説明

超音波センサ、及びこれを用いたトイレ装置

【課題】 超音波センサと検知対象物体が完全に密着する程に密接している場合でも、確実に検知対象物体の検知ができる超音波センサと、これを用いたトイレ装置を提供する。
【解決手段】 本発明では、監視空間に向けて所定周期で超音波を送波する送信器と、前記監視空間の検知する物体からの反射波を受波する受信器と、前記受信器からの反射波形の出力値を取り込み前記物体の有無を判断する制御部と、を備えた超音波センサにおいて、前記制御部は前記物体の前記超音波センサへの密接を検知する密接検知手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を監視空間に送波し、監視空間に存在する物体からの反射波を検出することにより、監視空間内の物体、主として人体の存否を検知する超音波センサと、これを用いたトイレ装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
超音波センサは、送信器より超音波信号を出力し、検知対象物体からの反射波を受信器で受信することで検知対象物体の存否を検知、或いは検知対象物体までの距離を測定するものである。ここで一般的に超音波とは、人間が聞き取ることのできない周波数域の音波を指す。人間が聞き取れる音の周波数は通常20kHz程度までであり、20kHz以上の周波数域を超音波と呼んでいる。
以下、超音波センサを用いての一般的な検知方法を図2に基づき説明する。202が超音波センサで、203が超音波センサの監視空間、204が検知対象物体とする。ここでは検知対象物体を人とする。
W20、W21、W22、W23、W24は送波器からの送波信号と受信器が出力する受波信号を表している。縦軸は信号レベルであり、横軸は時間となる。
人204が監視空間203に存在しない場合、W20に示すようなタイミングで送波器から送波信号を出すと、受信器はW21のような受波信号を出力する。送波直後は、送波信号が直接受信器に受信されたり、検知対象物体からの反射以外による信号を受信することによって、(ア)のような受波信号が現れる。これは残響によるものであり、超音波センサの特性の一つである。以下、これを残響波形(ア)と呼ぶ。
次に、人204が監視空間203に存在する場合、同様にして送波信号を出すと、W22のような受波信号となる。ここでは、W21と同様に残響波形(ア)が現れた後、送波された超音波が人204に反射して(イ)のような受波信号が現れる。以下、これを人体反射波形(イ)と呼ぶ。超音波センサ202は、受波信号に人体反射波形(イ)が現れることによって監視空間203に人204が存在すると判断することができる。
ここで、超音波センサ202と人204との距離が十分に取れている場合は、W22のように受波信号での残響波形(ア)と人体反射波形(イ)が離れたポイントで現れるので、超音波センサ202は確実に人体反射波形(イ)を認識することができる。
ところで、一般的に受波信号での人体反射波形(イ)の出現ポイントは、超音波センサ202と人204との距離に相関性があり、互いの距離が離れていくほど出現ポイントは残響波形(ア)から遠ざかっていき、逆に互いの距離が近づいていくほど出現ポイントは残響波形(ア)に近づいていくこととなる。
従って、超音波センサ202と人204との距離が近接している場合は、W23に示すように人体反射波形(イ)が残響波形(ア)の出現ポイントと重なり合ってしまい、超音波センサ202が人体反射波形(イ)を認識することが困難となり、結果として人体検知の判断ができないということがあった。
【0003】
この問題を解決するために、以下のような技術が存在する。
受波信号を所定時間間隔でサンプリングし、複数のしきい値を用いて各サンプリング位置毎での信号のレベル値を求める。そして、求めた波形パターンから、残響波形による立下り状態のレベル値から検知対象物体の反射波形による立上り始め状態のレベル値へと変わるポイントを検出することで近距離にある検知対象物体を検知するものである(例えば、特許文献1参照)。
また別の技術として、以下のような技術も存在する。
超音波信号の出力開始から残響波形が無くなるまでの時間を予め基準時間として設定しておく。そして、実際に超音波信号の出力を開始すると残響波形が現れることとなるが、その残響波形の出現時間が予め設定しておいた基準時間を超過した場合、残響波形と検知対象物体の反射波形が重なり合っていると判断して、近距離にある検知対象物体を検知するものである(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながらこれらの技術では、超音波センサと検知対象物体が完全に密着する程に密接している場合では、図2のW24に示すように、検知対象物体の反射波形が残響波形に完全に埋もれてしまうことがあり、超音波センサは検知対象物体の検知をすることができなかった。
【特許文献1】特開2002−6036号公報(第3−5頁、第4図)
【特許文献2】特開2001−133549号公報(第3−4頁、第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、超音波センサと検知対象物体が完全に密着する程に密接している場合でも、確実に検知対象物体の検知ができる超音波センサと、これを用いたトイレ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、監視空間に向けて所定周期で超音波を送波する送信器と、前記監視空間の検知する物体からの反射波を受波する受信器と、前記受信器からの反射波形の出力値を取り込み前記物体の有無を判断する制御部と、を備えた超音波センサにおいて、前記制御部は前記物体の前記超音波センサへの密接を検知する密接検知手段を有することにより、従来、密接状態が検出できなかったのが検知できるようになる。
【0007】
また、請求項2記載の発明によれば、請求項1に記載の超音波センサにおいて、前記密接検知手段は前記送信器の送波のタイミングと同時に受信器の受信する検知する物体からの反射以外による残響波形と、所定時間後に常時受信する監視空間から反射される環境反射波形との情報に基づいて、物体の密接を判断する。
これによって、残響波形と環境反射波形とで、物体の密接を判断できる。
【0008】
また、請求項3記載の発明によれば、請求項2に記載の超音波センサにおいて、前記密接検知手段は前記残響波形と前記環境反射波形とを検出時、前記環境反射波形が有りから無しに変化した場合、物体の密接有りと判定する。
これにより、超音波センサと検知対象物体が密接している場合は、検知対象物体による反射波形は残響波形に埋もれてしまうが、同時に環境反射波形が無くなる。つまり、環境反射波形の存否を判断することにより、超音波センサに密接した検知対象物体の存否の検出を可能とした。
【0009】
また、請求項4記載の発明によれば、請求項2に記載の超音波センサにおいて、前記環境反射波形が所定時間継続して無しを検出時、前記密接検知手段は前記環境反射波形が有りから無しに変化した場合でも物体の密接無しと判定する。
これにより、監視空間で、物体検知エリア内全部に開閉物(ドア等)があっても、その開閉の影響なく物体の密接を判断できる。
【0010】
また、請求項5記載の発明によれば、請求項1乃至4のいずれか1つに記載の超音波センサにおいて、前記超音波センサを便器の前面部に設置して且つ前記便器の前方に向けて物体検知させることを特徴とするトイレ装置とする。
これにより、トイレ空間での、便器の前面部に設置して且つ前記便器の前方に向けて物体検知させることにより、人体の便器の足元での超音波センサの密接による物体の存否の検出を可能とした。
【0011】
また、請求項6記載の発明によれば、請求項5に記載のトイレ装置において、前記超音波センサの出力に基づいて、便器の自動洗浄、便蓋の自動開閉、脱臭装置の作動、室内暖房装置の作動のうち、少なくとも一つが実行されることを特徴とするトイレ装置とする。
これにより、人体の接近又は密接の状態を正確に判断できるので、便器の色々な機能を自動で機能させることができる。
【発明の効果】
【0012】
従来技術では超音波センサと検知対象物体が完全に密着する程に密接している場合では、検知対象物体の反射波形が残響波形に完全に埋もれてしまうことがあり、超音波センサは検知対象物体の検知ができなかったが、本発明によれば、超音波センサと検知対象物体が密接している場合でも、超音波センサは確実に検知対象物体の検知ができる。
【0013】
また、残響による影響を考慮する必要がないので、残響を抑えるように設計された高機能、且つ高価な超音波センサを必要とせず、超音波センサユニットとしての回路の簡略化、ソフトプログラムの効率化、コストダウンが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明による好適な実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の実施例に係る超音波センサの構成を示している。まず図1において、タイミング回路5は、超音波センサの各構成要素に制御タイミング信号を出力する回路である。タイミング回路5の出力によって発振器4が起動し、発振器4から出力されたパルス信号を駆動回路3で電圧増幅して超音波の送波器1に入力する。発振器4と駆動回路3と送波器1をまとめて送信器11とする。
送波器11から超音波のパルス列が送波されると、超音波は監視空間に存在する検知対象物体に反射して受波器2に受波される。この受波された信号は増幅回路6により増幅される。増幅された信号は検波回路7により時系列に信号変換されて受波信号(検波回路出力)を生成する。受波器2と増幅回路6と検波回路7をまとめて受信器10とする。制御部8は、受信器10で生成された受波信号を取り込むが、監視空間に存在する検知対象物体の位置によって受波信号には様々な変化が生じる。その変化を制御部8が判断し、検知対象物体の存否を示す検知信号を出力する。そして制御部8には、超音波センサと検知対象物体が密接している場合でも、確実に検知判断ができるための密接検知手段9が備わっている。
【0016】
ここで、図10は図1の超音波センサを用いたトイレブースの斜視図を示す。便器201の内部には電磁バルブ及び制御装置が内蔵され、超音波センサ202の出力に応じて便器201の大洗浄を行う。すなわち、超音波センサ202によって一定時間(例えば10秒以上)の使用者検出が継続すれば便器201が使用中であると判断し、使用者の検出状態から非検出状態になると、便器201の自動洗浄を行う。使用者の検出時間の長短(例えば、1分以上か1分未満か)によって、大洗浄、小洗浄を切り替え、節水性の向上を図ることもできる。また、便器201が、便蓋の電動開閉、脱臭機能、室内暖房機能などを備えたものであれば、超音波センサ202によって、便蓋の自動開閉、脱臭の自動始動と自動停止、室内暖房の自動始動と自動停止を行うような構成も可能である。
ここからは、超音波センサ202が便器201に取り付けられていて、超音波の送波方向はトイレ使用者が近づいてくる方向で、且つトイレ使用者の足元を狙っていて、検知対象物体をトイレ使用者である人体とする。更に、超音波センサ202の指向角度については、使用者の足位置範囲をカバーできるだけの角度が必要となり、概ね60度程度となる。
但し、これは一つの例であり、超音波センサの取り付け位置を制限させるものではない。また、トイレブースには様々な間取りがあるので、それぞれに分けて以下の説明を行う。
【0017】
第一に、図3に示すようなトイレブースの場合について説明を行う。図3の間取りでは、便器201から見て正面の位置にドア205があり、ドア205、並びに便器201から見て正面に位置するトイレブースの壁200の一部が監視空間203に含まれている。
まず、W30のように送信器11から送波信号を出力する。送波信号はパルス状の信号であり、ここでは周波数を40kHz、パルス数を20パルス程度とする。つまりW30の送波信号の時間軸に置き換えると、0.5ms程度の送波信号を出力することとなる。送信器11はこの送波信号をタイミング回路5からのタイミング信号によって送波するが、送波する間隔は、前回出力した送波信号からの反射による受波信号と、今回出力した送波信号からの反射による受波信号とが干渉しあわない程度に設定しておく。本実施例のように、トイレブースのような狭い空間で超音波センサを使用しようとした場合、使用されうる超音波センサは検知可能距離がせいぜい2m程度までのものが適当であると考えられ、後述する音速と距離と時間の(式1)により距離を応答時間にすると12ms程度であるので、概ね、0.5s程度以上もあれば干渉することは無い。
W31,W32,W33,W34は受信器10が制御部8に対して出力する受波信号である。
【0018】
ここで、残響波形(ア)の出現ポイントについて説明する。一般的な超音波センサにおいて、送波信号の出力時間が0.5ms程度であれば、残響波形(ア)の出現ポイントは距離にすると、0cmから9cm程度となる。これは、送波中は、受信器は直接信号を受信してしまい、送波信号が0.5msであるので、後述する音速と距離と時間の(式1)によりこの残響波形(ア)の出現ポイントが求められる。つまり、理論上は、9cm以内に近接している検知対象物体は残響波形(ア)の影響で検知することはできない。
ここで言っている密接とは、この検知不能の距離のことを示す。
W31に、使用者がトイレブース内に存在せず、且つドア205が閉まっている時の受波信号を示す。ここで、(ア)は残響波形であり、(ウ)は壁200、及びドア205に反射して返ってきた環境反射波形となる。
ここで、環境反射波形(ウ)の出現ポイントについて説明する。送信器11から送波信号を出力してから環境反射波形(ウ)が出現するまでの時間、即ち受波信号における出現ポイントをT、超音波センサ202から壁200、及びドア205までの距離をD、音速をCとすると、これらの関係は(式1)で表すことができる。
D=C×T/2 (式1)
仮に、Cを340m/s、Tを3msとすると、Dは51cmとなり、これより超音波センサ202から51cm離れた位置に壁200、及びドア205が存在しているということが分かる。
次に、W32に使用者がトイレブース内に存在せず、且つドア205が開いている時の受波信号を示す。ここで環境反射波形(ウ)はW31とは異なって、ドア205による反射が無くなり、壁200のみからの反射となる。よって、W31の時と比べて必然的に信号レベルが下がることとなる。
【0019】
続いて、使用者がトイレブース内に入ってきた時を考える。当然のことながらドア205は閉まっていると想定して説明を行うが、仮に開いていたとしても、これから説明する検知判断には何ら影響は無い。通常は使用者がトイレブース内に入ってくると、W33のように、残響波形(ア)と環境反射波形(ウ)とは異なった時間軸のポイントに人体反射波形(イ)が現れる。また、使用者によって超音波の送波が遮られる分、環境反射波形(ウ)の信号レベルは下がることになる。制御部8は、時間と信号レベルにおける人体反射波形(イ)の積分値、つまり面積があるしきい値以上になれば、人体検知と判断して検知信号を出力する。ここで、しきい値の設定に関しては、ノイズ除去、並びに検知すべきでない小物体の反射信号を除去でき得る値にすることで超音波センサの誤検知を防ぐことができる。
ここで、使用者と超音波センサ202が密接、つまり使用者の足や衣服が超音波センサ202に密着してしまう位に使用者が便器201の目の前に立ったり、又は便座に着座した場合を考える。この場合、超音波センサの送波が使用者によって完全に遮られ、W34に示すように、人体反射波形(イ)が残響波形(ア)に完全に埋もれてしまうことがある。そうなると人体反射波形(イ)の判別ができなくなってしまい、この状態では人体反射波形(イ)から人体検知判断を行うことは非常に困難となる。
しかしながらこの場合はW34に示すように、超音波の送波が完全に遮られていることで、壁200とドア205がある位置まで超音波が届かないことになり、結果として環境反射波形(ウ)が現れなくなる。
言い換えれば、普段は壁200とドア205の反射によって現れているはずの環境反射波形(ウ)が現れなくなってしまったということは、超音波の送波を完全に遮る位置に反射物体、即ち使用者が存在しているということになる。そして密接検知手段9が、環境反射波形(ウ)が有りから無しに変化したことから近接者有りと判断し、制御部8は人体検知だと最終判断して検知信号を出力することができる。
【0020】
第二に、図4に示すようなトイレブースの場合について説明を行う。図4の間取りでは、便器201から見て前方横の位置にドア205があり、便器201から見て正面に位置するトイレブースの壁200の一部が監視空間203に含まれている。
W40は送波信号で、W41,W42,W43,W44は受波信号である。送波信号のパルス設定は図3と同様である。
W41に、使用者がトイレブース内に存在せず、且つドア205が閉まっている時の受波信号を示す。ここで、(ア)は残響波形であり、(ウ)は壁200のみから反射して返ってきた環境反射波形となる。
W42は、使用者がトイレブース内に存在せず、且つドア205が開いている時の受波信号である。ここで環境反射波形(ウ)は壁200のみからの反射によるものなので、ドア205を開けていても環境反射波形(ウ)はW41と何も変わらない。
続いて、使用者がトイレブース内に入ってきた時を考えるが、図3の場合と同様に、ドア205は開いていても閉まっていても影響は無いが、ここでは閉まっているとする。使用者がトイレブース内に入ってくると、W43のように残響波形(ア)と環境反射波形(ウ)とは異なった時間軸のポイントに人体反射波形(イ)が現れる。また、使用者によって超音波の送波が遮られる分、環境反射波形(ウ)の信号レベルは下がることになる。制御部8による人体検知の判断方法は、図3の場合と同様にして行う。
ここで、図3の場合と同様に、使用者と超音波センサ202が密接した場合を考える。この場合も、人体反射波形(イ)が残響波形(ア)に完全に埋もれてしまうことがあり、人体反射波形(イ)の区別がつかなくなってしまうが、W44に示すように、環境反射波形(ウ)が現れなくなるので、図3の場合と同様にして、密接検知手段9が、環境反射波形(ウ)が有りから無しに変化したことから近接者有りと判断し、制御部8は人体検知だと最終判断して検知信号を出力することができる。
【0021】
第三に、図5に示すようなトイレブースの場合について説明を行う。図5の間取りでは、便器201から見て前方横の位置にドア205があり、ドア205の一部と、便器201から見て正面に位置するトイレブースの壁200の一部と、便器201から見て横に位置するトイレブースの壁200の一部が監視空間203に含まれている。
ここで、図3ではドア205が便器201から見て正面に位置していて、図5では便器201から見て前方横の位置にあるが、後述するように、図3の時と同様な処理を行うことができる。
W50は送波信号で、W51,W52,W53,W54は受波信号である。送波信号のパルス設定は図3と同様である。
W51に、使用者がトイレブース内に存在せず、且つドア205が閉まっている時の受波信号を示す。ここで、(ア)は残響波形であり、(ウ)は壁200、及びドア205に反射して返ってきた環境反射波形となる。
W52は、使用者がトイレブース内に存在せず、且つドア205が開いている時の受波信号である。ここで環境反射波形(ウ)はW51とは異なって、ドア205による反射が無くなるので、W51の時と比べて必然的に信号レベルが下がることとなる。
続いて、使用者がトイレブース内に入ってきた時を考えるが、図3の場合と同様に、ドア205は開いていても閉まっていても影響は無いが、ここでは閉まっているとする。使用者がトイレブース内に入ってくると、W53のように残響波形(ア)と環境反射波形(ウ)とは異なった時間軸のポイントに人体反射波形(イ)が現れる。また、使用者によって超音波の送波が遮られる分、環境反射波形(ウ)の信号レベルは下がることになる。制御部8による人体検知の判断方法は、図3の場合と同様にして行う。
ここで、図3の場合と同様に、使用者と超音波センサ202が密接した場合を考える。この場合も、人体反射波形(イ)が残響波形(ア)に完全に埋もれてしまうことがあり、人体反射波形(イ)の区別がつかなくなってしまうが、W54に示すように、環境反射波形(ウ)が現れなくなるので、図3の場合と同様にして、密接検知手段9が、環境反射波形(ウ)が有りから無しに変化したことから近接者有りと判断し、制御部8は人体検知だと最終判断して検知信号を出力することができる。
【0022】
以上図3、図4、図5のような間取りについて説明を行ったが、これらの間取り以外においても、少なくともトイレブースの壁200が監視空間203に含まれてさえいれば、同様にして人体検知の判断ができる。ここでは、ドア205が監視空間203に含まれているかどうかは検知判断に影響を与えない。
これら一連の処理を図7のフローチャートに示す。尚、説明用としての受波信号は図3のものを使用する。
【0023】
図7において、ステップ70(以下、S70)から処理をスタートする。S71では、受波信号W31、又はW32を記憶する。これは使用者が存在しない時の受波信号であればよいので、W31でもW32でもどちらでも問題無い。記憶するタイミングとしては、装置の電源を投入してからの所定時間(例えば10秒程度)の間に記憶したり、装置にタイマー機能が備わっていれば、使用者の少ない深夜の時間帯を狙って記憶する方法等が考えられる。また、このタイミングで、これまで記憶していたW31、又はW32を更新するようにしてもよい。記憶が完了したら、外部に記憶完了したことを報知する。報知する手段としては、表示LEDを表示させたり、ブザーで音を出したりする手段等が考えられる。
続いてS72へと進み、今回の受波信号を取込む。そして、環境反射波形(ウ)が存在するかどうかをチェックする。
環境反射波形(ウ)が存在する場合はS73へと進む。S73では、今回の受波信号に残響波形(ア)が存在するかどうかをチェックする。超音波の特性上、必ず残響波形(ア)は存在しているはずであり、万が一残響波形(ア)が存在しない場合はS75へと進み、電源リセットやエラー報知等のエラー処理を行う。残響波形(ア)が存在する場合はS74へと進み、密接検知手段9は「近接者無し」と判断して、S72へと戻って処理を繰り返す。
一方、S72で環境反射波形(ウ)が存在しない場合はS76へと進む。S76では、S73と同様に、残響波形(ア)の存否のチェックを行う。残響波形(ア)が存在しない場合はS78へと進み、S75と同様なエラー処理を行う。残響波形(ア)が存在する場合はS77へと進み、密接検知手段9は「近接者有り」と判断して、S72へと戻って処理を繰り返す。
以上が図7のフローチャートの説明であるが、後述の説明で使用するために、S72からS78までの処理をS7処理とする。
【0024】
ところで、トイレブースの間取りによっては図6のような場合も考えられる。図6の間取りでは、便器201から見て正面の位置にドア205があり、ドア205のみが監視空間203に含まれていて、トイレブースの壁200は監視空間203に含まれていない。
W60は送波信号で、W61,W62,W63,W64は受波信号である。送波信号のパルス設定は図3と同様である。
W61に、使用者がトイレブース内に存在せず、且つドア205が閉まっている時の受波信号を示す。ここで、(ア)は残響波形であり、(ウ)はドア205のみに反射して返ってきた環境反射波形となる。
W62は、使用者がトイレブース内に存在せず、且つドア205が開いている時の受波信号である。ここで環境反射波形(ウ)はドア205のみからの反射であったため、ドア205を開けると環境反射波形(ウ)が全く現れなくなってしまう。
続いて、使用者がトイレブース内に入ってきた時を考えるが、図3の場合と同様に、ドア205は開いていても閉まっていても影響は無いが、ここでは閉まっているとする。使用者がトイレブース内に入ってくると、W63のように残響波形(ア)と環境反射波形(ウ)とは異なった時間軸のポイントに人体反射波形(イ)が現れる。また、使用者によって超音波の送波が遮られる分、環境反射波形(ウ)の信号レベルは下がることになる。制御部8による人体検知の判断方法は、図3の場合と同様にして行う。
ここで、図3の場合と同様に、使用者と超音波センサ202が密接した場合を考える。この場合も、人体反射波形(イ)が残響波形(ア)に完全に埋もれてしまうことがあり、人体反射波形(イ)の区別がつかなくなってしまい、更に、環境反射波形(ウ)が現れなくなる。結果として、受波信号はW64のようになる。
【0025】
ところが、これまで図3、図4、図5で説明した場合では、ここで密接検知手段9が、環境反射波形(ウ)が有りから無しに変化したことから近接者有りと判断し、制御部8は人体検知だと最終判断して検知信号を出力していたが、図6の場合では、W64の受波信号はW62の受波信号と同一波形となっている。そのため、ここで人体検知と判断してしまうと、使用者がいないときのW62も人体検知と判断してしまい、誤った判断をすることになる。
このような誤った判断をしないためには、ドア205のみからの反射による環境反射波形(ウ)が有りから無しに変化したからといって、密接検知手段9が近接者有りと判断してしまわないようにする必要がある。
つまり、密接検知手段9は予め、環境反射波形(ウ)がドア205のみからの反射によるものなのか、それとも少なくとも壁200の反射によるものを含んでいるのかを記憶しておく必要がある。
記憶させる方法としては、例えば次のような方法が考えられる。
装置の電源投入直前に、ドア205を閉めておいて、その後で電源を投入してW61を記憶させる。その後、今度は所定時間(例えば10秒間)ドア205を開けてW62を記憶させる。そして、W61とW62を比較して、ドア205を開け閉めすることによって有りから無しに変わった環境反射波形(ウ)が存在すれば、それをドア205のみによる環境反射波形(ウ)だと記憶する。
【0026】
この一連の処置を図8のフローチャートに示す。
図8において、S80から処理をスタートする。S81でトイレブースのドア205を閉めておき、S82で装置の電源を投入する。S83では、受波信号W61を記憶する。これは使用者が存在しない、且つドア205が閉まっている状態の受波信号となる。記憶が完了したら、図7で説明した時と同様にして外部に記憶完了したことを報知する。
続いてS84へと進み、今度はドア205を開けておく。S85では、今回の受波信号を取込み、環境反射波形(ウ)が存在するかどうかをチェックする。このステップでは、ドア205を開けることによって環境反射波形(ウ)が無くなるかどうかをチェックしている。
環境反射波形(ウ)が存在する場合はS86へと進む。ここで、ドア205を開けた状態でも環境反射波形(ウ)が存在しているということは、環境反射波形(ウ)はドア205のみの反射によるものだけではなく、壁200からの反射も含んでいるということである。S86では、所定時間T1(例えば10秒間)が経過したかどうかをチェックする。経過していなければS85へと戻り、連続で環境反射波形(ウ)が存在する時間がT1経過するまで処理を繰り返す。T1経過すると、S87へと進み、ドア205のみによる環境反射波形(ウ)は「無し」と確定する。そして、S88へと進み、W62を記憶して図7で説明した時と同様にして外部に記憶完了したことを報知して、S182で処理を終了する。
一方、S85で環境反射波形(ウ)が存在しない場合はS89へと進む。ここで、ドア205を開けた状態にすると環境反射波形(ウ)が存在しなくなるということは、環境反射波形(ウ)はドア205のみの反射によるものだということになる。S89では、所定時間T2(例えば10秒間)が経過したかどうかをチェックする。経過していなければS85へと戻り、連続で環境反射波形(ウ)が存在しない時間がT2経過するまで処理を繰り返す。T2経過すると、S180へと進み、ドア205のみによる環境反射波形(ウ)は「有り」と確定する。そして、S181へと進み、W62を記憶してS88と同様にして外部に記憶完了したことを報知してS182で処理を終了する。
このように、ドア205のみの反射による環境反射波形(ウ)が存在するかどうかを予め記憶しておけば、図6のようなトイレブースの間取りでもドア205の開閉による誤検知を防ぐことができる。
以上が図8のフローチャートの説明であるが、後述の説明で使用するために、図8のフローチャートの処理全体をS8処理とする。
【0027】
しかしながら、これではドア205の開閉による誤検知を防ぐことはできても、密接による人体検知はできなくなってしまう。
ところで、W63では、残響波形(ア)と環境反射波形(ウ)の出現ポイントとは異なるポイントに人体反射波形(イ)が現れている。そして、この人体反射波形(イ)の出現ポイントが残響波形(ア)の方に近ければ使用者は便器201の近くにいることになり、逆に残響波形(ア)から遠ければ使用者は便器201から遠い位置にいることになる。通常であれば、使用者はドア205から入ってきて、便器201の近くまで行き、それから用を足すことが普通である。つまりこの場合は、人体反射波形(イ)は、最初は残響波形(ア)から遠い位置にあって、徐々に残響波形(ア)に近づいていくことになる。そして、使用者が超音波センサ202に密接した場合は、人体反射波形(イ)が現れなくなり、更には環境反射波形(ウ)も現れなくなりW64のようになる。
つまり、人体反射波形(イ)が残響波形(ア)に近づいてきた後、人体反射波形(イ)と環境反射波形(ウ)が有りから無しに変わったということは、使用者が超音波センサ202に密接しているということになる。
このことより、密接検知手段9は、W64のような受波信号の時でも、それがドア205を開けているだけの状態なのか、それとも使用者が超音波センサ202に密接している状態なのかを判断することができる。
【0028】
これら一連の処理を図9のフローチャートに示す。
図9において、S90から処理をスタートする。S91で、図8で説明したS8処理を行う。S8処理を行うと、環境反射波形(ウ)がドア205のみの反射によるものなのか、それともドア205だけでなく壁200の反射も含んだものなのかが確定される。そして、S92へと進み、ドア205のみによる環境反射波形(ウ)が「有り」なのか「無し」なのかをチェックする。
「無し」の場合は、S101へと進み、図7で説明したS7処理を行う。
「有り」の場合は、S93へと進み、今回の受波信号を取込む。そして、環境反射波形(ウ)が存在するかどうかをチェックする。
環境反射波形(ウ)が存在する場合はS94へと進み、図7のS73で説明した時と同様にして残響波形(ア)が存在するかどうかをチェックする。残響波形(ア)が存在しない場合はS96へと進み、図7のS75と同様にしてエラー処理を行う。残響波形(ア)が存在する場合はS95へと進み、密接検知手段9は「近接者無し」と判断してS93へと戻って処理を繰り返す。
一方、S93で環境反射波形(ウ)が存在しない場合はS97へと進む。S97では、今回よりも前に取込んだ受波信号に人体反射波形(イ)が有り、且つそれが残響波形(ア)の方に近づいてきていたかどうかをチェックする。つまり、環境反射波形(ウ)が現れなくなる前に、使用者が便器201に近づいてきていたかどうかをチェックする。
残響波形(ア)に近づいてくるような人体反射波形(イ)が存在しなかった場合は、S94へと進み、前述した処理を行う。
一方、残響波形(ア)に近づいてくるような人体反射波形(イ)が存在した場合は、S98へと進む。S98では、S94と同様に残響波形(ア)が存在するかどうかをチェックする。残響反射波形(ア)が存在しない場合はS100へと進み、S96と同様なエラー処理を行う。残響反射波形(ア)が存在する場合はS99へと進み、密接検知手段9は「近接者有り」と判断してS93へと戻って処理を繰り返す。
このようにして、ドア205のみの反射による環境反射波形(ウ)しか現れなくても密接による人体検知は可能である。また、別の方法として、監視空間203に何か固定できる物体を置く方法も考えられる。そうすれば、この物体が壁200の反射に代わる環境反射波形(ウ)を形成するので、図7のフローチャートに従って処理をすることで、密接による人体検知が可能となる。
【0029】
以上図6のような間取りにおいての説明を行ったが、この間取り以外においても、少なくともトイレブースのドア205が監視空間203に含まれてさえいれば、同様にして人体検知の密接の判断ができる。
また、ここでは環境反射波形の例としてトイレブースの壁200を挙げたが、壁200でなくても、トイレブース内に固定されている物であればよい。例えば手すりや洗面台等でもよい。
更に、環境反射波形のもう一つの例としてトイレブースのドア205を挙げたが、ドア205でなくても、トイレブース内に設置されていて固定されつつもある制限範囲内で可動できる物であればよい。例えば、窓やブラインド等でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の構成を示すブロック図である。
【図2】従来の超音波センサの動作を示すタイミングチャートである。
【図3】本発明におけるトイレ装置の前方にドアを設けた設置例における超音波センサ動作のタイミングチャートである。
【図4】本発明におけるトイレ装置の前方側面にドアを設け且つ検知エリアが前壁面のみの設置例における超音波センサ動作のタイミングチャートである。
【図5】本発明におけるトイレ装置の前方側面にドアを設け且つ検知エリアが側壁面に及ぶ設置例における超音波センサ動作のタイミングチャートである。
【図6】本発明におけるトイレ装置の前方にドアを設け且つ検知エリアが前壁面(ドア)のみの設置例における超音波センサ動作のタイミングチャートである。
【図7】本発明における近接者有無の判定プログラムのフローチャートである。
【図8】本発明における環境反射波形の有無の判断プログラムのフローチャートである。
【図9】本発明における環境反射波形を考慮した近接者有無の判定プログラムのフローチャートである。
【図10】本発明における超音波センサを内蔵したトイレ装置の斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1…送波器
2…受波器
3…駆動回路
4…発信器
5…タイミング回路
6…増幅回路
7…検波回路
8…制御部
9…密接検知手段
10…受信器
11…送信器
200…トイレブースの壁
201…便器
202…超音波センサ
203…監視空間
204…検知対象物体
205…トイレブースのドア




【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視空間に向けて所定周期で超音波を送波する送信器と、前記監視空間の検知する物体からの反射波を受波する受信器と、前記受信器からの反射波形の出力値を取り込み前記物体の有無を判断する制御部と、を備えた超音波センサにおいて、前記制御部は前記物体の前記超音波センサへの密接を検知する密接検知手段を有することを特徴とする超音波センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波センサにおいて、前記密接検知手段は前記送信器の送波のタイミングと同時に受信器の受信する検知する物体からの反射以外による残響波形と、所定時間後に常時受信する監視空間から反射される環境反射波形との情報に基づいて、物体の密接を判断することを特徴とする超音波センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波センサにおいて、前記密接検知手段は前記残響波形と前記環境反射波形とを検出時、前記環境反射波形が有りから無しに変化した場合、物体の密接有りと判定することを特徴とする超音波センサ。
【請求項4】
請求項2に記載の超音波センサにおいて、前記環境反射波形が所定時間継続して無しを検出時、前記密接検知手段は前記環境反射波形が有りから無しに変化した場合でも物体の密接無しと判定することを特徴とする超音波センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の超音波センサにおいて、前記超音波センサを便器の前面部に設置して且つ前記便器の前方に向けて物体検知させることを特徴とするトイレ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のトイレ装置において、前記超音波センサの出力に基づいて、便器の自動洗浄、便蓋の自動開閉、脱臭装置の作動、室内暖房装置の作動のうち、少なくとも一つが実行されることを特徴とするトイレ装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−153617(P2006−153617A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343633(P2004−343633)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】