説明

超音波検査方法及びその装置

【課題】計測対象物の減肉量及び/又は減肉速度を算出し得る超音波検査方法及びその装置を提供する。
【解決手段】超音波探触子と、信号解析部と、減肉量算出部とを備える超音波検査装置であって、
信号解析部は、多重底面反射エコーのうちN回目及び(N+1)回目の底面反射エコーから、N回目の底面反射エコーの第1信号を含む第1データ長(ΔN1)と、(N+1)回目の底面反射エコーの第2信号を含む第2データ長(ΔN2)とを取得し、第1データ長(ΔN)及び第2データ長(ΔN)を相互相関演算で処理してピーク値(Nk)の位置を求め、
減肉量算出部は、ピーク値(Nk)と既知の計測対象物の音速(v)とを用いて計測対象物の肉厚を計測し、更に時間経過に伴って計測対象物の肉厚を再度計測し、時間経過に伴う複数の肉厚の値から減肉量及び/又は減肉速度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管等の肉厚の情報を取得する超音波検査方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に配管等の肉厚を測定する方法には様々なものがあり、その一例としては、超音波を用いて検出データから配管の肉厚を測定するものがある。
【0003】
この場合には、超音波を発振する探触子と、探触子からのデータを処理する処理装置とを用いており、測定の際には、配管の外周面に探触子を配置して配管に超音波を発振し、配管の内周底面で反射した底面反射エコーを取得し、種々の解析を行って配管の肉厚を測定するようにしている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−198362号公報
【特許文献2】特開2004−163250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、配管等の肉厚のみならず、時間経過に伴って肉厚が減少する減肉量を計測することが求められており、従来の超音波を用いた測定方法等では減肉量を適切に算出することができないという問題があった。
【0006】
具体的には、超音波により配管等の計測対象物から多重反射エコーを取得して計測対象物の減肉量等を測定する際には、信号強度のピークが徐々に減衰すると共にノイズ等の影響によってS/N比が低い状態になり、信号強度のピーク値を明確に特定することができず、減肉量等の情報を適切に取得することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなしたもので、計測対象物の減肉量及び/又は減肉速度を算出し得る超音波検査方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、減肉を生じる計測対象物に対して超音波探触子により超音波を発振し、計測対象物からの多重底面反射エコーを用いて処理する超音波検査方法であって、多重底面反射エコーのうちN回目及び(N+1)回目の底面反射エコーから、N回目の底面反射エコーの第1信号を含む第1データ長(ΔN1)と、(N+1)回目の底面反射エコーの第2信号を含む第2データ長(ΔN2)とを取得し、第1データ長(ΔN)及び第2データ長(ΔN)を相互相関演算で処理してピーク値(Nk)の位置を求め、ピーク値(Nk)と既知の計測対象物の音速(v)とを用いて計測対象物の肉厚を計測し、更に時間経過に伴って計測対象物の肉厚を再度計測し、時間経過に伴う複数の肉厚の値から減肉量及び/又は減肉速度を算出することを特徴とする超音波検査方法、にかかるものである。
【0009】
本発明の超音波検査方法において、多重底面反射エコーの信号をウェーブレット解析して特定周波数成分を抽出することが好ましい。
【0010】
本発明の超音波検査方法において、計測対象物の肉厚の計測は、多重底面反射エコーのうちN回目及び(N+1)回目の底面反射エコーを取得し、N回目及び(N+1)回目の底面反射エコーを時間ゲート(t0−t1)の間に位置させるように第1設定値(t0)と第2設定値(t1)を配置し、更にN回目と(N+1)回目の底面反射エコーの間に分割設定値(tx)を配置し、多重底面反射エコーの信号を、N回目の底面反射エコーを含む第1設定値(t0)から分割設定値(tx)までの第1信号と、(N+1)回目の底面反射エコーを含む分割設定値(tx)から第2設定値(t1)までの第2信号とに分離し、第1信号と第2信号の一方に補正値を追加して第1信号の第1データ長(ΔN1)と第2信号の第2データ長(ΔN2)とを一致させ、データ長を一致させた第1データ長(ΔN)及び第2データ長(ΔN)を処理してピーク値(Nk)の位置を求め、ピーク値(Nk)と既知の計測対象物の音速(v)とを用いて処理することが好ましい。
【0011】
本発明の超音波検査方法において、減肉量及び/又は減肉速度が条件設定値を超えた場合に警報を出すことが好ましい。
【0012】
本発明の超音波検査方法において、減肉量及び/又は減肉速度に基づいて計測対象物の交換時期又は補修時期を表示することが好ましい。
【0013】
本発明は、減肉を生じる計測対象物に対して超音波を発信して多重底面反射エコーを受ける超音波探触子と、超音波探触子からの信号を処理する信号解析部と、信号解析部からのデータを処理する減肉量算出部とを備える超音波検査装置であって、
前記信号解析部は、重底面反射エコーのうちN回目及び(N+1)回目の底面反射エコーから、N回目の底面反射エコーの第1信号を含む第1データ長(ΔN1)と、(N+1)回目の底面反射エコーの第2信号を含む第2データ長(ΔN2)とを取得し、第1データ長(ΔN)及び第2データ長(ΔN)を相互相関演算で処理してピーク値(Nk)の位置を求め、前記減肉量算出部は、ピーク値(Nk)と既知の計測対象物の音速(v)とを用いて計測対象物の肉厚を計測し、更に時間経過に伴って計測対象物の肉厚を再度計測し、時間経過に伴う複数の肉厚の値から減肉量及び/又は減肉速度を算出するように構成されたことを特徴とする超音波検査装置、にかかるものである。
【0014】
本発明の超音波検査装置において、前記信号解析部は、多重底面反射エコーの信号をウェーブレット解析して特定周波数成分を抽出するように構成されることが好ましい。
【0015】
本発明の超音波検査装置において、前記信号解析部は、多重底面反射エコーの信号のうちN回目及び(N+1)回目の底面反射エコーを取得し、N回目及び(N+1)回目の底面反射エコーを時間ゲート(t0−t1)の間に位置させるように第1設定値(t0)と第2設定値(t1)を配置し、更にN回目と(N+1)回目の底面反射エコーの間に分割設定値(tx)を配置し、多重底面反射エコーの信号を、N回目の底面反射エコーを含む第1設定値(t0)から分割設定値(tx)までの第1信号と、(N+1)回目の底面反射エコーを含む分割設定値(tx)から第2設定値(t1)までの第2信号とに分離し、第1信号と第2信号の一方に補正値を追加して第1信号の第1データ長(ΔN1)と第2信号の第2データ長(ΔN2)とを一致させ、データ長を一致させた第1データ長(ΔN)及び第2データ長(ΔN)を相互相関演算で処理してピーク値(Nk)の位置を求めるように構成されることが好ましい。
【0016】
本発明の超音波検査装置において、減肉量及び/又は減肉速度が条件設定値を超えた場合に警報を出す警報部を備えることが好ましい。
【0017】
本発明の超音波検査装置において、減肉量及び/又は減肉速度に基づいて計測対象物の交換時期又は補修時期を示す表示部を備えることが好ましい。
【0018】
本発明の超音波検査装置において、超音波探触子からの多重底面反射エコーを波形として受信する探傷器と、該探傷器からの波形を信号に変換する信号採取部とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の超音波検査方法及びその装置によれば、多重底面反射エコーの信号からN回目の底面反射エコーの第1信号を含む第1データ長(ΔN1)と、(N+1)回目の底面反射エコーの第2信号を含む第2データ長(ΔN2)とを取得し、第1データ長(ΔN1)と第2データ長(ΔN2)とを相互相関演算で処理してピーク値(Nk)の位置を求め、ピーク値(Nk)と既知の測定部材の音速(v)とを用いて計測対象物の肉厚を計測し、更に時間経過に伴う計測対象物の肉厚を再度計測して複数の肉厚の値を取得するので、計測対象物の減肉量及び/又は減肉速度を好適に算出することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の形態例を示す概念図である。
【図2】本発明の形態例を示すフローである。
【図3】図2のフローから続く処理を示すフローである。
【図4】本発明の形態例においてサンプリング周波数から特定周波数成分を抽出するまでの処理を示す概念図である。
【図5】本発明の形態例において第1信号と第2信号とをそろえて計測対象物の肉厚を計測するまでの処理を示す概念図である。
【図6】図2のフローに続く処理を示す他例のフローである。
【図7】図2のフローに続く処理を示す別例のフローである。
【図8】実測減肉量と超音波計測値の関係を示すグラフである。
【図9】減肉量と時間経過の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の超音波検査方法及びその装置を実施する形態例を図1〜図5を参照して説明する。
【0022】
本発明の形態例の超音波検査装置は、配管等の計測対象物1に配置される超音波探触子2と、超音波探触子2に接続される探傷器3と、探傷器3に接続される信号採取部4と、信号採取部4に接続されて信号を処理する信号解析部5と、信号解析部5に接続されてデータを処理する減肉量算出部6と、減肉量算出部6に接続されてデータ等の信号を保存する信号保存部7と、減肉量算出部6に接続されてデータ等の信号を更に処理する警報部8及び表示部9を備えている。ここで探傷器3、信号採取部4、信号解析部5、減肉量算出部6、信号保存部7、警報部8、表示部9は、PC等の処理手段により一体的に構成されても良いし、夫々別個に構成されても良いし、種々の部分でまとめて構成されても良い。又、計測対象物1の素材はゴム等の樹脂材料、鋼等の金属材料、コンクリート等の非金属材料であると共に、計測対象物1の形状は配管等であり、計測対象物1の素材や形状は超音波検査方法及びその装置により肉厚を計測し得るならば特に制限されるものではない。
【0023】
超音波探触子2は、配管等の計測対象物1の外周に当接するように前面板を有する接触部(図示せず)を配し、接触部はフィン付き配管等のフィンの間に挿入可能な数mmの大きさを備え、前面板が配管の外周に当接し得るようになっている。又、接触部は、ばね等により上下動可能な弾性機構を備え、配管の外周面に減肉部や凹凸部があっても上下動して前面板が配管の外周に対応し得るようになっている。更に接触部の側部等には、永久磁石等の磁性手段を備え、配管のフィン等に接触して安定的に探傷、走査するようになっている。
【0024】
又、超音波探触子2は、直径数mmの振動子(図示せず)を分割して送信部(図示せず)と受信部(図示せず)とを構成し、配管等の計測対象物1に対して超音波を発振して配管等の内周底面から多重底面反射エコーを受けるように構成されている。ここで適用し得る超音波の周波数は数十kHzから数十MHzまでが好ましく、特に500kHzから25MHzまでが好ましい。
【0025】
探傷器3は、超音波探触子2からの多重底面反射エコーを波形として受信するように構成されており、信号採取部4は、探傷器3からの波形をデジタル信号に変換するようになっている。
【0026】
信号解析部5は、信号採取部4からの信号に対して信号の抽出、ウェーブレット解析、相互相関演算等を為しえるように、図2、図3に示すフローの処理(ステップS1〜S11)を行う信号抽出処理手段及び関数処理手段を備えている。なお図2、図3のフローはαでつながっていることを示している。又、図2のフローは図6の他例のフローにつながっても良いし、図7の別例のフローにつながっても良い。
【0027】
減肉量算出部6は、配管等の計測対象物1の音速(v)が既知の値として予め入力されていると共に信号解析部5からの信号を受け、所定の関数に基づいて配管等の計測対象物1の肉厚Dを計測するようになっている。更に一定時間Tの経過に伴って配管等の計測対象物1の肉厚Dを再度計測し、時間経過に伴う複数の肉厚Dの値から減肉量及び/又は減肉速度を算出するようになっている。ここで計測対象物1の音速(v)は計測対象物1の材質によって夫々異なっており、測定時ごとに計測対象物1の材質に基づいて音速(v)を入力しても良いし、材質の音速(v)のデータ集から適宜選択しても良い。
【0028】
信号保存部7は、減肉量算出部6で用いたデータを全て保管するようになっている。ここで保管するデータは、所望のデータのみを保管するようにしても良いし、夫々の処理のデータ値を保管するようにしても良い。
【0029】
警報部8及び表示部9は、減肉量算出部6で算出した減肉量及び/又は減肉速度に基づいて計測対象物1の配管の状態を判断し、配管の状態が適切でない場合には警報や所定の表示を出すようになっている。
【0030】
以下、本発明の超音波検査方法及びその装置を実施する形態例の作用を説明する。
【0031】
通常の配管やフィン付き配管等の計測対象物1を測定する際には、配管等の外周に超音波探触子2の接触部の前面板を配し、前面板から超音波を発振して配管等の内周底面から少なくともN回目及び(N+1)回目を含む多重底面反射エコーを受信する。次に超音波探触子2からの多重底面反射エコーを探傷器3により波形として受信し、信号採取部4を介してデジタル信号に変換し、サンプリング周波数fsとして信号解析部5に送信する。
【0032】
信号解析部5は、サンプリング周波数fsに対して図2のフローの示す如くN回目及び(N+1)回目の底面反射エコーを時間ゲート(t0−t1)の間に位置させるように第1設定値(t0)と第2設定値(t1)を任意に配置する(ステップS1)。ここで時間ゲート(t0−t1)を設定するN回目の底面反射エコー及び(N+1)回目の底面反射エコーは、底面反射エコーのピーク強度を認識できるものならば特定の底面反射エコーに制限されるものではないが、図3のサンプリング周波数fsの処理の如く第1回目及び第2回目の底面反射エコーを用いることが特に好ましい。又、第3回目以上の底面反射エコーを用いる場合には、少なくとも(N−1)回目の底面反射エコーを含まないように条件設定する必要がある。
【0033】
次にN回目と(N+1)回目の底面反射エコーの間に分割設定値(tx)を任意に配置する(ステップS2)。なお図3に示すサンプリング周波数fsでは、分割設定値(tx)の位置を第1回目の底面反射エコー及び第2回目の底面反射エコーの間に配置している。
【0034】
続いて時間ゲート(t0−t1)の間の信号を抽出して連続ウェーブレット変換のウェーブレット解析を行い(ステップS3)、解析後の信号から特定周波数帯域信号(特定周波数成分)の抽出を行う(ステップS4)。その後、抽出した信号を、N回目の底面反射エコーを含む第1設定値(t0)から分割設定値(tx)までの第1信号(tx−t0)と、(N+1)回目の底面反射エコーを含む分割設定値(tx)から第2設定値(t1)までの第2信号(t1−tx)とに分離する(ステップS5)。ここでウェーブレット解析は、ウェーブレット関数により、広い周波数領域において時間領域の情報を失うことなく、特定周波数成分を求めるものであり、本実施例では、超音波探触子2の共振周波数成分(10MHz)に対応して特定周波数成分(10MHz)を抽出するようにしている。
【0035】
又、ウェーブレット解析(ステップS3)から第1信号と第2信号との分離(ステップS5)までの手順は、図3のサンプリング周波数fsの処理の如く、N回目の底面反射エコーを含む第1信号と、(N+1)回目の底面反射エコーを含む第2信号とに分離した(ステップS5)後に、ウェーブレット解析を行い(ステップS3)、解析後の信号から特定周波数帯域信号の抽出を行う(ステップS4)ように順序を変更しても良い。
【0036】
次に、特定周波数領域信号の抽出及び分離処理を行った第1信号(tx−t0)をデータ長(1+(tx−t0)・fs=ΔN1)に変換すると共に、第2信号(t1−tx)をデータ長(1+(t1−tx)・fs=ΔN2)に変換し、第1信号のデータ長(ΔN1)と第2信号のデータ長(ΔN2)とを比較する(ステップS6)。なお図2では、第1信号のデータ長(ΔN1)をtx−t0と記載し、第2信号のデータ長(ΔN2)をt1−txと記載している。
【0037】
第1信号のデータ長(ΔN1)と第2信号のデータ長(ΔN2)とを比較して第1信号のデータ長(図2ではtx−t0)が大きい場合(ステップS6のYES)には、第2信号のデータ長(ΔN2、図2ではt1−tx間の信号)に強度信号ゼロの補正値(補正データ個数)を追加し、第1信号のデータ長(ΔN1)と第2信号のデータ長(ΔN2)とを共通のデータ長(ΔN)として一致させる(ステップS7)。
【0038】
一方、第1信号のデータ長(ΔN1)と第2信号のデータ長(ΔN2)とを比較して第2信号のデータ長(図2ではt1−tx)が大きい場合(ステップS6のNO)には、第1信号のデータ長(ΔN1、図2ではtx−t0間の信号)に強度信号ゼロの補正値(補正データ個数)を追加し、第1信号のデータ長(ΔN1)と第2信号のデータ長(ΔN2)とを共通のデータ長(ΔN)として一致させる(ステップS8)。
【0039】
ここで図5では、第1信号のデータ長が第2信号のデータ長より大きく、第2信号のデータ長に強度信号ゼロの補正値(補正データ個数)を追加してデータ長をそろえたものを示している。又、ステップS6、S7でデータ長をそろえる場合には、他の処理方法を用いても良いが、短いデータ長に補正値を追加して長いデータ長に合わせることが好ましい。
【0040】
続いて第1信号のデータ長(ΔN1)と第2信号のデータ長(ΔN2)とを共通のデータ長(ΔN)として一致させた後には、相互相関演算する(ステップS9)。
【数1】



ここで相互相関演算は同じデータ長で同じ周波数成分同士を畳み込み演算し、第1信号のデータ長(ΔN)に含まれるN回目の底面反射エコーのピークと、第2信号のデータ長(ΔN)に含まれる(N+1)回目の底面反射エコーのピークとをまとめ、信号強度のピーク値(Nk)を顕著に示す。
【0041】
同時に相互相関演算は、サンプリング周波数fsを分割した第1信号及び第2信号を畳み込み処理し、通常の相互相関演算する場合に比べてデータの処理(相互相関演算)量を半分にしている。ここでデータの処理(相互相関演算)量が半分になる理由は、t0−t1間の設定がN回目、(N+1)回目の底面反射エコーを含むように十分に広く設定されており、2つの信号に分離した場合には、N回目の底面反射エコーはt0−tx間の右寄り(tx寄り)に位置し、(N+1)回目の底面反射エコーはtx−t1間の左寄り(tx寄り)に位置し、又、通常の相互相関演算の最初の半分は、2つのピーク部分同士が演算されないため不要になり、結果的にデータの処理(相互相関演算)量が半分になるからである。
【0042】
更に1回目の底面反射エコーのピークと2回目の底面反射エコーのピークついて相互相関演算した場合には、図5に示す如く最大のピーク値(Nk)を示すようになる。
【0043】
次に、相互相関演算の結果から信号強度のピーク値(Nk)の位置より、肉厚Dに伴う時間差を求め、減肉量算出部6に予め入力された配管等の計測対象物1の材質の音速(v)を用いて配管等の計測対象物1の肉厚Dを計測する(ステップS10)。
【数2】



ここでピーク値(Nk)は、図4のサンプリング周波数fsにおけるN回目、(N+1)回目の底面反射エコーのピークに比べてピーク強度が顕著であるため、他のノイズ成分等の影響を受けることなく、容易にピーク値(Nk)の位置を決定し得るものとなる。又、肉厚Dの算出では、分割設定値(tx)及びピーク値(Nk)のパラメータを用いて、分割設定値(tx)で分割したデータを補足するようにしている。
【0044】
続いて図5に一定時間Tの経過に伴い、ステップS1〜ステップS10の処理を繰り返して計測対象物1の肉厚Dを再度計測し、時間経過に伴う複数の肉厚Dの値を取得する(ステップS11)。ここで再度肉厚Dを測定する時間間隔は、一定時間Tの間隔にすることが好ましいが、時間経過による時間差が明らかならば特に制限されるものではない。なお
【0045】
次に減肉量算出部6により複数の肉厚Dの値から減肉量及び/又は減肉速度を算出する(ステップS12)。ここで減肉量は、計測対象部1の厚みが減った距離であり、2つの肉厚Dの減算によって減肉量を取得している。又、減肉速度は、単位時間あたりの減肉量であり、横軸を時間、縦軸を減肉量でプロットした場合に傾きが該当するように算出している。
【0046】
そして減肉量及び/又は減肉速度を算出した後には、表示部9等に減肉量及び/又は減肉速度を表示して処理を終了する(ステップS13)。
【0047】
ここで減肉量及び/又は減肉速度を算出(ステップS12)した後には図6の如く他例で処理しても良い。具体的には警報部8で減肉量及び/又は減肉速度が設定条件値を超えるか否かを判定し(ステップS12a)、減肉量が設定条件値を超える場合(ステップS12aのYES)には、警報部8により警告を出し(ステップS12b)、減肉量が設定条件値を超えない場合に(ステップS12aのNO)には、肉厚Dを一定期間ごとに再度測定する処理(ステップS11)へ戻り、処理を繰り返す。更に減肉量で処理する場合には、減肉量が所定の設定条件値(例えば初期値から2mmの減肉)を超えた条件下で交換や補修の警告を出すことが好ましく、減肉速度で処理する場合には、減肉速度(傾き)が所定の設定条件値を超えた条件下で、予想より速い減肉速度の発生により計測対象物1の寿命が短い旨の警告を出すことが好ましい。なお設定条件値は、計測対象物1の交換や補修が必要な値等に限定されるものではなく、他の条件で設定しても良い。
【0048】
又、減肉量及び/又は減肉速度を算出(ステップS12)した後には図7の如く別例で処理しても良い。具体的には表示部9で減肉量及び/又は減肉速度に基づいて計測対象物1の交換時期又は補修時期を予測し(ステップS12α)、計測対象物1の交換時期又は補修時期を表示画面等に表示する(ステップS12β)。更に減肉量で処理する場合には、交換時期又は補修時期の肉厚Dになるまでの減肉量を予め設定し、計測の減肉量の何倍で設定減肉量に到達するかを算出し、当該倍数と計測の減肉量の時間との積算により計測対象物1の交換時期又は補修時期を予測している。又、減肉速度で処理する場合には、交換時期又は補修時期の肉厚Dになるまでの減肉量を予め設定し、当該減肉量を減肉速度で割り算して寿命時間を求め、寿命時間を基準に計測対象物1の交換時期又は補修時期を予測している。
【0049】
[試験1]
以下、計測対象物の鋼片を実際に研削して所定の減肉を生じた試料を作成し、当該試料を実施の形態例の計測方法及び装置(超音波計測)により減肉量を算出し、研削に伴う実際の減肉量と、超音波計測の減肉量とを比較した。ここで計測対象物の鋼片は5μmごとに研削し、更に途中から1μmごとに研削して試料としており、当該試料を研削ごとに実施の形態例の計測方法及び装置で計測した。試験の条件では超音波の周波数を5MHzとし、データのA/D変換におけるサンプリング周波数を1GHzとし、ウェーブレット変換では5MHz成分を抽出し、データを10倍に補間している。又、鋼片の材料音速は5.9μm/nsであった。
【0050】
この結果、図8に示す如く実測の減肉量と、超音波計測で算出した減肉量とは極めて良好な比例関係にあり、実施の形態例の計測方法及び装置(超音波計測)で計測対象物の減肉量を算出できることが明らかである。
【0051】
[試験2]
以下、複数のサンプルを用いて減肉の仮想的な状態を作り出し、サンプルの減肉を連続監視する状態や、減肉速度が増加する状態をシミュレーションした。ここでサンプルは、減肉前の鋼製配管(初期肉厚値15mm)や、減肉により肉厚の異なる複数の鋼製配管を用いた。更に試験の条件では超音波の周波数を5MHzとし、データのA/D変換におけるサンプリング周波数を1GHzとし、ウェーブレット変換では5MHz成分を抽出した。又、サンプルの材料音速は5.9μm/nsとした。
【0052】
この結果、図9に示す如くサンプルが0hから15000hまで一定の割合で減肉すると仮定した場合には減肉速度が0.25mm/10000hとなり、更にそれ以後のサンプルが他の一定の割合で減肉すると仮定した場合には減肉速度0.50mm/10000hとなり、減肉量及び減肉速度について連続監視できることが想定できる。又、警報を出す閾値(条件設定値)を0.40mm/年(0.46mm/10000h)と仮定した場合には、減肉速度が増加して0.50mm/10000hとなった時点(15000h)から警報を出すようになる。更に初期肉厚値(0h時)を15mmとし、交換時期の肉厚値を10mmとした場合、当該試験の最後の点(17500h時)を現時点とすると既に減肉量は0.5mmあり、交換時期の肉厚10mmになるまで残り4.5mmであり、且つ現時点での減肉速度(傾き)が0.50mm/10000hであることから、交換時期は90000時間(10.3年)後と想定できる。
【0053】
このように、実施の形態例の超音波検査方法及びその装置によれば、多重底面反射エコーの信号からN回目の底面反射エコーの第1信号を含む第1データ長(ΔN1)と、(N+1)回目の底面反射エコーの第2信号を含む第2データ長(ΔN2)とを取得し、第1データ長(ΔN1)と第2データ長(ΔN2)とを相互相関演算で処理してピーク値(Nk)の位置を求め、ピーク値(Nk)と既知の測定部材の音速(v)とを用いて計測対象物1の肉厚Dを計測し、更に時間経過に伴う計測対象物1の肉厚Dを再度計測して複数の肉厚Dの値を取得するので、計測対象物1の減肉量及び/又は減肉速度を好適に算出することができる。
【0054】
実施の形態例の超音波検査方法及びその装置において、多重底面反射エコーの信号をウェーブレット解析して特定周波数成分を抽出すると、超音波探触子2の共振周波数成分を抽出してS/N比を高め、信号強度のピーク値(Nk)を一層適切に特定し、ピーク値(Nk)と既知の測定部材の音速(v)とを用いて計測対象物1の肉厚Dを適切に測定し、よって計測対象物1の減肉量及び/又は減肉速度を好適に算出することができる。
【0055】
実施の形態例の超音波検査方法及びその装置において、サンプリング周波数fsを、N回目の底面反射エコーを含む信号と、(N+1)回目の底面反射エコーを含む信号とに分離し、N回目の底面反射エコーの信号を含む第1データ長(ΔN1)と、(N+1)回目の底面反射エコーの信号を含む第2データ長(ΔN2)と補正値により一致させ、第1データ長(ΔN)と第2データ長(ΔN)を相互相関演算で処理してピーク値(Nk)の位置を求め、これにより所望のピーク値(Nk)を適切に特定し、ピーク値(Nk)と既知の測定部材の音速(v)とを用いて計測対象物1の肉厚Dを好適に測定することができる。又、多重反射エコーによりデータの処理量(処理点数)が多い場合であっても、多重底面反射エコーの信号を、N回目の底面反射エコーを含む信号と、(N+1)回目の底面反射エコーを含む信号とに分離して相互相関演算で処理してまとめるので、データの処理量(処理点数)を半分に低減して容易且つ適切に配管の肉厚Dを計測し、よって計測対象物1の減肉量及び/又は減肉速度を好適に算出することができる。更に多重底面反射エコーから取得する底面反射エコーを、第1回目及び第2回目の底面反射エコーとする場合には、(N−1)回目の底面反射エコーを削除する処理を不要にして第1データ長(ΔN1)と第2データ長(ΔN2)を容易に設定すると共に、ピーク値(Nk)が最大になるので、計測対象物1の肉厚Dを一層適切に測定し、よって計測対象物1の減肉量及び/又は減肉速度を最適に算出することができる。ここで多重底面反射エコーは、計測対象物1の材料の減衰率により、底面反射エコーの回数に伴って減衰するため、(N−1)回目の底面反射エコーは、N回目の底面反射エコーよりピーク強度が強く、相互相関演算した場合に不要な最大ピーク値が発生し、所望のピーク値(Nk)の認定が若干困難になるという問題がある。
【0056】
実施の形態例の超音波検査方法及びその装置において、減肉量及び/又は減肉速度が条件設定値を超えた場合に警報を出すと、計測対象物1の減肉に対して適切に対応することができる。
【0057】
実施の形態例の超音波検査方法及びその装置において、減肉量及び/又は減肉速度に基づいて計測対象物1の交換時期又は補修時期を表示すると、計測対象物1の交換時期又は補修時期に対して適切に対応することができる。
【0058】
なお、本発明の超音波検査方法及びその装置は、本発明の作用効果を為しえるならば超音波検査方法の手順を変更しても良いこと、超音波検査方法の手順に他の処理を追加しても良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0059】
1 計測対象物
2 超音波探触子
3 探傷器
4 信号採取部
5 信号解析部
6 減肉量算出部
7 信号保存部
8 警報部
9 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減肉を生じる計測対象物に対して超音波探触子により超音波を発振し、計測対象物からの多重底面反射エコーを用いて処理する超音波検査方法であって、多重底面反射エコーのうちN回目及び(N+1)回目の底面反射エコーから、N回目の底面反射エコーの第1信号を含む第1データ長(ΔN1)と、(N+1)回目の底面反射エコーの第2信号を含む第2データ長(ΔN2)とを取得し、第1データ長(ΔN)及び第2データ長(ΔN)を相互相関演算で処理してピーク値(Nk)の位置を求め、ピーク値(Nk)と既知の計測対象物の音速(v)とを用いて計測対象物の肉厚を計測し、更に時間経過に伴って計測対象物の肉厚を再度計測し、時間経過に伴う複数の肉厚の値から減肉量及び/又は減肉速度を算出することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項2】
多重底面反射エコーの信号をウェーブレット解析して特定周波数成分を抽出することを特徴とする請求項1に記載の超音波検査方法。
【請求項3】
計測対象物の肉厚の計測は、多重底面反射エコーのうちN回目及び(N+1)回目の底面反射エコーを取得し、N回目及び(N+1)回目の底面反射エコーを時間ゲート(t0−t1)の間に位置させるように第1設定値(t0)と第2設定値(t1)を配置し、更にN回目と(N+1)回目の底面反射エコーの間に分割設定値(tx)を配置し、多重底面反射エコーの信号を、N回目の底面反射エコーを含む第1設定値(t0)から分割設定値(tx)までの第1信号と、(N+1)回目の底面反射エコーを含む分割設定値(tx)から第2設定値(t1)までの第2信号とに分離し、第1信号と第2信号の一方に補正値を追加して第1信号の第1データ長(ΔN1)と第2信号の第2データ長(ΔN2)とを一致させ、データ長を一致させた第1データ長(ΔN)及び第2データ長(ΔN)を処理してピーク値(Nk)の位置を求め、ピーク値(Nk)と既知の計測対象物の音速(v)とを用いて処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波検査方法。
【請求項4】
減肉量及び/又は減肉速度が条件設定値を超えた場合に警報を出すことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の超音波検査方法。
【請求項5】
減肉量及び/又は減肉速度に基づいて計測対象物の交換時期又は補修時期を表示することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の超音波検査方法。
【請求項6】
減肉を生じる計測対象物に対して超音波を発信して多重底面反射エコーを受ける超音波探触子と、超音波探触子からの信号を処理する信号解析部と、信号解析部からのデータを処理する減肉量算出部とを備える超音波検査装置であって、
前記信号解析部は、重底面反射エコーのうちN回目及び(N+1)回目の底面反射エコーから、N回目の底面反射エコーの第1信号を含む第1データ長(ΔN1)と、(N+1)回目の底面反射エコーの第2信号を含む第2データ長(ΔN2)とを取得し、第1データ長(ΔN)及び第2データ長(ΔN)を相互相関演算で処理してピーク値(Nk)の位置を求め、
前記減肉量算出部は、ピーク値(Nk)と既知の計測対象物の音速(v)とを用いて計測対象物の肉厚を計測し、更に時間経過に伴って計測対象物の肉厚を再度計測し、時間経過に伴う複数の肉厚の値から減肉量及び/又は減肉速度を算出するように構成されたことを特徴とする超音波検査装置。
【請求項7】
前記信号解析部は、多重底面反射エコーの信号をウェーブレット解析して特定周波数成分を抽出するように構成されたことを特徴とする請求項6に記載の超音波検査装置。
【請求項8】
前記信号解析部は、多重底面反射エコーの信号のうちN回目及び(N+1)回目の底面反射エコーを取得し、N回目及び(N+1)回目の底面反射エコーを時間ゲート(t0−t1)の間に位置させるように第1設定値(t0)と第2設定値(t1)を配置し、更にN回目と(N+1)回目の底面反射エコーの間に分割設定値(tx)を配置し、多重底面反射エコーの信号を、N回目の底面反射エコーを含む第1設定値(t0)から分割設定値(tx)までの第1信号と、(N+1)回目の底面反射エコーを含む分割設定値(tx)から第2設定値(t1)までの第2信号とに分離し、第1信号と第2信号の一方に補正値を追加して第1信号の第1データ長(ΔN1)と第2信号の第2データ長(ΔN2)とを一致させ、データ長を一致させた第1データ長(ΔN)及び第2データ長(ΔN)を相互相関演算で処理してピーク値(Nk)の位置を求めるように構成されたことを特徴とする請求項7に記載の超音波検査装置。
【請求項9】
減肉量及び/又は減肉速度が条件設定値を超えた場合に警報を出す警報部を備えたことを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の超音波検査装置。
【請求項10】
減肉量及び/又は減肉速度に基づいて計測対象物の交換時期又は補修時期を示す表示部を備えたことを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の超音波検査装置。
【請求項11】
超音波探触子からの多重底面反射エコーを波形として受信する探傷器と、該探傷器からの波形を信号に変換する信号採取部とを備えることを特徴とする請求項6〜8に記載の超音波検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−158387(P2011−158387A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21377(P2010−21377)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「IIC REVIEW」NO.42の表紙、目次、奥付、及び第37〜42ページのコピー 発行日 平成21年10月
【出願人】(000198318)株式会社IHI検査計測 (132)
【Fターム(参考)】