説明

試料の作製装置,作製方法、及びそれを用いた荷電粒子線装置

【課題】荷電粒子線装置に新たに別の装置を設けることなく、真空状態において試料の加工,観察,追加工を行う装置及び方法を提供する。
【解決手段】荷電粒子線装置の真空室内にイオン液体を充填した液体浴と超音波振動手段を配置し、イオン液体と試料の加工対象領域が接触した状態において、イオン液体中に超音波振動を伝搬させて試料を加工する。
【効果】荷電粒子線装置に新たに別の装置を設けることなく、真空状態において試料の加工,観察,追加工ができるため、スループットを向上させるとともに、大気の影響を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の作製装置に関し、特に真空中で効率よく試料を作製する装置、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料を加工する方法の1つに、超音波加工がある。超音波加工とは、試料と工具との間に砥粒と水との混合液(加工液)を介在させ、工具に超音波振動を発生させることによって砥粒と試料を衝突させる方法であり、短時間で広範囲に試料の加工ができるという特長がある。
【0003】
特許文献1には、ファインセラミックス等の焼結素材の加工において、予め試料を熱加工したのちに、数値制御化した超音波加工機によって試料の位置や圧力等を制御しながら処理する技術が説明されている。
【0004】
液体浴中に超音波振動を与えることによって発生する、気泡の崩壊に伴う衝撃力を利用する方法もある。特許文献2には、このエネルギーを利用して、容器内の液体中に試料を浸して内部の圧力を高め、超音波を発生させて試料の表面研磨を行う技術が説明されている。
【0005】
上記の加工方法では、加工後に試料の観察,分析を行う場合、別装置に移動するために大気中で試料を搬送することが必要となる。このとき、試料の表面が大気中に露呈されることによって酸化したり、不純物が付着して汚染することがある。
【0006】
試料に対する大気の影響を防止する方法として、イオン液体を用いた方法がある。特許文献3では、イオンミリングにより加工した試料にイオン液体を含浸または塗布することによって試料全体をイオン液体で被覆し、大気中を搬送しても試料表面が大気に露呈されないことが示されている。特許文献4では、試料にイオン液体を含浸または塗布することによって、真空中でも試料中の水分が蒸発しないため、特に水分を含む生体試料を収縮等させることなく原形のまま観察できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−34727号公報
【特許文献2】特開平2−30463号公報
【特許文献3】特開2010−25656号公報
【特許文献4】WO2007/083756
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2には、超音波を利用して試料の加工を行う例が示されている。しかしながら、加工後の試料が大気に露呈されることによる酸化や汚染の影響については言及されていない。試料表面の加工領域がこうした影響を受けることにより、正確な試料の観察,分析を行うことが困難となる。
【0009】
また、特許文献3,4では、イオン液体を利用して試料表面を大気に露呈させずに観察する例が示されている。イオン液体は、カチオンとアニオンからなる塩の一種であり、融点が著しく低下するように設計されている。蒸気圧が限りなく0に近く、常温であっても、熱しても、また、真空中であっても液体状態を保持するという特徴がある。しかしながら、特許文献3,4に開示の技術では、例えば一度の加工では不十分で、試料の観察後に再び加工(追加工)を行う必要がある場合、観察用の装置から試料を取り出して、加工用の装置へ移動するために大気中を搬送する必要がある。このように、試料の加工,観察,分析を異なる装置を用いて行う場合では、複数の装置間において試料を移動して上記の工程を繰り返すことになり、作業を煩雑にする。
【0010】
また、特許文献3にも示されているイオンミリング法のように、真空中で行う試料の処理方法もある。これは、試料表面に加速したイオンを衝突させ、原子や分子をはじき飛ばして試料を削り取ることで加工を行う。真空状態を保持しながら加工できるため、大気の影響を防止し、観察装置に配置することもできる。しかしながら、この方法では加工効率が悪く、試料が所望の状態になるまでの全ての加工を行うためには長時間を要するため、適さない。
【0011】
なお、特許文献1,2に記載された超音波加工を真空状態へ適用しようとする場合、砥流と水との混合液や、洗浄液などの液体成分が蒸発してしまい、試料の加工を行うことは困難である。
【0012】
以下に、試料への大気による酸化や汚染の影響を防止し、かつ試料の加工を真空中で効率よく行うことを目的とする装置、及び方法について説明する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための一態様として、以下に、真空室内で試料を超音波加工する装置、及び方法を提案する。より具体的な一例として、真空室内に、イオン液体を充填した液体浴と、イオン液体中に超音波振動を伝搬させる超音波振動機構と、試料の移動機構を備えた装置、及び方法を提案する。
【発明の効果】
【0014】
上記一態様によれば、真空中にて、短時間で広範囲な領域の試料の加工が可能となる。また、上記一態様を荷電粒子線装置に適用することで、真空中で試料の加工,観察,分析の工程を繰り返し行うことができ、大気中を搬送するという作業自体が不要となるため、試料の酸化や汚染を防止、及び操作性やスループットの向上の両立を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】荷電粒子線装置試料交換室内の構成を断面で示した模式図。
【図2】試料交換室の外観の模式図。
【図3】試料ホルダ外観の写真。
【図4】試料回転棒先端と試料ホルダ底部の装着を示した模式図。
【図5】液体浴の外観、及び試料交換室底部における液体浴設置対象箇所を示した模式図。
【図6】真空中におけるイオン液体を用いた試料の加工,観察の工程を示したチャート。
【図7】荷電粒子線装置の試料室,試料交換室,イオンミリングガンの構成(位置関係)を示した模式図。
【図8】試料のイオンミリング加工,観察の工程を示したチャート。
【図9】走査電子顕微鏡の概略構成図。
【図10】イオンミリング装置の概略構成図。
【図11】イオンガンと関連する周辺部の構成を示した説明図。
【図12】超音波振動周波数による試料表面の加工態様の違いを示した模式図。
【図13】1個の試料および複数個の試料をセットした場合の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は一例であって、これに限定されるものではない。例えば、以下の実施の形態には試料交換室内にてイオン液体浴を用いた試料作製装置を配置する例を示すが、試料室など、真空状態を維持したその他の空間においても適用可能である。
【実施例1】
【0017】
図1は、荷電粒子線装置において、イオン液体浴を用いた試料作製装置を配置した試料交換室内の構成を断面で示した模式図である。
【0018】
試料101は荷電粒子線装置の観察対象として試料ホルダ102に固定される。試料101の観察面は、表面であっても断面であってもよい。また、試料101を固定した試料ホルダ102に試料交換棒104の先端を装着し、試料交換棒104を図中の試料交換棒の移動方向113に移動させることにより、試料室と試料交換室の間で試料ホルダ102ごと試料101の出し入れ、移動をすることができる。また、試料交換棒104は軸を中心に回転することもできる。試料交換棒104の先端はバナナクリップ方式または2本の棒状構造を有しており、試料ホルダ102に存在する受け側(図3)に対して装着可能である。試料回転棒105は、図中の試料回転棒の移動方向114で示すように試料交換棒の移動方向113に対して垂直となる方向に移動することができる。また試料回転棒制御部111により軸を中心に回転させることができる。試料交換室103では、試料を試料室に挿入するための前段階として真空排気を行う。真空排気は、真空ポンプ等(図示せず)を用いて試料交換室内部の気体を外部へ排出することによって行われる。液体浴106にはイオン液体107を充填しておくことができ、また後述するように、加工後の余分なイオン液体を捕集する役割も果たす。
【0019】
液体浴に収容する物質としては、真空中にて液体状態を保持できるものであればイオン液体に限られるものではないが、イオン液体を用いた場合では、上記の特性に加え、加工条件などに応じてイオンの種類を選択することで液体に種々の性質を持たせることができるという利点がある。液体浴106にイオン液体107を供給,排出する機構(図示せず)を備えた場合には、真空中でのイオン液体の入れ替え(供給,排出)が可能となる。超音波振動素子108は、コントローラ112によって制御され、超音波を発生させて液体浴106に充填したイオン液体107に伝搬させる。発生させる周波数,出力は可変であり、コントローラ112によって試料や加工条件に応じて制御できる。また、超音波振動素子は図示した形態以外にも棒状など、種々の態様に適用可能であり、また液体浴に固定されていても、着脱可能な構造をとっていてもよい。アタッチメント109は、液体浴106を試料交換室底部に脱着するための構造となっている。ゲートバルブ110は、試料室と試料交換室とを仕切る役割を担っており、主に試料室,試料交換室の間で試料ホルダを搬送するときにのみ開閉する。試料室及び試料交換室は、図7に示すように位置している。
【0020】
図2に試料交換室の外観の模式図を示す。試料交換室103の一面、もしくは全面を透明性を有する材料、例えばガラス201などで構成することで、真空状態における試料の加工工程を目視等で確認しながら容易に作業を進めることができる。図1にて説明したように、試料交換棒104,試料回転棒105はそれぞれ移動、及び回転が可能である。
【0021】
図3に試料ホルダの試料交換棒受け側301の構造の一例を示す。図のように、試料ホルダの試料交換棒受け側には2箇所の差し込み口があり、試料交換棒104の先端部を挿入することができる。
【0022】
図4に試料回転棒先端部401と試料ホルダ底部402の装着の模式図を示す。試料回転棒先端部401は円柱の形状となっており内側は空洞でネジ溝403が加工してある。試料ホルダ底部(裏面)402には、試料回転棒先端部401が試料ホルダ底部402に装着できるようにネジ溝(受け側)404が設けられている。このときネジを締める方向と試料が実際に回転するときの方向は同一であるため、試料回転棒105の軸が回転しても試料ホルダ底部402と試料回転棒先端部401が外れることはない。
【0023】
試料ホルダ底部402と試料回転棒先端部401を外すときには、試料交換棒104を装着した状態で、試料回転棒105を緩める方向に回せば、試料ホルダが回転してしまうことなく外すことができる。当然試料ホルダが落下することもない。
【0024】
図5(A)は、液体浴106の模式図である。図に示す通り、液体浴106の底部の所定の箇所には、試料交換室103の底部に装着,固定するためのアタッチメント109が設けられている。また、図5(B)は、試料交換室103の底部に設けられたアタッチメント受け側501を示す。これらは、図5(A)のアタッチメント109に対応した箇所に設けられている。
【0025】
上記の通り、本実施の形態によると、特別な構造を要さずに真空室内に試料作製装置を配置することができる。
【実施例2】
【0026】
図6は、上記の装置の態様により、真空中においてイオン液体を用いて試料を加工する工程を示したフローチャートである。
【0027】
大気中にて、加工対象となる試料101をカーボンペーストやカーボンテープなどで固定したのち、試料ホルダ102に装着する。試料を装着した試料ホルダ102を試料交換棒104先端に固定し、試料交換室103へ搬入したのち、試料交換室の真空排気を行う(S601)。次に試料交換棒104を軸方向に回転させ、試料ホルダの試料を搭載している面が液体浴内のイオン液体と向かい合う状態となるように調節する(S602)。試料回転棒105を試料ホルダ102に装着・固定したのち、試料交換棒104を取り外す(S603)。
【0028】
試料回転棒105の移動機構を利用し、イオン液体に試料の加工対象となる箇所を含んだ表面領域が接触するように試料ホルダをイオン液体に近づける(S604)。このとき、試料の位置が変動しないように所望の箇所にて試料回転棒105を固定する。試料をイオン液体に接触させる方法としては、上記の試料回転棒の移動機構に限られることなく、試料を安定的に移動可能なその他の方法でも良い。試料回転棒を用いた場合、特別な構造を必要とせず、また後述するように回転機構を利用したイオン液体の除去を行うことができるといった利点がある。超音波振動素子およびコントローラにより試料が接触した状態で超音波振動を発生させ、イオン液体中に超音波振動を伝搬させることによって加工を行う(S605)。
【0029】
加工終了後、試料回転棒105の固定を解除し、試料回転棒の移動機構を利用して試料ホルダをイオン液体の液面から遠ざけるように位置を調節し、試料表面をイオン液体の液面から浮かせた状態において再び固定する(S606)。試料回転棒105の回転機構を利用し、遠心力によって試料に付着しているイオン液体を飛ばして除去する(S607)。回転機構は手動でも、モーターなどを用いた自動駆動でも良い。試料ホルダは試料交換棒105と同方向に回転されるため、脱着することはない。このとき、回転によって飛散したイオン液体は液体浴の側壁に付着し液体浴に回収される。イオン液体を除去する方法はこれに限られるものではなく、例えば、試料に不活性ガスを噴射する方法や、試料に磁石を接近させる方法など、種々の態様を適用可能である。試料回転棒の回転機構を利用することによる利点としては、新たに別の機構を設置する必要がないことや、ガスの噴射による真空度の低下を防止することなどがある。
【0030】
次に、試料回転棒105の固定を解除し、試料ホルダをイオン液体の液面から遠ざける方向に移動させ、試料交換棒104を装着・固定したのち、試料回転棒105を取り外す(S608)。試料交換棒104を軸中心に回転させ、加工後の試料を搭載した面が試料室の荷電粒子源と向かい合うように調節する(S609)。試料室と試料交換室の間のゲートバルブを開け試料ホルダを試料室に挿入、及び設置し、試料交換棒のみを試料室から外へ引き出す(S610)。試料室と試料交換室の間のゲートバルブを閉じ荷電粒子線装置にて荷電粒子線を試料に照射し観察を行う。観察後や操作の途中において、試料の加工が不十分であり再度の加工(追加工)を行う必要があると判断した場合には、適宜S605の状態となるように調整し、イオン液体中に超音波振動を伝搬させることで再び加工できる。
【0031】
なお、上記の態様において、必要に応じて加工後、試料表面にイオン液体が極薄く、かつ全面または部分的に残存している状態において観察を行っても良い。この場合、荷電粒子線装置の観察において導電性の乏しい試料などでは、試料表面にて蓄積した電荷がイオン液体を介して外部に放出されるため、チャージアップの軽減といった効果が期待できる。
【実施例3】
【0032】
図7(A)は、荷電粒子線装置の試料室702,試料交換室703、及び試料の加工を目的として搭載したイオンミリングガン704の構成(位置関係)を示した模式図である。
【0033】
荷電粒子線装置の電子銃またはイオン銃701は、荷電粒子線を放出して試料上に照射する。このとき、試料表面から発生した荷電粒子に基づいて観察が行われる。試料室702は、試料の観察およびイオンミリング加工(フラットミリング)を行うため高真空に排気されている。試料交換室703では、実施例1,図1にて説明した構造を内部に備えている。イオンミリングガン704はイオンを加速,収束するための機構を有し、試料にイオンビームを照射して表面の原子をはじき出すことによって加工を行う。試料705および試料ホルダ707は試料ステージ706aに搭載される。試料ステージ7aは、X,Y,R(回転),T(チルト),Z(高さ)方向に移動することができ、目的に応じて荷電粒子線装置の操作画面や操作パネル(図示せず)にて位置を確認,制御して、イオンビームを最適照射位置に照射するための調節を行う。図7(B)は傾斜させた試料ステージ706bの例を示す。
【0034】
このようにイオンミリングガンを用いてイオンミリングを行う方法では、一度に加工できる試料領域が制限されており、試料の広範囲にわたる領域の加工には不適である。そこで、広範囲にわたる試料の加工(粗加工)には実施例1,2にて示した実施の態様における試料作製装置を用いて行い、粗加工後の試料を観察,分析するための所望の状態にする平滑化などの微細加工(仕上げ加工)にはイオンミリング法を用いるといったように、条件に応じて各手法を組み合わせることで短時間の試料の加工が可能になる。
【実施例4】
【0035】
図8は、試料のイオンミリング加工および観察の工程を示したチャートである。
【0036】
実施例1,2の工程の後、試料を試料交換室から試料室へ移動する(S801)。荷電粒子線装置により試料の表面状態を確認(S802)した後に、試料ステージにより試料を傾斜させる(S803)。このとき荷電粒子線装置のユーセントリック傾斜機能を利用することで観察視野を画面の中央からずれることなく傾斜することができる。ユーセントリック傾斜機能とは、例えば回転や傾斜などを行う際に、試料の荷電粒子線の照射位置を基準に観察視野を移動させることができるため、傾斜角度を変えても観察視野が移動しないという特徴を有する。試料ステージを調節し、試料を連続的に回転、もしくはスイングさせながらイオンガンからイオンビームを照射する(S804)。試料傾斜を元に戻し(S805)、試料の表面状態を荷電粒子線装置で観察する(S806)。また、試料傾斜を元に戻さない状態で試料の表面状態を荷電粒子線装置で観察しても良い。観察により試料の加工が十分であるかどうかを判断し(S807)、十分であると判断した場合には作業を終了し、不十分であると判断した場合にはS803に戻りフローを繰り返す。実施例1の加工により試料表面にイオン液体が残存している場合においても、必要に応じて、S803に戻り短時間のイオンミリング加工を行うことで残存イオン液体を除去することができる。このとき、荷電粒子線装置のステージを移動させながら観察を行い、イオンミリング加工の位置を決定することで、加工位置精度をさらに高めることができる。
【0037】
また、試料の仕上げ加工や観察を行った後に、再び試料の粗加工を行う必要が生じた場合には、試料を試料室から試料交換室に移動させて、図6のS602以降の操作により超音波振動による加工を再度行うこともできる。このように、1台の荷電粒子線装置内で粗加工,仕上げ加工,観察の全ての工程を行うことができ、目的に応じて各工程を繰り返すこともできる。全行程を通して1度も試料を大気中に出す必要がないため、試料および試料に付着したイオン液体のいずれについても、不純物による汚染を受けることがなく、作業に要する時間を短縮できる。
【0038】
さらに、荷電粒子線装置にステージ履歴を登録することで、試料が加工,観察の位置を容易に行き来することが可能になる。
【実施例5】
【0039】
図9は、上記の加工を行った試料を観察する荷電粒子線装置の一態様である走査電子顕微鏡(SEM)の概略構成図である。基本的な部分の構成は図7に対応する。
【0040】
電子源(陰極)901と第1陽極902の間には、マイクロプロセッサ(CPU)925で制御される高圧制御電源920により電圧が印加され、所定のエミッション電流で1次電子線904が電子源(陰極)901から引き出される。電子源(陰極)901と第2陽極903の間には、マイクロプロセッサ(CPU)925で制御される高圧制御電源920により加速電圧が印加されるため、電子源(陰極)901から放出された1次電子線904は加速されて後段のレンズ系に進行する。
【0041】
1次電子線904は、第1収束レンズ制御電源921で制御された第1収束レンズ905(ビーム収束手段)で収束され、絞り板908で1次電子線の不要な領域が除去された後、第2収束レンズ制御電源922で制御された第2収束レンズ906(ビーム収束手段)、及び対物レンズ制御電源923で制御された対物レンズ907により、試料910に微小スポットとして収束される。対物レンズ907は、インレンズ方式,アウトレンズ方式、または、シュノーケル方式(セミインレンズ方式)など種々の形態をとることができる。
【0042】
1次電子線904は、走査コイル909で試料910上を2次元的に走査される。走査コイル909の信号は、観察倍率に応じて走査コイル制御電源924により制御される。1次電子線の照射で、試料910から発生した2次電子等の低エネルギー2次信号912a,高エネルギー2次信号912bは、対物レンズ907の上部に進行した後、2次信号分離用直交電磁界(E×B)発生装置911により、それぞれエネルギーの違いにより分離されて低エネルギー2次信号用検出器913aおよび高エネルギー2次信号用検出器913bの方向に進行し、検出される。なお、検出器は上記のように複数であっても、または単独であってもよい。低エネルギー2次信号用検出器913a,高エネルギー2次信号用検出器913bの信号は、それぞれ低エネルギー2次信号用増幅器914a,高エネルギー2次信号用増幅器914bを経て、像信号として表示用画像メモリ916に記憶される。表示用画像メモリ916に記憶された画像情報は、像表示装置917に随時表示される。
【0043】
入力装置918からは、画像の取り込み条件(走査速度,加速電圧など)の指定、試料ステージ制御電源926を介した試料ステージ915の移動、および画像の出力や保存などを指定することができる。画像メモリ919に記憶された画像データは、SEMから外部に取出すことができる。
【実施例6】
【0044】
図10は、本発明のイオンミリング加工装置の構成を示した説明図である。図8にて示したイオンミリングによる試料の微細な加工(仕上げ加工)を行う装置の一態様である。
【0045】
イオンミリングガン1001は、イオンビーム1002を試料に照射するための照射系を形成する。このイオンビームの照射及び電流密度は、イオンミリングガン制御部1003によって制御される。荷電粒子線装置の試料室1004では、真空排気系1005によってチャンバー内は大気圧または真空に制御され、その状態を保持できる。試料1006は、試料ホルダ1007の上に保持される。試料ホルダ1007は、さらに試料ステージ1008に保持されている。また試料ホルダ1007は、荷電粒子線装置の試料室1004から試料交換室へ引き出すことができ、試料ステージ1008は試料1006をイオンビーム1002の光軸に対して任意の角度に傾斜させることができるための構成要素を備えている。試料ステージ駆動部1009は、試料ステージ1008を回転、もしくは左右にスイングすることができ、その速度を変更することができる。
【0046】
図11は、イオンミリングガン1101と関連する周辺部の構成を示した説明図である。イオンミリングガン1101は、図7のイオンミリングガン704、図10のイオンミリングガン1001に相当する。
【0047】
イオンミリングガン1101は、減圧された真空チャンバー内に対向して配置された一対のカソード1102とアノード1103と、ガス供給機構1104と、加速電極1110と、永久磁石1106により構成される。イオンミリングガン制御部1105は、放電電源1107と加速電源1108につながっており、それぞれ放電電圧と加速電圧を制御している。ガス供給機構1104は、イオン化させるガスの流量を調整し、イオンガン内に供給するための構成要素を備える。ここではアルゴンガスの場合について説明するが、本実施の形態は一例であり、これに限定されるものではない。カソード1102には孔が設けられており、この孔が、ガス供給機構1104から導入されたアルゴンガスに対して、適切なガス分圧を保つためのオリフィスとなる。適切なガス分圧を保った状態で、カソード1102とアノード1103の間に0〜4kV程度の放電電圧を印加させ、グロー放電と呼ばれる低圧の気体中の持続的な放電現象を起こしてイオン1109を発生させる。この時、永久磁石1106があることにより、放電によって生じた電子を回転させ、電子のパスを長くして放電効率を上げることができる。カソード1102と加速電極1110の間に、0〜10kV程度の加速電圧を印加してイオン1109を加速させて、試料ホルダ1112に保持された試料1113の表面に対してイオンビーム1111を射出させる。
【実施例7】
【0048】
図12に超音波振動の周波数による試料表面の加工度合いの違いを模式図で示す。
【0049】
実施例1の超音波振動素子108を制御するコントローラ112は、周波数および出力が可変である。また、周波数は数十kHz〜1MHzの電源を用いる。これは図12(a)のように試料全面を平坦に加工するためであり、周波数が低すぎると研磨スピードが速くなり、試料表面が破損して平滑な面とならない可能性がある。そこで、このような条件にて周波数を設定することで、加工した新しい面を広領域にわたり確保でき、局所的な評価ではなく広範囲における多数の箇所にて平均的な評価が可能となる。また、超音波振動の周波数を(a)の条件よりも低くなるように調整することで、図12(b)のように試料の局所のみを深く加工(円錐形状の加工)することができるため、深さの異なる加工断面を作製でき、多層試料の各層や界面の観察も可能となる。
【0050】
図13に(a)1個の試料および(b)複数個の試料をセットした場合の模式図を示す。複数個の試料を、高さを揃えてセットすることで、一度に複数の試料を加工することができる。
【0051】
集束イオンビーム加工(FIB),ブロードイオンビーム加工(イオンミリング)における加工範囲と比較して、本発明の超音波加工では、加工領域にこのような制限がなく、広い領域を加工できる。
【実施例8】
【0052】
リチウムイオン電池の電極にはリチウム(Li)およびリチウム化合物が含まれており、大気中の成分(酸素,窒素,水分など)と反応すると瞬時に構造や形態の変化や化学反応が進行する。そこで、このような材料に対して上記の試料作製装置の実施の形態を適用した場合、加工,観察の工程をすべて真空中で行うことができるため、加工や搬送,観察の工程で上記のような反応が進行することはなく、新たに作製した加工面を原型のまま観察することができる。リチウムやリチウム化合物以外にも、酸化,試料汚染の進みやすい金属マグネシウムなどの材料においても同様の効果が期待できる。
【実施例9】
【0053】
半導体デバイスに代表されるような多層膜の試料においては、多層膜の構造や形態,厚み(深さ)が把握できている場合、上記の態様による試料の加工(粗加工,仕上げ加工)と荷電粒子線装置による観察を繰り返すことで、任意の状態となるまで加工処理を行い、内部の目的構造を観察,分析することができる。ここで、実施例7にて説明したように超音波振動の周波数を変化させることで、試料の加工領域や深さを容易に調整できる。試料の表面からの距離が大きい内部の領域に観察目的構造が存在し、その目的構造が微小であった場合においても、実施例3,図7の荷電粒子線装置がFIBなどであれば、超音波加工,FIB観察を繰り返し目的構造の深さ方向の精度を高めることで、次工程のFIB加工の位置精度(X,Y方向)を高め、加工時間を短縮できる。また、作業が簡便であり、特別なスキルを要することもない。
【0054】
大気中で反応が進行しやすい試料,汚染しやすい試料においても、新たに作製した加工面を大気に曝すことなく、雰囲気遮断条件下にて任意の加工を行い、原型のままの状態で観察することができる。
【符号の説明】
【0055】
101,910,1006,1113,1201,1302 試料
102,1007,1112,1301 試料ホルダ
103,703 試料交換室
104 試料交換棒
105 試料回転棒
106 液体浴
107 イオン液体
108 超音波振動素子
109 アタッチメント
110 ゲートバルブ
111 試料回転棒制御部
112 コントローラ
113 試料交換棒の移動方向
114 試料回転棒の移動方向
201 ガラス
301 試料ホルダの試料交換棒受け側
401 試料回転棒先端部
402 試料ホルダ底部
403 ネジ溝
404 ネジ溝(受け側)
501 アタッチメント(受け側)
701 電子銃またはイオン銃
702,1004 試料室
704 イオンミリングガン
705 試料および試料ホルダ
706a,915,1008 試料ステージ
706b 傾斜させた試料ステージ
901 電子源(陰極)
902 第1陽極
903 第2陽極
904 1次電子線
905 第1収束レンズ
906 第2収束レンズ
907 対物レンズ
908 絞り板
909 走査コイル
911 2次信号分離用直交電磁界(E×B)発生器
912a 低エネルギー2次信号
912b 高エネルギー2次信号
913a 低エネルギー2次信号用検出器
913b 高エネルギー2次信号用検出器
914a 低エネルギー2次信号用増幅器
914b 高エネルギー2次信号用増幅器
916 表示用画像メモリ
917 像表示装置
918 入力装置
919 画像メモリ
920 高圧制御電源
921 第1収束レンズ制御電源
922 第2収束レンズ制御電源
923 対物レンズ制御電源
924 走査コイル制御電源
925 マイクロプロセッサ(CPU)
926 試料ステージ制御電源
1001,1101 イオンミリングガン
1002,1111 イオンビーム
1003,1105 イオンミリングガン制御部
1005 真空排気系
1009 試料ステージ駆動部
1102 カソード
1103 アノード
1104 ガス供給機構
1106 永久磁石
1107 放電電源
1108 加速電源
1109 イオン
1110 加速電極
1202 加工面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を試料に照射する電子光学系と、
前記試料から放出される荷電粒子を検出する検出系と、
真空室を備えた荷電粒子線装置において、
前記真空室は、
液体を収容する液体浴と、
超音波振動を発生する超音波振動機構を備え、
前記超音波振動機構は、
当該液体浴内の液体中に超音波振動を伝搬することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記液体はイオン液体であることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記真空室は、
前記試料を移動する移動機構を備え、
前記移動機構は、
前記電子光学系と前記液体浴との間に位置することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記真空室は、
前記移動機構の移動軌道上に、
前記真空室内の空間を仕切る開閉可能な弁を備え、
当該仕切られた空間のうちの少なくとも1つは、
真空排気機構を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記移動機構は、
前記試料を回転させる回転機構を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記真空室は、
前記液体を除去する液体除去機構を備え、
前記液体除去機構は、
前記電子光学系と前記液体浴との間に位置することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記液体除去機構は、
不活性ガス供給機構であることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記真空室は、
前記超音波振動を制御する制御機構を備え、
前記制御機構は、
前記超音波振動の周波数を変化させるように前記超音波振動機構を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項1において、
前記真空室は、
前記試料の表面にイオンを照射してミリングするミリング機構を備え、
前記ミリング機構は、
前記電子光学系と前記液体浴との間に位置することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項1において、
前記真空室は、
前記真空室と外部との間で前記液体を供給する液体供給手段を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
真空室を備えた試料の作製装置において、
前記真空室は、
液体を収容する液体浴と、
超音波振動を発生する超音波振動機構を備え、
前記超音波振動機構は、
当該液体浴内の液体中に超音波振動を伝搬することを特徴とする試料の作製装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記液体はイオン液体であることを特徴とする試料の作製装置。
【請求項13】
請求項11において、
前記真空室を構成する壁面のうち少なくとも一面は、
透明性を有する材料を含むことを特徴とする試料の作製装置。
【請求項14】
請求項13において、
前記材料は、ガラス質物質を含むことを特徴とする試料の作製装置。
【請求項15】
真空中で試料を作製する試料の作製方法であって、
試料の加工対象となる箇所を含む領域にイオン液体を接触させる第1の工程と、
当該試料の領域が接触したイオン液体中に超音波振動を伝搬させる第2の工程と、
を含むことを特徴とする試料の作製方法。
【請求項16】
請求項15において、
前記第2の工程ののち、
前記試料に付着したイオン液体を除去することを特徴とする試料の作製方法。
【請求項17】
試料に荷電粒子線を照射し、
前記試料から放出される荷電粒子を検出して得られる画像に基づいて試料を観察する試料の観察方法であって、
真空状態において、
前記試料の加工対象となる箇所を含む領域にイオン液体を接触させる第1の工程と、
当該イオン液体中に超音波振動を伝搬させる第2の工程と、
前記第2の工程を行ったのちに試料を観察する工程と、
を含むことを特徴とする試料の観察方法。
【請求項18】
請求項17において、
前記第2の工程ののち、
前記試料に付着したイオン液体を除去することを特徴とする試料の観察方法。
【請求項19】
請求項17において、
前記第2の工程ののち、
前記試料にイオンビームを照射して試料のイオンミリングを行うことを特徴とする試料の観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−11540(P2013−11540A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145161(P2011−145161)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】