説明

観測装置、土地地盤変位監視システムおよびアンテナ装置

【課題】人や車両の通行を妨げたり、景観を損ねたりすることのない、観測装置および当該観測装置を用いた土地地盤変位監視システムを提供する。
【解決手段】土地地盤変位監視システム1は、高速道路15の路側帯16上の各測定点に埋め込まれた測定点観測装置10と、位置が既知である基準点に設置された基準点観測装置11と、監視装置12とから構成される。測定点観測装置10は舗装部19に固定されている。測定点観測装置10と基準点観測装置11とは、GPS衛星21からの電波を受信し、電波の搬送波の位相に関するデータ等を求める。監視装置12は、測定点観測装置10と基準点観測装置11とから受信した位相に関するデータ等から基準点に対する測定点の相対位置を求め、さらに相対位置の変化から測定点の土地地盤変位を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS衛星等の測位用衛星からの電波を観測する観測装置、当該観測装置を用いて土地地盤の変位を監視する土地地盤変位監視システムに関する。さらには、GPS衛星等の測位用衛星からの電波を受信するアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地すべりが起きやすい山の傾斜地などにおいては、土地変動観測システム(土地地盤変位監視システム)を利用して土地の変動が観測されている(例えば、特許文献1、2)。特許文献1に示される土地変動観測システムでは、位置が既知である基準点および土地の変動を観測する傾斜地の測定点にそれぞれGPS衛星からの電波を観測する観測装置を設置する。基準点および測定点の観測装置は、アンテナで電波を受信し、受信した電波の搬送波の位相に関するデータ等を監視装置に送信する。監視装置は、位相に関するデータ等やGPS衛星の位置情報から基準点に対する測定点の相対位置(三次元方向と距離とからなる基線ベクトル)を求め、これを記憶部に蓄積する。さらに、測定点ごとに蓄積された相対位置データの変化を検知して、測定点の土地変動を観測する。このとき、僅かな土地変動でも検知できるように、測位精度の高い干渉測位法で測定点の相対位置が求められる。
【0003】
干渉測位法で測定点の相対位置を求めるためには、4つ以上のGPS衛生からの電波を基準点および測定点の観測装置で観測する必要がある。このため、観測装置のアンテナをポールなどの上部に取り付けて、アンテナから見た天空方向の視界が良くなるようにしている。ところが、地上のアンテナやポールが人や車両の通行を妨げたり、景観を損ねたりすることから、人や車両の通行や景観のことなどを考えなくてもよい区域、例えば山の傾斜地などに限って土地変動観測システムが利用されているのが現状である。
【0004】
下記の特許文献3には、GPS衛星からの信号を受信するアンテナ、制御回路部および電源部(電池)を外装ケース内に収めた検知装置が示されている。この検知装置は、例えば駐車場の駐車スペースごとに上面が大気に露出するようにして埋め込まれる。車両が駐車しているときにはGPS衛星からの信号(電波)が車両で遮られることから、駐車スペースの車両の有無は、検知装置が信号を捕捉できたか否かで分かる。検知装置による信号の捕捉状況は無線通信によって監視装置に送信され、監視装置が受信した捕捉状況から駐車スペースごとの車両の有無を判定・管理する。
【0005】
【特許文献1】特開平6−160509号公報(平成5年6月3日に提出された手続補正書による補正後の段落0012〜0017)
【特許文献2】特開2003−077085号公報(段落0022〜0037)
【特許文献3】特開平9−297171号公報(要約、段落0021〜0025)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方では、人や車両の通行する道路などの土地変動を観測したいという潜在需要があるものの、従来の土地変動観測システム(土地地盤変位監視システム)は人や車両の通行を妨げたり、景観を損ねたりするため、潜在需要に応えることができない。つまり、人や車両の通行を妨げたり、景観を損ねたりすることのない土地地盤変位監視システムが望まれているが、今までこのような要望を満たすシステムは存在しなかった。なお、上記の特許文献3に示される検知装置は、GPS衛星からの信号を単に補足するだけであり、4つ以上のGPS衛星からの信号を捕捉する必要はない。また、土地の変動を高い精度で観測するものではないので、土地に対して検知装置を固定するという考えもないし、信号(電波)のマルチパスによる弊害について考慮する必要性も小さい。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するものであって、その課題とするところは、人や車両の通行を妨げたり、景観を損ねたりすることのない、観測装置、土地地盤変位監視システムおよびアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る観測装置は、測位衛星からの電波を受信して当該電波の位相に関するデータを求める観測装置であって、平坦な上面を大気に露出させて地面に埋め込まれる分離可能な密閉容器と、密閉容器内に収納された、アンテナモジュール、シールド板および受信機と、密閉容器内に水が浸入するのを防止する防水手段と、密閉容器を土地に固定するための固定用手段と、を備える。そして、密閉容器の上壁は電波透過率の高い材質からなり、アンテナモジュールは上記電波を受信して受信信号を増幅し、シールド板は、電波反射率の高い材質からなり、密閉容器の底壁あるいは側壁で上記電波が反射しないように配置され、受信機は、アンテナモジュールから出力される増幅された受信信号に対して信号処理を施すことにより、上記電波の位相に関するデータを求める。上記の密閉容器を土地に固定するとは、地面(例えば、舗装道路の舗装部)に固定することや、地中に埋設された基台に固定することなどである。
【0009】
このようにすることで、密閉容器を地面に埋め込んで観測装置が使用される場合、アンテナモジュールなどを収納した密閉容器が上面を大気に露出させて地面に埋め込まれるので、すなわち密閉容器が地面から突出しないので、人や車の通行を妨げたり、景観を損ねたりせずに、測位衛星からの電波を受信して電波の位相に関するデータを求めることができる。また、観測装置のメンテナンスをするときに、高所作業をしなくてもよいというメリットもある。さらに、シールド板によって測位衛星からの電波が密閉容器の底壁や側壁で反射するのが防止されるので、電波のマルチパスによる受信障害が低減され、測位衛星からの電波の位相に関するデータを正確に求めることができる。さらに、防水手段によって密閉容器内に水が浸入しないようになっているので、密閉容器内に収納されたアンテナモジュールなどが水による損傷を受けることがない。さらに、密閉容器を地面に埋め込んで観測装置が土地地盤変位監視システムにおいて使用される場合、固定用手段を用いて密閉容器を土地に固定することにより、測定点の地面や地中の土地地盤変位を監視することが可能となる。なお、本発明の価値は、測位衛星からの電波を良好に受信できるようにアンテナを高所に設置してアンテナから見た天空方向の視界を良くするという従来からの考え方を覆したところにある。
【0010】
第2の発明に係る観測装置は、測位衛星からの電波を受信して当該電波の位相に関するデータを求める観測装置であって、平坦な上面を大気に露出させて地面に埋め込まれる分離可能な密閉容器と、密閉容器内に収納された、アンテナモジュールおよびシールド板と、密閉容器内に水が浸入するのを防止する防水手段と、密閉容器を土地に固定するための固定用手段と、密閉容器外に配置される受信機と、を備える。そして、密閉容器の上壁は電波透過率の高い材質からなり、アンテナモジュールは上記電波を受信して受信信号を増幅し、シールド板は、電波反射率の高い材質からなり、密閉容器の底壁あるいは側壁で上記電波が反射しないように配置され、受信機は、アンテナモジュールから出力される増幅された受信信号に対して信号処理を施すことにより、上記電波の位相に関するデータを求める。上記の密閉容器を土地に固定するとは、地面(例えば、舗装道路の舗装部)に固定することや、地中に埋設された基台に固定することなどである。このようにすることで、第1の発明と同様の作用効果が得られることに加えて、密閉容器の小型化および密閉容器の容器壁の肉厚の薄型化を実現できるので、より多くの利用分野での使用が可能となる。
【0011】
第3の発明に係る土地地盤変位監視システムは、位置が既知の基準点に設置され、測位衛星からの電波を受信して当該電波の位相に関するデータを求める基準点観測装置と、第1または第2の発明に係る観測装置であって、1つまたは複数の測定点に、密閉容器が上面を大気に露出させて埋め込まれ、かつ固定用手段を用いて土地に固定された測定点観測装置と、基準点観測装置で求められる位相に関するデータ、測定点観測装置で求められる位相に関するデータ、および測位衛星の位置情報から基準点に対する測定点の相対位置を求める相対位置算出手段と、上記相対位置の変動を検知する相対位置変動検知手段と、を備える。上記の密閉容器を土地に固定するとは、地面(例えば、舗装道路の舗装部)に固定することや、地中に埋設された基台に固定することなどである。
【0012】
上記のように、測定点観測装置の密閉容器が上面を大気に露出させて地面に埋め込まれているので、すなわち密閉容器が地面から突出しないので、人や車の通行を妨げたり、景観を損ねたりせずに、測定点観測装置で測位衛星からの電波を受信して電波の位相に関するデータを求めることができる。また、測定点観測装置のメンテナンスをするときに、高所作業をしなくてもよいというメリットもある。さらに、固定用手段を用いて密閉容器が土地に固定されているので、測定点の地面や地中の土地地盤変位を監視することができる。さらに、シールド板によって測位衛星からの電波が密閉容器の底壁や側壁で反射するのが防止されるので、電波のマルチパスによる受信障害が低減され、測定点観測装置で測位衛星からの電波の位相に関するデータを正確に求めることができる。これにより、測定点の僅かな土地地盤変位をも監視することが可能となる。さらに、防水手段によって密閉容器内に水が浸入しないようになっているので、密閉容器内に収納されたアンテナモジュールなどが水による損傷を受けることがない。なお、本発明の価値は、測位衛星からの電波を良好に受信できるようにアンテナを高所に設置してアンテナから見た天空方向の視界を良くするという従来からの考え方を覆したところにある。
【0013】
第3の発明においては、固定用手段を用いて密閉容器が地面に固定される。このようにすることで、測定点の地面の土地地盤変位を監視することができる。
【0014】
また、第3の発明においては、密閉容器と地中に埋設された基台との距離を測定する距離測定手段をさらに備える。このようにすることで、測定点の地面の土地地盤変位だけでなく、地中の土地地盤変位(あるいは基台の位置の変動)も監視することができる。
【0015】
さらに、第3の発明においては、固定用手段を用いて密閉容器が地中に埋設された基台に固定される。このようにすることで、地中の土地地盤変位(あるいは基台の位置の変動)を監視することができる。すなわち、密閉容器が地面ではなく地中に埋設された基台に固定されているので、地面の土地変動がなく外見的には土地変動が起きていないように見えるときでも、地中の土地地盤変位を監視することができる。
【0016】
第4の発明に係るアンテナ装置は、測位衛星からの電波を受信するアンテナ装置であって、平坦な上面を大気に露出させて地面に埋め込まれる分離可能な密閉容器と、密閉容器内に収納された、アンテナモジュールおよびシールド板と、密閉容器内に水が浸入するのを防止する防水手段と、密閉容器を土地に固定するための固定用手段と、を備える。そして、密閉容器の上壁は電波透過率の高い材質からなり、シールド板は、電波反射率の高い材質からなり、密閉容器の底壁あるいは側壁で上記電波が反射しないように配置され、アンテナモジュールは上記電波を受信し、受信信号を増幅して出力する。上記の密閉容器を土地に固定するとは、地面(例えば、舗装道路の舗装部)に固定することや、地中に埋設された基台に固定することなどである。
【0017】
このようにすることで、密閉容器を地面に埋め込んでアンテナ装置が使用される場合、アンテナモジュールなどを収納した密閉容器が上面を大気に露出させて地面に埋め込まれるので、すなわち密閉容器が地面から突出しないので、人や車の通行を妨げたり、景観を損ねたりせずに、測位衛星からの電波を受信し、受信信号を増幅して出力することができる。また、アンテナ装置のメンテナンスをするときに、高所作業をしなくてもよいというメリットもある。さらに、シールド板によって測位衛星からの電波が密閉容器の底壁や側壁で反射するのが防止されるので、電波のマルチパスによる受信障害が低減され、ノイズ成分の少ない信号を出力することができる。さらに、防水手段によって密閉容器内に水が浸入しないようになっているので、密閉容器内に収納されたアンテナモジュールなどが水による損傷を受けることがない。さらに、アンテナ装置が上述の受信機に接続して使用される場合、第1の発明と同様な作用効果も得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アンテナモジュールなどを収納した密閉容器が上面を大気に露出させて地面に埋め込まれるので、すなわち密閉容器が地面から突出しないので、人や車の通行を妨げたり、景観を損ねたりすることのない、観測装置、土地地盤変位監視システムおよびアンテナ装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。図1は土地地盤変位監視システムの構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。図2は土地地盤変位監視システム1で用いる測定点観測装置10の構造を示す縦断面図である。この土地地盤変位監視システム1は、高速道路15の路側帯16上の各測定点における土地地盤変位を監視するシステムであり、各測定点に埋め込まれた測定点観測装置10と、位置(三次元座標)が既知である基準点に設置された基準点観測装置11と、監視装置12とから構成される。基準点としては地質的に安定な場所が選ばれ、ここでは基準点は高速道路15の外側に位置する。図1において、17は中央分離帯、18は路側帯16を示すライン、19は路側帯16のアスファルトあるいはコンクリートの舗装部、20は舗装部19の下の下層である。
【0020】
地上に設置された基準点観測装置11は、アンテナ部と受信機とから構成され、ハードウエア的にも機能的にも特許文献1に示される基準点観測装置と同様である。測定点観測装置10は、機能的には特許文献1に示される測定点観測装置と同様であるが、路側帯16の測定点に埋め込まれている点で異なる。測定点観測装置10および基準点観測装置11は、測位衛星であるGPS衛星21から送信される電波を受信し、電波の搬送波の位相に関するデータ(いわゆる位相差積算値)や当該データの受信時刻、航法メッセージに含まれるGPS衛星21の軌道情報などを監視装置12に送信する。これらのデータの送信はデイジーチェーン接続されたケーブル13、14を介して行われる。また、測定点観測装置10および基準点観測装置11への電源の供給もケーブル13,14を介して行われるが、電源の供給源の図示は省略する。ケーブル13は、路側帯16を通行する車両の邪魔にならないように、下層20に埋設されている。
【0021】
次に、図2を参照しつつ測定点観測装置10の構造を説明する。測定点観測装置10は、上面が平坦な密閉容器30と、密閉容器内30に収納されたアンテナモジュール40、シールド板51および受信機52とから構成される。密閉容器30は有底円筒状の下部容器32と円形平板状の蓋31とから構成される。下部容器32は鋳物製であるが、プラスチック製やコンクリート製などであってもよい。密閉容器30の上壁を形成する蓋31は、ポリエチレンやFRP(繊維強化プラスチック)などの電波透過率の高い材質でできている。これにより、GPS衛星21からの電波が、蓋31の下方に配置されたアンテナモジュール40のアンテナ41で良好に受信される。
【0022】
蓋31は数本のネジ34で下部容器32に固定されている。また、蓋31と下部容器32の上端面との隙間から水が密閉容器30内に浸入しないように、蓋31と下部容器32の上端面との間にOリング33が介装されている。下部容器32の側壁のケーブル13が通る貫通穴39からも水が浸入しないように、貫通穴39がパテ38で埋められている。さらに、貫通穴39を下部容器32の内側から外側へ下向きに傾斜させることで、防水性能を高めている。上記のOリング33およびパテ38が本発明の防水手段に相当する。図1、2ではケーブル13が下層20(地中)を通っているが、コンクリート管や有蓋の溝の中を通すようにしてもよい。下部容器32の上部開口の周囲のリング状の張り出し部37には貫通穴36が設けられており、貫通穴36からボルト35を舗装部19に埋め込まれたナット(図示せず)に捩じ込むことによって、密閉容器30(測定点観測装置10)が舗装部19に固定される。この貫通穴36が本発明の固定用手段に相当する。なお、密閉容器30上を通行する車両の輪重に耐えられるように、蓋31および下部容器32の材質と肉厚とが決められている。
【0023】
アンテナモジュール40は、アンテナ41と、プリント基板45と、アルミニューム製のシールドケース46とから構成される。このアンテナ41は、アンテナパターン43がガラスエポキシ樹脂製の基板42の上面中央部に形成され、アースパターン43が基板42の下面全体に形成されたパッチアンテナである。アンテナパターン43はプリント基板45に搭載された増幅回路(図示せず)に2本の接続線47で接続されており、アンテナ41で受信された電波が増幅回路で増幅される。増幅回路で増幅された信号は、同軸ケーブル53を介して受信機52に入力される。シールドケース46は、受信機52のデジタル回路で発生するノイズからアンテナ41や増幅回路を遮蔽する。
【0024】
アンテナ41の周囲には、電波反射率の高いアルミニューム製でリング状のシールド板51が配置されている。シールド板51をこのように配置することで、GPS衛星21からの電波が下部容器32の底壁や側壁で反射しなくなり、電波のマルチパスによる受信障害が低減される。上記のシールドケース46はシールド板51と同じ機能も有する。シールド板51、アースパターン44およびシールドケース46は接地されているが、接地系統の図示は省略されている。受信機52は、A/D変換器や、信号処理回路、演算制御回路、通信I/F回路などから構成され、プリント基板45の増幅回路から出力される信号に対して信号処理を施すことにより、GPS衛星21からの電波の搬送波の位相に関するデータや、当該データを受信した時刻、電波に含まれる航法メッセージ中のGPS衛星21の軌道情報などを求める。これらのデータは通信I/F回路からケーブル13を介して監視装置12に送信される。
【0025】
図1に示す監視装置12は、測定点観測装置10と基準点観測装置11とから所定の時間間隔ごとに出力される位相に関するデータやGPS衛星21の位置情報などを用いて干渉測位法によって基準点に対する測定点の相対位置(基準点から測定点への基線ベクトル)を求め、さらに監視装置12の記憶部(ハードディスクなど)に測定点ごとの相対位置データを蓄積する。そして、蓄積された相対位置データの変化から相対位置の変動を検知することにより、測定点の土地地盤変位を監視する。監視装置12が本発明の相対位置算出手段および相対位置変動検知手段に相当する。ここでは監視装置12としてパーソナルコンピュータが使用される。なお、監視装置12は高速道路の管理事務所などに設置されるが、管理事務所が測定点観測装置10および基準点観測装置11から遠く離れている場合、測定点観測装置10および基準点観測装置11からインターネット経由でデータが監視装置12に送信される。
【0026】
上述のように、測定点観測装置10が上面を大気に露出させて地面(舗装部19)に埋め込まれているので、人や車両の通行を妨げたり、景観を損ねたりすることがない。また、測定点観測装置10が地面に固定されているので、測定点観測装置10の出力データを用いて測定点の地面の変位(変動)を監視することができる。さらに、密閉容器30内に配置されたシールド板51によってGPS衛星21からの電波が密閉容器30の底壁や側壁で反射するのが防止され、電波のマルチパスに起因する受信障害が低減されるので、電波の位相に関するデータを正確に求めることができる。これにより、測定点の相対位置を正確に求めることができ、ひいては測定点の僅かな土地地盤変位(土地変動)をも検知することができる。さらに、Oリング33やパテ38といった防水手段によって密閉容器30内に水が浸入するのが防止されるので、アンテナモジュール40や受信機52が水による損傷を受けることがない。なお、図2に示す測定点観測装置10の試作機、および基準点観測装置12と同様な構造の測定点観測装置のいずれを用いても、略同じ測位精度で測定点の相対位置が求められることが実験で確認されている。上記の試作機は直径が250mm、高さが140mmであったが、直径を100mm以下にすることは特に難しいことではない。
【0027】
上述の実施形態では、測定点観測装置10を高速道路15の路側帯16に埋め込んだが、他の場所、例えば一般道路や、鉄道の線路、飛行場の滑走路などに埋め込んで使用することもできる。一般道路では、例えば、道路のセンターライン上に測定点観測装置10を埋め込む。鉄道の線路では、例えば、測定点観測装置10を収容する凹部を有するコンクリート製の取り付けベースを線路間に埋め込み、それに対して測定点観測装置10を固定する。また、上記実施形態では、基準点観測装置11が地上に設置されていたが、基準点観測装置として測定点観測装置10と同様な装置を用いてもよい。
【0028】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図3は土地地盤変位監視システムの構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)はA−B線での縦断面図である。図4は土地地盤変位監視システム2で用いる測定点観測装置10aの構造を示す縦断面図である。本実施形態では、第1の実施形態に示すもとの同じものについては同じ符号を用いる。第1の実施形態に示すものと一部異なるものについては符号の最後に「a」を付ける。例えば、密閉容器の符号は第1の実施形態では30、本実施形態では30aである。この土地地盤変位監視システム2は、ロックフィルダムの堤体60上の各測定点における土地地盤変位を監視するシステムであり、第1の実施形態と同様に、各測定点に埋め込まれた測定点観測装置10aと、位置が既知である基準点に設置された基準点観測装置11と、監視装置12とから構成される。ケーブル13は舗装道路63の下、すなわち中央堤体61の中を通って測定点観測装置10aに接続されている。
【0029】
ロックフィルダムの堤体60は、主に粘土からなる中央堤体61と、中央堤体61の両側の主に土砂からなるサイド堤体62と、中央堤体61およびサイド堤体62の上のダム管理用の舗装道路63とからなる。中央堤体61は粘土でできているため、時の経過にともなって沈下することがある。このとき、舗装道路63が沈下するとは限らない。ここでは中央堤体61の沈下を観測するために、中央堤体61に基台64を埋設し、この基台64に測定点観測装置10aを固定する。中央堤体61が沈下すると、それにともなって基台64および基台64に固定された測定点観測装置10aも沈下する。中央堤体61の沈下(あるいは基台64の沈下)は、基準点に対する測定点観測装置10a(測定点)の相対位置の変動として監視装置12で検知される。
【0030】
次に、図4を参照しつつ測定点観測装置10aの構造を説明する。アンテナモジュール40およびシールド板51は図2に示すものと同じであるので、ここでは簡略化して図示する。測定点観測装置10a(密閉容器30a)は円筒状のコンクリート管65の内部に収納されている。コンクリート管65は密閉容器30aが基台64と一緒に沈下するときにガイド機構として機能し、側部にはケーブル13が通る大きな貫通穴66が設けられている。土地地盤変位が起きていないときは、密閉容器30aの蓋31aの上面、コンクリート管65の上端面および舗装道路63の路面は同一平面上に位置する。基台64の上面から突出する2本の埋め込みボルト67は、下部容器32aの底壁の貫通穴69を貫通してナット68で締められ、これによって測定点観測装置10a(密閉容器30a)が基台64に固定される。貫通穴69が本発明の固定用手段に相当する。また、貫通穴69から水が密閉容器30a内に浸入しないように、下部容器32aの底面と基台64の上面との間には2つの貫通穴69を囲むようにOリング70が介装されている。
【0031】
上述のように、本実施形態では、密閉容器30aが地面(舗装道路63)ではなく地中(中央堤体61)に埋設された基台64に固定されているので、地面の土地変動がなく外見的には土地変動が起きていないように見えるときでも、基準点に対する測定点観測装置10aの相対位置の変化を検知することにより、地中の土地地盤変位(中央堤体61の沈下あるいは基台64の沈下)を監視することができる。また、測定点観測装置10aが地面に埋め込まれており、舗装道路63を通行する人や車両の通行を妨げないことや景観を損ねないことは勿論である。
【0032】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態に示すもとの同じものについては同じ符号を用いる。第1の実施形態に示すものと一部異なるものについては符号の最後に「b」を付ける。上述のように、第1の実施形態では、測定点観測装置10が地面に固定され、地面の土地地盤変位が監視された。第2の実施形態では、測定点観測装置10aが地中に埋設された基台64に固定され、地中の土地地盤変位が監視された。本実施形態では、地面および地中の土地地盤変位が監視される。測定点観測装置10bは、図1の土地地盤変位監視システム1や、図2の土地地盤変位監視システム2などで利用できるが、ここでは図1の土地地盤変位監視システム1で利用されているものとする。
【0033】
図5は測定点観測装置10bの構造を示す縦断面図である。第1の実施形態と同様に、測定点観測装置10b(密閉容器30b)はボルト35で舗装部19に固定されている。さらに、下部容器32bの底面と下層20に埋設された基台64bの上面との間には伸縮計81が接続されている。伸縮計81が本発明の距離測定手段に相当する。図中の82、83は、それぞれ伸縮計81が下部容器32bの底面および基台64bの上面に接続される接続部を示す。伸縮計81の周囲には下部容器32bの下方突出部87で囲まれた空間80が形成されており、伸縮計81の動作が下層20によって妨げられないようになっている。伸縮計81は、例えばバネとバネの両端間の距離を測定する計器とからなり、下部容器32bの底面と基台64bの上面との距離に相当する電気信号を出力する。ここでは電気信号はデジタル信号とする。この電気信号は、信号線84、受信機52およびケーブル13を経由して監視装置12に送信される。また、信号線84が通る貫通穴85はパテ86で埋められている。
【0034】
監視装置12は、周知の干渉測位法によって基準点に対する測定点観測装置10b(測定点)の相対位置を算出する。さらに、算出された相対位置から上記の電気信号に相当する距離を減算することで基台64bの相対位置を求める。さらに、このようにして求められた測定点観測装置10bおよび基台64bの相対位置の変化から、舗装部19の変動および下層20の変動(あるいは基台64bの位置の変動)を検知する。つまり、本実施形態によれば、地面および地中の土地地盤変位を監視することができる。
【0035】
以上述べた第1から第3の実施形態においては、密閉容器30、30a、30bの中に受信機52を収納したが、図6に示すように、受信機52を密閉容器30cの外部に配置することもできる。図において、10cは、密閉容器30cとアンテナモジュール40とシールド板51と受信機52とから構成される測定点観測装置である。90は、密閉容器30cとアンテナモジュール40とシールド板51とから構成されるアンテナ装置である。密閉容器30cは、上記の密閉容器30、30a、30bのいずれかと同等なものである。アンテナモジュール40のプリント基板45(図2参照)から出力される増幅された電波信号は、同軸ケーブル53を介して受信機52に送信される。受信機52は道路の脇の空き地などに設置された防水ケース91に収納されている。受信機52から出力されるデータは、図1と同様にケーブル13を介して監視装置12に送信される。このようにすることで、密閉容器30cを小型化することができ、さらには密閉容器30cの壁部や蓋の肉厚を薄くすることもできる。
【0036】
また、上記第1から第3の実施形態では、密閉容器30が蓋31と下部容器32とからなる中空円柱状であったが、密閉容器の形態はこれに限定されるものではない。例えば、密閉容器の形状が中空四角柱状であってもよいし、密閉容器が有天円筒状の上部容器と有底円筒状の下部容器とからなるものでもよい。さらに、上記第1から第3の実施形態では、測定点観測装置10、10a、10bが土地地盤変位監視システム1、2で利用される場合について説明したが、測定点観測装置10等を利用可能な他のシステムがあれば、当該システムで用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】第1の実施形態に係る土地地盤変位監視システムの構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る測定点観測装置の構造を示す縦断面図である。
【図3】第2の実施形態に係る土地地盤変位監視システムの構成を示す図である。
【図4】第2の実施形態に係る測定点観測装置の構造を示す縦断面図である。
【図5】第3の実施形態に係る測定点観測装置の構造を示す縦断面図である。
【図6】第1から第3の実施形態に係る測定点観測装置の他の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 土地地盤変位監視システム(第1の実施形態)
2 土地地盤変位監視システム(第2の実施形態)
10、10a、10b、10c 測定点観測装置
11 基準点観測装置
12 監視装置
19 舗装部
30、30a、30b、30c 密閉容器
31、31a 蓋
32、32a、32b 下部容器
33 Oリング
38 パテ
40 アンテナモジュール
41 アンテナ
45 プリント基板
51 シールド板
52 受信機
63 舗装道路
64、64b 基台
65 コンクリート管
81 伸縮計
90 アンテナ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位衛星からの電波を受信して当該電波の位相に関するデータを求める観測装置であって、
平坦な上面を大気に露出させて地面に埋め込まれる分離可能な密閉容器と、
前記密閉容器内に収納された、アンテナモジュール、シールド板および受信機と、
前記密閉容器内に水が浸入するのを防止する防水手段と、
前記密閉容器を土地に固定するための固定用手段と、を備え、
前記密閉容器の上壁は電波透過率の高い材質からなり、
前記アンテナモジュールは前記電波を受信して受信信号を増幅し、
前記シールド板は、電波反射率の高い材質からなり、前記密閉容器の底壁あるいは側壁で前記電波が反射しないように配置され、
前記受信機は、前記アンテナモジュールから出力される増幅された受信信号に対して信号処理を施すことにより、前記電波の位相に関するデータを求めることを特徴とする観測装置。
【請求項2】
測位衛星からの電波を受信して当該電波の位相に関するデータを求める観測装置であって、
平坦な上面を大気に露出させて地面に埋め込まれる分離可能な密閉容器と、
前記密閉容器内に収納された、アンテナモジュールおよびシールド板と、
前記密閉容器内に水が浸入するのを防止する防水手段と、
前記密閉容器を土地に固定するための固定用手段と、
前記密閉容器外に配置される受信機と、を備え、
前記密閉容器の上壁は電波透過率の高い材質からなり、
前記アンテナモジュールは前記電波を受信して受信信号を増幅し、
前記シールド板は、電波反射率の高い材質からなり、前記密閉容器の底壁あるいは側壁で前記電波が反射しないように配置され、
前記受信機は、前記アンテナモジュールから出力される増幅された受信信号に対して信号処理を施すことにより、前記電波の位相に関するデータを求めることを特徴とする観測装置。
【請求項3】
位置が既知の基準点に設置され、測位衛星からの電波を受信して当該電波の位相に関するデータを求める基準点観測装置と、
請求項1または請求項2に記載の観測装置であって、1つまたは複数の測定点に、前記密閉容器が上面を大気に露出させて埋め込まれ、かつ前記固定用手段を用いて土地に固定された測定点観測装置と、
前記基準点観測装置で求められる位相に関するデータ、測定点観測装置で求められる位相に関するデータ、および測位衛星の位置情報から基準点に対する測定点の相対位置を求める相対位置算出手段と、
前記相対位置の変動を検知する相対位置変動検知手段と、を備えることを特徴とする土地地盤変位監視システム。
【請求項4】
請求項3に記載の土地地盤変位監視システムにおいて、
前記固定用手段を用いて前記密閉容器が地面に固定されることを特徴とする土地地盤変位監視システム。
【請求項5】
請求項4に記載の土地地盤変位監視システムにおいて、
前記密閉容器と地中に埋設された基台との距離を測定する距離測定手段をさらに備えることを特徴とする土地地盤変位監視システム。
【請求項6】
請求項3に記載の土地地盤変位監視システムにおいて、
前記固定用手段を用いて前記密閉容器が地中に埋設された基台に固定されることを特徴とする土地地盤変位監視システム。
【請求項7】
測位衛星からの電波を受信するアンテナ装置であって、
平坦な上面を大気に露出させて地面に埋め込まれる分離可能な密閉容器と、
前記密閉容器内に収納された、アンテナモジュールおよびシールド板と、
前記密閉容器内に水が浸入するのを防止する防水手段と、
前記密閉容器を土地に固定するための固定用手段と、を備え、
前記密閉容器の上壁は電波透過率の高い材質からなり、
前記シールド板は、電波反射率の高い材質からなり、前記密閉容器の底壁あるいは側壁で前記電波が反射しないように配置され、
前記アンテナモジュールは前記電波を受信し、受信信号を増幅して出力することを特徴とするアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−58245(P2008−58245A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238121(P2006−238121)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】