説明

試薬用容器

【課題】遮光しつつ注射器などの針によって容易に貫通でき、耐久性を損なうことのない被覆フィルムを備えた試薬用容器を提供する。
【解決手段】液体12が保存可能な試薬収容部5を有する樹脂成形体から成る試薬用容器において、少なくとも基材9及びシール層10を有するとともに、前記基材9と前記シール層10との間にフィルム層9aを有した密封フィルム8を備え、該密封フィルム8で前記試薬収容部5の開口部3を閉塞したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試薬用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、生物工学や化学等の分野においては様々な試薬を収容・保存するために試薬用容器が用いられている。このような試薬用容器の中には、試験管状のものや、所謂チップに形成されたウェル(凹部)を利用したもの等があり、一般に、これらに収容された試薬は、ピペットチップや注射針等を用いて分取され、この分取された試薬が別の場所や同一チップ上等に配置された反応部に分注されて、その後の反応過程を行うようになっている。
ところで、このような試薬用容器においては、容器内部と容器外部とが常に連通状態となっているため、長時間放置したり加熱することで試薬が蒸発してしまう場合がある。そこで近年、このような試薬用容器の開口部を樹脂製の被覆フィルム等で閉塞して試薬の蒸発を防止しするとともに、ピペットチップや注射針の先端を被覆フィルムに突き刺して貫通させることで試薬を容易に分取できるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平09−099932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、試薬用容器内に収容される試薬の中には、光が照射されることによって変性・劣化してしまうものが含まれるため、前述した被覆フィルムにおいては遮光性の向上が要望されている。しかしながら、被覆フィルムの遮光性を向上させるべく被覆フィルム自体の厚さを増加させると、被覆フィルムにピペットチップや注射針を突き刺したときにその先端が貫通し難くなるという課題がある。
一方、被覆フィルムの厚さを増加させずに遮光性を向上させる手段として、例えば、光が透過し難い薄い金属層を被覆フィルムとして用いる方法が考えられるが、金属層は空気と触れているだけで酸化してしまい、さらには前述した試薬が酸性またはアルカリ性に偏っている場合に酸化や溶解を起こしてしまうため耐久性に課題がある。
【0004】
そこで、この発明は、遮光しつつ注射器などの針によって容易に貫通でき、耐久性を損なうことのない被覆フィルムを備えた試薬用容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、試薬(例えば、実施の形態における液体12)が保存可能な試薬収容部(例えば、実施の形態における試薬収容部5)を有する樹脂成形体から成る試薬用容器において、少なくともアルミニウム層(例えば、実施の形態における基材9)及びシール層(例えば、実施の形態におけるシール層10)を有するとともに、前記アルミニウム層と前記シール層との間にフィルム層を有した被覆フィルム(例えば、実施の形態における密封フィルム8)を備え、該被覆フィルムで前記試薬収容部の開口部(例えば、実施の形態における開口部3)を閉塞したことを特徴とする。
このように構成することで、試薬収容部に収容されている試薬によってシール層の一部が侵されたとしても、アルミニウム層と試薬とが直接的に接触するのを防止することができる。
また、アルミニウム層を設けることで、被覆フィルムを薄く形成することができるため、遮光しつつ例えばピペットチップや注射針等を被覆フィルムに突き刺すことで容易に貫通させることができる。
【0006】
請求項2に記載した発明は、前記アルミニウム層は、厚さが10μm以下の硬質アルミニウムで構成されていることを特徴とする。
このように構成することで、被覆フィルムに、例えば、ピペットチップや注射針等を突き刺して貫通させる際にアルミニウム層がピペットチップや注射針等の外周面に密着するのを防止することができる。
【0007】
請求項3に記載した発明は、前記被覆フィルムが、前記アルミニウム層の下面にフィルム層(例えば、実施の形態におけるフィルム層9a)、シール層、上面に保護層を有することを特徴とする。
このように構成することで、ハンドリングが良好となり、強度を向上させることができる。さらに、アルミニウム層の上下面に空気が直接的に接触するのを防止してアルミニウム層の酸化を抑制することができる。
【0008】
請求項4に記載した発明は、前記シール層が、ヒートシール性樹脂であり、且つ、厚さが5μm以下であることを特徴とする。
このように構成することで、被覆フィルムを加熱するだけで開口部を容易、且つ、確実に閉塞することができる。
【0009】
請求項5に記載した発明は、前記保護層が、脆性樹脂であることを特徴とする。
このように構成することで、保護層に脆性樹脂を用いない場合と比較して、例えばピペットチップや注射針等を被覆フィルムに突き刺した時に、容易に貫通させることができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載した発明によれば、試薬収容部に収容されている試薬によってシール層の一部が侵されたとしても、アルミニウム層と試薬とが直接的に接触するのを防止することができるため、被覆フィルムの耐久性を向上させることができる効果がある。
また、アルミニウム層を設けることで、遮光しつつ被覆フィルムを薄く形成することができるため、例えばピペットチップや注射針等を被覆フィルムに突き刺して容易に貫通させることができるとともに試薬が変性・劣化するのを防止することができる効果がある。
【0011】
請求項2に記載した発明によれば、請求項1の効果に加え、被覆フィルムに、例えば、ピペットチップや注射針等を突き刺して貫通させる際にアルミニウム層がピペットチップや注射針等の外周面に密着するのを防止することができるため、試薬収容部に収容された試薬を安定的に分取することができる効果がある。
【0012】
請求項3に記載した発明によれば、請求項1または2の効果に加え、ハンドリングが良好となり、強度を向上させることができ、商品性を向上することができる効果がある。さらに、アルミニウム層の上下面に空気が接触するのを防止してアルミニウム層の酸化を抑制することができるため、さらなる耐久性の向上を図ることができる効果がある。
【0013】
請求項4に記載した発明によれば、請求項3の効果に加え、被覆フィルムを加熱するだけで開口部を容易、且つ、確実に閉塞することができるため、製造工数を削減することができる効果がある。
【0014】
請求項5に記載した発明によれば、請求項3または請求項4の効果に加え、保護層に脆性樹脂を用いない場合と比較して、例えばピペットチップや注射針等を被覆フィルムに突き刺した時に、容易に貫通させることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施の形態では、試薬収容部である複数のウェル(凹部)を備えた試薬容器の一例を説明する。
図1において、1は試薬容器を示している。この試薬容器1は、縦横寸法が数センチメートル角以下に設定された板状の基板2を備えており、この基板2には、この基板2の上面に開口部3を有し断面略半円状に形成された4つの試薬収容部5が2行2列に配列されている。なお、試薬収容部5の個数、位置は適宜設定しても良い。
【0016】
基板2は、その材質としてプラスチックを用いることが可能であり、例えば、ポリ塩化ビニル、PC(ポリカーボネート)、PP(ポリプロピレン)、ポリエステル、シクロオレフィン系ポリマー、フッ素ポリマー、シリコン樹脂等を用いることができ、その厚さ寸法は、使用時に十分な強度を確保できる厚さ寸法に設定されている。このような合成樹脂を用いて基板2を作成すれば、耐熱性、耐薬品性、成形加工性などに優れており好ましい。ここで、基板2は、2種類以上の樹脂を接合して用いても良く、各樹脂の特徴を活かし、例えば、上半分と下半分とで異なる合成樹脂を配置するようにしても良い。さらに、試薬及び試料等の性質に応じて合成樹脂を組合わせて配置することもできる。
【0017】
さらに、試薬収容部5は断面略半円状に限られるものではなく、例えば、円錐台形、角錐台形、円錐、角錐、線端部が半球状のもの等、加工性形成、溶液の注入性などにより様々な形状を採用することができる。また、基板2に試薬収容部5を形成する際、基板2がPC(ポリカーボネート)等のような硬質の樹脂で形成されている場合には、樹脂切削法を用いることが好ましく、さらに、基板2がPP(ポリプロピレン)などの軟質な材料で構成されている場合には、樹脂成型法を用いることが好ましい。
【0018】
試薬収容部5は、検体試薬やその他の試薬、検出反応に用いる試薬、バッファー、希釈液などの液体(試薬)12を注入しておく収容部となるものであり、この試薬収容部5の大きさは、収容される液体12の量に応じて設定され、その開口部3の直径が5〜10mm、深さが5mm以下に設定することが好ましい。また、試薬収容部5に対しては、防湿性、ガスバリアー性、耐溶液性を付与するために試薬収容部5の内壁表面にシリコンコーティングや無機金属化合物の蒸着層を設けた構成としても良い。さらに、試薬収容部5内に収容した液体12の回収効率を向上すべく、試薬収容部5の内面にシリコン等のコーティング層を設けたりプラズマ処理・コロナ処理等の表面処理を施すようにしても良い。
【0019】
ところで、試薬容器1の前述した試薬収容部5には、液体12を注入した後に複数の開口部3を閉塞する密封フィルム(被覆フィルム)8が張り付けられている。具体的には、図2に示すように、この密封フィルム8は、上層に基材(硬質アルミニウム層)9、下層にシール層10を配置するとともに、これら基材9とシール層10との間の中層にフィルム層9aを配置した3層構造となっており、シール層10によって基板上面に接着固定され、試薬収容部5内に液体12が密封されるようになっている。そして、この液体12を分取する際には、注射器の針やピペットチップ等を密封フィルム8に突き刺して貫通させて、試薬収容部5内の液体12を吸い出すようになっている。
【0020】
基材9は、いわゆる硬質アルミニウムで構成されており、その厚さが10μm以下、伸びが1%/cm以下、破裂度が0.5kg/cm以下が好ましい。
一方、シール層10は、共重合ポリエステル系樹脂であるシート状の酸成分変性PET(ポリエチレンテレフタレート)で構成されており、その厚さが15μm以下、破裂度が1kg/cm以下が好ましい。以下、破裂度はJIS−P−8112、伸びはJIS−C−2151(引張速度50mm/分)に従った測定値とする。
【0021】
フィルム層9aは、その厚さが10μm以下が好ましく、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、セロハン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックフィルム類を用いることができる。とりわけ、ポリエステル系の樹脂を用いた場合には、加工が容易になるとともに、耐熱性を向上することができ有利となる。また、ポリエステル系樹脂は非ポリエステル系樹脂と比較して硬度が高いので、注射器の針やピペットチップ等を突き刺した際に注射器の針やピペットチップの周囲にフィルム層が密着するのを防止することができる。
【0022】
また、密封フィルム8の他の態様として、図3に示すように基材9の上面に保護層11を設けるようにしても良い。この保護層11は、厚さが15μm以下、伸びが30%/180mm以下、破裂度が2kg/cm以下のアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂フィルムを用いることができ、サンドブラスト等を用いて表面をマット状に加工した脆性樹脂であるいわゆるマットPETを用いれば注射器などの針によって密封フィルム8を容易に貫通させることができるため好ましい。なお、脆性樹脂とは衝撃に対して弱くいわゆる“脆い”性質を持った樹脂であり、表面がマット状のもの以外に、例えば、発泡状のものを用いても良い。
【0023】
このように密封フィルム8を保護層11、基材9、フィルム層9a、シール層10の4層構造にする場合には、保護層11の分だけ密封フィルム8の厚さが増加して注射器などの針が突き刺し難くなるため、シール層10としてヒートシールラッカー等の液状のシール剤を塗布して厚さが5μm以下となるように設定し、さらに、基材の硬質アルミニウムの厚さを10μm以下、好ましくは8μm以下に設定する。このようにすることで、厚さを増加させずに密封フィルム8を4層構造とすることができる。ここで、上述した保護層11、基材9、フィルム層9aとは、例えば、接着などによって結合されている。
【0024】
上述した試薬収容部5に収容されている液体12は、例えば、抗原抗体反応及びDNA反応の検出等で、別場所または同一チップ上にある反応部に分注して用いることができるようになっている。
抗原抗体反応の場合、例えば、抗体などの試薬である液体12を試薬収容部5に保存しておき、この別の場所または同一チップ上にあり、予め抗原を配置してある反応部に添加し反応の有無を検出する。この際、抗原または抗体のいずれかに標識物質を付けておくことで反応の有無を検出できる。また、反応部は複数設けておけば、複数の抗原抗体反応の有無を検出することができる。
【0025】
一方、DNAの検出の場合、検体DNA試薬である液体12を試薬収容部5に保存しておき、この液体12を別の場所または同一チップ上にあり、予め核酸プローブを配置してある反応部に添加し反応の有無を検出する。この際、検体DNAに標識物質を付けておくことで反応の有無を検出できる。また、反応部は複数設けておき、それぞれ異なる配列を有する核酸プローブを配置しておけば、検体DNAの配列を効率的に検出することができる。また、DNA反応の中でも一塩基遺伝子多型(SNP)の解析に用いることができる。なお、この場合、核酸プローブやその他検出に用いる試薬は複数あっても良く、それらの試薬の一つが標識されていればよい。また、SNP解析には、サードウェイブテクノロジーズ,Inc(米国ウィスコンシン州マディソン市)が開発したインベーダー法を用いてもよい。
【0026】
したがって、上述の実施の形態によれば、試薬収容部5に収容されている液体12によってシール層10の一部が侵されたとしても、フィルム層9aで基材9と液体12とが直接的に接触するのを防止することができるため、密封フィルム8の耐久性を向上させることができる。また、基材9によって、遮光しつつ密封フィルム8を薄く形成することができるため、液体12が変性・劣化するのを防止することができるとともに、ピペットチップや注射針等を密封フィルム8に突き刺す際に容易に貫通させることができる。
【0027】
また、基材9として硬質アルミニウムを用いることで、図4に示すように、例えば、ピペットチップや注射針等(図4中、符号13で示す)を密封フィルム8に突き刺した際に密封フィルム8に空気流用孔14が形成されるため、ピペットチップや注射針等の外周面に密封フィルム8が密着することがなく、試薬収容部5の内部への外気導入を容易に行うことができる。この結果、スムーズに液体12を吸出すことが可能となり、液体12を安定的に分取することができる。とりわけ封入された液体12が少量の場合において効率よく吸出すことができ有利となる。
【0028】
そして、密封フィルム8の基材9の上面に保護層11を設ける4層構造とした場合には、ハンドリングが良好となり、密封フィルム8の強度を向上させることができ、この結果、商品性を向上することができる。さらに、基材9の上下面に空気が接触するのを防止して基材9の酸化を抑制して耐久性を向上させることができる。
【0029】
また、密封フィルム8を加熱するだけで試薬収容部5の開口部3を容易、且つ、確実に閉塞することができるため、製造工数を削減することができる。
【0030】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、基板2に形成された試薬収容部5以外に、例えば、チューブ状、ボトル状等の様々な形状の容器に液体12を充填して開口部3を密封フィルム8で閉塞するようにしても良い。
さらに、基材9は硬質アルミニウムに限られず、例えばアルミニウムを用いるようにしてもよい。とりわけ硬質アルミニウムを用いた場合には、ピペットチップや注射針等を密封フィルム8に突き刺した際に密封フィルム8がピペットチップや注射針の周囲に密着するのを抑制できるため、液体12を円滑に吸い出すことが可能となる。
また、上記の実施の形態では、密封フィルム8で複数の試薬収容部5の開口部3を閉塞するようにしたが、密封フィルム8で試薬収容部5の開口部3を個別に閉塞するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態におけるチップの斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態における図1のA−A線に沿うチップの断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における他の態様の図2に相当する断面図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるチップの上面図である。
【符号の説明】
【0032】
2 基板
3 開口部
5 試薬収容部
6 反応部
7 検出部
8 密封フィルム(被覆フィルム)
9 基材(アルミニウム層)
9a フィルム層
10 シール層
11 保護層
12 液体(試薬)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬が保存可能な試薬収容部を有する樹脂成形体から成る試薬用容器において、少なくともアルミニウム層及びシール層を有するとともに、前記アルミニウム層と前記シール層との間にフィルム層を有した被覆フィルムを備え、該被覆フィルムによって前記試薬収容部の開口部を閉塞したことを特徴とする試薬用容器。
【請求項2】
前記アルミニウム層は、厚さが10μm以下の硬質アルミニウムで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の試薬用容器。
【請求項3】
前記被覆フィルムは、前記アルミニウム層の下面にフィルム層、シール層、上面に保護層を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の試薬用容器。
【請求項4】
前記シール層は、ヒートシール性樹脂であり、且つ、厚さが5μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の試薬用容器。
【請求項5】
前記保護層は、脆性樹脂であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の試薬用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−153433(P2007−153433A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354557(P2005−354557)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】