説明

超音波検査方法及び超音波検査装置

【課題】被検査体内部を非破壊で精度良く検査する。
【解決手段】超音波検査装置10を用い、発信部11から被検査体1に超音波バースト信号を発信し、超音波バースト信号が発信された被検査体1内からの反射信号をカンチレバー12によって受信する。そして、超音波バースト信号の発信から反射信号の受信までの時間差であるエコー時間と、その反射信号を受信したカンチレバー12の位置とを関連付けて、超音波検査装置10の記憶部15に記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いる超音波検査方法及び超音波検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の使用に伴う破断や破損といった機械的損傷は、例えば、材料内部の微小欠陥が集合して機械的強度が減少した結果生じる。そのため、材料内部の検査においては、空隙や亀裂を対象にした巨視的検査はもとより、微小欠陥を対象にした微視的検査も重要になってくる。
【0003】
このような材料内部の微視的検査には、例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)或いは走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)を用いることができる。但し、TEMやSEMでは、検査対象の材料、或いは検査対象の材料を用いた構造物や製品を、非破壊でそのまま検査することができない場合がある。
【0004】
一方、検査対象の材料等を非破壊で検査する手法の1つとして、超音波を利用した超音波探傷法が知られている。超音波探傷法では、1つ又は配列された複数の振動子を備えたプローブが用いられる。そのようなプローブの振動子により、検査対象の材料内部への超音波信号の入射と、その材料内部からの反射信号の受信が行われ、入射信号と反射信号の関係に基づき、材料内部の空隙、亀裂、欠陥等が検査される。
【0005】
尚、主に材料表面の形状や物性を測定する方法として、先端部に微小な探針が取り付けられたカンチレバーをプローブとする、走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope)を用いる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−311822号公報
【特許文献2】特開平6−323843号公報
【特許文献3】特開平9−159681号公報
【特許文献4】特表2009−511876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波探傷法は、材料材部を非破壊で検査することのできる手法の1つである。しかし、プローブに一定サイズの振動子を使用し、また、そのような振動子を複数配列して使用するために、振動子の種類と個数によって、検査領域のサイズと空間分解能とがほぼ決まってくる。そのため、材料内部の微視的検査を精度良く行うことができない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、超音波信号を発信する発信機と、カンチレバーと、記憶部とを有する超音波検査装置を用いた超音波検査方法であって、前記発信機から被検査体に超音波バースト信号を発信する第1の工程と、前記超音波バースト信号が発信された前記被検査体内からの反射信号を前記カンチレバーによって受信する第2の工程と、前記超音波バースト信号の発信から前記反射信号の受信までの時間差と、前記カンチレバーの位置とを関連付けて前記記憶部に記憶する第3の工程とを含む超音波検査方法が提供される。
【0009】
また、本発明の一観点によれば、被検査体に超音波バースト信号を発信する発信機と、前記超音波バースト信号が発信された前記被検査体内からの反射信号を受信するカンチレバーと、前記超音波バースト信号の発信から前記反射信号の受信までの時間差と、前記カンチレバーの位置とを関連付けて記憶する記憶部とを含む超音波検査装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
開示の超音波検査方法及び超音波検査装置によれば、被検査体の内部を非破壊で精度良く検査することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】超音波検査装置の構成例を示す図である。
【図2】超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
【図3】第1の実施の形態に係る超音波検査装置の構成例を示す図である。
【図4】第1の実施の形態に係る超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
【図5】第1の実施の形態において被検査体内に2つの反射体が存在する場合の説明図である。
【図6】第1の実施の形態に係る超音波検査装置の記憶方法の一例の説明図である。
【図7】第1の実施の形態に係る3次元メッシュの取得方法の説明図である。
【図8】第1の実施の形態に係る超音波検査装置の記憶方法の別例の説明図である。
【図9】第2の実施の形態に係る超音波検査装置の構成例を示す図である。
【図10】第2の実施の形態に係る超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
【図11】第2の実施の形態において被検査体内に2つの反射体が存在する場合の説明図である。
【図12】第3の実施の形態に係る超音波検査装置の構成例を示す図である。
【図13】第3の実施の形態に係る超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
【図14】コンピュータの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は超音波検査装置の構成例を示す図である。
図1に示す超音波検査装置10は、発信部11、カンチレバー12、位置制御部13、信号処理部14及び記憶部15を有している。
【0013】
発信部11は、被検査体1に対して超音波信号、ここでは超音波バースト信号を発信する。発信部11には、例えば、超音波振動子を用いることができる。発信部11は、例えば、カンチレバー12に設け、カンチレバー12を発信機として用いることができる。また、発信部11は、例えば、それ自体で発信機として用いることもできる。
【0014】
カンチレバー12は、発信部11から発信された超音波バースト信号が被検査体1の内部に存在する反射体によって反射されて戻ってくる反射信号(エコー信号)を受信する受信機として用いられる。カンチレバー12には、先端部に例えばナノメートルオーダーの微小な探針が設けられたものを用いる。被検査体1からの反射信号は、被検査体1表面の振動信号としてカンチレバー12で受信される。
【0015】
位置制御部13は、被検査体1に対するカンチレバー12(探針)の位置(x,y,z方向の位置)を制御する。カンチレバー12は、位置制御部13によって被検査体1の検査領域上を走査される。
【0016】
信号処理部14は、発信部11から発信された超音波バースト信号と、カンチレバー12によって受信された反射信号とを用い、超音波バースト信号の発信から反射信号の受信までの時間差(エコー時間)を求める。信号処理部14は、求めたエコー時間を、位置制御部13によって制御されたカンチレバー12の被検査体1上での位置と関連付けて、記憶部15に記憶する。また、信号処理部14は、例えば、求めたエコー時間を、被検査体1内部での超音波バースト信号の伝播速度を用いて距離(エコー距離)に変換したうえで、カンチレバー12の被検査体1上での位置と関連付けて、記憶部15に記憶する。
【0017】
図2は超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
超音波検査装置10は、位置制御部13により、被検査体1上の所定位置、例えば、予め設定された検査領域上の所定位置に、カンチレバー12を制御し(ステップS1)、その被検査体1に対し、発信部11から超音波バースト信号を発信する(ステップS2)。発信部11から発信された超音波バースト信号は、被検査体1内に伝播し、被検査体1内に存在する反射体、例えば、構造物や欠陥等で反射する。超音波検査装置10は、この反射信号を、被検査体1表面の振動信号としてカンチレバー12で受信する(ステップS3)。
【0018】
超音波検査装置10では、信号処理部14により、超音波バースト信号の発信と反射信号の受信との時間差であるエコー時間が求められる(ステップS4)。信号処理部14は、求めたエコー時間を、又は求めたエコー時間をエコー距離に変換したうえで、カンチレバー12の被検査体1上での位置と関連付けて、記憶部15に記憶する(ステップS5)。
【0019】
超音波検査装置10は、被検査体1の検査領域全体について、位置制御部13により検査領域上でカンチレバー12を走査してその位置を変え、ステップS1〜S5の処理を実行する(ステップS6)。
【0020】
超音波検査装置10の信号処理部14で求められるエコー時間は、発信部11から発信された超音波バースト信号が、被検査体1内を伝播し、反射体で反射され、カンチレバー12に受信されるまでの伝播時間である。エコー時間は、被検査体1内の反射体と、被検査体1上に設置されるカンチレバー12との距離に応じて変化する。超音波検査装置10は、カンチレバー12の位置と、カンチレバー12がその位置にあるときに計測されるエコー時間を、カンチレバー12の位置を変化させて検査領域全体で蓄積することで、検査領域内の反射体分布を求める。
【0021】
このように超音波検査装置10は、被検査体1内からの反射信号を、カンチレバー12によって受信する。そのため、被検査体1の検査領域表面において、カンチレバー12の先端部に設けた探針のサイズ程の微小領域まで、エコー時間の計測を行うことができる。エコー時間は、被検査体1内の反射体とカンチレバー12との距離に応じて変化するので、このようにカンチレバー12を用いてエコー時間を計測することで、反射体が存在し得る位置を精度良く知ることができる。このようなカンチレバー12による反射信号の受信とエコー時間の計測を、検査領域表面全体に亘って行うことにより、検査領域内の反射体分布を、高い空間分解能で、精度良く、取得することが可能になる。
【0022】
尚、被検査体1の検査領域は、被検査体1の全体でも、一部でもよい。検査領域表面の、カンチレバー12による受信が行われる各微小領域の一辺の長さは、検査領域の一辺の実寸を任意の数(256、512、1024等)で割った値とすることができる。
【0023】
以下、上記のような超音波検査装置、及び超音波検査装置を用いた超音波検査方法について、より詳細に説明する。
まず、第1の実施の形態について説明する。
【0024】
図3は第1の実施の形態に係る超音波検査装置の構成例を示す図である。
図3に示す超音波検査装置100Aは、カンチレバー101、圧電素子102、位置制御部103、レーザー照射部104、光検出部105、差分検出部106を有している。更に、この超音波検査装置100Aは、カンチレバー101に設けられた発信部107、関数発生部108、増幅部109、信号処理部110、記憶部111、表示部112、制御部113、入力部114を有している。
【0025】
カンチレバー101は、一端側(根元側)が固定され、他端側(自由端側)の先端部には、例えばナノメートルオーダーの微小な探針101aが設けられている。カンチレバー101は、被検査体1からの反射信号を受信する受信機として用いられる。圧電素子102は、カンチレバー101の根元側に設けられ、入力される信号に従ってカンチレバー101をx,y,z方向に移動させる。位置制御部103は、圧電素子102への入力信号を制御する。位置制御部103及び圧電素子102により、カンチレバー101(探針101a)のx,y,z方向の位置が制御される。
【0026】
レーザー照射部104は、カンチレバー101の背面にレーザー光を照射する。光検出部105は、カンチレバー101の背面にレーザー照射部104から照射されて反射されたレーザー光を検出する。例えば、カンチレバー101が上下(z方向)に変位すれば、レーザー光は光検出部105上で上下に動くようになる。ここに例示する超音波検査装置100Aでは、カンチレバー101の変位(たわみ)が、このような、いわゆる光テコ方式で検出されるようになっている。差分検出部106は、カンチレバー101の変位に伴って変化する、光検出部105による検出信号を入力とし、検出信号の差分に応じた信号を生成する。
【0027】
尚、差分検出部106で生成された信号の一部は、カンチレバー101の探針101aと被検査体1表面間の力が一定に保たれるように、位置制御部103にフィードバックされる。位置制御部103は、そのフィードバックされた信号を用い、カンチレバー101のz方向の位置を制御する。
【0028】
発信部107は、超音波バースト信号を発信する。超音波検査装置100Aでは、発信部107が、カンチレバー101に設けられている。この発信部107には、例えば、超音波振動子を用いることができる。関数発生部108は、発信部107から発信する超音波バースト信号の波形を発生する。増幅部109は、関数発生部108で発生した波形を増幅する。尚、増幅部109での増幅率を可変とする構成としてもよい。関数発生部108で発生され、増幅部109で増幅された波形が発信部107に入力され、発信部107から、その波形に応じた超音波バースト信号が発信される。
【0029】
発信部107から発信された超音波バースト信号は、カンチレバー101に伝達され、カンチレバー101は、その超音波バースト信号に応じて超音波振動する。カンチレバー101の超音波振動は、被検査体1に伝達され、被検査体1に超音波バースト信号が発信される。即ち、カンチレバー101は、被検査体1からの反射信号を受信する受信機として用いられると共に、発信部107が設けられて、被検査体1に対して超音波バースト信号を発信する発信機としても用いられる。
【0030】
信号処理部110は、差分検出部106で生成された信号、即ちカンチレバー101で受信された被検査体1からの反射信号を検出する。また、信号処理部110には、カンチレバー101(発信部107)から被検査体1に発信する超音波バースト信号の情報が送信される。ここでは、関数発生部108で発生する波形(超音波バースト信号)が信号処理部110に送信されるようになっている。
【0031】
信号処理部110は、カンチレバー101から発信される超音波バースト信号の情報、及びカンチレバー101によって受信された反射信号の情報を用いて、所定の演算を実行する。ここでは、信号処理部110は、カンチレバー101からの超音波バースト信号の発信と、カンチレバー101による反射信号の受信との時間差であるエコー時間を演算する。更に、信号処理部110は、超音波バースト信号の被検査体1内での伝播速度に基づき、求めたエコー時間から超音波バースト信号の伝播距離であるエコー距離を演算する。尚、超音波バースト信号の被検査体1内での伝播速度は、例えば、検査する被検査体1の種類に応じた値を、後述の入力部114から予め設定しておくことができる。伝播速度の設定値は、超音波検査装置100Aの記憶部111等に記憶しておき、信号処理部110は、超音波検査装置100Aに記憶されている伝播速度の設定値を用いて、エコー距離を演算する。
【0032】
更に、信号処理部110は、位置制御部103からカンチレバー101の被検査体1上での位置に関する情報を取得し、カンチレバー101の位置と、求めたエコー距離とを関連付けて記憶部111に記憶する。
【0033】
表示部112は、記憶部111に記憶されている情報に基づき、被検査体1についての検査結果を表示する。
制御部113は、位置制御部103、関数発生部108、増幅部109、信号処理部110、表示部112の処理動作を制御する。
【0034】
入力部114からは、例えば、被検査体1の種類に応じ、位置制御部103及び関数発生部108の制御条件が入力される。また、上記の伝播速度の設定値が入力される。
例えば、入力部114からは、被検査体1の検査領域の範囲(カンチレバー101の被検査体1上の走査範囲)、検査領域の分割数(画素数)、カンチレバー101の走査速度(一画素におけるカンチレバー101の滞在時間)等の条件が設定される。位置制御部103は、その条件に基づき、被検査体1上でのカンチレバー101の位置を制御する。
【0035】
また、入力部114からは、超音波バースト信号の周波数、発生時間、及び発生タイミング(発生周期)等の条件が設定される。関数発生部108は、その条件に基づき、所定の超音波バースト信号を一定の発生周期で発生させる。
【0036】
尚、位置制御部103及び関数発生部108の制御条件は、カンチレバー101による反射信号の受信が、一の超音波バースト信号が発信されてから次の超音波バースト信号が発信されるまでの間に完了するように設定しておくことが好ましい。
【0037】
続いて、上記構成を有する超音波検査装置100Aの処理フローについて説明する。
図4は第1の実施の形態に係る超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
まず、超音波検査装置100Aでは、被検査体1上にカンチレバー101が設置され、更に、入力部114から位置制御部103及び関数発生部108の制御条件が入力されて設定される。例えば、上記のように、検査領域の範囲とその分割数(256×256×256等)、カンチレバー101の走査速度等の条件が入力部114から入力され、位置制御部103の制御条件が設定される。また、超音波バースト信号の周波数、発生時間、発生周期等の条件が入力部114から入力され、関数発生部108の制御条件が設定される。
【0038】
尚、超音波バースト信号の周波数帯域は、例えば数十kHz〜数十MHzのオーダーの範囲とすることができるが、カンチレバー101によって高感度で受信するためには、カンチレバー101の共振周波数又はその近傍の周波数を利用するのが望ましい。例えば、超音波バースト信号の周波数設定に先立ち、カンチレバー101を被検査体1上に設置し、低出力で超音波スイープ信号を被検査体1に入射してカンチレバー101の応答振幅を測定し、振幅が最大となる周波数、即ち最高感度周波数を、予め見つけておく。
【0039】
各制御条件の設定後、超音波検査装置100Aは、位置制御部103により、被検査体1上におけるカンチレバー101の位置を、検査領域表面(走査範囲)の所定位置(画素)に制御する(ステップS10)。
【0040】
次いで、超音波検査装置100Aは、関数発生部108により、超音波バースト信号を発生する(ステップS11)。関数発生部108で発生された超音波バースト信号は、2つに分岐され、その一方の信号は、信号処理部110に送信される(ステップS12)。また、分岐されたもう一方の信号は、増幅部109で増幅され、発信部107からカンチレバー101を介して被検査体1に発信(入射)される(ステップS13)。
【0041】
超音波検査装置100Aは、カンチレバー101から被検査体1への超音波バースト信号の発信後、そのカンチレバー101による被検査体1内からの反射信号の受信を開始する(ステップS14)。反射信号の受信は、一定時間、レーザー照射部104、光検出部105及び差分検出部106を用いて、信号処理部110で検出される。尚、一定時間としては、例えば、超音波バースト信号の発生周期、カンチレバー101の一画素あたりの滞在時間等を設定することができる。
【0042】
超音波検査装置100Aは、一定時間にカンチレバー101で反射信号の受信が検出されなければ(ステップS15)、ステップS19の処理に進む。超音波検査装置100Aは、一定時間に反射信号の受信が検出されれば(ステップS15)、信号処理部110により、検出した反射信号と、ステップS12で送信された超音波バースト信号との時間差であるエコー時間を求める(ステップS16)。更に、超音波検査装置100Aは、信号処理部110により、そのエコー時間から、超音波バースト信号の被検査体1内での伝播距離であるエコー距離を求める(ステップS17)。
【0043】
超音波検査装置100Aは、信号処理部110により、このようにして求めたエコー距離を、反射信号を受信したときのカンチレバー101の検査領域上での位置と関連付けて、記憶部111に記憶する(ステップS18)。
【0044】
ここで、被検査体1内の異なる場所に、2つの反射体A,Bが存在している場合を想定する。
図5は第1の実施の形態において被検査体内に2つの反射体が存在する場合の説明図である。
【0045】
超音波検査装置100Aでは、カンチレバー101から被検査体1に超音波バースト信号が発信され、そのカンチレバー101によって反射体A,Bそれぞれからの反射信号が受信される。例えば、図5(A),(B)に示したように、反射体A,Bのうち、反射体Aの方が、距離ΔLだけカンチレバー101に近い場所にあるものとする。尚、超音波バースト信号の被検査体1内での伝播速度は一定であるとする。
【0046】
図5(A)に示したように、カンチレバー101から超音波バースト信号が発信されると、その超音波バースト信号は、反射体A,Bでそれぞれ反射され、カンチレバー101で受信される。このとき、カンチレバー101による超音波バースト信号の発信から受信までのエコー時間(カンチレバー101と反射体A,Bそれぞれとの間の超音波バースト信号の往復時間)は、カンチレバー101と反射体A,Bとの距離に応じた時間となる。即ち、図5(B)に示したように、反射体Aの方がカンチレバー101に近い場所にあるため、カンチレバー101と反射体Aの間のエコー時間ΔtAの方が、カンチレバー101と反射体Bの間のエコー時間ΔtBよりも短くなる。
【0047】
超音波検査装置100Aは、ステップS10〜S17のように、カンチレバー101による超音波バースト信号の発信と受信を行い、信号処理部110によりエコー時間を求め、更にエコー距離を求める。そして、ステップS18のように、求めたエコー距離を、カンチレバー101の検査領域上での位置と関連付けて記憶する。超音波検査装置100Aにおいては、このようにエコー距離とカンチレバー101の位置とを関連付けて記憶するため、その記憶部111に、3次元メッシュの各メッシュに対応した記憶領域を用意しておく(ボクセル)。尚、用意する3次元メッシュのメッシュ数は、超音波検査装置100Aにおいて設定され得る検査領域の分割数(画素数)を上回るように設定しておく。
【0048】
図6は第1の実施の形態に係る超音波検査装置の記憶方法の一例の説明図である。
被検査体1内に2つの反射体A,Bが存在しているとすると、カンチレバー101から発信した超音波バースト信号に対し、反射体A,Bそれぞれからの反射信号がそのカンチレバー101で受信される。超音波検査装置100Aは、それぞれの反射信号についてエコー距離rA1,rB1を求める。そして、図6(A)に示したように、カンチレバー101の走査方向(x方向又はy方向。一例としてx方向)に沿った2次元メッシュM2上において、カンチレバー101の位置を中心O1とし、求めたエコー距離rA1,rB1を半径とする半円を設定する。その半円上に該当する箇所のメッシュ(当該メッシュに対応する記憶領域)に、点数を加算する。ここで点数が加算されたメッシュは、被検査体1内の、反射体A,Bが存在する可能性のある箇所に対応している。尚、図6(A)では、点数が加算されたメッシュを塗りつぶして図示している。
【0049】
ステップS18では、このようにしてエコー距離をカンチレバー101の位置と関連付けて記憶部111に記憶する。そして、超音波検査装置100Aは、位置制御部103によってカンチレバー101を走査し、検査領域上でカンチレバー101の位置(画素)を変えて、ステップS10〜S18の処理を繰り返す(ステップS19)。
【0050】
例えば、カンチレバー101をx方向に走査してその位置を変え、その位置で超音波バースト信号を発信し、反射体A,Bそれぞれからの反射信号を受信して、それぞれの反射信号についてエコー距離rA2,rB2を求める。そして、図6(B)に示したように、x方向に沿った2次元メッシュM2上において、カンチレバー101の位置を中心O2とし、求めたエコー距離rA2,rB2を半径とする半円上に該当する箇所のメッシュ(記憶領域)に、点数を加算する。このとき、既に点数が加算されている箇所のメッシュには、更に点数が加算され、合計2点が記憶される。点数が加算されたメッシュは、被検査体1内の、反射体A,Bが存在する可能性のある箇所に対応している。尚、図6(B)では、点数が新たに加算されたメッシュを塗りつぶして図示し、点数が更に加算されたメッシュにはハッチングを施している。
【0051】
超音波検査装置100Aは、カンチレバー101を更にx方向に走査してその位置を変え、同様の処理を実行する。x方向の終端位置の処理まで終了した後は、直交する第2方向(y方向又はx方向。一例としてy方向)にカンチレバー101を走査してその位置での処理を行い、その後はx方向に走査してカンチレバー101の位置を変え、同様に処理を繰り返す。それにより、図7に示したように、検査領域のx方向に沿った2次元メッシュM2をy方向について蓄積していき、3次元メッシュM3を取得する。
【0052】
超音波検査装置100Aは、このようにして被検査体1の検査領域上の全範囲(全画素)について、ステップS10〜S18の処理を実行し、検査領域について、3次元メッシュの各メッシュ(記憶領域)に点数を加算した情報を取得する。この情報は、被検査体1内の反射体A,Bの箇所を、3次元メッシュにおいて点数化した、3次元空間情報を表している。3次元メッシュの、反射体A,Bが存在する箇所に対応するメッシュは、点数が高くなる。
【0053】
超音波検査装置100Aは、記憶部111に記憶されている、このような3次元メッシュを用い、被検査体1の検査領域の3次元空間情報を、表示部112によって表示する(ステップS20)。例えば、超音波検査装置100Aは、3次元メッシュを、各メッシュの点数の大きさに応じた濃淡情報、或いはカラー情報に変換し、表示部112によって表示する。これにより、被検査体1の検査領域の3次元空間情報が画像化される。
【0054】
尚、上記ステップS18では、エコー距離をカンチレバー101の位置と関連付けて記憶部111に記憶する際、カンチレバー101の位置を中心とし、エコー距離を半径とする半円上に該当する箇所のメッシュに点数を加算する処理を例にして説明した。このほか、超音波検査装置100Aでは、次の図8に示すような処理を行うことも可能である。
【0055】
図8は第1の実施の形態に係る超音波検査装置の記憶方法の別例の説明図である。尚、図8では、便宜上、3次元メッシュM3の個々のメッシュは図示を省略している。
エコー距離をカンチレバー101の位置と関連付けて記憶部111に記憶する際には、図8に示すように、カンチレバー101の位置を中心とし、エコー距離を半径とする半球上に該当する箇所のメッシュに点数を加算してもよい。
【0056】
例えば、まず、あるカンチレバー101の位置でのエコー距離rA1,rB1を求める。そして、図8(A)に示したように、3次元メッシュM3上において、カンチレバー101の位置を中心O1とし、エコー距離rA1,rB1を半径とする半球上に該当する箇所のメッシュ(記憶領域)に点数を加算する。次いで、位置制御部103によってカンチレバー101を第1方向(一例としてx方向)に走査してその位置を変え、その位置でのエコー距離rA2,rB2を求める。そして、図8(B)に示したように、3次元メッシュM3上において、カンチレバー101の位置を中心O2とし、エコー距離rA2,rB2を半径とする半球上に該当する箇所のメッシュに点数を加算する。
【0057】
x方向の終端位置の処理まで同様の処理を実行した後は、直交する第2方向(一例としてy方向)にカンチレバー101を走査してその位置での処理を行い、更にx方向に走査してカンチレバー101の位置を変え、同様に処理を繰り返していく。超音波検査装置100Aは、このようにして被検査体1の検査領域上の全範囲(全画素)について処理を実行し、3次元メッシュM3の該当メッシュに点数を加算した、検査領域の3次元空間情報を取得する。
【0058】
このような処理では、検査領域上の各位置(画素)について、反射体A,Bが存在する可能性のある箇所を3次元的に点数化することができる。この処理を検査領域上の全範囲で繰り返すことで、反射体A,Bが存在し得る箇所を特定するための点数情報を増やすことができるため、反射体A,Bの検出精度を向上させることが可能になる。
【0059】
ここでは被検査体1内に反射体A,Bが存在する場合を例にして説明したが、反射体分布が未知の被検査体1に対し、超音波検査装置100Aを用い、上記のような処理を実行することにより、その被検査体1における検査領域の反射体分布を検出することができる。
【0060】
以上、第1の実施の形態に係る超音波検査装置100A、及びそれを用いた超音波検査方法について説明した。
超音波検査装置100Aでは、カンチレバー101を用いて反射信号を受信するため、その先端部に設けた探針101aのサイズ程の微小領域まで、反射信号を受信してエコー距離を求めることができる。そのため、そのエコー距離から、反射体が存在し得る箇所が、精度良く求められるようになる。このような微小領域で得られる情報を、検査領域全体に亘って収集することにより、検査領域の反射体分布を、高い空間分解能で、精度良く、取得することが可能になる。超音波検査装置100Aを用いた超音波検査方法によれば、被検査体1の内部を非破壊で精度良く検査することが可能になる。
【0061】
また、超音波検査装置100Aでは、検査領域の範囲とその分割数を変更することで、空間分解能を変更することができる。超音波検査装置100Aでは、カンチレバー101を用いるため、例えば、ナノメートルオーダーから数百ミクロンオーダーの空間分解能を実現することもできる。1つ又は複数の振動子を備えたフェーズドアレイのようなプローブを用いた超音波探傷法の場合、振動子の種類、個数、配列によって、検査領域のサイズと空間分解能とがほぼ決まり、適用範囲が限定され得る。これに対し、超音波検査装置100Aを用いた超音波検査方法によれば、空間分解能を変更することができ、汎用性を高めることができる。
【0062】
次に、第2の実施の形態について説明する。
図9は第2の実施の形態に係る超音波検査装置の構成例を示す図である。
図9に示す超音波検査装置100Bは、超音波バースト信号を発信する発信部107が、カンチレバー101とは別個に被検査体1上に設置され、発信機として用いられている。カンチレバー101は、受信機として用いられる。超音波検査装置100Bは、このような点で、上記の超音波検査装置100Aと相違する。
【0063】
この第2の実施の形態に係る超音波検査装置100Bの発信部107(発信機)には、例えば、超音波振動子を用いることができる。超音波振動子は、グリセリンやシリコンゴム等を介して、被検査体1上に固定して設置することができる。
【0064】
このような構成を有する超音波検査装置100Bの処理フローについて説明していく。
図10は第2の実施の形態に係る超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
超音波検査装置100Bでは、まず、被検査体1上に発信部107及びカンチレバー101が設置され、更に、入力部114から位置制御部103及び関数発生部108の制御条件が入力されて設定される。例えば、上記のように、検査領域の範囲とその分割数(256×256×256等)、カンチレバー101の走査速度、超音波バースト信号の周波数、発生時間、発生周期等の条件が、入力部114から入力されて設定される。尚、超音波バースト信号の周波数設定に先立ち、例えば、カンチレバー101の最高感度周波数を予め見つけておく。
【0065】
各制御条件の設定後、超音波検査装置100Bは、位置制御部103により、被検査体1上におけるカンチレバー101の位置を、検査領域表面(走査範囲)の所定位置(画素)に制御する(ステップS30)。
【0066】
超音波検査装置100Bは、関数発生部108により、超音波バースト信号を発生する(ステップS31)。関数発生部108で発生された超音波バースト信号は、2つに分岐され、その一方の信号は、信号処理部110に送信される(ステップS32)。また、分岐されたもう一方の信号は、増幅部109で増幅され、発信部107から被検査体1に発信(入射)される(ステップS33)。
【0067】
超音波検査装置100Bは、発信部107から被検査体1への超音波バースト信号の入射後、カンチレバー101による被検査体1内からの反射信号の受信を開始する(ステップS34)。反射信号の受信は、一定時間、レーザー照射部104、光検出部105及び差分検出部106を用いて、信号処理部110で検出される。尚、一定時間としては、例えば、超音波バースト信号の発生周期、カンチレバー101の一画素あたりの滞在時間等を設定することができる。
【0068】
超音波検査装置100Bは、一定時間に反射信号の受信が検出されなければ(ステップS35)、ステップS38の処理に進む。超音波検査装置100Bは、一定時間に反射信号の受信が検出されれば(ステップS35)、信号処理部110により、検出した反射信号と、ステップS32で送信された超音波バースト信号の時間差であるエコー時間を求める(ステップS36)。
【0069】
超音波検査装置100Bは、信号処理部110により、求めたエコー時間を、反射信号を受信したときのカンチレバー101の検査領域上での位置と関連付けて、記憶部111に記憶する(ステップS37)。
【0070】
超音波検査装置100Bは、位置制御部103によってカンチレバー101を走査し、検査領域上でカンチレバー101の位置(画素)を変えて、ステップS30〜S37の処理を繰り返す(ステップS38)。
【0071】
ここで、被検査体1内の異なる場所に、2つの反射体C,Dが存在している場合を想定する。
図11は第2の実施の形態において被検査体内に2つの反射体が存在する場合の説明図である。
【0072】
超音波検査装置100Bでは、図11(A)に示すように、発信部107から被検査体1に超音波バースト信号が発信され、カンチレバー101によって反射体C,Dそれぞれからの反射信号が受信される。超音波検査装置100Bの信号処理部110で求められるエコー時間は、発信部107から発信され、反射体C,Dそれぞれで反射されて、カンチレバー101で受信されるまでの、超音波バースト信号の伝播時間(飛行時間(Time Of Flight;TOF))である。TOFは、発信部107、反射体C,D、カンチレバー101の位置関係により変化する。
【0073】
超音波検査装置100Bは、信号処理部110で求めたエコー時間(TOF)を、カンチレバー101の検査領域上での位置と関連付けて記憶する。超音波検査装置100Bにおいては、このようにエコー時間とカンチレバー101の位置とを関連付けて記憶するため、その記憶部111に、図11(B)に示すような3次元メッシュの各メッシュに対応した記憶領域を用意しておく。
【0074】
被検査体1内に2つの反射体C,Dが存在しているとすると、発信部107から発信した超音波バースト信号に対し、反射体C,Dそれぞれからの反射信号がカンチレバー101で受信される。今、発信部107の位置を固定し、カンチレバー101を第1方向(x方向又はy方向。一例としてx方向)に走査するものとする。
【0075】
例えば、あるカンチレバー101の位置P1で、ステップS31〜S36の処理を実行してエコー時間t1を求める。そして、ステップS37では、x方向に沿った2次元メッシュM2上において、位置P1とエコー時間t1に対応する箇所のメッシュ(記憶領域)に点数を加算する。次いで、カンチレバー101を位置P2に走査し、ステップS31〜S37の処理を行い、エコー時間t2を求め、x方向に沿った2次元メッシュM2上において、位置P2とエコー時間t2に対応する箇所のメッシュ(記憶領域)に点数を加算する。このような処理を、まずはカンチレバー101をx方向に走査し、設定したx方向の画素数分だけ繰り返す。
【0076】
発信部107の位置を固定し、このようにカンチレバー101をx方向に走査した場合、カンチレバー101と反射体Cとが近付くにつれてエコー時間は短くなり、カンチレバー101と反射体Cとが離れるにつれてエコー時間は長くなる。同様に、カンチレバー101と反射体Dとが近付くにつれてエコー時間は短くなり、カンチレバー101と反射体Dとが離れるにつれてエコー時間は長くなる。ステップS31〜S38の処理によって得られる、x方向に沿った2次元メッシュM2は、このような状況を反映した情報になっている。即ち、図11(B)の例では、カンチレバー101が位置P5,P12にあるときに、カンチレバー101と反射体C,Dとの距離が最も短くなることを示している。
【0077】
超音波検査装置100Bは、このようにしてx方向に沿った2次元メッシュM2を取得した後、第2方向(y方向又はx方向。一例としてy方向)にカンチレバー101を走査し、ステップS31〜S38の処理をx方向について繰り返す。それにより、検査領域のx方向に沿った2次元メッシュM2をy方向について蓄積していき、検査領域全体についての3次元メッシュを取得する。被検査体1の場合、最終的には、反射体C,Dが存在する箇所に対応するメッシュを頂点とし、点数の加算されたメッシュが概ね逆円錐状に並んだような3次元メッシュが取得される。
【0078】
超音波検査装置100Bは、このようにして取得された、記憶部111の3次元メッシュを用い、被検査体1の検査領域の反射体分布に関する情報を、表示部112によって表示する(ステップS39)。
【0079】
例えば、超音波検査装置100Bは、カンチレバー101の位置と求めたエコー時間に対応するメッシュに点数を加算する際に、エコー時間が短いものほど点数が高くなるように、点数を加算していく。或いは、カンチレバー101の位置と求めたエコー時間に対応するメッシュに均等に点数を加算し、3次元メッシュの取得後に、短いエコー時間に対応する箇所のメッシュほど点数が高くなるように点数をつけ直す。このように点数化した3次元メッシュを、各メッシュの点数の大きさに応じた濃淡情報、或いはカラー情報に変換し、表示部112によって表示する。これにより、被検査体1の検査領域を、3次元的に画像化することができる。
【0080】
また、被検査体1内に存在する反射体のx,y方向の位置は、点数の加算されたメッシュが逆円錐状に並んだ3次元メッシュの頂点の位置(カンチレバー101の位置)から決定することができる。更に、その反射体のz方向の位置は、その頂点のメッシュに対応したエコー時間、カンチレバー101の位置及び発信部107の位置から決定することができる。ステップS39では、上記のようにして取得される3次元メッシュに基づき、被検査体1内の反射体分布を、3次元空間情報として画像化することも可能である。
【0081】
この第2の実施の形態のように、被検査体1上の異なる場所で超音波バースト信号の発信と受信を行う場合でも、受信にカンチレバー101を用いることにより、被検査体1の内部を、高い空間分解能で、精度良く、非破壊で検査することができる。
【0082】
尚、ここでは、発信部107の位置を固定し、カンチレバー101を検査領域上で走査して、カンチレバー101の位置とエコー時間の関係を示す3次元メッシュを取得する場合を例にして説明した。
【0083】
このほか、カンチレバー101の位置を固定し、発信部107を検査領域上で走査して、発信部107の位置とエコー時間の関係を示す3次元メッシュを取得し、その情報も加えて、被検査体1の検査領域を検査してもよい。このように発信部107を走査させる場合には、例えば、任意のサイズの、超音波振動子等の発信部107を用いることができる。また、受信機として用いるカンチレバー101とは別のカンチレバーを発信機として利用すると、高い空間分解能で精度の良い検査を行う観点から効果的である。
【0084】
次に、発信にカンチレバーを用いる例を、第3の実施の形態として説明する。
図12は第3の実施の形態に係る超音波検査装置の構成例を示す図である。
図12に示す超音波検査装置100Cは、受信用のカンチレバー101に加え、発信用のカンチレバー121(第2のカンチレバー)を有している。
【0085】
発信用のカンチレバー121には、受信用のカンチレバー101と同様に、圧電素子122及び位置制御部123が設けられている。圧電素子122は、入力される信号に従って、発信用のカンチレバー121をx,y,z方向に移動させる。位置制御部123は、圧電素子122への入力信号を制御する。位置制御部123及び圧電素子122により、発信用のカンチレバー121(探針)の、被検査体1の検査領域上でのx,y,z方向の位置が制御される。位置制御部123は、入力部114から入力される制御条件に従って、制御部113により制御される。また、ここでは、カンチレバー121走査時のz方向位置制御のため、発信用のカンチレバー121側にも受信用のカンチレバー101側と同様に、レーザー照射部124、光検出部125及び差分検出部126を設けている。
【0086】
発信用のカンチレバー121には、超音波振動子等の発信部107が設けられ、発信部107から超音波バースト信号が発信されることで、カンチレバー121が超音波振動し、その探針から被検査体1に超音波バースト信号が発信(入射)される。即ち、カンチレバー121は、発信部107が設けられて、被検査体1に対して超音波バースト信号を発信する発信機として用いられる。位置制御部123により、この発信機として用いられるカンチレバー121のx,y,z方向の位置が制御される。
【0087】
超音波検査装置100Cは、このような点で、上記の超音波検査装置100Bと相違する。
図13は第3の実施の形態に係る超音波検査装置の処理フローの一例を示す図である。
【0088】
超音波検査装置100Cでは、図10のステップS38の処理までは同様とすることができる。
即ち、超音波検査装置100Cでは、まず、被検査体1上に受信用のカンチレバー101及び発信用のカンチレバー121が設置され、更に、入力部114から位置制御部103,123及び関数発生部108の制御条件が入力され、設定される。
【0089】
各制御条件の設定後、超音波検査装置100Cは、位置制御部103,123により、被検査体1上におけるカンチレバー101,121の位置を、検査領域表面(走査範囲)の所定位置(画素)に制御する(ステップS50)。
【0090】
超音波検査装置100Cは、関数発生部108により、超音波バースト信号を発生する(ステップS51)。そして、超音波検査装置100Cは、一部を信号処理部110に送信し(ステップS52)、一部を増幅部109で増幅し、発信部107からカンチレバー121を介して被検査体1に発信(入射)させる(ステップS53)。
【0091】
超音波検査装置100Cは、カンチレバー101により、被検査体1内からの反射信号の受信を開始する(ステップS54)。超音波検査装置100Cは、一定時間に反射信号の受信が検出されなければ(ステップS55)、ステップS58の処理に進む。超音波検査装置100Cは、一定時間に反射信号の受信が検出されれば(ステップS55)、信号処理部110により、検出した反射信号と送信された超音波バースト信号との時間差であるエコー時間を求める(ステップS56)。
【0092】
超音波検査装置100Cは、信号処理部110により、求めたエコー時間を、反射信号を受信したときのカンチレバー101の位置と関連付けて、記憶部111に記憶する(ステップS57)。超音波検査装置100Cは、カンチレバー121の位置は固定したまま、位置制御部103によってカンチレバー101を走査し、検査領域上でカンチレバー101の位置(画素)を変えて、ステップS50〜S57の処理を繰り返す(ステップS58)。ステップS57,S58の処理は、図11で述べたような例に従い、実行することができる。
【0093】
超音波検査装置100Cは、カンチレバー101の走査が検査領域全体で終了したときには、この受信用のカンチレバー101を所定位置に固定し、発信用のカンチレバー121を検査領域上で走査させる処理を実行する。カンチレバー121を走査させる場合は(ステップS59)、ステップS50の処理に戻り、カンチレバー121の走査が検査領域全体で終了するまで、ステップS50以降の処理が繰り返し実行される。
【0094】
但し、このようにカンチレバー101の位置は固定し、カンチレバー121を走査する場合、ステップS57においては、ステップS56で求めたエコー時間を、カンチレバー121の位置と関連付けて、記憶部111に記憶する。それにより、図11(B)に示したのと同様の2次元メッシュ、及び検査領域全体についての3次元メッシュを取得する。
【0095】
カンチレバー121の走査が検査領域全体で終了した後は(ステップS59)、超音波検査装置100Cは、信号処理部110により、記憶部111に記憶された情報について開口合成処理を行う(ステップS60)。即ち、カンチレバー101を走査して取得された3次元メッシュ、及びカンチレバー121を走査して取得された3次元メッシュの情報を用い、開口合成法で畳み込み演算を行う。開口合成処理後の情報は、記憶部111に記憶される。
【0096】
そして、超音波検査装置100Cは、被検査体1の検査領域の反射体分布に関する、開口合成処理後の情報を、表示部112によって表示する(ステップS61)。
このようにカンチレバー101,121をそれぞれ走査して取得される3次元メッシュの情報を用いると、反射体分布を求めるのに用いる情報量を増加させることができ、より空間分解能が高く、精度の良い3次元画像情報を取得し、表示することが可能になる。
【0097】
畳み込み演算の一種である開口合成法は、元来、走査式映像法が困難な系に適用されることが多く、例えば、フェーズドアレイのような比較的大きな振動子を複数持つプローブの処理性能を向上させるのに用いられる。開口合成法は、走査式での計測時間のずれや、低い方位分解能を改善するのに有効である。この超音波検査装置100Cのように、発信も受信もカンチレバーを走査制御し、時間を区切ってエコー時間を測定して記憶部111に加算していくのであれば、走査式と開口合成法の相乗効果が発揮される。そのため、例えば、空間分解能がサブミクロン以下の精密な3次元画像情報が取得可能になる。
【0098】
この第3の実施の形態のように、発信と受信にカンチレバー121,101を用いることにより、被検査体1の内部を、高い空間分解能で、精度良く、非破壊で検査することができる。
【0099】
尚、この第3の実施の形態に係る超音波検査装置100Cの発信用のカンチレバー121には、単一のカンチレバーを用いることができるほか、複数のカンチレバーを有するカンチレバー型プローブカードを用いることもできる。その場合は、当該プローブカードの複数のカンチレバーを被検査体1上に設置し、各カンチレバーから順次超音波バースト信号を発信する。そして、各超音波バースト信号について、被検査体1上の所定位置に設置した受信用のカンチレバー101で受信した反射信号との時間差、即ちエコー時間を求める。これにより、発信用の単一のカンチレバーを走査したときと同様の処理を実現することができる。
【0100】
また、これと同様に、超音波検査装置100Cの受信用のカンチレバー101には、単一のカンチレバーのほか、複数のカンチレバーを有するカンチレバー型プローブカードを用いることもできる。その場合は、当該プローブカードの複数のカンチレバーを被検査体1上に設置し、発信用のカンチレバーから発信された超音波バースト信号の、被検査体1内からの反射信号を、当該プローブカードの各カンチレバーで受信し、各反射信号についてエコー時間を求める。これにより、受信用の単一のカンチレバーを走査したときと同様の処理を実現することができる。
【0101】
また、発信と受信の双方に、このような複数のカンチレバーを有するカンチレバー型プローブカードを用いると、反射体分布を求めるのに用いる情報量をより一層増加することができ、検査精度の向上を図ることが可能になる。
【0102】
複数のカンチレバーを有するカンチレバー型プローブカードは、第2の実施の形態に係る超音波検査装置100Bのカンチレバー101にも同様に適用可能である。
尚、以上の説明では、カンチレバー101による反射信号の受信を、光テコ方式で検出する場合を例示したが、カンチレバー101自身の振動を直接電気信号に変換する、自己検知式で検出するようにしてもよい。
【0103】
また、超音波検査装置100A,100B,100Cが有する処理機能は、コンピュータを用いて実現することができる。
図14はコンピュータの構成例を示す図である。
【0104】
超音波検査装置100A,100B,100Cでは、コンピュータ200のCPU(Central Processing Unit)201により、全体が制御される。例えば、CPU201を用いて制御部113の処理が実現され、位置制御部103,123、関数発生部108、増幅部109、信号処理部110、表示部112の処理が制御される。CPU201にバス208を介して接続されたRAM(Random Access Memory)202には、CPU201に実行させるOS(Operating System)のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、RAM202には、CPU201による処理に必要な各種データが格納される。
【0105】
ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)203には、OSのプログラム、アプリケーションプログラム、及び各種データが格納される。例えば、HDD203は、記憶部111として用いられる。
【0106】
グラフィック処理装置204には、モニタ301が接続され、グラフィック処理装置204は、CPU201からの命令に従って、画像をモニタ301の画面に表示させる。例えば、グラフィック処理装置204及びモニタ301を用いて表示部112の処理が実現される。
【0107】
入力インタフェース205には、キーボード302やマウス303が接続され、入力インタフェース205は、キーボード302やマウス303から送られてくる信号をCPU201に送信する。例えば、入力インタフェース205とキーボード302やマウス303を用いて入力部114の処理が実現される。
【0108】
光学ドライブ装置206は、DVD(Digital Versatile Disc)、DVD−RAM、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD−R(Recordable)/RW(ReWritable)等の光ディスク304に対し、データの読み取り、書き込みを行う。
【0109】
通信インタフェース207は、ネットワーク400に接続され、ネットワーク400を介して、他のコンピュータまたは通信機器との間でデータの送受信を行う。
また、超音波検査装置100A,100B,100Cの制御部113が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供される。そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。尚、処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体(磁気記憶装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等)に記録しておくことが可能である。
【0110】
以上説明したように、上記の超音波検査装置、及びそれを用いた超音波検査方法によれば、被検査体内部の構造(反射体分布)を、高い空間分解能で、精度良く、非破壊で検査することが可能になる。尚、カンチレバーを用いているため、この超音波検査装置をSPMとして用い、被検査体内部の構造と共に、密度や粘弾性等の物性分布も併せて検査することも可能である。
【0111】
また、プローブにフェーズドアレイを用いた検査では、そのプローブ内に配列された振動子のサイズと個数によって空間分解能がほぼ決まってしまい、その適用範囲が限定される場合がある。これに対し、上記の超音波検査装置及び超音波検査方法では、カンチレバーの走査範囲と分割画素数を変更することで空間分解能を変更することができ、その汎用性を高めることができる。
【0112】
更に、上記の超音波検査装置は、その構成上、比較的容易に小型化が行え、持ち運びを可能にし、室内外を問わず、様々な被検査体に適用することが可能である。例えば、機体や配管等の湾曲した被検査体、動作中で搬出困難な被検査体にも、適用することができる。更に、複数の検査対象が空間的に分散している被検査体等にも、適用することができる。また、上記の超音波検査装置及び超音波検査方法のように、超音波信号の発信と受信が被検査体の一方の側で行えることも利点のひとつとなる。例えば、配管の内部欠陥を検査する場合、透過法的な検査手法では被検査体を挟み込む治具が必要になるが、反射法を用いる上記の超音波検査装置及び超音波検査方法では、そのような治具が不要であり、より簡便な構成で内部欠陥を検査することができる。
【0113】
以上説明した実施の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) 超音波信号を発信する発信機と、カンチレバーと、記憶部とを有する超音波検査装置を用いた超音波検査方法であって、
前記発信機から被検査体に超音波バースト信号を発信する第1の工程と、
前記超音波バースト信号が発信された前記被検査体内からの反射信号を前記カンチレバーによって受信する第2の工程と、
前記超音波バースト信号の発信から前記反射信号の受信までの時間差と、前記カンチレバーの位置とを関連付けて前記記憶部に記憶する第3の工程と、
を含むことを特徴とする超音波検査方法。
【0114】
(付記2) 前記カンチレバーの位置を変え、前記第1の工程、前記第2の工程及び前記第3の工程を実行することを特徴とする付記1に記載の超音波検査方法。
(付記3) 前記発信機の位置と前記時間差とを関連付けて前記記憶部に記憶する第4の工程を更に含み、
前記発信機の位置を変え、前記第1の工程、前記第2の工程及び前記第4の工程を実行することを特徴とする付記2に記載の超音波検査方法。
【0115】
(付記4) 前記カンチレバーが前記発信機の機能を有することを特徴とする付記1又は2に記載の超音波検査方法。
(付記5) 前記発信機に第2のカンチレバーを用いることを特徴とする付記1乃至3のいずれかに記載の超音波検査方法。
【0116】
(付記6) 前記記憶部は、3次元メッシュの各メッシュに対応した記憶領域を有し、
前記記憶部に記憶する際には、前記時間差と関連付けて記憶する位置と、前記時間差とに相当する箇所の前記メッシュに対応した前記記憶領域に、点数を記憶することを特徴とする付記1乃至5のいずれかに記載の超音波検査方法。
【0117】
(付記7) 前記発信機と前記カンチレバーの位置及び前記各記憶領域の点数を用いて開口合成処理を実行する工程を更に含むことを特徴とする付記6に記載の超音波検査方法。
【0118】
(付記8) 前記超音波検査装置は、表示部を有し、
前記表示部によって、前記各記憶領域の点数を当該点数に応じた情報に変換して表示する工程を更に含むことを特徴とする付記6に記載の超音波検査方法。
【0119】
(付記9) 被検査体に超音波バースト信号を発信する発信機と、
前記超音波バースト信号が発信された前記被検査体内からの反射信号を受信するカンチレバーと、
前記超音波バースト信号の発信から前記反射信号の受信までの時間差と、前記カンチレバーの位置とを関連付けて記憶する記憶部と、
を含むことを特徴とする超音波検査装置。
【0120】
(付記10) 前記カンチレバーの位置を制御する第1の位置制御部を更に含むことを特徴とする付記9に記載の超音波検査装置。
(付記11) 前記発信機の位置を制御する第2の位置制御部を更に含むことを特徴とする付記10に記載の超音波検査装置。
【0121】
(付記12) 前記カンチレバーが前記発信機の機能を有することを特徴とする付記9又は10に記載の超音波検査装置。
(付記13) 前記発信機に第2のカンチレバーを用いることを特徴とする付記9乃至11のいずれかに記載の超音波検査装置。
【0122】
(付記14) 前記記憶部は、3次元メッシュの各メッシュに対応した記憶領域を有し、
前記記憶部には、前記時間差と関連付けて記憶する位置と、前記時間差とに相当する箇所の前記メッシュに対応した前記記憶領域に、点数が記憶されることを特徴とする付記9乃至13のいずれかに記載の超音波検査装置。
【0123】
(付記15) 前記各記憶領域の点数を当該点数に応じた情報に変換して表示する表示部を更に含むことを特徴とする付記14に記載の超音波検査装置。
【符号の説明】
【0124】
1 被検査体
10,100A,100B,100C 超音波検査装置
11,107 発信部
12,101,121 カンチレバー
13,103,123 位置制御部
14,110 信号処理部
15,111 記憶部
101a 探針
102,122 圧電素子
104,124 レーザー照射部
105,125 光検出部
106,126 差分検出部
108 関数発生部
109 増幅部
112 表示部
113 制御部
114 入力部
M2 2次元メッシュ
M3 3次元メッシュ
200 コンピュータ
201 CPU
202 RAM
203 HDD
204 グラフィック処理装置
205 入力インタフェース
206 光学ドライブ装置
207 通信インタフェース
208 バス
301 モニタ
302 キーボード
303 マウス
304 光ディスク
400 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波信号を発信する発信機と、カンチレバーと、記憶部とを有する超音波検査装置を用いた超音波検査方法であって、
前記発信機から被検査体に超音波バースト信号を発信する第1の工程と、
前記超音波バースト信号が発信された前記被検査体内からの反射信号を前記カンチレバーによって受信する第2の工程と、
前記超音波バースト信号の発信から前記反射信号の受信までの時間差と、前記カンチレバーの位置とを関連付けて前記記憶部に記憶する第3の工程と、
を含むことを特徴とする超音波検査方法。
【請求項2】
前記カンチレバーの位置を変え、前記第1の工程、前記第2の工程及び前記第3の工程を実行することを特徴とする請求項1に記載の超音波検査方法。
【請求項3】
前記発信機の位置と前記時間差とを関連付けて前記記憶部に記憶する第4の工程を更に含み、
前記発信機の位置を変え、前記第1の工程、前記第2の工程及び前記第4の工程を実行することを特徴とする請求項2に記載の超音波検査方法。
【請求項4】
前記記憶部は、3次元メッシュの各メッシュに対応した記憶領域を有し、
前記記憶部に記憶する際には、前記時間差と関連付けて記憶する位置と、前記時間差とに相当する箇所の前記メッシュに対応した前記記憶領域に、点数を記憶することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の超音波検査方法。
【請求項5】
被検査体に超音波バースト信号を発信する発信機と、
前記超音波バースト信号が発信された前記被検査体内からの反射信号を受信するカンチレバーと、
前記超音波バースト信号の発信から前記反射信号の受信までの時間差と、前記カンチレバーの位置とを関連付けて記憶する記憶部と、
を含むことを特徴とする超音波検査装置。
【請求項6】
前記カンチレバーが前記発信機の機能を有することを特徴とする請求項5に記載の超音波検査装置。
【請求項7】
前記発信機に第2のカンチレバーを用いることを特徴とする請求項5又は6に記載の超音波検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−83130(P2012−83130A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227466(P2010−227466)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】