説明

超伝導加速器空洞の製造方法、超伝導加速器空洞、超伝導加速器空洞の製造装置

【課題】超伝導加速器空洞に対して、欠陥の発生を抑制して内表面の平滑性を確保し、前記超伝導加速器空洞の性能低下を抑制する。
【解決手段】超伝導材料から構成される複数の内部空洞セルを互いに連接し、前記複数の内部空洞セルの連接部の内側を、前記複数の内部空洞セルの内部に配置したガイド部材で保持する。次いで、前記複数の内部空洞セルの前記連接部の外側を摩擦攪拌接合して、前記複数の内部空洞セルを互いに接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導加速器空洞の製造方法、超伝導加速器空洞、超伝導加速器空洞の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超伝導加速器空洞は、内部空洞の複数のセルの連接部を電子ビーム溶接することで、製作コストが安く、前記複数のセルからなるマルチセルのアイリス部に溶接欠陥を生じないようにして製造している(例えば、特許文献1等)。
【0003】
しかしながら、前記セルは、一般に金型を用いたプレス加工で成形するものであるため、高精度にプレス加工しても、その真円度や肉厚分布は各々のセルで微妙に異なる。したがって、これらを連接させてその接続部を電子ビーム溶接する場合、真円度や肉厚の微妙な相違による溶接部のずれや隙間の影響を受け、ボイドや凹みなどの欠陥が発生する場合がある。
【0004】
また、前記電子ビーム溶接は溶融溶接であるため、スパッタの発生する場合もあり、平滑な内表面が要求される加速器の性能を低下させる。また、電子ビーム溶接は、局所的ではあるが溶融・凝固を伴うので、これによる変形が発生してしまう場合がある。
【0005】
したがって、特許文献1に記載の方法では、上述した溶接部のずれや隙間、ボイド、凹み及び上記スパッタに伴う欠陥の発生によって、前記超伝導加速器空洞の内表面の平滑性が損なわれてしまうので、加速周波数の減少等の加速器の性能低下につながっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−47567号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、超伝導加速器空洞に対して、上述のような欠陥の発生を抑制して内表面の平滑性を確保し、前記超伝導加速器空洞の性能低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明の一態様は、超伝導材料から構成される複数の内部空洞セルを互いに連接する工程と、前記複数の内部空洞セルの連接部の内側を、前記複数の内部空洞セルの内部に配置したガイド部材で保持する工程と、前記複数の内部空洞セルの前記連接部の外側を摩擦攪拌接合して、前記複数の内部空洞セルを互いに接合する工程と、を具えることを特徴とする、超伝導加速器空洞の製造方法に関する。
【0009】
上記態様によれば、目的とする超伝導加速器空洞の構成要素である複数の内部空洞セルの連接部を、前記複数の内部空洞セル内に配置したガイド部材で保持するとともに、前記連接部の外側を摩擦攪拌接合し、これによって前記複数の内部空洞セルを互いに接合するようにしている。したがって、前記連接部におけるずれや隙間等を生じることがなく、また、ボイドや凹みなどの欠陥の発生も抑制することができる。さらに、上述したような摩擦攪拌接合を用いて、前記複数の内部空洞セルの前記連接部を結合するようにしているので、溶接の場合のようなスパッタが生じることもない。
【0010】
したがって、最終的に得た超伝導加速器空洞の内表面を十分平滑に保持することができ、加速周波数の減少等の加速器の性能低下を抑制することができる。
【0011】
なお、特開2005−259415号公報には、摩擦攪拌接合を用いることによって、真空チェンバの端部に設置する冷却チャンネルを接合する技術が開示されている。しかしながら、上記特許文献に記載された技術は真空チャンバに対する冷却チャンネルの接合に関するものであって、本発明の技術と分野を異にする。また、上記特許文献では、接合すべき冷却チャンネルの内部にガイド部材を配置して保持した状態で、その外側を摩擦攪拌接合によって接合するという、本発明の上記態様に係わる技術については何ら開示されていない。したがって、上記特許文献は、本発明の引例等には該当しないものである。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、超伝導加速器空洞に対して、欠陥の発生を抑制して内表面の平滑性を確保し、前記超伝導加速器空洞の性能低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図2】同じく、第1の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図3】同じく、第1の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図4】同じく、第1の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図5】同じく、第1の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図6】同じく、第1の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図7】同じく、第1の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図8】第2の実施形態におけるガイド部材の断面図である。
【図9】図9に示すガイド部材の分割立体図である。
【図10】第2の実施形態におけるガイド部材で端部セル及び中間セルを保持した状態を示す図である。
【図11】第3の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図12】同じく、第3の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図13】同じく、第3の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図14】同じく、第3の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図15】同じく、第3の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図16】第4の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図17】第5の実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。
【図18】第6の実施形態における摩擦攪拌接合装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の詳細並びにその他の特徴及び利点について説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1〜図4は、本実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法を説明するための図である。図1は、前記超伝導加速器空洞を構成する、複数の内部空洞セルの構成を示す図であり、図2は、本実施形態で使用する超伝導加速器空洞の製造装置であり、図3及び図4は、本実施形態における超伝導加速器空洞の製造工程を示す図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態では、バルジ加工された筒状であって内部が空洞の端部セル11と中間セル12とを準備する。本実施形態では、中間セル12の数を3とし、合計5つのセルを用いているが、セルの数は得ようとする超伝導加速器空洞の長さ等に起因して任意に決定することができる。
【0017】
また、各セルの肉厚は例えば2.5mm〜3mm程度とすることができ、セル11及び12の最少径部分(いわゆるアイリス部)11A及び12Aは、例えば50mm〜100mm程度とすることができ、セル11及び12の最大径部分(いわゆる赤道部)11B及び12Bは、200mm〜300mmとすることができる。また、各セルの長さは例えば100mmとすることができる。
【0018】
なお、各セルは超伝導材料からなることが必要であり、本実施形態では、例えばNbから構成することができる。
【0019】
また、本実施形態では、図1から明らかなように、セル11及びセル12間、並びにセル12同士の連接部13には、各セルの最少径部分11A及び12Aが位置しており、かかる部分を以下に説明する摩擦攪拌接合で接合する。
【0020】
また、図2に示す超伝導加速器空洞の製造装置20は、筐体21と、その略中心部において、筐体21の高さ方向に延在するようにして設けられた軸22と、軸22に対して支持固定された複数のガイド部材23とを有している。なお、軸22の上端及び下端は、それぞれ筐体21の上面及び下面に固定されている。また、複数のガイド部材23は、それぞれ軸22の延在方向において、所定の間隔、具体的には以下に示すように、図1に示す複数の内部空洞セル11及び12を図2に示す製造装置20内、すなわち筐体21内に設置した際に、ガイド部材23の側面がそれらの連接部13に位置するようにして配置する。
【0021】
なお、図2から明らかなように、ガイド部材23は、軸22の延在方向と垂直に延在するようにして軸22に対して支持固定されている。なお、特に図示しないが、以下に説明するように、ガイド部材23は、セル内部に配置され、連接部13を内側から保持するので、連接部13の形状に合わせて例えば円盤状に形成されており、中央部に軸22を貫通させるための貫通孔が形成されている。したがって、ガイド部材23の軸22に対する支持固定は、例えば前記貫通孔を介して行う。
【0022】
さらに、図2に示す製造装置20は、摩擦攪拌接合装置25を有している。この摩擦攪拌接合装置25は、複数の内部空洞セル11及び12の連接部13に対して実際に摩擦攪拌接合を生ぜしめるための摩擦攪拌プローブ25A、この摩擦攪拌プローブ25Aをガイド部材23の延在方向と平行に移動させるとともに、自転及び軸22を中心としてその周りに回転させるための水平円周駆動機構25B、及び摩擦攪拌プローブ25Aを軸22の延在方向と平行に移動させるための上下駆動機構25Cを有している。
【0023】
なお、摩擦攪拌接合装置25は、筐体21に対して、上述した水平移動や回転移動を妨害しないような、図示しない治具によって支持されている。
【0024】
次に、図3及び図4に基づいて、本実施形態における超伝導加速器空洞の製造方法について説明する。
【0025】
最初に、図3に示すように、端部セル11を筐体21の底部に挿入して内面をガイド部材23で支持して保持する。次いで、端部セル11上に中間セル12を載せてセル固定具27で固定する。また、端部セル11と中間セル12との連接部13は、その内側からこれらセル内部に位置するガイド部材23で保持する。
【0026】
この状態で、摩擦攪拌接合装置25の摩擦攪拌プローブ25Aを、水平円周駆動機構25Bによって、連接部13内に近接させて挿入し、自転させるとともに軸22の周りに回転させる。これによって、連接部13の外側において摩擦攪拌接合が施されることになり、端部セル11と中間セル12とが互いに接合されるようになる。
【0027】
次いで、図4に示すように、摩擦攪拌接合された中間セル12上に、図1に示す中間セル12及び端部セル11を順次に乗せ、上記同様に、それらの連接部13を、その内側からガイド部材23で保持する。そして、摩擦攪拌接合装置25を上下駆動機構25Cで摩擦攪拌接合を行うべき連接部13の位置まで移動させる。その後、上記同様にして、水平円周駆動機構25Bによって摩擦攪拌プローブ25Aを連接部13内に近接させて挿入し、自転させるとともに軸22の周りに回転させる。これによって、連接部13の外側において摩擦攪拌接合が施されることになり、既に摩擦攪拌接合が行われた中間セル12上に載置された中間セル12同士及び端部セル11と中間セル12とが互いに接合されるようになる。
【0028】
以上のような工程を経ることによって、目的とする超伝導加速器空洞を得ることができる。
【0029】
一例として、摩擦攪拌プローブ25Aの自転の回転速度は2000rpmとすることができ、軸22周りの回転速度は200mm/分とすることができる。また、摩擦攪拌プローブ25Aの連接部13に対する挿入深さは、連接部13を貫通しないようにすることが必要であり、例えば連接部13の肉厚を3mmとした場合、2.9mmとすることができる。
【0030】
なお、摩擦攪拌接合は、通常、端部セル11及び中間セル12の積層順に行うが、前記積層順序とは無関係に任意の順番で行うことができる。
【0031】
また、上記摩擦攪拌接合において、摩擦攪拌プローブ25Aが軸22の周りを1回転して連接部13の接合が完了した後は、摩擦攪拌プローブ25Aを連接部13より引抜く。
【0032】
本実施形態においては、最終的に得た超伝導加速器空洞に対して、欠陥の発生を抑制して内表面の平滑性を確保し、前記超伝導加速器空洞の性能低下を抑制することができる。
【0033】
但し、前記超伝導加速器空洞の性能低下はその内表面の平滑性に依存するので、その外表面の平滑性については特に問題とされない。したがって、摩擦攪拌プローブ25Aの連接部13からの引き抜きが遅れて接合がオーバーラップし、連接部13の外側の平滑性が低いような場合においても、上記超伝導加速器空洞の性能には影響を与えない。
【0034】
また、本実施形態では、図2に示す製造装置を縦方向に配置して、連接部13における摩擦攪拌接合を縦方向において順次に行うようにしているが、前記製造装置を横向きにして、連接部13における摩擦攪拌接合を横方向において順次に行うようにすることもできる。
【0035】
また、端部セル11及び中間セル12を、図3及び図4に示すようにして、製造装置20内に設置する以前に、それぞれの連接部13を点溶接等で予め仮付けしておくことができる。これによって、これらセル11及び12を製造装置20内に設置する際において、互いの連接部13がずれてしまい、摩擦攪拌接合が十分に行われなくなるという不都合を防止することができる。
【0036】
なお、本実施形態では、各セルの最少径部分11A及び12Aを連接部13として摩擦攪拌接合で接合するようにしているが、各セルの最大径部分11B及び12Bを連接部として摩擦攪拌により接合することができる。この場合、端部セル11及び中間セル12の構成は図5に示すようになり、それぞれ最大径部分が各セルの端部に位置するようになる。また、図5に示すようなセルを図2に示す製造装置20に設置した場合は、例えば図6に示すようになり、従来のガイド部材23に加えて、最大径部分11B及び12Bの連接部13を、内側から保持するための追加のガイド部材29を設ける。
【0037】
追加のガイド部材29は、図7に示すように、複数のガイド部材片29−1から29−8からなり、8等分に分割できるように構成されている。これによって、総ての連接部13に対する摩擦攪拌接合が終了し、目的とする超伝導加速器空洞が形成された後、追加のガイド部材29を分解することによって、前記超伝導加速器空洞から取り出すことができる。但し、前記超伝導加速器駆空洞から取り出すことができれば、追加のガイド部材29の分割態様は特に限定されるものではなく、例えば4等分、6等分等に分割することができ、また等分割でなくてもよい。なお、追加のガイド部材29の中心部には、軸22を貫通させるための貫通孔29Cが設けられている。
【0038】
また、特に図2等では示していないが、ガイド部材23中にはヒータを内蔵することができ、前記摩擦攪拌接合と同時にあるいは先立って、連接部13を予備的に加熱することができる。この場合、連接部13が前記加熱によって軟化するので、上記摩擦攪拌接合を短時間で、良好な状態の下に行うことができる。
【0039】
(第2の実施形態)
本実施形態は、上記第1の実施形態の、ガイド部材23に対して変更を加えたものである。したがって、以下では、ガイド部材23の構成について詳述する。なお、上記第1の実施形態と同一あるいは類似の構成要素に関しては、同一の参照数字を用いている。
【0040】
図8は、本実施形態におけるガイド部材23の断面図であり、図9は、本実施形態におけるガイド部材23の分割立体図である。また、図10は、本実施形態におけるガイド部材23で端部セル11及び中間セル12を保持した状態を示す図である。
【0041】
図8に示すように、本実施形態のガイド部材23は、その主面23Aと垂直な方向、すなわち端部セル11及び中間セル12の接合方向において2分割されるように構成されている。また、図10に示すように、例えばガイド部材23によって端部セル11及び中間セル12の連接部13を内側から保持する際には、その側面23Bが連接部13の内側の面に密接するようになっている。すなわち、ガイド部材23の側面23Bは、連接部13の内側の面形状の少なくとも一部と同一となるように構成している。
【0042】
なお、図8及び図9に示すように、ガイド部材23には、図10に示すようにして、摩擦攪拌接合に供する場合に、上記第1の実施形態で説明したように、軸22で支持固定する必要があるので、中心部において貫通孔23Cが形成されている。
【0043】
したがって、上述のようにして摩擦攪拌接合を実施して連接部13の結合を実施した場合に、連接部13はガイド部材23の側面23Bによって十分に保持されるようになるので、摩擦攪拌プローブ25Aの押圧力が大きいような場合においても、摩擦攪拌接合後において、連接部13の変形等を防止することができる。結果として、最終的に得た超伝導加速器空洞の内表面の平滑性を十分に確保し、前記超伝導加速器空洞の性能低下を抑制することができる。
【0044】
なお、上記摩擦攪拌接合は、上記第1の実施形態の場合と同様に、図2に示すような製造装置において、ガイド部材23を本実施形態のもので置換することによって実施することができる。
【0045】
なお、ガイド部材23を図8及び図9に示すように2分割しているのは、図10に示すような状態で摩擦攪拌接合を実施し、上記超伝導加速器空洞を形成した後にガイド部材23が分割できないと、ガイド部材23を連接部13から取り外すことができないためである。したがって、ガイド部材23を得られた超伝導加速器空洞から取り外すことが出来さえすれば、ガイド部材23は2分割に限定されるものではなく、3分割あるいは4分割以上とすることができる。
【0046】
また、本実施形態では、ガイド部材23を構成する上ガイド部材23−1及び下ガイド部材23−2のそれぞれにヒータ28が内蔵されている。このヒータ28は、金属パイプの中心に発熱コイルが保持され、その周囲をMgO層などで絶縁するように構成したものである。ヒータ28に対する導線28Aは、図9に示すような構成でガイド部材23(すなわち、上ガイド部材23−1及び下ガイド部材23−2)の外方に取り出され、ヒータ28に対して電流の供給が行われるようになっている。
【0047】
なお、ガイド部材23がヒータ28を内蔵するので、上述したように、前記摩擦攪拌接合と同時にあるいは先立って、連接部13を予備的に加熱することができる。したがって、連接部13が前記加熱によって軟化するので、上記摩擦攪拌接合を短時間で、良好な状態の下に行うことができる。
【0048】
(第3の実施形態)
本実施形態は、上記第1の実施形態の変形例に相当するものであり、上記第1の実施形態に対して特徴的な部分のみを説明する。
【0049】
図11〜図15は、本実施形態における製造方法の工程図である。なお、各図面においては、図1に示す破線で囲まれた領域Aの部分を拡大して示している。また、上記第1の実施形態と同一あるいは類似の構成要素に関しては、同一の参照数字を用いている。
【0050】
本実施形態では、最初に、図11に示すように、例えば、端部セル11及び中間セル12の連接部13側に段部11C及び12Cを設けた状態で、端部セル11及び中間セル12を連接する。すると、形成された連接部13には、段部11C及び12Cからなる溝部13Aが形成され、これによって、連接部13には薄肉部13Bが形成されるようになる。
【0051】
次いで、図12に示すように、連接部13を、上記第2の実施形態の図8で示すような構成のガイド部材23(但し、ヒータは内蔵されていない)で、セル11及び12の内側より密接するようにして保持し、上記実施形態同様に、薄肉部13Bに対して摩擦攪拌プローブ25Aによって摩擦攪拌接合を行い、図13に示すように連接部13を接合する。なお、前記摩擦攪拌接合は、上述したように、図2に示すような製造装置20を用いて、上記実施形態と同様にして実施することができる。
【0052】
次いで、図14に示すように、連接部13をガイド部材23で保持した状態で、摩擦攪拌接合した連接部13の溝部13Aに対して肉盛形成プローブ35Aを押圧して接触させるとともに摩擦攪拌させ、溝部13Aを埋設するようにして肉盛層36を形成する(図15)。なお、肉盛形成プローブ35Aの操作は、基本的には摩擦攪拌プローブ25Aの操作と同様であり、図示しない、上述した水平円周駆動機構25Bと類似の駆動機構によって、肉盛形成プローブ35Aを溝部13Aに押圧した状態で自転させるとともに軸22の周りに回転させる。これによって、肉盛形成プローブ35Aの先端部が摩擦によって削り取られ、溝部13A内に付着することによって上記肉盛層36となる。
【0053】
本実施形態では、連接部13の薄肉部13Bに対して摩擦攪拌接合を行うので、摩擦攪拌プローブ25Aを挿入し、自転及び軸22周りに移動させる際の抵抗が減少する。したがって、前記自転の速度等を向上させることができる。このため、連接部13の摩擦攪拌接合をより簡易に短時間で行うことができる。一例として、連接部13の肉厚が3mmの場合に薄肉部13Bの厚さを1.5mmとすると、摩擦攪拌プローブ25Aの自転の回転速度を、第1の実施形態における2000rpmから3600rpmにまで増大させることができる。
【0054】
なお、肉盛層36は、セルと同じ超伝導材料から構成する。また、肉盛層36は、セルの外側に形成されるものであるので、肉盛層36の形成によって多少の凹凸が形成されたとしても、セルの内側の平滑性には影響を与えない。したがって、上記超伝導加速器空洞の性能には影響を与えない。
【0055】
また、本実施形態では、第2の実施形態に示すようなガイド部材23を用いているので、その側面23Bが連接部13の内側の面形状の少なくとも一部と同一となり、連接部13の内側の面に密接する。したがって、上述のようにして摩擦攪拌接合を実施して連接部13の結合を実施した場合に、連接部13はガイド部材23の側面23Bによって十分に保持されるようになるので、摩擦攪拌プローブ25Aの押圧力が大きいような場合においても、摩擦攪拌接合後において、連接部13の変形等を防止することができる。
【0056】
(第4の実施形態)
本実施形態は、上記第3の実施形態の変形例に相当するものであり、上記第3の実施形態に対して特徴的な部分のみを説明する。
【0057】
図16は、本実施形態における製造方法の工程図である。なお、図16は、図1に示す破線で囲まれた領域Aの部分を拡大して示している。また、上記第1の実施形態等と同一あるいは類似の構成要素に関しては、同一の参照数字を用いている。
【0058】
本実施形態は、上記第3の実施形態における摩擦攪拌接合前の、いわゆる前処理工程に相当するものである。すなわち、本実施形態では、上記第3の実施形態と同様に、例えば、端部セル11及び中間セル12の連接部13側に段部11C及び12Cを設けた状態で端部セル11及び中間セル12を連接して溝部13A及び連接部13を形成した後に、押圧治具45によって薄肉部13B、すなわち連接部13をガイド部材23の側面23Bに対して押圧し、連接部13の内面形状がガイド部材23の側面23Bの面形状と合致するように、連接部13の前記内面形状を矯正する。
【0059】
本実施形態によれば、後の摩擦攪拌接合及び肉盛形成の工程を経ても、連接部13の内面形状をガイド部材23の側面23Bの面形状と合致させておくことができるので、連接部13の内面の平滑性を向上させることができる。したがって、目的とする超伝導加速器空洞の内表面の平滑性を向上させることができ、前記超伝導加速器空洞の性能劣化を十分に抑制することができる。
【0060】
なお、摩擦攪拌接合及び肉盛形成の各工程は、上記実施形態と同様にして実施することができる。
【0061】
本実施形態では、連接部13において薄肉部13Bを形成し、この薄肉部13Bを押圧治具45によってガイド部材23の側面23Bに押圧するようにしているが、薄肉部13Bを形成することなく、連接部13を押圧治具45によってガイド部材23の側面23Bに押圧してもよい。但し、後者の場合は、肉厚が大きくなるので、押圧する際により大きな押圧力が必要となるとともに、押圧自体が不十分となり、連接部13の内面形状をガイド部材23の側面23Bと十分に合致させることができない場合がある。
【0062】
(第5の実施形態)
本実施形態は、上記第3の実施形態の変形例に相当するものであり、上記第3の実施形態に対して特徴的な部分のみを説明する。
【0063】
図17は、本実施形態における製造方法の工程図である。なお、図17は、図1に示す破線で囲まれた領域Aの部分を拡大して示している。また、上記第1の実施形態等と同一あるいは類似の構成要素に関しては、同一の参照数字を用いている。
【0064】
本実施形態は、上記第3の実施形態における摩擦攪拌接合と同時に、ガイド部材23を、その貫通孔23Cを貫通する軸22の周りに回転させる。このとき、ガイド部材23の側面23Bは、端部セル11及び中間セル12の連接部13の薄肉部13Bに密接しているので、上述した回転に伴って、連接部13とガイド部材23との間には摩擦が生じ、摩擦熱が発生するようになる。したがって、薄肉部13Bは上記摩擦熱によって加熱されるようになる。
【0065】
結果として、上記実施形態でヒータを用いた場合と同様に、前記摩擦熱による加熱によって薄肉部13Bが加熱軟化するので、上記摩擦攪拌接合を短時間で、良好な状態の下に行うことができる。
【0066】
なお、摩擦攪拌接合及び肉盛形成の各工程は、上記実施形態と同様にして実施することができる。
【0067】
本実施形態では、連接部13において薄肉部13Bを形成し、この薄肉部13Bを上記摩擦熱で加熱するようにしているが、薄肉部13Bを形成することなく、連接部13を上記摩擦熱で加熱することもできる。但し、後者の場合は、肉厚が大きくなるので、上記摩擦熱による加熱が不十分となり、上記摩擦攪拌接合にさほど影響を与えない場合がある。
【0068】
(第6の実施形態)
本実施形態は、上記実施形態の変形例に相当するものであり、上記実施形態に対して特徴的な部分のみを説明する。なお、上記第1の実施形態等と同一あるいは類似の構成要素に関しては、同一の参照数字を用いている。
【0069】
図18は、図2に示す製造装置20の摩擦攪拌接合装置25の部分を抽出して示す上平面図である。第1の実施形態等においては、摩擦攪拌接合装置25は、単一の摩擦攪拌プローブ25Aのみを有していたが、本実施形態においては、合計3つの摩擦攪拌プローブ25A−1,25A−2及び25A−3を有している。
【0070】
本実施形態においては、合計3つの摩擦攪拌プローブ25A−1,25A−2及び25A−3を用いてセルの連接部13の摩擦攪拌接合を行うので、連接部13の摩擦攪拌接合に要する時間を短縮化することができる。また、連接部13の未接合箇所に摩擦攪拌プローブが到達する以前に、かかる箇所の接触が弱くなったり、ずれが生じたりするのを防止することができ、連接部13の接合をより確実に行うことができるようになるとともに、接合後における連接部13の寸法精度を向上させることができる。
【0071】
なお、摩擦攪拌プローブの数は、本実施形態で示したように3つに限定されるものではなく、必要に応じて任意の数とすることができる。
【0072】
また、上述した合計3つの摩擦攪拌プローブの1つあるいは2つを肉盛形成プローブとすることもできる。この場合、上記第4の実施形態で説明した、連接部13の溝部13Aにおける肉盛層36の形成を、連接部13の薄肉部13Bの摩擦攪拌接合と並行させて行うことができる。
【0073】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【0074】
例えば、第3の実施形態以降では、主として端部セル11と中間セル12との連接部13に対する摩擦攪拌接合等の操作について述べているが、当然に中間セル12同士の連接部13に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
11 端部セル
12 中間セル
13 セルの連接部
13A 溝部
13B 薄肉部
20 超伝導加速器空洞の製造装置
21 筐体
22 軸
23 ガイド部材
23−1 上ガイド部材
23−2 下ガイド部材
23A ガイド部材の主面
23B ガイド部材の側面
23C ガイド部材の貫通孔
25 摩擦攪拌接合装置
25A 摩擦攪拌プローブ
25B 水平円周駆動機構
25C 上下駆動機構
27 セル固定具
28 ヒータ
29 追加のガイド部材
29−1〜29−8 ガイド部材片
35A 肉盛形成プローブ
45 押圧治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導材料から構成される複数の内部空洞セルを互いに連接する工程と、
前記複数の内部空洞セルの連接部の内側を、前記複数の内部空洞セルの内部に配置したガイド部材で保持する工程と、
前記複数の内部空洞セルの前記連接部の外側を摩擦攪拌接合して、前記複数の内部空洞セルを互いに接合する工程と、
を具えることを特徴とする、超伝導加速器空洞の製造方法。
【請求項2】
前記内部空洞セルは塑性加工されており、前記連接部は前記内部駆動セルの最小径部分に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の超伝導加速器空洞の製造方法。
【請求項3】
前記内部空洞セルは塑性加工されており、前記連接部は前記内部駆動セルの最大径部分に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の超伝導加速器空洞の製造方法。
【請求項4】
前記ガイド部材はヒータを内蔵しており、前記ヒータによって前記複数の内部空洞セルの前記連接部を加熱する工程を具えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の超伝導加速器空洞の製造方法。
【請求項5】
前記ガイド部材は、その側面が前記連接部の前記内側の面に密接するようにして設けるとともに、その主面と垂直な前記複数の内部空洞セルの接合方向において、少なくとも2以上に分割するように構成することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の超伝導加速器空洞の製造方法。
【請求項6】
前記連接部を、押圧治具を用いて前記ガイド部材の前記側面に押圧し、前記連接部の前記内側の面形状を前記側面の面形状と合致するように矯正する工程を具えることを特徴とする、請求項5に記載の超伝導加速器空洞の製造方法。
【請求項7】
前記摩擦攪拌接合は、前記連接部の前記外側に溝形成することによって形成された薄肉部に対して行い、
前記摩擦攪拌接合を実施した後に、摩擦攪拌により、前記溝を埋設するようにして肉盛層を形成する工程を具えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の超伝導加速器空洞の製造方法。
【請求項8】
前記ガイド部材を所定の中心軸の周りに回転させ、前記ガイド部材の前記側面と前記連接部との間に発生した摩擦熱によって、前記連接部を加熱する工程を具えることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか一に記載の超伝導加速器空洞の製造方法。
【請求項9】
前記摩擦攪拌接合は、前記連接部の複数の箇所において同時に行うことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の超伝導加速器空洞の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一に記載の方法で製造されたことを特徴とする、超伝導加速器空洞。
【請求項11】
超伝導材料から構成される複数の内部空洞セルを互いに連接することにより形成された連接部の内側を保持し、前記複数の内部空洞セルの内部に配置されるガイド部材と、
前記ガイド部材を支持固定し、前記ガイド部材の延在方向と垂直に延在する軸部材と、
前記複数の内部空洞セルの前記連接部の外側を摩擦攪拌接合するための摩擦攪拌プローブ及び前記摩擦攪拌プローブを前記ガイド部材の前記延在方向と平行に移動させるとともに自転及び前記軸回りに回転移動させ、かつ前記軸部材の延在方向と平行に移動させる駆動装置を有し、前記複数の内部空洞セルの前記連接部の外側を摩擦攪拌接合して、前記複数の内部空洞セルを互いに接合するための摩擦攪拌混合装置と、
前記軸部材及び前記摩擦攪拌混合装置を保持するための筐体と、
を具えることを特徴とする、超伝導加速器空洞の製造装置。
【請求項12】
前記ガイド部材は、前記複数の内部空洞セルの前記連接部を加熱するためのヒータを内蔵していることを特徴とする、請求項11に記載の超伝導加速器空洞の製造装置。
【請求項13】
前記ガイド部材は、その側面が前記連接部の前記内側の面形状の少なくとも一部と同一であり、前記軸部材の前記延在方向において、少なくとも2以上に分割するように構成されたことを特徴とする、請求項11又は12に記載の超伝導加速器空洞の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−192268(P2010−192268A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35843(P2009−35843)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【Fターム(参考)】