説明

走査ヘッドの較正装置および方法

電動の関節式走査ヘッド(16)における角度測定スケールを、基準加工品(40;60;80)を用いて較正する方法が記載される。この方法は、走査ヘッド(16)に取り付けられた走査プローブ(28)などの表面検出デバイスを走査ヘッド(16)の少なくとも1軸(A1,A2)のまわりに回転させ、基準加工品(40;60;80)に対し異なる複数の角度方向に表面検出デバイスを移動させる工程を含む。次に、その異なる角度方向のそれぞれで、表面検出デバイスにより、基準加工品(40;60;80)の少なくとも1つの特性を測定する工程が実行される。そして、測定された基準加工品(40;60;80)の特性を用い、また付加的に既知または較正済みの基準加工品(40;60;80)の特性を用いて、走査ヘッドの少なくとも1つの測定スケールに対する誤差マップまたは関数を生成する。この方法は、走査ヘッド(16)を移動させるために、座標測定機械(14)などの座標位置決め機械の使用を含むことができる。基準加工品(40;60;80)は、単一の特徴部または配列された複数の特徴部(46;66)を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定スケールを較正するための装置および方法に関する。特に本発明は、電動走査ヘッドにおける測定スケールを較正するための装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
座標位置決め機械上に電動走査ヘッドを搭載することが特許文献1により知られている。電動走査ヘッドは、これに取り付けられたスタイラスを2つの直交する軸のまわりに回転できるようにする。よって、スタイラスをこれら2軸のまわりに角度を付けて位置決めできる一方、座標位置決め機械により電動走査ヘッドを機械の作動ボリューム内のいかなる位置にも位置づけることが可能となる。
【0003】
かかる電動走査ヘッドは座標位置決め機械に対しより高い走査のフレキシビリティを提供する。電動走査ヘッドは、それに取り付けられたプローブまたはスタイラスを多くの異なる向きをもって位置づけることができるからである。
【0004】
電動走査ヘッドは、それに取り付けられたプローブ、スタイラスまたはその他のデバイスを1以上の軸のまわりに回転できるようにする。従って、電動走査ヘッドにはこの1以上の軸のまわりの回転を測定するための1以上のトランスジューサが設けられる。トランスジューサは、一般的には測定スケールおよび読み取りヘッドを含んだエンコーダである。正確な測定を行うために測定スケールは較正される。
【0005】
特許文献2は、電動走査ヘッドにおけるエンコーダまたは測定スケールを較正する方法を開示している。電動走査ヘッドは較正された回転ステージに直接結合する。走査ヘッドはその回転軸の1つのまわりに回転する一方、走査ヘッドにおけるエンコーダの読みは回転ステージにおけるエンコーダの読みと同時に記録される。
【0006】
そして、走査ヘッドのエンコーダからの位置の読みと、較正済み回転ステージの位置の読みとが比較される。
【0007】
この方法は、電動走査ヘッドと較正済み回転ステージとが精度高く位置合わせされていなければならないという点で不利である。
【0008】
特許文献2はまた、電動走査ヘッド内のエンコーダを角干渉計(angular interferometer)を用いて較正する方法を開示している。角干渉計の光路内において、走査ヘッド上には屈折性の加工品(refractive artefact)が取り付けられる。走査ヘッドがその回転軸の1つのまわりに回転する一方で、走査ヘッドのエンコーダおよび干渉計装置により測定が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第90/007097号パンフレット
【特許文献2】国際公開第06/014567号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の形態では、基準加工品の特性を用いて走査ヘッド内の測定スケールを較正するための方法が提供され、この方法は、
(i)前記走査ヘッドに取り付けられた表面検出デバイスを前記走査ヘッドの少なくとも1軸のまわりに回転させ、前記基準加工品に対し異なる複数の角度方向に前記表面検出デバイスを移動させる工程と、
(ii)該工程(i)の異なる角度方向のそれぞれで、前記表面検出デバイスにより、前記基準加工品の少なくとも1つの特性を測定する工程と、
(iii)該工程(ii)で測定された前記基準加工品の特性を用いて前記走査ヘッドの少なくとも1つの測定スケールに対する誤差マップまたは関数を生成する工程と、
を具える。
【0011】
よって本発明は、所謂能動式の、すなわち電動走査ヘッドの1以上の回転軸の角度方向を測定する1以上の測定スケールを較正するための簡便な技術を提供する。特に、前記方法は、表面検出デバイス(例えば測定プローブ)を前記走査ヘッドの1以上の軸のまわりに回転させ、異なる複数の角度方向にするようにしている。これら異なる角度位置のそれぞれにおいて、基準加工品の特性(例えば、前記加工品の較正済み寸法および/または加工品の特徴部の位置)が前記表面検出デバイスを用いて測定される。
【0012】
測定された特性を分析すること、例えば、測定された特性を、基準加工品の既知の(例えば所定もしくは較正済みの)特性、あるいは基準加工品の1以上の固定された位置的特徴の測定位置の変動(variations)と比較することによって、1以上の測定スケールに対する誤差マップまたは関数を確立することができる。そして、この誤差マップまたは関数を走査プローブにより行われる次の測定に適用することで、走査ヘッドの回転配向(rotational orientation)を測定する1以上の測定スケール(例えばエンコーダ)に関連した誤差を軽減または除去することができる。
【0013】
本発明の方法は、較正済みの回転ステージを用いる従来の較正方法と比較して、較正済みの回転ステージの回転軸に対し走査ヘッドの回転軸を精度高く位置合わせすることが不要となる点で有利である。さらに、従来の方法では、較正済み回転ステージと走査ヘッドの回転軸との偏心に起因した誤差を、走査ヘッドの測定スケールに純粋に関連した誤差から除去する(deconvolute)ことができなかった。これに対し本発明は、かかる偏心誤差が存在しない方法を提供するため、公知の技術よりも容易に実行できるだけでなく、較正精度を向上することのできる較正技術を提供することが可能となる。
【0014】
基準加工品は、少なくとも1つの較正済みの(例えば既知の、または予め正確に測定された)特性を持つ較正済みの加工品とすることが有利である。そして工程(iii)は、工程(ii)で測定された基準加工品の特性と基準加工品の較正済みの1以上の特性との差から誤差マップまたは関数を生成する工程を含むことが有利である。誤差マップまたは関数は、特性が測定される異なる角度方向のそれぞれで測定された特性(例えば加工品の固定的な位置特徴部の測定位置)の変動からも、あるいは代替的に当該変動から、生成することができる。
【0015】
工程(ii)では、基準加工品の特性のそれぞれの測定を通じ、走査ヘッドを用いて表面検出デバイスを走査ヘッドの少なくとも1軸のまわりに回転させるようにすることが簡便である。換言すれば、表面検出デバイスは、工程(ii)における測定のそれぞれを通じ、走査ヘッドによって好ましく移動される。測定値を得る際に工程(ii)で提供される走査ヘッドのいかなる動きも、走査ヘッドを異なる角度方向に配置するために工程(i)で提供される動きよりも小さい角度範囲にわたっていることが有利である。例えば、工程(i)は走査ヘッドの第1軸のまわりに表面検出デバイスを約10度ずつ回転させることを含み得る一方、工程(ii)は走査ヘッドの1以上の軸のまわりに2、3度だけの回転運動を提供することを含み得る。工程(i)で用いるべく選択される異なる角度方向を、較正している走査ヘッド少なくとも1つの回転軸の操作可能な角度範囲にわたって分散させる(例えば均等に分散させる)ことも好ましいことである。
【0016】
走査ヘッドを座標位置決め装置(例えば座標測定機械)の可動アームまたはクイルに取り付け可能な、または取り付けられたものとし、走査ヘッドの全体が基準加工品に対して移動(例えばx、yおよびz軸に沿って並進)できるようにすることができる。例えば、走査ヘッドは、座標位置決め装置の可動アームに取り付け可能なベース部を含むものとすることができる。そして工程(ii)は、基準加工品の特性測定のそれぞれを通じて、走査ヘッドのベース部の最小限の動きのみを提供するものとすることができる。例えば、工程(ii)を通じたベース部の動きを5cm未満、3cm未満または1cm未満の移動に制限することができ、2、3ミリメートル以下の動きが提供されることが好ましい。工程(ii)はまた、基準加工品の特性測定のそれぞれを通じて、走査ヘッドのベース部を静止状態または実質的静止状態に保つようにするものであることが有利である。工程(ii)を通じた表面検出装置の動きの大部分または全部を提供するべく走査ヘッドを用いることは、座標位置決め装置の位置(例えばx,y,z)測定値の誤差に起因する基準加工品の測定特性の誤差を最小限にする上で有利である。
【0017】
基準加工品の特性は工程(i)において測定することができる。基準加工品の同一または異なる特性は、異なる角度方向のそれぞれで測定され得る。工程(ii)は、基準加工品の少なくとも1つの較正済み寸法の測定を含んでいることが有利である。例えば、工程(ii)では、使用される加工品に従って、球の半径、リングゲージ直径、立方体の寸法などを測定することができる。工程(ii)は、基準加工品の少なくとも1つの特徴部の位置の測定を含んでいることが有利である。例えば、異なる複数の角度方向に配置した表面検出デバイスによって単一の特徴部の位置を測定することができ、表面検出デバイスが異なる複数の角度方向に配置されたときに複数の特徴部の異なる1つの位置が測定されるようにすることができる。
【0018】
基準加工品が複数の特徴部の配列を備えていることが有利である。好適には、配列された特徴部の相対的な位置は既知または較正済みのものである。例えば、特徴部の相対位置は、高精度の測定技術および/または高精度の座標位置決め装置を用いて予め測定される。後述する好適実施形態において、基準加工品は、中心軸のまわりに実質的に不変の半径位置に配置され、その中心軸のまわりに実質的に等しい角度をおいて分離させたボールまたはその他の特徴部の配列を含んだものとすることができる。
【0019】
上記で概説したように、走査ヘッドは、座標位置決め装置の可動プラットフォームに取り付け可能な、またはこれに取り付けられたベース部を具えることができる。特徴部の配列を備えた基準加工品が本方法に用いられている場合には、走査ヘッドのベース部は工程(i)を通じて実質的に静止状態に保持されていることが有利である。そして工程(i)は、走査ヘッドのみを用い、配列された特徴部のそれぞれに対して表面検出デバイスを順次移動させる(すなわち走査ヘッドの少なくとも1軸のまわりに回転させる)ものとすることができる。加えて、上述のように、工程(ii)の測定を通じ、走査ヘッドのベース部を実質的に静止状態に保持するか、または最小限の量だけ移動させるようにすることが有利である。この方法により、走査ヘッドの1以上の測定スケールを較正する際の座標位置決め装置のどのような誤差も排除することができる。またこれにより、かかる方法を用いて走査ヘッドを較正する際に座標位置決め機械を不要とし、単に治具を用いて走査ヘッドを基準加工品に対し所望位置に保持することができるようになる。
【0020】
本発明の方法はまた、単一の特徴部を含んだ基準加工品を用いても実現できる点で有利である。よって本方法は、座標位置決め装置を較正するプロセスの他の部分を通じても使用可能な、既知の形態の基準加工品(例えば既知の半径をもつ較正済みの球)を用いても実現することができる。例えば、座標位置決め装置のスケールの較正あるいはそのチェックに用いるために、較正済みの球が装置とともに供給されることは通常行われていることである。
【0021】
走査ヘッドによって異なる角度方向に回転する表面検出デバイスにより測定が行われる場合、走査ヘッドは座標位置決め装置の可動アームに取り付けられていることが好ましい。例えば、走査ヘッドのベース部は、座標位置決め装置(例えば座標測定機械)の可動アームまたはクイルに取り付けられたものとすることができる。そして、工程(i)はまた、表面検出デバイスが異なる複数の角度方向のそれぞれに移動する際に基準加工品に対して走査ヘッドを移動させる工程を含むことができる。この方法により、表面検出デバイスを、基準加工品の単一の特徴部に対して多数の表面検出関係を取るようにすることが可能となる。例えば、較正済みの(例えば既知の半径をもつ)球に対し、異なる複数の方向から表面検出デバイスを位置合わせすることができる。
【0022】
単一の(例えば較正された)特徴部を含んだ基準加工品を用いて本発明の方法を実施することは、典型的には、基準加工品の所要の測定を行う間に座標位置決め装置を用いて走査ヘッドを移動させる必要はあるが、工程(ii)を通じ、座標位置決め装置を用いて走査ヘッドを移動させることは、不要となるかあるいは少なくとも最小限で済ますことができるものである。従って、工程(ii)で得られる基準加工品の測定値は、特に工程(ii)が基準加工品の特徴部の寸法を測定するものである(例えば球の半径の測定が用いられる)場合には、座標位置決め装置に関連した誤差を実質的に含まないものとすることができる。
【0023】
本発明の方法に用いられる基準加工品は、1つの特徴部、または複数もしくは配列された特徴部を含み得る。複数もしくは配列された特徴部が設けられている場合、これらの特徴部は同一形態でもよいし、異なる形態でもよい。各特徴部は、その表面の複数ポイントの位置を測定することで容易に測定可能な寸法を有したもの、および/または、その表面の1以上のポイントの位置を測定することで容易に決定可能な位置を有したものとすることができる。基準加工品は、球、リングゲージ、ボア、ボスまたは立方体の少なくとも1つを含んでいることが有利である。当業者であれば、多くのその他の特徴部を設け得ることに気付くであろう。
【0024】
どのような形式の表面検出デバイスが走査ヘッドに搭載されてもよい。表面検出デバイスは走査ヘッドに恒久的に取り付けられたもの(例えば走査ヘッドと一体に形成されたもの)であってもよいし、表面検出デバイスの少なくとも一部が解除可能に走査ヘッドに取り付けられたものであってもよい。表面検出デバイスは、接触デバイス(例えば偏向可能なスタイラスを有する測定プローブ)であってもよいし、非接触デバイス(光学式または容量型測定プローブ)であってもよい。この種の測定プローブは当業者に知られている。
【0025】
走査ヘッドに取り付けられる表面検出デバイスは(接触または非接触の)走査プローブを含む。走査プローブは、好ましくは、偏向可能なスタイラスとスタイラスの偏向量を測定するためのセンサとを有する所謂走査式あるいはアナログ式の測定プローブである。かかる走査プローブが用いられる場合、工程(ii)は、基準加工品の表面上の経路に沿って走査を行うことで、異なる角度方向のそれぞれで基準加工品の特性を測定することを含むのが有利である。例えば、接触式走査プローブのスタイラスチップを用いて加工品の特徴部の表面上の経路に沿ったトレースまたは走査を行うこと;次に、操作を通じて測定されたスタイラスの偏向データを用いて、所要の加工品寸法および/または加工品の特徴部の位置を決定可能とする走査経路に沿った複数ポイントの位置を決定すること、が可能である。
【0026】
好適実施形態においては、基準加工品は少なくとも1つの球を含み、工程(ii)は、異なる角度方向のそれぞれについて球の表面上の円状経路に沿った走査を行い、当該球の半径および/または中心位置を確定する工程を含む。好ましくは、球上の円形経路は、30度と40度との間、例えば35度の緯度に位置したものとされる。既知の半径を持つ球に対しては、これにより全3つの寸法(x,y,z)とほぼ同レベルの不確実性をもって、球の中心位置を決定することが可能となる。
【0027】
走査ヘッドに取り付けられる表面検出装置は、有利には所謂タッチトリガプローブを具えることができる。タッチトリガプローブは、対象に接触するための偏向可能なスタイラスを有する接触型のものとすることができる。タッチトリガプローブは、その名の示すとおり、スタイラスの偏向量の測定を提供するものではなく、その代わりにスタイラスの偏向がある閾値を超えたときに出力すなわちトリガ信号を発行するものである。タッチトリガプローブが用いられる場合、工程(ii)は、異なる角度方向のそれぞれで基準加工品の表面上の分散した複数ポイントの測定を含むものとすることができる。測定されたこれら複数ポイントは、続いて基準加工品の特徴部の位置または寸法を決定するのに用いることができる。
【0028】
上述した方法を用いて較正される走査ヘッドは、所謂能動型ヘッドすなわち電動走査ヘッドを含み得る。特に本発明は、2軸電動走査ヘッドの測定スケールの較正に用いて至便である。ここに、当該ヘッドは、座標位置決め装置に取り付け可能な第1の固定部分すなわちベース部と、ベース部に対し第1軸(A1)のまわりに回転可能な第1の可動部分と、表面検出デバイスを保持し、第1の可動部分に対し第2軸(A2)のまわりに回転可能な第2の可動部分と、を具えている。かかる例において、本方法の工程(i)は表面検出デバイスを第1軸および/または第2軸のまわりに回転させ、これを基準加工品に対する表面検出関係となるようにする工程を含むことができる。本方法の工程(ii)で得られる測定値は、表面検出デバイスを第1軸および/または第2軸のまわりに回転させ、基準加工品の1以上の所要の特性を確定するのに必要な、基準加工品の表面上のポイントの位置を表面検出デバイスが測定することによっても作成することができる。走査ヘッドの各回転軸は少なくとも1つの位置エンコーダを含むことができ、これはその軸の回転位置の測定値を提供することで、較正される測定スケールを含むものとなる。
【0029】
2以上の回転軸を持つ走査ヘッドが用いられる場合には、本発明を用いて各軸の測定スケールを同時もしくは順次に較正可能となることに注意すべきである。さらに、軸の1つを較正するべく用いられる正確な方法は、他の1以上の軸を較正するべく用いられるものであってもよいし、あるいはこれと異なるものでもよい。例えば、第1の基準加工品を使用する方法を用いて走査ヘッドの第1軸の測定スケールを較正する一方、第2の(異なる種類の)基準加工品を使用する方法を用いて走査ヘッドの第2軸の測定スケールを較正するようにすることができる。従って、各回転軸に対して選択される最適の較正方法は、用いられる走査ヘッドの種類、特に、較正される走査ヘッドの1以上の回転軸に関連した角度範囲によって決まることになる。
【0030】
本発明の第2の形態では、座標位置決め装置のための走査ヘッドシステムが提供され、該走査ヘッドシステムは上記概説した方法を用いて演算された誤差マップまたは関数を記憶している。走査ヘッドシステムは走査ヘッドおよび制御インターフェースを具えることができる。走査ヘッドおよび制御インターフェースは、例えば、誤差マップまたは関数を記憶する電子メモリを具えることができる。
【0031】
本発明の第3の形態では、複数の較正済み特徴部を含んだ較正用加工品を用いて走査ヘッドを較正するための方法が提供され、この方法は、(i)前記走査ヘッドに取り付けられた表面検出デバイスを前記走査ヘッドの少なくとも1軸のまわりに回転させ、前記複数の較正済み特徴部のうち選択された較正済み特徴部に対して表面検出関係をもつように前記表面検出デバイスを移動させる工程と、(ii)前記表面検出デバイスにより、前記較正用加工品の前記選択された較正済み特徴部の少なくとも1つの特性を測定する工程と、(iii)さらに選択された少なくとも1つの較正済み特徴部に関して前記工程(i)および(ii)を繰り返す工程と、(iv)前記工程(ii)で測定された前記較正用加工品の特性と前記較正用加工品の較正済みの特性との差から前記走査ヘッドの少なくとも1つの測定スケールに対する誤差マップまたは関数を生成する工程と、を具える。工程(i)を通じた前記表面検出デバイスの動きは、前記走査ヘッドの前記少なくとも1軸のまわりの、前記走査ヘッドの回転のみで提供されることが有利である。
【0032】
本発明の第4の形態では、第1の特徴部を含んだ基準加工品を用いて走査ヘッドを較正するための方法が提供され、この方法は、(i)前記走査ヘッドに取り付けられた表面検出デバイスを前記第1の特徴部に対する第1の角度方向に配置する工程(i)と、(ii)前記表面検出デバイスにより、前記基準加工品の前記第1の特徴部の特性を測定する工程と、(iii)前記走査ヘッドを用いて前記表面検出デバイスを前記走査ヘッドの少なくとも1軸のまわりに回転させることで、前記表面検出デバイスが前記基準加工品の前記第1の特徴部に対して異なる角度方向を取るようにする工程と、(iv)前記表面検出デバイスにより、前記基準加工品の前記第1の特徴部の特性を再測定する工程と、(v)前記工程(ii)および(iv)を通じて得られた前記基準加工品の前記第1の特徴部の測定された特性から、前記走査ヘッドの少なくとも1つの測定スケールに対する誤差マップまたは関数を生成する工程と、を具える。前記工程(iii)および(iv)は、順次に、複数回数繰り返されるものとすることができる。有利には、前記走査ヘッドは座標位置決め装置の可動アームに取り付けられたものとすることができ、工程(iii)はまた、前記可動アームを用いて前記走査ヘッドを移動させる工程を含むことができる。
【0033】
本発明の第5の形態では、走査ヘッドを較正するための方法が提供され、この方法は、(i)前記走査ヘッドに取り付けられた表面検出デバイスを用いて基準加工品の特性を測定する工程と、(ii)異なる角度方向の範囲で回転する前記走査ヘッドの1以上の回転軸に関して前記工程(i)の測定を繰り返す工程と、(iii)前記工程(i)で得られた前記加工品の測定された特性から、前記走査ヘッドの前記1以上の回転軸の1以上の測定スケールに対する誤差マップまたは関数を生成する工程と、を具える。
【0034】
従って本発明は、較正用基準加工品を用いて走査ヘッドを較正するための方法が提供され、この方法は、(i)前記走査ヘッドに取り付けられた表面検出デバイスを用いて前記較正用加工品を測定し、第1の測定された較正用特性を提供する工程と、(ii)前記表面検出デバイスを前記走査ヘッドの少なくとも1軸のまわりに回転させ、前記較正用加工品に対する前記表面検出デバイスの角度方向を変える工程と、(iii)前記表面検出デバイスを用いて前記較正用加工品を測定し、第2の測定された較正用特性を提供する工程と、(iv)前記第1の測定された較正用特性および前記第2の測定された較正用特性を、前記較正用加工品の既知の較正済み特性と比較することで、前記走査ヘッドに対する誤差マップまたは関数を生成する工程と、を具える。
【0035】
また、本発明は、1以上の較正済みの球を含んだ較正用加工品を用いて走査ヘッドにおける測定スケールを較正するための方法を提供し、該方法は、(a)前記走査ヘッドに取り付けられた表面検出デバイスを前記走査ヘッドの1軸のまわりに回転させ、前記少なくとも1つの球に関し異なる角度をもって、前記表面検出デバイスを前記少なくとも1つの球に対して位置合わせする工程と、(b)前記表面検出デバイスにより、前記走査ヘッドのそれぞれの位置で前記少なくとも1つの球を測定する工程と、(c)前記測定によって決定された前記少なくとも1つの球の測定寸法を、その球の較正済み寸法と比較する工程と、(d)前記球の前記測定された寸法と前記較正済みの寸法との差から誤差マップまたは関数を生成する工程と、を具える。前記少なくとも1つの球の寸法には、好ましくは、前記少なくとも1つの球の球中心および球半径の少なくとも一方が含まれる。前記少なくとも1つの球は単一の球であってもよい。中心軸のまわりに円状または弧状に配置された球の配列を含んだものとしてもよい。
【0036】
ここでは較正用加工品についても記載される。該較正用加工品は、ベースと、該ベースに取り付けられた特徴部の配列と、を具え、当該特徴部は、中心軸のまわりに配置され、互いに実質的に等しい角距離を有し、かつ前記中心軸から等しい半径方向距離を有している。好ましくは、特徴部は球である。特徴部は弧状または円状に配置されたものとすることができる。かかる較正用加工品を用いて走査ヘッドにおける測定スケールを較正する方法についても記載される。該方法は、(a)前記較正用加工品の中心軸に対し前記走査ヘッドの回転軸を合わせる工程と、(b)前記走査ヘッドに取り付けられた表面検出デバイスを前記中心軸のまわりに回転させ、前記特徴部に対して前記表面検出デバイスを位置合わせする工程と、(c)前記表面検出デバイスによる前記特徴部を測定する工程と、(d)前記較正用加工品上の他の特徴部に対して前記工程(b)および(c)を繰り返す工程と、(e)前記特徴部の前記測定された位置を前記特徴部の較正済みの位置と比較する工程と、(f)前記特徴部の前記測定された位置と前記特徴部の前記較正済みの位置との差から誤差マップまたは関数を生成する工程と、を具える。好ましくは、前記特徴部を測定する工程は、前記球の中心を測定する工程を含む。前記特徴部を測定する工程はまた、前記特徴部の離散した1以上の測定値を得る工程、または前記特徴部の表面を走査する工程を含んでいてもよい。
【0037】
また、本発明は、較正済みの球を含んだ較正用加工品を用いて走査ヘッドにおける測定スケールを較正するための方法を提供し、該方法は、(a)前記走査ヘッドに取り付けられた表面検出デバイスを前記走査ヘッドの1軸のまわりに回転させ、前記球に関し異なる角度をもって、前記表面検出デバイスを前記球に対して位置合わせする工程と、(b)前記表面検出デバイスにより、前記走査ヘッドの異なる位置で前記球を測定する工程と、(c)前記測定によって決定された前記球の寸法を、その球の較正済み寸法と比較する工程と、(d)前記球の前記測定された寸法と前記較正済みの寸法との差から誤差マップまたは関数を生成する工程と、を具える。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る走査装置を含む座標測定機械の正面図である。
【図2】電動走査ヘッドの断面図である。
【図3】環状に配された球を持つ較正用加工品を示す図である。
【図4】環状に配された球を持つ較正用加工品を測定する測定プローブおよび走査ヘッドを示す図である。
【図5】図3および図4の較正用加工品の球を示す図である。
【図6】弧状に配された球を持つ較正用加工品を示す図である。
【図7】弧状に配された球を持つ較正用加工品を測定する測定プローブおよび走査ヘッドを示す図である。
【図8】加工品の較正を行うための方法を示す図である。
【図9】較正用の球を測定する走査ヘッドを示す図である。
【図10】較正用の球に対する走査ヘッドの2つの位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
添付の図面を参照し、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0040】
図1は、座標測定装置(CMM)などの座標位置決め装置に搭載された電動走査ヘッドを示している。測定されるべきワークピース10はCMM14のテーブル12に搭載され、電動走査ヘッド16はCMM14のクイル18に取り付けられている。スピンドルは、公知の方法により、テーブルに対する方向X,Y,Zにモータ駆動が可能である。工作機械あるいはロボットアームなど、他の種類の座標位置決め装置が用いられてもよい。
【0041】
図2に示すように、電動走査ヘッド16は、可動部を支持するベースすなわちハウジング20により形成される固定部を含んでいる。可動部は、ハウジング20に対してモータM1により軸A1のまわりに回転可能なシャフト22の形態である。シャフト22はさらなるハウジング24に固定され、これは、ハウジング24に対してモータM2により軸A1に垂直な軸A2のまわりに回転可能なシャフト26を支持している。
【0042】
本例では、表面検出デバイスはワークピース接触チップ30を有するスタイラス29をもつプローブ28であり、電動走査ヘッドに取り付けられている。ヘッドのモータM1,M2がワークピース接触チップを軸A1またはA2に関し傾けて位置づけでき、CMMのモータがCMMの3次元座標構造のどの位置にも電動走査ヘッドを直線的に位置づけできるように構成されていることで、走査される表面に対しスタイラスチップが所定の関係となるようにされる。この例では、モータM1およびM2は直接駆動型のものであり、これにより、コントローラからの要求に応答してモータは速やかに動作できる。他の種類の駆動構成も可能である。
【0043】
走査ヘッドの直静的変位を測定するためにCMMには直線位置トランスジューサが設けられ、各軸A1およびA2に関するスタイラスの角変位を測定するために走査ヘッドには角位置トランスジューサT1およびT2が設けられる。
【0044】
図2に示されるプローブは走査プローブであり、偏向可能なスタイラス29を有するとともに、スタイラスの偏向量を測定するトランスジューサをプローブ内に有している。タッチトリガプローブを用いることも可能であり、これはスタイラスが偏向した時を検出するもので、偏向の程度を検出するものではない。そのほか、光学式、容量型あるいは誘導型などの非接触型プローブを用いることもできる。
【0045】
コントローラすなわちPC15はCMM14および走査ヘッド16に対して駆動信号を提供するとともに、CMM、走査ヘッドおよび測定プローブ内のトランスジューサからの入力を受信する。
【0046】
走査ヘッド内のトランスジューサT1およびT2は、一般にはエンコーダであり、ロータリー式の測定スケールおよび読取ヘッドを含んでいる。良好な精度を提供する目的で、これらトランスジューサの各々または双方が較正されることが好ましい。
【0047】
図3は、走査ヘッド16内のエンコーダを較正するために用いられる基準すなわち較正用加工品40を示している。較正用加工品40は中心軸44を有するベース42と、本例では中心軸のまわりに取り付けられる球46とした特徴部の配列を含んでいる。球46のそれぞれは、ステム48を介してベース42に取り付けられている。球は、互いに、実質的に等しい距離で角度方向に設けられている。
【0048】
図4〜図5を参照し、較正用加工品を用いて走査ヘッド内の軸A1のエンコーダを較正する方法を説明する。図4は、この例では測定プローブ28とした表面検出デバイスを示し、これは走査ヘッド16に取り付けられている。
【0049】
第1の工程において、で同走査ヘッド16が較正用加工品40の中心軸に対して位置合わせされ、A2のヘッド角度が調整されることで、測定プローブ28が所望の角度、例えば40度となるようにされる。較正用加工品40の中心軸は、3つの球を測定することで決定することができる。
【0050】
次に、A1のヘッド角度が調整され、測定されるべき第1の球46に対して表面検出デバイス16が位置合わせされる。この位置合わせは、表面検出デバイス28が中心軸44と球46の中心との間に表面検出デバイス28を位置合わせするように行うことができる。
【0051】
球46などの球の中心を決定する方法を説明する。球の中心は、その表面上のポイントの十分な数の測定値を取ることにより、公知の方法で決定される。表面の複数の測定値は、複数の離散的な測定を行うことによって取得することができる。複数の測定値は、(接触型または非接触型の)走査測定プローブを用いて表面を走査することによっても取得することができる。例えば、接触式の走査プローブのスタイラスを球の表面上の経路に沿って駆動することができる。
【0052】
球の測定を通じ、表面検出デバイスの所要の動きは可能な限り走査ヘッドによって提供されることが好ましい。特に、座標位置決め装置(この例ではCMM)の動きは、2、3mmのみに制限されることが好ましく,これによってCMMの動きが測定の品質に影響を与えないものとなる。
【0053】
例えばタッチトリガプローブを用いて離散したポイントの測定を行う場合、CMMはX、YおよびZに移動し、および/または、ヘッドがA1およびA2軸について移動することで、表面検出チップが正確な位置に移動する。
【0054】
走査ヘッドの動きのみを用いて円形の輪郭を走査することもできるし、走査ヘッドの円形状の動きを用いる一方でCMMにより走査ヘッドを直線に沿って移動させることで螺旋形の輪郭を走査することもできる。この方法により、球表面上の走査経路に沿った複数ポイントが確立される。
【0055】
円形輪郭の走査が用いられる場合、当該円形輪郭が緯度35度に位置し、固定半径Rが前提であるときに最良の結果が得られることがわかっている。そして、3次元(x,y,z)における球中心は、球半径が一定であると仮定した球の最良当て嵌めプロセス(best fit process)により決定される。
【0056】
図5は緯度35度にあり固定半径Rをもつ球46の円形輪郭50を示している。
【0057】
上述したように、単一の走査円を用いて球を測定するとき、この円の上記緯度が、決定された中心の3座標(x,y,z)の品質に効果をもたらすことがわかっている。走査される円が赤道である場合、XY座標は良く決められるが、中心のZ座標の精度は非常に悪くなる。操作される円が極に近ければ、Z座標は良好となるがXY位置精度が低下する。球中心のZ座標およびXY座標の精度を折衷させる最良のものを実現する、円のデータの位置が存在する。30度〜40度の緯度で、3座標の精度がほぼ等しくなり、XY中心の品質は非常の良好のままとなる。この最適な折衷は、球のデータ分布に与える特別な最良当て嵌めの結果に基づくシステムノイズの効果を研究したモンテカルロシミュレーションを用いて決定されている。
【0058】
較正用加工品40は局所座標系を有する。平面がその局所座標系の主要な方向を提供し、その平面は、1つの球を基準として選択した、球46の中心に最良当て嵌めを行うことで決定される。局所座標系の第2の方向は最良当て嵌め円(the best-fitted circle)の中心から決定される。この局所座標系において、球中心のぞれぞれは円柱座標のセットR,H,Tを有する(ここで、R=半径、H=高さ、T=角度の座標である)。この局所座標系において、Tは較正用加工品の角度の較正を提供する。
【0059】
表面検出デバイスにより球が測定されると(例えば上述の方法を用いることによる)、電動走査ヘッドはA1軸のまわりに回転し、表面検出デバイスが次の球に近接して位置づけられる。同じ方法にて加工品の球が順次に測定され、測定された各球の球中心位置が提供される。
【0060】
加工品上のすべての球が測定されると、球中心の測定データを較正済みの球の中心位置と比較することができ、その差が、A1軸の回転位置を測定するのに用いられるエンコーダを較正するのに用いられる。この較正は、例えば正弦波または多項式関数などの誤差マップまたは誤差関数を生成することによって行うことができる。
【0061】
A2軸のエンコーダも同様の方法を用いて較正することができる。図6は、A2軸の較正を行うために使用可能な較正用加工品60を示している。較正用加工品は図3に示したものと同様であるが、ベース62がマウント63に90度の角度で取り付けられ、円状ではなく弧状となっている。同様に、球66は中心軸64のまわりに弧状に分布している。図7は、測定プローブ28が取り付けられた電動走査ヘッド16が較正用加工品60を測定するために位置づけられた状態を示している。ボール66が配置され、A2のヘッド角度をその作動範囲(例えば0度〜120度あるいは−120度〜+120度)の全体にわたって動かすことが可能となっている。
【0062】
較正ルーチンを通じ、走査ヘッド16は、そのA2軸が較正用加工品の中心軸64に位置合わせされて位置づけられる。この位置合わせはA1軸を用いて容易に行われる。A2のヘッド角度が調整され、表面検出デバイス28を各ボール66に近接して位置づけ、続いて上述と同様の方法にて球中心位置の適切な測定が行われる。
【0063】
本例では、A2軸についての較正の方法がA1軸について用いられたものと若干異なっていることに注意すべきである。A1軸について較正を行う際には、各球は円形輪郭により測定することができる。この円形輪郭にはA1およびA2軸の双方に関する動きが必要である。しかしながら、各球は同じz座標を有しているので、各球の測定にはA2軸の同じ動きが必要となる。各ボールの角位置においてヘッドの幾何学的誤差の影響は等しい。従って、較正結果にはいかなる誤差も誘発しない。
【0064】
しかしながら、A2軸についての較正を行う際、円状の走査を行うためにA1およびA2軸双方の動きが再び必要となるが、A1およびA2軸についての動きの量は球毎に異なったものとなる。A1軸上で用いる範囲は最低位の球で大きくなるので、ヘッドの幾何学的誤差は球毎に異なり、最低位の球でより現われるものとなる。従って、正確な測定を行う上で、離散した測定ポイントを取ることによって各球が好ましく測定される。しかしながら、較正用加工品の測定が長くなると、熱ドリフトが影響を及ぼし得る。これを排除するためには、第1に3つまたは4つの球の離散した測定ポイントを取り、続いて残りの球の走査を行うことで、A1軸上の範囲が有意の誤差を生じないようにするのに十分なだけ小さくなるようにすることができる。
【0065】
A1軸についてのものと同様に、測定データを用いて誤差マップまたは関数が生成される。
【0066】
上述した種類の、球を環状に配置した較正用加工品を較正プロセスに使用することには、いくつかの利点があることがわかっている。
【0067】
エンコーダを他のエンコーダに対して較正する従来の方法では、軸間の位置合わせが重要なものとなる。どのような偏心であっても、一次誤差(1回転あたりのうねりを持つ)を生じさせる。環状に配置した球を使用することで、加工品に付随した局所座標系においてデータの解析演算が行われるという事実により、一次誤差が最小限となる。偏心が存在している場合、角度をもって位置づけられたボールは角度α+誤差で測定され、この誤差は次のような一次関数として表すことができる。
【0068】
誤差=振幅×sin(α+位相)
従来技術のエンコーダ/エンコーダ較正の場合には、その誤差が直接的に較正値に含まれる。しかしながら、環状に配置した球を用いる本発明の方法においては、角度αとα+誤差との間のエンコーダ誤差の変動のみが較正に影響を与えることになる。エンコーダ誤差は概して変化のレートが低い。従って、導入される誤差は非常に小さく、このことが、本発明の方法における位置合わせは正確に設定する必要がないことの説明となる。
【0069】
較正用加工品の寸法は、CMM誤差の変動が測定を通じて非常に小さいものとなるようにされていることが好ましい。この例では、球は8mmの直径を有している。かかる小範囲にわたるCMM誤差は一般に無視してよいものである。
【0070】
環状に配置した球の解析によって、エンコーダ/エンコーダ較正よりも多くの情報が提供されるということにも注意すべきである。局所円柱座標系の使用は、各座標に影響するヘッド誤差(すなわちエンコーダ誤差)、ヘッド軸位置合わせの変動(すなわち軸A1の傾き誤差(swash error))に対応する高度座標(altitude co-ordinate)、および、加工品の熱的変動(thermal variation)を含むことになる加工品の球位置の半径方向の変動に対応する半径変動を切り離すものである。従って球の環状配置は、加工品の熱的変動およびセットアップされた測定の偏心から角度測定を切り離すものである。これにより、較正済みの軸の傾き誤差の測定も可能となる。
【0071】
上述した熱的変動の除去は、加工品の中心軸位置のシフトをもたらす熱膨張の影響が防がれるように加工品がCMMのテーブルに搭載されているときに生じる。例えば、3つのボールを加工品上に設け、CMMのテーブルに設けられた半径方向に延在する3つのV溝に係合するようにすることができる。これらのボールおよびV溝はほぼ120度離して設けられていることが好ましい。この方法により、加工品の熱膨張がボールの位置を半径方向にシフトさせても、加工品の中心軸のシフトは生じさせないものとなる。
【0072】
上述した方法に用いられる較正用加工品はいくつかの方法により較正可能である。例えば、較正済みのCMMを用いて、加工品に配された3つの球に対する球の円の中心位置と同様にして、円柱座標が演算される各球の位置を測定することができる。高精度で較正されたCMMを用いることにより、加工品の高精度の測定値を得ることが可能となる。
【0073】
較正用加工品はまた、自己較正(self calibration)の方法によっても較正可能である。図8A〜図8Dを参照してかかる方法を説明する。図8A〜図8Dには、明確化のために4つの球71、72、73および74のみを有した較正用加工品が示されている。加工品74は、角方向測定(angular measurement;M1〜M4)によって測定される4つの角方向ステップ(angular step;A1〜A4)を特徴づけている。加工品は、図8A〜図8Dに示すように、90度ずつ4回回転する。
【0074】
加工品の角方向ステップのそれぞれは正確なものではなく、従って角方向ステップは公称値プラス補正値として記述される:
1=A+a1 (1)
ここで、A1は実際の角方向ステップ、Aは公称の角方向ステップ、a1は補正値である。
【0075】
測定プロセスは誤差がないものではなく、各測定値は公称値プラス補正値として記述される:
1=M+m1 (2)
ここで、M1は実際の測定値、Mは公称測定値、m1は補正値である。
【0076】
較正用加工品が円形であるので、1回の全回転は正確に360度に一致する。従って、加工品補正値の合計は測定補正値の合計と同様にゼロとなる。
【0077】
ΣA+a1=360≧Σa1=0 (3)
4つの位置(P1〜P4)は、各加工品誤差が各測定誤差に混じった4×4個の測定値を生成する。次の行列はすべての関連を示している。
【0078】
【数1】

【0079】
各列の平均には加工品補正値がなく、従って測定補正値を提供する。斜め方向のそれぞれの平均には測定補正値がなく、従って加工品補正値を提供する。
【0080】
各球の中心位置は独立した測定値から生成され、従って独立した多数の測定値の平均の不確実性(uncertainty)は、統計的法則の適用により、ステップの数の平方根で除される。90個の球の環および0.5μmの球中心の測定反復性によって、較正用加工品および走査ヘッドの双方の較正の不確実性は約0.05μmとなるであろう。ヘッド軸の交点とスタイラスチップとの距離が250mmであれば、これは0.05秒(arc second)に等しい。
【0081】
図9および図10を参照し、電動走査ヘッドのエンコーダを較正するための本発明の第2の方法を説明する。特に、この第2の方法は、上述したような球を環状に配した較正用加工品を用いる代わりに、単一の球の形態の基準すなわち較正用加工品を用いる。
【0082】
基準加工品は、単一の較正用球90を具え、CMMなどの座標位置決め装置のベッド12に搭載される。CMMの電動走査ヘッド16は第1位置に位置づけられ、測定プローブ28が半径方向に球90の中心に向うよう、A1およびA2のヘッド軸が調整されている。ここで球は、球を環状配置した較正用加工品の場合と同様に、その表面のまわりで複数の測定が行われることにより測定される。測定は離散したポイントまたは走査されたポイントにより実現することができ、これらのポイントは、例えば、球上の円状または螺旋状経路に沿って取ることができる。測定ルーチンは、単一の走査ヘッドの動きを用いること、または走査ヘッドの動きといくらかの(好ましくは制限された)CMMの動きとの組み合わせを用いることによって実行される。
【0083】
上述のように球が測定された後、電動走査ヘッドはCMMにより新たな位置に移動する。この新たな位置は、球の中心から先の位置とほぼ同じ半径方向距離であるが、球に対して異なる角度となるように選択される。CMMの動きを提供することに加え、走査ヘッドもまた、そのA1軸のまわりに測定プローブを回転させるべく用いられ、これにより測定プローブが再び半径方向に球90の中心に向うようにされる。ここで球は上述した態様にて再測定され、さらなる半径および/または球中心の値が決定される。このプロセスは、球のまわりの複数の角度位置にて繰り返される。
【0084】
図10を参照するに、較正用球90のまわりで2つの角度位置にある測定プローブ28が示されている。これらの位置のそれぞれで球が測定され、半径および/または球中心位置の値が決定される。かかる測定が球のまわりの複数の位置で繰り返されることで、A1軸に関して複数の(異なる)角度位置を通って回転する測定プローブにより、球の複数の測定値が取得されることになる。従って、測定された球の特性の変動は、走査ヘッドのエンコーダにより測定されるときの、A1軸の角度方向における何らかの誤差により生じ得るものであることが理解される。よって、A1軸の測定された角度方向の関数としての球の特性の変動は、測定された角度方向を補正し得る誤差マップまたは関数を生成するために用いることができる。
【0085】
この技術においては、走査ヘッドを球のまわりのそれぞれの新たな位置に移動させ、測定プローブを球の中心に対し半径方向に位置合わせするために、CMMおよび走査ヘッドの双方の動きが必要となることに注意すべきである。従ってCMM位置の測定に関連した誤差の影響は、本方法の精度に及ぼす影響を有し得るが、しかしこれは異なる位置で測定されている球の特性に従うものである。
【0086】
球半径が走査ヘッドの異なる位置のそれぞれで測定される場合には、CMM誤差の影響はごく僅かなものであり、一般には無視できるものである。この理由は、球半径のような寸法測定はCMMに関連した誤差に大きく影響されないためである。球に対する各測定を通じてCMMは2、3mm程度の移動を要するのみであり、従って、球に対する各測定を通じてCMM誤差は事実上一定であるからである。よって、既知の(較正済みの)球半径と比較される異なる位置で測定された球半径の誤差は、CMMのいかなる誤差の影響をも受けることなく、走査ヘッド内のエンコーダ誤差を決定するのに用いることができる。従って、半径の測定データを用いることにより、較正の精度に影響を与えることなく、走査ヘッドを較正するために完璧でないCMMを用いることができる。例えば、測定によって得られた寸法データは、走査ヘッドの各位置についての較正済み寸法データと比較され、この差を用いて、先の実施形態で説明したのと同様の方法でエンコーダの較正を行うことができる。
【0087】
しかし走査ヘッドの異なる位置でそれぞれ球中心が測定される場合には、かかる球中心のデータはCMMにおける誤差の影響を受けることになる。CMMは球のまわりで大きな円を描くため、その幾何学的誤差(特に直角度誤差(squareness errors))が球中心の測定位置ひいては測定スケールの較正精度に影響を及ぼすことになる。従って、走査ヘッドを用いて基準加工品の位置(例えば球中心位置)の変動を測定する場合には、CMM誤差を最小限にするよう較正したCMMを用いるのが好ましいことがわかる。
【0088】
図10には、異なるA1の角度を得るべく水平面において異なる位置にある走査ヘッドが示されているが、異なるA2の角度を得るべく鉛直面において異なる位置に走査ヘッドを移動させるようにしてもよい。この方法によれば、A1軸およびA2軸双方に組み合わされるエンコーダスケールを較正可能となる。
【0089】
以上の例は2つの回転軸を有する走査ヘッドを較正する方法を記載したものであるが、単一の回転軸あるいは3以上の回転軸を有する走査ヘッドの較正についても、上述した方法を用いて実行可能であることに注意すべきである。また、上述の方法は、多軸走査ヘッドのいくつかの回転軸についてのみ較正を行うためにも使用可能であることに注意すべきである。また、本発明の異なる方法を使用して、走査ヘッドの異なる回転軸の較正を行うことも可能である。例えば、球を環状に配置した較正用加工品をベースとした方法を走査ヘッドの1回転軸の較正に用いる一方、単一の較正用球をベースとした方法を同じ走査ヘッドの他の軸の較正に用いるようにすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準加工品の特性を用いて走査ヘッド内の測定スケールを較正するための方法であって、
(i)前記走査ヘッドに取り付けられた表面検出デバイスを前記走査ヘッドの少なくとも1軸のまわりに回転させ、前記基準加工品に対し異なる複数の角度方向に前記表面検出デバイスを移動させる工程と、
(ii)該工程(i)の異なる角度方向のそれぞれで、前記表面検出デバイスにより、前記基準加工品の少なくとも1つの特性を測定する工程と、
(iii)該工程(ii)で測定された前記基準加工品の特性を用いて前記走査ヘッドの少なくとも1つの測定スケールに対する誤差マップまたは関数を生成する工程と、
を具え多ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記基準加工品は、少なくとも1つの較正済みの特性を持つ較正用加工品を含み、前記工程(iii)は、前記工程(ii)で測定された前記基準加工品の特性と前記基準加工品の前記較正済みの少なくとも1つの特性との差から前記誤差マップまたは関数を生成する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(ii)は、前記基準加工品の特性のそれぞれの測定を通じ、前記走査ヘッドを用いて前記表面検出デバイスを前記走査ヘッドの少なくとも1軸のまわりに回転させる工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記走査ヘッドは、座標位置決め装置の可動アームに取り付け可能なベース部を含み、前記工程(ii)は、前記基準加工品の特性測定のそれぞれを通じて、前記走査ヘッドの前記ベース部の最小限の動きのみを提供する工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(ii)は、前記基準加工品の特性測定のそれぞれを通じて、前記走査ヘッドの前記ベース部を静止状態に保つ工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(ii)は、前記基準加工品の少なくとも1つの較正済み寸法の測定を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記工程(ii)は、前記基準加工品の少なくとも1つの特徴部の位置の測定を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記基準加工品は、相対的な位置が較正されている複数の特徴部の配列を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記走査ヘッドは座標位置決め装置の可動アームに取り付け可能なベース部を含み、前記走査ヘッドの前記ベース部は前記工程(i)を通じて実質的に静止状態に保持されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基準加工品は単一の特徴部を含んでいることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記走査ヘッドは座標位置決め装置の可動アームに取り付けられ、前記工程(i)は、前記表面検出デバイスが異なる複数の角度方向のそれぞれに移動する際に前記基準加工品に対して前記走査ヘッドを移動させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記基準加工品は、球、リングゲージ、ボア、ボスまたは立方体の少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記走査ヘッドに取り付けられる前記表面検出デバイスは走査プローブを含み、前記工程(ii)は、前記基準加工品の表面上の経路に沿って走査を行うことで、異なる角度方向のそれぞれで前記基準加工品の特性を測定する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記基準加工品は少なくとも1つの球を含み、前記工程(ii)は、異なる角度方向のそれぞれについて前記球の表面上の円状経路に沿った走査を行い、当該球の半径および/または中心位置を確定する工程を含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記走査ヘッドに取り付けられる前記表面検出装置はタッチトリガプローブを含み、工程(ii)は、異なる角度方向のそれぞれで基準加工品の表面上の分散した複数ポイントの測定を行う工程を含むことを特徴とする請求項1ないし14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
座標位置決め装置のための走査ヘッドシステムであって、請求項1ないし15のいずれかの方法を用いて演算された誤差マップまたは関数を記憶することを特徴とする走査ヘッドシステム。
【請求項17】
複数の較正済み特徴部を含んだ較正用加工品を用いて走査ヘッドを較正するための方法であって、
(i)前記走査ヘッドに取り付けられた表面検出デバイスを前記走査ヘッドの少なくとも1軸のまわりに回転させ、前記複数の較正済み特徴部のうち選択された較正済み特徴部に対して表面検出関係をもつように前記表面検出デバイスを移動させる工程と、
(ii)前記表面検出デバイスにより、前記較正用加工品の前記選択された較正済み特徴部の少なくとも1つの特性を測定する工程と、
(iii)さらに選択された少なくとも1つの較正済み特徴部に関して前記工程(i)および(ii)を繰り返す工程と、
(iv)前記工程(ii)で測定された前記較正用加工品の特性と前記較正用加工品の較正済みの特性との差から前記走査ヘッドの少なくとも1つの測定スケールに対する誤差マップまたは関数を生成する工程と、
を具えたことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記工程(i)を通じた前記表面検出デバイスの動きは、前記走査ヘッドの前記少なくとも1軸のまわりの、前記走査ヘッドの回転のみで提供されることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
第1の特徴部を含んだ基準加工品を用いて走査ヘッドを較正する方法であって、
(i)前記走査ヘッドに取り付けられた表面検出デバイスを前記第1の特徴部に対する第1の角度方向に配置する工程(i)と、
(ii)前記表面検出デバイスにより、前記基準加工品の前記第1の特徴部の特性を測定する工程と、
(iii)前記走査ヘッドを用いて前記表面検出デバイスを前記走査ヘッドの少なくとも1軸のまわりに回転させることで、前記表面検出デバイスが前記基準加工品の前記第1の特徴部に対して異なる角度方向を取るようにする工程と、
(iv)前記表面検出デバイスにより、前記基準加工品の前記第1の特徴部の特性を再測定する工程と、
(v)前記工程(ii)および(iv)を通じて得られた前記基準加工品の前記第1の特徴部の測定された特性から、前記走査ヘッドの少なくとも1つの測定スケールに対する誤差マップまたは関数を生成する工程と、
を具えたことを特徴とする方法。
【請求項20】
前記走査ヘッドは座標位置決め装置の可動アームに取り付けられ、工程(iii)は前記可動アームを用いて前記走査ヘッドを移動させる工程を含むことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
走査ヘッドを較正するための方法であって、
(i)前記走査ヘッドに取り付けられた表面検出デバイスを用いて基準加工品の特性を測定する工程と、
(ii)異なる角度方向の範囲で回転する前記走査ヘッドの1以上の回転軸に関して前記工程(i)の測定を繰り返す工程と、
(iii)前記工程(i)で得られた前記加工品の測定された特性から、前記走査ヘッドの前記1以上の回転軸の1以上の測定スケールに対する誤差マップまたは関数を生成する工程と、
を具えたことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−530532(P2010−530532A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512765(P2010−512765)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002077
【国際公開番号】WO2008/155541
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(391002306)レニショウ パブリック リミテッド カンパニー (166)
【氏名又は名称原語表記】RENISHAW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】