説明

超伝導光検出素子

【課題】光検出効率が低いという従来技術における課題を解消し、偏波依存性が小さく、高い光検出効率を有する超伝導光検出素子を提供する。
【解決手段】超伝導光検出素子は、複数のメアンダ(蛇行、雷文、ジクザク)形状の超伝導細線を、結晶基板の表裏、あるいは絶縁膜や接着剤を介して互いに近接かつ細線の方向が互いに直角となるように設置する。この配置構成により、最初のメアンダ細線に直角な偏波を有するため検出されなかった光子は、次のメアンダ細線とは平行な偏波を有するために検出可能となる。すなわち、任意の光子は互いに直角な直線からなる偏波に分解することが可能なため、任意の偏波を有する光子について検出可能となる。また、この配置構成により、偏波による取りこぼしがなくなるため、偏波依存性は小さくなり、光検出効率は従来例に比べて2倍程度向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超伝導を用いた光検出素子に関し、特に赤外域における単一光子を偏波依存性無しに検出するための超伝導光検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
量子力学の原理を応用した暗号化システムと情報伝達システムを統合した量子暗号通信は盗聴不可能な究極の通信であり、次世代の通信として実用化が期待されている。量子暗号通信では極微弱な単一光子を伝達情報の単位として使用しており、光ファイバを用いた長距離伝送をするためには、高量子効率・高速・低ノイズの単一光子光検出器が必要である。現在、様々な単一光子検出器が開発されているが、最近、超伝導を用いた単一光子検出器が実現し、注目されている(特許文献1,2および3)。この単一光子検出器はメアンダ(蛇行、雷文、ジクザク)形状の超伝導細線からなり、高速(GHz)動作可能で、暗計数率が低いなど他の検出器では実現できない多くの利点を持つ。しかしながら、その単一光子検出器はメアンダ細線に平行な偏波に対しては光検出効率が高いが、メアンダ細線に直角な偏波に対しては光検出効率が低いという偏波依存性を示す。光ファイバ中の光の偏光状態は通常ランダムになっており、効率よく検出するためには偏波依存性のない光検出器が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−71908号公報
【特許文献2】米国特許第6812464号明細書
【特許文献3】米国特許第7049593号明細書
【0004】
【非特許文献1】S. N. Dorenbos, et al., ‘‘Superconducting single photon detectors with minimized polarization dependence’’, Applied Physics Letters, Vol. 93, 161102, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では偏波依存性を減少させるために、メアンダの形状を変更して、縦方向のメアンダ細線と横方向のメアンダ細線とを同一平面上で並べて設置して受光する方法、または、メアンダ細線を渦巻き型の曲線に変更する方法が試みられてきた(非特許文献1)。しかしながら、この従来方法では偏波がメアンダの方向と異なって検出されなかった光は、検出素子を透過してしまうため、光検出効率が低いという解決すべき課題があった。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術における上記のような課題を解消し、偏波依存性が小さく、かつ高い光検出効率を有する超伝導光検出素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の超伝導光検出素子は、メアンダ形状の複数の細線を垂直方向に互いに近接して、一方の細線の配列方向に対して隣接する他方の細線の配列方向が直角となるように、順次重ね合わせて設置されていることを特徴とする。最初のメアンダ細線に直角な偏波を有するため検出されなかった光子は、次のメアンダ細線とは平行な偏波を有するために検出可能となる。任意の光子は互いに直角な直線からなる偏波に分解することが可能なため、この配置構成によれば、任意の偏波を有する光子について検出可能となる。この配置構成により、本発明によれば、偏波による取りこぼしがなくなるため、偏波依存性は小さくなり、光検出効率は表面だけにメアンダ細線がある従来技術に比べて2倍程度向上する。
【0008】
さらに詳細に説明すると、本発明の一態様においては、例えば、結晶基板上の表面に対して超伝導材料からなるメアンダ形状の第1の細線を形成し、その後、その結晶基板の裏面に対して、表面の第1の細線とは直角な向きに超伝導材料からなるメアンダ形状の第2の細線を形成する。これにより、第2の細線は、第1の細線に対して垂直位置で、かつ第2の細線の配列方向が前記第1の細線の配列方向に対して直角となる位置に形成される。この場合、結晶基板の表面の第1の細線と直角な偏波を有する光子は、表面の第1の細線には吸収されずに、結晶基板の裏面の第2の細線上に照射される。この光子は裏面の第2の細線と平行な偏波を有するため、裏面の第2の細線に吸収される。表面および裏面のメアンダ形状のこれら細線は、その片端を結合すれば一本の細線と見なせるので、その結合した細線に読み出し検出用の電気回路を接続すれば、単一光子の検出が出来る光子検出デバイスが得られる。また、結晶基板の表面および裏面の第1、第2の細線を独立なものとして、各々の細線に対して、別個に読み出し検出用電気回路を接続しても、光子の検出ができる。
【0009】
また、入射光のスポット径の拡がりによる光検出効率の低下を防ぐために、好ましくは表面の第1の細線と裏面の第2の細線の間隔(すなわち結晶基板の厚さ)は10μm以上100μm以下に近接させて設置する。
【0010】
本発明の別の様態においては、例えば、結晶基板上に超伝導材料からなるメアンダ形状の第1の細線を形成し、その結晶基板と第1の細線上に第1の絶縁膜を形成した後で、その第1の絶縁膜の上に第1の細線とは直角な向きに超伝導材料からなるメアンダ形状の第2の細線をさらに形成することで、上記の態様と同様に、偏波による取りこぼしがなくなるため、偏波依存性は小さくなり、光検出効率は表面だけにメアンダ細線がある従来技術に比べて2倍程度向上する。さらに、その第1の絶縁膜と第2の細線の表面に対して第2の絶縁膜を形成し、第2の絶縁膜の表面に対して超伝導材料からなるメアンダ形状の第3の細線を形成し、第2の絶縁膜と第3の細線の表面に対して第3の絶縁膜を形成し、第3の絶縁膜の表面に対して超伝導材料からなるメアンダ形状の第4の細線を形成するというように、N(Nは3以上の整数)以上の絶縁膜と超伝導材料からなるメアンダ形状のN+1以上の細線を繰り返し形成する多層膜構造にして、偶数番目の1つまたは2つ以上の細線が、隣接する奇数番目の細線に対して垂直位置で、かつ偶数番目の細線の配列方向が奇数番目の細線の配列方向に対して直角となる位置に形成することにより、光検出効率をさらに向上することもできる。また、入射光のスポット径の拡がりによる光検出効率の低下を防ぐために、各絶縁膜の厚さは10nm以上100μm以下が好ましい。
【0011】
本発明のさらに別の様態においては、例えば、第1の結晶基板上に超伝導材料からなるメアンダ形状の第1の細線を形成し、第2の結晶基板上に超伝導材料からなるメアンダ形状の第2の細線を形成し、第2の細線の配列方向が第1の細線の配列方向に対して直角となる向きに、第2の細線を接着剤または絶縁膜と接着剤を介して第1の細線に接着することより、上述した他の態様と同様に、偏波による取りこぼしがなくなるため、偏波依存性は小さくなり、光検出効率は表面だけにメアンダ細線がある従来技術に比べて2倍程度向上する。ここで、入射光のスポット径の拡がりによる光検出効率の低下を防ぐために、第1の細線と第2の細線間の間隔は、1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の上記各構成に対して、光の入射側である超伝導光検出素子の表面側に配置された無反射コーティング、およびその超伝導光検出素子の裏面側に配置されたバックミラーの少なくともいずれかの設置によるキャビティ化を追加することによって、さらなる光検出効率の向上を図ることができる。
【0013】
また、本発明の上記各構成に対して、メアンダ形状の各上記細線において、そのメアンダ形状の大きさが1μm角以上で10μm角以下であり、その細線の線幅が10nm以上で200nm以下であり、その細線の厚みが1nm以上で5nm以下である、とすることができる。
【0014】
また、本発明の上記各構成に対して、超伝導材料がNbNであり、結晶基板および絶縁膜がMgOまたはAlNまたは酸化アルミニウムである、あるいは、超伝導材料がMgB2であり、結晶基板および絶縁膜がSiCまたはAlNまたは酸化アルミニウムである、あるいは、超伝導材料が銅酸化物超伝導体であり、結晶基板および絶縁膜がNdGaO3またはSrLaGaO4またはLaSrAlO4である、とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、上記構成により、本発明によれば、入射した光子は、偏波方向にかかわらず、必ず光検出効率の高い偏波依存性を有するメアンダ細線上に照射されるため、光検出効率の高い光検出素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適応した第1の実施の形態の超伝導光検出素子の概略構成を示し、(a)は上面図(平面図)、(b)は裏面図(背面図)、および(c)は(a)および(b)の切断線A−A’線に沿う断面図である。
【図2】本発明を適応した第2の実施の形態の超伝導光検出素子の概略構成を示し、(a)は素子の上面図(平面図)、(b)は結晶基板の上面図、および(c)は(a)および(b)の切断線B−B’線に沿う断面図である。
【図3】本発明を適応した第3の実施の形態の超伝導光検出素子の断面図である。
【図4】本発明を適応した第4の実施の形態の超伝導光検出素子の断面図である。
【図5】本発明を適応した第5の実施の形態の超伝導光検出素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明を適用した第1の実施の形態の超伝導光検出素子の概略構成を示し、図1(a)は上面図(平面図)、図1(b)は裏面図(背面図)、および図1(c)は図1(a)、(b)の切断線A-A’線に沿う断面図である。
【0019】
本実施形態の超伝導光検出素子を製造工程順に説明する。まず、MgO結晶基板101の表面上に反応性スパッタ法によりNbN超伝導薄膜を厚さ4nm形成する。
【0020】
続いて、電子ビームリソグラフィ(EB)および反応性イオンエッチング(RIE)によって上記NbN薄膜を図1(a)に示すようなメアンダ形状の細線102に形成する。メアンダの大きさは10μm ×10μmで線幅は100nm、線間隔(ある線の中心から隣の線の中心までの距離。以下同様)は200nm(開口率50%)である。なお、線と線との「隙間」は、100nmである。
【0021】
次に、上記MgO結晶基板101の裏面をその基板の厚さが約50μmになるまで研磨する。ここで、研磨による基板割れを防ぐために、基板の表面に別のMgO基板を張り付けてから研磨しても良い。または、最初から厚さ50μmの結晶基板を用いることもできる。結晶基板の厚みは入射光のスポット径広がりを抑えるために小さい方が良いが、薄すぎると自立できなくなるため、10μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0022】
さらに、MgO結晶基板101の裏面に反応性スパッタ法によりNbN超伝導薄膜を厚さ4nm形成する。
【0023】
続いて、電子ビームリソグラフィ(EB)および反応性イオンエッチング(RIE)によって、裏面のNbN薄膜を図1(b)に示すようなメアンダ形状の細線103に形成する。この際、裏面のメアンダ細線103は、表面のメアンダ細線102に対して、垂直に重なる位置で、メアンダ細線の配列方向が互いに直角となる位置に形成する。
【0024】
このようにして形成された超伝導光検出素子の断面を図1(c)に示す。図1(c)から、光照射方向である素子の上方からみた場合、上下のメアンダ形状の細線102,103は互いに直角に交差した構造になっていることが分かる。この素子の上方から極微弱光(矢印104で示す)を照射し、単一光子が入射した場合を考える。単一光子の偏波依存性は、上方のメアンダ細線に平行な成分と、それに直角な成分に分解できる。上方のメアンダ細線102に平行な成分の光子は、上方のメアンダ細線102で検出され、電気信号となって検出される。一方、上方のメアンダ細線102に直角な成分の光子は、上方のメアンダ細線102を透過するが、下方のメアンダ細線103に照射され、このメアンダ細線103により検出される。したがって、直交したメアンダ細線102,103が結晶基板の両面にあることにより、表面だけにメアンダ細線がある従来技術の場合と比較して、光検出効率は2倍に向上する。
【0025】
上記の材質や寸法等は一具体例を例示したもので、本発明はこれに限定されない。例えば、細線102、103は超伝導材料から形成されるが、この超伝導材料としては、上記のNbNの他に、MgB2、銅酸化物が使用できる。細線102,103の超伝導材料としてNbNを使用した場合には、結晶基板101には上記MgOの他に、酸化アルミニウムまたはAlNが使用できる。また、細線102,103の超伝導材料としてMgB2を使用した場合は、結晶基板101にはSiCまたはAlNまたは酸化アルミニウムが使用できる。一方、細線102,103の超伝導材料として銅酸化物超伝導体を使用した場合は、結晶基板101としてはNdGaO3またはSrLaGaO4またはSrLaAlO4が使用できる。さらに、細線の断面は単一光子検出可能となるためには小さい方が望ましく、細線102,103の線幅は10nm以上で200nm以下、細線102,103の厚みは1nm以上で5nm以下であることが好ましい。また、メアンダの大きさは、1μm角以上で10μm角以下が好ましい。
【0026】
結晶基板101の表面のメアンダ細線102および裏面のメアンダ細線103は、それら細線の片端を互いに結合すれば一本の細線とみなせるので、この結合した細線に読み出し検出用の電気回路(図示しない)を接続すれば、単一光子の検出ができる光デバイスが得られる。また、結晶基板101の表面のメアンダ細線102および裏面のメアンダ細線103を独立なものとして、各々の細線102,103に対して別個に、読み出し検出用の電気回路(図示しない)を接続しても、光子の検出ができる。
【実施例2】
【0027】
図2は本発明を適応した第2の実施の形態の超伝導光検出素子の概略構成を示し、図2(a)は素子の上面図(平面図)、図2(b)は結晶基板の上面図、および図2(c)は図2(a)、(b)の切断線B−B’に沿う断面図である。
【0028】
本実施形態の超伝導光検出素子を製造工程順に説明する。まず、MgO結晶基板201の上に反応性スパッタ法によりNbN超伝導薄膜を厚さ4nm形成する。
【0029】
電子ビームリソグラフィ(EB)および反応性イオンエッチング(RIE)によって上記のNbN薄膜を図2(b)に示すようなメアンダ形状の第1の細線202に形成する。メアンダの大きさは10μm ×10μmで線幅は100nm、線間隔は200nm(開口率50%)である。
【0030】
次に、結晶基板201と第1の細線202の上に、反応性スパッタ法によりMgO絶縁体薄膜203を厚さ1μm形成する。その後、化学的機械的研磨(CMP)によって、MgO絶縁体薄膜203の表面を平坦化する。ここで、MgO薄膜は蒸着法によって作製しても良い。また、MgO薄膜203の厚さは、薄膜であるために、上述の第1の実施の形態の基板を用いた場合よりも薄くすることが可能で、10nm以上100μm以下であることが好ましい。
【0031】
平坦化されたMgO絶縁体薄膜203の表面に反応性スパッタ法によりNbN超伝導薄膜を厚さ4nm形成する。
【0032】
電子ビームリソグラフィ(EB)および反応性イオンエッチング(RIE)によって、MgO絶縁体薄膜表面上のNbN薄膜を、図2(a)に示すようなメアンダ形状の第2の細線204に形成する。この際、第2のメアンダ細線204は、MgO基板201上の第1のメアンダ細線202に対して、垂直に重なる位置で、メアンダ細線の配列方向が互いに直角となる位置に形成する。
【0033】
このようにして形成された超伝導光検出素子の断面を図2(c)に示す。図2(c)から、光照射方向である素子の上方からみた場合、上下のメアンダ形状の細線202,204は互いに直角に交差した構造になっていることが分かる。この素子の上方から極微弱光(矢印205で示す)を照射し、単一光子が入射した場合を考える。単一光子の偏波依存性は上方のメアンダ細線204に平行な成分とそれに直角な成分に分解できる。上方のメアンダ細線204に平行な成分の光子は、上方のメアンダ細線204で検出され、電気信号となって検出される。一方、上方のメアンダ細線204に直角な成分の光子は、上方のメアンダ細線204を透過するが、下方のメアンダ細線202に照射され、このメアンダ細線202により検出される。したがって、直交したメアンダ細線202.204が上下にあることにより、表面だけにメアンダ細線がある従来技術の場合と比較して、光検出効率は2倍に向上する。
【0034】
上記の材質や寸法等は一具体例を例示したもので、本発明はこれに限定されない。例えば、細線202、204は超伝導材料から形成されるが、この超伝導材料としては、上記のNbNの他に、MgB2、銅酸化物が使用できる。細線202,204の超伝導材料としてNbNを使用した場合には、結晶基板201および絶縁膜203には上記MgOの他に、酸化アルミニウムまたはAlNが使用できる。また、細線202,204の超伝導材料としてMgB2を使用した場合は、結晶基板201および絶縁膜203にはSiCまたはAlNまたは酸化アルミニウムが使用できる。一方、細線202,204の超伝導材料として銅酸化物超伝導体を使用した場合は、結晶基板201および絶縁膜203としてはNdGaO3またはSrLaGaO4またはSrLaAlO4が使用できる。さらに、細線202,204の線幅は10nm以上で200nm以下、細線202,204の厚みは1nm以上で5nm以下であることが好ましい。また、メアンダの大きさは、1μm角以上で10μm角以下が好ましい。
【0035】
本実施形態の上記細線202,204と読み出し検出用の電気回路(図示しない)との結線状態は上述の第1の実施の形態と同様なので、その説明は省略する。
【実施例3】
【0036】
図3は本発明を適応した第3の実施の形態の超伝導光検出素子の断面図である。
【0037】
光がNbN超伝導メアンダ細線に照射された際に、図2の構成では第2のメアンダ細線204と第1のメアンダ細線202を透過する光も実際上あり得るため、本実施の形態では、図3に示すように、第2のメアンダ細線204の上に第2の絶縁膜305を作製し、その絶縁層305の上に第3のメアンダ細線306を第1のメアンダ細線202と同じ向きに作製し、さらにその第3のメアンダ細線306の上に第3の絶縁膜307を作製し、その第3の絶縁層の上に第4のメアンダ細線308を第2のメアンダ細線204と同じ向きに作製する。このような多層構造にすることにより、光検出効率がさらに向上する。なお、各絶縁膜の厚さは10nm以上100μm以下が好ましいことは、上述の第2の実施の形態と同様である。
【0038】
また、これら各層の細線の配置の位置関係の順番、層の個数は必要に応じて任意に決めて良い。例えば、本実施形態は、N(Nは3以上の整数)以上の絶縁膜と超伝導材料からなるメアンダ形状のN+1以上の細線とを交互に繰り返し積層した多層膜構造の超伝導光検出素子に、上記と同様に適用できる。その他の構成や変形例は、上述の第2の実施の形態と同様なので、その説明は省略する。
【実施例4】
【0039】
図4は本発明を適応した第4の実施の形態の超伝導光検出素子の断面図である。
【0040】
第1の結晶基板201の上に作製された第1のメアンダ細線202と、第2の結晶基板401の上に作製された第2のメアンダ細線204を、接着剤402を介して、それら細線が互いに直角に交差するように、相対する向きに貼り合わせることで、超伝導光検出素子を形成する。本例に用いる「接着剤」は、光ファイバ接続等に用いられる光に対し透過性を有する光学用の導電性のない接着剤である。接着剤402の厚みは入射光のスポット径広がりを抑えるために薄くした方が良く、1μm以上100μm以下であることが好ましい。このような構造にすることにより偏波依存性のない単一光子の検出が出来る光子検出デバイスが得られる。また、第1のメアンダ細線202と第2のメアンダ細線204の上にそれぞれ絶縁膜(図示しない)を作製した後に、それら絶縁膜同士を接着剤402により接着しても良い。その他の構成や変形例は、上述の第2の実施の形態と同様なので、その説明は省略する。
【実施例5】
【0041】
図5は本発明を適応した第5の実施の形態の超伝導光検出素子の断面図である。
【0042】
第5の実施の形態では、図1(c)、あるいは図2(c)、あるいは図3、あるいは図4に示すような本発明の超伝導光検出素子の表面(光の入射側)に無反射コーティング501を設置し、その素子の裏面にバックミラー502を設置している。バックミラー502としては、例えば金膜などが適用される。このように、無反射コーティングやバックミラーの設置によるキャビティ化を追加することによって、さらなる光検出効率の向上を図ることができる。
【0043】
(他の実施例)
上記では、本発明の好適な実施形態を例示して説明したが、本発明の実施形態は上記例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内であれば、その構成部材等の置換、変更、追加、個数の増減、形状の設計変更等の各種変形は、すべて本発明の実施形態に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
101 結晶基板
102 表面超伝導メアンダ細線(第1の細線)
103 裏面超伝導メアンダ細線(第2の細線)
104 入射光
201 第1の結晶基板
202 第1の超伝導メアンダ細線
203 絶縁膜(第1の絶縁膜)
204 第2の超伝導メアンダ細線
205 入射光
305 第2の絶縁膜(絶縁体薄膜)
306 第3の超伝導メアンダ細線
307 第3の絶縁膜
308 第4の超伝導メアンダ細線
401 第2の結晶基板
402 接着剤または接着剤及び絶縁膜
501 無反射コーティング
502 バックミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶基板上の表面に対して形成された超伝導材料からなるメアンダ形状の第1の細線と、
前記結晶基板上の裏面に対して形成された前記超伝導材料からなるメアンダ形状の第2の細線とを有し、
前記第2の細線が、前記第1の細線に対して垂直位置で、かつ前記第2の細線の配列方向が前記第1の細線の配列方向に対して直角となる位置に形成されていることを特徴とする超伝導光検出素子。
【請求項2】
前記結晶基板の厚さが10μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の超伝導光検出素子。
【請求項3】
結晶基板上の表面に対して形成された超伝導材料からなるメアンダ形状の第1の細線と、
前記結晶基板上と前記第1の細線の表面に対して形成された第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜の表面に対して形成された前記超伝導材料からなるメアンダ形状の第2の細線とを有し、
前記第2の細線が、前記第1の細線に対して垂直位置で、かつ前記第2の細線の配列方向が前記第1の細線の配列方向に対して直角となる位置に形成されていることを特徴とする超伝導光検出素子。
【請求項4】
さらに、前記第1の絶縁膜と前記第2の細線の表面に対して形成された第2の絶縁膜と、
前記第2の絶縁膜の表面に対して形成された超伝導材料からなるメアンダ形状の第3の細線と、
前記第2の絶縁膜と前記第3の細線の表面に対して形成された第3の絶縁膜と、
前記第3の絶縁膜の表面に対して形成された超伝導材料からなるメアンダ形状の第4の細線を少なくとも有する、N(Nは3以上の整数)以上の絶縁膜と超伝導材料からなるメアンダ形状のN+1以上の細線とを交互に繰り返し積層した多層膜構造の超伝導光検出素子であって、
偶数番目の1つまたは2つ以上の前記細線が、隣接する奇数番目の前記細線に対して垂直位置で、かつ前記偶数番目の細線の配列方向が前記奇数番目の細線の配列方向に対して直角となる位置に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の超伝導光検出素子。
【請求項5】
各前記絶縁膜の厚さが10nm以上100μm以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の超伝導光検出素子。
【請求項6】
第1の結晶基板上の表面に対して形成された超伝導材料からなるメアンダ形状の第1の細線と、
第2の結晶基板上の表面に対して形成された前記超伝導材料からなるメアンダ形状の第2の細線とを有し、
前記第2の細線が、接着剤または絶縁膜と接着剤を介して、前記第1の細線に対して垂直位置で、かつ前記第2の細線の配列方向が前記第1の細線の配列方向に対して直角となる位置に、前記第1の細線に対して接着して形成されていることを特徴とする、超伝導光検出素子。
【請求項7】
前記第1の細線と前記第2の細線間の間隔が、1μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項6に記載の超伝導光検出素子。
【請求項8】
光の入射側である前記超伝導光検出素子の表面側に配置された無反射コーティング、および該超伝導光検出素子の裏面側に配置されたバックミラーの少なくともいずれかをさらに有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの項に記載の超伝導光検出素子。
【請求項9】
メアンダ形状の各前記細線において、該メアンダ形状の大きさが1μm角以上で10μm角以下であり、該細線の線幅が10nm以上で200nm以下であり、該細線の厚みが1nm以上で5nm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの項に記載の超伝導光検出素子。
【請求項10】
前記超伝導材料がNbNであり、前記結晶基板および前記絶縁膜がMgOまたはAlNまたは酸化アルミニウムである、あるいは
前記超伝導材料がMgB2であり、前記結晶基板および前記絶縁膜がSiCまたはAlNまたは酸化アルミニウムである、あるいは
前記超伝導材料が銅酸化物超伝導体であり、前記結晶基板および前記絶縁膜がNdGaO3またはSrLaGaO4またはLaSrAlO4である、のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの項に記載の超伝導光検出素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−164068(P2011−164068A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30383(P2010−30383)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】