説明

誘導式位置センサ

位置センサは、外側ループ部分および内側ループ部分の双方を有するトランスミッタコイルを有する。レシーバコイルがトランスミッタコイルのごく近傍に配置されており、レシーバコイルは、第1のループと、反対方向に巻かれた第2のループとを含む。レシーバコイルは、トランスミッタコイルとレシーバコイルとの誘導結合によってトランスミッタコイルが励起されると、電気出力信号を生成する。可動のカプラー素子は、トランスミッタコイルとレシーバコイルのループとの誘導結合を、カプラー素子の位置の関数として変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本願は、ここに引用により援用される、2007年9月21日に出願された米国仮特許出願連続番号第60/974,206号、および2008年9月16日に出願された米国特許出願連続番号第12/211,360号の優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
I.発明の分野
この発明は一般に位置センサに関し、より特定的には誘導式位置センサに関する。
【背景技術】
【0003】
II.関連技術の説明
自動車車両では、スロットルペダルは伝統的に、ケーブルによってエンジンスロットルに機械的に接続されてきた。しかしながら、より近代的な車両では、スロットル位置センサがペダルに機械的に接続され、スロットルペダルの踏み込み度合を示す電気出力信号を生成する。そのようなシステムはしばしば、「フライ・バイ・ワイヤ」(fly-by-wire)システムと呼ばれる。
【0004】
ある種のスロットル位置センサでは、トランスミッタコイルまたは励起コイルが高周波源によって励起され、それによりトランスミッタコイルが電磁放射を生成する。さらに、このトランスミッタコイルは円形パターンで配置されるが、他のパターンの構成が代替的に使用されてもよい。
【0005】
位置センサには、トランスミッタコイルのごく近傍に、レシーバコイルも配置される。したがって、トランスミッタコイルに通電すると、レシーバコイルは、トランスミッタコイルとレシーバコイルとの誘導結合により、出力信号を生成する。
【0006】
しかしながら、トランスミッタコイルとは異なり、レシーバコイルは、第1のループと、第1のループとは反対方向に巻かれた第2のループとを含む。したがって、トランスミッタコイルとレシーバコイルの第1のループとの誘導結合は、レシーバコイルの第2のループにおいてトランスミッタコイルによって誘導される電圧とは極性が逆の電圧を生成する。したがって、レシーバ出力信号は、レシーバコイルの第1および第2のループからの電圧信号の組合せまたは和である。
【0007】
スロットルの位置を表わす出力信号を生成するために、カプラー素子が位置センサに回転可能に取付けられ、スロットルペダルの踏み込みおよび解除と同期して回転する。さらに、このカプラー素子は、トランスミッタコイルによって放出される電磁放射を伝導する材料で構成される。このカプラー素子は、トランスミッタコイルおよびレシーバコイル双方の一部の上に重なっている。したがって、カプラー素子が動いたり回転したりすると、トランスミッタコイルとレシーバコイルの第1および第2のループとの誘導結合が変化する。これは次に、カプラー素子の角度位置、ひいては、カプラー素子に機械的に結合されたスロットルペダルの角度位置の関数として変化する、レシーバコイルからの出力信号を生成する。
【0008】
カプラー素子がトランスミッタコイルおよびレシーバコイルとまさに同心であれば、また、カプラー素子が動く間中、カプラー素子とトランスミッタコイルおよびレシーバコイルとの間隔が一定のままであるならば、レシーバコイルからの出力は、カプラー素子の角度位置、ひいてはスロットルペダルの角度位置を精密に示す。しかしながら、実際には、スロットル位置センサの製造時の製造公差により、カプラー素子がトランスミッタコイルおよびレシーバコイルと正確には同心ではない、および/またはカプラー素子とレシーバコイルおよびトランスミッタコイルとの隙間間隔が所望の隙間間隔と幾分異なるスロットル位置センサがしばしば生成される。
【0009】
カプラー素子の枢動軸とトランスミッタコイルおよびレシーバコイルの軸との同心性の欠如を補償するために、さまざまな方策が採用されてきた。しかしながら、これらの方策は、スロットル位置センサの精密度要件を満たすよう、カプラー素子とトランスミッタコイルおよびレシーバコイルとの隙間間隔の変動を補償するには十分ではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の概要
この発明は、以前から公知のスロットル位置センサの上述の欠点を克服するスロットル位置センサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
簡単に言うと、この発明のスロットル位置センサは、円形構成に巻かれたトランスミッタコイルを含む。トランスミッタコイルは高周波交流電流源によって通電され、そのため、通電されると、トランスミッタコイルは電磁放射を生成する。
【0012】
スロットル位置センサには、トランスミッタコイルのごく近傍に、レシーバコイルも設けられる。レシーバコイルは、互いに電気的に直列に接続された第1および第2の反対方向に巻かれたループを含む。しかしながら、レシーバコイルの第1および第2のループは互いに反対方向に巻かれているため、第1のループにおいて通電された場合にトランスミッタコイルによって誘導される電圧は、第2のレシーバループにおいてトランスミッタコイルによって誘導される電圧とは極性が逆である。レシーバループでの電圧の和が、スロットル位置センサからの出力信号を形成する。
【0013】
カプラー素子が、トランスミッタコイルおよびレシーバコイルに対して可動に取付けられている。このカプラー素子は、トランスミッタコイルおよびレシーバコイルの第1および第2のループを通る誘導結合を、カプラー素子の角度位置の関数として変化させる。カプラー素子の角度位置は、ひいては、スロットルペダルの位置の関数として変化する。たとえば、カプラー素子の一方向における回転運動は、トランスミッタコイルとレシーバコイルの第1のループとの誘導結合を増加させ、同時に、トランスミッタコイルとレシーバコイルの第2のループとの誘導結合を減少させて、このためレシーバコイルからの出力信号を変化させる。カプラー素子の逆の回転方向における回転は、逆の効果を生み出す。
【0014】
カプラー素子とトランスミッタコイルおよびレシーバコイルとの隙間の変動を補償するために、トランスミッタコイルは、外側ループ部分と、外側ループ部分から径方向に内側に間隔をおかれた内側ループ部分との双方を含む。次に、軸方向モジュレータコイルまたは基準コイルが、トランスミッタコイルの内側部分と外側部分との間に巻かれ、一方、レシーバコイルは、トランスミッタコイルの外側ループの少なくとも一部の上に重なる。実際、トランスミッタコイルの内側ループを設けることは、トランスミッタコイルと基準コイルとの間に追加的な誘導結合を提供することによって、カプラー素子とトランスミッタコイルおよびレシーバコイルとの隙間の変動を補償する。
【0015】
図面の簡単な説明
この発明のより良好な理解は、以下の詳細な説明を添付図面とともに読むことで得られるであろう。いくつかの図全体を通し、同じ参照番号は同じ部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】トランスミッタコイルを含むプリント回路基板の平面図である。
【図2】トランスミッタコイル、レシーバコイル、および基準コイルを有するプリント回路基板の平面図である。
【図3】この発明のセンサの好ましい一実施例の分解図である。
【図4】この発明の好ましい一実施例の側面図である。
【図5】例示的なカプラー素子の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の好ましい実施例の詳細な説明
最初に図1を参照すると、わかりやすくするために、スロットル位置センサ10の部品が取外された状態で、スロットル位置センサ10の一部が示されている。スロットル位置センサ10はプリント回路基板12を含み、それは通常、汚染物質および/または他の損傷からプリント基板12を保護するハウジング15(図4)内に収容されている。
【0018】
プリント回路基板12上には、トランスミッタコイル14が、従来の態様で形成されている。このトランスミッタコイル14は、外側ループ部分16と、内側ループ部分18とを含む。トランスミッタコイルの外側ループ部分16および内側ループ部分18は双方とも、軸22を中心とする円形構成で巻かれており、外側ループ部分16および内側ループ部分18双方におけるトランスミッタコイル14の巻線はすべて、同じ回転方向に配向されている。
【0019】
図1をひき続き参照すると、トランスミッタコイル14の端部は高周波交流電流源24に結合されている。交流電流源24が一旦作動または通電されると、トランスミッタコイル14の外側ループ部分16および内側ループ部分18は双方とも、周知の態様で電磁放射を生成する。
【0020】
ここで図2および図3を参照すると、プリント回路基板12上には、反対方向に巻かれた少なくとも2つのループ32および34を有するレシーバコイル30が、従来のプリント回路基板製造手法を利用して、レシーバコイルがトランスミッタコイル14の外側ループ部分16のごく近傍に位置付けられるよう形成されている。さらに、図2および図3では、レシーバコイルは、時計回りに巻かれた5つの区分32と、反時計回りに巻かれた5つの区分34とを含み、区分32および34は角サイズが等しく、プリント回路基板12上で軸22の周りを互いに交互に並ぶよう、図示されている。しかしながら、図2および図3に示す五極構成は単なる一例であり、過度の限定をそれから引き出すべきではない。むしろ、レシーバコイルは、反対方向に巻かれた少なくとも2つのループ32および34を有していればよい。
【0021】
レシーバコイル30のすべてのループ32および34は、互いに電気的に直列に接続されている。したがって、レシーバコイルの出力38上の電圧は、レシーバコイル30のすべてのレシーバループ32および34の電圧の和に等しい。レシーバ出力38は、典型的にはASICである回路39に接続されており、それは、レシーバコイル30からの出力を処理し、線形化する。
【0022】
図2および図3をひき続き参照すると、プリント回路基板12上には、基準コイルまたは軸方向モジュレータコイル40も、従来のプリント回路基板製造手法を利用して形成されている。基準コイル40は、トランスミッタコイル14の内側部分18と外側部分16との間に位置付けられた内側ループ部分41と、プリント回路基板12上においてレシーバコイル30の外周の周囲に位置付けられた、反対方向に巻かれた外側のループ43とを有する。互いに対して差動的または反対方向に巻かれた、レシーバコイル40のループ41および43は双方とも、トランスミッタコイル14に誘導結合されている。このため、トランスミッタコイル14が励起されると、トランスミッタコイルは、基準コイル40のループ41および43の双方において電圧を誘導する。しかしながら、基準コイル40のコイル41において誘導された電圧の極性は、基準コイル40の第2のループ43において誘導された電圧とは、極性が逆である。
【0023】
基準コイル40のループ41および43は、互いに電気的に直列に接続されており、そのため、基準コイル40からの出力46は、基準コイル40のループ41および43上の電圧の和または差を含んでいる。基準コイル40からの電気出力46も、回路39に接続されている。
【0024】
ここで図4および図5を参照すると、カプラー素子50は、カプラー素子50がプリント回路基板12の上に重なるものの、プリント回路基板12から隙間xだけ間隔があくように、ハウジング15内に位置付けられる。さらに、このカプラー素子50は、トランスミッタコイル14の軸22(図1)と同軸のシャフト52によって、ハウジングに回転可能に取付けられている。
【0025】
図4および図5に示すカプラー素子50は、レシーバコイル30のループ32および34にサイズおよび形状が対応している5つの突出部54を有するものとして示されている。図5に示すカプラー素子50は五極位置センサの単なる一例であることを、再度理解されたい。位置センサは、この発明の精神または範囲から逸脱することなく、より少ない、またはより多い極を含んでいてもよい。
【0026】
カプラー素子50は、高周波電流源24(図1)によって通電された場合にトランスミッタコイル14によって生成される電磁放射を伝導する材料で構成される。このため、カプラー素子50、そして特にカプラー素子の突出部54は、カプラー50の下に位置するトランスミッタコイルとレシーバコイル30のループ34および34との誘導結合を変化させる。
【0027】
したがって、カプラー素子50の一回転方向における回転は、トランスミッタコイル14とレシーバコイル30の第1のループ32との誘導結合を増加させ、一方、同時に、トランスミッタコイル14とレシーバコイル30の第2のループ34との誘導結合を減少させるであろう。カプラー素子50の逆の回転方向における回転は、逆の効果を生み出すであろう。
【0028】
いずれにせよ、レシーバコイル30の反対方向に巻かれたコイル32および34間の誘導結合を、カプラー素子50の回転位置の関数として変化させることにより、レシーバコイル出力38上の出力電圧は同様に変化し、このため、カプラー素子50の回転位置を示し、出力信号を線形化するよう、および他の態様で処理するよう回路39によって処理された信号を生成する。カプラー素子50はまた、センサ10からの出力信号がスロットルの位置を示すよう、スロットルの部品に機械的に結合されている。
【0029】
トランスミッタコイル14とレシーバコイル30のループ32および34との誘導結合は、カプラー素子50の回転位置の関数として変化するが、トランスミッタコイル14と基準コイル40のループ41および43との誘導結合は独立しており、カプラー素子50の回転位置の関数として変化しない。しかしながら、基準コイル40の反対方向に巻かれたループ41および43間の誘導結合は、カプラー素子50と基準コイル40との隙間xの関数として変化する。
【0030】
トランスミッタコイル14の内側部分18によって提供される、基準コイル40との追加的な誘導結合が、隙間間隔xのかなり小さい変動にもかかわらず、レシオメトリック関数R(x)を実質的に一定に保つ、ということがわかっており、ここで、R(x)は以下のように定義される。
【0031】
【数1】

【0032】
式中、RMはレシーバコイル30からの出力に等しく、AMは基準コイル40からの出力46上の電圧に等しく、xはカプラー素子50とプリント回路基板12との隙間の大きさに等しい。
【0033】
実際、関数Rは、プリント回路基板12上のカプラー素子50とトランスミッタコイル14およびレシーバコイル30それぞれとの隙間xのかなりの変動にもかかわらず、実質的に一定のままである。これが、ひいては、スロットル位置センサ10の全体的な精度を高める。
【0034】
前述の事項から、この発明が、スロットル位置センサといった単純ながら非常に効果的な位置センサを提供することがわかるが、このセンサは他の用途において使用されてもよい。この発明を説明してきたが、それに対する多くの修正が、添付された請求項の範囲により定義されているようなこの発明の精神から逸脱することなく、当業者には明らかとなるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置センサであって、
外側ループ部分と内側ループ部分とを有するトランスミッタコイルを含み、前記トランスミッタコイルは、電気エネルギ源によって励起されると電磁放射を生成し、前記位置センサはさらに、
前記トランスミッタ内側および外側ループ部分のうちの少なくとも1つのごく近傍に配置されたレシーバコイルを含み、前記レシーバコイルは少なくとも第1のループと、反対方向に巻かれた第2のループとを有し、前記レシーバコイルは、前記トランスミッタコイルと前記レシーバコイルとの誘導結合によって前記トランスミッタコイルが励起されると、電気出力信号を生成し、前記位置センサはさらに、
可動のカプラー素子を含み、前記カプラー素子は、前記トランスミッタコイルと前記レシーバコイルの前記ループとの誘導結合を、前記カプラー素子の位置の関数として変化させ、それにより前記レシーバコイルからの電気出力信号を変化させ、前記位置センサはさらに、
前記トランスミッタコイルの前記内側ループ部分と前記外側ループ部分との間に配置された基準コイルを含み、前記基準コイルは、前記トランスミッタコイルと前記基準コイルとの誘導結合によって前記トランスミッタコイルが励起されると、電気出力基準信号を生成し、その結合は前記カプラー素子の位置とは無関係である、位置センサ。
【請求項2】
前記トランスミッタコイルはプリント回路基板上に形成されている、請求項1に記載の発明。
【請求項3】
前記トランスミッタコイルの前記内側および外側ループ部分は、同心円形パターンに巻かれている、請求項1に記載の発明。
【請求項4】
前記レシーバコイルはプリント回路基板上に形成されている、請求項1に記載の発明。
【請求項5】
前記基準コイルはプリント回路基板上に形成されている、請求項1に記載の発明。
【請求項6】
前記カプラー素子は金属製である、請求項1に記載の発明。
【請求項7】
前記レシーバコイルは、前記トランスミッタコイルの前記外側ループ部分の上に重なっている、請求項1に記載の発明。
【請求項8】
前記カプラー素子は、前記トランスミッタコイルに対し、軸を中心として回転可能である、請求項1に記載の発明。
【請求項9】
前記レシーバコイルは、前記レシーバコイルの前記第1のループおよび前記第2のループの交互区分に配置されている、請求項1に記載の発明。
【請求項10】
前記レシーバコイルの前記交互区分は、予め定められた軸を中心とする円形パターンに配置されている、請求項10に記載の発明。
【請求項11】
前記カプラー素子は、前記予め定められた軸を中心として回転可能である、請求項10に記載の発明。
【請求項12】
前記トランスミッタコイル、前記レシーバコイル、および前記基準コイルは、プリント回路基板上に形成されている、請求項1に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−540896(P2010−540896A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525459(P2010−525459)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002456
【国際公開番号】WO2009/037561
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(508000593)ケイエスアール テクノロジーズ カンパニー (12)
【Fターム(参考)】