説明

超音波浮上装置

固定部と、固定部に対して移動可能に設置された可動部とを具備し、固定部又は可動部に設けられた振動発生装置が超音波振動することにより可動部が浮上面を介して浮上するように構成された超音波浮上装置において、固定部に設けられた固定部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に凸状又は凹状に形成し、一方、可動部に設けられた可動部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に凹状又は凸状に形成して上記固定部側ガイド部に対向・配置させるようにしたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は超音波浮上装置に係り、特に、ガイド機構の構成を改良することにより装置のコンパクト化及び浮上の安定性を図ることができるように工夫したものに関する。
【背景技術】
超音波振動を利用した超音波浮上装置は、非接触であって摩耗や潤滑剤による環境汚染がないために、クリーンルーム環境や精密位置決め用途に好適なものとして考えられている。そのような超音波浮上装置としては、例えば、特許文献1や特許文献2に開示されたようなものがある。
特許文献1 特開平7−196127号公報
特記文献2 特開平11−301832号公報
上記従来の構成によると次のような問題があった。
すなわち、特開平7−196127号公報及び特開平11−301832号公報に開示されている超音波浮上装置の場合には、特に、直動案内機構を伴った構成として開示されてはおらず、よって、実際に実施しようとした場合には、可動部を安定した状態で浮上させて所望の方向に移動させることはできないものである。
又、特開平7−196127号公報に開示されている超音波振動子の場合には、いわゆる「ランジュバン型」の超音波振動子を使用するものであり、この場合には装置の背が高くなってしまって装置のコンパクト化を図ることができないという問題があった。
又、装置の背が高くなってしまうことによりスライダの重心も高くなってしまい、それによって、動作の安定性が損なわれてしまうという問題があった。
本発明はこのような点に基づいてなされたものでその目的とするところは、特に複雑な構成を要することなく直動案内機能を備えると共に、装置の大型化を来すことなく浮上安定性や浮上剛性の向上を図ることができる超音波浮上装置を提供することにある。
【発明の開示】
上記目的を達成するべく本願発明の請求項1による超音波浮上装置は、固定部と、上記固定部に対して移動可能に設置された可動部と、を具備し、上記固定部又は可動部に設けられた振動発生装置が超音波振動することにより上記可動部が浮上面を介して浮上するように構成された超音波浮上装置において、上記固定部に設けられた固定部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に凸状又は凹状に形成し、一方、上記可動部に設けられた可動部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に凹状又は凸状に形成して上記固定部側ガイド部に対向・配置させるようにしたことを特徴とするものである。
又、請求項2による超音波浮上装置は、請求項1記載の超音波浮上装置において、上記固定部に設けられた固定部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に山形凸状又は逆山形凹状に形成し、一方、上記可動部に設けられた可動部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に逆山形凹状又は山形凸状に形成して上記固定部側ガイド部に対向・配置させるようにしたことを特徴とするものである。
又、請求項3による超音波浮上装置は、請求項1記載の超音波浮上装置において、上記固定部に設けられた固定部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向にハの字形凸状又は逆ハの字形凹状に形成し、一方、上記可動部に設けられた可動部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に逆ハの字形凹状又はハの字形凸状に形成して上記固定部側ガイド部に対向・配置させるようにしたことを特徴とするものである。
又、請求項4による超音波浮上装置は、請求項1〜請求項3の何れかに記載の超音波浮上装置において、上記固定部側ガイド部と可動部側ガイド部からなるガイド部を2個所以上設けたことを特徴とするものである。
又、請求項5による超音波浮上装置は、請求項1〜請求項4の何れかに記載の超音波浮上装置において、上記振動発生装置が2個以上設けられていることを特徴とするものである。
又、請求項6による超音波浮上装置は、請求項1〜請求項5の何れかに記載の超音波浮上装置において、上記振動発生装置に振動変換部材が使用されていることを特徴とするものである。
又、請求項7による超音波浮上装置は、請求項6記載の超音波浮上装置において、上記固定部側ガイド部又は可動部側ガイド部と上記振動変換部材とを一体化させたことを特徴とするものである。
又、請求項8による超音波浮上装置は、請求項7記載の超音波浮上装置において、上記振動変換部材がロ字形状をなしていることを特徴とするものである。
又、請求項9による超音波浮上装置は、請求項8記載の超音波浮上装置において、上記振動発生装置の振動発生源が上記ロ字形状の振動変換部材内に配置されていることを特徴とするものである。
又、請求項10による超音波浮上装置は、請求項1〜請求項9の何れかに記載の超音波浮上装置において、上記振動発生装置の振動源にランジュバン型振動子又は積層圧電素子又は単板圧電素子が使用されていることを特徴とするものである。
又、請求項11による超音波浮上装置は、請求項5〜請求項10の何れかに記載の超音波浮上装置において、上記2個以上の振動発生装置相互間に振動位相差を付与したことを特徴とするものである。
又、請求項12による超音波浮上装置は、請求項11記載の超音波浮上装置において、上記振動位相差が略90°又は略270°であることを特徴とするものである。
すなわち、本願発明による超音波浮上装置は、固定部に設けられた固定部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に凸状又は凹状に形成し、一方、上記可動部に設けられた可動部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に凹状又は凸状に形成して上記固定部側ガイド部に対向・配置させるようにしたものであり、それによって、リニアガイドとして効果的に機能させることができるようになった。
その際、上記固定部に設けられた固定部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に山型凸状又は逆山型形凹状に形成し、一方、上記可動部に設けられた可動部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に逆山型凹状又は山型凸状に形成して上記固定部側ガイド部に対向・配置させる構成や、上記固定部に設けられた固定部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向にハ字型凸状又は逆ハ字型凹状に形成し、一方、上記可動部に設けられた可動部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に逆ハ字型凹状又はハ字型凸状に形成して上記固定部側ガイド部に対向・配置させる構成が考えられる。特に、後者の場合には、凸頂点部がなくなるので、そのような凸頂点部間における高い寸法精度の確保は不要となる。
その際、上記固定部側ガイド部と可動部側ガイド部からなるガイド部を2個所以上設けることが考えられ、それによって、装置の低背化を図ることができると共にローリング防止を図ることができる。
又、上記振動発生装置を2個以上設けることが考えられ、それによって、固定部の剛性を向上させることができると共に振動装置1個当たりの出力を小さくすることができる。
又、上記振動発生装置に振動変換部材を使用した場合には、それによっても低背化を図ることができる。
又、上記固定部側ガイド部又は可動部側ガイド部と上記振動変換部材とを一体化させることが考えられ、それによって、部品点数を減少させることができると共に、組立精度に対する裕度を高めることができる。
又、上記振動変換部材をロ字形状とすることが考えられ、さらに、上記振動発生装置の振動発生源を上記ロ字形状の振動変換部材内に配置することが考えられ、それによって、装置のコンパクト化を図ることができる。
又、上記振動発生装置の振動源としては、例えば、ランジュバン型振動子又は積層圧電素子又は単板圧電素子を使用したものが考えられる。
又、2個以上の振動発生装置相互間に振動位相差を付与した場合には、定在波を抑えることができ、精密位置決めに対して効果的に対応可能になる。又、上記位相差を略90°又は略270°とした場合には、推力の発生も期待できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の第1の実施の形態を示す図で、第1図(a)は超音波浮上装置の構成を示す平面図、第1図(b)は第1図(a)のb−b矢視図、第1図(c)は第1図(a)のc−c断面図である。
第2図は、本発明の第1の実施の形態を示す図で、第2図(a)はガイド部を1個とした場合の超音波浮上装置の概略構成を示す横断面図、第2図(b)はガイド部を2個とした場合の超音波浮上装置の概略構成を示す横断面図、第2図(c)はガイド部を4個とした場合の超音波浮上装置の概略構成を示す横断面図である。
第3図は、本発明の第1の実施の形態の説明に使用した比較例を示す図で、第3図(a)は振動発生装置を1個とし且つ振動方向変換部材を使用しないタイプの超音波浮上装置の構成を示す側面図、第3図(b)は振動発生装置を2個とし且つ振動方向変換部材を使用しないタイプの超音波浮上装置の構成を示す側面図である。
第4図は、本発明の第1の実施の形態を示す図で、第4図(a)は振動振幅を説明すると共に進行波を説明するための波形図、第4図(b)は2個の振動発生装置に位相差を付与した場合の振動振幅を説明するための波形図、第4図(c)は2個の振動発生装置に位相差を付与しない場合の振動振幅を説明するための波形図である。
第5図は、本発明の第1の実施の形態を示す図で、進行波比と位相差の関係を示す特性図である。
第6図は、本発明の第2の実施の形態を示す図で、第6図(a)は超音波浮上装置の構成を示す平面図、第6図(b)は第6図(a)のb−b矢視図、第6図(c)は第6図(a)のc−c断面図である。
第7図は、本発明の第3の実施の形態を示す図で、第7図(a)は超音波浮上装置の構成を示す平面図、第7図(b)は第7図(a)のb−b矢視図、第7図(c)は第7図(a)のc−c断面図である。
第8図は、本発明の第4の実施の形態を示す図で、第8図(a)は超音波浮上装置の構成を示す平面図、第8図(b)は第8図(a)のb−b矢視図、第8図(c)は第8図(a)のc−c断面図である。
第9図は、本発明の第5の実施の形態を示す図で、第9図(a)は超音波浮上装置の構成を示す平面図、第9図(b)は第9図(a)のb−b矢視図、第9図(c)は第9図(a)のc−c断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、第1図乃至第5図を参照して本発明の第1の実施の形態を説明する。第1図は本実施の形態による超音波浮上装置の構成を概念的に示す図であり、第1図(a)は超音波浮上装置の平面図、第1図(b)は第1図(a)のb−b矢視図であり、第1図(c)は第1図(a)のc−c断面図である。
まず、平板状の固定部1があり、この固定部1の底面側であって長手方向左右両端部には振動発生装置3、5が取り付けられている。上記振動発生装置3、5には保持部材7、9が取り付けられていて、固定部1はこれら保持部材7、9を介してベース11上に設置されている。
上記振動発生装置3は、ランジュバン型超音波振動子13と、L字型振動方向変換部材15とから構成されている。同様に、上記振動発生装置5も、ランジュバン型超音波振動子17と、L字型振動方向変換部材19とから構成されている。この実施の形態の場合には、ランジュバン型超音波振動子13、17を水平方向に指向させた状態で設置し、それによって、装置の低背化を図っている。又、上記ランジュバン型超音波振動子13、17による超音波振動の方向は水平方向であるが、これを上記L字型振動方向変換部材15、19によって上下方向に変換しているものである。
上記固定部1上には可動部21が浮上可能に設置されている。まず、固定部1側には、第1図(c)に示すように、短手方向左右二箇所に固定部側ガイド部23、25が設けられている。上記固定部側ガイド部23は、第1図(c)に示すように、山形形状をなしていて、図中上方に向って凸状に形成されている。すなわち、2個の傾斜面23a、23bによって山形形状を構成しているものである。又、上記固定部側ガイド部23は、第1図(a)に示すように、長手方向に沿って延長・形成されているものである。又、上記固定部側ガイド部25も同様の構成になっていて、2個の傾斜面25a、25bによって山形形状を構成しているものである。又、上記固定部側ガイド部23と固定部側ガイド部25との間には平坦面27が設けられている。
一方、可動部21側をみてみると、図1(c)に示すように、上記固定部側ガイド部23、25に対応するように、可動部側ガイド部29、31が設けられている。上記可動部側ガイド部29は、逆山形形状をなしていて、図中上方に向って凹状に形成されている。すなわち、2個の傾斜面29a、29bによって逆山形形状を構成しているものである。上記可動部側ガイド部31も同様の構成になっていて、2個の傾斜面31a、31bによって逆山形形状を構成しているものである。又、上記可動部側ガイド部29と可動部側ガイド部31との間には凹部33が形成されている。
上記固定部1と可動部21との間には駆動用のボイスコイルモータ35が設けられている。すなわち、第1図(c)に示すように、固定部1側の平坦面27にはコイル37が設置されており、一方、可動部21側の凹部33には永久磁石39が設置されている。これらコイル37と永久磁石39とによって駆動用のボイスコイルモータ35を構成しているものである。そして、上記コイル37に適宜の方向の電流を流すことにより、永久磁石39の磁束の流れとの相互作用によって、いわゆる「フレミングの左手の法則」に基づいて、可動部21に対してY方向の何れかに移動させるための駆動力が発生するものである。
以上が本実施の形態における超音波浮上装置の概略の構成である。以下、作用を交えながら詳細に説明していく。まず、固定部側ガイド部23、25、可動部側ガイド部29、31について第2図を参照して説明する。
まず、第2図(a)は1個の固定部側ガイド部23と1個の可動部側ガイド部29を対向・配置したものである。この場合、固定部1が超音波振動することにより、固定部側ガイド部23の傾斜面23a、23bと可動部側ガイド部29の傾斜面29a、29bとの間の空気層の圧力が上昇し、それによって、可動部21は浮上することになる。その浮上高さ、すなわち可動部21のZ方向(第2図の上下方向)位置は空気層の圧力と可動部21の重量により決定される。又、固定部側ガイド部23と可動部側ガイド部29が傾斜面によって構成されているので、可動部21がY方向(紙面に直角方向)に移動するときは、X方向(図面の左右方向)の位置は殆ど変化せず、よって、いわゆる「リニアガイド」として機能するものである。
又、この実施の形態の場合には、第2図(b)に示すように、2個のガイド部を設けている。すなわち、固定部側ガイド部23、25、それに対向・配置される可動部側ガイド部29、31とからなる2個のガイド部である。このように、ガイド部を2個設けることにより、同一の浮上斜面面積の時には斜面高さを1/2にすることができ、それによって、装置の低背化を図ることができるものである。又、いわゆる「ローリング(図中紙面内回転剛性)」に対してもより改善することができるものである。すなわち、第2図(a)のようにガイド部が1個の場合には上記ローリングが懸念されるが、第2図(b)に示すような2個のガイド部を設けた場合にはそのようなローリングを効果的に防止できるものである。さらに、固定部1側の平坦面27に対抗して可動部21側の平坦面28の隙間でも空気層が圧縮され、可動部21に浮上力が発生する。
尚、本実施の形態の場合には、上記したように、固定部側ガイド部23、25、それに対向・配置される可動部側ガイド部29、31とからなる2個のガイド部を設けた構成になっているが、それに限定されるものではなく、例えば、第2図(c)に示すように、4個のガイド部を設けるようにしてもよいし、それ以上であってもよい。それによって、さらに低背化を図ることが可能になる。
又、この実施の形態では、固定部1側を凸状部とし、可動部21側を凹状部としたが、その逆でもよい。
次に、振動発生装置の個数について第3図を参照して説明する。原理的には、第3図(a)に示すように、可動部21の移動距離(ストローク)が短ければ1個の振動発生装置3´でも構わないが、ストロークを長くしたいときには、固定部1が撓まないように固定部1の剛性を高めなければならない。固定部1の剛性を高めるためには固定部1の厚みを増大させる方法もあるが、これは背を高くすることになり、それでは装置の低背化に反する。そこで、第3図(b)に示すように、2個の振動発生装置3´、5´とすれば、支持ポイントが増え固定部1の背を高くしなくてもその剛性を向上させることができるものである。又、2個の振動発生装置3´、5´とすれば、1個あたりの出力は略1/2で済み、小型で低出力の振動発生装置で事足りることになる。
尚、第3図に示す振動発生装置3´、5´は本実施の形態における振動発生装置3、5とはその構成が異なっている。すなわち、そこに使用されているランジュバン型超音波振動子13´、17´がZ方向に延長・配置されていて、Z方向に振動するように配置されているものである。これは次の説明の都合上敢えてそのようにしたものである。
次に、本実施の形態における振動発生装置3、5は、上記したように、振動方向変換部材15、19を使用した構成になっており、それによっても、低背化が図られているものである。これを第3図を交えながら説明する。第3図に示す振動発生装置3´、5´の場合は、そこに使用されているランジュバン型振動子13´、17´は、上記したように、図中上下方向、すなわち、Z方向に振動するような配置で設置されている。よって、装置としてもその背が高くなってしまう。
これに対して、本実施の形態の場合には、振動発生装置3、5のランジュバン型振動子13、17を水平方向に振動するような配置で設置し、それをL字型振動方向変換部材15、19によって、上下方向に変換するように構成している。それによって、低背化が図られているものである。
次に、第4図を参照して振動発生装置3、5の位相に関して説明する。本実施の形態の場合には、2個の振動発生装置3、5相互間に位相差を付与している。これに対して、例えば、2個の振動発生装置3、5相互間に位相差を付与しない場合には、第4図(c)に示すような波形図となり、いわゆる「定在波」となる。この定在波は共振状態にあるので振幅は大きく、大きな浮上力を得るには有利であるが、固定部1のY方向の位置により振幅の大きさが異なるので、可動部21の移動に伴って浮上力も異なることになる。したがって、超精密な位置決用ガイドとしては不向きである。
そこで、本実施の形態の場合には、上記したように、2個の振動発生装置3、5相互間に位相差を付与しているものである。その場合には、第4図(b)に示すような波形図となり、第4図(c)に示すような定在波は形成されず、固定部1のY方向の位置による振動振幅の大きさの変動は小さくなり、Y方向の位置による浮上力の変動も小さく、よって、精密な位置決めに大変有利な構成となる。
又、2個の振動発生装置3、5相互間の位相差に対する進行波比(=進行波/定在波)の実験結果を第5図に示す。第5図は横軸に位相差をとり縦軸に進行波比をとり位相差の変化に伴う進行波比の変化を示す特性図である。この第5図に示すように、位相差「0°」及び「180°」付近では殆どが定在波であり、進行波は1/40程度発しているだけである。これに対して、位相差「90°」付近及び「270°」付近では進行波比が「1」近くであり、進行波の比率が高くなっている。よって、位相差を「90°」又は「270°」近辺に設定することによって安定した進行波を発生させることができるものである。そして、この固定部1の進行波によって固定部1と可動部21の間の空気層を介して可動部21側に推力を与えて可動部21を移動させることができるものである。このときのY方向の振動振幅を第4図(a)に示す。
その結果、駆動装置を別途設けなくても、振動発生装置3、5間の位相差を「略90°」又は「略270°」に設定することによって可動部21の駆動が可能になる。又、位相差90°にてY方向右側に可動部21が移動するとき、位相差を270°に変えると可動部21は左側に移動する。このように移動方向の制御も可能になる。
尚、2個以上の振動発生装置を用いる場合は両端の振動発生装置に設定したい位相差を付与し、他の振動発生装置には両端の振動発生装置からの距離に応じ、両端の位相差の比例配分を行えばよい。例えば3個の振動発生装置を用い、両端に90°の位相差を与えるときは、真ん中に配置した振動発生装置は両端の振動発生装置の位相差90°の半分、45°の位相差を与えればよい。
以上この実施の形態によると次のような効果を奏することができる。
まず、固定部1に固定部側ガイド部23、25を凸状に設けると共に、上記可動部21に可動部側ガイド部29、31を凹状に設けて対抗・配置した構成としたので、リニアガイドとして有効に機能することが可能な超音波浮上装置を得ることができる。
又、固定部側ガイド部23、25と可動部側ガイド部29、31からなる2個のガイド部を設けたので、それだけ高さを低くすることが可能になり装置の低背化・コンパクト化を図ることができると共にローリング防止を図ることができる。
又、振動発生装置3、5を2個設けたので、固定部1の背を高くしなくてもその剛性を向上させることができると共に、振動発生装置1個あたりの出力を小さくすることができる。
又、振動発生装置3、5にL字型15、19を使用するようにしたので、それによっても装置の低背化を図ることが可能になる。
又、2個の振動発生装置3、5相互間に振動位相差を付与したので、精密な位置決めに対して効果的に対応可能になった。
又、2個の振動発生装置3、5相互間に略90°又は270°の振動位相差を付与するようにしたので、特別の駆動装置を要することなく可動部21に推力を付与することが可能になった。
次に、第6図を参照して本発明の第2の実施の形態を説明する。前記第1の実施の形態の場合には、振動発生装置として、ランジュバン型振動子を使用した例を挙げて説明したが、この第2の実施の形態の場合には、平板状の単板圧電振動子51、53を使用した例を示すものである。又、上記単板圧電振動子51、53とは別体の保持部材55、57によって固定部1を保持するようにしたものである。
尚、その他の構成は前記第1の実施の形態の場合と同じであり、よって、同一部分には同一符号を付して示しその説明は省略する。
以上、この第2の実施の形態の場合にも、前記第1の実施の形態の場合と同様の効果を奏することが可能であり、又、平板状の単板圧電振動子51、53を使用したことによりさらなる低背化を図ることが可能になる。
次に、第7図を参照して、本発明の第3の実施の形態を説明する。第7図は第3の実施の形態による超音波浮上装置の構成を概念的に示す図であり、第7図(a)は超音波浮上装置の平面図、第7図(b)は第7図(a)のb−b矢視図であり、第7図(c)は第7図(a)のc−c断面図である。
まず、固定部101があり、この固定部101は、振動変換部材121及び振動変換部材125と、該振動変換部材121、125の両側に設けられた固定部側ガイド部105、107を備えた構成になっている。上記固定部側ガイド部105、107の間であって長手方向左右両端部には、振動発生装置109、111が、上記固定部101の振動変換部材121、125に取り付けられた状態で設置されている。上記振動発生装置109、111には保持部材113、115が取り付けられている。固定部101は、上記振動発生装置109、111の保持部材113、115を介してベース117上に設置されている。
尚、上記振動変換部材121、125は、上記したように、固定部101の構成要素であると同時に、振動発生装置109、111の構成要素でもある。
上記振動発生装置109は、ランジュバン型超音波振動子119と、十字型振動方向変換部材121とから構成されている。同様に、上記振動発生装置111も、ランジュバン型超音波振動子123と、十字型振動方向変換部材125とから構成されている。上記ランジュバン型超音波振動子119、123による超音波振動を十字型振動方向変換部材121、125によって、直交する2方向に変換して固定部側ガイド部105、107に超音波振動を付与している。
上記固定部101上には可動部131が浮上可能に設置されている。その際、固定部側ガイド部105、107側には傾斜面105a、107aが形成されている。これを断面方向からみると、第7図(c)に示すように、「ハの字」に形成されているものである。
一方、上記可動部131側をみてみると、上記傾斜面105a、107aに対向するように、傾斜面131a、131bが形成されている。このように、可動部131と固定部側ガイド部105、107との凹凸構造を「ハの字」形状としたのは次のような理由による。
すなわち、前記第1〜第2の実施の形態の場合には、固定部1側と可動部21側との間の凹凸構造を山形形状としている。その際、山形の頂点部においては相互間の寸法に高い精度が要求される。つまり、僅かな寸法誤差によって固定部1側と可動部21側とが接触してしまうようなことが発生するからである。これに対して、この第3の実施の形態のように、可動部131と固定部側ガイド部105、107との凹凸構造を「ハの字」形状とした場合には、上記したような頂点部間がなくなるので、「ハの字」を構成する傾斜面105a、107a、131a、131bの面精度(平面度、角度、真直度)のみを担保するだけでよくなり、それによって、加工が容易になり、加工コストが低減され、熱膨張による寸法変化等の外乱にも強くなるものである。
又、上記可動部131側には凹部133が形成されている。又、上記固定部101側のY方向中央部には、固定部側ガイド部105、107のみがあり、これら固定部側ガイド部105、107の間であってベース117上には、コイルベース103が設置されている。このコイルベース103上にはコイル139が設置されている。このコイル139と上記凹部133に設置された永久磁石141とにより駆動用のボイスコイルモータ137が構成されている。
そして、上記コイル139に適宜の方向の電流を流すことにより、永久磁石141の磁束の流れとの相互作用によって、いわゆる「フレミングの左手の法則」に基づいて、可動部131に対してY方向の何れかに移動させるための駆動力が発生するものである。
以上この第3の実施の形態によると、前記第1、第2の実施の形態の場合と同様の効果を奏することができると共に、可動部131と固定側ガイド部105、107との凹凸構造を「ハの字」形状としたことにより、前記第1〜第2の実施の形態の場合のような頂点部間において高い寸法精度を保持するといった煩雑なことを不要とすることができるようになった。そして、「ハの字」を構成する傾斜面105a、107a、131a、131bの面精度(平面度、角度、真直度)のみを担保するだけでよくなり、それによって、加工の容易化、加工コストの低減を図ることができるようになり、又、熱膨張による寸法変化等の外乱にも強くなるものである。
尚、この第3の実施の形態の場合には、「ハの字」形状の凹凸部を一箇所としたが、これを二箇所以上設ける構成も考えられる。
次に、第8図を参照して、本発明の第4の実施の形態を説明する。前記第3の実施の形態の場合には、第7図に示したように、2個の固定側ガイド部105、107、2個の十字型振動変換部材121、125を組み立てる構成であった。この場合には、固定部101側の組立寸法精度は、各部品、すなわち、上記2個の固定側ガイド部105、107、2個の十字型振動変換部材121、125の寸法精度の和と組立誤差の和によって決定される。
これに対して、この第4の実施の形態の場合には、第8図に示すように、ロ字形状の固定側ガイド部201を使用するようにしている。それによって、前記第3の実施の形態において使用されている十字型振動変換部材121、125を使用することなく、超音波振動を固定部101側に伝達させることができる。
具体的に説明すると、第8図に示すように、ロ字形状の固定側ガイド部201の図中左側短辺203に、振動発生源109より超音波振動を付与すると、ロ字形状の固定側ガイド部201の長辺205、207が超音波振動することになる。同様に、ロ字形状の固定側ガイド部201の図中右側短辺209に、振動発生源111より超音波振動を付与すると、ロ字形状の固定側ガイド部201の長辺205、207が超音波振動することになる。
尚、上記固定部側ガイド部201の長辺205、207は、前記第3の実施の形態における固定部側ガイド部105、107と同様に、「ハの字」形状を構成するべく、傾斜面205a、207aを備えている。
又、この第4の実施の形態の場合には、左右に振動発生源109、111を設置しているが、超音波振動を生じさせるだけなら必ずしも両方に必要ではない。この第4の実施の形態の場合には、2つの振動発生源109、111を同位相で振動させ入力振動パワーを2倍にして用いている。
その他の構成は前記第3の実施の形態の場合と同様であり、同一部分には同一符号を付して示しその説明は省略する。
以上、この第4の実施の形態によると、前記第3の実施の形態の場合と同様の効果を奏することができると共に、前記第3の実施の形態における十字型振動変換部材と固定側ガイド部を一体化して、ロ字形状の固定側ガイド部201としたことによりさらなる高精度化が容易となる。
次に、第9図を参照して本発明の第5の実施の形態を説明する。この第5の実施の形態の場合には、前記第4の実施の形態による構成において、ロ字形状の固定側ガイド部201の内側に、振動発生源109、111を配置するようにしたものである。それによって、装置をコンパクトにすることが可能になるものである。
尚、本発明は前記第1〜第5の実施の形態に限定されるものではない。
まず、ランジュバン型振動子や単板圧電素子以外にも、例えば、積層圧電素子の使用が考えられる。
又、ガイド部の個数についてはこれを特に限定するものではない。
又、前記各実施の形態では、ボイスコイルモータによる駆動を例に挙げて説明したが、それに限定されるものではなく、例えば、リニアモータであってもよい。
その他図示した構成はあくまで一例である。
【産業上の利用可能性】
本発明は、ガイド機構の構成を改良することにより装置のコンパクト化及び浮上の安定性を図った超音波浮上装置に関し、例えば、各種の位置決め装置として好適である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と、
上記固定部に対して移動可能に設置された可動部と、を具備し、
上記固定部又は可動部に設けられた振動発生装置が超音波振動することにより上記可動部が浮上面を介して浮上するように構成された超音波浮上装置において、
上記固定部に設けられた固定部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に凸状又は凹状に形成し、一方、上記可動部に設けられた可動部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に凹状又は凸状に形成して上記固定部側ガイド部に対向・配置させるようにしたことを特徴とする超音波浮上装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波浮上装置において、
上記固定部に設けられた固定部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に山形凸状又は逆山形凹状に形成し、一方、上記可動部に設けられた可動部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に逆山形凹状又は山形凸状に形成して上記固定部側ガイド部に対向・配置させるようにしたことを特徴とする超音波浮上装置。
【請求項3】
請求項1記載の超音波浮上装置において、
上記固定部に設けられた固定部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向にハの字形凸状又は逆ハの字形凹状に形成し、一方、上記可動部に設けられた可動部側ガイド部の全部又は一部を浮上方向に沿った方向に逆ハの字形凹状又はハの字形凸状に形成して上記固定部側ガイド部に対向・配置させるようにしたことを特徴とする超音波浮上装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載の超音波浮上装置において、
上記固定部側ガイド部と可動部側ガイド部からなるガイド部を2個所以上設けたことを特徴とする超音波浮上装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れかに記載の超音波浮上装置において、
上記振動発生装置が2個以上設けられていることを特徴とする超音波浮上装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れかに記載の超音波浮上装置において、
上記振動発生装置に振動変換部材が使用されていることを特徴とする超音波浮上装置。
【請求項7】
請求項6記載の超音波浮上装置において、
上記固定部側ガイド部又は可動部側ガイド部と上記振動変換部材とを一体化させたことを特徴とする超音波浮上装置。
【請求項8】
請求項7記載の超音波浮上装置において、
上記振動変換部材がロ字形状をなしていることを特徴とする超音波浮上装置。
【請求項9】
請求項8記載の超音波浮上装置において、
上記振動発生装置の振動発生源が上記ロ字形状の振動変換部材内に配置されていることを特徴とする超音波浮上装置。
【請求項10】
請求項1〜請求項9の何れかに記載の超音波浮上装置において、
上記振動発生装置の振動源にランジュバン型振動子又は積層圧電素子又は単板圧電素子が使用されていることを特徴とする超音波浮上装置。
【請求項11】
請求項5〜請求項10の何れかに記載の超音波浮上装置において、
上記2個以上の振動発生装置相互間に振動位相差を付与したことを特徴とする超音波浮上装置。
【請求項12】
請求項11記載の超音波浮上装置において、
上記振動位相差が略90°又は略270°であることを特徴とする超音波浮上装置。

【国際公開番号】WO2004/084396
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564057(P2004−564057)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003465
【国際出願日】平成16年3月16日(2004.3.16)
【出願人】(391008515)株式会社アイエイアイ (107)
【Fターム(参考)】