説明

超電導限流素子

【課題】通電方向に対して垂直方向に縞状を形成する超電導限流素子を提供する。
【解決手段】絶縁性基板4と、絶縁性基板4の少なくとも一側面に形成された超電導膜3と、超電導膜3の一側面に、第1抵抗部1と第2抵抗部2とが通電方向に交互に配置され縞状に形成された常電導抵抗膜5と、を含む超電導限流素子10。とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導限流素子の保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導限流素子は、一般には超電導膜及び保護膜により形成され、短絡時には超電導状態から常電導状態へと転移する。超電導限流素子により、短絡時に流れる大電流を瞬時に抑制することができる。
【0003】
特許文献1によれば、超電導膜の表面に形成される保護膜を所定の金属により生成し、限流時において超電導膜の破損を防止し得る超電導限流素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−083932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の超電導限流素子では、超電導状態から常電導状態へと転移した際に素子領域の一部に局所的な発熱が生じ、超電導限流素子が破損する場合がある。
【0006】
局所的な発熱が生じる原因は、超電導膜を流れる電流分布を完全に均一にして生成することができない実情による。
【0007】
なお、開示されている超電導限流素子によれば、大電流が流れた際に電流集中を緩和する一応の機能は備えるものの、一定の効果しか得られないため破損を効果的に防止することはできない。
【0008】
本発明の課題は、常電導抵抗膜の第1抵抗部と第2抵抗部とが通電方向に対して垂直方向に縞状に形成された超電導限流素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、
絶縁性又は金属製の基板と、
前記基板の少なくとも一側面に形成された超電導膜と、
前記超電導膜の一側面に、第1抵抗部と第2抵抗部とが通電方向に交互に配置され縞状に形成された常電導抵抗膜と、
を含む超電導限流素子が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、
絶縁性又は金属製の基板と、
前記基板の少なくとも一側面に形成された超電導膜と、
前記超電導膜の一側面に、複数の抵抗体が通電方向に間隔を置いて配置され縞状に形成された常電導抵抗膜と、
を含む超電導限流素子が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の超電導限流素子によれば、素子を流れる電流の電流集中を分散させ、局所的な発熱を防止することができる。これにより、超電導限流素子の破損を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の超電導限流素子の概略断面図である。
【図2】第1の超電導限流素子の外観図である。
【図3】第1の超電導限流素子における電流の流れを示す図である。
【図4】従来の超電導限流素子の外観図である。
【図5】第2の超電導限流素子の外観図である。
【図6】第3の超電導限流素子の外観図である。
【図7】第4の超電導限流素子の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態における超電導限流素子の最適な構成について、図面を用いて詳細に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0014】
図1に、第1の超電導限流素子10の概略断面図を示す。
第1の超電導限流素子10は、第1抵抗部1、第2抵抗部2、超電導膜3、基板4により構成される。なお、ここでは、第1抵抗部1及び第2抵抗部2を常電導抵抗膜5とする。常電導抵抗膜5は、縞状構造を有する。
【0015】
第1抵抗部1には、例えばAu、Ag等の低抵抗金属を用いる。
第1抵抗部1を第2抵抗部2上に形成し、かつ、通電方向Eに対して垂直方向に形成する
【0016】
本実施形態において、第1抵抗部1にはAuを用い、厚さ100nm、通電方向Eの長さ1mm、間隔5mmとする。また、通電方向Eに対して垂直方向の長さ(幅)は第2抵抗部2の幅より大きいか又は同一とした。
【0017】
第2抵抗部2には、例えば金銀合金等の高抵抗金属を用いる。
第2抵抗部2は超電導膜3上に形成する。
【0018】
本実施形態において、第2抵抗部2には金銀合金を用い、厚さ150nmとした。また、幅は超電導膜3の幅より大きいか又は同一とした。
【0019】
超電導膜3には、YBCO、GdBCO等の薄膜を用いる。
YBCO薄膜は、蒸着法、スパッタ法、レーザー蒸着法、CVD法、MOD法、LPE法などの各種薄膜及び厚膜形成法により形成する。
【0020】
MOD法によれば、例えばサファイア基板上に中間層としてCeOを蒸着させた後、蒸着面にイットリウム、バリウム、銅の有機金属塩からなる塗布溶液を塗布する。その後、仮焼き及び熱分解することにより成膜して、最終熱処理を施すことにより薄膜を生成する。
【0021】
本実施形態において、超電導膜3にはYBCOを用い、厚さ150nmとした。また、幅は基板4の幅より小さいか又は同一とした。
【0022】
基板4には、サファイアやMgO、LaAlO等の絶縁素材を用いる。
本実施形態において、基板4にはサファイアを用い、厚さ1mm、幅30mmとした。
【0023】
図2〜図4を参照して、クエンチ時の電流の流れについて説明する。
クエンチとは、超電導膜3が超電導状態から常電導状態へと転移することをいう。超電導膜3の電流分布は製造工程上、不均一にならざるを得ず、そのため素子領域の一部に他領域よりも比較的抵抗値が低い領域(低抵抗領域)が存在する。
【0024】
クエンチ発生時には、この低抵抗領域に電流が集中して流れるため局所的な発熱が生じ、結果、超電導膜3が破損するおそれがある。よって一般には、破損防止のため超電導膜3上に第2抵抗部2を形成して電流集中を緩和するようにしている。本実施形態では、第2抵抗部2上に更に第1抵抗部1を形成することで、電流集中の更なる緩和を図っている。
【0025】
図2に、第1の超電導限流素子10の外観図及び電流の流れを示す。
第1の超電導限流素子10によれば、超電導膜3に流れる電流はまず第2抵抗部2に転流し、次いで第2抵抗部2に流れる電流は第1抵抗部1により素子幅全体に分散する。
第1の超電導限流素子10によれば、局所的な電流集中による発熱が抑制されるため、破損を効果的に防止することができる。
【0026】
図3に、第1の超電導限流素子10の概略断面図及び電流の流れを示す。
クエンチ時において、超電導膜3は常電導状態となるため抵抗値が高くなる。よって、電流は第2抵抗部2に流れる。また、電流は、第2抵抗部2よりも低抵抗である第1抵抗部1にも流れる。
電流は第1抵抗部1及び第2抵抗部2に分散して流れるため、局所的な電流集中による発熱が抑制される。
【0027】
図4に、対比モデルとして従来の超電導限流素子100の外観図を示す。
従来の超電導限流素子100によれば、超電導膜3に流れる電流は第2抵抗部2に転流するが、その後電流は素子の幅全体に分散せず低抵抗領域LRに集中する。よって、従来の超電導限流素子100によれば、局所的な発熱が発生して素子が破損する場合がある。
以下、他の超電導限流素子の構成について説明する。
【0028】
図5に、第2の超電導限流素子11の外観図を示す。
第2の超電導限流素子11は、第3常電導抵抗膜6、超電導膜3、基板4により構成される。超電導膜3及び基板4については、第1の超電導限流素子10と同様の構成であるため、ここでの説明は省略する。
【0029】
第3常電導抵抗膜6は、例えば金銀合金等の金属を用い、超電導膜3上に形成する。第3常電導抵抗膜6の上端の形状を縞状構造とする。
【0030】
本実施形態において、第3常電導抵抗膜6には金銀合金を用い、厚さ300nmとした。
第2の超電導限流素子11の他の条件は、上述した第1の超電導限流素子10の条件と同様であるためここでの説明は省略する。
【0031】
図6に、第3の超電導限流素子12の外観図を示す。
第3の超電導限流素子12は、第1抵抗部1、超電導膜3、基板4により構成される。第2抵抗部2を備えずに構成される点以外は、第1の超電導限流素子10と同様の構成である。
【0032】
本実施形態において、第3の超電導限流素子12の条件は、上述した第1の超電導限流素子10の条件と同様であるためここでの説明は省略する。
【0033】
図7に、第4の超電導限流素子13の外観図を示す。
第4の超電導限流素子13は、第1抵抗部1、第2抵抗部2、超電導膜3、基板4により構成される。超電導膜3及び基板4については、第1の超電導限流素子10と同様の構成であるため、ここでの説明は省略する。
【0034】
第1抵抗部1及び第2抵抗部2は、超電導膜3上において交互に配置される。
本実施形態において、第1抵抗部1にはAuを用い、厚さ150nm、通電方向Eの長さ1mmとした。
また、第2抵抗部2には金銀合金を用い、厚さ150nm、通電方向Eの長さ10mmとした。
その他の条件は第1の超電導限流素子10と同様であるためここでの説明は省略する。
【0035】
上記説明してきた第1の超電導限流素子10、第2の超電導限流素子11、第3の超電導限流素子12、第4の超電導限流素子13に対し、それぞれ300Aの大電流を流して限流動作をさせた。
結果、何れの素子(10〜13)においても超電導膜3が破損することはなかった。
【0036】
以上のように、本実施形態によれば、素子に流れる電流分布の集中を縞状構造によって分散させることができる。低抵抗領域LRにおいて局所的に発生する発熱を防止し、超電導限流素子(10〜13)の破損を効果的に防止することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 第1抵抗部
2 第2抵抗部
3 超電導膜
4 基板
5 常電導抵抗膜
6 第3常電導抵抗膜
10 第1の超電導限流素子
11 第2の超電導限流素子
12 第3の超電導限流素子
13 第4の超電導限流素子
100 従来の超電導限流素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性又は金属製の基板と、
前記基板の少なくとも一側面に形成された超電導膜と、
前記超電導膜の一側面に、第1抵抗部と第2抵抗部とが通電方向に交互に配置され縞状に形成された常電導抵抗膜と、
を含む超電導限流素子。
【請求項2】
前記常電導抵抗膜は、前記超電導膜の一面に形成された前記第2抵抗部と、前記第2抵抗部上に当該第2抵抗部とは異なる導電材料からなり通電方向に間隔を置いて配置された前記第1抵抗部と、から構成される請求項1に記載の超電導限流素子。
【請求項3】
前記常電導抵抗膜は、前記第1抵抗部と前記第2抵抗部とが同一の導電材料で形成され、互いに異なる膜厚により形成されている請求項1に記載の超電導限流素子。
【請求項4】
前記常電導抵抗膜は、前記第1抵抗部と前記第2抵抗部とが異なる導電材料で形成され、互いに同一の膜厚により形成されている請求項1に記載の超電導限流素子。
【請求項5】
絶縁性又は金属製の基板と、
前記基板の少なくとも一側面に形成された超電導膜と、
前記超電導膜の一側面に、複数の抵抗体が通電方向に間隔を置いて配置され縞状に形成された常電導抵抗膜と、
を含む超電導限流素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−278349(P2010−278349A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131052(P2009−131052)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】