説明

診断システム、3D画像情報と実体との位置決め方法及び歯科診断システムを作動させるためのプログラム

【課題】
経験に左右されずに高度な診断を行うことができる歯科診断システムを提供する。
【解決手段】
走査線を利用した検査により得られた上顎又は下顎の一部を少なくとも含んだ3D画像情報を入力する3D画像情報入力手段20と、口腔内表面の形状・位置を認識する認識手段30と、認識手段30により認識された形状・位置と前記3D画像情報とに基づいて、両者を位置決めする位置決め手段40と、該位置決めされた3D画像情報の全部又は一部を、網膜操作ディスプレイ80に出力する出力手段50と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療の技術分野に関し、特に詳しくは、CT等の3D画像情報を利用して診断技術の向上を図るシステム関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポジトロン断層法 (PET)や単一光子放射断層撮影 (SPECT)、更には核磁気共鳴画像法 (MRI)に代表されるCT(コンピュータ断層撮影:Computed Tomography)技術を利用して、人体の一部を立体的な画像に置き換え、当該立体画像を参照しながら診断(例えば歯科診断など)を行うといったことが現実に行われている。ここでは人体の特定の内部構造(神経、血管等)のみを例えば色分け表示する事も可能であり、通常肉眼では把握できない内部構造の形状や位置を参照することが可能となっている。
【0003】
また、特許文献1に示されているように、口腔内の画像をディスプレイに表示させ、当該ディスプレイを見ながら診断や患者への説明を行うといったことも現実に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−334426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、たとえ画像自体が立体的に表示されているとしても、ディスプレイの表示はあくまで平面的である。また、医師が当該画像(例えばCTにより取得された立体画像)を見ながら治療を行う場合も、治療を行う実体としての患者の位置とディスプレイの位置とは物理的に異なるのであり、医師はディスプレイと実体とを交互に確認しつつ治療を行う必要がある。即ち、ディスプレイに表示された画像(立体画像)を参照しつつ治療を行う場合、医師は自身の「経験と勘」によってその画像と実体との重ね合わせ作業を行いながら治療する必要がある。
【0006】
このような経験と勘による治療行為は、医師個人のテクニックやノウハウに依存する部分が大きく、適切に治療がなされる確率を低下させる原因となるばかりか、ともすると医療事故など重大な問題へと発展しかねない。一方で、当然ながらこういった経験と勘は、数多くの治療行為(相当数の失敗経験を含む)を経てはじめて身につけることができるものであり、一朝一夕で得ることができるものではない。
【0007】
そこで本発明は、このような「経験と勘」に頼らざるを得なかった診断行為を脱却し、未だ経験の浅い医師であっても経験豊富な医師と同等のレベルで、また、経験豊富な医師はより正確な診断が行えるような診断システムを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、走査線を利用した検査により得られた上顎又は下顎の一部を少なくとも含んだ3D画像情報を入力する3D画像情報入力手段と、口腔内表面の形状・位置を認識する認識手段と、前記認識手段により認識された形状・位置と前記3D画像情報とに基づいて、両者を位置決めする位置決め手段と、該位置決めされた3D画像情報の全部又は一部を、立体画像認識デバイスに出力する出力手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
即ち、CT等により得た上顎及び/又は下顎部(内部構造を含む)の3D画像情報の必要な部分(例えば神経や血管の位置や形状等)を取り出して、診断時に当該3D画像を実体に対して立体的に重ね合わせることにより、通常肉眼では把握できない(若しくは把握し難い)内部構造等を視覚的に(同じ目線のままで)捉えながら診断を行うことを可能とするシステムである。これは、歯及びその関連組織が、上顎骨又は下顎骨という強固なベースに対して位置が固定されているからこそ、正確な位置決めが可能となっているのであり、人体のその他の部分では同じレベルでの位置決めは困難である。即ち、例えば、上顎全体若しくは下顎全体で動くことはあっても、上顎若しくは下顎から生えている各歯同士や歯と神経管の位置、歯と動脈の位置などは基本的に位置が動くことはない(少なくとも診断している時間レベルでの移動は無視できる)。発明者は正にこの上顎又は/及び下顎部分の特徴的な性質を利用することを前提に本願発明をするに至ったのである。
【0010】
また請求項2に記載の発明は、請求項1の発明に加えて、前記認識手段がリアルタイムに前記口腔内表面形状と位置を認識していることを特徴とする歯科診断システムである。このシステムでは常に口腔内の形状や位置を認識し続けているので、患者側(実体側)及び/又は医師側に動きが生じた場合でも、画像の重ね合わせを維持し続ける。
【0011】
また請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の発明に加えて、前記出力手段が、前記3D画像情報と併せて、作業の為のマーカを出力することを特徴とする歯科診断システムである。例えば、請求項4に記載の発明のように、人工歯根の理想的な植立角度を示すガイド線を出力させたり、更には、各種道具(治療行為を行う際に使用する機械・器具・装置など)の操作方向や位置、順番などを表示させるのである。
【0012】
また請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の発明に加えて、更に、前記出力手段が、患者情報を出力することを特徴とする歯科診断システムである。例えば、患者の基礎情報(身長、体重、年齢、性別、血液型、体温、心拍数、既往歴等)を常に、若しくは必要に応じて表示させるのである。
【0013】
また請求項6に記載の発明は、請求項1〜5の発明に加えて、前記3D情報として、下歯槽管神経、動脈、歯髄神経、虫歯領域、歯石のうち少なくとも一つ以上の情報を含むことを特徴とする歯科診断システムである。即ち、診断内容に応じて必要な3D情報を適宜表示させる。例えば歯石の除去作業を行う場合であれば、歯石の位置や形状(歯肉の裏側や歯間に隠れて直接見ることができない歯石を含む)が網膜操作ディスプレイに表示される。
【0014】
また請求項7に記載の発明は、請求項1〜6の発明に加えて、前記認識手段が、歯の表面を認識することを特徴とする歯科診断システムである。歯の表面(エナメル質若しくは歯牙質の表面:人工歯を含む)は個々人が特有の複雑な形状を有しているので、位置決めのための認識対象として非常に好適である。例えば、三角測量法などを利用して少なくとも一本の歯の表面の3点を認識すれば、当該認識した歯は上記の通り上顎骨若しくは下顎骨に強固に固定されているので、上顎全体若しくは下顎全体の位置決めが可能となる。また、物体の輪郭を認識するプログラムなどを利用する場合においても、歯の表面形状が複雑で特徴的であることから一部の歯の表面形状を認識するのみで足り、位置決めに際して非常に有利である。
【0015】
また請求項8に記載の発明は、請求項1〜6の発明に加えて、前記認識手段が、口腔内に後付けされた人工マーカを認識することを特徴とする歯科診断システムである。例えば、既に全ての歯が抜歯されており、上顎骨や下顎骨との正確な位置関係を捉えることができない場合に、後付けされた人工マーカ(人工歯根のように上顎骨若しくは下顎骨に固定されていることが望ましい)を取付け、当該人工マーカの形状・位置を認識するのである。
【0016】
また請求項9に記載の発明は、請求項1〜8の発明に加えて、前記認識手段が、更に治療器具の治療位置を認識し、当該治療位置を前記立体画像認識デバイスに出力することを特徴とする歯科診断システムである。即ち、口腔内の実体と3D画像情報だけを位置決めして重ね合わせた表示のみを行うのではなく、治療器具(タービン、バー、エンジン、2wayポイント、ミラー、ピン、探針、バキューム、注射器、リーマ、ブローチ、クレンザー、トレイ、抜歯鉗子、ヘーベル、メス、鋭匙(えいひ)等)の位置を認識するのである。使用するこれら治療器具の大きさや形状は既知であるため、既知情報としてシステムに入力しておくことにより、認識手段が当該治療器具の一部の形状や位置を認識した時点で、実際に治療が行われている部位を(たとえ暗視野であっても)画面上に表示させることが可能となる。
【0017】
また請求項10に記載の発明は、請求項1の発明を異なる観点から捉えた発明であって、歯科診断を行うために、走査線を利用した検査により得られた上顎又は下顎の一部を少なくとも含んだ3D画像情報を、当該3D画像情報に相当する実体に立体的に重ね合わせるための位置決め方法であって、前記3D画像情報を取得するステップと、前記3D画像情報に相当する実体の形状を認識するステップと、当該実体と立体画像認識デバイスとの位置関係を認識するステップと、前記3D画像情報と前記実体とのXYZ軸方向を位置決めするステップと、該位置決めされた3D画像情報の全部又は一部を、前記立体画像認識デバイスに出力するステップと、を経る位置決め方法である。
【0018】
また請求項11に記載の発明は、請求項1の発明を異なる観点から捉えた発明であって、歯科診断システムを、走査線を利用した検査により得られた上顎又は下顎の一部を少なくとも含んだ3D画像情報を入力し、口腔内表面の形状を認識し、認識された形状と前記3D画像情報とに基づいて、両者を位置決めし、該位置決めされた3D画像情報の全部又は一部を、立体画像認識デバイスに出力する、ように作動させるための歯科診断システム用プログラムである。
【0019】
また請求項12に記載の発明は、請求項1の発明をより上位の概念として捉えた発明であって、走査線を利用した検査により得られた人体の少なくとも一部の3D画像情報を入力する3D画像情報入力手段と、人体の形状を認識する認識手段と、当該認識手段により認識された形状と前記3D画像情報とに基づいて、両者を位置決めする位置決め手段と、該位置決めされた3D画像情報の全部又は一部を、立体画像認識デバイスに出力する出力手段と、を備えたことを特徴とする診断システムである。
【発明の効果】
【0020】
請求項1、11又は12の発明により、診断経験の少ない者であっても、経験豊富な医師等と同様のレベル(若しくはそれ以上のレベル)で、正確な診断を行うことが可能となる。
【0021】
請求項2の発明により、上記効果に加えて、常に口腔内の形状や位置を認識し続けているので、患者側(実体側)又は/及び医師側に動きが生じた場合でも、画像の重ね合わせを維持し続けることが可能となる。
【0022】
請求項3〜5の発明により、上記効果に加えて、医師等は網膜操作ディスプレイ等の立体画像認識デバイスを見たままで様々な情報を入手できるので、診断(治療を含む)をより正確、迅速且つ的確に行うことが可能となる。
【0023】
請求項6の発明により、上記効果に加えて、目的(治療目的など)に応じた最適な3D画像情報を立体画像認識デバイスに出力して表示することができる。
【0024】
請求項7の発明により、上記効果に加えて、正確且つ迅速な形状の認識と位置決めが可能となる。
【0025】
請求項8の発明により、上記効果に加えて、抜歯等により口腔内に歯が残っていない場合でも、当該システムを利用した診断が可能となる。
【0026】
請求項9の発明により、上記効果に加えて、直接視覚的に捉えることができない部分を治療する場合でも、これら治療器具の治療位置を把握しながら治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の歯科診断システムの概略構成図である。
【図2】網膜操作ディスプレイ(立体画像認識デバイス)と小型カメラ(CCDカメラ)が一体化されたメガネ型ヘッドセットの斜視図である。
【図3】本発明にかかる診断システムの処理の流れを示したフローチャートである。
【図4】網膜操作ディスプレイを通して見ることができる立体画像のイメージ図であって、実体としての下顎部に対して、3D画像情報としての下歯槽管神経が立体的に投影されている状態のイメージ図である。
【図5】図4における矢視α線に沿う断面図であって、(a)が適切な人工歯根の植立状態を示した断面図、(b)が不適切な人工歯根の植立状態を示した断面図である。
【図6】図4における矢視α線に沿う断面図であって、人工歯根の植立状態が傾斜している状態を示した断面図である。
【図7】歯科診断システムが組み込まれた歯科診療チェアユニットで診断を受ける状態を示した全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しつつ、本願発明の実施形態の一例としての診断システムについて詳細に説明を加える。
【0029】
〈診断システムの構成〉
本発明にかかる診断システム10は、ハードウェア資源として一般的なパーソナルコンピュータ(以下単に「PC」という。)を利用している。よって、キーボートやマウス等の入力装置、モニタ等の出力装置、タッチパネル等の入出力装置、中央演算処理装置(CPU)、主記憶装置、補助記憶装置を当該システムの一部として利用する。
【0030】
診断システム10は、ポジトロン断層法 (PET)や単一光子放射断層撮影
(SPECT)、更には核磁気共鳴画像法 (MRI)に代表されるCT(コンピュータ断層撮影:Computed Tomography)装置70から上顎又は下顎の一部のデータを少なくとも含んだ3D画像情報を取得する入力手段20と、口腔内表面の形状・位置を認識する認識手段30と、この認識手段30により認識された形状・位置と3D画像情報とに基づいて、両者を位置決めする位置決め手段40と、該位置決めされた3D画像情報の全部又は一部を、網膜操作ディスプレイ(立体画像認識デバイス)80に出力する出力手段50と、を備える。
【0031】
また当然ながら診断システム10は、インストールされたプログラムによりその機能を発揮する。即ち、診断システム10を、走査線を利用した検査により得られた上顎又は下顎の一部を少なくとも含んだ3D画像情報を入力し、口腔内表面の形状を認識し、認識された形状と前記3D画像情報とに基づいて、両者を位置決めし、該位置決めされた3D画像情報の全部又は一部を、網膜操作ディスプレイに出力する、ように作動させるための診断システム用プログラムがインストールされている。
【0032】
CT装置70は、市販されている装置をそのまま利用することができる。例えば、3DX MULTI−IMAGE MICRO CT FP08(モリタ社製)、ベラビューエポックス3D(モリタ社製)や、ファインキューブCT(ヨシダ社製)などが利用可能である。
【0033】
入力手段20は、上記CT装置70によりデータ変換された3D画像情報を取得し必要に応じて記憶する機能を備える。ハードウェア資源としては、中央演算処理装置、主記憶装置、補助記憶装置が連携して入力手段20の機能を発揮する。
【0034】
認識手段30は、本実施形態においては、後述するCCDカメラ32と、当該CCDカメラ32により取得された映像を解析する画像解析ソフトにより構成される。当該画像解析ソフトは予めPCにインストールされる。この画像解析ソフトは対象となる物体(例えば歯など)の表面形状とCCDカメラ32からの距離を認識できる限りにおいて種々のものを利用することができる。もちろんCCDカメラ以外にもCMOSカメラを利用することもでき、また、高精細レーザの照射による3次元プロファイリング技術を利用してもよい。
【0035】
位置決め手段40は、PCに予めインストールされている画像解析ソフトによりその機能が発揮される。ハードウェア資源としては、中央演算処理装置、主記憶装置、補助記憶装置が連携して位置決め手段40の機能を発揮する。この画像解析ソフトは、入力手段20が取得・記憶したCTの3D画像情報と、認識手段30が認識した口腔内の実体(歯など)の形状とを重ね合わせるように位置決め(XYZの軸方向位置を確定)できる限りにおいて種々のものを利用できる。
【0036】
出力手段50は、位置決め手段40により実体に対して位置決めされた3D画像情報を、網膜操作ディスプレイ80が受信できる信号形態に置き換えて出力する。本実施形態ではPCにインストールされたソフトウェアにより実現されているが、PC外部に別体として構成してもよい。
【0037】
網膜操作ディスプレイ80は、図2に示しているようにメガネ型ヘッドセット90の側方に取り付けられている。本実施形態では、当該ヘッドセット90装着者の左目網膜に対して安全なレベルの光を高速で照射し、その残像効果を利用して画像を表示できるように構成されている。なお、このメガネ型ヘッドセット90の右側側方(装着者から見て右側側方)には認識手段30の一部を構成するCCDカメラ32が設置されている。即ち、網膜操作ディスプレイ80とCCDカメラ32との位置関係は固定され、予め既知情報として取得することが可能な構成となっている。
【0038】
〈診断システムにおける処理手順〉
次に、図3に示したフローチャートを参照しつつ、診断システム10における処理手順について説明を加える。
【0039】
ステップS101からスタートし、入力手段20が、CT検査により得られた上顎及び/又は下顎の少なくとも一部を含んだ3D画像情報を取得する(S102)。この取得は、CT装置70とオンラインで取得してもよいし、得られたデータを一旦情報記録媒体に記録し、当該情報記録媒体を介して取得してもよい。
【0040】
続いて、3D画像情報を取得したか否かの判断が行われる(S103)。適切に取得された場合にはS104へと進み、取得されていない場合にはS102へと戻る。
【0041】
続いて、認識手段30が、実体としての患者口腔内の形状と位置(本実施形態ではCCDカメラ32からの距離)を認識する(S104)。特に歯の表面形状を中心に形状等が認識されるように予めプログラムされていることが望ましい。
【0042】
続いて、実体の形状・位置が認識できたか否かの判断が行われる(S105)。認識できている場合にはS106へと進み、認識できていない場合はS104へと戻る。
【0043】
続いて、入力手段20により取得された3D画像情報と、認識手段30により認識された実体の形状等を重ね合わせるように位置決めする
【0044】
続いて、位置決めが完了したか否かを判断する。完了していればS108へ進み、完了していなければS106へと戻る。
【0045】
続いて、位置決めされた3D画像情報(の全部若しくは一部)を網膜操作ディスプレイ80に対して出力する(S108)。このとき、認識手段30の一部としてのCCDカメラ32と網膜操作ディスプレイ80との位置関係は既知であることから、当該情報を利用してヘッドセット90装着者が見ている実体に立体的に重ね合わさるように(あたかも出力された3D画像情報が実体のそこに存在しているように)出力される。より具体的には、ヘッドセット90の装着者から見ると、例えば図4に示しているように、実体Rに対して、3D画像情報としての下顎骨100や下歯槽管神経110が立体的に投影されて表示される。このとき例えば、表示される3D画像情報を半透明とすれば、実体に対して暗視野が生じることが無い。
【0046】
続いて、実体の形状・位置に変化が無いかが判断される(S109)。変化が無い場合は引き続き形状・位置の変化が無いかどうかが判断され(S109)、変化がある場合にはS104へと戻る。ここでS109の判断は、極めて短い間隔(リアルタイム)で繰り返し行われ、少しでも形状・位置が変化した場合には直ちに修正される。即ち、実体として患者側の動き及び/又は診断を行う医師側の動きにより位置等にズレが生じた場合でもその動きに合わせて3D画像情報が表示される。
【0047】
このように、本発明にかかる診断システム10においては、CT等により得た上顎又は/及び下顎部(内部構造を含む)の3D画像情報の必要な部分(例えば神経や血管の位置や形状等)を取り出して、診断時に当該3D画像を実体に対して立体的に重ね合わせることにより、通常肉眼では把握できない(若しくは把握し難い)内部構造等を視覚的に(同じ目線のままで)捉えながら診断を行うことが可能となっている。即ち、診断経験の少ない者(例えば医師になって間もない者)であっても、経験豊富な医師に近いレベル(若しくはそれ以上のレベル)で、正確な診断を行うことが可能となっている。
【0048】
例えば図5に示しているように、人工歯根200の植立は下顎骨100の内部に位置する下歯槽管神経110に接触等しないように十分な注意のもとで植立される必要があるところ、本発明にかかる診断システム10を利用すれば、下歯槽管神経110の位置や形状、人工歯根200先端の位置等が容易に(あたかも実際にそこに存在しているように)把握できるので、正確且つ迅速な植立が可能となる。
【0049】
〈その他の実施形態〉
なお上記では、ハードウェア資源として一般的なPCを利用しているが、専用のハードウェアを利用してシステムを構築することももちろん可能である。
【0050】
また上記では、CT(コンピュータ断層撮影:Computed Tomography)の例としてポジトロン断層法
(PET)や単一光子放射断層撮影 (SPECT)、更には核磁気共鳴画像法
(MRI)を示しているが、これに限られるものではない。人体を走査線により断層的に解析し、当該解析情報を3D画像情報として利用できる限りにおいて、その他の手法によるものであっても同様に利用できる。
【0051】
また出力手段50が、3D画像情報と併せて(若しくは切り替えて)、作業の為のマーカを出力するように構成してもよい。例えば、図6に示しているように、人工歯根の理想的な植立角度を示すガイド線GLを網膜操作ディスプレイ80に出力させる。このようにすれば、経験の浅い医師であっても、適切な方向に人工歯根を容易に埋め込むことが可能となる。
【0052】
更には、各種道具(治療行為を行う際に使用する機械・器具・装置など)の操作方向や位置、順番などを表示させてもよい。そのようにすれば都度他の資料を確認する必要を無くし、迅速且つ的確な治療が可能となる。
【0053】
また出力手段50が、例えば、患者の基礎情報(身長、体重、年齢、性別、血液型、体温、心拍数、既往歴等)を常に、若しくは必要に応じて表示させるような構成を採用してもよい。これにより医師等は網膜操作ディスプレイを見たままで様々な情報を入手できるので、診断(治療を含む)をより正確、迅速且つ的確に行うことが可能となる。
【0054】
なお、3D画像情報としては、例えば、下歯槽管神経、動脈、歯髄神経、虫歯領域、歯石等が想定でき、診断内容に応じて、これらのうちいずれか、若しくは組み合わせて表示させることも可能である。具体的には、歯石を除去する場合であれば、歯石の位置や形状(歯肉の裏側や歯間に隠れて直接見ることができない歯石を含む)を表示する。
【0055】
また既に歯が全て抜歯されてしまっているような場合は、口腔内に人工マーカを後付けし、認識手段30が当該人工マーカを認識するように構成してもよい。こうすることで口腔内に歯が残っていない場合でも、当該システムを利用した診断が可能となる。
【0056】
また認識手段30が、更に治療器具(タービン、バー、エンジン、2wayポイント、ミラー、ピン、探針、バキューム、注射器、リーマ、ブローチ、クレンザー、トレイ、抜歯鉗子、ヘーベル、メス、鋭匙(えいひ)等)の治療位置を認識し、当該治療位置を網膜操作ディスプレイ80に出力するように構成してもよい。これにより、直接視覚的に捉えることができない部分を治療する場合でも、治療位置を把握しながら治療することができる。
【0057】
また上記では、立体画像認識デバイスとして網膜操作ディスプレイ80を例に説明しているが、この網膜操作ディスプレイに限定されるものではない。人間が立体画像をあたかもそこに存在しているように認識可能なデバイスである限りにおいて同様に適用可能である。
【0058】
また上記では、メガネ型の網膜操作ディスプレイ80に認識手段としてのCCDカメラ32が組付けられて構成されていたが、その他の構成を採用することも可能である。例えば、図6に示しているように、診療チェアユニット200に備わる口腔内照射ライト220に認識手段としてのCCDカメラ223を装着して構成してもよい。かかる場合、歯科診療チェアユニット本体201は位置決めされているので、例えばこの本体部201を基準位置として、CCDカメラ223の位置を算出できる(例えばアーム部210の各回転軸に角度センサ等を取り付けることにより算出可能となる。)。一方で網膜操作ディスプレイの位置も別途検知して算出できる構成とすれば、本発明に係る診断システムを構築できる。
【0059】
このとき、網膜操作ディスプレイの位置を算出する方法は種々考えられるが、例えば、CCDカメラ223により患者の口腔内の形状・位置等を認識すると同時に、網膜操作ディスプレイ自体の形状・位置を認識させるようにプログラミングすることで算出することが可能である。
【0060】
なお、本願発明は、歯や神経、血管等が、上顎骨又は/及び下顎骨をベースとして位置決めされているという点を効果的に利用してなされた発明であるが、その他の部分の診断システムとして除外するものではない。即ち、請求項1の発明をより上位の概念として捉え、走査線を利用した検査により得られた人体の少なくとも一部の3D画像情報を入力する3D画像情報入力手段と、人体の形状を認識する認識手段と、当該認識手段により認識された形状と前記3D画像情報とに基づいて、両者を位置決めする位置決め手段と、該位置決めされた3D画像情報の全部又は一部を、網膜操作ディスプレイに出力する出力手段と、を備えたことを特徴とする診断システムとして構築することも可能である。
【符号の説明】
【0061】
10…診断システム
20…入力手段
30…認識手段
32…CCDカメラ
40…位置決め手段
50…出力手段
80…網膜操作ディスプレイ
90…ヘッドセット(メガネ型)
100…下顎骨
100…下歯槽管神経
200…人工歯根



【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査線を利用した検査により得られた上顎又は下顎の一部を少なくとも含んだ3D画像情報を入力する3D画像情報入力手段と、
口腔内表面の形状・位置を認識する認識手段と、
前記認識手段により認識された形状・位置と前記3D画像情報とに基づいて、両者を位置決めする位置決め手段と、
該位置決めされた3D画像情報の全部又は一部を、立体画像認識デバイスに出力する出力手段と、
を備えたことを特徴とする歯科診断システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記認識手段はリアルタイムに前記口腔内表面形状と位置を認識している
ことを特徴とする歯科診断システム。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記出力手段が、前記3D画像情報と併せて、作業の為のマーカを出力する
ことを特徴とする歯科診断システム。
【請求項4】
請求項3において、
前記マーカが、インプラント植立方向を示すガイド線である
ことを特徴とする歯科診断システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
更に、前記出力手段が、患者情報を出力する
ことを特徴とする歯科診断システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記3D情報が、下歯槽管神経、動脈、歯髄神経、虫歯領域、歯石のうち少なくとも一つ以上の情報を含む
ことを特徴とする歯科診断システム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記認識手段が、歯の表面を認識する
ことを特徴とする歯科診断システム。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記認識手段が、口腔内に後付けされた人工マーカを認識する
ことを特徴とする歯科診断システム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、
前記認識手段が、更に治療器具の治療位置を認識し、
当該治療位置を前記立体画像認識デバイスに出力する
ことを特徴とする歯科診断システム。
【請求項10】
歯科診断を行うために、走査線を利用した検査により得られた上顎又は下顎の一部を少なくとも含んだ3D画像情報を、当該3D画像情報に相当する実体に立体的に重ね合わせるための位置決め方法であって、
前記3D画像情報を取得するステップと、
前記3D画像情報に相当する実体の形状を認識するステップと、
当該実体と立体画像認識デバイスとの位置関係を認識するステップと、
前記3D画像情報と前記実体とのXYZ軸方向を位置決めするステップと、
該位置決めされた3D画像情報の全部又は一部を、前記立体画像認識デバイスに出力するステップと、
を経る位置決め方法。
【請求項11】
歯科診断システムを、
走査線を利用した検査により得られた上顎又は下顎の一部を少なくとも含んだ3D画像情報を入力し
口腔内表面の形状を認識し
認識された形状と前記3D画像情報とに基づいて、両者を位置決めし
該位置決めされた3D画像情報の全部又は一部を、立体画像認識デバイスに出力する
ように作動させるための歯科診断システム用プログラム。
【請求項12】
走査線を利用した検査により得られた人体の少なくとも一部の3D画像情報を入力する3D情報入力手段と、
人体の形状を認識する認識手段と、
当該認識手段により認識された形状と前記3D画像情報とに基づいて、両者を位置決めする位置決め手段と、
該位置決めされた3D画像情報の全部又は一部を、立体画像認識デバイスに出力する出力手段と、
を備えたことを特徴とする診断システム。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−212367(P2011−212367A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85073(P2010−85073)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(510090690)
【Fターム(参考)】