説明

触媒、触媒の製造方法、膜電極複合体及び燃料電池

【課題】高価な貴金属であるPt、Ruの使用量を抑制しつつ、燃料電池に用いるのに好適な高活性かつ高安定性を有する触媒、この触媒の製造方法、この触媒を用いた膜電極複合体および燃料電池を提供する。
【解決手段】導電性担体と、前記導電性担体に担持され、下記(1)式で表される組成を有する触媒粒子であって、PtRuMg (1)(式中、uは30〜60atm%、xは20〜50atm%、yは0.5〜20atm%、zは0.5〜40atm%である)T元素がSi、W、Mo、V、Ta、Crおよびそれらの組み合わせからなる群より選ばれてなり、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおける酸素結合を有するT元素の量が、金属結合を有するT元素の量の4倍以下である触媒粒子を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に好適に用いることのできる、触媒と、膜電極複合体と、燃料電池及び触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換でき、かつ環境に優しい発電手段として昨今注目を浴びている。このうち、直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、変換効率が理論上97%、水素を燃料とする場合(PEFC)は理論上83%と高く、特に注目を浴びている。これらのうちさらにDMFCは、液体燃料を直接供給するため改質器が不要となり、低温運転に適していることから、携帯機器用二次電池の代替電源としての期待が高まっている。このDMFCにおいてメタノール酸化触媒として現在一般的に使われているのはPtである。しかし、Ptは、発電に際しの中間生成物である一酸化炭素により表面が被毒される結果、触媒活性が著しく低下するという問題点がある。
【0003】
この被毒を解消する手段の1つとしてPtRu合金の使用がある。このPtRu合金ではRu表面に吸着した酸素種がPt表面に吸着した一酸化炭素と反応するため、一酸化炭素による被毒が起こりにくく、触媒の活性低下が抑えられると考えられる。しかしながら、Pt、Ruは高価な貴金属であるため、PtRu合金を使用した場合には、高価な貴金属を大量に消費してコストが上昇してしまうといった欠点がある。そのため貴金属使用量を抑えながら、より高活性が得られる触媒の開発が大いに期待され、研究開発がなされている。
【0004】
このような研究開発の1つにPtRu合金に他の元素を添加して活性向上を目指すものがあり、その1つとして、Ptと、スズやモリブデンなどに代表される卑金属との合金も一酸化炭素被毒解消に効果があることが知られている。しかし、この方法は、酸性条件下では添加した金属が溶出するという問題がある。また、米国特許公報3506494(特許文献1)には、タングステン、タンタル、ニオブなど10種類の金属を添加することが開示されている。もっとも、同じ触媒組成でも合成プロセスによって触媒表面状態が大きく変化し、触媒表面状態の変化は触媒活性に大きく影響する。この特許文献1においては、触媒表面状態に大きな影響を与える合成プロセスに関する十分な記載がないため、所望の触媒活性を必ずしも得られない問題がある。実際、特開2005−259557(特許文献2)は、浸漬法によってPt、Ruに周期表の4〜6族金属を添加することによりアノード触媒を製造する方法が開示されており、浸漬の順番によってメタノール活性が大きく変化することが報告されている。なお、特許文献2においては、PtとRuと4〜6族金属との配合比については、重量比でPt:Ru:添加金属=317.7:82.3:100にすることが記載されているのみである。
【0005】
このような状況の下、触媒の合成プロセスを制御し、これまでにないナノ構造を持つ触媒粒子を合成し、PtRu合金を超える高活性触媒を見出すことが期待されている。もっとも、これまで触媒合成に一般的に使われている浸漬法などの溶液法には、還元されにくい元素、合金化しにくい元素については触媒の構造制御、表面制御をし難いという課題がある。
【0006】
他方、スパッタ法や蒸着法による触媒合成は材料制御の面においては有利であるが、元素種類、触媒組成、基板材料、基板温度などプロセスの影響に関する検討は不十分である。触媒粒子の多くはナノ粒子であるため、触媒粒子の表面電子状態と触媒粒子のナノ構造は、この粒子に添加される元素の種類と添加量に強く依存する傾向がある。高活性で高安定性な触媒粒子を得るために、触媒粒子に添加される元素の種類、元素添加量、元素間の組み合わせを適切化することが期待されている。米国特許公報6171721(特許文献3)にはスパッタ法による4元系の触媒が開示されている。添加可能な、数多くの元素を列挙して例示されているが、個々の元素の組成に関する記述は無い。米国特許公報5872074(特許文献4)ではMgが添加されるPtRuMg触媒の例が開示されているが、4元系に関する記載は無い。
【特許文献1】米国特許公報3506494
【特許文献2】特開2005−259557
【特許文献3】米国特許公報6171721
【特許文献4】米国特許公報5872074
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高価な貴金属であるPt、Ruの使用量を抑制しつつ、燃料電池に用いるのに好適な高活性かつ高安定性を有する触媒、この触媒の製造方法、この触媒を用いた膜電極複合体および燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために、触媒合成プロセスと触媒組成について鋭意検討を重ねてきた。その結果、下記(1)もしくは(2)式で表される触媒粒子を形成すると、好ましくは、PtRu合金にT元素を含有させる際、導電性担体にスパッタ法または蒸着法を用いると、Pt、Ruの使用量を抑制しつつ、高活性かつ高安定性を有する触媒が得られることを見出した。
【0009】
ここに本発明の触媒は、導電性担体と、前記導電性担体に担持され、下記(1)式で表される組成を有する触媒粒子であって、PtRuMg (1)、(式中、uは30〜60atm%、xは20〜50atm%、yは0.5〜20atm%、zは0.5〜40atm%である)T元素がSi、W、Mo、V、Ta、Crおよびそれらの組み合わせからなる群より選ばれてなり、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおける酸素結合を有するT元素の量が、金属結合を有するT元素の量の4倍以下である触媒粒子を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の別の態様の触媒は、導電性担体と、前記導電性担体に担持され、下記(2)式で表される組成を有する触媒粒子であって、PtRuMg (2)、(式中、uは30〜60atm%、xは20〜50atm%、yは0.5〜20atm%、zは0.5〜40atm%である)T元素がTi、Hf、Sn、Zr、Nbおよびそれらの組み合わせからなる群より選ばれてなり、X線光電子分光法(XPS)によるスペクトルにおける金属結合を有するT元素の量が、酸素結合を有するT元素の量の2倍以下である触媒粒子を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の好適態様においては、上記式(1)または(2)中のyが、1〜10atm%であることを特徴とする。
【0012】
本発明の触媒の製造方法は、上記本発明の触媒の製造方法であって、400℃以下に保持された導電性担体に、スパッタ法または蒸着法によってPt、Ru、Mg、およびT元素を付着させることを特徴とする。
【0013】
本発明の膜電極複合体は、カソードと、上記本発明の触媒を含むアノードと、前記カソードと前記アノードの間に配置されるプロトン伝導性膜を具備することを特徴とする。
【0014】
本発明の燃料電池は、上記本発明の膜電極複合体を具備することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
<触媒>
本発明の触媒は、導電性担体と、この導電性担体に担持され、前記(1)または(2)式で表される組成を有する触媒粒子を含むことを特徴とするものである。それぞれについて、以下説明する。
【0017】
<触媒粒子>
本発明に用いられる触媒は、前記(1)または(2)式で表される組成を有し、Pt、RuおよびMgを必須とする4元系もしくは4元系以上の触媒である。
【0018】
<PtおよびRuについて>
Ptは水素の酸化、有機燃料の脱水素反応、RuはCO被毒抑制に極めて有効である。よって、uを30〜60atm%にする。
【0019】
Ruに関しては、Ruの量が少ないと、活性が不足する。よって、xを20〜50atm%にする。
【0020】
なお、本発明の触媒に存在するPt元素は金属結合のほか、酸素結合を持つPt元素が存在する場合もある。触媒の表面にPt(およびRu、Mg、T元素)からなる酸化層が存在すると思われ、それにより高活性と高安定性を付与すると考えられる。触媒中酸化結合を持つPt元素の含有量が少ないため、XPSによって把握しにくいが、X線吸収微細構造測定法(XANES)では触媒のXANESスペクトルとPt金属箔(標準試料)、Pt酸化物(標準試料)のXANESスペクトルと比較することによって解析できる。また、PtRuの一部を他の金属、例えば化学安定性に特に優れているRh、Os、Irなどの貴金属に置換することによって活性を向上させ得る。
【0021】
<Mgについて>
本発明においてPtRu合金にMgを添加することで、その助触媒作用によってPtRu系触媒の活性が向上する。活性向上の詳細なメカニズムは不明だが、Mgの特定な混合状態に起因した触媒の表面構造、電子状態の変化が主因と考えられる。また、金属結合を有するMgが存在する場合、活性が向上する場合もある。前記(1)または(2)式で表される触媒粒子中のMg量は0.5〜20atm%であるのが好ましい。0.5atm%未満または20atm%を超えるMgを含有すると、Mgの助触媒作用を十分に得られない。Mg量のより好ましい範囲は、1〜10atm%である。
【0022】
<Tについて>
本発明においてPtRu合金にT元素を添加することで、その助触媒作用によってPtRuMgと比較してさらに触媒活性の向上を図ることができる。T元素の量は0.5〜40atm%であるのが好ましい。T元素の含有量が0.5atm%未満である場合のみならず40atm%を超えても、T元素の助触媒作用が十分に発揮されない。
【0023】
本発明によるT元素がSi、W、Mo、V、Ta、Crおよびそれらの組み合わせからなる群より選ばれてなる場合、XPSによるスペクトルにおける酸素結合をもつT元素の含有量は金属結合で存在する同元素の4倍以下とする。2倍以下はさらに好ましい。この比率を超えるとT元素の助触媒効果が十分得られ難くなる。
【0024】
また、本発明によるT元素がTi、Hf、Sn、Zr、Nbおよびそれらの組み合わせからなる群より選ばれてなる場合、XPSによるスペクトルにおける金属結合で存在するT元素が酸素結合で存在する同元素の2倍以下とする。1倍以下はさらに好ましい。この比率を超えるとT元素の助触媒効果が十分得られ難くなる。
【0025】
XPS測定は、試料表面近傍数nm程度の深さまでのものを検出できる(全信号強度のうちに表面に近い部分が占める割合は極めて大きい)測定方法である。したがって、上記記載は、触媒粒子の表面から数nm以内の領域において金属状態としてのT元素と酸素結合したT元素が所定の比率で存在していることを意味する。そして、触媒微粒子の表面には酸化層が形成されやすいため、XPS測定スペクトルにおけるT元素の酸化結合によるピーク面積(信号)は、金属結合によるピーク面積より高い値となりやすい。酸素結合を有するT元素(および他の元素)を含む表面酸化層の存在は、触媒性能向上に寄与すると考えられる。他方、金属状態としてのT元素といっても、T元素単独からなる金属ナノ粒子は大気中に安定に存在できないため、本発明の担持触媒においては、具体的にはT元素とPt、Ruとの合金粒子が存在していると考えられる。実際、XRD(X線回折分析)によって触媒粒子のXRDスペクトルを分析した結果、メインピークの位置がPtRu合金の場合と異なり(PtRu合金の面間距離はPt/Ru=1:1ではおよそ2.23オングストローム、1:1.5ではおよそ2.21オングストロームであるが、添加元素が入ることにより構造が変化して面距離が変化する)MgおよびT元素の添加によって合金構造が変化して、触媒粒子のメインピークの結晶面の面間距離は2.16〜2.25オングストロームとなった。このT元素とPt、Ru、Mgとの金属結合の存在が他の触媒金属に及ぼす電子的な相互作用は、触媒作用上重要と思われ、触媒活性向上に寄与する場合があるが、詳細は明らかではない。
【0026】
本発明の触媒の中のT元素の金属結合の存在はX線吸収微細構造測定(EXAFS)によっても確認できる。EXAFSは触媒全体を透過するため、XRD(X線回折分析)と同様に触媒全体の結合情報を測定することが可能である。EXAFSによって測定した各T元素の動径構造分布によると、T元素の金属結合によるピーク(結合距離:2〜3Å)が強く認められた。
【0027】
<Oについて>
本発明において、触媒は酸素を含有していてもよい。実際、酸素を含有させることを意図しなくても、合成プロセス中や触媒を保存する際の触媒表面への酸素吸着、また、酸洗いなど表面酸化処理によって触媒表面の酸化がありうる。触媒表面に少量の酸化がある場合は、触媒活性、安定性が向上する場合がある。触媒の酸素含有量は25atm%以下であるのが望ましい。25at%を超えると触媒活性が著しく低下する場合がある(なお、本明細書内の触媒組成に関する他の記載は、基本的にスパッタの「仕込み組成」を示している)。
【0028】
<触媒粒子の形態>
本発明では、触媒粒子の形態をナノ微粒子とすると、より高い活性が得られることから好ましい。具体的には、触媒粒子の平均粒径は10nm以下であることが望ましい。10nmを超えると、触媒の活性効率が低下する恐れがあるからである。さらに好ましい範囲は、0.5〜10nmである。0.5nm未満にすると、触媒合成プロセスの制御が困難で、触媒合成コストが高くなる。なお、触媒粒子には、平均粒径が10nm以下の微粒子を単独で使用しても良いが、この微粒子からなる一次粒子の凝集体(二次粒子)を使用しても良い。
【0029】
<導電性担体>
本発明に用いられる導電性担体は、導電性と安定性に優れる担体であれば使用することができる。このような材料としては、例えばカーボンブラックを挙げることができる。また、ナノカーボン材料、例えば、ファイバー状、チューブ状、コイル状材料なども使用することができる。これらのナノカーボン材料は表面状態が違うため、本発明触媒粒子を担持させた場合、触媒粒子の活性がさらに向上し得る。カーボン材料以外には、例えば、導電性を持つセラミックス材料を担体として使用しても良い。この場合には、セラミックス担体と触媒粒子との更なる相乗効果が生じうる。
【0030】
<製造方法>
次に、本発明に係る触媒の製造方法について説明する。本発明に係る触媒は、例えばスパッタ法または蒸着法によって作製される。これらの方法は含浸法、沈殿法、コロイド法、電析法、電気泳動法などの溶液法に比較して、金属結合を有する特定な混合状態(合金化されたもの)を持つ触媒を作製しやすいという利点がある。
【0031】
スパッタ法によって触媒粒子を導電性担体に付着させる場合、合金ターゲットを用いても良いし、2元以上の同時スパッタ法による手法を用いてもよい。典型的方法としては、まず、粒子状または繊維状の導電性担体を十分に分散させる。次に、分散した担体をスパッタ装置のチャンパーにあるホルダに入れ攪拌しながら、スパッタリングによって触媒の構成金属を担体に付着させる。スパッタリング中の担体温度を400℃以下にすることが望ましい。それより高い温度では、触媒粒子において相分離が生じて触媒活性が不安定になる場合がある。また、担体の冷却に必要なコストを低減するため、担体温度の下限値は10℃にすることが望ましい。なお、担体温度は熱電対によって測定することができる。また、均一な触媒付着を実現するには攪拌することが好ましい。攪拌しない場合は触媒の分布にムラが生じ、燃料電池特性が低くなる虞がある。
【0032】
なお、本発明の触媒は導電性カーボン繊維を含む多孔質ペーパー、電極拡散層または電解質膜に直接スパッタしても良い。この場合は、プロセスの調整によって触媒をナノ微粒子の状態で形成させることが好ましい。また、上記と同様に多孔質ペーパー温度を400℃以下にすることが望ましい。
【0033】
スパッタ法もしくは蒸着法によって触媒粒子を形成した後、好ましくは酸洗い処理または熱処理を施すことによって活性が更に向上し得る。触媒構造または表面構造が酸洗い処理または熱処理によって更に適切化されるからであると考えられる。酸洗い処理については酸の水溶液であれば良いが、本発明は硫酸水溶液を用いた。後熱処理については、10〜400℃以下、酸素分圧が5%未満の雰囲気中で処理するのが望ましい。また、微粒子が形成されやすくなるため、カーボンなど他の材料と構成金属元素とを同時にスパッタまたは蒸着しても良い。なお、本発明では、溶解性の良い金属、例えば、Cu,Znなどと構成金属元素とを同時にスパッタまたは蒸着し、その後酸洗いなどによってCu,Znなどを取り除くことも可能である。
【0034】
<燃料電池および膜電極複合体>
以下に本発明に係る燃料電池の構造の一実施形態について説明する。
【0035】
図1は、燃料電池の単セルを示す概念図である。図1中の筐体1a、1b内に電解質膜2と、それを挟持する酸化剤極(カソード)3と燃料極(アノード)4を有し、それらの外側に酸化剤流路5と液体燃料流路6を具備してなる。
【0036】
電解質膜2はイオン交換膜が使用される。イオン交換膜は、アニオンまたはカチオンのいずれのイオン伝導タイプでも使用できるが、プロトン伝導タイプのものが主に使用される。例えばパーフルオロアルキルスルホン酸ポリマーを代表とする高分子膜などアニオン又はカチオン伝導性を有する材料が使用できる。
【0037】
酸化剤極3と燃料極4との間に電解質膜2を介在配置させて挟持するか、あるいはホットプレスまたはキャスト製膜等によって三者を接合して、膜電極複合体(Membrane electrode Assembly)が構成される。多孔質カーボンペーパーないしカーボンクロス(図中の3および4に相当)には、必要であればポリテトラフルオロエチレンに代表される撥水剤を添加または積層することもできる。
【0038】
燃料極4は、前述のメタノール酸化触媒を有効成分としてなる電極である。燃料極4は、電解質膜2に当接させる。燃料極4を電解質膜2に当接させる方法としては、ホットプレス、キャスト製膜をはじめとする公知の方法が使用できる。
【0039】
酸化剤極3も、多くの場合、Ptを担持したカーボンをイオン伝導材料とともによく混合した上で電解質膜2に当接させることで構成されている。イオン伝導材料は、電解質膜2と同じ材料であると好ましい結果が得られる。酸化剤極3をイオン交換膜2に当接させる方法としては、ホットプレス、キャスト製膜をはじめとする公知の方法を使用することができる。Ptを担持したカーボン以外にも、酸化剤極3として、貴金属又はそれらを担持したもの(電極触媒)や、有機金属錯体又はそれを焼成したものなど公知のものを使用でき、また担体に担持させることなく無担持のまま使用してもよい。
【0040】
酸化剤極3側には、上流側に酸化剤(多くの場合空気)を導入するための酸化剤導入孔(図示せず)が設けられる一方、下流側に未反応空気と生成物(多くの場合水)を排出するための酸化剤排出孔(図示せず)が設けられる。この場合、強制排気及び/または強制排気手段を付設してもよい。また、筐体1aに空気の自然対流孔を設けてもよい。
【0041】
燃料極4の外側には、液体燃料流路6が設けられる。液体燃料流路6は、外部燃料収納部(図示せず)との流通路であってもよいが、メタノール燃料を収納するための部位であってもよい。下流側に未反応メタノール燃料と生成物(多くの場合CO)を排出するための排出孔(図示せず)が設けられる。この場合、強制排出及び/または強制排出手段を付設してもよい。
【0042】
燃料極4に直接供給される燃料は、メタノール単独ないしはメタノールと水の混合物が適当であるが、メタノールとの混合物であると、クロスオーバーが効果的に防止されて更に良好なセル起電力と出力が得られる。
【0043】
図1に示す直接メタノール型燃料電池の概念図は、単セルだけを表しているが、本発明においては、この単セルをそのまま使用してもよいし、複数のセルを直列及び/または並列接続して実装燃料電池とすることもできる。セル同士の接続方法は、バイポーラ板を使用する従来の接続方式を採用してもよいし、平面接続方式を採用してもよい。無論その他公知の接続方式の採用も有用である。
【0044】
燃料としては、メタノールのほかに、エタノール、蟻酸、あるいはこれらを含む一種類以上含む水溶液等を使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0046】
<触媒の調製>
(実施例1〜8、11〜20 比較例1〜4、7〜9)
まず、カーボンブラック担持体(商品名:ValcanXC72、キャボットコーポレーション社製、比表面積:約230m/g)を十分に分散した。次に分散した担持体をイオンビームスパッタ装置のチャンバーにあるホルダにいれ、真空度が3×10−6Torr以下になってから、Arガスを流した。表1に示す各種組成となるようにターゲットとして前述の要領に沿って準備した金属または合金を用い、スパッタリングを行い、触媒微粒子を担体に付着させた。作成されたものに対し硫酸水溶液(硫酸100g、水200g)を用いて酸洗いを実施し、その後水洗いを行い、乾燥させた。
【0047】
(実施例9〜10)
まず、カーボンブラック担体(商品名VulcanXC72、キャボットコーポレーション社製、比表面積:約230m/g)を十分に分散した。次に分散した担体をレーザパルス蒸着装置のチャンバー内にあるホルダに入れ、真空度が3×10−6Torr以下になってから、表1に示す各種組成となるように前述の要領に沿って準備した金属または合金を用い、蒸着を行い、触媒粒子を担体に付着させた。作成されたものに対し、硫酸水溶液(硫酸100g、水200g)を用いて酸洗い処理を実施し、その後水洗いを行い、乾燥させた。
【0048】
(比較例5)
まず、塩化マグネシウムをマグネシウム金属量として90mg含有し、塩化タングステンをタングステン金属量として681mg含有するエタノール溶液1000mL中に、カーボンブラック(商品名VulcanXC72、キャボットコーポレーション社製、比表面積:約230m/g)を800mg添加し、十分に撹拌して均一に分散させ、その後撹拌下に55℃に加熱してエタノールを揮発させて除去した。次いで、水素ガスを50mL/分の流量で流通させながら、上記した方法で得た残留物を300℃で3時間加熱して、カーボンブラック上にマグネシウムおよびタングステンを担持させた。次いで、1,5−シクロオクタジエンジメチルPtを、Pt金属量として2890mg含有するシクロヘキサン溶液800mLと、塩化ルテニウムをルテニウム金属分として1498mg含有するエタノール溶液200mLを混合し、この混合溶液中に、上記したマグネシウムおよびタングステン担持カーボンを添加し、十分に撹拌して均一に分散させた後、撹拌下に55℃に加熱して溶媒を揮発させて除去した。次いで、水素ガスを50mL/分の流量で流通させながら、上記した方法で得た残留物を300℃で3時間加熱することにより、カーボンブラック上に、Pt、ルテニウム、マグネシウム及びタングステン担持させ、担持触媒を得た。
【0049】
(比較例6)
特許文献4(米国特許5872074号公報)のExample1と同様な手法で、Pt10Ru10Mg80の触媒を合成した。
【表1】

【0050】
<XPS測定>
上記各種触媒についてPHI社製Quantum−2000を用いてXPS測定を行った。中和銃(電子銃、アルゴン銃)によるチャージアップ補償と帯電補正(C1s:C−C=284.6eV)を行った。
【0051】
<本実施例の触媒>
本明細書においては、触媒粒子中に含有されているT元素の種類が複数の場合に、最も含有量が多いT元素のことを主要T元素と称することとする。例えば、実施例5の触媒粒子の場合主要T元素はHfであり、比較例4の場合はWおよびSnである。表1の実施例1〜10、12、13、18〜20、比較例3、4、7〜9の各触媒中の主要T元素がSi、W、Mo、V、Ta、及びCrの場合(以下、T1と呼ぶ)、XPSスペクトル上のT1元素の酸素結合によるピークの面積は同元素の金属結合によるピーク面積の4倍以下であることを確認した。また主要T元素がTi、Hf、Sn、Zr及びNbの場合(以下T2と呼ぶ)、XPSスペクトル上のT2元素の金属結合によるピークの面積は同元素の酸素結合によるピーク面積の2倍以下であることを確認した。
【0052】
具体的には、表2に示すようにV元素についてはV2pスペクトルを用いて、結合エネルギーが512〜513eVと516〜517eVにあるピークからそれぞれ金属結合成分と酸化結合成分を分離した。Hf元素についてはHf4fスペクトルを用いて、結合エネルギーが14〜15eVと17〜19eVにあるピークからそれぞれ金属結合成分と酸化結合成分を分離した。Nb元素についてはNb3dスペクトルを用いて、結合エネルギーが202〜203eVと203〜209eVにあるピークからそれぞれ金属結合成分と酸化結合成分を分離した。W元素についてはW4fスペクトルを用いて、結合エネルギーが31〜34eVと36〜40eVにあるピークからそれぞれ金属結合成分と酸化結合成分を分離した。二つのピークが重なる元素については、波形分離操作を行い金属結合部分と酸化結合部分に分離した。
【表2】

【0053】
表1のT1(Si、W、Mo、V、Ta、またはCrの場合)の欄に記載の数値は、金属結合ピーク面積を1としたときの酸素結合ピーク面積の割合を示すものである。またT2(Ti、Hf、Sn、ZrまたはNbの場合)の欄に記載の数値は、酸素結合ピーク面積を1としたときの金属結合ピーク面積の割合を示すものである。
【0054】
実施例1〜20の担持触媒にXRD(X線回折分析)を行ったところ、回折パターンのメインピークの結晶面の面間隔は2.16〜2.25Åの範囲内にあった。各触媒の触媒粒子の平均粒径については、任意の異なる5視野についてTEM(透過型電子顕微鏡)観察を用いて行い、各視野において20粒子の直径を測定し、合計100粒子の直径を平均したところ、各触媒粒子の粒径は3〜5nmの範囲にあった。
【0055】
実施例1〜20、比較例1〜9の触媒をアノード触媒として用いた。それぞれに対するカソードには、標準カソード電極(カーボンブラック担持のPt触媒 市販品 田中貴金属社製)を使用した。燃料電池電極、膜電極複合体、単セルを以下に示す方法で作製し、評価を行なった。
【0056】
<アノード電極の作成>
得られた各種触媒を3g秤量した。これら触媒と、純水8gと、20%ナフィオン溶液15gと、2−エトキシエタノール30gとを良く攪拌し、分散した後、スラリーを作製した。撥水処理したカーボンペーパー(350μm、東レ社製)に上記のスラリーをコントロールコータで塗布し、乾燥させ、貴金属触媒のローディング密度が1mg/cmのアノード電極を作製した。
【0057】
<カソード電極の作成>
まず、田中貴金属社製Pt触媒2gを秤量した。このPt触媒と、純水5gと、20%ナフィオン溶液5gと、2−エトキシエタノール20gとを良く攪拌し、分散した後、スラリーを作製した。撥水処理したカーボンペーパー(350μm、東レ社製)に上記のスラリーをコントロールコータで塗布し、乾燥させ、貴金属触媒のローディング密度が2mg/cmのカソード電極を作製した。
【0058】
<膜電極複合体の作製>
カソード電極、アノード電極それぞれを電極面積が10cmになるよう、3.2×3.2cmの正方形に切り取り、カソード電極とアノード電極の間にプロトン伝導性固体高分子膜としてナフィオン117(デュポン社製)を挟んで、125℃、10分、30kg/cmの圧力で熱圧着して、膜電極複合体を作製した。
【0059】
この膜電極複合体と流路板とを用いて燃料直接供給型高分子電解質型燃料電池の単セルを作製した。この単セルに燃料としての1Mメタノール水溶液、流量0.6mL/min.でアノード極に供給すると共に、カソード極に空気を200mL/分の流量で供給し、セルを60℃に維持した状態で150mA/cmの電流密度で放電させ、30分後のセル電圧を測定した。その結果も表1に示す。
【0060】
表1の結果に示されるように、実施例1〜20および比較例2〜3と、比較例1との比較により、添加元素の効果によりPtRuと比較して活性が向上することがわかる。また、実施例1と比較例3、4を比べることにより、Mg添加が活性向上に大きく寄与していることが分かる。実施例1〜3と比較例8を比較することにより、Mgの量が0.5〜20atm%の範囲を超えると、活性が低下することがわかる。実施例1〜5と比較例9を比較することにより、T元素の添加量が40atm%を超えると活性が低下することが分かる。実施例1と比較例5の比較により、溶液法よりスパッタ法が高い活性を示すことがわかる。触媒合成のプロセスによるものと思われる。
【0061】
比較例6(特許文献4のExample1)Mgの量は80atm%と多いため、活性が低いことが分かる。また、実施例1〜3と比較例7を比較することにより、Mgの量が0.5〜20atm%にある実施例1〜3の方が、比較例7と比較して活性が高いことが分かり、Mgの添加が活性向上に寄与していることが分かる。
【0062】
最後に、触媒の長期安定性について各MEAの1000時間発電後の電圧を測定し、以下に示すようにして定義した劣化率を算出した結果を表1に示す。
【0063】
劣化率=(初期電圧−1000時間後の電圧)×100/初期電圧
PtRuでは1.5%、3元系では1.5〜3%の劣化率だったのに対し、Mgの添加を行った4元系以上のMEAの劣化率は0.5%〜0.6%の間に収まり、劣化率が大幅に改善されていることがわかる。Mgを添加することは活性向上の効果のみならず安定性の向上という観点からも有効であることが理解できる。
【0064】
なお、本実施例の触媒を用いた高分子電解質型燃料電池にも上記と同様な効果を確認した。従って、本実施例の触媒はCO被毒についても従来のPtRu触媒より有効である。
【0065】
以上説明したように、本発明により、高活性かつ高安定性な触媒と、燃料電池を提供することができる。
【0066】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】直接メタノール型燃料電池の一実施形態の構成を表す概念図。
【符号の説明】
【0068】
1a.・・・筐体
1b.・・・筐体
2・・・電解質膜
3・・・酸化剤極
4・・・燃料極
5・・・酸化剤流路
6・・・液体燃料流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性担体と、
前記導電性担体に担持され、下記(1)式で表される組成を有する触媒粒子であって、
PtRuMg (1)
(式中、uは30〜60atm%、xは20〜50atm%、yは0.5〜20atm%、zは0.5〜40atm%である)T元素がSi、W、Mo、V、Ta、Crおよびそれらの組み合わせからなる群より選ばれてなり、X線光電子分光法によるスペクトルにおける酸素結合を有するT元素の量が、金属結合を有するT元素の量の4倍以下である触媒粒子、
を含む、触媒。
【請求項2】
導電性担体と、
前記導電性担体に担持され、下記(2)式で表される組成を有する触媒粒子であって、
PtRuMg (2)
(式中、uは30〜60atm%、xは20〜50atm%、yは0.5〜20atm%、zは0.5〜40atm%である)T元素がTi、Hf、Sn、Zr、Nbおよびそれらの組み合わせからなる群より選ばれてなり、X線光電子分光法によるスペクトルにおける金属結合を有するT元素の量が、酸素結合を有するT元素の量の2倍以下である触媒粒子、
を含む、触媒。
【請求項3】
yが、1〜10atm%である、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒の製造方法であって、400℃以下に保持された導電性担体に、スパッタ法または蒸着法によってPt、Ru、Mg、およびT元素を付着させる、触媒の製造方法。
【請求項5】
カソードと、請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒を含むアノードと、前記カソードと前記アノードの間に配置されるプロトン伝導性膜を具備する、膜電極複合体。
【請求項6】
請求項5記載の膜電極複合体を具備する、燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2009−28599(P2009−28599A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193317(P2007−193317)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】