説明

超微粒子厚膜の形成方法

【課題】 2次元あるいは3次元で任意の形状を有し、任意の密度を有する均質な超微粒子厚膜と、その超微粒子厚膜の新規な形成方法を提供する。
【解決手段】 超微粒子を分散質とする煙霧質を、通気性を有する担体を介して吸引濾過することにより前記担体上に超微粒子堆積膜を形成し、その超微粒子堆積膜を焼成することで超微粒子厚膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、超微粒子厚膜の形成方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、2次元あるいは3次元で任意の形状を有し、任意の密度を有する均質な超微粒子厚膜と、その超微粒子厚膜の新規な形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】従来より、金属や無機材料の膜形成方法として、原料である金属や無機材料の粉末を高温のガスフレームあるいはプラズマジェットフレームに導入し、その原料粉末を加熱あるいは溶融するとともに加速して基板上に堆積させる溶射法が知られている。しかしながら、この溶射法で得られる膜は、一般には数mm以上の超厚膜であり、マイクロメートルオーダーの厚みが均質な膜を任意の形状で形成することは極めて困難であった。
【0003】また、超微粒子を原料として用いる圧膜形成方法としては、超微粒子をキャリアガスにより搬送し、ノズルから噴出させて基板上に堆積させる、いわゆるガスデポジション法が知られている。この方法で得られる厚膜は、原理的に原料の超微粒子が点状あるいは線状に堆積して構成されており、2次元あるいは3次元方向に形状を制御された厚膜を形成することは困難であった。
【0004】一方で、2次元形状を有する圧膜の形成方法としては、プラズマフレーム中で生成させた超微粒子あるいはそのクラスターを直接基板上に堆積させるプラズマ容赦法が知られている。しかしながら、この方法では、プラズマフレーム中の粒子分布や、プラズマフレームの大きさの制約から、大きな面積で均質な2次元形状を有する厚膜を形成することは困難であり、さらに3次元形状の厚膜を形成することはほとんど不可能であった。
【0005】そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、2次元あるいは3次元で任意の形状を有し、任意の密度を有する均質な超微粒子厚膜と、その超微粒子厚膜の新規な形成方法を提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】そこで、この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、以下の通りの発明を提供する。
【0007】すなわち、まず第1には、この出願の発明は、超微粒子を分散質とする煙霧質を、通気性を有する担体を介して吸引濾過することにより前記担体上に超微粒子堆積膜を形成し、その超微粒子堆積膜を焼成することで厚膜を形成することを特徴とする超微粒子厚膜の形成方法を提供する。
【0008】そして、この出願の発明は、上記第1の発明において、第2には、担体が、繊維集合体フィルターあるいは焼結体フィルターであることを特徴とする超微粒子厚膜の形成方法を、第3には、超微粒子が、金属材料、無機材料またはそれらの混合あるいは複合材料であることを特徴とする超微粒子厚膜の形成方法を、第4には、超微粒子堆積膜が、多層構造あるいは傾斜構造を有することを特徴とする超微粒子厚膜の形成方法を提供する。
【0009】また、この出願の発明は、第5には、上記いずれかの発明の方法によって形成されたことを特徴とする超微粒子厚膜をも提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】この出願の発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0011】この出願の発明が提供する超微粒子厚膜の形成方法は、超微粒子を分散質とする煙霧質を、通気性を有する担体を介して吸引濾過することにより、前記担体上に超微粒子堆積膜を形成し、その超微粒子堆積膜を焼成することで厚膜を形成することを特徴としている。
【0012】この出願の発明において、厚膜の原料である超微粒子は、凝集することなく気体中に分散され、煙霧質の分散質として存在している。超微粒子としては、各種の金属材料、無機材料、または、それらの混合あるいは複合材料からなるものを用いることができる。金属材料としては、金属、遷移金属あるいはそれらの合金などが例示される。無機材料としては、各種の酸化物やセラミックスなどが例示される。また、超微粒子の粒径は、数nm以上数μm以下程度のものを使用することができ、粒子の大きさは不揃いであってもよいが、揃っていることが好ましい。
【0013】分散媒である気体は、超微粒子と反応しないものであれば特に限定されない。
【0014】この出願の発明において、超微粒子を煙霧化する手段としては、超微粒子を気流によって流動化・分散する方法や、超微粒子が容易に煙霧化しうる圧力下(大略500Torr以上)で超微粒子を作成する方法等が有効である。特に後者の方法は、超微粒子の作成と同時に超微粒子が凝集することなく煙霧化されるため、金属系超微粒子等のように極めて凝集性が高くしかも表面活性の高い超微粒子の煙霧化に利用することが望ましい。このような煙霧化をも兼ねた超微粒子の製造方法としては、具体的には、アークプラズマや高周波プラズマ等による蒸発凝集法や、各種の気相反応法等が挙げられる。
【0015】このような煙霧質を、通気性を有する担体を介して吸引濾過することにより、超微粒子のみからなる堆積膜をその担体上に形成する。
【0016】担体としては、通気性を有し、所望の厚膜形状に合わせた任意の形状のものが使用でき、たとえば、円形、方形、ドーナツ形等と平面形状が多様なのはもちろんのこと、任意の形状の曲面からなる担体を用いるなどしてもよい。また、担体は、吸引濾過によって形成される超微粒子堆積膜を支持できる程度の強度を有し、超微粒子堆積膜の焼成温度に耐えるものであれば、その材質等は制限されない。たとえば、強度の低い材料からなる担体であっても、超微粒子堆積面の裏側から通気性を有する補強材によって補強するなどして用いてもよい。このような担体としては、たとえば、繊維集合体フィルターや、焼結体フィルターを用いることが好適な例として示される。
【0017】担体上への超微粒子堆積膜の形成についても、多種多様な設計が考慮できる。たとえば、単一または複数種の超微粒子を、均質に分散させて堆積膜の形成してもよいし、複数種の超微粒子を多層構造となるように堆積させて堆積膜を形成してもよい。さらには、複数種の超微粒子を、傾斜構造となるように堆積させて堆積膜を形成するなどしてもよい。
【0018】このようにして形成された微粒子堆積膜を、焼成して厚膜とする。超微粒子堆積膜は、たとえば、不活性ガス雰囲気下に静置することで表面を安定させることができる。また、この出願の発明においては、微粒子堆積膜に対し、焼成に先立ってプレス成形法等による加圧成形を施してもよい。成形は、たとえば、所望の厚膜密度となるように、約0.1〜4t/cm2程度の圧力範囲で調節することができる。
【0019】焼成条件については、厚膜原料、堆積量等によっても異なるが、たとえば、約400〜700℃程度の温度範囲で、数十〜数時間程度焼成すること等が例示される。焼成雰囲気は、超微粒子堆積層と反応しないAr等の不活性ガス雰囲気、またはH2−Ar雰囲気等とする。
【0020】この出願の発明の方法によると、超微粒子を直接担体上に堆積させて焼結するため、高比表面積・低密度といった超微粒子特徴を併せ持った焼結体の厚膜を得ることができる。また、粗密あるいは緻密といった任意の密度の厚膜を形成することもできる。
【0021】このようにして得られる超微粒子厚膜は、均質で、膜厚が約1〜500μmの範囲で制御可能である。また、2次元あるいは3次元で任意の形状とすることができ、また、任意の密度とすることができる。
【0022】したがって、たとえば、高比表面積・低密度の厚膜を形成することで、触媒材料等への応用が期待できる。また、超微粒子原料としてたとえば貴金属等を選択し、各種の担体と組み合わせることによって、より少量の原料から各種の特性を持つ材料を得ることができ、資源の有効活用が期待できる。
【0023】以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0024】
【実施例】(実施例1)実施例において用いたアークプラズマによる超微粒子製造装置と吸引濾過装置の概略を図1に示した。まず、超微粒子厚膜の原料のPdをアーク溶解によりボタン状に成形(約30g)し、「水素プラズマ−金属」反応法を利用して、分散質としてのPd超微粒子を発生させた。なお、このPd超微粒子の作製条件は、雰囲気ガス:50%H2−Ar,雰囲気圧力:760Torr,電流:150A,電圧:30〜40V,堆積時間:10minとした。
【0025】このPd超微粒子を、分散媒としての水素・アルゴン混合ガスとともにステンレス繊維フィルター(線径約3μmの焼結体からなり、外径10mm,厚さ約0.5mmの円形)を介して吸引することにより、ステンレス繊維フィルター上にPd超微粒子堆積膜を形成させた。
【0026】得られたPd超微粒子堆積膜を、約0.1%Air−Ar中に静置して表面を安定化させた後、圧力:500kg/cm2でプレス成形し、H2−Ar雰囲気中で昇温速度:5℃/min,焼結温度:600℃で30分間焼成することで、Pd超微粒子厚膜を得た。
【0027】得られたPd超微粒子厚膜の形態をSEMにより観察し、図1および図2に、そのPd超微粒子厚膜の表面と断面のSEM像を示した。図に見られるように、ステンレス繊維フィルター上に、厚さが約80μmで、結晶粒径が約1〜3μmでほぼ均一なPd超微粒子厚膜が得られたことが確認された。
(比較例1)実施例1と同条件でPd超微粒子を作製し、安定化処理を施した後、重量比0.2%の割合でビーカーに入れ、超音波処理により純水中に分散させた。このPd超微粒子分散水を、実施例1で用いたステンレス繊維フィルターを用いて真空濾過して水分を除去して堆積させた後、実施例1と同様の条件で加圧成形および焼成して厚膜を得た。
【0028】得られた厚膜を観察したところ、この厚膜は、ステンレス繊維フィルターより剥離し、割れが生じていた。これは、超音波処理によってもPd超微粒子を十分に分散させることができず、また、Pd超微粒子が2次凝集したまま担体上に堆積されたためであると思われる。
(実施例2)図3に示す装置を用いて高周波プラズマフレーム中でPd超微粒子を作製し、分散媒としてのN2ガスとともに焼結体フィルター上にPd超微粒子堆積膜を形成した。得られたPd超微粒子堆積膜を、約0.1%Air−Ar中に静置して表面を安定化させた後、圧力:1t/cm2でプレス成形し、H2−Ar雰囲気中で昇温速度:10℃/min,焼結温度:600℃で30分間焼成することで、Pd超微粒子厚膜を得た。
【0029】得られたPd超微粒子厚膜の形態をSEMにより観察したところ、厚さが約50μmで、結晶粒径が約1〜3μmの緻密で均質なPd超微粒子厚膜が得られたことが確認された。
【0030】もちろん、この発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0031】
【発明の効果】以上詳しく説明した通り、この発明によって、2次元あるいは3次元で任意の形状を有し、任意の密度を有する均質な超微粒子厚膜と、その超微粒子厚膜の新規な形成方法とが提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例においてPd超微粒子厚膜を形成するために用いたアークプラズマによる超微粒子発生装置および吸引濾過装置を示す概略図である。
【図2】実施例において得られたPd超微粒子厚膜の(a)(a’):表面と(b)(b’):断面を観察した像を例示した図である。
【図3】実施例においてPd超微粒子厚膜を形成するために用いた高周波プラズマによる超微粒子発生装置およびその吸引濾過部を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 超微粒子を分散質とする煙霧質を、通気性を有する担体を介して吸引濾過することにより前記担体上に超微粒子堆積膜を形成し、その超微粒子堆積膜を焼成することで厚膜を形成することを特徴とする超微粒子厚膜の形成方法。
【請求項2】 担体が、繊維集合体フィルターあるいは焼結体フィルターであることを特徴とする請求項1記載の超微粒子厚膜の形成方法。
【請求項3】 超微粒子が、金属材料、無機材料またはそれらの混合あるいは複合材料であることを特徴とする請求項1または2記載の超微粒子厚膜の形成方法。
【請求項4】 超微粒子堆積膜が、多層構造あるいは傾斜構造を有することを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載の超微粒子厚膜の形成方法。
【請求項5】 請求項1ないし4いずれかに記載の方法によって形成されたことを特徴とする超微粒子厚膜。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【公開番号】特開2002−121682(P2002−121682A)
【公開日】平成14年4月26日(2002.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−316771(P2000−316771)
【出願日】平成12年10月17日(2000.10.17)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】