超硬工具の製造方法
【課題】超硬合金からなり、温度特性をさらに向上させた工具を得ることができる超硬工具の製造方法を提供することにある。
【解決手段】タングステンカーバイトとバインダーを所定の割合で混合し、これに溶剤を添加し、混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒し、得られた原料粉末を加圧成形し焼結して超硬工具を製造する超硬工具の製造方法であって、前記タングステンカーバイトとして、直径が1μm〜3μmである粉末を用い、前記バインダーとして、比表面積が30m2/g〜60m2/gであるコバルトからなる粉末を用いるようにした。
【解決手段】タングステンカーバイトとバインダーを所定の割合で混合し、これに溶剤を添加し、混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒し、得られた原料粉末を加圧成形し焼結して超硬工具を製造する超硬工具の製造方法であって、前記タングステンカーバイトとして、直径が1μm〜3μmである粉末を用い、前記バインダーとして、比表面積が30m2/g〜60m2/gであるコバルトからなる粉末を用いるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬工具の製造方法に関し、詳細にはホブやスロアウェイ工具などの超硬工具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車加工用のソリット型ホブには、耐摩耗性に優れる上に、靭性に優れた特性を発現することが要求されており、その材料として高速度鋼が主に使用されている。
【0003】
上述した工具により切削油を用いてワークを加工するウェット切削加工が行われていたが、近年、環境問題への意識の高まりから、切削油を使用しない、ドライ切削加工のニーズが高まっている。ドライ切削加工においては、工具の刃先の瞬間温度が1000℃以上になる過酷な加工条件となっている。耐熱性が高くかつ耐摩耗性に優れている切削工具の材料として超硬合金が知られており、超硬合金は、連続切削を行う切削工具の刃先(インサートチップ)の材料として利用されている。また、超硬合金は、ウェット切削加工用のホブの材料としても利用されるようになってきており、超硬合金からなるホブの製造方法も種々開発されている(例えば、下記の特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4339449号公報(例えば、段落[0020]〜[0033など参照)
【特許文献2】特開2009−179817号公報(例えば、段落[0018]〜[0025]、[図1],[図2A],[図2B]など参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した超硬合金は、耐熱性が高くかつ高温時の耐摩耗性が優れているものの、ワークと接触して切削するときの高温状態と、ワークと接触せず切削しないときの低温状態とを繰り返す、断続切削加工における温度変化が激しい環境下にて熱劣化が少ない材料とはなっていない。そのため、超硬合金は、ドライ切削加工用の切削工具、例えば、ドライ切削加工用のホブの材料として十分な特性を発現するとはいえなかった。温度変化が激しい環境下であっても、熱劣化に優れた特性を発現する超硬合金製切削工具の製造方法が要求されているが、いまだに好適な製造方法が出現されていないのが現状である。
【0006】
以上のことから、本発明は、前述した課題を解決するために為されたもので、超硬合金からなり、温度特性をさらに向上させた工具を得ることができる超硬工具の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決する第1の発明に係る超硬工具の製造方法は、
タングステンカーバイトとバインダーを所定の割合で混合し、これに溶剤を添加し、混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒し、得られた原料粉末を加圧成形し焼結して超硬工具を製造する超硬工具の製造方法であって、
前記タングステンカーバイトとして、直径が1μm〜3μmである粉末を用い、
前記バインダーとして、比表面積が30m2/g〜60m2/gであるコバルトからなる粉末を用いる
ことを特徴とする。
【0008】
上述した課題を解決する第2の発明に係る超硬工具の製造方法は、
第1の発明に係る超硬工具の製造方法であって、
前記コバルトからなる粉末は、その直径が0.1μmである
ことを特徴とする。
【0009】
上述した課題を解決する第3の発明に係る超硬工具の製造方法は、
第1の発明に係る超硬工具の製造方法であって、
前記溶剤は、脱水エタノールとアルコール系分散剤の混合物である
ことを特徴とする。
【0010】
上述した課題を解決する第4の発明に係る超硬工具の製造方法は、
第3の発明に係る超硬工具の製造方法であって、
前記アルコール系分散剤は、分子量1800のポリエチレンイミンである
ことを特徴とする。
【0011】
上述した課題を解決する第5の発明に係る超硬工具の製造方法は、
第3の発明に係る超硬工具の製造方法であって、
前記アルコール系分散剤は前記脱水エタノール30に対して1の割合である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る超硬工具の製造方法によれば、タングステンカーバイトとして、直径が1μm〜3μmである粉末を用い、バインダーとして、比表面積が30m2/g〜60m2/gであるコバルトからなる粉末を用いることにより、タングステンカーバイト粒子の表面を微粒子形状のコバルト粒子で覆い、これにより隣接するタングステンカーバイト粒子の間隔を均一化できる。これにより、タングステンカーバイト粒子の分布が均一になり、得られた超硬工具に熱クラックが生じたとても、熱クラックの進行をタングステンカーバイト粒子により阻止することができる。その結果、超硬合金からなり、温度特性をさらに向上させた、すなわち、温度変化が激しい環境下にて、熱劣化に優れた工具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の超硬工具の製造方法で得られた超硬工具の断面を走査型電子顕微鏡で撮影した写真である。
【図2】従来の超硬工具の製造方法で得られた超硬工具に対し熱劣化試験を行った後の当該超硬工具の断面を走査型電子顕微鏡で撮影した写真であって、図2(a)にその刃先部分を示し、図2(b)にその説明を示す。
【図3】図2における要部の拡大図である。
【図4】本発明に係る超硬工具の製造方法で得られた超硬工具における各元素の分布状態を電子線プローブアナライザーで測定した結果を示す図であって、図4(a)に分散剤を混入した場合におけるタングステン粒子の分布状態を示し、図4(b)に分散剤を混入した場合におけるコバルト粒子の分布状態を示し、図4(c)に分散剤を混入しない場合におけるタングステン粒子の分布状態を示し、図4(d)に分散剤を混入しない場合におけるコバルト粒子の分布状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来の超硬工具の製造方法においては、上述したように、超硬合金からなり、温度変化が激しい環境下にて、熱劣化に優れた工具を得ることができないという問題があった。この問題に対し、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、以下に原因があることが知見された。
【0015】
従来の超硬工具の製造方法により超硬工具を得た。具体的には、タングステンカーバイトとコバルト(バインダー)を所定の割合で混合する。続いて、これに脱水エタノールなどの溶剤を添加し、アトリッタ−ミルを用いて分散処理を行い混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒する。そして、得られた原料粉末を通常のCIP(冷間静水圧プレス)装置を用いて加圧成形し焼結して超硬工具(ホブ)を得た。
【0016】
上述したタングステンカーバイトとして、直径が1μm〜3μmである粉末を用い、コバルトとして、直径が1μm〜2μmであり、比表面積が10m2/g〜20m2/gである粉末を用いた。
【0017】
ここで、上述した従来の超硬工具の製造方法で得られた超硬工具の断面を走査型電子顕微鏡(以下、SEMと称す)で撮影した写真を図1に示す。図1に示すように、矢印Aで示すタングステンカーバイト粒子の周りに矢印Bで示すコバルト粒子が存在することが分かる。
【0018】
続いて、上述した超硬工具(ホブ)に対し熱劣化試験を行い、その断面を20倍拡大鏡で撮影した写真を図2および図3に示す。熱劣化試験とは、超硬工具を用いてワークの加工を所定時間行うことにより、所定時間の加熱工程と所定時間の冷却工程との繰返しサイクルを再現し、超硬工具の耐熱性を評価する試験である。図2(a)および図2(b)に示すように、ホブの刃先20の表面20a近傍にて熱クラック21が進行していることが分かる。図3に示すように、タングステンカーバイト粒子11の周りにあるコバルト粒子12に沿って熱クラック21が進行したり、このコバルト粒子12が割れて当該コバルト粒子12中を熱クラック21が進行したりしていることが分かる。
【0019】
このようなことから、コバルト粒子が大きいと、温度変化が激しい環境下にて熱クラックが進行していくことがわかった。
【0020】
上述した知見に基づき、本発明者らは、以下に示す超硬工具の製造方法を用いて、温度変化が激しい環境下にて、熱劣化に優れた工具を得ることができることを見出した。
【0021】
本発明に係る超硬工具の製造方法の一実施形態について、詳細に説明する。
本実施形態では、超硬工具である歯車加工用のソリット型ホブを製造する方法について説明する。
まず、タングステンカーバイト(WC)とバインダーを所定の割合で混合する。続いて、これに溶剤を添加し、アトリッタ−ミルを用いて分散処理を行い混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒する。そして、得られた原料粉末を通常のCIP装置を用いて加圧成形し焼結して超硬工具を得る。
【0022】
ここで、上述したタングステンカーバイトとしては、直径が1μm〜3μmである粉末を用いる。なぜなら、タングステンカーバイト粒子の直径が1μmより小さいと、タングステンカーバイト粒子の周囲にバインダーが多く存在し、隣接するタングステンカーバイト粒子の間隔が均一化せず、温度変化が激しい環境下における超硬工具の熱劣化による熱クラック進行を防御できない。他方、タングステンカーバイト粒子の直径が3μmより大きいと、タングステンカーバイト粒子の表面にバインダーが均一に分散し難くなり、超硬工具を成形し難くなってしまうからである。
【0023】
上述したバインダーとして、比表面積が30m2/g〜60m2/g、例えば直径が0.1μm程度であるコバルトからなる粉末を用いる。なぜなら、コバルト粒子の比表面積が30m2/gより小さいと、タングステンカーバイト粒子の間に存在するコバルト粒子の量が多くなり熱劣化による熱クラックの進行領域が増えてしまう一方、コバルト粒子の比表面積が60m2/gより大きいと、タングステンカーバイト粒子の表面を均一に覆うことができず、超硬工具を成形し難くなってしまうからである。これにより、タングステンカーバイト粒子とコバルト粒子(バインダー)を混合した際に、タングステンカーバイト粒子の表面をコバルト粒子で覆い、これにより隣接するタングステンカーバイト粒子の間隔を均一化できる。
【0024】
上述した所定の割合とは、タングステンカーバイトを90重量%〜95重量%であり、コバルトが5重量%〜10重量%である。
【0025】
上述した溶剤としては、脱水エタノールとアルコール系分散剤の混合物を用いる。これにより、コバルト粒子が凝集して大きな粒子になることを防ぐことができる。さらに、タングステンカーバイト粒子が凝集して大きな粒子になることも防ぐことができる。すなわち、コバルト粒子を分散させることができる上に、タングステンカーバイト粒子を分散させることができる。その結果、得られた超硬工具内にて隣接するタングステンカーバイト粒子の間隔が均一化し、当該超硬工具での熱クラックの生成を防ぐことができる。また、アルコール系分散剤を用いることにより、タングステンカーバイトの酸化を防止できる。
【0026】
溶剤の添加量は、上述したタングステンカーバイトの重量とコバルトの重量を合計した総重量に対して、15重量%以上20重量%以下の範囲が挙げられる。なぜなら、スプレードライヤ処理による乾燥・造粒工程で得られる粒径にバラツキが発生して、粒度分布を著しく悪くする。
【0027】
アルコール系分散剤として、例えば、分子量1800のポリエチレンイミンを用いる。アルコール系分散剤は脱水エタノール30に対して1の割合とする。これにより、コバルト粒子を確実に分散させることができると共に、タングステンカーバイト粒子を確実に分散させることができる。
【0028】
したがって、本実施形態に係る超硬工具の製造方法によれば、タングステンカーバイトとバインダーを所定の割合で混合し、これに溶剤を添加し、混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒し、得られた原料粉末を加圧成形し焼結して超硬工具を製造する超硬工具の製造方法であって、前記タングステンカーバイトとして、直径が1μm〜3μmである粉末を用い、前記バインダーとして、比表面積が30m2/g〜60m2/gであるコバルトからなる粉末を用いることにより、タングステンカーバイト粒子の表面を微粒子形状のコバルト粒子で覆い、これにより隣接するタングステンカーバイト粒子の間隔を均一化できる。その結果、得られた超硬工具に熱クラックが生じたとしても、タングステンカーバイト粒子の分布が均一であるため、その熱クラックの進行を阻止して、温度特性をさらに向上させる、すなわち、温度変化が激しい環境下にて、熱劣化に優れた工具を得ることができる。よって、この工具をドライ切削加工に利用できる。
【実施例】
【0029】
本発明に係る超硬工具の製造方法の効果を確認するために行った確認試験を以下に説明するが、本発明は以下に説明する確認試験のみに限定されるものではない。
【0030】
[試験体の調製]
タングステンカーバイト90.4重量%とコバルト9.6重量%を混合する。続いて、これに脱水エタノールと分子量1800のポリエチレンイミンからなり、脱水エタノール30に対しポリエチレンイミン1の割合で混合した溶剤を添加し、アトリッタ−ミルを用いて分散処理を行い混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒する。そして、得られた原料粉末を通常のCIP装置を用いて加圧成形し焼結して試験体を得た。タングステンカーバイトとして直径が1μm〜3μmである粉末を用い、コバルトとして直径が0.1μmである粉末を用いた。
【0031】
[比較体の調製]
タングステンカーバイト90.4重量%とコバルト9.6重量%を混合する。続いて、これに脱水エタノールからなる溶剤を添加し、アトリッタ−ミルを用いて分散処理を行い混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒する。そして、得られた原料粉末を通常のCIP装置を用いて加圧成形し焼結して比較体を得た。タングステンカーバイトとして直径が1μm〜3μmである粉末を用い、コバルトとして直径が0.1μmである粉末を用いた。
【0032】
[確認試験]
[分散剤の性能評価試験]
本試験にて、試験体および比較体に対し、電子線プローブマイクロアナライザー(以下、EPMAと称す)を用いてタングステン粒子およびコバルト粒子の分布状態を測定し、分散剤の性能について評価を行った。
【0033】
上記試験体に対しEPMAを用いて、上記試験体におけるタングステン粒子の分布状態を測定した結果を図4(a)に示し、上記試験体におけるコバルト粒子の分布状態を測定した結果を図4(b)に示す。
【0034】
上記比較体に対しEPMAを用いて、上記比較体におけるタングステン粒子の分布状態を測定した結果を図4(c)に示し、上記比較体におけるコバルト粒子の分布状態を測定した結果を図4(d)に示す。
【0035】
上述した図4(b)と図4(d)から、アルコール系分散剤として分子量1800のポリエチレンイミンを溶剤に混入することにより、コバルト粒子32が分散することを確認した。
【0036】
上述した図4(a)と図4(c)から、アルコール系分散剤として分子量1800のポリエチレンイミンを溶剤に混入することにより、コバルト粒子32と同様、タングステン粒子31も分散することを確認した。
【0037】
よって、溶剤にアルコール系分散剤として分子量1800のポリエチレンイミンを混入することで、コバルト粒子を分散させることができる上に、タングステン粒子を分散させることができ、超硬工具を温度環境の激しい環境下で使用しても、熱クラックの進行を効果的に防ぐことができることが分かった。
【0038】
なお、上記では、歯車加工用のソリット型ホブの製造方法に適用した超硬工具の製造方法について説明したが、スロアウェイ工具の製造方法に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る超硬工具の製造方法によれば、温度変化が激しい環境下にて、熱劣化に優れた工具を得ることができるため、工作機械産業などで有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
11 タングステンカーバイト粒子
12 コバルト粒子
20 ホブの刃先
21 熱クラック
31 タングステン粒子
32 コバルト粒子
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬工具の製造方法に関し、詳細にはホブやスロアウェイ工具などの超硬工具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車加工用のソリット型ホブには、耐摩耗性に優れる上に、靭性に優れた特性を発現することが要求されており、その材料として高速度鋼が主に使用されている。
【0003】
上述した工具により切削油を用いてワークを加工するウェット切削加工が行われていたが、近年、環境問題への意識の高まりから、切削油を使用しない、ドライ切削加工のニーズが高まっている。ドライ切削加工においては、工具の刃先の瞬間温度が1000℃以上になる過酷な加工条件となっている。耐熱性が高くかつ耐摩耗性に優れている切削工具の材料として超硬合金が知られており、超硬合金は、連続切削を行う切削工具の刃先(インサートチップ)の材料として利用されている。また、超硬合金は、ウェット切削加工用のホブの材料としても利用されるようになってきており、超硬合金からなるホブの製造方法も種々開発されている(例えば、下記の特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4339449号公報(例えば、段落[0020]〜[0033など参照)
【特許文献2】特開2009−179817号公報(例えば、段落[0018]〜[0025]、[図1],[図2A],[図2B]など参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した超硬合金は、耐熱性が高くかつ高温時の耐摩耗性が優れているものの、ワークと接触して切削するときの高温状態と、ワークと接触せず切削しないときの低温状態とを繰り返す、断続切削加工における温度変化が激しい環境下にて熱劣化が少ない材料とはなっていない。そのため、超硬合金は、ドライ切削加工用の切削工具、例えば、ドライ切削加工用のホブの材料として十分な特性を発現するとはいえなかった。温度変化が激しい環境下であっても、熱劣化に優れた特性を発現する超硬合金製切削工具の製造方法が要求されているが、いまだに好適な製造方法が出現されていないのが現状である。
【0006】
以上のことから、本発明は、前述した課題を解決するために為されたもので、超硬合金からなり、温度特性をさらに向上させた工具を得ることができる超硬工具の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決する第1の発明に係る超硬工具の製造方法は、
タングステンカーバイトとバインダーを所定の割合で混合し、これに溶剤を添加し、混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒し、得られた原料粉末を加圧成形し焼結して超硬工具を製造する超硬工具の製造方法であって、
前記タングステンカーバイトとして、直径が1μm〜3μmである粉末を用い、
前記バインダーとして、比表面積が30m2/g〜60m2/gであるコバルトからなる粉末を用いる
ことを特徴とする。
【0008】
上述した課題を解決する第2の発明に係る超硬工具の製造方法は、
第1の発明に係る超硬工具の製造方法であって、
前記コバルトからなる粉末は、その直径が0.1μmである
ことを特徴とする。
【0009】
上述した課題を解決する第3の発明に係る超硬工具の製造方法は、
第1の発明に係る超硬工具の製造方法であって、
前記溶剤は、脱水エタノールとアルコール系分散剤の混合物である
ことを特徴とする。
【0010】
上述した課題を解決する第4の発明に係る超硬工具の製造方法は、
第3の発明に係る超硬工具の製造方法であって、
前記アルコール系分散剤は、分子量1800のポリエチレンイミンである
ことを特徴とする。
【0011】
上述した課題を解決する第5の発明に係る超硬工具の製造方法は、
第3の発明に係る超硬工具の製造方法であって、
前記アルコール系分散剤は前記脱水エタノール30に対して1の割合である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る超硬工具の製造方法によれば、タングステンカーバイトとして、直径が1μm〜3μmである粉末を用い、バインダーとして、比表面積が30m2/g〜60m2/gであるコバルトからなる粉末を用いることにより、タングステンカーバイト粒子の表面を微粒子形状のコバルト粒子で覆い、これにより隣接するタングステンカーバイト粒子の間隔を均一化できる。これにより、タングステンカーバイト粒子の分布が均一になり、得られた超硬工具に熱クラックが生じたとても、熱クラックの進行をタングステンカーバイト粒子により阻止することができる。その結果、超硬合金からなり、温度特性をさらに向上させた、すなわち、温度変化が激しい環境下にて、熱劣化に優れた工具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の超硬工具の製造方法で得られた超硬工具の断面を走査型電子顕微鏡で撮影した写真である。
【図2】従来の超硬工具の製造方法で得られた超硬工具に対し熱劣化試験を行った後の当該超硬工具の断面を走査型電子顕微鏡で撮影した写真であって、図2(a)にその刃先部分を示し、図2(b)にその説明を示す。
【図3】図2における要部の拡大図である。
【図4】本発明に係る超硬工具の製造方法で得られた超硬工具における各元素の分布状態を電子線プローブアナライザーで測定した結果を示す図であって、図4(a)に分散剤を混入した場合におけるタングステン粒子の分布状態を示し、図4(b)に分散剤を混入した場合におけるコバルト粒子の分布状態を示し、図4(c)に分散剤を混入しない場合におけるタングステン粒子の分布状態を示し、図4(d)に分散剤を混入しない場合におけるコバルト粒子の分布状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来の超硬工具の製造方法においては、上述したように、超硬合金からなり、温度変化が激しい環境下にて、熱劣化に優れた工具を得ることができないという問題があった。この問題に対し、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、以下に原因があることが知見された。
【0015】
従来の超硬工具の製造方法により超硬工具を得た。具体的には、タングステンカーバイトとコバルト(バインダー)を所定の割合で混合する。続いて、これに脱水エタノールなどの溶剤を添加し、アトリッタ−ミルを用いて分散処理を行い混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒する。そして、得られた原料粉末を通常のCIP(冷間静水圧プレス)装置を用いて加圧成形し焼結して超硬工具(ホブ)を得た。
【0016】
上述したタングステンカーバイトとして、直径が1μm〜3μmである粉末を用い、コバルトとして、直径が1μm〜2μmであり、比表面積が10m2/g〜20m2/gである粉末を用いた。
【0017】
ここで、上述した従来の超硬工具の製造方法で得られた超硬工具の断面を走査型電子顕微鏡(以下、SEMと称す)で撮影した写真を図1に示す。図1に示すように、矢印Aで示すタングステンカーバイト粒子の周りに矢印Bで示すコバルト粒子が存在することが分かる。
【0018】
続いて、上述した超硬工具(ホブ)に対し熱劣化試験を行い、その断面を20倍拡大鏡で撮影した写真を図2および図3に示す。熱劣化試験とは、超硬工具を用いてワークの加工を所定時間行うことにより、所定時間の加熱工程と所定時間の冷却工程との繰返しサイクルを再現し、超硬工具の耐熱性を評価する試験である。図2(a)および図2(b)に示すように、ホブの刃先20の表面20a近傍にて熱クラック21が進行していることが分かる。図3に示すように、タングステンカーバイト粒子11の周りにあるコバルト粒子12に沿って熱クラック21が進行したり、このコバルト粒子12が割れて当該コバルト粒子12中を熱クラック21が進行したりしていることが分かる。
【0019】
このようなことから、コバルト粒子が大きいと、温度変化が激しい環境下にて熱クラックが進行していくことがわかった。
【0020】
上述した知見に基づき、本発明者らは、以下に示す超硬工具の製造方法を用いて、温度変化が激しい環境下にて、熱劣化に優れた工具を得ることができることを見出した。
【0021】
本発明に係る超硬工具の製造方法の一実施形態について、詳細に説明する。
本実施形態では、超硬工具である歯車加工用のソリット型ホブを製造する方法について説明する。
まず、タングステンカーバイト(WC)とバインダーを所定の割合で混合する。続いて、これに溶剤を添加し、アトリッタ−ミルを用いて分散処理を行い混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒する。そして、得られた原料粉末を通常のCIP装置を用いて加圧成形し焼結して超硬工具を得る。
【0022】
ここで、上述したタングステンカーバイトとしては、直径が1μm〜3μmである粉末を用いる。なぜなら、タングステンカーバイト粒子の直径が1μmより小さいと、タングステンカーバイト粒子の周囲にバインダーが多く存在し、隣接するタングステンカーバイト粒子の間隔が均一化せず、温度変化が激しい環境下における超硬工具の熱劣化による熱クラック進行を防御できない。他方、タングステンカーバイト粒子の直径が3μmより大きいと、タングステンカーバイト粒子の表面にバインダーが均一に分散し難くなり、超硬工具を成形し難くなってしまうからである。
【0023】
上述したバインダーとして、比表面積が30m2/g〜60m2/g、例えば直径が0.1μm程度であるコバルトからなる粉末を用いる。なぜなら、コバルト粒子の比表面積が30m2/gより小さいと、タングステンカーバイト粒子の間に存在するコバルト粒子の量が多くなり熱劣化による熱クラックの進行領域が増えてしまう一方、コバルト粒子の比表面積が60m2/gより大きいと、タングステンカーバイト粒子の表面を均一に覆うことができず、超硬工具を成形し難くなってしまうからである。これにより、タングステンカーバイト粒子とコバルト粒子(バインダー)を混合した際に、タングステンカーバイト粒子の表面をコバルト粒子で覆い、これにより隣接するタングステンカーバイト粒子の間隔を均一化できる。
【0024】
上述した所定の割合とは、タングステンカーバイトを90重量%〜95重量%であり、コバルトが5重量%〜10重量%である。
【0025】
上述した溶剤としては、脱水エタノールとアルコール系分散剤の混合物を用いる。これにより、コバルト粒子が凝集して大きな粒子になることを防ぐことができる。さらに、タングステンカーバイト粒子が凝集して大きな粒子になることも防ぐことができる。すなわち、コバルト粒子を分散させることができる上に、タングステンカーバイト粒子を分散させることができる。その結果、得られた超硬工具内にて隣接するタングステンカーバイト粒子の間隔が均一化し、当該超硬工具での熱クラックの生成を防ぐことができる。また、アルコール系分散剤を用いることにより、タングステンカーバイトの酸化を防止できる。
【0026】
溶剤の添加量は、上述したタングステンカーバイトの重量とコバルトの重量を合計した総重量に対して、15重量%以上20重量%以下の範囲が挙げられる。なぜなら、スプレードライヤ処理による乾燥・造粒工程で得られる粒径にバラツキが発生して、粒度分布を著しく悪くする。
【0027】
アルコール系分散剤として、例えば、分子量1800のポリエチレンイミンを用いる。アルコール系分散剤は脱水エタノール30に対して1の割合とする。これにより、コバルト粒子を確実に分散させることができると共に、タングステンカーバイト粒子を確実に分散させることができる。
【0028】
したがって、本実施形態に係る超硬工具の製造方法によれば、タングステンカーバイトとバインダーを所定の割合で混合し、これに溶剤を添加し、混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒し、得られた原料粉末を加圧成形し焼結して超硬工具を製造する超硬工具の製造方法であって、前記タングステンカーバイトとして、直径が1μm〜3μmである粉末を用い、前記バインダーとして、比表面積が30m2/g〜60m2/gであるコバルトからなる粉末を用いることにより、タングステンカーバイト粒子の表面を微粒子形状のコバルト粒子で覆い、これにより隣接するタングステンカーバイト粒子の間隔を均一化できる。その結果、得られた超硬工具に熱クラックが生じたとしても、タングステンカーバイト粒子の分布が均一であるため、その熱クラックの進行を阻止して、温度特性をさらに向上させる、すなわち、温度変化が激しい環境下にて、熱劣化に優れた工具を得ることができる。よって、この工具をドライ切削加工に利用できる。
【実施例】
【0029】
本発明に係る超硬工具の製造方法の効果を確認するために行った確認試験を以下に説明するが、本発明は以下に説明する確認試験のみに限定されるものではない。
【0030】
[試験体の調製]
タングステンカーバイト90.4重量%とコバルト9.6重量%を混合する。続いて、これに脱水エタノールと分子量1800のポリエチレンイミンからなり、脱水エタノール30に対しポリエチレンイミン1の割合で混合した溶剤を添加し、アトリッタ−ミルを用いて分散処理を行い混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒する。そして、得られた原料粉末を通常のCIP装置を用いて加圧成形し焼結して試験体を得た。タングステンカーバイトとして直径が1μm〜3μmである粉末を用い、コバルトとして直径が0.1μmである粉末を用いた。
【0031】
[比較体の調製]
タングステンカーバイト90.4重量%とコバルト9.6重量%を混合する。続いて、これに脱水エタノールからなる溶剤を添加し、アトリッタ−ミルを用いて分散処理を行い混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒する。そして、得られた原料粉末を通常のCIP装置を用いて加圧成形し焼結して比較体を得た。タングステンカーバイトとして直径が1μm〜3μmである粉末を用い、コバルトとして直径が0.1μmである粉末を用いた。
【0032】
[確認試験]
[分散剤の性能評価試験]
本試験にて、試験体および比較体に対し、電子線プローブマイクロアナライザー(以下、EPMAと称す)を用いてタングステン粒子およびコバルト粒子の分布状態を測定し、分散剤の性能について評価を行った。
【0033】
上記試験体に対しEPMAを用いて、上記試験体におけるタングステン粒子の分布状態を測定した結果を図4(a)に示し、上記試験体におけるコバルト粒子の分布状態を測定した結果を図4(b)に示す。
【0034】
上記比較体に対しEPMAを用いて、上記比較体におけるタングステン粒子の分布状態を測定した結果を図4(c)に示し、上記比較体におけるコバルト粒子の分布状態を測定した結果を図4(d)に示す。
【0035】
上述した図4(b)と図4(d)から、アルコール系分散剤として分子量1800のポリエチレンイミンを溶剤に混入することにより、コバルト粒子32が分散することを確認した。
【0036】
上述した図4(a)と図4(c)から、アルコール系分散剤として分子量1800のポリエチレンイミンを溶剤に混入することにより、コバルト粒子32と同様、タングステン粒子31も分散することを確認した。
【0037】
よって、溶剤にアルコール系分散剤として分子量1800のポリエチレンイミンを混入することで、コバルト粒子を分散させることができる上に、タングステン粒子を分散させることができ、超硬工具を温度環境の激しい環境下で使用しても、熱クラックの進行を効果的に防ぐことができることが分かった。
【0038】
なお、上記では、歯車加工用のソリット型ホブの製造方法に適用した超硬工具の製造方法について説明したが、スロアウェイ工具の製造方法に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る超硬工具の製造方法によれば、温度変化が激しい環境下にて、熱劣化に優れた工具を得ることができるため、工作機械産業などで有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
11 タングステンカーバイト粒子
12 コバルト粒子
20 ホブの刃先
21 熱クラック
31 タングステン粒子
32 コバルト粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンカーバイトとバインダーを所定の割合で混合し、これに溶剤を添加し、混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒し、得られた原料粉末を加圧成形し焼結して超硬工具を製造する超硬工具の製造方法であって、
前記タングステンカーバイトとして、直径が1μm〜3μmである粉末を用い、
前記バインダーとして、比表面積が30m2/g〜60m2/gであるコバルトからなる粉末を用いる
ことを特徴とする超硬工具の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された超硬工具の製造方法であって、
前記コバルトからなる粉末は、その直径が0.1μmである
ことを特徴とする超硬工具の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載された超硬工具の製造方法であって、
前記溶剤は、脱水エタノールとアルコール系分散剤の混合物である
ことを特徴とする超硬工具の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載された超硬工具の製造方法であって、
前記アルコール系分散剤は、分子量1800のポリエチレンイミンである
ことを特徴とする超硬工具の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載された超硬工具の製造方法であって、
前記アルコール系分散剤は前記脱水エタノール30に対して1の割合である
ことを特徴とする超硬工具の製造方法。
【請求項1】
タングステンカーバイトとバインダーを所定の割合で混合し、これに溶剤を添加し、混練した後、スプレードライヤ処理により乾燥・造粒し、得られた原料粉末を加圧成形し焼結して超硬工具を製造する超硬工具の製造方法であって、
前記タングステンカーバイトとして、直径が1μm〜3μmである粉末を用い、
前記バインダーとして、比表面積が30m2/g〜60m2/gであるコバルトからなる粉末を用いる
ことを特徴とする超硬工具の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された超硬工具の製造方法であって、
前記コバルトからなる粉末は、その直径が0.1μmである
ことを特徴とする超硬工具の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載された超硬工具の製造方法であって、
前記溶剤は、脱水エタノールとアルコール系分散剤の混合物である
ことを特徴とする超硬工具の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載された超硬工具の製造方法であって、
前記アルコール系分散剤は、分子量1800のポリエチレンイミンである
ことを特徴とする超硬工具の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載された超硬工具の製造方法であって、
前記アルコール系分散剤は前記脱水エタノール30に対して1の割合である
ことを特徴とする超硬工具の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2012−24850(P2012−24850A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162429(P2010−162429)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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