説明

赤外線センサ装置およびこれを備えた誘導加熱調理器

【課題】 周囲の磁界の影響をさらに抑制することができる赤外線センサ装置および非接触で高精度に鍋底温度を検出可能な誘導加熱調理器を提供すること。
【解決手段】 赤外線センサ装置1が、少なくとも一つの感熱素子2A,2Bと感熱素子に接続された配線部とを備えた赤外線センサ3と、該赤外線センサ3に直接また他の部材を介して設置され周囲の磁界と逆の磁界を発生させる反磁界発生コイル5とを備えている。また、誘導加熱調理器が、赤外線センサ装置1と、電磁コイルおよび赤外線センサ装置に電気的に接続され電磁コイルの出力に応じて反磁界発生コイルの出力を制御する制御部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲の磁界の影響を抑制可能な赤外線センサ装置およびトッププレート上の鍋等の被加熱物を電磁誘導加熱(IH)で加熱すると共に鍋底温度を検出可能な誘導加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トッププレート上の鍋等の被加熱物を加熱コイルによる電磁誘導加熱で加熱すると共に鍋底温度を検出可能な誘導加熱調理器が知られている。例えば、特許文献1には、トッププレートの下に赤外線を検出するセンサ(放射温度検出手段)を設置し、検出した赤外線量により鍋底温度を推定する誘導加熱調理器が記載されている。
【0003】
誘導加熱調理器では、加熱コイルからの誘導磁界(電磁波)によりセンサの電極などに渦電流が発生し、これにより発熱が生じて赤外線検出に影響が生じてしまう。このため、特許文献1の誘導加熱調理器では、アルミニウムなどの低磁性体やフェライトなどの高磁性材料で形成した円筒体でセンサを覆う防磁手段を設けることで、センサへの誘導磁界を遮蔽してセンサが誘導磁界によって発熱することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−227977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、特許文献1に記載の誘導加熱調理器では、センサを金属円筒体で覆う防磁手段を設けることで、センサ周囲の磁界を減少させることができるが、十分に磁界を遮蔽することができず、少なからずセンサの電極等の金属部分に渦電流が生じて赤外線検出に影響が生じてしまう問題があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、周囲の磁界の影響をさらに抑制することができる赤外線センサ装置および非接触で高精度に鍋底温度を検出可能な誘導加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明の赤外線センサ装置は、少なくとも一つの感熱素子と前記感熱素子に接続された配線部とを備えた赤外線センサと、該赤外線センサに直接また他の部材を介して設置され周囲の磁界と逆の磁界を発生させる反磁界発生コイルとを備えていることを特徴とする。
この赤外線センサ装置では、赤外線センサに直接また他の部材を介して設置され周囲の磁界と逆の磁界を発生させる反磁界発生コイルを備えているので、赤外線センサ周囲に磁界が生じる環境において、反磁界発生コイルにより周囲の磁界と同じ大きさの逆の磁界を発生することで、赤外線センサ周囲の磁界を相殺することができる。これにより、配線部や赤外線センサの他の金属部分に渦電流を生じさせる磁界を抑制して赤外線検出への影響を大幅に低減可能になる。
【0008】
また、第2の発明の赤外線センサ装置は、第1の発明において、前記赤外線センサが、絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、前記絶縁性フィルムの一方の面に形成され前記第1の感熱素子に接続された導電性の第1の配線膜及び前記第2の感熱素子に接続された導電性の第2の配線膜と、前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜とを備えていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサ装置では、第2の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜を備えているので、第1の感熱素子は赤外線が照射されて赤外線吸収した絶縁性フィルムの部分的な温度を測定するのに対し、第2の感熱素子は赤外線反射膜によって赤外線が反射されて赤外線吸収が大幅に抑制された絶縁性フィルムの部分的な温度を測定する。したがって、第1の感熱素子に対して赤外線の影響を抑制して高いリファレンスが得られる赤外線反射膜下の第2の感熱素子と、薄く熱伝導性の低い絶縁性フィルムとによって、第1の感熱素子と第2の感熱素子との良好な温度差分を得ることができる。
【0009】
さらに、第3の発明の赤外線センサ装置は、第2の発明において、前記赤外線反射膜が、金属箔で形成され、前記反磁界発生コイルが、前記赤外線反射膜の直下に設置されていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサ装置では、反磁界発生コイルが、金属箔で形成された赤外線反射膜の直下に設置されているので、金属箔の赤外線反射膜に対して直下の反磁界発生コイルで周囲の磁界と逆の磁界を発生させることで、赤外線反射膜における渦電流の発生を抑制することができる。
【0010】
また、第4の発明の赤外線センサ装置は、第3の発明において、前記赤外線センサが実装される回路基板を備え、前記赤外線センサが、前記絶縁性フィルムの一方の面に固定されて該絶縁性フィルムを支持する筐体を備えていると共に、該筐体の裏面を実装面として前記回路基板の表面に固定され、前記反磁界発生コイルが、前記回路基板の裏面に設置されたボビン部と、該ボビン部に巻き線を巻回させて構成されたコイル部と、前記ボビン部の下面に設置されたアルミニウム板とを備えていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサ装置では、ボビン部の下面にアルミニウム板を備えているので、厚い回路基板が介在していてもコイル部で発生させた磁界を直上の赤外線反射膜に垂直に通過させることが可能になり、赤外線反射膜において効果的に周囲の磁界を相殺することができる。
【0011】
また、第5の発明の赤外線センサ装置は、第3の発明において、前記反磁界発生コイルが、絶縁性のコイル用フィルムと、該コイル用フィルムに金属膜で渦巻状にパターン形成されたパターンコイル部とを備えていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサ装置では、コイル用フィルムに金属膜で渦巻状にパターン形成されたパターンコイル部を備えているので、反磁界発生コイルの薄型化が可能になり、赤外線センサに直接貼り付けて一体化すること可能になる。
【0012】
さらに、第6の発明の赤外線センサ装置は、第5の発明において、前記絶縁性フィルムが、第1の絶縁性フィルムと第2の絶縁性フィルムとの積層で構成され、前記赤外線反射膜が、前記第1の絶縁性フィルムの他方の面に形成されていると共に、前記第1の感熱素子および前記第2の感熱素子が、前記第2の絶縁性フィルムの一方の面に形成され、前記パターンコイル部が、前記第1の絶縁性フィルムまたは前記第2の絶縁性フィルムを前記コイル用フィルムとしてこれら絶縁性フィルムの対向面の一方にパターン形成されていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサ装置では、パターンコイル部が、積層された第1の絶縁性フィルムまたは第2の絶縁性フィルムをコイル用フィルムとしてこれら絶縁性フィルムの対向面の一方にパターン形成されているので、赤外線反射膜の極近傍で周囲の磁界と逆の磁界を発生させることができる。
【0013】
第7の発明の誘導加熱調理器は、被加熱物を載置するトッププレートと、該トッププレートの下部に設置され前記被加熱物を電磁誘導加熱により加熱する電磁コイルと、前記トッププレートの下方に該トッププレートから離間して設置された温度センサである第1の発明から第6の発明のいずれかの赤外線センサ装置と、前記電磁コイルおよび前記赤外線センサ装置に電気的に接続され前記電磁コイルの出力に応じて前記反磁界発生コイルの出力を制御する制御部とを備えていることを特徴とする。
すなわち、この誘導加熱調理器では、トッププレートの下方に該トッププレートから離間して設置された温度センサである第1の発明から第6の発明のいずれかの赤外線センサ装置と、電磁コイルの出力に応じて反磁界発生コイルの出力を制御する制御部とを備えているので、赤外線センサの周囲に生じる電磁コイルからの誘導磁界と逆の磁界を電磁コイルの出力に応じて反磁界発生コイルにより発生させることで、誘導磁界の影響を抑制して鍋底温度を正確に測定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る赤外線センサ装置によれば、赤外線センサに直接また他の部材を介して設置され周囲の磁界と逆の磁界を発生させる反磁界発生コイルを備えているので、赤外線センサ周囲の磁界を相殺することができ、赤外線検出への影響を大幅に低減可能になる。したがって、本発明の赤外線センサ装置を備えた誘導加熱調理器によれば、赤外線センサの周囲に生じる電磁コイルからの誘導磁界の影響を抑制し、鍋底温度を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る赤外線センサ装置および誘導加熱調理器の第1実施形態において、赤外線センサ装置を示す断面図である。
【図2】第1実施形態において、反磁界発生コイルを示す下面図である。
【図3】第1実施形態において、赤外線センサを示す斜視図である。
【図4】第1実施形態において、筐体を除いた赤外線センサを示す斜視図である。
【図5】第1実施形態において、赤外線センサを示す断面図である。
【図6】第1実施形態において、誘導加熱調理器を示す概略的な断面図である。
【図7】本発明に係る赤外線センサ装置および誘導加熱調理器の第2実施形態において、赤外線センサ装置を示す断面図である。
【図8】第2実施形態において、反磁界発生コイルを示す平面図である。
【図9】本発明に係る赤外線センサ装置および誘導加熱調理器の第3実施形態において、赤外線センサ装置を示す断面図である。
【図10】第2実施形態において、赤外線反射膜および反磁界発生コイルを形成した第1の樹脂フィルムを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る赤外線センサ装置および誘導加熱調理器の第1実施形態を、図1から図6を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0017】
本実施形態の赤外線センサ装置1は、図1に示すように、感熱素子2A,2Bとこれら感熱素子2A,2Bに接続された配線部(配線膜7A,7B)とを備えた赤外線センサ3と、該赤外線センサ3が実装される回路基板4と、該赤外線センサ3に回路基板4を介して設置され周囲の磁界と逆の磁界を発生させる反磁界発生コイル5とを備えている。
【0018】
上記赤外線センサ3は、図2から図5に示すように、絶縁性フィルム6と、該絶縁性フィルム6の一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子2A及び第2の感熱素子2Bと、絶縁性フィルム6の一方の面に形成され第1の感熱素子2Aに接続された導電性の第1の配線膜7A及び第2の感熱素子2Bに接続された導電性の第2の配線膜7Bと、第1の感熱素子2Aに対向して絶縁性フィルム6の他方の面(上面)に設けられた赤外線吸収膜8と、第2の感熱素子2Bに対向して絶縁性フィルム6の他方の面(上面)に設けられた赤外線反射膜9と、絶縁性フィルム6の一方の面(下面)に固定されて該絶縁性フィルム6を支持する筐体10とを備えている。
【0019】
すなわち、上記赤外線吸収膜8は、第1の感熱素子2Aの直上に配されていると共に、上記赤外線反射膜9は、第2の感熱素子2Bの直上に配されている。
上記絶縁性フィルム6は、赤外線透過性フィルムで形成されている。なお、本実施形態では、絶縁性フィルム6がポリイミド樹脂シートで形成されている。
【0020】
上記第1の感熱素子2A及び第2の感熱素子2Bは、図4に示すように、両端部に端子電極2aが形成されたチップサーミスタである。このサーミスタとしては、NTC型、PTC型、CTR型等のサーミスタがあるが、本実施形態では、第1の感熱素子2A及び第2の感熱素子2Bとして、例えばNTC型サーミスタを採用している。このサーミスタは、Mn−Co−Cu系材料、Mn−Co−Fe系材料等のサーミスタ材料で形成されている。なお、これら第1の感熱素子2A及び第2の感熱素子2Bは、各端子電極2aを配線膜7A,7B上に接合させて絶縁性フィルム6に実装されている。
【0021】
特に、本実施形態では、第1の感熱素子2Aおよび第2の感熱素子2Bとして、Mn,CoおよびFeの金属酸化物を含有するセラミックス焼結体、すなわちMn−Co−Fe系材料で形成されたサーミスタ素子を採用している。さらに、このセラミックス焼結体は、立方晶スピネル相を主相とする結晶構造を有していることが好ましい。特に、セラミックス焼結体としては、立方晶スピネル相からなる単相の結晶構造が最も望ましい。
【0022】
上記赤外線吸収膜8は、絶縁性フィルム6よりも高い赤外線吸収率を有する材料で形成され、例えば、カーボンブラック等の赤外線吸収材料を含むフィルムや赤外線吸収性ガラス膜(二酸化珪素を71%含有するホーケー酸ガラス膜など)で形成されている。すなわち、この赤外線吸収膜8によって測定対象物からの輻射による赤外線を吸収する。そして、赤外線を吸収し発熱した赤外線吸収膜8から絶縁性フィルム6を介した熱伝導によって、直下の第1の感熱素子2Aの温度が変化するようになっている。この赤外線吸収膜8は、第1の感熱素子2Aよりも大きなサイズでこれを覆うように形成されている。
【0023】
上記赤外線反射膜9は、絶縁性フィルム6よりも高い赤外線放射率を有する材料で形成され、例えば、鏡面のアルミニウム蒸着膜やアルミニウム箔等の金属箔で形成されている。この赤外線反射膜9は、第2の感熱素子2Bよりも大きなサイズでこれを覆うように形成されている。
【0024】
上記筐体10は、例えば樹脂製であり、絶縁性フィルム6の熱を必要以上に放熱しないように絶縁性フィルム6よりも熱伝導性の低い材料であることが好ましい。
この筐体10には、図3に示すように、第1の感熱素子2A及び第2の感熱素子2Bをそれぞれ個別に収納する第1の収納部10a及び第2の収納部10bが設けられている。これら第1の収納部10a及び第2の収納部10bは、第1の感熱素子2A及び第2の感熱素子2Bの位置にそれぞれ対応して形成された断面矩形状の孔部であり、内部に空気を密封した状態で開口部が絶縁性フィルム6で閉塞されている。なお、第1の収納部10a及び第2の収納部10bの内部には、絶縁性フィルム6よりも熱伝導率の低い発泡樹脂を封入させても構わない。
【0025】
また、この赤外線センサ3は、筐体10の側面に設けられ第1の配線膜7Aまたは第2の配線膜7Bに上端が接続されていると共に筐体10の底部まで延在された複数の側面電極部11と、筐体10の側面下部において側面電極部11の下端に接続されて設けられ回路基板4上に接続させる複数の実装用外部端子12とを備えた表面実装型とされている。すなわち、この赤外線センサ3は、筐体10の裏面を実装面として回路基板4上に実装用外部端子12を接合させて回路基板4の表面に固定されている。
【0026】
上記反磁界発生コイル5は、図1および図2に示すように、回路基板4の裏面に設置されたボビン部13と、該ボビン部13に巻き線を巻回させて構成されたコイル部14と、ボビン部13の下面に設置されたアルミニウム板15とを備えている。この反磁界発生コイル5は、赤外線反射膜9の直下に設置されている。
【0027】
上記ボビン部13は、比透磁率1の材料であって例えばPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)等で形成され、実装側の外縁部分にコイル部14に接続された一対の実装端子14aが設けられている。すなわち、反磁界発生コイル5は、一対の実装端子14aを回路基板4に接合させて回路基板4の裏面に固定される。
【0028】
次に、上記赤外線センサ装置1を備えた本実施形態の誘導加熱調理器について、図6を参照して説明する。
【0029】
本実施形態の誘導加熱調理器101は、図6に示すように、被加熱物Nを載置するトッププレート102と、該トッププレート102の下部に設置され被加熱物Nを電磁誘導加熱により加熱する電磁コイル103と、トッププレート102の下方に該トッププレート102から離間して設置された温度センサである上記赤外線センサ装置1と、電磁コイル103および赤外線センサ装置1に電気的に接続され電磁コイル103の出力に応じて反磁界発生コイル5の出力を制御する制御部Cと、これらが設置された本体ケース104とを備えている。
【0030】
なお、トッププレート102の下面には、該下面を覆うと共に一部が赤外線透過窓(図示略)として開けられた赤外線遮蔽層(図示略)が設けられている。
該赤外線遮蔽層は、例えばトッププレート102下面に貼り付けられたカーボンブラックを含む結晶化ガラスの吹付材などの赤外線遮蔽シートである。なお、この赤外線遮蔽層は、赤外線遮蔽シート以外にも赤外線遮蔽効果のある塗料をトッププレート102の下面に塗って形成しても構わない。また、上記赤外線透過窓は、赤外線センサ3の直上に位置する部分のみ赤外線遮蔽層に開口部を設けてトッププレート102を露出させて形成したものである。
【0031】
上記被加熱物Nは、磁性体(鉄等)または非磁性体(アルミニウム等)で形成された鍋等である。
上記トッププレート102は、結晶化ガラス等で形成されて高い耐熱性を有しており、本体ケース104の上部に取り付けられている。
上記電磁コイル103は、トッププレート102の下方かつ本体ケース104内に円環形状または渦巻き形状に配置され、交流電流による電力が供給されると高周波磁界を発生させてトッププレート102上の被加熱物Nを誘導加熱する加熱コイルである。
また、赤外線センサ3は、電磁コイル103の中心軸上に設置されている。
【0032】
上記制御部Cは、第1の感熱素子2Aおよび第2の感熱素子2Bの出力に基づいて被加熱物Nの温度を算出する回路を有している。すなわち、制御部Cは、第1の感熱素子2Aと第2の感熱素子2Bとで検出された赤外線の差分(出力の差分)を演算処理し、第2の感熱素子2Bをリファレンスとして第1の感熱素子2Aで検出された温度を算出する機能を有している。また、制御部Cは、得られた被加熱物Nの温度に基づいて、電磁コイル103に供給する電力を制御するインバータ回路等を有している。
【0033】
上記赤外線センサ装置1の周囲には、内面にアルミ膜105が形成された樹脂製の断熱用筒部材106と、該断熱用筒部材106の外周に間隔を空けて中心軸を同じくして設置された金属製の反磁界発生用筒部材107とが設けられている。なお、赤外線センサ装置1は、回路基板4の端部が断熱用筒部材106の内側に固定されて断熱用筒部材106内に設置されている。
【0034】
上記反磁界発生用筒部材107は、例えば銅やアルミニウム等の金属で形成されるが、特に銅で形成することが好ましい。
この反磁界発生用筒部材107は、外側の電磁コイル103による誘導磁界によって渦電流が発生することで、内側の赤外線センサ3の周囲において電磁コイル103による誘導磁界と逆の磁界を発生させる機能を有している。
【0035】
上記断熱用筒部材106は、外周からの空気の流れを遮断する風防の機能を有していると共に周囲の熱を断熱性の高い樹脂材により内側に伝え難くする断熱機能を有している。なお、断熱用筒部材106の上部と下部とは開口しており、トッププレート102からの赤外線が上部開口から入射されて内側の赤外線センサ3へ到達可能になっている。すなわち、断熱用筒部材106内が導光路として機能している。
【0036】
上記アルミ膜105には、縦向きにスリット(図示略)が複数形成されており、アルミ膜105の渦電流の発生を抑制するようになっている。
また、アルミ膜105は、樹脂製の断熱用筒部材106からの輻射熱を遮断して内側の赤外線センサ3の赤外線検出に影響を与えることを抑制する機能も有している。
なお、本体ケース104の底部には、シールド用のアルミニウム板が採用される。
【0037】
このように本実施形態の赤外線センサ装置1では、赤外線センサ3に回路基板4を介して設置され周囲の磁界と逆の磁界を発生させる反磁界発生コイル5を備えているので、反磁界発生コイル5により周囲の磁界と同じ大きさの逆の磁界を発生することで、赤外線センサ3周囲の磁界を相殺することができる。これにより、配線膜7A,7Bや赤外線センサ3の他の金属部分に渦電流を生じさせる磁界を抑制して赤外線検出への影響を大幅に低減可能になる。
【0038】
また、第2の感熱素子2Aに対向して絶縁性フィルム6の他方の面に設けられた赤外線反射膜9を備えているので、第1の感熱素子2Aは赤外線が照射されて赤外線吸収した絶縁性フィルム6の部分的な温度を測定するのに対し、第2の感熱素子2Bは赤外線反射膜9によって赤外線が反射されて赤外線吸収が大幅に抑制された絶縁性フィルム6の部分的な温度を測定する。
【0039】
したがって、第1の感熱素子2Aに対して赤外線の影響を抑制して高いリファレンスが得られる赤外線反射膜9下の第2の感熱素子2Bと、薄く熱伝導性の低い絶縁性フィルム6とによって、第1の感熱素子2Aと第2の感熱素子2Bとの良好な温度差分を得ることができる。
なお、赤外線吸収膜8を削除しても構わないが、第1の感熱素子2Aの直上に赤外線吸収膜8を形成することで、第1の感熱素子2Aにおける赤外線吸収効果が向上して、第1の感熱素子2Aと第2の感熱素子2Bとのより良好な温度差分を得ることができる。
【0040】
さらに、反磁界発生コイル5が、金属箔で形成された赤外線反射膜9の直下に設置されているので、金属箔の赤外線反射膜9に対して直下の反磁界発生コイル5で周囲の磁界と逆の磁界を発生させることで、赤外線反射膜9における渦電流の発生を抑制することができる。
また、ボビン部13の下面にアルミニウム板15を備えているので、厚い回路基板4が介在していてもコイル部14で発生させた磁界を直上の赤外線反射膜9に垂直に通過させることが可能になり、赤外線反射膜9において効果的に周囲の磁界を相殺することができる。
【0041】
したがって、本実施形態の誘導加熱調理器101では、トッププレート102の下方に該トッププレート102から離間して設置された温度センサである上記赤外線センサ装置1と、電磁コイル103の出力に応じて反磁界発生コイル5の出力を制御する制御部Cとを備えているので、赤外線センサ3の周囲に生じる電磁コイル103からの誘導磁界と逆の磁界を電磁コイル103の出力に応じて反磁界発生コイル5により発生させることで、誘導磁界の影響を抑制して被加熱物Nの温度(鍋底温度)を正確に測定することができる。
【0042】
次に、本発明に係る赤外線センサ装置および誘導加熱調理器の第2および第3実施形態について、図7から図10を参照して以下に説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0043】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、ボビン部13を有する反磁界発生コイル5が回路基板4を介して赤外線センサ3の下面側に取り付けられているのに対し、第2実施形態の赤外線センサ装置21は、図7および図8に示すように、反磁界発生コイル25が、絶縁性のコイル用フィルム22と、該コイル用フィルム22に金属膜で渦巻状にパターン形成されたパターンコイル部23とを備え、筐体10の裏面に接着剤(図示略)で接着されている点である。
【0044】
上記コイル用フィルム22は、絶縁性フィルム6と同様のフィルムで形成され、このコイル用フィルム22の下面に、図8に示すように、渦巻き形状のパターンコイル部23が銅箔等により赤外線反射膜9の直下にパターン形成されている。すなわち、本実施形態の反磁界発生コイル25は、プリントコイルである。このパターンコイル部23の両端には、それぞれコイル電極部23aがパターン形成されており、これらコイル電極部23aは、赤外線センサ装置21が回路基板4に実装された状態で、図示しない接続端子により回路基板4に電気的に接続されている。なお、コイル用フィルム22の下面には、回路基板4に実装可能な絶縁性の実装用板部材24が貼り付けられている。
【0045】
このように第2実施形態の赤外線センサ装置21では、コイル用フィルム22に金属膜で渦巻状にパターン形成されたパターンコイル部23を備えているので、反磁界発生コイル25の薄型化が可能になり、赤外線センサ3に直接貼り付けて一体化すること可能になる。
【0046】
次に、第3実施形態と第2実施形態との異なる点は、第2実施形態の反磁界発生コイル25が筐体10の裏面に設置されているのに対し、第3実施形態の赤外線センサ装置31では、図9および図10に示すように、反磁界発生コイル35が絶縁性フィルム側に設けられている点である。すなわち、第3実施形態では、絶縁性フィルムが、第1の絶縁性フィルム6Aと第2の絶縁性フィルム6Bとの積層で構成され、赤外線反射膜9が、第1の絶縁性フィルム6Aの他方の面(上面)に形成されていると共に、第1の感熱素子2Aおよび第2の感熱素子2Bが、第2の絶縁性フィルム6Bの一方の面(下面)に形成されている。
【0047】
また、パターンコイル部23が、第1の絶縁性フィルム6Aまたは第2の絶縁性フィルム6Bをコイル用フィルムとしてこれら絶縁性フィルム6A,6Bの対向面の一方にパターン形成されている。すなわち、パターンコイル部23は、第1の絶縁性フィルム6Aと第2の絶縁性フィルム6Bとの中間層として設けられている。本実施形態では、第1の絶縁性フィルム6Aの一方の面(下面)にパターンコイル部23がパターン形成されている。なお、第2実施形態では、赤外線吸収膜8を設けていない。また、第1の絶縁性フィルム6Aと第2の絶縁性フィルム6Bとは、互いに接着剤39で接着されている。
【0048】
このように第3実施形態の赤外線センサ装置31では、パターンコイル部23が、積層された第1の絶縁性フィルム6Aまたは第2の絶縁性フィルム6Bをコイル用フィルムとしてこれら絶縁性フィルム6A,6Bの対向面の一方にパターン形成されているので、赤外線反射膜9の極近傍で周囲の磁界と逆の磁界を発生させることができる。
【0049】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0050】
例えば、上記各実施形態では、チップサーミスタの第1の感熱素子及び第2の感熱素子を採用しているが、薄膜サーミスタで形成された第1の感熱素子及び第2の感熱素子を採用しても構わない。
なお、感熱素子としては、上述したように薄膜サーミスタやチップサーミスタが用いられるが、サーミスタ以外に焦電素子等も採用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1,21,31…赤外線センサ装置、2A…第1の感熱素子、2B…第2の感熱素子、3…赤外線センサ、4…回路基板、5,25,35…反磁界発生コイル、6…絶縁性フィルム、6A…第1の絶縁性フィルム、6B…第2の絶縁性フィルム、7A…第1の配線膜、7B…第2の配線膜、8…赤外線吸収膜、9…赤外線反射膜、13…ボビン部、14…コイル部、15…アルミニウム板、22…コイル用フィルム、23,33…パターンコイル部、101…誘導加熱調理器、102…トッププレート、103…電磁コイル、C…制御部、N…被加熱物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの感熱素子と前記感熱素子に接続された配線部とを備えた赤外線センサと、
該赤外線センサに直接また他の部材を介して設置され周囲の磁界と逆の磁界を発生させる反磁界発生コイルとを備えていることを特徴とする赤外線センサ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線センサ装置において、
前記赤外線センサが、絶縁性フィルムと、
該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、
前記絶縁性フィルムの一方の面に形成され前記第1の感熱素子に接続された導電性の第1の配線膜及び前記第2の感熱素子に接続された導電性の第2の配線膜と、
前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜とを備えていることを特徴とする赤外線センサ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の赤外線センサ装置において、
前記赤外線反射膜が、金属箔で形成され、
前記反磁界発生コイルが、前記赤外線反射膜の直下に設置されていることを特徴とする赤外線センサ装置。
【請求項4】
請求項3に記載の赤外線センサ装置において、
前記赤外線センサが実装される回路基板を備え、
前記赤外線センサが、前記絶縁性フィルムの一方の面に固定されて該絶縁性フィルムを支持する筐体を備えていると共に、該筐体の裏面を実装面として前記回路基板の表面に固定され、
前記反磁界発生コイルが、前記回路基板の裏面に設置されたボビン部と、該ボビン部に巻き線を巻回させて構成されたコイル部と、前記ボビン部の下面に設置されたアルミニウム板とを備えていることを特徴とする赤外線センサ装置。
【請求項5】
請求項3に記載の赤外線センサ装置において、
前記反磁界発生コイルが、絶縁性のコイル用フィルムと、該コイル用フィルムに金属膜で渦巻状にパターン形成されたパターンコイル部とを備えていることを特徴とする赤外線センサ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の赤外線センサ装置において、
前記絶縁性フィルムが、第1の絶縁性フィルムと第2の絶縁性フィルムとの積層で構成され、
前記赤外線反射膜が、前記第1の絶縁性フィルムの他方の面に形成されていると共に、前記第1の感熱素子および前記第2の感熱素子が、前記第2の絶縁性フィルムの一方の面に形成され、
前記パターンコイル部が、前記第1の絶縁性フィルムまたは前記第2の絶縁性フィルムを前記コイル用フィルムとしてこれら絶縁性フィルムの対向面の一方にパターン形成されていることを特徴とする赤外線センサ装置。
【請求項7】
被加熱物を載置するトッププレートと、
該トッププレートの下部に設置され前記被加熱物を電磁誘導加熱により加熱する電磁コイルと、
前記トッププレートの下方に該トッププレートから離間して設置された温度センサである請求項1から6のいずれか一項に記載の赤外線センサ装置と、
前記電磁コイルおよび前記赤外線センサ装置に電気的に接続され前記電磁コイルの出力に応じて前記反磁界発生コイルの出力を制御する制御部とを備えていることを特徴とする誘導加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−181973(P2012−181973A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43404(P2011−43404)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】