説明

負極用炭素材料、蓄電デバイス、及び蓄電デバイス搭載品

【課題】リチウムイオン二次電池及びリチウムイオンキャパシタの負極材料として使用できる黒鉛材料を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池及びリチウムイオンキャパシタを構成する負極の活物質に、比表面積が0.01m/g以上、5m/g以下で、全メソ孔容積が0.005mL/g以上、1.0mL/g以下で、細孔直径が100Å以上、400Å以下のメソ孔容積が、全メソ孔容積の25%以上、85%以下を占めるメソポーラス黒鉛を使用する。かかる構成により、出力特性の改善が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極用炭素材料に関し、特に蓄電デバイスの負極等に適用して有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、車社会の排気ガス等の大気に対する環境問題が、クローズアップされている。かかる中、環境にやさしい電気自動車等の開発が行われている。電気自動車の開発に当たっては、特に電源となる蓄電装置の開発が盛んである。旧来の鉛蓄電池に代わり、種々の形式の蓄電装置が提案されている。
【0003】
蓄電装置としては、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタを含めたハイブリッドキャパシタ等の蓄電デバイスが、現在、注目を集めている。一部には、実際の車両にも搭載され、その実用化に向けての実施試験も行われている。しかし、一方では、かかる蓄電デバイスについて、さらなる要素技術の開発も進められている。
【0004】
例えば、かかる蓄電装置に関しては、上記要素技術の一つとして、負極材料の技術開発が行われている。かかる負極材料には、例えば、今までに種々の炭素材料が用いられてきた。天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素材料、易黒鉛化性炭素材料等、種々のものが用いられてきた。
【0005】
一口に負極材料と言っても、蓄電デバイスによって求められる物性値パラメーターの大きさが逆になる場合がある。例えば、かかる例としては、比表面積がある。リチウムイオン二次電池の負極材では、高いクーロン効率を考慮した場合は、比表面積が小さい程よい。しかし、電気二重層キャパシタでは、その蓄電機能を考慮すると、比表面積は大きいものが好まれる。
【0006】
通常は、リチウムイオン二次電池に使用される炭素材料では、比表面積は3m/g以下である。しかし。電気二重層キャパシタに使用される炭素材料は、通常は、1000m/g以上である。
【0007】
リチウムイオン二次電池の負極に炭素材料を使用した例が、特許文献1には記載がある。また、リチウムイオンキャパシタについては、特許文献2に記載がある。
【特許文献1】特開2003−317717号公報
【特許文献2】特開2006−303330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的なリチウム系蓄電デバイスの負極材には黒鉛が用いられることが多いが、インターカレーションを伴うために出力特性の改善が求められている。この対策として、細孔の殆ど存在しない黒鉛材料を粉砕し細かくし、メソ孔、マクロ孔を発現させることによって高出力化が期待される。しかし、粉砕に伴い比表面積も同時に発現するために、クーロン効率が低下してしまい、リチウムイオン二次電池の容量低下を招き好ましくない。また、リチウムイオンキャパシタでは、実際の充放電に関与しない余分なリチウムイオンのプレドープが必要になり好ましくない。
【0009】
本発明の目的は、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオンキャパシタの負極材料として使用できる黒鉛材料に関しての技術を提供することにある。
【0010】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0012】
すなわち、黒鉛材料の全メソ孔容積を0.005mL/g以上、1.0mL/g以下に規制する。併せて、細孔直径が100Å以上、400Å以下のメソ孔容積が、全メソ孔容積の25%以上、85%以下を占める黒鉛の比表面積を0.01m/g以上、5m/g以下に規制する。かかる規制された黒鉛を使用することで、充電時の不可逆容量を減らすと共に、蓄電装置の特性改善を図った。
【発明の効果】
【0013】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0014】
本発明では、全メソ孔容積が0.005mL/g以上、1.0mL/g以下で、細孔直径が100Å以上、400Å以下のメソ孔容積が、全メソ孔容積の25%以上、85%以下を占める黒鉛の比表面積を0.01m/g以上、5m/g以下に、黒鉛の材料構造を変えることで、蓄電装置の充電時の不可逆容量を減らすと共に、出力特性等の特性改善が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本発明は、蓄電装置の特性改善を図る技術である。すなわち、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電装置に適用可能な電極材料に関する技術である。特に、負極材料として使用する黒鉛に関しての技術である。
【0016】
充放電に際して、リチウムイオンが正極と負極の間で行き来する蓄電装置では、充電時には、負極の黒鉛材料の中にリチウムイオンがドープされる。最初の充電時には、リチウムイオンをドープするに際して、リチウムイオンと電解液とが反応して被膜が黒鉛粒子表面に形成される。かかる被膜形成のために費やされるリチウムイオンが、不可逆容量の原因となる。
【0017】
かかる被膜形成に費やされるリチウムイオンは、実質的には、蓄電装置の起電力、蓄電機能等には、関与しないものである。そのため、かかる不可逆容量に関係するリチウムイオンの量が多くなると、全体としては、蓄電装置の特性が劣ることとなる。
【0018】
一般的には、かかる不可逆容量は、負極に使用する黒鉛材料の比表面積に合わせて増大する。そこで、蓄電装置としてリチウムイオン二次電池を想定した場合には、黒鉛の比表面積は、5m/g以下であることが好ましい。黒鉛の比表面積が5m/gより大きいと、不可逆容量の割合が大きくなる。一方、比表面積は、0.01m/g以上であることも必要である。0.01m/g以下では、電解液の保液量が少なくなり、抵抗が大きくなる等の不都合が考えられる。
【0019】
尚、かかる比表面積の値は、例えば、BET法で測定した比表面積の値であればよい。BET法以外の方法で測定した場合には、BET法に換算した値が、上記0.01m/g以上、5m/g以下の値に入っていればよい。
【0020】
かかる構成が適用されるリチウムイオン二次電池は、例えば、図1のように構成されている。すなわち、リチウムイオン二次電池10は、負極11と正極12とがセパレータ13を間に挟んで交互に積層されている。互いに複数の負極11と正極12とが積層された端は、負極11に構成されている。
【0021】
端に設けた負極11には、セパレータ13を間に介在させて、対向してリチウム供給源として機能させるリチウム極14が設けられている。リチウム極14は、図1に示すように、金属リチウム14aが集電体14bに設けられた構成となっている。リチウム極14から溶出したリチウムイオンが、負極11にプレドープされるようになっている。
【0022】
また、負極11は、黒鉛が活物質11aとして集電体11bに設けられている。かかる活物質11aとしての黒鉛には、全メソ孔容積が0.005mL/g以上、1.0mL/g以下で、細孔直径が100Å以上、400Å以下のメソ孔容積が、全メソ孔容積の25%以上、85%以下を占める黒鉛の比表面積を0.01m/g以上、5m/g以下であるものが使用されている。
【0023】
かかる負極用の活物質11aは、バインダ等と共に電極用の合材に形成され、集電体11bの孔が開いた面に所定層厚で設けられている。例えば、かかる合材層は、スラリーに形成したあと、集電体11b上に塗工装置で塗工すればよい。かかる集電体11bは、例えば、開口率が40〜60%である。集電体11bに合材層を塗工後、乾燥させて電極を製造する。
【0024】
また、正極12は、正極用の活物質12aが集電体12bに設けられている。正極用の活物質12aは、バインダ等と共に電極用の合材に形成され、集電体12bの孔が開いた面に所定層厚で塗工されている。かかる集電体12bは、例えば、開口率が40〜60%である。集電体12bに合材層を塗工後、乾燥させて電極を製造すればよい。
【0025】
上記のようにリチウム極14を端に配置して、負極11と正極12とが間にセパレータ13を介して互いに積層された電極ユニットは、図示はしない電解液に浸されることで電池に構成されている。
【0026】
かかる負極に黒鉛材料を用いた構成としては、リチウムイオンキャパシタも同様である。因みに、リチウムイオンが正極、負極の間を行き来しないキャパシタの場合には、勿論、上記のような比表面積の規制は必要ではない。基本的には、電気二重層により電荷を溜めるので、比表面積は大きい程好ましいのである。少なくとも、5m/g以下の規制は必要ないのである。すなわち、本発明の構成は、例えばリチウムイオンキャパシタの場合に適用できるものである。
【0027】
かかる構成のリチウムイオンキャパシタは、例えば、図2に示すような構成を有している。すなわち、リチウムイオンキャパシタ100では、負極110と正極120とがセパレータ130を間に挟んで積層されている。互いに複数の負極110と正極120とが積層された端は、負極110に構成されている。
【0028】
端に設けた負極110には、セパレータ130を間に介在させて、対向してリチウム供給源として機能させるリチウム極140が設けられている。リチウム極140は、図2に示すように、金属リチウム140aが集電体140bに設けられた構成となっている。リチウム極140から溶出したリチウムイオンが、負極110にプレドープされるようになっている。
【0029】
また、負極110は、黒鉛材料としての活物質110aが集電体110bに設けられている。かかる活物質110aとしての黒鉛には、全メソ孔容積が0.005mL/g以上、1.0mL/g以下で、細孔直径が100Å以上、400Å以下のメソ孔容積が、全メソ孔容積の25%以上、85%以下を占める黒鉛の比表面積を0.01m/g以上、5m/g以下であるものが使用されている。
【0030】
かかる構成の負極用の活物質110aは、バインダ等と共に電極用の合材に形成され、集電体110bの孔が開いた面に所定層厚で塗工されている。かかる集電体110bは、例えば、開口率が40〜60%である。集電体110bに合材層を塗工後、乾燥させて電極を製造する。
【0031】
また、正極120は、正極用の活物質120aが集電体120bに設けられている。正極用の活物質120aは、バインダ等と共に電極用の合材に形成され、集電体120bの孔が開いた面に所定層厚で塗工されている。かかる集電体120bは、例えば、開口率が40〜60%である。集電体120bに合材層を塗工後、乾燥させて電極を製造する。尚、かかる構成のリチウムイオンキャパシタでは、「正極」とは、放電の際に電流が流れ出る側の極を言い、「負極」とは放電の際に電流が流れ込む側の極を言うものとする。
【0032】
また、リチウムイオンキャパシタの構成では、上記黒鉛を使用した負極と正極を短絡した後の正極及び負極電位は、好ましくは例えば2.0V以下を示すものである。本発明のリチウムイオンキャパシタでは、負極、あるいは正極、あるいは負極及び正極に対するリチウムイオンのドーピングにより、正極と負極を短絡させた後の正極の電位は、好ましくは例えば2.0V以下にされていることが必要である。このようにして、容量の向上を図るのである。
【0033】
また、本発明のリチウムイオンキャパシタでは、負極活物質の単位重量当たりの静電容量を、正極活物質の単位重量当たりの静電容量の3倍以上に設定することが好ましい。さらに、正極活物質重量が負極活物質重量よりも大きくなるように設定することが好ましい。かかる構成を採用することで、高電圧且つ高容量のリチウムイオンキャパシタとすることができる。
【0034】
尚、上記説明では、電極を構成する活物質等の合材層は、表裏を貫通する孔が開けられた集電体の両面に設けられた場合を示した。しかし、かかる活物質等からなる合材層は、片面に設けても一向に構わない。
【0035】
さらに、上記説明では、積層型のセル構成を示したが、かかるセル構成以外でも構わない。リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電装置は、例えば、帯状の正極と負極とをセパレータを介して捲回させる円筒型セルにも構成しても構わない。あるいは板状の正極と負極とをセパレータを介して各3層以上積層した角型セルに構成しても構わない。さらには、板状の正極と負極とをセパレータを介して各3層以上積層しさらに外装フィルム内に封入したフィルム型セル等の大容量セルに構成することも構わない。
【0036】
上記構成の蓄電装置の負極に使用されている黒鉛材料は、例えば、ティムカル社製のKS−6を用いて製造することができる。KS−6で示される黒鉛は、粒径25μm程度のティムカル社製の人造黒鉛KS−25等を粉砕することで、D50が3〜4μm程度にされたものである。しかし、このままでは、その比表面積が20m/g程度と大きい。そのために、不可逆容量が大きく、非常にクーロン効率が低い。そこで、今までは、リチウムイオン二次電池の負極材料としての使用については、全く考慮されていなかった。
【0037】
しかし、本発明者は、かかる黒鉛材料に、適切な条件下でCVD(化学気相成長)処理を施すことで、比表面積を制御し得ることを見出した。すなわち、不可逆容量を小さく抑えうることを見出したのである。それにより、かかるCVD処理を施した黒鉛材料を、初めて、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオンキャパシタの負極材料として使用できることを見出した。
【0038】
例えば、KS−6を100g、内容積18Lのロータリーキルンに入れて、昇温する。昇温に際しては、例えば、5℃/minで900℃まで昇温する。900℃まで昇温したら、900℃の温度を保持する。900℃の温度を保持した条件で、トルエン溶液中にバブリングした窒素ガスを吹き込む。かかる吹き込み時間を調製することで、所定の比表面積の黒鉛が得られることを見出した。
【0039】
尚、細孔径100Å以上、〜400Å以下のメソ孔容積の全メソ孔容積に占める割合が25%未満である場合、リチウムイオンもしくは溶媒和したリチウムイオンの易動度が低下し、イオン伝導性が低下するため好ましくないと考えられる。また、85%より大きいと粉体密度が小さくなり過ぎて好ましくないと考えられる。
【0040】
かかる製造方法により得られた黒鉛を負極材料の活物質として使用することで、前述のリチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタを構成することができる。
【0041】
一方、かかる黒鉛の負極に対して、リチウムイオン二次電池の正極には、例えば、広くは、周期律表第V族元素及び第VI族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素の酸化物を含むものが挙げられる。かかる金属酸化物としては、例えば、バナジウム酸化物(酸化バナジウム)、あるいは酸化ニオブを挙げることができる。特に、五酸化バナジウムが好ましい。
【0042】
かかるバナジウム酸化物でも、例えば、五酸化バナジウム(V2O5)は、VO5を一単位とする5面体ユニットが2次元方向に共有結合で広がることで一つの層を形成している。この層と層とが積層することで全体として層状構造となっている。かかる層間に、リチウムイオンをドープすることができる。
【0043】
また、上記リチウムイオン二次電池では、初期充電時には、上記負極にリチウムイオンをドープさせる必要がある。そのために、前記説明の如く、リチウム極が、負極に対向して設けられている。かかるリチウム極としては、例えば、金属リチウムあるいはリチウム−アルミニウム合金等が使用できる。すなわち、少なくともリチウム元素を含有し、リチウムイオンを供給することのできる物質であれば使用可能である。
【0044】
一方、リチウムイオンキャパシタの構成では、上記黒鉛を使用した負極に対して、正極に用いる活物質としては、リチウムイオンと、リチウムイオンとが対をなす例えばBF4-、PF6-等のようなアニオンを可逆的にドープできるものであればよい。かかる正極活物質としては、例えば、活性炭、導電性高分子、ポリアセン系物質等を挙げることができる。特に、活性炭は、例えば、水酸化カリウム等のアルカリで賦活処理が施されているものを用いれば、賦活処理されていないものに比べて、比表面積が大きくて好ましい。
【0045】
また、初期充電時に、リチウムイオンを負極にプレドープさせるためのリチウムイオン源には、例えば、金属リチウムあるいはリチウム−アルミニウム合金等が使用できる。すなわち、少なくともリチウム元素を含有し、リチウムイオンを供給することのできる物質であれば使用可能である。
【0046】
さらに、かかる黒鉛を用いた負極活物質、あるいは正極活物質は、バインダ、必要に応じて導電助材等ともに、電極用合材に構成される。かかるバインダとしては、例えば、ゴム系バインダ、あるいはフッ素系樹脂、熱可塑性樹脂、アクリル系樹脂等の結着樹脂を使用することができる。ゴム系バインダとしては、例えば、ジエン系重合体であるSBR、NBR等を挙げることができる。フッ素系樹脂としては、例えば、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PDVF)等を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等を挙げることができる。アクリル系樹脂としては、例えば、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸・アクリロニトリル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体等を挙げることができる。
【0047】
尚、リチウムイオン二次電池で使用する正極活物質が、例えばバナジウム酸化物の場合には、水に溶けるので、かかるバインダは、非水溶媒と混合することで分散させて用いる必要がある。
【0048】
さらに、必要に応じて使用する導電助材としては、例えば、ケッチェンブラック等の導電性カーボン、銅、鉄、銀、ニッケル、パラジウム、金、白金、インジウム、タングステン等の金属、酸化インジウム、酸化スズ等の導電性金属酸化物等を挙げることができる。
【0049】
上記活物質、バインダ、必要に応じて導電助材を、例えば水、N−メチルピロリドン等の溶媒を用いてスラリーに形成すればよい。かかるスラリーに形成した合材は、孔開きの集電体面に、所定層厚で設けられる。設けるに際しては、例えば、ダイコーターやコンマコーター等の塗工装置を用いて、塗工処理を行えばよい。さらに、所定層厚で集電体上に塗工処理された合材層は、例えば、真空中150℃で12時間乾燥させることで、電極が製造される。
【0050】
かかる構成の負極、正極は、例えば、電解液を介して設けられている。かかる電解液には、電解質が溶解されている。例えば、リチウムイオン二次電池では、電解質としては、CF3SO3Li、C4F9SO8Li、(CF3SO2)2NLi、(CF3SO2)3CLi、LiBF4、LiPF6、LiClO4等のリチウム塩を使用することができる。かかる電解質は、例えば、非水系溶媒に溶解されている。
【0051】
非水系溶媒としては、例えば、鎖状カーボネート、環状カーボネート、環状エステル、ニトリル化合物、酸無水物、アミド化合物、ホスフェート化合物、アミン化合物等が挙げられる。より具体的には、例えば、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、n−メチルピロリジノン、N,N’ −ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、あるいはプロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合物、スルホランとテトラヒドロフランとの混合物等を挙げることができる。
【0052】
尚、正極と負極との間に介挿される電解質層としては、上記の如く電解質を溶解させた非水系溶媒の電解液であってもよいし、この電解質溶液を含むポリマーゲル(ポリマーゲル電解質)であっても構わない。要は、正極、負極間のリチウムイオンの移動を円滑に支持するものであればよい。
【0053】
一方、リチウムイオンキャパシタの場合には、電解液には、例えば、非プロトン性有機溶媒を使用することができる。非プロトン性有機溶媒は、非プロトン性有機溶媒電解質溶液を形成する。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、スルホラン等が挙げられる。さらに、これら非プロトン性有機溶媒の二種以上を混合した混合液を用いても構わない。
【0054】
使用される電解質としては、リチウムイオンを生成し得る電解質であれば使用可能である。例えば、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiPF6、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2等が挙げられる。
【0055】
上記の本発明に係る黒鉛を負極に用いたリチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスは、例えば、電気自動車等の蓄電デバイス搭載品に有効に適用されている。
【実施例】
【0056】
次に、上記説明の構成の負極材料としての黒鉛を用いた場合の効果について、以下、実施例により具体的に説明する。勿論、本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0057】
(実施例1、比較例1、2)
本実施例では、本発明に係るティムカル社製の黒鉛を負極に使用したリチウムイオン二次電池の出力特性を検証した。本発明に係るティムカル社製の黒鉛(表1中Aと表示)は、同じティムカル社製のKS−6に、CVD処理を施したものである。CVDの処理条件は、5℃/minで900℃まで昇温し、この温度を保持した条件で、トルエン溶液中にバブリングした窒素ガスを10時間吹き込んだ。かかる黒鉛は、表1に示すように、粒径が6μmで、比表面積が3m/gである。また、全メソ孔容積が0.015mL/gで、メソ孔容積の全メソ孔容積に占める割合が40%である(表中Aと表示)。
【0058】
表1:実施例で使用する3種の負極活物質のそれぞれの特性
【0059】
【表1】

【0060】
一方、比較として、人造黒鉛(表中Bと表示)、KS−6(表中Cと表示)を、それぞれリチウムイオン二次電池の負極の活物質に使用した。
【0061】
尚、かかる人造黒鉛:B、KS−6:C、の平均粒径は、表1にも示すように、それぞれ20μm、3μmであった。また、比表面積は、2m/g、21m/gであった。全メソ孔容積は、0.003mL/g、0.038mL/gであった。メソ孔容積の全メソ孔容積に占める比率は、50%、55%であった。
【0062】
[負極電極の作製]本発明に係る黒鉛:A、人造黒鉛:B、KS−6:C各92重量部に対し、アセチレンブラック粉体6重量部、アクリレート系共重合体バインダ5重量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)4重量部、イオン交換水200重量部を加えて混合攪拌機で充分混合し、負極スラリーを得た。厚さ32μm(開口率57%)の銅製エキスパンドメタルに対し、上記負極スラリーを縦型両面同時ダイコーターにていずれも活物質目付量が同じになるよう両面同時塗工した。その後、乾燥し、プレスすることにより、総厚み162μmとなる負極A〜Cを得た。
【0063】
[正極電極の作製]ポリフッ化ビニリデン粉末3.5重量部をN−メチルピロリドン50重量部に溶解した溶液に、粒径が5μmの市販LiCoO粉末100重量部、グラファイト粉末5重量部を添加し、充分混合することにより正極スラリー1を得た。厚さ38μm(開口率45%)のアルミニウム製エキスパンドメタルの両面に水系のカーボン系導電塗料を縦型両面同時ダイコーターにて両面同時塗工し、乾燥することにより導電層が形成された正極用集電体を得た。総厚み(集電体厚みと導電層厚みの合計)は、51μmであった。併せて、貫通孔は、ほぼ導電塗料により閉塞された。上記正極スラリー1をコンマコーターにて該正極集電体の両面に片面ずつ塗工した。その後、乾燥、プレスして、厚み188μmの正極1を得た。
【0064】
[積層セルの作製]厚さ140μmの各負極電極と厚さ188μmの正極電極を、それぞれ2.4cm×3.8cmにカットした。セパレータとして厚さ35μmのセルロース/レーヨンの混合不織布を用いて、負極集電体、正極集電体の接続端子との溶接部(以下、接続端子溶接部という)がそれぞれ交互に反対側になるよう配置し、それぞれ負極6枚、正極5枚を積層した。最上部と最下部はセパレータを配置させて、4辺をテープ止めすることにより電極積層ユニットを得た。次に、上記電極積層ユニットの正極集電体の端子溶接部(5枚)に、予めシール部分にシーラントフィルムを熱融着した巾10mm、長さ30mm、厚さ0.2mmのアルミニウム製正極端子を重ねて超音波溶接した。同様に負極集電体の端子溶接部(6枚)に、予めシール部分にシーラントフィルムを熱融着した巾10mm、長さ30mm、厚さ0.2mmのニッケル製負極端子を重ねて抵抗溶接した。これを、縦60mm、横30mm、深さ1.3mmに深絞りした外装フィルム2枚の内部へ設置した。
【0065】
外装ラミネートフィルムの端子部2辺と他の1辺を、熱融着した。熱融着後、電解液としてエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートを重量比で1:3とした混合溶媒に、1モル/Lの濃度にLiPFを溶解した溶液を真空含浸させた。その後、残り1辺を減圧下にて熱融着し、真空封止を行ってフィルム型リチウムイオン二次電池を各2セル組立てた。
【0066】
[セル特性評価]試作したフィルム型リチウムイオン二次電池を各2セル、25℃にて400mAの定電流でセル電圧が4.2Vになるまで充電した。その後、4.2Vの定電圧を印加する定電流−定電圧充電を6時間行った。充電後、200mAの定電流でセル電圧が3.0Vになるまで放電した。更に、同様の充電を行った後、2000mAの定電流でセル電圧が3.0Vになるまで放電した。この時の放電容量を測定し結果をそれぞれ表2に示す。
表2:リチウムイオン二次電池を構成した場合の本発明の出力特性の効果
【0067】
【表2】

【0068】
かかる結果は、表2に示す如く、黒鉛Bは200mAでの放電容量は高いものの、2000mAでの放電容量が小さく、黒鉛Cは200mAと2000mA放電での容量比率は高いものの、初期充放電効率が低いため、放電容量が低い。したがって、本発明にかかる黒鉛Aを使用した場合の方が、高い容量および出力特性を得る上で好ましい。
【0069】
(実施例2、比較例3、4)
[正極の作製]原料のおが屑を電気炉中に入れ、窒素気流下で、50℃/時間の昇温速度で950℃まで昇温した。その後、窒素/水蒸気1:1の混合ガスで、12時間水蒸気賦活し、比表面積2450m/gの活性炭を製造した。該活性炭を、アルミナ製ボールミル粉砕機で5時間粉砕して、平均粒子径(D50)が7μmの活性炭粉末を得た。
【0070】
上記正極用活性炭粉末92重量部、アセチレンブラック粉体6重量部、アクリレート系共重合体バインダ7重量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)4重量部及びイオン交換水200重量部を、混合攪拌機にて充分混合して、正極スラリー2を得た。
【0071】
厚さ38μm(開口率45%)のアルミニウム製エキスパンドメタルの両面に、水系のカーボン系導電塗料を、縦型両面同時ダイコーターにて両面同時塗工した。その後、乾燥して、導電層が形成された正極用集電体を得た。総厚み(集電体厚みと導電層厚みの合計)は51μmであった。併せて、貫通孔は、ほぼ導電塗料により閉塞された。上記正極スラリー2をコンマコーターにて該正極集電体の両面に片面ずつ塗工、乾燥することにより、厚み416μmの正極2を得た。
【0072】
[積層セルの作製]実施例1および比較例1、2で作製した各負極A〜Cと上記正極2を用いて、実施例1および比較例1、2と同様に電極積層ユニットを構成した。厚さ140μmのリチウム金属箔を厚さ80μmのステンレス網に圧着したものを作製し、これを負極と対向するように電極積層ユニットの最外部にそれぞれ各1枚配置した。負極(6枚)とリチウム金属を圧着したステンレス網はそれぞれ溶接し、接触させ、負極とリチウム金属箔がショートした形の三極積層ユニットを得た。
【0073】
上記三極積層ユニットの正極集電体の端子溶接部(5枚)に、予めシール部分にシーラントフィルムを熱融着した巾10mm、長さ30mm、厚さ0.2mmのアルミニウム製正極端子を重ねて超音波溶接した。同様に負極集電体の端子溶接部(6枚)に、予めシール部分にシーラントフィルムを熱融着した巾10mm、長さ30mm、厚さ0.2mmのニッケル製負極端子を重ねて抵抗溶接した。これを、縦60mm、横30mm、深さ2.2mmに深絞りした外装フィルム2枚の内部へ設置した。
【0074】
外装ラミネートフィルムの端子部2辺と他の1辺を、熱融着した。熱融着後、電解液としてエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートを重量比で1:3とした混合溶媒に、1モル/Lの濃度にLiPF6を溶解した溶液を真空含浸させた。その後、残り1辺を減圧下にて熱融着し、真空封止を行うことによりフィルム型のリチウムイオンキャパシタA〜Cを各3セル組立てた。
【0075】
[セル特性評価]14日間室温にて放置後、1セルを分解したところ、リチウム金属はいずれも完全に無くなっていた。
【0076】
残ったフィルム型のリチウムイオンキャパシタの各2セルを、25℃および−20℃でそれぞれ24時間放置した。放置後、4000mAの定電流でセル電圧が3.8Vになるまで充電し、その後3.8Vの定電圧を印加する定電流−定電圧充電を1時間行った。次いで、400mAの定電流でセル電圧が2.2Vになるまで放電した。この3.8V−2.2Vのサイクルを繰り返し、3回目の放電容量を測定した。結果を表3に示す。
表3:リチウムイオンキャパシタを構成した場合の本発明の出力特性の効果
【0077】
【表3】

【0078】
また、各1セルずつ、正極と負極を短絡させ、正極の電位を測定したところ、いずれの正極電位も2V以下であった。
【0079】
表3に示すように、正極と負極を短絡させた後の正極電位が2.0V以下であることから、高いエネルギー密度を有した積層フィルム型キャパシタが得られたと考えられる。負極活物質に黒鉛Aを用いたリチウムイオンキャパシタAは、表3に示すように、−20℃においても高い容量が得られた。リチウムイオンキャパシタにおいても、高い容量と低温特性を得る上では黒鉛Aを用いることが好ましいとが分かる。
【0080】
また、黒鉛Cは、リチウムイオン二次電池に使用した場合には、初期充放電効率が低く容量が低かった。しかし、表3に示すように、負極に予めリチウムイオンをプレドープしたリチウムイオンキャパシタに使用した場合には、表3の比較例4に示すように高い容量が得られた。これは、比表面積が高いため初期効率が低くなった。しかし、全メソ孔容積が高いため、低温特性が高かったと考えられる。一方、比表面積は小さいものの、全メソ孔容積の低い黒鉛Bは、初期効率は高いものの、出力特性、低温特性が低かったと考えられる。
【0081】
したがって、本発明にかかる黒鉛Aを使用した場合の方が、人造黒鉛:B、KS−6:Cを使用した場合に比べて、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタのいずれにおいても、出力特性および低温特性が良好であることが分かる。
【0082】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態、実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態、実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタにおける負極の分野で有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係る負極を適用するリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る負極を適用するリチウムイオンキャパシタの構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0085】
10 リチウムイオン二次電池
11 負極
11a 活物質
11b 集電体
12 正極
12a 活物質
12b 集電体
13 セパレータ
14 リチウム極
14a 金属リチウム
14b 集電体
100 リチウムイオンキャパシタ
110 負極
110a 活物質
110b 集電体
120 正極
120a 活物質
120b 集電体
130 セパレータ
140 リチウム極
140a 金属リチウム
140b 集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液としてリチウム塩の非プロトン性有機溶媒溶液を備える蓄電デバイス用の黒鉛系結晶構造を有する負極用炭素材料であって、
前記負極用炭素材料は、比表面積が0.01m/g以上、5m/g以下で、全メソ孔容積が0.005mL/g以上、1.0mL/g以下で、細孔直径が100Å以上、400Å以下のメソ孔容積が、全メソ孔容積の25%以上、85%以下を占めるメソポーラス黒鉛であることを特徴とする負極用炭素材料。
【請求項2】
請求項1記載の負極用炭素材料において、
前記メソポーラス黒鉛は、比表面積が5m/gより大きいメソポーラス黒鉛をCVD処理したものであることを特徴とする負極用炭素材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の負極用炭素材料において、
前記メソポーラス黒鉛は、黒鉛を粉砕したものであることを特徴とする負極用炭素材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の負極用炭素材料において、
前記メソポーラス黒鉛は、人造黒鉛であることを特徴とする負極用炭素材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の負極用炭素材料を、負極活物質として有することを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の蓄電デバイスにおいて、
前記蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項7】
請求項5に記載の蓄電デバイスにおいて、
前記蓄電デバイスは、リチウムイオンキャパシタであることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の蓄電デバイスを搭載したことを特徴とする蓄電デバイス搭載品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−231234(P2009−231234A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78469(P2008−78469)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】