説明

走触性ペプチドを含むリポソーム組成物及びその使用

本発明は細胞付着(走触性)反応を導き細胞内に吸収される特徴を有するペプチドを含むリポソーム組成物に関し、より詳細には、これら組成物はフィブリノーゲン鎖のカルボキシ末端の特定部分に由来するか又はそれと相同な、本明細書ではハプチドと名付けられて細胞によるリポソームの取込みを強化することができる細胞付着ペプチドを含む。本発明は、更に走触性ペプチドリポソーム組成物を含む医薬用及び美容用組成物、並びにその使用に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞付着(走触性)応答を引き出して細胞によって吸収されることを特徴とするペプチドを含有するリポソーム組成物に関し、より具体的には、これら組成物は、細胞によるリポソームの取込みを強化することができる、フィブリノーゲン鎖のカルボキシ末端の特定部分に由来するか又はそれと相同な、細胞付着ペプチド(本明細書ではハプチドという)を含む。本発明は、更に走触性ペプチドリポソーム組成物を含む医薬用及び美容用の組成物、並びにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリノーゲンは、血餅形成を担う血漿タンパクである。通常のフィブリノーゲン(MW 340 kDa)は、複数のジスルフィド結合によって結ばれた3つの非同一鎖(α、β及びγ)2セットから成る複合六量体である。伸長α鎖を有するフィブリノーゲンの巨大変異体(MW 420 kDa)も記載されている(Grieninger G.2001.Ann NY Acad Sci 936:44〜64)。
【0003】
プールされたフィブリン接着剤の臨床応用で証明されているように、フィブリノーゲンは同じ種内では非免疫原性である。その止血活性の他に、フィブリン(フィブリノーゲン)がマウス及びヒト線維芽細胞(MF及びHF)、ウシ大動脈の血管内皮細胞(BAEC)及び平滑筋細胞(SMC)を含む異なるタイプの細胞との細胞付着(走触性)反応及び移動(走化性)反応を導くことが証明されている(Gorodetsky R.他1999、J Invest Dermatol 112:866〜872;Gorodetsky R.他1998、J Lab Clin Med 131:269〜280;Gurevich他2002、Tissue Engineering、Vol.8)。
【0004】
本発明の発明者は、以前、フィブリノーゲンの保存されたカルボキシ末端、特にテネイシン、ミクロフィブリル関連グリコプロテイン及び、血管新生因子など他のいくつかのタンパク質でも見られるβ鎖及びγ鎖のカルボキシ末端、に由来するか又はそれと相同の配列を有する合成ペプチドを開示した(国際公開第99/61041号;国際公開第01/53324号)。開示されている17〜21アミノ酸長の相同ペプチド、並びにそのペプチド内のより短い8〜10アミノ酸長の配列は、マトリックスに結合すると、通常の線維芽細胞、血管内皮細胞及び平滑筋細胞などを含む異なる細胞型で細胞付着(走触性)反応を導き出した。これらのペプチドは、したがって、「ハプチド」と称された。ハプチドのいずれも、試験した異なるタイプの細胞で細胞増殖速度を変化させなかった。
【0005】
フィブリノーゲンは、その様々な脂質及び脂肪酸と結合する能力から明らかなように、相当な疎水性を示す(Cunningham M.T.他、1999、Thromb Res 95:325〜34;Nygren H.他、1992、J Biomed Mater Res 26:77〜91;Retzinger G.S.他、l998、ArteriosclerThromb Vasc Biol 18:1948〜57)。例えば、フィブリノーゲンは、コレステリルオレイン酸、コレステロール又はレシチンでコーティングされた疎水表面へ吸着させることができる。その関係で、疎水性のアテローム脂質表面、特にコレステリルエステルが豊富な面に対するフィブリノーゲンの親和性がこれらの表面に血栓症を発生し易くしていると提案されている。リポソームと相互作用してそれを取り込む能力をもたらすフィブリノーゲンの疎水性は、緩速局所ドラッグ送達システムとしてのフィブリン−リポソーム組成物の開発に利用された(本発明者の一人であるMarxに対する、米国特許第5,607,694号)。
【0006】
多くの化合物の、治療上、診断上又は美容上の利益は、対象細胞による化合物の取込みが低いこと、或いは取込み後の化合物の細胞内分解によって制限される。多くの化合物にとって、細胞膜透過は、相対的に、細胞による効率的な取込みを可能にする。しかし、より大きな及び/又は荷電している各種化合物、例えばタンパク質、核酸及び多くの有機化合物にとって、細胞膜貫入による受動的な取込みは制限される。この現象は、多くの有効な薬剤の使用を制限し、且つ/又は望ましくない全身毒性を引き起こすかもしれない高用量の使用を必要とさせる。
【0007】
そのような化合物の取込みを向上させるためのいくつかの方法が提案された。1つの一般的な方法は、化合物が有効性を示す細胞への貫入(拡散)を改善する担体基(a carrier group)と可逆性の複合体を形成することによって、化合物を修飾することに基づく。他の方法は、対象細胞の表層膜と融合して粒子内容物を細胞の細胞質区画に放出するように設計されたリポソームを使うことである。
【0008】
リポソームは、水又は水性緩衝区画で分離された1つ又は複数の同心脂質二重層からなる構造物と定義される。内部に水性区画を有するこれらの中空構造は、直径20nmから10μmの範囲のものを調製することができる。それらは、最終的な大きさ及び調製方法によって以下のように分類されている。SUV:小単ラメラ小胞(0.5〜50nm);LUV:大単ラメラ小胞(100nm);REV:蒸発相転換法小胞(reverse phase evaporation)(0.5μm);及びMLV:多重ラメラ小胞(2〜10μm)。その組成及び貯蔵条件に従い、リポソームは様々な程度の安定性を示す。リポソームのコアマイクロ貯槽及び二重層の間の空間は、様々な水溶性物質を含むことができる(Davis S.S.及びWalker I.M.、1987、Methods in Enzymology 149:51〜64;Gregorious G.(編)1991、Liposomes Technology Vol.I、II、III、CRC Press、Boca Raton、FL;Shafer−Korting M.他、1989、J Am Acad Dermatol 21;1271〜1275)。リポソームは、脂質二重層に挿入される親油性分子の担体としても用いることができる。
【0009】
その外壁に細胞膜との融合を可能にする分子が含まれている人工的に作製された小胞の他の形態としては、不活化し再構成されたウイルス粒子並びに特定の種類の乳剤がある。
【0010】
再構成されたウイルス粒子及び人工のウイルス様粒子は、主に大きな核酸鎖を細胞に導入することが目的の遺伝子治療で使われる。しかし、ウイルスベクターは、例えば高レベルのトランスフェクション又は外来性DNAの広範囲にわたる宿主ゲノムへの効率的で安定した組込みなどの利点を有するが、それらには免疫原性、毒性、大量生産の困難性、外来性DNAの大きさの制限、宿主ゲノムへのランダムな組込み、並びに腫瘍形成性突然変異の誘発及び/又は組換えによる活性ウイルス粒子の生成の危険など、いくつかの問題がある。これらの問題、特に安全上の懸念は、不透過性物質の細胞への取込みを容易にするためのウイルス粒子の使用を制限する。
【0011】
乳剤は、2つの相互不溶性液体の片方が他方に分散している不均質系と定義される。そのような分散系(水中油又は油中水)は、液滴を被覆して液滴癒着(droplet coalescence)を予防する乳化剤によって安定する。乳剤は、通常、水不溶薬剤を油相に溶かすことにより投与する手段として使われる。医療用途のためのそのような乳剤中の液滴の大きさは、通常サブミクロンの範囲である(国際公開第96/33697号、米国特許第5,496,811号、第5,514,670号、第5,961,970号、第5,993,846号、第6,113,921号)。
【0012】
エマルソーム(Emulsome)は、リポソームと水中油乳剤の中間である固体脂肪のナノ乳剤である。このナノ粒子は、1つ又は複数のリン脂質層に囲まれて安定化された疎水性コアを含む。この構造は、内部固体脂質コアへ疎水性分子を装填し、周囲のリン脂質層の水性区画へ親水性分子を装填することができる(米国特許第5,576,016号)。
【0013】
治療薬の送達系としてのリポソームの効率を改善するために、努力が継続されている。例えば、国際公開第02/076491号は、癌細胞へのリポソームのターゲッティングを改善し、そのような細胞によるリポソームの取込みを強化する際における小マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤の使用を開示している。
【0014】
他の方法は、受容体媒介性エンドサイトーシスによるリポソームの細胞内移行の促進に基づいている。この方法は、エンドソーム崩壊剤のリポソームとの協同によるエンドソームから細胞質への所望の化合物の放出を容易にするための方法と組み合わせることにより、化合物のリソソーム分解を予防してもよい。国際公開第02/076428号は、リポソームを標的細胞に向けるターゲッティングリガンドも含むpH感受性脂質から成るリポソームを開示している。リポソームの投与によりリポソームの細胞内移行及び不安定化が起こり、取り込まれている作用剤が細胞内に送達される。
【0015】
しかし、送達媒体として用いられるリポソームのためのターゲッティング機構として受容体特異的リガンドを使用することには、in vitro及びin vivo双方においていくつかの問題を伴う。受容体特異的リガンドは比較的まれな分子であって、十分な供給量を分離・採集するためにはかなりの費用を伴う。更に、受容体−リガンドは通常多くの生物反応の強力なエフェクターであり、細胞増殖の「オン」及び「オフ」としばしば関連している。したがって、そのような受容体指向(特異的)リガンドをリポソーム共に使用することは、有害又は好ましくない副作用、主に細胞増殖増加又はアポトーシスという潜在的に深刻な脅威をもたらす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように、リポソーム及び他の融合誘導小胞(fusogenic vericles)を、細胞増殖及びアポトーシス反応を変更することなく細胞へ送達するための改善系の必要性が認められ、またそのような改善系を有することは極めて有利である。そのような改善は、治療、診断及び化粧の用途にとって非常に有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、細胞付着(走触性)活性を引き出して細胞により吸収される、リポソームの改善された細胞内取込みを提供することを特徴とするペプチドを含有するリポソーム組成物に関し、この組成物のリポソームは、診断上、治療上又は美容上の活性を有する化合物を含むことができる。
【0018】
本明細書で使用する用語「走触性ペプチドリポソーム組成物」は、リポソーム及び少なくとも1種類のハプチドを含んでいる組成物を指す。用語「ハプチド」は、フィブリノーゲン鎖のカルボキシ末端内に存在する走触性ペプチドに由来するかそれと相同のペプチドを指し、細胞付着(走触性)反応を導き、遊離態では各種細胞によって容易に取り込まれる特徴を有する。用語「走触性ペプチド」と「ハプチド」は、本明細書では相互に言い換えが可能である。
【0019】
本発明は、走触性ペプチドリポソーム組成物を用いて細胞によるリポソーム取込みを強化する方法を提供する。
【0020】
本発明は、更に走触性ペプチドリポソーム組成物を含む医薬用及び美容用組成物を提供する。
【0021】
一態様によると、本発明は、ハプチドを含むリポソーム組成物を提供する。本発明のリポソームは、少なくとも1つの親水区画及び少なくとも1つの疎水区画を含む、当技術分野で公知の変異体とすることができる。
【0022】
一実施形態によると、本発明は、少なくとも1種類のハプチド及び少なくとも1種類のリポソームを含む走触性ペプチドリポソーム組成物を提供する。
【0023】
本発明の一実施形態によると、走触性ペプチドリポソーム組成物は、フィブリノーゲンβ、αE及びγ鎖のC末端配列に対して少なくとも60%、好ましくは70%、より好ましくは80%、最も好ましくは90%以上相同のアミノ酸配列を持つ少なくとも1種類のハプチド、並びに走触性活性を保持しているその断片、変異体、類似体及びペプチド様物質を含む。
【0024】
一実施形態によると、本発明は、6〜40個のアミノ酸残基、好ましくは7〜30個の残基、より好ましくは8〜25個のアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む走触性ペプチドを提供する。
【0025】
現在好ましい一実施形態によると、走触性ペプチドリポソーム組成物は、以下のアミノ酸配列を有する17〜21アミノ酸長のペプチドから成る群から選択されるハプチドを含む:
KGSWYSMRKMSMKIRPFFPQQ(ペプチドCβ、配列番号1);
RGADYSLRAVRMKIRPLTVTQ(ペプチドCαE、配列番号2);
KTRWYSMKKTTMKIIPFNRL(ペプチドpreCγ、配列番号3);
KGPSYSLRSTTMMIRPLDF(ペプチド−C−ang1、配列番号4);
KGSGYSLKATTMMIRPADF(ペプチド−C−ang2、配列番号5);
KGFEFSVPFTEMKLRPNFR(ペプチド−C−tenX、配列番号6)、及び
KGFYYSLKRPEMKIRRA(ペプチド−C−mfap、配列番号7)。
【0026】
現在好ましい他の実施形態によると、走触性ペプチドは、以下のアミノ酸配列を有する8〜10アミノ酸長のペプチドを含むより短い配列である:
KGSWYSMR(ペプチド−Cβ、配列番号8);
KGSWYSMRKM(ペプチド−Cβ10、配列番号9);
KTRWYSMKKT(ペプチド−PreCγ10、配列番号10);
KGPSYSLR(ペプチド−C−ang1、(配列番号11)及び
KGFYYSLKRP(ペプチド−C−mfap10、(配列番号12)。
【0027】
現在好ましい他の実施形態によると、走触性ペプチドは、以下のアミノ酸配列から選択される細胞付着及び内部移行共通配列に従って合成される:
KGXXYSMRKXXMKIRP(配列番号:13)及び
KGXXYSMRK(配列番号:14)
[式中、Xは非荷電アミノ酸を表すか、又は無でありそれによって直接結合を形成してもよい]。
【0028】
当技術分野で公知であるように、これらの配列のアミノ酸残基の保存的置換、並びに他の修飾、例えば走触活性を保持する伸張及びトランケーションも、本発明の範囲に含まれる点に留意する必要がある。
【0029】
現在最も好ましい実施形態によると、ハプチドリポソーム組成物のために選択される走触性ペプチドは、Cβ又はpreCγである。
【0030】
一実施形態によると、本発明の組成物はリポソーム以外の融合誘導小胞を含むことができる。融合誘導小胞とは、その外壁に細胞膜との融合を可能にする分子が含まれている人工小胞と定義される。リポソーム以外の融合誘導小胞の一般例としては、不活化され再構成されたウイルス粒子及び特定の種類の乳剤がある。
【0031】
本発明の組成物のリポソームは、少なくとも1つの親水区画及び少なくとも1つの疎水区画を含み、前記疎水区画は少なくとも1つの脂質二重膜を含む、生体適合性のあるいかなる適当な変異体でもよい。
【0032】
一実施形態によると、本発明のリポソームは、各脂質が親水性「頭部」基及び疎水性「尾部」基を有する、小胞形成脂質を含む。基礎ラメラ(basic lamella)は、例えば乳剤におけるように単層でもよく、又は例えばリポソームにおけるように脂質の「尾部対尾部」相互作用によって形成される二重層でもよい。小胞は単ラメラでも多重ラメラでもよい。リポソームは、安定剤及び界面活性剤を更に含んでもよい。
【0033】
一実施形態によると、リポソームは以下の物質;天然若しくは合成のリン脂質;グリセリドと結合したリン脂質;ポリエチレングリコール(PEG)と結合したリン脂質;ホスホアミノ脂質;セレブログルコシド及びガングリオシドのうちの少なくとも1つを含むことができ、更に任意選択で、天然若しくは合成のコレステロール及び水素化レシチンを含むことができるが、これらには限定されない。
【0034】
本発明のリポソームは、更に生物活性化合物を含んでもよい。リポソーム内に有利に含むことのできる分子としては、それには限定されないが、診断上、治療上又は化粧上の活性を有する分子がある。そのような分子の例としては、ポリヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、多糖類、ホルモン、薬剤、ビタミン、ステロイド、蛍光染料、放射性マーカーなどがある。
【0035】
他の態様によると、本発明はin vitro又はin vivoで細胞へのリポソームの取込みを増強する方法を提供する。
【0036】
一実施形態によると、本発明は、細胞へのリポソームの取込みを増強するための方法であって、
走触性ペプチドリポソーム組成物を用意するステップと、
前記走触性ペプチドリポソーム組成物と細胞を接触させるステップとを含み、
前記細胞によるリポソームの取込みが、走触性ペプチドがない場合の前記リポソームの取込みと比較して少なくとも2倍増強される方法を提供する。
【0037】
一実施形態によると、走触性ペプチドリポソーム組成物は、最初から(ab initio)少なくとも1つのハプチドで作製される。他の実施形態によると、この組成物は少なくとも1種類のハプチドと組み合わせて予め形成された小胞を使って、即時に作製される。
【0038】
本発明の一実施形態によると、走触性ペプチドリポソーム組成物を作製する方法は、リポソーム成分を少なくとも1種類の走触性ペプチドの溶液と水性緩衝液中に分散させるステップを含む。
【0039】
本発明の一実施形態によると、リポソームの標的細胞は、哺乳類の細胞、例えば白血球、並びに間葉性起源(mesenchymal origin)の細胞、例えば星状細胞、軟骨細胞、樹状細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、グリア細胞、ニューロン、腎細胞、肝細胞、メラニン細胞、間葉系細胞(mesenchymal cells)、筋線維芽細胞、単球、実質細胞、膵細胞、平滑筋細胞及び甲状腺細胞、並びにいかなる起源の悪性腫瘍及び形質転換細胞から成る群から選択される。
【0040】
他の態様によると、本発明は、そうでなければ細胞ラメラ透過性の低い生物活性分子の細胞内取込みを増強する方法を提供する。
【0041】
一実施形態によると、本発明は細胞ラメラ透過性の低い生物活性分子の細胞内取込みを増強するために走触性ペプチドリポソーム組成物を使用する方法であって、
走触性ペプチドリポソーム組成物であって、リポソームが細胞ラメラ透過性が低いことを特徴とする生物活性分子を更に含む組成物を用意するステップと、
前記走触性ペプチドリポソーム組成物と細胞を接触させるステップとを含み、
前記分子の取込みが、前記走触性ペプチドリポソーム組成物から分離している前記分子の取込みと比較して少なくとも2倍増強される、方法を提供する。
【0042】
一実施形態によると、細胞ラメラ透過性が低いことを特徴とする分子を更に含む走触性ペプチドリポソーム組成物は、少なくとも1種類のハプチド及び少なくとも1種類の低透過性分子を用いて最初から作製される。他の実施形態によると、この組成物は、少なくとも1種類のハプチドと組み合わせた少なくとも1種類の低透過性分子を含む予め形成された小胞を用いて、即時に作製される。
【0043】
一実施形態によると、前記生物活性分子は少なくとも部分的に脂質可溶であって、疎水性脂質二重層に存在する。
【0044】
他の実施形態によると、前記生物活性分子は水溶性であり、リポソームの水性区画に存在する。
【0045】
一実施形態によると、リポソーム内の生物活性分子は、ポリヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、多糖類、ホルモン、薬剤、ビタミン、ステロイド、蛍光染料、及び放射性マーカーから成る群から選択される。
【0046】
他の態様によると、本発明は、走触性ペプチドリポソーム組成物を含む医薬用及び美容用組成物であって、リポソームが更に、それぞれ診断上、治療上又は美容上の活性を有する有効成分を含む、組成物を提供する。
【0047】
一実施形態によると、本発明は、走触性ペプチドリポソーム組成物を含む医薬組成物であって、ペプチドが、細胞付着活性を引き出して細胞により吸収される特徴を有する走触性ペプチドであり、リポソームが、更に診断上又は治療上の活性を有する活性成分を含み、更に薬剤として許容される希釈液又は担体を含む、医薬組成物を提供する。
【0048】
好ましい一実施形態によると、前記医薬組成物のリポソーム内の前記活性成分は、細胞傷害性化合物、細胞増殖抑制化合物、アンチセンス化合物、抗ウイルス剤、特異抗体及び造影剤から成る群から選択される。
【0049】
他の実施形態によると、本発明は、走触性ペプチドリポソーム組成物を含む美容用組成物であって、ペプチドが細胞付着活性を引き出して細胞により吸収されることを特徴とする走触性ペプチドであり、リポソームが更に美容上有益な効果を有する活性成分を含み、更に化粧として許容される希釈液又は担体を含む、美容用組成物を提供する。
【0050】
更に他の態様によると、本発明は、それを必要とする対象を本発明の医薬用又は美容用組成物で処理する方法に関する。
【0051】
一実施形態によると、本発明は、細胞への薬剤の送達を増強する方法において、それを必要とする対象に、走触性ペプチドリポソームの医薬組成物であって、この組成物のリポソームが薬剤として有効な作用剤を更に含む組成物を治療有効量投与するステップを含む、方法を提供する。
【0052】
他の実施形態によると、本発明は、細胞への診断薬の送達を強化するための方法において、それを必要とする対象に、走触性ペプチドリポソームの医薬組成物であって、この組成物のリポソームが診断上有効な物質を更に含む組成物を、診断上の有効な量投与するステップを含む、方法を提供する。
【0053】
他の実施形態によると、本発明は、細胞への美容上有効なリポソームの送達を増強する方法において、それを必要とする対象に、走触性ペプチドリポソームの化粧組成物であって、この組成物のリポソームが美容上有益な効果を有する組成物を投与するステップを含む、方法を提供する。このようなリポソームは、美容上有効な物質を更に含んでもよい。
【0054】
他の実施形態によると、本発明は、薬剤として有効な物質の細胞への送達を増強するための、走触性ペプチドリポソーム医薬組成物であって、その組成物のリポソームが前記薬剤として有効な物質を更に含む組成物の使用を提供する。
【0055】
他の実施形態によると、本発明は、診断上有効な物質の細胞への送達を増強するための、走触性ペプチドリポソーム医薬組成物であって、その組成物のリポソームが前記診断上有効な物質を更に含む組成物の使用を提供する。
【0056】
他の実施形態によると、本発明は、美容上有効なリポソームの細胞への送達を増強するための、走触性ペプチドリポソーム医薬組成物であって、その組成物のリポソームが化粧上有益な効果を有する組成物の使用を提供する。このようなリポソームは、美容上有効な物質を更に含んでもよい。
【0057】
本発明を以下の明細及び図面、並びに請求項において更に詳細に説明する。
【0058】
以下、添付の図を参照して本発明を例示のみを目的として説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
本発明は、細胞によって容易に取り込まれる走触性ペプチドを含む、リポソーム組成物に関し、また、in vitro又はin vivoでの生物活性分子を含むリポソームを細胞ラメラを通じて送達するための前記組成物の使用に関する。このようなリポソーム組成物は、本明細書では走触性ペプチドリポソーム組成物と言うこととする。
【0060】
本明細書で使用されるように、走触性ペプチド(haptotactic peptides)、即ちハプチド(Haptides)は、フィブリノーゲン鎖のカルボキシ末端内に存在する走触性ペプチドに由来するかそれと相同のペプチドであり、培養細胞から細胞付着反応を引き出すことを特徴とする。本明細書で定義されるように、細胞付着(cell attachment)は、共有又は非共有細胞結合、細胞接着及びハプチド−細胞複合体形成を含むあらゆる種類の細胞−ハプチド相互作用を指す。
【0061】
ハプチドは、異なるタイプの細胞によっても容易に取り込まれることを特徴とし、したがって、細胞への異なる物質の取込みを増大させることができる。
【0062】
本明細書で使われるように、用語「ペプチド」は、ペプチド結合で結ばれたアミノ酸配列を示す。本発明のペプチド類似体は、アミノ酸残基数6から40、好ましくは7から30、より好ましくはアミノ酸残基数8から25のアミノ酸配列を含み、各残基はアミノ末端及びカルボキシ末端を有することを特徴とする。
【0063】
本発明の走触性ペプチドリポソーム組成物は、走触性ペプチド及びリポソームを1リポソームにつき少なくとも1分子の走触性ペプチドの比率で含む。
【0064】
本発明の走触性ペプチド(ハプチド)は、フィブリノーゲン鎖のC末端に由来するかそれと相同なペプチドであり、それらは親化合物の細胞接着性効果を模倣していることを特徴とする。活性ペプチドは、天然タンパク質の断片、組換えタンパク質の断片、又は好ましくは、合成ペプチドであってもよい。
【0065】
好ましい一実施形態によると、本発明のハプチドは、フィブリノーゲンのαE、β及びγ鎖のC末端並びに走触性活性を保持しているその断片、変異体、類似体及びペプチド様物質に対し、少なくとも60%、好ましくは70%、より好ましくは80%、最も好ましくは90%以上相同的なアミノ酸配列を有する。
【0066】
本明細書で定められるように、アミノ酸配列の相同性は一般的には配列解析ソフトウェア(例えばGenetics Computerグループ(ウィスコンシン大学バイオテクノロジーセンター、1710 University Avenue、マディソン、ウィスコンシン州、53705)のSequence Analysis Softwareパッケージ、BLAST又はPILEUP/PRETTYBOXプログラム)を使用して測定される。そのようなソフトウェアは、相同性の程度を様々な置換、欠失その他の修飾に割り当てることによって配列を比較する。
【0067】
現在好ましい一実施形態によると、本発明の走触性ペプチドは、以下のアミノ酸配列を有する17〜21アミノ酸長のペプチドから成る群から選択される:
KGSWYSMRKMSMKIRPFFPQQ(ペプチドCβ、配列番号1);
RGADYSLRAVRMKIRPLTVTQ(ペプチドCαE、配列番号2);
KTRWYSMKKTTMKIIPFNRL(ペプチドpreCγ、配列番号3);
KGPSYSLRSTTMMIRPLDF(ペプチド−C−ang1、配列番号4);
KGSGYSLKATTMMIRPADF(ペプチド−C−ang2、配列番号5);
KGFEFSVPFTEMKLRPNFR(ペプチド−C−tenX、配列番号6)、及び
KGFYYSLKRPEMKIRRA(ペプチド−C−mfap、配列番号7)。
【0068】
現在好ましい他の実施形態によると、走触性ペプチドは、以下のアミノ酸配列を有する8〜10アミノ酸長のペプチドを含むより短い配列である:
KGSWYSMR(ペプチド−Cβ、配列番号8);
KGSWYSMRKM(ペプチド−Cβ10、配列番号9);
KTRWYSMKKT(ペプチド−PreCγ10、配列番号10);
KGPSYSLR(ペプチド−C−ang1、(配列番号11)及び
KGFYYSLKRP(ペプチド−C−mfap10、(配列番号12)。
【0069】
現在好ましい他の実施形態によると、走触性ペプチドは、以下の細胞付着及び内部移行共通配列に従って合成される:
KGXXYSMRKXXMKIRP(配列番号:13)及び
KGXXYSMRK(配列番号:14)
[式中、Xは非荷電アミノ酸を表すか、又は無でありそれによって直接結合を形成してもよい]。
【0070】
本明細書で使われる「アミノ酸配列(Amino acid sequence)」は、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質配列、及びそれらの断片であり、自然に生じる分子又は合成の分子を指し、それらは本発明による走触活性を保持している。
【0071】
用語「類似体(analog)」には、その1つ又は複数の残基が機能的に類似の残基で保存的に置換され、本明細書で記載されている能力を示す、本明細書で具体的に示した配列の1つと実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドを含む。保存的な置換の例としては、1つの非極性(疎水性)残基、例えばイソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニンの他のものとの置換、1つの非極性(親水性)残基による置換、例えばアルギニンとリジンとの間、グルタミンとアスパラギンとの間、グリシンとセリンとの間などでの置換、1つの塩基性残基、例えばリジン、アルギニン又はヒスチジンの他のものとの置換、或いは1つの酸性残基、例えばアスパラギン酸又はグルタミン酸の他のものとの置換などがある。
【0072】
「保存的な置換」という語はまた、そのようなペプチドが本明細書で明記されているような必要な走触活性を示すことを条件に、非誘導体化残基に代え、化学的に誘導体化された残基を使用することを含む。
【0073】
本明細書で使われるとき、ペプチド誘導体は、本発明のペプチドのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有しているペプチドを指す。したがって、本発明のペプチドはそのような変更がペプチドの走触活性を破壊しない様々な変更、置換、挿入及び欠失に供することができる。
【0074】
現在最も好ましい実施形態によると、走触性ペプチドリポソーム組成物のために選択される走触性ペプチドは、Cβ又はpreCγである。
【0075】
本発明によるハプチドを最低1つ含むリポソームは、少なくとも1つの親水区画及び少なくとも1つの疎水区画を含み、前記疎水区画は少なくとも1つの脂質二重ラメラを含む、生体適合性のあるいかなる適当な変異体であってもよい。
【0076】
本発明のリポソームは、各脂質が親水性「頭部」基及び疎水性「尾部」基で構成される小胞形成脂質を含む。強調されるべきことは、本発明の好ましい実施形態は走触性ペプチドリポソーム組成物に言及しているけれども、他の融合誘導小胞も使用することができることである。融合誘導小胞とは、その外壁に細胞ラメラとの融合を可能にする分子が含まれている人工的に作製された小胞と定義される。融合誘導小胞の一般例としては、不活化し再構成されたウイルス粒子、特定の種類の乳剤及びリポソームがある。
【0077】
小胞ラメラ(vesicle lamella)は、例えば乳剤におけるように単層でもよく、又は例えばリポソームにおけるように「尾部対尾部」で形成される二重層でもよい。小胞は単ラメラでも多重ラメラでもよい。リポソームは、安定剤及び界面活性剤を更に含んでもよい。
【0078】
リポソームを形成するための材料と方法は当業者に公知であり、本明細書では簡単に説明する。適当な培地で分散すると、様々なリン脂質は、膨らみ、水和し、脂質二重層とを分離する水性培体の層をもつ多重ラメラ同心二重層の小胞を形成する。Bangham他(1965.J Mol Biol 13:238〜252)によって最初に記載されたこれらの系は、多重ラメラ脂質小胞(「MLV」)と称され、10nmから100μmの範囲の直径を持つ。一般に、脂質又は親油性物質は有機溶媒で溶解する。ロータリー蒸発による減圧下などで溶媒を除去すると、脂質残留物は容器の壁にフィルムを形成する。次いで、一般的に電解質又は親水性生物活性物質を含む水溶液をフィルムに加える。撹拌すると、大きなMLVを生じる。小さなMLVを望む場合は、大きな小胞を音波で処理し、徐々に小さくなる孔径のフィルターを通して逐次濾過するか、又は他の様式の機械的せん断により小径化する。MLVの粒径及びラメラ数を減らす手法もあり、例としては加圧押出しがある(Barenholz他、1979、FEBS Lett 99:210〜214)。
【0079】
リポソームは単ラメラ小胞の形態をとることも可能で、これらはMLVをより徹底的に音波で処理することによって調製され、水溶液を取り囲む単一の球状脂質二重層から成る。単ラメラ小胞(「ULV」)は20〜200nmの範囲の直径を有する小径とすることができ、一方、大きなULVは、200nmから2μmの範囲の直径を持つことができる。単ラメラ小胞を作るためのいくつかの公知の手法がある。Papahadjopoulos他(1968、Biochim et Biophys Acta 135:624〜638)では、リン脂質の水性分散液の音波処理により、水溶液を囲む脂質二重層を有する小さなULVが生じる。Schneiderに対する米国特許第4,089,801号は、超音波処理し、その両親媒性化合物を含む水性媒体を添加し、遠心して生体分子脂質層系を形成することにより、リポソーム前駆体が形成されたことを記載している。
【0080】
小さなULVは、Batzri他(1973、Biochim et Biophys Acta 298:1015〜1019)によって記載されているエタノール注入法及びDeamer他(1976、Biochim et Biophys Acta 443:629〜634)によるエーテル注入法によっても調製することができる。これらの方法では緩衝液へ脂質有機溶液を迅速に注入することを含み、これにより単ラメラリポソームの急速な形成が起こる。ULVを作るための他の手法がWeder他(1984、「リポソーム技術(Liposome Technology)」Gregoriadis G.編、CRC Press Inc.、ボカラトン、フロリダ州、Vol I、第7章、79〜107)によって教示されている。この洗浄剤除去法では、脂質及び添加物を洗浄剤を用い撹拌又は音波処理により可溶化して、所望の小胞を生じさせる。
【0081】
MLV及びULVに加えて、リポソームは多胞性でもよい。Kim他(1983、Biochim et Biophys Acta 728:339〜348)で記載されているように、これらの多胞性リポソームは球状で、内部粒状構造を含む。外ラメラ表面は脂質二重層であり、内側の領域は二重層隔壁で分離された小さな区画を含む。更に別の種類のリポソームはオリゴラメラ小胞(「OLV」)であり、これはいくつかの周辺脂質層(peripheral lipid layers)によって囲まれた大きな中心区画を有する。直径2〜15μmのこれらの小胞は、Callo他(1985、Cryobiology 22(3):251〜267)で記載されている。
【0082】
Mezei他に対する米国特許第4,485,054号及び第4,761,288号も、脂質小胞を調製する方法を記載している。Hsuに対する米国特許第5,653,996号は、エアゾール化を利用したリポソーム調製方法を記載し、Yiournas他に対する米国特許第5,013,497号は、高速せん断混合槽を利用したリポソーム調製方法を記載している。特定の出発物質を用いてULV(例えば、米国特許第4,853,228号)又はOLV(例えば米国特許第5,474,848号及び第5,628,936号)を作製する方法も記載されている。
【0083】
脂質小胞及びその調製方法に関する包括的なレビューが「リポソーム技術(Liposome Technology)」(1984、Gregoriadis G.編、CRC Press Inc.、ボカラトン、フロリダ州、Vol I、II及びIII)に記載されている。
【0084】
リポソーム含有薬剤の調製方法も、当業者には公知である。リポソームは、本明細書で上記したような様々な手法で調製することができる。通常、リポソーム形成の前に治療薬を小胞形成脂質に加えて形成リポソーム内に前記薬剤を取り込ませることによって、治療薬がリポソームに組み込まれる。薬剤が疎水性であるならば、薬剤は疎水混合物に直接加えられる。薬剤が親水性であるならば、薬剤は気化脂質の薄ラメラを覆う水性媒体に加えることができる。
【0085】
Papahadjopoulos他に対する米国特許第4,235,871号は、有機溶媒中の脂質と水性緩衝液中の封入する薬剤との油中水型乳剤の形成を含む、逆相蒸発法による大きなULVの調製を記載している。有機溶媒を加圧下で除去すると混合物を生じる、この混合物は水性媒体中で撹拌又は分散すると大きなULVに変換する。鈴木他に対する米国特許第4,016,100号は、作用剤及び脂質の水性リン脂質分散液を凍結/解凍することによって作用剤を単ラメラ小胞に封入する他の方法を記載している。薬剤を封入したリポソームには、その治療効率を向上するために他の特性を加えることができる。例えば、Allen他に対する米国特許第5,527,528号は、抗腫瘍化合物を含み、更にリポソームの血液循環時間をそのような被覆がない場合のリポソームよりも数倍延長するのに十分な表面濃度のポリエチレングリコール鎖の表面被覆、及び腫瘍部位に存在する腫瘍関連抗原と特異的に結合するのに有効な表面付着抗体分子を含むリポソームを開示している。Martin他に対する米国特許第6,043,094号も、外側表面に治療標的表面と特異的に結合するのに有効な親和性部分を含むリポソームを記載している。この特許は、親和性分子を標的表面との相互作用から保護するのに有効な親水性ポリマー被覆の使用も開示している。親水性ポリマー被覆は、リポソームの表面脂質成分と解放可能なリンケージを通じて共有結合で結合したポリマー鎖から成り立つ。投与されたリポソームは所望のリポソーム生体分布が達成されるまで全身を循環し、その後、投与されたリポソームの解放可能なリンケージの相当な部分を解放して親和性剤を標的表面に曝すのに有効な量で解放剤が対象に投与される。Martin他に対する米国特許出願第2001/0051183号は、血流を通してアンスラサイクリンなどの抗腫瘍剤を充実性腫瘍(solid tumor)に局在化するためのそのようなリポソームの使用を開示している。
【0086】
国際公開第02/076427号は、ホスファチジルエタノールアミン、コレステロールヘミスクシネート及びコレステロールを、治療薬のマクロファージへの投与のために7:4:2の比率で使用するリポソームを開示している。リポソームは生理学的pHでは安定しているが、同時に、酸性のpHでは融合誘導性である。この特性は、マクロファージのサイトゾル、その後核への治療薬の送達を可能にする。リポソーム組成物は、マクロファージ関連の疾患又は症状の治療に役立つ。
【0087】
Lambiez他に対する米国特許第5,605,703号は、抗新生物剤、特にドキソルビシンを封入しているリポソーム内の、封入薬剤の毒性を減らすための抗遊離ラジカル剤の使用を開示している。
【0088】
リポソーム及びナノエマルジョンの両者の特性を有している融合誘導小胞であるエマルソムを生成する方法は、例えばAmselem他の米国特許出願第5,576,016号で記載されている。
【0089】
一実施形態によると、本発明のリポソームは以下の物質のうちの少なくとも1つを含む:天然若しくは合成のリン脂質;グリセリドと結合したリン脂質;ポリエチレングリコール(PEG)と結合したリン脂質;ホスホアミノ脂質;セレブログルコシド及びガングリオシド;任意選択で天然若しくは合成のコレステロールを更に含む。
【0090】
本発明のリポソーム及びハプチド両者における疎水区画の存在は、開示されている走触性ペプチドリポソーム組成物中のこれら化合物の会合(association)を可能にする。いかなる特定の機構に拘束されるものではないが、前記組成物の1つの可能な長所は、走触性ペプチドとリポソーム並びにリポソームに含まれる化合物との間の非特異的相互作用である。
【0091】
本発明のリポソーム組成物は、低い細胞ラメラ透過性のために生細胞によって容易に取り込まれない生物活性化合物、例えば、それには限定されないが、ポリヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、多糖類、ホルモン、薬剤、ビタミン、ステロイド、蛍光染料、放射性マーカーなどを更に含んでもよい。これらの生物活性化合物は、診断上、治療上又は美容上の活性を有してもよい。
【0092】
他の態様によると、本発明はin vitro又はin vivoで細胞へのリポソームの取込みを増強する方法を提供する。
【0093】
一実施形態によると、本発明は、細胞へのリポソームの取込みを増強する方法であって、
走触性ペプチドリポソーム組成物を用意するステップと、
前記走触性ペプチドリポソーム組成物と細胞を接触させるステップとを含み、
前記細胞によるリポソームの取込みが、走触性ペプチドがない場合の前記リポソームの取込みと比較して少なくとも2倍増強される方法を提供する。
【0094】
一実施形態によると、用意する走触性ペプチドリポソーム組成物は、選択されたハプチドで最初から作製される。他の実施形態によると、この組成物は少なくとも1種類のハプチドと組み合わせて予め形成された小胞を使って、即時に作製される。
【0095】
本発明の一実施形態によると、走触性ペプチドリポソーム組成物を作製する方法は、リポソーム成分を少なくとも1種類の走触性ペプチドの溶液と水性緩衝液中に分散させるステップを含む。
【0096】
本明細書で後に例証するように、走触性反応を引き出す能力に加えて、本発明の走触性ペプチドは様々な種類の細胞によって容易に取り込まれて内部移行する。本明細書で後に図式的に例示されるように、両方の現象は細胞の細胞質区画へのリポソームの取込みを容易にするために利用される。リポソームの親油性成分及び両親媒性成分を選択されたハプチドと水溶液中で分散又は混合すると、走触性ペプチドリポソーム組成物が生成する。この組成物は、走触性ペプチドの細胞結合特性及び細胞内部移行特性を達成し、標的細胞又は組織に容易に付着し、それらによって取り込まれる。
【0097】
一実施形態によると、リポソームの標的細胞は、哺乳類の細胞、例えば白血球、並びに間葉性起源の細胞、例えば星状細胞、軟骨細胞、樹状細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、グリア細胞、ニューロン、腎細胞、肝細胞、メラニン細胞、間葉系細胞、筋線維芽細胞、単球、実質細胞、膵細胞、平滑筋細胞及び甲状腺細胞、並びにいかなる起源の悪性腫瘍及び形質転換細胞から成る群から選択される。
【0098】
他の態様によると、本発明はそうでなければ細胞ラメラ透過性の低い生物活性分子の細胞内取込みを増強するための走触性ペプチドリポソーム組成物の使用方法を提供する。
【0099】
一実施形態によると、本発明は、細胞ラメラ透過性の低い生物活性分子の細胞内取込みを増強するための走触性ペプチドリポソーム組成物の使用方法であって、
リポソームが、前記細胞ラメラ透過性の低い生物活性分子を更に含む走触性ペプチドリポソーム組成物を用意するステップと、
前記走触性ペプチドリポソーム組成物と細胞を接触させるステップとを含み、
前記分子の取込みが、前記走触性ペプチドリポソーム組成物から分離している前記分子の取込みと比較して少なくとも2倍増強される方法を提供する。
【0100】
この態様によると、走触性ペプチドリポソーム組成物は、細胞ラメラ透過性の低い分子のための媒体として働き、そのような媒体はそのような分子の細胞への取込みを増加させる。
【0101】
一実施形態によると、細胞ラメラ透過性が低い特徴を有する分子を更に含む走触性ペプチドリポソーム組成物は、少なくとも1種類のハプチド及び少なくとも1種類の低透過性分子で最初から作製される。他の実施形態によると、この組成物は、少なくとも1種類のハプチドと組み合わせた少なくとも1種類の低透過性分子を含むように予め形成された小胞を使って、即時に作製される。
【0102】
この生物活性分子は、親水性でも疎水性でもよい。親水性分子は、リポソームの親水性区画であるコア又は2つの脂質層間の領域(volume)内に存在する。疎水性分子は、それ自身脂質層を形成するリポソームの疎水区画内に分布する。
【0103】
一実施形態によると、生物活性分子は、ポリヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、多糖類、ホルモン、薬剤、ビタミン、ステロイド、蛍光染料、及び放射性マーカーなどから成る群から選択される。
【0104】
他の態様によると、本発明は、走触性ペプチドリポソーム組成物を含み、リポソームがそれぞれ診断上、治療上又は美容上の活性を有する有効成分を更に含む、医薬用及び美容用組成物を提供する。
【0105】
一実施形態によると、本発明は、走触性ペプチドリポソーム組成物を含む医薬組成物であって、前記ペプチドが細胞付着活性を引き出して細胞により吸収される特徴を有する走触性ペプチドであり、前記リポソームが更に診断又は治療上の活性を有する有効成分を含み、更に薬剤として許容される希釈液又は担体を含む、医薬組成物を提供する。
【0106】
好ましい一実施形態によると、医薬組成物のリポソーム内の有効成分は、細胞傷害性化合物、細胞増殖抑制化合物、アンチセンス化合物、抗ウイルス剤、特異抗体及び造影剤から成る群から選択される。
【0107】
他の実施形態によると、本発明は、走触性ペプチドリポソーム組成物を含む美容用組成物であって、前記ペプチドが細胞付着活性を引き出して細胞により吸収される特徴を有する走触性ペプチドであり、前記リポソームが更に美容上有益な効果を有する活性成分を含み、更に美容上許容される希釈液又は担体を含む美容用組成物を提供する。
【0108】
他の態様によると、本発明はそれを必要とする対象を本発明の医薬用組成物又は美容用組成物で処理する方法に関する。
【0109】
一実施形態によると、本発明は、細胞への薬剤の送達を増強する方法において、それを必要とする対象に、走触性ペプチドリポソーム医薬組成物であって前記組成物の前記リポソームが薬剤として有効な作用剤を更に含む組成物を、治療有効量投与するステップを含む、方法を提供する。
【0110】
他の実施形態によると、本発明は、細胞への診断薬の送達を増強するための方法において、それを必要とする対象に、走触性ペプチドリポソーム医薬組成物であって、前記組成物の前記リポソームが診断上有効な物質を更に含む組成物を、診断上有効な量投与するステップを含む、方法を提供する。
【0111】
他の実施形態によると、本発明は、細胞への美容上有効なリポソームの送達を増強するための方法において、それを必要とする対象に、走触性ペプチドリポソームの美容用組成物であって、前記組成物の前記リポソームが美容上有益な効果を有する組成物を投与するステップを含む、方法を提供する。このようなリポソームは、美容上有効な物質を更に含んでもよい。
【0112】
他の実施形態によると、本発明は、薬剤として有効な物質の細胞への送達を増強するための、その組成物のリポソームが前記薬剤として有効な物質を更に含む、走触性ペプチドリポソーム医薬組成物の使用を提供する。
【0113】
他の実施形態によると、本発明は、診断上有効な物質の細胞への送達を増強するための、その組成物のリポソームが前記診断上有効な作用剤を更に含む、走触性ペプチドリポソーム医薬組成物の使用を提供する。
【0114】
他の実施形態によると、本発明は、美容上有効なリポソームの細胞への送達を強化するための、その組成物のリポソームが美容上有益な効果を有する、走触性ペプチドリポソーム医薬組成物の使用を提供する。このようなリポソームは、美容上有効な物質を更に含んでもよい。
【0115】
本発明の医薬組成物は、当技術分野で公知の方法、例えば従来の混合、溶解、乳化、カプセル化、エントラッピング又は凍結乾燥などの手法で製造することができる。
【0116】
本発明に従って使用する医薬組成物は、このように、1つ又は複数の許容される希釈液又は担体、例えば活性リポソームの製剤への加工を容易にして薬剤として用いることのできる賦形剤及び添加剤を用いて、従来の方法で製剤化することができる。適当な剤形は、選択された投与経路によって決まる。より詳細には、本発明は、経口、非経口、局所又は吸入により投与するための医薬組成物に関するものである。
【0117】
本発明の走触性ペプチドリポソーム組成物及びこれらを使用する原理は、以下の非限定的な実施例を参照してより良く理解することができる。
【実施例】
【0118】
化学薬品及び試薬
臨床等級ヒトフィブリノーゲン及びトロンビンは、New York Blood Center及びVitex Inc.(ニューヨーク、NY)によって血液から精製された。組織培養培地、血清、ウシ血清アルブミン(BSA)及び他の試薬は、実験用品の標準供給業者、主にBiological Industries(Beit−HaEmek、イスラエル)、Sigma Chemicals(イスラエル及びセントルイス、MO)並びにGIBCO(グランドアイランド、ニューヨーク、NY)から購入した;他の試薬はSigma Chemicals(イスラエル及びセントルイス、MO)から購入した。水素添加ホスファチジルセリン、PEG及びコレステロールから成る、ローダミンを取り込ませたリポソームは、A. Gabizon教授(ハダーサ大学病院、腫瘍科)から提供された。ドキソルビシンを含む臨床等級リポソームは、化学療法のための医薬品ドキシル(ジョンソン&ジョンソン)として市販されていた。
【0119】
本発明の実施例で検討されている17〜21ペプチドの配列(表1)は、異なる2、3の施設、即ちNew York Blood Center(ニューヨーク、NY)のMicrochemistry施設又はSynPep Corporation(ダブリン、CA)で合成された。ペプチドの他のバッチは、ヘブライ大学(エルサレム)医学部のInter−departmental Services、又はAlpha Diagnostics International(サンアントニオ、TX)によって合成された。
【表1】

【0120】
細胞培養
本発明の実施例で使われるタイプの細胞は、既述したように取得し、培養した(Gorodetsky R.他、1998、J Lab Clin Med 131:269〜280)。簡単に述べると、正常ヒト皮膚線維芽細胞(HF)を若い正常ボランティアの皮膚生検材料から単離し、14継代以内で培養した。正常ウシ大動脈の血管内皮細胞(BAEC)を屠殺場で屠殺された若い動物から採取された新鮮な胸大動脈から単離し、最高12〜15継代まで培養を続けた。培養細胞は、37℃の水ジャケット付きCOインキュベーター内に維持し、トリプシン/EDTA溶液により週1〜2継代でスプリット比が高増殖形質転換細胞では1:10、正常細胞型では1:4で採取した。
【0121】
実施例1:セファロースビーズに結合したハプチド及びフィブリノーゲンの細胞結合活性並びにそれらの遊離型の細胞内移行。
細胞接着(走触性)検定
セファロースビーズ(SB)−リガンドとプラスチック上のほぼ集密的な培養における細胞との付着を、既述したように測定した(Gorodetsky R.他、1998、J Lab Clin Med.131、269〜280;Gorodetsky R.他、1999、J Invest Dermatol 112:866〜872)。基本的に、SB−ハプチド又はSB−フィブリノーゲンの懸濁液(50%v/v)約20〜150μlを、6〜24穴プレートのほぼ集密的な培養細胞に加え、1分間の弱い振盪によって分散した。その後プレートを最高4日間インキュベートした。1日後、細胞層に繋がったSB数を、逆相(inverted phase)又はNumarskyの鏡検法で数えた。一般的に、≦300のSB(200以上)が各ウェルで計数され、各ウェルでの細胞に付着したSB数に対する相対値としての比率は、SBの合計数計算した。各変異体につき少なくとも3つのウェルを測定し、各実験は少なくとも3回繰り返した。
【0122】
共焦レーザー蛍光顕微鏡検査による細胞によるペプチド取込みのモニタリング。
蛍光顕微鏡検査は、オリンパス又はニコン蛍光顕微鏡で実施した。共焦レーザー顕微鏡検査は、コンピュータ化されたツァイスConfocal Axiomate顕微鏡(LSM410)を用いて複数の励起波長で行った。ペプチドは、可視化のためにフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識された。ヒト線維芽細胞(HF)によるFITCペプチドの取込みの検査のために、細胞をカバーガラス上で集密近くまで増殖し、次に100μg/ml(40μM)のFITCペプチドと37℃でインキュベートした。1時間後、細胞を洗浄して0.5%の緩衝化グルタールアルデヒドで固定した。細胞を載せたカバーグラスは、2%のDABCOの入ったPBS−グリセロール80%をのせて、顕微鏡用スライド上に置き、検鏡した。細胞の代表的な視野はNumarskiオプティックスで視覚化し、1μmスライスの細胞蛍光強度の共焦スキャンをFITC波長(励起488nm、発光515nm)で記録して、後に再構築した。HFによるFITCリガンドの取込みは、視覚的に評価した(0〜4)。蛍光走触性ペプチドは明らかにHF細胞によって取り込まれるのが見られ、核は比較的FITCハプチドがない状態であった(図1A及び図1B)。ハプチドは細胞質内のナノ凝集構造に蓄積するのが分かり、蛍光は最終的には徐々に弱まった。反対に、細胞による対照FITC Cαペプチドの取込みは無視できるものであった。
【表2】

【0123】
遊離のハプチドの取込み及び内部移行(表2)は、SB−基質と結合したペプチドの細胞への走触活性と正の相関があるようであった(カラム2及び3、表2)。
【0124】
実施例2:FITCハプチド又はFITCフィブリノーゲンのリポソームへの結合
水素添加ホスファチジルセリン、PEG及びコレステロールから成るリポソーム(Sundar S.&Gregoriadis G.2001、Lancet 357(9258):801〜2;米国特許第6,083,530号)100μLを、トリス生理食塩水pH7.2で懸濁した。次いで、10μg/mlのFITC−リガンド、即ちCβ、preCγ、CαE又はフィブリノーゲンを加えた。混合物をスライドガラス上に置き、コンピュータ化されたツァイスConfocal Axiomate顕微鏡(LSM410)を用いて複数の励起波長で共焦レーザー顕微鏡法により検査した。更なる画像再構成のために、デジタル画像はコンピュータに保存された。図2に示すように、FITCフィブリノーゲン(A)、FITC Cβ(B)、FITC preCγ(C)及びFITC CαE(D)はリポソーム(初期の大きさ≦100nm)に結合してより大きな粒子への凝集を誘導した。これらの画像は、フィブリノーゲンのみならず当該ペプチドも、水性液からリポソームの脂質二重層に優先的に移行するほど疎水性であったことを示す。
【0125】
実施例3:走触性ペプチドリポソーム組成物
既に、ハプチドが凝集体を形成する傾向があることは、ゲル濾過によって観察されている(Gorodetsky R、Vexler A、Shamir M、An J、Levdansky L、Shimeliovich I、Marx G.Exp Cell Res、287:116〜129(2003)。ハプチドpreCγ溶液(1mg/ml)を0.45μmのフィルターで濾過し、次に25℃で動的光散乱法で測定した。平均粒径(3つの計測値の平均)は≦145nm(図3)であり、そのような粒子が数百のpreCγモノマーの集合体であることを示す。
【0126】
同様に、ドキシルリポソームが、80nmの平均粒径有することが測定、観察された。しかし、preCγリポソーム組成物が形成されたときは、preCγハプチド集合体はリポソーム/ハプチド重量比と相関して消失した(図3)。これらの結果は、可溶化されたハプチドはリポソーム脂質二重層内で溶けることを証明している。ドキシル/ハプチド重量比が>10−2の場合、より大きなハプチド粒子の消滅によって示されるようにハプチド集合体のほとんど全てはリポソーム内で可溶化され、走触性ペプチドリポソーム組成物を形成した。
【0127】
実施例4:HF及びBAEC細胞による走触性ペプチドリポソーム組成物の取込み
鏡検のために使用される4チャンバ細胞培養カバーグラススライド(ソース)に、ヒト線維芽細胞又はウシ大動脈の血管内皮細胞を播種し、COインキュベーター内で24時間培養した。その後、細胞を遊離のFITCハプチド又はFITC走触性ペプチドリポソーム組成物に曝した。2種類のリポソーム、即ち蛍光染料ローダミンを含む、水素添加ホスファチジルセリン、PEG及びコレステロールから成るリポソームと、抗癌剤ドキソルビシンを含む臨床等級のリポソーム(ドキシルリポソーム)を検討した。ローダミン及びドキソルビシンは、蛍光化合物である。従って、リポソームの細胞への貫入及び分布は、蛍光顕微鏡法又はFACSで追跡することができた。一般的に、蛍光走触性ペプチドリポソーム組成物の20μlを180μlのPBSと混合して細胞チャンバに加えた。インキュベーションは、37℃又は4℃で最高1時間継続した。インキュベーションはその後異なる時点でPBSによる2回の洗浄によって停止され、次に4%ホルムアルデヒド500μlで1時間固定した。次に試料をPBSで再度洗浄した。固定された細胞を載せたカバーグラスを、PBS−グリセロール80%、2%のDABCO及び別の顕微鏡検査用カバーグラスで覆った。
【0128】
ハプチドCβ又はpreCγを含んでいる走触性ペプチド−リポソーム組成物は、血管内皮細胞(図5C及び図5D)のみならず線維芽細胞(図4D及び図4E)の細胞質へのリポソーム取込みを促進にした。予想通りに、Cαはそのような取込みを誘発せず、走触活性の欠如と符合した(図4B及び図5B)。検討された条件下での遊離リポソームの細胞への取込みも、非常に低かった(図4A及び図5A)。CαEの媒介による線維芽細胞へのリポソーム取込みに関しても、誘発は低レベルであった(図4C)。しかし、このハプチドは、血管内皮細胞へのドキソルビシン−リポソーム(ドキシル)の取込みを強化する上では有効であった(図5E)。図6は、ハプチドCβによって媒介される濃度依存的なリポソーム取込みを示す。走触性ペプチドCβがヒト線維芽細胞によるリポソーム取込みを増大したことが明らかに理解される。
【0129】
ドキシルリポソームと比較したハプチド−ドキシルリポソームのヒト線維芽細胞による取込みも、細胞生存に対するドキソルビシンの影響を測定することによって検討された。
【0130】
正常ヒト線維芽細胞(HF)を、マルチウェルプレート上の通常の線維芽細胞培地で平板培養した(≦2,000細胞/ウェル)。次いで、付着した細胞を、異なる濃度のドキシル又はハプチド−ドキシル(Cβ又はpreCγ)と共に2時間インキュベートした。本発明の走触性ペプチド単独では、細胞生存に対して全く影響しなかった。図7で示すように、ドキシル単独では、約4×10−5Mの濃度で生残を≦50%に低下させたが、両方のハプチドでは同じ活性を得るのに10−6の濃度が要求されただけである。これらの結果は、細胞傷害性の増加が示すように、検討されたハプチドがドキシルリポソームの取込みを有意に増強できることを証明している。
【0131】
走触性ペプチド媒介によるリポソーム取込みの原理を図8に模式的に示す。その性質から、ハプチドは細胞ラメラに付着し、本発明で示すようにラメラを通して容易に細胞に取り込まれる(図8A)。走触性ペプチド−リポソーム組成物は、両方の物質の疎水区画により生成される。この組成物は親ハプチドの特性を保持しており、細胞によるリポソーム取込みを増強する。
【0132】
具体的な実施形態に関する前述の説明は、本発明の一般的性格を完全に明らかにしており、他の者は現在の知識を適用することによって、過度の実験なしで、また一般概念から逸脱することなく、そのような具体的な実施形態を様々な適用のために容易に変更及び/又は適応させることができる。したがって、そのような適応及び変更は、開示されている実施形態の意味及び同等物の範囲に含まれるものと理解されなければならない。
【0133】
本明細書で使用されている言葉遣い又は専門用語は、制限することではなく説明が目的であることを理解されたい。開示されている様々な化学構造及び機能を実行するための手段、材料並びにステップは、本発明から逸脱することなく様々な代替形態をとることができる。したがって、上の明細書及び/又は下記の請求項で見られ機能上の記述が付記されている表現「・・・する手段」及び「・・・のための手段」、又はいかなる方法ステップ言語は、上の明細書で開示されている実施形態と正確に同等であろうがなかろうが列挙された機能を実行するための、現在又は将来存在するかもしれないいかなる化学構造又はいかなる機能をも定義しカバーするものとする。即ち、同じ機能を実行するための他の手段又はステップを使用することができる。また、そのような表現は最も広く解釈されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1は、共焦蛍光顕微鏡法で測定した、ヒト線維芽細胞による遊離のフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識走触性ペプチド(ハプチド)の取込みを示す。
【図2】図2は、共焦蛍光顕微鏡法による、リポソームとFITCフィブリノーゲン(A)及びFITCハプチド(B−Cβ、C−preCγ、D−CαE)との会合を示す。
【図3】図3は、動的光散乱で測定された、ハプチド集合体及びリポソームの大きさと比較したときの走触性ペプチドリポソーム組成物の平均粒径を示す。
【図4】図4は、ハプチドなしの場合(図4A)、ハプチドCαの場合(図4B)、ハプチドCαEの場合(図4C)、ハプチドpreCγの場合(図4D)、及びハプチドCβの場合(図4E)の、共焦鏡で測定された、走触性ペプチドによって増加した、ヒト線維芽細胞によるローダミン含有リポゾームの取込みを示す。
【図5】図5は、ハプチドなしの場合(図5A)、ハプチドCαの場合(図5B)、ハプチドCβの場合(図5C)、ハプチドPreCγの場合(図5D)、及びハプチドCαEの場合(図5E)の、共焦蛍光顕微鏡法で測定された、走触性ペプチドによって増加した、ウシ大動脈内皮細胞によるドキシル(ドキソルビシン含有)リポソームの取込みを示す。
【図6】図6は、ハプチド−ドキソルビシン含有リポソーム組成物の取込みと比較した、ドキソルビシン含有リポソーム単独の取込みを示す。リポソーム取込みは、ハプチド−ドキソルビシン含有リポソーム組成物中のハプチド(Cβ)濃度と直接相関していた。
【図7】図7は、細胞傷害性活性(細胞生存に対する影響)で測定した、ドキシルリポソーム単独の取込みと比較した、ヒト線維芽細胞によるハプチド−ドキシルリポソーム組成物の取込みを示す。
【図8】図8は、ハプチド媒介によるリポソーム取込みの原理を模式的に表す。
【配列表】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類のペプチド及び1種類のリポソームを含む走触性ペプチドリポソーム組成物であって、
前記ペプチドが細胞付着性反応を引き出すことを特徴とし、フィブリノーゲン鎖のカルボキシ末端に存在する走触性ペプチドと少なくとも60%相同であるアミノ酸配列を有し、
前記リポソームが水性区画を囲む少なくとも1つの脂質二重層を有する、
走触性ペプチドリポソーム組成物。
【請求項2】
前記ペプチド配列が、フィブリノーゲン鎖のカルボキシ末端に存在する走触性ペプチドと少なくとも80%相同である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ペプチドが、配列番号1から3、及びその類似体、誘導体、相同体、断片又は擬似体から成る群から選択され、但し細胞付着活性を保持している、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ペプチドが、配列番号4から7、及びその類似体、誘導体、相同体、断片又は擬似体から成る群から選択され、但し細胞付着活性を保持している、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ペプチドが、配列番号8から12、及びその類似体、誘導体、相同体、断片又は擬似体から成る群から選択され、但し細胞付着活性を保持している、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ペプチドが、配列番号13及び配列番号14、及びその類似体、誘導体、相同体、断片又は擬似体から成る群から選択され、但し細胞付着活性を保持している、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
哺乳動物内皮細胞又は線維芽細胞による前記走触性ペプチドリポソーム組成物の取込みが、前記走触性ペプチドがない場合の前記リポソームの取込みと比較して少なくとも2倍増強されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記リポソームは、天然又は合成起源のリン脂質;ポリエチレングリコールと結合したリン脂質;グリセリドと結合したリン脂質;ホスホアミノ脂質、セレブログルコシド及びガングリオシドから成る群の少なくとも1つを含み;任意選択で天然又は合成のコレステロールを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記リポソームが更に生物活性化合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記生物活性化合物は、ポリヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、多糖類、ホルモン、薬剤、ステロイド、蛍光染料、及び放射性マーカーから成る群から選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
細胞へのリポソームの取込みを増強する方法であって、
請求項1に記載の走触性ペプチドリポソーム組成物を用意するステップと、
前記組成物を細胞と接触させるステップとを含み、
前記細胞によるリポソーム取込みが走触性ペプチドがない場合の前記リポソームの取込みと比較して少なくとも2倍増強される、方法。
【請求項12】
前記走触性ペプチドリポソーム組成物が、最初から少なくとも1種類のハプチドを用いて作製される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記走触性ペプチドリポソーム組成物が、少なくとも1種類のハプチドと組み合わされて予め形成された小胞を用いて即時に作製される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記走触性ペプチドリポソーム組成物を作製する方法が、親水性及び両親媒性成分と少なくとも1種類の走触性ペプチドとを水性溶液中に分散させるステップを含む、請求項12から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ペプチド配列が、フィブリノーゲン鎖のカルボキシ末端に存在する走触性ペプチドと少なくとも80%相同である、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記走触性ペプチドが、配列番号1から3、及びその類似体、誘導体、相同体、擬似体又は断片から成る群から選択され、但し細胞付着活性を保持している、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記走触性ペプチドが、配列番号4から7、及びその類似体、誘導体、相同体、擬似体又は断片から成る群から選択され、但し細胞付着活性を保持している、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記走触性ペプチドが、配列番号8から12、及びその類似体、誘導体、相同体、擬似体又は断片から成る群から選択され、但し細胞付着活性を保持している、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記走触性ペプチドが、配列番号13及び配列番号14、及びその類似体、誘導体、相同体、擬似体又は断片から成る群から選択され、但し細胞付着活性を保持している、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記リポソームの脂質相が、天然又は合成起源のリン脂質;ポリエチレングリコールと結合したリン脂質;グリセリドと結合したリン脂質;ホスホアミノ脂質、セレブログルコシド及びガングリオシドから成る群の少なくとも1つを含み;任意選択で天然又は合成のコレステロールを更に含む、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞は、哺乳類の細胞、例えば白血球、及び間葉性起源の細胞、例えば星状細胞、軟骨細胞、樹状細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、グリア細胞、ニューロン、腎細胞、肝細胞、メラニン細胞、間葉系細胞、筋線維芽細胞、単球、実質細胞、膵細胞、平滑筋細胞及び甲状腺細胞、悪性腫瘍細胞並びに形質転換細胞から成る群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項22】
走触性ペプチドリポソーム組成物を使用して細胞膜透過性が低いことを特徴とする生物活性化合物の細胞内取込みを増強する方法であって、
走触性ペプチドリポソーム組成物であって、前記リポソームが細胞膜透過性が低いことを特徴とする生物活性分子を含む組成物を用意するステップと、
前記走触性ペプチドリポソーム組成物と細胞を接触させるステップとを含み、
前記分子の取込みが前記走触性ペプチドリポソーム組成物から分離している前記分子の取込みと比較して少なくとも2倍増強される、方法。
【請求項23】
前記走触性ペプチドリポソーム組成物は、少なくとも1種類のハプチド及び少なくとも1種類の生物活性分子で最初から作製される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記走触性ペプチドリポソーム組成物は、少なくとも1種類のハプチドと組み合わせた少なくとも1種類の生物活性分子を含む予め形成された小胞を使って即時に作製される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記走触性ペプチドリポソーム組成物を作製する方法が、親水性及び両親媒性成分、少なくとも1種類の走触性ペプチド及び少なくとも1種類の生物活性分子を水性溶液中に分散させるステップを含む、請求項23又は24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ペプチド配列が、フィブリノーゲン鎖のカルボキシ末端に存在する走触性ペプチドと少なくとも80%相同である、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記走触性ペプチドが、配列番号1から3、及びその類似体、誘導体、相同体、擬似体又は断片から成る群から選択され、但し細胞付着活性を保持している、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記走触性ペプチドが、配列番号4から7、及びその類似体、誘導体、相同体、擬似体又は断片から成る群から選択され、但し細胞付着活性を保持している、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記走触性ペプチドが、配列番号8から12、及びその類似体、誘導体、相同体又は断片から成る群から選択され、但し細胞付着活性を保持している、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記走触性ペプチドが、配列番号13及び配列番号14、及びその類似体、誘導体、相同体又は断片から成る群から選択され、但し細胞付着活性を保持している、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記リポソームの脂質相が、天然又は合成起源のリン脂質;ポリエチレングリコールと結合したリン脂質;グリコシドと結合したリン脂質;ホスホアミノ脂質、セレブログルコシド及びガングリオシドから成る群の少なくとも1つを含み;任意選択で天然又は合成のコレステロールを更に含む、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞は、哺乳類の細胞、例えば白血球、及び間葉性起源の細胞、例えば星状細胞、軟骨細胞、樹状細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、グリア細胞、ニューロン、腎細胞、肝細胞、メラニン細胞、間葉系細胞、筋線維芽細胞、単球、実質細胞、膵細胞、平滑筋細胞、甲状腺細胞、悪性細胞及び形質転換細胞から成る群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項33】
前記リポソーム内の生物活性化合物は、ポリヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、多糖類、ホルモン、薬剤、ステロイド、蛍光マーカー及び放射性マーカーから成る群から選択される、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
走触性ペプチドリポソーム組成物を含む医薬用組成物であって、前記リポソームが診断上又は治療上の活性を有する少なくとも1つの有効成分を含み、前記リポソームが薬剤として許容される希釈剤又は担体で製剤化される、医薬用組成物。
【請求項35】
前記有効成分は、細胞傷害性化合物、細胞増殖抑制化合物、アンチセンス化合物、抗ウイルス剤、特異抗体及び造影剤から成る群から選択される、請求項34に記載の医薬用組成物。
【請求項36】
走触性ペプチドリポソーム組成物を含み、前記リポソームが美容上有益な効果を有する、美容用組成物。
【請求項37】
細胞への薬剤の送達を増強する方法において、それを必要とする対象に、走触性ペプチドリポソーム医薬組成物であって、前記組成物の前記リポソームが薬剤として有効な物質を更に含む組成物を、治療有効量投与するステップを含む、方法。
【請求項38】
前記医薬組成物が、非経口的、局所的、経口的又は吸入により投与される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
細胞への診断薬の送達を増強する方法において、それを必要とする対象に、走触性ペプチドリポソーム医薬組成物であって、前記組成物の前記リポソームが診断上有効な物質を更に含む組成物を、診断上有効な量投与するステップを含む、方法。
【請求項40】
前記医薬組成物が、非経口的、局所的又は経口的に投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
細胞への美容上有効なリポソームの送達を増強する方法において、それを必要とする対象に、走触性ペプチドリポソーム組成物であって、前記組成物の前記リポソームが化粧上有益な効果を有する組成物を、投与するステップを含む、方法。
【請求項42】
前記リポソームが、更に美容上有益な効果を有する有効成分を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記美容用組成物が局所的に投与される、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
薬剤として有効な物質の細胞への送達を増強するための、その組成物のリポソームが前記薬剤として有効な物質を更に含む走触性ペプチドリポソーム組成物の使用。
【請求項45】
診断上有効な物質の細胞への送達を増強するための、その組成物のリポソームが前記診断上有効な物質を更に含む走触性ペプチドリポソーム組成物の使用。
【請求項46】
化粧上有効なリポソームの細胞への送達を増強するための、その組成物のリポソームが化粧上有益な効果を有する走触性ペプチドリポソーム組成物の使用。
【請求項47】
前記リポソームが、更に美容上有益な物質を含む、請求項46に記載の使用。

【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−514924(P2006−514924A)
【公表日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549517(P2004−549517)
【出願日】平成15年11月3日(2003.11.3)
【国際出願番号】PCT/IL2003/000911
【国際公開番号】WO2004/041298
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(505166513)ハプト バイオテック、インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】