説明

走行車両のキャビン構造

【課題】後輪フェンダの湾曲面に沿って斜めに配設するフレーム部材を、二次元曲げ加工により容易に成形することができる走行車両のキャビン構造を実現する。
【解決手段】走行車両のキャビン構造において、前後に湾曲した形状に成形された右及び左の後輪フェンダ30の上面側に、キャビンフレーム20の右及び左のフレーム部材50を、右及び左の後輪フェンダ30の湾曲面30Aに沿って斜めに配設し、後輪フェンダ30から斜め前方上方に延出された延出線に沿った仮想平面Xで、後輪フェンダ30の上部及び下部に亘って通過する仮想平面Xを設定し、フレーム部材50を仮想平面Xに沿って円弧状に曲げ加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行車体の後部に運転部を覆うキャビンを備え、キャビンを、キャビンフレームと、キャビンフレームの両側部に開閉可能に装備された右及び左のドアとを備えて構成してある走行車両のキャビン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術としては、例えば特許文献1に開示されているように、前後に湾曲した形状に成形された後輪フェンダ部(特許文献1の図2の13d)の上面側に、キャビンフレームのフェンダ支持材(特許文献1の図2の33)を、フェンダ支持材の後端部の幅が、フェンダ支持材の前端部の幅より狭くなるように、後輪フェンダ部の湾曲面に沿って斜めに配設してあるキャビンが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−22456号公報(図2及び図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
後輪フェンダ部の湾曲面に沿ってフェンダ支持材を前後方向に真直ぐ配設する場合には、後輪フェンダ部の湾曲面に沿ってパイプ材を二次元曲げ加工することで、フェンダ支持材を成形できる。しかし、特許文献1のキャビンのように、後輪フェンダ部の湾曲面に沿ってフェンダ支持材を斜めに配設しようとすると、後輪フェンダ部の湾曲面に沿ってパイプ材を二次元曲げ加工するだけでは足りず、パイプ材を三次元曲げ加工して、フェンダ支持材を成形する必要があった。
【0005】
その結果、例えば、三次元曲げ加工用の金型を採用してフェンダ支持材を成形すると、金型コストがかさみフェンダ支持材の部品単価が高くなるといった問題や、例えば、パイプ材を複数の方向から曲げ加工することでフェンダ支持材を成形すると、成形工数が掛かりフェンダ支持材の部品単価が高くなるといった問題があり、フェンダ支持材の製造コストを削減する観点から改善の余地があった。
本発明は、後輪フェンダの湾曲面に沿って斜めに配設するフレーム部材を、二次元曲げ加工により容易に成形することができる走行車両のキャビン構造を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は、走行車両のキャビン構造を次のように構成することにある。
走行車体の後部に運転部を覆うキャビンを備え、前記キャビンを、キャビンフレームと、前記キャビンフレームの両側部に開閉可能に装備された右及び左のドアとを備えて構成してある走行車両のキャビン構造であって、前後に湾曲した形状に成形された右及び左の後輪フェンダの上面側に、前記キャビンフレームの右及び左のフレーム部材を、前記右及び左のフレーム部材の後端部の幅が、前記右及び左のフレーム部材の前端部の幅より狭くなるように、前記右及び左の後輪フェンダの湾曲面に沿って斜めに配設し、前記後輪フェンダから斜め前方上方に延出された延出線に沿った仮想平面で、前記後輪フェンダの上部及び下部に亘って通過する仮想平面を設定し、前記フレーム部材を前記仮想平面に沿って円弧状に曲げ加工してある。
【0007】
(作用)
本発明の第1特徴によると、仮想平面が存在することを解析等により発見し、この仮想平面に沿ってフレーム部材を円弧状に曲げ加工することで、従来、三次元曲げ加工が必要であったフレーム部材を、二次元曲げ加工により容易に成形することができる。具体的には、例えば図2,図8及び図9(a)に示すように、仮想平面(図9(a)のX)に沿ってパイプ材を円弧状に二次元曲げ加工することで(図8の黒矢印)、後輪フェンダ(図2の30)の湾曲面に沿って斜めに配設するフレーム部材(図2の50)を容易に成形することができる。その結果、例えばフレーム部材を三次元曲げ加工する金型が不要になり、例えばパイプ材を複数の方向から曲げ加工しなくても一方向から二次元曲げ加工することでフレーム部材を成形できる。
【0008】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、例えばフレーム部材を三次元曲げ加工する金型費用が不要になり、フレーム部材の成形工数を節約することができて、フレーム部材の製造コストを削減できる。これにより、例えば後輪フェンダの湾曲面に沿ってフレーム部材を斜めに配設することでキャビン内の運転部空間を広く確保しながら、キャビンの製造コストを低く抑えることができる。
【0009】
[II]
(構成)
本発明の第2特徴は、本発明の第1特徴の走行車両のキャビン構造において、次のように構成することにある。
前記フレーム部材を角パイプで構成し、前記フレーム部材の断面視で前記フレーム部材の横側面が前記仮想平面に対し傾斜した状態で、前記フレーム部材を円弧状に曲げ加工してある。
【0010】
(作用)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第2特徴によると、円弧状に曲げ加工したフレーム部材を後輪フェンダの湾曲面に沿って斜めに配設すると、角パイプで構成されたフレーム部材の下面が後輪フェンダの湾曲面に沿って隙間無く配設されると共に、フレーム部材の横側面が後輪フェンダの湾曲面に略垂直な方向に沿って配設される。具体的には、例えば図8及び図9(a)に示すように、フレーム部材の横側面(図8の50A)が仮想平面(図9(a)のX,図8の黒矢印の方向の面)に対して傾斜した状態で円弧状に曲げ加工することで(図8のα)、図2及び図3に示すように、角パイプで構成されたフレーム部材(図3の50)の下面が後輪フェンダ(図3の30)の湾曲面(図3の30A)に沿って隙間無く配設されると共に、フレーム部材の横側面(図8の50A)が後輪フェンダの湾曲面に略垂直な方向に沿って配設される。
【0011】
これにより、キャビンフレームに装備されたドアの外周部とフレーム部材の横側面とを平行に近づけることができ、ドアの外周部を隙間無くフレーム部材の横側面に接当させることができる。その結果、キャビンフレームに装備されたドアのシール性を向上できる。
【0012】
(発明の効果)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第2特徴によると、フレーム部材の製造コストを削減しながら、キャビンフレームに装備されたドアのシール性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[トラクタの全体構成]
図1に基づいて走行車両の一例であるトラクタの全体構成について説明する。図1は、トラクタの全体側面図を示す。図1に示すように、このトラクタは、左右一対の操向操作及び駆動自在な前輪1と、左右一対の駆動自在な後輪2とを走行車体3に備えた四輪駆動仕様に構成されている。走行車体3の前部に、エンジン4等が内装されたボンネット部5を備え、走行車体3の後部に、ステアリングハンドル6、運転座席7等が内装されたキャビン8を備える。
【0014】
エンジン4の下部から前方に前部フレーム10が延出されており、この前部フレーム10に前輪1を装着する前車軸ケース等(図示せず)が支持されている。エンジン4から後方にクラッチハウジング11が延出されており、このクラッチハウジング11に運転座席7の下方に位置するミッションケース12及び後車軸ケース44が連結されて、エンジン4からの動力が後輪2に伝達されるように構成されている。
【0015】
走行車体3の後部に、左右一対のリフトアームにより構成されたリンク機構13及び動力取り出し軸14を備え、リンク機構13にロータリ耕耘装置等(図示せず)を昇降操作自在に連結し、動力取り出し軸14にロータリ耕耘装置等を連動連結することで、ロータリ耕耘装置等の昇降操作及び駆動ができるように構成されている。
【0016】
キャビン8は、キャビンフレーム20と、キャビンフレーム20の前面を覆うフロントガラス16と、キャビンフレーム20の両側面の乗降口に設けられた揺動開閉可能な一枚板状の左右のドア17と、キャビンフレーム20の後面を覆うリアガラス18とを備えて構成されている。なお、左右のドア17は、上下及び左右中央部が機体外側に湾曲した球状の曲面ガラスで構成されている。
【0017】
[キャビンフレームの詳細構造]
図2〜図6に基づいてキャビンフレーム20の詳細構造について説明する。図2は、キャビンフレーム20の全体斜視図を示す。図3及び図4は、キャビンフレーム20の全体左側面図及び横断平面図をそれぞれ示し、図5及び図6は、キャビンフレーム20の全体正面図及び全体背面図をそれぞれ示す。
【0018】
図2〜図6に示すように、キャビンフレーム20は、キャビンフレーム20のベースとなる下部フレーム21と、左右の後輪フェンダ30と、左右の後輪フェンダ30の間に位置する運転座席支持部材29と、キャビン8の床面となるデッキ板28と、左右の前縦フレーム31と、左右の後縦フレーム36とを備えて、4柱式に構成されている。
【0019】
下部フレーム21は、複数の角パイプ材を溶接成形して構成されており、左右のメインフレーム22と、左右のメインフレーム22に亘って設けられた横フレーム23と、左右のメインフレーム22から横外側に延出された左右の側部横フレーム24と、この左右の側部横フレーム24の外端部に設けられた側部前後フレーム25とを備えて構成されている。
【0020】
左右のメインフレーム22の後部は、上方へ屈曲した形状に成形されており、この左右のメインフレーム22の後端部の斜め後方上方に傾斜した部分に、キャビフレーム20の後部を後車軸ケース44側に支持する角パイプ材により成形された左右の支持フレーム26が固着されており、左右の支持フレーム26の下端部に横平板状の支持ブラケット27が固着されている。
【0021】
下部フレーム21の前部上面側には、横平板状のデッキ板28が固着されており、下部フレーム21の後部には、運転座席支持部材29が固定されている。運転座席支持部材29は、平板を下部フレーム21の後部の形状に合わせた屈曲した形状に成形されており、この運転座席支持部材29におけるデッキ板28の面より1段高い位置に位置する面に、運転座席7が配設される。
【0022】
運転座席支持部材29の左右両側部には、左右の後輪フェンダ30が固着されている。左右の後輪フェンダ30は、平板をプレス成形することによって構成されており、その前部内側の縁部がデッキ板28に固着され、その後部内側の縁部が運転座席支持部材29に固定されている。
【0023】
左右の後輪フェンダ30の側面視での形状は、後端部上面側がデッキ面28Aと略平行に成形され、このデッキ面28Aと略平行に成形された部分の前端部から所定の曲率半径で前方下方に湾曲した形状に成形され、これにより、後輪フェンダ30の前後に湾曲した湾曲面30Aが形成されている。湾曲面30Aは、左右方向には傾斜しておらず、前後方向にのみ湾曲した形状に成形されている。
【0024】
左右の後輪フェンダ30における湾曲面30Aの左右両側の縁部は、下方に湾曲した形状に成形されており、機体内側の湾曲した形状に成形された部分から下方に、操作パネル(図示せず)等を装着する下方に凹入した形状のパネル装着部30Bが一体成形されており、このパネル装着部30Bの下端縁が運転座席支持部材29に固着されている。
【0025】
デッキ板28の前端部における左右両端部に切り欠き部28Bが形成されて、この切り欠き部28Bに左右の前縦フレーム31の下端部が固着されて、前縦フレーム31が上方に延出されている。左右の前縦フレーム31の側面視での形状は、その上端部が下端部より少し後方に傾斜するように所定の曲率で湾曲した形状に成形されており、左右の前縦フレーム31の正面視での形状は、前縦フレーム31の上端部及び下端部が左右方向で略同じ位置に位置し、下端部から上端部に亘って所定の曲率で機体外側に湾曲した形状に成形されている。
【0026】
左右の前縦フレーム31には、フロントガラス16を装着する前側凹部31aが前縦フレーム31の長手方向の全長に亘って形成されており、フロントガラス16の縁部に装着したシール材(図示せず)が接当する前側凹部31aのシール面は、フロントガラスの縁部の形状に合わせて成形されている。左右の前縦フレーム31には、ドア17を装着するドア用凹部31bが前縦フレーム31の長手方向の全長に亘って形成されており、ドア17の縁部に装着したシール材(図示せず)が接当するドア用凹部31bのシール面は、ドア17の縁部の形状に合わせて成形されている。
【0027】
下部フレーム21の前端部における左右中央部には、正面視で門形の前部フレーム32の下端部が固着されており、この前部フレーム32に、ステアリングハンドル6を装着するハンドルポスト33等が支持されている。前部フレーム32の左右の下端部と、左右の前縦フレーム31の下端部とに亘って前部横フレーム34が固着されている。デッキ板28の上面側における左右両側端部に、左右の前縦フレーム31と左右の後輪フェンダ30とに亘って正面視での縦断面形状がL字状のステップフレーム35が固着されており、キャビン8に乗降する際における踏み台となるドア枠の下部が形成される。
【0028】
左右の後輪フェンダ30の後端部には、左右の後縦フレーム36の下端部が固着されて、この左右の後縦フレーム36が上方に延出されている。左右の後縦フレーム36の側面視での形状は、その上端部が下端部より少し前方に傾斜するように所定の曲率で湾曲した形状に成形されており、左右の後縦フレーム36の正面視での形状は、その上端部が下端部より少し内側に傾斜するように、上述した前縦フレーム31と略同じ所定の曲率で湾曲した形状に成形されている。
【0029】
左右の後縦フレーム36には、リアガラス18を装着する後側凹部36aが後縦フレーム36の長手方向の全長に亘って形成されており、リアガラス18の縁部に装着したシール材(図示せず)が接当する後側凹部36aのシール面は、リアガラス18の縁部の形状に合わせて成形されている。左右の後縦フレーム36には、ドア17を装着するドア用凹部36bが後縦フレーム36の長手方向の全長に亘って形成されており、ドア17の縁部に装着したシール材(図示せず)が接当するドア用凹部36bのシール面は、ドア17の縁部の形状に合わせて成形されている。
【0030】
左右の後縦フレーム36の外面側には、上下のヒンジ36cが固定されており、このヒンジ36cの上下向きの軸心周りで左右のドア17が揺動開閉自在に支持されている。
【0031】
左右の前縦フレーム31の上端部に亘って上部前部フレーム37が固着され、左右の前縦フレーム31の上端部と左右の後縦フレーム36の上端部に亘って左右の上部側部フレーム38が固着されて、左右の後縦フレーム36の上端部に亘って上部後部フレーム39が固着されている。左右の後縦フレーム36の下端部に亘って下部後部フレーム40が固着されており、この下部後部フレーム40の下面側は、左右の後輪フェンダ30及び運転座席支持部材29に固着されている。
【0032】
右の後輪フェンダ30の上面側には、後で詳説する右のフレーム部材50が右の後輪フェンダ30の湾曲面30Aに沿って斜めに配設されており、左の後輪フェンダ30の上面側には、後で詳説する左のフレーム部材50が左の後輪フェンダ30の湾曲面30Aに沿って斜めに配設されている。
【0033】
右のフレーム部材50は、断面形状が正方形状の角パイプ材を湾曲成形して構成されており、右のフレーム部材50の下面を右の後輪フェンダ30の上面側に接当させて固定した状態で、ドア17の縁部に装着したシール材(図示せず)が右のフレーム部材50の外側の横側面50Aに隙間無く接当するように、ドア17の縁部の形状に合わせて成形されている。右のフレーム部材50の後端部における外側の横側面50Aが、右の後縦フレーム36下端部のドア用凹部36bのシール面と略面一になるように、右のフレーム部材50の後端部が右の後縦フレーム36に固着されており、右のフレーム部材50の下端部(前端部)における外側の横側面50Aが、右の前縦フレーム31下端部のドア用凹部31bのシール面と略面一になるように、右のフレーム部材50の下端部(前端部)が右のステップフレーム35の後部上面側に固着されている。
【0034】
左のフレーム部材50は、断面形状が正方形状の角パイプ材を湾曲成形して構成されており、左のフレーム部材50の下面を左の後輪フェンダ30の上面側に接当させて固定した状態で、ドア17の縁部に装着したシール材(図示せず)が左のフレーム部材50の外側の横側面50Aに隙間無く接当するように、ドア17の縁部の形状に合わせて成形されている。左のフレーム部材50の後端部における外側の横側面50Aが、左の後縦フレーム36下端部のドア用凹部36bのシール面と略面一になるように、左のフレーム部材50の後端部が左の後縦フレーム36に固着されており、左のフレーム部材50の下端部(前端部)における外側の横側面50Aが、左の前縦フレーム31下端部のドア用凹部31bのシール面と略面一になるように、左のフレーム部材50の下端部(前端部)が左のステップフレーム35の後部上面側に固着されている。
【0035】
上記のように左右のフレーム部材50を構成することで、図4に示すように、左右のフレーム部材50は、右及び左のフレーム部材50の後端部の幅W1が、右及び左のフレーム部材50の前端部の幅W2より狭くなるように、右及び左の後輪フェンダ30の湾曲面30Aに沿って斜めに配設されている。なお、この実施形態でのフレーム部材50は、ドア17の縁部の形状に合わせて、平面視で機体外側に湾曲した形状に成形されている。
【0036】
上記のようにキャビンフレーム20を構成することで、キャビン8内における運転部空間、特に、運転者が乗り降り等するキャビン8前部の空間を広く確保できる。
【0037】
図1及び図4に示すように、デッキ板28前部の左右両側部における下面側には、左右の支持ブラケット41が固定されており(図4参照)、クラッチハウジング11から左右両側方にキャビンブラケット42が延出されている。キャビンブラケット42に防振ゴム43を介して支持ブラケット41を連結することで、キャビンフレーム20前部の左右両側部がクラッチハウジング11側に支持されている。
【0038】
後車軸ケース44から左右の後部キャビンブラケット45が延出されており、この後部キャビンブラケット45に防振ゴム46を介して支持フレーム26下部の支持ブラケット27を連結することで、キャビンフレーム20後部の左右両側部が後車軸ケース44に支持されている。
【0039】
[フレーム部材の詳細構造及び成形方法]
図7〜図9に基づいてフレーム部材50の詳細構造及び成形方法について説明する。図7は、左のフレーム部材50の部品図であり、図7(a)が左のフレーム部材50を機体内側から見た図であり、図7(b)が図7(a)のフレーム部材50を紙面右側から見た図(フレーム部材50を湾曲成形する方向から見た図)である。図8は、左のフレーム部材50の成形状況を説明するための概略断面図(正面図)である。図9は、仮想平面Xを説明する概略図であり、図9(a)がフレーム部材50付近の概略正面図であり(図5参照)、図9(b)がフレーム部材50を傾斜させて湾曲成形する場合における傾斜角αを説明する概略図である。なお、図7〜図9においては、左のフレーム部材50について説明するが、右のフレーム部材50についても左右の勝手が異なる以外の他の構成は同様である。
【0040】
図7に示すように、フレーム部材50は、断面形状が正方形の薄肉の角パイプ材(例えば鋼材としてSTKR)を湾曲成形して構成されており、このフレーム部材50に、ドア開閉用のダンパー(図示せず)を取り付ける取付ブラケット55と、乗降用の手摺(図示せず)を取り付ける複数の取付座56とが固着されている。
【0041】
フレーム部材50には、直線部分51と、直線部分51から支点P1を曲げ中心として曲率半径R1で湾曲成形された第1湾曲部分52と、この第1湾曲部分52から支点P2を曲げ中心として曲率半径R2で湾曲成形された第2湾曲部分53とが、角パイプ材の湾曲成形によって形成されている。フレーム部材50の第1湾曲部分52における上面側には、フレーム部材50の湾曲成形後において取付ブラケット55が固着され、フレーム部材50の第2湾曲部分53には、フレーム部材50の湾曲成形後において2つの取付座56が固着されている。
【0042】
ここで、曲率半径R1,R2は、後輪フェンダ30の前後に湾曲した湾曲面30Aの曲率半径から演算されたものであり、板金成形による製作誤差等が勘案されて設定される。なお、例えば、傾斜角αが比較的小さい場合であって、板金成形による製作誤差等で曲率半径R1,R2が後輪フェンダ30の湾曲面30Aの曲率半径と略等しくなるような場合には、曲率半径R1,R2を後輪フェンダ30の湾曲面30Aの曲率半径と略同じ曲率半径に設定してもよい。
【0043】
フレーム部材50は、その横側面50Aを仮想平面Xから傾斜角α傾斜させた状態で上述した曲率半径R1及びR2で湾曲成形されている。
【0044】
図8に示すように、例えばパイプベンダー等における角パイプの面を接当させる治具60の接当面60Aを傾斜角α傾斜させて(フレーム部材50の横側面50Aを仮想平面Xから傾斜角α傾斜させて)、支点P1(又は支点P2)に対して曲率半径R1(又は曲率半径R2)で図8中の紙面前後に湾曲した面を形成する。そして、治具60に対して直線状の角パイプを、図8の黒矢印に示す方向(仮想平面Xの沿う方向に相当)に二次元的に曲げ加工する。これにより、図7に示した形状にフレーム部材50を湾曲成形することができる。
【0045】
図9(a)に示す2点鎖線で示した曲線L1は、フレーム部材50における第1及び第2湾曲部分52,53の中心Pcが通る曲線であり(図8参照)、この曲線L1が全長に亘って含まれる平面が図9(a)の仮想平面Xである。仮想平面Xは、図3〜図5のVで示す白抜き矢印の方向の平面であり(ただし、図3〜図5の白抜き矢印の方向は概略で示したものである)、この仮想平面Xが、後輪フェンダ30から斜め前方上方に延出された延出線に沿った仮想平面に相当する。
【0046】
すなわち、図7及び図8で示したフレーム部材50を湾曲成形する曲げ方向(図8の黒矢印の方向)が仮想平面Xに沿う方向であり、フレーム部材50は、仮想平面Xに沿って円弧状に曲げ加工されている。なお、フレーム部材50を仮想平面Xに沿って円弧状に曲げ加工すればよく、例えば板金成形による製作誤差や、ドア17のシール部材等により、フレーム部材50の製作誤差が許容される場合には、仮想平面Xの向く方向に対して少し傾斜した方向からフレーム部材50を円弧状に曲げ加工してもよい。
【0047】
図9(a)に示すように、例えばフレーム部材50を斜めに傾斜させずに、フレーム部材を前後向きに後輪フェンダ30の湾曲面30Aに沿って配設した場合(図示せず)において、このフレーム部材の中心が通る曲線が、図9(a)に示す曲線L2である(図9(a)では、正面から見ているため直線として表れる)。この曲線L2が全長に亘って含まれる平面が図9(b)の前後平面Yである(図9(a)では、正面から見ているため直線として表れる)。
【0048】
図9(b)に示すように、仮想平面Xと前後平面Yとによって形成される角度が傾斜角αであり、この傾斜角αが上述した横側面50Aを仮想平面Xから傾斜させる角度であり、フレーム部材50を湾曲成形する場合に、傾斜させる角度である。なお、例えば板金成形による製作誤差等や、ドア17のシール部材等により、傾斜角αの誤差が許容される場合には、傾斜角αを、仮想平面Xと前後平面Yによって形成される角度に厳格に一致させる必要はなく、仮想平面Xと前後平面Yとによって形成される角度に近い角度で、フレーム部材50を湾曲成形してもよい。
【0049】
このように、フレーム部材50の断面視でフレーム部材50の横側面50Aが仮想平面Xに対し傾斜した状態でフレーム部材50を湾曲成形することで、後輪フェンダ30にフレーム部材50を取り付けた状態で、フレーム部材50の下面が隙間無く後輪フェンダ30に接当し湾曲面30Aに沿って配設されると共に、フレーム部材50の外側の横側面50Aが略全長に亘って後輪フェンダ30の湾曲面30Aに略垂直な方向で配設される(横側面50Aの上部が機体内側に傾斜していない状態でフレーム部材50が配設される)。これにより、ドア17の縁部に装着したシール材がフレーム部材50の外側の横側面50Aに接当し易くなって、ドア17のシール性を向上させることができる。
【0050】
[発明の実施の第1別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]においては、フレーム部材50を平面視で湾曲した形状に、後輪フェンダ30の湾曲面30Aに沿って斜めに配設した例を示したが、フレーム部材50を後輪フェンダ30の湾曲面30Aに沿って斜めに配設するのであれば、フレーム部材50の平面視での形状は異なる形状であってもよく、例えばフレーム部材50を平面視で直線状や屈曲した形状に配設してもよい。具体的には、例えば図10(a)に示すように、フレーム部材50を後輪フェンダ30の上面側に平面視で直線状に配設してもよい。
【0051】
また、図10(b)に示すように、後輪フェンダ30の上面側に位置するフレームの一部を上記の成形方法で成形したフレーム部材50で構成してもよく、図示しないが、上記の成形方法で成形した複数のフレーム部材を組み合わせて、後輪フェンダ30の上面側に位置するフレームを構成してもよい。
【0052】
[発明の実施の第2別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、左右の前縦フレーム31及び左右の後縦フレーム36を備えて、4柱式のキャビンフレーム20を構成し、この4柱式のキャビンフレーム20にフレーム部材50を適用した例を示したが、2柱式、6柱式又は8柱式等異なる構造のキャビンフレーム20においても同様に適用できる。
【0053】
具体的には、例えば図11(a)に示すように、左右の前縦フレーム31及び左右の後縦フレーム36に加えて、左右の中縦フレーム61を備えて、6柱式のキャビンフレーム20を構成し、左右の中縦フレーム61と左右の後縦フレーム36とに亘って平面視で直線状のフレーム部材50を設けてもよい。この場合、左右の後縦フレーム36の幅を左右の中縦フレーム61の幅より狭く設定する。
【0054】
図11(b)に示すように、左右の前縦フレーム31及び左右の後縦フレーム36に加えて、左右の中縦フレーム61を備えて、6柱式のキャビンフレーム20を構成し、左右の中縦フレーム61と左右の後縦フレーム36とに亘って平面視で湾曲した形状のフレーム部材50を設けてもよい。この場合、左右の後縦フレーム36の幅を左右の中縦フレーム61の幅より狭く設定する。
【0055】
図11(c)に示すように、左右の前縦フレーム31及び左右の後縦フレーム36に加えて、左右の中縦フレーム61を備えて、6柱式のキャビンフレーム20を構成し、左右の中縦フレーム61と左右の後縦フレーム36とに亘って平面視で湾曲した形状のフレーム部材50を設けてもよい。この場合、左右の前縦フレーム31の幅を左右の中縦フレーム61の幅と略同じに設定し、左右の後縦フレーム36の幅を左右の中縦フレーム61の幅より狭く設定する。
【0056】
図12(a)に示すように、左右の前縦フレーム31及び左右の後縦フレーム36に加えて、左右の中縦フレーム61を備えて、6柱式のキャビンフレーム20を構成し、左右の前縦フレーム31と左右の中縦フレーム61とに亘るフレームの一部として、平面視で湾曲した形状のフレーム部材50を設け、左右の中縦フレーム61と左右の後縦フレーム36とに亘って平面視で湾曲した形状のフレーム部材50を設けてもよい。
【0057】
図12(b)に示すように、左右の前縦フレーム31及び左右の後縦フレーム36に加えて、左右の中縦フレーム61を備えて、6柱式のキャビンフレーム20を構成し、左右の前縦フレーム31と左右の中縦フレーム61とに亘るフレームの一部として、平面視で直線状のフレーム部材50を設け、左右の中縦フレーム61と左右の後縦フレーム36とに亘って平面視で直線状のフレーム部材50を設けてもよい。
【0058】
図12(c)に示すように、左右の前縦フレーム31及び左右の後縦フレーム36に加えて、左右の中縦フレーム61を備えて、6柱式のキャビンフレーム20を構成し、左右の前縦フレーム31と左右の中縦フレーム61とに亘るフレームの一部として、平面視で湾曲した形状(又は直線状(図示せず))のフレーム部材50を設け、左右の中縦フレーム61と左右の後縦フレーム36とに亘って平面視で前後方向に沿った直線状の通常のフレーム62を設けてもよい。
【0059】
[発明の実施の第3別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]、[発明の実施の第1別形態]及び[発明の実施の第2別形態]においては、角パイプ材を曲率半径R1,R2で湾曲成形することで、フレーム部材50を構成した例を示したが、フレーム部材50を円弧状に曲げ加工する曲率半径として異なるものを採用してもよく、例えば単一の曲率半径でフレーム部材50を円弧状に曲げ加工してもよく、3以上の曲率半径でフレーム部材50を円弧状に曲げ加工してもよい。また、曲率半径に限らず、楕円曲線等における所定の曲率で円弧状に曲げ加工してもよい。
【0060】
[発明の実施の第4別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]、[発明の実施の第1別形態]、[発明の実施の第2別形態]及び[発明の実施の第3別形態]においては、フレーム部材50を断面形状が正方形の角パイプ材で構成した例を示したが、異なる断面形状の角パイプ材を採用してもよく、例えば断面形状が長方形状の角パイプ材を採用してもよい。
【0061】
前述の[発明を実施するための最良の形態]、[発明の実施の第1別形態]、[発明の実施の第2別形態]及び[発明の実施の第3別形態]においては、フレーム部材50を角パイプ材で構成した例を示したが、例えば中空の角パイプ材に限らず、中実の角材を採用してもよく、例えば断面形状がL字状のアングル材や断面形状がコ字状のチャンネル材を採用してもよい。具体的には、例えばフレーム部材50をチャンネル材で構成した場合には、チャンネル材の開口部分が下側になるように湾曲成形し、下向きに開口したコ字状になるように後輪フェンダ30の湾曲面30Aに配設する。
【0062】
また、上記の成形方法で成形したアングル材又はチャンネル材等を組み合わせる構成を採用してもよく、上記の成形方法で成形したアングル材又はチャンネル材等に平板等を溶接する構成を採用してもよい。
【0063】
前述の[発明を実施するための最良の形態]、[発明の実施の第1別形態]、[発明の実施の第2別形態]及び[発明の実施の第3別形態]においては、右及び左のフレーム部材50の後端部の幅W1が、右及び左のフレーム部材50の前端部の幅W2より狭くなるように、右及び左の後輪フェンダ30の湾曲面30Aに沿って斜めに配設した例を示したが、右及び左の後輪フェンダ30の湾曲面30Aに沿って斜めに配設されるのであれば、例えば右及び左のフレーム部材50の後端部の幅が、右及び左のフレーム部材50の前端部の幅より広くなるように設定されたキャビンフレーム(図示せず)においても、同様のフレーム部材を適用できる。
【0064】
前述の[発明を実施するための最良の形態]、[発明の実施の第1別形態]、[発明の実施の第2別形態]及び[発明の実施の第3別形態]においては、キャビン8にフレーム部材50を適用した例を示したが、例えばキャビンを装着したトラクタ又はキャビンを装着していないトラクタにおいて、後輪フェンダ30の湾曲面30Aに斜めに配設する補強部材(図示せず)等においても適用できる。
【0065】
[発明の実施の第5別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]、[発明の実施の第1別形態]、[発明の実施の第2別形態]、[発明の実施の第3別形態]及び[発明の実施の第4別形態]においては、走行車両の一例としてトラクタを例に示したが、異なる走行車両においても同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】トラクタの全体側面図
【図2】キャビンフレームの全体斜視図
【図3】キャビンフレームの全体左側面図
【図4】キャビンフレームの横断平面図
【図5】キャビンフレームの全体正面図
【図6】キャビンフレームの全体背面図
【図7】左のフレーム部材の部品図
【図8】左のフレーム部材の成形状況を説明するための概略断面図
【図9】仮想平面を説明する概略図
【図10】発明の実施の第1別形態でのキャビンフレームの概略平面図
【図11】発明の実施の第2別形態でのキャビンフレームの概略平面図
【図12】発明の実施の第2別形態でのキャビンフレームの概略平面図
【符号の説明】
【0067】
3 走行車体
8 キャビン
17 ドア
20 キャビンフレーム
30 後輪フェンダ
30A 湾曲面
50 フレーム部材
50A 横側面
W1 フレーム部材の後端部の幅
W2 フレーム部材の前端部の幅
X 仮想平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体の後部に運転部を覆うキャビンを備え、前記キャビンを、キャビンフレームと、前記キャビンフレームの両側部に開閉可能に装備された右及び左のドアとを備えて構成してある走行車両のキャビン構造であって、
前後に湾曲した形状に成形された右及び左の後輪フェンダの上面側に、前記キャビンフレームの右及び左のフレーム部材を、前記右及び左のフレーム部材の後端部の幅が、前記右及び左のフレーム部材の前端部の幅より狭くなるように、前記右及び左の後輪フェンダの湾曲面に沿って斜めに配設し、
前記後輪フェンダから斜め前方上方に延出された延出線に沿った仮想平面で、前記後輪フェンダの上部及び下部に亘って通過する仮想平面を設定し、前記フレーム部材を前記仮想平面に沿って円弧状に曲げ加工してある走行車両のキャビン構造。
【請求項2】
前記フレーム部材を角パイプで構成し、
前記フレーム部材の断面視で前記フレーム部材の横側面が前記仮想平面に対し傾斜した状態で、前記フレーム部材を円弧状に曲げ加工してある請求項1記載の走行車両のキャビン構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−107389(P2009−107389A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278994(P2007−278994)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】