説明

視野特定装置及び表示位置調整装置

【課題】使用者に応じて適切に視野を特定することのできる視野特定装置、及び使用者に応じて適切な表示位置に画像を表示することのできる表示位置調整装置を提供する。
【解決手段】EEGセンサ4が運転者Dの脳波を検出する一方で、HUD制御部2が点滅像Vを移動させる。運転者Dが一定の周波数で点滅する点滅像Vを見ると、運転者Dの脳波には点滅周波数に同期した周波数のピークが現れる。また、見ていた点滅像Vが見えなくなると点滅周波数に同期していた周波数のピークが消滅する。従って、HUD制御部2は、脳波のピークが出現した時点における点滅像Vの表示位置、あるいは消滅した時点における点滅像Vの表示位置を、使用者の視野Fの臨界位置であると判断する。運転者自身の反応に基づいて視野Fを特定することで、運転者Dに応じて適切に視野Fを特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の視野を特定する視野特定装置及び特定された視野に基づいて画像の表示位置を調整する表示位置調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の視野特定装置及び表示位置調整装置として、使用者の眼球位置と眼球中心座標から視線位置を検出し、検出結果に基づいて表示像の結像位置を算出し、演算結果に基づいて可視光の出射方向を調整するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。従来の装置においては、複数回眼球位置を検出し、各時刻における眼球位置と基準眼球位置との距離あるいは角度の差に基づいて光路を調整して画像の表示位置を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−155720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の装置においては、眼球位置と眼球中心座標から視線位置や視野を推定している。ここで、使用者ごとに体格や姿勢や視野の広さが異なるため、使用者によって最適な表示位置は異なる。しかし、上述のような装置を用いてヘッドアップディスプレイの画像の表示位置を調整する方法では、個々の使用者に対しての視野を検出していないため、視野の個人差に対応できないという問題がある。従って、使用者に応じて適切に視野を特定することが求められる。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、使用者に応じて適切に視野を特定することのできる視野特定装置、及び使用者に応じて適切な表示位置に画像を表示することのできる表示位置調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る視野特定装置は、使用者の脳波を検出する脳波検出手段と、使用者の視線側の位置で点滅部を移動させる移動制御手段と、使用者の視野を特定する視野特定手段と、を備え、視野特定手段は、使用者が点滅部を視認することによって脳波検出手段で検出される検出値と、点滅部の位置とに基づいて、使用者の視野を特定することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る視野特定装置では、脳波検出手段が使用者の脳波を検出する一方で、移動制御手段が点滅部を移動させることができる。使用者が一定の周波数で点滅する点滅部を見ると、使用者の脳波には点滅周波数に同期した周波数のピークが現れる。また、見ていた点滅部が見えなくなると点滅周波数に同期していた周波数のピークが消滅する。従って、視野特定手段は、点滅部の移動中において、点滅周波数に同期したピークが現れているときには点滅部が使用者の視野の範囲内に存在すると判断することができる。また、視野特定手段は、脳波のピークが出現した時点における点滅部の表示位置、あるいは脳波のピークが消滅した時点における点滅部の表示位置を、使用者の視野の臨界位置であると判断することができる。このように、使用者自身の反応に基づいて視野を特定することができるため、各使用者の姿勢や体格や視野の広さなどに関わらず、使用者に応じて適切に視野を特定することができる。
【0008】
また、本発明に係る視野特定装置において、像を表示する表示手段を更に備え、移動制御手段は、表示手段上で点滅部を移動させ、視野特定手段は、表示手段上における使用者の視野を特定することが好ましい。移動制御手段が、像を表示する表示手段自体の上で点滅部を移動させ、視野特定手段は、表示手段上で移動する点滅部を見ることによる使用者の脳波に基づいて視野を特定することができる。従って、表示手段に対する視野をより適切に特定することができる。
【0009】
本発明に係る表示位置調整装置は、上述の視野特定装置と、表示手段上の像の表示位置を調整する表示位置調整手段と、を備え、表示位置調整手段は、視野特定手段によって特定された使用者の視野に基づいて像の表示位置を調整することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る表示位置調整装置において、表示位置調整手段は、視野特定装置によって正確に特定された視野に基づいて像の表示位置を調整することができる。従って、各使用者の姿勢や体格や視野の広さなどに関わらず、使用者に応じて適切な表示位置に像を表示することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、使用者に応じて適切に視野を特定することができ、使用者に応じて適切な表示位置に画像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る視野特定装置及び表示位置調整装置として機能する表示装置の構成を示した図である。
【図2】本発明の実施形態に係る視野特定処理及び表示位置調整処理の内容を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係る視野特定処理及び表示位置調整処理の内容を示すフローチャートである。
【図4】点滅像が像可動下限位置から移動を開始してからの時間と、点滅像の表示位置との関係を示すグラフである。
【図5】EEGセンサから得られる脳波の周波数スペクトルを示すグラフである。
【図6】点滅像が像可動下限位置から移動を開始してからの時間と、点滅像の表示位置との関係、及び点滅像の点滅周波数を示すグラフである。
【図7】EEGセンサから得られる脳波の周波数スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明に係る視野特定装置及び表示位置調整装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
まず、本発明の実施形態に係る視野特定装置及び表示位置調整装置として機能する表示装置1の構成を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る視野特定装置及び表示位置調整装置として機能する表示装置1の構成を示した図である。表示装置1は、車両内のヘッドアップディスプレイ(以下HUDとする)3の起動時に運転者の視野を特定する視野特定装置として機能すると共に、特定した視野に基づいて像の表示位置を調整する表示位置調整装置として機能する。すなわち、この表示装置1は、システムの起動時などにおいて、所定の周波数で点滅する点滅像(点滅部)Vを像可動下限位置VDから像可動上限位置VUへ移動させ(移動経路は図1においてLで示される)、当該移動中における運転者Dの脳波の検出結果に基づいて運転者Dの視野Fを特定する機能を有している。更に、表示装置1は、特定した視野Fに基づいて運転者Dにとって最適な表示位置を演算すると共に、象を当該最適位置に調整する機能を有している。表示装置1は、HUD制御部2と、HUD3と、EEG(Electroencephalography)センサ4と、手動調整スイッチ5とを備えて構成されている。なお、本発明において、「視野」とは運転者Dの目を所定の方向へ固定した場合における視認可能範囲をさしており、点滅像Vの視認により脳波に点滅周波数と同期したピークが現れる範囲を示している。
【0015】
HUD3は、車両の運転者Dの視界内に所定の像Vを表示するものである。本実施形態に係るHUD3は、ウインドシールドを表示部(表示手段)21として像を表示させる。HUD3は、ダッシュボード22内に設けられており、表示部21に表示される像Vを生成する像表示管23と、像表示管23からの像Vを表示部へ投射させるミラー24とを備えている。HUD3では、像表示管23からミラー24へ向けて像Vが投射され、その像Vがミラー24で表示部21に向けて反射される。さらに、その像Vが表示部21で運転者Dの眼球方向へ反射されることにより、像Vが所定の表示位置に虚像として表示される。図1には、運転者Dの視野の範囲がFで示されている。また、視野Fの下限を表す視野下限位置がEDで示されている。また、視野Fの上限を表す視野上限位置がEUで示されている。この視野F、視野下限位置ED、及び視野上限位置EUは、瞳の大きさや体格や姿勢により運転者Dによって個体差がある。ミラー24には駆動装置(表示位置調整手段)28が接続されており、角度調節が可能な構成となっている。駆動装置28は、ミラー24の角度を調整することによって、像Vの表示部21上における表示位置を調整することができる。本実施形態においては、駆動装置28は、HUD制御部2の制御信号に従って、運転者Dの視野Fに対して最適な位置に像Vが表示されるように調整することができる。
【0016】
HUD3では、像表示管23から投射された像Vは、像表示管23近傍に設けられた表示枠26と、ダッシュボード22の開口部27とを経て表示される。そのため、表示部21に像Vを表示できる範囲は、表示枠26及び開口部27によって一定の制限を受ける。また、ミラー24の可動範囲も限られている。従って、表示部21上において、表示位置調整によって像Vを動かすことのできる範囲は所定の範囲に限定される。図1においては、像Vを動かすことのできる下限を表す像可動下限位置がVDで示され、像Vを動かすことのできる上限を表す像可動上限位置がVUで示されている。
【0017】
EEGセンサ(脳波検出手段)4は、ヘッドレスト内に設けられており、運転者Dの脳波を測定する機能を有している。ここで、運転者が一定の周波数で点滅している点滅像Vを見ると、視覚信号SGが後頭葉BRの一次視覚野へ伝達される。運転者Dの意思にかかわらず、当該部分における脳波には点滅像Vの点滅周波数に同期する周波数成分が現れる。従って、EEGセンサ4は、運転者Dの視野Fに点滅像Vが入っていないときは周波数のピークを検出せず(図5のG1を参照)、運転者Dの視野Fに点滅像Vが入っているときは点滅周波数に同期する周波数のピークを検出する(図5のG2を参照)。EEGセンサ4は、検出結果をHUD制御部2へ出力する機能を有している。
【0018】
手動調整スイッチ5は、車内に設けられたスイッチであり、運転者Dの操作によってミラー24の角度を調整し、表示部21上における像Vの表示位置を調整するためのものである。手動調整スイッチ5は、運転者Dからの操作を受けると、操作信号をHUD制御部2へ出力する機能を有している。
【0019】
HUD制御部2は、表示装置1全体の制御を行う電子制御ユニットであり、例えばCPUを主体として構成され、ROM、RAM、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などを備えている。HUD2は、像Vを移動させる移動制御手段、運転者Dの視野を特定する視野特定手段、像Vの表示位置を調整する表示位置調整手段として機能する。HUD2は、表示制御部6と、ミラー駆動制御部7と、脳波判定部8と、演算部9とを備えて構成されている。
【0020】
表示制御部6は、演算部9からの演算結果に基づいて、像表示管23へ対して生成すべき像に関する制御信号を出力する機能を有している。本実施形態において表示制御部6は、視野Fを特定するために、点滅しながら像可動下限位置VDから像可動上限位置VUまでスイープさせる点滅像Vの描画パターンを設定する機能を有している。点滅像Vの描画パターン(点滅像Vの絵柄)は、発光面積と輝度により十分な視認強度を有しているものであれば特に限定されない。例えば、像表示管23の全面発光としてもよく、車両のロゴマークとしてもよく、あるいは車速の表示(停車時ならば「0km/h」が表示される)としてもよい。点滅像Vの点滅周波数は、視覚誘発脳波検出に適しているとされる10Hz前後に設定する。ミラー駆動制御部7は、演算部9からの演算結果に基づいて駆動装置28へ制御信号を出力する機能を有している。
【0021】
脳波判定部8は、EEGセンサ4からの検出結果に基づいて、運転者Dの脳波から点滅像Vの点滅周波数に同期したことを示す信号が検出されているか否かを判定する機能を有している。当該信号検出は、EEGセンサ4からの入力を高速フーリエ変換することによって摘出可能である。脳波判定部8は、点滅像Vが運転者Dの視野Fに入ることによって、点滅像Vの点滅周波数に同期したピークが出現したときに信号が検出されたと判定し、点滅像Vが運転者Dの視野Fから出ることによって、点滅像Vの点滅周波数に同期したピークが消滅したときに信号が検出なくなったことを判定することができる。脳波判定部8は、判定結果を演算部9へ出力する機能を有している。
【0022】
演算部9は、表示させる像Vの内容を演算すると共に表示制御部6へ制御信号を出力することによって、像Vを生成させる機能を有している。演算部9は、像Vを点滅させる場合は、その周波数を設定することもできる。また、演算部9は、表示部21上における像Vを表示させるべき表示位置を演算すると共に、ミラー駆動制御部7に制御信号を出力することによって、表示位置を調整させる機能を有している。更に、演算部9は、視野特定のために像Vの移動を制御する機能も有している。本実施形態では、演算部9は、像可動下限位置VDと像可動上限位置VUとの間の往復移動を行わせることで、視野特定処理を行う。演算部9は、像Vを脳波判定部8の判定結果に基づいて、運転者Dの視野Fを特定する機能を有している。すなわち、演算部9は、脳波判定部8によって脳波にピークが出現したと判定された時点における点滅像Vの表示位置を視野Fの視野下限位置EDとして検出することができ、脳波判定部8によって脳波からピークが消滅したと判定された時点における点滅像Vの表示位置を視野Fの視野上限位置EUとして検出することができる。これによって、運転者Dの視野Fの範囲を特定することができる。また、演算部9は、特定した視野Fに基づいて、像Vを表示させるべき最適位置を演算する機能を有している。具体的に、最適表示位置は、視野上限位置EUと視野下限位置EDとの間の中央位置BPに設定することができる。あるいは、最適表示位置は、経時変化の傾向や意匠的な要件を配慮して、中央位置BPよりも上下にオフセットさせた位置に設定されてもよい。
【0023】
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態に係る表示装置1の動作について説明する。図2及び図3は、本発明の実施形態に係る視野特定処理及び表示位置調整処理の内容を示すフローチャートである。この処理は、HUD制御部2内において、表示システムの起動時、あるいは像の表示位置の再調整の指令が入ったときに、所定のタイミングで実行される。なお、点滅像Vの移動や表示位置の調整や点滅終了は、演算部9が所定のタイミングで表示制御部6やミラー駆動制御部7に信号を出力することで実行させる処理である。
【0024】
まず、図2に示すように、演算部9は、表示部21上に10Hzで点滅する点滅像Vを表示させ(ステップS10)、当該点滅像Vを像可動下限位置VDへ移動させることでシステムの初期化を行う(ステップS12)。次に、演算部9は、点滅像Vの像可動下限位置VDからの上昇移動を開始させる(ステップS14)。
【0025】
点滅像Vを上昇移動させている一方、脳波判定部8は、運転者Dの脳波の判定処理を行うと共に(ステップS16)、演算部9は、脳波判定部8の当該判定結果に基づいて視野Fにおける視野下限位置ED及び視野上限位置EUの検出を行う(ステップS18)。当該処理内容について、図4及び図5を参照して説明する。図4は、点滅像Vが像可動下限位置VDから移動を開始してからの時間と、点滅像Vの表示位置との関係を示すグラフである。図5は、EEGセンサ4から得られる脳波の周波数スペクトルを示すグラフである。図4に示すように、点滅像Vが像可動下限位置VDから像可動上限位置VUへ移動するまでの間において、像可動下限位置VDから視野下限位置EDまでの間の領域及び視野上限位置EUから像可動上限位置VUまでの間の領域(図中、一点差線G1で示している)は、点滅像Vが視野Fよりも外に存在している領域であり、視野下限位置EDから視野上限位置EUまでの間の領域(図中、実線G2で示している)は、点滅像Vが視野F内に存在している領域である。図5には、図4の領域G1における周波数スペクトルが一点差線で示され、領域G2における周波数スペクトルが実線で示されている。図5に示すように、運転者Dの脳波に特定の周波数のピークが出ていない領域G1では、点滅像Vが視認されておらず、点滅像Vが視野Fよりも外に存在していることが分かる。一方、点滅像Vの点滅周波数である10Hz付近で脳波にピークが出ている領域G2では、点滅像Vが視認されており、点滅像Vが視野F内に存在していることが分かる。従って、演算部9は、脳波判定部8によって脳波にピークが出たと判定された時点における点滅像Vの表示位置を視野下限位置EDとして検出することができる。また、演算部9は、脳波判定部8によって脳波からピークが消えたと判定された時点における点滅像Vの表示位置を視野上限位置EUとして検出することができる。
【0026】
図2に戻り、演算部9は、点滅像Vが像可動上限位置VUに到達した時点で、移動方向を反転させ、点滅像Vを降下させる(ステップS20)。このとき、図4及び図5に示すように、点滅像Vが降下を始めた領域G1においては視野Fの外であるために脳波にピークが出ておらず、所定量降下した領域G2においては視野Fの内側であるために脳波にピークが出ている。従って、演算部9は、脳波判定部8によって脳波にピークが出たと判定された時点における点滅像Vの表示位置を視野上限位置EU´として再検出する(ステップS22)。
【0027】
次に、演算部9は、S18で検出した視野上限位置EUとS22で再検出した視野上限位置EU´との間の誤差が許容範囲内のものであるか否かを判定する(ステップS24)。具体的には、演算部9は、S18で検出した視野上限位置EUとS22で再検出した視野上限位置EU´との差分が、所定の許容誤差定数tよりも小さいか否かを判定する(|EU−EU´|<t)。図4に示す例では、EUとEU´との差分がtより小さいため、誤差が許容範囲内であると判定される。S24において、誤差が許容範囲内でないと判定されると、図3に示す制御処理Bへ移行する。このように点滅像Vが像可動上限位置VUに到達した後も反転移動させて再び視野上限位置EUを検出することにより、検出結果のずれを確認することができる。制御処理Bについての詳細な説明は後述する。
【0028】
S24において誤差が許容範囲内であると判定されると、演算部9は、表示部21上において像Vを表示させる最適な表示位置を演算する。本実施形態では、演算部9は、S18で検出した視野下限位置EDと視野上限位置EUとの間の中点(ED+EU)/2を最適表示位置として設定する(ステップS26)。更に、点滅像VをS26で設定した最適表示位置へ移動させる(ステップS28)。演算部9は、最適表示位置へ移動した点滅像Vの点滅をストップさせて、定常点灯の像Vとする(ステップS30)。S30の処理が終了すると、表示装置1による視野特定処理及び表示位置調整処理が成功し、図2及び図3に示す処理を終了する(通常終了)。
【0029】
一方、S24において、誤差が許容範囲内ではないと判定されると、図3に示す制御処理Bへと移行する。制御処理Bにおいては、まず、演算部9は、点滅像Vの降下を続行させる(ステップS40)。脳波判定部8は、S16の処理と同様に脳波の判定を行い(ステップS42)、演算部9は、脳波判定部8によって脳波からピークが消えたと判定された時点における点滅像Vの表示位置を視野下限位置ED´として再検出する(ステップS44)。その後、演算部9は、点滅像Vを像可動下限位置VDに到達させ(ステップS46)、視野特定のための点滅像Vの移動回数が繰り返し規定回数内か否かの判定を行う(ステップS48)。繰り返し規定回数は、点滅像Vの往復回数の上限回数を示しており、視野特定処理が長引くことによって運転者Dが煩わしさを感じない範囲の回数に任意に設定することができる。
【0030】
S48において、往復回数が繰り返し規定回数内であると判定されると、演算部9は、点滅像Vを反転させて上昇移動を開始させる(ステップS52)。脳波判定部8は、S16の処理と同様に脳波の判定を行い(ステップS54)、演算部9は、脳波判定部8によって脳波にピークが出たと判定された時点における点滅像Vの表示位置を視野下限位置EDとして検出する(ステップS56)。次に、演算部9は、S44で検出した視野下限位置ED´とS56で検出した視野下限位置EDとの間の誤差が許容範囲内のものであるか否かを判定する(ステップS58)。具体的には、演算部9は、S44で検出した視野下限位置ED´とS56で再検出した視野下限位置EDとの差分が、所定の許容誤差定数tよりも小さいか否かを判定する(|ED´−ED|<t)。
【0031】
S58において、誤差が許容範囲内ではないと判定されると、演算部9は、点滅像Vの上昇移動を続行させる(ステップS60)。また、脳波判定部8は、S16の処理と同様に脳波の判定を行い(ステップS62)、演算部9は、脳波判定部8によって脳波からピークが消えたと判定された時点における点滅像Vの表示位置を視野上限位置EUとして検出する(ステップS64)。その後、図2に示す制御処理A以降の処理を再び繰り返す。
【0032】
一方、S58において、誤差が許容範囲内であると判定されると、演算部9は、表示部21上において像Vを表示させる最適な表示位置を演算する。本実施形態では、演算部9は、S22で検出した視野上限位置EU´とS44で検出した視野下限位置ED´との間の中点(ED´+EU´)/2を最適表示位置として設定する(ステップS66)。更に、点滅像VをS66で設定した最適表示位置へ移動させる(ステップS68)。演算部9は、最適表示位置へ移動した点滅像Vの点滅をストップさせて、定常点灯の像Vとする(ステップS70)。S70の処理が終了すると、表示装置1による視野特定処理及び表示位置調整処理が成功し、図2及び図3に示す処理を終了する(リトライによる通常終了)。このように、検出誤差があった場合は繰り返し検出を行うことによって、正確に視野特定を行うことができる。
【0033】
図2及び図3に示す処理を複数回繰り返すことによって、S48において、繰り返し規定回数を越えたと判定されると、演算部9は、最適位置を任意に設定して当該表示位置に点滅像Vを移動させ、点滅をストップさせて定常点灯の像Vとする(ステップS50)。任意の最適位置は、複数回の検出によって得られた視野下限位置及び視野上限位置に基づく最適位置を各々演算し、この平均値を最適位置として設定することができる。S50の処理が終了すると、視野特定処理及び表示位置調整処理は失敗したとして図2及び図3に示す処理を終了する(失敗終了)。このように、繰り返し規定回数を設定することによって、処理に長く時間がかかりすぎることにより運転者が煩わしさを感じることを防止することができる。
【0034】
以上より、本実施形態に係る視野特定装置としての表示装置1では、EEGセンサ4が運転者Dの脳波を検出する一方で、HUD制御部2が点滅像Vを移動させることができる。運転者Dが一定の周波数で点滅する点滅像Vを見ると、運転者Dの脳波には点滅周波数に同期した周波数のピークが現れる。また、見ていた点滅像Vが見えなくなると点滅周波数に同期していた周波数のピークが消滅する。従って、HUD制御部2は、点滅像Vの移動中において、点滅周波数に同期したピークが現れているときには点滅像Vが運転者Dの視野Fの範囲内に存在すると判断することができる。また、HUD制御部2は、脳波のピークが出現した時点における点滅像Vの表示位置、あるいは脳波のピークが消滅した時点における点滅像Vの表示位置を、使用者の視野Fの上限位置や下限位置などの臨界位置であると判断することができる。このように、運転者自身の反応に基づいて視野Fを特定することができるため、各運転者Dの姿勢や体格や視野の広さなどに関わらず、運転者Dに応じて適切に視野Fを特定することができる。
【0035】
また、本実施形態に係る視野特定装置としての表示装置1において、像Vを表示する表示部21を更に備え、HUD制御部2は、表示部21上で点滅像Vを移動させ、表示部21上における運転者Dの視野を特定することができる。HUD制御部2が、像Vを表示する表示部21自体の上で点滅像Vを移動させ、表示部21上で移動する点滅像Vを見ることによる運転者Dの脳波に基づいて視野Fを特定することができる。従って、表示部21に対する視野Fをより適切に特定することができる。
【0036】
本発明に係る表示位置調整装置としの表示装置1では、HUD制御部2及び駆動装置28は、視野特定処理によって正確に特定された視野Fに基づいて像Vの表示位置を調整することができる。従って、各運転者Dの姿勢や体格や眼の大きさなどに関わらず、運転者Dに応じて適切な表示位置に像を表示することができる。
【0037】
本発明に係る視野特定装置及び表示位置調整装置は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0038】
例えば、上述の実施形態では、点滅像Vの点滅周波数は一定として上下にスイープさせていたが、点滅像Vの点滅周波数を連続変化させながら上下にスイープさせてもよい。例えば、像可動下限位置VDにおける点滅周波数を6Hzに設定すると共に、像可動上限位置VUにおける点滅周波数を18Hzに設定し、像可動下限位置VDから像可動上限位置VUへ移動するに従って点滅周波数を変化させることができる。図6は、点滅像Vが像可動下限位置VDから移動を開始してからの時間と、点滅像Vの表示位置との関係、及び点滅像Vの点滅周波数を示すグラフである。図7は、EEGセンサ4から得られる脳波の周波数スペクトルを示すグラフである。図6に示すように、視野下限位置EDにおける表示位置GD2での周波数をα(Hz)とし、視野上限位置EUにおける表示位置GU2での周波数をβ(Hz)としたとき、図7に示すように表示位置GD2における脳波の周波数スペクトルでは周波数α(Hz)でピークが出現し、表示位置GU2における脳波の周波数スペクトルでは周波数β(Hz)でピークが出現する。また、点滅像Vが表示位置GD2から表示位置GU2に移動するに従って、周波数スペクトルにおけるピークも周波数αから周波数βへ移動する。従って、演算部9は、脳波にピークが出現した時点における表示位置を視野下限位置EDとして検出し、連続的に周波数が変化するピークが消滅した時点における表示位置を視野上限位置EUとして検出することができる。これによって、演算部9は、視野Fを特定し、最適表示位置を設定することができる。その他の処理については上述の実施形態と同様の処理を行うことができる。点滅像Vが像可動上限位置VUに達した後は、ずれの確認のために点滅周波数を周波数18Hzから6Hzへ徐変させながら移動させてもよく、あるいは定常発光に切り替えて最適位置に向けて移動させてもよい。
【0039】
また、上述の実施形態では、脳波の出現及び消滅が像可動上限位置VUと像可動下限位置VDとの間で検出された例について説明したが、像可動下限位置VDや像可動上限位置VUで脳波のピークがすでに検出されている場合は、像可動下限・上限位置をそれぞれ視野下限・上限位置に設定することができる。また、全領域内において脳波のピークが検出できないときは、繰り返し点滅像Vの上下のスイープを繰り返すが、規定回数を越えた時点で、像Vの位置を像可動下限位置VDに固定してもよい。更に、運転者Dが像Vの見え難さを感じたら、手動調整スイッチ5によって手動設定を行ってもよい。
【0040】
また、上述の実施形態では、点滅像Vが上昇移動して反転して下降しているときも点滅していたが、下降時は定常光としてもよい。しかし、ずれを確認するために、下降時も点滅させた方が一層正確に視野を特定できる。
【0041】
また、本発明の適用対象は、車両でのHUDに限られず、使用者の視野に応じて表示する像の位置を調整する必要があるものに適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…表示装置(視野特定装置、表示位置調整装置)、2…HUD制御部(移動制御手段、視野特定手段、表示位置調整手段)、4…EEGセンサ(脳波検出手段)、21…表示部(表示手段)、28…駆動装置(表示位置調整手段)、V…点滅像(点滅部)、F…視野。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の脳波を検出する脳波検出手段と、
前記使用者の視線側の位置で点滅部を移動させる移動制御手段と、
前記使用者の視野を特定する視野特定手段と、を備え、
前記視野特定手段は、前記使用者が前記点滅部を視認することによって前記脳波検出手段で検出される検出値と、前記点滅部の位置とに基づいて、前記使用者の視野を特定することを特徴とする視野特定装置。
【請求項2】
像を表示する表示手段を更に備え、
前記移動制御手段は、前記表示手段上で前記点滅部を移動させ、
前記視野特定手段は、前記表示手段上における前記使用者の視野を特定することを特徴とする請求項1記載の視野特定装置。
【請求項3】
請求項2記載の視野特定装置と、
前記表示手段上の像の表示位置を調整する表示位置調整手段と、を備え、
前記表示位置調整手段は、前記視野特定手段によって特定された前記使用者の視野に基づいて像の表示位置を調整することを特徴とする表示位置調整装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−133548(P2011−133548A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290621(P2009−290621)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】