説明

超音波処理装置、及び超音波処理方法

【課題】構成が簡単であってしかも超音波エネルギーを利用した液体処理を効率よく行うことができる超音波処理装置を提供する。
【解決手段】超音波反応装置10は、超音波を発生させるための超音波振動子13を底部19の外側に設置してなる反応槽12を備える。反応槽12内は仕切り板15で上下に区画されている。仕切り板15の下側の領域は二次処理室16として用いられ、上側の領域は一次処理室17として用いられる。一次処理室17内には、超音波照射によって処理される被処理液体W1が最初に供給される。二次処理室16内には、一次処理室17を通過した被処理液体W1が通路26を介して供給される。二次処理室16内の被処理液体W1は、超音波を一次処理室17内の被処理液体W1に伝播させる媒体として作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体に超音波を照射し、その超音波のエネルギーを利用して液体処理を行う超音波処理装置、及び超音波処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定周波数域の強力な超音波を液体に照射すると、キャビテーションと呼ばれるナノレベルからミクロンレベルの微小気泡が発生し、その圧縮、崩壊過程を経てホットスポットと呼ばれる数千度、数千気圧の反応場が局所的に形成されることが知られている。近年ではこの反応場は一種の極限反応場として注目を浴びており、この極限反応場を利用して液体の処理(例えば、化学反応の誘起・促進、物質の分散、殺菌、乳化等の処理)を行う超音波処理装置の開発が進められている。ただし、かかる装置は実験室レベルにとどまり、未だ実用化には到っていない。
【0003】
また、このような超音波処理装置としては、超音波を被処理液体に照射することによりその被処理液体の化学反応を促進させる超音波反応装置(ソノリアクタ)が、既に提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
図5には、特許文献1に記載された超音波反応装置101が概略的に示されている。この超音波反応装置101は、超音波を発生させるための超音波振動子102と、被処理液体W1が注入される反応槽103と、被処理液体W1を効率よく循環させるための筒状の循環補助部材104とを備えている。超音波振動子102は反応槽103の底部106に固定されており、発振回路105の発振信号に基づいて超音波振動子102が振動することにより超音波を発生する。また、循環補助部材104は、超音波振動子102の振動面に対して内面が垂直となるよう超音波振動子102の真上に配置されている。
【0005】
このように構成された超音波反応装置101において、超音波振動子102を作動させて被処理液体W1に超音波を照射すると、筒状の循環補助部材104内にて被処理液体W1の流れが生じ、被処理液体W1が反応槽103内で積極的に循環する。
【特許文献1】特開2003−71277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、超音波反応装置において、被処理液体を大量に処理するためには、容量が大きな反応槽を用いて処理能力を向上させることが必要となるが、反応槽の高さが数十センチ以上となると、反応槽の全体で均一に化学反応を誘起・促進させることが困難となる。例えば、下方から超音波を照射して被処理液体の液面で反射させる処理槽では、超音波が反射する液面で化学反応が起こりやすく、反応槽の下部では化学反応があまり起こらない。そのため、攪拌部材などを用いて被処理液体の循環や攪拌をしなければ、被処理液体を効率よく処理することができない。
【0007】
特許文献1の超音波反応装置101は、設置された筒状の循環補助部材104の作用により被処理液体W1が反応槽103内で循環する構造であるため、あえて攪拌部材を用いる必要がない。しかし、その超音波反応装置101で用いられる反応槽103は、閉じた容器を用いて構成されたバッチ式であるため、被処理液体W1を大量に処理することができない。つまり、被処理液体W1を大量に処理するためには、外部から被処理液体W1を反応槽103に供給するとともに化学反応後の被処理液体W1を反応槽103から排出するといった流通型の装置構成とすることが好ましい。しかし、その構成を採用すると、循環補助部材104が流通の障害となって、被処理液体W1を効率よく処理することができなくなる。また、循環補助部材104のような障害物が被処理液体W1中に存在することは、反応効率の高い好適な音場を被処理液体W1中に形成するうえでマイナスに作用する。
【0008】
そこで本願発明者は上記問題を解決しうる超音波処理装置及び方法を既に提案している。この超音波処理装置201の主要部を図6に概略的に示す。この装置201では、処理槽202が上下に仕切られる結果、その上半部が液体供給処理部203となり、その下半部が超音波伝播部(ダミー液体充填部)204となっている。従って、底部205に設けた超音波振動子206を発振回路207で作動させると、超音波が超音波伝播部204に照射される。すると、超音波伝播部204内に充填された脱気水W2を介して、超音波が液体供給処理部203の被処理液体W1に間接的に伝播し、液体供給処理部203内で反応が起こるようになっている。ただし、本願発明者は、液体処理効率の向上についてまだ改良の余地があると感じている。
【0009】
また、この装置201では、脱気水W2の体積変動を吸収するための貯留部208を処理槽202の外部に設け、それを超音波伝播部204に接続している。そして本願発明者は、この貯留部208を省略することで装置201の簡略化や小型化を図ろうと考えている。しかし、処理槽202は脱気槽を兼ねるものであるため、単純にこれを省略してしまうと、超音波伝播部204内に気体が残留して超音波の伝播を妨げる結果となる。ゆえに、この構成を採用すると、かえって液体処理効率を低下させてしまう可能性がある。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、構成が簡単であって、しかも超音波エネルギーを利用した液体処理を効率よく行うことができる超音波処理装置、及び超音波処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、処理槽と、前記処理槽に設置された超音波振動子と、前記処理槽内を前記超音波振動子から遠い一次処理室と前記超音波振動子から近い二次処理室とに区画する仕切り部材と、前記一次処理室及び前記二次処理室間を連通させる通路とを備えた超音波処理装置であって、前記一次処理室内には、超音波の照射によって処理されるべき被処理液体が最初に供給可能であり、前記二次処理室内には、前記一次処理室を通過した前記被処理液体が前記通路を介して供給可能であり、前記二次処理室内の前記被処理液体は、前記超音波振動子が発生した超音波を前記一次処理室内の前記被処理液体に伝播させる媒体として作用しうることを特徴とする超音波処理装置をその要旨とする。
【0012】
従って、請求項1に記載の発明によると、超音波振動子の発生した超音波は、まず超音波振動子から近い二次処理室内の被処理液体を通過した後、超音波振動子から遠い一次処理室内の被処理液体に伝播する。この場合、二次処理室内の被処理液体を超音波が通過する際に音場が整えられるため、一次処理室にて効率よく所定の微小気体が発生し、効率よく液体処理を行うことが可能となる。また、この構成によれば、攪拌部材や循環補助部材などを処理槽内に設ける必要がなくなる。しかも、被処理液体は一次処理室内での超音波処理により脱気された後に二次処理室に供給されるので、二次処理室にあえて脱気槽を設ける必要もなくなる。よって、簡単な構成で被処理液体を大量にかつ効率よく処理することができる。加えて、二次処理室内においても被処理液体に超音波が作用することから、二次処理室が単なる超音波伝播部(ダミー液体充填部)である場合に比べて、液体処理効率が向上する。
【0013】
なお、本発明における被処理液体の処理としては、化学反応の誘起・促進、物質の分散、殺菌、乳化などを挙げることができる。
【0014】
前記超音波振動子は前記処理槽の底部に設置されることが好ましく、前記仕切り部材は前記処理槽内を上下に仕切って前記一次処理室と前記二次処理室とに区画することが好ましい(請求項2)。この構成によると、処理槽の底部にて発生した超音波が、二次処理室内の被処理液体を通過した後に一次処理室内の被処理液体に伝播する結果、被処理液体の液面付近に微小気泡を発生させる。また、一次処理室の下方に二次処理室が位置しているため、ポンプ等の圧送手段を用いなくても、通路を介した二次処理室内への被処理液体の供給をスムーズに行うことができる。
【0015】
上記の仕切り部材としては、例えば超音波の波長の1/2の厚さを有する仕切り板や、波長の1/10以下の厚さを有する仕切り板が好ましい。波長の1/2の厚さの仕切り板を用いた場合、超音波がその仕切り板を透過して二次処理室側から第一処理室側に効率よく伝播される。また、波長の1/10以下の厚さの仕切り板を用いた場合、その仕切り板における超音波の反射が抑制されて、第一処理室側に超音波が効率よく伝播される。さらに、仕切り部材は、処理槽における高さ位置が調整可能に固定されることが好ましい。このようにすると、仕切り部材を超音波の波長に応じた最適な位置に設定することができ、超音波をより確実に伝播させることができる。
【0016】
また本発明は、バッチ式の超音波処理装置として具体化することもできるが、流通式の超音波処理装置として具体化することが好ましい。後者のようにすると、被処理液体を処理槽に流しながら連続的に液体処理を行うことができる。そのため、被処理液体の大量処理が可能となり、処理効率が大幅に向上する。
【0017】
前記通路は前記処理槽の外部に設けられていることが好ましい(請求項3)。仮に通路を処理槽の内部に設けた場合、その通路が被処理液体を通過する超音波にとって障害物となり、反応効率の高い好適な音場の形成にマイナスに作用する可能性がある。その点、請求項3に記載の発明によると、通路が超音波にとって障害物とならないため、反応効率の高い好適な音場を形成しやすくなる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、処理槽内の被処理液体に超音波を照射してその処理を行う超音波処理方法であって、前記処理槽内を、超音波振動子から遠い一次処理室と前記超音波振動子から近い二次処理室とに区画するとともに、前記被処理液体を前記一次処理室側から前記二次処理室側に流通させながら、前記二次処理室内の前記被処理液体を介して前記一次処理室内の前記被処理液体に超音波を照射することを特徴とする超音波処理方法をその要旨とする。この場合、前記一次処理室内にて前記被処理液体に超音波を照射することにより、前記被処理液体を脱気することが好ましい(請求項5)。
【0019】
従って、請求項4,5に記載の発明によると、超音波振動子の発生した超音波は、まず超音波振動子から近い二次処理室内の被処理液体を通過した後、超音波振動子から遠い一次処理室内の被処理液体に伝播する。この場合、二次処理室内の被処理液体を超音波が通過する際に音場が整えられるため、一次処理室にて効率よく所定の微小気体が発生し、効率よく液体処理を行うことが可能となる。また、この方法によれば、攪拌部材や循環補助部材などを処理槽内に設ける必要がなくなる。しかも、被処理液体は一次処理室内での超音波処理により脱気された後に二次処理室に供給されるので、二次処理室にあえて脱気槽を設ける必要もなくなる。よって、簡単な構成で被処理液体を大量にかつ効率よく処理することができる。加えて、二次処理室内においても被処理液体に超音波が作用することから、二次処理室が単なる超音波伝播部(ダミー液体充填部)である場合に比べて、液体処理効率が向上する。
【発明の効果】
【0020】
以上詳述したように請求項1乃至5に記載の発明によれば、被処理液体の攪拌・循環用の部材も脱気槽も不要なため構成が簡単であって、しかも超音波エネルギーを利用した液体処理を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を流通式の超音波反応装置(ソノリアクタ)に具体化した一実施の形態を図1に基づき説明する。なお、本実施形態の超音波反応装置10は、超音波処理を行うことで微小気泡を発生するものであるため、「超音波気泡発生装置」として把握することも可能である。
【0022】
図1に示すように、この超音波反応装置10は、長方形の箱状をなす反応槽12と、その反応槽12の底部の外側に設けられた複数の超音波振動子13とを備えている。本実施の形態の超音波振動子13は、平板状の圧電セラミックスからなり、発振回路14の発振信号に基づいて、周波数が500kHzの超音波20を出力する。なお、反応槽12の形状は特に限定されず、例えば円筒状などであってもよい。
【0023】
本実施の形態における反応槽12には、その槽内を仕切って上下に区画する仕切り板15が設けられている。ここでは、仕切り板15として、超音波20の波長の1/2の厚さを有する板材(例えば、アクリル樹脂プレート)を用いている。具体的にいうと、周波数500kHzの超音波20の波長は約3mmであるため、ここでは厚さ約1.5mmのアクリル樹脂プレートを用いている。なお、この程度の厚さのアクリル樹脂プレートは、仕切り板15に必要とされる所望の剛性、強度も備えている。従って、使用時に液圧が加わったとしても変形や破壊が起きにくいものとなっている。
【0024】
仕切り板15によって仕切られた反応槽12は、上側半分の領域が、超音波20による被処理液体W1の処理を最初に行う一次処理室17となっていて、下側半分の領域が、超音波20による被処理液体W1の処理をその次に行う二次処理室16となっている。また、超音波振動子13を基準とすると、二次処理室16のほうが超音波振動子13から近い位置にあり、一次処理室17のほうが超音波振動子13から遠い位置にある。反応槽12の一次処理室17には、一次処理室17内に被処理液体W1を供給するための供給用配管21が接続されている。一方、反応槽12の二次処理室16には、二次処理室16内から被処理液体W1を排出するための排出用配管22が接続されている。そして、反応槽12の外部には、一次処理室17及び二次処理室16間を連通させる通路としての移送用配管26が配設されている。移送用配管26における一方の端部は一次処理室17の側面上部に接続され、他方の端部は二次処理室16の側面上部に接続されている。なお、図1では半円状に湾曲した移送用配管26を例示しているが、その形状は特に限定されず変更してもよい。
【0025】
また、供給用配管21の途中には開閉バルブ23が設けられている。開閉バルブ23を開状態にすると、被処理液体W1が供給用配管21を通してまず反応槽12の一次処理室17内に供給され、そこで超音波20の照射による処理を受ける。次に、一次処理室17内の被処理液体W1は、移送用配管26を介して二次処理室16内に供給され、そこでも超音波20の照射による処理を受ける。その後、二次処理室16内の被処理液体W1は、排出用配管22を通して反応槽12から排出される。
【0026】
また、この反応槽12の上部、詳しくは一次処理室17内の被処理液体W1の上部には、空気層A1が存在している。一次処理室17の上端面の一部は開放されていて、空気層A1と反応槽12の外部領域とが連通している。
【0027】
ここで被処理液体W1の一例としては農薬などの有機化合物を含む廃水を挙げることができ、その処理とは前記廃水中に含まれる有機化合物を分解して無害化する処理(通常は酸化分解反応)を挙げることができる。この場合、前記処理は連続処理であってもよく非連続処理(いわゆるバッチ処理)であってもよいが、本実施形態では大量処理を目的とするため、連続処理を行う流通式の構成を採用している。
【0028】
本実施の形態において超音波反応装置10には、それを制御するための制御装置30が設けられている。制御装置30は、CPU31、ROM32、RAM33、入出力ポート(図示略)などからなる周知のマイクロコンピュータにより構成され、発振回路14及び開閉バルブ23と電気的に接続されている。制御装置30を構成するROM32は制御プログラムを記憶しており、CPU31はRAM33を利用してその制御プログラムを実行する。その結果、制御装置30は各種の制御信号を出力して、超音波反応装置10の発振回路14や開閉バルブ23を制御する。具体的にいうと、制御装置30は、開閉バルブ23に制御信号を出力してその開閉バルブ23を開状態にし、反応槽12への被処理液体W1の供給を開始させる。またこのとき、制御装置30は発振回路14に制御信号を出力してその発振回路14から発振信号を出力させる。この発振信号に基づいて超音波振動子13が振動することにより、超音波20が照射される。
【0029】
超音波振動子13の発生した超音波20は、まず超音波振動子13から近い位置にある二次処理室16内の被処理液体W1に伝達し、その被処理液体W1中を上方向に進行する。その際にある程度音場が整えられる。二次処理室16内の被処理液体W1を通過した超音波20は、仕切り板15を通過した後、さらに超音波振動子13から遠い位置にある一次処理室17内の被処理液体W1に伝播する。つまり、二次処理室16内の被処理液体W1は、超音波振動子13が発生した超音波20を一次処理室17内の被処理液体W1に伝播させる媒体として作用する。一次処理室17内に伝播した超音波20は、被処理液体W1中をさらに上方向に進行し、最終的には被処理液体W1の液面(被処理液体W1と空気層A1との界面)で反射される。このため、液面近傍では定在波が発生する。その結果、ナノレベルからミクロンレベルのキャビテーションが発生し、化学反応が盛んに起こるようになる。また、このような超音波処理によるキャビテーションの発生によって、結果的に一次処理室17内の被処理液体W1が脱気される。なお、一次処理室17内にて発生した気体は、開放状態にある一次処理室17の上端面から処理槽12の外部に抜け出すようになっている。
【0030】
一次処理室17内にて脱気された被処理液体W1は、続いて移送用配管26を通過して二次処理室16内に供給される。二次処理室16は一次処理室17の下方に位置しているため、とりわけポンプ等の圧送手段を用いなくても、被処理液体W1は重力の作用により移送用配管26を介して自然に流下する。従って、この構成によれば二次処理室16内への被処理液体W1の供給をスムーズに行うことができる。このため、本実施形態では二次処理室16内で脱気を行うための脱気槽をあえて省略した構成となっている。また、二次処理室16内においても被処理液体W1には超音波20が作用する。二次処理室16では一次処理室17ほど定在波が発生しないため、化学反応が起こるエリアも少ないと考えられる。しかし、二次処理室16内に被処理液体W1を通じることにより、超音波20で被処理液体W1を二次的に処理(再処理)することができる。
【0031】
反応槽12の一次処理室17において被処理液体W1が化学反応を起こすと、被処理液体W1の温度が上昇する。本願発明者は、赤外線サーモグラフィを用いて被処理液体W1の温度分布を可視化することにより、液面近傍で化学反応が盛んに起こることを確認した。
【0032】
図2には、その温度分布の様子が示されている。なお、この確認の際には、底部に超音波振動子13を設けた反応槽12を用いており、図2(a)では液面の高さが52cmとなるまで被処理液体W1を充填した状態で温度分布を確認し、図2(b)では液面の高さが26cmとなるまで被処理液体W1を充填した状態で温度分布を確認した。ここでは、説明の便宜上、各温度領域を異なるハッチングで区別して示しているが、実際には、温度毎に色分けされたカラー画像として表示される。
【0033】
図2(a),(b)に示すように、液温は超音波20が反射する液面近傍で最も高くなっており、液面近傍で化学反応が最も盛んに起こることが確認された。また、図2(a)に示すように、液面が高くなると、反応槽12の上半部のほうが下半部にくらべて盛んに化学反応が起こることが確認された。ただし、超音波振動子13に近接した底部ではその超音波振動子13の振動に伴う発熱により温度が上昇していた。また、図2(a)の上半部のみと、図2(b)とを比較すると、前者においてむしろ高温エリアが多くみられ、より盛んに化学反応が起きていることがわかった。
【0034】
さらに、本願発明者は、反応槽12における高さと化学反応量との関係を求めた。具体的には、0.1mol/Lのヨウ化カリウム(KI)の水溶液を反応槽12に入れ、その水溶液に超音波20を照射する。この超音波20の照射によって、水溶液中でキャビテーションが発生し、そのキャビテーションによる高温の反応場において水分子が水素ラジカル(・H)やヒドロキシラジカル(・OH)に分解される。そして、次式のように、ヒドロキシラジカル(・OH)がKI水溶液と反応する。
【0035】
2I+2・OH→I+2OH
【0036】
つまり、Iイオンが酸化することでIが生成される。このIは難溶であるため、次式のように、過剰なIイオンと反応してIイオンが生成される。
【0037】
+I→I
【0038】
そして、このIを測定することにより、高さに応じた化学反応量を定量化した。具体的には、Iが生成されると水溶液は黄色に変色する。その水溶液の色の変化を吸光度計で測定し、化学反応量として数値化した。
【0039】
図3にはその測定結果を示す。なおここでは、反応槽12における水溶液の液面の高さを52cmとして測定を行った。この測定結果でも、液面近傍で化学反応量が最も多くなっていることが確認された。同様に、液面が高くなると、反応槽12の上半部のほうが下半部よりも盛んに化学反応が起こることが確認された。
【0040】
以上の結果からすると、液面が高い大型の反応槽12の場合には、主として上半部(一次処理室17内)で化学反応が誘起・促進されるとともに、超音波20の反射面となる液面の近傍でそれが最も盛んになると結論付けられる。そのため、本実施の形態の超音波反応装置10では、反応槽12を仕切り板15によって上下に区画し、主として上半部を反応場として利用するようにしている。しかしながら、下半部(二次処理室16)においても、超音波20の作用によりある程度化学反応が起こることは明らかである。従って本実施形態では、当該下半部を単なる超音波伝播部(ダミー液体充填部)とするのではなく、被処理液体W1の再処理を行うための二次処理室16として積極的に有効利用している。
【0041】
さて、以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0042】
(1)本実施形態の超音波反応装置10では、反応槽12内を仕切って上下に区画する仕切り板15を設け、その下側の領域を二次処理室16として用い、その上側の領域を一次処理室17として用いている。そして、主に一次処理室17内において超音波処理による化学反応を誘起・促進させるとともに、併せて二次処理室16内においても被処理液体W1に超音波20を作用させて再処理を行うようにしている。従って、二次処理室16が単なる超音波伝播部(ダミー液体充填部)である場合に比べて、液体処理効率を向上させることができる。
【0043】
(2)本実施形態の超音波反応装置10では、二次処理室16内の被処理液体W1を超音波20が通過する際に音場が整えられるため、一次処理室17内の被処理液体W1中に好適な音場が形成されやすくなる。その結果、主として一次処理室17内において効率よく所定の微小気体を発生させることが可能となる。よって、被処理液体W1の化学反応を効率よく誘起・促進させることができ、従来に比べて効率よく液体処理を行うことができる。
【0044】
(3)本実施形態の超音波反応装置10では、被処理液体W1は一次処理室17内での超音波処理により脱気された後に二次処理室16に供給されるので、二次処理室16にあえて脱気槽を設ける必要がない。従って、脱気槽を省略することで、装置の簡略化、小型化、低コスト化を達成することができる。
【0045】
(4)本実施形態の超音波反応装置10では、反応槽12に供給用配管21及び排出用配管22を設けるとともに、一次処理室17及び二次処理室16間を連通させる移送用配管26を設けている。よって、被処理液体W1を一次処理室17から二次処理室16に流しつつ連続的に液体処理を行うことができ、被処理液体W1の大量処理が可能となる。また、従来のように攪拌部材や循環補助部材などを反応槽12内に設ける必要がないので、それら部材が被処理液体W1の流通の障害となることもない。
【0046】
(5)本実施形態の超音波反応装置10における二次処理室16は、閉じた系ではないので、反応槽12の壁面に加わる水圧を一定に維持してその変形を防止するといった必要性がない。それゆえ、二次処理室16内の被処理液体W1の体積変化を調整するための貯留部を省略でき、装置の簡略化、小型化、低コスト化を達成することができる。
【0047】
(6)本実施の形態の超音波反応装置10では、一次処理室17内の被処理液体W1の液面(被処理液体W1と空気層A1との界面)を反射面とし、超音波20の周波数を500kHzに設定している。この場合、被処理液体W1の液面は超音波20の音圧によって波長程度(3mm程度)の大きさで脈動をするため、その液面の近傍では超音波20の反射による定在波が均一に発生する。その結果、被処理液体W1の液面近傍における反応場が平均化されて、再現性のある反応場を容易に形成することができる。ここで、液面を脈動させてその近傍で定在波を均一に発生させるためには、超音波20の周波数を200kHz〜500kHzに設定することが好ましい。また、超音波20の周波数を200kHz〜500kHzに設定すると、液面近傍でヒドロキシラジカルが多く発生するため、被処理液体W1の化学反応を促進させるのに実用上好ましいものとなる。
【0048】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
【0049】
・上記実施の形態では、アクリル樹脂プレートからなる仕切り板15によって反応槽12内を上半部と下半部とに区画したが、アクリル樹脂以外の樹脂からなるプレートや、金属製やガラス製のプレート等を用いて仕切り板15を構成することも可能である。また、仕切り板15を使用する代わりに、例えば、膜のような部材を仕切り部材として選択してもよい。
【0050】
・本実施の形態において、反応槽12の底部19に固定される超音波振動子13を取り替えることで超音波20の波長や照射強度などを変更可能に構成してもよい。またその場合には、超音波20の波長や照射強度に応じて仕切り板15の高さ位置を調整可能な調整機構を設けてもよい。具体例としては、反応槽12内に仕切り板15を支持固定するための支持部材を配置し、その支持部材における複数の高さ位置に仕切り板15が着脱可能な仕切り板固定部を設けたもの等を挙げることができる。
【0051】
・上記実施の形態では、本発明を被処理液体W1中の化学反応を誘起・促進させる超音波反応装置(ソノリアクタ)10に具体化したが、これ以外のもの、例えば、超音波分散装置、超音波分離装置、超音波殺菌装置、超音波洗浄機などの超音波処理装置に具体化してもよい。あるいは、被処理液体W1中にナノバブルやマイクロバブル等といった微小気泡を発生させるための超音波気泡発生装置に具体化してもよい。なお、当該装置により発生される微小気泡は、主としてナノバブルであってもよく、主としてマイクロバブルであってもよく、ナノバブル及びマイクロバブルの混合物であってもよい。このような超音波気泡発生装置により得られた微小気泡を含む液体は、例えば、殺菌、洗浄などに利用できる。
【0052】
・上記実施の形態では、水平に設けられた仕切り板15によって反応槽12内を上下に区画していたが、図4に示す別の実施形態の超音波反応装置(ソノリアクタ)10Aのように、垂直に設けられた仕切り板15によって反応槽12内を左右に区画してもよい。この超音波反応装置10Aでは、超音波振動子13が反応槽12の底面外側ではなく側壁部の外側に設けられている。仕切り板15の右側の領域(超音波振動子13から近い側の領域)は、二次処理室16として使用される。一方、仕切り板15の左側の領域(超音波振動子13から遠い側の領域)は、一次処理室17として使用される。
【0053】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0054】
(1)請求項1乃至3のいずれか1項において、前記仕切り部材は、前記超音波の波長の1/2の厚さを有する仕切り板であることを特徴とする超音波処理装置。
【0055】
(2)請求項1乃至3のいずれか1項において、前記仕切り部材は、前記超音波の波長の1/10以下の厚さを有する仕切り板であることを特徴とする超音波処理装置。
【0056】
(3)請求項1乃至3のいずれか1項において、前記一次処理室には供給用配管が接続され、前記二次処理室には排出用配管が接続されることを特徴とする超音波処理装置。
【0057】
(4)処理槽の底部から上部に向けて200kHz〜500kHzの超音波を照射して、前記処理槽内の被処理液体の液面でその超音波を反射させることにより、前記被処理液体の処理を行う超音波処理方法であって、前記処理槽内を、超音波振動子から遠い一次処理室と前記超音波振動子から近い二次処理室とに区画するとともに、前記被処理液体を前記一次処理室側から前記二次処理室側に流通させながら、前記二次処理室内の前記被処理液体を介して前記一次処理室内の前記被処理液体に超音波を照射するとともに、前記一次処理室内の前記被処理液体を脱気することを特徴とする超音波処理方法。
【0058】
(5)処理槽と、前記処理槽に設置された超音波振動子と、前記処理槽内を前記超音波振動子から遠い一次処理室と前記超音波振動子から近い二次処理室とに区画する仕切り部材と、前記一次処理室及び前記二次処理室間を連通させる通路とを備え、前記一次処理室内にて微小気泡を発生させる超音波気泡発生装置であって、前記一次処理室内には、超音波の照射によって処理されるべき被処理液体が最初に供給可能であり、前記二次処理室内には、前記一次処理室を通過した前記被処理液体が前記通路を介して供給可能であり、前記二次処理室内の前記被処理液体は、前記超音波振動子が発生した超音波を前記一次処理室内の前記被処理液体に伝播させる媒体として作用しうることを特徴とする超音波気泡発生装置。
【0059】
(6)処理槽内の被処理液体に超音波を照射してその被処理液体中に微小気泡を発生させる超音波気泡発生方法であって、前記処理槽内を、超音波振動子から遠い一次処理室と前記超音波振動子から近い二次処理室とに区画するとともに、前記被処理液体を前記一次処理室側から前記二次処理室側に流通させながら、前記二次処理室内の前記被処理液体を介して前記一次処理室内の前記被処理液体に超音波を照射することで、前記一次処理室内の前記被処理液体に前記微小気泡を発生させることを特徴とする超音波気泡発生方法。
【0060】
(7)上記技術的思想6または7において、前記微小気泡は主としてナノバブルであること。
【0061】
(8)上記技術的思想6または7において、前記微小気泡は主としてマイクロバブルであること。
【0062】
(9)上記技術的思想6または7において、前記微小気泡はナノバブル及びマイクロバブルの混合物であること。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明を具体化した一実施形態の超音波反応装置を示す概略構成図。
【図2】(a),(b)は赤外線サーモグラフィを用いて可視化された温度分布を示す説明図。
【図3】反応槽における高さと化学変化量との関係を示すグラフ。
【図4】別の実施形態の超音波反応装置を示す概略構成図。
【図5】従来の超音波反応装置を示す概略構成図。
【図6】本願発明者が既に提案している超音波反応装置を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0064】
10,10A…超音波処理装置としての超音波反応装置
12…処理槽としての反応槽
13…超音波振動子
15…仕切り部材としての仕切り板
16…二次処理室
17…一次処理室
19…底部
20…超音波
26…通路としての移送用配管
W1…被処理液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽と、前記処理槽に設置された超音波振動子と、前記処理槽内を前記超音波振動子から遠い一次処理室と前記超音波振動子から近い二次処理室とに区画する仕切り部材と、前記一次処理室及び前記二次処理室間を連通させる通路とを備えた超音波処理装置であって、
前記一次処理室内には、超音波の照射によって処理されるべき被処理液体が最初に供給可能であり、前記二次処理室内には、前記一次処理室を通過した前記被処理液体が前記通路を介して供給可能であり、前記二次処理室内の前記被処理液体は、前記超音波振動子が発生した超音波を前記一次処理室内の前記被処理液体に伝播させる媒体として作用しうることを特徴とする超音波処理装置。
【請求項2】
前記超音波振動子は前記処理槽の底部に設置され、前記仕切り部材は前記処理槽内を上下に仕切って前記一次処理室と前記二次処理室とに区画することを特徴とする請求項1に記載の超音波処理装置。
【請求項3】
前記通路は前記処理槽の外部に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波処理装置。
【請求項4】
処理槽内の被処理液体に超音波を照射してその処理を行う超音波処理方法であって、
前記処理槽内を、超音波振動子から遠い一次処理室と前記超音波振動子から近い二次処理室とに区画するとともに、前記被処理液体を前記一次処理室側から前記二次処理室側に流通させながら、前記二次処理室内の前記被処理液体を介して前記一次処理室内の前記被処理液体に超音波を照射することを特徴とする超音波処理方法。
【請求項5】
前記一次処理室内にて前記被処理液体に超音波を照射することにより、前記被処理液体を脱気することを特徴とする請求項4に記載の超音波処理方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−305427(P2006−305427A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128765(P2005−128765)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000243364)本多電子株式会社 (255)
【出願人】(504416138)
【Fターム(参考)】