超音波センサ装置
【課題】小型・低コストで、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難く、水滴やごみの付着および湿度変化による検出精度劣化の問題を解決できる超音波センサ装置を提供する。
【解決手段】超音波の送信素子S1と受信素子R1〜R4を備えてなり、送信素子S1から超音波を送信して、被検出体で反射された超音波を受信素子R1〜R4により受信して演算処理する超音波センサ装置100であって、1個以上の送信素子S1と2個以上の受信素子R1〜R4が、同一基板10に集積化されてなる超音波センサ装100とする。
【解決手段】超音波の送信素子S1と受信素子R1〜R4を備えてなり、送信素子S1から超音波を送信して、被検出体で反射された超音波を受信素子R1〜R4により受信して演算処理する超音波センサ装置100であって、1個以上の送信素子S1と2個以上の受信素子R1〜R4が、同一基板10に集積化されてなる超音波センサ装100とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の送信素子と受信素子を備えてなり、送信素子から超音波を送信して、被検出体で反射された超音波を受信素子により受信して演算処理する超音波センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載され、駐車時や旋回時において、車両と障害物の距離を検出するための超音波センサ装置が、例えば、特開2001−16694号公報(特許文献1)に開示されている。障害物検出等に用いられる超音波センサ装置は、超音波の送信素子と受信素子(一つの超音波素子で送信と受信を兼用する場合あり)を備えており、送信素子から超音波を送信して、障害物に当たって反射された超音波を受信素子により受信する。この受信素子により受信された超音波の音圧、時間差、位相差により、障害物のある方向や距離を演算処理して検出したり、障害物の凸凹具合を判断したりすることに用いられる。
【0003】
上記超音波センサ装置に用いられる超音波の受信素子として、近年、基板の薄肉部として形成されたメンブレン上に圧電体薄膜からなる振動子が形成された、超音波センサ素子が注目されている。メンブレン構造を有する上記超音波センサ素子は、半導体のマイクロマシニング技術により形成され、以下、MEMS(Micro Electro Mechanical System)型の超音波センサ素子と呼ぶ。このようなMEMS型の超音波センサ素子とそれを用いた超音波アレイセンサ装置が、例えば、特開2003−284182号公報(特許文献2)に開示されている。
【0004】
図13(a)は、特許文献2に開示された受信用の超音波センサ素子90Rの構造を示す断面図である。
【0005】
図13(a)の超音波センサ素子90Rは、強誘電体であるPZTセラミックス薄膜層2を2つの電極3a,3bで挟設してなり、所定の共振周波数を有して超音波を検出する圧電センサで構成され、超音波センサ素子90Rの測定動作中において、上記2つの電極3a,3b間に所定のバイアス電圧を印加することにより超音波センサ素子90Rの共振周波数を変化させることができる。
【0006】
図13(b)は、特許文献2に開示された超音波を用いた物体の位置測定方法を示す概略図である。
【0007】
図13(b)に示す超音波センサ装置900は、超音波の送信素子である超音波音源40と、図13(a)の超音波センサ素子90Rがアレイ化された超音波の受信素子である超音波アレイセンサ装置A90Rを備えている。超音波センサ装置900においては、超音波アレイセンサ装置A90Rの側に設置した超音波音源40から超音波を発し、被測定物体51,52に反射して帰ってきた超音波を超音波アレイセンサ装置A90Rの各超音波センサ素子90Rにより受信することにより、被測定物体の方位角を含む位置を認識する。このとき、超音波の各超音波センサ素子90Rへの各入射方向における伝搬時間(超音波音源20から発信してから各超音波センサ素子90Rに戻るまでの時間)から、各方向における被測定物体51,52の距離の分布(奥行き方向距離)を計測する。
【特許文献1】特開2001−16694号公報
【特許文献2】特開2003−284182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図13(b)に示す超音波センサ装置900は、超音波音源40と超音波アレイセンサ装置A90Rが別体となっており、それぞれの製造コストが必要である。また、車のバンパー等に装着するに際して、超音波音源40と超音波アレイセンサ装置A90Rの取り付け精度が障害物の方向や距離の検出精度に影響すると共に、両者の装着間隔も大きくなる。
【0009】
また、図13(b)の超音波センサ装置900に限らず、車のバンパーに直接搭載する超音波センサ装置においては、超音波センサ素子の表面に水滴やごみが付着すると、正確に障害物までの距離を測定できなくなる。さらに、空気中を伝播する超音波の減衰は空気の温度や湿度に依存するが、これらは車の周辺環境により異なる為、温度変化および湿度変化の影響で障害物の検出精度が悪くなるといった問題がある。特に、車の周辺環境の温度については外気温センサ等で環境温度を測定できるが、湿度については車室外に搭載できる適当な湿度センサがなく、上記問題が解決できていない。
【0010】
そこで本発明は、超音波の送信素子と受信素子を備えてなり、送信素子から超音波を送信して、被検出体で反射された超音波を受信素子により受信して演算処理する超音波センサ装置であって、小型・低コストで、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難く、水滴やごみの付着および湿度変化による検出精度劣化の問題を解決できる超音波センサ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、超音波の送信素子と受信素子を備えてなり、前記送信素子から超音波を送信して、被検出体で反射された超音波を前記受信素子により受信して演算処理する超音波センサ装置であって、1個以上の前記送信素子と2個以上の前記受信素子が、同一基板に集積化されてなることを特徴としている。
【0012】
これによれば、当該超音波センサ装置では超音波の送信素子と受信素子が同一基板に集積化されて製造されるため、送信素子と受信素子を別体として構成した超音波センサ装置に較べて、小型で低コストの超音波センサ装置とすることができる。また、送信素子および受信素子の位置関係が基板上で正確に設定されるため、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難い超音波センサ装置とすることができる。
【0013】
上記超音波センサ装置においては、同一基板上に形成する送信素子と受信素子の数を増やしても、製造コストはほとんど変わらない。
【0014】
従って、請求項2に記載のように、前記受信素子を3個以上とし、前記超音波センサ装置が、1個の受信素子の破損や動作不良があっても、他の受信素子の信号を比較することにより、動作不良検知機能を有するように構成することができる。これにより、低コストで、且つ水滴やごみの付着による動作不良に対処した超音波センサ装置とすることができる。
【0015】
尚、請求項3に記載のように、前記受信素子を4個とすることで、簡単な演算処理により上記動作不良検知機能を持たせることができると共に、フェールセーフ機能も持たせることができる。
【0016】
また、請求項4に記載のように、前記送信素子が2以上の異なる周波数の超音波を送信するようにして、当該超音波センサ装置が簡単な演算処理により湿度補正機能を有するように構成することができる。これにより、低コストで、且つ湿度変化による検出精度劣化の問題に対処した超音波センサ装置とすることができる。
【0017】
尚、請求項5に記載のように、前記送信素子を2個とし、両者が異なる周波数の超音波を送信するようにすれば、上記湿度補正機能を有する超音波センサ装置を簡単に構成することができる。
【0018】
請求項6に記載のように、前記送信素子が1個であり、前記受信素子が偶数個である場合には、前記受信素子が、前記送信素子を取り囲んで、2個ずつ前記送信素子の対称位置に配置されてなることが好ましい。
【0019】
これによれば、2個ずつ送信素子の対称位置に配置された受信素子では、送信素子から送信され、被検出体で反射されて戻ってきた超音波の音圧をほぼ等しくすることができる。このため、被検出体の精度の高い検出測定が可能となる。
【0020】
上記超音波センサ装置における同一基板に集積化された送信素子と受信素子の構造については、請求項7に記載のように、前記送信素子と受信素子が、それぞれ、前記基板の薄肉部として形成されたメンブレン上に、圧電体薄膜を電極金属膜でサンドイッチした圧電振動子が形成され、前記圧電振動子が前記メンブレンと共に所定の超音波帯周波数で共振する超音波素子からなるように構成することができる。
【0021】
この場合には、一般的に送信素子が大きな音圧出力を必要とするため、請求項8に記載のように、前記送信素子における前記メンブレンの平面形状の面積が、前記受信素子における前記メンブレンの平面形状の面積に較べて大きくすることで、送信素子の音圧出力を高めることができる。また、請求項9と10に記載のように、前記送信素子において、前記メンブレンの径方向振動における応力集中領域上の前記圧電体薄膜に、部分的な抜きパターンや部分的な窪みパターンが形成されてなるように構成してもよい。
【0022】
これによれば、上記応力集中領域の剛性が低減され、メンブレンが撓み易くなって、十分な音圧の超音波を出力することができる。従って、検出精度の高い超音波センサ装置とすることができる。
【0023】
さらに、請求項11に記載のように、前記送信素子において、前記圧電振動子が、多層に形成されてなるように構成してもよい。
【0024】
これによれば、電圧が印加された場合の圧電振動子の変形量が大きくなり、メンブレンの振動振幅も大きくなって、十分な音圧の超音波を出力することができる。従って、検出精度の高い超音波センサ装置とすることができる。
【0025】
また、請求項12に記載のように、前記送信素子において、前記メンブレンと圧電振動子が、前記基板に片持ち支持されてなるように構成してもよい。
【0026】
これによれば、メンブレンの変形に対して障害となる部分が小さく、圧電振動子に電圧が印加されて圧電振動子が変形すると、メンブレンも大きく変形して、十分な音圧の超音波を出力することができる。従って、検出精度の高い超音波センサ装置とすることができる。
【0027】
さらに、請求項13に記載のように、前記送信素子において、前記メンブレンが、前記基板の一方の表面側から、犠牲層エッチングにより前記基板に形成された層の一部を刳り抜いて形成されてなるように構成してもよい。
【0028】
これによっても、メンブレンの変形に対して障害となる部分が小さく、圧電振動子に電圧が印加されて圧電振動子が変形すると、メンブレンも大きく変形して、十分な音圧の超音波を出力することができる。従って、検出精度の高い超音波センサ装置とすることができる。
【0029】
上記超音波センサ装置は、小型・低コストで、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難く、水滴やごみの付着および湿度変化による検出精度劣化の問題を解決できる超音波センサ装置となっている。このため、請求項14に記載のように、車載用の超音波センサ装置に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図に基づいて説明する。
【0031】
図1(a)は、本発明の超音波センサ装置の一例で、超音波センサ装置100の模式的な上面図である。図1(b)は、図1(a)の超音波センサ装置100を回路基板Kに実装した状態を示す斜視図である。
【0032】
図1(a)に示す超音波センサ装置100では、1個の送信素子S1と4個の受信素子R1〜R4が、同一の半導体基板10に集積化されている。
【0033】
図2(a),(b)は、図1(a)の超音波センサ装置100における送信素子S1と受信素子R1〜R4の構造について簡略化して示した図で、図2(a)は超音波素子90(送信素子S1、受信素子R1〜R4)の模式的な上面図であり、図2(b)は図2(a)の一点鎖線で示したA−Aにおける断面図である。
【0034】
図2(a),(b)に示す超音波素子90は、図13(a)に示した受信用の超音波センサ素子90Rと同様の構造を持った素子で、送信素子S1および受信素子R1〜R4共に同じ構造を有している。尚、図2(a),(b)の超音波素子90において、図13(a)の受信用の超音波センサ素子90Rと同様の部分については、同じ符号を付した。
【0035】
図2(a),(b)に示す超音波素子90は、SOI(Silicon On Insulator)構造の半導体基板10を用いて形成されている。基板10において、符号1aは第1半導体層(支持基板)、符号1bは埋め込み酸化膜、符号1cは第2半導体層、符号1dは保護酸化膜である。半導体のマイクロマシニング技術により、基板10の薄肉部として形成されたメンブレンM上には、圧電振動子20がメンブレンMを覆うようにして形成されている。圧電振動子20は、圧電体薄膜2を電極金属膜3a,3bでサンドイッチした構造を有している。
【0036】
図2(a),(b)の超音波素子90では、送信素子S1として用いる場合、圧電振動子20の電極金属膜3a,3bに交流電圧を印加して、圧電振動子20と共にメンブレンMを所定の超音波帯周波数で共振させ、超音波を送信する。また、受信素子R1〜R4として用いる場合、被検出体で反射されて戻ってきた超音波によりメンブレンMを圧電振動子20と共に共振させ、圧電振動子20に電気信号に変換して、超音波を受信する。
【0037】
尚、超音波センサ装置の送信素子および受信素子として、図2(a),(b)の構造の超音波素子90を用いる場合、一般的に送信素子が大きな音圧出力を必要とするため、送信素子におけるメンブレンMの平面形状の面積を、受信素子におけるメンブレンの平面形状の面積に較べて大きくすることが好ましい。これにより、送信素子の音圧出力を高めることができる。これに対して、受信素子は十分な感度が得られるのであれば小さくても可能である。
【0038】
図3は、超音波センサ装置100aの模式的な上面図である。上記したように、図3の超音波センサ装置100aでは、送信素子S1aにおけるメンブレンMsの平面形状の面積が、受信素子R1〜R4におけるメンブレンMrの平面形状の面積に較べて、大きく設定されている。
【0039】
図4〜8に、送信素子用として適する別の超音波素子91〜95の構造を示す。尚、図4〜8に示す超音波素子91〜95において、図2に示す超音波素子90と同様の部分については、同じ符号を付した。
【0040】
図4(a)は、超音波素子91の模式的な上面図であり、図4(b)は図4(a)の一点鎖線で示したB−Bにおける断面図である。
【0041】
図4(a),(b)に示す超音波素子91も、図2(a),(b)に示す超音波素子90と同様に、SOI(Silicon On Insulator)構造の半導体基板10を用いて形成されている。SOI基板10の薄肉部として形成されたメンブレンM上には、圧電振動子21がメンブレンMを覆うようにして形成されている。また、図4(a),(b)の超音波素子91における圧電振動子21も、図2(a),(b)の超音波素子90における圧電振動子20と同様に、圧電体薄膜2を電極金属膜3a,3bでサンドイッチした構造を有している。
【0042】
一方、図4(a),(b)の超音波素子91における圧電振動子21は、図2(a),(b)の超音波素子90における圧電振動子20と異なり、圧電体薄膜2に、部分的な抜きパターン2aが形成され、圧電体薄膜2が4つに分割されている。この部分的な抜きパターン2aは、メンブレンMの径方向振動における応力集中領域上の圧電体薄膜2を除去するパターンとなっている。これにより、図4(a),(b)の超音波素子91においては、上記応力集中領域の剛性が低減され、メンブレンMが撓み易くなって、十分な音圧の超音波を出力することができる。
【0043】
図5(a)は、超音波素子92の模式的な上面図であり、図5(b)は図5(a)の一点鎖線で示したC−Cにおける断面図である。
【0044】
図5(a),(b)に示す超音波素子91の圧電振動子22は、圧電体薄膜2に、部分的な窪みパターン2bが形成されている。この部分的な窪みパターン2bは、メンブレンMの径方向振動における応力集中領域上の圧電体薄膜2の厚さを薄くするパターンとなっている。これにより、図5(a),(b)の超音波素子92においては、上記応力集中領域の剛性が低減され、メンブレンMが撓み易くなって、十分な音圧の超音波を出力することができる。
【0045】
図6(a)は、超音波素子93の模式的な上面図であり、図6(b)は図6(a)の一点鎖線で示したD−Dにおける断面図である。
【0046】
図6(a),(b)に示す超音波素子93の圧電振動子23は、図6(b)の右に拡大して示したように、圧電体薄膜2と電極金属膜3cが交互に多層に形成された振動子となっている。これにより、図5(a),(b)の超音波素子92においては、電圧が印加された場合の圧電振動子23の変形量が大きくなり、メンブレンMの振動振幅も大きくなって、十分な音圧の超音波を出力することができる。
【0047】
図7(a)は、超音波素子94の模式的な上面図であり、図7(b)は図7(a)の一点鎖線で示したE−Eにおける断面図である。
【0048】
図7(a),(b)に示す超音波素子94では、メンブレンMdと圧電振動子24が、基板10に片持ち支持されている。これにより、メンブレンMdの変形に対して障害となる部分が小さく、圧電振動子24に電圧が印加されて圧電振動子24が変形すると、メンブレンMdも大きく変形して、十分な音圧の超音波を出力することができる。
【0049】
図8(a)は、超音波素子95の模式的な上面図であり、図8(b)は図8(a)の一点鎖線で示したF−Fにおける断面図であり、図8(c)は図8(a)の一点鎖線で示したG−Gにおける断面図である。
【0050】
図8(a)〜(c)に示す超音波素子95では、メンブレンMeが、基板10の一方の表面側から、犠牲層エッチングにより基板10に形成された埋め込み酸化膜1bの一部を刳り抜いて形成されている。超音波素子95では、犠牲層エッチングのためのエッチング穴HがメンブレンMeと梁Haの周りに形成されるため、メンブレンMeの外周が部分的に梁Haにより基板10に固定されている。これにより、メンブレMeの変形に対して障害となる部分が小さく、圧電振動子25に電圧が印加されて圧電振動子25が変形すると、梁Haに歪が発生し変形することでメンブレンMeも大きく変形して、十分な音圧の超音波を出力することができる。
【0051】
以上の図4(a),(b)〜図8(a),(b)に示した超音波素子91〜95は、十分な音圧の超音波を出力することができるため、これを図1に示す超音波センサ装置100の送信素子S1として採用することで、検出精度の高い超音波センサ装置とすることができる。尚、図4(a),(b)〜図8(a),(b)に示した超音波素子91〜95は、高出力が要求される送信素子に用いて好適であるが、図1に示す超音波センサ装置100の受信素子R1〜R4として採用することも可能である。
【0052】
次に、図9(a)〜(c)により、図1の超音波センサ装置100を用いた障害物の測定原理を説明する。尚、図9(a)〜(c)では、図1の超音波センサ装置100を、地面に対して送信素子S1を上側にして、垂直に保持して使用することを想定している。
【0053】
図9(a)は、地面に平行なX−Y面内において、超音波センサ装置100の受信素子R1,R2と、障害物50で反射され受信素子R1,R2に入射する超音波の状態を模式的に示した図である。図9(b)は、地面に垂直な面内において、超音波センサ装置100の受信素子R1,R3と、障害物50で反射され受信素子R1,R3に入射する超音波の状態を模式的に示した図である。図9(c)は、超音波センサ装置100の送信素子S1の発信する超音波の交流パルス信号と4個の受信素子R1〜R4の受信する超音波の交流パルス信号のタイムチャートを、模式的に示した図である。
【0054】
図9(a)に示す地面に平行なX−Y面内における障害物50までの距離Dxは、図1の上側にある2つの受信素子R1,R2を用いて、図9(c)に示す発信信号1と受信信号1,2の平均時間値の時間差から演算することができる。
【0055】
図9(a)に示す地面に平行なX−Y面内におけるX軸に対する障害物50の方位角Θxは、図1の上側にある2つの受信素子R1,R2を用いて、図9(c)に示す受信信号1と受信信号2の位相差から演算することができる。
【0056】
同様にして、図9(b)に示す地面に垂直な面内における障害物50までの距離Dzは、図1の左側にある2つの受信素子R1,R3を用いて、図9(c)に示す発信信号1と受信信号1,3の平均時間値の時間差から演算することができる。
【0057】
図9(b)に示す地面に平行な垂直な面内における地面に水平な面に対する障害物50の方位角Θzは、図1の左側にある2つの受信素子R1,R3を用いて、図9(c)に示す受信信号1と受信信号3の位相差から演算することができる。
【0058】
上記の距離Dx,Dzと方位Θx,Θzより、超音波センサ装置100に対する障害物50の距離と方位を定めることができる。以上のようにして、図1に示す超音波センサ装置100は、超音波の送信素子S1と受信素子R1〜R4を備えてなり、送信素子S1から超音波を送信して、障害物(被検出体)50で反射された超音波を受信素子R1〜R4により受信して演算処理し、障害物(被検出体)50を検出する。
【0059】
図1の超音波センサ装置100は、超音波の送信素子S1と受信素子R1〜R4が同一基板10に集積化されて製造されるため、図13(b)に示す送信素子(超音波音源)40と受信素子(超音波アレイセンサ装置)A90Rを別体として構成した超音波センサ装置900に較べて、小型で低コストの超音波センサ装置とすることができる。また、図1の超音波センサ装置100では、送信素子S1および受信素子R1〜R4の位置関係が基板10上で正確に設定されるため、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難い超音波センサ装置とすることができる。
【0060】
また、上記超音波センサ装置においては、同一基板10上に形成する送信素子と受信素子の数を増やしたり、送信素子と受信素子の大きさを変更したりしても、マスクを変更するだけで対応可能であり、得られる超音波センサ装置に製造コストはほとんど変わらない。
【0061】
ところで、図1の超音波センサ装置100は、4個の受信素子R1〜R4を有しているが、図10に示した障害物(被検出体)50の検出にあたっては、3個の受信素子R1〜R3の組み合わせしか用いていない。すなわち、図9(a)の地面に平行なX−Y面内における障害物50までの距離DxとX軸に対する障害物50の方位角Θxの測定では、図1の上側にある2つの受信素子R1,R2を用いており、図9(b)に示す地面に垂直な面内における障害物50までの距離Dzと地面に水平な面に対する障害物50の方位角Θzは、図1の左側にある2つの受信素子R1,R3を用いている。
【0062】
一方、上記と同様にして、図9(a)の地面に平行なX−Y面内における障害物50までの距離DxとX軸に対する障害物50の方位角Θxを、図1の下側にある2つの受信素子R3,R4を用いて測定し、図9(b)に示す地面に垂直な面内における障害物50までの距離Dzと地面に水平な面に対する障害物50の方位角Θzを、図1の右側にある2つの受信素子R2,R4を用いて測定することができる。言い換えれば、3個の受信素子R2〜R4の組み合わせを用いて、障害物(被検出体)50を検出することができる。
【0063】
従って、4個の受信素子R1〜R4を有する図1の超音波センサ装置10では、上記2通りの組み合わせにより測定された障害物(被検出体)50のデータを比較することで、これらが一致しない場合には、4個の受信素子R1〜R4のいずれかに動作不良があると判断することができる。このようにして、図1の超音波センサ装置100に動作不良検知機能を持たせることができる。
【0064】
また、動作不良の受信素子が1個だけの場合には、それを除いた3個の受信素子の組み合わせで、上記のように障害物(被検出体)50を検出することができる。このため、図1の超音波センサ装置100にフェールセーフ機能も持たせることができる。
【0065】
尚、動作不良検知機能を持たせるだけであれば、3個の受信素子R1〜R3でも可能である。すなわち、障害物(被検出体)50のデータは、受信素子R1,R2の組み合わせデータと受信素子R1,R3の組み合わせデータから算出されているが、受信素子R2,R3の組み合わせデータを障害物(被検出体)50のデータの検算に用いることができる。これによって、3個の受信素子R1〜R3を有する超音波センサ装置に動作不良検知機能を持たせることができる。
【0066】
以上のようにして、受信素子を3個以上とした超音波センサ装置では、1個の受信素子の破損や動作不良があっても、他の受信素子の信号を比較することにより、動作不良検知機能を有するように構成することができる。また、受信素子を4個以上とした超音波センサ装置では、フェールセーフ機能も持たせることができる。これにより、低コストで、且つ水滴やごみの付着による動作不良に対処した超音波センサ装置とすることができる。
【0067】
また、図1の超音波センサ装置100では、送信素子S1に印加する交流パルス信号の周波数を時間的に切り替えて、送信素子S1が2以上の異なる周波数の超音波を送信するようにすることができる。これによって、図1の超音波センサ装置100に対して、簡単な演算処理により、湿度補正機能を有するように構成することができる。尚、1個の送信素子S1で異なる周波数の超音波を送信させるためには、図2に示したメンブレンMの共振とならない周波数で、入力電圧を制御して、異なる周波数の超音波を発信させる。
【0068】
図10は、上記湿度補正機能を説明する図である。図10(a)は、図1の超音波センサ装置100の送信素子S1が2つの異なる周波数f1,f2の超音波を送信するようにした場合において、送信素子S1の発信する超音波の交流パルス信号と4個の受信素子R1〜R4の受信する超音波の交流パルス信号のタイムチャートを、模式的に示した図である。図10(b)は、超音波の減衰損失Pおよび超音波の吸収係数mを表す式である。
【0069】
図10(a)に示すように、超音波センサ装置100における送信素子S1が周波数f1の超音波と周波数f2の超音波を周期的に切り替えて送信した場合、4個の受信素子R1〜R4の受信素子において、それぞれ周波数f1の超音波と周波数f2の超音波に対応した受信信号があらわれる。周波数f1における送信素子S1の交流パルス信号と受信素子R1〜R4の交流パルス信号の関係、および周波数f2における送信素子S1の交流パルス信号と受信素子R1〜R4の交流パルス信号の関係は、それぞれ、図9(c)と同様である。
【0070】
一方、図10(a)では、送信素子S1の発信する周波数f1と周波数f2の交流パルス信号レベルが同じであっても、受信素子R1〜R4で受信した周波数f2の交流パルス信号レベルは、周波数f1の超音波の交流パルス信号レベルに較べて、大きな減衰となっている。
【0071】
図10(b)に示すように、超音波の減衰損失P(吸収係数m)は、超音波の周波数fに依存し、周波数fの高い超音波ほど減衰が大きくなる。また、超音波の減衰損失P(吸収係数m)は、周波数だけでなく、伝播環境の温度Tや湿度hに依存した値となる。
【0072】
ここで、超音波の周波数fは、送信素子S1と受信素子R1〜R4に予め設定された値である。また、伝播環境の温度Tは、例えば超音波センサ装置100が車載用の場合、外気温センサ等で測定することができる。これに対して、伝播環境の湿度hについては車室外に搭載できる適当な湿度センサがない。
【0073】
しかしながら、図10(a)では、2つの周波数f1と周波数f2で超音波測定されているため、その減衰係数の差から湿度hを逆算することができる。この演算された湿度hを、超音波センサ装置100に対して予め設定された動作湿度の補正に用いることで、超音波センサ装置100に対して、湿度補正機能を持たせることができる。これにより、低コストで、且つ湿度変化による検出精度劣化の問題に対処した超音波センサ装置とすることができる。
【0074】
尚、上記のように超音波センサ装置に湿度補正機能を持たせる場合には、送信素子を2個とするのが好ましい。この場合には、1個の送信素子をもちいる場合と異なり、それぞれの送信素子において、図2に示したメンブレンMの共振周波数を用いて、異なる周波数のQ値が高い超音波を発信させることができる。
【0075】
図11に、このような超音波センサ装置101を示す。図11(a)は、超音波センサ装置101の模式的な上面図であり、図11(b)は、送信素子S1,S2の発信する超音波の交流パルス信号と4個の受信素子R1〜R4の受信する超音波の交流パルス信号のタイムチャートを、模式的に示した図である。
【0076】
図11(a)に示す超音波センサ装置101では、異なる周波数f1,f2を発信する2個の送信素子S1,S2を用いることで、図11(b)に示すように、2つの周波数f1,f2の超音波を同時に発信することができる。これにより、車の動きに対する補正等が不要となる。尚、異なる周波数f1,f2の超音波は伝播速度は同じであるため、同時刻に各受信素子R1〜R4に反射波が到達する。そのため、各受信素子R1〜R4の受信信号を周波数f1とf2の成分で分解する周波数分析が必要になる。
【0077】
図12は、別の超音波センサ装置の例で、超音波センサ装置102の模式的な上面図である。図12の超音波センサ装置102では、1個の送信素子S1が中央にあり、8個の受信素子R1〜R8がその周りを取り囲んでいる。
【0078】
このように、送信素子が1個であり、受信素子が偶数個である場合には、受信素子が送信素子を取り囲んで、2個ずつ送信素子の対称位置に配置されてなることが好ましい。図12の超音波センサ装置102においては、受信素子R1とR8の組、受信素子R2とR7の組、受信素子R3とR6の組、および受信素子R4とR5の組が、それぞれ、送信素子S1の対称位置に配置されている。
【0079】
これにより、2個ずつ送信素子の対称位置に配置された受信素子では、送信素子から送信され、被検出体で反射されて戻ってきた超音波の音圧をほぼ等しくすることができる。このため、被検出体の精度の高い検出測定が可能となる。
【0080】
以上示した超音波センサ装置は、小型・低コストで、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難く、水滴やごみの付着および湿度変化による検出精度劣化の問題を解決できる超音波センサ装置となっている。このため、車載用の超音波センサ装置に好適である。
【0081】
以上示したように、本発明の超音波センサ装置は、超音波の送信素子と受信素子を備えてなり、送信素子から超音波を送信して、被検出体で反射された超音波を受信素子により受信して演算処理する超音波センサ装置であって、小型・低コストで、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難く、水滴やごみの付着および湿度変化による検出精度劣化の問題を解決できる超音波センサ装置となっている。
【0082】
尚、本発明の超音波センサ装置においては、同一基板に集積化される送信素子と受信素子の個数は上記した超音波センサ装置のそれに限らず、1個以上の送信素子と2個以上の受信素子であればよい。受信素子の個数を増やすことで、高解像度な情報を得ることができる。また、送信素子を2個以上に増やすことも可能である。これによって、送信する超音波の音圧を上げたり、指向性を制御することも可能である。
【0083】
また、送信素子と受信素子を一つの基板に構成すると、送信信号が受信素子に入力して、ノイズとなる可能性がある。受信素子をアレイ化することで、送信時の信号を複数個の受信素子で受信し、これをキャンセルすることができる。これにより、近い障害物に対して、信号のS/Nを上げて検出可能とすることができる。
【0084】
さらに、各受信素子の検出方式は、上記のように圧電体と用いた圧電式に限らず、電極間の容量変化を検出する容量式を用いたものであってもよい。更に、圧力によるゲージの出力を検出するピエゾ式であってもよい。またこれらの各方式を組み合わせた超音波センサ装置とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の超音波センサ装置の一例で、(a)は超音波センサ装置100の模式的な上面図であり、(b)は(a)の超音波センサ装置100を回路基板に実装した状態を示す斜視図である。
【図2】図1(a)の超音波センサ装置100における送信素子S1と受信素子R1〜R4の構造について簡略化して示した図で、(a)は超音波素子90(送信素子S1、受信素子R1〜R4)の模式的な上面図であり、(b)は(a)の一点鎖線で示したA−Aにおける断面図である。
【図3】超音波センサ装置100aの模式的な上面図である。
【図4】送信素子用として適する別の超音波素子の構造で、(a)は、超音波素子91の模式的な上面図であり、(b)は(a)の一点鎖線で示したB−Bにおける断面図である。
【図5】送信素子用として適する別の超音波素子の構造で、(a)は、超音波素子92の模式的な上面図であり、(b)は(a)の一点鎖線で示したC−Cにおける断面図である。
【図6】送信素子用として適する別の超音波素子の構造で、(a)は、超音波素子93の模式的な上面図であり、(b)は(a)の一点鎖線で示したD−Dにおける断面図である。
【図7】送信素子用として適する別の超音波素子の構造で、(a)は、超音波素子94の模式的な上面図であり、(b)は(a)の一点鎖線で示したE−Eにおける断面図である。
【図8】送信素子用として適する別の超音波素子の構造で、(a)は、超音波素子95の模式的な上面図であり、(b)は(a)の一点鎖線で示したF−Fにおける断面図である。
【図9】(a)〜(c)は、図1の超音波センサ装置100を用いた障害物の測定原理を説明する図である。(a)は、地面に平行なX−Y面内において、受信素子R1,R2と入射する超音波の状態を模式的に示した図である。(b)は、地面に垂直な面内において、受信素子R1,R3と入射する超音波の状態を模式的に示した図である。(c)は、送信素子S1の発信する超音波の交流パルス信号と受信素子R1〜R4の受信する超音波の交流パルス信号のタイムチャートを、模式的に示した図である。
【図10】湿度補正機能を説明する図で、(a)は、図1の送信素子S1が2つの異なる周波数f1,f2の超音波を送信する場合において、送信素子S1の発信する超音波の交流パルス信号と4個の受信素子R1〜R4の受信する超音波の交流パルス信号のタイムチャートを、模式的に示した図である。(b)は、超音波の減衰損失Pおよび超音波の吸収係数mを表す式である。
【図11】(a)は、超音波センサ装置101の模式的な上面図であり、(b)は、送信素子S1,S2の発信する超音波の交流パルス信号と4個の受信素子R1〜R4の受信する超音波の交流パルス信号のタイムチャートを、模式的に示した図である。
【図12】別の超音波センサ装置の例で、超音波センサ装置102の模式的な上面図である。
【図13】(a)は、特許文献2に開示された受信用の超音波センサ素子90Rの構造を示す断面図である。(b)は、特許文献2に開示された超音波を用いた物体の位置測定方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0086】
100,100a,101,102,900 超音波センサ装置
10 基板
S1,S1a,S2 送信素子
R1〜R8 受信素子
90〜95 超音波素子
50〜52 障害物(被検出体)
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の送信素子と受信素子を備えてなり、送信素子から超音波を送信して、被検出体で反射された超音波を受信素子により受信して演算処理する超音波センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載され、駐車時や旋回時において、車両と障害物の距離を検出するための超音波センサ装置が、例えば、特開2001−16694号公報(特許文献1)に開示されている。障害物検出等に用いられる超音波センサ装置は、超音波の送信素子と受信素子(一つの超音波素子で送信と受信を兼用する場合あり)を備えており、送信素子から超音波を送信して、障害物に当たって反射された超音波を受信素子により受信する。この受信素子により受信された超音波の音圧、時間差、位相差により、障害物のある方向や距離を演算処理して検出したり、障害物の凸凹具合を判断したりすることに用いられる。
【0003】
上記超音波センサ装置に用いられる超音波の受信素子として、近年、基板の薄肉部として形成されたメンブレン上に圧電体薄膜からなる振動子が形成された、超音波センサ素子が注目されている。メンブレン構造を有する上記超音波センサ素子は、半導体のマイクロマシニング技術により形成され、以下、MEMS(Micro Electro Mechanical System)型の超音波センサ素子と呼ぶ。このようなMEMS型の超音波センサ素子とそれを用いた超音波アレイセンサ装置が、例えば、特開2003−284182号公報(特許文献2)に開示されている。
【0004】
図13(a)は、特許文献2に開示された受信用の超音波センサ素子90Rの構造を示す断面図である。
【0005】
図13(a)の超音波センサ素子90Rは、強誘電体であるPZTセラミックス薄膜層2を2つの電極3a,3bで挟設してなり、所定の共振周波数を有して超音波を検出する圧電センサで構成され、超音波センサ素子90Rの測定動作中において、上記2つの電極3a,3b間に所定のバイアス電圧を印加することにより超音波センサ素子90Rの共振周波数を変化させることができる。
【0006】
図13(b)は、特許文献2に開示された超音波を用いた物体の位置測定方法を示す概略図である。
【0007】
図13(b)に示す超音波センサ装置900は、超音波の送信素子である超音波音源40と、図13(a)の超音波センサ素子90Rがアレイ化された超音波の受信素子である超音波アレイセンサ装置A90Rを備えている。超音波センサ装置900においては、超音波アレイセンサ装置A90Rの側に設置した超音波音源40から超音波を発し、被測定物体51,52に反射して帰ってきた超音波を超音波アレイセンサ装置A90Rの各超音波センサ素子90Rにより受信することにより、被測定物体の方位角を含む位置を認識する。このとき、超音波の各超音波センサ素子90Rへの各入射方向における伝搬時間(超音波音源20から発信してから各超音波センサ素子90Rに戻るまでの時間)から、各方向における被測定物体51,52の距離の分布(奥行き方向距離)を計測する。
【特許文献1】特開2001−16694号公報
【特許文献2】特開2003−284182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図13(b)に示す超音波センサ装置900は、超音波音源40と超音波アレイセンサ装置A90Rが別体となっており、それぞれの製造コストが必要である。また、車のバンパー等に装着するに際して、超音波音源40と超音波アレイセンサ装置A90Rの取り付け精度が障害物の方向や距離の検出精度に影響すると共に、両者の装着間隔も大きくなる。
【0009】
また、図13(b)の超音波センサ装置900に限らず、車のバンパーに直接搭載する超音波センサ装置においては、超音波センサ素子の表面に水滴やごみが付着すると、正確に障害物までの距離を測定できなくなる。さらに、空気中を伝播する超音波の減衰は空気の温度や湿度に依存するが、これらは車の周辺環境により異なる為、温度変化および湿度変化の影響で障害物の検出精度が悪くなるといった問題がある。特に、車の周辺環境の温度については外気温センサ等で環境温度を測定できるが、湿度については車室外に搭載できる適当な湿度センサがなく、上記問題が解決できていない。
【0010】
そこで本発明は、超音波の送信素子と受信素子を備えてなり、送信素子から超音波を送信して、被検出体で反射された超音波を受信素子により受信して演算処理する超音波センサ装置であって、小型・低コストで、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難く、水滴やごみの付着および湿度変化による検出精度劣化の問題を解決できる超音波センサ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、超音波の送信素子と受信素子を備えてなり、前記送信素子から超音波を送信して、被検出体で反射された超音波を前記受信素子により受信して演算処理する超音波センサ装置であって、1個以上の前記送信素子と2個以上の前記受信素子が、同一基板に集積化されてなることを特徴としている。
【0012】
これによれば、当該超音波センサ装置では超音波の送信素子と受信素子が同一基板に集積化されて製造されるため、送信素子と受信素子を別体として構成した超音波センサ装置に較べて、小型で低コストの超音波センサ装置とすることができる。また、送信素子および受信素子の位置関係が基板上で正確に設定されるため、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難い超音波センサ装置とすることができる。
【0013】
上記超音波センサ装置においては、同一基板上に形成する送信素子と受信素子の数を増やしても、製造コストはほとんど変わらない。
【0014】
従って、請求項2に記載のように、前記受信素子を3個以上とし、前記超音波センサ装置が、1個の受信素子の破損や動作不良があっても、他の受信素子の信号を比較することにより、動作不良検知機能を有するように構成することができる。これにより、低コストで、且つ水滴やごみの付着による動作不良に対処した超音波センサ装置とすることができる。
【0015】
尚、請求項3に記載のように、前記受信素子を4個とすることで、簡単な演算処理により上記動作不良検知機能を持たせることができると共に、フェールセーフ機能も持たせることができる。
【0016】
また、請求項4に記載のように、前記送信素子が2以上の異なる周波数の超音波を送信するようにして、当該超音波センサ装置が簡単な演算処理により湿度補正機能を有するように構成することができる。これにより、低コストで、且つ湿度変化による検出精度劣化の問題に対処した超音波センサ装置とすることができる。
【0017】
尚、請求項5に記載のように、前記送信素子を2個とし、両者が異なる周波数の超音波を送信するようにすれば、上記湿度補正機能を有する超音波センサ装置を簡単に構成することができる。
【0018】
請求項6に記載のように、前記送信素子が1個であり、前記受信素子が偶数個である場合には、前記受信素子が、前記送信素子を取り囲んで、2個ずつ前記送信素子の対称位置に配置されてなることが好ましい。
【0019】
これによれば、2個ずつ送信素子の対称位置に配置された受信素子では、送信素子から送信され、被検出体で反射されて戻ってきた超音波の音圧をほぼ等しくすることができる。このため、被検出体の精度の高い検出測定が可能となる。
【0020】
上記超音波センサ装置における同一基板に集積化された送信素子と受信素子の構造については、請求項7に記載のように、前記送信素子と受信素子が、それぞれ、前記基板の薄肉部として形成されたメンブレン上に、圧電体薄膜を電極金属膜でサンドイッチした圧電振動子が形成され、前記圧電振動子が前記メンブレンと共に所定の超音波帯周波数で共振する超音波素子からなるように構成することができる。
【0021】
この場合には、一般的に送信素子が大きな音圧出力を必要とするため、請求項8に記載のように、前記送信素子における前記メンブレンの平面形状の面積が、前記受信素子における前記メンブレンの平面形状の面積に較べて大きくすることで、送信素子の音圧出力を高めることができる。また、請求項9と10に記載のように、前記送信素子において、前記メンブレンの径方向振動における応力集中領域上の前記圧電体薄膜に、部分的な抜きパターンや部分的な窪みパターンが形成されてなるように構成してもよい。
【0022】
これによれば、上記応力集中領域の剛性が低減され、メンブレンが撓み易くなって、十分な音圧の超音波を出力することができる。従って、検出精度の高い超音波センサ装置とすることができる。
【0023】
さらに、請求項11に記載のように、前記送信素子において、前記圧電振動子が、多層に形成されてなるように構成してもよい。
【0024】
これによれば、電圧が印加された場合の圧電振動子の変形量が大きくなり、メンブレンの振動振幅も大きくなって、十分な音圧の超音波を出力することができる。従って、検出精度の高い超音波センサ装置とすることができる。
【0025】
また、請求項12に記載のように、前記送信素子において、前記メンブレンと圧電振動子が、前記基板に片持ち支持されてなるように構成してもよい。
【0026】
これによれば、メンブレンの変形に対して障害となる部分が小さく、圧電振動子に電圧が印加されて圧電振動子が変形すると、メンブレンも大きく変形して、十分な音圧の超音波を出力することができる。従って、検出精度の高い超音波センサ装置とすることができる。
【0027】
さらに、請求項13に記載のように、前記送信素子において、前記メンブレンが、前記基板の一方の表面側から、犠牲層エッチングにより前記基板に形成された層の一部を刳り抜いて形成されてなるように構成してもよい。
【0028】
これによっても、メンブレンの変形に対して障害となる部分が小さく、圧電振動子に電圧が印加されて圧電振動子が変形すると、メンブレンも大きく変形して、十分な音圧の超音波を出力することができる。従って、検出精度の高い超音波センサ装置とすることができる。
【0029】
上記超音波センサ装置は、小型・低コストで、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難く、水滴やごみの付着および湿度変化による検出精度劣化の問題を解決できる超音波センサ装置となっている。このため、請求項14に記載のように、車載用の超音波センサ装置に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図に基づいて説明する。
【0031】
図1(a)は、本発明の超音波センサ装置の一例で、超音波センサ装置100の模式的な上面図である。図1(b)は、図1(a)の超音波センサ装置100を回路基板Kに実装した状態を示す斜視図である。
【0032】
図1(a)に示す超音波センサ装置100では、1個の送信素子S1と4個の受信素子R1〜R4が、同一の半導体基板10に集積化されている。
【0033】
図2(a),(b)は、図1(a)の超音波センサ装置100における送信素子S1と受信素子R1〜R4の構造について簡略化して示した図で、図2(a)は超音波素子90(送信素子S1、受信素子R1〜R4)の模式的な上面図であり、図2(b)は図2(a)の一点鎖線で示したA−Aにおける断面図である。
【0034】
図2(a),(b)に示す超音波素子90は、図13(a)に示した受信用の超音波センサ素子90Rと同様の構造を持った素子で、送信素子S1および受信素子R1〜R4共に同じ構造を有している。尚、図2(a),(b)の超音波素子90において、図13(a)の受信用の超音波センサ素子90Rと同様の部分については、同じ符号を付した。
【0035】
図2(a),(b)に示す超音波素子90は、SOI(Silicon On Insulator)構造の半導体基板10を用いて形成されている。基板10において、符号1aは第1半導体層(支持基板)、符号1bは埋め込み酸化膜、符号1cは第2半導体層、符号1dは保護酸化膜である。半導体のマイクロマシニング技術により、基板10の薄肉部として形成されたメンブレンM上には、圧電振動子20がメンブレンMを覆うようにして形成されている。圧電振動子20は、圧電体薄膜2を電極金属膜3a,3bでサンドイッチした構造を有している。
【0036】
図2(a),(b)の超音波素子90では、送信素子S1として用いる場合、圧電振動子20の電極金属膜3a,3bに交流電圧を印加して、圧電振動子20と共にメンブレンMを所定の超音波帯周波数で共振させ、超音波を送信する。また、受信素子R1〜R4として用いる場合、被検出体で反射されて戻ってきた超音波によりメンブレンMを圧電振動子20と共に共振させ、圧電振動子20に電気信号に変換して、超音波を受信する。
【0037】
尚、超音波センサ装置の送信素子および受信素子として、図2(a),(b)の構造の超音波素子90を用いる場合、一般的に送信素子が大きな音圧出力を必要とするため、送信素子におけるメンブレンMの平面形状の面積を、受信素子におけるメンブレンの平面形状の面積に較べて大きくすることが好ましい。これにより、送信素子の音圧出力を高めることができる。これに対して、受信素子は十分な感度が得られるのであれば小さくても可能である。
【0038】
図3は、超音波センサ装置100aの模式的な上面図である。上記したように、図3の超音波センサ装置100aでは、送信素子S1aにおけるメンブレンMsの平面形状の面積が、受信素子R1〜R4におけるメンブレンMrの平面形状の面積に較べて、大きく設定されている。
【0039】
図4〜8に、送信素子用として適する別の超音波素子91〜95の構造を示す。尚、図4〜8に示す超音波素子91〜95において、図2に示す超音波素子90と同様の部分については、同じ符号を付した。
【0040】
図4(a)は、超音波素子91の模式的な上面図であり、図4(b)は図4(a)の一点鎖線で示したB−Bにおける断面図である。
【0041】
図4(a),(b)に示す超音波素子91も、図2(a),(b)に示す超音波素子90と同様に、SOI(Silicon On Insulator)構造の半導体基板10を用いて形成されている。SOI基板10の薄肉部として形成されたメンブレンM上には、圧電振動子21がメンブレンMを覆うようにして形成されている。また、図4(a),(b)の超音波素子91における圧電振動子21も、図2(a),(b)の超音波素子90における圧電振動子20と同様に、圧電体薄膜2を電極金属膜3a,3bでサンドイッチした構造を有している。
【0042】
一方、図4(a),(b)の超音波素子91における圧電振動子21は、図2(a),(b)の超音波素子90における圧電振動子20と異なり、圧電体薄膜2に、部分的な抜きパターン2aが形成され、圧電体薄膜2が4つに分割されている。この部分的な抜きパターン2aは、メンブレンMの径方向振動における応力集中領域上の圧電体薄膜2を除去するパターンとなっている。これにより、図4(a),(b)の超音波素子91においては、上記応力集中領域の剛性が低減され、メンブレンMが撓み易くなって、十分な音圧の超音波を出力することができる。
【0043】
図5(a)は、超音波素子92の模式的な上面図であり、図5(b)は図5(a)の一点鎖線で示したC−Cにおける断面図である。
【0044】
図5(a),(b)に示す超音波素子91の圧電振動子22は、圧電体薄膜2に、部分的な窪みパターン2bが形成されている。この部分的な窪みパターン2bは、メンブレンMの径方向振動における応力集中領域上の圧電体薄膜2の厚さを薄くするパターンとなっている。これにより、図5(a),(b)の超音波素子92においては、上記応力集中領域の剛性が低減され、メンブレンMが撓み易くなって、十分な音圧の超音波を出力することができる。
【0045】
図6(a)は、超音波素子93の模式的な上面図であり、図6(b)は図6(a)の一点鎖線で示したD−Dにおける断面図である。
【0046】
図6(a),(b)に示す超音波素子93の圧電振動子23は、図6(b)の右に拡大して示したように、圧電体薄膜2と電極金属膜3cが交互に多層に形成された振動子となっている。これにより、図5(a),(b)の超音波素子92においては、電圧が印加された場合の圧電振動子23の変形量が大きくなり、メンブレンMの振動振幅も大きくなって、十分な音圧の超音波を出力することができる。
【0047】
図7(a)は、超音波素子94の模式的な上面図であり、図7(b)は図7(a)の一点鎖線で示したE−Eにおける断面図である。
【0048】
図7(a),(b)に示す超音波素子94では、メンブレンMdと圧電振動子24が、基板10に片持ち支持されている。これにより、メンブレンMdの変形に対して障害となる部分が小さく、圧電振動子24に電圧が印加されて圧電振動子24が変形すると、メンブレンMdも大きく変形して、十分な音圧の超音波を出力することができる。
【0049】
図8(a)は、超音波素子95の模式的な上面図であり、図8(b)は図8(a)の一点鎖線で示したF−Fにおける断面図であり、図8(c)は図8(a)の一点鎖線で示したG−Gにおける断面図である。
【0050】
図8(a)〜(c)に示す超音波素子95では、メンブレンMeが、基板10の一方の表面側から、犠牲層エッチングにより基板10に形成された埋め込み酸化膜1bの一部を刳り抜いて形成されている。超音波素子95では、犠牲層エッチングのためのエッチング穴HがメンブレンMeと梁Haの周りに形成されるため、メンブレンMeの外周が部分的に梁Haにより基板10に固定されている。これにより、メンブレMeの変形に対して障害となる部分が小さく、圧電振動子25に電圧が印加されて圧電振動子25が変形すると、梁Haに歪が発生し変形することでメンブレンMeも大きく変形して、十分な音圧の超音波を出力することができる。
【0051】
以上の図4(a),(b)〜図8(a),(b)に示した超音波素子91〜95は、十分な音圧の超音波を出力することができるため、これを図1に示す超音波センサ装置100の送信素子S1として採用することで、検出精度の高い超音波センサ装置とすることができる。尚、図4(a),(b)〜図8(a),(b)に示した超音波素子91〜95は、高出力が要求される送信素子に用いて好適であるが、図1に示す超音波センサ装置100の受信素子R1〜R4として採用することも可能である。
【0052】
次に、図9(a)〜(c)により、図1の超音波センサ装置100を用いた障害物の測定原理を説明する。尚、図9(a)〜(c)では、図1の超音波センサ装置100を、地面に対して送信素子S1を上側にして、垂直に保持して使用することを想定している。
【0053】
図9(a)は、地面に平行なX−Y面内において、超音波センサ装置100の受信素子R1,R2と、障害物50で反射され受信素子R1,R2に入射する超音波の状態を模式的に示した図である。図9(b)は、地面に垂直な面内において、超音波センサ装置100の受信素子R1,R3と、障害物50で反射され受信素子R1,R3に入射する超音波の状態を模式的に示した図である。図9(c)は、超音波センサ装置100の送信素子S1の発信する超音波の交流パルス信号と4個の受信素子R1〜R4の受信する超音波の交流パルス信号のタイムチャートを、模式的に示した図である。
【0054】
図9(a)に示す地面に平行なX−Y面内における障害物50までの距離Dxは、図1の上側にある2つの受信素子R1,R2を用いて、図9(c)に示す発信信号1と受信信号1,2の平均時間値の時間差から演算することができる。
【0055】
図9(a)に示す地面に平行なX−Y面内におけるX軸に対する障害物50の方位角Θxは、図1の上側にある2つの受信素子R1,R2を用いて、図9(c)に示す受信信号1と受信信号2の位相差から演算することができる。
【0056】
同様にして、図9(b)に示す地面に垂直な面内における障害物50までの距離Dzは、図1の左側にある2つの受信素子R1,R3を用いて、図9(c)に示す発信信号1と受信信号1,3の平均時間値の時間差から演算することができる。
【0057】
図9(b)に示す地面に平行な垂直な面内における地面に水平な面に対する障害物50の方位角Θzは、図1の左側にある2つの受信素子R1,R3を用いて、図9(c)に示す受信信号1と受信信号3の位相差から演算することができる。
【0058】
上記の距離Dx,Dzと方位Θx,Θzより、超音波センサ装置100に対する障害物50の距離と方位を定めることができる。以上のようにして、図1に示す超音波センサ装置100は、超音波の送信素子S1と受信素子R1〜R4を備えてなり、送信素子S1から超音波を送信して、障害物(被検出体)50で反射された超音波を受信素子R1〜R4により受信して演算処理し、障害物(被検出体)50を検出する。
【0059】
図1の超音波センサ装置100は、超音波の送信素子S1と受信素子R1〜R4が同一基板10に集積化されて製造されるため、図13(b)に示す送信素子(超音波音源)40と受信素子(超音波アレイセンサ装置)A90Rを別体として構成した超音波センサ装置900に較べて、小型で低コストの超音波センサ装置とすることができる。また、図1の超音波センサ装置100では、送信素子S1および受信素子R1〜R4の位置関係が基板10上で正確に設定されるため、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難い超音波センサ装置とすることができる。
【0060】
また、上記超音波センサ装置においては、同一基板10上に形成する送信素子と受信素子の数を増やしたり、送信素子と受信素子の大きさを変更したりしても、マスクを変更するだけで対応可能であり、得られる超音波センサ装置に製造コストはほとんど変わらない。
【0061】
ところで、図1の超音波センサ装置100は、4個の受信素子R1〜R4を有しているが、図10に示した障害物(被検出体)50の検出にあたっては、3個の受信素子R1〜R3の組み合わせしか用いていない。すなわち、図9(a)の地面に平行なX−Y面内における障害物50までの距離DxとX軸に対する障害物50の方位角Θxの測定では、図1の上側にある2つの受信素子R1,R2を用いており、図9(b)に示す地面に垂直な面内における障害物50までの距離Dzと地面に水平な面に対する障害物50の方位角Θzは、図1の左側にある2つの受信素子R1,R3を用いている。
【0062】
一方、上記と同様にして、図9(a)の地面に平行なX−Y面内における障害物50までの距離DxとX軸に対する障害物50の方位角Θxを、図1の下側にある2つの受信素子R3,R4を用いて測定し、図9(b)に示す地面に垂直な面内における障害物50までの距離Dzと地面に水平な面に対する障害物50の方位角Θzを、図1の右側にある2つの受信素子R2,R4を用いて測定することができる。言い換えれば、3個の受信素子R2〜R4の組み合わせを用いて、障害物(被検出体)50を検出することができる。
【0063】
従って、4個の受信素子R1〜R4を有する図1の超音波センサ装置10では、上記2通りの組み合わせにより測定された障害物(被検出体)50のデータを比較することで、これらが一致しない場合には、4個の受信素子R1〜R4のいずれかに動作不良があると判断することができる。このようにして、図1の超音波センサ装置100に動作不良検知機能を持たせることができる。
【0064】
また、動作不良の受信素子が1個だけの場合には、それを除いた3個の受信素子の組み合わせで、上記のように障害物(被検出体)50を検出することができる。このため、図1の超音波センサ装置100にフェールセーフ機能も持たせることができる。
【0065】
尚、動作不良検知機能を持たせるだけであれば、3個の受信素子R1〜R3でも可能である。すなわち、障害物(被検出体)50のデータは、受信素子R1,R2の組み合わせデータと受信素子R1,R3の組み合わせデータから算出されているが、受信素子R2,R3の組み合わせデータを障害物(被検出体)50のデータの検算に用いることができる。これによって、3個の受信素子R1〜R3を有する超音波センサ装置に動作不良検知機能を持たせることができる。
【0066】
以上のようにして、受信素子を3個以上とした超音波センサ装置では、1個の受信素子の破損や動作不良があっても、他の受信素子の信号を比較することにより、動作不良検知機能を有するように構成することができる。また、受信素子を4個以上とした超音波センサ装置では、フェールセーフ機能も持たせることができる。これにより、低コストで、且つ水滴やごみの付着による動作不良に対処した超音波センサ装置とすることができる。
【0067】
また、図1の超音波センサ装置100では、送信素子S1に印加する交流パルス信号の周波数を時間的に切り替えて、送信素子S1が2以上の異なる周波数の超音波を送信するようにすることができる。これによって、図1の超音波センサ装置100に対して、簡単な演算処理により、湿度補正機能を有するように構成することができる。尚、1個の送信素子S1で異なる周波数の超音波を送信させるためには、図2に示したメンブレンMの共振とならない周波数で、入力電圧を制御して、異なる周波数の超音波を発信させる。
【0068】
図10は、上記湿度補正機能を説明する図である。図10(a)は、図1の超音波センサ装置100の送信素子S1が2つの異なる周波数f1,f2の超音波を送信するようにした場合において、送信素子S1の発信する超音波の交流パルス信号と4個の受信素子R1〜R4の受信する超音波の交流パルス信号のタイムチャートを、模式的に示した図である。図10(b)は、超音波の減衰損失Pおよび超音波の吸収係数mを表す式である。
【0069】
図10(a)に示すように、超音波センサ装置100における送信素子S1が周波数f1の超音波と周波数f2の超音波を周期的に切り替えて送信した場合、4個の受信素子R1〜R4の受信素子において、それぞれ周波数f1の超音波と周波数f2の超音波に対応した受信信号があらわれる。周波数f1における送信素子S1の交流パルス信号と受信素子R1〜R4の交流パルス信号の関係、および周波数f2における送信素子S1の交流パルス信号と受信素子R1〜R4の交流パルス信号の関係は、それぞれ、図9(c)と同様である。
【0070】
一方、図10(a)では、送信素子S1の発信する周波数f1と周波数f2の交流パルス信号レベルが同じであっても、受信素子R1〜R4で受信した周波数f2の交流パルス信号レベルは、周波数f1の超音波の交流パルス信号レベルに較べて、大きな減衰となっている。
【0071】
図10(b)に示すように、超音波の減衰損失P(吸収係数m)は、超音波の周波数fに依存し、周波数fの高い超音波ほど減衰が大きくなる。また、超音波の減衰損失P(吸収係数m)は、周波数だけでなく、伝播環境の温度Tや湿度hに依存した値となる。
【0072】
ここで、超音波の周波数fは、送信素子S1と受信素子R1〜R4に予め設定された値である。また、伝播環境の温度Tは、例えば超音波センサ装置100が車載用の場合、外気温センサ等で測定することができる。これに対して、伝播環境の湿度hについては車室外に搭載できる適当な湿度センサがない。
【0073】
しかしながら、図10(a)では、2つの周波数f1と周波数f2で超音波測定されているため、その減衰係数の差から湿度hを逆算することができる。この演算された湿度hを、超音波センサ装置100に対して予め設定された動作湿度の補正に用いることで、超音波センサ装置100に対して、湿度補正機能を持たせることができる。これにより、低コストで、且つ湿度変化による検出精度劣化の問題に対処した超音波センサ装置とすることができる。
【0074】
尚、上記のように超音波センサ装置に湿度補正機能を持たせる場合には、送信素子を2個とするのが好ましい。この場合には、1個の送信素子をもちいる場合と異なり、それぞれの送信素子において、図2に示したメンブレンMの共振周波数を用いて、異なる周波数のQ値が高い超音波を発信させることができる。
【0075】
図11に、このような超音波センサ装置101を示す。図11(a)は、超音波センサ装置101の模式的な上面図であり、図11(b)は、送信素子S1,S2の発信する超音波の交流パルス信号と4個の受信素子R1〜R4の受信する超音波の交流パルス信号のタイムチャートを、模式的に示した図である。
【0076】
図11(a)に示す超音波センサ装置101では、異なる周波数f1,f2を発信する2個の送信素子S1,S2を用いることで、図11(b)に示すように、2つの周波数f1,f2の超音波を同時に発信することができる。これにより、車の動きに対する補正等が不要となる。尚、異なる周波数f1,f2の超音波は伝播速度は同じであるため、同時刻に各受信素子R1〜R4に反射波が到達する。そのため、各受信素子R1〜R4の受信信号を周波数f1とf2の成分で分解する周波数分析が必要になる。
【0077】
図12は、別の超音波センサ装置の例で、超音波センサ装置102の模式的な上面図である。図12の超音波センサ装置102では、1個の送信素子S1が中央にあり、8個の受信素子R1〜R8がその周りを取り囲んでいる。
【0078】
このように、送信素子が1個であり、受信素子が偶数個である場合には、受信素子が送信素子を取り囲んで、2個ずつ送信素子の対称位置に配置されてなることが好ましい。図12の超音波センサ装置102においては、受信素子R1とR8の組、受信素子R2とR7の組、受信素子R3とR6の組、および受信素子R4とR5の組が、それぞれ、送信素子S1の対称位置に配置されている。
【0079】
これにより、2個ずつ送信素子の対称位置に配置された受信素子では、送信素子から送信され、被検出体で反射されて戻ってきた超音波の音圧をほぼ等しくすることができる。このため、被検出体の精度の高い検出測定が可能となる。
【0080】
以上示した超音波センサ装置は、小型・低コストで、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難く、水滴やごみの付着および湿度変化による検出精度劣化の問題を解決できる超音波センサ装置となっている。このため、車載用の超音波センサ装置に好適である。
【0081】
以上示したように、本発明の超音波センサ装置は、超音波の送信素子と受信素子を備えてなり、送信素子から超音波を送信して、被検出体で反射された超音波を受信素子により受信して演算処理する超音波センサ装置であって、小型・低コストで、車のバンパー等に装着するに際して取り付け精度の影響を受け難く、水滴やごみの付着および湿度変化による検出精度劣化の問題を解決できる超音波センサ装置となっている。
【0082】
尚、本発明の超音波センサ装置においては、同一基板に集積化される送信素子と受信素子の個数は上記した超音波センサ装置のそれに限らず、1個以上の送信素子と2個以上の受信素子であればよい。受信素子の個数を増やすことで、高解像度な情報を得ることができる。また、送信素子を2個以上に増やすことも可能である。これによって、送信する超音波の音圧を上げたり、指向性を制御することも可能である。
【0083】
また、送信素子と受信素子を一つの基板に構成すると、送信信号が受信素子に入力して、ノイズとなる可能性がある。受信素子をアレイ化することで、送信時の信号を複数個の受信素子で受信し、これをキャンセルすることができる。これにより、近い障害物に対して、信号のS/Nを上げて検出可能とすることができる。
【0084】
さらに、各受信素子の検出方式は、上記のように圧電体と用いた圧電式に限らず、電極間の容量変化を検出する容量式を用いたものであってもよい。更に、圧力によるゲージの出力を検出するピエゾ式であってもよい。またこれらの各方式を組み合わせた超音波センサ装置とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の超音波センサ装置の一例で、(a)は超音波センサ装置100の模式的な上面図であり、(b)は(a)の超音波センサ装置100を回路基板に実装した状態を示す斜視図である。
【図2】図1(a)の超音波センサ装置100における送信素子S1と受信素子R1〜R4の構造について簡略化して示した図で、(a)は超音波素子90(送信素子S1、受信素子R1〜R4)の模式的な上面図であり、(b)は(a)の一点鎖線で示したA−Aにおける断面図である。
【図3】超音波センサ装置100aの模式的な上面図である。
【図4】送信素子用として適する別の超音波素子の構造で、(a)は、超音波素子91の模式的な上面図であり、(b)は(a)の一点鎖線で示したB−Bにおける断面図である。
【図5】送信素子用として適する別の超音波素子の構造で、(a)は、超音波素子92の模式的な上面図であり、(b)は(a)の一点鎖線で示したC−Cにおける断面図である。
【図6】送信素子用として適する別の超音波素子の構造で、(a)は、超音波素子93の模式的な上面図であり、(b)は(a)の一点鎖線で示したD−Dにおける断面図である。
【図7】送信素子用として適する別の超音波素子の構造で、(a)は、超音波素子94の模式的な上面図であり、(b)は(a)の一点鎖線で示したE−Eにおける断面図である。
【図8】送信素子用として適する別の超音波素子の構造で、(a)は、超音波素子95の模式的な上面図であり、(b)は(a)の一点鎖線で示したF−Fにおける断面図である。
【図9】(a)〜(c)は、図1の超音波センサ装置100を用いた障害物の測定原理を説明する図である。(a)は、地面に平行なX−Y面内において、受信素子R1,R2と入射する超音波の状態を模式的に示した図である。(b)は、地面に垂直な面内において、受信素子R1,R3と入射する超音波の状態を模式的に示した図である。(c)は、送信素子S1の発信する超音波の交流パルス信号と受信素子R1〜R4の受信する超音波の交流パルス信号のタイムチャートを、模式的に示した図である。
【図10】湿度補正機能を説明する図で、(a)は、図1の送信素子S1が2つの異なる周波数f1,f2の超音波を送信する場合において、送信素子S1の発信する超音波の交流パルス信号と4個の受信素子R1〜R4の受信する超音波の交流パルス信号のタイムチャートを、模式的に示した図である。(b)は、超音波の減衰損失Pおよび超音波の吸収係数mを表す式である。
【図11】(a)は、超音波センサ装置101の模式的な上面図であり、(b)は、送信素子S1,S2の発信する超音波の交流パルス信号と4個の受信素子R1〜R4の受信する超音波の交流パルス信号のタイムチャートを、模式的に示した図である。
【図12】別の超音波センサ装置の例で、超音波センサ装置102の模式的な上面図である。
【図13】(a)は、特許文献2に開示された受信用の超音波センサ素子90Rの構造を示す断面図である。(b)は、特許文献2に開示された超音波を用いた物体の位置測定方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0086】
100,100a,101,102,900 超音波センサ装置
10 基板
S1,S1a,S2 送信素子
R1〜R8 受信素子
90〜95 超音波素子
50〜52 障害物(被検出体)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送信素子と受信素子を備えてなり、前記送信素子から超音波を送信して、被検出体で反射された超音波を前記受信素子により受信して演算処理する超音波センサ装置であって、
1個以上の前記送信素子と2個以上の前記受信素子が、同一基板に集積化されてなることを特徴とする超音波センサ装置。
【請求項2】
前記受信素子が、3個以上であり、
前記超音波センサ装置が、動作不良検知機能を有することを特徴とする請求項1に記載の超音波センサ装置。
【請求項3】
前記受信素子が、4個であることを特徴とする請求項2に記載の超音波センサ装置。
【請求項4】
前記送信素子が、2以上の異なる周波数の超音波を送信し、
当該超音波センサ装置が、湿度補正機能を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の超音波センサ装置。
【請求項5】
前記送信素子が、2個であることを特徴とする請求項4に記載の超音波センサ装置。
【請求項6】
前記送信素子が、1個であり、
前記受信素子が、偶数個であって、
前記受信素子が、前記送信素子を取り囲んで、2個ずつ前記送信素子の対称位置に配置されてなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の超音波センサ装置。
【請求項7】
前記送信素子と受信素子が、それぞれ、
前記基板の薄肉部として形成されたメンブレン上に、圧電体薄膜を電極金属膜でサンドイッチした圧電振動子が形成され、前記圧電振動子が前記メンブレンと共に所定の超音波帯周波数で共振する超音波素子からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の超音波センサ装置。
【請求項8】
前記送信素子における前記メンブレンの平面形状の面積が、前記受信素子における前記メンブレンの平面形状の面積に較べて、大きいことを特徴とする請求項7に記載の超音波センサ装置。
【請求項9】
前記送信素子において、
前記メンブレンの径方向振動における応力集中領域上の前記圧電体薄膜に、部分的な抜きパターンが形成されてなることを特徴とする請求項7または8に記載の超音波センサ装置。
【請求項10】
前記送信素子において、
前記メンブレンの径方向振動における応力集中領域上の前記圧電体薄膜に、部分的な窪みパターンが形成されてなることを特徴とする請求項7または8に記載の超音波センサ装置。
【請求項11】
前記送信素子において、
前記圧電振動子が、多層に形成されてなることを特徴とする請求項7または8に記載の超音波センサ装置。
【請求項12】
前記送信素子において、
前記メンブレンと圧電振動子が、前記基板に片持ち支持されてなることを特徴とする請求項7または8に記載の超音波センサ装置。
【請求項13】
前記送信素子において、
前記メンブレンが、前記基板の一方の表面側から、犠牲層エッチングにより前記基板に形成された層の一部を刳り抜いて形成されてなることを特徴とする請求項7または8に記載の超音波センサ装置。
【請求項14】
前記超音波センサ装置が、車載用の超音波センサ装置であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の超音波センサ装置。
【請求項1】
超音波の送信素子と受信素子を備えてなり、前記送信素子から超音波を送信して、被検出体で反射された超音波を前記受信素子により受信して演算処理する超音波センサ装置であって、
1個以上の前記送信素子と2個以上の前記受信素子が、同一基板に集積化されてなることを特徴とする超音波センサ装置。
【請求項2】
前記受信素子が、3個以上であり、
前記超音波センサ装置が、動作不良検知機能を有することを特徴とする請求項1に記載の超音波センサ装置。
【請求項3】
前記受信素子が、4個であることを特徴とする請求項2に記載の超音波センサ装置。
【請求項4】
前記送信素子が、2以上の異なる周波数の超音波を送信し、
当該超音波センサ装置が、湿度補正機能を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の超音波センサ装置。
【請求項5】
前記送信素子が、2個であることを特徴とする請求項4に記載の超音波センサ装置。
【請求項6】
前記送信素子が、1個であり、
前記受信素子が、偶数個であって、
前記受信素子が、前記送信素子を取り囲んで、2個ずつ前記送信素子の対称位置に配置されてなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の超音波センサ装置。
【請求項7】
前記送信素子と受信素子が、それぞれ、
前記基板の薄肉部として形成されたメンブレン上に、圧電体薄膜を電極金属膜でサンドイッチした圧電振動子が形成され、前記圧電振動子が前記メンブレンと共に所定の超音波帯周波数で共振する超音波素子からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の超音波センサ装置。
【請求項8】
前記送信素子における前記メンブレンの平面形状の面積が、前記受信素子における前記メンブレンの平面形状の面積に較べて、大きいことを特徴とする請求項7に記載の超音波センサ装置。
【請求項9】
前記送信素子において、
前記メンブレンの径方向振動における応力集中領域上の前記圧電体薄膜に、部分的な抜きパターンが形成されてなることを特徴とする請求項7または8に記載の超音波センサ装置。
【請求項10】
前記送信素子において、
前記メンブレンの径方向振動における応力集中領域上の前記圧電体薄膜に、部分的な窪みパターンが形成されてなることを特徴とする請求項7または8に記載の超音波センサ装置。
【請求項11】
前記送信素子において、
前記圧電振動子が、多層に形成されてなることを特徴とする請求項7または8に記載の超音波センサ装置。
【請求項12】
前記送信素子において、
前記メンブレンと圧電振動子が、前記基板に片持ち支持されてなることを特徴とする請求項7または8に記載の超音波センサ装置。
【請求項13】
前記送信素子において、
前記メンブレンが、前記基板の一方の表面側から、犠牲層エッチングにより前記基板に形成された層の一部を刳り抜いて形成されてなることを特徴とする請求項7または8に記載の超音波センサ装置。
【請求項14】
前記超音波センサ装置が、車載用の超音波センサ装置であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の超音波センサ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−242650(P2006−242650A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56639(P2005−56639)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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