説明

調理済みタンパク質食品の保水容量および柔らかさを改善する方法

食品を、該食品のpHを第1のpHから第2のpHへ、次いで第3のpHへ調整することによって、調理を伴ってまたは伴わずに、加工する工程を提供する。緩衝液を用いて食品のpHを調整する方法もまた提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、食品加工、より具体的には筋肉組織の加工に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年11月16日に出願した米国特許仮出願第60/737,144号の出願日の恩典を主張する。米国特許仮出願第60/737,144号の内容は、本出願の一部として参照により組み入れられる。
【0003】
連邦政府支援の研究に関する言明
本発明は、USDA NRIによる助成金番号第2004-02390号のもと、政府の支援を受けてなされたものである。政府は、本発明において一部の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
背景
タンパク質を含む食品(例えば、肉などの筋肉食品(muscle food product))は多くの場合、消費前に調理され(例えば、完全に調理されるかまたは部分的に調理される)、次いで貯蔵される。Meat Marketing & Technologyの最近の記事(P. Hinsey, 「Warmed over and out」, Oct. 2005, 85-89(非特許文献1))は、小売市場および組織的市場における肉の事前調理の利点を指摘している。大量調理は効率的であり、均一な品質をもたらし、よって良好な品質管理が可能となる。食品安全計画は、現場よりも集中型施設において実行および管理がより容易である。調理済み製品は、レストランおよび食品サービス機関での時間、労力、および設備費を省くことから始まって、従業員が怪我をする可能性も減少させる。しかし、肉の事前調理はいくつかの欠点を有し得る。事前調理済みの肉は、(調理したばかりの肉と比較して)硬いおよび/または乾燥している傾向、ならびに肉中の脂質の酸化により「温め直した風味」(WOF)を示す傾向があり得る。
【0005】
【非特許文献1】P. Hinsey, 「Warmed over and out」, Oct. 2005, 85-89
【発明の開示】
【0006】
概要
本発明は、筋肉食品中のタンパク質を(例えば、タンパク質食品に酸または塩基を添加してpHを変化させることにより)少なくとも部分的に可溶化および/または解離することにより、タンパク質食品の保水容量および/または柔らかさが増加し得る、ならびにpHの再調整(例えば、元のpHに、または変化したpHよりも中性に近いpHへの)に際してこの増加が維持され得るという発見に部分的に基づく。例えば、タンパク質(例えば、細胞骨格および/または筋原線維タンパク質)は、酸またはアルカリ処置により全体的または部分的に可溶化および/解離し、この形態で加熱(例えば、調理)することができ、その結果、酸またはアルカリ処置に供していない食品と比較して保水容量および柔らかさが増加する。理論によって縛られることを意図しないが、これは、タンパク質の可溶化および/または解離によって可能となった細胞構造の膨張、およびこれに伴う吸水性の増加の結果であると考えられる。これらの増加は、pHの再調整に際して驚くほど維持される。タンパク質食品の保水容量および/または柔らかさは、例えば筋肉タンパク質または筋肉タンパク質分離物などの食感改善成分を添加することにより、さらに高めることができる。
【0007】
食品のpH調整は、当業者に公知の任意の方法で行うことができる。例えばpHは、最初に(例えば、酸の添加によって)下げて次に(例えば、塩基の添加によって)上げるか、または最初に上げて次に下げることができる。これらの2回のpH調整はいずれも、食品を調理する前に行うことができる。または、最初のpH調整を行い、食品を加熱し、その後2回目のpH調整を行うことが有用である場合もある。pH調整はまた、2回目のpH再調整を行わずに、本明細書に記載するタンパク質分離物を食品、例えば筋肉食品に注入することによって行うこともできる。
【0008】
1つの局面において、食品を調製する方法に注目する。この方法は、筋原線維および細胞骨格タンパク質の少なくとも1つを含み、第1のpHを有する食品を得る段階;食品のpHを、食品の構造の少なくとも一部(例えば、食品内のタンパク質、例えば筋肉タンパク質)を少なくとも部分的に破壊する第2のpHに調整する段階;ならびにタンパク質の変性温度を超える温度まで食品を加熱する段階を含む。
【0009】
態様は、以下の特徴の1つまたは複数を含み得る。
【0010】
本明細書に記載する方法は任意に、食品を加熱する段階を含み得る。食品をpH調整溶液と混合することによって、食品の第1のpHを第2のpHに調整することができる。第2のpHは第1のpHよりも低くてよい。第2のpHは、例えば約5.5以下、例えば約4.0以下であってよい。第2のpHは第1のpHよりも高くてよい。第2のpHは、例えば約6.7以上、例えば約7.5、8、9、10.5、または12.5以上であってよい。例えば、第2のpHは、必要に応じて約5.5、4.0、4.5、4.0、3.5、3.0、または3.0未満であってよい。例えば、第2のpHは、必要に応じて約6.7、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、または12.5超であってよい。
【0011】
食品のpHは第3のpHに再調整することができる。第3のpHは第2のpHよりも低くてよい。第3のpHは第2のpHよりも高くてもよい。第3のpHは第1のpHとほぼ等しくてよい。第3のpHは第1のpHよりも高くてよい。第3のpHは約7.0であってよい。
【0012】
pH調整溶液は、酸、例えば弱酸(例えば有機酸、例えばクエン酸、リンゴ酸、乳酸、マロン酸、および/またはコハク酸)、強酸(例えば、塩酸、硫酸、重硫酸ナトリウム)、有機酸、無機酸、リン酸、塩酸、硫酸、重硫酸ナトリウム、およびアミノ酸、例えばグリシン、システイン、加水分解タンパク質を含み得る。pH調整溶液は、塩基、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、またはアミノ酸、例えばグリシン、システイン、加水分解タンパク質を含み得る。
【0013】
pH調整溶液は、第2のpHよりも高いpKaを有する緩衝液を含み得る。緩衝液のpKaは、第2のpHの1 pH単位内であってよい。緩衝液のpHは、そのpKaよりも約1 pH単位高くてよく(塩基性緩衝液の場合)、またはそのpKaよりも約1 pH単位低くてよい(酸性緩衝液の場合)。食品のpHは、さらなる塩基を添加し、緩衝液濃度を増加させることにより、第2のpHに調整することができる。緩衝液は、グリシン、システイン、加水分解タンパク質などのアミノ酸、リン酸、ポリリン酸、酸性ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、重炭酸塩を含み得る。
【0014】
例えばタンパク質分離物、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、およびカリウム塩などの1つまたは複数の食感改善成分を(例えば、pH調整溶液中に成分を含めることにより)食品に添加することができる。タンパク質分離物は、筋肉組織、大豆タンパク質、または小麦タンパク質のうちの1つから調製し得る。タンパク質分離物は、食品と同じ動物種から調製することができる。
【0015】
他の保水剤(例えば、タンパク質および/または多糖)を添加して、食品の食感および保水容量を改善することができる。可溶性または不溶性タンパク質を注入することができる。例えば本明細書に記載する種々の緩衝液を用いて、酸性またはアルカリ性のpHでタンパク質分離物を調製し、これを主に不溶性タンパク質として注入することができる。酸性の可溶性タンパク質は、低pHに調整した筋肉食品に注入することができる。1つの動物種から得られた保水剤、例えばタンパク質を、同じ種による食品、例えば肉に注入することが有用である場合がある。
【0016】
添加する作用物質、例えばタンパク質分離物は、食品の粘度を制御する上で役割を果たし得る。あるいはまたはさらに、粘度は、例えば塩濃度、タンパク質濃度、およびpHの調整によって制御することができる。タンパク質分離物自体の高い粘度は、例えばpHを高い値まで上げ、次いでそれを所望の値まで下げることによって、達成することができる。例えば、タンパク質分離物を直接pH 9に調整した場合に達成されるよりも、分離物をpH 10に曝露し、次いでpH 9に戻した場合に、比較的高い粘度が達成され得る。タンパク質分離物の粘度は、pHに加えて塩濃度および/またはタンパク質濃度を調整することによって制御することができる。
【0017】
食品のpH調整および/またはタンパク質作用物質の添加は、特定の注入技法を用いて行うことができる。例示的な有用な注入法を本明細書に開示する。
【0018】
食品は肉、例えば魚、貝、イカ、鶏肉、牛肉、子羊肉、および豚肉であってよい。食品は任意に、少なくとも約45℃、少なくとも約50℃、少なくとも約70℃、または少なくとも約80℃まで加熱することができる。食品は、pH調整溶液を食品に注入する段階、食品をpH調整溶液中で回転させる段階、および/または食品をpH調整溶液中に浸漬する段階などの段階を用いて、pH調整溶液と混合することができる。これら3つの段階の任意の組み合わせを用いることができる。食品は、pH調整溶液と混合する前に、例えば角切りするまたは細かく切り刻むなど加工することができる。
【0019】
別の局面において、食品を調製する方法に注目する。この方法は、筋原線維および細胞骨格タンパク質の少なくとも1つを含み、第1のpHを有する食品を得る段階;食品のpHを、食品の構造の少なくとも一部(例えば、食品内のタンパク質、例えば筋肉タンパク質)を少なくとも部分的に破壊する、第1のpHよりも塩基性の強い第2のpHに調整する段階;ならびにタンパク質の変性温度を超える温度まで食品を加熱する段階を含む。
【0020】
態様は、以下の特徴の1つまたは複数を含み得る。
【0021】
本明細書に記載する方法は任意に、食品を加熱する段階を含み得る。(i) 食品のpHを第2のpHに調整する段階と(ii) 食品を加熱する段階との間に、食品のpHを第3のpHに再調整する段階を行うことができる。
【0022】
第2のpHは、約6.7以上、例えば約8、9、10.5、または12.5以上からなる群より選択され得る。例えば、第2のpHは必要に応じて、約6.7、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、または12.5超であってよい。
【0023】
別の局面において、食品を調製する方法に注目する。この方法は、第1のpHを有し、筋原線維および細胞骨格タンパク質の少なくとも1つを含む食品を得る段階;ならびに食品をリン酸溶液と混合して食品のpHを第2のpHまで上げる段階を含み、リン酸溶液は第2のpHよりも高いpKaを有する。
【0024】
態様は、以下の特徴の1つまたは複数を含み得る。
【0025】
リン酸溶液は第2のpHよりも高いpKaを有し得る。リン酸溶液のpKaは、第2のpHよりも約1 pH単位高くてよい。リン酸溶液は、そのpKaよりも約1 pH単位高いpHを有し得る。食品のpHを上げる段階は、塩基を添加する段階、およびリン酸溶液の濃度を増加させる段階を含む。リン酸溶液は、例えばポリリン酸、酸性ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、またはヘキサメタリン酸ナトリウムを含み得る。
【0026】
別の局面において、食品を調製する方法に注目する。この方法は、第1のpHを有し、筋原線維および細胞骨格タンパク質の少なくとも1つを含む食品を得る段階;ならびに食品を緩衝液と混合して食品のpHを第2のpHに調整する段階を含む。
【0027】
態様は、以下の特徴の1つまたは複数を含み得る。
【0028】
第2のpH以上のpKa値を有する塩基を緩衝液に添加することができる。第2のpH以下のpKa値を有する酸を緩衝液に添加することができる。緩衝液は、例えばリン酸、ポリリン酸、酸性ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、またはヘキサメタリン酸ナトリウムを含み得る。緩衝液は、そのpKaよりも約1 pH単位高い(塩基性緩衝液の場合)、またはそのpKaよりも約1 pH単位低い(酸性緩衝液の場合)pHを有し得る。
【0029】
別の局面において、食品を調製する方法に注目する。この方法は、筋原線維および細胞骨格タンパク質の少なくとも1つを含み、第1のpHを有する食品を得る段階;食品にタンパク質分離物、例えば本明細書に記載のタンパク質分離物を注入することにより、食品のpHを、食品の構造の少なくとも一部(例えば、食品内のタンパク質、例えば筋肉タンパク質)を少なくとも部分的に破壊する第2のpHに調整する段階を含む。
【0030】
態様は、以下の特徴の1つまたは複数を含み得る。タンパク質分離物はpH調整溶液を含み得る。第2のpHは第1のpHよりも高くてよい。食品は、タンパク質の変性温度を超える温度までさらに加熱することができる。
【0031】
本明細書に提供する方法を用いて調製した食品は、本明細書に記載の方法に供していない食品と比較して、改善された保水容量、柔らかさ、軽減された硬さ、改善された風味、改善された食感、および/または改善された貯蔵性を有し得る。
【0032】
いくつかの態様において、pHは、公知の方法で考えられ得るよりも低濃度のリン酸を有するリン酸緩衝液を用いて調整することができる。
【0033】
特記しない限り、本明細書で使用する専門用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の実施または試験において、本明細書に記載のものと類似のまたは同等の方法および材料を用いることができるが、適切な方法および材料は以下に記載するものである。本明細書において言及する出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合、定義を含め、本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定を意図するものではない。
【0034】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかになると考えられる。
【0035】
詳細な説明
食品の構造の少なくともいくつか(例えば、筋肉タンパク質)を破壊する、例えば筋原線維および/または細胞骨格タンパク質の少なくともいくつか(例えば、実質的にすべて)を少なくとも部分的に可溶化および/または解離して、食品の吸水力を高め、食品の食感および保水容量が改善され得るように、食品、例えば筋原線維および/または細胞骨格タンパク質を含む食品を処理して、食品のpHを第1のpHから第2のpH(例えば、より酸性またはより塩基性の強いpH)に調整することができる。次いで、タンパク質の変性温度を超える温度まで食品を任意に加熱することができ、例えば加熱の前または後に、食品のpHを任意に第3のpH(例えば、第1のpHとほぼ等しいpH)に再調整することができる。pH調整(単回または2回)はまた、加熱を伴ってまたは伴わずに行うことができる。食品のpHは、食品を、本明細書に記載する種々の酸、塩基、および/または緩衝液を含み得るpH調整溶液と混合することにより調整することができる。食品の保水容量および/または柔らかさは、食感改善成分、例えば筋肉タンパク質および/または筋肉タンパク質分離物を添加することにより、さらに高めることができる。本明細書に記載する方法は、例えばタンパク質(例えば、動物性タンパク質、例えば魚、貝、イカ、鶏肉、牛肉、子羊肉、および/または豚肉由来)を含む任意の食品において使用することができる。
【0036】
酸処理
1. 食品の構造の破壊
筋肉組織食品(例えば、肉、鶏肉、豚肉、子羊肉、魚、貝、およびイカ)の柔らかさおよび保水容量(WHC)は、無処置の、細かく切り刻んだ、または洗浄して細かく切り刻んだ筋肉組織のpHを最初に酸により下げる(すなわち、酸性化する)ことによって改善することができる。この工程により、食品の、例えば筋肉タンパク質などの構造が変化し得る、例えば破壊され得る。例えば、筋肉食品のミオシン、筋原線維、および/またはZ盤構造(Z-disc structure)が変化し得る、または破壊され得る。また、筋原線維および/または細胞骨格タンパク質が可溶化および/または破壊され得る。そのような変化によって、水の取り込みおよび組織の膨張が可能となり得る。当業者であれば、必要に応じて、当技術分野で公知の任意の方法、例えば光学顕微鏡観察または電子顕微鏡観察を用いて食品の構造の破壊を観察できること、例えば検出、測定、および/またはモニターできることを理解すると考えられる。特定のタンパク質の破壊は必要に応じてまた、当技術分野において公知の技法、例えばタンパク質の単離およびゲル電気泳動により検出することができる。
【0037】
a. pH調整溶液
食品のpH調整(すなわち、低下または上昇)は、食品を種々のpH調整溶液、例えば本明細書に記載のおよび/または当技術分野で公知の溶液と混合することによって行うことができる。酸処理においてpHを下げるには、溶液は弱酸、例えば有機酸、無機酸、および/またはアミノ酸、例えばグリシン、システイン、加水分解タンパク質を含み得る。有機酸は、例えばクエン酸、リンゴ酸、乳酸、マロン酸、および/またはコハク酸であってよい。塩化カルシウムは、有機酸、特にクエン酸の効果(例えば、抗酸化性、保水容量、または柔らかさの効果)を改善し得る。有機酸は、例えば筋肉組織を非常に低いpHに曝露することなく、用途によってはその緩衝能によりpHの制御に役立ち得るため、有用であり得る。pH調整溶液は、強酸、例えば塩酸、硫酸、または重硫酸ナトリウムを含み得る。pHを上げるには、pH調整溶液は炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、および/またはアミノ酸、例えばグリシン、システイン、加水分解タンパク質を含み得る。pH調整溶液はまた、リン酸溶液、例えばポリリン酸、トリポリリン酸ナトリウム、および/またはヘキサメタリン酸ナトリウムを含み得る。
【0038】
pH調整溶液は、酸または塩基の「貯蔵所」として役立ち得る種々の緩衝液を含み得る。緩衝液は、そのpKa値のあたりで溶液のpHを大きく変えることなく、多くの塩基または酸を吸収し得る。緩衝液は、緩衝液のpKaよりも約1 pH単位高い(塩基性緩衝液の場合)、または約1 pH単位低い(酸性緩衝液の場合)pH値に調整することができる。次いで、酸または塩基を食品に添加して、そのpHを調整することができる。そのような緩衝液は、いくつかの利点を提供する。第一に、緩衝液は、通常通り緩衝塩を単に直接使用する場合よりも、食品のpHを調製するためのより多くの塩基または酸を保有して、緩衝液の効率を最大限にすることができる。したがって、低濃度の緩衝液で、標的とする筋肉食品のpHの大きな変化が達成され得る。第二に、そのpKaの1単位内のpHである緩衝液の使用は「ブレーキ」として作用し、酸または塩基を食品に添加した場合の標的pHの急速な超過を妨げ得る。第三に、過剰な緩衝液によって起こる潜在的な風味の問題が軽減され得る。第四に、緩衝液濃度に関する法定制限が、より容易に満たされ得る。そのような問題は、例えば、リン酸緩衝液の法廷制限が、P205として計算すると0.5%である米国において、重要であり得る。ヨーロッパでは、リン酸は現在のところ許容添加物ではない。炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムは典型的に同様の制限を受けないが、これらの化合物を過剰に添加すると、調理中に二酸化炭素ガスが発生して、調理した筋肉組織にハチの巣状の外観が生じ得る。炭酸ナトリウムを使用することで良好な食感および風味をもたらすことができ、特定のpH変化の達成にはモルベースで重炭酸塩よりもはるかに少ない炭酸塩が必要とされ、これによって二酸化炭素ガス発生の可能性が軽減し得る。
【0039】
本方法において使用できる例示的な緩衝液は、その酸性部分が酸性化剤として働き得るグリシンである。例えば、グリシン緩衝液のpHをそのpKaよりも約1単位低く下げて、少なくとも3つの潜在的利点を提供することができる:(a) 緩衝液はpH調整のために添加した多くの酸を許容し、緩衝液の効率を最大限にして、さらなる緩衝液を添加する必要性を軽減し得る;(b) 緩衝液は、酸を添加した場合の標的pHの劇的な超過を妨げ得る;および(c) 風味は一般的にグリシンによって影響されない。
【0040】
緩衝液は、リン酸、ポリリン酸、酸性ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、重炭酸塩、および/またはアミノ酸、例えばグリシン、システイン、加水分解タンパク質であってよい。グリシンおよび大部分の他のアミノ酸は、食品の酸味に寄与しない。さらに、グリシンは可溶性であり、良好な味質を有し、安価であり、不正炭素をもたない(すなわち、一般的に、栄養的に有用でないD-アミノ酸型で存在しない)。アミノ酸の混合物またはアミノ酸の混合物を含むタンパク質加水分解物を、緩衝液として用いることができる。そのような混合物は、グリシンと類似した利点を提供し得る。システインもまた緩衝液として使用できる。
【0041】
当業者であれば、用途に応じて、pH調整溶液中の多種多様な酸、塩基、および/または緩衝液の変形および組み合わせが、本方法での使用に可能であることを理解すると考えられる。
【0042】
b. pHの調整法
例えば酸性化によるpH調整は、当技術分野において公知の任意の方法を用いて、例えば、酸性溶液などのpH調整溶液を、無処置の筋肉組織に注入する、無処置の筋肉組織を酸を含む溶液中に浸漬する、および/または酸(例えば、酸性溶液)と細かく切り刻んだ筋肉とを混合することにより、達成することができる。有用な注入技法は本明細書に記載されており、かつ/または当技術分野で公知である。溶液は複数回の少量注入により食品に導入することができ、これによってpHの漸進的変化が起こり得、酸性溶液の食品へのより均等な分散が起こり得る。食品中への酸の分散は、真空を用いて達成され得るか、または支援され得る。
【0043】
食品のpHは、いくつかの段階で調整することができる。例えば、pHの大きな変化を求める場合、必要な調整溶液(例えば、緩衝液を伴うまたは伴わない)の全量を複数部分に分け、経時的に連続して注入することができ、その部分の分散を支援するために、次の部分を添加する前に食品を任意に回転させる、および/または真空を適用することができる。これは例えば、強酸を用いる場合、または大量の酸を用いる場合に、注入部位近傍の領域の過剰な酸性化を防ぐために有用であり得る。食品のpHは、場合によっては、20分程度(例えば、約15分、約10分、または約5分)で調整することができる。
【0044】
筋肉組織の外部のpH調整は、調整溶液中(例えば、pH調整に使用する食品全体の約10重量%〜約20重量%の量の酸性溶液中)で回転させることによって行うことができる。溶液は、タンパク質の可溶化および水の取り込みを制御するために、塩(例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、もしくは塩化カルシウム(CaCl2)、他のカリウム塩、またはそれらの混合物)を含み得る。溶液は、約25〜約300ミリ規定(mN)の塩(例えば、約50 mN塩、約100 mN塩、150 mN塩、約200 mN塩)を有し得る。
【0045】
場合によっては、食品のpHは5.0未満、例えば約3.5、約4.0、または約5.5まで下げることができる。場合によっては、pHは3.5未満に下げることができる。
【0046】
c. 滴定
所望のpHを達成するために食品に添加すべき酸、塩基、および/または緩衝液の量を決定するために、食品を滴定することができる。一般的には、食品をすりつぶし、任意にホモジナイズし、例えば食品1に対して水約5〜約10の割合で水と混合する。次いで、任意の公知の方法により、例えばpHを決定するためのpHメーター、ならびに酸、塩基、および/または緩衝液を分注するためのビュレットを使用して、滴定を行う。
【0047】
2. 食品の加熱
食品は、食品中のタンパク質の変性温度を超える温度まで任意に加熱することができる(例えば、調理するまたは部分的に(「部分」)調理する)。これにより、タンパク質は部分的に可溶化および/または解離した立体配置に「固定」され、例えば食品の冷却時および/またはpH再調整時に、この立体配置を保持し得る。当技術分野において公知の任意の加熱技法を用いることができる。場合によっては、食品は、比較的低い温度で比較的長い時間加熱することができる。使用する温度および時間は、食品の種類(例えば、魚、貝、イカ、鶏肉、牛肉、子羊肉、または豚肉由来の食品)、加熱する食品の大きさまたは容積、および所望する調理の完了度合に応じて変わり得る。
【0048】
例えば、酸性調整溶液を注入した、この溶液中で浸漬した、および/または回転させた筋肉組織を加熱して、タンパク質をその立体配置および空間的配列に「固定」し得る。例えば魚由来の食品を処理する場合、食品は少なくとも約45℃(例えば、少なくとも約75℃)まで加熱することができる。別の例として、食品が牛肉に由来する場合には、食品は少なくとも約50℃(例えば、少なくとも約80℃)まで加熱することができる。理論によって縛られることを意図しないが、例えば、加熱時に起こるタンパク質の熱変性によって、種々の疎水基が露出した変性が起こり、タンパク質の調理済みタンパク質ゲル内での不可逆的凝集が可能となるため、タンパク質は加熱時に固定される。酸の分散は、調理の前および/または後の注入後、任意に真空下で、筋肉組織を回転させた場合に促進され得る。
【0049】
3. 食感改善成分および他の成分の添加
他の保水剤(例えば、タンパク質および/または多糖)を添加して、食品の食感および保水容量を改善することができる。これらの成分は、筋原線維/細胞骨格タンパク質を可溶化/解離する間に、および/またはpH調整溶液と共に、添加することができる。例えば、酸可溶化筋肉タンパク質またはタンパク質分離物を、可溶化/破壊組織に添加することができる。いくつかの有用な手順では、1つの動物種から得られた成分を、同じ種から得られた可溶化/破壊組織に添加する。
【0050】
種々の成分を食品に添加して、食感、水の取り込み、および/または保水容量を改善することができる。そのような成分は一般に、本明細書において「食感改善成分」と称する。食感改善成分は、筋肉組織を可溶化し任意に加熱した後に、および/または筋肉組織のpHを任意に再調整する間もしくはその後に、酸、塩基、および/または緩衝液と共に添加することができる。例えば、筋肉組織のpHを再調整するために使用する酸、塩基、および/または緩衝液に食感改善成分を添加することができる。
【0051】
適切な食感改善成分には、タンパク質、または例えば筋肉組織、大豆タンパク質、小麦タンパク質、もしくは他の食品等級のタンパク質から調製されたタンパク質分離物が含まれる。例えば、酸可溶化筋肉タンパク質分離物を、低pHに調整した筋肉組織(例えば、約4.5、4.2、4.0、3.5、または3.0以下のpHを有する)に注入して、その筋原線維および細胞骨格タンパク質の一部またはすべてを可溶化することができる。同様に、アルカリ性可溶性タンパク質を、高pHに調整した筋肉組織に取り込むことができる。同様に、不溶性タンパク質を食品に取り込んで、食品の食感および/または保水容量を改善することができる。筋肉タンパク質分離物の注入により、最終的な筋肉食品の食感が改善され得る。筋肉タンパク質分離物は、例えば、例えば筋原線維および筋形質タンパク質を含む非洗浄筋肉組織から、または筋原線維タンパク質を含み筋形質タンパク質を実質的に含まない洗浄筋肉組織から調製することができる。タンパク質およびタンパク質分離物を調製する方法は当技術分野において公知であり、例えば米国特許第6,005,073号、第6,136,959号、第6,288,216号、および第6,451,975号に見出すことができる。
【0052】
添加する作用物質、例えばタンパク質分離物は、食品の粘度を制御する上で役割を果たし得る。あるいはまたはさらに、粘度は、塩濃度、タンパク質濃度、およびpHの調整によって制御することができる。タンパク質分離物自体の高い粘度は、例えばpHを高い値まで上げ、次いでそれを所望の値まで下げることによって達成することができる。例えば、タンパク質分離物を直接pH 9に調整した場合に達成されるよりも、分離物をpH 10に曝露し、次いでpH 9に戻した場合に、比較的高い粘度が達成され得る。タンパク質分離物の粘度は、pHに加えて塩濃度および/またはタンパク質濃度を調整することによって制御することができる。
【0053】
タンパク質分離物の粘度および分散は、緩衝液および/またはpHを用いて制御することができる。タンパク質分離物の粘度および分散を最適化することで、分離物の注射針の通過が可能となり、さらに食品に粘度を付与することが可能となる。注入するためのいくつかのタンパク質分離物の粘度は、約300 kPa〜約100,000、約500 kPa〜約250,000 kPa、約1000 kPa〜約200,000 kPa、または約10,000〜約200,000 kPaであってよい。
【0054】
塩化カルシウムもまた、有機酸(例えば、クエン酸)と共にまたは有機酸なしで、食感改善成分として添加することができる。カルシウムはいくつかのタンパク質の分解に直接関与する可能性があり、またはこれらのタンパク質を分解する特定のタンパク質分解酵素を活性化する可能性がある。さらに、有機酸によるpHの低下は脂質酸化を遅延させ、それによって調理済みの多くの製品に見られるいわゆる「温め直した風味」の問題が軽減される。塩化カルシウムの添加は、有機酸の抗酸化効果を改善し得る。典型的に、そのような効果は、約10 mM以下(例えば、約8 mM以下、約6 mM以下、約4 mM以下、または約2 mM以下)の濃度の有機酸と併用した、約10 mM以下(例えば、約8 mM以下、約6 mM以下、約4 mM以下、または約2 mM以下)の組織水分中の最終塩化カルシウム濃度において(例えば、食品の水中にその塩化カルシウム濃度をもたらす塩化カルシウム取り込みのレベルで)認められる。中性よりも高いpH値での処理もまた、温め直した風味の発生を遅延させるおよび/または抑制する効果を有し得る。酸性またはアルカリ性のpHにおけるこれらの保護は、組織をその最初のpH(例えば、牛肉ではpH約5.5)に調整した場合でさえも、驚くべきことに維持される。
【0055】
他の成分、例えば香味料(例えば、ハーブおよび/または香辛料)、抗酸化剤、ビタミン、および/またはミネラルも添加することができる。
【0056】
4. 筋肉組織のpHの再調整
加熱済み(例えば、調理済み)食品は任意に、任意の所望のpHに、例えばその最初の値に、任意に調整することができる。場合によっては、加熱前、例えば調理前に、pHを所望の値に調整することができる。場合によっては、加熱を行わない。pHをより塩基性に調整することは、消費者によって感知され得る筋肉組織中の酸味があった場合、これを回避または軽減するのに役立ち得る。これは、組織(例えば、無処置の、または細かく切り刻んだ組織)の塩基性溶液、例えば上記のpH調整溶液による注入、混合、および/または浸漬によって達成することができる。pHの上方調整は、任意の塩基、例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、適切なリン酸塩(例えば、ポリリン酸、例えば酸性ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、またはヘキサメタリン酸ナトリウムなど)、および/またはアミノ酸(例えば、グリシン、システイン、加水分解タンパク質)などのアミノ化合物を用いて達成することができる。緩衝液を用いて、pHを制御および安定化することができる。塩基性pH調整溶液は、上記の方法のいずれかで食品に導入することができる。塩基性溶液は、肉、鶏肉、もしくは魚ブロス、および/または香辛料などの、風味特性を改善する成分を含み得る。
【0057】
例えば、筋肉組織のpHを非常に低いレベルまで下げた場合には、pHは多段階(例えば、2段階)工程で再調整することができる。例えば、最初に筋肉組織のpHを塩基性溶液の注入により上げ、塩基性溶液の取り込みおよび分散を支援するためにこれを回転させることができ、次いで同じまたは異なる塩基性溶液を再注入し、任意にその後さらに回転させることができる。別の例では、筋肉組織のpHは一般的に、塩基性溶液を注入し、任意に回転させ、その後任意に最初の塩基性溶液と異なるpHを有する塩基性溶液中に筋肉組織を浸漬することにより調整して、筋肉組織の外部および筋肉組織の内部のpHを均等に調整することができる。pH再調整溶液の取り込みおよび結果として生じるpH変化は典型的に、未加工筋肉と比較して調理済み筋肉においてより低い。
【0058】
アルカリ処理
アルカリ性溶液を使用して上記と同様の工程を行って、食品の構造を破壊すること、例えば食品の筋原線維および/または細胞骨格タンパク質を可溶化および/または破壊することができる。食品のpH調整は、食品を上記のpH調整溶液と混合することによって行うことができる。pH調整溶液は、本明細書に記載の塩基および/または緩衝液を含み得る。酸処理と同様に、単回または2回のpH調整を行うことができる。食品は任意に加熱することができる(第3のpHへの任意のpH調整の前、または第3のpHへのpH調整後)。
【0059】
1. アルカリ処理の特有の性質
実質的にすべてのタンパク質がほぼ単一の酸性pH値で可溶化および/または解離するのに対して、異なるタンパク質が異なる塩基性pH値で可溶化および/または解離するため、柔らかさおよび保水容量の変化は一般的に、アルカリ性pHよりも酸性pHにおいてより急激である。理論によって縛られないが、これは、タンパク質には5.5未満のpKa値(肉タンパク質の等電点)を有する主要な側鎖が1つしか存在しない(カルボキシル側鎖)のに対して、塩基性側には広範なpKaを有する基が存在するという事実に起因すると考えられる。Hultin, H.O. et al., A Re-Examination of Muscle Protein Solubility, J. MUSCLE FOODS 6, 91-107 (1995)に記載されているように、酸性側での可溶化は急激に起こり、一方、アルカリ性側での重要な変化は、完全な可溶化が認められる前に起こり得る。
【0060】
したがって、アルカリ処理では、本明細書において「可能溶解度抑制ポリペプチド(possible solubility-inhibiting polypeputide)」または「PSIポリペプチド」と称する、太い線維およびZ盤を維持するタンパク質を最初に可溶化することによって、筋肉の改変を任意にもたらし得る。これらのタンパク質の可溶化は、筋原線維タンパク質の膨張の制限を除去し得る。その結果、筋原線維タンパク質は存在する静電反発力のために膨張することができ、ゲル圧の創出によって保水容量が増加する。水分含量の増加により、筋肉組織の機械的硬さが減少し得る。したがって、十分量のPSIポリペプチドが可溶化されて、不溶性筋原線維タンパク質の分離の制限が除去され、電荷反発力が促進されるまで、筋肉組織のpHを上げることができる。このような限定された量の可溶化によって、水分含量の増加(水を添加した場合)および硬さの減少がもたらされ得る。
【0061】
これらの変化が起こるpHは一般的に6.7〜7.2の範囲であり、ヒスチジルアミノ酸側鎖(イミダゾール)が関与する可能性が最も高い。高pHでは、高pKaを有する基がそのプロトンを失うために、タンパク質上の正味の負電荷が増加する;システインではpH 8、アミノ基ではpH 9、チロシンではpH 10.5、およびアルギニンではpH 12.5。この正味の負電荷の増加が最終的に、筋原線維および細胞骨格タンパク質すべての可溶化を引き起こすと考えられ、これによって最大の水の取り込み(水を添加した場合)および軟化が生じることになる。
【0062】
2. 食品の構造の破壊
無処置のまたは細かく切り刻んだ食品(例えば、食品内のタンパク質、例えば筋肉タンパク質)をpH調整溶液(例えば、塩基および/または緩衝液)と混合して、食品のpHを上げることができる。食品のpHは、食品、例えば筋肉食品の構造を変化させるまたは破壊するのに、例えば筋肉組織内の筋原線維および/または細胞骨格タンパク質の少なくとも一部を可溶化する(例えば、筋原線維および/または細胞骨格タンパク質の実質的にすべてを可溶化する)のに十分なレベルまで上げる。場合によっては、筋肉食品のミオシン、筋原線維、および/またはZ盤構造が変化し得る、または破壊され得る。食品および/またはタンパク質破壊の検出または測定は、上記した当技術分野で公知の方法によって行うことができる。筋肉組織のpHは、例えば少なくとも約6.8まで(例えば、少なくとも約7.2、8.0、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5)(例えば、約6.8、7.2、8.0、9.0、10.0、10.5、11.0、または11.5まで)上げることができる。
【0063】
a. pH調整溶液
食品、例えば筋肉組織のpHは、「酸処理」に上記したpH調整溶液、例えば上記の塩基および/または緩衝液を含む調整溶液を用いて上げることができる。適切なpH調整溶液は、塩基、例えば、水酸化ナトリウムおよび/もしくは水酸化カリウムのような強塩基、ならびに/または、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、および/もしくは適切なリン酸塩(例えば、酸性ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、またはヘキサメタリン酸ナトリウムなどのポリリン酸)のような弱塩基を含む。pH調整溶液は、アミノ酸(例えば、グリシン、システイン、加水分解タンパク質)などのアミノ化合物を含み得る。
【0064】
組織を極めて高いpH値に曝露せずに(そうすることが望ましくない場合)、食品に十分な塩基を取り込むことは困難であると考えられる。この潜在的問題に取り組みためには、上記の方法で改変した緩衝液を使用することができる。上記した通り、緩衝液のpHをそのpKaよりも1 pH単位高く/低く上げるまたは下げることができ、それによって種々の利点が提供される。そのような緩衝液はヒドロキシルイオンの有用な貯蔵化合物として役立ち、潜在的な化学分解産物の生成を(たとえあったとしても)抑えつつ、筋肉組織内の所望のpH変化を達成するのに十分な塩基を許容し得る。例えば、約8〜10のpKを有する化合物(例えば、グリシン(pK 9.6)、酸性ピロリン酸ナトリウム(pK 9.5)またはトリポリリン酸ナトリウム(pK 9.9)などのポリリン酸)は、緩衝液として有用である。
【0065】
別の例として、当業者であれば、中性pHにおいて、グリシンがそのカルボキシル基上に負電荷およびそのアミノ基上に正電荷を有することを理解すると考えられる。この化合物をそのpKよりも約1単位高いpH(約10.6)まで塩基で滴定した場合、アミノ基の酸性度の約91%が除去される。次いでこの遊離アミノ基は、筋肉組織中の天然緩衝液と相互作用し得る塩基として働き、高濃度の遊離ヒドロキシルイオンへの曝露によって筋肉組織を過度に損傷することなく、pHが上方調整され得る。
【0066】
b. pHの調整法
食品のpHは、当技術分野において公知である方法および/または上記した任意の方法を用いて、例えば、注入、浸漬、混合、および/または回転により筋肉組織とpH調整溶液、例えば塩基(例えば、塩基性溶液)および/または緩衝液とを混合することによって、上げることができる。食品中への塩基の分散は、特定の態様では、真空を適用することによって支援することができる。
【0067】
食品のpHは、いくつかの段階で調整することができる。例えば、pHの大きな変化を求める場合、必要なアルカリ性pH調整溶液の全量を複数部分に分け、経時的に連続して注入することができ、アルカリ性溶液の部分の分散を支援するために、次の部分を添加する前に食品を任意に回転させる、および/または真空を適用することができる。これは例えば、強塩基を用いる場合、または大量の塩基を用いる場合に、注入部位近傍の領域の過剰な塩基性化を防ぐために有用であり得る。場合によっては、食品のpHは約20分(例えば、約15分、約10分、または約5分)で調整することができる。
【0068】
場合によっては、筋肉組織のpHは、化学分解産物を回避するために、約12.0(例えば、約11.5以下、約11.0以下、約10.5以下、または約10.0以下、例えば約11.5、11.0、10.5、または10.0)まで上げることができる。分解産物は、約11までのpHでゆっくりと生じる可能性があり、pH約11〜約12でいくらか促進され得、pH 13で非常に迅速に増加し得る。
【0069】
c. 滴定
食品に添加すべき塩基の量は、上記の通り滴定によって決定することができる。一般的に、所望のpHを達成するために無処置の組織に注入する、または細かく切り刻んだ筋肉組織と混合する塩基性溶液の濃度は、筋肉組織に添加する塩基性溶液の量に依存する。
【0070】
例えば、大量の、筋肉組織などの食品に、塩基を添加する前に、筋肉組織の試料(例えば、ホモジナイズした組織)を強塩基(例えば、水酸化ナトリウム)で滴定して、所望のpHに到達するのに必要な塩基の量を決定することができる。次に、計算された塩基の量を提供するのに十分な濃度のグリシンの対応する溶液を調製することができる。次いで、十分量のグリシン溶液を筋肉組織に注入することができる。この工程により、潜在的な化学分解産物のレベルを(たとえあったとしても)下げつつ、食品のpHを所望のpHまで上げることができる。
【0071】
3. 食品の加熱
塩基性溶液を注入した、この溶液に浸漬した、および/またはこの溶液と共に回転させた食品は、タンパク質を固定するために、当技術分野で公知の任意の方法、例えば上記の技法のいずれかを用いて任意に加熱することができる。場合によっては、食品はそのpHを上げた後に加熱することができる。場合によっては、pHは加熱する前に再調整することができる。塩基の分散は、調理の前および/または後の注入後、任意に真空下で、食品を回転させた場合に促進され得る。ある場合には、食品の外部のpH調整は、塩基性調整溶液と共に(例えば、pH調整に使用する食品全体の約10重量%〜約20重量%の量のアルカリ性溶液中で)回転させることによって、最も容易に行われる。該溶液は、タンパク質の可溶化および水の取り込みを制御するために、塩(例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、他のカリウム塩、もしくは塩化カルシウム(CaCl2)、またはそれらの混合物)を含み得る。溶液は場合により、約300ミリ規定(mN)以下の塩(例えば、約200 mN以下の塩、約150 mN以下の塩、約100 mN以下の塩、または約50 mN以下の塩)を有し得る。
【0072】
4. 食感改善成分の添加
「酸処理」に上記したように、他の保水剤(例えば、タンパク質および/または多糖)を添加して、筋肉組織の食感および保水容量を改善することができる。
【0073】
5. 筋肉組織のpHの再調整
本明細書に記載の技法のいずれかを用いて、真空の支援を伴ってまたは伴わずに、例えば本明細書に記載のpH調整溶液などの酸性溶液による、筋肉組織の回転、浸漬、および/または注入により、食品のpHを、例えばその最初の(例えば、天然の)pHに任意に再調整することができる。pHは、食品の加熱前または加熱後に再調整することができる。pHは、食品を加熱せずに再調整することができる。例えば、食品用途に一般に安全と認められる(以下、「GRAS」と称する)酸、例えば有機酸(例えば、クエン酸またはリンゴ酸)を食品に注入することができる。注入工程は、内部組織に良好に作用する。別の例としては、食品を無機酸(例えば、塩酸、硫酸、または重硫酸)を含む溶液と共に回転させ得るか、またはそのような溶液中に浸漬することができる。食品は、所望の最終値に近いpHを有する、例えば食品の5〜30%重量の酸性溶液中で回転させることができる。例えば、この酸性溶液は、最終的にpH 7.0に到達させるためにはpH 6.5であってよい。回転は、表面組織のpHの調整に役立ち得る。
【0074】
場合によっては、食品のpHを高いレベル(例えば、少なくとも約9.0、少なくとも約9.5、少なくとも約10.0、少なくとも約10.5、または少なくとも約11.0)まで上げた場合には、酸処理に上記した多段階(例えば、2段階)工程において、ただし塩基性溶液を使用して、pHを再調整することができる。
【0075】
当業者であれば、本明細書に記載する方法の種々の個々の段階が、同じまたは異なる当事者によって行われ得ることを理解すると考えられる。例えば、本方法全体が同じ当事者によって行われてよく、例えばpH調整(単回または2回)および加熱を例えば食品加工施設で行い、次いで消費者に分配することができる。あるいは、本方法によってpHを調整した(例えば、単回または2回のpH調整による)食品を包装し、消費者に分配する、例えば販売することができ、その後消費者が製品を加熱することができる。本出願は、このようなすべての変形を意図する。
【0076】
実施例
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、実施例は特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定しない。
【0077】
セクション1 好ましい条件への注入および浸漬、調理、ならびにその後の所望する最終pHへの注入および浸漬による2回pH調整が、牛肉筋肉の保水容量および柔らかさに及ぼす効果
実施例1. 第1の調整がpHの低下である2回pH調整が、牛肉筋肉特性に及ぼす効果
牛肉外もも筋肉は、筋線維方向に沿って、直径20 mmおよび高さ18 mmの円柱状に切り分けた。筋肉試料を5群に分割した:(1) 10 mMクエン酸により注入/浸漬した試料;(2) 10 mMクエン酸により注入/浸漬し、調理し、塩基で中和した試料;(3) 10 mMクエン酸により注入/浸漬し、塩基で中和し、調理した試料;(4) CaCl2に浸漬した試料;および(5) 対照試料。
【0078】
群(1)〜(3)の円柱物に最初に、生重量に基づいて約10%の85 mMクエン酸を注入し、その後これを10 mMクエン酸中に浸漬した。牛肉円柱物を10 mMクエン酸中に2日間漬けた場合、漬け汁の取り込みは33.8%〜30.4%であった。調理前に、15 mMトリポリリン酸ナトリウム中での浸漬によりpHを中和した場合(群3)、酸性漬け汁からの水の取り込みの大部分が失われた。10 mM CaCl2に2日間浸漬した牛肉筋肉円柱物は(群4)、水を吸収しなかった。
【0079】
クエン酸のみで処理した牛肉筋肉(群1)の調理収率は、それぞれ98.3%および97%であった。調理後に酸処置筋肉を塩基溶液中に浸漬した場合(群2)、調理収率は97%から89.2%に減少した。調理前に酸処置筋肉を塩基溶液中に浸漬した場合(群3)、51.6%という低い調理収率が得られた。CaCl2で処理した牛肉筋肉(群4)の調理収率は、57.2%であった。
【0080】
調理前に酸処置筋肉を中和すると(群3)、中和を伴わない同じ酸処置筋肉と比較して水分含量が減少し、最小の水分含量61.1%をもたらした。調理後の中和を伴うまたは伴わない、クエン酸で処理した調理済み筋肉組織の水分含量は、それぞれ76.9%および77.2%であり、これらの値は他の値よりも有意に高かった(p≦0.05)。CaCl2で処理した牛肉の水分含量は、未処理対照よりも低い63.7%であったが、それらの間の差は有意ではなかった(p>0.05)。
【0081】
牛肉円柱物は酸性漬け汁に対してその全タンパク質の約9%を喪失し、10 mM CaCl2中に浸漬した牛肉のタンパク質喪失は26.2%であった。
【0082】
せん断力価は、処理を行わなかった対照における34.4ニュートンから、クエン酸のみで処理し、その酸性条件において調理した牛肉における15.4ニュートンまで減少した。調理前にpHを5.36に再調整した場合(群3)、せん断力価は41.5ニュートンに増加した。調理後にpHを5.21に再調整した場合(群2)、せん断力価は20.3ニュートンであり、これは調理前に中和した牛肉における値よりも有意に低かった(p≦0.05)。10 mM CaCl2中での浸漬により、せん断力価は対照と比較して増加したが、その差は有意ではなかった(p>0.05)。低pHにして調理前にほぼその元のpHに再調整した試料では(群3)、未処理対照と比較して、調理済み牛肉の水分含量は低く、せん断力は高かった。
【0083】
したがって、4未満のpHで牛肉試料を調理し、その後試料を塩基によって元のpHに再調整することで(群2)、試料のWarner-Bratzlerせん断力(WBSF)が改善され(すなわち、減少し)、試料がより柔らかくなった。群2はまた調理収率の改善も示し、すなわち試料はより多くの水分を保持した。場合によっては、試料をpH 4.0〜4.5で調理し、その後そのpHをより塩基性の値に再調整した場合にも、同様の改善が認められ得る。
【0084】
実施例2. 第1の調整がpHの上昇である2回pH調整が、牛肉筋肉特性に及ぼす効果
実施例1の結果から、調理前または調理後の酸処置牛肉筋肉のその初期値への再調整が、牛肉筋肉の保水容量および柔らかさに影響することが示された。次に、牛肉筋肉のpHを最初に中性にし、次いで調理前または調理後に生牛肉の初期値に下げて、保水容量および牛肉の柔らかさの変化を試験した。牛肉円柱物を処理に関して4群に分割した:(1) 対照、処理なし;(2) 25 mM STPP、pH 8.4;(3) 25 mM STPP、pH 8.4、その後調理、次いで中和;(4) 25 mM STPP、pH 8.4、その後中和、次いで調理。
【0085】
群(2)〜(4)の牛肉円柱物に最初に、生重量に基づいて約10%の250 mMトリポリリン酸ナトリウム(STPP)を注入し、これを25 mM STPP、pH 8.4中に2日間浸漬した。塩基浸漬後の牛肉のpHは6.67〜6.81であった。次いで、塩基処置試料のうちの1つの群(群4)を、調理前に10 mMクエン酸、pH 4.26に42時間浸漬した。酸処置後の牛肉のpHは4.8であった。塩基処置試料の別の群(群3)を70℃で50分間調理し、次いで10 mMクエン酸、pH 4.37に42時間浸漬した;酸処置後の調理済み牛肉のpHは4.95であった。
【0086】
塩基性溶液のみで処理した牛肉は、調理後、76%という最も高い水分含量を有した。pHの再調整後に調理した試料では67.1%という値、およびpH 6.79にしてpHの再調整を行わなかった調理済み試料では76.0%という値であったのに対し、調理後に酸処置によりpHをpH 4.95まで下げた場合(群3)、調理済み牛肉の水分含量は68.9%であった。
【0087】
処理なしの対照試料は、37.3ニュートンという最も高いせん断力価を有した。牛肉円柱物をリン酸緩衝液中に浸漬し、pH 6.79で調理した場合、せん断力価は25.2ニュートンに減少した。調理後にpHを4.95に再調整した場合には、30ニュートンというせん断力価が得られた。これは、処理なしの対照における値よりも有意に低かった(p≦0.05)。
【0088】
塩基処置中の漬け汁の取り込みは、24.8%〜29%であった。酸性漬け込みによりpHを4.8まで下げた場合、塩基性溶液からの水の取り込みの大部分は失われ、54%という調理収率が得られた。塩基性溶液のみで処理した牛肉試料で最大調理収率77.6%が得られ、再調整前に調理した試料は調理収率72.3%を有した。
【0089】
このように、筋肉タンパク質の部分的可溶化のみが起こるpH値でのアルカリ実験において、調理収率およびWBSFがいずれも改善された。タンパク質の大部分が可溶化される点まで、例えば10.5までpHを上げた場合には、試料をその元の低いpHに再調整した場合に同様の結果が得られた。
【0090】
実施例1および2の結論
酸性または塩基性溶液による注入および浸漬により、牛肉筋肉のpHを酸性値(pH 4.0未満)または中性値(約6.8〜7.0)にすると、対照と比較して調理収率および調理後の水分含量は増加し、Warner-Bratzlerせん断力価は減少し、酸または塩基処置後に保水容量および柔らかさが増加したことが示される。pHをその初期値に戻すことは、牛肉筋肉の保水容量および柔らかさに強力な影響を及ぼした。
【0091】
塩基で処理した牛肉の水分含量は、対照よりも有意に高かった(p≦0.05)。酸または塩基で処理した筋肉を、調理前にその初期pH近傍に再調整した場合、取り込みの大部分が失われた。調理前に2回pH調整(塩基性pH調整溶液による上昇、およびその後の酸性pH調整溶液による低下)した牛肉の水分含量は、対照よりも有意に高かった(p≦0.05)。調理前に2回pH調整(酸性pH調整溶液による低下、およびその後の塩基性pH調整溶液による上昇)した牛肉の水分含量は、対照よりも低かった。調理後に牛肉筋肉をその初期pH近傍に再調整した場合、重量がわずかに減少したものの、最終水分含量は対照よりもなお高かった。
【0092】
10 mMクエン酸のみで処理した牛肉のせん断力価は、約45%であった。25 mMトリポリリン酸ナトリウムで処理した牛肉のせん断力価は、対照の約68%であった(実験2)。調理前に牛肉筋肉を生牛肉の初期pH(約5.5)に再調整すると、せん断力価は対照のレベルまで増加するか、または対照よりもさらに高くなった。調理後に牛肉筋肉を生牛肉の初期pHに再調整すると、せん断力価は、酸または塩基で処理しpH再調整を行わなかった場合と比較して増加したが、対照よりも有意に低かった(p≦0.05)。
【0093】
セクション2 酸および塩が、調理済み牛肉の特性に及ぼす効果
実施例3. 種々の濃度のカルシウムイオン、ナトリウムイオン、クエン酸および乳酸、ならびにリン酸が、調理済み牛肉の保水容量およびせん断力に及ぼす効果
25ゲージおよび外径0.51 mmの針を備えたシリンジ(BD*使い捨てシリンジ、カタログ番号309582、Fisher Scientific、ペンシルベニア州、ピッツバーグ)を用いて、溶液を筋肉に注入した。注入溶液中の試薬の濃度は、漬け汁中の濃度の8.5倍であった。これは、牛肉筋肉の水相中の成分の、浸漬溶液中で使用するのとほぼ同じ濃度を達成するためであった。計算は、初期水分含量約74%に基づいた。牛肉円柱物に、生重量(非注入重量)の約10%を注入した。注入前および注入直後の重量を測定した。次いで、注入した円柱物を漬け汁中に浸漬した。各処理において、10〜12個の円柱物を使用した。約50 gの円柱物を漬け汁1リットル中に2〜4日間浸漬した。2回pH調整に関しては、特定の実験を除き、牛肉円柱物に第2溶液を注入し、これを第2漬け汁中に1日浸漬した。
【0094】
酸性漬け汁に150 mMまでの塩化ナトリウムを添加すると、塩を加えない同様の処理と比較して、水分含量および調理収率が減少し、せん断力価が増加した。塩の存在下で10 mMクエン酸および10 mM CaCl2で処理した試料のせん断力(25.8ニュートン)は、未処理対照(43.7ニュートン)よりも有意に低かった。乳酸もまた良好に機能したが、クエン酸による結果とは異なり、CaCl2によってその有効性は減少した。
【0095】
セクション3 筋肉組織から調製されたタンパク質分離物による注入/回転による、筋肉食品の向上
実施例4. 注入溶液中のアルカリ処理により調製されたタンパク質分離物(PI)のpHが、調理済みタラの調理損失に及ぼす効果
方法
・種々のpHを有し、620 mM NaClおよび25 mM NaHCO3を添加した5%タラPIを、種々のタラ試料に添加した。
- 使用したPIのpHは、7.5、9.0、10.0、および10.5であった。
・タラ試料は、切り身の頭部から切り分けた。各カテゴリー(pIの各pHカテゴリー)につき、5試料を使用した。
・4種類のPIを注入したタラ試料の調理は、真空密封バッグ中で80℃で20分間行った。
【0096】
結果を以下の表1に示す。
【0097】
(表1)平均

* 対照はいかなる処理も行っていない調理済み試料である。
収率(%)=100 x 調理後重量/生重量。
調理損失(%)=100 x (調理前重量−調理後重量)/調理前重量。
【0098】
結果
結果から、注入したPIのpH増加に伴う保水性の増加パターンが示されるが、pH 9、10、および10.5の間には有意差は存在しなかった。pH 7.5のPIを注入した試料は、より高いpH値の試料に対して、調理後の保水性の有意な減少を示した。
【0099】
実施例5. PI溶液の粘度が、調理後の調理損失に及ぼす効果
方法
・種々のpHを有し、620 mM NaClおよび25 mM NaHCO3を添加した5%タラPIを、タラの試料に添加した。
- 所望のpHにおいてより高い粘度を達成するために、PI懸濁液のpHを10に調整し、その後所望のpHに下げた。
・タラ試料は、切り身の頭部から切り分けた。各カテゴリー(各PIカテゴリー)につき、5試料を使用した。
・PIを注入したタラ試料の調理:真空密封バッグ中で80℃で20分間。
【0100】
結果を以下の表2〜3に示す。
【0101】
(表2)平均

* 対照はいかなる処理も行っていない調理済み試料である。
収率(%)=100 x 調理後重量/生重量。
調理損失(%)=100 x (調理前重量−調理後重量)/調理前重量。
粘度は、Brookfield Eng.粘度計モデルDV-EスピンドルL3を10 rpmで用いて測定した。
【0102】
(表3)

* 対照はいかなる処理も行っていない調理済み試料である。
収率(%)=100 x 調理後重量/生重量。
調理損失(%)=100 x (調理前重量−調理後重量)/調理前重量。
粘度は、Brookfield Eng.粘度計モデルDV-EスピンドルL3を10 rpmで用いて測定した。
【0103】
結果
分散性を促進し、粘度を増加させるために、pIをpH 10まで上げた。粘度の増加によって起こる保水性に有意差は認められなかった。
【0104】
実施例6 タンパク質注入および回転が、牛肉外もも肉のせん断力および水分含量に及ぼす効果
方法
タンパク質分離物の作製手順
牛肉外もも肉を、肉挽き器に十分入る小さな小片に切り分けた。肉を肉挽き器に2回かけた。次いで、牛ひき肉を冷水と1:5比で混合した。2 N NaOHを用いて牛肉懸濁液のpHを10.8に上げ、15分間静置した。15分後、懸濁液のpHを再度10.8にして、さらに15分間静置した。メッシュスクリーンを使用して、不溶性結合組織を濾過除去した。結合組織を濾過除去した後、1 N HClを用いてタンパク質溶液のpHをpH 5.5に下げた。メッシュを使用して、タンパク質分離物から大部分の水分を濾過除去した。次いで、タンパク質をチーズクロス(cheese cloth)に乗せて絞り、水分含量を減らした。分離物を100 g部分に分割し、-80℃で凍結した。上記の段階はすべて、氷上または4℃の部屋で行った。他の種類の筋肉組織も、同様の方法で処理できると考えられる。
【0105】
注入溶液の調製
100 g部分のタンパク質分離物を融解し、次いで4℃の部屋で冷脱イオン水と1:1比で混合した。ブレンダーを用いて混合物を20秒間混合し、次にポリトロンホモジナイザーを用いてこれを20秒間ホモジナイズした。タンパク質含量を決定するのにビウレット法を適用するため、タンパク質懸濁物の小試料を冷脱イオン水で1:5希釈した。タンパク質含量が判明した時点で、タンパク質溶液を、600 mM NaClおよび25 mM炭酸ナトリウムを含む5%およびpH 9.0に調整した。pHを9.0に調整するために2 N NaOHを使用し、次いで冷脱イオン水を添加して最終タンパク質含量5%を得た。本実験において、タンパク質分離物溶液は4.89%であった。
【0106】
結果
これらの懸濁液の粘度を以下の表4に示す。
【0107】
(表4)注入溶液の粘度

【0108】
セクション4 温め直した風味の問題
実施例7. pH調整の影響による、調理済み牛肉筋肉における温め直した風味の抑制
温め直した風味(WOF)は、貯蔵中に調理済み牛肉に生じる酸敗臭の一種である。そのいくつかを本明細書に記載した本発明者らの研究から、回転を伴うまたは伴わない注入または注入/浸漬によって、牛肉筋肉のpHを約pH 4未満の値または中性値もしくはそれ以上に調整した場合に、牛肉の柔らかさが改善され得ることが示された。2-チオバルビツール酸は脂質酸化中に生成されるカルボニル化合物と反応するため、2-チオバルビツール酸反応性物質(TBARS)の測定は、脂質酸化を検出するために広く用いられている方法である。
【0109】
様々なpHの牛肉群(注入および/または回転された)のTBARS測定値を、以下の表5に示す。MDAはマロンアルデヒドを示す。試料はすべて真空包装し、70℃で50分間調理した。次いで、これらを5℃で様々な時間貯蔵した。
【0110】
(表5)冷蔵後のTBARS(μmol MDA/kg調理済み牛肉)

【0111】
酸処置後の調理済み牛肉筋肉の温め直した風味の形成を表6に示す。牛肉試料に最初に、生重量に基づいて20%の0.3 Mクエン酸を注入し、約20%の同一溶液と共に30分間真空回転させた。次いで、牛肉試料を70℃で50分間調理し、冷まして5℃で貯蔵し、貯蔵中のTBARSを追跡した。
【0112】
(表6)調理済み牛肉試料における、5℃での貯蔵中のTBARS(μmol MDA/kg調理済み筋肉)の発生

【0113】
結論
調理済み牛肉筋肉の冷蔵中の温め直した風味の形成は、筋肉のpHを調整することによって抑制または遅延され得た。処理を行なわなかった対照では、TBARSは、1日または2日以内に、20μmol MDA/kg調理済み筋肉を超えて増加した。牛肉のpHを3.5および7.5にした場合、TBARSは大きく変化せず、貯蔵97.5時間で5μmol MDA/kg調理済み筋肉未満であった。例えば10.5から7.5、10.5から5.5、および3.5から5.5への2回pH調整によっても、温め直した風味の形成は遅延され得た。回転はそれ自体、牛肉筋肉の酸化に影響した。20.5時間を超える貯蔵では、回転後の対照は、回転なしの対照よりも高いTBARSを有した。
【0114】
セクション5 追加実験
実施例8. タンパク質分離物溶液の粘稠度
スピンドルL3を備えたBrookfield Engineeringデジタル粘度計モデルDV-Eを用いて、粘稠度測定を行った。タンパク質分離物溶液は200 mlとして調製し、2 M NaOHおよび3M HCl溶液を用いてpH調整を行った。タンパク質分離物溶液は、調製時にpH約5.5を有した。溶液のpHが所望のpH値に到達した時点で、粘稠度を測定した。2回のpH調整間の時間は、約3〜5分であった。
【0115】
pHの上昇に伴い、タンパク質分離物溶液の粘稠度は増加した。pH 9以降、この増加は急になった。特定の値後にpHを下げても、溶液の粘稠度は、同じpHにおける以前の粘稠度値まで減少しなかった。特定の理論に限定されないが、これは、pHによるタンパク質クラスターの外部の膨張または可溶化、および隣接クラスターとの相互作用に起因すると考えられる。
【0116】
タンパク質分離物溶液の粘稠度はまた、時間と共に増加した。pH調整したタンパク質分離物溶液を5℃でインキュベートすると、その粘稠度は増加した。特定の理論に限定されないが、これは、時間の経過に伴うクラスター内へのより深いイオンの侵入、ならびにイオン化および/または遮蔽もしくはタンパク質側鎖による、膨張およびタンパク質クラスター相互作用の増加に起因すると考えられる。
【0117】
実施例9. 細かく切り刻んだタラに添加したクエン酸および塩化カルシウムの効果
目的
本実験の目的は、細かく切り刻んだタラに添加したクエン酸および塩化カルシウムの効果を検討することであった。クエン酸および塩化カルシウムにより非洗浄タラから調製したタンパク質分離物の酸化についても検討した。試料には、2つのpH対照(すなわち、クエン酸および塩化カルシウムを添加せずに低pHまたは高pHで処理した試料)を含めた。
【0118】
結果
非洗浄タラは、洗浄対照と比較してより長い遅滞期、すなわち約3日を有することが認められた。
【0119】
非洗浄タラにクエン酸および塩化カルシウムを添加することで、脂質酸化に対する非常に良好な安定性が提供された。
【0120】
非洗浄タラの酸処置単独で、未処理対照と比較して脂質酸化の減少に効果的であった。酸またはアルカリ可溶化前の試料のクエン酸および塩化カルシウム処理により、酸化安定性がさらに高まった。
【0121】
実施例10. 酸処置肉における酸味を軽減するためのグリシンの使用
目的
グリシン、pH 2.0を用いて2回pH調整した試料;グリシン、pH 2.0のみで処理した試料;および乳酸で処理した試料によるpH 4.5の牛肉で、酸味強度を比較した。
【0122】
方法
牛肉外もも肉を、肉挽き器を用いて一度挽いた。牛ひき肉20 gをそれぞれ異なるpH処理に使用した。次いで、牛肉試料のpHを、2つの異なる酸のうちの1つを用いて調整した。1つの試料は、炭酸ナトリウムを用いて2回目の調整を行った。牛ひき肉のpHを調整した後、試料を30分間静置した。各pH処理物20 gを秤量し、ミートボールを作製した。次にミートボールを真空包装したが、これによってミートボールはフットボールに似た形状となった。次いで、牛肉試料を70℃で50分間調理した。調理後、牛肉試料を試食した。
【0123】
結果
【0124】
(表7)9/20実験の結果

1 生重量の15%の1200 mMグリシン、pH 2.0を牛肉試料に添加した。生重量の15%の167 mM炭酸ナトリウムを牛肉試料に添加した。
2 生重量の15%の510 mMグリシン、pH 2.0を牛肉試料に添加した。
3 生重量の15%の400 mM乳酸を牛肉試料に添加した。
【0125】
グリシンは、乳酸よりも酸味が少なかった。
【0126】
実施例11. 種々の条件下において、タンパク質分離物懸濁液の注入が、調理済み筋肉食品の特性に及ぼす効果
方法
1. 溶液の筋肉への注入
タンパク質分離物懸濁液を、ラテックス不含針20ゲージを用いて筋肉に注入した。塩溶液は、25ゲージを用いて筋肉に注入した。シリンジはBD(ニュージャージー州、フランクリンレイクス)製であった。針からの一定した溶液流のために、シリンジに圧力を少しかけながら、筋肉からゆっくりとシリンジを引き抜いた。
【0127】
2. 注入した筋肉試料の調理
Napcoモデル210A(NAPCO Scientific Co.、バージニア州、ウィンチェスター)水浴において、試料を真空密封ポリスチレンバッグ中で調理した。試料の内部温度がタラに関しては80℃、ならびに牛肉および鶏肉に関しては70℃に達するのを保証するため、牛肉試料は72℃で50分間調理し、鶏肉試料は72℃で30分間調理し、タラ試料は80℃で20分間調理した。調理後、試料を含むバッグを氷浴中に10分間置いた。さらなる試験のために、試料は冷蔵温度で一晩貯蔵した。
【0128】
3. Warner-Bratzlerせん断力の測定
以下のようにAMSA(1995)によって記載されている通りに、調理済みの中心部においてWarner-Bratzlerせん断力測定を行った:内径12.7 mmの穿孔器を用いて、調理済み筋肉の中心部を切り出した。中心部は、筋線維の長軸方向に平行に切り出した。各中心部を、G-R Manufacturing Co.(カンザス州、マンハッタン)製のVノッチWarner-Bratzler肉せん断装置により一度せん断した。最大読み取り値を、ニュートンとして記録した。
【0129】
鶏肉の結果を、以下の表8〜10に示す。牛肉およびタラの筋肉およびそれらそれぞれのタンパク質分離物でも、同様の結果が得られた。
【0130】
(表8)注入済み鶏胸肉筋肉の回転およびインキュベーションが、調理収率および調理損失に及ぼす効果

列内で異なる文字を付した平均値は有意差がある(p≦0.1)。
本実験に使用した鶏胸肉筋肉は、2%までの保水力を有するPerdueブランドであった。
1 タンパク質分離物のタンパク質供給源は鶏肉であった。
2 回転:Nは回転させなかったもの、Yは乾燥回転させたもの、およびY(分離物を伴う)は同一のタンパク質分離物懸濁液(生重量の20%)中で回転させたものである。
3 注入(%)=(注入後重量−生重量)/生重量 * 100。
4 調理前の全取り込み(%)=(調理前重量−生重量)/生重量 * 100。
5 調理収率(%)=(調理後重量/生重量)*100。
6 調理損失(%)=(調理前重量−調理後重量)/調理前重量 * 100。
【0131】
上記の表8から、試験したすべての場合において、タンパク質分離物の注入により調理収率が改善されたことが示される。過剰なタンパク質分離物懸濁液との回転により、最大の改善が得られた。
【0132】
(表9)タンパク質分離物懸濁液塩濃度が、鶏胸肉筋肉の調理収率に及ぼす効果

注入後および調理前に、試料は密封バッグ中で6℃にて4.5時間保持した。回転は行わなかった。
列内で異なる文字を付した平均値は有意差がある(p≦0.1)。
1 タンパク質分離物のタンパク質供給源は鶏肉であった。
2 注入(%)=(注入後重量−生重量)/生重量 * 100。
3 調理収率(%)=(調理後重量/生重量)*100。
4 調理損失(%)=(調理前重量−調理後重量)/調理前重量 * 100。
【0133】
上記の表9から、様々な塩濃度を有するタンパク質分離物を注入したが、高塩濃度(600 mM)によりpH 7.5および9.0のいずれにおいても最良の結果が得られたことが示される。タンパク質分離物を注入した試料はすべて、より低いせん断力価を有した。
【0134】
(表10)タンパク質分離物懸濁液が、緩衝液の存在下においてタンパク質分離物懸濁液を注入した鶏胸肉筋肉の調理収率に及ぼす効果

注入後および調理前に、試料は密封バッグ中で6℃にて4.5時間保持した。回転は行わなかった。
列内で異なる文字を付した平均値は有意差がある(p≦0.1)。
1 タンパク質分離物のタンパク質供給源は鶏肉であった。
2 注入(%)=(注入後重量−生重量)/生重量 * 100。
3 調理前全取り込み(%)=(調理前重量−生重量)/生重量 * 100。
4 調理収率(%)=(調理後重量/生重量)*100。
5 調理損失(%)=(調理前重量−調理後重量)/調理前重量 * 100。
【0135】
上記の表10から、使用した緩衝液が調理収率およびせん断力に中程度の効果をもたらしたことが示される。
【0136】
実施例12. 酸処理およびアルカリ処理の比較
食感および/または保水容量が改善された筋肉組織の生成に関して、酸処理とアルカリ処理の間には多くの類似性が存在する。いずれの技法を用いても、最終タンパク質食品の食感を元と比較して、pHを変化させることなく同様の加熱条件に供した同じタンパク質食品の硬さの約10%程度にまで変化させることができる(すなわち、非常に柔らかい)。最終タンパク質食品の食感はまたは、pHを変化させることなく同様の加熱条件に供した同じタンパク質食品よりも、保水性をより低くしてより硬くする(例えば、約150%の硬さまで)ことができる。このようなことは、例えば非常に柔らかい種類の魚(例えば、メルルーサ)をより硬い魚の切り身にする場合などに望ましいと考えられる。
【0137】
しかしながら、これら2つの工程間にはいくつかの重要な相違点が存在する。理論によって縛られないが、先に言及したように、酸性pHにおいて可溶化工程に関与する筋肉組織タンパク質の側鎖は本質的にカルボキシル基1つしか存在しない。しかし、カルボキシル基は一般的に筋肉タンパク質中に非常に多く存在し、典型的に数にして全アミノ酸側鎖の約22%〜約30%に寄与する。しかし筋肉タンパク質は、アルカリ側では、塩基性の高いpKを有する基をいくつか含む。したがって、酸処理は1段階工程であり、筋肉タンパク質の実質的に完全な可溶化が起こるのに対して、アルカリ処理の場合はそれとは異なり、タンパク質の全正味電荷の変化は段階的に起こる。約6.5〜7.5(例えば、約6.6〜約7.2)のpH範囲で2つの主要な変化のうちの1つが起こり、これはタンパク質中のヒスチジン残基のイミダゾール側鎖によるものであると考えられる。これらの基は特に多いわけではないが、タンパク質の溶解度に生じる変化に重要であると考えられる。中程度の塩濃度の存在下においてこのpH範囲を超えると、筋肉構造のいくつか、特に太い線維およびZ盤を安定化するタンパク質が可溶化される。残ったこれらの構造の筋肉タンパク質は、pHの上昇に伴うこれらのタンパク質上の正味の負電荷の増加によりもたらされる反発力に一部起因して、膨張して水分を吸収することが可能となる。様々な量の塩基を添加することで、筋肉タンパク質食品が水分を吸収する能力を様々な程度に変更して、異なる特徴を有する製品を提供することが可能となる。これらの製品を、調理前または調理後に低pH(例えば、約7.2、約7.0、約6.5、約6.4、約6.2、または約6.0)に再調整して、筋肉組織の初期pHに近いpHを有するが、特性が改善された最終製品を提供することができる。
【0138】
他の態様
本発明のいくつかの態様を説明してきた。しかしながら、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の変更がなされ得ることが理解されると思われる。例えば、食品において他と異なる食感を達成するために、筋肉食品の一部に対してこれらの工程を利用することができる。例えば、筋肉食品(例えば、牛肉の切り身)の表面への注入を間隔をあけて行うことで、タンパク質の可溶化をおおよそ格子パターンとして達成することができる。これによって、その全体を処理した筋肉食品と比較して、より優れた構造的完全性が最終筋肉食品にもたらされ得る。
【0139】
本発明をその詳細な説明と共に記載してきたが、前述の説明は例証を目的とするものであって、添付の特許請求の範囲の範囲によって規定される本発明の範囲を限定することを意図するものではないことが理解されねばならない。他の局面、利点、および変更は、添付の特許請求の範囲の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品を調製する方法であって、
筋原線維および細胞骨格タンパク質の少なくとも1つを含み、かつ第1のpHを有する食品を得る段階;
該食品のpHを、該食品の構造の少なくとも一部を少なくとも部分的に破壊する第2のpHに調整する段階;ならびに
タンパク質の変性温度を超える温度まで該食品を加熱する段階
を含む方法。
【請求項2】
食品の加熱後に、該食品のpHを第3のpHに再調整する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
食品をpH調整溶液と混合することによって、該食品の第1のpHを第2のpHに調整する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
第2のpHが第1のpHよりも低い、請求項3記載の方法。
【請求項5】
pH調整溶液が酸を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
第2のpHが約5.5以下である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
第2のpHが約4.0以下である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
pH調整溶液が、弱酸、強酸、有機酸、無機酸、リン酸、塩酸、硫酸、重硫酸ナトリウム、アミノ酸、およびグリシンからなる群より選択される酸を含む、請求項5記載の方法。
【請求項9】
pH調整溶液が有機酸を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
有機酸が、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、マロン酸、およびコハク酸からなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
第3のpHが第2のpHよりも高い、請求項4記載の方法。
【請求項12】
第2のpHが第1のpHよりも高い、請求項3記載の方法。
【請求項13】
第2のpHが約6.7以上からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
第3のpHが第2のpHよりも低い、請求項12記載の方法。
【請求項15】
pH調整溶液が塩基を含む、請求項3記載の方法。
【請求項16】
pH調整溶液が、第2のpHよりも高いpKaを有する緩衝液を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
pH調整溶液が、そのpKaよりも約1 pH単位高いpHを有する緩衝液を含む、請求項15記載の方法。
【請求項18】
緩衝液が、グリシン、リン酸、およびポリリン酸からなる群より選択される化合物を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
緩衝液が、酸性ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、重炭酸塩、およびアミノ酸からなる群より選択される化合物を含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
pH調整溶液が、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、カリウム塩、またはアミノ酸からなる群より選択される化合物を含む、請求項17記載の方法。
【請求項21】
第3のpHが第1のpHとほぼ等しい、請求項2記載の方法。
【請求項22】
第3のpHが第1のpHよりも高い、請求項2記載の方法。
【請求項23】
pH調整溶液が1つまたは複数の食感改善成分を含む、請求項3記載の方法。
【請求項24】
1つまたは複数の食感改善成分が、タンパク質分離物、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、およびカリウム塩からなる群より選択される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
1つまたは複数の食感改善成分が、筋肉組織、大豆タンパク質、または小麦タンパク質のうちの1つから調製されたタンパク質分離物を含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
1つまたは複数の食感改善成分が、食品と同じ動物種から調製されたタンパク質分離物を含む、請求項24記載の方法。
【請求項27】
食品が肉を含む、請求項1記載の方法。
【請求項28】
肉が、魚、貝、イカ、鶏肉、子羊肉、牛肉、および豚肉からなる群より選択される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
少なくとも約45℃、少なくとも約50℃、少なくとも約70℃、および少なくとも約80℃からなる群より選択される温度まで食品を加熱する、請求項1記載の方法。
【請求項30】
pH調整溶液を食品に注入する段階、食品をpH調整溶液中で回転させる段階、および食品をpH調整溶液中に浸漬する段階からなる群より選択される段階を用いて、食品をpH調整溶液と混合する、請求項3記載の方法。
【請求項31】
食品をpH調整溶液と混合する前に、該食品を細かく切り刻む段階をさらに含む、請求項3〜20、23〜26、または30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
食品を調製する方法であって、
筋原線維および細胞骨格タンパク質の少なくとも1つを含み、かつ第1のpHを有する食品を得る段階;
該食品のpHを、該食品の構造の少なくとも一部を少なくとも部分的に破壊する、第1のpHよりも塩基性の強い第2のpHに調整する段階;ならびに
タンパク質の変性温度を超える温度まで該食品を加熱する段階
を含む方法。
【請求項33】
調整段階と加熱段階の間に、食品のpHを第3のpHに再調整する段階をさらに含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
第2のpHが約6.7以上である、請求項32または33記載の方法。
【請求項35】
食品を調製する方法であって、
筋原線維および細胞骨格タンパク質の少なくとも1つを含み、かつ第1のpHを有する食品を得る段階;
該食品にタンパク質分離物を注入することにより、該食品のpHを、該食品の構造の少なくとも一部を少なくとも部分的に破壊する第2のpHに調整する段階
を含む方法。
【請求項36】
タンパク質分離物がpH調整溶液を含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
第2のpHが第1のpHよりも高い、請求項35記載の方法。
【請求項38】
タンパク質の変性温度を超える温度まで食品を加熱する段階をさらに含む、請求項35記載の方法。

【公表番号】特表2009−515554(P2009−515554A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541332(P2008−541332)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/044453
【国際公開番号】WO2007/059262
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(505231659)ユニバーシティ オブ マサチューセッツ (23)
【Fターム(参考)】