説明

誘電体層又は絶縁体層形成用組成物、グリーンシート及びフラットパネルディスプレイ基板

【課題】 より低い温度で焼成でき、粒子間の間隙が小さく、表面の欠陥がない誘電体層又は絶縁体層を簡便かつ効率よく形成できる誘電体層又は絶縁体層形成用組成物、この組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシート、並びに、この組成物から形成された誘電体層又は絶縁体層を有するフラットパネルディスプレイ基板及びこの基板の製造方法を提供する。
【解決手段】 平均粒径が1〜500nmの無機微粒子、及び熱分解性バインダーを含有することを特徴とする誘電体層又は絶縁体層形成用組成物、この組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシート、基板と、該基板上に、前記組成物から形成された誘電体層又は絶縁体層を有することを特徴とするフラットパネルディスプレイ基板、基板上に、グリーンシートを貼付する工程と、該グリーンシートを焼成する工程とを有することを特徴とするフラットパネルディスプレイ基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ等の誘電体層又は絶縁体層の形成に好適な誘電体層又は絶縁体層形成用組成物、この組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシート、並びに、前記組成物から形成された誘電体層又は絶縁体層を有するフラットパネルディスプレイ基板及びこのフラットパネルディスプレイ基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイには、プラズマディスプレイ(以下、「PDP」ともいう)やエレクトロルミネッセンス表示装置、フィールドエミッションディスプレイ(以下、「FED」ともいう)、液晶表示装置等があり、これらはマルチメディアディスプレイとして注目を集めている。
【0003】
このようなフラットパネルディスプレイとして、PDPの一例を図3に示す。図3に示すPDPは、前面板用ガラス基板1及び背面板用ガラス基板2の1対のガラス基板からなる。この前面板用ガラス基板1と背面板用ガラス基板2の内面には、互いに直交する透明電極3及びデータ電極4がそれぞれ形成されている。透明電極3及びデータ電極4は、誘電体層5(前面板誘電体層)及び6(背面板誘電体層)によりそれぞれ覆われている。また、ガラス基板1及び2は、保護膜7を介してリブ(隔壁)8によって放電空間(画素)に分離され、各画素には蛍光体9が形成されている。
【0004】
このようなフラットパネルディスプレイを製造するには、多数の層を積層する必要があり、製造工程が煩雑となる。したがって、それによる歩留まりの向上、作業工程の簡略化が進められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ガラス基板上に、ポリメタクリル酸エステルと、平均粒径が0.5〜30μmのガラス粉末とを含む透明誘電体層用組成物を用いて誘電体層を形成する方法が開示されている。この方法によれば、感圧性接着剤層を別途余分に設けることなく、ガラス基板と優れた密着性を有し、より簡単な方法で一定厚の透明誘電体層を形成することができる。
【0006】
また、特許文献2には、ベースフィルム上に、無機粒子及び焼成により除去される樹脂とを含有するインキ層を有する転写シートであって、インキ層の焼成後の膜厚より粒子径が大である無機粒子が全無機粒子中30重量%以下の割合である転写シートが開示されている。この転写シートによれば、作製時間を短縮でき、歩留まりを向上させることができ、転写性と形成層の表面平滑性に優れ、かつ膜厚が均一で分布精度の良好な膜形成が可能であるとされている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び2のいずれにおいても、原材料として用いられる無機物の平均粒径はミクロンオーダーと大きいものである。そのため、誘電体層又は絶縁体層を形成するには、用いる無機物の軟化点程度の温度(600℃前後)まで加熱して焼成する必要があり、基板によっては加熱により変形等の不具合が生じる場合があった。また、焼成後において、無機物の粒子間の大きな間隙が誘電体層内部に残存し、誘電体層の性能低下の原因になるという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開平10−182919号公報
【特許文献2】特開平10−177840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、より低い温度で焼成でき、粒子間の間隙が小さく、表面の欠陥がない誘電体層又は絶縁体層を簡便かつ効率よく形成できる誘電体層又は絶縁体層形成用組成物、この組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシート、並びに、この組成物から形成された誘電体層又は絶縁体層を有するフラットパネルディスプレイ基板、及びこのフラットパネルディスプレイ基板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、無機物と熱分解性バンイダーとを含有する誘電体層又は絶縁体層形成用組成物において、前記無機物として、1〜500nmの平均粒径を有する無機微粒子を用いると、従来より低い温度で焼成可能な誘電体層又は絶縁体層形成用組成物、及びこの組成物からなるグリーンシートが得られることを見出した。また、前記組成物又はグリーンシートを焼成することで、表面の欠陥がなく、均一で高品質な誘電体層又は絶縁体層が得られること、及びこの誘電体層又は絶縁体層が形成されたフラットパネルディスプレイ基板を用いることで、画素欠陥がない高品質なフラットパネルディスプレイが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして本発明の第1によれば、平均粒径が1〜500nmの無機微粒子、及び熱分解性バインダーを含有することを特徴とする誘電体層又は絶縁体層形成用組成物が提供される。
本発明の組成物においては、前記熱分解性バインダーが、少なくとも一つの官能基を有する(メタ)アクリレート化合物の一種又は二種以上を重合して得られたアクリル樹脂であることが好ましい。
本発明の組成物は、フラットパネルディスプレイの誘電体層又は絶縁体層の形成に用いられるものであるのが好ましい。
【0012】
本発明の第2によれば、本発明の組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシートが提供される。
本発明の第3によれば、基板と、該基板上に、本発明の組成物から形成された誘電体層又は絶縁体層を有することを特徴とするフラットパネルディスプレイ基板が提供される。
本発明の第4によれば、基板上に、本発明のグリーンシートを貼付する工程と、該グリーンシートを焼成する工程とを有することを特徴とするフラットパネルディスプレイ基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の誘電体層又は絶縁体層形成用組成物は、平均粒径の小さい無機微粒子を含むものであるので、分散性に優れている。また、従来のものに比してより低い温度で焼成して誘電体層又は絶縁体層を形成することができるため、生産効率に優れている。
本発明の誘電体層又は絶縁体層形成用組成物を使用することで、無機物の粒子間の間隙が小さくなり、表面の欠陥がない誘電体層又は絶縁体層を簡便かつ効率よく形成することができる。
本発明の誘電体層又は絶縁体層形成用組成物によれば、ボイド(気泡)の発生量が少なく、均質で、絶縁性及び透明性に優れる誘電体層又は絶縁体層を形成することができる。
【0014】
本発明のグリーンシートは、本発明の誘電体層又は絶縁体層形成用組成物をフィルム状に成形して得られるものである。本発明のグリーンシートは、表面が平滑で、均一な膜質を有する。本発明のグリシートを使用することにより、基板との密着性に優れ、表面の欠陥がなく、均質で高品質な誘電体層又は絶縁体層を効率よく形成することができる。また、本発明のグリーンシートは、保存安定性及び運搬性にも優れている。
【0015】
本発明のフラットパネルディスプレイ基板は、その製造過程で焼成温度を従来ほど高温にする必要がないため、耐熱性に劣る基板を使用する場合であっても、加熱によって基板が変形する等の不具合が生じることがない。また、熱により変形しやすい材質からなる基板を使用することもできる。
本発明のフラットパネルディスプレイ基板は、表面の欠陥や気泡等がなく、耐電圧特性に優れる誘電体層又は絶縁体層を有する。本発明のフラットパネルディスプレイ基板を用いることで、画素欠陥がなく、高品質なフラットパネルディスプレイを得ることができる。
本発明のフラットパネルディスプレイ基板の製造方法によれば、簡便に、かつ効率よく本発明のフラットパネルディスプレイ基板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を、1)誘電体層又は絶縁体層形成用組成物、2)グリーンシート、並びに、3)フラットパネルディスプレイ基板及びその製造方法に項分けして詳細に説明する。
【0017】
1)誘電体層又は絶縁体層形成用組成物
本発明の誘電体層又は絶縁体層形成用組成物(以下、単に「組成物」ということがある)は、平均粒径1〜500nmの無機微粒子、及び熱分解性バインダーを含むことを特徴とする。
【0018】
(1)無機微粒子
本発明の組成物に用いる無機微粒子は、平均粒径1〜500nm、好ましくは1〜300nmのものである。このような平均粒径を有する無機微粒子を用いることで、分散性に優れる組成物を得ることができ、耐電圧特性、透明性、密着性及び絶縁性の全てに優れる誘電体層又は絶縁体層を形成することができる。また、従来のものに比してより低い温度で焼成することができ、生産効率にも優れている。
【0019】
本発明に用いる無機微粒子の最大粒径は、特に制約されないが、1μm以下であるのが、耐電圧特性、透明性、密着性及び絶縁性の全てに優れる誘電体層又は絶縁体層を形成する上で好ましい。
無機微粒子の平均粒径及び最大粒径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置等の公知の測定装置により測定することができる。
【0020】
用いる無機微粒子としては、ガラス成分の微粒子や金属酸化物の微粒子が挙げられる。より具体的には、PbO−B(酸化鉛−酸化ホウ素)系ガラスの微粒子、PbO−B−SiO(酸化鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素)系ガラスの微粒子、PbO−B−SiO−A1(酸化鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素−酸化アルミニウム)系ガラスの微粒子、PbO−BaO−SiO−A1(酸化鉛−酸化バリウム−酸化ケイ素−酸化アルミニウム)系ガラスの微粒子、ZnO−B−SiO(酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素)系ガラスの微粒子、PbO−ZnO−B−SiO(酸化鉛−酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素)系ガラスの微粒子、NaO−B−SiO(酸化ナトリウム−酸化ホウ素−酸化ケイ素)系ガラスの微粒子、BaO−CaO−SiO(酸化バリウム−酸化カルシウム−酸化ケイ素)系ガラスの微粒子、金属酸化物の微粒子等が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、PbO−B−SiO系ガラスの微粒子、PbO−B−SiO−A1系ガラスの微粒子、PbO−BaO−SiO−A1系ガラスの微粒子、酸化ケイ素の微粒子の使用が好ましい。
【0022】
平均粒径が1〜500nm、好ましくは1〜300nmの無機微粒子を得る方法としては、特に制約はなく、例えば、次に示す方法が挙げられる。
(i)原料粉末を混合し、加熱、溶融、冷却した後、ボールミル等を使用して粉砕する方法。粉砕後、さらに分散機で分散してもよい。
(ii)バルク物質にレーザーを照射することにより分解して微粒子とする方法(レーザー照射法)。
(iii)ゾル状の液体を乾燥してゲル化することによりナノ粒子を合成する方法(ゾルゲル法)。
【0023】
無機微粒子の使用量は、組成物全体に対して、通常20〜80重量%である。この範囲で無機微粒子を添加することによって、無機微粒子が均一に分散された組成物を得ることができる。
【0024】
本発明の組成物は、フラットパネルディスプレイの誘電体層や絶縁体層の形成材料として有用である。なかでも、PDPの前面板誘電体層、背面板誘電体層の形成材料として特に有用である。
【0025】
本発明の組成物をPDPの背面板誘電体層形成用組成物として用いる場合は、白色の誘電体層を得るために、さらにフィラー成分を添加することが好ましい。
フィラー成分としては、TiO(酸化チタン)、Al(アルミナ)、SiO(シリカ)、ZrO(ジルコニア)等を用いることができる。これらの中でも、TiO及びAlの使用が好ましい。
フィラー成分の平均粒径は、前記無機微粒子と同様に1〜500nmであり、最大粒径は、好ましくは1μm以下である。
【0026】
本発明の組成物をフラットパネルディスプレイの絶縁体層形成用組成物として用いる場合には、前記フィラー成分を添加することもできる。フィラー成分の具体例としては、前記PDPの背面板誘電体層形成用組成物の場合と同様のものが挙げられる。
【0027】
また、本発明においては、無機微粒子として、ガラスフリットの微粒子を用いることもできる。ガラスフリットは、無機微粒子及び所望によりフィラー成分を所定割合で混合し、得られた混合物を溶融し、次いで、冷却して得られる。得られたガラスフリットは前述したように粉砕して、平均粒径1〜500nmの微粒子にして用いる。
【0028】
前記無機微粒子とフィラー成分の混合比(重量比)は、通常、50:50〜100:0であるが、背面板誘電体層形成用組成物として用いる場合は、50:50〜95:5であり、前面板誘電体層形成用組成物又は絶縁体層形成用組成物として用いる場合は、90:10〜100:0であるのがそれぞれ好ましい。
【0029】
(2)熱分解性バインダー
本発明に用いる熱分解性バインダーとしては、結合剤としての機能を有し、焼成することにより分解して、容易に除去できる有機高分子であれば特に制限されない。
【0030】
また、熱分解性バインダーとしては、重合性単量体の一種を重合して得られる単独重合体であっても、重合性単量体の2種以上を共重合して得られる共重合体であってもよい。共重合体の形態は特に制限されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、いかなる形態のものであってもよい。
【0031】
本発明に用いる熱分解性バインダーとしては、優れたバインダーとしての役割を果たすとともに、ガラス基板との感圧接着剤としての役割、すなわち、適度なタック性及び基板との密着性を付与する役割も果たすことから、アクリル樹脂が好ましい。
【0032】
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリレート化合物の単独重合体、(メタ)アクリレート化合物の2種以上の共重合体、(メタ)アクリレート化合物と他の共重合性単量体との共重合体等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートのいずれかを表す(以下にて同じ)。
【0033】
なかでも、本発明に用いる熱分解性バインダーとしては、少なくとも一つの官能基を有する(メタ)アクリレート化合物の一種又は二種以上を重合して得られるアクリル樹脂が好ましく、少なくとも一つの官能基を有する(メタ)アクリレート化合物の一種又は二種以上と、官能基をもたない(メタ)アクリレート化合物の一種又は二種以上とを共重合して得られるアクリル樹脂がより好ましく、前記少なくとも一つの官能基を有する(メタ)アクリレート化合物由来の構成単位が、アクリル樹脂全体に対して、10重量%以上であるアクリル樹脂が特に好ましい。
【0034】
前記少なくとも一つの官能基を有する(メタ)アクリレート化合物の官能基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミド基等が挙げられる。また、前記官能基の結合位置は特に制限されない。
【0035】
前記少なくとも一つの官能基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート化合物、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレート化合物、アミド基を有する(メタ)アクリレート化合物等が挙げられ、入手容易性,及び均質な誘電体層又は絶縁体層が得られる観点から、ヒドロキシル基又はカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート化合物が好ましい。
【0036】
ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、1−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基置換アルキル(メタ)アクリレート;
2−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基置換フェニル(メタ)アクリレート;
【0037】
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;等が挙げられる。
【0038】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、カルボキシメチル(メタ)アクリレート、1−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、3−カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、2−カルボキシブチル(メタ)アクリレート、3−カルボキシブチル(メタ)アクリレート、4−カルボキシブチル(メタ)アクリレート、2−カルボキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基置換アルキル(メタ)アクリレート;
2−カルボキシフェニル(メタ)アクリレート、3−カルボキシフェニル(メタ)アクリレート、4−カルボキシフェニル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基置換フェニル(メタ)アクリレート;
【0039】
前記官能基を持たない(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
【0040】
フェノキシメチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のフェノキシアルキル(メタ)アクリレート;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;
【0041】
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;
ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
本発明に用いる熱分解性バインダーとしては、上記の(メタ)アクリレート化合物を単独重合、あるいは(メタ)アクリレート化合物の複数種を共重合することによって得られるものが好ましいが、上記以外の他の共重合性単量体をさらに加えて共重合して得られるものであってもよい。
【0043】
前記他の共重合性単量体としては、用いる重合性単量体と共重合可能な化合物であれば特に制限はない。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニル安息香酸等のスチレン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単量体;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、ビニルフタル酸等の不飽和カルボン酸系単量体;ビニルベンジルメチルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等のビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;1−ビニル−2−ピロリドン;等の一種又は二種以上が挙げられる。
【0044】
本発明に用いる熱分解性バインダーが、(メタ)アクリレート化合物と他の単量体とを共重合して得られる共重合体である場合、前記(メタ)アクリレート化合物と他の単量体との共重合比は、特に制限されないが、重量比で、好ましくは100:0〜80:20である。
【0045】
前記(メタ)アクリレート化合物等の重合性単量体を(共)重合する方法は特に制限されず、公知の重合方法を採用できる。例えば、アニオン重合法、カチオン重合法及びラジカル重合法等が挙げられる。これらのうち、簡便な操作で、収率よく目的とする熱分解性バインダーを得ることができることから、ラジカル重合開始剤を用いるラジカル重合法が好ましい。
【0046】
用いるラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、イソブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等のアゾ化合物;過酸化水素−アスコルビン酸、過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸塩−亜硫酸水素ナトリウム等のレドックス開始剤;等が挙げられる。
【0047】
重合反応終了後は、公知の方法により反応混合物から目的とする重合体(熱分解性バインダー)を単離することができる。
【0048】
また本発明においては、熱分解性バインダーとして、熱分解性バインダーのエマルションを用いることもできる。熱分解性バインダーのエマルションは、熱分解性バインダーが水相に微粒子状に分散してなるものである。
【0049】
用いる熱分解性バインダーとしては、結合剤としての機能を有し、焼成することにより分解して、容易に除去できる有機高分子であれば特に制限されない。なかでも、優れたバインダーとしての役割を果たすとともに、ガラス基板との感圧接着剤としての役割、すなわち、適度なタック性及び基板との密着性を付与する役割も果たすことから、アクリル樹脂が好ましい。用いるアクリル樹脂としては、前述したものと同様のものが挙げられる。
【0050】
本発明に用いる熱分解性バインダーのエマルションは、熱分解性バインダーを水相に微粒子状に分散させることにより得ることができる。熱分解性バインダーのエマルションの好ましい粒子径は50〜800nmである。
【0051】
本発明においては、上述した方法により製造した熱分解性バインダーのエマルションを使用することができるが、市販品をそのまま用いることもできる。市販の熱分解性バインダーのエマルションとしては、例えば、オリコックス(共栄社化学(株)製)、DuramaxB(ローム・アンド・ハース社製)等が挙げられる。
【0052】
熱分解性バインダーのエマルションの添加量は、特に制限されないが、組成物中において、無機微粒子100重量部に対し、固形分比で、通常10〜80重量部、好ましくは15〜70重量部である。熱分解性バインダーのエマルションをこのような範囲で使用するときに、無機微粒子が均一に分散してなる組成物を得ることができる。
【0053】
本発明に用いる熱分解性バインダーの重量平均分子量は、特に制限されないが、通常15,000〜400,000、好ましくは50,000〜300,000である。
【0054】
(3)誘電体層又は絶縁体層形成用組成物の調製
本発明の組成物は、上述した無機微粒子、熱分解性バインダー、及び所望により溶剤、分散剤等の原料をプレミキシングした後、分散機にかけて機械的に分散させることにより調製することができる。
【0055】
分散に用いる分散機としては特に制約はなく、例えば、ボールミル、ビーズミル、3本ロール、ニーダー等の公知の分散機が挙げられる。
【0056】
本発明の組成物中の熱分解性バインダーの配合量は、前記無機微粒子100重量部に対し、固形分比で10〜100重量部である。このような範囲で熱分解性バインダーを用いることにより、絶縁性及び透明性に優れる誘電体層又は絶縁体層を形成できる組成物が得られる。
【0057】
本発明の組成物に用いる溶剤としては、例えば、水;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類:N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセタミド、ヘキサメチルリン酸ホスホロアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;ε−カプロラクタム等のラクタム類;γ−ラクトン、δ−ラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキキシド等のスルホキシド類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。これらの中でも、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、又はこれらの2種以上からなる混合溶媒の使用が好ましく、ケトン類とエステル類との混合溶媒の使用がより好ましい。
溶剤の使用量は、組成物全体に対して、通常0〜55重量%である。
【0058】
本発明の組成物に用いる分散剤としては、界面活性剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム塩、アルキルスルホコハク酸ナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩、ホルマリン縮合物ナトリウム塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩等の陰イオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等の陽イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ソルビタンモノオレート、ラウリン酸ジエタノールアミド、デシルグルコシド、ラウリルグルコシド等の非イオン性界面活性剤;α−オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分エステル、脂肪族ポリカルボン酸塩、脂肪族ポリカルボン酸特殊シリコーン等のポリカルボン酸型高分子界面活性剤;ポリエーテルポリエステル酸、ポリエーテルポリオールポリエステル酸等のポリエーテルエステル酸類と、高分子ポリアミン等の有機アミン類とから得られる高分子分散剤(具体的には、ディスパロンDA−234(商品名、楠本化成(株)製)等)のポリエーテルエステル酸アミン塩;等が挙げられる。
【0059】
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アンモニウムクロライド、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0060】
分散剤の添加量は、組成物全体に対して、通常0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%、より好ましくは0〜3重量%となる量である。
【0061】
また本発明の組成物には、必要に応じて、可塑剤、粘着付与剤、保存安定剤、消泡剤、熱分解促進剤、酸化防止剤等の添加剤を含有させることもできる。
【0062】
可塑剤は、加工適性を向上させるために添加される。用いる可塑剤としては、アジピン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、グリコールエステル系可塑剤等が挙げられる。可塑剤の使用量は、無機微粒子100重量部に対して、0〜10重量部である。
【0063】
本発明の組成物は、フラットパネルディスプレイの誘電体層又は絶縁体層の形成用材料として有用である。本発明の組成物から得られる誘電体層又は絶縁体層は、表面の欠陥や気泡等がなく、絶縁性、透明性及び耐電圧特性等に優れる。
また後述するように、本発明の組成物は、本発明のグリーンシートの製造原料としても有用である。
【0064】
2)グリーンシート
本発明のグリーンシートは、本発明の組成物をフィルム状に成形して得られるものである。本発明のグリーンシートは、具体的には、本発明の組成物をキャリアーフィルム上に塗工し、次いで乾燥してフィルム化することによって製造することができる。
【0065】
本発明のグリーンシートを製造する一例を図1に示す。
図1において、13はキャリアーフィルム、14は本発明の誘電体層又は絶縁体層形成用組成物を塗工する塗工装置、18は誘電体層又は絶縁体層形成用組成物の塗膜を乾燥する(溶媒を除去する)乾燥装置、20a及び20bは、グリーンシート上に保護フィルムを積層する積層ロールである。
【0066】
以下、図1を参照しながら、本発明のグリーンシートの製造方法を説明する。
先ず、ロール状に巻き取られたキャリアーフィルム13が塗工装置14へ送られる。キャリアーフィルム13としては、誘電体層又は絶縁体層形成用組成物の塗膜との剥離性に優れるものであれば特に制限されない。例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のプラスチックフィルムを用いることができる。また、前記プラスチックフィルムの片面に、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、長鎖アルキル樹脂等の剥離剤を塗布したものを用いるのが好ましい。さらに、上記プラスチックフィルム上に剥離性を有する樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にポリオレフィン樹脂を押し出したものでもよい。キャリアーフィルムの厚さは、通常10〜200μmである。
【0067】
次に、塗工装置14により、キャリアーフィルム13上に組成物が塗布される。塗工装置14は貯蔵部15と塗工部16からなる。貯蔵部15は、スラリー状の組成物を貯蔵し、この組成物を一定量ずつ塗工部16に送液する。本発明の組成物は分散性及び貯蔵安定性に優れるので、貯蔵部15中において、ガラス成分等が沈降することなく均一に分散されている。また、塗工部16としては特に制限されない。例えば、ナイフコーター、ダイコーター等の公知のコーターを用いることができる。
【0068】
本発明の組成物の塗工量は、形成する組成物の塗膜17aの厚みに応じて適宜設定することができる。本発明の組成物は分散性及び貯蔵安定性に優れるので、均一な膜質を有する塗膜17aを形成することができる。
【0069】
次に、表面に組成物の塗膜17aが形成されたキャリアーフィルム13は、乾燥装置18に送り込まれる。この乾燥装置18内で組成物の塗膜17aを乾燥する(すなわち、溶剤等の揮発成分を除去する)ことにより、組成物の乾燥塗膜、すなわち、グリーンシート17がキャリアーフィルム13上に積層された積層物を得ることができる。
【0070】
前記組成物の塗膜17aを乾燥する方法としては特に制限されないが、例えば、(イ)塗膜が形成されたキャリアーフィルムを所定温度に加熱する方法、(ロ)前記塗膜表面に乾燥空気又は熱風を送り込む方法、(ハ)前記(イ)及び(ロ)を組み合わせる方法等が挙げられる。
乾燥するときの温度は、キャリアーフィルムが熱変形を生じることのない温度以下であれば特に制限されず、通常室温から150℃、好ましくは60〜130℃であり、乾燥時間は1〜10分である。
乾燥後の塗膜17aの厚みは、通常10〜200μm、好ましくは20〜120μmである。
【0071】
次いで、グリーンシート17上に保護フィルム19を積層する。
図1中、保護フィルム19はロール状に巻き取られた長尺のフィルムである。用いる保護フィルムとしては、前記キャリアーフィルムと同じものを使用することができる。保護フィルムの厚みは、通常10〜200μmである。
【0072】
グリーンシート17上に保護フィルム19を積層するには、図1中、2つの積層ロール20a及び20bの間をグリーンシート17と保護フィルム19とを通過させて、貼り合わせる(ラミネートする)。この場合、積層ロール20a及び20bの両方又は一方、例えば、保護フィルム面側のロール20bを加熱してもよい。
【0073】
以上のようにして、キャリアーフィルム13−グリーンシート17−保護フィルム19の3層からなる積層フィルム21を得ることができる。
得られた積層フィルム21は、ロール状に巻き取り、回収して保存、運搬することができる。
【0074】
以上のようにして得られる本発明のグリーンシートは、本発明の組成物をフィルム状に成形して得られたものであるので、表面が平滑で、均一な膜質を有する。
シート表面の平滑度は、平均表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)にて評価することができる。本発明のグリーンシート表面のRaは、通常0.25μm以下、好ましくは0.2μm以下であり、本発明のグリーンシートは表面の平滑度に優れる。Raは、例えば、公知の接触式表面粗さ測定器を使用して測定することができる。
【0075】
本発明のグリーンシートは、後述するように、フラットパネルディスプレイの誘電体層又は絶縁体層形成基板の製造原料として有用である。
【0076】
3)フラットパネルディスプレイ基板及びその製造方法
本発明のフラットパネルディスプレイ基板(以下、「FPD基板」ということがある)は、基板と、該基板上に本発明の組成物から形成された誘電体層又は絶縁体層を有することを特徴とする。
【0077】
本発明のFPD基板は、(A)本発明の組成物をスクリーン印刷法により基板上に塗布し、後に焼成する方法、及び(B)本発明のグリーンシートから保護フィルムを剥離した後、基板にラミネートし、次いで、キャリアーフィルムを剥離した後、該グリーンシートを焼成する方法等により得ることができるが、均一な膜厚及び膜質の、誘電体層及び絶縁体層を効率良く形成できることから、(B)の方法が好ましい。
【0078】
ここで用いる基板としては、ガラス基板、セラミック基板等が挙げられ、ガラス基板が好ましい。例えば、表面に透明電極が形成された前面板用ガラス基板、表面にデータ電極が形成された背面板用ガラス基板等が挙げられる。基板の厚みは特に制限されないが、通常1〜10mm程度である。
【0079】
本発明のFPD基板として、PDPの前面板用ガラス基板に用いられる透明誘電体層を前記(B)の方法により製造する一例を図2に示す。以下、図2を参照しながら、本発明の誘電体層形成基板等を形成する方法を説明する。図2に示すものは、図3中、前面板用ガラス基板1上に透明誘電体層5を形成する例である。
【0080】
先ず、図2(a)に示すように、積層フィルム21の片面の保護フィルム19を剥離除去する。
次に、図2(b)に示すように、グリーンシート17を、表面に透明電極3が形成された前面板用ガラス基板1上(透明電極3が形成されている側)に熱圧着する。熱圧着は、例えば、加熱ローラーを用いて、加熱温度70〜130℃、圧力0.05〜1.0MPaの条件で行うことができる。本発明の組成物中の熱分解性バインダーは、バインダーであるとともに感圧性接着剤でもあるため、簡便な作業により、グリーンシート17をガラス基板1に均一に貼着することができる。
【0081】
次いで、図2(c)に示すように、グリーンシート17からキャリアーフィルム13を剥離除去し、グリーンシート17が熱圧着されたガラス基板1を焼成する。この過程で、組成物中の熱分解性バインダーが熱分解し、有機成分が完全に除去される。
【0082】
グリーンシート17が熱圧着されたガラス基板を焼成する方法としては、例えば、グリーンシート17が熱圧着されたガラス基板を加熱炉の中に入れて全体を加熱する方法が挙げられる。
【0083】
焼成温度は、熱分解性バインダーが熱分解し、有機成分が完全に除去され、かつ、無機成分が均一な溶融状態となって溶融し、均一化する温度である。この焼成温度は、通常、グリーンシート中の無機成分の軟化点付近の温度であるとされている。
【0084】
本発明においては、本発明のグリーンシートに含まれる無機成分が、平均粒子径がナノメートルオーダーの無機微粒子であるので、従来より低い温度で短時間で焼成することができる。従って、生産効率を向上させることができ、加熱焼成により基板が高温により変形するおそれが少ない。
【0085】
具体的には、焼成温度は、通常500〜590℃、好ましくは510〜580℃である。本発明の組成物は、平均粒径が1〜500nmの無機微粒子を含有するものであるため、従来に比して低い温度で焼成することで、目的とする誘電体層又は絶縁体層を形成することができる。焼成時間は通常1分から3時間、好ましくは5分〜60分である。
【0086】
また本発明においては、本焼成の前に、300〜450℃の温度で10〜60分間仮焼成を行うのが、より均一な膜質及び厚みで、透明性、表面平滑性に優れる誘電体層を得ることができることから好ましい。
【0087】
焼成後は、冷却することにより、図2(d)に示すように、厚さ5〜100μm、好ましくは5〜90μmの透明誘電体層5が積層されたガラス基板1を得ることができる。
【0088】
以上のようにして得られる透明誘電体層5は、高い全光線透過率を有し、かつヘイズ値が低いものであって、透明性に優れている。
【0089】
透明誘電体層5の全光線透過率は、好ましくは80%以上である。また透明誘電体層のヘイズは、好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下である。透明誘電体層の全光線透過率及びヘイズは、例えば、HAZEMETER測定装置等を用いて測定することができる。
【0090】
なお、本実施形態では、PDPの前面板用ガラス基板1に用いられる透明誘電体層5を形成する場合について説明したが、背面板用ガラス基板2に対する白色誘電体層6や、セラミック基板上に形成する誘電体層又は絶縁体層、FEDに用いられる絶縁体層、回路基板上の誘電体層又は絶縁体層等も同様にして形成することができる。
【0091】
以上のようにして形成される誘電体層又は絶縁体層は、平均粒径の小さい無機微粒子を用いてなる本発明の組成物から得られたものであるため、表面の平坦性、密着性に優れ、表面の欠陥がなく、気泡がなく、均一な誘電特性又は絶縁特性を有する。
【0092】
得られる誘電体層又は絶縁体層表面の平均表面粗さ(Ra)は、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.1μm以下であり、白色誘電体層の場合には、0.05〜0.3μmが好ましい。Raは、例えば、接触式表面粗さ測定器を用いて測定することができる。
【0093】
得られる誘電体層又は絶縁体層は、表面の欠陥が少ないものである。誘電体層又は絶縁体層の表面の欠陥の程度は、例えば、目視又は光学顕微鏡を用い、単位面積(100mm×100mm)当たりの欠点(50μm以上)の数を確認することによって評価することができる。本発明においては、誘電体層又は絶縁体層を光学顕微鏡を用いて目視観察したときに、表面の欠陥が無い(0個)ことが好ましい。
【0094】
得られる誘電体層又は絶縁体層は、気泡が少ないものである。得られる誘電体層又は絶縁体層の気泡は、例えば、目視又は光学顕微鏡を用い、単位面積(100mm×100mm)当たりの気泡(50μm以上)の数を確認することによって評価することができる。
得られる誘電体層又は絶縁体層を光学顕微鏡を用いて目視観察したときに、気泡は無い(0個)ことが好ましい。
【0095】
得られる誘電体層又は絶縁体層は、表面の平坦性に優れ、気泡が少ないものであるので、誘電体層であれば、均一な誘電特性及び優れた耐電圧特性を有し、絶縁体層であれば、優れた絶縁特性を有する。
【0096】
誘電体層の耐電圧は、前面板用にあっては、1.5kV以上、背面板用にあっては、0.5kV以上必要である。耐電圧は、例えば、誘電体層の上に評価用の電極を形成して耐電圧測定用サンプルを作製し、耐電圧測定機を用いることにより測定することができる。
【0097】
本発明のFPD基板を用いることにより、高品質なフラットパネルディスプレイを製造することができる。フラットパネルディスプレイとしては、PDP、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置等が挙げられ、PDPであるのが特に好ましい。
【0098】
例えば、本発明のFPD基板がPDP基板である場合には、基板としてガラス基板を用い、誘電体層形成ガラス基板を製造し、この誘電体層形成ガラス基板を用いることによって、プラズマディスプレイ点灯時のプラズマ放電電圧に耐え、画素欠陥の少ない高品質なPDPを製造することができる。
【実施例】
【0099】
次に実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0100】
無機微粒子、熱分解性バインダー、分散剤、及び溶剤は、次のものを用いた。
1)無機微粒子
(1)ガラスフリットA:ゾルゲル法にて作製した、〔PbO(60重量%)−B(10重量%)−SiO(25重量%)−Al(5重量%)〕のガラスフリット(平均粒径:50nm)
(2)シリカ(SiO)微粒子B(平均粒径:10nm、日産化学工業(株)製)
(3)ガラスフリットC:〔PbO(60重量%)−B(10重量%)−SiO(25重量%)−Al(5重量%)〕のガラスフリット(平均粒径:2.0μm)
【0101】
2)熱分解性バインダー
(1)熱分解性バインダーA:2−エチルヘキシルメタクリレート(2−EHMA)と2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を90:10で共重合して得られた、固形分50%の樹脂(重量平均分子量:約100,000)
(2)熱分解性バインダーB:2−エチルヘキシルメタクリレート(2−EHMA)と2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を90:20で共重合して得られた、固形分50%の樹脂(重量平均分子量:約100,000)
(3)熱分解性バインダーC:2−エチルヘキシルメタクリレート(2−EHMA)と2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を97:3で共重合して得られた、固形分50%の樹脂(重量平均分子量:約100,000)
(4)熱分解性バインダーD:濃度45重量%アクリル樹脂エマルション(商品名:DuramaxB−1014、ローム・アンド・ハース社製)
(5)熱分解性バインダーE:2−エチルヘキシルメタクリレートとブチルメタクリレート(BMA)とアクリル酸を50:30:20で共重合して得られた、固形分50%の樹脂(重量平均分子量:約100,000)
【0102】
3)分散剤
無水マレイン酸−αオレフィン共重合体(G700,共栄社化学(株)製)
4)溶剤
メチルイソブチルケトン(実施例3以外)
【0103】
(実施例1)
前記ガラスフリットA 100重量部、熱分解性バインダーA 50重量部、分散剤0.5重量部、及び溶剤20重量部を、ビーズミル系分散機を用いて分散させることにより、実施例1の誘電体層形成用組成物のスラリーを調製した。
【0104】
キャリアーフィルムとして、片面をシリコーン樹脂により厚さ0.1μmで剥離処理された厚さ38μmの長尺のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。このフィルムの剥離処理された面上に、上記で得たスラリーをナイフコーターを用いて塗布した。次いで、100℃で2分間乾燥して、PETフィルム上に厚さ90μmのグリーンシート1を得た。
【0105】
次に、上記で得たグリーンシート1上に、前記PETフィルムと同じ長尺の、片面をシリコーン樹脂により厚さ0.1μmで剥離処理された保護用PETフィルムの剥離処理面をロール間圧着させることにより、PETフィルム−グリーンシート−PETフィルムの3層が積層されてなる積層フィルムを得た。
【0106】
次いで、上記で得たグリーンシート1上の保護用PETフィルムを剥離除去し、積層フィルムをグリーンシート面側にして、表面に透明電極が形成された厚さ3mmのガラス基板(100mm×100mm)表面に重ね合わせ、加熱ローラーを用いて熱圧着(100℃、0.5MPa)した。
【0107】
その後、キャリアーフィルム(PETフィルム)を剥離除去し、加熱炉内に入れ、昇温速度10℃/分で400℃まで昇温し、同温度で30分間加熱して、グリーンシート1内の樹脂を熱分解除去した。さらに580℃に昇温し、同温度で30分間焼成して、厚さ40μmの誘電体層が形成された誘電体層形成ガラス基板1を得た。
【0108】
(実施例2)
実施例1において、ガラスフリットAの代わりにシリカ微粒子Bを用い、熱分解性バインダーAの代わりに熱分解性バインダーBを用いた以外は実施例1と同様にしてグリーンシート2及び誘電体層形成ガラス基板2を得た。
【0109】
(実施例3)
前記ガラスフリットA 100重量部、熱分解性バインダーD 53重量部を、ビーズミル系分散機を用いて分散させることにより、実施例3の誘電体層形成用組成物のスラリーを調製した。なお、実施例3で用いた熱分解性バインダーDはエマルション系であり、溶剤は使用しなかった。
得られたスラリーを用いて実施例1と同様にしてグリーンシート3及び誘電体層形成ガラス基板3を得た。
【0110】
(実施例4)
実施例1において、熱分解性バインダーAの代わりに熱分解性バインダーEを用いた以外は実施例1と同様にしてグリーンシート4及び誘電体層形成ガラス基板4を得た。
【0111】
(実施例5)
実施例1において、熱分解性バインダーAの代わりに熱分解性バインダーCを用いた以外は実施例1と同様にしてグリーンシート5及び誘電体層形成ガラス基板5を得た。
【0112】
(比較例1)
ガラスフリットAの代わりに、ガラスフリットCを用いた以外は実施例1と同様にしてグリーンシート6及び誘電体層形成ガラス基板6を得た。
【0113】
(平均表面粗さ(Ra)の測定)
実施例1〜5及び比較例1で得た、グリーンシート1〜6、及び誘電体層形成ガラス基板1〜6の誘電体層の表面の平均表面粗さ(Ra)を、接触式表面粗さ測定器(SV3000、(株)ミツトヨ製)を使用して測定し、表面の平滑度を評価した。Raが小さいほど、平滑性に優れている。測定結果を第1表に示す。
【0114】
(誘電体層の全光線透過率及びヘイズの測定)
実施例1〜5、及び比較例1で得た誘電体層形成ガラス基板1〜6の誘電体層の全光線透過率及びヘイズを、HAZEMETER測定装置(HAZE Meter、型式:NDH2000、日本電色工業(株)製)により測定した。全光線透過率及びヘイズの測定結果を第1表に示す。
【0115】
(誘電体層の気泡の有無評価試験)
実施例1〜5、及び比較例1で得た誘電体層形成ガラス基板1〜6の誘電体層表面と電極両端部を光学顕微鏡で観察して、単位面積(100mm×100mm)当たりの気泡(50μm)の有無を評価した。気泡がない場合を無、気泡がある場合を有とした。評価結果を第1表に示す。
【0116】
(表面の欠陥の有無の評価試験)
実施例1〜5、及び比較例1で得た誘電体層形成ガラス基板1〜6の誘電体層の表面の欠陥の有無を、光学顕微鏡を用い、単位面積(100mm×100mm)当たりの欠点(50μm)の有無で評価した。
表面の欠陥がない場合を無、欠陥がある場合を有とした。評価結果を第1表に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
第1表より、実施例1〜5のグリーンシート1〜5は、Raが0.20μm以下であり、誘電体層形成ガラス基板1〜5の誘電体層の表面は、Raが0.08μm以下であり、いずれも表面の平滑度に優れるものであった。一方、比較例1のグリーンシート6、及び誘電体層形成ガラス基板6の誘電体層は表面の平滑度が劣っていた。
また、実施例1〜5の誘電体層形成ガラス基板1〜5は、透明性に優れ、気泡がなく(特に電極の両端部)、表面の欠陥がなく、良好な耐電圧を有していた。一方、比較例1の誘電体層形成ガラス基板6は、表面の欠陥があり、気泡が多く観察され、透明性に劣り、耐電圧が低いものであった。
以上のことから、実施例1〜5の誘電体層形成ガラス基板は、フラットパネルディスプレイ基板、特にPDPの誘電体層付前面板用ガラス基板として有用であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明のグリーンシートを製造する工程概略図である。
【図2】本発明の誘電体層形成基板の形成方法を示す工程断面図である。
【図3】プラズマディスプレイパネルの一例の構造断面図である。
【符号の説明】
【0120】
1…前面板用ガラス基板、2…背面板用ガラス基板、3…透明電極、4…データ電極、5…誘電体層(前面板誘電体層)、6…誘電体層(背面板誘電体層)、7…保護膜、8…リブ(隔壁)、9…蛍光体、13…キャリアーフィルム、14…塗工装置、15…貯蔵部、16…塗工部、17a…誘電体層形成用組成物の塗膜、17…グリーンシート、18…乾燥装置、19…保護フィルム、20a、20b…積層ロール、21…積層フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1〜500nmの無機微粒子、および熱分解性バインダーを含有することを特徴とする誘電体層または絶縁体層形成用組成物。
【請求項2】
前記熱分解性バインダーが、少なくとも一つの官能基を有する(メタ)アクリレート化合物の一種または二種以上を重合して得られたアクリル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体層または絶縁体層形成用組成物。
【請求項3】
フラットパネルディスプレイの、誘電体層または絶縁体層の形成に用いられるものである請求項1または2に記載の誘電体層または絶縁体層形成用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシート。
【請求項5】
基板と、該基板上に、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物から形成された誘電体層または絶縁体層を有することを特徴とするフラットパネルディスプレイ基板。
【請求項6】
請求項4に記載のグリーンシートを基板上に貼付する工程と、該グリーンシートを焼成することにより、誘電体層または絶縁体層を形成する工程とを有することを特徴とするフラットパネルディスプレイ基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−269261(P2006−269261A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85962(P2005−85962)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】