説明

誘電性流体及びその製造方法

高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を含む誘電性流体が与えられている。更に、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を含むそれらの誘電性流体を製造する方法も与えられている。誘電性流体は、変圧器、調整器、回路遮断機、スイッチギアー、地下電気ケーブル、及び付随の設備のような新規及び現存する電力及び分配電気装置で絶縁性及び冷却用媒体として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を含む絶縁性誘電性流体(dielectric fluid)に関する。本発明は、更に、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を含むそれら誘電性流体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電性流体は、定常的電場を維持し、電気絶縁体として働くことができる流体である。従って、誘電性流体は、部品を励起することにより発生した熱を放散させ、それら部品を、それを囲む装備及び他の内部部品及び機器から絶縁する働きをする。誘電性流体の、効果的に信頼性を持って機能するその能力に影響を与える性質の中には、引火点(flash point)及び発火点(fire point)、熱容量、或る温度範囲に亙る粘度、インパルス破壊強度、ガス発生傾向、及び流動点が含まれる。誘電性流体の種々の性質により、それらは特定の組成によるよりも、むしろそれらの性質により屡々規定される。
【0003】
誘電性流体は、シクロパラフィン系基礎油、シリコーン油、又は合成有機エステルから慣習的に製造されてきた。鉱油に基づく誘電性流体は、それらの広い入手性、低コスト、及び物理的性質のため、広範に用いられてきた。しかし、鉱油は引火点及び発火点が比較的低い。ポリ塩素化ビフェニル(PCB)が別の誘電性流体として開発された。PCBは優れた誘電体としての性質を有し、それらは鉱油よりも遥かに燃焼しにくい。政府機関は、一時、流体可燃性に関する安全性の問題があった時、いつもPCBを使用するように命令していた。残念ながら、PCBは環境に危険な物質であることが判明した。現在シリコーン油及び高分子量炭化水素が、燃焼しにくい流体が要求される用途では最も一般的に選択されるものとして現在位置付けられている。遥かに少ない程度であるが、合成及び天然のエステル系流体及び合成炭化水素も用いられている。
【0004】
誘電性流体として慣用的に用いられている油の供給には限界があるので、誘電性流体は益々高価になりつつある。更に、そのような油に対する商業的需要は間もなくその供給を越えるであろう。
【0005】
電気用油又は変圧器油として有用な油組成物を製造するための方法及び電気用油又は変圧器油として有用な油組成物を開発する研究が行われてきた。例としてEP 0458574B1、米国特許第6,083,889号、JP2001195920には、電気用又は変圧器油として有用な油組成物及び配合された変圧器油を製造する方法が記載されている。
【0006】
合成油の製造は当分野でよく知られており、高性能の特徴を有する合成油を製造しようとする多くの開発計画が行われてきた。例としてEP 0776959A2、EP 0668342B1、WO 00/014179、WO 00/14183、WO 00/14187、WO 00/14188、WO 01/018156A1、WO 02/064710A2、WO 02/070629A1、WO 02/070630A1、及びWO 02/070631A2は、合成潤滑油組成物及びその合成潤滑油組成物を製造する方法に関する。
【0007】
高い発火点、高い引火点、優れた誘電破壊電圧、良好な熱容量、及び優れたインパルス破壊強度を含めた希望の性質を有する誘電性流体が依然として要求されている。それらの誘電性流体を製造するための効果的で経済的な方法のための豊富な経済的資源も依然として求められている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高度にパラフィンのワックスから誘導された一種類以上の油留分を含む誘電性流体を製造する方法で、高い誘電破壊電圧、高い引火点、及び高い発火点を示す誘電性流体を製造する方法に関する。
【0009】
一つの態様として、本発明は、誘電性流体を製造する方法に関する。この方法は、高度にパラフィン性のワックスを与え、その高度にパラフィン性のワックスを、貴金属水素化成分を含む形状選択性(shape selective)中間気孔孔径(intermediate pore size)分子篩を用いて、約600°F〜約750°Fの条件で水素化異性化し、異性化油を与えることを含む。異性化油を精留して、T90沸点≧950°F、100℃での動粘度が約6cSt〜約20cSt、及び流動点≧−14℃である少なくとも一種類の油留分を与え、然も、前記油は、10重量%以上のモノシクロパラフィン官能性を有する分子、3重量%以下のマルチシクロパラフィン官能性を有する分子、及び0.30重量%未満の芳香族成分を含む。任意に、前記油留分を、効果的量の一種類以上の添加剤と混合し、ASTM D877により測定して誘電破壊電圧≧25kVである誘電性流体を分離する。
【0010】
別の態様として、本発明は、誘電性流体を製造する方法に関する。この方法は、フィッシャー・トロプシュ合成を行なって生成物流を与え、その生成物流から実質的にパラフィン性のワックス供給物を分離することを含む。実質的にパラフィン性のワックス状供給物は、貴金属水素化成分を含む形状選択性中間気孔孔径分子篩を、約600°F〜約750°Fの条件で用いて水素化異性化し、異性化油を分離する。異性化油を精留して、T90沸点≧950°F、100℃での動粘度が約6cSt〜約16cSt、及び流動点≧−14℃である少なくとも一種類の留分を与え、然も、その潤滑基礎油は、10重量%以上のモノシクロパラフィン官能性を有する分子、3重量%以下のマルチシクロパラフィン官能性を有する分子、及び0.30重量%未満の芳香族成分を含む。任意に、前記一種類以上の油留分を効果的量の一種類以上の添加剤と混合し、ASTM D877により測定して誘電破壊電圧≧25kVである誘電性流体を分離する。
【0011】
(本発明の詳細な説明)
高度にパラフィン性のワックスから誘導された或る油留分を含む誘電性流体が、特に優れた性質を示すことが思いがけなく発見された。従って、本発明は、それらの油留分を含む誘電性流体及びそれらの製造方法に関する。適当な高度にパラフィン性のワックスの例には、フィッシャー・トロプシュ誘導ワックス、スラックワックス、脱油スラックワックス、精製蝋下油、ワックス状潤滑ラフィネート、n−パラフィンワックス、直鎖αオレフィン(NAO)ワックス、化学プラント処理で生成したワックス、脱油石油誘導ワックス、微結晶質ワックス、及びそれらの混合物が含まれる。これらの高度にパラフィン性のワックスは、T90≧950°Fを含めた希望の性質を有する油留分を与えるように処理し、これらの油留分を用いて高い引火点及び発火点を有し、大きな誘電破壊電圧を有する誘電性流体を与える。一つの好ましい態様として、高度にパラフィン性のワックスは、フィッシャー・トロプシュ誘導ワックスであり、フィッシャー・トロプシュ誘導油留分を与える。
【0012】
高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を含み、10重量%以上のモノシクロパラフィン官能性を有する分子、3重量%以下のマルチシクロパラフィン官能性を有する分子、及び0.30重量%未満の芳香族成分を含み、T90沸点≧950°Fであり、100℃で約6cSt〜約20cStの動粘度を有し、流動点≧−14℃である誘電性流体は、ASTM D877により測定して誘電破壊電圧≧25kV及び高い引火点及び高い発火点を示すことが思いがけなく発見された。従って、これらの油留分は、誘電性流体として有利に用いることができる。
【0013】
本発明による誘電性流体は、T90沸点≧950°F、好ましくは≧1000°Fであり、100℃で約6cSt〜約20cStの動粘度を有する、高度にパラフィン性のワックスから誘導された一種類以上の油留分を含む。これらの油留分の沸点がそれらの粘度に比較して高いことは、他の同様な粘度のパラフィン性油と比較して、高い引火点及び高い発火点をそれらに与えている。本発明の油留分は高い沸点を有するが、それでも依然としてそれらは効果的な冷却を与えるのに充分なように良く流動する。本発明による誘電性流体は、高度にパラフィン性のワックスから誘導された一種類以上の油留分を含む。本発明による誘電性流体は、ASTM D877により測定して誘電破壊電圧≧25kV、好ましくは≧30kV、一層好ましくは≧40kVである。本発明による誘電性流体は、好ましくは発火点≧310℃、一層好ましくは発火点≧325℃である。本発明による誘電性流体は、好ましくは引火点≧280℃である。
【0014】
本発明による誘電性流体は、10重量%以上のモノシクロパラフィン官能性を有する分子、3重量%以下のマルチシクロパラフィン官能性を有する分子、及び0.30重量%未満の芳香族成分を含む。モノシクロパラフィン官能性の量が大きいことにより、本発明の油留分に良好な溶媒性、良好なシールとの両立性、及び他の油との良好な混和性を与える。マルチシクロパラフィン官能性の量が非常に少ないことにより、本発明の油留分に優れた酸化安定性を与えている。芳香族成分の量が非常に低いことが、その油留分に優れた酸化安定性及びUV安定性を与えている。
【0015】
本発明の誘電性流体は、変圧器、調整器、回路遮断器、スイッチギアー、地下電気ケーブル、及び付随装備のような現存及び新規な電力及び分配電気装置での絶縁及び冷却媒体として有用である。それらは機能的に現存する鉱油系誘電性流体と混和することができ、現存する装置と両立することができる。高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を含む本発明のこれら誘電性流体は、高い引火点、高い発火点、優れた誘電破壊電圧、及び良好な添加剤溶解性を必要とする用途で用いることができる。特に高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を含む本発明の誘電性流体は、高い発火点の絶縁性油が必要とされる用途で用いることができる。更に、高度にパラフィン性のワックスから誘導されたこれらの油留分は、優れた酸化抵抗及び良好なエラストマーとの両立性を示す。
【0016】
本発明の高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、水素化異性化を含めた方法により高度にパラフィン性のワックスから製造される。高度にパラフィン性のワックスは、貴金属水素化成分を含む形状選択性中間気孔孔径分子篩を約600°F〜750°Fの条件で用いて水素化異性化するのが好ましい。
【0017】
一つの好ましい態様として、高度にパラフィン性のワックスはフィッシャー・トロプシュ誘導ワックスであり、フィッシャー・トロプシュ誘導油留分を与える。その油留分は、フィッシャー・トロプシュ・シンクルード(syncrude)のワックス状留分から製造される。そのようなものとして、誘電性流体として用いられるフィッシャー・トロプシュ誘導油留分は、フィッシャー・トロプシュ合成を行なって生成物流を与え、その生成物流から実質的にパラフィン性のワックス供給物を分離し、その実質的にパラフィン性のワックス供給物を水素化異性化し、異性化油を分離し、任意に、その異性化油を水素化仕上げすることを含む方法により製造される。その方法からの、10重量%以上のモノシクロパラフィン官能性を有する分子、3重量%以下のマルチシクロパラフィン官能性を有する分子、及び0.30重量%未満の芳香族成分を含み、T90沸点≧950°Fであり、100℃で約6cSt〜約20cStの動粘度を有し、流動点≧−14℃であるフィッシャー・トロプシュ誘導油留分を分離する。ここで引用するフィッシャー・トロプシュ油留分の好ましい態様のものも、その方法から分離することができる。パラフィン性ワックス供給物は、貴金属水素化成分を含む形状選択性中間気孔孔径分子篩を約600°F〜750°Fの条件で用いて水素化異性化する。フィッシャー・トロプシュ誘導油留分を製造するための方法の例は、2003年12月23日に出願された米国特許出願Serial No.10/744,870(これは参考のため全体的にここに入れてある)に記載されている。モノシクロパラフィン含有量が高く、マルチシクロパラフィン含有量の低いフィッシャー・トロプシュ油留分の態様の例は、2003年12月23日に出願された米国特許出願Serial No.10/744,389(これは参考のため全体的にここに入れてある)に記載されている。
【0018】
本発明による誘電性流体は、モノシクロパラフィン官能性を有する分子を比較的大きな重量%で含み、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子及び芳香族成分を比較的低い重量%で含む、高度にパラフィン性のワックスから誘導された一種類以上の油留分を含む。本発明による油留分は、10重量%以上のモノシクロパラフィン官能性を誘導分子及び3重量%以下のマルチシクロパラフィン官能性を有する分子を含む。好ましい態様として、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、15重量%以上のモノシクロパラフィン官能性を有する分子を含む。別の好ましい態様として、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の含有量が2.5重量%以下である。別の好ましい態様として、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の含有量が1.5重量%以下である。更に別の好ましい態様として、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、5より大きな、モノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%対マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%の比を有する。モノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%対マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%の比が大きい(即ち、モノシクロパラフィン官能性を有する分子を大きな重量%で、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子を低い重量%で含む)、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、特に優れた誘電性流体である。高度にパラフィン性のワックスから誘導されたこれらの油留分は大きなパラフィン含有量を有する場合でも、それらは予想外の良好な添加剤溶解性及び他の油との良好な混和性を示す。なぜなら、シクロパラフィンが添加剤溶解性を与えるからである。これらの高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子が酸化安定性を減少し、粘度指数を低下し、ノアック(Noack)揮発性を増大するので望ましい。マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の効果についてのモデルは、V.J.ガット(Gatto)その他による、「水素化分解した基礎原料及びポリαオレフィンの物理的性質及び酸化防止剤反応に対する化学的構造の影響」(The Influence of Chemical Structureon the Physical Properties and Antioxitant Response of Hydrocracked Base Stocks and Polyalphaolefins)、J. Synthetic Lubrication, 19-1, pp.3-18, April (2002)に与えられている。
【0019】
従って、好ましい態様として、本発明による誘電性流体は、芳香族官能性を有する分子を非常に低い重量%で含み、モノシクロパラフィン官能性を有する分子を大きな%で含み、モノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%対マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%の大きな比を有する(即ち、モノシクロパラフィン官能性を有する分子を大きな重量%で、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子を非常に低い重量%で含む)、高度にパラフィン性のワックスから誘導された一種類以上の油留分を含む。
【0020】
誘電性流体は、溶離カラムクロマトグラフィー、ASTM D2549−02により決定して、95重量%より大きな飽和度を含む高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を含む。オレフィンは、長期C13核磁気共鳴分光分析(NMR)により検出可能な量よりも少ない量でしか存在しない。芳香族官能性を有する分子の存在量は、HPLC−UVにより0.3重量%より少なく、低レベルの芳香族成分を測定するように修正したASTM D5292−99により確認されている。好ましい態様として、芳香族官能性を有する分子の存在量は、0.10重量%より少なく、好ましくは0.05重量%より少なく、一層好ましくは0.01重量%より少ない。硫黄の存在量は、ASTM D5453−00により紫外線蛍光により決定して、好ましくは10ppmより少なく、一層好ましくは5ppmより少なく、更に一層好ましくは1ppmより少ない。
【0021】
本発明により、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を含む誘電性流体が与えられる。本発明の絶縁性誘電性流体は、高度にパラフィン性のワックスから誘導されたこれらの油留分の一種類以上を含み、950°Fに等しいか又はそれより高いT90沸点を有する。本発明による誘電性流体は、任意に、一種類以上の添加剤を含んでいてもよい。更に、本発明による誘電性流体は、任意に、誘電性流体として典型的に用いられている他の油を含んでいてもよい。これらの他の油は、フィッシャー・トロプシュ誘導油、鉱油、他の合成油、及びそれらの混合物でもよい。二種類以上の油を使用することにより、望ましい性質が少ない一種類の油を、一層好ましい性質を有する第二の油を添加することにより品質を向上させることができる。混合により品質向上することができる性質の例には、粘度、流動点、引火点及び発火点、界面張力、及び誘電破壊電圧である。
【0022】
定義及び用語
次の用語は、明細書全体に亙って用いられ、別に指示しない限り次の意味を有する。
【0023】
用語「フィッシャー・トロプシュ法から誘導された」又は「フィッシャー・トロプシュ誘導」とは、生成物、留分、又は供給物が、フィッシャー・トロプシュ法からそれを起源として得られたものか、又は或る段階でその方法により製造されたものであることを意味する。
【0024】
用語「石油から誘導された」又は「石油誘導」とは、生成物、留分、又は供給物が、原油及び不揮発性残留部分である残留燃料の蒸留で塔頂蒸気流からそれを起源として得られものであることを意味する。誘導された石油源は、ガス田凝縮物にすることもできる。
【0025】
高度にパラフィン性のワックスとは、大きなn−パラフィン含有量、一般に40重量%より大きく、好ましくは50重量%より大きく、一層好ましくは75重量%より大きい含有量を有するワックスを意味する。本発明で用いられる高度にパラフィン性のワックスは、その窒素及び硫黄の含有量が非常に低いのが好ましく、一般に窒素と硫黄との合計量が25ppmより少なく、好ましくは20ppmより少ない。本発明で用いることができる高度にパラフィン性のワックスの例には、スラックワックス、脱油スラックワックス、精製蝋下油、ワックス状潤滑ラフィネート、n−パラフィンワックス、NAOワックス、化学プラント処理で生成したワックス、脱油石油誘導ワックス、微結晶質ワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、及びそれらの混合物が含まれる。本発明で有用な高度にパラフィン性のワックスの流動点は、50℃より高く、好ましくは60℃より高い。
【0026】
用語「高度にパラフィン性のワックスから誘導された」とは、生成物、留分、又は供給物が、或る段階で高度にパラフィン性のワックスからそれを起源として得られるか、又は製造されたものであることを意味する。
【0027】
芳香族成分(aromatics)とは、非局在化連続的電子雲を分担する少なくとも一つの原子群を含む炭化水素質化合物を意味し、この場合、その原子群中の非局在化電子数は、4n+2のヒュッケルの法則による解に相当する(例えば、6電子の場合n=1、等々)。代表的な例には、ベンゼン、ビフェニル、ナフタレン等が含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0028】
シクロパラフィン官能性を有する分子とは、単環式又は融合多環式飽和炭化水素基であるか、又はそれらを一つ以上の置換基として含む分子を意味する。場合により、シクロパラフィン基は、一つ以上、好ましくは1〜3個の置換基で置換されていてもよい。代表的例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロヘキシル、シクロペンチル、シクロヘプチル、デカヒドロナフタレン、オクタヒドロペンタレン、(ペンタデカン−6−イル)シクロヘキサン、3,7,10−トリシクロヘキシルペンタデカン、デカヒドロ−1−(ペンタデカン−6−イル)ナフタレン等が含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0029】
モノシクロパラフィン官能性を有する分子とは、3〜7員環炭素の単環式飽和炭化水素基である分子か、又は3〜7員環炭素の一つの単環式飽和炭化水素基で置換された分子を意味する。シクロパラフィン基は、任意に、一つ以上、好ましくは1〜3個の置換基で置換されていてもよい。代表的例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロヘキシル、シクロペンチル、シクロヘプチル、シクロヘプチル、(ペンタデカン−6−イル)シクロヘキサン、等が含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0030】
マルチシクロパラフィン官能性を有する分子とは、二つ以上の融合環の融合多環式飽和炭化水素環式基である分子、二つ以上の融合環の融合多環式飽和炭化水素環式基の一つ以上で置換された分子、又は3〜7員環炭素の単環式飽和炭化水素基の二つ以上で置換された分子を意味する。融合多環式飽和炭化水素環式基は、二つの融合環を持つものであるのが好ましい。シクロパラフィン基は、任意に、一つ以上、好ましくは1〜3個の置換基で置換されていてもよい。代表的例には、デカヒドロナフタレン、オクタヒドロペンタレン、3,7,10−トリシクロヘキシルペンタデカン、デカヒドロ−1−(ペンタデカン−6−イル)ナフタレン、等が含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0031】
動粘度とは、重力の下での流体の流動抵抗の測定値である。多くの潤滑基礎油、それから作られた最終潤滑剤、及び装置の正確な操作は、用いられる流体の大略の粘度に依存する。動粘度は、ASTM D445−01により決定される。結果はセンチストーク(cSt)で報告する。本発明の高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、100℃で約6.0cSt〜20cStの動粘度を有する。高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、100℃で約8cSt〜16cStの動粘度を有するのが好ましい。
【0032】
粘度指数(VI)は、油の動粘度に対する温度変化の影響を示す経験的無単位数である。液体は温度と共に粘度を変化し、加熱すると粘性が低くなる。油のVIが高くなる程、温度による粘度変化の傾向は小さくなる。VIの大きな油は、広い温度変化で比較的一定した粘度が要求される場合に必要になる。ASTM D2270−93に記載されているようにVIは決定することができる。高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、好ましくは約130〜190、一層好ましくは約140〜180の粘度指数を有する。
【0033】
流動点は、注意深く制御された条件で油の試料が流動し始める温度の測定値である。流動点は、ASTM D5950−02に記載されたようにして決定することができる。結果は℃で報告する。多くの商業的潤滑基礎油は、流動点についての仕様を有する。油が低い流動点を有する場合、それらは、低い曇り点、低い冷間フィルター閉塞点、及び低い低温始動粘度(low temperature cranking viscosity)のような他の良好な低温特性を有する傾向がある。曇り点は、流動点に対する補足的測定値であり、注意深く特定化した条件で油の試料が曇りを発生し始める温度として表される。曇点は、例えば、ASTM D5773−95により決定することができる。約35℃より低い流動点・曇り点の値間き(即ち、流動点温度と曇り点温度との差)を有する油が望ましい。流動点・曇り点の値開きが大きいものは、曇り点仕様を満足するためには、油を非常に低い流動点へ処理することが必要である。本発明の高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、流動点≧−14℃、好ましくは≧−12℃である。
【0034】
ノアック揮発性は、ASTM D5800に従って、一定の空気流を60分間流通させる試験坩堝の中で大気圧より20mmHg(2.67kPa;26.7ミリバール)低い圧力及び250℃で油を加熱した時に失われる油の質量を重量%で表したものとして定義されている。ノアック揮発性を計算するための一層便利な方法及びASTM D5800と良い相関関係を有する方法は、ASTM D6375による熱重量分析試験(TGA)を用いることによる。TGAノアック揮発性は、別に述べない限り、この明細書中全体を通して用いられている。本発明の高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、好ましくは10重量%より低く、一層好ましくは5重量%より低いノアック揮発性を有する。
【0035】
アニリン点試験は、油が、その油と接触するエラストマー(ゴム化合物)を損傷する傾向があるか否かを示す。アニリン点は「アニリン点温度」とも呼ばれており、それは、等しい体積のアニリン(CNH)と油とが一つの層を形成する最低温度(°F又は℃)である。アニリン点(AP)は、油試料中の芳香族炭化水素の量と種類におおよそ関係している。APが低いことは芳香族含有量が高いことを示し、高いAPは芳香族含有量が低いことを示している。アニリン点はASTM D611−04により決定される。本発明の高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、100〜170℃のアニリン点を有するのが好ましい。従って、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、良好なエラストマーとの両立性を示す。
【0036】
L−4触媒を用いた酸化剤BN試験は、ドルンテ(Dornte)型の酸素吸収装置によって酸化に対する抵抗性を測定する試験である〔R.W.ドルンテ「ホワイトオイルの酸化」(Oxidation of White Oils)、Industrial and Engineering Chemistry, Vol.28, p.26 (1936)〕。通常、その条件は340°Fで純粋酸素の1気圧であり、100gの油により1000mlのOが吸収される時間を報告する。L−4触媒を用いた酸化剤BN試験では、油100g当たり0.8mlの触媒を用いる。触媒は、用いられたクランクケース油の平均金属分析値に類似させて、ケロセン中に可溶性金属ナフテン酸塩を入れた混合物である。可溶性金属ナフテン酸塩の混合物は、用いたクランクケース油の平均金属分析値に類似している。触媒中の金属のレベルは次の通りである:銅=6,927ppm;鉄=4,083ppm;鉛=80,208ppm;マンガン=350ppm;錫=3565ppm。添加剤パッケージは、油100g当たり80ミリモルのビスポリプロピレンフェニルジチオ燐酸亜鉛であり、又はOLOA(登録商標名)260の約1.1gである。L−4触媒を用いた酸化剤BN試験は、類似させた用途で最終潤滑剤の反応を測定する。値が大きい、即ち、酸素1リットルを吸収する時間が長いと、良好な安定性を示す。OLOAは、シェブロン・テキサコ・オロナイテ社(Chevron Texaco Oronite Company)の登録商標名であるオロナイテ潤滑油添加剤(Oronite Lubricating Oil Additive)の頭文字を集めたものである。
【0037】
一般に、L−4触媒を用いた酸化剤BN試験の結果は、約7時間より長くなるのが良い。L−4を用いた酸化剤BN試験値は、約10時間より長いのが好ましいであろう。本発明の高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、約10時間より長い結果を持つのが好ましい。本発明のフィッシャー・トロプシュ誘導油留分は、10時間より遥かに長い結果を有する。
【0038】
引火点は、加熱された油が点火源と接触した時に発火する空気との可燃性混合物を形成するのに充分な蒸気を放出する最低の温度である。これは油の揮発性を示す指標である。本発明によれば、引火点はASTM D92により決定される。本発明の誘電性流体は280℃以上の引火点を有するのが好ましい。
【0039】
発火点は、加熱された油が、点火源と接触した時、発火して最低5秒間燃え続ける空気との可燃性混合物を形成するのに充分な蒸気を放出する最低温度である。これは油の燃焼性を示す指標である。本発明によれば、発火点はASTM D92により決定される。本発明の誘電性流体は、好ましくは310℃以上、一層好ましくは325℃以上の発火点を有する。
【0040】
誘電破壊電圧は、電気的フラッシュオーバーが油の中で起きる最低電圧である。それは、電力周波数で損傷することなく電気的応力に耐える油の能力を示す尺度である。誘電破壊電圧の値が低いことは、一般に油中の水、汚れ、又は他の伝導性粒子のような汚染物質の存在を示すのに役立つ。誘電破壊電圧は、ASTM D877により測定される。本発明の誘電性流体は、25kV以上、好ましくは30kV以上、一層好ましくは40kV以上の誘電破壊電圧を有する。
【0041】
絶縁系中で許容可能な電気的強度及び低い誘電損失が得られて、それを維持するためには、水含有量が低いことが必要である。本発明により、水含有量はASTM D1533により決定される。本発明の誘電性流体の水含有量は、好ましくは100ppmより少なく、一層好ましくは35ppmより少なく、更に一層好ましくは25ppmより少ない。
【0042】
油の界面張力は、油・水界面に存在する油膜を破壊するのに必要な力(ダイン/cm)である。油の中にセッケン、ペイント、ワニス、及び酸化生成物のような或る汚染物質が存在すると、油の膜強度が弱くなり、従って、破壊するのに必要な力は少なくなる。本発明により、界面張力はASTM D971により決定される。本発明の誘電性流体は、好ましくは30ダイン/cmより大きく、一層好ましくは35ダイン/cmより大きく、更に一層好ましくは40ダイン/cmより大きい界面張力を示す。
【0043】
油の中和価は、存在する酸性又はアルカリ性物質の量を示す尺度である。油が使用中に老化するに従って、酸性度、従って、中和価は増大する。使用する油の中和価が高くなることは、その油が酸化されるか、又はワニス、ペイント、又は他の異物のような物質で汚染されたことを示す。塩基中和価は、油中のアルカリ性汚染物質に起因する。本発明により中和価は、ASTM D974により測定される。本発明の誘電性流体は、好ましくは0.05mgKOH/gより小さく、一層好ましくは0.03mgKOH/gより小さく、更に一層好ましくは0.02mgKOH/gより小さい中和価を有する。
【0044】
誘電性流体の熱放散定数は、油に印加される正弦波ポテンシャルと得られる電流との位相角度の余弦である。熱放散定数は、油の誘電損失、従って誘電加熱をを示す。熱放散定数が大きいことは、水分、炭素又は他の伝導性物質、金属石鹸、及び酸化生成物のような汚染又は劣化生成物が存在することを示している。本発明により熱放散定数はASTM D924により測定される。本発明の誘電性流体は、25℃で0.05より小さく、10℃で0.30より小さい熱放散定数を有するのが好ましい。
【0045】
本発明の高度にパラフィン性のワックスから誘導された油の沸点は、ASTM D6352を用いて疑似蒸留により測定され、回収された種々の質量%で°Fで報告する。°FでT95(95質量%が回収される)沸点から、T(5質量%が回収される)沸点を差し引くことにより沸点範囲分布(5−95)を計算する。
【0046】
本明細書中、実施例で用いられている更に別の仕様標準には:電気装置で用いられている絶縁性鉱油のためのASTM D3487、ASTM II型標準仕様;高発火点電気絶縁性油のためのASTM標準仕様(高分子量炭化水素仕様)であるASTM D5222−00、;変圧器中の低燃焼性炭化水素流体の認可及び維持管理のための電気及び電子技術者協会IEEE1998年指針、IEEE C57.121;及び電気的目的のための未使用合成有機エステルのための国際電気化学委員会仕様、IEC 1099;が含まれる。特定化しない場合、実施例では次の試験方法が用いられた:動粘度、ASTM D445;25℃での目で見た外観、ASTM D1524;界面張力、ASTM D971;中和価、ASTM D974;及び沸点範囲分布(5−95)(T95−T)、ASTM D6352。
【0047】
高度にパラフィン性のワックス
本発明の油留分を製造するのに用いられる高度にパラフィン性のワックスは、n−パラフィン含有量の大きなどのようなワックスにでもすることができる。好ましくは高度にパラフィン性のワックスは、40重量%より多く、好ましくは50重量%より多く、一層好ましくは75重量%より多くn−パラフィンを含む。本発明で用いられる高度にパラフィン性のワックスは、窒素及び硫黄のレベルが非常に低いのが好ましく、窒素と硫黄との合計量が一般に25ppmより少なく、好ましくは20ppmより少ない。本発明で用いることができる高度にパラフィン性のワックスの例には、スラックワックス、脱油スラックワックス、精製蝋下油、ワックス状潤滑ラフィネート、n−パラフィンワックス、NAOワックス、化学プラント処理で生成したワックス、脱油石油誘導ワックス、微結晶質ワックス、フィッシャー・トロプシュ・ワックス、及びそれらの混合物が含まれる。本発明で有用な高度にパラフィン性のワックスの流動点は、50℃より高く、好ましくは60℃より高い。
【0048】
これらの高度にパラフィン性のワックスは、それらの粘度に比較して高い沸点を有する油留分を与えるように処理することができることが発見された。従って、これらの油留分は、高い引火点、高い発火点、及び高い誘電破壊電圧を有する誘電性流体を与えるように処理することができる。一つの好ましい態様として、高度にパラフィン性のワックスは、フィッシャー・トロプシュ誘導ワッックスであり、フィッシャー・トロプシュ誘導油留分を与える。
【0049】
油留分を与えるための方法
本発明による誘電性流体は、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を一種類以上含む。本発明の高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、水素化異性化を含む方法により高度にパラフィン性のワックスから製造される。高度にパラフィン性のワックスは、貴金属水素化成分を含む形状選択性中間気孔孔径分子篩を用いて、約600°F〜750°Fの条件で水素化異性化するのが好ましい。水素化異性化からの生成物を、950°Fに等しいか又はそれより高いT90沸点、約6cSt〜約20cStの動粘度、−14℃に等しいか又はそれより高い流動点を有する一種類以上の留分を与えるように精留する。それら油留分を用いて、ASTM D877により測定して25kVに等しいか又はそれより大きい誘電破壊電圧を有する誘電性流体を与える。高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、0.30重量%未満の芳香族成分、及び10重量%以上のモノシクロパラフィン官能性を有する分子、及び3重量%以下のマルチシクロパラフィン官能性を有する分子も含む。
【0050】
一つの好ましい態様として、高度にパラフィン性のワックスは、フィッシャー・トロプシュ誘導ワッックスであり、フィッシャー・トロプシュ誘導油留分を与える。
【0051】
これらの油留分は、高度にパラフィン性のワックスを与え、次にその高度にパラフィン性のワックスを水素化異性化して異性化油を与えることにより製造される。この方法は、更に水素化異性化工程から得られた異性化された油を精留し、950℃に等しいか又はそれより高いT90沸点を有する一種類以上の留分を与えることを含む。次に上に記載した性質を有する留分を選択する。
【0052】
好ましい態様として、本発明による油留分は、フィッシャー・トロプシュ誘導油留分である。誘電性流体として用いられるフィッシャー・トロプシュ誘導油留分は、フィッシャー・トロプシュ合成工程に続き、フィッシャー・トロプシュ・シンクルードのワッックス状留分を水素化異性化することにより製造される。
【0053】
フィッシャー・トロプシュ合成
フィッシャー・トロプシュ化学(Fischer-Tropsch chemistry)では、シンガス(syngas)を、フィッシャー・トロプシュ触媒と反応条件下で接触させることにより液体炭化水素へ転化する。典型的には、メタン及び場合により一層重質の炭化水素(エタン以上)を、慣用的シンガス発生器に通して送り、合成ガスを与えることができる。一般に合成ガスは、水素及び一酸化炭素を含み、少量の二酸化炭素及び/又は水を含むことがある。シンガス中に硫黄、窒素、ハロゲン、セレン、燐、及び砒素汚染物質が存在することは望ましくない。この理由から、シンガスの品質により、フィッシャー・トロプシュ化学を遂行する前に供給物から硫黄及び他の汚染物質を除去することが望ましい。これらの汚染物質を除去する手段は当業者によく知られている。例えば、硫黄不純物を除去するためにはZnOガードベット(guardbed)が好ましい。他の汚染物質を除去するための手段は、当業者によく知られている。シンガス反応中に生成した二酸化炭素及び未だ除去されていなかった更に別の硫黄化合物を除去するため、フィッシャー・トロプシュ反応器の前にシンガスを精製することも望ましいであろう。このことは、例えば、充填塔で穏やかなアルカリ性の溶液(例えば、炭酸カリウム水溶液)とシンガスとを接触させることにより達成することができる。
【0054】
このフィッシャー・トロプシュ法では、適当な温度及び圧力の反応条件下でフィッシャー・トロプシュ触媒と、H及びCOの混合物を含む合成ガスとを接触させることにより、液体及びガス状炭化水素を形成する。フィッシャー・トロプシュ反応は、約149〜371℃(約300〜700°F)、好ましくは約204〜228℃(約400〜550°F)の温度で、約0.7〜41バール(約10〜600psia)、好ましくは約2〜21バール(約30〜300psia)の圧力で、約100〜10,000cc/g/時、好ましくは約300〜3,000cc/g/時の触媒空間速度で行われるのが典型的である。フィッシャー・トロプシュ型反応を行うための条件の例は、当業者によく知られている。
【0055】
フィッシャー・トロプシュ合成法の生成物は、C〜C200+の範囲で、大部分がC〜C100+の範囲になることがある。反応は、一つ以上の触媒床を含む固定床反応器、スラリー反応器、流動床反応器、又は異なった型の反応器の組合せのような種々の型の反応器で行うことができる。そのような反応方法及び反応器はよく知られており、文献に報告されている。
【0056】
本発明の実施で好ましいスラリー・フィッシャー・トロプシュ法は、高度に発熱性の合成反応のために優れた熱(及び物質)移動特性を利用し、コバルト触媒を用いた場合、比較的大きな分子量のパラフィン系炭化水素を生成することができる。スラリー法では、水素と一酸化炭素との混合物を含むシンガスが、反応条件で液体である合成反応の炭化水素生成物を含むスラリー液体中に分散し、懸濁した粒状フィッシャー・トロプシュ型炭化水素合成触媒を含むスラリーを通して第三相として気泡となって上昇する。水素対一酸化炭素のモル比は、約0.5〜約4の広い範囲に亙ることができるが、一層典型的には約0.7〜約2.75、好ましくは約0.7〜約2.5の範囲内に入る。特に好ましいフィッシャー・トロプシュ法はEP 0609079に教示されており、全ての目的についての参考としてここに完全に入れてある。
【0057】
一般に、フィッシャー・トロプシュ触媒は、金属酸化物支持体上に第VIII族遷移金属を含む。それら触媒は、貴金属促進剤(一種又は多種)及び/又は結晶質分子篩を含んでいてもよい。適当なフィッシャー・トロプシュ触媒は、Fe、Ni、Co、Ru、及びReの一種類以上を含み、コバルトが好ましい。好ましいフィッシャー・トロプシュ触媒は、適当な無機支持体材料、好ましくは一種類以上の耐火性金属酸化物を含むものの上に、効果的量のコバルト、及びRe、Ru、Pt、Fe、Ni、Th、Zr、Hf、U、Mg、及びLaの一種類以上を含む。一般に、触媒中に存在するコバルトの量は、全触媒組成物の約1〜約50重量%である。触媒は、ThO、La、MgO、及びTiOのような塩基性酸化物促進剤、ZrOのような促進剤、貴金属(Pt、Pd、Ru、Rh、Os、Ir)、貨幣金属(Cu、Ag、Au)、及びFe、Mn、Ni、及びReのような他の遷移金属を含むこともできる。適当な支持体材料には、アルミナ、シリカ、マグネシア、及びチタニア、又はそれらの混合物が含まれる。コバルト含有触媒のための好ましい支持体はチタニアを含む。有用な触媒及びそれらの製造は知られており、米国特許第4,568,663号明細書に例示されているが、それは触媒選択に関する例として示すことを目的としており、限定的な意味を持つものではない。
【0058】
比較的短いものから中程度の鎖成長の確率を与える或る触媒が知られており、反応生成物は比較的大きな割合で低分子量(C2−8)のオレフィン及び比較的小さな割合で高分子量(C30+)のワックスを含む。比較的長い鎖の成長確率を与える或る他の触媒が知られており、反応生成物は、比較的小さな割合で低分子量(C2−8)のオレフィン及び比較的大きな割合で高分子量(C30+)のワックスを含む。そのような触媒は当業者によく知られており、容易に得ることができ且つ/又は製造することができる。
【0059】
フィッシャー・トロプシュ法からの生成物は、主にパラフィンを含有する。フィッシャー・トロプシュ反応からの生成物は、一般に軽質反応生成物及びワックス反応生成物を含む。軽質反応生成物(即ち、凝縮留分)は、殆どがC〜C20の範囲に入る約700°Fより低い沸点の炭化水素(例えば、テイルガスから中間蒸留物燃料まで)を含み、約C30までの量が減少して行く。ワックス状反応生成物(即ち、ワックス留分)は、殆どがC20+の範囲に入る約600°Fより高い沸点を有する炭化水素(例えば、真空ガスオイルから重質パラフィン)を含み、C10までは量が減少して行く。軽質反応生成物及びワックス状生成物の両方共実質的にパラフィンである。ワックス状生成物は、一般に70重量%より多い直鎖パラフィン、屡々80重量%より多い直鎖パラフィンを含む。軽質反応生成物は、かなりの割合がアルコール及びオレフィンであるパラフィン系生成物を含む。或る場合には、軽質反応生成物は、50重量%位に多く、それより多くなることさえあるアルコール及びオレフィンを含む。本発明による誘電性流体として用いられるフィッシャー・トロプシュ誘導油留分を与えるための方法への供給原料として用いられるのは、ワックス状反応生成物(即ち、ワックス留分)である。
【0060】
本発明で有用なフィッシャー・トロプシュワックスは、炭素数60以上の生成物対炭素数30以上の生成物の重量比が0.18より小さい。炭素数60以上の生成物対炭素数30以上の生成物の重量比は次のようにして決定される:1)ASTM D6352を用いた疑似蒸留によりフィッシャー・トロプシュ・ワックスの沸点分布を測定する;2)ASTM D6352−98の表1に公表されたn−パラフィンの沸点を用いて、沸点を、炭素数による重量%分布に変換する;3)炭素数30以上の生成物の重量%を合計する;4)炭素数60以上の生成物の重量%を合計する;及び5)炭素数60以上の生成物の重量%の合計を、炭素数30以上の生成物の重量%の合計で割る。本発明の別の態様では、炭素数60以上の生成物対炭素数30以上の生成物の重量比が0.15より小さく、好ましくは0.10より小さいフィッシャー・トロプシュ・ワックスを用いる。
【0061】
誘電性流体を与えるのに用いられるフィッシャー・トロプシュ油留分は、水素化異性化を含む方法によりフィッシャー・トロプシュ・シンクルードのワックス状留分から製造される。フィッシャー・トロプシュ油留分は、2003年12月23日に出願された米国特許出願Serial No.10/744,870(これは参考のため全体的にここに入れてある)に記載されている方法により製造してもよい。本発明による誘電性流体を与えるのに用いられるフィッシャー・トロプシュ油留分は、誘電性流体の他の場合による成分を受け取り、混合される場所とは異なった場所で製造されてもよい。
【0062】
水素化異性化
高度にパラフィン性のワックスは、本発明による誘電性流体として有用な油留分を与えるため、水素化異性化を含む処理にかける。
【0063】
水素化異性化は、分子構造に分岐を選択的に付加することにより油のコールドフロー性改良することを目的とする。水素化異性化は、同時にクラッキングによる転化を最小限にしながら、高度にパラフィン性のワックスを非ワックス状イソパラフィンへの大きな転化レベルを達成するのが理想的である。本発明での水素化異性化条件は、ワックス供給物中の約700°Fより高い沸点を有する化合物の、約700°Fより低い沸点を有する化合物への転化が、約10重量%〜50重量%、好ましくは15重量%〜45重量%に維持されるように制御されるのが好ましい。
【0064】
本発明により、水素化異性化は、形状選択性中間気孔孔径分子篩を用いて行われる。本発明で有用な水素化異性化触媒は、形状選択性中間気孔孔径分子篩と、任意に、触媒活性金属水素化成分を、耐火性酸化物支持体上に含む。ここで用いる語句「中間気孔孔径」とは、多孔質無機酸化物がか焼された形態になっている時、約3.9〜約7.1Åの範囲の有効気孔開口を意味する。本発明の実施で用いられる形状選択性中間気孔半径分子篩は、一般に1−D 10−、11−、又は12−員環分子篩である。本発明で好ましい分子篩は、1−D 10−員環の種類のものであり、この場合、10−(又は11−、又は12−)員環分子篩は、酸素によって結合された10(又は11、又は12)個の四面体配位原子(T−原子)を有する。1−D分子篩では、10−員環(又はそれより大きな)気孔は互いに平行であり、交わっていない。しかし、中間気孔孔径分子篩の一層広い定義に合う1−D、10−員環分子篩には、8員環を有する交差する孔も含まれ、本発明の分子篩の定義中にも包含させることができる。1−D、2−D、及び3−Dとしての内部ゼオライトチャンネルの分類は、F.R.ロドリゲス(Rodrigues)、L.D.ロールマン(Rollman)、及びC.ナカチェ(Naccache)により編集された「ゼオライト、化学及び技術」(Zeolites, Science and Technology)、NATO ASIシリーズ(1984)の中でR.M.バラー(Barrer)により記載されており、その分類は参考のため全体的に入れてある(特に75頁参照)。
【0065】
水素化異性化で用いられる好ましい形状選択性中間気孔孔径分子篩は、SAPO−11、SAPO−31、及びSAPO−41のようなアルミニウム燐酸塩に基づく。SAPO−11及びSAPO−31が一層好ましく、SAPO−11が最も好ましい。SM−3は、特に好ましい形状選択性中間気孔孔径SAPOであり、それは、SAPO−11分子篩の結晶構造内に入る結晶構造を有する。SM−3の製造及びその独特な特性は、米国特許第4,943,424号及び第5,158,665号明細書に記載されている。ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、SSZ−32、オフレタイト、及びフェリエライトのようなゼオライトは、水素化異性化のために用いられる好ましい形状選択性中間気孔孔径分子篩である。SSZ−32及びZSM−23が一層好ましい。
【0066】
好ましい中間気孔孔径分子篩は、選択された結晶学的自由直径(crystallographic free diameters)のチャンネル、選択された結晶子粒径(選択されたチャンネルの長さに相当する)、及び選択された酸性度を特徴とする。分子篩のチャンネルの望ましい結晶学的自由直径は、約3.9〜約7.1Åの範囲にあり、7.1Å以下の最大結晶学的自由直径及び3.9Å以上の最小結晶学的自由直径を有する。好ましくは最大結晶学的自由直径は7.1Å以下であり、最小結晶学的自由直径は4.0Å以上である。最も好ましくは最大結晶学的自由直径は6.5Å以下であり、最小結晶学的自由直径は4.0Å以上である。分子篩のチャンネルの結晶学的自由直径は、Ch.ベルロッチェル(Baerlocher)、W.M.マイエル(Meier)、及びD.H.オルソン(Olson)による「ゼオライト骨組み型図鑑」(Atlas of Zeolite FrameworkTypes)第5改訂版、2001年、第10頁〜15頁(これは参考のためここに入れてある)に公表されている。
【0067】
本発明で有用な特に好ましい中間気孔孔径分子篩は、例えば、米国特許第5,135,683号及び第5,282,958号明細書(それらの内容は参考のため全体的にここに入れてある)に記載されている。米国特許第5,282,958号明細書では、そのような中間気孔孔径分子篩は、約0.5μ以下の結晶子粒径を有し、少なくとも約4.8Åの最小直径及び約7.1Åの最大直径を有する気孔を有する。その触媒は、環状反応器中に入れた場合、その0.5gで、370℃の温度、1200psigの圧力、160ml/分の水素流量、及び1ml/時の供給物速度で、ヘキサデカンの少なくとも50%を転化する充分な酸性度を有する。この触媒は、直鎖ヘキサデカン(n−C16)を他の物質へ96%転化することになる条件で用いた場合、40%以上の異性化選択性を示す〔異性化選択性は、次のようにして決定される:100×(生成物中の分岐C16重量%)/(生成物中の分岐鎖C16重量%+生成物中のC13−重量%)〕。
【0068】
そのような特に好ましい分子篩は、更に、約4.0〜約7.1Åの範囲、好ましくは4.0〜65Åの範囲の結晶学的自由直径を有する気孔又はチャンネルを特徴とすることができる。分子篩のチャンネルの結晶学的自由直径は、Ch.ベルロッチェル、W.M.マイエル、及びD.H.オルソンによる「ゼオライト骨組み型図鑑」第5改訂版、2001年、第10頁〜15頁(これは参考のためここに入れてある)に公表されている。
【0069】
分子篩のチャンネルの結晶学的自由直径が分からない場合、分子篩の有効気孔孔径は、既知の最小動的直径の炭化水素質化合物及び標準吸着法を用いて測定することができる。ブレック(Breck)、「ゼオライト分子篩」(Zeolite MolecularSieves)、1974年(特に第8章);アンダーソン(Anderson)その他、J. Catalysis 58, 114,(1979);及び米国特許第4,440,871号明細書(それらの関連部分は参考のためここに入れてある)参照。気孔孔径を決定するための吸着測定を行う場合、標準法を用いる。約10分未満で分子篩への吸着がその平衡吸着値の少なくとも95%に到達しないならば(p/p=25℃で0.5)、特定の分子が排除されたものとして考えるのが便利である。中間気孔孔径分子篩は、典型的には、殆ど妨害なく、5.3〜6.5Åの動的直径を有する分子を取り込むのが典型的であろう。
【0070】
本発明で有用な水素化異性化触媒は、触媒活性を有する水素化金属を含む。触媒活性水素化金属が存在することにより、生成物の改良、特にVI及び安定性の改良をもたらす。典型的な触媒活性水素化金属には、クロム、モリブデン、ニッケル、バナジウム、コバルト、タングステン、亜鉛、白金、及びパラジウムが含まれる。白金及びパラジウム金属が特に好ましく、白金が特に最も好ましい。もし白金及び/又はパラジウムが用いられる場合、活性水素化金属の合計量は、典型的には、全触媒の0.1〜5重量%、通常0.1〜2重量%の範囲にあり、10重量%を越えることはない。
【0071】
耐火性酸化物支持体は、慣用的に触媒のために用いられている酸化物支持体から選択することができ、それらには、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、マグネシア、チタニア、及びそれらの組合せが含まれる。
【0072】
水素化のための条件は、約0.3重量%未満の芳香族成分、10重量%に等しいか又はそれより多いモノシクロパラフィン官能性を有する分子、及び3重量%に等しいか又はそれより少ないマルチシクロパラフィン官能性を有する分子を含む油留分を達成するように調整されるであろう。好ましくは、それら条件は、15重量%より多いモノシクロパラフィン官能性を有する分子、及び2.5重量%に等しいか又はそれより少ないマルチシクロパラフィン官能性を有する分子、一層好ましくは、1.5重量%に等しいか又はそれより少ないマルチシクロパラフィン官能性を有する分子を含む油留分を与える。それらの条件は、モノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%対マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%の比が、好ましくは5より大きく、一層好ましくは15より大きく、更に一層好ましくは50より大きい油留分を与える。水素化異性化のための条件は、950°Fに等しいか又はそれより高いT90沸点、100℃で約6cSt〜約20cStの動粘度、−14℃に等しいか又はそれより高い流動点を有する上記油留分を達成するように調整されるであろう。その油留分を用いて、ASTM D877により測定して25kVに等しいか又はそれより大きい誘電破壊電圧を有する誘電性流体を与えるであろう。
【0073】
水素化異性化のための条件は、用いる供給物の性質、用いる触媒、触媒が硫化されているか否か、希望の収率、及び油の希望の性質に依存するであろう。本発明の水素化異性化工程が行われる条件には、約260℃〜約413℃(約500°F〜約775°F)、好ましくは315℃〜約399℃(600°F〜約750°F)、一層好ましくは約315℃〜約371℃(約600°F〜約700°F)の温度、及び約15〜3000psig、好ましくは100〜2500psigの圧力が含まれる。この内容で水素化異性化圧力とは、水素化異性化反応器中の水素分圧を指しているが、水素分圧は、実質的に全圧力と同じ(又は、ほぼ同じ)である。接触中の液体空間時速は、一般に約0.1〜20時−1、好ましくは約0.1〜約5時−1である。水素対炭化水素比は、炭化水素1モル当たり約1.0〜約50モルのH、一層好ましくは炭化水素1モル当たり約10〜約20モルのHの範囲内に入る。水素化異性化を行うのに適した条件は、米国特許第5,282,958号及び第5,135,638号明細書(これらの内容は参考のため全体的にここに入れてある)に記載されている。
【0074】
水素化異性化工程中、反応領域中に水素が存在し、典型的には、約0.5〜30 MSCF/bbl(1バレル当たり1000標準ft)、好ましくは約1〜約10 MSCF/bblの水素対供給物比で存在する。水素は、生成物から分離し、反応領域へ再循環してもよい。
【0075】
精留
高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を与える方法は、任意に、水素化異性化する前に高度にパラフィン性のワックス供給物を精留することを含む。
【0076】
高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を与える方法は、水素化異性化工程から得られた油を精留し、950°Fに等しいか又はそれより高いT90沸点を有する一種類以上の油留分を与えることを含む。高度にパラフィン性のワックス供給物又は異性化油のそれら留分への精留は、一般に大気圧か又は真空蒸留により、或は大気圧蒸留と真空蒸留との組合せにより達成される。大気圧蒸留を用いて、ナフサ及び中間蒸留物のような軽質蒸留物部分を、約315℃〜約399℃(約600°Fより高く約750°Fまで)の初期沸点を有する塔底留分から分離するのが典型的である。一層高い温度では、炭化水素の熱分解が行われ、装置の汚染をもたらし、一層重質の留分の収率を低下することがある。真空蒸留を用いて、油留分のような一層高い沸点の物質を異なった沸点範囲の留分へ分離するのが典型的である。
【0077】
異性化油を異なった沸点範囲の留分へ精留することにより、ここに記載したような性質を有する油留分を得ることができる。従って、異性化油を精留して、950°Fに等しいか又はそれより高いT90沸点を有する一種類以上の留分を与える。950°Fに等しいか又はそれより高いT90沸点を有する、異性化油から得られた留分は、かなり広い沸点範囲分布(5−95)も有する。異性化油から得られた、950°Fに等しいか又はそれより高いT90沸点を有する留分の沸点範囲分布(5−95)は、約125°Fより大きく、或る態様では約150°Fより大きく、或る態様では約200°Fより大きい。
【0078】
本発明の絶縁性誘電性流体は、950°Fに等しいか又はそれより高いT90沸点を有する、異性化油から得られた一種類以上の留分を含む。本発明の絶縁性誘電性流体が、950°Fに等しいか又はそれより高いT90沸点を有する、異性化油から得られた少なくとも二種類の留分を含む場合、それら油留分の沸点範囲分布(5−95)は、一般に約200°Fより大きいであろう。
【0079】
希望の留分は、ASTM D877による誘電破壊電圧が約25kVより大きく、好ましくは約30kVより大きく、一層好ましくは約40kVより大きい誘電性流体を与えるように選択される。
【0080】
水素化処理(Hydrotreating)
水素化異性化工程への高度にパラフィン性のワックス状供給物は、水素化異性化の前に水素化処理してもよい。水素化処理とは、砒素、アルミニウム、及びコバルトのような種々の金属汚染物;硫黄及び窒素のようなヘテロ原子;酸素化物;又は供給原料からの芳香族成分;を除去することを主たる目的とした通常遊離水素を存在させて行われる触媒処理を指す。一般に、水素化処理の操作では、炭化水素分子のクラッキング、即ち、大きな炭化水素分子の小さな炭化水素分子への切断が最小限にされ、不飽和炭化水素が完全に又は部分的に水素化される。
【0081】
水素化処理操作を行う時に用いられる触媒は当分野でよく知られている。水素化処理、水素化分解、及びそれら方法の各々で用いられる典型的な触媒についての一般的記述については、例えば、米国特許第4,347,121号及び第4,810,357号明細書(これらの内容は参考のため全体的にここに入れてある)を参照されたい。適当な触媒には、アルミナ又は珪酸質マトリックス上の白金、又はパラジウムのような第VIIIA族〔国際純粋・応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry)による1975年規則に従う〕からの貴金属、アルミナ又は珪酸質マトリックス上のニッケル・モリブデン、又はニッケル・錫のような第VIII族及び第VIB族が含まれる。米国特許第3,852,207号明細書には、適当な貴金属触媒及び穏やかな条件が記載されている。他の適当な触媒は、例えば、米国特許第4,157,294号及び第3,904,513号明細書に記載されている。ニッケル・モリブデンのような非貴金属水素化金属は、通常酸化物として最終触媒組成物中に存在しているが、通常それらの還元又は硫化型で、関与する適当な金属からそのような硫化物化合物が容易に形成される場合には、用いられている。好ましい非貴金属触媒組成物は、対応する酸化物として決定して、約5重量%を越え、好ましくは約5〜約40重量%のモリブデン及び/又はタングステン、少なくとも0.5、一般に約1〜約15重量%のニッケル及び/又はコバルトを含む。白金のような貴金属を含む触媒は、0.01%を越える金属、好ましくは0.1〜1.0%の金属を含む。白金とパラジウムとの混合物のような貴金属の組合せを用いてもよい。
【0082】
典型的な水素化処理条件は、広い範囲に亙って変化する。一般に全LHSVは、約0.25〜2.0、好ましくは約0.5〜1.5である。水素分圧は、200psiaより大きく、好ましくは約500psia〜約2000psiaの範囲にある。水素再循環速度は、典型的には50SCF/Bblより大きく、好ましくは1000〜5000SCF/Bblである。反応器の温度は、約150℃〜約400℃(約300°F〜約750°F)、好ましくは230℃〜385℃(450°F〜725°F)の範囲にあるであろう。
【0083】
水素化仕上げ(Hydrofinishing)
水素化仕上げは、水素化異性化に続く工程として用いることができる水素化処理工程であり、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を与える。水素化仕上げは、微量の芳香族、オレフィン、着色物体、及び溶媒を除去することにより、油留分の酸化安定性、UV安定性及び外観を改良することを目的とする。本明細書で用いられている用語、UV安定性とは、油留分又は誘電性流体の、UV光及び酸素に晒した時のそれらの安定性を指す。不安定とは、紫外線及び空気に晒すと、通常綿状又は曇りとして目で見える沈澱物を形成するか、又は暗い色を発生する場合を指す。水素化仕上げについての一般的記述は、米国特許第3,852,207号及び第4,673,487号明細書に見出すことができる。
【0084】
本発明の高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、生成物の品質及び安定性を改良するため、水素化仕上げをしてもよい。水素化仕上げ中、全空間時速(LHSV)は、約0.25〜2.0時−1、好ましくは約0.5〜1.0時−1である。水素分圧は、200psiaより大きく、好ましくは約500psia〜約2000psiaの範囲にある。水素再循環速度は、典型的には50SCF/Bblより大きく、好ましくは1000〜5000SCF/Bblである。温度は、約300°F〜約750°F、好ましくは450°F〜600°Fの範囲にある。
【0085】
適当な水素化仕上げ触媒には、アルミナ又は珪酸質マトリックス上の白金、又はパラジウムのような第VIIIA族〔国際純粋・応用化学連合による1975年規則に従う〕からの貴金属、及び、アルミナ又は珪酸質マトリックス上のニッケル・モリブデン、又はニッケル・錫のような第VIIIA族及び第VIB族の硫化されていない金属が含まれる。米国特許第3,852,207号明細書には、適当な貴金属触媒及び穏やかな条件が記載されている。他の適当な触媒は、例えば、米国特許第4,157,294号及び第3,904,513号明細書に記載されている。ニッケル・モリブデン及び/又はタングステンのような非貴金属、及び対応する酸化物として決定して、少なくとも0.5重量%、一般に約1〜約15重量%のニッケル及び/又はコバルトが含まれる。(白金のような)貴金属触媒は、0.01%を越える金属、好ましくは0.1〜1.0%の金属を含む。白金とパラジウムとの混合物のような貴金属の組合せを用いてもよい。
【0086】
下に記載するような、不純物を除去するための粘土処理は、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を与えるための別の最終的処理工程である。
【0087】
後処理
高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を製造するための方法は、水素化異性化処理に続く後処理工程を含んでいてもよい。場合により収着剤を用いた異性化ワックスの選択された留分の後処理を、流動点を低下し、曇り性を減少し、更に、処理された留分のワックス含有量を減少させるために用いてもよい。収着剤を用いて曇り性を減少させる方法は、米国特許第6,579,441号及び第6,468,417号明細書(これらの内容は参考のため全体的にここに入れてある)に記載されている。収着剤を用いて流動点を低下する方法は、EP 105631及びEP278693に記載されている。
【0088】
後処理のために有用な収着剤は、一般に大きな収着能力を有する固体粒状物質である。結晶質分子篩(アルミノ珪酸塩ゼオライトを含める)、活性炭、アルミナ、シリカ・アルミナ、及び粘土は、有用な収着剤の例である。曇り性を減少させるのに最も有用な収着剤は、或る酸性特性を有する表面を有する。
【0089】
溶媒脱蝋
高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を製造する方法は、水素化異性化処理に続く溶媒脱蝋工程も含んでいてもよい。場合により溶媒脱蝋を用いて、水素化異性化後の油から少量の残留ワックス状分子を除去することができる。溶媒脱蝋は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、又はトルエンのような溶媒中に油を溶解するか、又はワックス分子を沈澱させることにより行われ、それは、「石油の化学的技術」(Chemical Technology of Petroleum)第三版〔ウィリアム・グルース(William Gruse)及びドナルド・スティーブンス(Donald Stevens)、マクグロー・ヒル出版社(McGraw-Hill Book Company, Inc.)、ニューヨーク、1960〕第566頁〜第570頁に論じられている通りである。溶解脱蝋は、米国特許第4,477,333号、第3,773,650号、及び第3,775,288号明細書にも記載されている。
【0090】
誘電性流体
本発明による誘電性流体は、粘度範囲に比較して高い沸点を有する高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を一種類以上含み、モノシクロパラフィン官能性を有する分子を比較的大きな重量%で、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子を比較的低い重量%で含み、中程度の低い流動点を有する。本発明の絶縁性誘電性流体は、大きな誘電破壊電圧を有する。本発明による油留分は、誘電性流体を与えるためそれらを使用するのに利点を与える或る性質を有する。これらの性質には、粘度に比較して高い沸点が含まれ、それは、良好な電気抵抗及び低い引火点及び発火点を与える。更に、モノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%が比較的大きいことは、良好な溶媒性、良好なシールとの両立性、及び他の油との良好な混和性を与える。更に、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%が比較的小さいことは、優れた酸化安定性を与える。更に、それらの中程度に低い流動点により、高度の脱蝋により過度の収率低下を起こす必要なく、油の収率を一層高くすることができる。
【0091】
本発明の誘電性流体の好ましい態様は、非常に高い引火点及び発火点を有し、本発明による誘電性流体を高発火点絶縁性誘電性流体として有用なものにしている。これらの油留分は、流動点低下剤、酸化防止剤、及び金属不活性化剤を含めた少量の添加剤にも非常に応答し易い。
【0092】
本発明による誘電性流体は、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を一種類以上含む。そのようなものとして、本発明による誘電性流体は、100℃で約6cSt〜20cStの粘度、950℃に等しいか又はそれより高いT90沸点、及び−14℃に等しいか又はそれより高い流動点を有する、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分含む。好ましい態様として、油留分は、1000℃に等しいか又はそれより高いT90沸点を有する。
【0093】
本発明による誘電性流体は、ASTM 877により測定して、25kVに等しいか又はそれより大きな誘電破壊電圧を有する。好ましい態様として、本発明による誘電性流体は、ASTM 877により測定して、30kVに等しいか又はそれより大きく、一層好ましくは40kVに等しいか又はそれより大きな誘電破壊電圧を有する。本発明による誘電性流体は、優れた誘電破壊電圧、高い引火点及び発火点を有する。好ましい態様として、本発明による誘電性流体は、310℃以上の発火点、一層好ましくは325℃以上の発火点、及び280℃以上の引火点を有する。
【0094】
油留分の沸点がそれらの粘度に比較して高いことは、同様な粘度の他のパラフィン系油と比較して、高い引火点及び高い発火点をそれらに与える。本発明の油留分が高い沸点を持つにもかかわらず、それらは依然として効果的な冷却を与えるのに充分によく流動する。
【0095】
950°Fに等しいか又はそれより高いT90沸点を有するこれらの留分は、かなり広い沸点範囲分布(5−95)も有する。950°Fに等しいか又はそれより高いT90沸点を有する留分の沸点範囲分布(5−95)は、約125°Fより大きく、或る態様では約150°Fより大きく、或る態様では約200°Fより大きくなることがある。
【0096】
高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、0.30重量%未満の芳香族成分、10重量%以上のモノシクロパラフィン官能性を有する分子、3重量%以下のマルチシクロパラフィン官能性を有する分子を含む。本発明による油留分が含む不飽和レベルは極めて低い。本発明による誘電性流体は、モノシクロパラフィン官能性を有する分子を比較的大きな重量%で、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子及び芳香族成分は比較的低い重量%で含む、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を一種類以上含む。
【0097】
好ましい態様として、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、15重量%以上のマルチシクロパラフィン官能性を有する分子を含む。別の好ましい態様として、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の含有量が2.5重量%以下である。別の好ましい態様として、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の含有量が1.5重量%以下である。更に別の好ましい態様として、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、5より大きく、好ましくは15より大きく、一層好ましくは50より大きいモノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%対マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%の比を有する。
【0098】
モノシクロパラフィン官能性の量が多いことは、本発明の油留分に良好な溶媒性(solvency)、良好なシールとの両立性、及び他の油との良好な混和性を与える。マルチシクロパラフィン官能性の量が非常に低いことは、本発明の油留分に優れた酸化安定性を与える。
【0099】
誘電性流体として用いられる油留分の流動点は−14℃以上、好ましくは−12℃以上である。これらの中程度に低い流動点を有する油留分は、一層低い粘度及び一層低い流動点を有する油を製造するのに必要な高度の脱蝋に伴って起きる収率の低下を起こすことなく、豊富に製造することができる。従って、誘電性流体として用いられる油留分は、大量に製造でき、中程度に低い流動点により魅力的な価格で市場に出すことができる。更に、本発明の油留分は、流動点降下剤を含めた添加剤によく応答する。従って、油留分の流動点は、遥かに低い流動点が必要な場合には、流動点降下添加剤を使用することにより容易に低下することができる。
【0100】
本発明の誘電性流体は、変圧器、調整器、回路遮断器、スイッチギアー、地下電気ケーブル、及び付随設備のような現存及び新規な電力及び分配電気装置での絶縁及び冷却媒体として有用である。それらは機能的に現存する鉱油系誘電性流体と混和することができ、現存する装置と両立することができる。本発明のこれらの誘電性流体は、高い引火点、高い発火点、優れた誘電破壊電圧、及び良好な添加剤溶解性を必要とする用途で用いることができる。特に、本発明の誘電性流体は高発火点絶縁性油が必要となる用途で用いることができる。更に高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分、従って、これらの留分を含む誘電性流体は、優れた酸化抵抗及び良好なエラストマーとの両立性を示す。
【0101】
本発明の絶縁性誘電性流体の一つの態様は、高発火点絶縁性油が必要となる変圧器及びスイッチギアーのような現存及び新規な電力及び分配電気装置での誘電性冷却媒体として有用である。高発火点絶縁性油は、少なくとも300℃の発火点を有することにより、慣用的絶縁性油とは異なっている。この発火点が高い性質は、米国電気規則(National electrical Code)(第450−23条)又は他の機関の或る適用条件に従わせるために必要である。高発火点絶縁性油についての仕様の二つの例は、IEEE標準C57.121−1988及びASTM D5222−00である。本発明の絶縁性誘電性流体の発火点は、一般に約250℃より高く、好ましくは約300℃より高く、一層好ましくは約310℃より高く、最も好ましくは約325℃より高いであろう。高発火点絶縁性油として有用な本発明の絶縁性誘電性流体は、一般に約300℃〜約350℃の発火点を有するであろう。高い発火点を有することの他に、高発火点絶縁性油は、少なくとも275℃の引火点ももたなければならない。本発明の絶縁性誘電性流体の引火点は、一般に約150℃より高く、好ましくは約280℃より高く、一層好ましくは約290℃より高い。
【0102】
別の態様として、本発明の絶縁性誘電性流体は、地下電気ケーブル中の誘電絶縁性性流体として有用である。絶縁性誘電性流体は、この場合の電気絶縁性の他に、地下電気ケーブルの表面を透過し、全ての湿分を除去し、その後、湿分がケーブル内に入るのを防ぐ。
【0103】
誘電性流体として用いられる本発明の油留分は、溶離カラムクロマトグラフィー、ASTM D2549−02により決定して、95重量%より大きな飽和度を含む。オレフィンは、長期C13核磁気共鳴分光分析(NMR)により検出できる量よりも少ない量でしか存在しない。好ましくは、芳香族官能性を有する分子の存在量は、HPLC−UVにより0.3重量%より少なく、低レベルの芳香族成分を測定するように修正したASTM D5292−99により確認されている。好ましい態様として、芳香族官能性を有する分子の存在量は、0.10重量%より少なく、好ましくは0.05重量%より少なく、一層好ましくは0.01重量%より少ない。硫黄の存在量は、ASTM D5453−00により紫外線蛍光により決定して、25ppmより少なく、好ましくは5ppmより少なく、一層好ましくは1ppmより少ない。
【0104】
油留分は、例えば、大きな揮発性を含めた望ましくない特性及びヘテロ原子のような不純物を誘電性流体に導入することはない。
【0105】
好ましい態様として、本発明による油留分は、フィッシャー・トロプシュ誘導油留分である。フィッシャー・トロプシュ誘導ワックスは、上に記載した性質を有するフィッシャー・トロプシュ誘導油留分を与えるのに特に良く適している。
【0106】
HPLC−UVによる芳香族成分測定:
油中の芳香族官能性を有する分子の低いレベルを測定するのに用いられる方法は、HPケム・ステーション(Chem-station)にインターフェースされたHP 1050ダイオード・アレー・UV−Vis検出器と結合されたヒューレット・バッカード(Hewlett Packard)1050シリーズ四勾配(Quaternary Gradient)高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)装置を用いる。高度に飽和した油中の個々の芳香族の種類は、それらのUVスペクトルパターン及びそれらの溶離時間に基づいて同定された。この分析のために用いられたアミノカラムは、殆どそれらの環数(又は一層正確には二重結合の数)に基づき芳香族分子を区別する。例えば、一つの芳香族環を含む分子は、最初に溶離し、続いて1分子当たり二重結合数が増大する順序で多環式芳香族成分が溶離するであろう。同様な二重結合特性を有する芳香族成分については、環上にアルキル置換基だけを有するものは、シクロパラフィン系置換基を有するものよりも早く溶離するであろう。
【0107】
種々の芳香族炭化水素油をそれらのUV吸収スペクトルにより絶対的に同定することは、それらの電子遷移ピークが、環系のアルキル及びシクロパラフィン置換基の量に依存して或る程度まで、純粋モデル類似化合物(pure model compound analogs)に対し相対的に全て赤色の方へ移行していた事実によりいくらか複雑になっていた。これらの深色効果移行は、芳香族環のπ電子のアルキル基非局在化により起こされることがよく知られている。油範囲で沸騰する殆ど置換されていない芳香族化合物は、ある程度の赤色移行が予想され、同定された原理的芳香族基の全てについて観察された。
【0108】
溶離する芳香族化合物の定量化は、夫々の一般的種類の化合物について最適にされた波長から作成されたクロマトグラムをその芳香族についての適当な保持時間窓に亙って積分することにより行われた。各芳香族の種類についての保持時間窓(retention time window)の限界は、異なった時間で溶離する化合物の個々の吸収スペクトルを手動で評価し、モデル化合物吸収スペクトルに対するそれらの定性的類似性に基づき適当な芳香族の種類にそれらを割り当てることにより決定した。殆ど例外なく、高度に飽和したAPIグループII及びIII潤滑基礎油で、僅かに5種類の芳香族化合物が観察された。
【0109】
HPLC−UV較正
これらの種類の芳香族化合物を非常に低いレベルでさえも同定するためにHPLC−UVを用いる。多環式芳香族成分は、単環式芳香族成分よりも10〜200倍強く吸収するのが典型的である。アルキル置換基も約20%吸収に影響を与えた。従って、種々の種類の芳香族を分離し、同定し、それらがどのように効果的に吸収するかを知るためにHPLCを用いることは重要である。
【0110】
5種類の芳香族化合物が同定された。最も強く維持されたアルキル−シクロアルキル−1−環芳香族成分と、最も弱く維持されたアルキルナフタレンとの間に僅かな重複があることを例外として、芳香族化合物の全ての種類がベースラインで解析された。272nmで同時に溶離する1−環及び2−環芳香族成分についての積分範囲は、垂線降下法により行われた。夫々の一般的種類の芳香族については、波長依存応答係数を、置換芳香族類似物に最も近いスペクトル吸光度ピークに基づき純粋モデル化合物混合物からベールの法則(Beer's Law)によるプロットを作ることにより先ず決定した。
【0111】
例えば、油中のアルキル−シクロヘキシルベンゼン分子は、非置換テトラリンモデル化合物が268nmで示す同じ(禁止)遷移に相当する272nmでの明確な吸光度ピークを示す。油試料中のアルキル−シクロアルキル−1−環芳香族成分の濃度は、272nmでのそのモル吸光率応答係数が、ベールの法則によるプロットから計算して、268nmでのテトラリンのモル吸光率にほぼ等しいということを仮定することにより計算した。芳香族成分の重量%濃度は、各種類の芳香族についての平均分子量が、全油試料についての平均分子量にほぼ等しいと仮定することにより計算した。
【0112】
この較正法は、更に油から1−環芳香族成分を吸尽(exhaustive)HPLCクロマトグラフィーにより分離することにより改良した。これらの芳香族成分で直接較正することにより、モデル化合物に伴われる不確実性及び仮定を除いた。予想通り、分離された芳香族試料は、モデル化合物よりも低い応答係数を持っていた。なぜなら、それは一層高度に置換されていたからである。
【0113】
特に、HPLC−UV法を正確に較正するために、ウォーターズ(Waters)準分取HPLC装置を用い、油の本体から置換ベンゼン芳香族成分を分離した。10gの試料をn−ヘキサン中に1:1に希釈し、カリフォルニア州エメリービルのライニン・インストルーメンツ(Rainin Instruments)により製造された8〜12μのアミノ結合したシリカ粒子によるアミノ結合シリカ・カラム、5cm×22.4mm内径ガードに、次に2本の25cm×22.4mm内径のカラムに注入したが、n−ヘキサンを、18ml/分の流量で移動相として用いた。カラム溶離物を、265nm及び295nmに設定した二重波長UV検出器からの検出器応答に基づき精留した。飽和フラクションは、単環式芳香族の溶離の開始を示す信号である、265nmの吸光度が0.01吸光度単位の変化を示すまで収集した。単環式芳香族フラクションは、265nmと295nmとの吸光度比が2.0に低下し、2環式芳香族の溶離の開始を示すまで収集した。単環式芳香族フラクションの精製及び分離は、HPLCカラムに過剰導入することにより得られた「テイリング(tailing)」飽和物フラクションから離れたモノ芳香族フラクションを再びクロマトグラフィーにかけることにより行なった。
【0114】
この精製した芳香族「標準」物質は、アルキル置換が、非置換テトラリンに対しモル吸光率応答係数を約20%低下したことを示していた。
【0115】
NMRによる芳香族成分の確認:
精製したモノ芳香族標準物質中の芳香族官能性を有する分子の重量%は、長期炭素13NMR分析により確認した。NMRはHPLC−UVよりも較正し易かった。なぜなら、それは単に芳香族炭素を測定するものであり、従って、応答が分析される芳香族成分の種類には左右されないからである。NMRの結果は、高度に飽和した油中の芳香族成分の95〜99%が単環式芳香族成分であることを知ることにより芳香族炭素の%を芳香族分子の%に変換した(HPLC−UV、及びD2007と一致している)。
【0116】
0.2%の芳香族分子まで正確に芳香族を測定するためには、大きな電力、長い期間、及び良好なベースライン分析が必要であった。
【0117】
特にNMRによる少なくとも一つの芳香族官能性を有する全ての分子を低いレベルで正確に測定するためには、500:1の最小炭素感度を与えるように標準D5292−99法を修正した(ASTM標準実施法E386による)。10〜12mmのナロラック(Nalorac)プローブを有する400〜500MHz NMRで15時間の継続実験を用いた。ベースラインの形を決定し、一環した積分を行うために、アコロン(Acorn)PC積分ソフトウェアーを用いた。キャリヤー周波数は、実験中一度変化させ、脂肪族ピークを芳香族領域中へイメージすることによる人為的誤りが起きないようにした。キャリヤースペクトルのどちらかの側のスペクトルを取ることにより、解像度は著しく改良された。
【0118】
オレフィン重量%の決定:
オレフィンの重量%を、次の工程a〜dに記載したようにしてプロトン・NMR(PROTON NMR)により決定した:
a) ジュウテロクロロホルム中に試験炭化水素を5〜10重量%入れた溶液を調製する。
b) 少なくとも12ppmスペクトル幅の正常プロトンスペクトルを取り、正確に化学的軸移動(ppm)を記録する。用いた装置は、レシーバー/ADCに過剰の負荷をかけることなく、信号を得るのに十分な利得範囲を持たなければならない。30°パルスを適用した場合、装置は、65,000の信号デジタル化最小ダイナミックレンジを持たなければならない。ダイナミックレンジは260,000以上であるのが好ましいであろう。
c) 6.0〜4.5ppm(オレフィン);2.2〜1.9ppm(脂肪族);及び1.9〜0.5ppm(飽和物)の積分強度(integral intensity)を測定する。
d) ASTM D2502又はASTM D2503により決定した試験物質の分子量を用いて次のことを計算する。
1) 飽和炭化水素の平均分子式;
2) オレフィンの平均分子式;
3) 全積分強度(=全ての積分強度の合計);
4) 試料水素1個当たりの積分強度(=全積分値/式の中の水素の数);
5) オレフィン水素の数(=オレフィン積分値/水素1個当たりの積分値);
6) 二重結合の数(=オレフィン水素×オレフィンの式中の水素/2);及び
7) プロトンNMRによるオレフィンの重量%=典型的なオレフィン分子中の二重結合の数×水素の数÷典型的な試験物質分子中の水素の数×100。
工程d)に記載したようなプロトンNMR計算方法によるオレフィン重量%は、得られるオレフィンの重量%が低く、約15重量%より低い場合、最もよく当て嵌まる。オレフィンは、「慣用的」オレフィンでなければならず、即ち、α、ビニリデン、シス、トランス、及び三置換のような二重結合炭素に結合した水素を有する種類のオレフィンの分布混合物である。これらの種類のオレフィンは、1〜約2.5の検出可能な脂肪族対オレフィン積分比を有するであろう。この比が約3を越える場合、それは、トリ又はテトラ置換オレフィンが一層大きな%で存在することを示し、その試料中の二重結合の数を計算するのに異なった仮定をしなければならないことを示している。
【0119】
FIMSによるシクロパラフィン分布:
パラフィンはシクロパラフィンよりも酸化に対し一層安定であると考えられ、従って、一層望ましい。モノシクロパラフィンは、マルチシクロパラフィンよりも酸化に対し一層安定であると考えられる。しかし、少なくとも一つのシクロパラフィン官能性を有する全ての分子の重量%が油中非常に低い場合、添加剤溶解性が低く、エラストマーとの両立性が悪くなる。これらの性質を有する油の例は、シクロパラフィンが約5%より低いフィッシャー・トロプシュ油(GTL油)である。最終生成物のこれらの性質を改良するため、エステルのような高価な共溶媒を屡々添加しなければならない。高度にパラフィン性のワックスから誘導され、誘電性流体として用いられる油留分は、モノシクロパラフィン官能性を有する分子を大きな重量%で含み、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子を低い重量%で含み、その結果、その油留分は、大きな酸化安定性、低い揮発性、良好な他の油との混和性、良好な添加剤溶解性、及び良好なエラストマーとの両立性を有する。
【0120】
本発明の潤滑基礎油は、FIMSによりアルカン及び種々の数の不飽和度を有する分子を特徴としていた。油留分中の分子の分布は、電界イオン化質量分光分析(FIMS)により決定された。FIMSスペクトルは、ミクロマス(Micromass)VG70VSE質量分光計で得られた。試料を固体プローブにより分光光度計の中へ導入し、好ましくは試験すべき基礎油を少量(0.1mg)をガラス毛細管に入れることにより導入した。毛細管を質量分光計のための固体プローブの先端の所に置き、そのプローブを50℃/分の速度で約40℃から500℃まで約10−6トールの真空度で操作しながら加熱した。質量分光計をm/z40からm/z1000まで、10個一組当たり5秒の速度で走査した。得られた質量スペクトルを合計して一つの「平均」スペクトルを作成した。各スペクトルは、PC−マススペック(MassSpec)からのソフトウェアーパッケージを用いて13C補正した。
【0121】
全ての種類の化合物について応答係数が1.0であると仮定して、面積%から重量%を決定した。得られた質量スペクトルを合計して一つの「平均」スペクトルを作成した。FIMS分析からの出力は、試験試料中のアルカン、1−不飽和成分、2−不飽和成分、3−不飽和成分、4−不飽和成分、5−不飽和成分、及び6−不飽和成分の平均重量%である。
【0122】
異なった不飽和数を有する分子は、シクロパラフィン、オレフィン、及び芳香族成分から構成されていることがある。潤滑基礎油の中に芳香族成分がかなりの量で存在する場合、それらはFIMS分析で4−不飽和成分として最も同定され易いであろう。潤滑基礎油の中にオレフィンがかなりの量で存在する場合、それらはFIMS分析で1−不飽和成分として最も同定され易いであろう。(FIMS分析による1−不飽和成分、2−不飽和成分、3−不飽和成分、4−不飽和成分、5−不飽和成分、及び6−不飽和成分の合計)−(プロトンNMRによるオレフィンの重量%)−(HPLC−UVによる芳香族成分の重量%)=本発明の潤滑基礎油中のシクロパラフィ官能性を有する分子の合計重量%、である。(FIMS分析による2−不飽和成分、3−不飽和成分、4−不飽和成分、5−不飽和成分、及び6−不飽和成分の合計)−(HPLC−UVによる芳香族成分の重量%)=本発明の油中のマルチシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%、である。芳香族成分含有量が測定されていなかったならば、それは0.1重量%より少ないと仮定され、シクロパラフィン官能性を有する分子の全重量%の計算には含まれなかったことに注意されたい。
【0123】
一つの態様として、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、10に等しいか又はそれより大きく、好ましくは15より大きいモノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%を有し、3に等しいか又はそれより小さく、好ましくは2.5に等しいか又はそれより小さく、一層好ましくは1.5に等しいか又はそれより小さいモノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%を有する。高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、好ましくは5より大きく、好ましくは15より大きく、一層好ましくは50より大きい、モノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%対マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%の比も有する。
【0124】
低いレベルの芳香族成分を測定するのに用いられる修正ASTM D5292−99及びHPLC−UV試験方法及び飽和を特徴付けるのに用いられているFIMS試験方法は、1999年3月16日、ヒューストンでの1999AIChE春季国際会議で与えられたD.C.クラマー(Kramer)その他、「第II及びIII族基礎油組成物のVI及び酸化安定性に与える影響」(Influence of Group II & III Base Oil Composition on VI and Oxidation Stability)(その内容は参考のため全体的にここに入れてある)に記載されている。
【0125】
高度にパラフィン性のワックス供給物は、本質的にオレフィンを含まないが、油処理技術は、「クラッキング」反応により、オレフィンを、特に高温で導入することができる。熱又はUV光が存在すると、オレフィンは重合し、油を着色するか、又は沈澱を起こすことがある高分子量生成物を形成することがある。一般に、オレフィンは、水素化仕上げ又は粘土処理により本発明の方法中に除去することができる。
【0126】
誘電性流体として用いるのに適したフィッシャー・トロプシュ油の例の性質を、実施例中、表IIに要約してある。
【0127】
本発明の誘電性流体は、約25kVより大きな誘電破壊電圧を有する誘電性流体を与えるため、T90≧950°Fである二種類以上の希望の油留分を含んでいてもよい。別法として、本発明の誘電性流体は、更に、一種類以上の付加的油を含んでいてもよい。二種類以上の希望の油留分又は一種類以上の付加的油を含む誘電性流体は、約200°Fより大きな沸点範囲分布(5−95)を有するであろう。本発明の誘電性流体は、更に一種類以上の添加剤を含んでいてもよい。
【0128】
添加剤
本発明による誘電性流体は、更に、一種類以上の添加剤を含んでいてもよい。そのようなものとして、ここに記載するように、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、一種類以上の添加剤と混合して誘電性流体を与える。一種類以上の添加剤を用いた場合、それらは効果的な量で存在する。誘電性流体で用いられる添加剤(一種又は多種)の有効な量は、希望の性質(単数又は複数)を与える量である。効果的量を越える量の添加剤を含有させることは望ましくない。添加剤の効果的量は比較的少なく、一般に誘電性流体の1.5重量%より少なく、好ましくは1.0重量%より少ない。なぜなら、本発明の誘電性流体は、少量の添加剤に非常に応答し易いからである。
【0129】
本発明の誘電性流体と共に用いることができる添加剤には、流動点降下剤、酸化防止剤、及び金属不活性化剤(それらが銅を不活性化する場合、金属不動態化剤としても知られている)が含まれる。種々の種類の潤滑基礎油添加剤についての再検討は、テオ・マング(Theo Mang)及びウィルフリード・ドレゼル(Wilfried Dresel)により編集された「潤滑剤及び潤滑」(Lubricants and Lubrication)第85頁〜第114頁に見出すことができる。
【0130】
流動点降下剤は、油中に懸濁したワックスが、その油の中で結晶又は固体物質を形成し、流動を妨げるようになる傾向を減少させることにより、油の流動点を低下する。有用な流動点降下剤の例は、ポリメタクリレート;ポリアクリレート;ポリアクリルアミド;ハロパラフィンワックスと芳香族化合物との縮合生成物;ビニルカルボキシレート重合体;ジアルキルフマレート、脂肪酸のビニルエステル、及びアルキルビニルエーテルの三元重合体;である。流動点降下剤は、米国特許第4,880,553号、及び第4,753,745号明細書(それらは参考のためここに入れてある)に記載されている。流動点降下剤の添加量は、本発明の誘電性流体の約0.01〜約1.0重量%であるのが好ましい。
【0131】
優れた酸化安定性は、誘電性流体の重要な性質である。十分な酸化安定性を持たない誘電性流体は、過度の温度及び酸素の影響を受けて、特に触媒として働く小さな金属粒子が存在すると酸化する。油の酸化は、時間と共にスラッジ及び付着物を与える結果になることがある。最悪のシナリオの場合、設備中の油導管が塞がれ、設備が過熱し、それが更に油の酸化をひどくする。油の酸化は酸及び過酸化水素のような帯電副生成物を生じ、それらが誘電性流体の絶縁性を低下する傾向を持つことがある。マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の含有量が低いので、本発明の誘電性流体は、酸化防止剤を添加しなくても一般に優れた酸化安定性を有する。しかし、一層の酸化安定性が望まれる場合、酸化防止剤を添加してもよい。本発明で有用な酸化防止剤の例は、フェノール、芳香族アミン、硫黄及び燐を含む化合物、有機硫黄化合物、有機燐化合物、及びそれらの混合物である。酸化防止剤の添加量は、本発明の誘電性流体の好ましくは約0.001〜約0.3重量%である。
【0132】
酸化防止剤と組合わされた、銅を不動態化する金属不活性化剤は、それらが銅イオンの形成を防ぎ、それらの酸化促進剤としての挙動を抑制するので、強い相乗的効果を示す。本発明で有用な金属不活性化剤には、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、及びトリルトリアゾール誘導体が含まれる。金属不活性化剤の添加量は、本発明の誘電性流体の好ましくは約0.005〜約0.8重量%である。
【0133】
本発明の誘電性流体に有用になることがある添加剤系の例は、参考のためここに入れる米国特許第6,083,889号明細書に記載されている。
【0134】
高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分の一種類以上を含む誘電性流体及び一種類以上の添加剤は、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分と一種類以上の添加剤とを、当業者に知られている技術により混合することにより形成することができる。誘電性流体成分は、個々の成分(即ち、フィッシャー・トロプシュ誘導油留分、流動点降下剤、及び酸化防止剤)から出発して一工程で混合し、直接誘電性流体を与えるようにしてもよい。別法として、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分と一種類の添加剤(即ち、流動点降下剤)を最初に混合し、次に得られた混合物を第二の添加剤(即ち、酸化防止剤)と混合してもよい。高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分と最初の添加剤との混合物は、そのようなものとして分離してもよく、或は第二添加剤の添加を直ちに行なってもよい。
【0135】
付加的油
本発明による誘電性流体は、更に、誘電性流体として典型的に用いられる一種類以上の他の油を含んでいてもよい。これらの他の油は、フィッシャー・トロプシュ誘導油、鉱油、他の合成油、及びそれらの混合物でもよい。二種類以上の油を用いることにより、一層好ましい性質を有する第二油を添加して、望ましい性質が少ない一種類の油の品質を向上させることができる。混合により品質を向上させることができる性質の例には、粘度、流動点、引火点及び発火点、界面張力、及び誘電破壊電圧である。
【0136】
そのようなものとして、ここに記載するような高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、一種類以上の他の油と混合し、誘電性流体を与える。第二油を用いる場合、本発明による誘電性流体は、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分を5〜99重量%、第二油を1〜95重量%含むことができる。
【0137】
別の油を用いる場合、本発明による誘電性流体は、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分と、一種類以上の付加的油と、場合により一種類以上の添加剤とを、当業者に知られている技術により混合することにより形成することができる。誘電性流体成分は、個々の成分から出発して一工程で混合し、直接誘電性流体を与えるようにしてもよい。別法として、高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分と一種類の添加剤とを最初に混合し、次に得られた混合物を第二油と混合してもよい。高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分と第一添加剤との混合物は、そのようなものとして分離してもよく、或は第二油の添加を直ちに行なってもよい。
【0138】
用いられる高度にパラフィン性のワックスから誘導された油留分は、誘電性流体の成分を受け取り、混合する場所とは異なった場所で製造してもよい。一つの態様として、油留分は一方の場所でフィッシャー・トロプシュ法により誘導され、そのフィッシャー・トロプシュ誘導油留分が最初に作られた場所とは異なった場所で誘電性流体を混合する。更に、誘電性流体の成分(即ち、フィッシャー・トロプシュ誘導油留分、付加的油、及び添加剤)は、全て異なった場所で製造されてもよい。フィッシャー・トロプシュ誘導油留分は、遠隔地点で製造されるのが好ましい(即ち、製油所又は市場から離れた場所で、その場所が製油所又は市場での製造コストよりも高い製造コストを有することがある。定量的用語では、遠隔地点と製油所又は市場との輸送距離は、少なくとも100マイル、好ましくは500マイルより長く、最も好ましくは1000マイルよりも長い)。
【0139】
フィッシャー・トロプシュ誘導油は、第一遠隔地点で製造され、第二地点へ出荷されるのが好ましい。誘電性流体に含有させる付加的油は、第一遠隔地点と同じ場所である地点で製造してもよく、又は第三の遠隔地点で製造してもよい。その第二地点でフィッシャー・トロプシュ誘導油留分、付加的油、及び添加剤を受け取る。誘電性流体はこの第二地点で製造される。
【実施例】
【0140】
本発明を、更に次の例示としての例により説明する。それらの例は本発明を限定するものではない。
【0141】
Fe系フィッシャー・トロプシュ合成触媒及びCo系フィッシャー・トロプシュ触媒を用いて製造された水素処理されたフィッシャー・トロプシュ生成物の試料を分析し、表Iに示す性質を有することが判明した。
【0142】
【表1】

【0143】
フィッシャー・トロプシュワックスは、0.18より小さい少なくとも60個の炭素原子を有する化合物対少なくとも30個の炭素原子を有する化合物の重量比を有し、約950°Fより高いT90沸点を持っていた。Fe系ワックスは、アルミナ酸化物支持体上に0.2〜0.5重量%のPtを含むPt/SSZ−32触媒又はPt/SAPO−11触媒により水素化異性化した。実験条件は、670〜685°F、1.0時−1LHSV、1000psigの反応器圧力、及び2〜7MSCF/bblの一回通過水素流量であった。反応器流出物は、同じく1000psigで第二反応器へ直接送り、その反応器にはシリカ・アルミナ上のPt/Pd水素化仕上げ触媒が入っていた。その反応器中の条件は450°Fの温度及び1.0時−1のLHSVであった。
【0144】
650°Fより高い沸点を有する生成物を、真空蒸留により精留し、種々の粘度等級を有する油留分を生成させた。本発明の油留分として有用な特定の蒸留留分についての試験データを表IIに示す。
【0145】
4種類のフィッシャー・トロプシュ誘導油留分:FT−6.3、FT−7.5、FT−10、及びFT−14;を試験した。本発明の誘電性流体として有用な特定の留分についての試験データを下の表IIに示す。
【0146】
【表2】

【0147】
二種類の油、FT−10、及びFT−14を、夫々0.2重量%のビスコプレックス(Viscoplex)(商標名)シリーズ1(ポリメタクリレート)流動点降下剤と混合した。更に、70重量%のFT−14と30重量%のFT−10との混合物を、0.2重量%のビスコプレックス・シリーズ1(ポリメタクリレート)流動点降下剤と混合した。これらの試料の性質を表IIIに示す。
【0148】
【表3】

【0149】
表IIIの三つの試料は、本発明の誘電性流体の良好な例を構成する性質を示しているが、本発明は、それらに限定されるものではない。更に、FT−10及びFT−14を用いて調製された混合物も、非常に高い引火点及び発火点を有し、それを、本発明の高発火点誘電性流体の良い例にしている。これらの実施例も、ポリメタクリレート流動点降下剤が比較的僅かな量でも流動点を低下する効果性を実証している。
【0150】
本発明を特定の態様に関連して記述してきたが、本願は、添付の特許請求の範囲の本質及び範囲から離れることなく、当業者によって行うことができる種々の変化及び置換を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 高度にパラフィン性のワックスを与える工程、
b) 前記高度にパラフィン性のワックスを、貴金属水素化成分を含む形状選択性中間気孔孔径分子篩を用いて、約600°F〜約750°Fの条件で水素化異性化し、異性化油を与える工程;及び
c) 前記異性化油を精留して、T90沸点≧950°F、100℃での動粘度が約6cSt〜約20cSt、及び流動点≧−14℃である少なくとも一種類の油留分を与える工程であって、然も、前記油は、10重量%以上のモノシクロパラフィン官能性を有する分子、3重量%以下のマルチシクロパラフィン官能性を有する分子、及び0.30重量%未満の芳香族成分を含む、前記工程;
d) 任意に、前記油留分を効果的量の一種類以上の添加剤と混合する工程;及び
e) ASTM D877により測定して、誘電破壊電圧≧25kVである誘電性流体を分離する工程;
を含む誘電性流体の製造方法。
【請求項2】
高度にパラフィン性のワックスが、フィッシャー・トロプシュ法により誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
貴金属水素化成分が、白金、パラジウム、又はそれらの組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
形状選択性中間気孔孔径分子篩を、SAPO−11、SAPO−31、SAPO−41、SM−3、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、SSZ−32、オフレタイト、フェリエライト、及びそれらの組合せからなる群から選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
油留分が、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子を2.5重量%以下で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
油留分が、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子を1.5重量%以下で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
油留分が含むモノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%対マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%の比が5より大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
油留分が含むモノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%対マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%の比が15より大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
油留分が含むモノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%対マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%の比が50より大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
油留分が約1000°Fより高いT90を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
油留分が、−12℃以上の流動点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
誘電性流体が、ASTM D877により測定して、30kV以上の誘電破壊電圧を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
誘電性流体が、ASTM D877により測定して、40kV以上の誘電破壊電圧を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
誘電性流体が310℃以上の発火点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
誘電性流体が325℃以上の発火点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
誘電性流体が280℃以上の引火点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
油留分が150°F以上の5−95沸点範囲分布を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
更に、油留分に、流動点降下剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、及びそれらの混合物からなる群から選択された一種類以上の添加剤を効果的な量で混合し、一種類以上の潤滑基礎油留分にすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
添加剤の効果的な量が1重量%未満である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
添加剤が流動点降下剤であり、前記流動点降下剤が約0.01〜約1.0重量%の量になっている、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
流動点降下剤を、ポリメタクリレート;ポリアクリレート;ポリアクリルアミド;ハロパラフィンワックスと芳香族化合物との縮合生成物;ビニルカルボキシレート重合体;ジアルキルフマレート、脂肪酸のビニルエステル、及びアルキルビニルエーテルの三元重合体;及びそれらの混合物からなる群から選択する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
添加剤が酸化防止剤であり、前記酸化防止剤が約0.001〜約0.3重量%の量になっている、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
酸化防止剤を、フェノール、芳香族アミン、硫黄及び燐を含む化合物、有機硫黄化合物、有機燐化合物、及びそれらの混合物からなる群から選択する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
添加剤が金属不活性化剤であり、前記金属不活性化剤が約0.005〜約0.8重量%の量になっている、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
金属不活性化剤を、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、トリルトリアゾール誘導体、及びそれらの混合物からなる群から選択する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
更に、油留分を第二油と混合することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
第二油を、フィッシャー・トロプシュ誘導油、鉱油、他の合成油、及びそれらの混合物からなる群から選択する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
a) フィッシャー・トロプシュ合成を行なって生成物流を与える工程;
b) 前記生成物流から実質的にパラフィン性のワックス供給物を分離する工程;
c) 前記実質的にパラフィン性のワックス状供給物を、貴金属水素化成分を含む形状選択性中間気孔孔径分子篩を、約600°F〜約750°Fの条件で用いて水素化異性化する工程;
d) 異性化油を分離する工程;
e) 前記異性化油を精留して、T90沸点≧950°F、100℃での動粘度が約6cSt〜約16cSt、及び流動点≧−14℃である一種類以上の油留分を与える工程であって、然も、潤滑基礎油が、10重量%以上のモノシクロパラフィン官能性を有する分子、3重量%以下のマルチシクロパラフィン官能性を有する分子、及び0.30重量%未満の芳香族成分を含む、前記工程;
f) 任意に、一種類以上の油留分を効果的量の一種類以上の添加剤と混合する工程;及び
g) ASTM D877により測定して、誘電破壊電圧≧25kVである誘電性流体を分離する工程;
を含む誘電性流体製造方法。
【請求項29】
貴金属水素化成分が、白金、パラジウム、又はそれらの組合せである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
形状選択性中間気孔孔径分子篩を、SAPO−11、SAPO−31、SAPO−41、SM−3、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、SSZ−32、オフレタイト、フェリエライト、及びそれらの組合せからなる群から選択する、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
異性化油を真空蒸留により精留する、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
更に、一種類以上の油留分に、流動点降下剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、及びそれらの混合物からなる群から選択された一種類以上の添加剤を効果的な量で混合し、一種類以上の潤滑基礎油留分にすることを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
添加剤の効果的な量が1重量%未満である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
更に、一種類以上の油留分を、第二油と混合することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
誘電性流体が、200°F以上の5−95沸点範囲分布を有する、請求項34に記載の方法。

【公表番号】特表2008−522008(P2008−522008A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544403(P2007−544403)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/042633
【国際公開番号】WO2006/060269
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】