線周波数信号を処理するものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上述の複素信号処理回路は、IQインバランスの補正精度を改善できるので、携帯電話やデジタルテレビなどの映像音声再生装置や、ラジオなどの音声再生装置などに有用である。
【符号の説明】
【0066】
1,2 受信回路
10,20 複素信号処理回路
11 低ノイズアンプ
12 局部発振器
13 直交検波器
14 デジタル信号処理回路
101 アナログ複素フィルタ
102 アナログ/デジタル変換器
103 デジタル複素フィルタ(第1のデジタル複素フィルタ)
104 帯域通過フィルタ
104a 帯域除去フィルタ
105 IQインバランス補正回路
106 デジタル複素フィルタ(第2のデジタル複素フィルタ)
201 制御回路
3 再生回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同相信号および直交信号からなるアナログ複素信号を処理する回路であって、
前記アナログ複素信号に含まれるイメージ成分を減衰させるために、前記同相信号に前記直交信号を合成して第1のアナログ信号として出力するとともに前記直交信号に前記同相信号を合成して第2のアナログ信号として出力するアナログ複素フィルタと、
前記第1および第2のアナログ信号を第1および第2のデジタル信号にそれぞれ変換するアナログ/デジタル変換器と、
前記第1のデジタル信号から前記直交信号に対応する成分を減衰させて第3のデジタル信号として出力するとともに前記第2のデジタル信号から前記同相信号に対応する成分を減衰させて第4のデジタル信号として出力するために、前記第1および第2のデジタル信号に対して複素演算を施して前記第3および第4のデジタル信号を出力する第1のデジタル複素フィルタと、
前記第3および第4のデジタル信号からなるデジタル複素信号のうち目的成分およびイメージ成分を通過させるとともに周波数軸上において前記目的成分に隣接する隣接妨害成分を減衰させるために、前記第3および第4のデジタル信号に対して複素演算を施して第5および第6のデジタル信号を出力するデジタル帯域制限フィルタと、
前記第5のデジタル信号と前記第6のデジタル信号との間における直交性誤差および振幅誤差を補正するIQインバランス補正回路とを備える
ことを特徴とする複素信号処理回路。
【請求項2】
請求項1において、
前記デジタル帯域制限フィルタは、前記目的成分および前記イメージ成分にそれぞれ対応する周波数帯域を通過帯域とする帯域通過フィルタによって構成される
ことを特徴とする複素信号処理回路。
【請求項3】
請求項1において、
前記デジタル帯域制限フィルタは、前記目的成分に隣接する隣接妨害成分に対応する周波数帯域を除去帯域とする帯域除去フィルタによって構成される
ことを特徴とする複素信号処理回路。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
前記IQインバランス補正回路によって補正された第5および第6のデジタル信号からなるデジタル複素信号に含まれるイメージ成分を抑圧する第2のデジタル複素フィルタをさらに備える
ことを特徴とする複素信号処理回路。
【請求項5】
請求項1において、
前記第3および第4のデジタル信号からなるデジタル複素信号と前記第5および第6のデジタル信号からなるデジタル複素信号との間における隣接妨害成分の信号レベルの差が所定値よりも小さい場合に、前記デジタル帯域制限フィルタを停止状態にする制御回路をさらに備える
ことを特徴とする複素信号処理回路。
【請求項6】
無線周波数信号からデータを復調する回路であって、
前記無線周波数信号をアナログ複素信号に変換する直交検波器と、
前記直交変換回路からのアナログ複素信号を処理してデジタル複素信号を出力する請求項1〜5のいずれか1項に記載の複素信号処理回路と、
前記複素信号処理回路からのデジタル複素信号に基づいてデータを復調するデジタル信号処理回路とを備える
ことを特徴とする受信回路。
【請求項7】
無線周波数信号を受信して映像および音声の少なくとも一方を再生する装置であって、
前記無線周波数信号からデータを復調する請求項6に記載の受信回路と、
前記受信回路によって復調されたデータに基づいて映像および音声の少なくとも一方を再生する再生回路とを備える
ことを特徴とする信号再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−199554(P2011−199554A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63609(P2010−63609)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】