説明

記録装置、液体噴射装置

【課題】 記録ヘッドのノズル開口におけるインクと、該記録ヘッドを封止するシール部との間に空気の混入を防止する記録装置を提供すること。
【解決手段】 記録装置100は、被記録媒体(P)に対して記録を実行する記録ヘッド106と、該記録ヘッド106に設けられ、インクKが吐出されるノズル開口241、241…と、該ノズル開口241、241…を封止可能なシール部260と、を備え、該シール部260が前記ノズル開口241、241…を封止した際、前記ノズル開口241、241…におけるインクKが該シール部260と接触している構成であることを特徴する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体に対して記録を実行する記録ヘッドと、該記録ヘッドに設けられ、インクが吐出されるノズル開口と、該ノズル開口を封止するシール部と、を備えた記録装置および液体噴射装置に関する。
【0002】
ここで、液体噴射装置とは、液体噴射ヘッドとしての記録ヘッドから記録紙等の被記録材へインクを噴射して被記録材への記録を実行するインクジェット式記録装置、複写機及びファクシミリ等の記録装置に限らず、インクに代えて特定の用途に対応する液体を前述した記録ヘッドに相当する液体噴射ヘッドから、被記録材に相当する被噴射材に噴射して、液体を被噴射材に付着させる装置を含む意味で用いる。また、液体噴射ヘッドとしては、前述した記録ヘッド以外に、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタ製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイや面発光ディスプレイ(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド、精密ピペットとしての試料を噴射する試料噴射ヘッド等が挙げられる。
また、記録装置には、インクジェットプリンタ、ワイヤドットプリンタ、レーザープリンタ、ラインプリンタ、複写機、ファクシミリ等の種類が含まれるものとする。
【背景技術】
【0003】
従来では、特許文献1に示す如く、液体噴射装置の一例である記録装置は、記録ヘッドと、記録ヘッドに設けられたノズル開口を封止可能なシール部とを備えていた。そして、記録装置の電源がOFFになると、前記シール部が前記ノズル開口を封止するように構成されていた。
図16(A)〜(C)に示すのは、従来の記録装置における記録ヘッドに設けられたノズル開口の断面図である。このうち、図16(A)は封止する前の状態である。また、図16(B)は封止した状態である。またさらに、図16(C)は封止してから放置された状態である。
【0004】
図16(A)〜(C)に示す如く、記録ヘッド500のノズル形成面501に形成されたノズル開口502はインク504によって満たされている。そして、シール部の封止面にはシール部材503が設けられている。シール部は記録ヘッド500のノズル開口502に対して接離移動可能に設けられている。従って、図16(A)に示す如く、封止する前の状態である封止解除状態および図16(B)に示す如く、ノズル開口502を封止した封止状態にすることができる。
【特許文献1】特開平10-202907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インク504を吐出した後のノズル開口502のインク504の表面は、ノズル形成面501より凹状に凹んでいる。従って、シール材503によって封止されたとき、図16(B)に示す如く、ノズル開口502のインク504の表面と、シール材503との間に空気505が入った状態となる。そして、該状態で放置されると、インク504が酸化する虞がある。また、インク504が凝固する虞がある。またさらに、ノズル開口502のインク504の表面とシール材503との間に空気505は、インク504より軽いので上方へ移動しようとする。このとき、図16(C)に示す如く、ノズル形成面501とシール材503との間の僅かな隙間から他の空気を取り込み、ノズル開口502の空気505が成長する虞がある。
その結果、記録開始時にインク504の吐出不良が生じる虞がある。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、記録ヘッドのノズル開口におけるインクと、該記録ヘッドを封止するシール部との間に空気の混入を防止する記録装置および液体噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様の記録装置は、被記録媒体に対して記録を実行する記録ヘッドと、該記録ヘッドに設けられ、インクが吐出されるノズル開口と、該ノズル開口を封止可能なシール部と、を備え、該シール部が前記ノズル開口を封止した際、前記ノズル開口におけるインクが該シール部と接触している構成であることを特徴とする。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、前記記録装置は、前記シール部が前記ノズル開口を封止した際、前記ノズル開口におけるインクが該シール部と接触している構成である。従って、前記ノズル開口におけるインクと前記シール部との間に空気が混入することを防止することができる。その結果、前記ノズル開口内のインクが酸化する虞がない。
また、前記ノズル開口内のインクが、空気に触れた状態で放置されることによって凝固する虞がない。
【0009】
仮に、ノズル開口におけるインクとシール材との間に空気が混入すると、前述したようにノズル開口とシール材との間において、横から別の空気が入りやすくなる。係る場合、空気と空気とが一体となり成長する虞がある。
そこで、本発明は、前述したように空気の混入を防止することができるので、空気が成長する虞もない。インクの乾燥対策、記録ヘッドの衝撃対策、インクの体積変化対策、水頭圧差対策に有効である。ここで、水頭圧差とは、配管の長さや高さによって変化する液体を送るために必要な力の差をいう。
従って、ノズル開口のクリーニング回数を削減することできる。その結果、クリーニングによるインク消費量を軽減することができる。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記シール部が前記ノズル開口を封止するとき、前記ノズル開口からインクを吐出させ、前記シール部に着弾させる構成であることを特徴とする。
本発明の第2の態様によれば、第1の態様と同様の作用効果に加え、前記シール部が前記ノズル開口を封止するとき、前記ノズル開口からインクを吐出させ、前記シール部に着弾させる構成である。従って、前記シール部に着弾したインクを利用して、前記シール部が前記ノズル開口を封止した際、前記ノズル開口におけるインクが該シール部と接触している状態にすることができる。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1の態様において、前記シール部が前記ノズル開口を封止するとき、前記ノズル開口からインクを吐出させずに該ノズル開口のインク表面を滴状に膨出させる構成であることを特徴とする。
本発明の第3の態様によれば、第1の態様と同様の作用効果に加え、前記シール部が前記ノズル開口を封止するとき、前記ノズル開口からインクを吐出させずに該ノズル開口のインク表面を滴状に膨出させる構成である。従って、前記膨出したインクを利用して前記シール部が前記ノズル開口を封止した際、前記ノズル開口におけるインクが該シール部と接触している状態にすることができる。
また、インクを吐出させた場合と比較して、インクの消費量を少なくすることができる。
【0012】
本発明の第4の態様は、第1から第3のいずれか一の態様において、前記シール部は、インクが浸みない素材、かつ、弾性体を有し、前記ノズル開口の対向する位置に凹部を有することを特徴とする。
本発明の第4の態様によれば、第1から第3のいずれか一の態様と同様の作用効果に加え、前記シール部は、インクが浸みない素材、かつ、弾性体を有している。従って、前記封止する際、前記ノズル開口の位置に追従することができる。例えば、前記記録装置に振動が生じた場合であっても、追従することができる。その結果、前記ノズル開口を確実に封止することができる。
また、前記シール部は、前記ノズル開口の対向する位置に凹部を有する。従って、前記膨出したインクおよび吐出されたインクを受けることができる。さらに、隣のノズル開口が詰まっている場合に、該詰まっているノズル開口へインクを、該凹部を介して流入させ、固化したインクを溶解することが可能である。
【0013】
本発明の第5の態様は、第1から第4のいずれか一の態様において、前記記録ヘッドは、同一群のノズル開口によって構成される一群のノズル列を有し、前記シール部は、一群のノズル列と他の一群のノズル列との間と対向する位置に溝部を有する構成であることを特徴とする。
本発明の第5の態様によれば、第1から第4のいずれか一の態様と同様の作用効果に加え、前記記録ヘッドは、同一群のノズル開口によって構成される一群のノズル列を有し、前記シール部は、一群のノズル列と他の一群のノズル列との間と対向する位置に溝部を有する構成である。従って、前記シール部における前記ノズル列と対向した箇所において、膨出したインクおよび吐出された同一群のインクが他の一群のインクと混ざることを防止することができる。その結果、同一群のノズル開口が、他の一群のインクによって汚損されることを防止することができる。
【0014】
本発明の第6の態様は、第1から第5のいずれか一の態様において、前記シール部の封止面と接触可能なワイパ部材を有し、前記シール部は、スライド可能に設けられていることを特徴とする。
本発明の第6の態様によれば、第1から第5のいずれか一の態様と同様の作用効果に加え、前記シール部の封止面と接触可能なワイパ部材を有し、前記シール部は、スライド可能に設けられている。従って、前記シール部の封止面をワイピングすることができる。即ち、汚れた前記シール部の封止面をクリーニングすることができる。
【0015】
本発明の第7の態様の液体噴射装置は、被液体噴射媒体に対して液体を噴射する液体噴射ヘッドと、該液体噴射ヘッドに設けられ、液体が噴射されるノズル開口と、該ノズル開口を封止可能なシール部と、を備え、該シール部が前記ノズル開口を封止した際、前記ノズル開口における液体が該シール部と接触している構成であることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すのは、本発明に係る液体噴射装置の一例である記録装置の概略を示す全体斜視図である。また、図2に示すのは、本発明に係る記録装置の概略を示す全体平面図である。
記録装置100の本体の背面側には、被記録媒体としての用紙Pが載置・積層される載置部145としてのホッパ101が、上方を支点に揺動可能に設けられている。ホッパ101の最上位に載置された用紙Pは、給送部144によって、搬送方向下流側である記録部側へ給送される。
【0017】
具体的には、載置された用紙Pは、給送用モータ104によって駆動する給送ローラ230によりピックアップされる。そして、用紙Pは、左右の用紙ガイド103、103に案内されながら搬送方向の下流側の搬送ローラ対(図示せず)へと給送される。搬送ローラ対まで給送された用紙Pは、搬送用モータ(図示せず)によって駆動する搬送駆動ローラ(図示せず)により、さらに搬送方向の下流側の記録部143へと搬送される。
【0018】
記録部143は、用紙Pを下方から支持するプラテン105と、プラテン105の上方側に対向するように設けられたキャリッジ107とによって構成される。そのうち、キャリッジ107は、搬送される用紙Pの幅方向Xである主走査方向へ延びたキャリッジガイド軸(図示せず)に案内されながらキャリッジモータ102によって駆動する。さらに、キャリッジ107の底面部には、用紙Pへ向かってインクを吐出する記録ヘッド106が設けられている。記録部143で記録された用紙Pは、さらに下流側へと搬送され排出ローラ(図示せず)によって記録装置100の正面側から排出される。
【0019】
また、記録装置100の本体の下方には、インクカートリッジ244(図3参照)が装填され、インク供給針(図示せず)を介してインク供給路(図示せず)へとインクが供給される。さらに、インクは、インク供給チューブ110を介してキャリッジ107の記録ヘッド106まで供給される。そして、記録ヘッド106のフラッシング時、およびクリーニング時には、1桁側に設けられ、記録部143の吐出特性を維持する吐出特性維持部としてのインク吸引装置200においてインクの吐出・吸引動作が行われる。インク吸引装置200は、キャップ部204を備え、キャップ部204を上下方向へ移動させて記録ヘッド106を封止することができるように構成されている。
【0020】
図3に示すのは、本発明に係る記録装置のインク経路を示す概略図である。
図3に示す如く、記録装置100において、インクは、インクカートリッジ244のインクパック245、245…から記録装置本体へ送られる。そして、開閉可能なバルブ243を経て記録ヘッド106まで送られる。ここで、記録ヘッド106は、シール部260のシール材261によって封止可能に設けられている。
【0021】
シール材261が記録ヘッド106を封止してない状態では、インクは、記録ヘッド106から用紙Pまたはキャップ部204へ吐出される。また、キャップ部204が記録ヘッド106を封止した状態で、インク吸引装置200が作動することによってキャップ部内が負圧とすることができる。そして、記録ヘッド106からインクを吸引することができる。キャップ部204のインクは、インク吸引装置200を経て、インクカートリッジ内の廃液吸収材246に吸収される。
【0022】
シール部260のシール材261による封止が解除される際、インク経路におけるバルブ243と記録ヘッド106との間において、負圧が生じる虞がある。
そこで、シール材261による封止が解除される際、先ず、バルブ243を開き、次に、シール材261に封止を解除するように構成されている。従って、記録ヘッド106から空気が進入することを防止することができる。
【0023】
また、シール材261による封止は、電源OFFシーケンスの間、制御部によって実行されるように構成されている。具体的には、記録装置100の電源がOFFになったとき、シール材261による封止が実行される。また、記録装置100の電源がONになったとき、シール材261による封止が解除されるように構成されている。
続いて、シール部260の構造について説明する。
【0024】
図4に示すのは、本発明に係るシール材を有するシール部を示す斜視図である。ここで、記録ヘッドの位置は、クリーニングを実行することができる1桁側のホームポジションである。
図4に示す如く、記録装置100は、キャップ部204と、シール部260とを有する。このうち、キャップ部204は、記録ヘッド106を封止し、インクを吸引可能に設けられている。具体的には、キャップ部204は、記録ヘッド106に対して接離移動可能に設けられている。従って、キャップ部204は、直接的に記録ヘッド106を封止することができる。そして、インク吸引装置200のポンプを作動させ、キャップ部内に負圧を発生させる。従って、記録ヘッド106のノズル開口241、241…のインクを吸引することができる。
【0025】
一方、シール部260は、後述する溝部262、262…が形成されたシール材261と、スライダ部263とを有する。このうち、スライダ部263は、スライダモータ267に設けられたピニオンギア268と噛合うラック264を有している。所謂、ラック・アンド・ピニオンの構成である。そして、スライダモータ267の正転駆動によって、スライダ部263は、キャップ部204と記録ヘッド106との間に入るように移動することができる。また、スライダモータ267の逆転駆動によって、スライダ部263は、キャップ部204と記録ヘッド106との間から退避するように移動することができる。
また、シール材261は、インクが浸透しない素材、かつ、弾性体で形成されている。
【0026】
図5に示すのは、本発明に係る記録ヘッドのノズル列とシール材との位置関係を示す下方斜視図である。
図5に示す如く、記録ヘッド106の下方のノズル形成面240には、インクK(図9(A)(B)参照)を吐出することができるノズル開口241、241…が形成されている。一群のインクKを吐出する一群のノズル開口241、241…は、ノズル列242、242…を形成する。本実施形態では、インクKはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色を使用する構成である。従って、ノズル列242、242…は、4つの群列に構成されている。
【0027】
一方、シール材261におけるノズル列242、242…と対向する位置は平坦に設けられている。また、後述するように、一群のノズル列242と対向する位置と、他の一群のノズル列242と対向する位置との間には、インクKの混色を防止する溝部262、262…が設けられている。
続いて、シール部260の動作について説明する。
【0028】
図6に示すのは、封止前、かつ、スライド前のシール部を示す側面図である。ここで、記録ヘッドの位置は、ホームポジションである。
図6に示す如く、シール部260は、キャップ部204と記録ヘッド106との間から退避した状態である。また、キャップ部204は、記録ヘッド106から離間した状態である。即ち、キャップ部204は、下がった状態である。またさらに、シール部260の移動方向において、この状態におけるシール材261と記録ヘッド106との間には、シール材261の表面を払拭可能なワイパ部材269が設けられている。
【0029】
図7に示すのは、封止前、かつ、スライド後のシール部を示す側面図である。
図7に示す如く、スライドモータが正転駆動すると、ピニオンギア268が時計方向へ回動する。このとき、ピニオンギア268からラック264に動力が伝達される。従って、シール部260は、図中の右側へ移動する。このとき、シール材261の表面は、ワイパ部材269によって払拭される。従って、シール材261の表面に付着した埃等を除去することができる。
【0030】
そして、シール部260が記録ヘッド106と対向する位置まで到達したとき、スライダモータ267の駆動が停止する。従って、シール部260は、図7に示す如く、記録ヘッド106と対向する位置で停止する。
尚、この状態では、記録ヘッド106のノズル形成面240とシール材261との間に僅かな隙間がある。即ち、未だ、封止していない状態である。
【0031】
図8に示すのは、記録ヘッドのノズル形成面を封止した状態のシール部を示す側面図である。また、図9(A)(B)に示すのは、封止する際のノズル開口のインク状態を示す側断面図である。このうち、図9(A)は封止する直前の状態である。一方、図9(B)は封止した状態である。またさらに、図10(A)(B)に示すのは、封止する際のノズル開口のインク状態を示す側断面図である。このうち、図10(A)は封止する直前の状態である。一方、図10(B)は封止した状態である。
図8に示す如く、スライダモータ267の正転駆動が停止すると、キャップ部204が上方へ移動する。具体的には、キャップ部204の下方に設けられた図示しないコイルばねの付勢力によって上方へ移動する。
【0032】
ここで、キャップ部204が上方および下方へ移動する機構は、特開2006−306036号公報によって公知である。
従って、キャップ部204が上方へ移動して、シール部260と一体となって上方へ移動することができる。その結果、シール部260のシール材261を、記録ヘッド106のノズル形成面240に押し付けることができる。
【0033】
続いて、この際の記録ヘッド106に設けられたノズル開口241、241…のインクKの状態について説明する。
図9(A)に示す如く、シール部260が上方へ移動する際であって、ノズル形成面240と当接する直前に、制御部は、ノズル開口241、241…からインク滴を吐出させるように構成されている。そして、吐出されたインク滴は、シール材261に着弾する。
このとき、インク滴を数滴吐出してもよいし、一滴だけ吐出してもよい。
【0034】
図9(B)に示す如く、図9(A)の状態からシール部260が上方へ移動して、シール材261がノズル形成面240と当接すると、ノズル開口241、241…のインクKの表面が、シール材261と直接に接することができる。具体的には、シール材261に着弾した凸状のインク滴Kが、ノズル開口241、241…の凹状のインクKの表面と合わさり、凹状の箇所にあった空気を横に押し出すことができる。
ここで、凸状のインクは、凹状の箇所より大である。
【0035】
その結果、ノズル開口241、241…のインクKの表面と、シール材261との間に空気が入らない状態で、シール部260がノズル開口241、241…を封止することができる。ここで、シール材261は、前述したように弾性体によって形成されている。従って、押圧力によって弾性変形しノズル形成面240の姿勢およびノズル開口241、241…の形状に追従することができる。
【0036】
その結果、封止した状態で長時間放置された場合であっても、インクKの酸化を防止することができる。また、インクKが凝固することを防止することができる。またさらに、空気の混入がないので、前述した空気が成長する虞がない。即ち、ノズル開口241、241…を正常な状態に保つことができる。従って、ノズル開口241、241…のクリーニングを実行する回数を削減することができる。そして、その分、消費インク量を軽減することができる。
【0037】
また、図10(A)に示す如く、制御部は、ノズル開口241、241…の上流側に設けられている公知技術であるピエゾ素子(図示せず)の駆動量を調整して、インク滴を吐出せずに、ノズル開口241、241…のインクKの表面を凸状に膨出させるだけでもよい。即ち、インクKの表面をノズル形成面240から凸状に膨出させるだけでもよい。
そして、図10(B)に示す如く、図10(A)の状態からシール部260が上方へ移動して、シール材261がノズル形成面240と当接すると、ノズル開口241、241…のインクKの表面が、シール材261と直接に接することができる。即ち、前述したインク滴を吐出した場合と同様の効果を得ることができる。さらに、ノズル開口241、241…のインクKの表面を凸状に膨出させるので、より確実に空気が入らない状態で封止することができる。
【0038】
図11に示すのは、封止を解除する際のシール部の動作を示す側面図である。
図11に示す如く、封止を解除する際、先ず、バルブ243(図3参照)を開くと共にインク吸引装置200(図1および図2参照)のポンプを作動させてキャップ部内に負圧を発生させる。次に、キャップ部204を下方へ移動させる。このとき、前記負圧によって、シール部260は、キャップ部204と一体に下方へ移動する。
ここで、シール部260のシール材261は、ノズル形成面240を密に封止している。従って、シール材261が、ノズル形成面240から離間しにくい場合がある。
【0039】
そこで、キャップ部204の対角する位置に形成された第1爪部251の長さと第2爪部252の長さとの差を利用して、キャップ部204をノズル形成面240に対して傾けて下方へ移動させることができる。
ここで、キャップ部204をノズル形成面240に対して傾ける機構は、特開2006−306036号公報によって公知である。
従って、シール部260をノズル形成面240に対して傾けることができる。そして、シール材261とノズル形成面240との間において、一端側から徐々に空気を入れることができる。その結果、容易に封止を解除することができる。
【0040】
このとき、シール部260がキャップ部204と一体に下方へ移動する距離は極僅かである。具体的には、キャップ部204が負圧を発生させたままの状態で極僅かに下方へ移動したとき、インク吸引装置200の開放弁(図示せず)が閉じた状態から開いた状態に切り替わる。同時に、ポンプの駆動が停止する。従って、キャップ部内の負圧が消滅し、シール部260は、上下方向において停止する。即ち、シール部260は、キャップ部204と分離する。このとき、シール部260の姿勢はもとの姿勢、即ち、ノズル形成面240と平行な姿勢に戻る。
【0041】
図12に示すのは、封止を解除したときのシール部の動作を示す側面図である。
図12に示す如く、シール部260がキャップ部204と分離した後、スライダモータ267は逆転駆動する。従って、シール部260は、記録ヘッド106とキャップ部204との間から退避する方向である図中における左側へ移動する。このとき、シール材261の表面に付着したインクKは、ワイパ部材269によって払拭される。
一方、キャップ部204は、図示しないカムおよびレバーによって下方へ移動する。そして、図6に示すもとの状態に戻る。
【0042】
図13(A)(B)に示すのは、シール材の形状を示す図である。このうち、図13(A)は平面図である。一方、図13(B)は図13(A)のN−N’における断面図である。
図13(A)(B)に示す如く、シール材261におけるノズル列242、242…と対向する位置は平坦に設けられている。また、シール材261の表面における一群のノズル列242と対向する位置と、他の一群のノズル列242と対向する位置との間に溝部262、262…が設けられている。
【0043】
従って、シール材261がノズル形成面240を封止した際、一群のノズル列242のインクKが、他の一群のノズル列242に付着する虞がない。また、一群のノズル列242のインクKが、他の一群のノズル列242のインクKと混ざる虞がない。
またさらに、ワイパ部材269によって払拭される際、インクKを溝部262、262…に流し込むことも可能である。
【0044】
本実施形態の記録装置100は、被記録媒体の一例である用紙Pに対して記録を実行する記録ヘッド106と、記録ヘッド106に設けられ、インクKが吐出されるノズル開口241、241…と、負圧を発生させてノズル開口241、241…を吸引可能な吸引用であるキャップ部204と、キャップ部204とは別に、ノズル開口241、241…を封止可能なシール部260と、を備え、シール部260がノズル開口241、241…を封止した際、ノズル開口241、241…におけるインクKがシール部260と接触している構成であることを特徴とする。
【0045】
また、本実施形態において、シール部260がノズル開口241、241…を封止するとき、ノズル開口241、241…からインクKを吐出させ、シール部260のシール材261に着弾させる構成であることを特徴とする。
またさらに、本実施形態において、シール部260がノズル開口241、241…を封止するとき、ノズル開口241、241…からインクKを吐出させずにノズル開口241、241…のインク表面を滴状に膨出させる構成であることを特徴とする。
【0046】
また、本実施形態において、記録ヘッド106は、同一群のノズル開口241、241…によって構成される一群のノズル列242、242…を有し、シール部260のシール材261は、一群のノズル列242と他の一群のノズル列242との間と対向する位置に溝部262、262…を有する構成であることを特徴とする。
またさらに、本実施形態の記録装置100において、シール部260の封止面であるシール材261と接触可能なワイパ部材269を有し、シール部260は、スライド可能に設けられていることを特徴とする。
【0047】
[他の実施形態1]
図14(A)(B)に示すのは、他の実施形態1のシール材を示す図である。このうち、図14(A)は斜視図である。一方、図14(B)は図14(A)のQ−Q’における断面図である。
図14(A)(B)に示す如く、他の実施形態1のシール材300は、ノズル開口241、241…に対向するそれぞれの位置に第1凹部301、301…を有している。
ここで、その他の部材については、前述した実施形態と同様なので、同じ符号を用いると共にその説明は省略する。
【0048】
第1凹部301、301…の側壁は、深くなるに従って狭くなるテーパ状に設けられている。そして、第1凹部301、301…は、シール材300がノズル形成面240を封止する際に吐出されるインクKを受けることができる。さらに、空気が入らないように弾性変形しながらノズル開口241、241…を封止することができる。
このとき、ノズル開口241、241…からインク滴を連続吐出しながら封止することも可能である。係る場合、より確実に空気の混入を防止することができる。
他の実施形態1のシール部のシール材300は、インクKが浸みない素材、かつ、弾性体を有し、ノズル開口241、241…の対向する位置に凹部としての第1凹部301、301…を有することを特徴とする。
【0049】
[他の実施形態2]
図15(A)(B)に示すのは、他の実施形態2のシール材を示す図である。このうち、図15(A)は斜視図である。一方、図15(B)は図15(A)のR−R’における断面図である。
図15(A)(B)に示す如く、他の実施形態2のシール材400は、一群のノズル列242、242…に対向するそれぞれの位置に第2凹部401、401…を有している。
ここで、その他の部材については、前述した実施形態と同様なので、同じ符号を用いると共にその説明は省略する。
【0050】
第2凹部401、401…の側壁は、深くなるに従って狭くなるテーパ状に設けられている。そして、第2凹部401、401…は、シール材400がノズル形成面240を封止する際に吐出されるインクKを受けることができる。さらに、空気が入らないように弾性変形しながらノズル開口241、241…を封止することができる。このとき、一群のノズル列毎に対応する第2凹部401、401…が設けられているので、異なるインクKが混ざる虞がない。
【0051】
ここで、ノズル列242の一部のノズル開口241、241…が詰まっており、該一部のノズル開口241、241…からインク滴が吐出されない虞がある。
そこで、第2凹部401、401…は、一群のノズル列242に対向するように設けられている。従って、一群のノズル列242の正常なノズル開口241、241…から吐出されたインク滴を第2凹部401、401…が受け、受けたインク滴を詰まっているノズル開口241、241…に流入させることができる。
【0052】
そして、詰まっているノズル開口内の凝固したインクKを溶解することができる。その結果、詰まっているノズル開口241、241…を正常な状態にすることができる。即ち、キャップ部204によってインク吸引しなくても、詰まっているノズル開口241、241…を正常な状態にすることができる。さらに、キャップ部204によって吸引する場合と比較して、ノズル開口241、241…に作用する負担がないので、ノズル開口241、241…を破損する虞がない。また、何度も吸引を繰り返すことがないので、インクKの消費量を削減することができる。
【0053】
他の実施形態2のシール部のシール材400は、インクKが浸みない素材、かつ、弾性体を有し、ノズル開口241、241…の対向する位置に凹部としての第2凹部401、401…を有することを特徴とする。
尚、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る記録装置の概略を示す全体斜視図。
【図2】本発明に係る記録装置の概略を示す全体平面図。
【図3】本発明に係る記録装置のインク経路を示す概略図。
【図4】本発明に係るシール材を有するシール部を示す斜視図。
【図5】本発明に係る記録ヘッドのノズル列を示す下方斜視図。
【図6】本発明に係るシール部の動作を示す側面図(封止前、スライド前)。
【図7】本発明に係るシール部の動作を示す側面図(封止前、スライド後)。
【図8】本発明に係るシール部の動作を示す側面図(封止状態)。
【図9】(A)(B)は封止する際のノズル開口のインク状態を示す側断面図。
【図10】(A)(B)は封止する際のノズル開口のインク状態を示す側断面図。
【図11】本発明に係るシール部の動作を示す側面図(封止解除する際)。
【図12】本発明に係るシール部の動作を示す側面図(封止解除状態)。
【図13】(A)(B)はシール材の形状を示す平面図および断面図。
【図14】(A)(B)は他の実施形態1のシール材を示す斜視図および断面図。
【図15】(A)(B)は他の実施形態2のシール材を示す斜視図および断面図。
【図16】(A)〜(C)は従来技術において封止する際の状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0055】
100 記録装置、101 ホッパ、102 キャリッジモータ、103 用紙ガイド、
104 給送用モータ、105 プラテン、106 記録ヘッド、107 キャリッジ、
110 インク供給チューブ、143 記録部、144 給送部、145 載置部、
200 インク吸引装置、204 キャップ部、230 給送ローラ、
240 ノズル形成面、241 ノズル開口、242 ノズル列、243 バルブ、
244 インクカートリッジ、245 インクパック、246 廃液吸収材、
251 第1爪部、252 第2爪部、260 シール部、261 シール材、
262 溝部、263 スライダ部、264 ラック、267 スライダモータ、
268 ピニオンギア、269 ワイパ部材、300 (他の実施形態1の)シール材、
301 第1凹部、400 (他の実施形態2の)シール材、401 第2凹部、
500 (従来技術の)記録ヘッド、501 ノズル形成面、502 ノズル開口、
503 シール材、504 インク、505 空気、K インク、P 用紙、
X 用紙の幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体に対して記録を実行する記録ヘッドと、
該記録ヘッドに設けられ、インクが吐出されるノズル開口と、
該ノズル開口を封止可能なシール部と、を備え、
該シール部が前記ノズル開口を封止した際、前記ノズル開口におけるインクが該シール部と接触している構成である記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記録装置において、前記シール部が前記ノズル開口を封止するとき、前記ノズル開口からインクを吐出させ、前記シール部に着弾させる構成である記録装置。
【請求項3】
請求項1に記載の記録装置において、前記シール部が前記ノズル開口を封止するとき、前記ノズル開口からインクを吐出させずに該ノズル開口のインク表面を滴状に膨出させる構成である記録装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の記録装置において、前記シール部は、インクが浸みない素材、かつ、弾性体を有し、前記ノズル開口の対向する位置に凹部を有する記録装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録装置において、前記記録ヘッドは、同一群のノズル開口によって構成される一群のノズル列を有し、
前記シール部は、一群のノズル列と他の一群のノズル列との間と対向する位置に溝部を有する構成である記録装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録装置において、前記シール部の封止面と接触可能なワイパ部材を有し、前記シール部は、スライド可能に設けられている記録装置。
【請求項7】
被液体噴射媒体に対して液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
該液体噴射ヘッドに設けられ、液体が噴射されるノズル開口と、
該ノズル開口を封止可能なシール部と、を備え、
該シール部が前記ノズル開口を封止した際、前記ノズル開口における液体が該シール部と接触している構成である液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2009−119659(P2009−119659A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294471(P2007−294471)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】