説明

質量分析のための新しい線形イオントラップ

イオントラップのイオンを操作するための方法は、イオンを蓄積するステップと、空間的に圧縮するステップと、質量電荷比に従って選択されたイオンを放出するステップとを有する。イオントラップは、導入口と、イオンを閉じ込めて、空間的に圧縮するための第1端部および第2端部を有するアームと、イオンを第2端部から放出するための放出口とを有する。アームは、2対の対向電極を有し、イオントラップのどの断面でも四重極電場ポテンシャルを形成する。対向電極と電極の断面の間の距離は、第1端部から第2端部にかけて広がっている。電極は、テーパ状の円筒形のロッド、または、双曲線の断面であってもよい。放出するために選択されたイオンは、第2の(より広い)端部の領域のなかで空間的に圧縮される。イオントラップは、直交放出または軸放出を有する1つアーム、または、直交放出のための中央インサートを有する2本のアームを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に至った研究は、少なくとも一部が、アメリカ国立衛生研究所の助成金番号RR00862による支援を受けた。したがって、米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、質量分析のためのイオントラップに関し、より詳細には、高感度、高速、高効率の質量分析を提供する、イオンを効率的に蓄積するための線形イオントラップ装置に関する。
【背景技術】
【0003】
イオントラップ質量分析計は、従来、例えば、リング電極と2つのエンドキャップを使用して形成される三次元の(3D)四重極場によって動作する。
この構成では、高周波(RF)電磁界分布によって形成されたポテンシャルエネルギーウェルの最小値が、リングの中央にくる。
イオントラップに導入されたイオンの運動エネルギーが、バッファガス分子(通常はヘリウム)との衝突で減少するため、導入されたイオンは、おのずとポテンシャルウェルの最小値に局在化するようになる。
レーザー断層撮影画像法を使用して示されているように、このような従来の構成のイオントラップ内のイオンは、通常、直径約1mm未満の実質的に球状分布をなして集まる。
その結果、特に多数のイオンを捕捉しようとした場合には、空間電荷効果により装置の性能が低下してしまう。
【0004】
この問題に対する1つの可能な解決策として、イオンの蓄積領域を小さな球からビームへと拡張するために、二次元四重極電界を有する四重極質量分析計が導入されてきた。
このタイプの分析計の例は、ビア(Bier)らに付与された米国特許第5,420,425号明細書(以下、ビア特許という)に記載されている。
上記ビア特許は、イオンの占有体積が広がっているかまたは長く延びている実質的に四重極のイオントラップ質量分析計を開示している。
このイオントラップは、装置の長さに比例する空間電荷限界を有する。
イオンは、衝突緩和の後、装置の軸と一致する長尺状の領域を占めるようになる。
上記ビア特許は、直線状であるか、あるいは円形または湾曲形状をとりうる二次元イオントラップと、更に、イオンの捕捉能が向上した楕円体の三次元のイオントラップを開示している。
イオンは、長尺状の蓄積領域に対応している長尺状のアパーチャを通って、イオントラップから質量選択的に放出される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ビア特許のイオントラップの形状によって、イオンの蓄積量は上がるものの、例えば、長尺状のスリットと、放出後にイオンを1箇所に集めなければならないことなどにより、質量分析計の効率と用途の広さが低下してしまう。
更に、イオンの蓄積量を上げるためには、分析計を長くしなければならないため、蓄積量は実際的な面によって制限される。
【0006】
このため、特に質量分析計で使用するために、効率的かつ小型であり、イオンの蓄積量が高く、かつ選択されたイオンを効率的に放出することができるイオントラップを提供するという、先行技術が対処できていないニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、効率的かつ小型のイオントラップと、イオントラップ内のイオンを操作するための方法とを提供する。
このイオントラップと方法は、イオンの蓄積量が高く、選択されたイオンを効率的に放出することができる。
また、このイオントラップを備えた高分解能、高感度の質量分析計も提供される。
【0008】
より詳細には、本発明はイオントラップのイオンを操作するための方法を提供する。この方法は、前記イオントラップ内にイオンを蓄積するステップと、質量電荷比に依存した方法で前記イオンを空間的に圧縮するステップと、前記空間的に圧縮されたイオンを、定義された質量電荷比の範囲で放出するステップと、を有する。
【0009】
前記方法は、前記イオントラップの軸と直交するように前記イオンを放出するステップを有してもよい。
あるいは、前記イオンが軸方向に、すなわち、導入経路に平行に放出されてもよい。
【0010】
本発明のイオントラップは、前記イオントラップにイオンを導入するための導入口と、前記イオンを閉じ込めて、空間的に圧縮するための第1端部および第2端部を有するアームと、前記空間的に圧縮されたイオンを前記イオントラップの前記アームの前記第2端部から放出するための放出口と、を備える。
前記アームは、前記第1端部と前記第2端部との間に2対の対向電極を備える。
各電極は、前記イオントラップのどの断面でも四重極電場ポテンシャルを与えるために適切に成形された内面を有する。
更に、各対向電極間の距離は、前記第1端部から前記第2端部にかけて広がっている。
放出のために選択されたイオンは、前記第2端部にある領域内に、空間的に圧縮される。
【0011】
また、本発明は、2対の対向電極を備えたイオントラップを提供し、各対は、電場ポテンシャルU(x,y,z)の有効半径Rの2倍の距離によって離間されており、長さLはz軸上で求めている。
前記2対の対向電極は、以下の式(1)によって記述される電場ポテンシャルを形成するように作製されている。
【数1】

(1)
前記有効半径Rは可変長Zの関数として、下記式に従って変化する
【数2】

(2)
k、C、r、およびUは、選ばれた境界条件に対して電場ポテンシャルの前記式(1)を満足させるために必要な大きさに設定した定数である。
【0012】
本発明は、更に、前記イオントラップにイオンを導入するための導入口を備えたイオントラップを提供し、導入されたイオンは、z軸上で求めた長さLに沿って蓄積され、前記長さLに延在し、2対の対向電極を備え、前記導入されたイオンを閉じ込めるために適切に成形されたアームを有する。
対向電極の各対は、距離2Rによって離間されており、Rは、前記変数Zの関数として変化する。
前記2対の対向電極は、より大きな(または広い)端部と、より小さな(狭い)端部とを有する。
放出するために選択されたイオンは、前記大きな端部に向かって圧縮される。
また、前記イオントラップは、前記選択されたイオンを前記より大きな端部から放出するための放出口も備える。
【0013】
本発明の前記イオントラップの前記電極は、双曲線の断面形状を有してもよく、断面積が前記狭い端から前記広い端に広がっている。
【0014】
別の実施形態として、前記電極は、テーパ状のロッドを備えてもよく、前記ロッドは円形の断面形状を有する。
好ましくは、前記テーパ状のロッドは、前記長さに沿って、値2Rのそれぞれにおいて直径Dの円形の断面を有し、以下の式を満たす。
D=1.148×2R ……(4)
【発明の効果】
【0015】
この結果、本発明は、効率的かつ小型のイオントラップと、イオントラップ内のイオンを操作するための方法とを提供し、イオンの蓄積量が高く、かつ選択されたイオンを効率的に放出することができる。
前記イオントラップは、高分解能、高感度の質量分析計に用いるために適合されうる。
【0016】
本発明の他の目的および特徴は、添付の図面と併せて考察すれば、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
しかし、図面は単に例示として意図したものに過ぎず、本発明の限定を規定するものではないことを理解されたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1を参照すると、イオントラップ10と、イオントラップ10内でイオンを操作するための方法とが提供される。
この方法では、好ましくは、イオントラップ10の軸12の長さ(奥行)に沿ってイオンを蓄積する。
また、この方法では、放出前に、イオンを質量電荷比に依存した方法で、イオントラップ10の領域に空間的に圧縮することによって、選択したイオンを効率的に放出する。
【0018】
本発明のイオントラップ10では、イオンの大量の蓄積が可能となる。
また、イオントラップ10により、質量対電荷の値(m/z値とも呼ばれる)に従って、イオンを圧縮することによって、全ての蓄積されたイオンを順に放出することが可能となる。
このため、1回の放出スキャンで、イオントラップ10を備えた質量分析計(例えば、図2を参照)は、イオンの元となった分子に関する構造の情報を取得することができる。
代表的なスキャンの持続時間は、ほぼ数sec(秒)でありうる。
【0019】
本発明のイオントラップ10は、2対の対向電極14の組(図1には1対が示されている)を有し、これは、z軸18に対して角度16をなして配置されている。
【0020】
四電極構造により、高周波(RF)四重極場の形成が可能となり、これが径寸法内にイオンを捕捉する。
高周波場は、当業者に公知の方法に従って生成され、これには、電極14の端に静電直流電流(DC)ポテンシャルを印加する方法などがある。
【0021】
z軸18は、イオントラップ10の軸と呼ばれ、イオンが蓄積される軸とも呼ばれる。
イオントラップの長さは、軸またはz軸18上で求められる。
【0022】
イオンは、導入口20を介してイオントラップ10に導入される。
2対の対向電極14が、ともに、導入されたイオンを電極14間に閉じ込めるためのイオントラップ10のアーム22を形成している。
アーム22は、好ましくは第1端部24と第2端部26を有する。
図1に示すように、各電極が、アーム22の対称軸12から角度16だけずれている結果、対向電極間の距離が、第1端部24から第2端部26に向かって広がっている。
この形状により、電極間に生成される電界強度が、第1端部24では、第2端部26と比較して強くなる。
これにより得られた電場勾配を使用して、放出工程中に、選択されたイオンが第2端部26に向かって圧縮される。
このため、選択されたイオンが、第2端部26の領域に空間的に圧縮されて、その後、適切に配置された放出口28を通って放出される。
【0023】
また、イオントラップ10は、好ましくは、イオンがz軸18に沿って逃げないように、弱い直流阻止電圧が印加される阻止プレート29を両端に備える。
【0024】
また、図1に示す好ましい実施形態では、イオントラップ10は、第2アーム32を形成している第2の2対の対向電極30も有する。
第2アーム32も、第1端部34と第2端部36を有し、対向電極30間の距離が、第1端部34から第2端部36に向かって広がっている。
イオントラップ10は、適切な圧力を維持するために、気体が導入される真空チャンバ37内に収納されている。
2組の四電極は、広がっている方の端で互いに面しており、第2端部26が第2端部36に面している。
好ましくは、第2の組30は、例えば、垂直軸またはx軸38を中心として第1の組14と鏡像関係にある。
【0025】
本発明に従って作製されたイオントラップ質量分析計40は、イオントラップ10を備える。
また、図2に示すように、本発明の分析計40は、好ましくは、イオンソース42と、好ましくは、それ自体の真空チャンバ45内に収納されたイオンガイド44を備え、真空チャンバ45は、当業者に公知のように適切な圧力に維持されている。
導入するイオンを発生させるために、どのようなイオンソースを使用することもでき、これには、例えば、レーザー46を照射したマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)ターゲット、またはエレクトロスプレーイオン化イオンソースがあることは、当業者によって認められよう。
イオンガイド44は、4ロッドの平行電極構成の代表的な、あるいはイオンを案内するための当業者に公知のその他の手段を備えうる。
【0026】
好ましくは、分析計40は、ヘリウムなどのバッファガスを更に有しており、このガスは、イオントラップ10への導入の前後に、バッファガス48の分子または原子と衝突させてイオンを冷却するために、分析計40の内部48に充填されている。
【0027】
図1〜2を参照すると、分析計40に用いられるように、本発明のイオントラップ10は、例えば、動作時に、電極の組14および30の両方に印加した、一定振幅の適切なRF信号を用いて、ある時間間隔にわたってイオンを累積する。
【0028】
本発明のイオントラップ10の各アームの電極は、好ましくはテーパ状であり、イオントラップ10のどの断面でも四重極電場ポテンシャルを与えるように、適切に成形されている。
より詳細には、イオントラップの形状と、各アームにおける対向電極対の形状および配置とによって、好ましくは、三次元の電場ポテンシャルU(x,y,z)が与えられ、これは以下の式で表される。
【数3】

(1)
【0029】
パラメータRは、電場ポテンシャルの有効半径を表しており、イオントラップ10のどの断面でもアームの対向電極対を隔てる距離の半分の値に対応している。
Rは、次式に従って、z軸18上で第1端部24から求めた可変長zの関数として変化する。
【数4】

(2)
【0030】
式(1)の変数xとyは、それぞれx軸38およびy軸50の座標に対応しており、座標系のz軸18は、トラップ10の中心の軸12と一致している。
このため、座標系の原点は、アームの最も狭い端において対向電極間の対称軸12、例えば、第1端部24にセンタリングされている。
Lは、例えば、第1端部24から第2端部26までのアームの長さに対応している。
式(1)と式(2)のパラメータk、UおよびCは、定数を表しており、rの所定の値に対して選択された境界条件に従って決定される。
図1のイオントラップ10の左アーム22に着目すると、rは、z=0(すなわち第1端部24)における対向電極14間の距離の半分の値に物理的に対応している。
【0031】
z軸18に対する電極の角度16が、パラメータkに関係していることを、当業者は認めるであろう。
例えば、角度16の正接は、
【数5】

に等しいことがみてとれる(ここで、RMAXは、z=Lで評価した式(2)中のRの値である)。
更に、式(2)に代入すると、z=Lについて、以下のようになる。
【数6】

しかし、一般に、kの値は、選択したロッドの形状によって決定され、これが、角度ずれ16と、アームの長さLの適切な選択にも寄与する。
【0032】
角度ずれ16は、ゼロではなく、好ましくは、電極の形状およびイオントラップの長さを考慮して、イオントラップ10の、最も広い端(例えば、第2端部26)にある領域にイオンを空間的に圧縮するために実質的に十分大きい値である。
【0033】
一実施形態では、角度ずれ16は0°より大きい。
【0034】
別の実施形態では、角度ずれ16は、0°を超え、かつ90°未満である。
【0035】
更に別の実施形態では、角度ずれ16は10°より大きい。
【0036】
更に別の実施形態では、角度ずれ16は45°未満である。
【0037】
図3は、式(1)と式(2)によって表される有効トラップポテンシャル52の例を示しており、これは、電極にRF電圧が印加されると、イオントラップ10の1本のアームで形成される。
【0038】
式(1)によって記述されるトラップポテンシャル52の影響は、次のようになる。
好ましくは衝突気体(例えば、HeまたはN2など)が充填されたイオントラップ10に入るイオンは、装置10のz軸18に沿って集まる傾向がある。
イオンが中性のバッファガスの分子と衝突すると、自身の運動エネルギーを失う。
同時に、イオンは、四重極ロッド14と、阻止電圧が印加されるエンドプレートによって形成される弱い反発する電流電場とによって形成されたRF場によって、装置10の内部に効率的に閉じ込められる。
z軸18に沿って揃わないイオン(過剰な運動エネルギーを有するイオン)は、有効ポテンシャルのため生じた力によって作用され、この力は、イオンを四重極の広い端に向かって押し出す。
最終的には、イオンは、バッファガスとの衝突で十分な運動エネルギーを失うと、イオントラップ全体のz軸18上に分布するようになる。
Z座標に沿った力は、z軸から少しでも離れると無視できるくらい小さい。
【0039】
次に、蓄積されたイオンを、本発明のイオントラップ10から放出するには、好ましくは、対向電極対間に弱い励起RF信号を印加し、これと同時に、印加している励起RF電圧の振幅をランプアップすることで行うことができる。
式(1)と式(2)によって記述され、図3に表した電場ポテンシャルの形状のために、m/z値が最小で、イオントラップ10の導入口20に最も近いイオンが、一番最初に励起される。
RF電圧の振幅を増加させると、トラップ10内のイオン運動が不安定になる。
z軸を中心としたイオン発振の振幅が上昇すると、例えば、広い端(例えば第2端部26)に向かってイオンを押し出す力も強くなる。
このため、この特定のm/z値のイオンは、トラップ10の各アームの広い端の近くで、迅速に「圧縮される」、すなわち、領域54に向かって空間的に圧縮される。
前述のように、この領域54は、狭い端(例えば、トラップ10の第1端部24)よりも、電気場密度が小さい。
【0040】
m/zに依存してイオンを圧縮することによって、イオンの蓄積のプロセスと、イオン放出のプロセスとを事実上切り離すことができる。
イオンが蓄積されている間は、イオンは、イオントラップ10の軸12に沿って、イオントラップ10の円筒体積全体を占領しうる。
放出中に、イオンはイオントラップ10の最も広い部分にある領域54に、当該イオンのm/z比に従って選択的に圧縮され、これは図1のイオントラップ10の第2端部26、36に対応している。
【0041】
RF発振の振幅が対向電極間の距離と同等になり、この結果、当業者に公知なように、イオンがいわゆる放出エネルギーしきい値に達すると、放出口28からイオン放出が制御された状態で起こる。
【0042】
再び、図2を参照すると、好ましくは、分析計40内の、イオンソースチャンバ43と検出器チャンバ55内の分析計との間で、差動排気などの当業者に公知の任意の手段によって、制御された状態で圧力差が維持される。
この圧力差により、導入されたイオンが、高圧イオンソース領域43から望ましい低圧の領域55に、移動し易くなる。
【0043】
当業者が認めるように、イオンソースチャンバ43は通常、約1.33〜133.33N/m(約10〜1000mtorr)の圧力に維持され、検出器チャンバ55の圧力は通常、1.33×10−5〜1.33×10−2N/m(約10−7〜10−4torr)の範囲内に維持される。
イオントラップチャンバ37は、好ましくは0.40〜26.66N/m(約0.3〜200mtorr)に保たれ、イオントラップ10と検出器チャンバ55間に配置された追加のチャンバ53は、好ましくは、1.33×10−5〜1.33×10−2N/m(約10−7〜10−4torr)の範囲内に維持される。
【0044】
図1のイオントラップ10の好ましい実施形態では、中央インサート56も備えられており、これは、好ましくは、実質的に平行な2対の対向電極58を有する。
イオントラップのアーム22とアーム32は、好ましくは、中央インサート56のいずれの側に、動作可能に接続される。
電極58の一方は、放出口28を形成している開口部を有する。
【0045】
一実施形態では、中央インサート56は、4本の平行なロッドの構成を有する小型の従来の線形四重極を備える。
ビアらに付与された米国特許第5,420,425号の図2Aは、中央インサート56として使用することができる四重極の例を示している。
【0046】
中央インサート56の別の実施形態では、放出口28が、電極の1つ(図1の上部電極58)を省くことで提供される。
換言すれば、この実施形態では、中央インサート56は、各アームの電極の両側にそれぞれ動作可能に接続された1対の対向する平行電極と、各アームの第3の電極に動作可能に接続された第3の平行電極とを有する。
【0047】
図2に最もわかり易く示す更に別の実施形態では、電極の加工を簡略化するために、放出口28にテーパが付されており、放出されるイオンがテーパの狭い端に入って、広い端でイオントラップ10を出る。
また、電極が、円筒形状の放出口28(図8を参照)を提供するように加工されてもよい。
【0048】
図2を参照すると、本発明の分析計40は、好ましくは、放出されたイオンを検出するための検出器アセンブリ60と、放出されたイオンを、放出口28から検出器アセンブリ60に案内するための少なくとも1つのイオンガイド62も備える。
【0049】
イオンガイド62は、例えば、従来の四重極を形成している実質的に平行な2対の対向電極を備えてもよく、当業者に公知のように、動作時にここに直流ポテンシャルが印加される。
【0050】
一実施形態では、分析計40は、衝突セルとして使用される四重極を備えたイオンガイド62と、衝突セルと検出器60との間で質量フィルタとして使用される追加の四電極構造64とを備える。
この実施形態では、選択されたイオンのモニタリングスキャンまたはニュートラルロススキャンの実験の効率が、従来の質量分析計よりも大幅に向上している。
【0051】
更に別の実施形態では、質量分析計40は、四重極を備えたイオンガイド62を有し、その後に直交導入飛行時間型質量分析計が備えられている。
本発明の分析計のこの実施形態は、「MS/MS」と呼ばれ、対象の複イオンの完全な構造的情報を生成するために、単一段階質量スペクトル内の全てのイオンについて、信号損失のないフルレンジタンデム型質量分析を実行することが理論上可能である。
【0052】
このため、本発明は、分析計に使用される場合に、イオントラップから放出される各イオン種について、対象の全M/Z範囲において、MS/MSを順に実行することによって、損失なくMS/MS実験の多重化を可能にするイオントラップを提供する。
理論上、感度のゲインは、(ΔM/Z)/(Δm/z)に近づく。
ここで、ΔM/Zは、質量分析計の観察可能なm/z範囲を指し、通常は約4000のオーダーである。
Δm/zは、質量分析計の分解能を指し、通常、約14〜40の範囲にある。
このため、本発明のイオントラップを備える質量分析計では、理論上100〜1000倍のゲインが得られる。
このように感度が増大する結果、測定速度も大幅に高速化する。
【0053】
一実施形態では、本発明に従って作製された分析計のΔM/Zは、少なくとも100である。
【0054】
別の実施形態では、本発明に従って作製された分析計のΔM/Zは、約100,000以下である。
【0055】
一実施形態では、本発明に従って作製された分析計のΔm/zは、少なくとも1である。
【0056】
別の実施形態では、本発明に従って作製された分析計のΔm/zは、約100以下である。
【0057】
本発明に従って作製されたイオントラップ10と分析計の性能の改善は、各アームの電極を新しい形状にした結果得られるものであり、これは、m/z比に従って、放出口の近くの領域にイオンを選択的かつ順に圧縮する独自の電場ポテンシャルを提供する。
【0058】
式(1)に最もわかりやすく記述されているように、本発明のイオントラップ10は基本的に三次元のイオントラップである。
式(1)は、以下の式から導出されたものである。
【数7】

(3)
ここで、U、r、L、kおよびCは前述のように何らかの定数であり、x、y、zは座標である。
【0059】
当業者に公知のように、定数の具体的な値は、好ましくは特定の境界条件から設定され、xおよびyの座標はrに対応して設定され(すなわちx+y=rであり)、zは、装置Lの特定の長さに設定される。
【0060】
式(1)、(3)によって記述されるポテンシャルU(x,y,z)は、ラプラス(ΔU=0)式を満足する。
式(3)の括弧内の第1項は、二次元四重極のポテンシャルに類似しており、この項に、Z座標のポテンシャル全体の依存関係を導入する別の項が掛け合わされる。
この二次元四重極のポテンシャルとの類似性は、以下の式(1)の形に式(3)を書き換え、
【数8】

(1)
以下の式(2)に従って変数Rを定義することによって、更にはっきりする。
【数9】

(2)
【0061】
この形では、式(1)は、線形四重極の式に一層類似しており、基本的な差が強調されている。
2Rに対応する対向電極間の距離は、Z座標の関数として変化する。
【0062】
例えば、図4のグラフ70は、第1端部(狭い端)からの距離の関数としてz軸18からの距離R72をプロットしたものであり、これは対向電極間の距離の半分に対応している。
この例では、r74の値は1に、kの値は−0.5に、Cは0に、およびL76の値は10に、それぞれ設定される。
線形近似78も、プロットされており、少なくともアームの長さL76に対応するz=0〜z=10の範囲で、Rが、ほぼ線形に変化していることが示されている。
このようにアームの長さの範囲内で良好に線形に当てはめることができ、線形のイオントラップ10の電極を、大きな困難を伴わずに有利に加工できることになる。
【0063】
図5は、1対の対向電極14(上部および下部)の第1端部24と当該電極の第2端部26(図1を参照)間の距離を示しており、定数r、k、CおよびLは、図4のプロットに用いたのと同じ値である。
第1端部24では、Rはrに対応している(=1)。
第2端部26では、Rは約1.5である。
【0064】
本発明の電極の傾斜角16の結果、電極の断面形状と、テーパ、従ってzの関数としての各電極の断面積が重要である。
更に、最適なテーパと形状は、傾斜角16に依存する。
【0065】
本質的には、本発明の電極は、イオントラップのどの断面においても、ほぼ四重極のポテンシャルを提供でき、このため式(1)と式(2)を実質的に満足する任意の形状とその構成を備える。
【0066】
一実施形態では、イオントラップ10に用いられる電極80は、図6Aに示すように、双曲線形状の断面を有する。
双曲線のプロファイルは、例えば、イオントラップ10のアームの第1端部24(図1を参照)に対応する電極の端部82で最もよくわかる。
電極80はテーパ状であり、その結果、各電極の断面積が、電極80の第1端部82から第2端部84にかけて大きくなっている。
【0067】
図1とともに図6Bを参照すると、例えば、イオントラップ10のアーム22における、双曲線の断面80の2対の対向電極の構成が示されている。
図に示すように、各対向電極80の内側86に湾曲形状が向き、対向する各対が、軸12を中心とした鏡像として配置されるように、電極80は配置されている。
【0068】
更に、各電極80の双曲線のプロファイル(断面)の中点における曲線の鋭さまたは傾斜(ここでは偏心とも呼ぶ)は、好ましくは、対向電極間の距離が広がると、各断面における双曲線の断面と、実質的に四重極のポテンシャルが維持されるように、アーム22の第1端部24から第2端部26に向かって減少している。
このため、電極80は、式(1)に記述された電気トラップポテンシャルを実質的に維持するように向いており、かつ成形されている。
【0069】
このため、図7Aに示すように、電源88を使用して、図6Aに記載のように成形され、図6Bのようにアーム22を形成するために配置された電極80にRF電圧が印加されると、イオンを捕捉するための有効ポテンシャルが形成される。
【0070】
図7Aに従って形成される有効ポテンシャル90の形状を表す図が図7Bに示される。
ポテンシャル90は、z18と、対向電極80の対間の距離(2R)92の関数としてプロットされている。
この有効ポテンシャル90は、導入口20とイオントラップ10の第1端部24で急峻な双曲線のウェルを形成し、これが他の端26では徐々にゆるやかになっている。
【0071】
図1に示すように中央インサート56によって接続された2本のアーム22,32から構成されるトラップ10内のイオン運動のシミュレーションを実行した。
更に、実験的な質量分析測定を収集した。
シミュレーションのために、電極80が図6Bの構成の双曲線の断面であり、上記ビア特許のように、中央インサート56が4本の平行ロッド四重極を備えていると仮定した。
【0072】
このような装置の代表的なイオン軌道94が、図8に示されており、2つの投影に描かれ、そのうちの一方96は(x,z)面であり、他方98は(y,z)面である。
【0073】
異なるm/z値を有するイオンでシミュレーションを実行した。
全てのシミュレーションが、トラップ10内で同様のイオン挙動を示した。
最初、イオンは、装置の全長にわたって広がる傾向がある。
しかし、励起RF電圧の振幅がランプアップされて、各アームの2対のロッド間に弱い励起電圧が印加されはじめると、イオンが、トラップの中心に向かって圧縮される。
最終的には、同じm/z値を有するイオンは、放出前のしばらくの間、トラップの中央の最も広い部分にある領域100に集まっている。
【0074】
図9は、m/z=1000を有する1000個のイオンの移動のシミュレーション結果を示す。
この図の第1面102と第3面104は、ほとんどのイオンがz=15cm+−0.5cmの地点106で放出されることを示しており、これは、トラップの中心にある放出スリット28の位置に対応している。
放出されたピークのスペクトル幅108は約1〜1.5msec(ミリ秒)であり、このことが第2面110に示されている。
特定のシミュレーションの全初期条件も、この図には示されている。
【0075】
同様のシミュレーションを、m/z値が異なるイオンでも実行した。
全てのシミュレーションから、本発明に従って作製されたイオントラップ10の安定した挙動が示された。
【0076】
本発明の別の実施態様では、イオントラップの各アームの電極は、円形の断面の円筒状のロッドを備える。
図10Aを参照すると、ロッドは、好ましくは、円筒形のテーパ状のロッド112である(比較のために、双曲線形状のロッド80の輪郭を示す)。
このような円筒形のテーパ状のロッド112は、図10Bに示すように、本発明のイオントラップのアームにおいて、イオントラップのどの断面においても四重極場に実質的に近似させるために、同じ四電極の傾斜角度の構成114で使用することができることが示されている。
このため、例えば図1のイオントラップ10のアーム22で使用される円筒状のロッド112は、式(1)の電位にも非常によく近似するようになる。
【0077】
図11を参照すると、最も好ましくは、ロッド112のテーパおよびこれらの距離d115は、ロッド112の円形の断面直径D116が、約1.148と、任意のZ座標における(x,y)面の(すなわち、あらゆる断面における)距離d115の積に等しくなるように選択される。
換言すれば、この実施形態のために、好ましくは以下の条件が満足される。
D=1.148×d ……(4)
ここで、dも2Rであり、Rは式(2)によって定義される。
【0078】
図10A〜11に記載したテーパ状のロッド112を有する図1のイオントラップ10が作製され、図2に記載した本発明の質量分析計40で試験された。
図11Aは、装置40で測定した実験スペクトル117であり、測定の分解能(測定された原子の質量と、分析可能な原子の質量の比またはM/Δm)が、約120〜150であることが示される。
この実験スキャンでは、印加したRF電圧の振幅は、約281kHzの励起周波数において3.2Vであった。
RF電圧が、1sec(秒)間隔にわたってランプアップされ、その後、更に1sec(秒)間隔にわたり、イオンが測定のために蓄積された。
イオンソース42、すなわちレーザー46によって照射されるMALDIターゲットを収納しているチャンバ45内の圧力は、約11.33N/m(約85mtorr)に保たれ、イオントラップ10を収納しているチャンバ37内の圧力は、0.13N/m(約1mtorr)に保たれた。
【0079】
前述のように、本質的には、本発明の電極は、イオントラップのどの断面においても、ほぼ所定の四重極のポテンシャルを提供でき、式(1)と式(2)を実質的に満足する任意の形状とその構成を備える。
【0080】
別の実施形態では、電極は、トラップの内部の各対向電極の内面が、少なくとも円弧を形成するように構成された、少なくとも一部分が円形の断面を有する。
この円は、トラップの内側の外にセンタリング(中心がある)される。
電極のテーパと対向電極間の距離は、式(1)と式(2)を最適に満足させるように選択される。
【0081】
更に別の実施形態では、各電極の断面は放物線を定義している。
各対向電極の内面は、内向きに湾曲した断面を有する。
更に、例えば図1のイオントラップ10のアーム22において、放物線の鋭さは、第2端部26から第1端部24に向かって大きくなっている。
【0082】
図1〜2を再び参照すると、イオンは、2本のアーム間の中心の最も広い領域に向かって圧縮された後に、軸12に直交に放出される。
更に、図1〜2に示されるように、放出口28は導入口20に直交している。
【0083】
しかし、別の実施形態では、導入口20と放出口36は平行でもよい。
更に別の実施形態では、導入口20と放出口28は一致している。
【0084】
図12を参照すると、本発明のイオントラップ120の一実施形態は、2対の対向電極124を有する1本のアーム122のみを備える。
イオントラップ120は、好ましくは2対の平行対向電極128を備えたインサート126を有する。
平行電極130の一方は、導入口134に直交する放出口132を備える。
トラップ120は、イオンを軸方向に封じ込めるため阻止電圧が印加される阻止プレート136を更に有する。
【0085】
導入後のイオン軌道138のシミュレーションが図12に示されており、広い端140と中央インサート126に向かってイオンが圧縮されていることを示している。
【0086】
一実施形態では、インサート126は、小さな従来の線形四重極(例えば上記ビア特許の図2Aの四重極など)を備える。
【0087】
図13は、本発明に従って作製された質量分析計150に組み込まれた直交放出の1アームのイオントラップ120を示している。
【0088】
図14は、本発明に従って作製された1アームのイオントラップの更に別の実施形態160を示しており、放出口162が導入口164に平行であり、イオンがイオントラップ160から軸方向に放出される。
イオントラップ160は、ここに記載したように、式(1)と式(2)を満足するものであれば、任意の形状および形態のアームにある2対の対向電極166を備える。
イオントラップ160は、電極166に接続された2組の平行な対向電極を有し、軸方向の放出口162を有する線形の従来の四重極の一部分(図示せず)を任意選択で備える。
また、イオントラップ160は、ランプアップ中にイオンを封じ込めるために直流ポテンシャルが印加されるメッシュの阻止プレート168も備える。
軸方向の放出は、例えば、双極子の励起を印加して、RF電圧をランプアップするか、あるいは、放出中に、プレート168に補助的な交流(AC)場を印加することによって行う場合もある。
このような方法は当業界で公知であり、例えば、ジェイムズ W.ヘイガー、新リニアイオントラップ質量分析計、速報、質量分析、第16巻pp.512−516(2002)に記載されている。
シミュレーションしたイオンの軌道170が、図14にも示されている。
【0089】
図14のイオントラップ160は、図15に示すように本発明に従って作製された質量分析計180に組み込まれる。この図において、イオンは、軸方向の経路182に沿って導入口164に導入され、放出口162で広い領域に選択的に圧縮されて、検出器60に向かって、経路184に沿って軸方向に放出される。
【0090】
本発明のイオントラップは、小型であり有利である。
好ましくは、イオントラップのどの実施形態についても、各アームの長さは、1mm以上である。
【0091】
別の実施形態では、各アームの長さは、50mm以上である。
【0092】
一実施形態では、イオントラップの少なくとも1本のアームは、1000mm以下である。
【0093】
別の実施形態では、イオントラップの少なくとも1本のアームは、500mm以下である。
【0094】
別の実施形態では、放出口を備えた中央インサートまたはインサートまたは従来の線形の四重極の一部分の長さは、少なくとも1mmである。
【0095】
更に別の実施形態では、放出口を備えた中央インサートまたはインサートまたは従来の線形の四重極の一部分の長さは、少なくとも50mmである。
【0096】
別の実施形態では、放出口を備えた中央インサートまたはインサートまたは従来の線形の四重極の一部分は、1000mm以下である。
【0097】
更に別の実施形態では、放出口を備えた中央インサートまたはインサートまたは従来の線形の四重極の一部分は、500mm以下である。
【0098】
本発明のイオントラップの追加の実施形態190が図16に示されており、これは、星型構成の5本のアーム192を備え、各アームは、各アームの対称軸12に対してある角度をなして傾斜した2対の対向電極を備える。
図に示すように、各アームの電極は、好ましくはテーパ状であり、図に示すようにテーパ状の円筒形のロッドでありうる。
シミュレーションしたイオン軌道194が示されている。
導入口196は、4本の外側アームの1つ以上の軸上にあってもよく、広い端が内側を向いている。
放出口は、好ましくは、星型構成の中心198、および中央アーム200の広い端とに向いている。
【0099】
本発明のイオントラップは、質量分析計で有用であることに加えて、イオン−イオンおよびイオン−陽イオンの反応器を作製するためにも使用することもできる。
【0100】
別の実施形態では、本発明のイオントラップは、光学分光学などのほかの目的、または化合物の調整の精製のために、所定のM/Zに対してイオンを分離するために使用することができる。
【0101】
現在本発明の好ましい実施形態であると考えられているものを記載したが、本発明の趣旨から逸脱することなく、本発明を変更または変形することができ、このような変更や変形も、本発明の真の範囲に含まれるものとして請求することが意図されることを当業者は理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明に従って作製されたイオントラップの一実施形態の断面の概略図であり、簡潔を期するために、2対の対向電極の1対のみが図示されている。
【図2】図1のイオントラップを備えた、本発明の質量分析計の一実施形態の断面の概略図である。
【図3】図1のイオントラップによって形成される有効電気ポテンシャルウェルの一実施形態の三次元プロットである。
【図4】r=1、k=−0.5、C=0、およびL=10にそれぞれ設定したときの、図1のイオントラップの一実施形態のアームの一方の電極の径方向距離を、zの関数としてz軸からプロットしたものであり、線形近似もプロットされている。
【図5】図4の実施形態について、対向電極対の径方向距離のプロットであり、このプロットは、電極の形状と、電極間の距離が、一端から他端に変化する様子を示している。
【図6A】本発明のイオントラップの一実施形態による、双曲線の断面を有する電極の斜視図であり、第1端部から第2端部にかけて断面積が増加しており、双曲線形状の鋭さまたは偏心も、同様に、第1端部から第2端部にかけて減少している。
【図6B】イオントラップのアームを形成している図6Aの2対の対向電極の斜視図である。
【図7A】高周波(RF)電圧を印加している状態の図6Bのアームの概略図である。
【図7B】図7Aに従ってRF電圧が印加された場合に形成される有効ポテンシャルのグラフ図であり、ポテンシャルが、zと、対向電極対間の距離2Rの関数としてプロットされている。
【図8】本発明のイオントラップの実施形態の断面に、イオン軌道のシミュレーションを投影させた図である。
【図9】本発明のイオントラップにおける、m/z=1000のときの1000個のイオンの移動をシミュレーションした結果の代表的なプロットである。
【図10A】本発明のイオントラップの一実施形態による、円形の断面を有するテーパ状の電極の斜視図である。
【図10B】イオントラップのアームを形成している図10Aの2対の対向電極の斜視図である。
【図11】図10Bのアームの断面図である。
【図11A】図1の形状を有し、各アームが図10Bに示したテーパ状のロッドを有するイオントラップから作製された質量分析計で取得したm/z=1533のペプチドのスペクトルである。
【図12】本発明に従って作製されたイオントラップの別の実施形態の断面の概略図である。
【図13】図12のイオントラップを備えた、本発明の質量分析計の別の実施形態の断面の概略図である。
【図14】本発明に従って作製されたイオントラップの更に別の実施形態の断面の概略図である。
【図15】図14のイオントラップを備えた、本発明の質量分析計の更に別の実施形態の断面の概略図である。
【図16】本発明に従って作製されたイオントラップの追加の実施形態の断面の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオントラップのイオンを操作する方法であって、
前記イオントラップのイオンを蓄積するステップと、
質量電荷比に依存した方法で前記イオンを空間的に圧縮するステップと、
前記空間的に圧縮されたイオンを定義された質量電荷比の範囲で放出するステップとを有する、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記イオンは、前記イオントラップの長さに沿って蓄積される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蓄積されたイオンは、分子との衝突またはバッファガスの原子によって冷却される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記空間的に圧縮されたイオンは、それらの質量/荷電比に従って順次放出される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記イオントラップの第2端部でより前記イオントラップの第1端部での方がより強い四重極電界を印加するステップを有し、
前記空間的に圧縮するステップは、前記第2端部の方へ前記イオンを圧縮するステップを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記放出するステップは、前記空間的に圧縮されたイオンを前記第2端部の領域から放出するステップを有する、ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記イオントラップに前記イオンを導入するステップをさらに有する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記導入するステップは、前記イオントラップの軸と平行して前記イオンを導入するステップを有する、ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記導入するステップは、前記イオントラップの軸に直交して前記イオンを導入するステップを有する、ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記放出するステップは、前記イオントラップの軸と平行して前記イオンを放出するステップを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記放出するステップは、前記イオントラップの軸に直交して前記イオンを放出するステップを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
イオントラップにイオンを導入するための導入口を有し、
アームは、
第1端部および第2端部と、
前記導入されたイオンを前記第1端部と前記第2端部との間に閉じ込めるための2対の対向電極と、
各電極は、前記イオントラップのどの断面でも四重極電場ポテンシャルを与えるために適切に成形される内面を有し、
各対向電極間の距離は、前記第1端部から前記第2端部にかけて広がり、
放出のために選択されたイオンは、前記第2端部にある領域内に空間的に圧縮され、
前記空間的に圧縮されたイオンを前記イオントラップの前記アームの前記第2端部から放出するための放出口とを有する、ことを特徴とするイオントラップ。
【請求項13】
前記第2端部より前記第1端部での方がより強い四重極電界が印加可能なように、前記第1端部および前記第2端部が配置され、かつ必要な大きさに設定される、ことを特徴とする請求項12に記載のイオントラップ。
【請求項14】
第2アームをさらに有し、
前記第2アームは、
追加された第1端部および追加された第2端部と、
前記追加された第1端部および追加された第2端部との間に第2の2対の対向電極とを有する、ことを特徴とする請求項12に記載のイオントラップ。
【請求項15】
中央の2対の対向電極のうち前記中央の電極の1つは前記放出口からなる中央インサートをさらに有し、
中央インサートの前記対向電極は、ほぼ平行であり、
前記アームの前記第2端部および前記第2アームの前記追加された第2端部は、中央インサートのいずれの側面にも有効に接続している、ことを特徴とする請求項14に記載のイオントラップ。
【請求項16】
各第2の対向電極の間の距離は、前記第2アームの前記追加された第1端部から前記追加された第2端部へ向かって大きくなる、ことを特徴とする請求項14に記載のイオントラップ。
【請求項17】
各電極の断面積は、第2端部に向かって大きくなる、ことを特徴とする請求項12に記載のイオントラップ。
【請求項18】
各電極の断面は双曲線で規定され、
各対向電極の内側は内に曲がった断面からなる、ことを特徴とする請求項12に記載のイオントラップ。
【請求項19】
前記双曲線の鋭さは、前記第1端部から前記第2端部の方へ向かって減少している、ことを特徴とする請求項18に記載のイオントラップ。
【請求項20】
各電極の断面積は、少なくとも一部分が円形の断面からなり、
各対向電極の前記内面が円弧を形成し、
円は、前記2対の対向電極の間に前記イオントラップの内側領域の外に中心がある、ことを特徴とする請求項12に記載のイオントラップ。
【請求項21】
各電極の断面は、放物線に規定され、
各対向電極の前記内面は内向きの断面を有し、
前記放物線の鋭さは、前記第2端部から前記第1端部に向かって大きくなる、ことを特徴とする請求項12に記載のイオントラップ。
【請求項22】
前記導入口は、前記イオントラップの軸と平行してイオンを導入するために適切に配置される、ことを特徴とする請求項12に記載のイオントラップ。
【請求項23】
前記導入口は、前記イオントラップの軸に直交してイオンを導入するために適切に配置される、ことを特徴とする請求項12に記載のイオントラップ。
【請求項24】
前記放出口は、前記イオンの導入の方向とほぼ平行してイオンを放出するために、適切に配置される、ことを特徴とする請求項12に記載のイオントラップ。
【請求項25】
前記放出口は、前記イオンの導入の方向に直交してイオンを放出するために、適切に配置される、ことを特徴とする請求項12に記載のイオントラップ。
【請求項26】
前記アームは、1mmの最小限の長さ、かつ、1000mmの最大長さを有する、ことを特徴とする請求項12に記載のイオントラップ。
【請求項27】
中央インサートは、1mmの最小限の長さ、かつ、1000mmの最大長さを有する、ことを特徴とする請求項14に記載のイオントラップ。
【請求項28】
前記第2アームは、1mmの最小限の長さ、かつ、1000mmの最大長さを有する、ことを特徴とする請求項14に記載のイオントラップ。
【請求項29】
2対の対向電極と、
各対は、電場ポテンシャルU(x,y,z)の有効半径Rの2倍の距離によって切り離され、
長さL、
前記2対の対向電極は、前記長さLの範囲内で式(1)を満たすように成形され、
前記式(1)は、以下の通り規定され、
【数1】

(1)
前記有効半径Rは、可変長z、前記z軸で求められた前記長さLとの関数として下式に従って変化し、
【数2】

(2)
前記定数k、Cおよびrおよび定数Uは、
前記選ばれた境界条件に対して前記電場ポテンシャルの前記式(1)を満たすために必要な大きさに設定される、ことを特徴とするイオントラップ。
【請求項30】
イオントラップであって、
前記イオントラップにイオンを導入するための導入口と、
導入されたイオンはz軸上で求めた長さLに沿って蓄積され、
前記長さLを延在し、2対の対向電極を有し、前記導入されたイオンを閉じ込めるために適切に成形されたアームと、
対向電極の各対は、距離2Rによって離間され、前記Rは、前記変数zの関数として変化し、
前記2対の対向電極は、広い端部と狭い端部とを有し、
放出するために選択されたイオンは、前記広い端部に向かって圧縮され、
選択されたイオンを前記広い端部から放出するための放出口とを備えた、ことを特徴とするイオントラップ。
【請求項31】
前記対向電極の各々は、双曲線の断面形状を有する、ことを特徴とする請求項30に記載のイオントラップ。
【請求項32】
前記双曲線の断面積の偏心は、小さい端部に向かって大きくなる、ことを特徴とする請求項31に記載のイオントラップ。
【請求項33】
対向電極の各々は、円形の断面形状を有する、ことを特徴とする請求項30に記載のイオントラップ。
【請求項34】
対向電極の各々は、テーパ状であり、さらに、前記長さに沿った各値2Rの直径Dの円形横断面は、
D=1.148×2R (4)
式(4)を満たす、ことを特徴とする請求項33に記載のイオントラップ。
【請求項35】
Rは、電場ポテンシャルU(x、y、z)の有効半径Rに対応して式(2)に従って変化し、
【数3】

(2)
kおよびrが前記電場ポテンシャルU(x、y、z)に対して選択された境界条件に従って決定される定数である、ことを特徴とする請求項35に記載のイオントラップ。
【請求項36】
前記2対の対向電極は、長さLの範囲内で式(1)を満たすように成形され、
前記定数k、Cおよびrおよび定数Uは、選択ばれた境界条件に対して電場ポテンシャルの前記式(1)を満たすために必要な大きさに設定され、
前記式(1)は、
【数4】

(1)
の通り規定される、ことを特徴とする請求項35に記載のイオントラップ。
【請求項37】
イオンは、質量電荷比の範囲に従って、放出のために選択される、ことを特徴とする請求項30に記載のイオントラップ。
【請求項38】
請求項37に記載のイオントラップを有する、ことを特徴とするイオン質量分光計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図11A】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2009−506515(P2009−506515A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529229(P2008−529229)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/033843
【国際公開番号】WO2007/027764
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(591197334)ザ ロックフェラー ユニバーシティ (9)
【Fターム(参考)】