説明

誘電体セラミック、及びセラミックコンデンサ

【課題】耐湿負荷特性が良好であり、しかも所望の高比誘電率と静電容量の温度特性を有し、破壊電界強度も高く、信頼性の優れた誘電体セラミック、及び該誘電体セラミックを使用して製造された中高圧用途向けのセラミックコンデンサを実現する。
【解決手段】セラミック焼結体1が、100(Ba1-xCax)(Ti1-yZry)O+aReO1.5+bMO(ReはSm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYの中から選択された少なくとも1種、MはNi、Fe、及びZnの中から選択された少なくとも1種、zは元素Mの価数との関係で一義的に決定される正数)で表される組成を有している。また、x、y、a、bはそれぞれ0<x≦0.10、0<y≦0.25、0.1≦a≦4、0.01≦b≦5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電容量の温度特性が良好で高比誘電率を有する誘電体セラミック、及び該誘電体セラミックを使用して製造された中高圧用途向けの単板コンデンサ等のセラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の誘電体セラミック材料としては、比誘電率εrが高く、静電容量の温度特性を平坦で、破壊電界強度(交流破壊電圧)の高いことが要求される。
【0003】
そして、従来より、組成式が(Ba1-xCa)(Ti1-yZry)O(但し、0.10<x≦0.25、0<y≦0.25)で表される主成分100重量部に対し、Y成分をYに換算して1.1〜5重量部含有し、さらに、前記主成分100重量部に対し、Mn成分をMnOに換算して2重量部以下含有した誘電体磁器組成物が提案されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1では、Yを主成分に添加することにより比誘電率を高い状態に維持したまま静電容量の温度変化率を抑制することができ、さらにMnを添加することにより耐還元性を向上させることができ、これにより比誘電率εrが6000以上で交流破壊電圧が4.5kV/mm以上を有し、かつ静電容量の温度特性が平坦な誘電体磁器組成物を得ている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−104774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種のセラミックコンデンサの製造方法としては、酸素濃度が1体積%以上の酸化性雰囲気でセラミック成形体に焼成処理を施して誘電体セラミックを作製し、その後スパッタリング法等の薄膜形成方法を使用して誘電体セラミックの表裏両面にCu等の卑金属材料を主成分とした薄膜電極を形成する方法が知られている。
【0007】
この製造方法では、酸素濃度が1体積%以上の酸化性雰囲気で焼成処理を行なっているので、酸素濃度が1体積%未満の焼成雰囲気で焼成処理を行なう場合に比べ、焼成炉が簡易的なもので済み、また、電極材料もAuやPt等の貴金属材料を使用しなくて済むため、製造コストの低減化を図ることができる等の利点がある。
【0008】
しかしながら、特許文献1の誘電体磁器組成物を使用して上記製造方法でセラミックコンデンサを製造した場合、誘電体磁器組成物にMn成分が含有されているため、高電圧・高湿度環境下ではセラミックコンデンサの寿命が低下するという問題点があった。
【0009】
すなわち、特許文献1では、酸素濃度が1体積%以上の酸化性雰囲気で焼成処理を行なって誘電体磁器組成物を製造した場合、誘電体磁器組成物に含有されるMn成分が、Mn2+からMn3+に容易に酸化され、セラミック焼結体である誘電体磁器組成物中ではMn成分はMn3+の状態で存在する。そしてその後、スパッタリング処理等でセラミック焼結体の表面に薄膜電極を形成する場合、セラミック焼結体は還元雰囲気に晒されるため、上述したMn3+がMn2+に還元され、斯かるMn3+の還元反応により放出されるOによって、前記薄膜電極は前記セラミック焼結体との界面部分で部分的に酸化する。そして、薄膜電極の一部が酸化されると、高電圧・高湿度環境下では前記酸化された部分を起点として薄膜電極の酸化及び電極材料の溶出が短時間で進行し、その結果、静電容量の低下や誘電損失の上昇等を招き、更には絶縁抵抗の低下等を招いてセラミックコンデンサの寿命が低下してしまうという問題点があった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、耐湿負荷特性が良好であり、しかも所望の高比誘電率と静電容量の温度特性を有し、破壊電界強度も高い信頼性の優れた誘電体セラミック、及び該誘電体セラミックを使用して製造された中高圧用途に適したセラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行ったところ、酸化性雰囲気下の焼成処理や還元雰囲気下の成膜処理で容易に酸化還元反応が生じて価数が変化するMnに代えて、価数が変化し難いNi、Fe、又はZnを所定の希土類元素と共に(Ba,Ca)(Ti,Zr)Oに所定量含有させることにより、耐湿負荷特性を改善することができ、しかも高比誘電率で静電容量の温度特性が良好であり、交流破壊電圧の高い誘電体セラミックを得ることができるという知見を得た。
【0012】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、組成式(Ba1-xCax)(Ti1-yZry)Oで表される主成分にSm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYの中から選択された少なくとも1種で構成された第1の添加成分と、Ni、Fe、及びZnの中から選択された少なくとも1種で構成された第2の添加成分とが含有され、前記x、yがそれぞれ0<x≦0.25、0<y≦0.25であり、前記第1の添加成分の含有量が、前記主成分100モルに対して0.1〜4モルであり、前記第2の添加成分の含有量が、前記主成分100モルに対して0.01〜5モルであることを特徴としている。
【0013】
ところで、比誘電率εrが高くなると静電容量の温度特性は悪化して平坦性を損なう傾向にあるが、JISでは用途等に応じて所定の温度特性を満足するように各種温度特性が規定されており、その中にF特性やE特性と呼称される温度特性がある。ここで、F特性とは、静電容量の変化率が−25℃〜+85℃の温度範囲で+20℃の静電容量を基準にして−80%〜+30%の範囲内にある特性をいい、E特性とは、静電容量の変化率が−25℃〜+85℃の温度範囲で+20℃の静電容量を基準にして−55%〜+20%の範囲内にある特性をいう。
【0014】
したがって、静電容量の温度特性としてはE特性の方がF特性よりも厳しいが、用途によっては前記温度特性はF特性を満足すれば十分であるが比誘電率εrが高いことが要求される場合があり、逆に、比誘電率εrは若干低くても良いが前記温度特性はE特性を満足することが要求される場合がある。そして、所望の耐湿負荷特性や破壊電界強度を維持しつつ、用途に応じて誘電特性や温度特性の仕様が異なる誘電体セラミックを提供できれば好都合である。
【0015】
そこで、本発明者らが更に鋭意研究を重ねたところ、(Ba,Ca)中のCaの配合モル比xを制御し、配合モル比xを0<x≦0.10とすることにより、比誘電率εrが9000以上を有しかつ静電容量の温度特性がF特性を満足させることができ、一方、配合モル比xを0.10<x≦0.25とすることにより、比誘電率εrは6000以上と若干低くなるが静電容量の温度特性がE特性を満足させることができることが分かった。
【0016】
すなわち、本発明の誘電体セラミックは、前記xが0<x≦0.10であることを特徴とし、また本発明の誘電体セラミックは、前記xが0.10<x≦0.25であることを特徴としている。
【0017】
また、本発明でMnを添加成分から除外したのは、Mnが焼成処理や成膜処理で容易に酸化還元反応を起こすためであり、したがって酸化還元反応に関与しない程度の微量のMnが不可避的に不純物として誘電体セラミック中に含有されていても耐湿負荷特性には影響を与えず、Mnは実質的に含有されていなければ良い。
【0018】
すなわち、本発明の誘電体セラミックは、実質的にMnを含まないことを特徴としている。
【0019】
また、本発明の誘電体セラミックは、1体積%以上の酸素濃度を有する雰囲気中で焼成処理されてなることを特徴としている。
【0020】
また、本発明に係るセラミックコンデンサは、上記誘電体セラミックの表裏両面に薄膜電極が形成されていることを特徴としている。
【0021】
また、本発明のセラミックコンデンサは、前記薄膜電極は、スパッタリング法、真空蒸着法、及びイオンプレーティング法のうちのいずれかの薄膜形成方法により形成されてなることを特徴としている。
【0022】
また、本発明のセラミックコンデンサは、前記薄膜電極は、Cu、Ni、Cr、Ag、及びこれらの金属元素を含む合金の中から選択された少なくとも1種を主成分とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
上記誘電体セラミックによれば、組成式(Ba1-xCax)(Ti1-yZry)Oで表される主成分に所定の希土類元素からなる第1の添加成分と、Ni、Fe、及びZnの中から選択された少なくとも1種からなる第2の添加成分とが含有され、前記x、yがそれぞれ0<x≦0.25、0<y≦0.25であり、前記第1の添加成分の含有量が、前記主成分100モルに対して0.1〜4モルであり、前記第2の添加成分の含有量が、前記主成分100モルに対して0.01〜5モルであるので、酸化性雰囲気下で焼成処理されて形成された誘電体セラミックに還元雰囲気下で成膜処理を施し、薄膜電極を形成しても、第2の添加成分により耐還元性が付与され、その結果、耐湿負荷特性が良好で、高比誘電率を有し、静電容量の温度特性や破壊電界強度が良好な信頼性の優れた誘電体セラミックを得ることが可能となる。
【0024】
また、前記xを0<x≦0.10とすることにより、破壊電界強度が高く、良好な耐湿負荷特性を維持しつつ、比誘電率εrが9000以上でF特性を満足する信頼性の優れた誘電体セラミックを得ることができる。
【0025】
また、前記xを0.10<x≦0.25とすることにより、破壊電界強度が高く、良好な耐湿負荷特性を維持しつつ、比誘電率εrが6000以上でE特性を満足する信頼性の優れた誘電体セラミックを得ることができる。
【0026】
また、本発明の誘電体セラミックは、実質的にMnを含まないので、微量のMnが不純物として不可避的に混入することがあっても、焼成処理時や成膜処理で薄膜電極の膜質に影響を及ぼすような酸化還元反応が生じず、一方、価数の変化が起こり難いFe、Ni、Znにより耐還元性が付与されているので、耐湿負荷特性の向上を効果的に図ることができる。
【0027】
また、本発明の誘電体セラミックは、1体積%以上の酸素濃度を有する雰囲気中で焼成処理されるので、簡易的な焼成炉で焼成処理を行うことができ、信頼性に優れ、所望の高比誘電率と静電容量の温度特性を有する誘電体セラミックを低コストで得ることができる。
【0028】
また、本発明のセラミックコンデンサによれば、上記誘電体セラミックの表裏両面に薄膜電極が形成されているので、静電容量の温度特性を損なうことなく、高比誘電率で耐湿負荷寿命が良好な信頼性に優れたセラミックコンデンサを得ることができる。
【0029】
また、前記薄膜電極は、スパッタリング法、真空蒸着法、及びイオンプレーティング法の中から選択された少なくとも1種以上の薄膜形成方法を使用することにより、所望の均質な薄膜電極を容易に形成することができる。
【0030】
また、前記薄膜電極が、Cu、Ni、Cr、Ag、及びこれらの金属元素を含む合金の中から選択された少なくとも1種を主成分とするので、AuやPt等の高価な貴金属材料を使用しなくて済み、材料コストも安価で済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0032】
本発明の一実施の形態(第1の実施の形態)に係る誘電体セラミックは、下記組成式(A)で表され、比誘電率εrが9000以上で静電容量の温度特性はF特性を満足している。
【0033】
100(Ba1-xCax)(Ti1-yZry)O+aReO1.5+bMO…(A)
ここで、ReはSm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYの中から選択された少なくとも1種の希土類元素で構成された第1の添加成分、MはNi、Fe、及びZnの中から選択された少なくとも1種の金属元素で構成された第2の添加成分であり、zは第2の添加成分Mの価数との関係で一義的に決定される正数である。
【0034】
また、x、y、a、bは下記数式(1)〜(4)を満足する範囲とされている。
【0035】
0<x≦0.10…(1)
0<y≦0.25…(2)
0.1≦a≦4…(3)
0.01≦b≦5…(4)
すなわち、本誘電体セラミックは、ペロブスカイト型構造(一般式ABO)を有する(Ba1-xCax)(Ti1-yZry)Oを主成分とし、該主成分100モルに対し第1の添加成分Reが0.1〜4モルの範囲で含有され、第2の添加成分Mが0.01〜5モルの範囲で含有されている。
【0036】
さらに、主成分におけるAサイト中のCaの配合モル比xが0<x≦0.10とされ、Bサイト中のZrの配合モル比yが0.1<y≦0.25とされている。
【0037】
このように本誘電体セラミックは、Ni、Fe、及びZnの中から選択された少なくとも1種で構成された第2の添加成分Mが、所定の希土類元素で構成された第1の添加成分Reと共に、主成分である(Ba1-xCax)(Ti1-yZry)Oに添加されているので、前記第2の添加成分Mにより耐還元性が付与され、したがって誘電体セラミック上に薄膜電極を形成する場合であっても該薄膜電極が酸化するのを抑制することができ、高電圧・高湿度環境下で使用しても寿命低下を回避することができる誘電体セラミックを得ることができる。
【0038】
すなわち、本誘電体セラミックは、容易に酸化還元反応が生じて価数が変化する化学的に不安定なMnに代えて、価数の変化が生じ難く化学的により安定な第2の添加成分M(Ni、Fe、及び/又はZn)を主成分に添加することにより、酸素濃度が1体積%以上の酸化性雰囲気で焼成処理を行なっても第2の添加成分Mが酸化するのを回避することができ、その結果誘電体セラミックの表面酸化を抑制することができる。したがって、その後、高真空の還元雰囲気下で成膜処理を行ない誘電体セラミックの表裏両面に薄膜電極を形成しても、誘電体セラミックとの界面に接する薄膜電極下面が酸化するのを抑制することができ、これにより高湿度下で高電圧を印加して駆動させても寿命低下を招くのを極力回避することができる。
【0039】
尚、本第1の実施の形態でMnを含まないようにしたのは、Mnが薄膜電極の酸化を誘発するのを阻止するためであり、したがって添加物として実質的に添加されるのでなければよく、不可避的に不純物として混入するMnは特性に影響を与えるものではない。
【0040】
次に、上記配合モル比x、y、及び各添加成分の含有モル量a、bの限定理由を詳述する。
【0041】
(1)配合モル比x
誘電体セラミックの信頼性を向上させる観点から、Aサイト中のBaの一部をCaで置換しているが、その配合モル比xが0.10を超えた場合は、静電容量の温度特性は良好であるが、比誘電率εrが9000未満となって所望の高比誘電率を有する誘電体セラミックを得ることが困難となる。
【0042】
そこで、本第1の実施の形態ではAサイト中のCaの配合モル比xを0<x≦0.10としている。
【0043】
(2)配合モル比y
Bサイト中のTiの一部をZrに置換することにより各種特性を向上させているが、その配合モル比yが0.25を超えると焼結性が低下し、焼結させるためには焼成温度を1400℃を超える高温に設定して焼成する必要があることからコストアップを招き好ましくない。
【0044】
そこで、本第1の実施の形態では配合モル比yを0<y≦0.25に限定している。
【0045】
(3)第1の添加成分Reの含有モル量a
第1の添加成分Reは比誘電率εrを向上させるために主成分に添加されるが、該第1の添加成分Reの含有モル量aが主成分100モルに対し0.1モル未満になると比誘電率向上の効果を得ることができない。一方、第1の添加成分Reの含有モル量aが主成分100モルに対し4モルを超えると静電容量の温度特性が−25℃〜+85℃の範囲で平坦とはならず急峻になり、F特性を満足しなくなる。
【0046】
そこで、本第1の実施の形態では、第1の添加成分Reの含有モル量aを0.1≦a≦4としている。
【0047】
(4)第2の添加成分Mの含有モル量b
第2の添加成分MであるNi、Fe、Znは上述したように酸化性雰囲気下で焼成処理を行なっても表面酸化するのを回避して誘電体セラミックの耐湿負荷性を向上させるために添加され、そのためには少なくとも主成分100モルに対し0.01モル以上含有させる必要がある。一方、第2の添加成分Mの含有モル量bが主成分100モルに対し5モルを超えた場合も耐湿負荷特性が悪化してしまい好ましくない。
【0048】
そこで、本第1の実施の形態では、第2の添加成分Mの含有モル量bを0.01≦b≦5としている。
【0049】
次に、本誘電体セラミックを使用して製造されたセラミックコンデンサについて詳述する。
【0050】
図1は本発明のセラミックコンデンサとしての単板コンデンサの一実施の形態を示す断面図であり、図2は図1の一部破断正面図である。
【0051】
該単板コンデンサは、本発明の誘電体セラミックからなるセラミック焼結体1と、該セラミック焼結体1の表裏両面に形成された電極部2a、2bと、はんだ3を介して前記電極部2a、2bと電気的に接続された一対のリード線4a、4bと、セラミック焼結体1を被覆する樹脂製の外装5とから構成されている。
【0052】
次に、上記単板コンデンサの製造方法について説明する。
【0053】
まず、上記誘電体セラミックを作製する。
【0054】
すなわち、BaCO、CaCO、TiO、ZrO、Re(ただし、ReはSm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びY)、NiO、Fe、ZnOを必要に応じて所定量秤量し、該秤量物を混合する。次いで、該混合物をジルコニア等の粉砕媒体と共にボールミルに投入して所定時間湿式混合し、粉砕する。次いで、粉砕物を蒸発乾燥した後、ジルコニア製の匣(さや)に収容し、1100〜1200℃で約2時間仮焼し、仮焼物を作製する。
【0055】
次に、該仮焼物を酢酸ビニル等のバインダと共にボールミルに投入し、所定時間湿式混合し、その後、該混合物を脱水乾燥し、造粒した後、加圧し、所定の円板状に成形し、セラミック成形体を作製する。
【0056】
そしてこの後、セラミック成形体を酸素濃度が1体積%以上に調整された焼成炉に配し、該焼成炉を約1400℃の温度に保持して2時間焼成処理を施し、これによりセラミック焼結体1を作製する。
【0057】
次いで、セラミック焼結体1にスパッタリング処理を施し、セラミック焼結体1の表裏両面に薄膜電極2a、2bを形成する。すなわち、セラミック焼結体1を所定の真空度(例えば、0.1Pa)に設定されたスパッタリング装置に配し、Ar等の不活性ガスを前記スパッタリング装置に導入しながら前記セラミック焼結体1とターゲット物質である成膜原料との間に直流高電圧を印加し、イオン化した不活性ガスを成膜原料に衝突させて該成膜原料をセラミック焼結体1の表裏両面に堆積させ、これにより膜厚0.1〜2μmの薄膜電極2a、2bを形成する。尚、成膜原料としては、コスト低減の観点から、比較的安価なCu、Ni、Cr、Ag、及びこれらの金属元素を含む合金の中から選択された1種以上を使用するのが好ましい。
【0058】
そして、はんだ3を介して電極部2a、2bとリード線4a、4bとを接続し、その後樹脂モールドを施して外装5を形成し、これにより単板コンデンサが製造される。
【0059】
このように本単板コンデンサは、セラミック焼結体1が、上記誘電体セラミックで形成されているので、耐湿負荷特性が良好で、比誘電率εrが9000以上を有すると共に静電容量の温度特性はF特性を満足し、しかも破壊電界強度の高い信頼性の優れた単板セラミックコンデンサを得ることができる。
【0060】
また、上記セラミック焼結体1にはMnが添加されていないため、酸素濃度が1体積%以上の焼成雰囲気で焼成しても、薄膜電極の酸化が抑制されることから、上述したように良好な耐湿負荷特性を得ることができる。したがって酸素濃度が1体積%以下の焼成雰囲気に設定する場合に比べ、装置の簡略化が可能となり、低コストで所望の単板コンデンサを得ることができる。
【0061】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る誘電体セラミックを説明する。
【0062】
第2の実施の形態に係る誘電体セラミックの組成式は、第1の実施の形態で記載した組成式(A)と同一であり、配合モル比xのみが数式(1)に代えて数式(5)に示す範囲とされている。
【0063】
0.10<x≦0.25…(5)
本第2の実施の形態は、第1の実施の形態と同様、高い破壊電界強度と良好な耐湿負荷特性を有し、また配合モル比xを増加させたことにより、比誘電率εrの下限は第1の実施の形態に比べて小さい6000であるが、静電容量の温度特性は第1の実施の形態よりも平坦化され、E特性(静電容量の変化率が−25℃〜+85℃で+20℃の静電容量を基準にして−55%〜+20%の範囲)を満足している。
【0064】
尚、配合モル比xを0.25以下としたのは、該配合モル比xが0.25を超えると焼結性が低下し、焼結させるためには1400℃以上の高温で焼成処理を行う必要があり、コストアップを招くからである。
【0065】
このように配合モル比xを異ならせることにより、所望の耐湿負荷特性や破壊電界強度を確保しつつ、誘電特性や温度特性の仕様が異なる複数種の誘電体セラミックを得ることができ、したがって用途に応じて誘電特性と温度特性の異なる単板コンデンサを低コストで容易に提供することができ、利便性の向上を図ることができる。
【0066】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0067】
上記実施の形態では、薄膜電極2a、2bをスパッタリング法で形成したが、高真空下、成膜原料を加熱蒸発させ、所定温度に保持されたセラミック焼結体上に前記蒸気を堆積させて成膜する真空蒸着法や、電場により加速して数eV〜数10eVの高エネルギ粒子としてセラミック焼結体上に成膜するイオンプレーティング法で薄膜電極を形成してもよい。
【0068】
また、上記実施の形態では、出発原料として炭酸塩や酸化物を使用したが、シュウ酸塩、水酸化物、アルコキシドなどを出発原料としてもよく、またBaTiO、BaZrO、CaTiO、CaZrOなどの複合酸化物を出発原料としても同様の効果が得られるのはいうまでもない。
【0069】
また、上記実施の形態では、単板コンデンサを例として説明したが、積層セラミックコンデンサについても、上記実施の形態と同様の作用効果を得ることができるのはいうまでもない。
【0070】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0071】
実施例1では、組成成分の異なる試料番号1〜43の単板コンデンサを作製し、比誘電率εr:9000以上、誘電損失tanδ:2%以下、静電容量の温度特性:F特性、破壊電界強度:4.5kV/mm以上、耐湿負荷寿命:4000時間以上を基準とし、各単板コンデンサの特性を評価した。
【0072】
すなわち、まず、出発原料として、BaCO、TiO、CaCO、ZrO、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Fe、NiO、ZnO、Ce及びMnCOの各粉末を用意した。
【0073】
次に、表1のような組成を有する誘電体セラミックが得られるように、これら出発原料を秤量し、該秤量物をボールミルで湿式混合した後、蒸発乾燥し、粉末混合物を得た。次いで、この粉末混合物を1150℃の温度で2時間仮焼処理して仮焼物を作製し、さらに、該仮焼物100重量部に対し、酢酸ビニルエマルジョン50%溶液を10重量部添加してボールミルにて混合し、乾燥・造粒してセラミック原料粉末を作製した。
【0074】
次に、このセラミック原料粉末を98MPaの圧力で加圧し、直径10mm、厚さ1.2mmの円板状に成形し、その後、1400℃の温度で2時間、所定の酸素濃度を有する焼成雰囲気下で焼成処理を施し、試料番号1〜43の誘電体セラミック(セラミック焼結体)を得た。作製された誘電体セラミックの外形寸法は、直径8.3mm、厚さ1.0mmであった。
【0075】
表1は試料番号1〜43の組成成分と焼成雰囲気の酸素濃度を示している。
【表1】

尚、表1中、焼成雰囲気の酸素濃度はキャリアガスによって調整した。すなわち、キャリアガスとしてHガスとNガスを使用して酸素濃度を10−4体積%とし、その後Nガスを使用して酸素濃度が1体積%となるように調整し(試料番号1、3、5、7、8、及び10〜16)、またNガスとOガスを用いて酸素濃度が20体積%となるように調整し(試料番号17〜43)、さらに、Oガスを用いて酸素濃度が95体積%となるように調整した(試料番号2、4、6、9)。
【0076】
次に、0.1Paの高真空に設定されたスパッタリング装置の所定位置に誘電体セラミックとCuからなるターゲット物質を配設すると共に、Arガスをスパッタリング装置内に導入し、誘電体セラミックとターゲット物質との間にDC600Vの高電圧を印加してスパッタリング処理を行った。そして、このようにスパッタリング処理を行なって誘電体セラミックの表裏両面に膜厚1μmのCuからなる薄膜電極を形成し、さらに薄膜電極にリード端子をはんだ付けし、その後、エポキシ樹脂を使用して粉体塗装し、試料番号1〜43の単板コンデンサを作製した。
【0077】
次に、試料番号1〜43の各単板コンデンサについて、比誘電率εr、誘電損失tanδ、温度変化に対する静電容量の容量変化率(以下、単に「容量変化率」という。)(ΔC/C20)、及び破壊電界強度を測定した。
【0078】
すなわち、自動ブリッジ式測定器を使用し、周波数1kHz、実効電圧1Vrms、温度20℃の条件で静電容量Cを測定し、静電容量Cから比誘電率εrを算出した。
【0079】
また、自動ブリッジ式測定器を使用し、周波数1kHz、実効電圧1Vrms、温度20℃の条件で誘電損失tanδを測定した。
【0080】
静電容量の温度特性は、−25℃から+85℃の範囲で+20℃の静電容量を基準とした容量変化率(ΔC/C20)を測定し、F特性を満足するか否か、すなわち容量変化率(ΔC/C20)が−80%〜+30%の範囲内にあるか否かを評価した。
【0081】
また、交流60Hzの正弦電圧波形を一定速度で昇圧しながら試験片に印加し、試験片が破壊したときの電圧値から破壊電界強度を測定した。
【0082】
さらに、試料番号1〜43の各試験片20個について耐湿負荷試験を行った。すなわち、温度60℃、相対湿度90℃〜95℃の条件下で、周波数60Hzの交流で2.0kVrmsの電圧を4000時間各試験片に印加して耐湿負荷試験を行い、絶縁抵抗が10MΩ以下となった試験片を不良品と判断してその個数を計数した。
【0083】
表2はその結果を示す。
【表2】

試料番号1、2は、誘電体セラミック中にMnが添加されていないものの、第2の添加成分M(Ni、Fe、Zn)も含有されていないため、耐湿負荷試験において4000時間で20個中5〜7個の不良品が発生した。
【0084】
試料番号3、4は、主成分100モルに対し、0.2モルのMnOが誘電体セラミック中に含有されているため、Mnが薄膜電極の酸化を誘発し、その結果耐湿負荷試験では2000時間で全数不良品となった。
【0085】
試料番号13は、第2の添加成分MであるFeの含有モル量が主成分100モルに対し6モルと多すぎるため、耐湿負荷試験において4000時間で20個中10個の不良品が発生した。
【0086】
試料番号17は、第1の添加成分ReであるGdの含有モル量が主成分100モルに対し0.05モルと少なすぎるため、静電容量の温度特性はF特性を満足するが比誘電率εrが8900と低下し9000未満となった。
【0087】
試料番号23は、第1の添加成分ReであるGdの含有量が主成分100モルに対し5モルと多すぎるため、容量変化率ΔC/C20が−80.1%と負側への偏位が大きくF特性を満足しなくなることが分かった。
【0088】
試料番号24は、配合モル比xが0であり主成分にCaが含有されていないため、容量変化率ΔC/C20が−81.1%と負側への偏位が大きくF特性を満足しなくなることが分かった。
【0089】
試料番号29は、配合モル比xが0.110と大きく主成分中にCaが過剰に含有されているため、比誘電率εrが8840しか得られず9000未満となった。
【0090】
試料番号34は、配合モル比yが0.300と大きく主成分中にZrが過剰に含有されているため、焼結性が低下し、1400℃の焼成温度では焼結しなかった。
【0091】
これに対して試料番号5〜12、14〜16、18〜22、25〜28、30〜33、及び35〜43は、0<x≦0.10、0<y≦0.25、0.1≦a≦4、0.01<b≦5であるので、比誘電率εrが9000以上の高比誘電率を有し、静電容量の温度特性はF特性を満足し、破壊電界強度は4.7〜5.3kV/mmと高く、誘電損失tanδも2.0%以下と小さく、しかも誘電体セラミックにMnが添加されていないので耐湿負荷寿命も4000時間以上を有する信頼性の優れた単板コンデンサが得られることが分かった。
【実施例2】
【0092】
実施例2では、組成成分の異なる試料番号51〜94の単板コンデンサを作製し、比誘電率εr:6000以上、誘電損失tanδ:3%以下、静電容量の温度特性:E特性、破壊電界強度:4.5kV/mm以上、耐湿負荷寿命:4000時間以上を評価基準とし、各単板コンデンサの特性を評価した。
【0093】
すなわち、出発原料として、〔実施例1〕と同様の各粉末を用意し(ただし、この実施例2ではCeは不使用)、表2のような組成を有する誘電体セラミックが得られるように、これら出発原料を秤量し、その後、〔実施例1〕と同様の方法・手順で試料番号51〜94の誘電体セラミック(セラミック焼結体)を作製した。
【0094】
表3は試料番号51〜94の組成成分と焼成雰囲気の酸素濃度を示している
【表3】

次に、〔実施例1〕と同様の方法・手順で、Cuをターゲット物質としてスパッタリング処理を施し、誘電体セラミックの表裏両面に膜厚1μmの薄膜電極を形成し、該博膜電極にリード端子をはんだ付けし、その後、エポキシ樹脂を使用して粉体塗装し、試料番号51〜94の単板コンデンサを得た。
【0095】
次に、試料番号51〜94の単板コンデンサについて、〔実施例1〕と同様の方法・手順で比誘電率εr、誘電損失tanδ、容量変化率(ΔC/C20)、破壊電界強度を測定し、耐湿負荷試験を行った。
【0096】
尚、この実施例2では、静電容量の温度特性は、−25℃から+85℃の範囲で+20℃の静電容量を基準とした容量変化率(ΔC/C20)を測定し、E特性を満足するか否か、すなわち容量変化率(ΔC/C20)が−55%〜+20%の範囲内にあるか否かで評価した。
【0097】
表4はその結果を示す。
【表4】

試料番号51、52は、誘電体セラミック中にMnが添加されていないものの、第2の添加成分M(Ni、Fe、Zn)も含有されていないため、耐湿負荷試験では4000時間で20個中5〜7個の不良品が発生した。
【0098】
試料番号53、54は、主成分100モルに対し、0.1モルのMnOが誘電体セラミック中に含有されているため、Mnが薄膜電極の酸化を誘発し、その結果耐湿負荷試験では2000時間で全数不良品となった。
【0099】
試料番号63は、第2の添加成分MであるFeの含有モル量が主成分100モルに対し6モルと多すぎるため、耐湿負荷試験で4000時間では20個中10個の不良品が発生した。
【0100】
試料番号67は、第1の添加成分ReであるYの含有モル量が主成分100モルに対し0.05モルと少なすぎるため、静電容量の温度特性はE特性を満足するが比誘電率εrが4330と低下し6000未満となった。
【0101】
試料番号73は、第1の添加成分ReであるYの含有量が主成分100モルに対し5モルと多すぎるため、容量変化率ΔC/C20が−56.1%と負側への偏位が大きくE特性を満足しなくなることが分かった。
【0102】
試料番号74は、配合モル比xが0.1とCaが少ないため、容量変化率ΔC/C20が−57.1%と負側への偏位が大きくE特性を満足しなくなることが分かった。
【0103】
試料番号80は、配合モル比xが0.300と大きく主成分中にCaが過剰に含有されているため、焼結性が低下し1,400℃の焼成温度では焼結しなかった。
【0104】
試料番号85は、配合モル比yが0.300と大きく主成分中にZrが過剰に含有されているため、焼結性が低下し、1400℃の焼成温度では焼結しなかった。
【0105】
これに対して試料番号55〜62、64〜66、68〜72、75〜79、81〜84、及び86〜94は、0.10<x≦0.25、0<y≦0.25、0.1≦a≦4、0.01<b≦5であるので、比誘電率εrが6000以上の高比誘電率を有し、誘電損失tanδも小さく、静電容量の温度特性はE特性を満足し、破壊電界強度は4.7〜5.3kV/mmと高く、誘電損失tanδも2.0%以下と小さく、しかも誘電体セラミックにMnを含んでいないので耐湿負荷寿命も4000時間以上を有する信頼性の優れた単板コンデンサが得られることが分かった。
【0106】
また、実施例1及び実施例2から明らかなように、配合モル比xの限定範囲を異ならせることにより、破壊電界強度や耐湿負荷特性は良好に維持しつつ、誘電特性や温度特性の仕様が異なるセラミックコンデンサを得ることのできることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明に係るセラミックコンデンサとしての単板コンデンサの一実施の形態を示す断面図である。
【図2】図1の単板コンデンサの一部破断正面図である。
【符号の説明】
【0108】
1 セラミック焼結体(誘電体セラミック)
2a、2b 薄膜電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(Ba1-xCax)(Ti1-yZry)Oで表される主成分にSm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYの中から選択された少なくとも1種で構成された第1の添加成分と、Ni、Fe、及びZnの中から選択された少なくとも1種で構成された第2の添加成分とが含有され、
前記x、yがそれぞれ0<x≦0.25、0<y≦0.25であり、
前記第1の添加成分の含有量が、前記主成分100モルに対して0.1〜4モルであり、前記第2の添加成分の含有量が、前記主成分100モルに対して0.01〜5モルであることを特徴とする誘電体セラミック。
【請求項2】
前記xが0<x≦0.10であることを特徴とする請求項1記載の誘電体セラミック。
【請求項3】
前記xが0.10<x≦0.25であることを特徴とする請求項1記載の誘電体セラミック。
【請求項4】
実質的にMnを含まないことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の誘電体セラミック。
【請求項5】
1体積%以上の酸素濃度を有する雰囲気中で焼成処理されてなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の誘電体セラミック。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の誘電体セラミックの表裏両面に薄膜電極が形成されていることを特徴とするセラミックコンデンサ。
【請求項7】
前記薄膜電極は、スパッタリング法、真空蒸着法、及びイオンプレーティング法のうちのいずれかの薄膜形成方法により形成されてなることを特徴とする請求項6記載のセラミックコンデンサ。
【請求項8】
前記薄膜電極は、Cu、Ni、Cr、Ag、及びこれらの金属元素を含む合金の中から選択された少なくとも1種を主成分とすることを特徴とする請求項6又は請求項7記載のセラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−96576(P2006−96576A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281409(P2004−281409)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】