説明

超音波探触子及び超音波探触子の作製方法

【課題】圧電素子を採用した積層圧電素子2Dアレイが生成する超音波信号の強度を高くするには、超音波の受信方向に対して垂直方向に、各々の圧電素子を精度よく位置決めする必要がある。そこで、各々の圧電素子を精度よく位置決めすることで、高い強度の超音波信号を生成する超音波探触子及びその作製方法を提供する。
【解決手段】所定形状を有する少なくとも一つの表面電極と、所定形状を有する裏面電極とを有する有機圧電膜を平行に複数備える超音波探触子であって、前記複数の有機圧電膜を所定の入射光が透過する率を5%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子及び超音波探触子の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、体内の血流や体組織の断面形状の画像化に広く使われている。超音波診断装置は、生体組織に超音波を細いビームに絞り込みつつ送信し、組織界面のインピーダンス差によって生じる反射エコーを受信し、体内組織の画像形成を行う。
【0003】
超音波診断装置においては、通常、1次元方向に超音波振動子を配列した1Dアレイ型探触子によって超音波を2次元方向にスキャンし、体内断面画像の形成を行っている。この1Dアレイ型探触子に対して、配列方向と直行した方向にもビームを走査することで臓器や血流の3次元画像を得ることを目的とした超音波探触子が登場している。3次元画像形成用の超音波探触子は、1Dアレイをアレイ配列方向と直行する方向に機械的に揺動させるメカニカルタイプと、2次元方向に超音波振動子を配列した2Dアレイのタイプに分けられる。メカニカルタイプは機械駆動系を持つため、フレームレートや質量などの問題があり、次世代超音波探触子の本命は2Dアレイのタイプと考えられている。
【0004】
超音波探触子においては、無機圧電素子を利用した超音波振動子の採用が主流であった。また、小型で高性能の探触子を得るために、一つの無機圧電素子を積層して単一の超音波探触子を作製した後、平面状に配列して2Dアレイを作製する積層圧電素子2Dアレイが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
一方、無機圧電素子に比べて、高調波成分を含む超音波の受信に威力を発揮する有機圧電膜を積層した超音波受信用有機圧電素子を採用した超音波探触子も知られており、有機圧電膜であるポリ尿素膜と電極であるアルミニウムの蒸着を交互に繰り返して有機圧電素子を作製することも提案されている。(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−138400号公報
【特許文献2】国際公開第07/145073号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
積層圧電素子2Dアレイにおいて超音波信号の受信感度を高くしたり送信強度を高くするには、超音波の送受信方向に対して垂直方向に、各々の圧電素子を精度よく位置決めして、各々の圧電素子が送受信する超音波の位相を揃える必要がある。また、積層される単一の超音波探触子の外形形状や、積層される単一の超音波探触子を構成する各無機圧電素子の自体の外形に対する位置精度を、高く保つ必要がある。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているような、圧電素子を積層する工程や、外形加工する工程は、機械的な工程であることから、圧電素子の外形形状の加工精度や、積層される圧電素子相互の位置精度を高くすることは難しい。
【0008】
また、特許文献2に開示されているような、有機圧電膜と電極の蒸着を交互に繰り返して有機圧電素子を作製する場合にあっては、繰り返される電極の形成位置が複数層の電極のそれぞれにおいて、超音波の送受信方向に対して垂直方向に精度よく位置決めされていることが求められる。
【0009】
本発明の目的は、小型でありながら、高い強度の超音波信号を生成、あるいは超音波信号に対する高い受信感度を有する超音波探触子、及びその作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的は、下記に記載する発明により達成される。
1.光透過率が5%以上の有機圧電膜上に、所定形状を有する少なくとも一つの表面電極と、前記表面電極と前記有機圧電膜を介して対向する位置に配置された、所定形状を有する裏面電極と、を有する有機圧電素子を、
第1の前記有機圧電素子の表面電極若しくは裏面電極と、第2の前記有機圧電素子の表面電極若しくは裏面電極とが互いに対向するように積層されたことを特徴とする超音波探触子。
2.前記表面電極と前記裏面電極の少なくとも一方に接続され、前記第1の有機圧電素子の有機圧電膜又は前記第2の有機圧電素子の有機圧電膜を貫通している信号線を有することを特徴とする前記1に記載の超音波探触子。
3.前記表面電極及び前記裏面電極の少なくとも一方は、一つの前記有機圧電膜上に複数形成されていることを特徴とする前記1または2記載の超音波探触子。
4.光透過率が5%以上の有機圧電膜上に、所定形状を有する少なくとも一つの表面電極と、前記表面電極と前記有機圧電膜を介して対向する位置に配置された、所定形状を有する裏面電極と、を有する有機圧電素子を形成する工程と、
第1の前記有機圧電素子の表面電極若しくは裏面電極と、第2の前記有機圧電素子の表面電極若しくは裏面電極とが互いに対向するように、前記有機圧電膜に参照光を照射して位置合わせしながら積層する工程とを含むことを特徴とする超音波探触子の作製方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、積層される有機圧電膜それぞれの、所定波長光の透過率を5%以上としているので、積層される各有機圧電膜に形成された電極同士の位置合わせを、有機圧電膜の透過光を用いて行うことができるので、小型でありながら、高い強度の超音波信号を生成、あるいは超音波信号に対する高い受信感度を有する超音波探触子を容易に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。
【0013】
なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
[第1の実施形態]
本発明に係る超音波探触子の第1の実施形態を図1乃至図3に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係る超音波探触子の概要斜視図である。送受別体積層型超音波探触子67は、支持部材であるバッキング144上に、無機圧電素子アレイ14及び積層有機圧電素子アレイ66を、整合層13を介してこの順に積層した構造を有し、さらに後述する音響整合層を積層有機圧電素子アレイ66上に有する。本実施の形態においては、受信側の圧電素子は積層有機圧電素子アレイ66であり、送信側の圧電素子は無機圧素子アレイ14である。
【0015】
積層有機圧電素子アレイ66は、後述する有機圧電膜100の表裏面それぞれに二次元方向に電極を配列した6枚の有機圧電素子アレイ12−1〜12−6を積層してなる。ここで、有機圧電素子アレイ12−1〜12−6はそれぞれ同様の構造を有しており、以下の説明において有機圧電素子アレイ12とする。
【0016】
積層される有機圧電素子アレイ12の枚数は、積層有機圧電素子アレイ66に要求される超音波受信性能に基づいて適宜に採用される。
【0017】
積層有機圧電素子アレイ66の下部には、信号線146等を導通させる異方性導電フィルムACF1、音響インピーダンスを整合させる整合層13を配置する。整合層13の下部には無機圧電素子アレイ14を配置する。無機圧電素子アレイ14は、ダイシングで絶縁樹脂を溝加工したダイシング溝埋め込み絶縁樹脂142に、所定の形状に加工されたPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の無機圧電材料14bを嵌め込み、無機圧電素子アレイ14上に電圧を印加する共通電極14aを形成したものである。無機圧電素子アレイ14の下部には、信号線146等を導通させる異方性導電フィルムACF2とバッキング144を配置する。
【0018】
有機圧電素子アレイ12の詳細について説明する。図2は、有機圧電素子アレイ12の斜視図である。図3は、有機圧電素子アレイ12の三面図である。有機圧電素子アレイ12は、フッ化ビニリデン−フッ化オレフィン共重合体、ポリ尿素等の有機圧電膜100の表裏面に、金属蒸着膜等の表面電極102と、裏面電極103とがそれぞれ二次元方向に配列されて複数形成されている。有機圧電膜100が超音波を受信すると、表面電極102と裏面電極103の間に電界が発生し、圧電効果に基づき、表面電極102と裏面電極103の間に電圧が発生する。
【0019】
本実施の形態においては、無機圧電素子アレイ14のように、複数の無機圧電材料14bを二次元方向に配列したものとは異なり、単一の有機圧電膜100上に複数の電極が二次元方向に配列されて有機圧電素子アレイ12が形成されている。
【0020】
表面電極102と裏面電極103には、後述するように、受信した超音波信号を伝達する信号線146等を接続する部分である信号線接続部104、105を設ける。信号線146は有機圧電膜100に対して垂直方向に、表面電極102と裏面電極103を貫通させる。また、表面電極102と裏面電極103とが導通しないように、信号線接続部104、105を表裏で重ならないように配置する。信号線146を貫通させることで、表面電極102と裏面電極103の数が多くとも容易に配線することができる。
【0021】
積層有機圧電素子アレイ66の最上部には、最上部の有機圧電素子アレイ12−1の表面に、所定形状で形成した電極膜を、共通電極111として形成する。
【0022】
以上のような構造を採用することで、高い受信感度で超音波信号を受信することが可能な超音波探触子を提供することができる。
(送受別体積層型超音波探触子67の作製方法)
続いて、送受別体積層型超音波探触子67の作製方法について図4から図8を用いて説明する。有機圧電膜は、無機圧電体と異なり、容易に電極膜形成が可能であることから、多数の電極を形成したフィルム状の有機圧電素子アレイを重ね合わせることで、高い受信感度を確保することが可能である。
【0023】
図4は送受別体積層型超音波探触子67の作製の概要を示すフロー図である。
【0024】
ステップS10において、有機圧電膜100に表面電極102及び裏面電極103をそれぞれ二次元方向に複数形成して有機圧電素子アレイ12を作製する。図9を用いて有機圧電素子アレイ12の作製方法を説明する。図9(a)は有機圧電素子アレイ12の各電極の作製に用いるマスクの概略構成を示す斜視図であり、図9(b)は表面電極と裏面電極の位置を合わせるためのマスクの位置合わせ装置の概要を示す斜視図であり、図9(c)はマスクの位置合わせ装置の概略構成を示す断面図であり、図9(d)は図9(c)の装置におけるマスクのx方向位置と受光素子の出力との関係を示すグラフである。
【0025】
有機圧電膜100の作製方法としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(以下「PVDF」と略す。)、を基板上に塗布し、乾燥して得る方法を採用することができる。
【0026】
表面電極102と裏面電極103の形成は、真空成膜法である蒸着法やスパッタリング法を採用する。電極の材料としては、電気を導通する材料であるならば、種類を問わない。Ni合金、金、銀、アルミなどは、入手容易性、低コスト、作製容易性の面で好適である。電極の形状としては、四角形状、円形状等、特に問わず、有機圧電膜100に電界を形成できる一定の面積を有する形状であればよい。
【0027】
各電極の形状は真空成膜法を実施する際のマスク形状がそのまま写し込まれる。図9(a)に示すように、有機圧電膜100上に電極形状に抜き取った抜き型マスクを配置し、抜き型マスク402を通して成膜を行う。なお、成膜を行う際には有機圧電膜100の温度特性を考慮し、熱ダメージを与えない温度設定を行う。フォトリソグラフィー法を用いてレジストなどからなるマスクを有機圧電膜100上に形成した後に成膜を行い、リフトオフなどの手法を用いてマスクを除去してもよい。フォトリソグラフィー法を採用する際には、有機圧電膜100に熱ダメージを与えないように、レジストのベーキングは実施しないことが好ましい。なお、有機圧電膜100の厚みは、約40μmである。
【0028】
表面電極102と裏面電極103の位置合わせについては、裏面電極103を先に作製し、裏面電極103に合わせて表面電極102を位置決めする。位置合わせは、図9(b)に示すように透過光を利用して、座標軸であるx、y毎に行う。
【0029】
最初にx方向における位置合わせを行う、図9(a)に示すように、裏面電極103を形成した有機圧電膜100上に抜き型マスク402を配置する。次に、図9(b)に示すマスクの位置合わせ装置400を用いて、図示しないレーザ光源により、x方向に長手方向を有し、一方向に収束された参照光403を抜き型マスク402における信号線接続部104に相当するマスク部405以外の部分全体に渡るように照射する。図9(c)に示すように、抜き型マスク402を透過し、裏面電極103の周囲を透過した参照光403aは受光素子112で受光され、光電変換されて図示しない演算処理部410において抜き型マスク402のx方向位置と受光素子112の出力P1との関係が図9(d)に示すように得られる。抜き型マスク402と、裏面電極103の位置が、ちょうど重なる位置x0になると、受光素子112の出力P1は最も少なくなる。次に同様に、抜き型マスク402のy方向の位置調整を行う。参照光403は、長手方向がy方向になるようにし、抜き型マスク402をy方向に調整し、受光素子112の出力P1が最も少なくなる地点を探し出し、位置決めを行う。このようにx、yの両方向で位置決めを終了した後に、表面電極102の真空成膜を行う。
【0030】
図4に戻り、ステップS11において、ステップS10で作製した有機圧電素子アレイ12を複数積層配置する。有機圧電素子アレイ12の積層形成の概要を図5を用いて説明する。図5(a)は有機素子アレイ12同士を配置する際の位置関係を示す斜視図であり、図5(b)は、有機圧電素子アレイ12を複数(m個)配置した状態を示す断面図である。なお、図中の符号における添字は各有機圧電膜100に対応する数字である。
【0031】
本実施の形態に係る有機圧電膜100は、セラミック等の無機圧電素子とは異なり、光を透過させる性質を有するので、図中上部の有機圧電膜100−1を通して図中下部の有機圧電膜100−2を目視でき、後述するように、電極の位置合わせを光学的な手法を用いて実施することが可能である。
【0032】
有機圧電素子アレイ12を積層配置する際に、積層する有機圧電素子アレイ12同士の間で、表面電極102と裏面電極103を図示しない導電性接着剤を用いて電気的に接続する。
【0033】
有機圧電素子アレイ12同士を積層する積層方法の詳細について図10を用いて説明する。
【0034】
超音波探触子が受信する超音波信号の強度を高めるには、上下の有機圧電素子アレイ12間の電極が膜面に垂直な方向に揃っている必要があることから、電極の位置に基づいた位置合わせを行う。図10は、複数積層した有機圧電素子アレイ12の位置合わせ装置の概要を示す部分斜視図である。
【0035】
各有機圧電膜100を積層する前に、導電性接着剤を各電極の表面に塗布しておく。
【0036】
図9で説明した方法と同様に、圧電素子アレイ位置合わせ装置600を用いて、図示しないレーザ光源により、x方向に長手方向を有し、一方向に収束された参照光601を上部の有機圧電膜100−1の上方から、表面電極102−1における信号線接続部405−1以外の部分全体に渡るように照射する。表面電極102−1と裏面電極103−1に一部を遮光された参照光601は、下部に位置する有機圧電膜100−2の表面電極102−2と裏面電極103−1にさらに一部を遮光され、受光素子602で受光され、光電変換されて図示しない演算処理部410において有機圧電膜100−1、100−2のx方向位置と受光素子602の出力P2との関係が図10(b)に示すように得られる。有機圧電膜100−1と、有機圧電膜100−2の位置が、ちょうど重なる位置x1になると、受光素子602の出力P2は最も少なくなる。次に同様に、有機圧電膜100−1、100−2のy方向の位置調整を行う。参照光601は、長手方向をy方向になるようにし、有機圧電膜100−1をy方向に調整し、受光素子602の出力P2が最も少なくなる地点を探し出し、位置決めを行う。
【0037】
受光素子602としては、入手性、取り扱い性等を考慮して、フォトダイオード602aを用いることが好ましい。フォトダイオード602aの出力は、一般的にショットノイズが主原因となって時間的にやや不安定となる。図10(b)に示す位置x1は時間的に不安定となり、有機圧電膜100−1、100−2のy方向の位置調整における誤差要因となる。有機圧電膜100−1、100−2のy方向の位置合わせ精度は、数μm以内に収める必要がある。一方、ショットノイズは参照光の光強度に反比例する。そのため、有機圧電膜100−1、100−2のy方向の位置合わせ精度は、参照光601の光強度に依存する。そこで、実験を行ったところで、有機圧電膜100−1、100−2のy方向の位置合わせ精度を数μm以内に収めるには、フォトダイオード602aに入射させる光強度は2.5mW必要であることが判明した。高光強度のフォトダイオード602aとしては50mWが一般的であることから、有機圧電膜100−1、100−2を参照光が透過する率はそれぞれ5%以上であることが望ましい。複数の有機圧電膜を用いる場合には、それぞれの有機圧電膜100を透過する光の率が5%以上であることが望ましく、積層した全ての有機圧電膜100を透過する光の率が5%以上であることがより好ましい。なお、参照光の波長はフォトダイオード602aが有する分光感度に応じて適宜に選択すればよい。
【0038】
図4に戻り、ステップS12において、積層した有機圧電素子アレイ12の各表面電極102と各裏面電極103の間に、積層した各有機圧電膜100毎に分極方向が交互になるように、予め電圧を印加して分極を行う。分極することで、各有機圧電膜100の分極方向を揃えることができ、受信する超音波信号の強度を大きくすることができる。
【0039】
次にステップS13において、積層した有機圧電素子アレイ12を、ステップS11で塗布された導電性接着剤を固化することで固定する。導電性接着剤が加熱性のタイプであれば積層された有機圧電素子アレイ12全体をオーブンに入れるなどして加熱し、導電性接着剤が圧着性のタイプであれば積層された有機圧電素子アレイ12全体に圧力を付与することで、導電性接着剤を固化させる。
【0040】
なお、有機圧電素子アレイ12を積層配置する前に、各々の素子アレイ12を構成する有機圧電膜100を分極した後に、積層する各有機圧電膜100毎に分極方向が交互になるように積層配置してもよい。
【0041】
次にステップS14において、信号線64の配線を行う。図6はステップS14における信号線の配線方法を示す概要斜視図であり、図7は積層有機圧電素子アレイ66における共通電極111の概要斜視図である。信号線64の配線は、図6に示すように信号線64を、有機圧電膜100に貫通させる形で形成する。なお、図6においては、簡単化のため表面電極102と裏面電極103が各1つ形成されている有機圧電素子アレイ12を6つ用いて示した。
【0042】
また、同図では、模式的に各積層有機圧電素子アレイ12の間に空間を設けてあるが、有機圧電素子アレイ12同士の間は近接させることが望ましい。
【0043】
信号線64を貫通させた後、積層配置した有機圧電素子アレイ12−1から12−6を、バッキング63に結合された異方性導電フィルムACFに当接させ、信号線65と信号線64とを導通させ、積層有機圧電素子アレイ66を完成させる。
【0044】
なお、図7に示すように、表面電極102と裏面電極103とが、二次元方向に複数形成された有機圧電素子アレイ12においては、積層有機圧電素子アレイ66における最上部の有機圧電素子アレイ12上の電極を、共通電極111を用いて共通化させてもよい。
【0045】
図4に戻り、ステップS15において、図8に示すように、生体との間の音響インピーダンスを整合させる音響整合層91を形成する。図8は、生体との間の音響インピーダンスを整合させる音響整合層91の概要斜視図である。さらに、図示しない絶縁体でモールドする。
【0046】
以上のように、有機圧電膜100の表裏面に電極を作製し、膜面に垂直方向に信号線64を形成し、バッキング63に結合して積層有機圧電素子アレイ66を作製する。広い電極面積の有機圧電膜を積層形成して積層有機圧電素子2Dアレイの素子容量が向上でき、高い強度の超音波信号を受信する超音波探触子を提供することができる。
【0047】
なお、上記のバッキング63にはバッキング63を採用したところを、図11に概要を示すように、導電性の微細ドリル109、110を有機圧電膜100に貫通させた状態にし、微細ドリル109、110を信号線64、65に併用させてもよい。
【0048】
信号線64、65の作製の容易化を図り、積層有機圧電素子アレイ66の作製の容易化を達成することができる。
【0049】
また、有機圧電素子アレイ12上の表面電極102と裏面電極103が形成された面に、反りや凹凸が存在する場合、有機圧電素子アレイ12を積層する際に、表面電極102と裏面電極103とのコンタクトが困難となる場合がある。この不具合を解消するには、表面電極102と裏面電極103とを適切な間隔(数十μmから数百μm)を設けて接着し導通させる。以下に図12を用いて接着方法について説明する。
【0050】
図12(a)は、表面電極102−2、裏面電極103−2を配した有機圧電素子アレイ12−2である。有機圧電素子アレイ12−2に対して図12(b)に示すように、表面電極102−2のビアパターン部72以外にスクリーン印刷で絶縁性接着層71を塗布する。スクリーン印刷を行う際に、絶縁性接着層71の量や印刷条件を適切に設定することで、下層の有機圧電素子アレイ12−2の表面電極102−2と上層の有機圧電素子アレイ12−1の裏面電極103−1とを適切な間隔(数十μmから数百μm)に設定できる。
【0051】
次に図12(c)に示すように、ディスペンサー等を用いて、ビアパターン部72に導電性接着剤73を滴下する。次に図12(d)に示すように、有機圧電膜100−2の上部に、有機圧電素子アレイ12−1の裏面電極103−1と、有機圧電素子アレイ12−2の表面電極102−2とが導電性接着剤73で渡されるように有機圧電素子アレイ12−1を配置し、導電性接着剤73を固化させる。有機圧電素子アレイ12を、さらに積層化するには、同様の工程を繰り返せばよい。
【0052】
なお、絶縁性接着層71を用いずに、例えばインクジェット法を利用して導電性接着剤73を所定の位置に肉盛り塗布しても良い。
[第2の実施形態]
続いて、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態においては、積層有機圧電素子アレイ66は、アポダイゼーション処理を施した電極構造を有する。アポダイゼーション処理とは、積層有機圧電超音波探触子が受信する超音波信号の角度分布に発生するサイドローブを抑制する対策のことである。図13はアポダイゼーションを施す電極の概要を説明する図である。同図において、一点鎖線L1s〜L3sで指定された各表面電極131s、132s、133sは各々同一形状を有し、一点鎖線L1r〜L3rで指定された各裏面電極131r、132r、133rは各々同一形状を有する。
【0053】
一点鎖線L1s〜L3sに囲まれた各領域の重心は同図中のCsに一致し、一点鎖線L1r〜L3rに囲まれた各領域の重心は同図中のCrに一致する。
【0054】
表面電極131s、132s、133sは、この順で面積が小さくなり、裏面電極131r、132r、133rは、この順で面積が小さくなる。
【0055】
サイドローブを発生させる原因は、重心から離れた場所で受信する超音波の強度大きいことである。従って、重心から離れた場所にある電極の面積を小さくしてやることで、サイドローブの原因を抑えることができる。
【0056】
以上のように、表裏面の電極が各々形成された領域の重心位置から外側に離れるに従って面積を小さくすることで、アポタイゼーション処理を容易に実施することができる。
[第3の実施形態]
続いて、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態においては、積層有機圧電素子アレイ66は、アニュラ構造の電極構造を有する。アニュラ構造とは、超音波を一点に収束させ、または、一点から発散する超音波を受信する電極構造のことを言う。
【0057】
図14はアニュラ構造の電極の形状の一例である。表面電極141−1と裏面電極141−2は各々信号線接続部150−1と150−2を備え、上記のように、信号線64は膜面に垂直に形成される。超音波を一点に収束させ、または、一点から発散する超音波を受信する機能を実現するために、表面電極141−1と裏面電極141−2は同心円状となっている。
【0058】
各同心円は中心から遠ざかるに連れて幅が狭くなる。電極の幅を小さくしていくことで、アポタイゼーション処理を実施しサイドローブを小さくすることができる。
【0059】
以上のようなアニュラ構造に限らず、抜き型マスク402を電極の形状に合わせて用意することで、他の特殊な形状を有する電極についても容易に作製することができる。従って特殊な機能を有する積層有機圧電超音波探触子66を作製することができる。
[有機圧電膜100の多数個取り方法]
続いて、有機圧電素子アレイ12の多数個取り方法について説明する。図15は、有機圧電素子アレイ12の多数個取り方法の概要を示す図である。有機圧電素子アレイ12は上記のように、有機圧電膜100に真空成膜法を用いて電極を作製することから、有機圧電膜100上に多数の電極を形成することができる。複数個の有機圧電素子アレイ12a、12b、12c、12dの電極を同一の有機圧電膜100上に作製できる。従って、複数個の有機圧電素子アレイ12a、12b、12c、12dに対応する電極を有機圧電膜100上に作製し、積層化等の工程を経た後に、図15に示すように、図示しないダイシングソーを用いて、例えばラインLL1、LL2に沿って切断することで、積層有機圧電素子アレイ66を多数個取りすることができる。
【0060】
以上のように、本実施の形態によれば、積層有機圧電素子アレイ66において積層される有機圧電膜それぞれの、所定波長光の透過率を5%以上にすることで、積層される各有機圧電膜に形成された電極同士の位置合わせを、有機圧電膜の透過光を用いて行うことができるので、小型でありながら、高い強度の超音波信号を生成する超音波探触子を提供することができる。
【0061】
また、表面電極102と裏面電極103とを対向して配置することで、高い超音波信号を得ることができる。
【0062】
また、表面電極102と裏面電極103の少なくとも一方に接続された信号線を、積層する有機圧電膜100を貫通させることで、各電極への信号線の配線を容易に実施することができる。
【0063】
また、表面電極102または裏面電極103の少なくとも一方を有機圧電膜100上に同時に製造することで、大面積の有機圧電膜を得ることができるので、容量の大きい超音波探触子を得ることができ、高い超音波信号を得ることができる。
【0064】
また、アポタイゼーション処理を施した積層有機圧電素子2Dアレイを容易に提供することができる。
【0065】
また、特殊形状の電極を容易に作製できるので、アミュラ等の特殊形状の電極に対応した積層有機圧電素子2Dアレイを提供することができる。
【0066】
また、電極を形成する工程の後にダイシングソーを用いて切断することで、積層有機圧電素子アレイ66を多数個取りすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】積層有機圧電超音波探触子66を送受別体積層型超音波探触子67に搭載した概要図である。
【図2】有機圧電膜12−1〜12−6の各々の有機圧電膜の斜視図である。
【図3】該有機圧電膜の三面図である。
【図4】送受別体積層型超音波探触子67の作製フローの概要を示す図である。
【図5】有機圧電膜100を積層形成する概要を示す図である。
【図6】信号線の配線方法を示す概要図である。
【図7】積層有機圧電超音波探触子66における共通電極111の概要図である。
【図8】生体との間の音響インピーダンスを整合させる音響整合層91の概要図である。
【図9】各電極の作製に用いるマスクの位置合わせの概要を示す図である。
【図10】複数積層した有機圧電膜100の位置合わせの概要を示す図である。
【図11】微細ドリル109、110を信号線64、65に併用させた積層有機圧電超音波探触子66の概要図である。
【図12】有機圧電膜100を、導電性接着剤73を用いて接着する概要を示す図である。
【図13】アポダイゼーションを施す電極の概要を説明する図である。
【図14】アニュラ構造の電極の形状の一例である。
【図15】積層有機圧電超音波探触子66の多数個取り方法の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
13 整合層
14 無機圧電素子アレイ
12 有機圧電素子アレイ
100、100−1、100−2 有機圧電膜
63、144 バッキング
64、65 信号線
66 積層有機圧電素子アレイ
67 送受別体積層型超音波探触子
71 絶縁性接着層
72 ビアパターン部
73 導電性接着剤
91 音響整合層
102 表面電極
103 裏面電極
104、105 信号線接続部
111 共通電極
145、147 信号線
402 抜き型マスク
403、601 参照光
410 演算処理部
602 受光素子
602a フォトダイオード
ACF、ACF1、ACF2 異方性導電フィルム
L1、L3 一点鎖線
LL1、LL2 ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過率が5%以上の有機圧電膜上に、所定形状を有する少なくとも一つの表面電極と、前記表面電極と前記有機圧電膜を介して対向する位置に配置された、所定形状を有する裏面電極と、を有する有機圧電素子を、
第1の前記有機圧電素子の表面電極若しくは裏面電極と、第2の前記有機圧電素子の表面電極若しくは裏面電極とが互いに対向するように積層されたことを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記表面電極と前記裏面電極の少なくとも一方に接続され、前記第1の有機圧電素子の有機圧電膜又は前記第2の有機圧電素子の有機圧電膜を貫通している信号線を有することを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記表面電極及び前記裏面電極の少なくとも一方は、一つの前記有機圧電膜上に複数形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の超音波探触子。
【請求項4】
光透過率が5%以上の有機圧電膜上に、所定形状を有する少なくとも一つの表面電極と、前記表面電極と前記有機圧電膜を介して対向する位置に配置された、所定形状を有する裏面電極と、を有する有機圧電素子を形成する工程と、
第1の前記有機圧電素子の表面電極若しくは裏面電極と、第2の前記有機圧電素子の表面電極若しくは裏面電極とが互いに対向するように、前記有機圧電膜に参照光を照射して位置合わせしながら積層する工程とを含むことを特徴とする超音波探触子の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−130592(P2010−130592A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305751(P2008−305751)
【出願日】平成20年11月29日(2008.11.29)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】