説明

試料掘削装置及び試料ホルダ

【課題】グロー放電により試料を掘削する試料掘削装置において、試料の大きさ及び形状に関わらずに掘削を可能とし、試料と電極との間の距離を適切に調整することができる試料掘削装置及び試料ホルダを提供する。
【解決手段】グロー放電により試料を掘削する試料掘削装置は、円筒部(端部)12bを有する陽極12と試料ホルダ2とを備え、試料ホルダ2は、一端が開口端となり他端が閉口端となった筒状筐体部21と、一端が試料保持端となった試料保持部22とを有する。試料保持部22は、試料保持端を開口端と同じ向きに向けて筒状筐体部21に螺着される。試料ホルダ2は、試料Sを保持した試料保持端を陽極(電極)12の端部に対向させて配置される。螺着の際にねじ込む深さを変更して筒状筐体部21に対する試料保持部22の位置を調整することにより、試料保持部22で保持した試料Sと陽極12の円筒部12bとの距離を調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡等での測定用の薄片試料を作成するために、グロー放電を測定に適した形状に試料を形成する試料掘削装置及び試料ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料の構造及び組織等を視覚的に観察するために、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)を用いて試料を観察することがある。SEMを用いて試料を観察するには、準備処理として試料の観察面を整える必要がある。この処理では、試料の所望の位置に観察面を表出させ、表出させた観察面が清浄・平滑になるように試料を形成する。従来、グロー放電に伴うイオン衝撃により試料の表面を掘削し、試料表面に清浄な観察面を形成する技術が開発されており、特許文献1にはこの技術が開示されている。
【0003】
グロー放電を用いた試料掘削装置は、グロー放電を発生させるグロー放電管と試料ホルダとを備えて構成される。図13は、従来のグロー放電管及び試料ホルダの内部構成を示す断面図である。グロー放電管7は短円柱状のランプボディ71、電極72、セラミック部材73、及び押圧ブロック75が組み合わされて構成されている。
【0004】
ランプボディ71は、押圧ブロック75が組み合わされる端面の中心箇所に窪部を凹設すると共に、中心部に中心孔を穿設している。また、ランプボディ71は、中心孔に連通した真空引き用の吸引孔及びアルゴンガス供給用のガス供給孔を形成している。ランプボディ71の窪部に取り付けられる電極72は、円板の中心から円筒部を突出した形状にしており、円筒部の中心に貫通孔を穿設している。電極72がランプボディ71の窪部に取り付けられた状態では、ランプボディ71の中心孔と電極72の貫通孔とは連通している。電極72を被うように配置されるセラミック部材73は、厚みのある円板状の部材であり、電極72の円筒部を挿通させる挿通孔を形成している。電極72及びセラミック部材73をランプボディ71に固定するための押圧ブロック75は、絶縁性の材料で環状に形成された部材であり、セラミック部材73をランプボディ71側へ押圧するようにしている。なお、押圧ブロック75自体は、ボルトによりランプボディ71の端面に取り付けられる。
【0005】
電極72の円筒部はグロー放電管7の外に向けて配置されており、貫通孔は外に開口している。試料ホルダ8は、筐状に構成してあり、セラミック部材73に押し付けられて配置されている。また試料ホルダ8には、電極72の円筒部の開口に対向する位置に、開口部81が形成されている。試料ホルダ8の内部には、試料Sを内部から開口部81へ押し付けるバネ83が設けられている。バネ83が試料Sを開口部81へ押し付けることにより、試料Sは電極72の円筒部の開口に対向し、試料Sと電極72の先端との間には所定の隙間が形成される。
【0006】
グロー放電管7及び試料ホルダ8内を真空引きし、グロー放電管7内にアルゴンガスを供給した上で電極72と試料ホルダ8との間に電圧を印加することにより、電極72と試料ホルダ8との間にグロー放電が発生する。グロー放電によってアルゴンガス中でアルゴンイオンが生成し、アルゴンイオンは電極72の貫通孔及び開口部81を通過して試料Sに衝突し、試料Sの表面がスパッタリングされる。スパッタリングにより試料Sの表面は掘削され、SEMで観察することが可能な清浄で平滑な観察面が形成される。
【0007】
試料ホルダ8内でバネ83が試料Sを開口部81に押し付けてあるので、試料Sによってグロー放電管7内の機密性が保たれ、グロー放電及びスパッタリングが安定して発生する。また試料Sと電極72の端面との間の距離が、試料ホルダ8の厚みで規定された一定の距離に維持される。
【特許文献1】特開平7−146239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図13に示す試料ホルダ8では、試料ホルダ8内からバネ83が試料Sを開口部81に押し付けることで試料Sを固定しているので、開口部81よりも小さい試料Sを固定することはできない。また試料Sが開口部81を完全に塞ぐことでグロー放電管7内の機密性が保たれるので、細長い試料S等、開口部81を完全に塞ぐことがない形状の試料Sは、試料ホルダ8に取り付けたとしてもグロー放電を発生させることはできない。このように、従来の試料掘削装置では、利用できる試料Sの形状に制限があるという問題がある。同様に、平板状の試料Sを開口部81に対して縦に配置した場合、又は試料Sの端の部分を開口部81の位置に配置した場合等でも、試料Sは開口部81を完全に塞ぐことができない。従って、従来の試料掘削装置では、試料S上で観察面を形成する部分の位置に制限があるという問題がある。
【0009】
また、スパッタリングによって試料Sが掘削されるスピード、及び試料Sに形成される観察面の形状は、試料Sと電極72の先端との間の距離に依存する。試料Sの種類又は試料Sの利用目的によっては、掘削のスピード又は観察面の形状を調整したい場合がある。しかしながら、試料ホルダ8では、バネ83で試料Sを押し付けることで試料Sの位置を定めているので、任意に試料Sの位置を調整することができず、試料Sと電極72の先端との間の距離を調整することによって掘削のスピード又は観察面の形状を調整することはできないという問題がある。
【0010】
また従来の試料掘削装置で観察面を形成した試料SをSEMで観察するためには、観察面を形成した試料Sを試料ホルダ8から取り出し、SEM用の試料台に試料Sを取り付け、試料Sを取り付けた試料ホルダをSEMに装着する必要がある。観察面を形成した試料Sを長期間空気に触れさせた場合、酸化膜又は埃等で観察面が汚染されるので、観察面を形成した試料Sはできるだけ空気に触れさせないことが望ましい。しかしながら、前述したように、従来の試料掘削装置で観察面を形成した試料SをSEMで観察するまでには手間が掛かるので、試料Sの観察面が汚染される虞がある。
【0011】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、試料の大きさ及び形状に関わらずに観察面の形成を可能とし、試料と電極との間の距離を適切に調整することができる試料掘削装置及び試料ホルダを提供することにある。
【0012】
また本発明の他の目的とするところは、試料をSEMで観察するまでの手間を削減することにより、形成した観察面が汚染される可能性を小さくすることができる試料掘削装置及び試料ホルダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る試料掘削装置は、筒状に形成された端部を有する電極と、該電極の前記端部に対向する位置に試料を保持する試料ホルダとを備え、前記電極と前記試料ホルダが保持する試料との間に発生させるグロー放電によって前記試料を掘削する試料掘削装置において、前記試料ホルダは、一端が開口端となり他端が閉口端となった筒状に形成してあり、内面の少なくとも一部に雌ネジを形成してある筒状筐体部と、一端を試料保持用の試料保持端とした柱状に形成してあり、側面の少なくとも一部に、前記筒状筐体部の雌ネジに螺合する雄ネジを形成してある試料保持部とを有し、前記試料保持部の試料保持端を前記筒状筐体部の開口端側と同じ向きにして前記試料保持部を前記筒状筐体部に螺着してあり、前記試料保持部の試料保持端を前記電極の端部に対向させて前記試料ホルダを配置するように構成してあることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る試料掘削装置は、前記試料保持部の試料保持端は、試料を貼着できる面状に形成してあることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る試料掘削装置は、前記試料保持部の試料保持端は、試料を載置する台状の部材を着脱することが可能な構成としてあることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る試料掘削装置は、前記筒状筐体部及び前記試料保持部は導電性の材料で形成してあり、グロー放電を発生させるために前記電極と前記試料ホルダとの間に電圧を印加するように構成してあり、前記試料ホルダは、前記試料保持部の試料保持端とは逆の端に一端が接触し、前記筒状筐体部の内面の底部他端が接触する導電性のコイルバネを更に有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る試料掘削装置は、前記電極の端部の周囲を囲む構造体と、前記電極の内部を真空引きする手段とを更に備え、前記筒状筐体部の開口端を前記構造体に押し付けることによって前記試料ホルダを配置するように構成してあり、前記試料保持部は、試料保持端から逆の端まで貫通する孔を形成してあることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る試料ホルダは、グロー放電によって表面を掘削する試料を保持する試料ホルダにおいて、一端が開口端となり他端が閉口端となった筒状に形成してあり、内面の少なくとも一部に雌ネジを形成してある筒状筐体部と、一端を試料保持用の試料保持端とした柱状に形成してあり、側面の少なくとも一部に、前記筒状筐体部の雌ネジに螺合する雄ネジを形成してある試料保持部とを備え、前記試料保持部の試料保持端を前記筒状筐体部の開口端側と同じ向きにして前記試料保持部を前記筒状筐体部に螺着してあることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る試料ホルダは、前記試料保持端は試料を貼着できる面状に形成してあることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る試料ホルダは、前記試料保持端は試料を載置する台状の部材を着脱することが可能な構成としてあることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る試料ホルダは、前記筒状筐体部及び前記試料保持部は導電性の材料で形成してあり、前記試料保持部の試料保持端とは逆の端に一端が接触し、前記筒状筐体部の内面の底部他端が接触する導電性のコイルバネを更に備えることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る試料ホルダは、前記試料保持部は、試料保持端から逆の端まで貫通する孔を形成してあることを特徴とする。
【0023】
本発明においては、グロー放電により試料を掘削する試料掘削装置は、筒状の端部を有する電極と電極に試料を対向させる試料ホルダとを備え、試料ホルダは、一端が開口端となり他端が閉口端となった筒状筐体部と、一端が試料保持端となった試料保持部とを有する。試料保持部は、試料保持端を開口端と同じ向きに向けて筒状筐体部に螺着される。試料ホルダは、試料を保持した試料保持端を電極の端部に対向させて配置される。試料保持部を筒状筐体部に螺着する際、ねじ込む深さを変更して筒状筐体部に対する試料保持部の位置を調整することにより、試料保持部で保持した試料と電極の端部との距離を調整することができる。
【0024】
また本発明においては、試料保持部の試料保持端は、試料を貼着することにより試料を保持する。
【0025】
また本発明においては、試料保持部の試料保持端は、SEM用の試料台等、試料を載置する台状の部材を着脱することが可能な構成となっており、試料を載置した部材を装着することにより試料を保持する。
【0026】
また本発明においては、導電性の試料ホルダは、試料保持部の試料保持端とは逆の端と筒状筐体部の底とに接触する導電性のコイルバネを有する。コイルバネが伸縮することにより、試料保持部の位置に関わらずにコイルバネは筒状筐体部及び試料保持部の両方に接触する。
【0027】
また本発明においては、試料ホルダは、電極を囲む構造体に筒状筐体部の開口端が押し付けられ、グロー放電を発生させるために電極の内部を真空引きすることによって固定される。試料保持部には貫通孔が形成されており、試料ホルダの内部も同時に真空引きされる。
【発明の効果】
【0028】
本発明にあっては、試料保持部で保持した試料と電極の端部との距離を任意の距離に整することができ、また試料と電極の端部との距離をネジの螺合によって正確に調整することができるので、グロー放電により試料を掘削する際に電極の端部と試料との距離を適切に調整することによって、掘削のスピード又は観察面の形状を調整することが可能となる。
【0029】
また本発明にあっては、試料保持端で保持できる範囲であれば、どのような大きさ及び形状の試料であっても、電極の端部に対向配置することができるので、大きさ及び形状に関わらずに試料の表面に観察面を形成し、試料をSEMで観察することが可能となる。また試料の任意の部分を電極の端部に対向配置することができるので、目的に応じた試料の所望の部分に観察面を形成し、SEMを用いて試料の所望の部分を観察することが可能となる。
【0030】
また本発明にあっては、試料保持部はSEM用の試料台等の試料を載置する部材を着脱することが可能であるので、観察面を形成した試料を載置した部材を試料保持部から離脱させ、この部材をSEM等に装着することにより、観察面を形成した試料をSEM等で観察するために必要な手間が削減される。従って、試料の表面が空気に触れる機会が減少し、形成した観察面が汚染される可能性が小さくなり、良好な条件で試料の観察面を観察することが可能となる。
【0031】
また本発明にあっては、コイルバネが常に筒状筐体部及び試料保持部の両方に接触しているので、グロー放電を発生させるために電極と試料ホルダとの間に電圧を印加した場合に、筒状筐体部から試料保持部への導通が確実に確保され、安定してグロー放電を発生させることができる。
【0032】
更に本発明にあっては、試料保持部に貫通孔が形成されているので、電極の内部を真空引きする際に試料ホルダの内部も同時に真空引きされることにより、試料ホルダが固定され、また安定してグロー放電を発生させることができる等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、本発明の試料掘削装置の構成を示すブロック図である。試料掘削装置は、グロー放電を発生させるグロー放電管1、掘削対象の試料を保持する試料ホルダ2、グロー放電を発生させるために印加する電圧に係る電力生成を行う電源部4、及び試料掘削装置の全体的な制御を行う制御装置5を備えている。電源部4は交流電源AC(本実施形態では220V)に接続されて高周波電力を生成するジェネレータ42及びマッチングボックス41を備えており、ジェネレータ42及びマッチングボックス41は夫々に制御装置5に接続されている。グロー放電管1とマッチングボックス41とは同電位に設定されている。
【0034】
また試料掘削装置は、グロー放電管1の内部を真空引きする真空引き装置61を備え、真空引きした後にグロー放電管1の内部にアルゴンガスを供給するためのガス供給調整部62及びガス供給源63を備えている。ガス供給源63はアルゴンガスを充填したボンベが相当する。ガス供給源63からグロー放電管1まで、アルゴンガスを供給するための配管が配置されており、ガス供給調整部62はガス供給源63からグロー放電管1までの配管の途中に設けられている。ガス供給調整部62は、ガス供給源63からグロー放電管1へ供給されるアルゴンガスの流量を調整するための電磁弁を具備している。
【0035】
制御装置5は、コンピュータを用いてなり、CPU5a、RAM5c、ROM5d、及び記憶部5eを備え、夫々は内部バス5fに接続されている。また制御装置5は、ジェネレータ42から延在する第1接続コードL1及びマッチングボックス41から延在する第2接続コードL2が接続されるインタフェース基板5bを備え、インタフェース基板5bは、内部バス5fに接続されている。また内部バス5fにはモニタ接続線L3を介してモニタ部5gが接続されている。
【0036】
また、RAM5cはCPU5aが行う各種の制御処理に伴うデータ等を一時的に記憶し、ROM5dはCPU5aが行う基本的な処理内容を規定したプログラム等を予め記憶している。記憶部5eは、ハードディスク又は半導体メモリ等の不揮発性の記憶手段であり、試料をグロー放電により掘削する処理に関連してCPU5aが実行する制御処理の内容を規定した制御プログラム51を記憶している。CPU5aは、必要に応じて制御プログラム51を記憶部5eからRAM5cへロードし、RAM5cへロードした制御プログラム51に従って、必要な処理を実行する。またCPU5aは、図示しないキーボード又はマウス等の入力部に入力された指示に基づき各種の設定及び制御を行う。
【0037】
図2は、グロー放電管1及び試料ホルダ2の内部構成を示す断面図である。試料ホルダ2は、グロー放電管1の一面に装着される構成となっている。グロー放電管1は短円柱状のランプボディ11、陽極(電極)12、セラミック部材(構造体)13、及び押圧ブロック15が組み合わされて構成されている。
【0038】
ランプボディ11は、押圧ブロック15が組み合わされる端面11aの中心箇所に陽極12を取り付けるための窪部11bを凹設すると共に、窪部11bの中心部に中心孔11cを穿設している。また、ランプボディ11は、周壁部11dから中心へ向けて真空引き用の吸引孔11e、11fを複数設け、一部の吸引孔11eは中心孔11cと連通させると共に、他の吸引孔11fは窪部11b側に連通させている。さらに、ランプボディ11は、周壁部11dから中心へ向けてアルゴンガスの供給用のガス供給孔11gを中心孔11cと連通するように形成している。更に、ランプボディ11は、アース線が接続されてアース電位となっている。
【0039】
ランプボディ11の窪部11bに収められる陽極12は、円板部12aの中心から円筒部(端部)12bを突出した形状にしており、円筒部12bの内部から円板部12aを貫通する貫通孔12cを穿設している。また、円板部12aにも穴12dが形成されている。陽極12がランプボディ11の窪部11bに取り付けられた状態では、ランプボディ11の中心孔11cと貫通孔12cとは実質的に同軸に連通している。陽極12は、ランプボディ11の窪部11bに取り付けられると、ランプボディ11を介してアース電位になる。また陽極12がランプボディ11に取り付けられた状態では、円筒部12bがランプボディ11の端面11aから突出した状態となる。なお、陽極12が収められた状態でランプボディ11の中心孔11c及び陽極12の貫通孔12cの密閉性を維持するためにオーリング16がランプボディ11及び陽極12の間に取り付けられている。
【0040】
陽極12を被うように配置されるセラミック部材13は、絶縁性のセラミックで構成されている。セラミック部材13は、厚みのある円板状に形成されてあり、陽極12の円板部12aを被う突出したフランジ部13dを有すると共に、中心となる箇所には、陽極12の円筒部12bを挿通させる挿通孔13cを形成している。セラミック部材13は、陽極12の円板部12aに対向して配置され、円板部12aとの間には密閉性維持のためにオーリング18が取り付けられている。セラミック部材13が配置された状態では、挿通孔13cと陽極12の円筒部12bとの間に所定の隙間が形成されている。また陽極12の円板部12aは、配置時にセラミック部材13に対向する面には、一部に溝12fを形成してある。溝12fは、セラミック部材13が配置された状態で、挿通孔13cと陽極12の円筒部12bとの間に形成される隙間から穴12dへ連通する吸気孔を構成する。
【0041】
陽極12及びセラミック部材13をランプボディ11に固定するための押圧ブロック15は、絶縁性の材料で環状に形成された部材であり、内周縁側の突出部15aでセラミック部材13のフランジ部13dをランプボディ11側へ押圧するようにしている。なお、押圧ブロック15自体は、ボルトによりランプボディ11の端面11aに取り付けられる。図2に示すように、押圧ブロック15はランプボディ11の端面11aから突出して取り付けられており、押圧ブロック15の内側にセラミック部材13と陽極12の円筒部12bとが配置された構成となっている。セラミック部材13の端面13aには、挿通孔13cが開口しており、挿通孔13cの中に陽極12の円筒部12bが配置されている。
【0042】
試料ホルダ2は、セラミック部材13の端面13aに押し付けられることによって、グロー放電管1に装着される。試料ホルダ2は、試料Sを保持し、セラミック部材13の挿通孔13cの開口部に対向する位置に配置される。また、試料ホルダ2のセラミック部材13に押し付けられた端面とは逆の端面には、陰極20が押し付けられて配置されている。陰極20は、導電性の材料で円板状に形成された発振子であり、電力線Dにて電源部4に接続されている。
【0043】
図3は、試料ホルダ2を示す分解斜視図であり、図4は、試料ホルダ2の断面図である。試料ホルダ2は、筒状筐体部21と、試料保持部22と、コイルバネ23とを含んで構成されており、筒状筐体部21、試料保持部22及びコイルバネ23は全て導電性の材料で形成されている。筒状筐体部21は、一端が開口端となり他端が閉口端となった円筒状に形成してあり、内周面には、開口部から底まで雌ネジ21bを形成してある。筒状筐体部21の開口端側の端面である開口端面21aは、セラミック部材13の端面13aに押し付けられる面であり、平滑に形成されている。また図3には図示していないものの、筒状筐体部21の開口端面21aには、オーリング24を配置するための溝が形成されてある。また筒状筐体部21の閉口端側の端面である閉口端面21cは、陰極20が押し付けられて配置される面である。
【0044】
試料保持部22は、相対的に大径の円柱と小径の円柱とが同軸で合体した円柱状の形状に形成されている。試料保持部22の一端は小径の部分であり、平面状に形成され、両面テープ等を用いて平板状の試料Sを貼着することが可能な試料保持端22aとなっている。試料保持部22の大径の部分は、側面に雄ネジ22bが形成されており、雄ネジ22bが筒状筐体部2の雌ネジ21bに螺合することができるように、直径及び雄ネジ22bのピッチ等が定められている。試料保持部22の試料保持端22aを筒状筐体部21の開口端面21aと同じ向きに向けて試料保持部22の雄ネジ22bを筒状筐体部21の雌ネジ21bにねじ込むことにより、試料保持部22は筒状筐体部21に螺着される。さらに試料保持部22には、試料保持端22aから逆の端まで貫通した貫通孔22c,22cが形成されている。
【0045】
図4(a)は、試料保持部22を筒状筐体部21に浅くねじ込んだ状態を示し、図4(b)は、試料保持部22を筒状筐体部21に深くねじ込んだ状態を示す。筒状筐体部21に対して試料保持部22をねじ込む深さを変更することにより、筒状筐体部21に対する試料保持部22の位置を調整することができる。試料Sは試料保持部22の試料保持端22aに貼着されているので、試料保持部22の位置を調整することにより、雄ネジ22bが雌ネジ21bに螺合する範囲内で試料Sの位置を任意の位置に調整することができる。試料Sの位置は、雄ネジ22bと雌ネジ21bとの螺合によって定められる。コイルバネ23は、一端が試料保持部22の試料保持端22aとは逆の端に接触し、他端が筒状筐体部21の底に接触している。図4に示すように、コイルバネ23が伸縮することにより、筒状筐体部21に対して試料保持部22がどの位置に配置されていても、コイルバネ23は筒状筐体部21及び試料保持部22の両方に接触するようになっている。
【0046】
図2に示すように、試料ホルダ2は、試料保持部22の試料保持端22aが陽極12の円筒部12bの先端12eに対向する位置に配置されるように、筒状筐体部21の開口端面21aがセラミック部材13の端面13aに押し付けられる。筒状筐体部21の開口端面21aとセラミック部材13の端面13aとの間には、密閉性維持のためにオーリング18が取り付けられている。この状態では、陽極12の貫通孔12c及びセラミック部材13の挿通孔13cは試料ホルダ2内と連通している。
【0047】
ランプボディ11の各吸引孔11e、11fは、示す真空引き装置61と配管で接続されており、ガス供給孔11gは配管でガス供給調整部62と接続されている。試料ホルダ2がセラミック部材13に押し付けられた状態で真空引き装置61が真空引きを行った場合は、各吸引孔11e、11f、中心孔11c、陽極12の貫通孔12c、及び試料ホルダ2内が真空にされる。特に、試料保持部22の貫通孔22c,22cを通して、試料保持部22よりも奥側の部分も確実に真空引きされる。このようにして試料ホルダ2はグロー放電管1に装着される。この状態でガス供給調整部62がアルゴンガスの供給を開始すると、ガス供給孔11g、中心孔11c、陽極12の貫通孔12c及び試料室3内がアルゴンガスで満たされる。
【0048】
試料ホルダ2に陰極20が押し付けられて配置された状態では、導電性の材料で形成された筒状筐体部21の閉口端面21cに陰極20が接触しているので、筒状筐体部21は陰極20と同電位となる。試料保持部22は、雄ネジ22bが筒状筐体部21の雌ネジ21bに螺合し、更にコイルバネ23が筒状筐体部21及び試料保持部22の両方に接触しているので、陰極20と同電位となる。特に、コイルバネ23が常に筒状筐体部21及び試料保持部22の両方に接触しているので、筒状筐体部21から試料保持部22への導通が確実に確保される。従って、試料Sが接触する試料保持端22aは陰極20と同電位となり、後述するように、陽極12が陽極となり陰極20が陰極となって電圧が印加されることにより、試料Sと陽極12との間でグロー放電が発生する。
【0049】
試料保持部22の試料保持端22aが陽極12の円筒部12bの先端12eに対向することにより、試料保持端22aに貼着された試料Sは陽極12の円筒部12bの先端12eに対向する位置に配置される。試料Sは、試料保持端22aに貼着されるので、試料保持端22aに貼着することが可能な範囲であれば、どのような大きさ及び形状であっても、陽極12の先端12eに対向配置することができる。また筒状筐体部21に対する試料保持部22の位置を調整することにより、陽極12の先端12eと試料Sとの距離を任意の距離に調整することができる。
【0050】
図5は、電源部4を構成するジェネレータ42の内部構成を示すブロック図である。ジェネレータ42は、高周波電力生成部42a、制御部42b及び電力計測部42cを具備する。高周波電力生成部42aは交流電源ACと接続されて高周波の交流電圧を陽極12と陰極20との間に印加できるように高周波電力を生成する。また、高周波電力生成部42aは第1内部接続線42dにより制御部42bと接続されており、制御部42bの制御により高周波電力に係る出力モード及び電力値等を調整する。なお、本実施形態の高周波電力生成部42aは13.56MHzの高周波電圧からなる電力を生成している。制御部42bはIC(集積回路)で構成されており、第1接続コードL1を通じて制御装置5と接続されている。制御部42bは、制御装置5から出力される各種信号に基づいて高周波電力生成部42aの出力を制御する構成となっている。
【0051】
電力計測部42cは、第2及び第3内部接続線42e、42fにより制御部42b及び高周波電力生成部42aと接続されている。電力計測部42cは、高周波電力生成部42aで生成されて陰極20へ供給される高周波電力の進行波の電力値である出力値Pfを検出すると共に、陰極20から反射して戻ってくる反射波の電力値である反射値Prを検出し、検出した値を制御部42bへ伝送する構成となっている。
【0052】
制御部42bは、高周波電力の出力を制御する方法として、2種類の出力モードを切り替えることが可能である。一方の出力モードは、所定の時間内、連続して所定の高周波電力を出力して連続的な高周波電圧の印加を行うモードであり、以下、このモードを連続モードと言う。また他方の出力モードは、所定の時間内、パルス的に所定の高周波電力を出力して断続的な高周波電圧の印加を行うモードであり、以下、このモードを断続モードと言う。
【0053】
制御部42bは、制御装置5から出力される信号に基づいて連続モードと断続モードとを切り替える処理を実行し、断続モードでは内部のICでパルス的な処理を行うことで電力供給及び電力供給休止を交互に行う。また制御部42bは、単位時間当たりの給電回数に相当する給電周波数、断続モードにおいて給電を行っている時間の割合を示すデューティ比、及び給電の電力値を調整可能である。給電周波数の変更に関して、制御部42bは、約30Hz〜約30000Hzの範囲で給電周波数を調整可能であり、給電周波数が変更されるとパルス的な給電の時間間隔が変化する。
【0054】
また、グロー放電による試料Sの掘削が進行するにつれて、試料Sと陽極12の先端12eとの距離が長くなり、試料Sに係るインピーダンス値が随時変化するので、制御部42bは、断続モードにおけるインピーダンス値変化に対する調整処理をも実行する。具体的には、制御部42bは、前述の出力値Pf及び反射値Prを電力計測部42cから伝送され、出力値Pfと反射値Prとの差を演算し、演算した差に基づいて出力値Pfを変更する制御を行う。なお、制御部42bは、出力値Pfと反射値Prとの差(Pf−Pr)が一定となるように出力値Pfを調整しており、本実施形態では演算した差(Pf−Pr)が制御装置5から伝送されてきた基準電力値と同等となるように高周波電力生成部42aで生成される出力値Pfを制御部42bが内蔵するICのソフト的な処理で調整する。
【0055】
このように制御部42bがソフト的な調整を行うことで、断続モードでの試料Sのインピーダンス値の変化に対応して適切な給電を行える。なお、制御部42bが試料Sのインピーダンス値の変化に対応した調整を行うのは断続モードの場合であり、連続モードでは後述するようにマッチングボックス41が調整を行う。
【0056】
図6は、電源部4を構成するマッチングボックス41の内部構成を示すブロック図である。マッチングボックス41は、連続モードにおいてジェネレータ42で生成された高周波電力の出力形態を調整する可変コンデンサ41a、可変コンデンサ41aの電気容量を調整するモータ41b、モータ41bの駆動等の制御を行うコンデンサ制御部41cを具備する。可変コンデンサ41aはモータ41bの駆動に応じて自身の電気容量を変更可能であり、電気容量の変更によりモジュール及びフェーズが調整される。
【0057】
コンデンサ制御部41cは、第2接続コードL2により制御装置5と接続されており、制御装置5からマッチングボックス41へ伝送される断続モードの設定の通知信号に基づいてモータ41bの駆動を制御する。具体的には、断続モードの通知信号を受け付けた場合、コンデンサ制御部41cは、可変コンデンサ41aの電気容量が一定に固定されるようにモータ41bを一定の状態に維持する制御を行う。よって、断続モードではマッチングボックス41で高周波電力のモジュール及びフェーズは調整されない。また、断続モードの通知信号を受け付けない場合、即ち、連続モードが設定された場合は、コンデンサ制御部41cは、試料Sからの反射値Prが最小となるようにモータ41bの駆動を制御して可変コンデンサ41aの電気容量を変更する制御を行う。なお、反射値Prが最小であれば、コンデンサ制御部41cは可変コンデンサ41aの電気容量を変更する制御は行わない。可変コンデンサ41aは、電力線Dにて陰極20に接続されており、電源部4は、電力線Dを介して陰極20に高周波電圧を印加する。
【0058】
次に、上述の如き構成でなる試料掘削装置が実行する処理を説明する。試料掘削装置は、グロー放電により、陽極12の先端12eに対向配置された試料Sを表面から深さ方向に掘削し、SEMで観察するための観察面を形成する。制御装置5のCPU5aは、制御プログラム51に従って、試料Sを掘削するための条件を制御する処理を行う。制御プログラム51は、供給する電力、陽極12内の圧力、及び掘削する時間等の条件を複数種類規定してある。具体的には、電源部4から陰極20に印加する高周波電圧の電力値、断続モードでの供給周波数、又はデューティ比等の電力の条件を制御することで、試料Sが掘削される速度を調整することができる。制御装置5は、試料Sの材質又は掘削すべき深さ等の試料掘削に必要な情報を、図示しないキーボード又はマウス等の入力部を用いて使用者の操作により入力される。CPU5aは、試料Sを適切な速度で掘削できるように、電源部4から陰極20に印加する高周波電圧の電力値、供給周波数又はデューティ比の条件を設定する。
【0059】
グロー放電管1及び試料ホルダ2の内部を真空引き装置61で真空引きしてから、ガス供給源63がグロー放電管1の内部へアルゴンガスを供給し、CPU5aに設定された条件で電源部4が陰極20へ高周波電圧を供給する。陰極20に高周波電圧が供給されることで、陰極20と同電位の試料ホルダ2に高周波電圧が供給される。陽極12の先端12eと試料Sの表面との間の空間には十分なアルゴンガスが随時供給され、試料Sを貼着した試料保持部22に高周波電圧が電源部4から供給されることにより、陽極12と試料Sとの間に電圧が印加され、アルゴンガスの雰囲気中で陽極12と試料Sとの間でグロー放電が発生する。グロー放電が発生することにより、アルゴンガス中でアルゴンイオンが生成し、生成したアルゴンイオンが電圧によって貫通孔12c内で加速し、陽極12の先端12eに対向した試料Sの表面にアルゴンイオンが衝突するイオン衝撃が発生する。このアルゴンイオンのイオン衝撃により、試料Sの表面では、試料Sの構成物質が粒子となって飛び出し、陽極12の先端12eの大きさに応じた所定の面積が掘削される。試料Sに衝突したアルゴンイオン及び試料Sの表面から飛び出した構成物質を含むアルゴンガスは、溝12fを通って排出される。
【0060】
CPU5aは、試料Sを掘削するための処理を実行しながら、試料Sの掘削を開始してから経過した時間を計測し、試料Sの材質及び掘削すべき深さに応じた時間が経過した場合に、電源部4に高周波電圧の供給を停止させることによって、試料Sの掘削を停止する。以上の処理によって、試料Sは、表面から深さ方向に掘削され、SEMで観察するための観察面が露出するように形成される。なお、試料掘削装置は、掘削量又は掘削深さを測定する手段を更に備え、掘削量又は掘削深さが所定の値になるまで試料Sの掘削を行う形態であってもよい。
【0061】
図7は、掘削された試料Sの形状を示す断面図である。図7(a)は掘削開始前の試料Sを示し、陽極12の先端12eに試料Sが対向している。グロー放電により、陽極12から試料Sへアルゴンイオンが衝突して試料Sが掘削される。図7(b)は掘削後の試料Sを示す。グロー放電により貫通孔12c内で加速したアルゴンイオンがほぼ直進して試料Sの表面に衝突するので、試料Sの表面の内でアルゴンイオンが衝突する部分は貫通孔12cの大きさの範囲に対向する部分にほぼ限定され、貫通孔12cの大きさの範囲に対向する試料Sの表面部分が限定的に掘削される。
【0062】
図8は、掘削される試料Sを模式的に示す斜視図である。図7(a)は、掘削前の試料Sを示し、試料Sは平板状のサンプルである。図7(b)は、観察面が形成された試料Sを示す。陽極12の先端12eの形状に応じて、試料Sは円形状に掘削されている。陽極12の貫通孔12cの大きさに応じた試料Sの所定の面積が掘削される。貫通孔12cの大きさに面積が同時にイオン衝撃により掘削されるので、ほぼ平滑化された清浄な観察面が形成される。従って、観察面が形成された試料Sは、SEMの観察対象として好適である。観察面が形成された試料Sを試料ホルダ2から取り出してSEMに装着することにより、試料Sの観察面をSEMで観察することが可能となる。
【0063】
以上詳述した如く、本発明においては、試料Sを保持した試料保持部22の試料保持端22aを陽極12に対向させて試料ホルダ2をグロー放電管1に装着するので、試料保持端22aで保持できる範囲であれば、どのような大きさ及び形状の試料Sであっても、陽極12の先端12eに対向配置することができる。従って、本発明を用いることにより、大きさ及び形状に関わらずに試料Sの表面に観察面を形成し、試料SをSEMで観察することが可能となる。また試料保持端22aで保持できる範囲であれば、試料Sの任意の部分を陽極12の先端12eに対向配置することができるので、目的に応じた試料Sの所望の部分に観察面を形成し、SEMを用いて試料Sの所望の部分を観察することが可能となる。
【0064】
また本発明においては、筒状筐体部21に試料保持部22をねじ込む深さを変更して筒状筐体部21に対する試料保持部22の位置を調整することにより、陽極12の先端12eと試料Sとの距離を任意の距離に調整することができる。試料保持部22の位置は、雄ネジ22bと雌ネジ21bとの螺合によって定められるので、陽極12の先端12eと試料Sとの距離は、ねじ込みの深さの調整によって正確に調整することができる。従って、陽極12の先端12eと試料Sとの距離を適切に調整することによって、掘削のスピード又は観察面の形状を調整することが可能となる。
【0065】
次に、試料保持部22の形状を変更した試料ホルダ2の他の形態を説明する。図9は、他の形状の試料保持部を示す模式図である。試料保持部31には、貫通孔22c,22cとは別に、試料保持端22aの中央に挿入穴31aが形成されている。挿入穴31aは、SEMで利用されるSEM用の試料台を挿入して装着するための穴である。なお、挿入穴31aは試料保持部31を貫通している必要はない。試料保持部32は、挿入穴32aの径がより大きくなって貫通孔22c,22cに接触した形態であり、試料保持部33は、挿入穴33aの径が更に大きくなった形態である。また試料保持部34は、小径の円柱部分を軸方向に切断した半円柱部34aと、半円柱部34aの側平面に図示しないネジ等で取り付けられた平板状の押さえ板部34bとを備えている。試料保持部34は、半円柱部34aの側平面と押さえ板部34bとの間で試料Sを保持する形態となっている。
【0066】
図10は、SEM用の試料台を装着される試料保持部31を用いた試料ホルダ2を示す分解斜視図であり、図11は、SEM用の試料台を装着された試料保持部31を示す斜視図である。図3に示した試料ホルダ2と同様に、試料保持部32は筒状筐体部21に螺着する構成となっている。SEM用の試料台35は、SEMに装着され、SEMで観察するための試料Sを載置するものであり、試料Sを載置する載置面35aと載置面35aを支持する円柱状の支持部35bとからなる台状の部材である。載置面35aは、試料Sを貼着することによって試料Sを載置することができる。試料保持部32の挿入穴32aは、SEM用の試料台35の支持部35bを挿入することが可能な大きさとなっている。
【0067】
図10及び図11に示すように、試料Sを載置したSEM用の試料台35を試料保持部32に装着し、試料保持部32を筒状筐体部21に装着することにより、試料ホルダ2を構成することができる。この試料ホルダ2をグロー放電管1に装着することにより、試料掘削装置は、グロー放電で試料Sの表面を掘削し、試料Sに観察面を形成することができる。試料Sに観察面を形成した後は、試料Sを載置したSEM用の試料台35を試料保持部32から離脱させ、離脱したSEM用の試料台35をSEMに装着することにより、試料SをSEMで観察することが可能となる。試料Sに観察面を形成した後、貼着された試料Sを試料保持端22aから剥すことによって試料Sを試料ホルダ2から取り出し、改めて試料SをSEMに取り付けることに比べて、SEM用の試料台35を装着可能な試料保持部32を用いた場合は、観察面を形成した試料SをSEMで観察するために必要な手間が削減される。これにより、観察面を形成してからSEMで観察するまでに試料Sの表面が空気に触れる機会が減少し、形成した観察面が汚染される可能性が小さくなり、良好な条件で試料Sの観察面をSEMで観察することが可能となる。
【0068】
なお、支持部35bの側面の雄ネジが形成されてあり、挿入穴32aに雌ネジが形成されてあり、SEM用の試料台35を試料保持部32にねじ込むことができる形態であってもよい。また試料保持部32は、挿入穴32aに挿入された支持部35bをビスで固定することによって、SEM用の試料台35を固定する形態であってもよい。試料保持部31,33も、試料保持部32と同様の利用が可能である。試料保持部31,32,33は、使用するSEM用の試料台35の支持部35bの径に応じて使い分ければよい。
【0069】
図12は、半円柱部34aと押さえ板部34bとの間で試料Sを保持した試料保持部34を示す斜視図である。図12(a)に示すように、試料保持部34は、半円柱部34aの側平面と押さえ板部34bとの間に板状の試料Sを挟み、押さえ板部34bを図示しないネジ等で半円柱部34aに固定することによって、板状の試料Sを縦に保持することができる。同様に、試料保持部34は、棒状の試料Sを保持することもできる。更に、図12(b)に示すように、試料保持部34は、半円柱部34aの側平面と押さえ板部34bとの間に球状の試料Sを挟むことによって、球状の試料Sを保持することもできる。
【0070】
平板状の試料Sを縦にして保持した試料保持部34を筒状筐体部21に装着することにより、試料掘削装置は、平板状の試料Sを面に平行な方向に掘削することができる。このようにして掘削した試料SをSEMで観察することにより、平板状の試料Sの側面又は断面をSEMで観察することが可能となる。更に、試料Sを半円柱部34aと押さえ板部34bとの間に挟みこむ際に、試料保持部34から突出する試料Sの面の大きさを調整することにより、又は試料保持部34を筒状筐体部21にねじ込む深さを調整することにより、陽極12に対向する試料Sの端面とは垂直な試料Sの側面をグロー放電により掘削することも可能となる。同様に試料保持部34を用いることにより、試料掘削装置は、棒状の試料S及び球状の試料Sを掘削し、掘削された試料SをSEMで観察することが可能となる。従って、本発明においては、試料保持部34を用いることにより、様々な形状の試料SをSEMで観察することが可能となる。
【0071】
本実施の形態においては、試料ホルダ2をグロー放電管1の下方に配置する形態を示したが、これに限るものではなく、試料ホルダ2はグロー放電管1の側方又は上方に配置する形態であってもよい。また本実施の形態においては、試料ホルダ2に押し付けた陰極20に電圧を印加することによって試料Sと陽極12との間にグロー放電を発生させる形態を示したが、これに限るものではなく、本発明の試料掘削装置は、試料ホルダ2に直接に電圧を印加する形態であってもよい。また本実施の形態においては、筒状筐体部21が円筒状であり、試料保持部22が円柱状である形態を示したが、本発明においては、筒状筐体部21の外形の一部又は全部が角型であってもよい。また試料保持部22の外形は、筒状筐体部21に装着できる範囲内で一部が角型であってもよい。また本実施の形態においては、筒状筐体部21の内面全体に雌ネジ21bが形成してある形態を示したが、筒状筐体部21の雌ネジ21bは、内面の一部に形成されている形態であってもよい。また本実施の形態においては、グロー放電の発生時にグロー放電管1内にアルゴンガスを供給する形態を示したが、本発明は、その他の不活性ガスを供給する形態であってもよい。更に、本実施の形態においては、本発明の試料掘削装置により観察面を形成した試料SをSEMで観察する例を示したが、観察面を形成した試料Sは、光学顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察するための試料Sとして利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の試料掘削装置の構成を示すブロック図である。
【図2】グロー放電管及び試料ホルダの内部構成を示す断面図である。
【図3】試料ホルダを示す分解斜視図である。
【図4】試料ホルダの断面図である。
【図5】電源部を構成するジェネレータの内部構成を示すブロック図である。
【図6】電源部を構成するマッチングボックスの内部構成を示すブロック図である。
【図7】掘削された試料の形状を示す断面図である。
【図8】掘削される試料を模式的に示す斜視図である。
【図9】他の形状の試料保持部を示す模式図である。
【図10】SEM用の試料台を装着される試料保持部を用いた試料ホルダを示す分解斜視図である。
【図11】SEM用の試料台を装着された試料保持部を示す斜視図である。
【図12】半円柱部と押さえ板部との間で試料を保持した試料保持部を示す斜視図である。
【図13】従来のグロー放電管及び試料ホルダの内部構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 グロー放電管
12 陽極(電極)
12b 円筒部(端部)
12c 貫通孔
12e 先端
12f 溝
13 セラミック部材(構造体)
2 試料ホルダ
20 陰極
21 筒状筐体部
21a 開口端面
21b 雌ネジ
22、31、32、33、34 試料保持部
22a 試料保持端
22b 雄ネジ
22c 貫通孔
23 コイルバネ
31a、32a、33a 挿入穴
35 SEM用の試料台
4 電源部
5 制御装置
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成された端部を有する電極と、該電極の前記端部に対向する位置に試料を保持する試料ホルダとを備え、前記電極と前記試料ホルダが保持する試料との間に発生させるグロー放電によって前記試料を掘削する試料掘削装置において、
前記試料ホルダは、
一端が開口端となり他端が閉口端となった筒状に形成してあり、内面の少なくとも一部に雌ネジを形成してある筒状筐体部と、
一端を試料保持用の試料保持端とした柱状に形成してあり、側面の少なくとも一部に、前記筒状筐体部の雌ネジに螺合する雄ネジを形成してある試料保持部とを有し、
前記試料保持部の試料保持端を前記筒状筐体部の開口端側と同じ向きにして前記試料保持部を前記筒状筐体部に螺着してあり、
前記試料保持部の試料保持端を前記電極の端部に対向させて前記試料ホルダを配置するように構成してあること
を特徴とする試料掘削装置。
【請求項2】
前記試料保持部の試料保持端は、試料を貼着できる面状に形成してあることを特徴とする請求項1に記載の試料掘削装置。
【請求項3】
前記試料保持部の試料保持端は、試料を載置する台状の部材を着脱することが可能な構成としてあることを特徴とする請求項1に記載の試料掘削装置。
【請求項4】
前記筒状筐体部及び前記試料保持部は導電性の材料で形成してあり、
グロー放電を発生させるために前記電極と前記試料ホルダとの間に電圧を印加するように構成してあり、
前記試料ホルダは、前記試料保持部の試料保持端とは逆の端に一端が接触し、前記筒状筐体部の内面の底部他端が接触する導電性のコイルバネを更に有すること
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の試料掘削装置。
【請求項5】
前記電極の端部の周囲を囲む構造体と、
前記電極の内部を真空引きする手段とを更に備え、
前記筒状筐体部の開口端を前記構造体に押し付けることによって前記試料ホルダを配置するように構成してあり、
前記試料保持部は、試料保持端から逆の端まで貫通する孔を形成してあること
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の試料掘削装置。
【請求項6】
グロー放電によって表面を掘削する試料を保持する試料ホルダにおいて、
一端が開口端となり他端が閉口端となった筒状に形成してあり、内面の少なくとも一部に雌ネジを形成してある筒状筐体部と、
一端を試料保持用の試料保持端とした柱状に形成してあり、側面の少なくとも一部に、前記筒状筐体部の雌ネジに螺合する雄ネジを形成してある試料保持部とを備え、
前記試料保持部の試料保持端を前記筒状筐体部の開口端側と同じ向きにして前記試料保持部を前記筒状筐体部に螺着してあること
を特徴とする試料ホルダ。
【請求項7】
前記試料保持端は試料を貼着できる面状に形成してあることを特徴とする請求項6に記載の試料ホルダ。
【請求項8】
前記試料保持端は試料を載置する台状の部材を着脱することが可能な構成としてあることを特徴とする請求項6に記載の試料ホルダ。
【請求項9】
前記筒状筐体部及び前記試料保持部は導電性の材料で形成してあり、
前記試料保持部の試料保持端とは逆の端に一端が接触し、前記筒状筐体部の内面の底部他端が接触する導電性のコイルバネを更に備えること
を特徴とする請求項6乃至8のいずれか一つに記載の試料ホルダ。
【請求項10】
前記試料保持部は、試料保持端から逆の端まで貫通する孔を形成してあることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか一つに記載の試料ホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−236735(P2009−236735A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84222(P2008−84222)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】