説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】 鉛(Pb)を含まず、容量温度特性および比誘電率に優れ、しかも広い周波数領域における誘電損失の低減された誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】組成式a(SrTiO)+b(BaTiO)+c(Bi−xTiO−yMgO)で表され、前記組成式中の各成分の重量比を、三角図(a,b,c)で表したとき、図2に示す点A〜Hで囲まれた領域内にあり、かつ、Biに対する、TiOのモル比を表すxと、Biに対する、MgOのモル比を表すyとが、0.7≦y/x≦1.5および1.0≦x+y≦1.8の関係を満足する誘電体酸化物を主成分として含有する誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の誘電体層などに用いられる誘電体磁器組成物に係り、さらに詳しくは、環境負荷物質である鉛(Pb)を含まず、比較的高誘電率でありながら温度特性が比較的良好であり、絶縁性が高く、さらに広い周波数領域において誘電損失が低い誘電体磁気組成物及びそれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模の環境保護運動がいっそう高まりをみせており、電子部品の分野においても鉛(Pb)等の環境負荷物質の低減が要望されている。そのため、鉛(Pb)を含まず、かつ同程度以上の特性を持つ誘電体磁器組成物の開発が望まれている。
また、電子機器などを構成する電気回路の小型化、複雑化により、電気回路に搭載される電子部品についても、より一層の小型化に加えて、誤作動を防止するため等の理由より、自己発熱が少ないことが求められている。そのため、電子部品の一例としてのセラミックコンデンサについても、良好な温度特性を維持しつつ、小型化に対応するために誘電率を高くするとともに、しかも自己発熱低減のために誘電損失が低いことが求められている。
たとえば、特許文献1において、温度特性が良好であり、かつ高周波領域において誘電損失が小さい誘電体磁器組成物が開示されている。しかしながら本組成はPbを含むものであり、地球環境保護の要求に応えられるものではない。
【0003】
鉛(Pb)を含まず、しかも、容量温度特性および比誘電率が良好で、誘電損失の低減された誘電体磁器組成物として、たとえば特許文献2には、水熱合成法により作製され、比表面積を0.8〜2.4m/gに調整したBaTiOに、五酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化コバルトを添加することにより得られる誘電体磁器組成物が開示されている。しかしながら、かかる方法では1KHzにおける誘電損失が最も良好なものでも0.7%と高い。さらには、この文献のように、水熱合成法によって作製したBaTiOを用いると、たとえば固相法によって作製したBaTiOを使用した場合と比較して、製造コストが高くなってしまうという問題もある。
【0004】
また、特許文献3にはBaTiOに、Nb、Co、MnOおよび特定の希土類を添加することにより得られる誘電体磁器組成物が開示されている。しかしながら、この文献でも、液相法である蓚酸塩法によって作製したBaTiOを使用しており、同様に、製造コストが高くなってしまうという問題がある。
なお、本願出願人は、特願2005−349939号において、「組成式a(SrTiO)+b(BaTiO)+c(Bi−xTiO−yMgO)で表され、前記組成式中の各成分の重量比を、三角図(a,b,c)で表したとき、下記点A〜Eで囲まれた領域内(ただし、a=0となる範囲は除く)にあり、かつ、
Biに対する、TiOのモル比を表すxと、Biに対する、MgOのモル比を表すyとが、0.7≦y/x≦1.5および1.0≦x+y≦1.8の関係を満足する誘電体酸化物を主成分として含有する誘電体磁器組成物。
A(6,82,12)
B(2,82,16)
C(0,84,16)
D(0,92,8)
E(6,86,8)」を提案している。上記誘電体磁器組成物は、容量温度特性および比誘電率が良好であり、誘電損失が低いなどの優れた特性を有する。上記組成範囲には、高周波数領域においても誘電損失が低い誘電体磁器組成物が含まれる。しかし、組成範囲内のすべての領域にわたって優れた高周波物性が得られるわけではなく、場合によっては、高周波数領域(たとえば100KHz)における誘電損失が大きくなることもあった。
【0005】
【特許文献1】特許第3767377号公報
【特許文献2】特開平6−260020号公報
【特許文献3】特許第2958826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に用いられ、鉛(Pb)を含まず、容量温度特性および比誘電率に優れ、しかも広い周波数領域において誘電損失の低減された誘電体磁器組成物を確実に提供することである。また、本発明は、このような誘電体磁器組成物を用いて得られる電子部品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために、鋭意検討を行った結果、誘電体磁器組成物に含有される主成分として、SrTiO−BaTiO−(Bi−TiO−MgO)系の組成を含有し、これらの比率を所定範囲とした誘電体酸化物を用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、下記事項を要旨として含む。
(1)組成式a(SrTiO)+b(BaTiO)+c(Bi−xTiO−yMgO)で表され、前記組成式中の各成分の重量比を、三角図(a,b,c)で表したとき、下記点A〜Hで囲まれた領域内にあり、かつ、
Biに対する、TiOのモル比を表すxと、Biに対する、MgOのモル比を表すyとが、0.7≦y/x≦1.5および1.0≦x+y≦1.8の関係を満足する誘電体酸化物を主成分として含有する誘電体磁器組成物。
A(30,64,6)
B(2,92,6)
C(0,92,8)
D(0,86,14)
E(6,78,16)
F(14,70,16)
G(28,62,10)
H(34,58,8)
(2)前記誘電体酸化物が、固相法により合成された誘電体酸化物である(1)に記載の誘電体磁器組成物。
(3)前記誘電体磁器組成物は、副成分として、Mnの酸化物、Sbの酸化物、Znの酸化物およびCaTiO、ならびにRの酸化物(ただし、RはLa、Ce、Pr、NdおよびSmから選択される少なくとも1種)をさらに含み、
前記Mnの酸化物の含有量が、前記主成分100重量%に対して、MnO換算で、0重量%より多く、0.5重量%以下であり、
前記Sbの酸化物の含有量が、前記主成分100重量%に対して、Sb換算で、0.3重量%以上、1.0重量%以下であり、
前記Znの酸化物の含有量が、前記主成分100重量%に対して、ZnO換算で、0.2〜0.6重量%であり、
前記CaTiOの含有量が、前記主成分100重量%に対して、0重量%より多く、1.5重量%以下であり、
前記Rの酸化物の含有量が、前記主成分100重量%に対して、LaO3/2 、CeO、PrO11/6 、NdO3/2 およびSmO3/2 換算で、0重量%より多く、0.5重量%以下である(1)または(2)に記載の誘電体磁器組成物。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する電子部品。
本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装チップ型電子部品(SMD)などが例示される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の誘電体磁器組成物は、組成式a(SrTiO)+b(BaTiO)+c(Bi−xTiO−yMgO)され、これらを構成する各成分の比率を上記所定の範囲とした誘電体酸化物を主成分として含有する。その結果、容量温度特性に優れ、比誘電率が高く、しかも広い周波数領域において誘電損失が低い誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0010】
また、本発明の誘電体磁器組成物は、鉛(Pb)を含まないため、環境への負荷を低減することもできる。
【0011】
さらに、本発明の誘電体磁器組成物は、上記特定の組成範囲に制御されているため、比較的に安価な固相法で合成した場合においても、上記各特性(すなわち、容量温度特性、比誘電率および誘電損失)を良好な範囲とすることができる。そして、固相法での合成が可能となることにより、水熱合成法や蓚酸塩法などの液相法で合成された誘電体酸化物を用いた場合と比較して、製造コストの大幅な削減が可能となる。
【0012】
このような本発明の誘電体磁器組成物を、セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に用いることにより、鉛(Pb)などの環境負荷物質を含まず、容量温度特性および比誘電率が良好で、広い周波数領域において誘電損失が低く抑えられており、しかも製造コストが大幅に削減された電子部品を提供することができる。
【0013】
なお、従来においては、鉛(Pb)を含有する誘電体酸化物(特許文献1:特許第3767377号公報)や、水熱合成法や蓚酸塩法などの液相法により合成した誘電体酸化物(特許文献2:特開平6−260020号公報、特許文献3:特許第2958826号公報)を使用することにより、得られる誘電体磁器組成物の特性の向上を図ってきた。しかしながら、これら従来の方法においては次のような問題が存在していた。すなわち、鉛(Pb)を含有する誘電体酸化物を用いた場合には、環境負荷の問題が、液相法により合成した誘電体酸化物を用いた場合には、製造コストが高くなってしまうという問題が、それぞれ存在していた。
これに対して、本発明は、上記所定の組成を有する誘電体酸化物を主成分として用いることにより、このような従来の問題点をも有効に解決するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1(A)は本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの正面図、図1(B)は本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの側面断面図、
図2は本発明の誘電体磁器組成物におけるSrTiOと、BaTiOと、(Bi−xTiO−yMgO)と、の組成割合を示す三角図である。
【0015】
セラミックコンデンサ2
図1(A)、図1(B)に示すように、本実施形態に係るセラミックコンデンサ2は、誘電体層10と、その対向表面に形成された一対の端子電極12,14と、この端子電極12,14に、それぞれ接続されたリード端子6,8とを有する構成となっており、これらは保護樹脂4に覆われている。セラミックコンデンサ2の形状は、目的や用途に応じて適宜決定すればよいが、誘電体層10が円板形状となっている円板型のコンデンサであることが好ましい。また、そのサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよいが、通常、直径が5〜20mm程度、好ましくは5〜15mm程度である。
【0016】
誘電体層10
誘電体層10は、本発明の誘電体磁器組成物を含有する。
本発明の誘電体磁器組成物は、SrTiO−BaTiO−(Bi−TiO−MgO)系の組成を有する誘電体酸化物、すなわち、組成式a(SrTiO)+b(BaTiO)+c(Bi−xTiO−yMgO)で表される誘電体酸化物を主成分として含有する。
【0017】
本発明の誘電体磁器組成物において、上記組成式中の各成分の割合は、これら各成分の重量比を、三角図(a,b,c)で表したとき、図2に示す下記点A〜Hで囲まれた領域内である。
A(30,64,6)
B(2,92,6)
C(0,92,8)
D(0,86,14)
E(6,78,16)
F(14,70,16)
G(28,62,10)
H(34,58,8)
【0018】
なお、図2は、SrTiOと、BaTiOと、(Bi−xTiO−yMgO)と、の組成割合を示す三角図のうち、a(すなわち、SrTiOの割合)=0〜40、b(すなわち、BaTiOの割合)=58〜100、およびc(すなわち、(Bi−xTiO−yMgO)の割合)=0〜20である範囲を示す図である。
また、各成分の割合は、それぞれの重量比で表したものであり、たとえば、上記点A(30,64,6)においては、誘電体酸化物全体100重量%中における各成分の割合が、SrTiO=30重量%、BaTiO=64重量%、(Bi−xTiO−yMgO)=6重量%であることを意味する。
また、図2中に表示した数字は、後述する実施例における試料番号を示す。
【0019】
各成分の割合を上記範囲とすることにより、鉛(Pb)を実質的に含有しない組成において、容量温度特性および比誘電率を良好に保ちつつ、広い周波数領域において誘電損失を低減することが可能となる。しかも、本発明の誘電体磁器組成物は、後述するように固相法で合成した場合においても、上記各特性(比誘電率、容量温度特性、誘電損失)を十分満足させることができる。そして、固相法での合成が可能となることにより、水熱合成法や蓚酸塩法などの液相法で合成された誘電体酸化物を用いた場合と比較して、製造コストの大幅な削減が可能となる。
【0020】
さらに、上記組成式中の各成分の割合は、これらの重量比を、三角図(a,b,c)で表したとき、図2に示す下記点P〜Sで囲まれた領域内であることが好ましい。
P(14,78,8)
Q(8,84,8)
R(8,80,12)
S(14,74,12)
各成分の割合を、上記点P〜Sに囲まれた範囲内とすることにより、上記した本発明の効果をさらに高めることができる。
【0021】
また、上記組成式中におけるxは、Bi1モルに対するTiOのモル比を表し、同様に、上記組成式中におけるyは、Biに対するMgOのモル比を表す。すなわち、x=1、y=1の場合には、Bi1モルに対して、それぞれ、TiO、MgOともに1モルとなる。
【0022】
本発明においては、このx、yに関して、y/x値(すなわち、TiOとMgOとの比)およびx+y値(すなわち、Biに対する、TiO、MgOの合計の含有量)が、0.7≦y/x≦1.5、かつ1.0≦x+y≦1.8である。
【0023】
y/x値が小さすぎると(すなわち、TiOの比率が多すぎると)、容量温度特性が悪化する傾向にある。一方、y/x値が大きすぎると(すなわち、MgOの比率が多すぎると)、誘電損失が悪化する傾向にある。また、x+y値(すなわち、Biに対する、TiO、MgOの合計の含有量)が小さすぎると、容量温度特性が悪化する傾向にある。一方、x+y値が大きすぎると、誘電損失が悪化する傾向にある。
【0024】
なお、本発明の誘電体磁器組成物は、上記主成分以外に、各種副成分を含有していても良い。このような副成分としては、Mnの酸化物、Sbの酸化物、Znの酸化物およびCaTiO、ならびにRの酸化物(ただし、RはLa、Ce、Pr、NdおよびSmから選択される少なくとも1種)が好ましい。
【0025】
Mnの酸化物は、絶縁抵抗を向上させる効果を有する。Mnの酸化物の含有量は、主成分100重量%に対して、MnO換算で、好ましくは0重量%より多く、0.5重量%以下であり、より好ましくは0.05〜0.3重量%である。Mnの酸化物の含有量が多すぎると、誘電率が低下したり、容量温度特性が悪化する場合がある。なお、Mnの酸化物を含有させる場合には、MnOという形態の他、MnCO、MnO等のいずれの形態で含有させても良い。
【0026】
Sbの酸化物は、誘電損失を大きく低減させる効果を有する。Sbの酸化物の含有量は、主成分100重量%に対して、Sb換算で、好ましくは0.3重量%以上、1.0重量%以下であり、より好ましくは0.5〜0.9重量%である。Sbの酸化物の含有量が多すぎると、誘電率が大きく低下する場合がある。また、Sbの酸化物の含有量が少なすぎると、誘電損失が大きく悪化する場合がある。
Znの酸化物は、誘電損失を低減させる効果を有する。Znの酸化物の含有量は、主成分100重量%に対して、ZnO換算で、好ましくは0.2〜0.6重量%、より好ましくは0.2〜0.5重量%である。Znの酸化物の含有量が少なすぎると、誘電損失が悪化してしまう場合がある。一方、多すぎると、比誘電率が低下したり、容量温度特性が悪化する場合がある。
CaTiOは、温度特性を改善させる効果を有する。CaTiOの含有量は、主成分100重量%に対して、好ましくは0重量%より多く、1.5重量%以下であり、より好ましくは0重量%より多く、1.2重量%以下である。CaTiOの含有量が多すぎると、誘電損失が悪化する場合がある。なお、CaTiOは予め調製したチタン酸カルシウムの形態で含有させてもよく、また焼成によりチタン酸カルシウムを生成する所定配合比のカルシウム化合物およびチタン化合物の混合物の形態で含有させてもよい。
【0027】
Rの酸化物(ただし、RはLa、Ce、Pr、NdおよびSmから選択される少なくとも1種)は、誘電損失を低減させる効果を有する。Rの酸化物を含有する場合における、その含有量は、主成分100重量%に対して、LaO3/2 、CeO、PrO11/6 、NdO3/2 およびSmO3/2 換算で、好ましくは0重量%より多く、0.5重量%以下であり、より好ましくは0重量%より多く、0.45重量%以下である。Rの酸化物の含有量が多すぎると、容量温度特性が悪化する場合がある。
【0028】
誘電体層10の厚みは、特に限定されず、用途等に応じて適宜決定すれば良いが、好ましくは0.3〜1mmである。誘電体層10の厚みを、このような範囲とすることにより、中高圧用途に好適に用いることができる。
【0029】
端子電極12,14
端子電極12,14は、導電材で構成される。端子電極12,14に用いられる導電材としては、たとえば、Cu、Cu合金、Ag、Ag合金、In−Ga合金等が挙げられる。
【0030】
セラミックコンデンサの製造方法
次に、本実施形態に係るセラミックコンデンサの製造方法について説明する。
まず、焼成後に図1に示す誘電体層10を形成することとなる誘電体磁器組成物粉末を製造する。
誘電体磁器組成物粉末は、主成分(母材)となる誘電体酸化物と、副成分の原料と、を混合することによって得ることができる。
【0031】
本実施形態においては、主成分(母材)となる誘電体酸化物は、水熱合成法、蓚酸塩法などの液相法や、固相法により合成することができ、これらいずれの方法により製造しても良いが、特に、次に説明する固相法により製造することにより、所望の特性を実現しながら、製造コストの低減を図ることができる。
すなわち、まず、誘電体酸化物を構成する各原料を準備する。このような原料としては、Sr、Ba、Ti、Bi、Mgの各酸化物および/または焼成により酸化物となる原料や、これらの複合酸化物などが挙げられ、たとえば、SrCO、BaCO、TiO、Bi、MgOなどを用いることができる。次いで、これらの原料を、上記した所定の組成となるように配合し、ボールミルなどを用いて、湿式混合する。次いで、得られた混合物を、造粒し、成形して、得られた成形物を、空気雰囲気中にて仮焼きすることにより、誘電体酸化物を得ることができる。なお、仮焼き条件としては、たとえば、仮焼き温度を、好ましくは900〜1200℃、仮焼き時間を、好ましくは0.5〜4時間とすれば良い。
【0032】
本実施形態の誘電体酸化物は、上記した所定の組成に制御されているため、このように固相法で合成した場合においても、容量温度特性および比誘電率を良好に保ちつつ、しかも広い周波数領域において誘電損失を低く抑えることができる。そして、固相法での合成が可能となることにより、水熱合成法や蓚酸塩法などの液相法で合成された誘電体酸化物を用いた場合と比較して、製造コストの大幅な削減が可能となる。
【0033】
特に、従来においては、鉛(Pb)を含有する誘電体酸化物や、水熱合成法や蓚酸塩法などの液相法により合成した誘電体酸化物を使用することにより、得られる誘電体磁器組成物の特性の向上を図ってきた。しかしながら、これら従来の方法においては、次のような問題が存在していた。すなわち、鉛(Pb)を含有する誘電体酸化物を用いた場合には、環境負荷の問題が、液相法により合成した誘電体酸化物を用いた場合には、製造コストが高くなってしまうという問題が、それぞれ存在していた。
これに対して、本発明は、上記所定の組成を有する誘電体酸化物を用いることにより、このような従来の問題点を有効に解決するものである。
【0034】
次いで、上記にて得られた誘電体酸化物と、副成分の原料と、を混合して誘電体磁器組成物粉末を調製する。
副成分の原料としては、特に限定されず、上記した各副成分の酸化物や複合酸化物、または焼成によりこれら酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択して用いることができる。
【0035】
次いで、得られた誘電体磁器組成物粉末を、バインダなどを使用して造粒し、得られた造粒物を、所定の大きさを有する円板状に成形することにより、グリーン成形体とする。そして、得られたグリーン成形体を、焼成することにより、誘電体磁器組成物の焼結体を得る。なお、焼成の条件としては、特に限定されないが、保持温度が、好ましくは1200〜1400℃、より好ましくは1200〜1350℃であり、焼成雰囲気を空気中とすることが好ましい。
【0036】
そして、得られた誘電体磁器組成物の焼結体の主表面に、端子電極を印刷し、必要に応じて焼き付けすることにより、端子電極12,14を形成する。その後、端子電極12,14に、ハンダ付等により、リード端子6,8を接合し、最後に、素子本体を保護樹脂4で覆うことにより、図1(A)、図1(B)に示すようなセラミックコンデンサを得る。
【0037】
このようにして製造された本発明のセラミックコンデンサは、リード端子6,8を介してプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々異なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0039】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品としてセラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、セラミックコンデンサに限定されず、上記した誘電体磁器組成物から構成される誘電体層を有するものであれば何でも良い。
(実施例)
【0040】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0041】
(実施例1)
まず、主成分(母材)となる誘電体酸化物の原料として、SrCO、BaCO、TiO、BiおよびMgOを、それぞれ準備した。そして、準備したこれらの原料を、組成式a(SrTiO)+b(BaTiO)+c(Bi−xTiO−yMgO)で表したときに、式中の(a,b,c)が、表1に示す値(重量%)となるように、それぞれ秤量し、溶媒として水を用いたボールミルにより湿式混合した。次いで、得られた混合物を乾燥した後、5重量%の水を加えて造粒し、成形した。そして、得られた成形物を、空気中、1050℃、2時間の条件で仮焼することにより、表1に示す各組成(試料番号1〜35の各組成)を有する母材を得た。なお、本実施例においては、組成式中のx、y(すなわち、Biに対する、TiOおよびMgOのモル比)は、それぞれy/x=0.9、x+y=1.4となるように調製した。
【0042】
次いで、上記にて得られた母材:100重量%に対して、副成分の原料であるMnO:0.2重量%、ZnO:0.35重量%およびCeO:0.3重量%、Sb:0.6重量%、CaTiO:0.5重量%を添加し、溶媒として水を用いたボールミルにより湿式混合し、得られた混合物を乾燥することにより、誘電体磁器組成物粉末を得た。そして、得られた誘電体磁器組成物粉末:100重量%に対して、ポリビニルアルコール水溶液:10重量%を添加し、次いで造粒して、メッシュパスを通した後、得られた造粒粉を1.2t/cmの圧力で成形することにより、直径12mm、厚さ約1mmの円板状のグリーン成形体を得た。
【0043】
次いで、得られたグリーン成形体を、空気中、1240〜1350℃、2時間の条件で焼成することにより、円板状の焼結体を得た。そして、得られた焼結体の主表面にAg電極を塗布し、さらに空気中、650℃で20分間焼付け処理を行うことによって、図1に示すような円板状のセラミックコンデンサの試料(試料番号1〜35)を得た。得られたコンデンサ試料の誘電体層10の厚みは0.7mmであった。そして、得られた各コンデンサ試料について、以下の方法により、比誘電率、誘電損失、CR積、および容量温度特性をそれぞれ評価した。
【0044】
比誘電率ε
比誘電率εは、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。
【0045】
誘電損失(tanδ)
誘電損失(tanδ)は、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHzおよび100kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定した。
【0046】
容量温度特性
コンデンサ試料に対し、−25〜140℃の温度範囲で静電容量を測定し、+25℃での静電容量に対する−25℃および125℃での静電容量の変化率(単位は%)を算出した。
CR積
コンデンサ試料に対し500Vの直流電圧をかけ、絶縁抵抗を測定した。この絶縁抵抗IR(単位はΩ)と、上記にて測定した静電容量C(単位はF)との積を求めることによりCR積を測定した。
各コンデンサ試料の母材組成、評価結果を表1に示す。
【表1】

図1に示すA〜Hで囲まれる領域の母材組成のとき、誘電率2000以上、誘電損失(1kHz)0.4%以下、誘電損失(100kHz)3%以下CR積1000Ω・F以上、−25℃〜125℃の範囲で25℃に対する容量変化率+15%〜−30%を満足した。
さらに、特に図1に示すP〜Sで囲まれる領域の組成のとき、誘電率2400以上、誘電損失(1kHz)0.2%以下、誘電損失(100kHz)1.5%以下CR積1000Ω・F以上、−25℃〜125℃の範囲で25℃に対する容量変化率+15%〜−30%を満足した。
【0047】
これらの結果より、主成分である誘電体酸化物の組成を、本発明の範囲内とすることにより、鉛(Pb)を含まず、容量温度特性および比誘電率を良好に保ちつつ、広い周波数領域における誘電損失(tanδ)の低減が可能となることが確認できた。特に、本実施例の結果より、主成分である誘電体酸化物を固相法(仮焼き法)により合成した場合においても、このような良好な結果が得られることが確認できた。そして、固相法による誘電体酸化物の合成が可能となることにより、製造コストの低減が期待できる。
【0048】
(実施例2)
主成分(母材)となる誘電体酸化物の組成を、組成式a(SrTiO)+b(BaTiO)+c(Bi−xTiO−yMgO)で表したときに、(a,b,c)を、重量比で、(a,b,c)=(10,80,10)に固定し、副成分およびその添加量を表2に記載のように変化させた以外は、実施例1と同様にしてセラミックコンデンサの試料を作製し、実施例1と同様にして、評価を行った。なお、実施例2においては、焼成温度は、いずれの試料も1280℃とした。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

なお、表2中の試料番号39は、表1中の試料番号16と同じ試料である。
【0050】
その結果、MnOを0重量%より多く0.5重量%以下、Sbを0.3重量%以上1.0重量%以下、ZnOを0.2重量%以上0.6重量%以下、CaTiOを0重量%より多く1.5重量%以下、LaO3/2,CeO,PrO11/6,NdO3/2,SmO3/2から選ばれる1種または2種以上を0〜0.5重量%添加した場合に誘電率2200以上、誘電損失(1kHz)0.3%以下、誘電損失(100kHz)1.5%以下、CR積1000Ω・F以上、−25℃〜125℃の範囲で25℃に対する容量変化率+15%〜−30%を満足し、本発明の効果が良好に達成されることがわかった。
【産業上の利用の可能性】
【0051】
本発明によれば、容量温度特性に優れ、比誘電率が高く、しかも広い周波数領域において誘電損失が低い誘電体磁器組成物が提供される。本発明の誘電体磁器組成物は、鉛(Pb)を含まないため、環境への負荷を低減することもできる。さらに、本発明の誘電体磁器組成物は、比較的に安価な固相法で合成した場合においても、上記各特性(すなわち、容量温度特性、比誘電率および誘電損失)を良好な範囲とすることができる。そして、固相法での合成が可能となることにより、水熱合成法や蓚酸塩法などの液相法で合成された誘電体酸化物を用いた場合と比較して、製造コストの大幅な削減が可能となる。このような本発明の誘電体磁器組成物を、セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に用いることにより、鉛(Pb)などの環境負荷物質を含まず、容量温度特性および比誘電率が良好で、広い周波数領域において誘電損失が低く抑えられており、しかも製造コストが大幅に削減された電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1(A)は本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの正面図、図1(B)は本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの側面断面図である。
【図2】図2は本発明の誘電体磁器組成物におけるSrTiOと、BaTiOと、(Bi−xTiO−yMgO)と、の組成割合を示す三角図である。
【符号の説明】
【0053】
2… セラミックコンデンサ
4… 保護樹脂
6,8… リード端子
10… 誘電体層
12,14… 端子電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式a(SrTiO)+b(BaTiO)+c(Bi−xTiO−yMgO)で表され、前記組成式中の各成分の重量比を、三角図(a,b,c)で表したとき、下記点A〜Hで囲まれた領域内にあり、かつ、
Biに対する、TiOのモル比を表すxと、Biに対する、MgOのモル比を表すyとが、0.7≦y/x≦1.5および1.0≦x+y≦1.8の関係を満足する誘電体酸化物を主成分として含有する誘電体磁器組成物。
A(30,64,6)
B(2,92,6)
C(0,92,8)
D(0,86,14)
E(6,78,16)
F(14,70,16)
G(28,62,10)
H(34,58,8)
【請求項2】
前記誘電体酸化物が、固相法により合成された誘電体酸化物である請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記誘電体磁器組成物は、副成分として、Mnの酸化物、Sbの酸化物、Znの酸化物およびCaTiO、ならびにRの酸化物(ただし、RはLa、Ce、Pr、NdおよびSmから選択される少なくとも1種)をさらに含み、
前記Mnの酸化物の含有量が、前記主成分100重量%に対して、MnO換算で、0重量%より多く、0.5重量%以下であり、
前記Sbの酸化物の含有量が、前記主成分100重量%に対して、Sb換算で、0.3重量%以上、1.0重量%以下であり、
前記Znの酸化物の含有量が、前記主成分100重量%に対して、ZnO換算で、0.2〜0.6重量%であり、
前記CaTiOの含有量が、前記主成分100重量%に対して、0重量%より多く、1.5重量%以下であり、
前記Rの酸化物の含有量が、前記主成分100重量%に対して、LaO3/2 、CeO、PrO11/6 、NdO3/2 およびSmO3/2 換算で、0重量%より多く、0.5重量%以下である請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−174413(P2008−174413A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8533(P2007−8533)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】