説明

超硬合金およびその製造方法

【課題】耐熱亀裂性と高強度とを兼備する高強度超硬合金を提供する。
【解決手段】本発明の超硬合金は、WCを主成分として含むものであって、12質量%以上14質量%以下のCoと、0.3質量%以上0.6質量%以下のCrとを含み、15kA/m以上25kA/m以下の抗磁力Hcを有し、かつ長さ20mm×幅4mm×厚み2mmの形状とした場合に、10mmのスパンで曲げ試験を行なったときの抗折力が3.5GPa以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金およびその製造方法に関し、特に難削材の加工に対し優れた切削性能を有する超硬合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機部品等に使用されるチタン合金、発電機用のタービンブレードに使用されるインコネルの耐熱合金等のような難削材を、切削加工で加工する機会が増えている。難削材の加工は、切削工具に被削材が凝着して欠損が生じ、これまでの一般鋼の加工よりも工具寿命が極端に短くなる。このため、難削材の切削においても長寿命を達成するために、切削工具の強度を高めることが要求されており、特に、ミリング加工においては、切削工具の強度を高めることが急務である。
【0003】
たとえば特許文献1および特許文献2においては、抗折力を向上させることにより、超硬合金の強度を高める技術が開示されている。これらの特許文献は、超硬合金に含まれるコバルト(Co)の含有量を高くするとともに、使用するタングステンカーバイド(WC)の粒径を小さくすることにより、欠陥の影響を確率論的に減少させることをもって、抗折力を向上させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−198723号公報
【特許文献2】特開平5−098385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2のように、WCの粒径を小さくすることにより、超硬合金の熱伝導率が低下し、切削中に切れ刃近傍に熱がこもって高温となるため、熱亀裂による欠損が生じやすくなるという欠点があった。このため、たとえばチタン合金、耐熱合金等のように切れ刃近傍に熱がこもりやすい被削材を加工すると、切れ刃近傍で熱亀裂による欠損が生じやすかった。
【0006】
ここで、耐熱亀裂性を向上させるためには、超硬合金の抗磁力を低下させる必要があるが、超硬合金の抗磁力を低下させると、それに伴って抗折力も低下するため、結果として超硬合金の強度が低下する。このように超硬合金の強度と耐熱亀裂性とはトレードオフの関係にある。
【0007】
上記のトレードオフの関係を打ち破るためには、超硬合金の抗磁力を向上させることなく、抗折力のみを向上させる必要があるが、抗磁力と抗折力とは正比例の相関が見られるため、材料面のアプローチによる改善の余地がなかった。
【0008】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、抗磁力を一定に保ちつつ、抗折力を高めることにより、耐熱亀裂性と高強度とを兼備する超硬合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、超硬合金の焼結を終えた後の冷却において、その冷却速度を一定以上とすることにより、抗磁力を上昇させることなく、抗折力を高めることができるという知見を得た。かかる知見に基づいて、超硬合金中のCoおよびCrの含有量を調整することにより、ついに本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の超硬合金は、WCを主成分として含むものであって、12質量%以上14質量%以下のCoと、0.3質量%以上0.6質量%以下のCrとを含み、15kA/m以上25kA/m以下の抗磁力Hcを有し、かつ長さ20mm×幅4mm×厚み2mmの形状の超硬合金に対し、10mmのスパンで曲げ試験を行なったときの抗折力が3.5GPa以上であることを特徴とする。
【0011】
上記の超硬合金は、WC粉末とCo粉末とCr32粉末とを含む粉末を混合したものを焼結した後に、急冷することにより得られるものであることが好ましい。
【0012】
上記の超硬合金の上に形成された被膜を備え、該被膜は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選択される一種以上の元素と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる群より選ばれる一種以上の元素とからなる化合物、または該化合物の固溶体からなることが好ましい。
【0013】
本発明の超硬合金の製造方法は、WC粉末とCo粉末とCr32粉末とを含む粉末を混合したものを1350℃以上1450℃以下の温度で焼結するステップと、温度から急冷するステップとを含むことを特徴とする。上記の急冷するステップは、100℃/min以上150℃/min以下の冷却速度で行なうことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の超硬合金は、上記のような構成を有することにより、抗磁力を一定に保ちつつ、抗折力を高めることができ、もって耐熱亀裂性と高強度とを兼備したものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の超硬合金および従来の超硬合金の抗磁力(kA/m)と抗折力(GPa)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、詳細に説明する。本発明において、膜厚は走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により測定し、その組成はエネルギー分散型X線分析装置(EDS:Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)により測定するものとする。
【0017】
<超硬合金>
本発明の超硬合金は、WCを主成分として含むものであって、12質量%以上14質量%以下のCoと、0.3質量%以上0.6質量%以下のCrとをさらに含み、15kA/m以上25kA/m以下の抗磁力Hcを有し、かつ長さ20mm×幅4mm×厚み2mmの形状の試験片に対し、曲げ試験のスパンを10mmとして抗折力を測定したときに、その抗折力が3.5GPa以上であることを特徴とする。この評価方法による抗折力が3.5GPa未満であると、超硬合金の強度が不十分である。
【0018】
従来は、CIS−026−1983で規定された測定方法で抗折力を評価していた。しかし、従来の評価方法は、超硬合金中の各種組織欠陥の頻度や有無により抗折力の値が増減するため、刃先の局部的な抗折力を評価することができなかった。ちなみに、CIS−026−1983で規定された方法とは、形式Jまたは形式Aの形状の超硬合金を評価して得られる抗折力の値である。ここで、形式Jの形状は、長さL=24±1mm、幅b=8±0.25mm、厚さt=4±0.25mmであり、形式Aの形状は、長さL=35±1mm、幅b=5±0.25mm、厚さt=5±0.25mmである。
【0019】
本発明では、刃先の局部的な抗折力を評価する方法として、CIS−026−1983で規定された形状よりも小さい試験片で曲げ試験を行ない、抗折力を評価することとしている。
【0020】
すなわち、本発明の超硬合金の抗折力を評価するときの試験片の形状は、長さ20mm×幅4mm×厚み2mmとする。そして、曲げ試験のスパンを10mmとし、このときの抗折力が3.5GPa以上であることを特徴とする。この抗折力が3.5GPa未満であると、超硬合金の強度が不十分である。
【0021】
また、超硬合金の抗磁力Hcが15kA/m未満であると、抗折力が十分に得られず強度が不足し、25kA/mを超えると、抗磁力Hcが高められ耐熱亀裂性が低下する。ここで、超硬合金の抗磁力Hcは、市販の抗磁力測定器(製品名:コエルチマットCS(日本フェルスター株式会社製))により測定された値を採用するものとする。
【0022】
また、超硬合金に含まれるCoが12質量%未満であると、その強度が不足し、14質量%を超えると、耐摩耗性が極端に悪くなる。また、超硬合金に含まれるCrが、0.3質量%未満であると、抗折力(TRS:Traverse Rupture Strength)が十分に得られず、0.6質量%を超えると、超硬合金の強度が不足する傾向がある。Crの好適な含有率は、0.3質量%以上0.5質量%以下である。
【0023】
また、本発明の超硬合金は、WCを主成分として含むものであるが、ここでの「WCを主成分として含む」とは、超硬合金にWCを少なくとも85.4質量%含有し、かつWC以外の成分が単一成分でWCの含有量を超える量を含まないことを意味する。
【0024】
本発明の超硬合金は、たとえばドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用チップ等として極めて有用に用いることができる。
【0025】
また、本発明の超硬合金は、組織中に遊離炭素やη相と呼ばれる異常相を含んでいても本発明の効果は示され、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、その表面に脱β層が形成されていても本発明の効果は示される。
【0026】
<被膜>
本発明の高強度超硬合金は、その表面に被膜を形成することが好ましい。被膜は、上記の超硬合金の最表面に形成される層状のものである。このような被膜は、超硬合金に対し、耐摩耗性、耐酸化性、靱性、使用済み刃先部の識別のための色付性等の諸特性を向上させる作用を付与するものであり、その組成は特に限定されるものではなく従来公知のものを採用することができる。
【0027】
このような被膜は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選択される一種以上の元素と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる群より選ばれる一種以上の元素とからなる化合物、または該化合物の固溶体からなることが好ましい。
【0028】
特に、被膜の好適な組成としては、Ti、Al、(Ti1-xAlx)、(Ti1-xSix)、(Al1-xCrx)、(Ti1-x-ySixAly)または(Al1-x-yCrxy)の窒化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物(式中のx、yは1以下の任意の数)等を挙げることができ、さらにこれらにB、Cr等を含んでいてもよい。
【0029】
より好ましい被膜の組成は、TiCN、TiN、TiSiN、TiSiCN、TiAlN、TiAlCrN、TiAlSiN、TiAlSiCrN、AlCrN、AlCrCN、AlCrVN、TiBN、TiAlBN、TiBCN、TiAlBCN、TiSiBCN、AlN、AlCN等である。なお、これらの組成中、各原子比は上記一般式に倣うものとする。なお、上記の化学式において、各元素の原子比が特に記載されていないものは必ずしも等比となるものではなく、従来公知の原子比が全て含まれるものとする。たとえば単にTiNと記す場合、TiとNとの原子比は1:1が含まれる他、2:1、1:0.95、1:0.9等が含まれる。
【0030】
このような本発明における被膜は、超硬合金上の全面を被覆する態様を含むとともに、部分的に被膜が形成されていない態様をも含む。また、本発明における被膜は、その全体の膜厚が1μm以上15μm以下であることが好ましい。1μm未満であると耐摩耗性に劣る場合があり、15μmを超えると超硬合金との密着性および耐欠損性が低下する場合がある。このような被膜の特に好ましい膜厚は2μm以上8μm以下である。なお、上記の被膜以外の他の任意の層を含んでいてもよい。
【0031】
<製造方法>
本発明の超硬合金は、以下のようにして作製する。まず、平均粒径約1μmのWC粉末とCo粉末とCr32粉末とを湿式混合した上で、金型プレスを用いて所望の形状に整える。そして、1350℃以上1450℃以下の温度で0.5時間以上1.5時間以下の真空焼結を行なう。その後、炉内に冷却ガスを導入して、100℃/min以上150℃/min以下の冷却速度で急速冷却を行なうことにより、本発明の超硬合金を作製する。
【0032】
このように焼結後に急速冷却を行なうことにより、結合成分であるCoにWが固溶して結合成分が強化され、抗磁力Hcを高めることなく、抗折力TRSを向上させることができ、もって超硬合金の強度と耐熱亀裂性とを高めることができる。100℃/min未満であると、WCの粒成長が生じて抗磁力と抗折力が低下するとともに、結合相中へのWの固溶量が減少し、結合相の強度が低下することになる。一方、150℃/minを超えると、抗磁力が高くなりすぎて耐熱亀裂性が低下する。
【0033】
このようにして作製された超硬合金に対し、その表面に被膜を形成することが好ましい。このような被膜を形成する場合、被膜は物理的蒸着法(PVD法)により形成されることが好ましい。PVD法を用いて被膜に圧縮応力を導入し、刃先強度を高めることにより、切削加工時に刃先に生じるチッピングを発生しにくくすることができる。
【0034】
PVD法には、たとえばスパッタリング法、イオンプレーティング法など種々のものがあるが、特に原料元素のイオン率が高いカソードアークイオンプレーティング法を用いることが好ましい。カソードアークイオンプレーティング法は、被膜を形成する前に超硬合金の表面に対して金属またはガスイオンボンバードメント処理が可能となるため、超硬合金と被膜との密着性を格段に向上させることができる。
【0035】
カソードアークイオンプレーティング法を用いて被膜を形成する場合、その蒸発源には、被膜形成用のターゲットをセットし、回転テーブルには本発明の超硬合金をセットする。ここで、蒸発源にセットされるターゲットの組成により被膜を構成する組成を決定することができる。
【0036】
そして、装置内が真空となるように排気した後に、装置内をたとえば500℃に加熱した状態で回転テーブルを5rpmで回転させながら、Arガスによるスパッタクリーニング(ボンバード)を行なう。その後、超硬合金に−50Vのバイアス電圧を印加し、回転テーブルを3rpmで回転させながら、常に一定のアーク電流により蒸発源をアーク放電させることにより、各ターゲットをイオン化させる。同時に反応ガスである窒素をガス導入口から導入し、超硬合金の表面に被膜を成膜する。このようにして被膜が被覆した超硬合金を作製することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
<実施例1>
まず、87.7質量%のWCと、12質量%のCoと、0.3質量%のCrという組成比となるように、平均粒径約1μmのWC粉末とCo粉末とCr32とを混合した。この混合粉末を、アルコール中にてアトライターで15時間湿式混合した上で乾燥させた。そして、金型プレスすることにより、切削評価用のSEKN42MTの形状と、抗折力測定用のCIS−026−1983に記載の試験片の形状との2種の形状にそれぞれ整えた上で、1400℃で1時間真空焼結した。その後、炉内に冷却ガスを導入し、100℃/minの冷却速度で室温まで急速冷却を行なうことにより、本実施例の超硬合金を得た。
【0039】
<実施例2〜10および比較例1〜6>
実施例2〜10および比較例1〜6は、実施例1に対し、超硬合金の合金組成および冷却速度が以下の表1に示すように異なることを除き、その他は実施例1と同様の方法により超硬合金を作製した。たとえば実施例7の超硬合金は、その組成比が86.45質量%のWCと、13質量%のCoと、0.55質量%のCrとなるように材料を混合し、冷却速度を150℃/minにしたことを除き、実施例1と同様の方法により超硬合金を作製した。なお、比較例2では、冷却ガスを導入することなく、炉内で放冷することにより作製した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1中の「冷却速度」は、炉内に冷却ガスを導入してから10分後の温度変化の平均値を示したものである。ここで、冷却速度(℃/min)は、炉内に導入する冷却ガスの圧力および組成を変更することにより調整した。
【0042】
表1中の「抗折力」は、長さL:20mm、幅b:4mm、厚さt:2mmの超硬合金を用いて、以下の式(1)により10mmのスパンで抗折力を6箇所測定し、その6回測定中の最小を除く5回の抗折力の平均値を示した。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで、式(1)中、Rtrは、抗折力(曲げ強さ)、Pは、試験片が破断した時の荷重、lは、支点間距離(スパン)、bは、試験片の幅、tは、試験片の厚さ、Kは、研削肌の場合の試験片の面取りによる補正値をそれぞれ示している。
【0045】
<実施例11〜13>
実施例10の超硬合金に対し、その表面に表1の「被膜を構成する組成」に示される被膜を形成することにより、実施例11〜13の超硬合金を作製した。
【0046】
たとえば実施例11では、実施例10の超硬合金(工具形状:SEKN120408)をカソードアークイオンプレーティング装置に装着した。そして、真空ポンプを用いてアークイオンプレーティング装置のチャンバー内の圧力が真空になるように排気した。次に、該アークイオンプレーティング装置内に設置されたヒーターを用いてチャンバー内の温度を450℃まで昇温した。そして、Arガスを導入してチャンバー内の圧力を1.0×10-4Paとなるまで真空引きを行なった。
【0047】
そして、チャンバー内にアルゴンガスを導入し、チャンバー内の圧力を3Paに保持し、超硬合金に印加するDCバイアス電圧を徐々に上げながら−1000Vとし、その表面のスパッタクリーニングを15分間行なった。その後、アルゴンガスを排気した。これにより、超硬合金の表面をArイオンがスパッタクリーニングし、強固な汚れや酸化膜が除去された。
【0048】
次いで、金属蒸発源にTi0.5Al0.5ターゲットをセットし、反応ガスとして窒素ガスを導入させながら、超硬合金の温度を450℃、反応ガス圧を4.0Pa、超硬合金のバイアス電圧を−50Vとし、カソード電極に100Aの電流を供給した。そして、アーク式蒸発源から金属イオンを発生させることにより、超硬合金の表面に2μmの膜厚のTi0.5Al0.5Nからなる被膜を形成した。
【0049】
<比較例7〜12>
比較例1〜6の超硬合金に対し、その表面に実施例11のTi0.5Al0.5Nからなる被膜を形成したものを比較例7〜12の超硬合金とした。
【0050】
このようにして得られた各実施例および各比較例の超硬合金を用いて、切削試験1〜2を実施した。その結果を表2〜表3に示す。
【0051】
<切削試験1>
実施例1〜13および比較例1〜6の超硬合金に対し、以下の条件で切削試験を行ない、切削長500mm加工した時点での逃げ面摩耗量およびチッピングの発生の有無を確認した。その結果を以下の表2に示す。なお、表2中の「欠損」は、切削試験の初期の段階で超硬合金の刃先に欠損が生じたことを意味する。
【0052】
被削材 Ti−6Al−4V
工具 EHG4080R(住友電工ハードメタル株式会社製)
工具径 80mm
刃数 1
潤滑剤 ウェット
切削速度Vc 60m/min
送りfz 0.15mm/t
軸方向切り込み量Ap 2mm
半径方向切り込み量Rd 10mm
【0053】
【表2】

【0054】
表2からも明らかなように、各実施例の超硬合金は、各比較例のそれと比較して欠損およびチッピングが生じにくく、かつ逃げ面摩耗量も少ないことから、工具寿命が著しく向上している。このことから、CoおよびCrを所定の割合で含有し、かつ抗磁力を一定に保ちつつ、抗折力を高めることにより、耐熱亀裂性と高強度とを兼備した超硬合金となることが明らかとなった。すなわち、本発明の超硬合金は、抗磁力を一定に保ちつつ、抗折力を高めたものであり、耐熱亀裂性と高強度とを兼備することが確認された。
【0055】
<切削試験2>
実施例11〜13および比較例7〜12の超硬合金に対し、以下の条件で切削試験を行ない、切削長1000mm加工した時点での逃げ面摩耗量およびチッピングの発生の有無を確認した。その結果を以下の表3に示す。
【0056】
被削材 インコネル718
工具 EHG4080R(住友電工ハードメタル株式会社製)
工具径 80mm
刃数 1
潤滑剤 ウェット
切削速度Vc 70m/min
送りfz 0.15mm/t
軸方向切り込み量Ap 2mm
半径方向切り込み量Rd 15mm
【0057】
【表3】

【0058】
表3からも明らかなように、各実施例の超硬合金は、各比較例のそれと比較して欠損およびチッピングが生じにくく、かつ逃げ面摩耗量も少ないことから。工具寿命が著しく向上している。このことから、CoおよびCrを所定の割合で含有し、かつ抗磁力を一定に保ちつつ、抗折力を高めることにより、耐熱亀裂性と高強度とを兼備した超硬合金となることが明らかとなった。すなわち、本発明の超硬合金は、抗磁力を一定に保ちつつ、抗折力を高めたものであり、耐熱亀裂性と高強度とを兼備することが確認された。
【0059】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0060】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の超硬合金は、エンドミル刃先交換型チップ、ドリル用刃先交換型チップ、フライス加工用刃先交換型チップ、ドリル、エンドミル、旋削加工用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの切削工具の基材として特に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
WCを主成分として含む超硬合金であって、
12質量%以上14質量%以下のCoと、0.3質量%以上0.6質量%以下のCrとを含み、
15kA/m以上25kA/m以下の抗磁力Hcを有し、かつ
長さ20mm×幅4mm×厚み2mmの形状とした場合に、10mmのスパンで曲げ試験を行なったときの抗折力が3.5GPa以上である、超硬合金。
【請求項2】
前記超硬合金は、WC粉末とCo粉末とCr32粉末とを含む粉末を混合したものを焼結した後に、急冷することにより得られる、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項3】
前記超硬合金は、その表面に被膜を備え、
前記被膜は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選択される一種以上の元素と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる群より選ばれる一種以上の元素とからなる化合物、または該化合物の固溶体からなる、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項4】
WC粉末とCo粉末とCr32粉末とを含む粉末を混合したものを1350℃以上1450℃以下の温度で焼結するステップと、
前記温度から急冷するステップとを含む、超硬合金の製造方法。
【請求項5】
前記急冷するステップは、100℃/min以上150℃/min以下の冷却速度で行なう、請求項4に記載の超硬合金の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−76156(P2012−76156A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221172(P2010−221172)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】