説明

記録素子基板及びインクジェットヘッド並びにその製造方法

【課題】封止信頼性を低下させることなく、記録素子基板と基板支持部材の接着面が従来技術よりも微細化させられるインクジェットヘッド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】記録素子基板2に具備されている、基板支持部材13と接着する突起8は、金属層9をエッチングマスクとして記録素子基板2をエッチングすることによって、記録素子基板2と同質かつ連続に形成される。したがって、突起8は、金属層9と金属層14とが金属溶着するのに十分な平坦性を維持した状態で形成されるため、金属層9のバンプを厚くすることなく製造可能であり、安価に製造可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録素子基板及びインクジェットヘッド並びにその製造方法に関する。詳しくは、記録素子基板を基板支持部材に保持固定するインクジェットヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、インクジェットヘッドに配列された複数の吐出口から微細な液滴状のインクを吐出して画像記録を行う。
【0003】
一般に、インクジェットヘッドに具備されている記録素子基板は、切り出し方位が<100>のシリコン単結晶基板(以下、単に「シリコン基板」と言う)を用いており、シリコン基板にはインクを吐出する為の吐出圧力発生素子が具備されている。また、吐出圧力発生素子へインクを送るため、シリコン基板を貫通するように供給口が設けられており、供給口から吐出圧力発生素子までインク流路が形成されている。吐出圧力発生素子から圧力を付与されたインクは、インク流路に設けられた吐出口より飛翔し、印刷紙などの記録面に着弾し、所望の画像を得る。
【0004】
記録素子基板を保持固定する基板支持部材には、記録素子基板の供給口に対応して貫通口が設けられており、インクの流路を形成している。また、記録素子基板の吐出圧力発生素子の具備されている第1の面の反対に位置する第2の面には突起が形成されており、突起の先端と基板支持部材とが接着剤等を用いて固定されている。
【0005】
図7は、多色(例えばシアン、マゼンダ、イエロー)のインクを吐出する記録素子基板1を一部破断して示す斜視図である。図8は記録素子基板1を支持部材13上に固定した状態の一例を示す断面図である。
【0006】
図7において、吐出口12が平行して配列されてなる吐出口列18に沿って、供給口10が各々の色に対してシリコン基板2に形成されている。図8で示すように、供給口10に対応して基板支持部材13にも貫通口16が形成される。従来では、シリコン基板2と基板支持部材13とを接着する接着剤により、供給口10と貫通口16との接触部の封止を行ってきた。
【0007】
近年のインクジェット記録装置は、高画質、高精彩、高スループットな製品を安価に消費者に提供することが求められている。インクジェット記録装置のコストを削減する手段として、インクジェットヘッドのコストを削減することが挙げられる。
【0008】
これを達成する1つの方法として、シリコン基板の材料となるシリコンウェハ1枚からから採取するシリコン基板の個数を増加させる方法がある。すなわち、供給口と供給口との間隔を狭くすることでシリコン基板を縮小化し、シリコンウェハ1枚から採取する個数を増加させたい希望がある。
【0009】
しかしながら、図8で示すように、供給口と供給口との間隔を狭くすると、シリコン基板2と基板支持部材13との接着面が小さくなってしまい、接着剤の塗布が困難になる。また、接着面を十分に稼げないため、接着剤による十分な封止信頼性を保つことが難しくなる。封止信頼性の低下により、接着面からのインク漏れが発生し、吐出口からのインクの吐出量が不規則となり、記録品位の低下を招く虞がある。多色のインクを吐出するインクジェットヘッドにおいては、異なる色のインクの混在を招き、画質、精細の劣化となるかもしれない。
【0010】
このような課題に対して、記録素子基板と基板支持部材との接着力を高める方法として、特許文献1では接着剤以外の封止方法が開示されている。特許文献1によれば、はんだバンプを用いて記録素子基板と基板支持部材とを溶着するとともに、異なる色のインクの流路を隔てる流体隔壁を形成する。しかしながら、はんだバンプは一般に数百ミクロンのパターンで形成されるため、記録素子基板と支持部材の接着面を狭くしようとすると、はんだバンプの大きさが弊害となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−192705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述の、接着剤やはんだ以外の方法で封止する方法としては、ファインパターンでバンプを形成し、溶着させる方法が挙げられる。バンプを形成する一般的な技術として、金バンプ形成に代表される金属めっき法がある。しかしながら、金属めっき法で形成した記録素子基板上のバンプを基板支持部材と接着するためには、接着面の平坦性を確保するか、平坦性を無視できるほどの高さを有するバンプを形成する必要がある。
【0013】
特に、シリコン基板に供給口や突起を形成する際、レーザー加工等で行われるが、欠けやばりが発生し、平坦性を低下させてしまう。一般的に、接着面の平坦性を高めるにはCMP(ChemicalMechanicalPolishing)等の平坦化処理が必須である。また、高バンプ形成には多くのめっき時間を必要とする。平坦化処理、高バンプ形成ともに、所望の形状を得るためには製造コストが高くなる課題がある。
【0014】
そこで、本発明は、封止信頼性を低下させることなく、記録素子基板と基板支持部材の接着面が従来技術よりも微細化させられるインクジェットヘッド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、インクを吐出する為の記録素子基板と、該記録素子基板を貫通するように設けられ、インクの流路となる供給口と、記録素子基板の一方の面から突出する突起と、該突起と当接し、且つ記録素子基板を保持固定する基板支持部材と、を備えたインクジェットヘッドにおいて、突起の先端に設けられた第1の金属層と、基板支持部材に設けられ、該第1の金属層と溶着されている第2の金属層と、をさらに備えたことを特徴とする。
【0016】
また、インクを吐出する為の記録素子基板と、該記録素子基板を貫通するように設けられ、インクの流路となる供給口と、記録素子基板の一方の面から突出するように形成され、供給口を囲うように配されている突起と、該突起と当接し、且つ記録素子基板を保持固定する基板支持部材と、突起の先端に設けられた第1の金属層と、基板支持部材に設けられ、該第1の金属層と溶着されている第2の金属層と、を備えたインクジェットヘッドの製造方法であって、記録素子基板の一方の面に、第1の金属層を形成する工程と、第1の金属層を覆い、且つ一方の面の一部を露出するようにレジストを形成する工程と、レジストが形成されていない記録素子基板の露出部より、エッチングにより供給口を形成する工程と、
レジストを除去する工程と、第1の金属層をエッチングマスクとして記録素子基板をエッチングすることで、突起を形成する工程と、突起の先端に残存する第1の金属層と第2の金属層とを溶着させる工程と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、封止信頼性を低下させることなく、記録素子基板と基板支持部材の接着面が従来技術よりも微細化させられる。また、このようなインクジェットヘッドを安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の形態である記録素子基板の代表的な断面図。
【図2】本発明の第1の形態であるインクジェットヘッドの代表的な断面図。
【図3】本発明の第2の形態である貫通電極を具備したインクジェットヘッドの代表的な断面図。
【図4】本発明の第1の形態であるインクジェットヘッドの製造方法の工程を示す断面図。
【図5】本発明の第2の形態である貫通電極付きインクジェットヘッドの製造方法の工程を示す断面図。
【図6】本発明の第1の実施例でインクジェットヘッドの製造方法の工程を示す断面図。
【図7】従来の多色のインクを吐出する記録素子基板を一部破断して示す斜視図。
【図8】従来の記録素子基板を支持部材の上に固定した状態の一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付した図面を参照し、本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、後述する実施形態は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明をこの技術分野における通常の知識を有する者に十分に説明するために提供されるものである。
【0020】
図1は、本発明の第1の形態である記録素子基板1の代表的な断面図である。図1に示すように、記録素子基板1は、シリコン基板2と、インクの流路を形成する流路形成部材3とを有する。シリコン基板2の流路形成部材3が具備される面には、耐腐食性を向上させるために熱酸化膜6が形成されており、熱酸化膜6の上にインクに吐出圧力を付与する吐出圧力発生素子4が具備されている。また、吐出圧力発生素子4を駆動する駆動回路5も同様に熱酸化膜の上に具備されており、駆動回路5と吐出圧力発生素子4とは電気配線等で電気的に接続されている。
【0021】
さらに、吐出圧力発生素子4及び駆動回路5をインクと絶縁するためにパッシベイション膜7が熱酸化膜6の上に形成されており、圧力発生素子4及び駆動回路5はパッシベイション膜7によって埋没されている。流路形成部材3とパッシベイション膜7によって形成される空間がインク流路11となっており、流路形成部材3の吐出圧力発生素子4に対向する位置には吐出口12が設けられている。吐出圧力発生素子4によって圧力を付与されたインクは吐出口12から吐出する。
【0022】
また、シリコン基板2には、インク流路11にインクを供給する供給口10がシリコン基板2を貫通するように具備されている。シリコン基板2の、吐出圧力発生素子4が具備される第1の面の反対側に位置する第2の面に、シリコン基板2と同質且つ連続に、突起8が供給口10を囲うように形成されている。さらに突起8の先端にはシリコン基板2を溶着固定するための金属層9が具備されている。突起8及び金属層9は、一般的なフォトソリ/エッチングにより形成することが可能なため、5〜50μmのピッチで形成が可能である。
【0023】
突起8及び金属層9を形成する位置においても、フォトソリ/エッチングを行うことで高精度に配置することが可能となり、供給口10の近傍に突起8及び金属層9を形成することが可能である。
【0024】
第1の金属層9の材質には、インクに溶出しない不活性な金属、又はインクに溶出しない金属を含む合金より選択できる。例えば、金や白金が適用できる。また、第1の金属層9の厚さは、金属溶着が可能な厚さ以上であれば良く、500〜30000Åより選択できる。金属層の形成方法としては、平坦性に影響を及ぼさない手法より選択可能であり、真空蒸着、スパッタ、CVD、スクリーン印刷法などから選択できる。必要であれば、その後パターニングを行ってもよい。
【0025】
また、後述のインクジェットヘッドの製造方法によれば、金属層9を有する突起8は、他の物質と金属接合をする際に十分な平坦性を有しており、一般的なバンプ接合のような高厚みを有するバンプは必要とせず、製造コストが安価となる。突起8の高さは、製造コストを鑑みて決定すればよく、例えば5〜500μmより選択可能となる。
【0026】
なお、図1では供給口10や突起8は矩形で表してあるが、本発明においてはそれらの形状を規定するものではない。例えば、供給口10や突起8は、シリコン基板2の平面に対してテーバーを有していてもよく、曲線状となっていてもよい。
【0027】
図2は、前述の記録素子基板1の突起8と基板支持部材13とを当接し、保持固定した際の構成を表すものである。基板支持部材13の材質としては、平坦性が高く加工性が良いものから選択可能であり、シリコン単結晶基板やアルミナ等の無機化合物の焼結体より選択可能である。シリコン単結晶基板においては、耐腐食性を向上させるために、表面に酸化膜を形成してもよい。
【0028】
基板支持部材13には、第2の金属層14が具備されており、第2の金属層14が記録素子基板1に形成された第1の金属層9と金属溶着されることによって、基板支持部材13と記録素子基板1とが接着される。
【0029】
第2の金属層14の材質には、第1の金属層9と同様に、インクに溶出しない不活性な金属、又はインクに溶出しない金属を含む合金より選択できる。例えば、金や白金が適用でき、金属層14の厚さは、1000〜50000Åより選択できる。また、金属層の形成方法としては、平坦性に影響を及ぼさない手法より選択可能であり、真空蒸着、スパッタ、CVD、スクリーン印刷法などから選択でき、必要であれば、その後にパターニングを行ってもよい。
【0030】
第1の金属層9と第2の金属層14とを金属溶着することにより、供給口10及び貫通口16を通過するインクが金属接合された箇所から流出するのを防止する流体隔壁15が形成可能となる。金属接合の方法としては、例えば超音波溶着により接合できる。
【0031】
また、金属溶着によって作成された記録素子基板1と基板支持部材13との間のインクが流入する開口部以外の一部又は全部の空間に、接着性及び封止性を高める封止材を充填してもよい。封止材によって、記録素子基板1と基板支持部材13の接着力が増加し、また、金属層9と金属層14との接着箇所からインクが流出した場合でも他のインクが通過する供給口及び貫通口に流入が防止される。したがって、封止材を充填することで、流体隔壁15の封止信頼性が向上する。
【0032】
封止材の充填方法としては、アンダーフィル法が好適に用いられる。金属溶着により形成された流体隔壁15が存在するため、封止材の滴下量の制御が容易となる。具体的には、封止材を多く滴下しても、流体隔壁15が存在するため、インクが通過する貫通口16および供給口10に封止材が流れ込まない。
【0033】
次に、本発明の第1の形態である記録素子基板1の製造方法について、図4(a)〜(h)を用いて説明する。図4(a)〜(h)は、各工程における記録素子基板1の断面図である。
【0034】
まず、吐出圧力発生素子4、駆動回路5、熱酸化膜6、パッシベイション膜7及び流路形成部材3が具備されたシリコン基板2を用意する。現段階では、シリコン基板2には図1における供給口10及び突起8は形成されていない。
【0035】
次に、工程(1)にて図4(a)で示すように、シリコン基板2の第2の面に、第1の金属層9を形成する。形成方法としては、前述したように、真空蒸着、スパッタ及びCVD等の真空成膜技術を用いて形成できる。
【0036】
続いて、工程(2)にて図4(b)で示すように、第1の金属層9をパターニングする。パターニング方法としては、フォトレジストでマスキングを行い、金属層9を除去したい部分に露光/現像により開口を設ける。次に金属層9に対応したエッチング方法にてエッチングし、その後フォトレジストを除去して達成される。エッチング方法は金属層9に拠るが、例えば金属層9が金であれば、ヨウ素、ヨウ化カリウム溶液にてウェットエッチングが可能である。また、金属層9はフォトリソ/エッチングにより所望のパターンを高精度に実現が可能である。
【0037】
工程(3)では、図4(c)で示すように、シリコン基板2の金属層9の具備されている第2の面に供給口10を形成するためのレジスト14を設ける。このとき、工程(2)においてパターニングされた金属層9はレジスト14の下に埋没される。レジスト14は供給口10を形成するためのエッチングマスク性と金属層9の埋没性より選択され、取り扱い易さを考慮するとスピンコートが可能な液体フォトレジストや、すでにシート状に成形されたドライフィルムレジストなどが好適である。
【0038】
工程(4)にて、図4(d)で示すように、工程(3)で形成したレジスト14の供給口10が形成される所望の位置に開口部15を設け、シリコン基板2を露出させる。レジスト14として、前述のようなフォトレジストやドライフィルムレジストのような感光性を有する材料を用いていれば、露光/現象にて開口部15を形成可能であり、形成位置についても精度良くすることが可能となりうる。
【0039】
工程(5)にて、供給口10をシリコン基板2の露出部、すなわちレジスト14の開口部15より形成する。形成方法としては、実現したい供給口10の形状により選択可能であるが、RIE(ReactiveIonEtching)、CDE(ChemicalDryEtching)、結晶異方性エッチングその他ウェットエッチングが適用できうる。図4(e)での供給口10の形成方法は、デポジションステップとエッチングステップを繰り返してシリコン基板2を除去する、いわゆるボッシュプロセスというドライエッチング法を用いて、シリコン基板2に対して垂直に供給口10を形成した場合を示している。
【0040】
工程(6)にて、レジスト14を除去する。除去方法としては選択されたレジストに対応した剥離液を用いる。また、O2を主体としたガスを用いたドライエッチングで除去しても良い(図4(f))。
【0041】
工程(7)にて、シリコン基板2の金属層9が具備されている第2の面より全面エッチングを行う。このとき、金属層9はエッチングマスクとして機能するため、金属層9の直下のシリコン基板2は膜減りしない。したがって、金属層9の直下のシリコン基板2の箇所は当初の厚さを維持し、図4(g)で示すような突起8が形成される。突起8の先端は、シリコン基板2の平坦性を維持した状態のため、非常に良好な平坦度を有する。エッチング方法としては、求める形状にもよるが、RIE、CDE、結晶異方性エッチングその他ウェットエッチングが適用できうる。
【0042】
ところで、工程(7)で全面エッチングすることを考慮して、工程(5)において図4(e)に示すように供給口10を形成する際に、シリコン基盤2をすべて除去する必要はない。つまり、工程(5)ではハーフエッチングを行い、工程(7)の全面エッチングで残りのシリコン基板2を除去してシリコン基板2を貫通する供給口10を形成してもよい。この様な工程を踏むことで、供給口10のオーバーエッチングを抑制することが出来る。
【0043】
次いで、供給口10の位置にある熱酸化膜6とパッシベイション7膜をRIEによって除去することによって、供給口10とインク流路11が接続される。
【0044】
最後に工程(8)にて図4(h)に示すように、シリコン基盤2の突起8の先端に残存する第1の金属層9と、基板支持部材13に具備されている第2の金属層14とを金属接合することによって保持固定する。前述のとおり、第1の金属層9を有する突起8は、金属接合するために十分な平坦性を有しているため、バンプ等の段差吸収するための構造体が無くとも大面積での接合が容易に行える。
【0045】
以上の工程で作製されたインクジェットヘッドでは、ファインパターンによって平坦性を維持したまま突起8の形成が可能となり、接着面が微細であっても金属溶着によって十分な封止信頼性が得られ、インク染み込みが低減できうる。また、突起8は位置精度よく形成されるため、供給口10の近傍に設けることが可能であり、記録素子基板1を微細化することが可能である。
【0046】
次に、図3に示すものは、本発明の第2の形態である貫通電極付きインクジェットヘッドの構成である。シリコン基板2に具備されている吐出圧力発生素子4の駆動回路5と電気的接続を有し、シリコン基板2を貫通して突起8を有する面へ電極を露出させた貫通電極16を有する場合における記録素子基板1である。
【0047】
本発明の第2の構成及び製造方法を用いれば、第1の金属層9と第2の金属層14との金属接合のほかに、貫通電極16と支持部材13に具備された配線層17との接続も一括で行うことが可能となる。支持部材13に形成される配線層17は一般的に配線に用いられる金属であればよく、アルミ、金などが好適である。このとき、第2の金属層14と同材料を用いることで、配線層17と第2の金属層14を同時に形成することもできる。
【0048】
図5(a)〜(h)を用いて、本発明の第2の形態である貫通電極16を具備する記録素子基板1の製造方法について説明する。なお、処理方法等は第1の形態と同じため、詳細については省略する。
【0049】
まず、吐出圧力発生素子4、駆動回路5、熱酸化膜6、パッシベイション膜7及び流路形成部材3が具備され、貫通電極16を有するシリコン基板2を用意する。また、貫通電極16はシリコン基板2に具備されている駆動回路5と電気的に接続されている。現段階では、シリコン基板2には図3における供給口10及び突起8は形成されていない。
【0050】
次に、工程(1)にて図5(a)に示すように、シリコン基板2の吐出圧力発生素子4が具備されている第1の面とは反対の第2の面に、第1の金属層9を形成する。続いて、工程(2)にて図5(b)で示すように、第1の金属層9をパターニングする。貫通電極16が金属層9と同種の金属であり、金属層9のエッチングにより貫通電極16も除去される場合には貫通電極16の存在する個所もマスクする必要がある。
【0051】
工程(3)では図5(c)で示すように、シリコン基板2の金属層9の具備されている面に供給口10を形成するためのレジスト14を設ける。このとき、工程(2)においてパターニングされた金属層9及び貫通電極16はレジスト14の下に埋没される。工程(4)において、図5(d)で示すように、工程(3)で形成したレジスト14を供給口10が形成される所望の位置に開口部15を設ける。次に工程(5)にて図5(e)で示すように、供給口10をレジスト14の開口部15より形成し、工程(6)にて、レジスト14を除去する(図5(f))。
【0052】
さらに工程(7)にて、シリコン基板2の金属層9が具備されている第2の面より全面エッチングを行う。このとき、金属層9はエッチングマスクとして機能するため、図5(g)で示すような突起8が形成される。また、貫通電極16もエッチングされずにシリコン基板2がエッチバックすることで、シリコン基板2から突出した形状となる。
【0053】
エッチング方法としては、求める形状および金属層9と貫通電極16とのエッチング選択比にもよるが、RIE、CDE、結晶異方性エッチングその他ウェットエッチングが適用できうる。貫通電極16が金より形成されていれば、例えば前述したボッシュプロセスが適用できる。
【0054】
このように金属層9をエッチングマスクとして全面エッチングを行うと、金属層9及び貫通電極16は当初の厚さを維持し、第1の金属層9を有する突起8が形成され、貫通電極16がシリコン基板2より突出する。そのため、第1の金属層9を有する突起8と貫通電極16の平坦度は非常に良好となる。
【0055】
ところで、工程(7)で全面エッチングすることを考慮して、工程(5)にて供給口10を形成する際に、シリコン基板2を全て除去する必要はない。つまり、工程(5)ではハーフエッチングを行い、工程(7)の全面エッチングにて残りのシリコン基板2を除去して供給口10を形成してもよい。このような工程を踏むことで、供給口10部のオーバーエッチングを少なくすることが出来る。
【0056】
次いで、供給口10の位置にある熱酸化膜6とパッシベイション7膜をRIEによって除去することによって、供給口10とインク流路11が接続される。
【0057】
最後に工程(8)にて図5(h)に示すように、シリコン基板2をエッチバックして形成された第1の金属層9を有する突起8と貫通電極16とを支持部材13に形成した第2の金属層14と配線層17とを接合する。前述のとおり、第1の金属層9を有する突起8及び貫通電極16は金属接合するために十分な平坦性を有しているため、バンプ等の段差吸収するための構造体が無くても大面積での接合が容易に行える。
【0058】
以上のように作製されたインクジェットヘッドでは、ファインパターンによって平坦性を維持したまま突起8の形成が可能となり、接着面が微細であっても金属溶着によって十分な封止信頼性が得られ、インク染み込みが低減できうる。また、突起8は位置精度よく形成されるため、供給口10の近傍に設けることが可能であり、記録素子基板1を微細化することが可能である。同時に、貫通電極16と配線層17との電気的な接続も達成可能となる。
【0059】
(実施例1)
以下、実施例により本発明の第1の形態であるインクジェットヘッドの製造方法を図6(a)〜(h)を用いて、より詳しく説明する。
【0060】
基本厚さ300μmでインゴット引き出し方位が<100>の単結晶シリコンウェハをシリコン基板2として用意した。
【0061】
次に、図6(a)に示すように、シリコン基板2の片面に熱酸化膜6を形成し、さらに吐出圧力発生素子4と、吐出圧力発生素子4を駆動する駆動回路5とを熱酸化膜6上に配置した。インクと、吐出圧力発生素子4及び駆動回路5とを絶縁するためのパッシベイション膜7を形成した後、吐出口12を具備した流路形成部材3をパッシベイション膜7の上に具備した。
【0062】
次に、図6(b)に示すように、シリコン基板2の吐出圧力発生素子4が具備されている第1の面とは反対の第2の面に金属層9を成膜した。金属層9の材料として金を用い、真空蒸着により膜厚2000Åで成膜した。
【0063】
続いて、ポジ型のフォトレジストを金属層9の上にスピンコートし、露光・現象により所望のパターンにパターニングを行い、金をウェットエッチングした。金エッチング液には、よう素とよう化カリウムの混合液(AURUM−302;関東化学(株)製)を用いた。30℃に調整された金エッチング液に5分間浸漬し、取り出し後よく水洗いを行い乾燥させ、フォトレジストを剥離し、図6(c)のようになった。
【0064】
再びポジ型のフォトレジストをシリコン基板2の金属層9を成膜した面に塗布し、先ほどパターニングした金属層9はフォトレジストによって覆われた。このフォトレジストをパターニングし、供給口10を形成する個所のフォトレジストを開口させた。この開口によりシリコン基板2のエッチングを開始し、シリコン基板2の厚さ方向に270μmエッチングしてエッチングを止め、図6(d)のようになった。シリコン基板2のエッチングには、不図示の(ICPInductivelyCoupledPlasma)エッチング装置を用いて、ドライエッチングを行った。エッチングガスには、SF6ガスとC4F8ガスを用い、エッチングステップとデポジションステップを交互に行うボッシュプロセスを適用した。
【0065】
続いて、ポジ型レジストを剥離した(図6(e))。
【0066】
さらに供給口10の残ったシリコン基板2を除去するために、さらにボッシュプロセスによりドライエッチングをシリコン基板2の金属層9を成膜した面の全面に行った。その結果、図6(f)のように、金属層9が存在する個所では、金属層9がマスクとなりエッチングが進行しなかった。それにより、シリコン基板2の金属層9が具備されている面に突起8が形成された。この工程により、金属層9を有する突起8が非常に平坦に形成された。供給口10のエッチングは、シリコン基板2の熱酸化膜6でストップした。
【0067】
次に、図6(g)に示すように、供給口10の箇所に位置する熱酸化膜6及びパッシベイション膜7を、RIE(ReactiveIonEtching)により除去し、供給口10とインク流路11を接続した。その後、ダイシングによってウェハを小片化した。
【0068】
一方、アルミナより形成された基板支持部材13を用意し、金ペーストをスクリーン印刷により厚さ1μmで所望の個所に印刷し、焼結することで金属層14を形成した。次に、基板支持部材13の金属層14と、先ほど小片化したシリコン基板2の金属層9とを超音波溶着により金属溶着を行った。
【0069】
最後に、封止材19をアンダーフィル法によって流体(インク)の通る流路以外の個所に充填しベークすることで、図6(h)に示す流体隔壁を有するインクジェットヘッドが完成した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、所定色相を有するインクの微小な液滴として記録用紙上の所望の位置に吐出させることにより、画像を記録するインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドに適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 記録素子基板
2 シリコン基板
4 吐出圧力発生素子
5 駆動回路
8 突起
9 第1の金属層
10 供給口
13 基板支持部材
14 第2の金属層
15 流体隔壁
16 貫通口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する為の記録素子基板と、
該記録素子基板を貫通するように設けられ、前記インクの流路となる供給口と、
前記記録素子基板の一方の面から突出する突起と、
該突起と当接し、且つ前記記録素子基板を保持固定する基板支持部材と、を備えたインクジェットヘッドにおいて、
前記突起の先端に設けられた第1の金属層と、
前記基板支持部材に設けられ、該第1の金属層と溶着されている第2の金属層と、をさらに備えたことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記突起及び前記第1の金属層が、前記供給口を囲うように配されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記第1の金属層及び前記第2の金属層は、金、白金その他のインクと不活性な金属、又は、インクと不活性な金属を含む合金よりなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記記録素子基板と前記基板支持部材との間の、前記インクが流入する開口部以外の一部又は全部に、封止材が充填されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
インクを吐出する為の吐出圧力発生素子を備えた記録素子基板と、
該記録素子基板を貫通するように設けられ、前記インクの流路となる供給口と、
前記記録素子基板の、前記吐出圧力発生素子が具備されている第1の面とは反対側に位置する第2の面から突出する突起と、
該突起と当接し、且つ前記記録素子基板を保持固定する基板支持部材と、
前記吐出圧力発生素子と電気的に接続され、前記第1の面から前記第2の面まで貫通している貫通電極と、を備えたインクジェットヘッドにおいて、
前記突起の先端、及び、前記貫通電極の、前記吐出圧力発生素子と電気的に接続されていない側に設けられた第1の金属層と、
前記基板支持部材に設けられ、該第1の金属層と溶着されている第2の金属層及び配線層と、をさらに備えたことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記突起及び前記第1の金属層が、前記供給口を囲うように配されていることを特徴とする請求項5に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記第1の金属層及び前記第2の金属層は、金、白金その他のインクと不活性な金属、又は、インクと不活性な金属を含む合金よりなることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記配線層は、前記第2の金属層と同じ材料よりなることを特徴とする請求項7に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記記録素子基板と前記基板支持部材との間の、前記インクが流入する開口部以外の一部又は全部に、封止材が充填されていることを特徴とする請求項5から請求項8のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
インクを吐出する為の記録素子基板と、
該記録素子基板を貫通するように設けられ、前記インクの流路となる供給口と、
前記記録素子基板の一方の面から突出し、前記供給口を囲うように配されている突起と、
該突起と当接し、且つ前記記録素子基板を保持固定する基板支持部材と、
前記突起の先端に設けられた第1の金属層と、
前記基板支持部材に設けられ、該第1の金属層と溶着されている第2の金属層と、を備えたインクジェットヘッドの製造方法であって、
前記記録素子基板の一方の面に、前記第1の金属層を形成する工程と、
前記第1の金属層を覆い、且つ該一方の面の一部を露出するようにレジストを形成する工程と、
前記レジストが形成されていない前記記録素子基板の露出部より、エッチングにより前記供給口を形成する工程と、
前記レジストを除去する工程と、
前記第1の金属層をエッチングマスクとして前記記録素子基板をエッチングすることで、前記突起を形成する工程と、
前記突起の先端に残存する前記第1の金属層と、前記第2の金属層とを溶着させる工程と、を有するインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記第1の金属層を形成するとき、パターニングによって必要な部分を残すことで前記第1の金属層が形成されることを含む、請求項10に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項12】
インクを吐出する為の吐出圧力発生素子を備えた記録素子基板と、
該記録素子基板を貫通するように設けられ、前記インクの流路となる供給口と、
前記記録素子基板の、前記吐出圧力発生素子が具備されている第1の面の反対に位置する第2の面から突出し、前記供給口を囲うように配されている突起と、
該突起と当接し、且つ前記記録素子基板を保持固定する基板支持部材と、
前記吐出圧力発生素子と電気的に接続され、前記第1の面から前記第2の面まで貫通している貫通電極と、
前記突起の先端、及び、前記貫通電極の、前記吐出圧力発生素子と電気的に接続されていない側に設けられた第1の金属層と、
前記基板支持部材に設けられ、該第1の金属層と溶着されている第2の金属層及び配線層と、を備えたインクジェットヘッドの製造方法であって、
前記記録素子基板の、前記吐出圧力発生素子が具備されている面とは反対に位置する前記貫通電極を露出している面に、前記第1の金属層を形成する工程と、
前記第1の金属層を覆い、且つ前記第1の金属層が形成された面の一部を露出するようにレジストを形成する工程と、
前記レジストが形成されていない前記記録素子基板の露出部より、エッチングにより前記供給口を形成する工程と、
前記レジストを除去する工程と、
前記第1の金属層をエッチングマスクとして前記記録素子基板をエッチングすることで、前記突起を形成する工程と、
前記突起の先端及び前記貫通電極に残存する前記第1の金属層と、前記第2の金属層及び前記配線層とをそれぞれ溶着させる工程と、を有するインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記第1の金属層を形成するとき、パターニングによって必要な部分を残すことで前記第1の金属層が形成されることを含む、請求項12に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項14】
インクを吐出する為の吐出圧力発生素子を備えたシリコン基板と、
前記シリコン基板を貫通するように設けられ、前記インクを圧力発生素子に供給する供給口と、を備えた記録素子基板において、
前記シリコン基板の前記吐出圧力発生素子が具備されている面の反対に位置する面に、前記シリコン基板と同質かつ連続で形成された突起と、該突起の先端に金属層と、をさらに備えていることを特徴とする記録素子基板。
【請求項15】
前記突起及び前記金属層が、前記供給口を囲うように配されていることを特徴とする請求項14に記載の記録素子基板。
【請求項16】
前記金属層は、金、白金その他のインクと不活性な金属、又はインクと不活性な金属を含む合金よりなることを特徴とする請求項14又は請求項15に記載の記録素子基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−25547(P2011−25547A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174178(P2009−174178)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】