説明

超音波探触子及びこれを用いた超音波診断装置

【課題】cMUTを用いた超音波探触子において、好適な絶縁構造を施すことにより被検体への電気漏洩を防止し、電気的安全性を向上させた超音波探触子を提供する。
【解決手段】音響レンズ26の超音波送受信面側あるいは音響レンズとcMUTチップ20の間に、電気漏洩防止手段が備えられている。電気漏洩防止手段は、例えば絶縁層であり、例えばグランド層である。このような構造の超音波探触子2cにより、超音波探触子から被検体への電気漏洩を防止し、電気的安全性を向上させた超音波探触子及びこれを用いた超音波診断装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子及びこれを用いた超音波診断装置に関し、特に、被検体に対する電気的安全性を向上させた超音波探触子及びこれを用いた超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波探触子から出力されるエコー信号とその反射信号に基づいて診断画像を撮像する装置である。超音波探触子には、複数の超音波振動子が配列される。超音波振動子は、駆動信号を超音波に変換して超音波を被検体に送波すると伴に、被検体から発生した反射エコー信号を受波して電気信号に変換する。
【0003】
近年、cMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)を用いた超音波探触子が開発されている。cMUTは、半導体微細加工プロセスにより製造される超微細容量型超音波振動子であり、例えば特許文献1に開示されているようなものである。cMUTでは、超音波送受信面に平行な方向に複数対相対して配置された2つの電極(被検体側とバッキング層側)にバイアス電圧を印加するとともに、駆動信号を重畳して印加し、超音波を発信する
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許5894452号公報
【特許文献2】特開2007-235795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らは、上記従来技術を検討した結果以下の問題点に気がついた。
すなわち、従来のPZTを用いた超音波探触子では超音波送受信面に相対して配置された電極間に1種類の駆動信号を電圧として印加するのみであり、例えば特許文献2記載のように被検体側に配置された電極にグランド電極を接触して、電極から被検体の方へ流れる電流を低減することができた。しかし、cMUTを用いた超音波探触子では、主に前記バイアス電圧をバッキング層側の電極に印加するとともに、高周波から成る駆動信号(駆動電圧)を被検体側の電極に印加するため、グランド層を直接被検体側の電極に接触させることができなく、グランド層を設けられなければ、絶縁構造が不十分となる。
【0006】
また、cMUTを用いた超音波探触子では、音響整合層を設けない場合があるが、その場合にも絶縁構造の劣化が問題となる。
【0007】
本発明の目的は、cMUTを用いた超音波探触子において、好適な絶縁構造を施すことにより被検体への電気漏洩を防止し、電気的安全性を向上させた超音波探触子及びこれを用いた超音波診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、バイアス電圧に応じて電気機械結合係数または感度が変化する複数の振動要素を有し超音波を送受波するcMUTチップと、前記cMUTチップの上方に設けられる音響レンズと、前記cMUTチップの下方に設けられるバッキング層とを備える超音波探触子において、
前記音響レンズの超音波送受信面側あるいは前記音響レンズと前記cMUTチップの間に、電気漏洩防止手段が備えられていることを特徴とする超音波探触子が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、cMUTを用いた超音波探触子において、好適な絶縁構造を施すことにより被検体への電気漏洩を防止し、電気的安全性を向上させた超音波探触子及びこれを用いた超音波診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の構成図
【図2】本発明に係る超音波探触子の構成図
【図3】本発明に係る振動子の構成図
【図4】図3における振動要素一個を側面から見た構成図
【図5】実施例1に係る超音波探触子を示す図
【図6】超音波探触子の配線を示す図
【図7】実施例2に係る超音波探触子を示す図
【図8】実施例3に係る超音波探触子を示す図
【図9】実施例4に係る超音波探触子を示す図
【図10】導電構造及び絶縁構造を示す模式図
【図11】実施例5に係る超音波探触子を示す図
【図12】実施例6に係る超音波探触子を示す図
【図13】実施例7に係る超音波探触子を示す図
【図14】実施例8に係る超音波探触子を示す図
【図15】実施例9に係る超音波探触子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下添付図面を参照しながら、本発明に係る超音波探触子及びこれを用いた超音波診断装置の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、以下の説明及び添付図面において、略同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【0012】
最初に、図1を参照しながら、超音波診断装置1の構成について説明する。
図1は、超音波診断装置1の構成図である。
【0013】
本発明に係る超音波診断装置1は、超音波探触子2と、送信手段3と、バイアス手段4と、受信手段5と、整相加算手段6と、画像処理手段7と、表示手段8と、制御手段9と、操作手段10とから構成される。
【0014】
超音波探触子2は、被検体に接触させて被検体との間で超音波を送受波するものである。超音波探触子2から超音波が被検体に射出され、被検体から発生した反射エコー信号が超音波探触子2により受波される。
【0015】
送信手段3及びバイアス手段4は、超音波探触子2内に相対して配置された電極にバイアス電圧を印加するとともに、駆動信号を重畳して印加し、超音波を発信するためのものである。
【0016】
受信手段5は、超音波探触子2への反射エコー信号を受信するものである。
受信手段5は、さらに、受信した反射エコー信号に対してアナログデジタル変換等の処理も行う。
【0017】
整相加算手段6は、受信された反射エコー信号を整相加算する装置である。
画像処理手段7は、整相加算された反射エコー信号に基づいて診断画像(例えば、断層像や血流像)を生成するする装置である。
【0018】
表示手段8は、画像処理手段7で生成された診断画像を表示する表示装置である。
制御手段9は、上述した各構成要素を制御する装置である。
操作手段10は、制御手段9に例えば、診断開始の合図等の指示を与える装置である。操作手段10は、例えば、トラックボールやキーボードやマウス等の入力機器である。
【0019】
次に、図2〜図4を参照しながら、超音波探触子2について説明する。
図2は、超音波探触子2の構成図である。図2は、超音波探触子2の一部切り欠き斜視図である。ただし、図の向かって上側が被検体に接触され、超音波が送信される方向である。
【0020】
超音波探触子2は、cMUTチップ20を備える。cMUTチップ20は、複数の振動子21-1、振動子21-2、・・・が短柵状に配列された1次元アレイ型の振動子群である。振動子21-1、振動子21-2、・・・には、複数の振動要素28が配設される。尚、図2で示されたものはリニア型探触子であるが、2次元アレイ型やコンベックス型等の他の形態の振動子群を用いてもよい。
【0021】
cMUTチップ20の背面側(図の向かって下側)には、バッキング層22が設けられる。cMUTチップ20の超音波射出側には、音響レンズ26が設けられる。cMUTチップ20及びバッキング層22などは、超音波探触子カバー25に格納される。
【0022】
cMUTチップ20では、バイアス手段4によるバイアス電圧が印加の基に、送信手段3からの駆動信号が超音波に変換され、変換された超音波は被検体に送波される。
【0023】
受信手段5は、被検体から発生した超音波を電気信号に変換して反射エコー信号として受波する。
バッキング層22は、cMUTチップ20から背面側に射出される超音波の伝搬を吸収して、余分な振動を抑制するための層である。
【0024】
音響レンズ26は、cMUTチップ20から送波される超音波ビームを収束させるレンズである。音響レンズ26は、所望の焦点距離に基づいて曲率が定められる。
【0025】
尚、音響レンズ26とcMUTチップ20との間にマッチング層を設けてもよい。マッチング層は、cMUTチップ20及び被検体の音響インピーダンスを整合させて、超音波の伝送効率を向上させる層である。
【0026】
図3は、図2における振動子21の構成図である。
【0027】
振動子21-1、21-2、・・・を構成する複数の振動要素28の被検体側には、上部電極46-1、46-2、・・・が配置され、長軸方向Xに複数個に分割されて振動子21毎に結線される。すなわち、上部電極46-1、上部電極46-2・・・は、長軸方向Xに並列配置される。
【0028】
振動子21を構成する複数の振動要素28の被検体と反対側には下部電極(48-1〜48-4)が配置され、短軸方向Yに複数個(図3では4列)に分割されて結線される。すなわち、下部電極48-1、下部電極48-2、下部電極48-3、・・・は、短軸方向Yに並列配置される。
【0029】
図4は、図3における振動要素28一個を側面から見た構成図(断面図)である。
振動要素28は、基板40、膜体44、膜体45、上部電極46、枠体47、下部電極48から構成される。振動要素28は、半導体プロセスによる微細加工により形成される。尚、振動要素28は、cMUTの1素子分に相当する。
【0030】
基板40は、シリコン等の半導体基板であり、下部電極側に配置されている。
膜体44及び枠体47は、シリコン化合物等の半導体化合物から形成される。膜体44は、振動要素28の最も被検体側(超音波射出側)に設けられ、枠体47は膜体44の背面(被検体側と反対側)に配置される。膜体44と枠体47との間に上部電極46が設けられる。枠体47と基板40の間には膜体45が設けられ、その内部に下部電極48が設けられる。枠体47及び膜体45により区画された内部空間50は、真空状態とされるか、あるいは、所定のガスが充填される。
【0031】
上部電極46及び下部電極48は、それぞれ、駆動信号としての交流高周波電圧を供給する送信手段3と、バイアス電圧として直流電圧を印加するバイアス手段4とに接続される。
【0032】
超音波を送波する場合には、振動要素28の上部電極46及び下部電極48に、直流のバイアス電圧(Va)が印加され、バイアス電圧(Va)により電界が発生する。発生した電界により膜体44に張力が発生して所定の電気機械結合係数(Sa)になる。送信手段3から上部電極46に駆動信号が供給されると、電気機械結合係数(Sa)に基づいた強度の超音波が膜体44から射出される。
【0033】
また、振動要素28の上部電極46及び下部電極48に、別の直流のバイアス電圧(Vb)が印加されると、バイアス電圧(Vb)により電界が発生する。発生した電界により膜体44に張力が発生して所定の電気機械結合係数(Sb)になる。送信手段3から上部電極46に駆動信号が供給されると、電気機械結合係数(Sb)に基づいた強度の超音波が膜体44から射出される。
【0034】
ここで、バイアス電圧が「Va<Vb」の場合には、電気機械結合係数は「Sa<Sb」となる。
一方、超音波を受波する場合には、被検体から発生した反射エコー信号により膜体44が励起されて内部空間50の容量が変化する。この内部空間50の変化の量が、電気信号として上部電極46を介して検出される。
【0035】
尚、振動要素28の電気機械結合係数は、膜体44に負荷される張力により決定される。従って、振動要素28に印加するバイアス電圧の大きさを変えて膜体44の張力を制御すれば、同一振幅の駆動信号が入力される場合であっても、振動要素28から射出される超音波の強度(あるいは音圧、振幅)を変化させることができる。
【実施例1】
【0036】
次に、図5及び図6を参照しながら、本発明の実施例1について説明する。
【0037】
図5は、実施例1に係る超音波探触子2を示す図である。図5は、図2の超音波探触子2の平面A断面図である。
【0038】
図5によれば、音響レンズ26の背面に、絶縁層である絶縁膜78が形成される。絶縁膜78は、例えば、シリコン酸化物膜、パラキシリレン膜である。
【0039】
cMUTチップ20は、接着層70を介してバッキング層22の上面に接着される。バッキング層22の上面周縁から四方側面に渡って、フレキシブル基板72(Flexible printed circuits:FPC)が設けられる。フレキシブル基板72は、接着層71を介してバッキング層22の上面周縁に接着される。
【0040】
接着層70及び接着層71は、例えば、エポキシ樹脂からなる接着剤である。接着層70及び接着層71の層厚を任意に調整して、cMUTチップ20及びフレキシブル基板72の高さ方向位置を調整することができる。
【0041】
フレキシブル基板72とcMUTチップ20とは、ワイヤ86を介して電気的に接続される。ワイヤ86は、ワイヤボンディング方式により接続される。ワイヤ86としては、Auワイヤ等を用いることができる。ワイヤ86の周囲には、ワイヤ封止樹脂88が充填される。
【0042】
音響レンズ26は、接着層90を介してcMUTチップ20の上面に接着される。音響レンズ26の材質としては、例えば、シリコンゴムが用いられる。接着層90の材質に関しては、音響レンズ26と類似の材質(例えば、シリコン)とすることが望ましい。
【0043】
音響レンズ26の上面は、超音波が射出される領域である少なくとも領域23の範囲内において、超音波照射方向に凸状である。cMUTチップ20には、少なくとも領域23に対応する範囲内に、振動要素28が配置される。音響レンズ26の超音波射出側(被検体側に)凸状の部分から超音波が照射される。
【0044】
音響レンズ26の背面(被検体の配置される方向と反対側、バッキング層側)
は、cMUTチップ20がその中に配置されるように凹部を有している。この凹部には、cMUTチップ20とフレキシブル基板72との接続部分(ワイヤ防止樹脂88)が嵌合される。
【0045】
超音波探触子カバー25は、超音波探触子2の四方側面に設けられる。超音波探触子カバー25は、音響レンズ26の四方側面に固定される。検者は、超音波探触子カバー25を手で把持して超音波探触子2を操作する。
【0046】
図6は、超音波探触子2の配線を示す図である。
cMUTチップ20の基板40は、バッキング層22の上面に固定される。フレキシブル基板72は、バッキング層22の上面周縁に固定される。
【0047】
フレキシブル基板72には、紙面上下で対になる信号パターン38-1〜信号パターン38-n及び紙面左右で対になる信号パターン41-1〜信号パターン41-4が配設される。
【0048】
上部電極46-1〜上部電極46-nは、信号パターン38-1〜信号パターン38-nに接続される。下部電極48-1〜下部電極48-4は、信号パターン41-1〜信号パターン41-4に接続される。隣接する下部電極48-1〜下部電極48-4間は互いに、絶縁される。
【0049】
上部電極46及び下部電極48は、それぞれ、ワイヤ86を介してワイヤボンディング方式によりフレキシブル基板72に接続される。
【0050】
尚、下部電極48-1〜下部電極48-4の形状は、振動要素28の形状(例えば、六角形)に応じた形状(例えば、波形)とすることが望ましい。これにより、各振動要素28を下部共通電極48-1〜下部共通電極48-4のいずれかのみに対応させて配置することができる。
【0051】
また、下部電極48-1〜下部電極48-4が4個配設されるが、数はこれに限られない。
また、信号パターン38-1〜信号パターン38-nは紙面上下に対にして設けられ、信号パターン48-1〜信号パターン48-4は紙面左右に対にして設けられるものとして説明したが、これに限られず、対にせずに片方だけでもよい。
【0052】
また、信号パターンと上部電極又は下部電極とがワイヤボンディング方式により接続されるものとして説明したが、これに限られず、パッド同士で接続するフリップチップボンディング方式を用いてもよい。
【0053】
以上詳細に説明したように、実施例1の超音波探触子2では、音響レンズとcMUTチップとの間に、cMUTチップ内の電極から被検体へ電気が漏洩するのを防止するための電気漏洩防止手段である絶縁層が絶縁膜78として形成される。超音波送受信面とcMUTチップとの間は、音響レンズ及び絶縁層により二重絶縁される。これにより、超音波送受信面の摩耗や破損等が生じても超音波送受信面から被検体へ電気が漏洩して感電することがなく、超音波探触子の安全性が向上する。
【実施例2】
【0054】
次に、図7を参照しながら、実施例2について説明する。
図7は、実施例2に係る超音波探触子2aを示す図である。図7は、図2の平面A断面図に相当する。
【0055】
実施例1では、絶縁膜78は、音響レンズ26の下面に設けられるものとして説明したが、実施例2では、cMUTチップ内の電極から被検体へ電気が漏洩するのを防止するための電気漏洩防止手段である絶縁層が絶縁膜78aとして、音響レンズ26の上面(被検体側)に設けられる。
【0056】
このように、実施例2の超音波探触子2aでは、音響レンズの上面に絶縁層が形成される。超音波送受信面とcMUTチップとの間は、絶縁層(絶縁膜)及び音響レンズにより二重絶縁される。従って、実施例1と同様の効果、すなわち、超音波送受信面の摩耗や破損等が生じても超音波送受信面から被検体へ電気が漏洩して感電することがなく、超音波探触子の安全性が向上するという効果が得られる。
【0057】
尚、実施例2では、絶縁層は音響レンズの下面ではなく上面に設けられるので、実施例1と比較して製作が容易である。
【実施例3】
【0058】
次に、図8を参照しながら、実施例3について説明する。
図8は、実施例3に係る超音波探触子2bを示す図である。図8は、図2の平面A断面図に相当する。
【0059】
実施例1では、絶縁膜78は、音響レンズ26の下面に設けられるものとして説明したが、実施例3では、cMUTチップ内の電極から被検体へ電気が漏洩するのを防止するための電気漏洩防止手段である絶縁層が絶縁膜78bとして、cMUTチップ20の上面に設けられる。
【0060】
このように、実施例3の超音波探触子2bでは、cMUTチップの上面に絶縁層が形成される。超音波送受信面とcMUTチップとの間は、絶縁層及び音響レンズにより二重絶縁される。従って、実施例1と同様の効果を奏する。
【実施例4】
【0061】
次に、図9及び図10を参照しながら、実施例4について説明する。
図9は、実施例4に係る超音波探触子2cを示す図である。図9は、図2の平面A断面図に相当する。
【0062】
実施例1では、グランド層が設けられないものとして説明したが、実施例4では、絶縁層としての絶縁膜78の背面(被検体側と反対側)にcMUTチップ内の電極から被検体へ電気が漏洩するのを防止するための電気漏洩防止手段として更に、グランド層である導電膜76が設けられる。
【0063】
導電膜76は、グランド電位であるグランド108に接続される。導電膜76は、例えば、Cu膜である。音響レンズ26の背面に絶縁膜78が設けられ、絶縁膜78の背面にCu膜を蒸着させて導電膜76が形成される。
【0064】
導電膜76は、音響レンズ26の内部下面からの外部側面に渡って形成される。導電膜76は、導電材80及びグランド線84を介して、本体装置側のグランド108に接続される。
【0065】
導電材80は、導電性を有する部材である。導電材80は、導電膜76と比較して破損しにくい信頼度の高い部材で製作することができる。導電材80は、例えば、導電膜76より高剛性のCuテープである。導電材80は、フレキシブル基板72の外部側面に固定される。
【0066】
グランド線84は、半田付け等により接続部82を介して導電材80に接続される。
図10は、導電構造及び絶縁構造を示す模式図である。
【0067】
上部電極46は、ケーブル96及び送受分離回路98を介して受信アンプ100及び送信手段3に接続される。下部電極48は、ケーブル102を介してバイアス手段4に接続される。
【0068】
抵抗110は、バイアス手段4の電位をグランド電位に安定化させる抵抗素子である。コンデンサ112は、信号電流のバイパス用の容量素子である。
【0069】
導電膜76は、グランド線84が接続され、さらに、本体装置のシャーシグランドを介してグランド108に接続される。
【0070】
このように、実施例4の超音波探触子2cでは、絶縁層としての絶縁膜78の下方にグランド層としての導電膜76が設けられる。これにより、音響レンズ26及び絶縁膜78が破損した場合でも導電膜76がグランド電位のために感電を防止し、被検体に対する超音波探触子の電気的安全性を向上させることができる。
【0071】
また、導電膜76及びグランド線84及び本体装置のシャーシグランドにより、グランド電位の閉空間が形成される。すなわち、超音波探触子2cの主要構成要素や超音波診断装置の本体回路は、グランド電位の閉空間に内包されるので、外部からの不要電波の影響を受けたり、超音波探触子2c自身が発生する電磁波により外部装置に悪影響を及ぼすこと防止することができる。
【0072】
また、実施例4の超音波探触子2cでは、導電膜76は、音響レンズ26の内部下面から外部側面に渡って形成され、高信頼度の導電材80及びグランド線84を介してグランド108に接続される。
【0073】
これにより、インモールド成形で引き出すシート状の導電膜ではなく、音響レンズ内部下面から外部側面に渡って形成された導電膜から導電材を介してグランド線と容易かつ確実に接続することができる。
そのため、実装の確実性及び作業性を向上させることができる。
【0074】
また、高信頼度の導電材を用いることにより、フレキシブル基板に固定した際に導電材が破損することを防止することができる。
【0075】
また、図9では、フレキシブル基板72の紙面左側側面のみに導電材80及びグランド線84を図示したが、フレキシブル基板72の四方側面の少なくともいずれかに設けてもよい。
【0076】
尚、導電膜76とグランド線84とを直接接続してもよい。この場合は、導電膜76は膜厚が薄いので、実装作業を慎重に行う必要がある。
【0077】
本実施例では、グランド層が絶縁膜78の背面(被検体側と反対側)に設けられているが、該グランド層とcMUTチップ内の電極(例えば図4における電極46)の間には電気を導通しない介在層が、cMUTチップの一部に図4における膜体44として配置されている。そのため、cMUTチップ内の電極(例えば図4における電極46)とグランド層が特許文献2のように接していないので、超音波送受信のための駆動電圧をcMUTチップ内の超音波送受信側(被検体側)の電極へも印加できるという利点もある。
【実施例5】
【0078】
次に、図11を参照しながら、実施例5について説明する。
図11は、実施例5に係る超音波探触子2dを示す図である。図11は、図2の平面A断面図に相当する。
【0079】
実施例4では、導電材80は、フレキシブル基板72の外部側面に固定されるものとして説明したが、これに限られず、導電材80を固定可能な部材であれば固定先は限定されない。実施例5では、導電材80dは、超音波探触子カバー25の内部側面に固定される。
【0080】
導電膜76は、導電材80d及びグランド線84dを介して、本体装置側のグランド108に接続される。
【0081】
導電材80dは、超音波探触子カバー25の内部側面に固定される。グランド線84dは、半田付け等により接続部82dを介して導電材80dに接続される。
【0082】
これにより、実施例5では、実施例4と同様に、高信頼度を確保しつつ導電膜とグランド線とを容易かつ確実に接続することができる。
【0083】
尚、図11では、超音波探触子カバー25の紙面左側内部側面のみに導電材80d及びグランド線84dを図示したが、超音波探触子カバー25の四方内部側面の少なくともいずれかに設けてもよい。
【実施例6】
【0084】
次に、図12を参照しながら、実施例6について説明する。
図12は、実施例6に係る超音波探触子2eを示す図である。図12は、図2の平面A断面図に相当する。
【0085】
実施例1〜実施例5では、1層の絶縁層が設けられるものとして説明したが、第6の実施形態では、グランド層を挟んで2層の絶縁層が設けられる。
【0086】
音響レンズ26とcMUTチップ20上の接着層90との間には、上部絶縁層としての絶縁膜78及びグランド層としての導電膜76及び下部絶縁層としての絶縁膜74が形成される。導電膜76は、絶縁膜78と絶縁膜74との間に形成される。
【0087】
すなわち、超音波探触子2の被検体に接触される方向から音響レンズ26及び絶縁膜78及び導電膜76及び絶縁膜74の順で積層される。詳細には、音響レンズ26下面に絶縁膜78が形成され、絶縁膜78の下面にCu膜を蒸着させて導電膜76が形成され、導電膜76の下面に絶縁膜74が形成される。
【0088】
このように、実施例6では、超音波送受信面とcMUTチップとの間には、音響レンズ及び、cMUTチップ内の電極から被検体へ電気が漏洩するのを防止するための電気漏洩防止手段としての導電膜を間に挟んだ2層の絶縁層が備えられている。これにより、超音波探触子の絶縁性を高めて安全性を向上させることができる。
【0089】
また本実施例では、グランド層が2層の絶縁膜74と78の間に設けられているが、該グランド層とcMUTチップ内の電極(例えば図4における電極46)の間には電気を導通しない介在層として更に、絶縁膜74が配置されている。そのため、cMUTチップ内の電極(例えば図4における電極46)とグランド層が特許文献2のように接していないので、超音波送受信のための駆動電圧をcMUTチップ内の超音波送受信面側(被検体側)の電極へも印加できるという利点がある。
【実施例7】
【0090】
次に、図13を参照しながら、実施例7について説明する。
図13は、実施例7に係る超音波探触子2fを示す図である。図13は、図2の平面A断面図に相当する。
【0091】
実施例6では、絶縁膜74は、領域23で示された領域に設けられるものとして説明したが、第7の実施形態では、絶縁膜74fは、領域23の範囲には設けられない。
【0092】
このように、実施例7では、cMUTチップ20上に絶縁膜74fが存在せず、絶縁膜74fがcMUTチップ20において送受される超音波に影響を及ぼすことがない。従って、音響特性を向上させることができる。
【0093】
上述の実施例では、導電層の膜厚を0.1μm程度とし、絶縁層の膜厚を1μm程度とすることが望ましい。絶縁層及び導電層の膜厚をそれぞれ薄くすることにより、cMUTチップにおいて送受される超音波への影響(パルス・周波数特性への影響や減衰)を抑制することができる。
【0094】
膜形成方法に関しては、音響レンズの成形と同時に導電膜付絶縁シートをインモールド成形する方法や絶縁膜及び導電膜を物理的蒸着あるいは化学的蒸着により形成する方法がある。インモールド成形では、低コストに膜を形成することができるが、膜厚10μm程度が限界である。一方、蒸着による膜形成では、膜厚1μm程度とすることができる。
【0095】
本実施例において、領域23において絶縁膜が設けられない領域は74fであったが、78でも良いし、両方でも良い。
【0096】
尚、上述の実施形態を適宜組み合わせて超音波探触子及び超音波診断装置を構成するようにしてもよい。
【実施例8】
【0097】
図14は、実施例8に係る超音波探触子2gを示す図である。
【0098】
超音波探触子2gは、音響レンズ26の下面にグランド層76gが設けられ、更に絶縁層78gが音響レンズ26の上面(被検体側)に設けられ、絶縁膜74gがグランド層76gの背面に設けられている。
【実施例9】
【0099】
図15は、実施例9に係る超音波探触子2hを示す図である。
超音波探触子2hは、cMUTチップ内の電極から被検体へ電気が漏洩するのを防止するための電気漏洩防止手段として導電膜を間に挟んだ2層の絶縁層が備えられている場合であるが、導電膜76hとグランド線84を結ぶための導電材80が、フレキシブル基板72に固定されている例である。
【0100】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る超音波探触子及び超音波診断装置の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0101】
2c 超音波探触子、20 cMUTチップ、22 バッキング層、23 超音波が射出される領域、25 超音波探触子カバー、26 音響レンズ、70、71 接着層、72 フレキシブル基板、76 導電膜、78 絶縁膜、80 導電材、82 接続部、84 グランド線、86 ワイヤ、88 ワイヤ封止樹脂、90 接着層、108 グランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアス電圧に応じて電気機械結合係数または感度が変化する複数の振動要素を有し
超音波を送受波するcMUTチップと、前記cMUTチップの上方に設けられる音響レンズと、前記cMUTチップの下方に設けられるバッキング層とを備える超音波探触子において、
前記音響レンズの超音波送受信面側あるいは前記音響レンズと前記cMUTチップの間に、cMUTチップ内の電極から被検体へ電気が漏洩するのを防止するための電気漏洩防止手段が備えられていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
請求項1記載の超音波探触子において、
前記電気漏洩防止手段は、少なくとも一層の絶縁層であることを特徴とする超音波探触子。
【請求項3】
請求項1記載の超音波探触子において、
前記電気漏洩防止手段は、前記音響レンズと前記cMUTチップの間に配置された少なくとも一層のグランド層であることを特徴とする超音波探触子。
【請求項4】
請求項3記載の超音波探触子において、
前記グランド層と前記cMUTチップ内部に備えられた電極との間に介在層が備えられていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項5】
請求項4記載の超音波探触子において、
前記介在層は、電気を導通しない材質から成る絶縁層であり、前記グランド層と前記cMUTチップの間に備えられていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項6】
請求項4記載の超音波探触子において、
前記介在層は、前記cMUTチップの一部であり、前記電極の前記超音波送受信面側に備えられていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項7】
請求項6記載の超音波探触子において、
前記介在層は膜体であることを特徴とする超音波探触子。
【請求項8】
請求項2記載の超音波探触子において、
前記絶縁層が前記音響レンズの超音波送受信面に備えられていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項9】
請求項2記載の超音波探触子において、
前記絶縁層が前記音響レンズの前記被検体側と反対側の面に沿って備えられていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項10】
請求項2記載の超音波探触子において、
前記絶縁層が前記cMUTチップの前記被検体側の面に備えられていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項11】
請求項2記載の超音波探触子において、
少なくとも1層のグランド層が、前記絶縁層の前記被検体側と反対側に備えられていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項12】
請求項3記載の超音波探触子において、
前記バッキング層の上面周縁から四方側面に渡ってフレキシブル基板が備えられ、前記グランド層が、前記フレキシブル基板の外部側面に固定された導電材及びグランド線を介してグランドに接続されていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項13】
請求項3記載の超音波探触子において、
前記バッキング層の上面周縁から四方側面に渡って配置されたフレキシブル基板と、前記超音波探触子の四方側面に配置された超音波探触子カバーが備えられ、
前記グランド層が、前記超音波探触子カバーの内部側面に固定された導電材及びグランド線を介してグランドに接続されていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項14】
請求項1記載の超音波探触子において、
前記電気漏洩防止手段は、前記音響レンズと前記cMUTチップの間に配置され、該電気漏洩防止手段は、1層のグランド層と、それを挟んで配置された2層の絶縁層より構成されていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項15】
請求項14記載の超音波探触子において、
前記2層の絶縁層少なくとも1層の一部が、前記複数の振動素子の前記被検体側に対応する部分の少なくとも一部において、設けられていないことを特徴とする超音波探触子。
【請求項16】
請求項2記載の超音波探触子において、
前記絶縁層はシリコン酸化物膜あるいはパラキシリレン膜であることを特徴とする超音波探触子。
【請求項17】
請求項3記載の超音波探触子において、
前記グランド層はCu膜であることを特徴とする超音波探触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−135622(P2012−135622A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−6631(P2012−6631)
【出願日】平成24年1月17日(2012.1.17)
【分割の表示】特願2008−543071(P2008−543071)の分割
【原出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】