説明

超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法

【課題】疎水性のプラスチックの表面を、超親水性にすることにより、防曇性防汚染性に優れたプラスチック成型物を容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】フィルム基材に親水性シリカと光触媒性に富む酸化チタンの膜を形成し、プラスチック表面に圧と熱とでシリカ膜を転写するか、上記フィルムを金型内面に箔送り装置で送り込み、プラスチックを射出成型しシリカ膜を転写することで、超親水性表面を有するプラスチック成型物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成型物の表面を転写加工することにより、超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス表面やタイル表面に水分散性シリカと光触媒性に富む酸化チタンを用いて処理を行い、シラノール基で覆うことにより親水性にし、かつ光触媒作用で表面に付着した有機物を分解することで、曇り防止や汚れ防止を行うことは、近年注目されている。特に建材の表面処理を行うことで汚れを防止し、建造物の美観が長期間維持されたり、車のガラス表面に処理を行うことで曇り防止による安全性確保や、鏡の表面に処理を行うことで、高温多湿の浴室でも曇らずに鏡としての機能を十分発揮できるような発明も行われている。また、光触媒作用で消臭効果や殺菌効果も期待されている。
【0003】
しかしながら、ガラスはプラスチックに比べて割れ易く危険であること、比重の関係で重くなること、耐熱性を有する反面成型加工温度が高く種々の成型物を得るために高度の技術が必要なこと等の問題点がある。そのため、ガラスに比べて割れにくく軽量で加工の容易なプラスチック成型物への親水処理が容易に可能となれば、ヘルメットやゴーグルの保護カバー、手持ちの鏡、建材用のポリカーボネート板等への利用価値は大きい。
【0004】
プラスチックへの表面にシリカと酸化チタンを塗布することは、プラスチック表面が疎水性であること、耐熱性に劣るために高温での処理が困難であることにより種々の問題が発生する。例えば、プラスチック表面に水分散性シリカと酸化チタンを処理しても、長時間水に漬けておくと、親水性膜が剥れてくる。これは、プラスチックの表面が疎水性であり、親水性のシリカや酸化チタンとの結合性が弱いこと、プラスチックの耐熱性が弱いため、高温で処理できないことに起因する。
【0005】
プラスチックと接着性の良いバインダーにシリカと酸化チタンを分散させてプラスチック表面に塗装する方法も試みられているが、用いるバインダーの影響で、優れた親水性を持つ表面が得られないのが現状である。
【0006】
プラスチック表面を親水性になるようにコロナ処理・プラズマ処理や、強酸化処理等が行われている。コロナ処理・プラズマ処理はフィルムには有効であるが成型物には向かず、またそれ相応の設備が必要となる。強酸化処理は処理液の廃水処理の問題もある。直接蒸着やスパッターリング方式で表面処理を行おうとの試みもあるが、装置も大掛りとなりまだ実用化されていない。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の従来技術の問題点を鑑みてなされたもので、本発明の目的は、疎水性のプラスチック表面に親水性のシリカと光触媒性に富む酸化チタン層を容易に固着させ、親水性に富んだ表面を持ったプラスチック成型物を製造する方法を提供することである。従来の技術の様に、大掛りな装置を必要とせず、安価に耐久性に優れた親水性皮膜をプラスチック表面に形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、あらかじめフィルムに親水性のシリカと酸化チタンの層を形成し、その後プラスチック表面にそのプラスチックの軟化温度前後で圧着することで、親水性に富む表面を有するプラスチック成型物の製造方法が得られること、また、あらかじめ親水性のシリカと酸化チタンの層を形成したフィルムをプラスチック成型金型に挿入、樹脂を流し込むことにより親水性に富む表面を有するプラスチック成型物の製造方法が得られるとの発想を得、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の請求項1に係る超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法は、フィルム基材の片面に、水分散性シリカと酸化チタンの混合物を塗布し乾燥させることで親水性層を形成し、その親水性層がプラスチック成型物の表面に当たる様に圧をかけながら、そのプラスチック材料の軟化点前後まで加熱することにより、親水性層をプラスチック表面に転写して成ることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項2に係る超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法は、フィルム基材の片面に、水分散性酸化チタンを塗布し乾燥させ、その後水分散性シリカを塗布し乾燥させることで親水性層を形成し、あるいは水分散性シリカを塗布し乾燥させ、その後水分散性酸化チタンを塗布し乾燥させることで親水性層を形成し、その親水性層がプラスチック成型物の表面に当たる様に圧をかけながら、そのプラスチック材料の軟化点前後まで加熱することにより、親水性層をプラスチック表面に転写して成ることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項3に係る超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法は、フィルム基材の片面に、水分散性シリカと酸化チタンの混合物を塗布し乾燥させることで親水性層を形成し、その親水性層が内面にくる様にプラスチック用成型金型の内面に貼り付けるかあるいは箔送り装置で送り込み、溶融したプラスチックを金型に射出し、親水性層をプラスチック表面に転写して成ることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項4に係る超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法は、フィルム基材の片面に、水分散性酸化チタンを塗布し乾燥させ、その後水分散性シリカを塗布し乾燥させることで親水性層を形成し、あるいは水分散性シリカを塗布し乾燥させ、その後水分散性酸化チタンを塗布し乾燥させることで親水性層を形成し、その親水性層が内面にくる様にプラスチック用成型金型の内面に貼り付けるかあるいは箔送り装置で送り込み、溶融したプラスチックを金型に射出し、親水性層をプラスチック表面に転写して成ることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項5に係る超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法は、請求項1から4において、フィルム基材が、プラスチック成形物の素材の軟化点よりも高い耐熱性を有する素材を用いて成ることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項6に係る超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法は、請求項1から4において、フィルム基材の表面を耐熱性離型性処理を施して成ることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の請求項7に係る超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法は、請求項1または2において、プラスチック成型物が、あらかじめ軟化点の低い樹脂膜に被覆された耐熱性プラスチック成型物で成ることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の請求項8に係る超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法は、フィルム基材に請求項1または2のように形成された親水性層の上に、軟化点の低い樹脂膜を形成し、プラスチック成型物が耐熱性プラスチック成型物の表面に当たる様に圧をかけながら、その樹脂膜の軟化点前後まで加熱することにより、親水性層を耐熱性プラスチック表面に転写して成ることを特徴とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態について以下に述べる。
【0018】
用いるフィルム基材は、PET、PS、PP等水分散シリカ塗剤が塗布できるものなら特に限定されない。厚みは12μmから100μm程度の比較的薄手のものが熱伝導性に富み、加工が容易である。フィルム基材は、転写するプラスチックよりも耐熱性を有しているものが良く、耐熱離型処理がされていても良い。
【0019】
フィルム基材に親水性シリコンと光触媒性に富む酸化チタンの水分散物を塗布し乾燥させる。その断面図を図1に示す。あるいは、フィルム基材に光触媒性に富む酸化チタンの水分散物を塗布し乾燥させ、その上に親水性シリコンの水分散物を塗布し乾燥させる。その断面図を図2に示す。塗布の順番は図3のように逆でもよい。塗布は、グラビアコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、スクリーンコーター、フレキソコーター等均一に塗布できる方式なら特に限定されない。乾燥は水分が飛びシリカ並びに酸化チタンの皮膜が形成できる温度で実施する。塗布量はそれぞれ0.005g/mから10g/m、好ましくは0.01g/mから1g/mである。
【0020】
プラスチック成型物への圧並びに熱での転写は、図5のように成型体の表面に親水性層が付着する様にフィルムを装着し、転写圧1.0MPから5.0MPで行う。温度はプラスチックの軟化点付近の温度で行うのが良い。但し、転写用フィルムの耐熱性並びに成型物のプラスチック基材の変形を考慮し前後させると良い。
【0021】
射出成型での転写は、上記で得られた転写用フィルムを金型の内面に、親水性層が内面にくる様に装着し、溶融した樹脂を金型に射出し成型する。転写用フィルムは一枚一枚金型内側に貼り付けても良く、図6のように箔送り機で装着しても良い。射出温度は通常の樹脂の軟化点以上、樹脂の変質温度以下であれば良い。
【0022】
ポリカーボネートの様に耐熱性に優れたプラスチック成型物の場合は、あらかじめ軟化点の低い樹脂をプラスチック成形品の表面に被覆しておいて、転写すれば良い。また、フィルム上に形成された親水性層の上に、図4のように軟化点の低い樹脂層を設けて転写しても良い。
【0023】
軟化点の低い樹脂としては、PE、PP、アクリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、PS、ABS、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル等の樹脂が挙げられる。
【実施例】
【0024】
次に実施例で本発明を説明する。
【0025】
転写用箔は、フィルム基材として市販のユニチカ社PETフィルム25μmを用いた。親水性の水分散性シリカ塗剤として、株式会社光触媒研究所製KT−001を用いた。主成分はシリカ、アクリル、水酸化ナトリウムである。また、光触媒性に富む酸化チタンとして株式会社光触媒研究所製PSO−419を用いた。両塗剤を1:1で混合し、グラビアコーターを用い塗布した。塗布量は0.03g/mである。乾燥は150℃で行った。この箔を転写用箔1とした。
【0026】
上記フィルム基材に、光触媒製に富むをPSO−419をグラビアコーターで塗布乾燥させ、その上にKT−001をグラビアコーターで塗布乾燥させた。塗布量はそれぞれ0.03g/mである。乾燥は150℃で行った。この箔を転写用箔2とした。
【実施例1】
次に上記転写用箔1及び2を用い、熱圧着により転写を行った。熱圧着は株式会社ナビタス社製のプラスチック用転写機を用い、アクリル板に行った。転写圧は3.0MPで転写温度は220℃、転写時間は2秒である。
【実施例2】
【0027】
上記転写箔1及び2を用い、射出成型により転写を行った。射出成型は株式会社日本製鋼所社製成型機を用いて行った。金型に転写用フィルムをシリカ層が内面にくる様に装着し、ABS樹脂は樹脂温度200℃、射出圧力120MP、射出速度60mm/秒で行った。
【実施例3】
【0028】
同様に、アクリル樹脂は、樹脂温度220℃、射出圧力140MP、射出速度60mm/秒で行った。
【実施例4】
【0029】
転写用箔1の上に、酢酸ビニル樹脂をグラビアコーターを用いて塗布した。その塗布量は、0.5g/mである。これを転写用箔3とする。この転写箔を用いて、実施例1と同じ条件でポリカーボネートに転写した。
【比較例1】
【0030】
アクリル板にKT−001とPSO−419とを1:1に混合したものを噴霧し、100℃で5分間乾燥させたものを作製した。
【比較例2】
また、転写用箔1の上に塩ビ系接着剤を塗布した。これを転写箔4とする。この箔を用いて、アクリル板に実施例1と同様の方法で転写した。
【比較例3】
酢酸ビニル樹脂のエマルジョンに、シリカと酸化チタンを分散させ、アクリル板に塗布し乾燥させた。
【0031】
親水性の評価は、水を霧吹きで吹きかけて水の濡れ性を評価した。また、光触媒性は、プラスチック成型物に指紋を付け24h光照射後の親水性の回復度合で評価した。親水層の密着性は、ニチバンのセロテープを用いて密着試験を行った。耐水性は水にどぶ漬けし、24時間後の状態を観察した。耐熱水性は80℃のお湯に30分漬けた後の状態を観察した。
【0032】
実施例並びに比較例の性能の結果を表1に示す。
【表1】

【発明の効果】
【0033】
以上述べてきた様に、フィルム面に親水性のシリカ並びに光触媒性に富む酸化チタン層をあらかじめ形成し、圧と熱とでプラスチック成型物に転写するか、上記フィルムをプラスチック成型用の金型内面に貼り付け、射出成型により転写すると、特に大掛りな装置を必要とせず非常に親水性に富んだプラスチック成型物が容易に得られる。特に、ポリカーボネートの様に耐熱性の有る樹脂については、あらかじめ表面に軟化点の低い樹脂を被覆するか、転写箔の親水性層の上に軟化点の低い樹脂層を形成することにより、親水性に優れた成型物が得られる。そのことにより、曇りや汚染防止のプラスチック成型物が得られる。また、光触媒作用により、消臭・殺菌・防カビ効果も期待できる。
【産業上の利用の可能性】
【0034】
このようにして得られるプラスチック成型物は、ガラスと異なり軽くて割れにくく、ヘルメットやゴーグルの保護面や持ち歩く手鏡、建材用カーボネート板等により安全で利便性に優れた製品を供給できる。また、消臭・殺菌・防カビ効果も期待でき、産業上の利用分野は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の転写箔の一例を示すものであり、断面図である。
【図2】本発明の転写箔の別の一例を示すものであり、断面図である。
【図3】本発明の転写箔の別の一例を示すものであり、断面図である。
【図4】本発明の転写箔の別の一例を示すものであり、断面図である。
【図5】本発明の熱圧着での製造方法の一例を示すものであり、断面図である。Aは転写前、Bは転写中、Cは転写後を示す。
【図6】本発明の射出成型での製造方法の一例を示すものであり、断面図である。Aは成型前、Bは成型中、Cは成型後を示す。
【符号の説明】
1 フィルム基材
2 シリカ並びに酸化チタンの混合層
3 シリカ層
4 酸化チタン層
5 軟化点の低い樹脂層
6 転写箔
7 熱ロール
8 プラスチック成型物
9 金型
10 射出樹脂
11 親水性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材の片面に、水分散性シリカと酸化チタンの混合物を塗布し乾燥させることで親水性層を形成し、その親水性層がプラスチック成型物の表面に当たる様に圧をかけながら、そのプラスチック材料の軟化点前後まで加熱することにより、親水性層をプラスチック表面に転写して成ることを特徴とする、超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法
【請求項2】
フィルム基材の片面に、水分散性酸化チタンを塗布し乾燥させ、その後水分散性シリカを塗布し乾燥させることで親水性層を形成し、あるいは水分散性シリカを塗布し乾燥させ、その後水分散性酸化チタンを塗布し乾燥させることで親水性層を形成し、その親水性層がプラスチック成型物の表面に当たる様に圧をかけながら、そのプラスチック材料の軟化点前後まで加熱することにより、親水性層をプラスチック表面に転写して成ることを特徴とする、超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法
【請求項3】
フィルム基材の片面に、水分散性シリカと酸化チタンの混合物を塗布し乾燥させることで親水性層を形成し、その親水性層が内面にくる様にプラスチック用成型金型の内面に貼り付けるかあるいは箔送り装置で送り込み、溶融したプラスチックを金型に射出し、親水性層をプラスチック表面に転写して成ることを特徴とする、超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法
【請求項4】
フィルム基材の片面に、水分散性酸化チタンを塗布し乾燥させ、その後水分散性シリカを塗布し乾燥させることで親水性層を形成し、あるいは水分散性シリカを塗布し乾燥させ、その後水分散性酸化チタンを塗布し乾燥させることで親水性層を形成し、その親水性層が内面にくる様にプラスチック用成型金型の内面に貼り付けるかあるいは箔送り装置で送り込み、溶融したプラスチックを金型に射出し、親水性層をプラスチック表面に転写して成ることを特徴とする、超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法
【請求項5】
フィルム基材が、プラスチック成形物の素材の軟化点よりも高い耐熱性を有する素材を用いて成ることを特徴とする、請求項1から4の超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法
【請求項6】
フィルム基材の表面を耐熱性離型性処理を施して成ることを特徴とする、請求項1から4の超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法
【請求項7】
プラスチック成型物が、あらかじめ軟化点の低い樹脂膜に被覆された耐熱性プラスチック成型物で成ることを特徴とする、請求項1または2の超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法
【請求項8】
フィルム基材に請求項1または2のように形成された親水性層の上に、軟化点の低い樹脂膜を形成し、プラスチック成型物が耐熱性プラスチック成型物の表面に当たる様に圧をかけながら、その樹脂膜の軟化点前後まで加熱することにより、親水性層を耐熱性プラスチック表面に転写して成ることを特徴とする、超親水性表面を有するプラスチック成型物の製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−231890(P2006−231890A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−89716(P2005−89716)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(591241512)寿精版印刷株式会社 (26)
【Fターム(参考)】