説明

誘電体層形成用組成物、MIMキャパシタ及びその製造方法

【課題】比誘電率及び耐電圧特性に優れた誘電体層形成用組成物、MIMキャパシタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ペロブスカイト型誘電体結晶の微粒子と、ガラスフリットと、加水分解性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとを含むことを特徴とする誘電体層形成用組成物。及び、下部電極層と、ペロブスカイト型誘電体結晶の微粒子がガラス形成イオンを含む酸化ケイ素マトリックス中に分散している構造の誘電体層と、上部電極層とが基体上にこの順で設けられていることを特徴とするMIMキャパシタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘電体層形成用組成物、MIMキャパシタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属などの導電性膜からなる下部電極及び上部電極により挟持されてなるMIM(Metal−Insulator−Metal)キャパシタ用の誘電体層や、エレクトロルミネッセンス素子における発光層にかかる電圧の安定化のために用いる誘電体層を塗布法により作製するために、チタン酸バリウム系やチタン酸鉛系などの高い誘電率を持つ誘電体酸化物を含有する誘電体層形成用組成物が使用されている。また、高周波デバイスにおいては、電気長を縮小できることからハイブリット基板作製用の材料としても誘電体層形成用組成物が利用されている。
【0003】
従来の誘電体層形成用組成物としては、誘電体結晶の微粒子、ガラスフリット及び有機ビヒクルからなる流動性の組成物が用いられており、これらをスクリーン印刷やドクターブレード法などによって基体上に塗布し、乾燥して有機ビヒクルを除去し、焼成によりガラスフリットを溶融させて誘電体層付き基体を得ていた。しかしながら、緻密な誘電体層を得るために多量のガラスフリットを混在させると比誘電率の低下に繋がり、一方、ガラスフリットを少量にすると誘電体層中に空隙が多く発生してしまい、やはり比誘電率の低下を引き起こすという問題点があった。また、特に鉛系の誘電体結晶微粒子を用いる場合には、高温焼成時にガラスフリット中に鉛が拡散するため、ガラスフリットの含有量を多くした場合には誘電体結晶の分解を引き起こすおそれがあった。
【0004】
このような問題点を解決すべく、特許文献1には、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂及びポリイミド系樹脂といった疎水性樹脂をバインダーとして含む誘電体層形成用組成物を用いて、誘電体結晶微粒子を結合した構成の誘電体層を備えたMIMキャパシタを得る方法が開示されている。しかしながら、上記樹脂を主体とするバインダーを用いて厚膜状(特に、1μm以上の層厚を有するもの)で、かつ緻密な誘電体層を得ることは困難であり、充分な耐電圧特性、比誘電率が得られにくいという問題があった。
【0005】
一方、特許文献2には、誘電体結晶微粒子と、加水分解性ケイ素化合物とを含む誘電体層形成用組成物が開示されている。このような組成物を用いれば500℃以下の低温での焼成によって誘電体層を形成可能であり、かつ、誘電体層の寸法精度も向上できる。しかしながら、加水分解性ケイ素化合物のみをバインダとして用いて緻密な誘電体層を形成することは困難であった。また、加水分解性ケイ素化合物の架橋収縮によって誘電体層にクラックやピンホールが発生して耐電圧が低下したり、焼成温度によっては基体の反りなどの問題が発生するおそれがあった。
【0006】
【特許文献1】特開2003−11270号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−7135号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記したような従来技術の問題点に鑑み、膜中にクラックやピンホールが発生することなく、耐電圧特性や比誘電率特性を向上させることのできる誘電体層形成用組成物、MIMキャパシタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の構成を有することを特徴とするものである。
(1)ペロブスカイト型誘電体結晶の微粒子と、ガラスフリットと、加水分解性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとを含むことを特徴とする誘電体層形成用組成物。
(2)前記誘電体結晶の微粒子がPb(Mg1/3Nb2/3)O、PbTiO、PbZrO、BaTiO、SrTiO及びそれら相互の固溶体からなる群より選ばれる1種以上である請求項1に記載の誘電体層形成用組成物。
(3)前記ガラスフリットが酸化ケイ素、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化アルミニウム及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる2種以上の酸化物を含む(1)又は(2)に記載の誘電体層形成用組成物。
【0009】
(4)前記加水分解性ケイ素化合物がSi−C結合を含む加水分解性ケイ素化合物又はそのオリゴマーである請求項(1)〜(3)のいずれかに記載の誘電体層形成用組成物。
(5)前記誘電体結晶の微粒子の酸化物基準での含有量と、前記ガラスフリットの酸化物基準での含有量と、前記ケイ素化合物のSiO基準での含有量との比が[誘電体結晶の微粒子]/[ガラスフリット+ケイ素化合物]=95/5〜50/50である(1)〜(4)のいずれかに記載の誘電体層形成用組成物。
(6)前記ガラスフリットの酸化物基準での含有量と、前記ケイ素化合物のSiO基準での含有量との比が、[ガラスフリット]/[ケイ素化合物]=5/95〜50/50である請求項(1)〜(5)のいずれかに記載の誘電体層形成用組成物。
【0010】
(7)下部電極層と、ペロブスカイト型誘電体結晶の微粒子がガラス形成イオンを含む酸化ケイ素マトリックス中に分散している構造の誘電体層と、上部電極層とが基体上にこの順で設けられていることを特徴とするMIMキャパシタ。
(8)前記誘電体層の層厚が1〜50μmである(7)に記載のMIMキャパシタ。
(9)前記マトリックス中にSi−C結合を含む(7)又は(8)に記載のMIMキャパシタ。
【0011】
(10)基体上に2層の電極層と該電極層間に挟持された誘電体層とを有するMIMキャパシタを製造する方法において、下記工程A〜Cをこの順に含むことを特徴とするMIMキャパシタの製造方法。
工程A:基体上に下部電極層を形成する工程。
工程B:請求項1に記載の誘電体層形成用組成物を塗布し、乾燥後300〜1000℃で焼成して酸化ケイ素を形成することにより、ペロブスカイト型誘電体結晶の微粒子がガラス形成イオンを含む酸化ケイ素マトリックス中に分散している構造の誘電体層を形成する工程。
工程C:上部電極層を形成する工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明の誘電体層形成用組成物を用いれば、高い耐電圧特性と比誘電率を併せ持つMIMキャパシタを簡便に得ることができる。特に、誘電体層が厚膜状であってもクラックが発生しにくく、高温で焼成を行っても基体の反りも生じにくいため、無機エレクトロルミネッセンス素子をはじめとする様々な素子への応用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、ペロブスカイト型誘電体結晶の微粒子(以下、単に誘電体結晶微粒子ともいう。)とは、一般式ABOで表されるペロブスカイト型の結晶構造を有する誘電体からなり、具体的には、Pb(Mg1/3Nb2/3)O、PbTiO、PbZrO、BaTiO、SrTiO及びそれら相互の固溶体からなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましい。この誘電体結晶微粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、10〜1000nmが好ましい。
【0014】
次に、本発明の誘電体層形成用組成物中には、ガラスフリットを含んでいることが重要である。このガラスフリットは、誘電体層形成用組成物から誘電体層を形成する過程において、焼成によって融着し、誘電体結晶微粒子の結合剤として働く。本発明において、ガラスフリットとしては酸化ケイ素、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化アルミニウム及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる2種以上の酸化物を含むものを用いると好ましく、組成を制御することによって焼成温度、結合性を調節しうる。また、ガラスフリットの軟化点が500〜700℃であると、基体との密着性やバインダとしての特性を発現させやすい点で好ましい。
【0015】
また、本発明の誘電体層形成用組成物中には、ゾルゲル法によりシロキサン結合を形成するケイ素化合物(以下、単にケイ素化合物ともいう。)を含む。このケイ素化合物は、焼成により縮合して酸化ケイ素マトリックスとなる成分であり、この酸化ケイ素マトリックスは、上記ガラスフリットと同様に誘電体結晶微粒子の結合剤として働き、誘電体層の耐電圧特性を向上させる働きを有する。ここで、酸化ケイ素とは、厳密にSiOの組成になっている必要はなく、シロキサン結合の網目構造を有する非晶質成分として存在していればよい。
【0016】
本発明では、上記ケイ素化合物として加水分解性ケイ素化合物又はそのオリゴマーを用いる。特に一般式RSi(R’)4−aで表される加水分解性ケイ素化合物やそのオリゴマーを用いることが好ましい。その他、シラザンなどの酸化ケイ素となりうるケイ素化合物を使用することもできる。
【0017】
上記一般式において、Rはケイ素原子に直結する炭素原子を有する有機基を表し、炭素原子数1〜8のアルキル基が好ましく、特に炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基が最も好ましい。R’は加水分解性基を表し、ケイ素原子に直結する酸素原子や窒素原子を有する有機基、ハロゲン原子、アミノ基などが好ましい。ケイ素原子に直結する酸素原子を有する有機基としては、炭素原子数1〜8のアルコキシ基やアシル基が好ましく、ケイ素原子に直結する窒素原子を有する有機基としては、アルキルアミノ基やイソシアネート基が好ましい。R’としては、炭素数1から4のアルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基とエトキシ基が好ましい。aは0〜2の整数であり、特に0又は1であることが好ましい。2種以上の上記化合物の混合物の場合の平均のaは整数でなくてもよい。aが2の場合の2個のRは異なっていてもよく、2〜4個のR’も互いに異なっていてもよいが、複数個のR、複数個のR’はそれぞれ通常は同一の基である。
【0018】
上記一般式で表されるケイ素化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランなどのテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシランなどのアルキルトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランなどのジアルキルジアルコキシシラン類などが挙げられる。
【0019】
上記加水分解性ケイ素化合物のオリゴマーは、加水分解性ケイ素化合物を部分的に加水分解縮合して得られるオリゴマーであり、その縮合度は特に限定されるものではないが、常温で液状又は溶媒可溶性である程度の縮合度を有するオリゴマーであることが好ましい。
【0020】
ここで、aが0でない上記ケイ素化合物やそのオリゴマーを用いると、Si−C結合を含む酸化ケイ素を形成でき、誘電体層中の応力を緩和する効果を高めることができるため好ましい。aが0でない上記ケイ素化合物としては、aが1の化合物が好ましい。Si−C結合を含む酸化ケイ素は、aが0でない上記ケイ素化合物もしくはそのオリゴマーから、又は、aが0でない上記ケイ素化合物とaが0の上記ケイ素化合物の混合物もしくはその混合物から得られるオリゴマーから、形成されることが好ましい。特に、aが1である上記ケイ素化合物もしくはそのオリゴマー、又は、aが1である上記ケイ素化合物を主成分としてaの平均が0.5〜1.5である上記ケイ素化合物の混合物もしくはそのオリゴマーから、形成されることが好ましい。特にaが1である上記ケイ素化合物やそのオリゴマーを使用することにより、前記有機ケイ素化合物の加水分解縮合反応で副生する水やアルコール及び前記Rの一部が分解して生じる化合物などが焼成の際に抜けた場合の穴が小さく、ピンホールになりにくい。
【0021】
上記オリゴマーとして、硬化性メチルシリコーン樹脂や硬化性メチルフェニルシリコーン樹脂などの硬化性オルガノシリコーン樹脂を使用することもできる。硬化性オルガノシリコーン樹脂はケイ素原子に結合した有機基とケイ素原子に結合した水酸基又はアルコキシ基を有するシリコーンオリゴマーであり、ケイ素原子に結合した水酸基又はアルコキシ基の脱水、脱アルコール縮合反応により硬化する。硬化性オルガノシリコーン樹脂は、オルガノトリクロロシランを主とするクロロシラン類の加水分解縮合により得られる。オルガノトリクロロシランとしては、メチルトリクロロシランやフェニルトリクロロシランが使用される。場合により、オルガノトリクロロシランとともに、ジオルガノジクロロシラン、テトラクロロシラン、トリオルガノモノクロロシランなどが共縮合される。たとえば、硬化性メチルシリコーン樹脂は、通常、メチルトリクロロシランとジメチルジクロロシランの加水分解縮合により得られる、ケイ素原子に結合したメチル基とケイ素原子に結合した水酸基又はメトキシ基を有するシリコーンオリゴマーである。
【0022】
さらに、本発明の誘電体層形成用組成物中には、有機ビヒクルを含んでいてもよい。有機ビヒクルとは、上記3成分(誘電体結晶微粒子、ガラスフリット及びケイ素化合物)を含む組成物を基体上に塗布する際のバインダーとなる樹脂と、必要に応じて溶媒とを含むものであり、後述する塗布方法に応じて組成物に適切なレオロジー特性を与える役目をも担っている。有機ビヒクルとしては、塗布方法等に合わせて好適なものを用いればよく、例えば、スクリーン印刷法によって誘電体層を形成する場合にはエチルセルロースなどのセルロース誘導体樹脂を、α−テルピネオールなどの有機溶媒に溶解させたビヒクルを用いると好ましい。なお、ケイ素化合物としてシリコーン樹脂などを用いた場合には、シリコーン樹脂そのものがバインダーやレオロジー調整剤としての働きを併せ持っていることがあるため、有機ビヒクルは必須の成分とはならない。
【0023】
本発明の誘電体層形成用組成物は、上記の成分を所定の比率で混合して作製される。混合の方法としては公知の技術を用いることができ、具体的にはボールミル、ジェットミル、ロールミルなどが用いられる。もちろん、本誘電体層形成用組成物中には、誘電体結晶微粒子の分散を助けるための分散剤や、塗膜の濡れ性やレベリング性を向上させるための各種添加剤を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の誘電体層形成用組成物において、誘電体結晶微粒子の酸化物基準での含有量と、ガラスフリットの酸化物基準での含有量と、ケイ素化合物のSiO基準での含有量との比は[誘電体結晶微粒子]/[ガラスフリット+ケイ素化合物]=95/5〜50/50であることが好ましい。誘電体結晶微粒子が上記範囲より多くなると誘電体層としての機械的強度に乏しいものになるおそれがあるし、上記範囲より少なくなると誘電体層としての比誘電率が低下するおそれがあるため、いずれも好ましくない。
【0025】
また、ガラスフリットの酸化物基準での含有量と、ケイ素化合物のSiO基準での含有量との比は、[ガラスフリット]/[ケイ素化合物]=5/95〜50/50であることが好ましい。ガラスフリットが上記範囲よりも多くなると、特に高温焼成時において、前述のガラスフリットを用いた際の問題点が無視できなくなるおそれがあるし、上記範囲よりも少なくなると膜中にクラックが入りやすくなり、緻密な誘電体層を形成できなくなるおそれがある。特に好ましくは、[誘電体結晶微粒子]/[ガラスフリット+ケイ素化合物]=95/5〜50/50とし、かつ、[ガラスフリット]/[ケイ素化合物]=5/95〜50/50の範囲とする。
【0026】
次に、本発明のMIMキャパシタは、以下のようにして製造することができる。
一般に、MIMキャパシタは絶縁性表面を有する基体上に、下部電極層/誘電体層/上部電極層がこの順で設けられた構成となっている。基体としてはガラス基板を用いることが好ましいが、シリコン基板などの半導体基板やセラミックス基板なども好適に使用できる。
【0027】
本発明のMIMキャパシタは、導電性膜からなる2層の電極層によって誘電体層が挟持されるように構成される。ここで、2層の電極層(上部電極層及び下部電極層)は同一の物質を主体として構成されていても、異なる物質から構成されていてもよい。該導電性膜は銀、金、白金、アルミニウム、チタン、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどを主体とする金属膜であると好ましいが、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化ルテニウムなどを主体とする導電性の金属酸化物膜であってもよい。ここで、上記上部電極層及び下部電極層を形成する方法(工程A及び工程C)は特に限定されず、公知の方法、すなわちスパッタリング法や真空蒸着法、化学気相成長法、塗布法などを使用できる。このうち、塗布法は、特殊で高価な装置を必要とせず、もっとも安価かつ簡便に導電性膜を形成でき好ましい。例えば、銀ペーストをはじめとする導電性ペーストや、導電性フィラーとガラスフリットとを含む、いわゆる導電性フリットペーストを基体上に塗布した後、焼成して導電性膜を形成する方法が好適に用いられる。また、これらの導電性膜は異種同士を積層してあってもよい。例えば、チタン膜と白金膜を積層すれば、基体との密着性の高い電極が得られることが知られている。
【0028】
本発明のMIMキャパシタは、上記の2層の電極層間に、ペロブスカイト型誘電体結晶の微粒子がガラス形成イオンを含む酸化ケイ素マトリックス中に分散している構造の誘電体層を備える。この誘電体層は、本発明の誘電体層形成用組成物を下部電極層上に塗布し、乾燥後300〜1000℃で焼成して酸化ケイ素を形成することにより製造することができる(工程B)。焼成温度が300℃未満であると、フリットの融着が起こらないか、又はケイ素化合物の縮合が十分に起こらないために得られる誘電体層の機械的強度や比誘電率が低下するおそれがある。一方、1000℃を超える焼成温度としても特性の向上はあまり見られず、非経済的である。特に鉛系の誘電体結晶微粒子及び/又はガラスフリットを用いる場合には、鉛の昇華が起こるために焼成の上限温度は注意して設定する必要がある。また通常、焼成の上限温度は基体の耐熱性によって支配されるため、たとえばガラス基板又は導電性膜(下部電極)付ガラス基板上に誘電体層を形成する場合には、焼成の上限温度を600〜700℃に抑えて焼成を行えば、誘電体層にクラックが発生しにくく、かつ、基板の反りも抑制できるため好ましい。焼成時間は温度や雰囲気によっても異なるが、好ましくは1分〜6時間で行われる。
【0029】
なお、誘電体層形成用組成物を下部電極層上に塗布する方法については特に限定はされず、公知の方法を用いることができる。一例を挙げるとスクリーン印刷法、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、転写印刷法、カーテンフローコート法、ミスト法などがある。なかでも、厚膜状の誘電体層を精度よく塗布する方法としては、スクリーン印刷法が好適に用いられる。
【0030】
本発明のMIMキャパシタにおいて、誘電体層の層厚は1〜50μmであると好ましい。層厚が1μm未満では所望の比誘電率、特に耐電圧特性などが得られないおそれがあるし、層厚が50μmを超えると誘電体層中にクラックが発生して比誘電率が低下するおそれがある。特に好ましくは、誘電体層の層厚を1〜30μmとする。なお、塗布−乾燥−焼成からなる一回のプロセスで所望の層厚が得られない場合には、このプロセスを繰り返して行うことができることはもちろんである。
【0031】
ここで、マトリックス中にSi−C結合を含むと、誘電体層の膜中の応力を緩和でき、反りなどの発生を防ぎ、優れた耐電圧特性を発現できるため好ましい。また、マトリックス中のガラス形成イオンとしては鉛、ビスマス、ホウ素、アルミニウム、亜鉛、チタン、錫、ジルコニウム、ニオブ、タンタルなどからなる群より選ばれる2種以上のイオンを含むことが好ましい。なかでもガラス形成イオンが鉛、ビスマス、ホウ素、アルミニウム及び亜鉛からなる群より選ばれる2種以上のイオンであると、誘電体結晶微粒子の結合性及び基体との密着性の点で好ましい。さらに、誘電体結晶微粒子として異方性の結晶微粒子を用いれば、誘電体層中の誘電体結晶微粒子の配向性を向上でき好ましい。
【0032】
上記のようにして下部電極層上に誘電体層を形成した後、該誘電体層上に上部電極層を形成して本発明のMIMキャパシタが得られる。上部電極層を形成する方法(工程C)は特に限定されず、下部電極層を形成する際に使用した方法と同等の方法を用いればよい。また、本発明のMIMキャパシタの耐電圧は200V以上であると好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるわけではない。なお、得られた誘電体層の電気特性の評価は、以下のようにして行った。
【0034】
層厚:触針式表面粗さ測定装置(Sloan社製、DekTak2020)を用いて測定した。
【0035】
比誘電率:インピーダンスアナライザ(Agilent製、4192A)とテストセット(16451A)を用いて、1MHzにおいて測定した。
【0036】
耐電圧特性:誘電率測定に用いた試料に直流定電圧定電流電源(菊水電子工業製、PAD500−0.6A)を接続し、デジタルマルチメータを用いて、試料の絶縁破壊が起こった電圧、電流を測定した。
【0037】
[例1]
酸化マグネシウム4.43gと酸化ニオブ26.58gとを、少量のエタノールを用いて自動乳鉢で1時間湿式混合したのち乾燥させ、アルミナ製の蓋つきこう鉢に入れて電気炉中、1000℃で8時間焼成を行った。徐冷却後、得られた焼成粉に、66.9gの酸化鉛を加えて湿式混合し、再度蓋つきこう鉢に入れて電気炉中、900℃で4時間の焼成を行い、Pb(Mg1/3Nb2/3)O(PMN)微粒子を得た。得られた微粒子の生成相をX線回折によって確認したところ、ペロブスカイト相のみからなる結晶の微粒子(平均粒径:800nm)であった。
【0038】
得られたPMN微粒子10重量部と、ガラスフリット(酸化物基準のモル%表示で、SiO:58.2%、Bi:15.0%、TiO:9.0%、LiO:15.0%、NaO:0.1%、KO:2.4%、CeO:0.4%、軟化点:565℃)を0.5重量部と、エチルセルロースを10質量%含むα−テルピネオール10重量部とを混合し、自動乳鉢で1時間混練した。さらにメチルトリメトキシシラン(MTMS)4重量部(SiO基準での含有量:1.8重量部)、硬化性メチルシリコーン樹脂4重量部(SiO基準での含有量:2重量部)を添加し、さらに1時間混練してペースト状の誘電体層形成用組成物を得た。あらかじめ銀ペーストを用いて厚さ1μmの電極層を形成した50mm角のガラス基板(旭硝子製:商品名PD200)上に、250メッシュのステンレスマスク(50mm角)を用いたスクリーン印刷によって誘電体層形成用組成物を塗布し、180℃で15分乾燥させた後、650℃に保った電気炉に投入して30分間、焼成を行った。得られた誘電体層の層厚は7μmであった。さらに、該誘電体層上に、真空蒸着法によってアルミニウム電極(13mmφ)を形成して比誘電率、耐電圧の評価用試料とした。電気特性の評価結果を表1に示す。
【0039】
[例2]
ケイ素化合物として、硬化性メチルシリコーン樹脂の代わりにフェニルトリメトキシシラン(PTMS)4重量部(SiO基準での含有量:1.2重量部)を用いた以外は例1と同様にして誘電体層を形成した。誘電体層形成用組成物の組成、得られた誘電体層の厚み及び電気特性の評価結果を表1に示す。
【0040】
[例3]
誘電体結晶微粒子として、PMN微粒子の代わりにBa0.7Sr0.3TiO(BST)微粒子(TPL社製、平均粒径:80nm)を用いた以外は例1と同様にして誘電体層を形成した。誘電体層形成用組成物の組成、得られた誘電体層の層厚及び電気特性の評価結果を表1に示す。
【0041】
[例4(比較例)]
誘電体層形成用組成物中にガラスフリットを添加しなかった以外は例1と同様にして誘電体層を形成した。誘電体層形成用組成物の組成、得られた誘電体層の層厚及び電気特性の評価結果を表1に示す。例1、2と比較して耐電圧が低いのは、誘電体層中のクラック又はピンホールの発生によるものと考えられる。
【0042】
[例5(比較例)]
誘電体層形成用組成物中にメチルトリメトキシシラン及び硬化性メチルシリコーン樹脂を添加せず、かつ、ガラスフリットの添加量を8重量部とした以外は例1と同様にして誘電体層を形成した。誘電体層形成用組成物の組成、得られた誘電体層の層厚及び電気特性の評価結果を表1に示す。例1、2と比較して誘電体層中の誘電体結晶微粒子の含有割合が小さいため、比誘電率も低い結果となった。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の誘電体層形成用組成物は、チップコンデンサに用いる誘電体層や、エレクトロルミネッセンス素子における発光層にかかる電圧の安定化のために用いる誘電体層の作製用に使用できる。また、高周波デバイスにおいては、電気長を縮小することができることからハイブリット基板材料に利用することができる。
また、膜に異方性をもたせることで、圧電素子としての利用も考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型誘電体結晶の微粒子と、ガラスフリットと、加水分解性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとを含むことを特徴とする誘電体層形成用組成物。
【請求項2】
前記誘電体結晶の微粒子がPb(Mg1/3Nb2/3)O、PbTiO、PbZrO、BaTiO、SrTiO及びそれら相互の固溶体からなる群より選ばれる1種以上である請求項1に記載の誘電体層形成用組成物。
【請求項3】
前記ガラスフリットが酸化ケイ素、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化アルミニウム及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる2種以上の酸化物を含む請求項1又は2に記載の誘電体層形成用組成物。
【請求項4】
前記加水分解性ケイ素化合物がSi−C結合を含む加水分解性ケイ素化合物又はそのオリゴマーである請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体層形成用組成物。
【請求項5】
前記誘電体結晶の微粒子の酸化物基準での含有量と、前記ガラスフリットの酸化物基準での含有量と、前記ケイ素化合物のSiO基準での含有量との比が[誘電体結晶の微粒子]/[ガラスフリット+ケイ素化合物]=95/5〜50/50である請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体層形成用組成物。
【請求項6】
前記ガラスフリットの酸化物基準での含有量と、前記ケイ素化合物のSiO基準での含有量との比が、[ガラスフリット]/[ケイ素化合物]=5/95〜50/50である請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体層形成用組成物。
【請求項7】
下部電極層と、ペロブスカイト型誘電体結晶の微粒子がガラス形成イオンを含む酸化ケイ素マトリックス中に分散している構造の誘電体層と、上部電極層とが基体上にこの順で設けられていることを特徴とするMIMキャパシタ。
【請求項8】
前記誘電体層の層厚が1〜50μmである請求項7に記載のMIMキャパシタ。
【請求項9】
前記マトリックス中にSi−C結合を含む請求項7又は8に記載のMIMキャパシタ。
【請求項10】
基体上に2層の電極層と該電極層間に挟持された誘電体層とを有するMIMキャパシタを製造する方法において、下記工程A〜Cをこの順に含むことを特徴とするMIMキャパシタの製造方法。
工程A:基体上に下部電極層を形成する工程。
工程B:請求項1に記載の誘電体層形成用組成物を塗布し、乾燥後300〜1000℃で焼成して酸化ケイ素を形成することにより、ペロブスカイト型誘電体結晶の微粒子がガラス形成イオンを含む酸化ケイ素マトリックス中に分散している構造の誘電体層を形成する工程。
工程C:上部電極層を形成する工程。

【公開番号】特開2006−28004(P2006−28004A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172429(P2005−172429)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】