説明

触覚提示装置

【課題】 多様な押下感を高い信頼度で提供することができる触覚提示装置を実現する。
【解決手段】 触覚を提示するためのパネルと、該パネルを平面に対して垂直方向へ振動させることによって触覚を提示する制御手段とを有し、該制御手段は、発生させた振動波形の立ち上がり部分に変曲点があるように前記パネルを振動させる。この変曲点前後の勾配の差や変曲点の位置を変えることにより様々な押下感を得ることができる。例えば、スイッチの重さがより重くなった様に感じさせるためには無振動部分の時間を長くするか、又は勾配をきつくする。また、強いクリック感を得るためには、勾配変化度合いを大きくすれば良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触覚提示装置に関し、特に、触覚を提示するためのパネルを平面に対して垂直方向へ振動させることによって触覚を提示する機能を有する触覚提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、PDA、ATM端末、POS端末、カーナビゲーション、コピー機等においてペンや指で平面状のパネル面を押下し、座標を検出・入力するタッチパネルが使われることが多くなってきている。これまでのタッチパネル入力機構は機械スイッチのような押下時のタクタイル感(クリック感)が無く、押下が認識し難いことが課題となっている。
【0003】
パネル状平面部材を振動させて操作者に触覚を得させる波形に関しては、特許文献1において、図1の様な触覚提示波形が例示されている。図1(a)は5から10msec幅のパルス2回発生させたものであり、瞬間的に2回振動する。図1(b)は20から30Hzの正弦波交流の駆動電圧波形、図1(c)は数100μsecの周期の交流の駆動電圧波形で振動の感触でなく、操作音を発生させるものである。図1(d)は図1(a)と図1(c)の組合せである。
【0004】
また、特許文献2には、タッチパネルを2段重ねした構成が開示されており、図2(a)から(c)に示す触覚波形が記載されている。
【特許文献1】特開2004−21697号公報
【特許文献2】特開2002−259059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図1に示す特許文献1に記載の波形においては、単に方形波パルスを2つ出すだけであり、図3に示すキーボード等のタクタイル波形の感覚を表現する事はできない。
【0006】
また、図2に示す特許文献2に記載の構成は2枚のタッチパネルを重ねて図2(a)の特性が出ているのであって、タッチパネルのドットスペーサの高さは通常、10μm程度である。よって、2枚重ねても変位は20μm程度であるので、特許文献2に記載されている様に、接触時点が使用者には感覚的に明確に判然としない。従って、図2(b)もしくは(c)の様な触覚フィードバックを与えることが必要であったが、これについてもキーボードの押下感を表現するのは困難であった。
【0007】
従って、本発明は上記従来技術の課題を解決し、多様な押下感を高い信頼度で提供することができる触覚提示装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、触覚を提示するためのパネルと、該パネルを平面に対して垂直方向へ振動させることによって触覚を提示する制御手段とを有し、該制御手段は、発生させた振動波形の立ち上がり部分に変曲点があるように前記パネルを振動させることを特徴とする触覚提示装置である。パネルを垂直方向へ振動させ、人がそのパネルに触れて振動を感じる場合、キーボードのキースイッチ押下時のような押下感(押すのに抗する力、つまり指が押される力)を得るためには、波形の途中に勾配変化の生じる変曲点を設けることが有効である。この変曲点前後の勾配の差や変曲点の位置を変えることにより様々な押下感を得ることができる。例えば、スイッチの重さがより重くなった様に感じさせるためには無振動部分の時間を長くするか、又は勾配をきつくする。また、強いクリック感を得るためには、勾配変化度合いを大きくすれば良い。
【0009】
ここで、本発明者が検討した理想的な押下特性を図3に示す。図3の横軸は押し込み量(Displacement)、縦軸は力(Force)である。図3の実線で示すように、押し込むにつれて次第に力が大きくなっていき、あるところまで押し込まれたたらスッと力が抜け、その後また力がかかり、最終的には無限大になる。本発明は、この押下特性を実現する。なお、図3の破線は、帰り(戻り)を示している。戻りは徐々に弱まり、あるところで抵抗がおおきくなってまた弱まっていく。本発明は、このような戻り特性は考慮していない。
【0010】
図3の押下特性を実現するために、前記パネルに物体が接触したことを検知する検知機能を更に有し、前記制御手段は前記物体が接触してから約50ms以上の無振動部分を経た後、前記パネルを振動させることが好ましい。
【0011】
また、図3の押下特性を実現するために、好ましくは、上記触覚提示装置は前記パネルに物体が接触したことを検知する検知機能を更に有し、前記制御手段は前記物体が接触した後、図4に示すように、
(1)移動開始までの無振動部分
(2)徐々に手前に動く(押下面が上方向(押下方向と反対方向)に動く、つまり指を押すように動く)移動量が徐々に増大する部分
(3)緩やかに移動する部分
(4)振幅が徐々に減少し0まで戻る部分
を有するように前記パネルを駆動するとともに、上記(2)と(3)の間に、時間当たりの移動量が変化し、増大の度合いが緩やかになる変曲点を有する波形からなる振動を発生させる構成とする。このように、波形を4つの部分に分け、上記(2)と(3)の部分に増大の度合いが緩やかになる変曲点を有する部分からなる振動を発生させることで、指に図3に示すような荷重変化を与えることができ、押下感を表現することができる。
【0012】
また、上記触覚提示装置は前記パネルに物体が接触したことを検知する検知機能を更に有し、前記制御手段は前記物体が接触した後
(1)移動開始までの無振動部分
(2)徐々に手前に動く移動量が徐々に増大する部分
(3)緩やかに移動する部分
(4)振幅が徐々に減少し0まで戻る部分
を有するように前記パネルを駆動するとともに、上記(3)、(4)の波形が周期関数の一部からなる振動を発生させる構成とすることもできる。
【0013】
より具体的には、上記(1)〜(4)を以下のように記述することができる。すなわち、前記パネルに物体が接触したことを検知する検知機能を更に有し、前記制御手段は前記物体が接触した後
(1)無振動部分
【0014】
【数19】

【0015】
【数20】

という波形で表される立ち上がり部分1
【0016】
【数21】

という波形で表される立ち上がり部分2
【0017】
【数22】

という波形で表される立ち下がり部分
ただし、
【0018】
【数23】

であり、
【0019】
【数24】

という関係が成り立つ波形y(t)からなる振動を発生させる構成である。上記式中の時刻a〜dを図4に図示する。時刻bに変曲点が位置する。区間(2)を特定する式(2)は、振動が指数的に大きくなることを示している。ただし、単純な指数的増大では変動が急峻でかつ大きくなり過ぎるため、最大値となるexp(b-a)で正規化して適正化している。区間(3)を特定する式(3)は、区間(2)の終点振幅値k1にその時刻bから始まる正弦波を足したものである。区間(3)では、区間(2)の終点振幅値k1よりもk2だけ振幅が増える。区間(4)を特定する式(4)は、区間(3)の終点振幅値k1+k2からその時刻cから始まる正弦波を(k1+k2)倍した値を減算するものである。なお、k1とk2に関し、k1をk2よりも小さくするといわゆるクリック感が比較的早い電解で生じ、クリック感発生後も重さが引き続きますことになる。逆にk1をk2よりも大きくすると、クリック感の発生が遅くなり、クリック感発生後はあまり重くならない。
【0020】
また、別の構成として、前記パネルに物体が接触したことを検知する検知機能を更に有し、前記制御手段は前記物体が接触した後
(1)無振動部分
【0021】
【数25】

【0022】
【数26】

という波形で表される立ち上がり部分1
【0023】
【数27】

という波形で表される立ち上がり部分2
【0024】
【数28】

という波形で表される立ち下がり部分
ただし、
【0025】
【数29】

【0026】
【数30】

という関係が成り立つ波形y(t)からなる振動を発生させることもできる。
【0027】
更に別の構成として、前記パネルに物体が接触したことを検知する検知機能を更に有し、前記制御手段は前記物体が接触した後
(1)無振動部分
【0028】
【数31】

【0029】
【数32】

という波形で表される立ち上がり部分1
【0030】
【数33】

という波形で表される立ち上がり部分2
【0031】
【数34】

という波形で表される立ち下がり部分
ただし、
【0032】
【数35】

【0033】
【数36】

という関係が成り立つ波形y(t)からなる振動を発生させることでもよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、多様な押下感を高い信頼度で提供することができる触覚提示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の一実施の形態を説明する。
【0036】
図5は、本発明の一実施の形態に係る触覚提示装置のブロック図である。触覚提示装置は、パネル10、制御装置20、駆動装置30、変換装置40及び電圧印加装置45を有する。パネル10の一構成例を図6に示す。パネル10は、PETなどのフィルム11、ITOなどの上側透明電極12、ガラス基板13、下側透明電極14、及びドットスペーサ15を有する。上側透明電極12は、フィルム11の内側全面に貼付されている。下側電極14は、ガラス基板13の内側全面に貼付されている。上側電極12及び下側電極14は、図5に示す変換装置40の入力に接続されている。下側電極14上には、絶縁体で形成されるドットスペーサ15がマトリクス状に配置されている。図6の下側に示すように、パネル10を上からペンや指16などで押し下げると、フィルム11が変形して上側透明電極12が下側透明電極14に当接する。押下位置の座標検出方法には何通りかあり、いずれの検出方法であってもよい。例えば、図5に示す電圧印加装置45を用いて、下側透明電極14のX方向(例えば、紙面横方向)に両端から電圧を印加し、押下位置の電位(X座標位置に相当)を上側透明電極12を介して検出する。同様に、下側透明電極14のY方向(例えば、紙面垂直方向)に両端から電圧を印加し、押下位置の電位(Y座標位置に装置)を上側透明電極12を介して検出する。変換装置40は、このようにして得られたアナログ電圧をディジタル信号に変換して制御装置20に出力する。別の検出方法として、上側透明電極12のX方向に電圧を印加し、下側透明電極14を介して押下点の電位(つまり下側透明電極14の電位)を測定する。次に、下側透明電極14のY方向に電圧を印加し、上側透明電極12を介して押下点の電位を測定する。これにより、押下点のXY座標データを得ることができる。なお、座標を検出する必要がない場合には、いずれか一方の検出動作を行えばよい。
【0037】
パネル10には、図7に示すパネル駆動機構50が設けられている。パネル駆動機構50はパネル10を振動させるもので、X方向又はY方向におけるパネル10の対向するエッジ付近に設けられている。パネル10の4つのエッジ全てにパネル駆動機構50を設けてもよい。パネル駆動機構50の一構成例を図8及び図9に示す。パネル駆動機構50はコイル51、磁石52、ヨーク53、支持体55及びボビン56を含んで構成されている。断面が略コの字状のヨーク53の長手方向中心には磁石52が設けられ、図示するように磁気回路54が形成されている。ヨーク53の上部空隙には中空のボビン56が挿入されている。ボビン56の外側には、コイル51が巻回されている。磁束はコイル56を図示するように横切る。ボビン56はガラス基板13に固定されている。ボビン56に取り付けられたジャバラ状の支持体55がヨーク53を支持する。コイル51に流れる電流の方向に従い、ボビン56が上下方向に変位することで、パネル10を振動させることができる。コイル51は図5に示す駆動装置30に接続され、ここから電流の供給を受ける。
【0038】
図5に示す制御装置20は、図10のフローチャートに従って動作する。制御装置20は例えば、マイクロコントローラユニットで構成できる。ステップS11で、制御装置20は電圧印加装置45を駆動して、上側透明電極12に電圧を印加し、ステップS12で下側透明電極14の電位を検出する。ステップS11、S12において、下側透明電極14に電圧を印加し、上側透明電極12の電位を測定することでもよい。制御装置20はステップS13で変換装置40の出力を監視し、電位が検出されたかどうかを判断する。ステップS13の判断結果がNOの場合には、ステップS12に戻る。YESの場合には、制御装置20は駆動装置30を駆動して、パネル駆動機構50のコイル51に電流を与える。制御回路20はこの電流を制御して、パネル10を図4に示すように振動させる。具体的には、課題を解決するための手段で説明した構成、具体的には式(1)から式(9)で記述される波形y(t)を実現するように電流を制御する。この電流制御は、予め駆動電流とパネル10の振動との関係を調べておけば、容易にプログラムすることができる。
【0039】
このようにして、多様な押下感を高い信頼度で提供することができる触覚提示装置を実現することができる。
【0040】
以上、本発明の一実施の形態を説明した。本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、他の実施の形態や変形例などを含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】特許文献1に記載されている従来技術を説明するための図である。
【図2】特許文献2に記載されている従来技術を説明するための図である。
【図3】理想的な押下感を示す図である。
【図4】本発明により実現される時間と振動の振幅との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施の形態に係る触覚提示装置の構成を示すブロック図である。
【図6】図5に示すパネルの一構成例を示す図である。
【図7】図5に示す触覚提示装置が有するパネル駆動機構を説明するための図である。
【図8】図7に示すパネル駆動機構の一構成例を示す図である。
【図9】図7、図8に示すパネル駆動機構の斜視図である。
【図10】図5に示す制御装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0042】
10 パネル
20 制御装置
30 駆動装置
40 変換装置
45 電圧印加装置
50 パネル駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触覚を提示するためのパネルと、該パネルを平面に対して垂直方向へ振動させることによって触覚を提示する制御手段とを有し、該制御手段は、発生させた振動波形の立ち上がり部分に変曲点があるように前記パネルを振動させることを特徴とする触覚提示装置。
【請求項2】
前記パネルに物体が接触したことを検知する検知機能を更に有し、前記制御手段は前記物体が接触してから約50ms以上の無振動部分を経た後、前記パネルを振動させることを特徴とする請求項1記載の触覚提示装置。
【請求項3】
前記パネルに物体が接触したことを検知する検知機能を更に有し、前記制御手段は前記物体が接触した後
(1)移動開始までの無振動部分
(2)徐々に手前に動く移動量が徐々に増大する部分
(3)緩やかに移動する部分
(4)振幅が徐々に減少し0まで戻る部分
を有するように前記パネルを駆動するとともに、上記(2)と(3)の間に、時間当たりの移動量が変化し、増大の度合いが緩やかになる変曲点を有する波形からなる振動を発生させることを特徴とする請求項1記載の触覚提示装置。
【請求項4】
前記パネルに物体が接触したことを検知する検知機能を更に有し、前記制御手段は前記物体が接触した後
(1)移動開始までの無振動部分
(2)徐々に手前に動く移動量が徐々に増大する部分
(3)緩やかに移動する部分
(4)振幅が徐々に減少し0まで戻る部分
を有するように前記パネルを駆動するとともに、上記(3)、(4)の波形が周期関数の一部からなる振動を発生させることを特徴とする請求項1記載の触覚提示装置。
【請求項5】
前記パネルに物体が接触したことを検知する検知機能を更に有し、前記制御手段は前記物体が接触した後
(1)無振動部分
【数1】

【数2】

という波形で表される立ち上がり部分1
【数3】

という波形で表される立ち上がり部分2
【数4】

という波形で表される立ち下がり部分
ただし、
【数5】

であり、
【数6】

という関係が成り立つ波形y(t)からなる振動を発生させることを特徴とする請求項1記載の触覚提示装置。
【請求項6】
前記パネルに物体が接触したことを検知する検知機能を更に有し、前記制御手段は前記物体が接触した後
(1)無振動部分
【数7】

【数8】

という波形で表される立ち上がり部分1
【数9】

という波形で表される立ち上がり部分2
【数10】

という波形で表される立ち下がり部分
ただし、
【数11】

【数12】

という関係が成り立つ波形y(t)からなる振動を発生させることを特徴とする請求項1記載の触覚提示装置。
【請求項7】
前記パネルに物体が接触したことを検知する検知機能を更に有し、前記制御手段は前記物体が接触した後
(1)無振動部分
【数13】

【数14】

という波形で表される立ち上がり部分1
【数15】

という波形で表される立ち上がり部分2
【数16】

という波形で表される立ち下がり部分
ただし、
【数17】

【数18】

という関係が成り立つ波形y(t)からなる振動を発生させることを特徴とする請求項1記載の触覚提示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−79135(P2006−79135A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259089(P2004−259089)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(501398606)富士通コンポーネント株式会社 (848)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】