説明

超音波診断装置および医用画像解析装置

【課題】 運動体の速度ベクトルを簡易な処理により算出可能とする。
【解決手段】 超音波プローブ1、送信系回路2および受信系回路3は、1つの測定部位に対して互いに異なる2つの角度でドプラビームを送受信するようドプラビームスキャンを行う。速度ベクトル演算器9は、2つの角度のそれぞれで受信される2つのドプラビームから個別に求まる2つの速度ベクトルに基づいて測定部位における血流の速度ベクトルを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用して血流や組織運動などを診断する超音波診断装置や、この超音波診断装置などのような医用画像解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、血流あるいは組織運動を定量化する際には、その運動の方向に応じて関心領域(ROI)を設定する必要がある。
【0003】
例えば血流量測定においては、血管と直交する方向にROIをおき、角度補正された流速プロファイルを用いて血流量を得ることが提案されている。またPWドプラでは、血流の方向を指定することでドプラの角度補正を行なう。あるいは自動角度補正法として、プロファイル情報から、血流方向を決定する方法が提案されている。
【0004】
上記関心領域の位置を、組織の運動に合わせて移動(トラッキング)させることも提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、組織の移動によってROI位置がずれるのを防ぐため、時系列に入力される画像フレーム毎に、組織の運動量に応じて自動的にROI位置を移動させることが提案されている。
【0005】
生体の運動速度を検出する方法としてはドプラ法を用いたものがあり、ビーム方向の運動成分を検出する。2次元あるいは3次元ベクトル運動を検出する方法も提案されている。
【特許文献1】特願平8−310820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また上記の従来技術においては、例えば血流計測では、画像上での血流の方向に応じて角度補正を行うか、あるいは画像上での血流の方向に対して適正な向きにROIを設定する必要がある。上記のような角度補正のための情報入力や、ROIの設定は、従来はマニュアル操作に頼っていた。このため、操作者の作業が煩雑であり、しかも誤差が大きく、特に再現性も確保できないという不具合があった。
【0007】
また、上記のような角度補正のための情報を自動取得するために、画像処理により血流方向などを算出する技術も提案されているが、非常に高度な演算処理を必要とするという不具合があった。
【0008】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは第1に、運動体の速度ベクトルを簡易な処理により算出可能な超音波診断装置を提供することにある。
【0009】
また第2に、運動体の運動方向に対して関心領域を適正な向きに自動設定することが可能な医用画像解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記第1の目的を達成するために本発明は、1つの測定部位に対して互いに異なる2つの角度でドプラビームを送受信する送受信手段と、前記2つの角度のそれぞれで受信される2つのドプラビームから個別に求まる2つの速度ベクトルに基づいて前記測定部位における運動体の速度ベクトルを算出する算出手段とを超音波診断装置に備えた。
【0011】
前記第2の目的を達成するために本発明は、測定部位における運動体の速度ベクトルを検出する検出手段と、測定範囲内の複数の測定部位に関して前記検出手段によりそれぞれ検出された速度ベクトルに基づいて前記測定範囲内での前記運動体の運動状態を表す画像を生成する生成手段と、前記画像中の関心領域内における前記運動体の速度ベクトルに応じて前記関心領域の向きを変更する変更手段と、向きが変更された前記関心領域内に関して前記運動体の特徴量を算出する手段とを医用画像解析装置に備えた。
【0012】
また前記第2の目的を達成するために別の本発明は、測定部位における運動体の速度ベクトルを検出する検出手段と、測定範囲内の複数の測定部位に関して前記検出手段によりそれぞれ検出された速度ベクトルに基づいて前記測定範囲内での前記運動体の運動状態を表す画像を生成する生成手段と、前記画像中の指定位置に関して前記検出手段により検出されている速度ベクトルを表す画像を前記生成手段により生成された画像に追加する手段とを医用画像解析装置に備えた。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、運動体の速度ベクトルを簡易な処理により算出可能な超音波診断装置を提供することができる。
【0014】
また別の本発明によれば、運動体の運動方向に対して関心領域を適正な向きに自動設定することが可能な医用画像解析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
【0016】
図1は本実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す図である。
図1に示すように超音波診断装置は、超音波プローブ1、送信系回路2、受信系回路3、Bモード処理回路4、CFMモード処理回路5、TDIモード処理回路6、PWDモード処理回路7、デジタルスキャンコンバータ(DSC)8、速度ベクトル演算器9、イメージメモリユニット10、平均ベクトル演算器11、ROI発生器12、特徴量演算器13、データ合成器14、フレーム合成器15、表示ユニット16およびCPU17を備える。
【0017】
超音波プローブ1は、その先端に配置されたアレイ型圧電振動子を備える。アレイ型振動子は複数の圧電素子を直線状に配列し、その配列方向を走査方向としたもので、複数の圧電素子それぞれが送受信の各チャネルを形成する。そして超音波プローブ1は、超音波信号と電気信号の間で双方向に信号変換することが可能である。超音波プローブ1は、送信系回路2および受信系回路3に接続される。なお、超音波プローブ1は、超音波診断装置の本体から分離して独立したユニットとして構成され、コネクタなどにより必要に応じて送信系回路2および受信系回路3に接続されるようにしても良い。この場合、超音波診断装置の本体と超音波プローブ1とは、セットとして流通されても良いし、個別に流通されても良い。
【0018】
送信系回路2は、図示していないがパルス発生器および送信回路を備える。パルス発生器は、基準レートパルスを発生する。送信回路は、上記の基準レートパルスをチャネル毎に遅延して駆動パルスを発生させる。送信系回路2は、上記のチャネル毎の駆動パルスを、超音波プローブ1の複数の振動子にそれぞれ供給する。駆動パルスの送信遅延時間は各チャネル毎に制御され、レート周波数毎に繰返し供給される。駆動パルスの供給に応答して各振動子から超音波パルスが出射される。この超音波パルスは被検体P内を伝搬しながら、制御された送信遅延時間に因り送信ビームを形成し、音響インピーダンスの異なる境界面でその一部を反射してエコー信号になる。戻ってきたエコー信号の一部または全部は1つまたは複数の振動子で受信され、対応する電気信号に変換される。
【0019】
受信系回路3は、図示していないが、プリアンプ、遅延回路および加算器を備える。プリアンプは、超音波プローブ1の各振動子に接続されたチャネル毎に設けられる。プリアンプは、超音波プローブ1により受信されたエコー信号に対応する電気量のアナログ信号をチャネル毎に増幅する。遅延回路は、プリアンプのそれぞれに接続されている。遅延回路は、受信フォーカスのためにプリアンプから出力されるアナログ信号をチャネル毎に遅延制御する。加算器は、遅延制御された後のチャネル毎のアナログ信号を加算する。これにより、受信遅延時間の制御に応じて決まるフォーカス点を有する受信ビームが演算上で形成され、所望の指向性が得られる。
【0020】
受信系回路3の出力端は、Bモード処理回路4、CFMモード処理回路5、TDIモード処理回路6およびPWDモード処理回路7にそれぞれ接続されている。
【0021】
Bモード処理回路4は、Bモードの白黒の断層像データの作成を担うもので、図示していないが、対数増幅器、包絡線検波器およびA/D変換器を備えている。対数増幅器は、受信系回路3で整相加算されたエコー信号を対数的に圧縮増幅する。包絡線検波器は、対数増幅器の出力信号の包絡線を検波する。A/D変換器は、包絡線検波器の出力信号をデジタル信号に変換する。A/D変換器の出力は、Bモード画像データとしてBモード処理回路4から出力される。
【0022】
CFMモード処理回路5は、カラーフローマッピング(CFM:カラードプラ断層法の一種)のモードにより2次元的に血流情報の検出を行う従来周知の回路で構成される。このCFMモード処理回路5は具体的には、図示してはいないが、直交位相検波器、A/D変換器、MTIフィルタおよび自己相関器を備えるとともに、この自己相関出力に基づく演算を行う平均速度演算器、分散演算器およびパワー演算器を備える。直交位相検波器は、受信エコー信号からドプラ信号を検出する。A/D変換器は、検出されたドプラ信号をデジタルデータに変換する。MTIフィルタは、A/D変換器から出力されるデジタルデータを、内蔵するフレームメモリに一次的に記憶する。
【0023】
CFMモードでは、血流情報を得るために、同一断面を複数回スキャンするから、上記のフレームメモリにはビームスキャン方向、超音波ビーム方向、スキャン回数方向の3つの次元を有するドプラデータが格納される。MTIフィルタは、フレームメモリの読出し側にハイパスフィルタを備えている。このため、3つの次元を有する画像データの内、各ピクセル位置に対応したスキャン回数方向の複数個のドプラデータ列それぞれに対して組織エコーのドプラ成分を除去して血流エコーのドプラ成分が良好に抽出される。自己演算器は、ハイパスフィルタリングされたドプラデータ列の平均ドプラ周波数を解析する。平均速度演算器、分散演算器およびパワー演算器は、それぞれ上記の平均ドプラ周波数に基づき、スキャン断面の各サンプル点の血流平均速度、血流速度分布の分散値、血流からのエコー信号のパワー値をそれぞれ演算する。これらの演算情報は、カラードプラ情報としてCFMモード処理回路5から出力される。
【0024】
TDIモード処理回路6は、組織ドプライメージング(TDI:カラードプラ断層法の一種)により2次元的に組織の運動情報の検出を行う。このTDIモード処理回路6の構成は概略、上述したCFMモード処理回路5と同一であるが、MTIフィルタに設けるフィルタ回路の特性を、心筋などの組織からのエコー信号のドプラ成分を抽出可能になるように設定してある。すなわち、組織のエコー信号と血流のエコー信号との間には、その強度およびドプラ偏移周波数(運動速度)に相違があることを利用した特性になっている。組織のエコー信号の強度は血流のそれに比して大きいが、ドプラ偏移周波数(つまり速度)は通常小さい。このため、MTIフィルタに搭載するフィルタ回路を、その低域のドプラ偏移周波数を抽出できるローパースフィルタに構成している。そのほかの構成はCFMモード処理回路5と同等である。
【0025】
PWDモード処理回路7は、パルスドプラ(PWD)法に基づいてドプラスペクトラムデータを生成する機能を担う。具体的には、直交位相検波器、サンプルホールド回路、帯域フィルタ、A/D変換器およびFFTなどを備える。
【0026】
DSC8は、各処理回路4〜7から出力されて速度ベクトル演算器9を介して与えられる信号から画像を再構成する。またDSC8は、内蔵しているメモリ(図示せず)を利用して、複数のモードでそれぞれ取得された情報を同時表示するための画像を生成する機能も持つ。
【0027】
速度ベクトル演算器9は、CFMモード処理回路5やTDIモード処理回路6からの出力信号に基づいて2次元ベクトルを演算する。速度ベクトル演算器9により算出された2次元ベクトルは、イメージメモリユニット10に格納されるとともに、イメージメモリユニット10を介して平均ベクトル演算器11へ入力される。平均ベクトル演算器11は、速度ベクトル演算部9により算出された2次元ベクトル、あるいはイメージメモリユニット10に格納された2次元ベクトルに基づいて、空間的な平均流速ベクトルを演算する。さらに平均ベクトル演算器11は、算出した平均流速ベクトルに基づいて血流の方向や速度をカラーで示したグラフィックデータを生成する機能を備える。また平均ベクトル演算器11は、算出した平均流速ベクトルに基づいてROIの方向を決定するための情報を出力する機能を備える。
【0028】
ROI発生器12は、ROIやアングルマーカの設定を行う。ROI発生器12は、平均ベクトル演算器11から出力されたROIの方向を決定するための情報に基づいてROIやアングルマーカの傾きを自動設定する機能を備える。
【0029】
特徴量演算器13は、ROI発生器12により設定されたROI内での特徴量を演算する。
【0030】
データ合成器14は、平均ベクトル演算器11から出力される血流のグラフィックデータとROI発生器12から出力されるROIやアングルマーカのグラフィックデータとを、画面上の各指定位置に表示可能なフレームデータに変換する。
【0031】
フレーム合成器15は、DSC8から出力される画像データのフレームとデータ合成器14から出力されるフレームデータとをピクセル合成して、再構成画像にグラフィックを合成した表示画像を生成する。表示ユニット16は、フレーム合成器15により生成された表示画像を表示する。
【0032】
CPU17は、パルス送信のシーケンスの変更やモードの変更を実現するための制御を行なう。
【0033】
次に以上のように構成された超音波診断装置の動作について説明する。なお、超音波を利用して被検体の情報を取得する動作や、取得した情報から画像を再構成する動作などは従来よりある超音波診断装置と同様であるので、ここではその説明は省略する。本実施形態の特徴は、血流の速度ベクトル、すなわち流速ベクトルの演算とROIの傾きの設定とにあるので、以下においてはこれらの処理について詳細に説明する。
【0034】
流速ベクトルを演算するために本実施形態の超音波診断装置では、反転した送受信を行なう。すなわち本実施形態の超音波診断装置は、図2に示すような2つのビーム方向でのドプラビームスキャンをそれぞれ行う。ビーム方向は、1フレーム毎に反転させても良いし、あるいは1レート毎に反転させても良い。なお、このような形態でのドプラビームスキャンは、特願昭62-69001号公報に開示されているBモード/カラー独立スキャンのためのスキャンを流用することが可能である。
【0035】
なお図2に示すように各ドプラビームスキャンのそれぞれにおける複数のドプラビームは、互いに並行している。また異なるドプラビームスキャンにおけるスキャン面は同一面である。異なるドプラビームスキャンにおけるドプラビームどうしの交差角が常にほぼ一定である。
【0036】
このような2つのドプラビームスキャンが重複した領域では、異なる方向からのドプラ信号が得られ、これらに基づいて血流速度ベクトルを演算することが可能である。本実施形態では、図3にハッチングで示す領域を血流速度ベクトルの測定領域とする。
【0037】
速度ベクトル演算器9は、測定領域内の測定部位のそれぞれに関して、この測定部位について2つのドプラビームスキャンによりそれぞれ得られたドプラ信号に基づいて血流速度ベクトルを算出する。
【0038】
図4は血流速度ベクトルを算出する原理を示す図である。
図4中の測定部位に関する2つのドプラ信号から速度ベクトルV1,V2が得られたとする。速度ベクトルV1の先端にて速度ベクトルV1に直交する線分L1と、速度ベクトルV2の先端にて速度ベクトルV2に直交する線分L2との交点として、血流の速度ベクトルの先端の位置を求めることができる。
【0039】
これは、実際の速度ベクトルをV(Vx,Vy)、観測されるそれぞれの方向のドプラ速度をVd(Vxd,Vyd)とすると、一般に両者の関係は斜交座標系の座標変換としてVd=A×Vと表せる。ここでAは、ドプラビームの送信角度で決まる2次行列である。したがって、Vdが実際に観測されたとすると、V=A−1×VdとしてVを算出可能である。ただしA−1は、Aの逆行列である。
【0040】
このようにして求められた血流速度ベクトルは、イメージメモリユニット10に格納された上で、平均ベクトル演算器11により平均化されて平均流速ベクトルが算出される。さらに平均ベクトル演算器11では、算出した平均流速ベクトルに基づいて、血流を示したグラフィックデータが生成される。平均ベクトル演算器11は、このグラフィックデータを、血流速度ベクトルの測定領域を示すグラフィックも示すデータとすることも可能である。
【0041】
平均ベクトル演算器11で生成されたグラフィックデータは、データ合成器14を介してフレームデータとしてフレーム合成器15に与えられる。このフレームデータは、DSC8にてBモード処理回路4またはTDIモード処理回路6から出力された信号から再構成された画像データのフレームにフレーム合成器15にてピクセル合成される。これにより再構成画像にグラフィックを合成した表示画像が生成されて、この表示画像が表示ユニット16にて表示される。
【0042】
図5はBモードの再構成画像に血流と血流速度ベクトルの測定領域とを示したグラフィックを合成した表示画像の一例を示す図である。
図5に示すグラフィックG1は、血流が画像中の左右方向のいずれを向いているかを色相により、流速を明度により示している。グラフィックG2は、血流速度ベクトルの測定領域の外縁を示している。
【0043】
さて、上記のように算出された血流速度ベクトルに基づいて、血流量などの特徴量を算出することができる。血流量を算出するに当たっては、そのためのROI設定を行う。まず、図示しないコンソールにおけるユーザ操作によって、図6に示すようにグラフィックG1内を中心位置とするROI R1が指定されたとする。そうするとROI発生器12は中心位置および形状はそのままとして、血流速度ベクトルに直交するように傾けたROI R2を自動設定する。なお、図6に示すように長方形のROIであれば、例えば長辺を血流速度ベクトルに直交させる。
【0044】
特徴量演算器13は、ROI発生器12からROI R2の範囲に関する情報を取得して、このROI R2の範囲内について算出されている血流速度ベクトルに基づいて血流量を算出する。血流量は、ROI R2上の速度分布を求め、これを血管の中心軸に対して回転積分することで求めることができる。すなわち、各点での流速をVi、半リング状の微小面積をdAと置くならば、血流量Qは、Q=Σvi×dAとして求まる。
【0045】
次に、図示しないコンソールにおけるユーザ操作によって表示画像状でアングルマーカが移動されるときに着目する。アングルマーカの位置としてグラフィックG1の外側が指定されているのであれば、ROI発生器12は図7に示すようにデフォルトの傾きを持ったアングルマーカA1を指定位置に表示させるグラフィックデータを出力する。しかし、アングルマーカの位置としてグラフィックG1の内側が指定されているのであれば、ROI発生器12は図2に示すように、指定位置における平均流速ベクトルに指向方向を合わせたアングルマーカA2を指定位置に表示させるグラフィックデータを出力する。
【0046】
このように本実施形態によれば、異なる2つの方向からのドプラビームスキャンにより1つの測定部位について2つずつ観測される速度ベクトルに基づいて血流速度ベクトルを算出するので、簡単な行列演算により実現できる。
【0047】
また本実施形態によれば、異なるドプラビームスキャンにおけるドプラビームどうしの交差角が常に一定であるので、どの測定部位においても逆行列ベクトルが一定となり、血流速度ベクトルを算出する処理が簡易となる。
【0048】
また本実施形態によれば、血流速度ベクトルの測定領域を示すグラフィックG1を表示するので、上述のようにして算出された血流速度ベクトルが表示画像におけるどの領域の画像に反映されているのかを、表示画像の観察者に容易に認識させることが可能である。
【0049】
また本実施形態によれば、血流量などのような血流に関する特徴量を算出するためのROIを血流に対して直交させるようにROIの傾きを自動的に設定するので、操作者がROIの傾きをマニュアル調整する必要が無い。このため、操作者の負担が軽減されるとともに、ROI設定の精度および再現性が向上する。
【0050】
また本実施形態によれば、アングルマーカの位置が血流内に指定されたとき、その位置における平均流速ベクトルにアングルマーカの指向方向を合わせるので、カラー表示から識別可能な方向よりも詳細な血流方向を識別可能となる。
【0051】
この実施形態は、次のような種々の変形実施が可能である。
各ドプラビームスキャンにおいてドプラビームの方向を変化させるようにしても良い。この様にすれば、2つのドプラビームスキャンが重複する領域、すなわち血流速度ベクトルを測定することができる領域を拡大することが可能となる。ただし、異なるドプラビームスキャンにおけるドプラビームどうしの交差角が測定部位毎で変化するために、測定部位毎に逆ベクトル行列を変更する必要が生じ、血流速度ベクトルを算出する処理が複雑化する。
【0052】
上記実施形態では、血流速度ベクトルの算出のためには、2つのドプラビームスキャンを行うため、1フレーム毎にこれを行っていると、フレームレートが大幅に低下してしまう。フレームレートが20フレーム/秒であった場合、毎フレーム、すなわち50ms毎に血流速度ベクトルを測定する必要性は一般的には無いと考えられる。血流速度ベクトルのリアルタイム性よりもフレームレートを重視したいならば、複数フレームのうちに1フレームの割合で血流速度ベクトルの測定を行うようにし、他のフレームでは血流速度ベクトルの算出のための2つのドプラビームスキャンを行わないこととしても良い。血流速度ベクトルを測定する頻度は、予め固定的に定めても良いが、操作者からの要求に応じて変更可能としておけば、利便性が向上する。
【0053】
上記実施形態では、血流の速度ベクトルを算出しているのであり、速度ベクトルの算出対象となる運動体は血液となっている。しかしながら速度ベクトルの算出対象とするのは、組織などのような別の運動体であっても良い。
【0054】
また、ROIの傾きを自動設定する機能は、血流ではなく、組織の運動、特に心臓の壁運動を解析する場合にも有効である。組織の運動解析においては、通常矩形あるいは楕円形のROIを用い、そのROI内での平均速度あるいは速度の時間変化などを計測することが多い。この場合、従来は運動の方向がわからないか、あるいは運動方向などをマニュアルで仮定するなどの操作が必要なため、ROIの方向は特に考慮せずに、例えば図8に示すROI R11,R12のように画面上で水平方向を軸に設定されていた。ROIを組織運動の方向に合わせるためには、マニュアルでROIの傾きを修正する必要があった。仮に、初期状態においてROIの傾きがマニュアルにより適正に設定されたとしても、時間的に運動方向が微妙に変化する場合には、ROIの傾きが経時的には不適切になることがある。このため、ある特定の局所領域、例えば心内膜側あるいは外膜側での特徴量を正確に測定することは困難であった。しかしながら、上記実施形態で示しているようなROIの傾きを自動設定する機能を適用することにより、例えば図8に示すROI R13,R14のように、組織運動の方向に対して矩形ROIの長辺または楕円ROIの長軸が直交するROIを設定することができる。なお図8は心臓の短軸像の模式図で、ROI R13,R14が心筋上に置かれている様子を示している。なお、心臓などの組織の場合では対象となる組織が移動するため、ROIの位置も移動させる必要があるが、これには従来技術により提案されているトラッキング法などを組み合わせて適用することができる。これにより、各フレームにおいて実際の組織の運動に応じた適正なROIが設定され、この適正なROI内の情報から精度良い特徴量の算出が簡便に行なえる。
【0055】
ROIの傾きを自動設定する機能や、アングルマーカの指向方向を自動設定する機能を実現するために利用する速度ベクトルの情報は、上記実施形態に示した方法により取得されたものには限らず、従来からある別の方法、例えば自動輪郭抽出あるいはパターンマッチング等の技術によって予め求められている生体の動きの方向に基づいて取得されるものなどを利用することも可能である。この場合には、運動体の速度ベクトルを超音波を利用せずに算出する別のタイプの医用画像解析装置に本発明の適用が可能である。
【0056】
上記の実施例では、通常の2次元超音波診断装置について詳述したが、近年ではリアルタイムで3次元画像が収集可能な超音波診断装置が提案されており、このような装置にも本発明の適用が可能である。この場合、任意の断面を切り出して2次元像を構成し、これに前記実施例と同様な処理を適用してもよいし、あるいは3次元的に異なる方向からの送受信を行なうことで、3次元運動速度ベクトルを求めてもよい。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す図。
【図2】血流速度ベクトルを算出するための2つのドプラビームスキャンの様子を示す図。
【図3】血流速度ベクトルの測定領域を示す図。
【図4】血流速度ベクトルを算出する原理を示す図。
【図5】Bモードの再構成画像に血流と血流速度ベクトルの測定領域とを示したグラフィックを合成した表示画像の一例を示す図。
【図6】ROIの傾きを自動設定する様子を示す図。
【図7】アングルマーカの指向方向を自動設定する様子を示す図。
【図8】心臓の短軸像の模式図であり、心筋上に置かれているROIの傾きが自動設定される様子を示す図。
【符号の説明】
【0059】
1…超音波プローブ、2…送信系回路、3…受信系回路、4…Bモード処理回路、5…CFMモード処理回路、6…TDIモード処理回路、7…PWDモード処理回路、8…デジタルスキャンコンバータ(DSC)、9…速度ベクトル演算器、10…イメージメモリユニット、11…平均ベクトル演算器、12…ROI発生器、13…特徴量演算器、14…データ合成器、15…フレーム合成器、16…表示ユニット、A1,A2…アングルマーカ、G1,G2…グラフィック、P…被検体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの測定部位に対して互いに異なる2つの角度でドプラビームを送受信する送受信手段と、
前記2つの角度のそれぞれで受信される2つのドプラビームから個別に求まる2つの速度ベクトルに基づいて前記測定部位における運動体の速度ベクトルを算出する算出手段とを具備したことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記2つのドプラビームから個別に求まる2つの速度ベクトルに対して斜行座標系の座標変換を行うことにより前記運動体の速度ベクトルを算出することを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記送受信手段は、測定範囲内の複数の測定部位に対して前記2つのドプラビームを送受信するとともに、
前記算出手段は、前記複数の測定部位に関してそれぞれ前記速度ベクトルを算出することとし、
さらに前記複数の測定部位に関して前記算出手段によりそれぞれ算出された速度ベクトルに基づいて前記測定範囲内での前記運動体の運動状態を表す画像を生成する生成手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記送受信手段は、前記複数の測定部位のいずれにおいても前記2つのドプラビームのなす角度が一定となるように前記2つのドプラビームを送受信することを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記送受信手段は、前記複数の測定部位の少なくとも一部においてはその他の測定部位とは前記2つのドプラビームのなす角度を変化させるように前記2つのドプラビームを送受信することを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記超音波診断装置は所定のタイミング毎に前記ドプラビームによる測定を繰り返し行うものであって、
前記送受信手段は、前記タイミングの一部のみで前記2つのドプラビームの送受信を行うことを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記生成手段は、前記運動体の運動状態を表すカラードプラ画像を生成することを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記生成手段は、前記測定範囲をさらに表す画像を生成することを特徴とする請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記運動体は、血液または心臓であることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
測定部位における運動体の速度ベクトルを検出する検出手段と、
測定範囲内の複数の測定部位に関して前記検出手段によりそれぞれ検出された速度ベクトルに基づいて前記測定範囲内での前記運動体の運動状態を表す画像を生成する生成手段と、
前記画像中の関心領域内における前記運動体の速度ベクトルに応じて前記関心領域の向きを変更する変更手段と、
向きが変更された前記関心領域内に関して前記運動体の特徴量を算出する手段とを具備したことを特徴とする医用画像解析装置。
【請求項11】
前記変更手段は、関心領域に予め定められた基準線が前記運動体の速度ベクトルに垂直となるように前記関心領域の向きを変更することを特徴とする請求項10に記載の医用画像解析装置。
【請求項12】
前記変更手段は、時系列の複数フレーム分の前記画像に基づいて、フレーム毎に前記関心領域の向きを変更することを特徴とする請求項10に記載の医用画像解析装置。
【請求項13】
被検体の動きに追従して前記関心領域の位置を変更する手段をさらに備え、
かつ前記変更手段は、位置が変更されたのちの前記関心領域に前記運動体の速度ベクトルに応じて前記関心領域の向きを変更することを特徴とする請求項10に記載の医用画像解析装置。
【請求項14】
前記生成手段は、前記関心領域内の平均的な速度ベクトルをさらに表す画像を生成することを特徴とする請求項10に記載の医用画像解析装置。
【請求項15】
測定部位における運動体の速度ベクトルを検出する検出手段と、
測定範囲内の複数の測定部位に関して前記検出手段によりそれぞれ検出された速度ベクトルに基づいて前記測定範囲内での前記運動体の運動状態を表す画像を生成する生成手段と、
前記画像中の指定位置に関して前記検出手段により検出されている速度ベクトルを表す画像を前記生成手段により生成された画像に追加する手段とを具備したことを特徴とする医用画像解析装置。
【請求項16】
前記検出手段は、
1つの測定部位に対して互いに異なる2つの角度でドプラビームを送受信する送受信手段と、
前記2つの角度のそれぞれで受信される2つのドプラビームから個別に求まる2つの速度ベクトルに基づいて前記測定部位における運動体の速度ベクトルを算出する算出手段とを具備することを特徴とする請求項10または請求項15に記載の医用画像解析装置。
【請求項17】
前記運動体は、血液または心臓であることを特徴とする請求項10または請求項15に記載の医用画像解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−55493(P2006−55493A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242257(P2004−242257)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】