説明

触媒及び触媒の製造方法

【課題】
燃料電池用のカソードに用いる触媒に含まれる貴金属粒子を微細化することで、高い活性を有する触媒を提供する。
【解決手段】
貴金属粒子を含む燃料電池用のカソードに用いる触媒の製造方法において、貴金属の化合物と還元剤とを含む溶液に、タングステンの化合物を添加する工程を有することを特徴とする。これにより、燃料電池用のカソードに用いる触媒に含まれる貴金属粒子を微細化することができ、高い活性を有する触媒を達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池で使用される触媒及びその触媒の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の電子技術の進歩によって、情報量が増加し、その増加した情報を、より高速に、より高機能に処理する必要があるため、高出力密度で高エネルギー密度の電源、すなわち、連続駆動時間の長い電源を必要とする。
【0003】
充電を必要としない小型発電機、即ち、容易に燃料補給ができるマイクロ発電機の必要性が高まっている。こうした背景から、燃料電池の重要性が検討されている。
【0004】
燃料電池は、少なくとも固体又は液体の電解質及び所望の電気化学反応を誘起する二個の電極,アノード及びカソードから構成され、その燃料が持つ化学エネルギーを直接電気エネルギーに高効率で変換する発電機である。
【0005】
こうした燃料電池は、電解質に固体高分子電解質膜を用い、水素を燃料とするものは固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)と呼ばれ、メタノールを燃料とするものは直接メタノール形燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)と呼ばれる。
【0006】
これらPEFCやDMFCは、比較的低温で運転されるため、電極中の触媒上での反応に伴う損失が大きい。そのため触媒の活性を向上させることが発電効率の向上に必要である。
【0007】
PEFCやDMFCの触媒は、一般的に白金やパラジウムの貴金属の粒子が用いられ、必要に応じて炭素担体に担持して用いられる。
【0008】
触媒の活性を向上させるためには、これら貴金属粒子の粒子径(粒径)を小さくし、表面積を増大させることや、タングステン酸化物の表面に白金を形成することが有効である。
【0009】
貴金属粒子の製造方法としては、一般的に、例えば、特許文献1に記載のように、無電解めっき法が広く用いられる。この方法は貴金属の化合物と還元剤とを溶液中で共存させ、貴金属を還元して粒子を得るものである。なお、タングステンは添加されていない。
【0010】
また、タングステン酸化物の表面に白金を形成する方法は、例えば、特許文献2に記載のように、タングステン酸化物粒子を含む溶液に白金化合物を添加するものがある。
【0011】
【特許文献1】特開2007−061698号公報
【特許文献2】特開2005−150085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の製造方法では、先に析出した貴金属が触媒となり、その貴金属の表面で優先的に貴金属の析出が起こるため、微細な貴金属粒子を得ることは困難であった。
【0013】
そこで、本発明は、微細な貴金属粒子を得ることができる触媒の製造方法を提供すると共に、その触媒の特徴を明らかとするものである。
【0014】
そして、本発明は、活性の高い触媒を燃料電池に用い、高い出力密度を有する燃料電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る実施態様の1つである触媒の製造方法は、貴金属の化合物を還元剤により還元し、貴金属粒子を得るものである。そして、貴金属の化合物と、還元剤とを含む溶液に、タングステンの化合物を添加する工程を有するものである。
【0016】
なお、還元剤の酸化還元電位が、タングステンの酸化還元電位よりも低いことが好ましい。これは、タングステンが溶液中で析出できる1つの条件である。
【0017】
また、本発明に係る実施態様の1つである触媒は、貴金属粒子を含む触媒であって、その触媒にタングステンを含み、貴金属のモル量Xと、タングステンのモル量Yとの関係が、0.005≦Y/(X+Y)≦0.040であることを特徴とする。好ましくは、0.018≦Y/(X+Y)≦0.040である。なお、モル量とは、原子の個数の比を意味するものである。
【0018】
また、本発明に係る実施態様の1つである触媒は、貴金属粒子を含む触媒であって、その触媒が貴金属粒子の成長を抑制する物質を含むことを特徴とする。
【0019】
ここで成長の抑制とは、貴金属粒子の一次粒子の大きさを小さくすることを意味する。
【0020】
また、この成長を抑制する物質の代表的なものとしては、W,Mo,Co,Cuがあるが、燃料電池で使用される触媒としては、Wが好ましい。
【0021】
貴金属は、白金,パラジウムから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0022】
また、タングステンは、金属あるいは酸化物で存在する。
【0023】
また、本発明に係る実施態様の1つである触媒は、タングステンを含み、タングステンは粒子であり、その粒径が、貴金属粒子の粒径よりも小さいことを特徴とする。これは、無電解めっき法を用いることによって、貴金属粒子の表面にタングステンを析出させることによって達成できるものである。
【0024】
つまり、貴金属粒子の表面にタングステンを析出させた触媒は、つまり触媒として機能するものにおいては、貴金属粒子の粒径よりもタングステンの粒子の粒径のほうが、小さいことを特徴とする。
【0025】
そして、こうした触媒を、触媒とプロトン伝導性材料とを有し燃料を酸化するアノードと、触媒とプロトン伝導性材料とを有し酸素を還元するカソードと、アノードとカソードとの間に配置されるプロトン伝導性を有する電解質膜と、を含む膜/電極接合体のカソードに含まれる触媒と使用することが好ましい。
【0026】
また、このような膜/電極接合体と、燃料を供給する部材と、空気(酸素)を供給する部材と、集電用部材とを用いて、燃料電池や燃料電池を搭載した燃料電池発電システムとすることも可能である。
【0027】
燃料を供給する部材としては、ポンプ等により導入された燃料を、セパレータを介して拡散層に供給する一連の部材を、また、空気(酸素)を供給する部材としては、ブロア等により導入された空気(酸素)を、セパレータを介して拡散層に供給する一連の部材を示すものである。
【0028】
集電用部材としては、各膜/電極接合体により発電された電気を集める一連の部材である。
【0029】
つまり、ここで説明する触媒の製造方法の特徴は、貴金属の化合物を還元剤により還元し、貴金属の化合物と還元剤とを含む溶液にタングステンの化合物を添加する点にある。
【0030】
燃料電池は、アノード,電解質膜,カソード,拡散層から構成される膜/電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を有するものであり、アノードで燃料が酸化され、カソードで酸素が還元されるものである。ここで説明する触媒は、こうした燃料電池の、特にカソードに用いられる触媒に関するものである。
【0031】
なお、燃料電池の燃料には、水素やメタノールが用いられているが、アルカリハイドライド,ヒドラジン、又は加圧液化ガスであるジメチルエーテルが検討されている。また、酸化剤ガスには、空気や酸素が用いられる。
【0032】
燃料はアノードにおいて電気化学的に酸化され、カソードでは酸素が還元され、両電極間には電気的なポテンシャルの差が生じる。このときに外部回路として負荷が両電極間にかけられると、電解質中にイオンの移動が生起し、外部負荷には電気エネルギーが取り出される。
【0033】
このために各種の燃料電池は、大型発電システム,小型分散型コージェネレーションシステム,電気自動車電源システム等に期待は高く、実用化開発が活発に展開されている。
【発明の効果】
【0034】
本発明によって、微細な貴金属粒子を得ることができ、活性の高い触媒を燃料電池に用いることができ、高い出力密度を有する燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に、本実施例の実施の形態を示す。
【0036】
DMFCの場合について記述するが、本実施例に係る燃料電池のカソードに用いる触媒はDMFCに限定されず、水素を燃料とするPEFCにも適用可能であり、貴金属粒子を触媒とする燃料電池であれば使用できる。
【0037】
本実施例に係る触媒の製造方法の概要を図1に示す。
【0038】
貴金属化合物と還元剤とを含む溶液に、タングステン化合物を添加し、還元剤により、貴金属,タングステンを還元して析出させる。この製造方法は、いわゆる無電解めっき法である。
【0039】
ここで使用する貴金属は、燃料電池のカソードで起こる酸素還元反応の活性が高いため、白金またはパラジウムが好ましい。また、白金化合物またはパラジウム化合物は、溶媒に溶けるものであれば、特に限定されないが、水を溶媒とした場合には、塩化物,硝酸化物,アンミン化物等を用いることができる。
【0040】
タングステン化合物に関しても、特に限定されるものではないが、例えば、タングステン酸塩を用いることができる。
【0041】
還元剤としては、タングステンを還元できなければならないため、タングステンよりも酸化還元電位が低いものが選ばれる。タングステンよりも酸化還元電位が低いものであれば、特に限定されないが、例えば、次亜リン酸ナトリウム,亜リン酸ナトリウム,水素化ホウ素ナトリウム,ギ酸,ヒドラジンなどを用いることができる。
【0042】
また、本実施例に係る触媒を製造する際には、反応溶液のpHを5以上にすることが望ましく、より望ましくは7以上が好ましい。反応溶液のpHを酸性に(5より小さく)すると、添加したタングステン化合物が、貴金属粒子の表面で金属(W)に還元されるより先に酸化物(WO3)となって析出してしまうためである。
【0043】
単独で析出したWO3は、つまり、貴金属粒子の表面に形成されないWO3は、本実施例が意図する効果が期待できないため、より多くのタングステンを添加する必要が生じる恐れがある。
【0044】
反応中にpHが下がり、酸性となってしまう場合には、pHを調整しながら行うことが好ましい。pHの調整剤としては、水酸化ナトリウム,アンモニアなどを用いることができる。
【0045】
また、必要に応じてpH緩衝剤を用いることができる。pH緩衝剤を用いることで、反応中のpHの変動が緩やかになるため、pHの調整が容易となる。pH緩衝剤は、リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウムなどを用いることができる。
【0046】
また、貴金属及びタングステンを、還元剤を用いて析出させる際には、必要に応じて昇温することで、反応時間を短縮できる。
【0047】
好適な反応温度は、貴金属化合物,タングステン化合物,還元剤の種類により変化するが、例えば、塩化白金酸,タングステン酸ナトリウム,次亜リン酸を用いた場合には、70℃以上が好ましい。
【0048】
また、本実施例に係る触媒の製造方法において、必要に応じて反応溶液に担体を加えることができる。担体を加えることで、貴金属粒子は担体に担持され、貴金属粒子と貴金属粒子との凝集を抑えることが可能となる。
【0049】
ここで担体は、カーボンブラックを用いることができ、その比表面積が10〜2000m2/gの範囲から選ばれることが好ましい。比表面積が小さすぎると、カーボンブラックを添加する効果があまり得られず、比表面積が大きすぎると、カーボンブラックの表面に形成されている細孔が多く、この細孔に貴金属粒子が入り込み、細孔に入り込んだ貴金属粒子は、電池作動時、反応に寄与しにくくなるためである。
【0050】
その他、担体にはカーボンナノチューブやカーボンファイバーを用いることもできる。
【0051】
すなわち、還元工程としては、貴金属化合物,還元剤が入った溶媒にタングステン化合物を添加し、攪拌するものであり、その後、溶液のpH等を調整し、温度を上げ、貴金属とタングステンとを還元するものである。
【0052】
その後、溶液をろ過し、得られた固形分を洗浄するろ過・洗浄工程の後、乾燥(乾燥工程)させて、触媒を得る。
【0053】
つまり、本実施例に係る触媒は、タングステン上に貴金属粒子を析出させたものではなく、貴金属粒子上に、無電解めっき法を用いて、タングステン又は、タングステン酸化物を析出させたものである。これは、無電解めっき法を用いた場合、触媒活性の観点から、タングステン上に貴金属粒子は成長しないという知見に基づくものである。
【0054】
図2に、本実施例に係る触媒の模式図を示す。
【0055】
貴金属粒子21の表面に露出しているタングステン22が、貴金属粒子21の成長を抑制する。こうすることによって、従来、5.0nm程度あった貴金属(白金)粒子の粒径が、3.1〜4.5nm程度となる。そして、全体的に貴金属の比表面積が大きくなり、発電に寄与できる貴金属の表面積が向上する。
【0056】
タングステン22は、貴金属粒子21に金属状態で析出するが、その後、酸化物となっても良い。酸化物となっても、本実施例の意図する貴金属粒子の成長を抑制する効果は得られるためである。
【0057】
また、タングステン22は、貴金属粒子21の成長の過程で、ある程度は内部に取り込まれている場合もある。
【0058】
ここで、タングステン22は、原子状態で析出するが、その後、原子状態のタングステンが集まり、分子状態となる。こうした場合であっても、タングステン22の粒子は、貴金属粒子21より小さい。ここでタングステン22の粒子の粒径は、貴金属粒子21の粒径の10〜20%程度である。タングステン22の粒子の粒径は、大きくとも1nm程度であることが好ましい。
【0059】
つまり、本実施例に係る触媒は、貴金属粒子の表面にタングステンが形成された触媒であって、こうした小さい粒径の貴金属粒子を形成するものである。
【0060】
タングステン22の粒子が、貴金属粒子21の表面に形成されるが、少なくとも貴金属粒子21よりも大きくなることは、本実施例の意図する効果が期待できないため望ましくない。
【0061】
貴金属粒子21の成長を抑制するためにタングステン22を用いる理由は、製造工程において、タングステン22に貴金属元素が析出しにくいためである。
【0062】
この他、燃料電池のカソードの触媒として用いる場合、安定であるためである。
【0063】
本実施例の意図する燃料電池は、酸性の電解質(バインダー)を用いるものであり、そのため燃料電池の電極は強酸性の環境におかれる。更に、燃料電池のカソードは、アノードと異なり、水素電極基準で概ね0.5V以上の高い電位に晒される。
【0064】
タングステンは、このような雰囲気においても、酸化物状態で安定であり、溶出がほとんど見られない。金属が燃料電池の電極内で溶出してしまうと、電解質膜のイオン交換基や電極における電解質のイオン交換基と溶出した金属とが結合し、発電に必要なプロトンの移動を阻害してしまう。しかし、タングステンは、ほとんど溶出しないため、安定であり、こうしたプロトンの移動を阻害することもない。
【0065】
タングステンの添加量は、選ばれる還元剤や還元反応の条件により、最終的に得られる触媒中のタングステンの量が変わるため、適宜、添加する必要がある。
【0066】
しかし、得られた触媒に含まれるタングステンの量が少なすぎると、本実施例の期待する効果が得られず、多すぎると貴金属粒子の表面を被覆しすぎてしまい、燃料電池の触媒としての機能が損なわれてしまうため、望ましくない。
【0067】
そのため得られた触媒に含まれる貴金属のモル量をX、タングステンのモル量をYとすると、触媒中におけるタングステンの好適なモル分率Y/(X+Y)は、0.005〜0.040、好ましくは、0.018〜0.040の範囲である。
【0068】
これは、高コストの貴金属(白金)の使用量を、10%程度、低減することができることを意味するものである。また、貴金属(白金)の表面積が10%程度大きくなることが見込めるため、電池性能の向上が見込め、電池の出力や電池の効率の向上が期待できる。
【0069】
このような触媒中におけるタングステンのモル分率Y/(X+Y)は、例えば、高周波誘導プラズマ発光分析(ICP),蛍光X線分析(XRF),エネルギー分散型X線分析(EDX)等を用いて評価することができる。
【0070】
なお、図3に、本実施例に係る触媒の、別の形態の模式図を示す。
【0071】
本実施例に係る触媒の製造工程で、溶媒にカーボンブラック33を共存させると、カーボンブラック33の表面上に、タングステン22を含む貴金属粒子21が形成される。
【0072】
タングステン22は、カーボンブラック33に析出しにくいため、基本的には貴金属粒子21にのみ析出する。
【0073】
(実施例1)
本実施例に係る触媒の製造方法を具体的に以下に示す。
【0074】
28重量%の白金を含む塩化白金酸溶液を2.22gとタングステン酸ナトリウム二水和物を0.02gとカーボンブラックを0.42gとリン酸水素二ナトリウムを2.70gとを500mlのイオン交換水が入ったビーカーに加え、スターラーを用いて1時間、攪拌した。
【0075】
その後、1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を加えてビーカー内の溶液のpHを8に調整し、ウォーターバスを用いて温度を50℃に昇温した。
【0076】
これに1重量%の水素化ホウ素ナトリウムを含む水溶液を19.00g添加し、30分間攪拌を続けることで、白金とタングステンとを還元した(還元工程)。
【0077】
その後、ビーカー内の溶液をろ過し、得られた固形分を純水で洗浄した(ろ過・洗浄工程)。
【0078】
その後、これを80℃の恒温槽内に入れ、大気中で12時間乾燥(乾燥工程)させることで触媒を得た。
【0079】
得られた触媒の組成をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)が付属した走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて分析した。
【0080】
その結果、白金とタングステンの組成はモル比で98.2%と1.8%とであった。タングステンのモル分率では、0.018であった。
【0081】
(実施例2)
本実施例に係る触媒の製造方法において、加えるタングステン酸ナトリウム二水和物の量が0.11gであり、1重量%の水素化ホウ素ナトリウムが22.00gである以外は、実施例1と同様とした。
【0082】
得られた触媒の組成を実施例1と同様の手法で分析した結果、白金とタングステンの組成はモル比で96.9%と3.1%であった。タングステンのモル分率では、0.031であった。
【0083】
(実施例3)
本実施例に係る触媒の製造方法において、加えるタングステン酸ナトリウム二水和物の量が0.21gであり、1重量%の水素化ホウ素ナトリウムが25.00gである以外は、実施例1と同様とした。
【0084】
得られた触媒の組成を実施例1と同様の手法で分析した結果、白金とタングステンの組成はモル比で96.0%と4.0%であった。タングステンのモル分率では、0.040であった。
【0085】
(比較例1)
本実施例に係る触媒の製造方法において、タングステン酸ナトリウム二水和物を加えず、1重量%の水素化ホウ素ナトリウムを19.00g加えること以外は、実施例1と同様とした。
【0086】
得られた触媒の組成を実施例1と同様の手法で分析した結果、白金とタングステンの組成はモル比で100.0%と0.0%であった。タングステンのモル分率では、0であった。
【0087】
(評価)
実施例1〜3の触媒と比較例1の触媒との白金比表面積を評価した。
【0088】
表面積の評価方法は、白金の表面に存在する電子とプロトンとが結合し、表面に存在する電子の移動によって水素脱離電気量から求める電気化学的手法を用いた。
【0089】
作用極は、カーボンディスク電極上に各触媒を純水に分散させた溶液を滴下し、減圧乾燥させた後、0.1重量%のパーフルオロスルホン酸溶液を触媒の上から滴下、減圧乾燥したものを用いた。作用極上の触媒量は、0.2mg/cm2、パーフルオロスルホン酸量は、0.05mg/cm2となるようにした。
【0090】
対極は、白金線を用いた。
【0091】
参照極は、Ag/AgCl(飽和KCl)を用いた。
【0092】
電解液は、窒素でバブリングすることで脱気した0.5mol/lの硫酸水溶液を用い、温度は35℃とした。
【0093】
水素脱離電気量は、0.03〜1.2Vvs.NHE(Normal Hydrgen Electrode =Ag/AgCl(飽和KCl)+0.196V)の範囲を200mV/secの速さで電位を走印した際に得られるピークの面積から求めた。
【0094】
なお、測定は20サイクル行い、最後のサイクルの値を用いた。
【0095】
得られた水素脱離電気量(C)を、210μC/cm2で割り付けることで、白金の表面積を算出し、これを測定に供した白金の重量で割り付けることで、各触媒の白金比表面積(m2/g)を得た。
【0096】
表1に、各触媒の白金比表面積と、白金/タングステン中のタングステンのモル比とを合わせて示す。
【0097】
【表1】

【0098】
比較例1の触媒に比べ、実施例1〜3の触媒の白金比表面積は大きかった。白金比表面積は、白金の粒径に依存しており、粒径が小さいほど、表面積は大きくなる。
【0099】
したがって、タングステンを添加することで白金の粒子が微細化したことが分かる。
【0100】
また、タングステンの添加量を増加させ、タングステンのモル比が増加すると、白金の比表面積は増加するが、モル比が大きくなりすぎると白金の比表面積は減少し始める。
【0101】
これは白金の粒子の表面をタングステンが被覆してしまうことが原因と考えられる。
【0102】
図4に、白金比表面積とタングステンのモル比との関係を示す。
【0103】
本実施例の効果を得るためには、タングステンのモル比は0.5から4.0%の範囲が良いことが分かる。つまり、白金比表面積を所定の値(22.6)以上とするためには、タングステンの添加量を所定の範囲とする必要があることを意味し、また、タングステンの添加量を所定の範囲(0.5〜4.0%)とすることにより、白金比表面積を所定の値以上とすることができることを意味する。本実施例においては、こうした実験データ及び発明者の知見から、こうした値を決定した。
【0104】
つまり、本発明に係る実施態様の1つである触媒は、貴金属粒子の表面にタングステンが析出したものである。そして、貴金属粒子の比表面積が22.6m2/g以上であることを特徴とする。
【0105】
図5は、本実施例に係る燃料電池の断面模式図である。
【0106】
燃料電池は、触媒とプロトン伝導性を有する電解質バインダーを含むアノード51、本実施例に係る触媒とプロトン伝導性を有する電解質バインダーを含むカソード53、及びそれらの間に形成される固体高分子電解質膜52を有する膜/電極接合体を中心に構成される。
【0107】
アノード51およびカソード53には、図示していないカーボンペーパーやカーボンクロスなどの拡散層を配置することが望ましい。
【0108】
アノード51側には、水素あるいはメタノール等の燃料55が供給され、未反応の水素やメタノール、二酸化炭素等の排ガスが混入した廃液56が排出される。
【0109】
カソード53側には、酸素,空気等の酸化剤ガス57が供給され、導入した気体中の未反応気体と水とを含む排ガス58が排出される。
【0110】
また、アノード51とカソード53とは、外部回路54へ接続される。
【0111】
ここでアノードに用いる触媒は、供給する燃料が水素の場合には、白金粒子を用いることができ、一酸化炭素を含む水素やメタノールの場合には、白金ルテニウム粒子を用いることができる。
【0112】
また、電極中の電解質バインダーや固体高分子電解質膜52には、酸性の水素イオン導電性材料を用いると、大気中の炭酸ガスの影響を受けることなく、安定な燃料電池を実現できる。
【0113】
このような材料として、ポリパーフルオロスチレンスルフォン酸,パーフルオロカーボン系スルフォン酸などに代表されるスルフォン酸化したフッ素系ポリマーや、ポリスチレンスルフォン酸類,スルフォン酸化ポリエーテルスルフォン類,スルフォン酸化ポリエーテルエーテルケトン類などの炭化水素系ポリマーをスルフォン化した材料、或いは、炭化水素系ポリマーをアルキルスルフォン酸化した材料、を用いることができる。
【0114】
これらの材料を電解質膜として用いれば、一般に、燃料電池を80℃以下の温度で作動することができる。
【0115】
また、タングステン酸化物水和物,ジルコニウム酸化物水和物,スズ酸化物水和物などの水素イオン導電性無機物を耐熱性樹脂若しくはスルフォン酸化樹脂に、ミクロ分散した複合電解質膜等を用いることによって、より高温域まで作動する燃料電池とすることもできる。
【0116】
特に、スルフォン酸化されたポリエーテルスルフォン類,ポリエーテルエーテルスルフォン類、或いは、プロトン導電性無機物を用いた複合電解質類は、ポリパーフルオロカーボンスルフォン酸類に比較して、燃料のメタノール透過性の低い電解質膜として好ましい。
【0117】
いずれにしてもプロトン伝導性が高く、メタノール透過性の低い電解質膜を用いると燃料の発電利用率が高くなるため好ましい。
【0118】
また、バインダーにも、同様に固体高分子電解質を用いることができ、電解質膜と同様の材質のものが使用できる。
【0119】
また、膜/電極接合体の作製方法としては、電極触媒とバインダーとを溶媒に分散させ、これを電解質膜に、直接スプレー法,インクジェット法などで塗布する方法や、テフロン(登録商標)シートなどに塗布し、熱転写によって電解質膜に貼り付ける方法、或いは、拡散層に塗布した後に電解質膜に貼り付ける方法がある。
【0120】
このようにして得られる本実施例の電極触媒を用いた膜/電極接合体、或いは燃料電池はは高い出力密度を有する。
【0121】
そして、作製した燃料電池を、燃料電池発電システムの一例として、携帯用情報端末に実装した例を図6に示す。
【0122】
この携帯用情報端末は、2つの部分を、燃料カートリッジ66のホルダーをかねたヒンジ67で連結された折たたみ式の構造をとっている。
【0123】
1つの部分は、タッチパネル式入力装置が一体化された表示装置61,アンテナ62を内蔵した部分を有する。
【0124】
1つの部分は、燃料電池63,プロセッサ,揮発及び不揮発メモリ,電力制御部,燃料電池及び二次電池ハイブリッド制御,燃料モニタなどの電子機器及び電子回路などを実装したメインボード64,リチウムイオン二次電池65を搭載した部分を有する。
【0125】
このようにして得られる携帯用情報端末は、燃料電池の出力密度が高いため、燃料電池63を小さくでき、軽量でコンパクトな構成とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、燃料電池で使用される触媒に関するものであり、こうした触媒を固体高分子形燃料電池や直接メタノール形燃料電池に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本実施例に係る触媒の製造方法の概要を示すフロー図。
【図2】本実施例に係る触媒の模式図。
【図3】カーボンブラックを用いた場合の本実施例に係る触媒の模式図。
【図4】本実施例に係る白金比表面積と、タングステンのモル比との関係を示す図。
【図5】本実施例に係る燃料電池の断面模式図。
【図6】本実施例に係る携帯情報端末の模式図。
【符号の説明】
【0128】
21 貴金属粒子
22 タングステン
33 カーボンブラック
51 アノード
52 固体高分子電解質膜
53 カソード
54 外部回路
55 燃料
56 廃液
57 酸化剤ガス
58 排ガス
61 表示装置
62 アンテナ
63 燃料電池
64 メインボード
65 リチウムイオン二次電池
66 燃料カートリッジ
67 ヒンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属の化合物を還元剤により還元し、貴金属粒子を得る触媒の製造方法において、
前記貴金属の化合物と、前記還元剤とを含む溶液に、タングステンの化合物を添加する工程を有することを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒の製造方法において、
前記貴金属が、白金,パラジウムから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の触媒の製造方法において、
前記還元剤の酸化還元電位が、タングステンの酸化還元電位よりも低いことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項4】
貴金属粒子を含む触媒において、
前記触媒がタングステンを含み、前記貴金属のモル量Xと、前記タングステンのモル量Yとの関係が、0.005≦Y/(X+Y)≦0.040であることを特徴とする触媒。
【請求項5】
請求項4に記載の触媒において、
前記貴金属が、白金,パラジウムから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする触媒。
【請求項6】
請求項4に記載の触媒において、
前記タングステンは、金属あるいは酸化物で存在することを特徴とする触媒。
【請求項7】
貴金属粒子を含む触媒において、
前記触媒が、タングステンを含み、前記タングステンは粒子であり、その粒径が前記貴金属粒子の粒径よりも小さいことを特徴とする触媒。
【請求項8】
触媒とプロトン伝導性材料とを有し燃料を酸化するアノードと、触媒とプロトン伝導性材料とを有し酸素を還元するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置されるプロトン伝導性を有する電解質膜と、を含む膜/電極接合体において、
前記カソードに含まれる触媒が、請求項4〜7のいずれかに記載の触媒であることを特徴とする膜/電極接合体。
【請求項9】
請求項8に記載の膜/電極接合体と、燃料を供給する部材と、酸素を供給する部材と、集電用部材とを有する燃料電池。
【請求項10】
請求項9に記載の燃料電池を搭載した燃料電池発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−131775(P2009−131775A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309636(P2007−309636)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】