説明

誘電体磁器組成物およびその製造方法

【課題】信頼性を向上させつつ、しかも良好なDCバイアス特性を示す誘電体磁器組成物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】ABO(AはBaを含み、CaまたはSrを含んでもよい、BはTi)で表される化合物と、Zr酸化物と、希土類元素酸化物と、Mg酸化物と、を含有する誘電体磁器組成物中に、誘電体粒子と結晶粒界とが存在し、結晶粒界21におけるR元素量の最大値をRmaxとし、誘電体粒子20において、Rmaxの50%以上である領域を拡散領域20b、それ以外の領域を中心領域20aとし、拡散領域20bでのZr量をZr1、結晶粒界21でのZr量をZr2としたとき、Zr1/Zr2≧1.5である関係を満足する誘電体粒子の割合が、誘電体粒子全体に対して50%以上である。上記の関係は、Mg−Zr−O固溶体を予め作製し、これを含む原料を焼成することで達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高く、これに伴い、たとえば積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が進んでいるが、さらなる特性の向上が求められている。
【0003】
このような要求に対し、誘電体磁器組成物において、主成分と、主成分以外の成分とを存在させることで、特性の向上を図っている。
【0004】
たとえば、特許文献1では、ABOを主成分とし、希土類元素、Mg、SiおよびMnからなる結晶性複合酸化物を主成分とする二次相粒子が存在する誘電体磁器組成物が記載されている。この誘電体磁器組成物によれば、温度特性や信頼性を向上できると記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、ABOを主成分とし、希土類元素およびSiを含む、主成分とは異なる複合化合物が存在する誘電体磁器組成物が記載されている。この誘電体磁器組成物によれば、温度特性や信頼性を向上できると記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3では、BaおよびTiを含有するペロブスカイト型複合酸化物からなる主結晶粒子と、YおよびMgを含有する粒界相とからなり、Mnが主結晶粒子のみに存在している誘電体磁器組成物が記載されている。この誘電体磁器組成物によれば、CR積を向上できると記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載されている誘電体磁器組成物では、信頼性の向上は不十分であり、さらに、高い電界強度下における特性については、考慮されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−63114号公報
【特許文献2】特開2004−155649号公報
【特許文献3】特開2000−335966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、信頼性を向上させつつ、しかも良好なDCバイアス特性を示す誘電体磁器組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
一般式ABO(AはBa単独、または、BaとCaおよびSrから選ばれる少なくとも1つとであり、BはTiである)で表される化合物と、
Zrの酸化物と、
R元素の酸化物(ただし、R元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つ)と、
Mgの酸化物と、を含有する誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体磁器組成物が、複数の誘電体粒子と、隣り合う2つの誘電体粒子間に存在する結晶粒界と、を有しており、
前記結晶粒界における前記R元素の含有割合の最大値をRmaxとし、前記誘電体粒子における前記R元素の含有割合が、Rmaxの50%以上である領域を拡散領域、前記誘電体粒子において前記拡散領域以外の領域を中心領域とし、
前記中心領域におけるZrの含有割合をZr0、前記拡散領域におけるZrの含有割合をZr1、前記結晶粒界におけるZrの含有割合をZr2としたとき、Zr1>Zr2>Zr0かつZr1/Zr2≧1.5である関係を満足し、
前記関係を満足する誘電体粒子の割合が、個数割合で、誘電体粒子全体に対して50%以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明では、結晶粒界および誘電体粒子におけるZrの存在状態を上記のように制御し、拡散領域におけるZrの含有割合を、結晶粒界におけるZrの含有割合よりも大きくしている。このようにすることで、信頼性を向上させつつ、しかも良好なDCバイアス特性を示す誘電体磁器組成物が得られる。
【0012】
好ましくは、前記誘電体磁器組成物が、Mn、Cr、Co、FeおよびCuから選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物を含有する。
【0013】
好ましくは、前記誘電体磁器組成物が、Siを含む酸化物を含有する。
【0014】
好ましくは、前記化合物100モルに対して、前記Zrの酸化物が、Zr元素換算で、0.5モル以上含有される。
【0015】
上記の組成を有する誘電体磁器組成物を用いることで、本発明の効果をより高めることができる。
【0016】
また、本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法は、
一般式ABO(AはBa単独、または、BaとCaおよびSrから選ばれる少なくとも1つとであり、BはTiである)で表される化合物と、
Zrの酸化物と、
R元素の酸化物(ただし、R元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つ)と、
Mgの酸化物と、を含有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記Zrの酸化物の原料と、前記Mgの酸化物の原料と、を仮焼し、Mg−Zr−O固溶体を含む反応後原料を得る工程と、
前記反応後原料に前記化合物の原料を添加して誘電体原料を得る工程と、
前記誘電体原料を焼成する工程と、を有し、
前記反応後原料を得る工程において、仮焼温度が900〜1350℃、仮焼後の降温速度が200℃/時間以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、Mg−Zr−O固溶体を含む反応後原料を用いることで、誘電体磁器組成物中におけるZrの存在状態を所望のものとすることができる。
【0018】
本発明に係る誘電体磁器組成物が好適に用いられる誘電体層を有する電子部品は特に制限されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、Zrの存在状態を所定のものとすることで、信頼性が向上し、しかも良好なDCバイアス特性を示す誘電体磁器組成物が提供される。
【0020】
また、Zrの酸化物の原料とMgの酸化物の原料とを反応させて、Mg−Zr−O固溶体を含む反応後原料を作製することで、Zrの存在状態を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は、図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図である。
【図3】図3(A)および(B)は、誘電体粒子における拡散領域と中心領域とを区別し、Zr0、Zr1およびZr2を測定する方法を説明するための模式図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る誘電体磁器組成物に含まれる誘電体粒子におけるZrの存在状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0023】
積層セラミックコンデンサ1
図1に示すように、積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0024】
誘電体層2
誘電体層2は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成される。該誘電体磁器組成物は、主成分として、一般式ABO(AはBa単独、または、BaとCaおよびSrから選ばれる少なくとも1つとであり、BはTiである)で表される化合物と、副成分として、Zrの酸化物と、R元素の酸化物と、Mgの酸化物と、を有している。なお、酸素(O)量は、上記式の化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0025】
該化合物は、具体的には、組成式(Ba1−x−yCaSr)TiOで表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物である。すなわち、Aサイト原子として、少なくともBaが含まれている。また、Aサイト原子(Ba、SrおよびCa)と、Bサイト原子(Ti)と、のモル比は、A/B比として表され、本実施形態では、A/B比は、0.98〜1.02であることが好ましい。なお、x,yは、いずれも任意の範囲であるが、以下の範囲であることが好ましい。
【0026】
本実施形態では、上記式中xは、好ましくは0≦x≦0.5である。xはCa原子数を表し、xを上記範囲とすることにより、容量温度係数や比誘電率を任意に制御することができる。xが大きすぎると、比誘電率が低くなってしまう傾向にある。本実施形態においては、必ずしもCaを含まなくてもよい。
【0027】
本実施形態では、上記式中yは、好ましくは0≦y≦0.5である。yはSr原子数を表し、yを上記範囲とすることにより、室温での比誘電率を向上させることができる。yが大きすぎると、比誘電率が低下する傾向にある。本実施形態においては、必ずしもSrを含まなくてもよい。
【0028】
本実施形態では、Bサイト原子はTiのみであるが、不純物量程度であれば、Ti以外の元素(たとえばZrやHf)がBサイト原子に含まれていてもよい。この場合、Bサイト原子100原子%に対し、0.3原子%以下であれば不純物量とすることができる。
【0029】
Zrの酸化物の含有量は、ABOで表される化合物100モルに対して、Zr元素換算で、好ましくは0.5〜50モルであり、より好ましくは2〜30モルである。Zrの酸化物の含有量が少なすぎると、Zrの存在状態を所定のものとできない傾向にあり、一方、多すぎると焼成温度が高くなる傾向にある。
【0030】
なお、本実施形態では、Zrの酸化物としては、他の金属元素を含んだ複合酸化物の形態でもよいが、複合酸化物の合成工程が製造工程に与える負荷や複合酸化物が含有されることによる電気的特性への影響等を考慮すると、ZrOの形態であることが好ましい。
【0031】
R元素の酸化物の含有量は、ABOで表される化合物100モルに対して、R元素換算で、好ましくは0.5〜10モルであり、より好ましくは1〜5モルである。Rの酸化物の含有量が少なすぎると、高温加速寿命が低下する傾向にある。一方、多すぎると比誘電率が低下する傾向にある。なお、R元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つであり、Y、Gd、Tbから選ばれる少なくとも1つが好ましく、Yが特に好ましい。
【0032】
Mgの酸化物の含有量は、ABOで表される化合物100モルに対して、Mg元素換算で、好ましくは0.2〜20モル、より好ましくは0.5〜3モルである。Mgの酸化物の含有量が少なすぎると、比誘電率の温度依存性が大きくなる傾向にあり、一方、多すぎると比誘電率が低下する傾向にある。
【0033】
なお、本実施形態においては、必要に応じて、その他の成分が含有されていてもよい。
【0034】
具体的には、上記の誘電体磁器組成物に、たとえば、Mn、Cr、Co、FeおよびCuから選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物が含有されていてもよい。これらの酸化物の含有量は、ABOで表される化合物100モルに対して、各元素換算で、好ましくは0.05〜5モルであり、より好ましくは0.1〜2モルである。該酸化物の含有量が少なすぎると、IRが低下する傾向にあり、一方、多すぎると比誘電率が低下する傾向にある。なお、上記各酸化物のなかでも特性の改善効果が大きいという点から、Mnの酸化物および/またはCrの酸化物を用いることが好ましい。
【0035】
また、上記の誘電体磁器組成物に、Siを含む酸化物が含有されていてもよい。Siを含む酸化物は、主に焼結助剤としての役割を有している。これらの酸化物の含有量は、ABOで表される化合物100モルに対して、Si元素換算で、好ましくは0.5〜10モルである。該酸化物の含有量が少なすぎると、焼結性が悪化する傾向にある。一方、多すぎると、比誘電率が低下する傾向にある。Siを含む酸化物としては、Siの酸化物、または、Siと、Li、B、Al、BaおよびCaから選ばれる少なくとも1つと、の複合酸化物が好ましく、(Ba,Ca)SiOがより好ましい。
【0036】
誘電体層2の厚みは、特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0037】
誘電体粒子の構造
本実施形態では、上記の誘電体層2を構成する誘電体磁器組成物に含有される誘電体粒子20は、主成分粒子(ABO粒子)に対し、R元素、Zr元素やMg元素など(副成分元素)が固溶(拡散)した粒子である。
【0038】
図2に示すように、誘電体粒子20は、実質的に主成分(ABO)からなる中心領域20aと、中心領域20aの周囲に存在し、主成分を構成する元素以外の成分が主成分に拡散している拡散領域20bと、から構成される。また、隣り合う2つの粒子の間には結晶粒界21が存在する。
【0039】
なお、本実施形態では、結晶粒界21は、2つの粒子の間に存在する境界領域と定義する。したがって、3つ以上の粒子の間に存在する領域(三重点など)22は、結晶粒界21には含まれない。
【0040】
中心領域20aは実質的に主成分からなっている。一方、拡散領域20bには、R元素、ZrやMgなどが主成分中に拡散(固溶)している。本実施形態では、拡散領域20bには、R元素、ZrやMgだけではなく、それ以外の元素が存在していてもよい。
【0041】
本実施形態では、誘電体粒子20における中心領域20aと拡散領域20bとは、たとえば以下のようにして区別すればよい。
【0042】
まず、走査透過型電子顕微鏡(STEM)により所定数の誘電体粒子を観察し、付属のエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を用いて、図3(A)に示すように、誘電体粒子20の外縁近傍の結晶粒界21において点分析を行う。分析により得られた特性X線を分析して得られたR元素の含有割合の中で、最も高い値をRmaxとする。
【0043】
なお、測定点の数は特に制限されないが、1個の誘電体粒子あたり10点以上とすることが好ましい。また、測定する誘電体粒子の個数も特に制限されないが、たとえば10個以上とすることが好ましい。
【0044】
続いて、その誘電体粒子20において、R元素のマッピング画像を画像処理することにより、R元素の含有割合がRmaxの50%以上の領域と、R元素の含有割合がRmaxの50%未満の領域とに分ける。すなわち、図3(B)に示すように、Rmaxの50%以上の領域を拡散領域20bと規定し、Rmaxの50%未満の領域を中心領域20aと規定する。
【0045】
このようにすることで、誘電体粒子20における中心領域20aと拡散領域20bとを明確に区別することができる。
【0046】
次に、上記で得られた結晶粒界21における特性X線を分析して、Zrの含有割合を算出し、その平均値を結晶粒界21におけるZrの含有割合(Zr2)とする。
【0047】
また、上記と同様にして、図3(B)に示すように、拡散領域20bにおいて点分析を行う。得られたZrの含有割合の平均値を拡散領域20bにおけるZrの含有割合(Zr1)とする。
【0048】
さらに、中心領域20aにおいても同様の分析を行い、中心領域20aにおけるZrの含有割合(Zr0)を算出する。
【0049】
なお、Zr0、Zr1およびZr2を求める際の測定点の数および測定する誘電体粒子の個数は、上記のR元素の場合と同様にすればよい。
【0050】
このようして得られるZr0、Zr1およびZr2は、本実施形態では、Zr1>Zr2>Zr0かつZr1/Zr2≧1.5である関係を満足する。また、2≦Zr1/Zr2≦5であることが好ましい。すなわち、図4に示すように、誘電体粒子20の中心領域20aから拡散領域20bにかけては、Zrの含有割合が増加し、拡散領域20bから結晶粒界21にかけては、Zrの含有割合が減少する構成となっており、Zrの含有割合のピークが拡散領域20bにあることになる。
【0051】
また、本実施形態では、Zrの含有割合が上記の関係を満足する誘電体粒子20が、個数割合で、誘電体粒子全体に対し50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0052】
Zrの存在状態を上記のような特徴的なものとすることで、信頼性を向上させ、かつDCバイアス特性をも良好にすることができる。
【0053】
なお、上述したように中心領域20aは実質的にABOからなる領域であるため、通常、Zr0が、Zr1およびZr2よりも大きくなることはない。したがって、Zr0が、Zr1およびZr2よりも小さいことが明らかな場合には、Zr0の測定を省略することができる。
【0054】
また、上記ではRmaxを算出してから、Zr0、Zr1およびZr2を算出しているが、これらを同時に算出してもよい。
【0055】
上述したZr0、Zr1およびZr2の関係は、後述するが、仮焼条件やZrの含有量等を制御することにより、Zrの拡散を制御し、所望の存在状態を実現することができる。
【0056】
誘電体層2に含有される誘電体粒子の結晶粒子径は、以下のようにして測定される。すなわち、コンデンサ素子本体10を誘電体層2および内部電極層3の積層方向に切断し、その断面において誘電体粒子の平均面積を測定し、円相当径として直径を算出し1.5倍した値である。200個以上の誘電体粒子について測定し、得られた粒径の累積度数分布から累積が50%となる値を結晶粒子径(単位:μm)とした。
【0057】
本実施形態では、結晶粒子径は、誘電体層2の厚さなどに応じて決定すればよい。
【0058】
内部電極層3
図1に示す内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0059】
外部電極4
図1に示す外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本実施形態では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0060】
積層セラミックコンデンサ1の製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0061】
まず、誘電体層を形成するための誘電体原料を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0062】
誘電体原料として、まずABOの原料と、R元素の酸化物の原料と、Zrの酸化物の原料と、Mgの酸化物の原料とを準備する。これらの原料としては、上記した成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0063】
なお、ABOの原料は、いわゆる固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造されたものなど、種々の方法で製造されたものを用いることができる。
【0064】
また、誘電体層に上記の成分以外の成分が含有される場合には、該成分の原料を準備する。これらの原料としては、上記と同様に、それらの成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いることができる。
【0065】
誘電体原料を調製するために、まず、Zrの酸化物の原料と、Mgの酸化物の原料とを反応させて、Mg−Zr−O固溶体を含む反応後原料を得る。なお、Zrの酸化物の原料と、Mgの酸化物の原料と、を全量反応させてMg−Zr−O固溶体とする必要はなく、反応後原料には、Mg−Zr−O固溶体だけでなく、未反応のZrの酸化物の原料および/またはMgの酸化物の原料が含まれていてもよい。
【0066】
Mg−Zr−O固溶体を得る方法としては特に制限されないが、本実施形態では、Zrの酸化物の原料と、Mgの酸化物の原料とを仮焼する。このとき、Zrの酸化物の原料およびMgの酸化物の原料以外の副成分の原料(R元素の酸化物の原料やその他の成分の原料)が含まれた状態で仮焼してもよいが、ABOの原料が含まれない状態で仮焼する。
【0067】
仮焼条件は以下のようにすればよい。仮焼温度は900〜1350℃、好ましくは1200〜1350℃、保持時間は好ましくは1〜5時間、仮焼温度での保持時間経過後の降温速度は200℃/時間以上、好ましくは300℃/時間以上、より好ましくは400℃/時間以上である。
【0068】
このような仮焼条件とすることで、仮焼後の原料(仮焼原料)にはMg−Zr−O固溶体が含まれる。MgO−ZrO系状態図によれば、約900℃以上では、MgOはZrOに対し10モル%程度固溶し、約1300℃以上では、ZrOに対し30モル%程度固溶することが知られている。
【0069】
したがって、仮焼温度を上記の範囲とすることで、Mg−Zr−O固溶体が生成する。しかしながら、仮焼温度での保持時間経過後の降温速度が小さい場合、温度が下がるにつれ、MgO−ZrO系状態図に従い、MgOとZrOとに相分離してしまう。
【0070】
そのため、本実施形態では、仮焼温度での保持時間経過後の降温速度を上記の範囲とすることで、Mg−Zr−O固溶体を維持した状態で常温まで冷却する。このようなMg−Zr−O固溶体が含まれる仮焼原料を用いて、誘電体磁器組成物を製造することで、Mg−Zr−O固溶体からABO粒子に拡散する、一部のZrの存在状態を制御できる。その結果、Zr0、Zr1およびZr2を上述した範囲内とすることが容易となる。
【0071】
本実施形態では、上記の降温速度は、仮焼時の最高温度から600℃まで降温させるまでに掛かる時間によって算出される。
【0072】
なお、相分離したMgOとZrOとを用いて、誘電体磁器組成物を製造しても、Zrの拡散を制御できず、本発明の効果を奏することはできない。
【0073】
また、誘電体磁器組成物を製造する工程において、Mg−Zr−O固溶体から一部のMgおよびZrが拡散するが、Mg−Zr−O固溶体は、焼成後の誘電体磁器組成物中に存在している。なお、ABO粒子に拡散するMgは、Zrと異なる拡散状態となる。具体的には、中心領域におけるMgの含有割合(Mg0)、拡散領域におけるMgの含有割合(Mg1)および結晶粒界におけるMgの含有割合(Mg2)は、Mg2>Mg1>Mg0である関係を満足する。
【0074】
上記の関係を満足することで、粒子中心から粒界に向かうにつれMgの含有割合が大きくなるため、誘電体粒子の粒成長が抑制され、その結果、寿命が向上する。つまり、Mg2<Mg1の関係を満足する構成に比較して、上記の関係とすることで、寿命の観点で有利となる。
【0075】
このようにして得られた仮焼原料(反応後原料)は必要に応じて、粉砕される。粉砕時間は、仮焼温度が950〜1200℃の場合には、5時間以上とし、仮焼温度が1200〜1350℃の場合には、24時間以上とすることが好ましい。その後、仮焼原料と、残りの原料(ABOの原料および仮焼していない副成分の原料)とを混合し、誘電体原料を得る。
【0076】
なお、誘電体原料中の各成分の含有量は、焼成後に所望の組成となるように決定すればよい。
【0077】
次に、誘電体原料を塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0078】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0079】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0080】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0081】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0082】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0083】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0084】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層し、所定形状に切断してグリーンチップとする。
【0085】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、脱バインダ雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0086】
脱バインダ後、グリーンチップの焼成を行う。焼成では、昇温速度を好ましくは100〜800℃/時間とする。焼成時の保持温度は、好ましくは1300℃以下、より好ましくは1200〜1280℃であり、その保持時間は、好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間である。保持温度が上記範囲未満であると緻密化が不十分となり、この範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0087】
焼成雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。
【0088】
また、焼成時の酸素分圧は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−14〜10−10MPaとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。焼成時の降温速度は、好ましくは50〜500℃/時間である。
【0089】
還元性雰囲気中で焼成した後、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命(絶縁抵抗の寿命)を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0090】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−5MPaとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層の酸化が進行する傾向にある。
【0091】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に1000〜1100℃とすることが好ましい。保持温度が上記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、IR寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、IR寿命の低下が生じやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0092】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、アニール時の降温速度を好ましくは50〜500℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0093】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0094】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0095】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0096】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0098】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る誘電体磁器組成物を適用した電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る誘電体磁器組成物を適用する電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成の誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0100】
実施例1
まず、ABOの原料として、BaTiO粉末を、副成分の原料として、ZrO、Y、MgCO、MnCOおよび(Ba,Ca)SiOを、それぞれ準備した。なお、MgCOは、焼成後には、Mg−Zr−O固溶体あるいはMgOとして誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0101】
次に、上記で準備したABOの原料以外の原料を、仮焼温度:1200〜1350℃、保持時間:2時間の条件で仮焼し、仮焼温度での保持時間経過後の降温速度を100〜400℃/時間として冷却し、仮焼後の原料粉体(仮焼原料)を得た。この仮焼原料とABOの原料とをボールミルで24時間湿式粉砕し、乾燥して、誘電体原料を得た。
【0102】
なお、各副成分の添加量は、焼成後の誘電体磁器組成物において主成分であるBaTiO100モルに対して、ZrOが3モル、Yが2モル、MgOが2モル、MnOが0.3モル、(Ba,Ca)SiOが3モル、となるようにした。
【0103】
次いで、得られた誘電体原料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0104】
また、上記とは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0105】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0106】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、素子本体となる焼結体を得た。
【0107】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0108】
焼成は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1250℃、保持時間:2時間とした。降温速度は、昇温速度と同様にした。なお、雰囲気ガスは、加湿したN+H混合ガス(水素濃度1.0%)とし、酸素分圧が10−12MPaとなるようにした。
【0109】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1000℃、温度保持時間:2時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:10−7MPa)とした。なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0110】
次いで、得られた焼結体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてCuペーストを塗布し焼き付けることで、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、誘電体層の厚み10μm、内部電極層の厚み1.5μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は4とした。
【0111】
得られた各コンデンサ試料について、拡散領域におけるZrの含有割合(Zr1)および結晶粒界におけるZrの含有割合(Zr2)の測定を下記に示す方法で行った。次に、高温負荷寿命およびDCバイアス特性を下記に示す方法により測定した。なお、Zr0は、Zr1およびZr2よりも小さいことは明らかであるため、測定しなかった。
【0112】
Zr1およびZr2の測定
まず、得られたコンデンサ試料を、40μm程度の厚みになるまで機械研磨を行い、その後、10μm程度の厚みになるまでディンプル加工を行い、その後、Arイオンミリング(PIPS)により超薄片に加工した。この超薄片に対し、STEMにより無作為に抽出した20個の粒子を観察し、EDSにより各誘電体粒子の外縁近傍の結晶粒界において点分析を行った。測定された特性X線を定量分析し、YおよびZrの含有割合を算出し、結晶粒界におけるYの最大含有割合をRmaxとして算出した。また、結晶粒界におけるZrの含有割合(Zr2)を算出した。
【0113】
次に、該粒子のYについてのマッピング画像を、Yの含有割合がRmaxの50%以上となる領域を拡散領域、Rmaxの50%未満となる領域を中心領域とするように画像処理を行った。
【0114】
さらに、拡散領域において、STEMに付属のEDSによる点分析を行った。測定された特性X線を定量分析し、拡散領域におけるZrの含有割合(Zr1)を算出した。結果を表1に示す。
【0115】
高温負荷寿命
コンデンサ試料に対し、200℃にて、20V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、寿命時間を測定することにより、高温負荷寿命を評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を破壊時間とし、これをワイブル解析することにより算出した平均故障時間(MTTF)を寿命と定義した。また、この高温負荷寿命は、10個のコンデンサ試料について行った。本実施例では10時間以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0116】
DCバイアス特性
コンデンサ試料に対し、25℃にて、8V/μmの電界下で直流電圧の印可状態に保持し、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件で静電容量を測定し、基準温度25℃における静電容量に対する変化率を算出した。本実施例では−30%以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
表1より、Zr1/Zr2の値が本発明の範囲内にある場合には(試料番号2および3)、信頼性を向上させつつ、良好なDCバイアス特性を得ることができる。
【0119】
実施例2
Zr1/Zr2の値を2.0とし、Zr1/Zr2の値が本発明の範囲内にある誘電体粒子20の個数割合を表2に示す割合とした以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0120】
【表2】

【0121】
表2より、上記の関係を満足する誘電体粒子の個数割合が本発明の範囲内にある場合には(試料番号7〜10)、信頼性を向上させつつ、良好なDCバイアス特性を得ることができる。
【0122】
実施例3
仮焼条件における仮焼温度および降温速度を表3に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表3に示す。なお、試料番号12は、表1の試料番号2と同じであり、試料番号14は、表1の試料番号3と同じであり、試料番号15は、表1の試料番号1と同じである。
【0123】
【表3】

【0124】
表3より、仮焼温度および降温速度を変化させることで、Zr1およびZr2が変化し、Zr1/Zr2の値を制御できることが確認できた。また、降温速度を200℃/時間以上とすることで、Zr1/Zr2の値を本発明の範囲内とすることが容易となることが確認できた。
【0125】
実施例4
表4に示す酸化物の組み合わせのみを仮焼し、仮焼条件を表4に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。なお、BaTiO100モルに対し、ZrOの含有量を3モル、MgOの含有量を2モル、Yの含有量を2モル、SiOの含有量を3モルとした。
【0126】
【表4】

【0127】
表4より、仮焼する組み合わせをZrの酸化物およびMgの酸化物とし、かつ仮焼時の降温速度を本発明の範囲内とすることで(試料番号24)、信頼性が向上し、かつDCバイアス特性を良好にできることが確認できた。
【0128】
一方、仮焼する組み合わせとして、Zrの酸化物とMgの酸化物との組み合わせ以外を選択した場合(試料番号25〜30)、仮焼時の降温速度にかかわらず、信頼性は向上せず、DCバイアス特性も悪化することが確認できた。また、仮焼する組み合わせとして、Zrの酸化物とMgの酸化物とを選択した場合であっても、仮焼時の降温速度が本発明の範囲外である場合には(試料番号23)、信頼性は向上せず、DCバイアス特性も悪化することが確認できた。
【符号の説明】
【0129】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
20… 誘電体粒子
20a… 中心領域
20b… 拡散領域
21… 結晶粒界
22… 三重点
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO(AはBa単独、または、BaとCaおよびSrから選ばれる少なくとも1つとであり、BはTiである)で表される化合物と、
Zrの酸化物と、
R元素の酸化物(ただし、R元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つ)と、
Mgの酸化物と、を含有する誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体磁器組成物が、複数の誘電体粒子と、隣り合う2つの誘電体粒子間に存在する結晶粒界と、を有しており、
前記結晶粒界における前記R元素の含有割合の最大値をRmaxとし、前記誘電体粒子における前記R元素の含有割合が、Rmaxの50%以上である領域を拡散領域、前記誘電体粒子において前記拡散領域以外の領域を中心領域とし、
前記中心領域におけるZrの含有割合をZr0、前記拡散領域におけるZrの含有割合をZr1、前記結晶粒界におけるZrの含有割合をZr2としたとき、Zr1>Zr2>Zr0かつZr1/Zr2≧1.5である関係を満足し、
前記関係を満足する誘電体粒子の割合が、個数割合で、誘電体粒子全体に対して50%以上であることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記誘電体磁器組成物が、Mn、Cr、Co、FeおよびCuから選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物を含有する請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記誘電体磁器組成物が、Siを含む酸化物を含有する請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記化合物100モルに対して、前記Zrの酸化物が、Zr元素換算で、0.5モル以上含有される請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
一般式ABO(AはBa単独、または、BaとCaおよびSrから選ばれる少なくとも1つとであり、BはTiである)で表される化合物と、
Zrの酸化物と、
R元素の酸化物(ただし、R元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つ)と、
Mgの酸化物と、を含有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記Zrの酸化物の原料と、前記Mgの酸化物の原料と、を仮焼し、Mg−Zr−O固溶体を含む反応後原料を得る工程と、
前記反応後原料に前記化合物の原料を添加して誘電体原料を得る工程と、
前記誘電体原料を焼成する工程と、を有し、
前記反応後原料を得る工程において、仮焼温度が900〜1350℃、仮焼後の降温速度が200℃/時間以上であることを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−1378(P2012−1378A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135432(P2010−135432)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】