説明

超音波診断装置

【課題】血管と器具を両方とも同時に明瞭な三次元画像として可視化することのできる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】器具が挿入された血管に超音波を送受波して得られたボクセルデータ群に対して設定された各レイについて、深さ方向にボクセル演算を逐次実行する。ボクセル演算を行うにあたって第1レンダリング手段によって、第1開始点から前記ボクセル演算の逐次実行結果により、第1三次元画像を構成する画素値を求める。前記各レイについて判定手段を用いて第2開始点を判定する。第2開始点が判定されたら第2レンダリング手段によって、前記器具が反映された第2三次元画像を構成する画素値を求める。画像を合成することによって器具が挿入された血管を三次元投影画像として認識することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、三次元超音波画像を形成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析を行う場合に、透析患者の体から血液を取り出して体内に戻すためには、前腕部の血管が使用されることが多い。血液透析を長く続けていると、前腕部の血管が痛んで狭窄が発生することがある。
【0003】
狭窄が発生して内径が細くなった血管を治療するために、血管内にバルーンやステントを挿入し血管の内径を拡げる治療が行われている。この治療を行う際には、カテーテルの先端部を体外(例えば肘や足の付け根)から体内の血管に挿入し、狭窄した血管の位置までカテーテルの先端部を移動させ、位置決めを行う必要がある。カテーテルの先端部の位置及び経路の確認は、従来、X線撮影装置を用いた診断方法が用いられてきた。しかし、X線を用いると被曝の問題があるので、生体への影響の少ない超音波診断装置を適用することが研究されている。
【0004】
特許文献1には、例えば前腕部を診断対象として前腕部の血管を診断するために、超音波を利用したボリュームレンダリング法に基づいた画像形成技術が記されている。特許文献2には、血管内に挿入されたカテーテルの位置を観察することのできる医用装置が示されている。この医用装置においては、三次元画像を得るために2台のX線撮影装置等を用いて、被検者の2方向からの投影画像を形成している。また、特許文献3には、血管に挿入するカテーテルの三次元画像を形成する手術支援方法が記されている。この方法においては、ユーザが手動で手術器具の形状及び初期位置を設定した上で血管内部の三次元画像が形成される。
【0005】
【特許文献1】特開2002−336253号公報
【特許文献2】特開2002−119507号公報
【特許文献3】特開平10−334220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超音波診断装置を用いて三次元画像を取得するためには、特許文献1記載の装置を用いることにより血管の立体投影画像を得ることができる。血管の画像を明瞭に表示するためには、血管に対して適切なレンダリング条件が設定される。血管を表示対象としてレンダリング条件を最適化すると、血管の内部に何らかの器具が存在していたとしても、その器具の画像化は困難である。
【0007】
一方において、血管内の器具を画像化することだけを目的にするのであれば、レンダリングパラメータである不透明度(オパシティ)の設定を一律で変更することによって画像化は可能である。カテーテルのような器具は一般的には高反射材であるため高レベルのエコー信号が得られる。しかし、不透明度のパラメータを一律に変化させることにより器具を明瞭に画像化しようすると、今度は血管を画像化することが困難になってしまう。
【0008】
血管内の器具の状態を画像化することができれば、治療対象である血管と器具との位置を把握することができるのであるが、従来の超音波診断装置を用いて不透明度のパラメータを調整しても、血管と血管内に挿入された器具とを同時に明瞭に可視化することはできなかった。
【0009】
本発明の目的は、血管と器具を両方とも同時に明瞭な三次元画像として可視化することのできる超音波診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、器具が挿入された血管に超音波を送受波して得られたボクセルデータ群に対して設定された各レイについて、深さ方向にボクセル演算を逐次実行する超音波診断装置において、前記各レイについて、第1開始点から前記ボクセル演算の逐次実行結果により、第1三次元画像を構成する画素値を求める第1レンダリング手段と、前記各レイについて第2開始点を判定する判定手段と、複数のレイの中で前記第2開始点が判定されたレイについて、前記第2開始点からのボクセル演算の逐次実行結果により、前記器具が反映された第2三次元画像を構成する画素値を求める第2レンダリング手段と、前記第1三次元画像と前記第2三次元画像とを合成し合成三次元画像を形成する合成処理手段と、前記合成三次元画像を表示する表示手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、ボクセルデータ群に対して設定された各レイ上において、第1開始点からのボクセル演算の逐次実行によって各々の画素値が求められる。すなわち、第1レンダリング処理によって各々の画素値が求められ第1三次元画像が形成される。また、ボクセルデータ群に対して設定された各レイ上において、第2開始点が判定された場合には、第2開始点より奥側のレイ上のデータに対して第2三次元画像の形成のための第2レンダリング処理が実行される。
【0012】
第1レンダリング手段によっては第1三次元画像を形成することが可能となり、第2レンダリング手段によっては第2開始点を判定した後の複数のボクセルデータを用いて、血管内に挿入された器具を反映させた第2三次元画像を形成することが可能となる。つまり、第2開始点が存在する場合には、第1三次元画像と第2三次元画像との2つの画像を形成して、合成三次元画像を形成することにより、生体組織である血管と血管内に挿入された器具とのそれぞれを明瞭に三次元画像化することができる。
【0013】
第2開始点の判定方法については、組織と器具のそれぞれの画像を明瞭に画像表示できる限りにおいて、様々な手法を適用することができる。すなわち本発明はレンダリングの段階的な切換えを特徴事項の一つとしており、その切換えの条件は各種の用途に応じて適宜定めればよい。
【0014】
なお、三次元空間内において任意の視点位置からレイを設定してもよいし、レイと超音波ビームとが同一方向でもよい。ボクセル演算としては、不透明度(オパシティ)を利用したボリュームレンダリング法による透過光量演算を行ってもよいし、その他の三次元画像構成のための演算を用いてもよい。
【0015】
望ましくは、前記判定手段は、前記血管内かつ前記器具の手前側の深さ位置を前記第2開始点として判定することを特徴とする。上記構成によれば、各レイの方向に対して、器具の手前側に第2開始点を設定することにより、血管内の器具に対する第2レンダリング処理を行うことができる。
【0016】
望ましくは、前記判定手段は、前記各レイについての前記第1開始点からのボクセル演算の逐次実行結果に基づいて、前記第2開始点の判定を行うことを特徴とする。上記構成によれば、ボクセルデータ群に対して設定された各レイ上において、第1開始点からのボクセル演算の逐次実行結果から所定の条件を満たすことにより第2開始点が設定される。ボクセル演算を行う上でのボリュームレンダリングの演算条件は変更することができるので、例えば可視化対象である血管の位置でレンダリング処理を終了させて、その終了点をもって第2開始点とすることもできる。
【0017】
望ましくは、前記判定手段は、前記各レイについての前記第1開始点からのボクセル演算の逐次実行結果に基づいて、前記第2開始点の判定を行うことを特徴とする。上記構成によれば、ボクセル演算によって逐次算出される値に基づいて、第2開始点の判定が行われるので、超音波のエコー強度、すなわち生体の組織内部の状態を反映した第2開始点の判定を行うことができる。
【0018】
望ましくは、前記判定手段は、前記各レイについて逐次実行される前記第1開始点からのボクセル演算で用いられるパラメータの積算値に基づいて、前記第2開始点の判定を行うことを特徴とする。上記構成によれば、ボクセル演算で用いられるパラメータの積算値に基づいて、第2開始点の判定が行われるので、パラメータに設定される値に応じて、生体組織の状態に適合した柔軟な第2開始点の設定を行うことができる。ここでパラメータとしては、例えば、不透明度、透明度を示す値などを利用できる。
【0019】
望ましくは、前記各レイ上のボクセルデータ列に対して輝度反転処理を施す前処理手段を含み、前記判定手段、前記第1レンダリング手段及び前記第2レンダリング手段の内の少なくとも1つは前記輝度反転処理が施されたボクセルデータ列に基づいて処理を実行することを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、輝度反転処理が施されたボクセルデータ列が処理対象となる。超音波の受信信号強度を反転して画像形成処理を行い、表示手段で合成三次元画像を表示することによって、本来であれば低レベル信号が高レベル信号として置換処理され、逆に本来の高レベル信号が低レベル信号として置換処理される。従って、血液から得られる低レベルのエコー信号を高レベルのエコー信号として扱うことにより、血液が流れる部分についての信号処理することができる。
【0021】
更に、器具からは一般的には高レベル信号が得られる場合が多いが、血管内に挿入された器具についても同様に高レベル信号が得られる。よって、通常の信号処置であれば器具が強調されるような信号処理になる。しかし、器具を主体としたボクセルデータ列についても輝度反転処理を行うことによって、器具を強調しないような処理を行うことも可能となる。このように、反転処理をする信号と反転処理をしない信号とを任意に選択することによって、三次元画像の表示の際に強調する部分や強調しない部分を選択して処理することが可能となる。
【0022】
望ましくは、超音波を送受波して得られた受信信号を直交検波し、血液の移動に伴って発生するドプラ偏移周波数成分に応じて血流の存在位置を検出するカラードプラ処理手段を更に含み、前記判定手段は、前記カラードプラ処理手段が検出する血流位置情報に基づいて、前記第2開始点の判定を行うことを特徴とする。上記構成によれば、血液が生体内を移動することに伴って発生するドプラ偏移周波数に応じて、血液の存在位置を検出することができるので、確実に血流が存在する部分に第2レンダリングの第2開始点を定めることができる。
【0023】
望ましくは、前記合成処理手段は、前記血管を主体的に表した第1三次元画像上に、前記器具を主体的に表した第2三次元画像を重ね合わせて前記合成三次元画像を形成することを特徴とする。上記構成によれば、第1三次元画像と第2三次元画像とを合成して三次元画像を形成しても、元々の第1三次元画像と第2三次元画像の画像情報を視覚的に識別することができる。第1三次元画像は生体組織を主体とした画像であり、第2三次元画像は器具を主体とした画像であるので、合成三次元画像においても器具の位置を明瞭に把握することができる。
【0024】
望ましくは、前記合成処理手段は、前記第1三次元画像と前記第2三次元画像とを視覚的に異ならせつつ合成処理を行うことを特徴とする。上記構成によれば、第1三次元画像と第2三次元画像との識別が容易になる。視覚的に異ならせる合成処理としては、例えば着色表示、輝度を変動させる点滅表示あるいは輪郭強調表示などが挙げられる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、血管と器具を両方とも同時に明瞭な三次元画像として可視化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、人体の前腕部10に対して超音波の送受信器を当接している状態を模式的に示した図である。本実施形態では、血液透析を受けている透析患者を超音波診断の対象としており、前腕部10において狭窄が発生している血管14に対して器具16を挿入し、治療を行う場面を例として説明する。
【0027】
この器具16は、血管14に挿入される手術用の器具であり、具体的にはカテーテルを示している。探触子本体12はアレイ振動子(図示せず)を備える電子走査方式の超音波プローブであり、探触子本体12の送受波面側には水袋18が装着されている。探触子本体12は、後述する機械走査機構22(図示せず)によって保持されており、機械走査機構22は、探触子本体12と水袋18とを合体させることによりプローブユニット30として構成される。
【0028】
図2は、本発明に係る超音波診断装置の概略的な全体構成を示すブロック図である。本実施形態における超音波診断装置は、大別してプローブユニット30と装置本体40とから構成される。まず、プローブユニット30について更に詳述する。プローブユニット30は、可動部20と機械走査機構22とから構成されている。可動部20は、前述したように探触子本体12と水袋18とから構成されている。探触子本体12の電子走査方式は、本実施形態においては電子リニア走査方式が用いられている。なお、電子セクタ走査方式やその他の電子走査方式を用いてもよい。水袋18の外表面は、柔軟な膜状部材で形成されており、その内部には例えば蒸留水などが充填されている。
【0029】
探触子本体12を前腕部10に当接させると、水袋18が前腕部10の曲面形状に適合して柔軟に変形し、アレイ振動子から送信される超音波を前腕部10に送受信する超音波伝達経路が形成される。本実施形態においては、1本の超音波ビームの形成に応じて1つのエコーデータ列が取得される。エコーデータ列は、プローブユニット30から装置本体40側に出力される。超音波ビームを電子走査することによって、前腕の長手方向に対して垂直な方向に走査面19(図1参照)が形成される。走査面上のエコーデータアレイを装置本体40において取り込むことにより、1枚の走査面上での2次元断層情報を得ることができる。
【0030】
機械走査機構22は、機械走査制御部24からの信号に基づいて位置決め走査される機構である。探触子本体12を電子走査することによって走査面が形成されるが、機械走査機構22は、その走査面と直交する方向に可動部20を機械走査する。本実施形態においては、水袋18を前腕部10に当接した状態を保ちながら、機械走査機構22によって可動部20を腕の長手方向に沿って移動させる。そうすると、前腕の長手方向に渡って互いに平行な複数の走査面が順番に形成される。可動部20を前腕の長手方向に移動させることによって、複数のエコーデータアレイからなるエコーデータ群を取得することが可能となり、前腕部10の内部の3次元空間情報を得ることができる。
【0031】
次に、装置本体40の構成について説明する。装置本体40は、キーボードやトラックボールなどからなる入力部42を備えている。この入力部42は、三次元超音波画像を形成する上で必要な条件設定やパラメータ設定、あるいは三次元超音波画像の色彩調整を行うための数値入力機能を有する。入力部42での入力内容は主制御部44にて読み取られ、主制御部44は、本装置全体の動作制御を行う。主制御部44によって動作制御される機械走査制御部24は、可動部20を制御するための信号を機械走査機構22に出力する。
【0032】
送受信部46は、送信ビームフォーミング機能及び受信ビームフォーミング機能を備えている。つまり、送受信部46は、アレイ振動子を構成する各振動素子に対して、それぞれの遅延時間を設定して超音波ビームを形成する送信ビームフォーミング機能を有し、受信信号の信号受信タイミングを調整し、複数の受信信号の位相を整合させる整相加算機能を含む受信ビームフォーミング機能を有している。なお、送受信部46は、受信信号の強度を補正するダイナミックレンジ変換回路などの信号処理回路を備えている。送受信部46から出力されるエコーデータ列は、三次元画像処理部48に伝送される。ちなみに、送受信部46から出力されるエコーデータ列は、三次元画像処理部48に出力するのと同時に、図示されていないカラードプラ処理部に対して出力してもよい。
【0033】
三次元画像処理部48は、複数の三次元画像を形成する機能を有し、本実施形態においては、反転処理部50、第1レンダリング開始点判定部52、第1レンダリング処理部54、第2レンダリング開始点判定部56、第2レンダリング処理部58を備えている。ちなみに、本実施形態においては、ボリュームレンダリングの視線であるレイは、超音波ビームの進行方向と同一の方向に設定される。従って、三次元画像処理部48に入力されたエコーデータ列は、そのままボクセル演算の対象であるボクセルデータ列とみなして処理することができる。
【0034】
反転処理部50は、入力されるデータの輝度を反転して出力する機能を有する。反転処理部50においては、エコーデータ列を構成する各エコーデータの信号レベルを反転変換する。この反転変換を行うと低レベルのエコーデータは高レベルのエコーデータに置換処理される。故に、反転処理部50は、超音波に対する反射強度の弱い生体組織、つまり前腕部においては血液の流れる部分からのエコー信号の検出を容易にする手段となる。
【0035】
第1レンダリング開始点判定部52は、第1レンダリング処理部54で行われるボクセル演算の第1開始点を判定する機能を有する。その第1開始点の判定には、反転処理部50から出力される反転エコーデータ列が用いられる。第1開始点の判定条件は、例えば、当該超音波診断装置のオペレータが入力部42を操作して行うROIの領域設定を利用することにより定められる。ちなみに、第1開始点の判定条件としては、特開2002−336253号公報に記されている被検体表面とカップリング体との境界面を検出する方法を用いることもできる。
【0036】
第1レンダリング処理部54は、前述の第1レンダリング開始点判定部52で第1開始点が判定されたことを信号処理の起点としてボクセル演算の逐次演算を行い、あるレイ上の三次元画像の画素値を求める機能を有する。ボクセル演算については、例えば特開平10−33538号公報に記されている公知のボクセル演算法を用いることができる。
【0037】
ボクセル演算法の一例としては、ボクセルの不透明度とエコー値との積によって表される発光光量と、ボクセルの透明度とそのボクセルの入力光との積によって表される減衰光量とを加算することにより、当該ボクセルからの出力光量を求める演算が挙げられる。ボクセルへの入力光量は、そのボクセルに近接する一つ前のボクセルの出力光量と同値であるため、逐次演算を行うことによってレイ方向の画素の輝度値を求めることができる。但し、演算対象のボクセルがレイ上の最終ボクセルに到達したり、レイ上の複数のボクセルのオパシティ積算値が1になったりした場合には、逐次演算を終了するという終了条件が付加される。
【0038】
第2レンダリング開始点判定部56は、第2レンダリング処理部58で行われるボクセル演算の第2開始点を判定する機能を有する。その第2開始点の判定には、本実施形態においては、第1レンダリング処理部54で行われるボクセル演算の逐次実行結果が利用される。すなわち、第1レンダリング処理部54で行われるボクセル演算による透過光量の値が、所定の閾値を越える場合に、そのボクセル演算の演算対象であるエコーデータを第2開始点とする。
【0039】
本実施形態にかかる超音波診断装置は、第1レンダリング処理の結果に基づいて、第2レンダリング処理を実行することを特徴事項の一つとしており、その第2レンダリング処理は第2開始点から開始される。第2開始点は、器具を主体とした第2三次元画像を取得するためのレンダリング処理の再スタートポイントあるいはリセットポイントになる。血管内に挿入された器具を描出する第2三次元画像を形成するためには、血管壁の部分、更に望ましくは血管内を流れる血流部分に入り込んだ部分に第2開始点を設定する必要がある。
【0040】
血管壁と血液のそれぞれのエコー強度が大きく変化するという物理現象を利用して、血管の内部に入り込む位置を第2開始点として検出することができる。血管の内部に入り込んだ位置である第2開始点から、超音波画像を形成するレンダリング処理を変えることは、血管内に存在する血液以外の異物を視覚化する上で非常に有効な方法であり、特に、三次元画像化の場合には、三次元空間内での器具の位置を認識するために有効である。
【0041】
第2開始点の判定方法には、前述したような透過光量の値が所定の閾値を越えることを利用する方法以外にも、いくつかの他の判定方法を用いることもできる。
【0042】
第2開始点の他の判定方法としては、例えば、ボクセル演算の逐次演算と同時に並列実行されるオパシティの積算演算を用いることができる。すなわち、ボクセル演算によるオパシティの積算値が所定の閾値を超える場合には、そのボクセル演算の演算対象であるエコーデータを第2開始点とすることができる。
【0043】
また、第2開始点の他の判定方法としては、前述の特開2002−336253号公報に記されている、被検体表面とカップリング体との境界面を検出する方法と同様の手法を用いて、第2開始点を判定することができる。その同様の手法とは、すなわち関心領域を被検体表面を包含しない位置に予め設定しておき、その被検体表面を包含しない関心領域内におけるデータを輝度反転させた後に第1レンダリング処理部54にて処理する手法である。高強度の反転エコーデータが連続してN個(一例として5個)続いた場合に、そのN個目のエコーデータを第2開始点とすることができる。
【0044】
更に、第2開始点の他の判定方法としては、連続するデータ列の微分値を用いることもできる。すなわち、ボクセル演算による画像再構築を行う場合にレイの方向に沿って、連続するデータ列の構成要素である複数のデータを対象に微分を行い、微分値が急激に変化するデータに相当する位置を第2開始点とすることができる。
【0045】
以上に記したいくつかの検出方法のいずれかの方法を用いて、第2開始点を検出することができる。
【0046】
第2レンダリング処理部58は、前述の第2レンダリング開始点判定部56で判定された第2開始点からボクセル演算の逐次演算を行って、あるレイ上の三次元画像の画素値を求める機能を有する。第2レンダリング処理部58には、反転処理される前のそのままのエコーデータが入力される。第2レンダリング処理部58で行われるボクセル演算は、第1レンダリング処理部54で行われるボクセル演算と同じ方法であってよいし、そのボクセル演算とは異なる三次元画像の構築演算であってもよい。
【0047】
次に、三次元画像合成部60について説明する。三次元画像合成部60は、2種類の三次元画像を重ね合わせて、1つの合成三次元画像を形成する機能を有する。三次元画像合成部60は、第1三次元画像メモリ62、第2三次元画像メモリ64などの構成を備えている。第1三次元画像メモリ62は、第1レンダリング処理部54で求められる複数の画素値をマッピングして構成される第1三次元画像を記憶するメモリである。第2三次元画像メモリ64は、第2レンダリング処理部58で求められる複数の画素値をマッピングして構成される第2三次元画像を記憶するメモリである。これらのメモリの中の第1三次元画像と第2三次元画像とを合成することにより、1つの合成三次元画像が形成される。
【0048】
表示部68は、CRTやLCDで構成されており、合成三次元画像をオペレータが観察できるように表示する。
【0049】
図3は、三次元画像処理部48で行われる第1及び第2レンダリング処理の各演算処理に関する説明図である。図3には、可動部20を前腕部10に当接させて得られる三次元画像取り込み領域が模式的に示してある。
【0050】
可動部20を移動させることで互いに平行な複数の走査面が形成される。最前面の走査面70上には、血管14の断面と血管に挿入された器具16が含まれる。また、走査面70上には血管14を中心にした三次元画像を形成するための関心領域(ROI)80の設定範囲が示されている。また、走査面70上で可動部20に近接した部分には、前腕部10の体表面と水袋18とが当接する境界部分82が示されている。ちなみに、ROI80の設定形状は、Y軸方向に伸長した三次元の直方体形状である。
【0051】
図3においては、1本の超音波ビームに応じて取得されるボクセルデータ列を、走査面上のZ軸に平行な1本の直線として表している。例えば、ボクセルデータ列A72は、血管14が存在しない位置で取得されるボクセルデータ列である。
【0052】
ボクセルデータ列A72は、ROI80の設定領域との関係において第1開始点が判定される。その第1開始点の位置は、図3に示す走査面70においてボクセルデータ列A72を示す直線とROI80の上端面とが交差する点P1と定めることができる。
【0053】
ボクセルデータ列A72に対するボクセル演算は、第1開始点である点P1の位置から、ROI80の下端面と交差する点P2までの範囲のデータ列に関して演算される。累積的にボクセル演算を実行している途中において、演算の終了条件を満たした場合には演算が中止され、そのときの演算結果がボクセルデータ列A72に関する画素値となる。または、ROI80の下端面上の点P2に至っても演算の終了条件が最後まで満たさない場合には、最終ボクセルでの演算結果が画素値となる。つまり、第1のレンダリング処理を行うにあたって、演算の終了条件を満足する/しないに関わらず、1つのボクセルデータ列に対して1つの画素値が求められる。その画素値は、図3に示すビーム対応画素値A(86)となる。第1のレンダリング処理を実行している最中に、第2開始点の判定条件を満足する点が検出されれば、第2のレンダリング処理に切り替わるが、ボクセルデータ列A72は、血管が存在しない部分で取得されるボクセルデータ列であるので、第2開始点は検出されない。
【0054】
次に、血管14と器具16とが存在する位置で取得されるボクセルデータ列B88に関する演算処理について説明する。ボクセルデータ列B88は、前述のボクセルデータ列A72と同様に、ROI80の設定領域との関係において第1開始点が判定される。その第1開始点の位置は、図3に示す走査面70においてボクセルデータ列B88を示す直線とROI80の上端面とが交差する点P3と定めることができる。ボクセルデータ列B88に対しては、第1開始点であるP3が判定された後から、第1レンダリング処理が行われる。
【0055】
第1レンダリング処理を順に実行していくと、血管14の内側に入った位置におけるボクセルデータの演算が行われる。血液からは弱いエコーデータが得られるが、反転処理によって高いエコーデータに変換されている。従って、第1レンダリング処理の出力光量値がある一定の閾値を越えるという判定条件を用いて、この条件を満たす点が判定される。なお、第1レンダリング処理の出力光量値がある一定の閾値を越えたという判定条件を満たした時点をもって、第1レンダリング処理を中止することも可能である。その場合には、第1レンダリング処理の終了点である第1終了点P4は、前述の第2開始点P5と同一の点となる。第1開始点P3から第1終了点P4までの間のボクセルデータに対して、第1レンダリング処理を行うことによって、図3に示すビーム対応画素値B1(90)が求められる。
【0056】
次に、第1レンダリング処理の第1終了点P4に基づいて、第2レンダリング処理の開始点である第2開始点P5が設定される。第2開始点P5は、血管14の内側に入った位置に設定される。第2開始点P5の設定に伴って第2レンダリング処理が実行される。第2レンダリング処理では、反転されていないボクセルデータ列B88が演算処理の対象となる。第2レンダリング処理は、血管内の器具を画像化するための処理である。器具の画像化のためには、器具を反映した高レベルのエコーデータにレンダリングパラメータが設定される。
【0057】
第2レンダリング処理を順に実行していくと、器具16の表面から強いレベルのエコーデータが検出される。ボクセルデータ列B88の上であって、器具16の表面に交差する位置を第2レンダリング処理の終了点P6として設定することができる。第2開始点P5から第2終了点P6までの間のボクセルデータに対して、第2レンダリング処理を行うことによって、図3に示すビーム対応画素値B2(92)が求められる。
【0058】
なお、一般的には、器具の表面からは高レベルのエコー信号が得られるので、器具16の表面上において第2レンダリング処理が終了するように設定することができる。但し、ボリュームレンダリングのパラメータ設定の如何によっては、更に深さ方向に存在するボクセルデータの演算を累積することもできる。
【0059】
以上説明したように、2段階のレンダリング処理を行うことにより、第1レンダリング処理でビーム対応画素値A(86)とビーム対応画素値B1(90)が求められる。そして、第2レンダリング処理によりビーム対応画素値B2(92)が求められる。例示した2つのボクセルデータ列A72とボクセルデータ列B88のみならず、ROI80内に存在する全てのボクセルデータ列に対して第1レンダリング処理を行うことにより、第1三次元画像94が形成される。また、第2開始点が判定されたボクセルデータ列に対して第2レンダリング処理を行うことにより、第2三次元画像96が形成される。
【0060】
第1三次元画像94は、血管が存在しない生体組織に相当するボクセルデータ列と、血管が存在する部分については血管よりも手前側の生体組織に相当するボクセルデータ列に基づいて形成される。つまり、第1三次元画像94は血管の内部の情報を含まず、生体組織を主体的に表した三次元投影画像となる。また、第2三次元画像96は、血管あるいはその血管の裏側に位置する生体組織に相当するボクセルデータ列に基づいて形成される。よって、第2三次元画像96では、器具投影部分98を認識することができる。
【0061】
図4は、図3に示す走査面70内において、第1レンダリング処理と第2レンダリング処理が適応される領域を区別して示した図である。図4には、図3に示す走査面70内のROI80の領域だけが示してある。
【0062】
ROI80の上端には、第1レンダリング処理が開始される第1開始点群162が直線として示してある。前述の点P3も、第1開始点群162の上に存在する。また、ROI80の下端には、第1終了点群(164A、164B)が2つの線分として示してある。血管14が存在する部分は、第1レンダリング処理が血管内で終了するようにレンダリング条件が設定されているので、血管に対する第1終了点群166は血管壁の形状に対応した円弧形状となる。第1のレンダリング処理が施される領域は、第1開始点群162と第1終了点群(164A,164B,166)とに挟まれる領域であるので、図5において図示する逆凹型の斜線領域160となる。
【0063】
本実施形態においては、第2レンダリング処理は、血管が存在する位置から得られるボクセルデータ列に対して実行される。よって、血管内の第1終了点群である166が第2開始点群168となる。第2レンダリング処理は、レイ170の深さ方向に沿って、第2開始点群168から開始されるので、第2レンダリング処理が施される領域は、図5において図示する斜線領域172となる。ちなみに、器具16の表面の位置で第2レンダリング処理を中止することもできる。
【0064】
図5は、ある一つのエコーデータ列を信号処理することで生成する各種信号を並べて示した図である。図5の最上段に示す図5(a)は、エコーデータ列の強度レベルを示している。図5(a)の横軸は時間軸であり、縦軸はエコーデータの強度レベルを示す。このエコーデータ列は、血管内に存在する器具に向かって1本の超音波ビームを送信することで得られたエコーデータ列を表している。図3に示したボクセルデータ列B88がこのエコーデータ列に相当する。
【0065】
エコーデータ列100は、そのデータ列の中間部分102において、レベルが急激に低下したり(104a,104b)、一時的にピークを示したり(106)している。レベルが急激に低下しているのは、この部分のエコーデータが血管内の低いエコー強度を反映しているためであり、レベルが一時的にピークを示すのは、このピーク部分のエコーデータが器具によるエコー強度を反映しているためである。なお、中間部分102に含まれず時間軸上で前後に広がるエコーデータは、生体組織によって得られるエコーデータである。
【0066】
図5(b)は、エコーデータ列100を反転処理して得られた反転エコーデータ列108を示すグラフである。図5(b)の横軸と縦軸の定義は図5(a)と同一である。反転処理を行うことにより、エコーデータ列100において低レベルである部分(104a,104b)が、高レベルのデータに変換される。
【0067】
ここで、図5の説明を一時的に離れて、図6を用いてエコーデータの反転処理特性の一例を示す。図6は、エコーデータの反転処理特性の一例を示す図である。横軸はエコー信号入力レベルを示し、縦軸はエコー信号出力レベルを示している。この曲線124に従った変換処理を行うと、低レベルの入力信号は高レベルの出力信号として変換され、逆に高レベルの入力信号は低レベルの出力信号として変換される。なお、グラフは非線形特性を示しているので、入力信号のレベルが低い程、高いレベルに強調された反転信号が得られるようになっている。また、ある閾値を上回る入力信号については、出力信号として変換されないカットオフ特性も有している。
【0068】
図5に戻って、反転エコーデータ列108の信号処理について説明する。本実施形態に係る超音波診断装置においては、この反転エコーデータ列108について、第1レンダリング処理を施している。第1レンダリング処理部54でボクセル演算を実行するのに伴って、各ボクセルデータからの出力光量値が求められ、それと平行して同時に不透明度(オパシティ)の積算値も求められる。
【0069】
図5(c)は第1レンダリング処理によるオパシティの積算値(Σαi)の累積的な変
化を示し、図5(d)は第1レンダリング処理による出力光量値(C1out)の累積的な変化を示している。本実施形態においては、出力光量値(C1out)の値が一定の閾値を超えた場合に、第2レンダリング処理が開始される。よって、図5(d)において出力光量値を表す曲線112と、閾値Cthを表す水平線との交差点Tが存在することが、第2レンダリング処理の開始を意味する。本実施形態においては、第1レンダリング処理は、第2レンダリング処理が開始されたことをもって、その演算処理を中断する。但し、第2レンダリング処理の開始に関わらず、第1レンダリング処理の演算を終了条件を満たすまで継続してもよい。第1レンダリング処理は第2レンダリング処理とは別個独立に実行されるからである。図5(d)においては、第1レンダリング処理の中断又は継続が任意であることを破線によって示している。ボクセル演算はオパシティの積算演算と表裏一体に実行されるので、図5(c)においてもその積算値を表す曲線の一部を破線で示している。
【0070】
図5(e)は、第2レンダリング処理の処理対象となるエコーデータ列118を示している。このエコーデータ列118は、図5(a)に示すエコーデータ列100の後半部、つまり時間軸上にて一点鎖線116で示す時点以降で得られたエコーデータ列と同値である。第2レンダリング処理に関して注目すべきことは、処理対象のデータ列は反転エコーデータ列ではないことと、第2レンダリング処理のための第2のオパシティが新たにゼロから積算されることである。第2レンダリング処理を行う場合に、反転エコーデータ列を用いると、最初から高レベルのデータを処理することになり、器具の画像化に適さない。第2レンダリング処理は、ある判定条件を満たした場合に開始されるので、判定条件を満足した時点からオパシティの積算演算が新たに開始される。第2レンダリング処理を行うことによって、エコーデータ列118の中でピークを示している器具のエコーデータ120に基づいて器具に対応する画素値が求められる。
【0071】
図5(f)には、第2レンダリング処理による出力光量値C2out(122)の変化が示されている。第2レンダリング処理では、器具を明瞭に画像化することを優先してレンダリングパラメータを設定することが好ましい。従って、この出力光量値C2outについても、器具または血管内に相当する時間的な範囲での出力光量値の変化は大きいが、それ以降は飽和傾向になるため時間的な変化は少なくなる。
【0072】
図7は、他の実施形態に係る超音波診断装置の構成ブロック図である。図2の構成ブロック図と比較して、三次元画像処理部130の構成が異なっている。よって、図7において、図2に示した構成と同様の構成には同一符号を付しその説明を省略する。
【0073】
三次元画像処理部130においては、第2レンダリング開始点判定部56に対して、反転されていないエコーデータ列が入力される。第2レンダリング開始点判定部56では、低レベルのエコーデータが連続してM個(一例として5個)続いた場合に、そのM個目のエコーデータを第2開始点とする判定処理が行われる。低レベルのエコーデータが検出された後に、引き続いてM個のデータが連続しなければ判定条件が成立しないので、血管内に確実に入り込んだ位置に第2開始点を設定することができる。判定条件を満たす第2開始点が検出されると、その情報は、第1レンダリング処理部54に伝達される。この情報伝達の方向は、図2に示した機能ブロック図で示した情報伝達の方向と逆である。図7に示す第1レンダリング処理部54においては、第2開始点の検出をもって、その検出の直前まで実行していたボクセル演算を中止する。一方、本実施形態によると、第2開始点が検出されることをもって、生体組織ではなく血管内でのレンダリング処理に移行していることを確実に判断できる。よって、三次元画像処理部130によれば、第2開始点よりも更に深い位置から得られるエコーデータの情報に基づいて、第1レンダリング処理が実質的に処理不要になる位置を検出することにより、第1レンダリング処理を強制的に中止することができる。
【0074】
また、他の実施形態に係る超音波診断装置においては、図7に示す超音波診断装置の装置本体40が備えているカラードプラ処理部(図示せず)を用いて、以下に示す手法により第2開始点を検出することもできる。
【0075】
カラードプラ処理部は、送受信部46が出力する受信信号を入力して、その分析結果を第2レンダリング開始点判定部56に対して出力する。カラードプラ処理部においては、受信信号を直交検波した後にMTIフィルタにより低いドプラ偏移周波数を除去し、自己相関演算することでドプラ偏移周波数の平均周波数とパワーを検出することができる。このようにドプラ偏移周波数の平均周波数とパワーに基づいて血流のイメージング表示を行う技術は、いわゆるカラーフロー又はパワーフローと呼ばれる公知の技術である。この公知技術を用いれば、超音波断層画像上で血流の存在する部分と存在しない部分の境界を判定することができる。その判定結果、つまりカラードプラ処理部で求めた各レイ上での血流の存在位置を示す境界情報を第2レンダリング開始点判定部56に伝送することによって、第2レンダリング開始点判定部56において第2開始点を定めることができる。この判定方法によれば、血流の存在する血管内部の位置に確実に第2開始点を設定することができる利点がある。
【0076】
カラードプラ処理部にて行われる処理は、カラーフロー処理よりもパワーフロー処理の方が好ましい。パワーフロー処理は、カラーフロー処理に比べてドプラアングルの依存性が少ないため、血管の走行を連続的に捉えられる。なお、一般的に、器具が血管内を移動する速度は血液が血管内を流れる速度に比べて無視できる程度に小さいので、器具の運動によってドプラ偏移周波数が影響を受けることはない。
【0077】
図8は、他の実施形態に係る三次元画像合成部の構成ブロック図である。図8に示す三次元画像合成部140は、図2に示す三次元画像合成部60の変形例である。三次元画像合成部140は、三次元画像合成部60と置換して用いることが可能であり、2枚の三次元画像を合成する際に、各画像に輝度の重み付けを付加する機能を有している。三次元画像合成部140は、第1表示処理部142と第2表示処理部144を備える点において、前述の三次元画像合成部60と相違する。第1表示処理部142は、第1三次元画像の輝度と色彩を変換あるいは調整する機能を有しており、その機能を使用するために、例えば輝度変換係数J(設定可能範囲:−1≦J≦1)のパラメータが活用される。また、第2表示処理部144は、第2三次元画像の輝度と色彩を変換あるいは調整する機能を有しており、その機能を使用するために、例えば輝度変換係数K(設定可能範囲:−1≦K≦1)のパラメータが活用される。ちなみに、輝度変換係数J及びKは、入力部42からのオペレータの操作入力信号に基づいて、主制御部44から出力され、三次元画像合成部140に対して入力される係数である。
【0078】
輝度変換係数J及びKのそれぞれの機能は同一である。すなわち、輝度変換係数が1(J=1,K=1)である場合には三次元画像の輝度調整を一切行わず、輝度変換係数が−1(J=−1,K=−1)の場合には輝度反転処理を行う。そして、輝度変換係数が1から−1の間の小数値が指令された場合には輝度のグラデーション調整が行われる。
【0079】
このような輝度反転及び調整機能を有することにより、第1三次元画像と第2三次元画像とは、それぞれが独立に輝度調整を行うことができる。よって、血流を明瞭に画像化するためにレンダリング処理前にエコーデータの反転処理が行われる場合であっても、合成三次元画像においては生体組織と器具とを明暗により、あるいは色彩の違いによって識別することが可能となり、双方とも明瞭に三次元画像として形成することができる。
【0080】
図9は、三次元画像合成部140を用いて実行される画像合成の説明図である。図2にて説明した三次元画像合成部60、あるいは図8を用いて説明した三次元画像合成部140のどちらにおいても、第1三次元画像と第2三次元画像との画像合成が行われる。画像合成は、第1三次元画像の上に第2三次元画像を重ね合わせる、いわゆるオーバーレイ処理によって実行される。図9に示す第1三次元画像146には、生体組織内で屈曲した状態の血管152が示されている。この第1三次元画像146は、三次元のレンダリング処理を施して形成された三次元投影画像である。血管152の部分が白く表示されているのは、輝度反転したエコーデータ群によって第1三次元画像146が形成されるためである。第2三次元画像148には、血管に挿入された器具154の形状が示されている。この第2三次元画像148も三次元投影画像である。器具154の部分が白く表示されているのは、輝度反転していないエコーデータ群によって第2三次元画像148が形成されるためである。図9に示した状態のまま、血管152と器具154の双方が白く表示された状態で2枚の三次元画像を合成処理すると、血管内の器具154の位置を識別することが難しくなる。識別を容易にするために、図8を用いて説明した輝度変換係数JとKをJ=1,K=−1と設定することにより、第2三次元画像148だけについて反転処理が実行される。そうすると、器具154の部分が黒く変換されるため、合成三次元画像150においては、血管152の立体形状が明確に表示されると同時に、血管内の器具156の位置も明確に把握することができる。なお、第2三次元画像に対して着色表示を施せば、器具154の部分を生体組織と異なる色に表示することが可能となり、より明瞭に両者を識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】前腕部に超音波の送受信器を当接している状態を模式的に示した図である。
【図2】本発明に係る超音波診断装置の概略的な全体構成を示すブロック図である。
【図3】三次元画像処理部で行われる第1及び第2レンダリング処理の各演算処理に関する説明図である。
【図4】第1及び第2レンダリング処理の領域の区別を視覚的に示した図である。
【図5】ある一つのエコーデータ列の2信号処理についての説明図である。
【図6】エコーデータの反転処理特性の一例を示す図である。
【図7】他の実施形態に係る超音波診断装置の構成ブロック図である。
【図8】他の実施形態に係る三次元画像合成部の構成ブロック図である。
【図9】三次元画像合成部において実行される画像合成の説明図である。
【符号の説明】
【0082】
14 血管、16 器具、20 可動部、70 走査面、72 ボクセルデータA、80 関心領域(ROI)、82 境界部分、86 ビーム対応画素値A、90 ビーム対応画素値B1、92 ビーム対応画素値B2、94 第1三次元画像、 96 第2三次元画像、98 器具投影部分、P1,P3 第1開始点、P2,P4 第1終了点、P5 第2開始点、P6 第2終了点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
器具が挿入された血管に超音波を送受波して得られたボクセルデータ群に対して設定された各レイについて、深さ方向にボクセル演算を逐次実行する超音波診断装置において、
前記各レイについて、第1開始点から前記ボクセル演算の逐次実行結果により、第1三次元画像を構成する画素値を求める第1レンダリング手段と、
前記各レイについて第2開始点を判定する判定手段と、
複数のレイの中で前記第2開始点が判定されたレイについて、前記第2開始点からのボクセル演算の逐次実行結果により、前記器具が反映された第2三次元画像を構成する画素値を求める第2レンダリング手段と、
前記第1三次元画像と前記第2三次元画像とを合成し合成三次元画像を形成する合成処理手段と、
前記合成三次元画像を表示する表示手段と、
を有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記判定手段は、前記血管内かつ前記器具の手前側の深さ位置を前記第2開始点として判定することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記第2開始点は、前記第1開始点からのボクセル演算の終了条件を満たす第1終了点に基づいて、前記血管内に設定されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記判定手段は、前記各レイについての前記第1開始点からのボクセル演算の逐次実行結果に基づいて、前記第2開始点の判定を行うことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記判定手段は、前記各レイについて逐次実行される前記第1開始点からのボクセル演算で用いられるパラメータの積算値に基づいて、前記第2開始点の判定を行うことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記各レイ上のボクセルデータ列に対して輝度反転処理を施す前処理手段を含み、
前記判定手段、前記第1レンダリング手段及び前記第2レンダリング手段の内の少なくとも1つは前記輝度反転処理が施されたボクセルデータ列に基づいて処理を実行することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1記載の超音波診断装置において、
超音波を送受波して得られた受信信号を直交検波し、血液の移動に伴って発生するドプラ偏移周波数成分に応じて血流の存在位置を検出するカラードプラ処理手段を更に含み、
前記判定手段は、前記カラードプラ処理手段が検出する血流位置情報に基づいて、前記第2開始点の判定を行うことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記合成処理手段は、前記血管を主体的に表した第1三次元画像上に、前記器具を主体的に表した第2三次元画像を重ね合わせて前記合成三次元画像を形成することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記合成処理手段は、前記第1三次元画像と前記第2三次元画像とを視覚的に異ならせつつ合成処理を行うことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−79821(P2008−79821A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263166(P2006−263166)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】