貴金属法を用いて容器内部構造物を溶接する方法
【課題】 貴金属法を用いて容器内部構造物を溶接する方法を提供する。
【解決手段】 応力腐食割れを受けやすい領域において第1の金属を第2の金属の表面に接合する方法は、第1の金属を第2の金属の表面に溶接するのに先立って上記の領域に隣接する第1の金属にSCC耐性貴金属溶接バタリング又は貴金属溶接クラッディング4を施工する段階を含む。それに代えて、本方法は、既存のSCC感受性溶接付着物及び/又は熱影響部を覆って貴金属クラッディング4を施工する段階を含む。金属構成要素は、既存のSCC感受性溶接付着物及び/又は熱影響部を覆う貴金属溶接クラッディング4又はバタリングを含む。
【解決手段】 応力腐食割れを受けやすい領域において第1の金属を第2の金属の表面に接合する方法は、第1の金属を第2の金属の表面に溶接するのに先立って上記の領域に隣接する第1の金属にSCC耐性貴金属溶接バタリング又は貴金属溶接クラッディング4を施工する段階を含む。それに代えて、本方法は、既存のSCC感受性溶接付着物及び/又は熱影響部を覆って貴金属クラッディング4を施工する段階を含む。金属構成要素は、既存のSCC感受性溶接付着物及び/又は熱影響部を覆う貴金属溶接クラッディング4又はバタリングを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力腐食割れに対する向上した耐性を有する継手(接合部)を溶接することに関する。具体的には、本発明は、SCC耐性貴金属含有バタリング又は貴金属クラッディングを用いて、溶接継手に隣接する熱影響部内又は冷間加工域内において応力腐食割れを受けやすい原子炉の鋼製の内部構成要素及び内部表面上に継手を溶接することに関する。さらに、本発明は、既存のSCC感受性溶接溶着物及び/又は熱影響部を覆って貴金属クラッディングを施工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉は、核分裂時に熱を発生する核分裂性燃料の炉心を格納する。熱は、原子炉圧力容器内に収容した原子炉冷却材すなわち水によって燃料炉心から除去される。配管回路は、加熱水又は蒸気を蒸気発生器又はタービンに導き、循環水又は給水を容器に戻す。原子炉圧力容器の作動圧力及び温度は、沸騰水型原子炉(BWR)の場合には約7MPa及び288℃、また加圧水型原子炉(PWR)の場合には約15MPa及び320℃である。BWR及びPWRの両方に使用する材料は、様々な負荷、環境及び照射条件に耐えなければならない。本明細書で使用する場合、「高温水」という用語は、約150℃又はそれ以上の温度を有する水、蒸気或いはその復水を意味する。
【0003】
高温水に曝される材料は、例えば炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、並びにニッケル基、コバルト基及びジルコニウム基合金を含む。軽水炉で用いるこれらの材料の慎重な選択及び処理にも拘らず、高温水に曝される材料には腐食が発生する。そのような腐食は、例えば応力腐食割れ(SSC)、隙間腐食、浸食腐食、圧力逃し弁のこう着及びγ線放射Co60アイソトープの蓄積のような種々の問題の一因となる。
【0004】
応力腐食割れ(SCC)は、数十年にわたり沸騰水型原子炉(BWR)発電プラントの操業稼働率に影響を与える問題となっている。この問題は、実動中に鋭敏化又は冷間加工基材、引張応力及び高温含酸素水の組合せが存在するときに発生する。鋭敏化の1つの普通の形態は、溶接ビードの冷却シーケンスがミクロ組織結晶粒界に炭化クロムを析出させるのに十分なほど遅い場合の溶接の熱サイクルによって、引き起こされる。この炭化物の析出は、隣接するクロムの結晶粒界領域をそれらがもはや耐食性でなくなる程度まで減損させる。そのため、化学腐食性水環境及び十分に高い表面引張応力が存在するときに、他の耐食性材料内のこれら粒界にSCCが発生する可能性がある。強度に冷間加工した材料表面もまた、引張応力及び化学腐食性水環境が存在するときに、SSCを受けやすい。
【0005】
古い原子炉プラントの多くは、気付かずに高炭素ステンレス鋼で建設され、この高炭素ステンレス鋼は製作熱処理又は溶接接合プロセスの間に熱鋭敏化していた。加えて、溶接実施工程は一般的に高い入熱を用いており、この高入熱は、引張残留応力及び対応するSCC破損をもたらすのに十分なほどであった。これらの高い溶接入熱は、耐食性合金化元素(クロムのような)をそれらの有効レベル以下に希釈することによって問題をさらに悪化させた。さらに、溶接溶加材は、十分なSCC耐性を与える合金化元素を形成するデルタ・フェライト・ミクロ組織が必ずしも多くなかった。他の構成要素は、製作時に(最終溶体化アニーリングの後に)高度に機械加工又は変形されており、SCCをさらに受けやすい表面冷間加工状態を生じていた。溶接は、冷間加工を行う前又は後のいずれかで実行され、隣接領域を引張残留応力の状態のままにしていた。
【0006】
これらの構成要素の補修又は交換は一般的に、大きな交換を行うためには長期の休止のために操業プラントを停止しなければならないという事実のために、またプラント構成要素の内部表面の高レベルの放射性汚染物質(又はボリューム内部の放射能)のために非常に費用がかかる。
【0007】
鋭敏化領域上に溶着させる耐食性溶接クラッディングを開発するこれまでの成果は、一般的に呼び径約4インチ又はそれ以上の流体プロセス配管の内部に使用するために設計したものであった。これらの寸法の場合には、通常のレベルの入熱を用いて施工した多重の厚い層は、それらの全体の層厚さに限界値がなかったので、基材による溶着物クロム含量の希釈を補償することが可能であった。
【0008】
SSCの問題に対する多くの解決法が長年にわたって提案されてきており、それらには、構成要素材料の交換、残留応力の低減、機械加工及び成形実施工程の改善並びに水の化学的性質の制御(又はこれらの提案の組合せ)が含まれる。別の方法は、既に鋭敏化した領域を覆って、腐食性水環境から該領域を有効に隔離するように、クラッディングをアーク溶接することである。しかしながら、高い感受性基体の場合には、現行の溶接方法は新たなクラッディング領域の端縁部を鋭敏化する可能性があり、また現行のクラッディング材料は不十分なSSC耐性を有する可能性があるので、この現行の方法には普遍的な適用性がない。この正味効果は古いSSC問題部を被覆することであり、このことは、類似の新しい問題部のリスクを近くに発生させるのみである。従来型のクラッディング法の一般的に高い入熱のため、新たなクラッディング領域の端縁部がまた高い表面引張応力の不利な状態になる可能性がある。加えて、これらの従来型の方法は、クラッディングした構成要素の歪みをもたらし、それによって接合する構成要素の取付け及び/又は機能に悪影響を与える可能性がある。
【0009】
さらに別の方法は、SSC感受性領域を覆って施工される事前塗布した耐食性ペーストのレーザ融合である。しかしながら、このプロセスは、単調で高度に手間がかかり、特に容器内構成要素に遠隔的に施工する場合に非常に費用がかかる。
【0010】
別の公知の方法は、耐食性材料で作製した事前配置スリーブのガスタングステンアーク(GTA)融合である。しかしながら、この方法は、それに対して十分緊密に嵌合するようにスリーブを容易に予備成形することができる幾何学的に規則的な表面形状(円筒形のような)を有する施工部に限定されると考えられる。
【0011】
クラッディングする必要がある鋭敏化領域の多くは、規則的又は平滑な表面を有することが殆どない接合溶接部の熱影響部である。炉内鋭敏化、照射鋭敏化又は冷間加工材料のような他の不都合な材料状態もまた、SCCを防止するための耐食性クラッディングを必要とする。
【0012】
ある種のオーステナイト系ミクロ組織ステンレス鋼又はニッケル合金の融接溶着物又はそれらの隣接HAZは、プラント操業中に沸騰水型原子炉(BWR)に存在するような高温の酸素含有水環境に曝されたとき、応力腐食割れ破壊を受けやすいことが知られている。(本明細書で用いる文脈において、「融接」という用語は、溶加材を使用する場合、溶加材のベース金属の幾らかの部分が溶融するような任意の溶接部又は溶接プロセスを意味する)。SCCを防止又は補修する現行の方法は、従来の溶接継手自体が破損するのを防止するための市販溶接合金を選択すること、従来の溶接継手の最終層を市販グレードのSCC耐性合金で被覆すること、従来の溶接継手自体で発生したHAZを市販グレード合金で溶接クラッディングすること、及び市販グレード合金、クラッディング或いは割れ又は他の欠陥を除去した非溶接基体を含む溶接継手の一部分を再溶接することを含む。これらの方法の全て及びその変形方法は、実動中に腐食性水環境に曝される状態になる接合部の端縁部に(又は拡張した溶接被覆/クラッディングの端縁部に)置き換わった熱影響部を残したままであり、従ってSCCを受けやすい、置き換わったHAZを依然として残している。加えて、新たに溶着した溶接材料自体が、長期間の実動中に、特に高電気化学電位(ECP)又は高中性子束の領域においてまた特に市販合金が基材組成物によってより希釈された溶接端縁部ビードにおいて割れを防止するのに十分なSCC耐性を有していない可能性がある。SCC及び他の欠陥は、プラント寿命の間に容器内部構成要素表面又は配管に見られる場合が多い。そのような欠陥は、影響を受けた構成要素を補修又は交換しない状態での継続プラント操業の場合に、許容不能な状態にまで成長する可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
容器内部構造物の交換、容器内部構造物の補修作業、配管の補修及び交換作業並びに新規の建設又は構成要素交換計画の現場溶接継手設計においてSCCを積極的に防止する方法に対する必要性が存在する。問題領域を一時的にのみ置き換えるのではなく、或いは問題の大きさを不十分に低下させるのではなく、或いは問題領域を過度に厚い又は損傷を生じるほど高温になる多重層を用いて施工しなければならない材料で被覆することにならないような方法が要求されている。本発明は、その要求を満たすことを追求するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、沸騰水型原子炉内の溶接継手の応力腐食割れ(SCC)の問題に対する解決法を提供し、この割れが、溶接溶加材の希釈、製作時の熱鋭敏化、製作時の冷間加工、高引張残留応力、実動中の中性子照射又はそれらの組合せの何れに起因するかには関係ない。
【0015】
1つの態様によると、金属を互い接合する方法を提供し、本方法では、継手の溶接に先立って、SCC感受性溶接継手端縁部及びその近くの表面上にSCC耐性貴金属含有バタリングが配置される。
【0016】
別の態様によると、金属を互いに接合する方法を提供し、本方法では、継手の溶接に先立って、溶接継手端縁部及びその近くの表面に又は該溶接継手端縁部及びその近くの表面に隣接してSCC耐性貴金属クラッディングが配置される。
【0017】
さらに別の態様によると、本発明の方法によって溶接した金属構成要素を提供する。
【0018】
次に、添付図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
1つの実施形態では、本発明の方法は、ニッケル基合金82、合金52、合金52M、ステンレス308L、ステンレス309L又は316Lのようなニッケル基合金又は鉄基ステンレス鋼と、酸素の水素との再結合速度を高めるための触媒として作用する低濃度の貴金属元素(例えば、パラジウム、白金、ロジウム又はそれらの組合せ)とを含む溶加材を用いる。溶加材中の貴金属の濃度は一般的に、ベース金属による希釈の後に、約1重量%又はそれ以下、より普通には約0.25〜0.75重量%の範囲内にある。酸素と過酸化水素の水素との再結合は、実効電気化学電位を低下させて、SCCに対する感受性を低下又は除去する。溶加材は、溶接前処理部端縁部貴金属バタリング又は表面クラッディングとしてSCC感受性基材(又は、以前に溶着したSCC感受性溶加材もしくはバタリング材の残存物)に施工される。この方法は、溶接継手のベース金属及び溶加材金属が、そうでなければSCCに対する感受性をもたらすことになる不利な製作及び溶接実施工程に対して、より著しく耐えるようになることを保証する。
【0020】
好ましい実施形態では、開示した方法の低いクラッディング入熱は、約10インチ/分を越え、例えば15〜45インチ/分、より通常的には15〜30インチ/分である移動速度(トーチ速度)によってある程度もたらされ、そのため溶接冷却の間に鋭敏化温度範囲にある時間は、クロム含量が減損する程度にまで結晶粒界上に炭化物が析出するのには不十分である。この低い入熱はまた、基材による溶加材の希釈を著しく低下させ、1つの薄い溶接層でさえ、溶加材への貴金属添加が少量になること(及び、実動中に溶接層が曝される水の中の過剰水素に耐えること)の利点と共に、SCCに対する十分な耐性を有する溶着組成物を形成するのに十分である。
【0021】
鋭敏化制御のこの新規な方法は、入熱の制御及び最小化の従来の方法とは対照的であり、従来の方法では、処理の加熱速度(また、従って冷却速度)及び材料の時定数は個別には考慮されず、積分入熱量のみが考慮されている。本発明は、溶接パラメータの二重の制御、すなわち(1)入熱(ビードの単位長さ当りの入熱の関数として制御される)及び(2)HAZ冷却速度(前進方向における溶接の線速度の関数として制御される)を用いる。ビード交差方向のアーク振動は、必要な低入熱及び高移動速度の両方を維持することに関して逆効果を生じるので、避けるのが好ましい。従って、本方法は、熱鋭敏化に対する非常に低い耐性を有する材料の場合であっても大きな鋭敏化のリスクなしで電気アーク及び他の融合ベースのクラッディング法を材料上に施工するのを可能にする。
【0022】
従来型のクラッディング法では、入熱はアーク電流にアーク電圧を乗じた積をアーク移動速度で除して簡単に計算される。しかしながら、加熱速度及び冷却速度は、トーチ移動速度及び材料の熱的性質によって、固有に互いに関連する。従って、十分に大きい移動速度では、特定の材料に発生する熱鋭敏化(炭化クロム析出)についての臨界冷却速度に関連する所定の臨界移動速度を選択することによって、冷却速度を制御することができる。選択したオーステナイト材料の臨界冷却速度は、主として、その結晶粒径、炭素含量、クロム含量、デルタ・フェライト含量、熱拡散率及び断面厚さによって決まる。オーステナイト系ミクロ組織合金でのプロセスにおける好ましい入熱は、約3.8kJ/インチ(1.5キロジュール/cm)未満、より通常的には約1.2〜2.5kJ/インチ(0.5〜1.0キロジュール/cm)であることが判った。従って、対応する好ましいトーチ最低速度は、およそ20インチ/分(50cm/分)よりも大きく、典型的には25〜35インチ/分(60〜90cm/分)である。
【0023】
図1及び図2を参照すると、溶接する継手の端縁部上に「バタリングした」SCC貴金属溶接クラッディング4を有する構成要素2を示している。図3には、ベベルを機械加工する段階、貴金属合金を施工する段階及びさらにトリミングしかつ機械加工する段階を含む段階的方法を示している。
【0024】
貴金属溶接クラッディングは、継手内部に含まれる部分及びこの領域の隣接端縁部を含む、接合する表面上に施工される。バタリングは、その施工中にSCC感受性基体の熱鋭敏化を防止するのに十分なほど低い入熱で施工される。継手端縁部を越えた隣接領域もまた、その後バタリング材料の下にある元の材料を熱鋭敏化させずに十分に高い入熱(バタリング層の入熱に比較して)で接合溶接を行うことができ、かつかつ非バタリング領域上により高い熱溶接部が不注意に溶着するリスクがない状態で接合溶接部の周囲位置を変えることができるように、バタリングされる。
【0025】
図4は、既存のシュラウド対シュラウドサポートの溶接継手6を示す。図5は、SCC貴金属含有クラッディングを用いる、本発明により製作した継手8を示す。図4には、接合する感受性材料表面上にバタリングを使用せずに容器シュラウドをシュラウドサポートに接合する従来型の方法を示している。図5は、接合する各表面上に事前配置した低入熱貴金属合金クラッディングを使用する、これらの構成要素間の改良した継手設計を示す。
【0026】
図6は、既存の溶接継手、ジェットポンプディフューザ及びその支持バッフルプレートの別の形態10を示す。図7及び図8は、容器シュラウドのシュラウドサポートへの溶接部について示したのと同様の「バタリング」方式で施工した貴金属合金クラッディングを用いて接合された同じ構成要素を示す。
【0027】
図9は、肉盛14を用いる、ジェットポンプディフューザ対バッフルの溶接継手を示す。図10は、貴金属合金バタリングにおける機械加工溶接前処理部16の最終加工構成を示す。図11は、本発明の方法を用いる、ディフューザ端部の溶接前処理部を示す。
【0028】
図12は、既存のジェットポンプ熱スリーブ溶接継手18を示す。図13及び図14は、本発明の方法により製作した2つのジェットポンプ熱スリーブ溶接継手20、22を示す。より具体的には、図12は、再循環入口パイプのエルボへの溶接部(18)と、部分溶込み隅肉溶接バリエーション及び図13の「音叉形」完全溶込み溶接バリエーション(20)の両方での熱スリーブのノズル対セーフエンドへの溶接部における継手細部を示す。技術的に好ましい設計は、貴金属合金化クラッディングでバタリングした溶接前処理部の各側面を有する音叉形幾何学形状である。図14では、そこでセーフエンドがジェットポンプ再循環配管に接合される該セーフエンドの他端部は、貴金属合金クラッディング及び貴金属合金溶加材を備えた状態で示されている。図15は、図13及び図14の拡大図である。
【0029】
図16は、既存のICM案内チューブ対ICMハウジングの溶接継手24を示す。図17は、本発明の方法により製作したICM案内チューブ対ICMハウジングの溶接継手26を示す。より具体的には、図16は、案内チューブに対するICMハウジングの標準(非バタリング)部分溶込み差込溶接溶接継手の細部を示す。図17は、貴金属合金化バタリング溶接継手前処理部(26)を用いる完成した完全溶込み突合せ継手の細部を示す。図18は、図17の拡大図である。
【0030】
図19は、ジェットポンプ昇水管・ブレース容器パッドのための既存の溶接継手28を示す。図20は、本発明により製作した、ジェットポンプ昇水管・ブレース容器パッドのための溶接継手30を示す。より具体的には、図19は、圧力容器のクラッディングに取付けられた標準(非バタリング)両側面完全溶込みジェットポンプ昇水管・ブレース溶接パッド(28)を示す。図20は、貴金属合金バタリング肉盛パッドに溶接され、さらに、継手の一側面又は両側面が貴金属合金バタリングを有する(一側面又は両側面がSCCを受けやすいかどうかで決まる)状態の両側面完全溶込み溶接継手(30)を用いて完成された昇水管・ブレースを示す。上述の利点に加え、開示した方法の低い入熱はさらに、アーク又は他の融接法を用いる従来型のクラッディングに比較して、金属基体内の残留応力の大きさ及び範囲の著しい低下をもたらす。ステンレス鋼クラッディングの場合、NMクラッディング(又は、バタリング)法はまた、これもまた高い処理速度及び対応する低入熱により生じる形成された極度に微細なデルタ・フェライト結晶粒径及び形態のため、SCC耐性に優れたミクロ組織を形成する。他の利点は、熱鋭敏化の可能性の低下、引張残留応力の低下、向上したクラッディング・ミクロ組織の生成及び特有の電気化学的強化表面の生成である。これらの利点により、従来型(より高い入熱)の溶接プロセスを使用して基体を接合し或いはその後該基体を補修する場合であっても、貴金属クラッディングがSCCを発生させなくなるか又は非常に発生し難くするのを保証することが可能になる。
【0031】
既に製作しかつ据付けた構成要素の場合には、貴金属クラッディングを用いて腐食性実動環境から既存の熱鋭敏化又は高応力HAZを隔離することにより、たとえこの方法を現場で施工することが必要であるとしても、事前配置した貴金属クラッディングと同様に長期間にわたってSCC緩和を高めるという利点が得られる。現場施工は、アクセス制限を除去し又は都合の悪い溶接位置に対処するたに二重のツーリングを必要とすることになり、そのため貴金属クラッディング施工の好ましい順序は、新規の建設又は交換のための構築の何れであっても構成要素据行けの前である。
【0032】
溶接部自体、或いは溶接部に隣接した領域又は溶接部から離れた領域に存在するSCCのような欠陥を有する構成要素の場合には、1つ又はそれ以上の貴金属クラッディング層を施工することによって、欠陥を腐食性環境から密封することができる。必要に応じて、存在する欠陥をさらに機械的に掘削し、掘削陥凹部を貴金属クラッディングで充填(補修溶接)することができる。
【0033】
本発明が適用できる用途の例は、
(1)容器内部表面の補修及び構築。
(2)水素水の化学性質を用いる将来の保護のためにECP値を改善する貴金属SCC耐性クラッディングを用いてバッフルプレート上に溶接前処理部を形成するようなジェットポンプディフューザの補修及び構築。
(3)SCCの発生及び潜在的な内部構成要素の交換の必要性を最少にするための、高応力溶接継手又は熱影響部へのSCC耐性貴金属溶接肉盛の施工。
(4)新規原子炉ユニットの現場建設における溶接前処理部へのSCC耐性貴金属合金の施工(Ni−Cr−Fe合金事前バタリング法に類似した)。
(5)貴金属成分を有する特殊な溶接材料を用いないで従来型の溶接法によって、溶接継手が以前に完成されているようなBWRにおける容器内部構造物の交換。高応力現場溶接継手をSCC/IGSCCから保護する潜在能力を高めるために、現在の溶接法を用いて貴金属成分を有する溶接材料を容易に施工することができる。貴金属成分を有する外側溶接金属表面及び熱影響部は、水素水法を適用した状態のプラント操業中にECPを低下させる潜在能力を有する。
(6)欠陥を除去するための研磨による容器クラッディング構成要素の局所的補修は、クラッディング表面に対するいずれかの溶接が予熱及び溶接後熱処理を必要とすることになる状態に達する可能性がある。このことは、容器内部構造物の厚い金属の予熱及び溶接後加熱の場合には非常に不都合なプロセスである。本発明によると、補修法は、例えば機械的プラグ又はホール割れストッパ、及び貴金属成分を有する溶接金属肉盛の施工などを用いて欠陥が成長するのを停止させることが可能である。プラント操業中に使用する水素水の化学的性質によって、補修域のSCC/IGSCCの可能性は、著しく最小化される。
(7)新規建設の場合、現場溶接のための溶接前処理部の設計は、例えば現行の設計におけるNi−Cr−Fe合金溶接バタリングに類似するような、貴金属特性を用いて処理することができる。この方法によって、現場溶接継手のSCC/IGSCCの可能性は、著しく最小化される。
実施例
次に、特定の構造的構成に適用した本方法の実施例を説明する。
(1)溶接継手構成
貴金属溶接材料を用いる溶接肉盛が、現場溶接用の原子炉構成要素の溶接前処理部に施工される。原子炉構成要素は、必要に応じて現場据付けのために応力除去される。現場溶接は、溶接部が実動中に原子炉冷却材に曝される場合には、ルート・パス及び/又は最終カバリング・パスにおいて貴金属成分を有する溶接材料を用いて行われる。消耗インサートは、使用する場合には、溶接材料として貴金属成分を有することができる。これに代えて、貴金属含有溶加材を用いて全溶接厚さを完成させることできる。このことは、適用する場合には、ステンレス鋼又はニッケル合金の両方に適用することができる。
【0034】
このプロセスは、必要に応じて、ステンレス鋼又はNi−Cr−Fe合金鋼の両方に適用することができる。
水素水の化学的性質の使用
水素水の化学的性質は、水素を添加してプラント冷却水に所定の水素含量を生じさせることによってSCCを緩和する効果を向上させるために用いる技術である。貴金属は、SCCが発生することがないほど十分に低いレベルまで酸素(冷却水の中性子分解によって発生する)を減少させるために、過剰酸素の添加水素との再結合の反応速度を加速する化学触媒として用いられる。貴金属は、事前溶着した溶接クラッディング又はSCC感受性溶接継手端縁部へのバタリングとしてのものを含む、種々の形態で添加することができる。
(2)ステンレス鋼又はNi−Cr−Fe合金鋼との間でバタリング又はクラッディングを用いる、容器内部構造物の溶接補修法
欠陥の形状及び位置は、一般的に超音波法を用いて定位される。溶接補修を必要としない場合には、その指摘部は削除される。発生した空洞は、許容可能な表面幾何学形状の状態であるときは、そのままにすることができる。この陥凹部が低合金ベース金属又は耐食性合金に影響を与えまた溶接補修を必要とすることになる場合には、欠陥の両端を覆うようにストップ・ホールを穿孔して該欠陥が成長するのを止めることができる。ホールは、貴金属成分を有する充填ピンで塞さがれる。薄い溶接貴金属クラッディングを施工して、貴金属成分を有する溶接材料で、実動中に欠陥を原子炉冷却材から密封する。
(3)シュラウド交換又は新規の容器内部構造物の建設には、そには限定されないが以下のものが含まれる。
1.ジェットポンプ昇水管エルボの熱スリーブへの溶接部
2.ジェットポンプ昇水管エルボの昇水管パイプへの溶接部
3.ジェットポンプ昇水管ブレース容器パッドの溶接部
4.シュラウドのシュラウドサポートへの溶接部
5.熱スリーブのセーフエンドへの溶接部
6.ディフューザのシュラウドバッフルプレートへの溶接部
7.ICM案内チューブのICHハウジングへの溶接部
8.上部シュラウドと下部シュラウドとの間の現場組立溶接継手
9.ノズルセーフエンドのノズルへの溶接部
10.ジェットポンプ据付けのためのシュラウドバッフルプレート前処理部
(4)他の溶接継手構成
水素水化学的性質は上述のように使用される。
【0035】
貴金属成分又は貴金属溶接クラッディング/バタリングでの溶接前処理
溶接継手に隣接する構成要素の露出面表面を本明細書ではクラッディングと呼ぶ貴金属溶接溶着物で広範囲にわたって被覆するのではなく、面の端縁部及びより少ない部分のみを貴金属溶接溶着物で被覆することが可能である。この代りの方法は、本明細書では「バタリング」と呼ぶ。
容器ノズルのセーフエンドへの溶接部の外側の配管及び構成要素溶接部
容器内部構造物のSCC感受性部分を貴金属クラッディング又はバタリングするのに加えて、冷却材配管及び関連する構成要素の溶接継手及び他の危険領域もまた、同様なSCC緩和の利点を得るために貴金属溶接溶着物で保護することができる。
【0036】
本発明は、十分な水素が存在する場所にある、SCCを受ける任意の構成要素に適用することができる。本発明を適用することができる箇所の例には、
容器内部構造物表面の溶接クラッディング、
新規建設のための交換部品又は構成要素、
ジェットポンプ昇水管ブレースパッド溶接部、
シュラウド対シュラウドサポートの溶接継手、
スタッブチューブ対底部ヘッドの溶接継手、
シュラウドサポート対容器壁の溶接継手、
熱スリーブ対ジェットポンプエルボの溶接継手、
熱スリーブのノズルセーフエンドへの溶接部、
ジェットポンプディフューザ対バッフルプレートの溶接継手、
ICM案内チューブ対ICMハウジングの溶接継手、
ジェットポンプ昇水管ブレース容器パッド溶接継手、
が含まれる。
【0037】
本発明は、幾つかの利点を享受する。第1に、高い温度領域及び対応する熱鋭敏化の可能性が、構造的溶接溶着物及びその熱影響部から貴金属クラッディング又はバタリングに移る。第2に、継手を完成させることから生じる、SCC感受性のベース金属による高い引張残留応力領域が、SCC耐性貴金属クラッディングに移動する。第3に、溶接継手の最終露出表面及びそのHAZのSCC耐性が、貴金属クラッディングの触媒作用による、電気化学腐食電位(ECP)の低下によって向上する。本発明の貴金属クラッディング法は、制御した水素含有水環境の存在下において感受性基体表面のECPの低下を触媒作用で促進し、そのため有効酸素及び過酸化水素と結合して該有効酸素及び過酸化水素の腐食作用を効果的に無力化させるために添加する水素は殆ど必要なくなる。この利点は、構造的溶接継手を完成させる前に、基体溶接領域上に貴金属クラッディングを事前配置した場合に最も良好に達成される。溶接継手が既に完成している場合には、古い溶接継手の古い溶接継手溶加材及び/又はHAZを緩和又は補修することによって、依然として大きな利点を達成することができる。これらの利点には、例えば、より低いSCC耐性の現存の溶接金属及びその熱影響部(HAZ)の高応力又は鋭敏化表面を腐食性水環境から隔離すること、欠陥除去によって薄くなった区域を高いSCC耐性を有する貴金属合金溶接溶着物で構造的に強化すること、及び現存の従来型の耐食性クラッディング(CRC)に高いSCC耐性を有する貴金属合金化溶接クラッディングを付加するか或いは現存の従来型の耐食性クラッディング(CRC)を高いSCC耐性を有する貴金属合金化溶接クラッディングと交換ことが含まれる。
【0038】
新規の溶接構造及び既存の構造の両方における貴金属クラッディングの利点により、SCC(固有に局所溶接鋭敏化、引張応力等に起因する)に対して最大のマージンを必要とする局所領域に公知の最良の緩和を与える点で、貴金属法の有効性及び効果が著しく大きくなる。構成要素の貴金属溶射被覆又は水環境への貴金属化学剤の添加などによる、より大きな表面領域又は全表面領域の事前又は事後緩和は、局所的貴金属クラッディングの後に施工した場合にさらに有利である。
【0039】
本発明の貴金属クラッディング及び水素水法では、電気化学電位(ECP)を低下させて、IGSCCを停止又は最小化させることができる。
【0040】
本発明を現在最も実用的かつ好ましい実施形態であると考えられるものに関して説明してきたが、本発明は開示した実施形態に限定されるものではなく、反対に、特許請求の範囲の技術思想及び技術的範囲内に含まれる種々の変更及び均等な構成を保護しようとするものであることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】チューブ又はプレート溶接継手のためのサンプル溶接前処理部を示す図。
【図2】チューブ又はプレート溶接継手のためのサンプル溶接前処理部を示す図。
【図3】チューブ溶接継手のためのサンプル溶接前処理部を示す図。
【図4】既存のシュラウド対シュラウドサポートの溶接継手を示す図。
【図5】本発明の方法を用いて製作した溶接継手を示す図。
【図6】既存のジェットポンプディフューザ対バッフルプレートの溶接継手を示す図。
【図7】本発明の方法を用いて製作した溶接継手を示す図。
【図8】本発明の方法を用いて製作した溶接継手を示す図。
【図9】ジェットポンプディフューザ対バッフルプレートの溶接継手への適用を示す図。
【図10】ジェットポンプディフューザ対バッフルプレートの溶接継手への適用を示す図。
【図11】ジェットポンプディフューザ対バッフルプレートの溶接継手への適用を示す図。
【図12】既存のジェットポンプ熱スリーブのための溶接継手を示す図。
【図13】本発明によるジェットポンプ熱スリーブ溶接部への適用を示す図。
【図14】本発明によるジェットポンプ熱スリーブ溶接部への適用を示す図。
【図15】図14の拡大図。
【図16】既存のICMガイドチューブ対ICMハウジングのための溶接継手を示す図。
【図17】本発明によるICMガイドチューブ対ICMハウジングへの適用を示す図。
【図18】図17の拡大図。
【図19】既存のジェットポンプ昇水管・ブレース容器パッド用溶接継手を示す図。
【図20】本発明によるジェットポンプ昇水管・ブレース容器パッドへの適用を示す図。
【符号の説明】
【0042】
2 構成要素
4 貴金属溶接クラッディング
6、10、18、24、28 既存の溶接継手
8、12、14、16、20、22、26、30 本発明による溶接継手
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力腐食割れに対する向上した耐性を有する継手(接合部)を溶接することに関する。具体的には、本発明は、SCC耐性貴金属含有バタリング又は貴金属クラッディングを用いて、溶接継手に隣接する熱影響部内又は冷間加工域内において応力腐食割れを受けやすい原子炉の鋼製の内部構成要素及び内部表面上に継手を溶接することに関する。さらに、本発明は、既存のSCC感受性溶接溶着物及び/又は熱影響部を覆って貴金属クラッディングを施工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉は、核分裂時に熱を発生する核分裂性燃料の炉心を格納する。熱は、原子炉圧力容器内に収容した原子炉冷却材すなわち水によって燃料炉心から除去される。配管回路は、加熱水又は蒸気を蒸気発生器又はタービンに導き、循環水又は給水を容器に戻す。原子炉圧力容器の作動圧力及び温度は、沸騰水型原子炉(BWR)の場合には約7MPa及び288℃、また加圧水型原子炉(PWR)の場合には約15MPa及び320℃である。BWR及びPWRの両方に使用する材料は、様々な負荷、環境及び照射条件に耐えなければならない。本明細書で使用する場合、「高温水」という用語は、約150℃又はそれ以上の温度を有する水、蒸気或いはその復水を意味する。
【0003】
高温水に曝される材料は、例えば炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、並びにニッケル基、コバルト基及びジルコニウム基合金を含む。軽水炉で用いるこれらの材料の慎重な選択及び処理にも拘らず、高温水に曝される材料には腐食が発生する。そのような腐食は、例えば応力腐食割れ(SSC)、隙間腐食、浸食腐食、圧力逃し弁のこう着及びγ線放射Co60アイソトープの蓄積のような種々の問題の一因となる。
【0004】
応力腐食割れ(SCC)は、数十年にわたり沸騰水型原子炉(BWR)発電プラントの操業稼働率に影響を与える問題となっている。この問題は、実動中に鋭敏化又は冷間加工基材、引張応力及び高温含酸素水の組合せが存在するときに発生する。鋭敏化の1つの普通の形態は、溶接ビードの冷却シーケンスがミクロ組織結晶粒界に炭化クロムを析出させるのに十分なほど遅い場合の溶接の熱サイクルによって、引き起こされる。この炭化物の析出は、隣接するクロムの結晶粒界領域をそれらがもはや耐食性でなくなる程度まで減損させる。そのため、化学腐食性水環境及び十分に高い表面引張応力が存在するときに、他の耐食性材料内のこれら粒界にSCCが発生する可能性がある。強度に冷間加工した材料表面もまた、引張応力及び化学腐食性水環境が存在するときに、SSCを受けやすい。
【0005】
古い原子炉プラントの多くは、気付かずに高炭素ステンレス鋼で建設され、この高炭素ステンレス鋼は製作熱処理又は溶接接合プロセスの間に熱鋭敏化していた。加えて、溶接実施工程は一般的に高い入熱を用いており、この高入熱は、引張残留応力及び対応するSCC破損をもたらすのに十分なほどであった。これらの高い溶接入熱は、耐食性合金化元素(クロムのような)をそれらの有効レベル以下に希釈することによって問題をさらに悪化させた。さらに、溶接溶加材は、十分なSCC耐性を与える合金化元素を形成するデルタ・フェライト・ミクロ組織が必ずしも多くなかった。他の構成要素は、製作時に(最終溶体化アニーリングの後に)高度に機械加工又は変形されており、SCCをさらに受けやすい表面冷間加工状態を生じていた。溶接は、冷間加工を行う前又は後のいずれかで実行され、隣接領域を引張残留応力の状態のままにしていた。
【0006】
これらの構成要素の補修又は交換は一般的に、大きな交換を行うためには長期の休止のために操業プラントを停止しなければならないという事実のために、またプラント構成要素の内部表面の高レベルの放射性汚染物質(又はボリューム内部の放射能)のために非常に費用がかかる。
【0007】
鋭敏化領域上に溶着させる耐食性溶接クラッディングを開発するこれまでの成果は、一般的に呼び径約4インチ又はそれ以上の流体プロセス配管の内部に使用するために設計したものであった。これらの寸法の場合には、通常のレベルの入熱を用いて施工した多重の厚い層は、それらの全体の層厚さに限界値がなかったので、基材による溶着物クロム含量の希釈を補償することが可能であった。
【0008】
SSCの問題に対する多くの解決法が長年にわたって提案されてきており、それらには、構成要素材料の交換、残留応力の低減、機械加工及び成形実施工程の改善並びに水の化学的性質の制御(又はこれらの提案の組合せ)が含まれる。別の方法は、既に鋭敏化した領域を覆って、腐食性水環境から該領域を有効に隔離するように、クラッディングをアーク溶接することである。しかしながら、高い感受性基体の場合には、現行の溶接方法は新たなクラッディング領域の端縁部を鋭敏化する可能性があり、また現行のクラッディング材料は不十分なSSC耐性を有する可能性があるので、この現行の方法には普遍的な適用性がない。この正味効果は古いSSC問題部を被覆することであり、このことは、類似の新しい問題部のリスクを近くに発生させるのみである。従来型のクラッディング法の一般的に高い入熱のため、新たなクラッディング領域の端縁部がまた高い表面引張応力の不利な状態になる可能性がある。加えて、これらの従来型の方法は、クラッディングした構成要素の歪みをもたらし、それによって接合する構成要素の取付け及び/又は機能に悪影響を与える可能性がある。
【0009】
さらに別の方法は、SSC感受性領域を覆って施工される事前塗布した耐食性ペーストのレーザ融合である。しかしながら、このプロセスは、単調で高度に手間がかかり、特に容器内構成要素に遠隔的に施工する場合に非常に費用がかかる。
【0010】
別の公知の方法は、耐食性材料で作製した事前配置スリーブのガスタングステンアーク(GTA)融合である。しかしながら、この方法は、それに対して十分緊密に嵌合するようにスリーブを容易に予備成形することができる幾何学的に規則的な表面形状(円筒形のような)を有する施工部に限定されると考えられる。
【0011】
クラッディングする必要がある鋭敏化領域の多くは、規則的又は平滑な表面を有することが殆どない接合溶接部の熱影響部である。炉内鋭敏化、照射鋭敏化又は冷間加工材料のような他の不都合な材料状態もまた、SCCを防止するための耐食性クラッディングを必要とする。
【0012】
ある種のオーステナイト系ミクロ組織ステンレス鋼又はニッケル合金の融接溶着物又はそれらの隣接HAZは、プラント操業中に沸騰水型原子炉(BWR)に存在するような高温の酸素含有水環境に曝されたとき、応力腐食割れ破壊を受けやすいことが知られている。(本明細書で用いる文脈において、「融接」という用語は、溶加材を使用する場合、溶加材のベース金属の幾らかの部分が溶融するような任意の溶接部又は溶接プロセスを意味する)。SCCを防止又は補修する現行の方法は、従来の溶接継手自体が破損するのを防止するための市販溶接合金を選択すること、従来の溶接継手の最終層を市販グレードのSCC耐性合金で被覆すること、従来の溶接継手自体で発生したHAZを市販グレード合金で溶接クラッディングすること、及び市販グレード合金、クラッディング或いは割れ又は他の欠陥を除去した非溶接基体を含む溶接継手の一部分を再溶接することを含む。これらの方法の全て及びその変形方法は、実動中に腐食性水環境に曝される状態になる接合部の端縁部に(又は拡張した溶接被覆/クラッディングの端縁部に)置き換わった熱影響部を残したままであり、従ってSCCを受けやすい、置き換わったHAZを依然として残している。加えて、新たに溶着した溶接材料自体が、長期間の実動中に、特に高電気化学電位(ECP)又は高中性子束の領域においてまた特に市販合金が基材組成物によってより希釈された溶接端縁部ビードにおいて割れを防止するのに十分なSCC耐性を有していない可能性がある。SCC及び他の欠陥は、プラント寿命の間に容器内部構成要素表面又は配管に見られる場合が多い。そのような欠陥は、影響を受けた構成要素を補修又は交換しない状態での継続プラント操業の場合に、許容不能な状態にまで成長する可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
容器内部構造物の交換、容器内部構造物の補修作業、配管の補修及び交換作業並びに新規の建設又は構成要素交換計画の現場溶接継手設計においてSCCを積極的に防止する方法に対する必要性が存在する。問題領域を一時的にのみ置き換えるのではなく、或いは問題の大きさを不十分に低下させるのではなく、或いは問題領域を過度に厚い又は損傷を生じるほど高温になる多重層を用いて施工しなければならない材料で被覆することにならないような方法が要求されている。本発明は、その要求を満たすことを追求するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、沸騰水型原子炉内の溶接継手の応力腐食割れ(SCC)の問題に対する解決法を提供し、この割れが、溶接溶加材の希釈、製作時の熱鋭敏化、製作時の冷間加工、高引張残留応力、実動中の中性子照射又はそれらの組合せの何れに起因するかには関係ない。
【0015】
1つの態様によると、金属を互い接合する方法を提供し、本方法では、継手の溶接に先立って、SCC感受性溶接継手端縁部及びその近くの表面上にSCC耐性貴金属含有バタリングが配置される。
【0016】
別の態様によると、金属を互いに接合する方法を提供し、本方法では、継手の溶接に先立って、溶接継手端縁部及びその近くの表面に又は該溶接継手端縁部及びその近くの表面に隣接してSCC耐性貴金属クラッディングが配置される。
【0017】
さらに別の態様によると、本発明の方法によって溶接した金属構成要素を提供する。
【0018】
次に、添付図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
1つの実施形態では、本発明の方法は、ニッケル基合金82、合金52、合金52M、ステンレス308L、ステンレス309L又は316Lのようなニッケル基合金又は鉄基ステンレス鋼と、酸素の水素との再結合速度を高めるための触媒として作用する低濃度の貴金属元素(例えば、パラジウム、白金、ロジウム又はそれらの組合せ)とを含む溶加材を用いる。溶加材中の貴金属の濃度は一般的に、ベース金属による希釈の後に、約1重量%又はそれ以下、より普通には約0.25〜0.75重量%の範囲内にある。酸素と過酸化水素の水素との再結合は、実効電気化学電位を低下させて、SCCに対する感受性を低下又は除去する。溶加材は、溶接前処理部端縁部貴金属バタリング又は表面クラッディングとしてSCC感受性基材(又は、以前に溶着したSCC感受性溶加材もしくはバタリング材の残存物)に施工される。この方法は、溶接継手のベース金属及び溶加材金属が、そうでなければSCCに対する感受性をもたらすことになる不利な製作及び溶接実施工程に対して、より著しく耐えるようになることを保証する。
【0020】
好ましい実施形態では、開示した方法の低いクラッディング入熱は、約10インチ/分を越え、例えば15〜45インチ/分、より通常的には15〜30インチ/分である移動速度(トーチ速度)によってある程度もたらされ、そのため溶接冷却の間に鋭敏化温度範囲にある時間は、クロム含量が減損する程度にまで結晶粒界上に炭化物が析出するのには不十分である。この低い入熱はまた、基材による溶加材の希釈を著しく低下させ、1つの薄い溶接層でさえ、溶加材への貴金属添加が少量になること(及び、実動中に溶接層が曝される水の中の過剰水素に耐えること)の利点と共に、SCCに対する十分な耐性を有する溶着組成物を形成するのに十分である。
【0021】
鋭敏化制御のこの新規な方法は、入熱の制御及び最小化の従来の方法とは対照的であり、従来の方法では、処理の加熱速度(また、従って冷却速度)及び材料の時定数は個別には考慮されず、積分入熱量のみが考慮されている。本発明は、溶接パラメータの二重の制御、すなわち(1)入熱(ビードの単位長さ当りの入熱の関数として制御される)及び(2)HAZ冷却速度(前進方向における溶接の線速度の関数として制御される)を用いる。ビード交差方向のアーク振動は、必要な低入熱及び高移動速度の両方を維持することに関して逆効果を生じるので、避けるのが好ましい。従って、本方法は、熱鋭敏化に対する非常に低い耐性を有する材料の場合であっても大きな鋭敏化のリスクなしで電気アーク及び他の融合ベースのクラッディング法を材料上に施工するのを可能にする。
【0022】
従来型のクラッディング法では、入熱はアーク電流にアーク電圧を乗じた積をアーク移動速度で除して簡単に計算される。しかしながら、加熱速度及び冷却速度は、トーチ移動速度及び材料の熱的性質によって、固有に互いに関連する。従って、十分に大きい移動速度では、特定の材料に発生する熱鋭敏化(炭化クロム析出)についての臨界冷却速度に関連する所定の臨界移動速度を選択することによって、冷却速度を制御することができる。選択したオーステナイト材料の臨界冷却速度は、主として、その結晶粒径、炭素含量、クロム含量、デルタ・フェライト含量、熱拡散率及び断面厚さによって決まる。オーステナイト系ミクロ組織合金でのプロセスにおける好ましい入熱は、約3.8kJ/インチ(1.5キロジュール/cm)未満、より通常的には約1.2〜2.5kJ/インチ(0.5〜1.0キロジュール/cm)であることが判った。従って、対応する好ましいトーチ最低速度は、およそ20インチ/分(50cm/分)よりも大きく、典型的には25〜35インチ/分(60〜90cm/分)である。
【0023】
図1及び図2を参照すると、溶接する継手の端縁部上に「バタリングした」SCC貴金属溶接クラッディング4を有する構成要素2を示している。図3には、ベベルを機械加工する段階、貴金属合金を施工する段階及びさらにトリミングしかつ機械加工する段階を含む段階的方法を示している。
【0024】
貴金属溶接クラッディングは、継手内部に含まれる部分及びこの領域の隣接端縁部を含む、接合する表面上に施工される。バタリングは、その施工中にSCC感受性基体の熱鋭敏化を防止するのに十分なほど低い入熱で施工される。継手端縁部を越えた隣接領域もまた、その後バタリング材料の下にある元の材料を熱鋭敏化させずに十分に高い入熱(バタリング層の入熱に比較して)で接合溶接を行うことができ、かつかつ非バタリング領域上により高い熱溶接部が不注意に溶着するリスクがない状態で接合溶接部の周囲位置を変えることができるように、バタリングされる。
【0025】
図4は、既存のシュラウド対シュラウドサポートの溶接継手6を示す。図5は、SCC貴金属含有クラッディングを用いる、本発明により製作した継手8を示す。図4には、接合する感受性材料表面上にバタリングを使用せずに容器シュラウドをシュラウドサポートに接合する従来型の方法を示している。図5は、接合する各表面上に事前配置した低入熱貴金属合金クラッディングを使用する、これらの構成要素間の改良した継手設計を示す。
【0026】
図6は、既存の溶接継手、ジェットポンプディフューザ及びその支持バッフルプレートの別の形態10を示す。図7及び図8は、容器シュラウドのシュラウドサポートへの溶接部について示したのと同様の「バタリング」方式で施工した貴金属合金クラッディングを用いて接合された同じ構成要素を示す。
【0027】
図9は、肉盛14を用いる、ジェットポンプディフューザ対バッフルの溶接継手を示す。図10は、貴金属合金バタリングにおける機械加工溶接前処理部16の最終加工構成を示す。図11は、本発明の方法を用いる、ディフューザ端部の溶接前処理部を示す。
【0028】
図12は、既存のジェットポンプ熱スリーブ溶接継手18を示す。図13及び図14は、本発明の方法により製作した2つのジェットポンプ熱スリーブ溶接継手20、22を示す。より具体的には、図12は、再循環入口パイプのエルボへの溶接部(18)と、部分溶込み隅肉溶接バリエーション及び図13の「音叉形」完全溶込み溶接バリエーション(20)の両方での熱スリーブのノズル対セーフエンドへの溶接部における継手細部を示す。技術的に好ましい設計は、貴金属合金化クラッディングでバタリングした溶接前処理部の各側面を有する音叉形幾何学形状である。図14では、そこでセーフエンドがジェットポンプ再循環配管に接合される該セーフエンドの他端部は、貴金属合金クラッディング及び貴金属合金溶加材を備えた状態で示されている。図15は、図13及び図14の拡大図である。
【0029】
図16は、既存のICM案内チューブ対ICMハウジングの溶接継手24を示す。図17は、本発明の方法により製作したICM案内チューブ対ICMハウジングの溶接継手26を示す。より具体的には、図16は、案内チューブに対するICMハウジングの標準(非バタリング)部分溶込み差込溶接溶接継手の細部を示す。図17は、貴金属合金化バタリング溶接継手前処理部(26)を用いる完成した完全溶込み突合せ継手の細部を示す。図18は、図17の拡大図である。
【0030】
図19は、ジェットポンプ昇水管・ブレース容器パッドのための既存の溶接継手28を示す。図20は、本発明により製作した、ジェットポンプ昇水管・ブレース容器パッドのための溶接継手30を示す。より具体的には、図19は、圧力容器のクラッディングに取付けられた標準(非バタリング)両側面完全溶込みジェットポンプ昇水管・ブレース溶接パッド(28)を示す。図20は、貴金属合金バタリング肉盛パッドに溶接され、さらに、継手の一側面又は両側面が貴金属合金バタリングを有する(一側面又は両側面がSCCを受けやすいかどうかで決まる)状態の両側面完全溶込み溶接継手(30)を用いて完成された昇水管・ブレースを示す。上述の利点に加え、開示した方法の低い入熱はさらに、アーク又は他の融接法を用いる従来型のクラッディングに比較して、金属基体内の残留応力の大きさ及び範囲の著しい低下をもたらす。ステンレス鋼クラッディングの場合、NMクラッディング(又は、バタリング)法はまた、これもまた高い処理速度及び対応する低入熱により生じる形成された極度に微細なデルタ・フェライト結晶粒径及び形態のため、SCC耐性に優れたミクロ組織を形成する。他の利点は、熱鋭敏化の可能性の低下、引張残留応力の低下、向上したクラッディング・ミクロ組織の生成及び特有の電気化学的強化表面の生成である。これらの利点により、従来型(より高い入熱)の溶接プロセスを使用して基体を接合し或いはその後該基体を補修する場合であっても、貴金属クラッディングがSCCを発生させなくなるか又は非常に発生し難くするのを保証することが可能になる。
【0031】
既に製作しかつ据付けた構成要素の場合には、貴金属クラッディングを用いて腐食性実動環境から既存の熱鋭敏化又は高応力HAZを隔離することにより、たとえこの方法を現場で施工することが必要であるとしても、事前配置した貴金属クラッディングと同様に長期間にわたってSCC緩和を高めるという利点が得られる。現場施工は、アクセス制限を除去し又は都合の悪い溶接位置に対処するたに二重のツーリングを必要とすることになり、そのため貴金属クラッディング施工の好ましい順序は、新規の建設又は交換のための構築の何れであっても構成要素据行けの前である。
【0032】
溶接部自体、或いは溶接部に隣接した領域又は溶接部から離れた領域に存在するSCCのような欠陥を有する構成要素の場合には、1つ又はそれ以上の貴金属クラッディング層を施工することによって、欠陥を腐食性環境から密封することができる。必要に応じて、存在する欠陥をさらに機械的に掘削し、掘削陥凹部を貴金属クラッディングで充填(補修溶接)することができる。
【0033】
本発明が適用できる用途の例は、
(1)容器内部表面の補修及び構築。
(2)水素水の化学性質を用いる将来の保護のためにECP値を改善する貴金属SCC耐性クラッディングを用いてバッフルプレート上に溶接前処理部を形成するようなジェットポンプディフューザの補修及び構築。
(3)SCCの発生及び潜在的な内部構成要素の交換の必要性を最少にするための、高応力溶接継手又は熱影響部へのSCC耐性貴金属溶接肉盛の施工。
(4)新規原子炉ユニットの現場建設における溶接前処理部へのSCC耐性貴金属合金の施工(Ni−Cr−Fe合金事前バタリング法に類似した)。
(5)貴金属成分を有する特殊な溶接材料を用いないで従来型の溶接法によって、溶接継手が以前に完成されているようなBWRにおける容器内部構造物の交換。高応力現場溶接継手をSCC/IGSCCから保護する潜在能力を高めるために、現在の溶接法を用いて貴金属成分を有する溶接材料を容易に施工することができる。貴金属成分を有する外側溶接金属表面及び熱影響部は、水素水法を適用した状態のプラント操業中にECPを低下させる潜在能力を有する。
(6)欠陥を除去するための研磨による容器クラッディング構成要素の局所的補修は、クラッディング表面に対するいずれかの溶接が予熱及び溶接後熱処理を必要とすることになる状態に達する可能性がある。このことは、容器内部構造物の厚い金属の予熱及び溶接後加熱の場合には非常に不都合なプロセスである。本発明によると、補修法は、例えば機械的プラグ又はホール割れストッパ、及び貴金属成分を有する溶接金属肉盛の施工などを用いて欠陥が成長するのを停止させることが可能である。プラント操業中に使用する水素水の化学的性質によって、補修域のSCC/IGSCCの可能性は、著しく最小化される。
(7)新規建設の場合、現場溶接のための溶接前処理部の設計は、例えば現行の設計におけるNi−Cr−Fe合金溶接バタリングに類似するような、貴金属特性を用いて処理することができる。この方法によって、現場溶接継手のSCC/IGSCCの可能性は、著しく最小化される。
実施例
次に、特定の構造的構成に適用した本方法の実施例を説明する。
(1)溶接継手構成
貴金属溶接材料を用いる溶接肉盛が、現場溶接用の原子炉構成要素の溶接前処理部に施工される。原子炉構成要素は、必要に応じて現場据付けのために応力除去される。現場溶接は、溶接部が実動中に原子炉冷却材に曝される場合には、ルート・パス及び/又は最終カバリング・パスにおいて貴金属成分を有する溶接材料を用いて行われる。消耗インサートは、使用する場合には、溶接材料として貴金属成分を有することができる。これに代えて、貴金属含有溶加材を用いて全溶接厚さを完成させることできる。このことは、適用する場合には、ステンレス鋼又はニッケル合金の両方に適用することができる。
【0034】
このプロセスは、必要に応じて、ステンレス鋼又はNi−Cr−Fe合金鋼の両方に適用することができる。
水素水の化学的性質の使用
水素水の化学的性質は、水素を添加してプラント冷却水に所定の水素含量を生じさせることによってSCCを緩和する効果を向上させるために用いる技術である。貴金属は、SCCが発生することがないほど十分に低いレベルまで酸素(冷却水の中性子分解によって発生する)を減少させるために、過剰酸素の添加水素との再結合の反応速度を加速する化学触媒として用いられる。貴金属は、事前溶着した溶接クラッディング又はSCC感受性溶接継手端縁部へのバタリングとしてのものを含む、種々の形態で添加することができる。
(2)ステンレス鋼又はNi−Cr−Fe合金鋼との間でバタリング又はクラッディングを用いる、容器内部構造物の溶接補修法
欠陥の形状及び位置は、一般的に超音波法を用いて定位される。溶接補修を必要としない場合には、その指摘部は削除される。発生した空洞は、許容可能な表面幾何学形状の状態であるときは、そのままにすることができる。この陥凹部が低合金ベース金属又は耐食性合金に影響を与えまた溶接補修を必要とすることになる場合には、欠陥の両端を覆うようにストップ・ホールを穿孔して該欠陥が成長するのを止めることができる。ホールは、貴金属成分を有する充填ピンで塞さがれる。薄い溶接貴金属クラッディングを施工して、貴金属成分を有する溶接材料で、実動中に欠陥を原子炉冷却材から密封する。
(3)シュラウド交換又は新規の容器内部構造物の建設には、そには限定されないが以下のものが含まれる。
1.ジェットポンプ昇水管エルボの熱スリーブへの溶接部
2.ジェットポンプ昇水管エルボの昇水管パイプへの溶接部
3.ジェットポンプ昇水管ブレース容器パッドの溶接部
4.シュラウドのシュラウドサポートへの溶接部
5.熱スリーブのセーフエンドへの溶接部
6.ディフューザのシュラウドバッフルプレートへの溶接部
7.ICM案内チューブのICHハウジングへの溶接部
8.上部シュラウドと下部シュラウドとの間の現場組立溶接継手
9.ノズルセーフエンドのノズルへの溶接部
10.ジェットポンプ据付けのためのシュラウドバッフルプレート前処理部
(4)他の溶接継手構成
水素水化学的性質は上述のように使用される。
【0035】
貴金属成分又は貴金属溶接クラッディング/バタリングでの溶接前処理
溶接継手に隣接する構成要素の露出面表面を本明細書ではクラッディングと呼ぶ貴金属溶接溶着物で広範囲にわたって被覆するのではなく、面の端縁部及びより少ない部分のみを貴金属溶接溶着物で被覆することが可能である。この代りの方法は、本明細書では「バタリング」と呼ぶ。
容器ノズルのセーフエンドへの溶接部の外側の配管及び構成要素溶接部
容器内部構造物のSCC感受性部分を貴金属クラッディング又はバタリングするのに加えて、冷却材配管及び関連する構成要素の溶接継手及び他の危険領域もまた、同様なSCC緩和の利点を得るために貴金属溶接溶着物で保護することができる。
【0036】
本発明は、十分な水素が存在する場所にある、SCCを受ける任意の構成要素に適用することができる。本発明を適用することができる箇所の例には、
容器内部構造物表面の溶接クラッディング、
新規建設のための交換部品又は構成要素、
ジェットポンプ昇水管ブレースパッド溶接部、
シュラウド対シュラウドサポートの溶接継手、
スタッブチューブ対底部ヘッドの溶接継手、
シュラウドサポート対容器壁の溶接継手、
熱スリーブ対ジェットポンプエルボの溶接継手、
熱スリーブのノズルセーフエンドへの溶接部、
ジェットポンプディフューザ対バッフルプレートの溶接継手、
ICM案内チューブ対ICMハウジングの溶接継手、
ジェットポンプ昇水管ブレース容器パッド溶接継手、
が含まれる。
【0037】
本発明は、幾つかの利点を享受する。第1に、高い温度領域及び対応する熱鋭敏化の可能性が、構造的溶接溶着物及びその熱影響部から貴金属クラッディング又はバタリングに移る。第2に、継手を完成させることから生じる、SCC感受性のベース金属による高い引張残留応力領域が、SCC耐性貴金属クラッディングに移動する。第3に、溶接継手の最終露出表面及びそのHAZのSCC耐性が、貴金属クラッディングの触媒作用による、電気化学腐食電位(ECP)の低下によって向上する。本発明の貴金属クラッディング法は、制御した水素含有水環境の存在下において感受性基体表面のECPの低下を触媒作用で促進し、そのため有効酸素及び過酸化水素と結合して該有効酸素及び過酸化水素の腐食作用を効果的に無力化させるために添加する水素は殆ど必要なくなる。この利点は、構造的溶接継手を完成させる前に、基体溶接領域上に貴金属クラッディングを事前配置した場合に最も良好に達成される。溶接継手が既に完成している場合には、古い溶接継手の古い溶接継手溶加材及び/又はHAZを緩和又は補修することによって、依然として大きな利点を達成することができる。これらの利点には、例えば、より低いSCC耐性の現存の溶接金属及びその熱影響部(HAZ)の高応力又は鋭敏化表面を腐食性水環境から隔離すること、欠陥除去によって薄くなった区域を高いSCC耐性を有する貴金属合金溶接溶着物で構造的に強化すること、及び現存の従来型の耐食性クラッディング(CRC)に高いSCC耐性を有する貴金属合金化溶接クラッディングを付加するか或いは現存の従来型の耐食性クラッディング(CRC)を高いSCC耐性を有する貴金属合金化溶接クラッディングと交換ことが含まれる。
【0038】
新規の溶接構造及び既存の構造の両方における貴金属クラッディングの利点により、SCC(固有に局所溶接鋭敏化、引張応力等に起因する)に対して最大のマージンを必要とする局所領域に公知の最良の緩和を与える点で、貴金属法の有効性及び効果が著しく大きくなる。構成要素の貴金属溶射被覆又は水環境への貴金属化学剤の添加などによる、より大きな表面領域又は全表面領域の事前又は事後緩和は、局所的貴金属クラッディングの後に施工した場合にさらに有利である。
【0039】
本発明の貴金属クラッディング及び水素水法では、電気化学電位(ECP)を低下させて、IGSCCを停止又は最小化させることができる。
【0040】
本発明を現在最も実用的かつ好ましい実施形態であると考えられるものに関して説明してきたが、本発明は開示した実施形態に限定されるものではなく、反対に、特許請求の範囲の技術思想及び技術的範囲内に含まれる種々の変更及び均等な構成を保護しようとするものであることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】チューブ又はプレート溶接継手のためのサンプル溶接前処理部を示す図。
【図2】チューブ又はプレート溶接継手のためのサンプル溶接前処理部を示す図。
【図3】チューブ溶接継手のためのサンプル溶接前処理部を示す図。
【図4】既存のシュラウド対シュラウドサポートの溶接継手を示す図。
【図5】本発明の方法を用いて製作した溶接継手を示す図。
【図6】既存のジェットポンプディフューザ対バッフルプレートの溶接継手を示す図。
【図7】本発明の方法を用いて製作した溶接継手を示す図。
【図8】本発明の方法を用いて製作した溶接継手を示す図。
【図9】ジェットポンプディフューザ対バッフルプレートの溶接継手への適用を示す図。
【図10】ジェットポンプディフューザ対バッフルプレートの溶接継手への適用を示す図。
【図11】ジェットポンプディフューザ対バッフルプレートの溶接継手への適用を示す図。
【図12】既存のジェットポンプ熱スリーブのための溶接継手を示す図。
【図13】本発明によるジェットポンプ熱スリーブ溶接部への適用を示す図。
【図14】本発明によるジェットポンプ熱スリーブ溶接部への適用を示す図。
【図15】図14の拡大図。
【図16】既存のICMガイドチューブ対ICMハウジングのための溶接継手を示す図。
【図17】本発明によるICMガイドチューブ対ICMハウジングへの適用を示す図。
【図18】図17の拡大図。
【図19】既存のジェットポンプ昇水管・ブレース容器パッド用溶接継手を示す図。
【図20】本発明によるジェットポンプ昇水管・ブレース容器パッドへの適用を示す図。
【符号の説明】
【0042】
2 構成要素
4 貴金属溶接クラッディング
6、10、18、24、28 既存の溶接継手
8、12、14、16、20、22、26、30 本発明による溶接継手
【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力腐食割れを受けやすい領域において第1の金属を第2の金属の表面に接合する方法であって、前記第1の金属を前記第2の金属の表面に溶接するのに先立って前記領域における又は該領域に隣接する前記第1の金属にSCC耐性貴金属クラッディング(4)を施工する段階を含む方法。
【請求項2】
前記第1及び第2の金属が原子炉の内部に設けられる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記溶接が溶加材を用いて行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記溶加材が貴金属を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記貴金属が、パラジウム、白金、ロジウム及びその組合せからなる群から選ばれる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記貴金属が、およそ1重量%又はそれ以下の量で前記溶加材内に存在する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記貴金属が、約0.25〜0.75重量%の量で前記溶加材内に存在する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記溶接が、主としてオーステナイト系ステンレス鋼内にデルタ・フェライトの微細ミクロ組織を形成するのに十分な短時間で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
応力腐食割れを受けやすい領域において第1の金属を第2の金属の表面に接合する方法であって、前記金属を互いに溶接するのに先立って前記金属に貴金属含有表面クラッディングを施工する段階を含む方法。
【請求項10】
応力腐食割れを受けやすい領域において第1の金属を第2の金属の表面に接合する方法であって、前記金属を互いに溶接するのに先立って前記金属に貴金属含有端縁部バタリングを施工する段階を含む方法。
【請求項1】
応力腐食割れを受けやすい領域において第1の金属を第2の金属の表面に接合する方法であって、前記第1の金属を前記第2の金属の表面に溶接するのに先立って前記領域における又は該領域に隣接する前記第1の金属にSCC耐性貴金属クラッディング(4)を施工する段階を含む方法。
【請求項2】
前記第1及び第2の金属が原子炉の内部に設けられる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記溶接が溶加材を用いて行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記溶加材が貴金属を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記貴金属が、パラジウム、白金、ロジウム及びその組合せからなる群から選ばれる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記貴金属が、およそ1重量%又はそれ以下の量で前記溶加材内に存在する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記貴金属が、約0.25〜0.75重量%の量で前記溶加材内に存在する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記溶接が、主としてオーステナイト系ステンレス鋼内にデルタ・フェライトの微細ミクロ組織を形成するのに十分な短時間で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
応力腐食割れを受けやすい領域において第1の金属を第2の金属の表面に接合する方法であって、前記金属を互いに溶接するのに先立って前記金属に貴金属含有表面クラッディングを施工する段階を含む方法。
【請求項10】
応力腐食割れを受けやすい領域において第1の金属を第2の金属の表面に接合する方法であって、前記金属を互いに溶接するのに先立って前記金属に貴金属含有端縁部バタリングを施工する段階を含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2006−88226(P2006−88226A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273094(P2005−273094)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]